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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01K
審判 全部申し立て 特174条1項  A01K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01K
管理番号 1325867
異議申立番号 異議2016-700630  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-19 
確定日 2017-02-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5872937号発明「魚釣用両軸受型リール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5872937号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について」訂正することを認める。 特許第5872937号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第5872937号の請求項1ないし3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成24年3月21日に特許出願され、平成28年1月22日にその特許権の設定登録がされた。
その後、その特許に対し、特許異議申立人株式会社シマノ(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年11月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月13日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正内容
本件訂正請求による訂正内容は以下の(1)から(3)のとおりである
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられること・・・」とあるのを、
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていること・・・」(下線は訂正請求書のとおり。以下同様。)に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0007】に記載された「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられること・・・」とあるのを、
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていること・・・」に訂正する。

(3) 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された「・・・この請求項1に記載の発明によれば、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより・・・」とあるのを、
「・・・この請求項1に記載の発明によれば、スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより・・・」に訂正する。

2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられること・・・」という、
「スプールの糸巻き領域の平均径をφA、ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260 の関係式」と「凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられること」との関係が不合理で、請求項1に記載した発明が技術的に正確に特定されない記載になっていたものを、
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていること・・・」と訂正して発明を明確にし、また請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正するものであるから、訂正事項1に係る訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
(ア) 訂正事項1における「スプールの糸巻き領域の平均径をφA、ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されている」という事項を有する「魚釣用両軸受型リール」についての本件特許の明細書の記載の有無をみると、「釣用両軸受型リールの実施形態」の「第1の実施形態」(段落【0017】)として、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たす13個の本発明例(比率φB/φAが異なる本発明例1a?本発明例4d)」(段落【0030】)が、段落【0032】の【表2】に記載されている。

(イ) 訂正事項1における「凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている」という事項を有する「魚釣用両軸受型リール」についての本件特許の明細書の記載の有無をみると、まず段落【0036】には、「その一部が巻回胴部5bとリム5dとの接続領域60に位置され」、「リム5dを貫」く「貫通孔50が形成されている」「本発明の第2の実施形態」が記載されている。
次に、本件特許の明細書の段落【0038】には、「スプール5の巻回胴部5bの外周面30を基点としてスプール軸5の軸方向に対して垂直な方向・・・でリム5dへ向かって延びてリム5dに達して」いる「凹状の溝52」が「リム5dに」「設けられている」「本発明の第3の実施形態」が記載されている。
次に、本件特許の明細書の段落【0039】には、「第2の実施形態と第3の実施形態との組み合わせであり、第3の実施形態における溝52が巻回胴部5bとリム5dとのR形状の接続領域を越えて延び、リム5dの径方向外側にその周方向に沿って所定の角度間隔を隔てて配列される複数の貫通孔として且つ巻回胴部5bの中心部で周方向に沿って所定の角度間隔を隔てて配列される前記貫通孔に連通する複数の溝として形成される複合穴52Aを備える」「本発明の第4の実施形態」が記載されている。

(ウ) 上記(ア)、(イ)を踏まえ、訂正事項1における「スプールの糸巻き領域の平均径をφA、ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されている」という事項と「凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている」という事項を「共に」有する「魚釣用両軸受型リール」についての本件特許の明細書の記載の有無をみると、段落【0041】の【表4】には、上記(ア)で述べた「本発明例1a?本発明例4d」であると共に上記(イ)で述べた「第2ないし第4の実施形態」である各「実施例」が記載されている(【表4】中の「実施例2」?「実施例4」という記載が「第2の実施形態」?「第4の実施形態」に対応することは段落【0040】に記載されている。)。

(エ) 上記(ア)?(ウ)でみたように、本件特許の明細書には、「前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている」「魚釣用両軸受型リール」が記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の拡張・変更の存否
上記アで述べたように、訂正事項1に係る訂正は、不合理であり発明が技術的に正確に特定されない記載を訂正して発明を明確にするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、発明の詳細な説明の記載を、訂正後の請求項の記載と整合するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(3) 一群の請求項について
本件訂正請求では、訂正後の請求項1?3が請求の対象とされており、一群の請求項に対して請求をするものであるから、本件訂正請求は特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(4) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する特許法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正請求による訂正を認める。

第3 特許異議の申し立てについて
1 本件特許の請求項1ないし3に係る発明
上記第2のとおり本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件訂正発明1」などという。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていることを特徴とする魚釣用両軸受型リール。

【請求項2】
前記巻回胴部の内周面から前記スプール軸の中心軸までの距離をL、前記スプール軸支持部の外周面から前記巻回胴部の内周面へ接続するように前記スプール軸側から径方向に延びる薄肉状の前記リムの長さをL1としたときに、
0.694≦L1/L≦0.780
の関係式が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の魚釣用両軸受型リール。

【請求項3】
前記凹状の溝または前記貫通孔の少なくとも一部が前記巻回胴部と前記リムとの接続領域に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の魚釣用両軸受型リール。」

2 取消理由の概要
(1) 取消理由が対象とする記載
ア 特許請求の範囲
特許請求の範囲の訂正前の請求項1には、以下の記載がある。
「前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられることを特徴とする魚釣用両軸受型リール。」

イ 明細書(訂正前)
(ア) 段落【0007】
「前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられることを特徴とする。」

(イ) 段落【0008】
「この請求項1に記載の発明によれば、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより、すなわち、スプールの糸巻き領域の平均径φAに対するボールベアリングの外輪の外径φBの比率φB/φAをこれらの範囲内(15.9%以上26%以下)に低く抑えることにより、実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリングの慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプールのフリー回転性能を格段に向上させることができる。」

(2) 各取消理由の概要
ア 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)(以下「取消理由1」という。)
上記(1)アで摘記した特許請求の範囲の記載について、本件図面等を参照しても、「φA」「φB」は、「凹状の溝または貫通孔」に係る寸法ではなく、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」ということと、「凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられる」ということとは、「成り立つように・・・設けられる」という関係にないので、発明が不明確である。
よって、請求項1に係る特許および請求項1を引用する請求項2及び3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

