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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1325899
異議申立番号 異議2016-701183  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-26 
確定日 2017-03-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第5945382号発明「窒化珪素質焼結体および耐摩耗部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5945382号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5945382号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成22年1月7日に特許出願され、平成28年6月3日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人畠明(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5945382号の請求項1及び2の特許に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
それぞれ3?6wt%のAl_(2)O_(3)とY_(2)O_(3)および窒化珪素からなる窒化珪素質焼結体において、
かさ密度が3.1g/cm^(3)以上であり、
平均結晶粒径が3μm以下であり、
窒化珪素質焼結体を鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がないことを特徴とする耐摩耗性に優れた窒化珪素質焼結体。
【請求項2】
窒化珪素質焼結体で形成された耐摩耗部材において、
請求項1に記載の窒化珪素質焼結体の表面を加工し転がり軸受け部材としたことを特徴とする耐摩耗部材。」

第3 申立理由の概要
1 申立理由1
申立人は、証拠として、次の甲第1号証?甲第6号証(以下「甲1」?「甲6」という。)を提出し、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
甲1:特開2001-122667号公報
甲2:特開2002-326875号公報
甲3:特開2000-319071号公報
甲4:特開昭61-106479号公報
甲5:特開2003-232743号公報
甲6:特開2009-287985号公報
要すれば、本件発明1及び本件発明2は、甲1に記載されている発明(以下「甲1発明」という。)及び甲2?甲6に記載されている事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであることを主張している。

2 申立理由2
申立人は、以下の点で、本件発明1及び2は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
(1)本件発明1に「窒化珪素質焼結体を鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」と記載されているが、本件明細書の発明の詳細な説明には「板厚0.2mm(200μm)の窒化珪素質焼結体サンプルにハロゲン光を透過した際の欠陥およびスノーフレークの有無」についてしか記載されておらず、実施例や比較例で観察された欠陥やスノーフレークについてもどのくらいの深さで観察されたものであるか何ら記載されていない。

(2)本件明細書の発明の詳細な説明では「板厚0.2mmにスライス、研磨して」となっており、スライス(切断)した上で研磨しているため、表面から0.2mm(200μm)付近にあった欠陥や白色斑点(スノーフレーク)は研磨により削除されている。

以上のことから、本件発明1の「表面から250μmの深さまで10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ことが、本件明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。

3 申立理由3
申立人は、以下の点で、本件発明1及び2の記載は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことから、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
(1)本件発明1には「10μm以上の欠陥」および「20μm以上の白色斑点」が記載されているが、それぞれの数値が何の長さを示す数値であるかが、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず不明であることから、本件発明1及び2は明確ではない。

(2)本件発明2は「耐摩耗部材」(物の発明)であるが、「請求項1に記載の窒化珪素質焼結体の表面を加工し転がり軸受け部材とした」というその物の製造方法が記載されており、当該記載に不可能・非実際的事情が存在すると認めることはできないことから、本件発明2は明確でない。

第4 甲号証の記載事項
1 甲1について
(1)甲1の記載事項について
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、甲1発明の認定、判断等に関連する箇所として当審が付与したものである。
(甲1ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、窒化珪素質焼結部材とそれを用いて構成されるセラミックボール、ボールベアリング及びセラミック摺動部品に関する。
【0002】
【従来の技術】窒化珪素質セラミック部品は高強度で耐摩耗製に優れていることから、近年、工作機械やコンピュータのハードディスクのベアリングに採用されたり、あるいは高温耐食性を利用して半導体装置の駆動部など、高温かつ腐食性の特殊環境中で使用されるベアリングや摺動部品、あるいはタペットなどの自動車用摺動部品等に使用されている。」
(当審注:「耐摩耗製」は「耐摩耗性」の誤記と認められる。)

(甲1イ)「【0013】ここで、結晶粒子の粒径分布が例えば正規分布のように平均粒子径を中心として左右対称に形成されている場合には、50%粒子径d50%は平均粒子径と等しくなる。一般的には、50%粒子径d50%は平均粒子径に近似した数値として与えられ、平均粒子径で置換することも可能であるが、両者の粒径分布における意義には若干の差異がある。すなわち、50%粒子径d50%は小粒径側からの相対累積度数で規定されるため、散発的に出現する大径の結晶粒子に影響されずに、よりシビアな範囲で調整される。これに対して、平均粒子径は対象となる全結晶粒子の平均であるため、散発的な大径粒子の影響を受けて相対的に大きめの範囲で調整されることとなる。」

