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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D05B
審判 全部申し立て 2項進歩性  D05B
管理番号 1325876
異議申立番号 異議2016-701148  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-15 
確定日 2017-03-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第5945050号発明「複数枚の布の縫合及びその縫合用ミシン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5945050号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5945050号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年9月28日(優先権主張、平成27年3月24日)に特許出願され、平成28年6月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人北村仁(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5945050号の請求項1?7に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
複数枚の布(1a、1b)を重ね、その重ねた布(1a、1b)の縫合箇所に毛糸(2)を載せ、その毛糸(2)も含めて前記複数枚の布(1a、1b)を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸(2)の繊維(2a)を前記複数枚の布(1a、1b)の繊維に絡ませてその複数枚の布(1a、1b)を縫合するミシンであって、
上記複数枚の布(1a、1b)を重ねて載置する縫合台(16)と、フェルティング針(3)と、そのフェルティング針(3)を覆う安全カバー(12、12’)の下端の毛糸ガイド(13、13’)と、前記重ねられた複数枚の布(1a、1b)に向かって前記フェルティング針(3)を昇降する手段と、を有し、ボビン又は毛糸玉(B)から上記毛糸(2)を前記毛糸ガイド(13、13’)によって上記縫合個所に導き、前記フェルティング針(3)を昇降させることにより、上記ニードルフェルティングを行って前記複数枚の布(1a、1b)を縫合するミシン。
【請求項2】
請求項1に記載のミシン(A2)において、そのミシンハウジング(10a、10b、10c)は、基台(110)の一端上面から立ち上がる脚部(120)と、その脚部(120)の上部から前記基台(110)の他端方向に延びる水平方向のアーム部(130)と、そのアーム部(130)の先端部から下方に延びる頭部(140)とから成り、
上記フェルティング針(3)を昇降する手段は、電動機(123)により回転する水平方向の駆動軸(131)と、その駆動軸(131)の直交方向所要位置に駆動軸(131)と一体に設けられた水平方向の駆動ピン(136)と、上記フェルティング針(3)を有して上下に移動する昇降体(141)とからなり、
上記駆動軸(131)及び昇降体(141)は上記ミシンハウジング(10b、10c)内に設けられており、
上記昇降体(141)は、上記駆動ピン(136)が摺動自在に嵌った水平方向の摺動溝(145)を有して、駆動軸(131)の回転によってその駆動ピン(136)及び摺動溝(145)を介して昇降し、
上記頭部(140)のミシンハウジング(10c)下部に上記安全カバー(12’)が設けられているミシン。
【請求項3】
上記駆動軸(131)に同一軸心で設けられたパルサーリング(134)と、そのパルサーリング(134)の回転数を検出する回転センサ(135)とを、さらに有して、そのパルサーリング(134)と回転センサ(135)は上記ミシンハウジング(10b、10c)内に設けられている請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
上記フェルティング針(3)を有する昇降体(141)は、上記ミシンハウジング(10b)に取り外し可能のブロック(142)に設けられ、そのブロック(142)は、上下方向のガイド軸(143)を介して前記昇降体(141)を昇降自在に支持している請求項2又は3に記載のミシン。
【請求項5】
毛糸玉(C)から引き出した毛糸(2)を案内するガイド溝(138)がミシンハウジング(10a、10b、10c)のアーム部(130)の先端部上面に設けられ、毛糸玉(C)からの毛糸(2)は前記ガイド溝(138)から上記安全カバー(12’)下端の毛糸ガイド(13’)に導かれる請求項2?4の何れか一つに記載のミシン。
【請求項6】
上記縫合台(16)は、上記基台(110)に上下方向に移動可能に設けられるとともに、弾性体(111)によって昇降可能に支持されている請求項2?5の何れか一つに記載のミシン。
【請求項7】
上記アーム部(130)の後部にハンドル(124)が上記駆動軸(131)の軸心回りに回転自在に設けられており、そのハンドル(124)は、前記駆動軸(131)にクラッチ継手(126)を介して連結されているとともにその軸心方向に移動自在になって弾性体(127)により連結離反方向に付勢されて前記クラッチ継手(126)により連結が切り離されるようになっており、
上記弾性体(127)に抗してハンドル(124)を駆動軸(131)側に押し込むことによって、クラッチ継手(126)を介してハンドル(124)と駆動軸(131)が連結されて一体に回転するようになっている請求項2?6の何れか一つに記載のミシン。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人北村仁は、証拠として、以下の甲第1号証?甲第15号証を提出し、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、請求項1?7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(証拠一覧)
甲第1号証:特開2004-222895号公報
甲第2号証の1:商品名「フェルティミシン」に係るアマゾンの通販サイトの写し
甲第2号証の2:商品名「フェルティミシン」の分解写真
甲第3号証:特開2006-274471号公報
甲第4号証:実公昭58-4556号公報
甲第5号証:Leanne McWaters、「An Embellishing Experience」、The Virtual Costumer Vol.8、Issue1、2010年2月、p.5-6
甲第6号証:「Baby Lock Embellisher Instruction and Reference Guide Model EMB12」、Baby Lock、2008年8月、p.1、5、10、12
甲第7号証:「ER10 User’s Guide」、KSIN Luxembourg II、2009年、p.3、5-7
甲第8号証:Linda Turrer Griepentrog 外1名、「Needle Felting by Hand or Machine」、krause publications、2007年6月20日、p.47-49
甲第9号証:「Brother PQ Series Accesories」、2003年7月、p.76
甲第10号証:「Brother Accesory Catalog」、Brother International Corporation、2008年、p.69-70
甲第11号証:Kathy MacMannsis、「Feltscaping Technique Guide」、Brother International Corporation、2003年、p.4-5
甲第12号証:米国特許第4319532号明細書
甲第13号証:米国特許第1455800号明細書
甲第14号証:米国特許第3019751号明細書
甲第15号証:米国特許第7188572号明細書