イ 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)(以下「取消理由2」という。)
本件特許の発明の詳細な説明は、上記(1)アで摘記した発明特定事項を有するスプールを実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
すなわち、発明の詳細な説明には、「凹状の溝または貫通孔」が「巻回胴部およびリム」にいかに設ければ「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように」設けられたことになるのか明確かつ十分な説明がなく、また出願時の技術常識であるとも考えられない。
この点、発明の詳細な説明中で、「凹状の溝または貫通孔」を設けることについて具体的に各「本発明例」を列挙している表4をみても、全「本発明例」が「凹状の溝または貫通孔」を設ける設けないによらず上記「関係式」が成り立っているものであり(「本発明例1a」?「本発明例4c」)、やはり明確かつ十分な説明は見出せない。
よって、請求項1に係る特許および請求項1を引用する請求項2及び3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ウ 特許法第17条の2第3項(新規事項を追加する補正)(以下「取消理由3」という。)
上記(1)アないしウで摘記した「・・関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられる」(設ける)という事項は平成27年6月4日付け手続補正書による補正で付加されたものであるが、当該事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない。
よって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 取消理由についての判断
上記第2のとおり本件訂正請求による訂正は認められるから、上記第2の1(1)ないし(3)のとおり「・・・0.159≦φB/φA≦0.260 の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられる・・・」という記載は「・・・0.159≦φB/φA≦0.260 の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている・・・・」と訂正された。これにより上記2で述べた「成り立つように・・・設けられる」という記載ではなくなり、よって取消理由1ないし3が解消することは明らかである。
また他に明確性要件違反(取消理由1)、実施可能要件違反(取消理由2)、又は新規事項追加(取消理由3)に該当する点も発見しない。

4 取消理由通知において採用しなかった異議申立理由について
(1)取消理由通知において採用しなかった異議申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった異議申立理由の概要は以下ア、イのとおりである。

ア 特許法第29条第2項(進歩性)(同法第113条第2号)
申立人は、請求項1?3に係る特許発明は、「当業者は、甲第1?6号証を組み合わせることにより、」「容易に想到することとができる」(申立書15頁20?21行、16頁6?7行)、あるいは「甲第1?6号証の開示事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。」(申立書21頁下から4?3行)と主張し、その理由として概ね以下(ア)、(イ)のとおり主張している。
(ここで、申立書には、本理由は刊行物記載発明を主引例とする主張なのか、それとも公然実施発明あるいは公知発明を主引例とする主張なのか明記はない。しかし、申立書に甲第2号証の頒布性や公知性の記載がないことや、「請求項1に係る特許発明と甲第1?3号証に開示される製品との対比」(申立書11頁下から3行)と記載されていることから、概略、「”夢屋08バイオクラフトXHシャロースプール”(”夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール”)を取り付けた”バイオクラフト300XH”(”BIOCRAFT 300XH”)のリール」(申立書13頁7?9行他)製品という公然実施発明を主引例とする主張と考えられる。)

(ア) 請求項1に係る発明について
甲第1ないし3号証の開示から、”夢屋08バイオクラフトXHシャロースプール”(”夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール”)を取り付けた”バイオクラフト300XH”(”BIOCRAFT 300XH”)のリールは、
釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
φB/φA=0.344
の寸法関係であり、
凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている、
魚釣用両軸受型リール、
であるので、請求項1に係る特許発明とは、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」を満たさない点で相違し、その余の点では一致する。
この相違点について検討すると、甲第4号証および第5号証の記載を参照すれば、当業者は、”夢屋08バイオクラフトXHシャロースプール”(”夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール”)を取り付けた”バイオクラフト300XH”(”BIOCRAFT 300XH”)のリールにおいて、軸受けの外径、したがって、ボールベアリングの外輪の外径φBを、実釣時における軽負荷キャスト性能を実現するために、小さくしようとする。
甲第6号証には外径Dが7mmのボールベアリングが開示されていることから、当業者は、実釣時における軽負荷キャスト性能を実現するために、これらのボールベアリングを現在のφBよりも小さいボールベアリングとして、用いようとする。したがって、種々のφBを組み合わせて、実釣時における軽負荷キャスト性能を評価対象として試行錯誤し、当業者は、外径Dが7mmのボールベアリングを適用することができ、φB/φA=0.241となり、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」を満たす。
なお、本特許明細書の段落【0020】に、「「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態の慣性モーメント」とは、スプール自体の慣性モーメントと湿った状態の釣糸の慣性モーメントとを合わせた慣性モーメントを意味し、釣糸を考慮しない場合は、むしろ釣糸巻回胴部5bの外径が小さい方が慣性モーメントは小さくなるが、発明者は、多くの実験を行なうことで、スプール単体と水分を含んだ釣糸を巻回したスプールとでは、評価が反対となることを発見した。」と記載されているが、スプールは釣り糸を巻いて使用するものである限り、釣糸に水分が含まれていようが釣糸が乾燥していようが、釣糸の慣性モーメントを合わせて慣性モーメントを小さくする検討を行うことは当然のことである。どのように「評価が反対となる」のかの記載もない。
また、本特許明細書の段落【0024】に「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプール5のスプール軸5a周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリング7の慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプール5のフリー回転性能を格段に向上させることができるため、軽い仕掛けを狙ったポイントへ正確に投入操作するキャスティングが可能となる。」と記載されていることからわかるように、請求項1に係る特許発明は、スプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくするとき「「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態」を考慮することとは無関係に、ボールベアリングの慣性モーメントを小さくすることを行っているに過ぎない。
このため、甲第4号証記載のようにスプールの慣性を低減させるために、甲第5号証記載の「軸受よりも小径の軸受を保持し所定の肉厚を有する環状支持体とを、交換可能に装着」する技術を適用することにより、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」が成り立つようにすることは容易にできる。