(甲1ウ)「【0019】ところで、本発明の窒化珪素質焼結部材の研磨面は、算術平均粗さRaが0.012μm以下という極めて高精度の鏡面状態となるが、このことが研磨面の色調と相俟って、研磨面に存在する異物や欠陥の識別に好都合となる場合がある。これは、特にJIS-Z8721に規定された色の表示方法における明度をVSとしたときに、少なくとも研磨面表層部の外観において、明度VSが3.0?9.0となっている場合に著しい。
【0020】すなわち、窒化珪素質焼結部材の鏡面研磨面の外観明度をVSとしたときに、少なくとも表層部の明度VSが3.0?9.0とすることで、その表面、特に研磨表面の検査を行う際に、ポアやカケあるいはキレなどの欠陥と、これとは色調の異なる異物等とのいずれに対しても識別しやすい背景色調が実現され、自動外観検査機等による検査精度を向上させることができる。
【0021】つまり、セラミックス部品の研磨加工後の表面の金属異物やポア、キレ及び欠け等(これらを総称してポア等という)の欠陥を検査する際には、背景をなす母材と異物あるいはポア等の色差あるいは明度差により、これを識別することになる。具体的には、金属異物は実体顕微鏡あるいは金属顕微鏡の偏向観察等で黒色に近い色調にて観察され、また内部ポアおよびキレは白色に近い色調にて観察される。しかし、背景部分の外観明度VSが3.0?9.0であれば、金属異物やポア等が存在する部分において、背景色がそれらの中間色に近くなり、色調的に異なる異物及びポア等のいずれに対しても明確なコントラストが生ずるから、実体顕微鏡あるいは金属顕微鏡の偏向観察等により容易に判別検査することができる。」

(甲1エ)「【0023】ここで、明度VS及び彩度CSの測定方法については、JIS-Z8722「色の測定方法」において、「4.分光測色方法」の「4.3反射物体の測定方法」に規定された方法を用いるものとする。なお、該4.3に規定された条件a?dは、被測定面の形状に応じて最適のものを適宜選択する。例えば、後述するセラミックボールの研磨表面を測定面とする場合は、条件d(試料面の法線に対して光軸のなす角度が10°を超えない1つの光線束で試料を照明し、あらゆる方向へ反射する光を集積して受光する)を採用することが望ましい。ただし、簡略な方法として、JIS-Z8721に準拠して作成された標準色票との目視比較により、明度及び彩度を知ることもできる。」

(甲1オ)「【0025】次に、本発明の窒化珪素質焼結部材の少なくとも表層部の色調を、上記の明度VS(あるいは彩度CS)の範囲となるように調整する場合の具体的な方法として、遷移金属カチオンを0.1?3重量%の範囲にて含有させる方法を例示できる。遷移金属カチオンは、多くのセラミックス材料中にて色中心としてふるまうため、着色剤として機能する。遷移金属カチオンが0.1重量%未満では着色効果が不足する一方、3重量%を超えると逆に着色の度合いが強すぎ、いずれも明度VSが前記の範囲を外れてしまう不具合につながる場合がある。なお、本明細書において、「表層部」とは、部材表面からの厚さ(後述の鏡面研磨を行った後の状態が問題になる場合は、その鏡面研磨面からの厚さ)が500μmまでの領域をいう。」

(甲1カ)「【0056】なお、転動造粒法により得られた球状成形体80(図10)を焼成すれば、得られる球状セラミック焼結体は、図11に示すように、略中心を通る断面を研磨してこれを拡大観察したときに、その中心部に、成形核体に由来する核部91が、凝集層に由来する高密度で欠陥の少ない外層部92との間で識別可能に形成されることとなる。研磨された断面において、この核部91は、外側部との間に明るさ及び色調の少なくともいずれかにおいて目視識別可能なコントラストを呈することが多い。これは、外層部92を構成するセラミックの密度ρeが、核部91を構成するセラミックの密度ρcと異なるためであると推測される。例えば、成形核体50(図10)が凝集層10aよりも低密度の場合は、外層部92を構成するセラミックの密度ρeが、核部91を構成するセラミックの密度ρcよりも高密度となることが多く、外層部92は核部91よりも明るい色調で表れる。なお、外層部92の相対密度は、セラミックの強度や耐久性確保の観点から、95%以上、望ましくは99%以上となっているのがよい。いずれにせよ、研磨断面に上記のような組織の現われる焼結体構造とすることで、ベアリング等の性能向上の鍵を握る外層部92の欠陥形成割合が小さく(例えば、ポアが確認されない程度)、高密度で強度の高い球状セラミック焼結体が実現される。ただし、焼結体は、焼成が均一に進行した場合には、表層部から中心部半径方向において、ほぼ一様な密度を呈するものとなる場合もある。また、核部と外層部との間に色調や明度の差異が生じていても、密度の上ではほとんど差を生じていない、といったこともあり得る。」

