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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C04B |
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管理番号 | 1325879 |
異議申立番号 | 異議2016-701100 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-11-25 |
確定日 | 2017-03-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5924436号発明「セメントクリンカ組成物およびその製造方法ならびに中庸熱ポルトランドセメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5924436号の請求項1?3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5924436号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年3月18日に特許出願され、平成28年4月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 浜 俊彦により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5924436号の請求項1?3に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1?8号証を提出し、下記(a)?(c)の理由を申し立てた。 (a)本件請求項1、3に係る発明は、本件特許の出願前に公然実施をされた発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当するものであるから、請求項1、3に係る特許は取り消されるべきものである。 (b)本件請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前に公然実施をされた発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?3に係る特許は取り消されるべきものである。 (c)本件請求項2に係る発明は、式(1)の関係を満たすように「調整」すべき対象及びその具体的手段が記載されておらず、その特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるから、請求項2に係る特許は取り消されるべきものである。 甲第1号証:「蛍光X線分析用セメント標準物質 601B 証明書」、[online]、2014年10月、一般社団法人セメント協会、[平成28年11月4日検索]、インターネット 甲第2号証:「蛍光X線分析用標準試料601Bの化学分析」、三菱マテリアル株式会社セメント技術カンパニー セメント研究所、2016年11月22日(作成日) 甲第3号証:「コンクリート技士研修テキスト」、社団法人日本コンクリート工学協会、2010年6月15日、第5ページ 甲第4号証:千葉淳治、「セッコウの微量元素にみられるアソシエーション」、石膏と石灰、石膏石灰学会、1977年11月1日、第151号、第25?31ページ 甲第5号証:中島佐太郎、「最近のリン酸製造とリン酸セッコウ」、石膏と石灰、石膏石灰学会、1987年9月1日、第210号、第59?64ページ 甲第6号証:「セメントの常識」、一般社団法人セメント協会、2013年4月、第19?20ページ 甲第7号証:特公平7-80698号公報 甲第8号証:宮澤伸吾ら、「コンクリートの自己収縮に及ぼすセメントの種類の影響」、コンクリート工学年次論文集、社団法人日本コンクリート工学会、2002年、第24巻、第1号、第429?434ページ 第4 当審の判断 1.特許法第29条第1項第2号について 甲第1号証の第3ページ末尾には、「2014年10月 一般社団法人セメント協会」との記載があり、その上には、「【本標準物質に関する問合せ先】」として、「購入等に関する問合せ」があり、一般社団法人セメント協会の連絡先が記載されている。 したがって、甲1号証に記載された「蛍光X線分析用セメント標準物質 601B」の「試料No.5」(以下、「601B-5」という。)は、遅くとも2014年10月には、その物の譲渡等の申出がなされた、すなわち公然実施されたものと認められる。 そして、甲第2号証の表3には、「601B-5」の主要化学成分と、Bogue式より計算された鉱物組成、同表4には、Snの含有量、同表5には、β-2CaO・SiO_(2)の格子体積がそれぞれ記載されている。 また、甲第2号証の表3には、「601B-5」のSO_(3)量が1.85%であったことが記載され、同表6には、「601B-5」のSO_(3)量のうち、せっこうに由来するSO_(3)量が1.10%であったことが記載されている。 ここで、例えば甲第3号証の左欄(3)(b)の丸数字3にも、「クリンカーにせっこうを3?4%加えて微粉砕し、ポルトランドセメントとする」と記載されているとおり、セメントが、セメントクリンカーに少量のせっこうを添加し、粉砕して製造されるものであることは当業者の技術常識であるから、「せっこうを添加、粉砕して『601B-5』となるセメントクリンカー」は、甲第2号証の表6の「クリンカー」欄に記載のとおり、0.75%(=1.85%-1.10%)のSO_(3)を含有するものといえる。 