(イ) 請求項2、3に係る発明について
甲第2号証に示される夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプールは、請求項2、3に係る発明の要件を充足する。

イ 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)(同法第113条第4号)
申立人は、請求項1に係る特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。

請求項1に係る特許発明では、明細書の段落【0006】に記載するように「スプールのフリー回転性能の向上を図りつつ軸受(ボールベアリング)に作用する負荷を低減させて耐久性の向上も図ることができる魚釣用両軸受型リール」を提供することを目的としており、「0.159≦φB/φA≦0.260 の関係式が成り立つように」することにより、段落【0015】に記載するように、「スプールのフリー回転性能の向上を図りつつ軸受(ボールベアリング)に作用する負荷を低減させて耐久性の向上も図ることができる。」と記載されている。
しかし、φBとφAの比率が「0.159≦φB/φA≦0.260 」であれば、φBとφAがどのような寸法であっても、「スプールのフリー回転性能の向上」を測ることができるとはいえない。
本件明細書の段落【0026】の表1の本発明例1?4ではφA29.25?30.8mm、φB5?8mmの範囲で、段落【0032】の表2の本発明例1a?4dではφA29.25?31.5mm、φB5?8mmの範囲でキャスト抵抗の低減(スプールのフリー回転性能の向上)が確認されている。しかし請求項1ではφAとφBの寸法は限定されていないため、例えばφAが40mm以上、φBが10mm以上であっても「0.159≦φB/φA≦0.260 」の関係式が成り立つが、段落【0008】に「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリングの慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプールのフリー回転性能を格段に向上させることができる。」と記載されていることからもわかるように、φAおよびφBが大きい場合、スプール軸周りの慣性モーメントおよびボールベアリングの慣性モーメントは大きくなるので、キャスト抵抗の低減(スプールのフリー回転性能の向上)は実現できない。この点で、明細書には、φAおよびφBの寸法がどのようなものであっても「0.159≦φB/φA≦0.260 」の関係式が成り立つようにすれば、キャスト抵抗が低減(スプールのフリー回転性能が向上)することができることまでは記載されておらず、また、一般化できることも記載されていない。

[証拠方法]
甲第1号証:カタログ“It's Wonderful Fishing 2008 Fishing Tackle Catalogue”、株式会社シマノ、2008年2月1日発行、p. 72

甲第2号証:“夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール”図面

甲第3号証:製品パーツリスト兼分解図“BIOCRAFT 300XH”、株式会社シマノ

甲第4号証:特許第4365962号公報

甲第5号証:特許第4356837号公報

甲第6号証:カタログ“NMBミネベア株式会社 Precision Ball Bearing Products ミネチュア・小径転がり球軸受”、ミネベア株式会社、2003年7月改訂、p. 46-49

(2) 当審の判断
ア 特許法第29条第2項(進歩性)に係る異議申立理由について
(ア)甲第1号証ないし甲第3号証
甲第2号証について、申立人は、「夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール」の図面である旨、また作成日等について等主張しているが(申立書9頁6?10行)、立証されているとはいえない。
また、甲第3号証も、申立人は、「製品パーツリスト兼分解図」であり”バイオクラフト300XH”」に添付の説明書である旨、また頒布日等主張しているが(申立書10頁3?8行)、頒布日等は何ら明らかではない。
しかしながら、念のため、仮に、公然実施された”夢屋08バイオクラフトXHシャロースプールを取り付けた”バイオクラフト300XH”のリールを特定するための状況証拠として甲第2、3号証を採用し得るとし、申立人の主張に沿って甲第1号証ないし甲第3号証より該リールを以下のとおり認定する。

「釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
φB/φA=0.344
の寸法関係であり、
凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている、
魚釣用両軸受型リール。」(以下「公然実施発明」という。)

(イ) 本件訂正発明1と公然実施発明との対比
本件訂正発明1と公然実施発明とを対比すると、両者は、

「釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている魚釣用両軸受型リール。」

の点で一致し、そして以下の点で相違する。

[相違点] スプールの糸巻き領域の平均径φA、ボールベアリングの外輪の外径φBの寸法関係が、本件訂正発明1では0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つよう設定されているのに対して、公然実施発明では上記関係式が成り立たないφB/φA=0.344である点。

(なお、上記相違点は、申立書記載の、訂正前の請求項1に係る発明と公然実施発明との相違点(申立書13頁13?15行)と変わりない。)

(ウ) 相違点についての検討
甲第4?6号証のいずれにも、φA、φBを0.159≦φB/φA≦0.260とすることは記載されていないのみならず、φB/φAの数値範囲を最適化・好適化するという技術思想も、あるいはφB/φAが0.159から0.260の範囲に入るリールも記載されていない。よって、相違点に係る本件訂正発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到できることではない。
以上のように、本件訂正発明1は、当業者が甲第1?6号証の開示事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ) 申立人の主張について
上記(1)アに記載したように、申立人は、概略、甲第4号証および第5号証の記載を参照し、甲第6号証中の外径D7mmのボールベアリングを適用すれば、φB/φA=0.241となり、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」を満たす旨を主張している。
しかし、甲第4号証および第5号証を参照しても具体的な寸法選択についての記載はない。そして甲第6号証の「ミネチュア・小径転がり球軸受」カタログの、証拠として提出された46?47頁及び48?49頁をみても、外径Dが3?20mmの26種(46?47頁)、3.4?21mmの30種(48?49頁)の球軸受が記載されているものであり、また外径Dの選択に関する記載もなく、よって、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」を満たす外径Dの球軸受けを選択することは当業者にとり容易に想到できることではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(オ) 本件訂正発明2、3について
本件訂正発明2、3は、本件訂正発明1を更に減縮したものであるから、上記本件訂正発明1についての判断と同様の理由により、当業者が甲第1?6号証の開示事項に基づいて基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(カ) 小括
以上のとおり、特許法第29条第2項(進歩性)に係る異議申立理由によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。