(甲1キ)「【0060】なお、着色剤の配合あるいは炭素濃化層の形成により、窒化珪素質焼結部材の鏡面研磨面の外観明度VSを3.0?9.0とすることができる。着色剤としてTa、Co、TiあるいはFe等の元素成分を添加する場合、TaはTa_(2)O_(5)換算にて、CoはCoO換算にて、TiはTiO_(2)換算にて、FeはFe_(2)O_(3)換算にて、合計で0.1?3重量%の範囲で上記原料粉末中に配合する。この場合も、これら元素の酸化物粉末のほか、焼結により酸化物に転化しうる化合物、例えば炭酸塩(例えばCoCO_(3))や水酸化物等の形で配合してもよい。また、TiNなど、窒化物等の形での配合も可能である。」

(甲1ク)「【0062】なお、焼結体の表層部に炭素濃化層を形成する別の方法としては、焼結体の表面を炭素成分源物質にて覆い、その状態で加熱することにより炭素成分源物質の炭素成分を焼結体表面に拡散させる浸炭熱処理工程を行う方法を例示できる。この浸炭熱処理工程は、焼結が終了した後に別途行ってもよいし、焼結を2段階にて行う場合には、一次焼成が終了後に焼結体の表面を炭素成分源物質により覆い、次いで浸炭熱処理を兼ねる二次焼成を行うようにしてもよい。特に、均一でむらがなく、かつ明度VSを前述の範囲に調整しやすい観点において、後者の工程を採用することが望ましい。なお、この方法を、前記の着色剤を配合する方法と組み合わせることも可能である。」

(甲1ケ)「【0073】
【実験例】本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。まず、原料粉末の泥漿を、窒化珪素粉末(窒化珪素純度94重量%、平均粒子径0.2?2.0μm、90%粒子径0.4?3.0μm、BET比表面積値7?12m^(2)/g)94重量部、焼結助剤成分として、アルミナ粉末(平均粒子径0.4μm、BET比表面積値10m^(2)/g)3重量部及びイットリア粉末(平均粒子径1.5μm、BET比表面積値10m^(2)/g)3重量部に対し、溶媒としての純水50重量部を配合し、混合して調製した。なお、平均粒子径はレーザー回折式粒度計(堀場製作所(株)製、品番:LA-500)で、BET比表面積値はBET比表面積測定装置(ユアサアイオニクス(株)製、マルチソープ1
2)でそれぞれ測定した。
【0074】こうして得られた原料粉末の泥漿を、乾燥機等にて乾燥させ、金型プレス又は転動造粒により、直径3mmの球状の成形体Gを製作した。得られた成形体Gを、常圧の窒素雰囲気にて1500?1750℃で一次焼成した後、50?1000気圧の窒素雰囲気にて1600?1750℃で二次焼成し、焼結体としてベアリング用セラミックボール43を得た。なお、このセラミックボール43は、配合時の窒化珪素粉末の平均粒子径と焼成時の温度及び保持時間とを変化させてテスト用試料を作成した。なお、個々の試料の窒化珪素粉末の90%粒子径、BET値及び焼成条件とを表1に示す。」

(甲1コ)「【0076】次に、各セラミックボール43の表面を1/4μmのダイヤモンド固定砥粒で精密機械研磨し、JIS-B0601に基づき、Taylor Bobson社製タリロンド73Pを使用して、各セラミックボール43の上記研磨面の算術平均粗さRaを測定した。このときのカットオフ値は0.08mm、評価長さは0.4mmであった。次いで、メタン-酸素混合ガスを用いたプラズマにより試料表面をプラズマエッチングし、走査型電子顕微鏡(SEM)の二次電子線像観察及び写真撮影(倍率:約5000倍)を行った。そして、その写真を用いてラインインターセプト法により90%粒子径d90%及び50%粒子径d50%を算出した。具体的には、SEM写真上に複数の直線を描き、各結晶粒子を横切る直線部分の長さを粒子径として粒径分布を測定し、この粒径分布において小粒径側からの相対累積度数が90%となる粒子径を読み取って90%粒子径d90%を求めた。同様に、この粒径分布において小粒径側からの相対累積度数が50%となる粒子径を読み取って50%粒子径(メジアンともいう)d50%も求めた。そして、先に測定した算術平均粗さRaが0.012μm以下の場合はベアリング用セラミックボールとして使用可(○)、それ以外の場合は使用不可(×)として評価を行った。以上の実験結果を表2に、番号3のSEM写真を図7に示す。
【0077】
【表2】