4.甲各号証の記載等
(1)甲第1号証には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
ミシン本体に上下動自在に配設された針棒と、この針棒の下端部に縫製用の目孔付きの第1の針を固定する為の針抱きと、前記第1の針を用いて縫製する際に針棒の下方において糸を捕捉する糸捕捉手段とを備えたミシンにおいて、
前記針棒から水平方向に所定距離離隔して位置する第2の針と、
前記針棒を挟持可能な第1の挟持部と第2の針を挟持可能な第2の挟持部とを有し第2の針を針棒に取付ける為の針取付具と、
前記第2の針が通過する針穴を有する針板とを備え、
前記針取付具に、前記針棒と第2の針とを挟持する方向に締結部材が装着され、
締結部材を締結することにより第1、第2の挟持部で針棒と第2の針とを挟持するように構成したことを特徴とするミシン。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ミシン及びこのミシンの針取付具に関し、特に、縫製用の第1の針と針棒の下端部から水平方向に所定距離離隔した第2の針とを容易に着脱可能に構成したものに関する。」
ウ 「【0006】
本発明の目的は、縫製用の第1の針と針棒の下端部から水平方向に所定距離離隔した第2の針とを容易に着脱可能に構成することである。」
エ 「【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1のミシンは、ミシン本体に上下動自在に配設された針棒と、この針棒の下端部に縫製用の目孔付きの第1の針を固定する為の針抱きと、前記第1の針を用いて縫製する際に針棒の下方において糸を捕捉する糸捕捉手段とを備えたミシンにおいて、前記針棒から水平方向に所定距離離隔して位置する第2の針と、前記針棒を挟持可能な第1の挟持部と第2の針を挟持可能な第2の挟持部とを有し第2の針を針棒に取付ける為の針取付具と、前記第2の針が通過する針穴を有する針板とを備え、前記針取付具に、前記針棒と第2の針とを挟持する方向に締結部材が装着され、締結部材を締結することにより第1、第2の挟持部で針棒と第2の針とを挟持するように構成したものである。
【0008】
このミシンにおいては、針棒の下端部の針抱きに縫製用の目孔付きの第1の針を装着可能であり、第1の針を針抱きに装着した状態で針棒を上下動させて第1の針から下方へ延びる糸を糸捕捉手段により捕捉して、第1の針と糸捕捉手段との協働により加工布に縫目を形成する。さらに、針棒には、針棒から水平方向に所定距離離隔した位置に、第2の針を針取付具により取付けることも可能である。ここで、針棒と第2の針とを挟持する方向に締結部材が装着されており、締結部材を締結することにより、針取付具の第1の挟持部で針棒が挟持され、第2の挟持部で第2の針が挟持されて、第2の針が針取付具を介して針棒に取付けられる。」
オ 「【0019】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、加工布の上に重ねて戴置された装飾材としての毛糸を加工布に押し込んで加工布に刺繍的な装飾模様を施すニードルパンチング加工が可能なミシンに本発明を適用した一例である。
【0020】
図1?図3に示すように、ミシンMは、水平なベッド部1と、このベッド部1の右端部に立設された脚柱部2と、ベッド部1と平行に脚柱部2から左方へ延びるアーム部3と、このアーム部3の左端部に設けられたヘッド部4などを備えている。このミシンMにおいては、図3、図4に鎖線で示すように、ヘッド部4の針棒30の下端部に縫製用の目孔13a(図8参照)付きの縫針13(第1の針に相当する)を装着した状態では、上糸と下糸を交絡させてベッド部1に戴置された加工布に縫目を形成する通常縫製を行うことができる。
【0021】
一方、図1?図4に実線で示すように、針棒30から水平方向左方に所定距離離隔した位置に後述のパンチング針14(フェルティングニードルともいい、第2の針に相当する)を装着した状態では、図12、図13に示すように、パンチング針14により、ベッド部1上の加工布80(下側の被加工物)の上に重ねた装飾材としての毛糸81(上側の被加工物)を加工布80に押し込んで、上糸や下糸を用いずに加工布80に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布80に施すことができる。
【0022】
図2、図4に示すように、ベッド部1の内部には、縫針13を用いて通常縫製を行う際に針棒30の下方において上糸を捕捉する釜機構10(糸捕捉手段)が設けられており、ベッド部1において釜機構10の上側には通常縫製用の針板11とニードルパンチング加工用の針板12の何れか一方が装着される。即ち、図5、図6(ベッド部1側から針板11,12を見た図)に示すように、ミシンMには、釜機構10の上側に位置し縫針13が通過する針穴11aを備えた針板11と、この釜機構10よりも左方に位置しパンチング針14が通過する針穴12aを備えた針板12の、2種類の針板11,12が付属しており、通常縫製あるいはニードルパンチング加工を行う際に、これら2種類の針板11,12のうち一方を選択してベッド部1に装着するように構成されている。」
カ 「【0027】
針棒上下動機構31は、ミシンモータ(図示略)の駆動力を針棒30に伝達して針棒30を上下に駆動するものであり、公知の構成であるためその説明は省略するが、針抱き33に縫針13が装着された状態で、この針棒上下動機構31により針棒30が上下に駆動されると、通常縫製用の針板11の下側において縫針13の目孔13aから下方へ延びる上糸が釜機構10の剣先により下糸と交絡して、針板11上の加工布に縫目が形成される。」
キ 「【0031】
さらに、保護カバーホルダ45の左端部には、取付金具47を介して平面視略矩形状で且つ透明な合成樹脂製の布押え48が取付けられている。図9に示すように、布押え48は、平面状に形成されパンチング針14が通過する針穴12a付近の加工布80を押える押え部48aと、この押え部48aの前端部、左端部、及び右端部に夫々押え部48aから上方へ延びる鉛直壁状に形成された前壁部48b、左壁部48c及び右壁部48dとを有する。押え部48aの中央部には、パンチング針14が通過する円形穴48eが形成されている。
【0032】
さらに、前壁部48bには、加工布80の上に重ねられた毛糸81を前後方向に案内する案内穴48fも形成されている。従って、毛糸81は、案内穴48fにより後方へ案内され、さらに、押え部48aの上側から円形穴48eを通って押え部48aの下側に出て、加工布80の上に重ねて戴置される。ここで、毛糸81が案内穴48fを通過する際には、前壁部48bに前後方向の力が作用することになるが、前壁部48bは、左壁部48c及び右壁部48dと一体形成されているため、前壁部48bは左壁部48c及び右壁部48dにより前後方向に支えられており、前壁部48bが破損することがない。」
ク「【0062】
【発明の効果】請求項1の発明によれば、針取付具に、前記針棒と第2の針とを挟持する方向に締結部材が装着され、締結部材を締結することにより第1、第2の挟持部で針棒と第2の針とを挟持するように構成したので、針棒の下端部に固定された針抱きに第1の針を固定するビス等の取付具に針棒が上下動する際の駆動力が作用せず、取付具が破損したりあるいは劣化したりするのを防止でき、常に第1の針を針抱きから容易に取り外すことができる。また、第2の針を針取付具を介して針棒に装着するため、その際に、針抱きを針棒から取り外す必要がなく、第2の針の取付け作業が容易になる。」