イ 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る異議申立理由について
(ア) 検討
発明の詳細な説明には、発明の課題とその解決手段について、
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】 特許文献1では、小径の軸受を用いることで、軸受内部での回転時における摩擦抵抗を軽減して、スプールのフリー回転性能の向上が図られている。しかしながら、スプールのフリー回転性能に影響を及ぼす要因は、摩擦抵抗だけではない。スプールの慣性モーメントもスプールのフリー回転性能に大きな影響を及ぼす。特許文献1では、スプールのフリー回転性能の向上を図る上でこのスプールの慣性モーメントが考慮されていない。また、スプールのフリー回転性能の向上が図られても耐久性が軽視されては、前述したような通常の釣糸巻き取り操作やキャスティング操作に充分対応できる要求性能を達成できない。
【0006】 本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、スプールのフリー回転性能の向上を図りつつ軸受(ボールベアリング)に作用する負荷を低減させて耐久性の向上も図ることができる魚釣用両軸受型リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】・・・
【0008】 この請求項1に記載の発明によれば、スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより、すなわち、スプールの糸巻き領域の平均径φAに対するボールベアリングの外輪の外径φBの比率φB/φAをこれらの範囲内(15.9%以上26%以下)に低く抑えることにより、実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリングの慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプールのフリー回転性能を格段に向上させることができる。そのため、軽い仕掛けを狙ったポイントへ正確に投入操作するキャスティングが可能となる。また、凹状の溝または貫通孔の存在により、外周側の肉抜き効果でスプールの慣性モーメント低下に寄与でき、キャスト抵抗の低減が図れるだけでなく、リムの剛性も低くなるため、リムが変形し易くなり、したがって、釣糸からの衝撃をスプールが受けた際にその衝撃をリムの変形により緩和させることができ、ボールベアリングへの衝撃力の伝達を抑制できる。そのため、ボールベアリングの耐久性を向上させることができる。」と記載されている(下線は訂正箇所を示す。)。
そして、発明の詳細な説明の段落【0026】【表1】に評価実験のデータ結果が記載され、段落【0027】には「表1から分かるように、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たす4つの本発明例(比率φB/φAが異なる本発明例1?本発明例4)では、キャスト抵抗の評価値が4,5であり、キャスト抵抗の十分な低減が実証された。・・・」との記載がある。
以上のとおり、請求項1に係る発明の「0.159≦φB/φA≦0.260という関係式」は、「スプールのフリー回転性能の向上」という発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものでないことは明らかである。
また他に、サポート要件違反となる点もない。

(イ)申立人の主張について
上記(1)イに記載したように、申立人は、「φAおよびφBが大きい場合、スプール軸周りの慣性モーメントおよびボールベアリングの慣性モーメントは大きくなるので、キャスト抵抗の低減(スプールのフリー回転性能の向上)は実現できない。この点で、明細書には、φAおよびφBの寸法がどのようなものであっても「0.159≦φB/φA≦0.260 」の関係式が成り立つようにすれば、キャスト抵抗が低減(スプールのフリー回転性能が向上)することができることまでは記載されておらず、また、一般化できることも記載されていない。」と主張する。
しかし、請求項1に係る発明は、φA、φB自体の値を特定する発明ではなく、φB/φAなる比の値を特定する発明であり、それにより解決される発明の課題は、上記(ア)に記載したように、スプールのフリー回転性能の「向上」である。これに対する申立人の主張は、φA、φBが大きくなると慣性モーメントは大きくなると述べているに過ぎず、「0.159≦φB/φA≦0.260 」の関係式を満たすリールが、満たさないリールに対し、スプールのフリー回転性能が「向上」しないことを説明するものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(ウ) 小括
以上のとおり、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る異議申立理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

第4 付記
申立人は、特許異議申立書において意見書の提出を希望しているが、特許法第120条の5第5項ただし書によれば、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときは、意見書を提出する機会を与えなくてもよいとされている。
そして、本件訂正請求による訂正では、異議申立理由(特許法第17条の2第2項(同法第113条第1号) 新規事項の追加)で問題とされた「成り立つように・・・設けられる」なる記載自体がなくなったので、特許異議申立人に意見を聴くまでもないことは明らかである。
よって、申立人に、意見書を提出する機会を与えないものとする。