よって、上記甲第1?3号証の記載から、下記のセメントクリンカー(以下、「公然実施発明1」という。)、及び、該セメントクリンカーにせっこうを添加し、粉砕したセメント(以下、「公然実施発明2」という。)が、本願出願前に公然実施されていたものと認められる。 「せっこうを添加して粉砕することにより、 ボーグ式で算出された2CaO・SiO_(2):34% ボーグ式で算出された3CaO・Al_(2)O_(3):3% ボーグ式で算出された4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3):10% Snの含有量:42mg/kg β-2CaO・SiO_(2)の格子体積:347.47×10^(-3)nm^(3) セメントクリンカー中のSO_(3)の含有量:0.75% MgOの含有量:0.98% P_(2)O_(5)の含有量:0.11% を有するセメントとなるセメントクリンカー」 しかしながら、本件請求項1に係る発明の「セメントクリンカ組成物に固溶しているSO_(3)の含有量」は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0023】に記載のとおり、「セメントクリンカ組成物中のSO_(3)の含有量から、SO_(3)に換算したアルカリ硫酸塩の含有量を引き算して」算出されるものであるところ、甲第2号証には、公然実施発明1のセメントクリンカーに固溶しているSO_(3)の含有量あるいはアルカリ硫酸塩の含有量について、何らの記載も示唆もない。 したがって、公然実施発明1のセメントクリンカーに固溶しているSO_(3)の含有量は不明であるというほかないから、その余の点について検討するまでもなく、本件請求項1に係る発明は、公然実施発明1ではない。 そして、同じ理由により、本件請求項3に係る発明は、公然実施発明2ではない。 2.特許法第29条第2項について 「601B-5」は標準物質、すなわち、その特性値が適切に確定された物質であるから、その構成を変更することには阻害要因がある。 したがって、本件請求項1に係る発明は、公然実施発明1に基づいて、当業者が容易になし得るものではないし、本件請求項3に係る発明は、公然実施発明2に基づいて、当業者が容易になし得るものではない。 また、本件請求項1に係る発明のセメントクリンカ組成物を製造する方法の発明である本件請求項2に係る発明も、当業者が容易になし得るものではない。 3.特許法第36条第6項第1号について 特許異議申立人は、「式(1)の関係を満たすように調整してセメントクリンカ組成物を製造する」ことを構成要件とする本件請求項2に係る発明に対し、課題を解決するための「調整」すべき対象及びその具体的手段が規定されていないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないと主張している。 しかしながら、本件明細書【0006】には、「流動性が良好であり、かつ発現する強度の高い中庸熱ポルトランドセメント組成物・・・の製造に用いるセメントクリンカ組成物およびそのセメントクリンカ組成物の製造方法を提供する」という本件発明の課題が記載され、同【0026】には、「セメントクリンカ組成物に固溶しているSO_(3)の含有量、P_(2)O_(5)の含有量およびMgOの含有量は、下記の式(1)の関係を満たすと、本発明のセメントクリンカ組成物を用いて作成したセメント組成物が発現する強度が高くなり、流動性も良好になる」ことが記載されている。 そして、式(1)の関係を満たすためには、式(1)を構成する「固溶しているSO_(3)の含有量」、「P_(2)O_(5)の含有量」及び「MgOの含有量」を調整することが必要とされるところ、本件明細書【0023】には、「セメントクリンカ組成物に固溶しているSO_(3)の含有量はセメントクリンカ組成物の焼成後の冷却開始温度を制御することによって調節することができ」ることが記載されており、同【0059】の【表4】には、冷却開始温度を制御することにより、セメントクリンカ組成物に固溶しているSO_(3)の含有量(ss-SO_(3))を調節できることが記載されている。 また、原料の化学成分を分析し、各原料の配合量を調節することにより、セメントクリンカ組成物の「P_(2)O_(5)の含有量」及び「MgOの含有量」を調節できることは、当業者の技術常識である。 上記のとおり、本件明細書の記載及び技術常識から、当業者は、課題を解決するために「調整」すべき対象、及び課題を解決するための具体的手段を理解できるといえるから、上記異議申立人の主張は採用できない。 第5 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-02-20 |
出願番号 | 特願2015-55192(P2015-55192) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B) P 1 651・ 112- Y (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小川 武 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 永田 史泰 |
登録日 | 2016-04-28 |
登録番号 | 特許第5924436号(P5924436) |
権利者 | 住友大阪セメント株式会社 |
発明の名称 | セメントクリンカ組成物およびその製造方法ならびに中庸熱ポルトランドセメント組成物 |
代理人 | 大谷 保 |