上記記載事項ア?ク(特に、ア、イ、オ)から、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「縫製用の第1針と、加工布の上に重ねた装飾材としての毛糸を加工布に押し込んで、加工布に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布に施すことができるパンチング針と、ミシン本体に上下動自在に配設された針棒と、この針棒の下端部に縫製用の目孔付きの前記第1の針を固定する為の針抱きと、前記第1の針を用いて縫製する際に針棒の下方において糸を捕捉する糸捕捉手段とを備えたミシンにおいて、
前記針棒から水平方向に所定距離離隔して位置する前記パンチング針と、
前記針棒を挟持可能な第1の挟持部とパンチング針を挟持可能な第2の挟持部とを有しパンチング針を針棒に取付ける為の針取付具と、
前記パンチング針が通過する針穴を有する針板とを備え、
前記針取付具に、前記針棒とパンチング針とを挟持する方向に締結部材が装着され、
締結部材を締結することにより第1、第2の挟持部で針棒とパンチング針とを挟持するように構成し、
ヘッド部の針棒の下端部に縫製用の前記第1の針を装着した状態では、上糸と下糸を交絡させてベッド部に戴置された加工布に縫目を形成する通常縫製を行うことができ、
針棒から水平方向左方に所定距離離隔した位置に前記パンチング針を装着した状態では、前記パンチング針により、ベッド部上の加工布の上に重ねた装飾材としての毛糸を加工布に押し込んで、上糸や下糸を用いずに加工布に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布に施すことができる、ミシン。」