第5 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立てに記載した特許異議申立理由によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
魚釣用両軸受型リール
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リール本体の両側板間にボールベアリングを介して回転可能に支持されたスプールに釣糸が巻回される魚釣用両軸受型リールに関し、特に、キャスティング時のスプールの回転抵抗を低減化できる魚釣用両軸受型リールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣用両軸受型リールは、一般に、通常の釣糸巻き取り操作やキャスティング操作に充分対応できる耐久性およびスプールのフリー回転性能(スプールの回転抵抗(以下、キャスト抵抗とも言う)の低減性)を維持できることが要求される。とりわけ、軽い仕掛けを狙ったポイントへ正確に投入操作するキャスティングを伴う釣りでは、高いフリー回転性能が求められる。
【0003】
このようなフリー回転性に関連して、例えば特許文献1に開示される魚釣用リールでは、リール本体に形成した凹状の軸受支持部に、軸受と、この軸受よりも小径の軸受を保持し所定の肉厚を有する環状支持体とを、交換可能に装着して、前記軸受または前記小径の軸受を介してスプール軸(スプールの回転軸)を回転自在に支持できるようにすることにより、スプールのフリー回転性能の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4356837号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、小径の軸受を用いることで、軸受内部での回転時における摩擦抵抗を軽減して、スプールのフリー回転性能の向上が図られている。しかしながら、スプールのフリー回転性能に影響を及ぼす要因は、摩擦抵抗だけではない。スプールの慣性モーメントもスプールのフリー回転性能に大きな影響を及ぼす。特許文献1では、スプールのフリー回転性能の向上を図る上でこのスプールの慣性モーメントが考慮されていない。また、スプールのフリー回転性能の向上が図られても耐久性が軽視されては、前述したような通常の釣糸巻き取り操作やキャスティング操作に充分対応できる要求性能を達成できない。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、スプールのフリー回転性能の向上を図りつつ軸受(ボールベアリング)に作用する負荷を低減させて耐久性の向上も図ることができる魚釣用両軸受型リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていることを特徴とする。
【0008】
この請求項1に記載の発明によれば、スプールの糸巻き領域の平均径をφA、ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより、すなわち、スプールの糸巻き領域の平均径φAに対するボールベアリングの外輪の外径φBの比率φB/φAをこれらの範囲内(15.9%以上26%以下)に低く抑えることにより、実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリングの慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプールのフリー回転性能を格段に向上させることができる。そのため、軽い仕掛けを狙ったポイントへ正確に投入操作するキャスティングが可能となる。また、凹状の溝または貫通孔の存在により、外周側の肉抜き効果でスプールの慣性モーメント低下に寄与でき、キャスト抵抗の低減が図れるだけでなく、リムの剛性も低くなるため、リムが変形し易くなり、したがって、釣糸からの衝撃をスプールが受けた際にその衝撃をリムの変形により緩和させることができ、ボールベアリングへの衝撃力の伝達を抑制できる。そのため、ボールベアリングの耐久性を向上させることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記巻回胴部の内周面から前記スプール軸の中心軸までの距離をL、前記スプール軸支持部の外周面から前記巻回胴部の内周面へ接続するように前記スプール軸側から径方向に延びる薄肉状の前記リムの長さをL1としたときに、0.694≦L1/L≦0.780の関係式が成り立つことを特徴とする。
【0010】
この請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、0.694≦L1/L≦0.780の関係式を満たすことにより、釣糸からの衝撃をスプールが受けた際にその衝撃をリムの変形により緩和させて、大きな衝撃力がボールベアリングに伝わり難くすることができ、ボールベアリングの耐久性を向上させることができる。特に、ボールベアリングの外輪の外径を小さくした場合、ボールベアリングのボール(コロ)径も小さくなり、耐久性が低くなる(滑らかな回転が持続できる期間が短くなる)が、これは上記効果により解決できる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記凹状の溝または前記貫通孔の少なくとも一部が前記巻回胴部と前記リムとの接続領域に設けられることを特徴とする。
【0014】
この請求項3に記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、剛性が高くなり易い巻回胴部とリムとの接続(接合)領域(一般的には、肉厚が増大される所定の曲率を有するいわゆるR形状の接続領域である)に凹状の溝または貫通孔が設けられるため、剛性を低下させる効果が大きく、その結果、リムに前記接続部を加えた部分が変形し易くなり、釣糸からの衝撃をスプールが受けた際にその衝撃をリムの変形により十分に緩和させることができ、ボールベアリングへの衝撃力の伝達を更に抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の魚釣用両軸受型リールによれば、スプールのフリー回転性能の向上を図りつつ軸受(ボールベアリング)に作用する負荷を低減させて耐久性の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚釣用両軸受型リールの内部構造を概略的に示す断面図である。
【図2】(a)は図1の魚釣用両軸受型リールのスプール軸を有するスプールの正面図、(b)は(a)のスプールの側面図である。
【図3】図2のスプールの断面図(スプール軸の軸方向に延び且つスプール軸に対して垂直な径方向に延びる平面(スプール軸の軸心を含む平面)でスプールを切断した際の断面図)である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る魚釣用両軸受型リールのスプール軸を有するスプールの正面図、(b)は(a)のスプールの側面図、(c)は(a)のA部拡大断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る魚釣用両軸受型リールのスプール軸を有するスプールの図3に対応する断面図、(b)は(a)のスプールの正面図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係る魚釣用両軸受型リールのスプール軸を有するスプールの図3に対応する断面図、(b)は(a)のスプールの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の魚釣用両軸受型リールの実施形態について具体的に説明する。
図1?図3は本発明の第1の実施形態を示している。図1に示されるように、本実施形態に係る魚釣用両軸受型リールのリール本体1は、左右フレーム2a,2bと各フレーム2a,2bを覆う左右カバー3a,3bとによって構成される左右側板1A,1Bを有している。両側板1A,1B(左右フレーム2a,2b)間には、スプール軸5aが軸受としての両側の2つのボールベアリング7,7(本実施形態では同一のボールベアリング)を介して回転自在に支持されており、スプール軸5aには、釣糸が巻回されるスプール5が一体的に装着されている。図1?図3に示されるように、スプール5は、釣糸が巻回される巻回胴部5bと、巻回胴部5bから径方向外側に延びて巻回胴部5bと共に糸巻き領域Sを形成するフランジ部5eと、スプール軸5aが回り止め嵌合状態で内部に貫通される筒状のスプール軸支持部5cと、スプール軸支持部5cと巻回胴部5bとを接続するようにスプール軸支持部5cから径方向に延びる薄肉状のリム5dとを有する。また、図3に示されるように、各ボールベアリング7は、リール本体1側に固定される外輪7aと、スプール軸5aの外周に嵌合する内輪7bと、外輪7aと内輪7bとの間で転動自在に支持される複数のボール状の転動体(コロ)7cとから環状に構成されて成る。
【0018】
また、図1に示されるように、右フレーム2bから突出するスプール軸5aの端部には、スプール軸5aの軸方向に沿って移動可能なピニオンギア8が取り付けられている。このピニオンギア8は、公知のクラッチ機構10によって、スプール軸5aと係合してスプール軸5aと一体に回転する係合位置(動力伝達状態;図1参照)と、スプール軸5aとの係合状態が解除される非係合位置(動力遮断状態)との間で移動される。また、ピニオンギア8には、右側板1B側に軸受12aを介して回転可能に支持されているハンドル軸12に対して回転可能に装着されたドライブギア15が噛合しており、ハンドル軸12の先端部に設けられたハンドル13を回転操作すると、ハンドル軸12、ドライブギア15、および、例えば真鍮製のピニオンギア8を介して、スプール軸5aが回転駆動され、それに伴ってスプール5が回転される。なお、ドライブギア15は、ドラグ機構20によって、ハンドル軸12との間で所望の制動力が加わった状態で回転可能に装着されている。
【0019】
また、スプール5の前方側の左右側板1A,1B間には、レベルワインド機構17が設置されており、このレベルワインド機構17は、釣糸を挿通案内する釣糸案内体17aを備えている。釣糸案内体17aは、ハンドル軸12の基端部に設けられたギア17bと右フレーム2bに支持された入力ギア17cとを介して回転駆動されるウォームシャフト17dと係合しており、ハンドル13を回転操作すると、ギア17bおよび入力ギア17cを介してウォームシャフト17dが回転駆動され、これに係合する釣糸案内体17aが左右側板1A,1B間で往復駆動される。これにより、ハンドル13を回転操作すると、前述したように、スプール5が回転駆動されることから、同期駆動する釣糸案内体17aを介して、スプール5には釣糸が均等に巻回される。
【0020】
また、本実施形態の魚釣用両軸受型リールでは、実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮した上でのスプール5のスプール軸5a(スプール軸5aの中心軸O)周りの慣性モーメント(実釣時の釣糸に水分が含まれた状態の慣性モーメント)が小さくなるようにすることでスプール5のフリー回転性能を向上させるための工夫が施されている。具体的には、図3に示されるように、スプール5の糸巻き領域Sの平均径をφA、ボールベアリング7の外輪7aの外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されている。なお、「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態の慣性モーメント」とは、スプール自体の慣性モーメントと湿った状態の釣糸の慣性モーメントとを合わせた慣性モーメントを意味し、釣糸を考慮しない場合は、むしろ釣糸巻回胴部5bの外径が小さい方が慣性モーメントは小さくなるが、発明者は、多くの実験を行なうことで、スプール単体と水分を含んだ釣糸を巻回したスプールとでは、評価が反対となることを発見した。
【0021】
ここで、スプール5の糸巻き領域Sとは、巻回胴部5bの外周面30とフランジ部5eとの間の釣糸が巻回可能な凹状の領域(図3の下側にハッチングで示される領域)のことである。また、スプール5の糸巻き領域Sの平均径φAは、一般的な巻回胴部5bの外周面30がスプール軸5aと平行なものに関しては、巻回胴部5bの外周面30の直径φCとフランジ部5eの最大外径部である最大外周部34の直径φDとの平均値で求められる。なお、巻回胴部5bの外周面30の形状が複雑な形状(スプール軸5aと平行でない形状)のものに関しては、スプール軸5aを通る任意の平面でスプール5を切断した際の釣糸が巻回されている部分の断面形状(図3の下側にハッチングで示される断面部分)における図心Gからスプール軸心Oまでの寸法の2倍の値によってスプール5の糸巻き領域Sの平均径φAを定義することができる。
【0022】
また、ボールベアリング7の外輪7aの外径φBとは、本実施形態のようにスプール軸5aの両側のボールベアリング7を互いに同一径としている場合には、それぞれのボールベアリング7の外輪7aの外径φBのことであるが、必ずしも同一のものを使用する必要はなく、異ならせてもよく、その場合には、これらの2つのボールベアリング7の外輪の外径の平均値で定義される。また、スプール軸5aを支持するボールベアリング7がスプール軸5aの一方側に複数配置されている場合には、それぞれのボールベアリング7とスプール軸5aとの間のクリアランスを考慮し、スプール軸5aの支持に関して実質的に機能しているボールベアリング7の外輪の外径で定義される。
【0023】
また、本実施形態の魚釣用両軸受型リールでは、特にボールベアリング7の耐久性を向上させるための工夫も施されている。具体的には、図3に示されるように、釣糸が巻回されるスプール5の巻回胴部5bの内周面32からスプール軸5aの中心軸Oまでの距離(巻回胴部半径)をL、スプール5のスプール軸5aを固定するスプール軸支持部5cの外周面から巻回胴部5bの内周面32へ接続するようにスプール軸5a側から径方向に延びる薄肉状のリム5dの長さ(リム高さ)をL1としたときに、0.694≦L1/L≦0.780の関係式が成り立つように寸法関係が設定されている。
【0024】
このように、本実施形態では、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすことにより、すなわち、スプール5の糸巻き領域Sの平均径φAに対するボールベアリング7の外輪7aの外径φBの比率φB/φAをこれらの範囲内(15.9%以上26%以下)に低く抑えることにより、実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプール5のスプール軸5a周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリング7の慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプール5のフリー回転性能を格段に向上させることができるため、軽い仕掛けを狙ったポイントへ正確に投入操作するキャスティングが可能となる。なお、巻回胴部5bの内周面32がスプール軸と平行でないような複雑な形状に形成された場合は、内周面32のリム5dに最も近い部位によって前記LおよびL1は定義される。
【0025】
このような作用効果を実証する実験が本発明者によってなされている。以下の表1は、キャスト抵抗を本発明と従来例とで比較した評価実験のデータ結果を示している。この実験では、4つの従来例(比率φB/φAが異なる従来例1?従来例4)と、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たす4つの本発明例(比率φB/φAが異なる本発明例1?本発明例4)とがキャスト抵抗に関して比較された。キャスト抵抗の評価は5段階でなされ、表1中の評価1はキャスト抵抗が最も高く、表1中の評価5はキャスト抵抗が最も低く、評価5から評価1へと徐々に(あるいは段階的に)キャスト抵抗が大きくなることを意味する。具体的に、各評価値の基準として、評価1は、重量が重いルアーを使い、キャスト抵抗が操作上気にならない程度のレベルであり、評価2は、重量が中位のルアーを使い、キャスト抵抗が操作上気にならない程度のレベルであり、評価3は、重量が中位のルアーを使い、釣糸が十分湿った状態まで投入操作を繰り返してもキャスト抵抗が操作上気にならない程度のレベルであり、評価4は、重量が軽量のルアーを使い、釣糸が十分湿った状態においてもキャスト抵抗が操作上問題にならないレベルであり、評価5は、重量が超軽量のルアーを使い、釣糸が十分湿った状態においてもキャスト抵抗が操作上問題にならないレベルといった基準がとられた。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から分かるように、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たす4つの本発明例(比率φB/φAが異なる本発明例1?本発明例4)では、キャスト抵抗の評価値が4,5であり、キャスト抵抗の十分な低減が実証された。特に、軽量ルアー(ワームを含む)を使い、釣糸が湿った状態において良い評価が得られている。一方、比率φB/φAが0.260を超えると、キャスト抵抗が急に大きくなった(本発明例1の評価4→従来例4の評価1)。また、この実験では、比較例1と本発明例1?4との比較も行なわれた。表1中の比較例1は、比率φB/φAが0.159未満の例であり、キャスト抵抗が評価3という中間値を示すが、スプール軸5aの剛性が不足して、スプール5の回転振れが生じた。
【0028】
また、本実施形態では、0.694≦L1/L≦0.780の関係式を満たすことにより、すなわち、スプール5の巻回胴部5bの内周面32からスプール軸5aの中心軸Oまでの距離Lに対するリム5dの長さL1の比率L1/Lをこれらの範囲内(69.4%以上78%以下)で大きく確保することにより、言い換えると、リム5dの長さL1の割合を大きくすることにより、釣糸からの衝撃をスプール5が受けた際にその衝撃をリム5dの変形により緩和させて、大きな衝撃力がボールベアリング7に伝わり難くすることができ、ボールベアリング7の耐久性を向上させることができる。特に、ボールベアリングの外輪の外径を小さくした場合、ボールベアリングのボール(コロ)径も小さくなり、耐久性が低くなる(滑らかな回転が持続できる期間が短くなる)が、これは上記効果により解決できる。また、ボールベアリング7への衝撃力が小さくなるため、結果としてリール全体の耐久性を向上させる効果も得ることができる。
【0029】
また、スプール5に対する釣糸の巻回端がフランジ部5e側にあった状態で合わせ(フッキング)を行なったり、根掛かりした状態で合わせた場合には、大きな負荷がスプール5およびスプール軸5aにかかる。具体的には、スプール5に曲げモーメントM(図3参照)が作用してボールベアリング7に大きな負荷がかかるが、本実施形態のようにリム5dの長さL1を長く確保して前記曲げモーメントMの作用時にリム5dを変形させ易くすることで、リム5dの変形により瞬間的な衝撃力を緩和させて、ボールベアリング7に作用する負荷を軽減することができる。特に、スプール5の糸巻き領域Sの平均径φAを大きくした本実施形態の場合、釣糸巻回量が少ないため、大きな魚が掛かった場合、釣糸が全て引き出される場合があり、その場合、釣糸の結合端P(巻回基点・・・図3参照)がスプール5の巻回胴部5bの外周側(フランジ部5eの近傍)に位置していると、ドラグが全く機能しないため、非常に大きな負荷が突然掛かってしまう場合があり、上記構成にすることで、このようなケースにおいても特に有効に機能する。
【0030】
このような作用効果を実証する別の実験データも本発明者によってなされている。以下の表2は、キャスト抵抗とともに耐久性を比較した評価実験のデータ結果を示しており、この実験では、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たす13個の本発明例(比率φB/φAが異なる本発明例1a?本発明例4d)の間で比率L1/Lの値を変えてキャスト抵抗および耐久性の比較がなされた。また、この実験においては、4つのタイプの本発明例が比較された。4つのタイプa(本発明例1a?4a)はL1/Lが一般的なタイプ(先の実験の表1の本発明例1?4に対応する)のものであり、4つのタイプb(本発明例1b?4b)はL1/Lを比較的大きめにしたタイプのものであり、4つのタイプc(本発明例1c?4c)はL1/Lを更に大きめにしたタイプのものであり、1つのタイプd(本発明例1d)はL1/Lをタイプcよりも更に大きめにしたタイプのものである。この場合、タイプbおよびタイプcに関しては0.694≦L1/L≦0.780の関係式が成り立つように寸法関係が設定されている。これに対し、タイプaは比率L1/Lの値が0.694未満に設定され、タイプdは比率L1/Lの値が0.780を超えた値に設定された。
【0031】
また、この実施形態では、先の表1の実験と同様の基準でキャスト抵抗が5段階で評価されるとともに、耐久性についても5段階で評価された。表2中の評価1は耐久性が最も低く、表2中の評価5は耐久性が最も高く、評価5から評価1へと徐々に(あるいは段階的に)耐久性が低くなることを意味する。具体的に、耐久性の各評価値の基準として、ルアーを付けて2000投後のハンドル巻き時の回転フィールとキャスト評価で判定し、評価1は、回転時のゴリゴリ感(スプール回転時にゴリゴリとした感触を伴う態様)が大きくキャスト抵抗が大きいレベル、評価2は、回転時にゴリゴリ感およびキャスト抵抗を感じるレベル、評価3は、回転時にゴリゴリ感をやや感じ、キャスト抵抗も僅かに感じるレベル、評価4は、回転時に滑らかだが、かすかなゴリゴリ感を感じ、キャスト抵抗は殆ど感じないレベル、評価5は、回転フィールもキャスト抵抗も変化を感じないレベルといった基準で評価された。
【0032】
【表2】