(2)甲第2号証の1には、商品名「フェルティミシン」について、商品の情報の欄に「発売日 2014/9/25」、登録情報の欄に「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日 2014/4/8」と記載されている。
さらに、甲第2号証の1には、商品名「フェルティミシン」について、商品の説明の商品紹介の欄には、「「糸をまったく使わない」のに布が縫える不思議なマジカルミシン「フェルティミシン」の登場です。
糸を全く使わずに、ミシンの針だけで専用の布を縫い合わせることができます。・・・針部分は子供の手の入らないカバー付きで安心です。」が記載されている。
また、甲第2号証の1及び甲第2号証の2には、商品名「フェルティミシン」が毛糸を用いる点は、示されていない。

(3)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0043】
図6に示す本実施例では、ガイド部材53は、その一側端部がミシン56の針52の近傍に位置し、ここからガイド部材53はミシン56の表面形状に沿って上方に延設され、さらにミシン56の表面形状に沿ってミシン56の裏側に至っている。そして、ミシン56の後方に毛糸玉54aを配置して、該毛糸玉54aから引き出した毛糸54を、ガイド部材53に導通させて、縫い位置の近傍まで誘導している。」

(4)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「このストッパー16は例えば円柱状に形成され、その中心には押圧軸7と同一軸線上に押圧軸7が嵌合する受孔17が形成されている。このストッパー16の上端部近傍の外周面にはフランジ18が形成されており、このフランジ18とベース2の底板との間にはスプリング19が弾装されており、ストッパー16が上昇する方向へ力を与えているが、ストッパー16の上昇限はフランジ18が開口部15の周縁におけるベース2の下面に接触することにより規制され、ストッパー16の上端面はベース2の上面よりわずかに突出し、前記筒体6の下端面に接触するか、或いはその下端面近傍に至っている。」(第2頁3欄6行?18行)

5.判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
(相違点1)請求項1に係る発明は、縫製用の針と縫製する際に針棒の下方において糸を捕捉する糸捕捉手段とを有さないのに対して、甲1発明は、縫製用の第1の針と縫製する際に針棒の下方において糸を捕捉する糸捕捉手段とを有する点。
(相違点2)請求項1に係る発明は、複数枚の布を重ね、その重ねた布の縫合箇所に毛糸を載せ、その毛糸も含めて前記複数枚の布を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸の繊維を前記複数枚の布の繊維に絡ませてその複数枚の布を縫合するミシンであるのに対して、甲1発明は、パンチング針により加工布の上に重ねた装飾材としての毛糸を加工布に押し込んで、加工布に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布に施すことができるミシンであるが、加工布が複数であるのか不明である点。

ア (新規性)
相違点1について検討する。甲1発明において、発明の課題は、「縫製用の第1の針と針棒の下端部から水平方向に所定距離離隔した第2の針(当審注 パンチング針が相当)とを容易に着脱可能に構成すること」(甲第1号証段落【0006】)であり、甲第1号証の段落【0022】に「図2、図4に示すように、ベッド部1の内部には、縫針13を用いて通常縫製を行う際に針棒30の下方において上糸を捕捉する釜機構10(糸捕捉手段)が設けられており、ベッド部1において釜機構10の上側には通常縫製用の針板11とニードルパンチング加工用の針板12の何れか一方が装着される。・・・通常縫製あるいはニードルパンチング加工を行う際に、これら2種類の針板11,12のうち一方を選択してベッド部1に装着するように構成されている。」とあるように、ニードルパンチング加工用の手段と共に、発明の課題の解決のために、縫製に用いる手段である縫製用の第1の針と縫製する際に針棒の下方において糸を捕捉する糸捕捉手段は必須の構成であり、省略することはできない。そして、請求項1に係る発明は、その縫製に用いる手段を有さないので、甲1発明に比べて構造が簡単である。
そうすると、相違点1は実質的相違であるので、相違点2を検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、甲1発明ではない。