【0033】
この表2から分かるように、キャスト抵抗に関しては、いずれの本発明例も0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすため評価値が高い(評価値4,5のみ)が、比率L1/Lが0.780を超えるタイプdの本発明例(4d)では、今までの傾向とは逆に評価1となっている。リム5dの割合が長くなりすぎると、リム5dの耐久性に問題が生じる可能性があるだけでなく、スプール軸5aの外径やリム5dとスプール軸5aおよび巻回胴部5bとの接続部の肉厚を十分にとることが困難となり、ボールベアリング7以外の耐久性に問題が生じてしまうことが以下の表3から分かる。一方、比率L1/Lが0.694未満のタイプaの本発明例(1a?4a)では、耐久性が急に低下した(本発明例1bの評価4→本発明例4aの評価1)。
【0034】
なお、表1と表2の各例の各種寸法を以下の表3に示す。この表3中には、スプール外径φD(図3参照)、巻回胴部5bの深さh(図3参照)、スプール軸5aの外径φd(図3参照)、スプール軸支持部5cの肉厚t2(図3参照)、巻回胴部5bの肉厚t1といった具体的な数値も示されている。
【0035】
【表3】

【0036】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る魚釣用両軸受型リールのスプール軸5aを有するスプール5を示している。図示のように、本実施形態では、スプール5のリム5dの径方向外側にその周方向に沿って所定の角度間隔を隔てて複数の貫通孔50が形成されている。これらの貫通孔50はそれぞれ、スプール軸5aの軸方向と平行に延びており、その一部が巻回胴部5bとリム5dとの接続領域60に位置されている。特に、本実施形態では、接続領域60が所定の曲率を有するいわゆるR形状の領域Rとして形成されており、この領域Rの一部を肉抜きするように各貫通孔50がリム5dを貫いている。
【0037】
このように、本実施形態によれば、貫通孔50の存在によりリム5dの剛性を低くできるため、リム5dが変形し易くなり、したがって、釣糸からの衝撃をスプール5が受けた際にその衝撃をリム5dの変形により十分に緩和させることができ、ボールベアリング7への衝撃力の伝達を緩和できる。そのため、ボールベアリング7の耐久性を向上させることができる。特に、本実施形態では、肉厚が増大されるR形状の接続領域Rの一部を肉抜きするように各貫通孔50がリム5dを貫いているため、剛性を低下させる効果が大きく、前記作用効果が促進される。また、外周側の肉抜き効果によりスプール5の慣性モーメント低下にも寄与でき、キャスト抵抗の低減に貢献できる。
【0038】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る魚釣用両軸受型リールのスプール軸5aを有するスプール5を示している。図示のように、本実施形態では、スプール5のリム5dに凹状の溝52が設けられている。この溝52は、スプール5の巻回胴部5bの外周面30を基点としてスプール軸5の軸方向に対して垂直な方向(スプール軸5aの軸方向と交差する方向)でリム5dへ向かって延びてリム5dに達しており、巻回胴部5bの外周面30の中心部(リム5dが接続する部分)に位置する環状溝として形成される。このような溝52であってもリム5dの変形(剛性低下)に寄与することができ、したがって、釣糸からの衝撃をスプール5が受けた際にその衝撃をリム5dの変形により十分に緩和させることができ、ボールベアリング7への衝撃力の伝達を抑制できる。そのため、ボールベアリング7の耐久性を向上させることができる。また、外周側の肉抜き効果によりスプール5の慣性モーメント低下にも寄与でき、キャスト抵抗の低減に貢献できる。
【0039】
図6は、本発明の第4の実施形態に係る魚釣用両軸受型リールのスプール軸5aを有するスプール5を示している。図示のように、本実施形態は、第2の実施形態と第3の実施形態との組み合わせであり、第3の実施形態における溝52が巻回胴部5bとリム5dとのR形状の接続領域を越えて延び、リム5dの径方向外側にその周方向に沿って所定の角度間隔を隔てて配列される複数の貫通孔として且つ巻回胴部5bの中心部で周方向に沿って所定の角度間隔を隔てて配列される前記貫通孔に連通する複数の溝として形成される複合穴52Aを備える。したがって、第2および第3の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
以上説明した第1?第4の実施形態の耐久性(前述した作用効果に伴うボールベアリング7の耐久性)を比較したものが以下の表4に示されている。この表4から分かるように、リム5dに凹状の溝または貫通孔が設けられた第2ないし第4の実施形態(実施例2ないし実施例4)はいずれもリム5dに凹状の溝または貫通孔が設けられていない第1の実施形態(実施例1)よりも耐久性が向上する。なお、表4は第1の実施形態(実施例1)に対する比較であるため、表4中には第1の実施形態(第1の実施例)の耐久性評価が示されていない。他の第2?第3の実施形態(実施例)の耐久性の向上が表4中に○で示されている。
【0041】
【表4】

【0042】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、前述した凹状の溝や貫通孔の数、形状、配置形態は任意である。また、前述した実施形態では、スプールとスプール軸とを別部材で構成したが、これらが一体に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 リール本体
5 スプール
5a スプール軸
5b 巻回胴部
5c スプール軸支持部
5d リム
5e フランジ部
7 ボールベアリング
7a 外輪
32 巻回胴部の内周面
50(52A) 貫通孔
52(52A) 凹状の溝
S 糸巻き領域
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていることを特徴とする魚釣用両軸受型リール。
【請求項2】
前記巻回胴部の内周面から前記スプール軸の中心軸までの距離をL、前記スプール軸支持部の外周面から前記巻回胴部の内周面へ接続するように前記スプール軸側から径方向に延びる薄肉状の前記リムの長さをL1としたときに、
0.694≦L1/L≦0.780
の関係式が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の魚釣用両軸受型リール。
【請求項3】
前記凹状の溝または前記貫通孔の少なくとも一部が前記巻回胴部と前記リムとの接続領域に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の魚釣用両軸受型リール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-01 
出願番号 特願2012-63566(P2012-63566)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A01K)
P 1 651・ 537- YAA (A01K)
P 1 651・ 121- YAA (A01K)
P 1 651・ 55- YAA (A01K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹中 靖典  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 赤木 啓二
前川 慎喜
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5872937号(P5872937)
権利者 グローブライド株式会社
発明の名称 魚釣用両軸受型リール  
代理人 水野 浩司  
代理人 水野 浩司  
代理人 松下 亮  
代理人 グローバル・アイピー東京特許業務法人  
代理人 松下 亮  

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