イ (進歩性)
相違点1について、上記5(1)アで述べたように、甲1発明において、縫製に用いる手段は必須の構成であり、省略することはできない。そして、請求項1に係る発明は、その手段を有さないので、甲1発明に比べて構造が簡単である。
相違点2について検討する。甲1発明において、複数枚の加工布を縫合する必要がある場合は、甲第1号証の段落【0020】に「・・・このミシンMにおいては、図3、図4に鎖線で示すように、ヘッド部4の針棒30の下端部に縫製用の目孔13a(図8参照)付きの縫針13(第1の針に相当する)を装着した状態では、上糸と下糸を交絡させてベッド部1に戴置された加工布に縫目を形成する通常縫製を行うことができる。」とあるように、縫製用の第1の針(縫針13)を用いることが想定されているので、あえて、パンチング針により複数の加工布を縫合する動機付けがない。
請求項1に係る発明は、相違点2に係る構成、すなわち複数枚の布を重ね、その重ねた布の縫合箇所に毛糸を載せ、その毛糸も含めて前記複数枚の布を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸の繊維を前記複数枚の布の繊維に絡ませてその複数枚の布を縫合するミシンであるので、「布の種類に拘わらず、複数枚の布を容易にかつ強固に縫合することができるとともに、その縫合線はニードルフェルティングによる刺繍と同形状となり、布の縫合と刺繍を同時に行い得るものとなる。」(本件特許明細書【0012】)の効果を奏する。
また、甲1発明の課題は、「縫製用の第1の針と針棒の下端部から水平方向に所定距離離隔した第2の針(当審注 パンチング針に相当)とを容易に着脱可能に構成すること」(甲第1号証段落【0006】)であり、請求項1に係る発明の課題の「(ニードルフェルティングにより)不織布以外の布においても、その複数枚を縫合し得て、かつ強固に縫合すること」(本件特許明細書【0005】)とは、異なる。
そうすると、相違点1及び相違点2に係る構成のいずれも、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
よって、請求項1に係る発明は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、申立人は、甲第1号証に記載の発明を、特許異議申立書14頁15行?15頁11行に記載のものとして、新規性及び進歩性について主張しているが、甲第1号証全体の記載から、甲第1号証に記載の発明は、縫製に用いる手段である「縫製用の第1の針と縫製する際に針棒の下方において糸を捕捉する糸捕捉手段と」を必須の構成とするものであるから、申立人の主張は、採用できない。

(2)請求項2?7に係る発明について
請求項2?7に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含むものであるから、請求項2?7に係る発明は、甲1発明と対比すると、少なくとも上記相違点1、2で相違する。そのうち、上記相違点2に係る構成、すなわち複数枚の布を重ね、その重ねた布の縫合箇所に毛糸を載せ、その毛糸も含めて前記複数枚の布を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸の繊維を前記複数枚の布の繊維に絡ませてその複数枚の布を縫合するミシンである点は、甲第2号証の商品名「フェルティミシン」、甲第3号証、甲第4号証、及び周知技術(甲第5号証?甲第15号証)のいずれにも示されていないし、記載されていない。そして、請求項2?7に係る発明は、相違点2に係る構成により、上記明細書記載の効果を奏する。
よって、請求項2?4、7に係る発明は、甲1発明及び甲第2号証の商品名「フェルティミシン」に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様に、請求項5に係る発明は、甲1発明、甲第2号証の商品名「フェルティミシン」、及び甲第3号証記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様に、請求項6に係る発明は、甲1発明、甲第2号証の商品名「フェルティミシン」、及び甲第4号証記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-02-21 
出願番号 特願2015-189692(P2015-189692)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D05B)
P 1 651・ 113- Y (D05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西藤 直人田中 尋  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 井上 茂夫
蓮井 雅之
登録日 2016-06-03 
登録番号 特許第5945050号(P5945050)
権利者 株式会社アックスヤマザキ
発明の名称 複数枚の布の縫合及びその縫合用ミシン  
代理人 田川 孝由  
代理人 清水 隆  
代理人 鎌田 文二  
代理人 中谷 弥一郎  
代理人 特許業務法人コスモ国際特許事務所  
代理人 鎌田 直也  

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