(2)甲1発明について
ア 上記摘記(甲1コ)の【表2】から、焼結体の50%粒子径は0.34?1.30μm、90%粒子径は0.64?2.40μmである。

イ してみれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「窒化珪素粉末94重量部、焼結助剤成分として、アルミナ粉末3重量部及びイットリア粉末3重量部に対し、溶媒としての純水50重量部を配合した泥漿を、乾燥機等にて乾燥させ、金型プレス又は転動造粒により、直径3mmの球状の成形体を製作し、得られた成形体を、常圧の窒素雰囲気にて1500?1750℃で一次焼成した後、50?1000気圧の窒素雰囲気にて1600?1750℃で二次焼成した焼結部材であって、
50%粒子径が0.34?1.30μm、90%粒子径が0.64?2.40μmである耐摩耗性に優れている窒化珪素質焼結部材。」

2 甲2の記載事項について
甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は窒化けい素を主成分とする耐摩耗性部材およびその製造方法に係り、特に耐摩耗性部材を転がり軸受け部材とした場合において、優れた耐摩耗性、特に転がり寿命特性を発揮でき、耐久性に優れた転がり軸受け部材として好適な窒
化けい素製耐摩耗製部材およびその製造方法に関する。」

(甲2イ)「【0037】上記した窒化けい素焼結体の中心部Aの酸素濃度をC_(1)(質量%)、外周部Bの酸素濃度をC_(2)(質量%)としたとき、外周部Bの酸素濃度C_(2)は(C_(1)-2)?(C_(1)-0.2)の範囲、すなわち(C_(1)-2)≦C_(2)≦(C_(1)-0.2)<C_(1)を満足するものである。このような中心部Aと外周部Bの酸素濃度差(0.2質量%以上の濃度差)は、後に詳述する本発明の製造方法、すなわち窒化けい素の最終的な緻密化焼結が生じる温度に到達する以前に、ある程度の温度まで真空中で昇温すると共に、そのような温度で所定時間保持する工程を実施し、焼結体中の酸素やSiO_(2)などのガス成分を外部に向けて移動させ、さらには焼結体外に排出することにより達成されたものである。」

(甲2ウ)「【0077】次に脱脂処理された成形体を焼結する途中で焼成炉内を減圧する真空処理を実施する。
【0078】すなわち、0.01Pa以下の真空中にて1250?1600℃の範囲の温度まで昇温すると共に、この1250?1600℃の範囲の温度で0.5?10時間保持する。このような真空処理を実施することによって、焼結体中の酸素やSiO_(2)などのガス成分を外部に向けて移動させ、さらにはガス成分を外部に排出することができる。ガス成分の排出は特に外周部から生じるため、最終的に外周部の酸素濃度を低下させることが可能となる。」

3 甲3の記載事項について
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】(1)窒化けい素質焼結体からなり、(2)Al_(2)O_(3)2?5wt%、Y_(2)O_(3)3?8wt%を含有し、(3)Al_(2)O_(3)とY_(2)O_(3)の合計量が6?10wt%であり、(4)かさ密度が3.10g/cm^(3)以上、(5)ビッカース硬さが1300以上、(6)圧壊強度が400MPa以上、(7)メディアサイズがφ3mm以下であり、(8)メディアの円形度係数が0.9以上、であることを特徴とする窒化けい素質焼結体からなる無機系高機能材料のための原料粉砕・分散用メディア。
(当審注:上記(1)?(8)の数字は、原文では○数字である。)
【請求項2】(A)α相を60wt%以上含み、含有酸素量が2wt%以下、平均粒子径が2μm以下、比表面積が3m^(2)/g以上、純度97%以上の窒化けい素粉体に、Al_(2)O_(3)を2?5wt%、Y_(2)O_(3)を3?8wt%添加し、成形粉体を得、(B)得られた成形用粉体を湿式で成形し、(C)不活性ガス雰囲気中で1700?1900℃で5?10時間焼成し、(D)表面仕上げする、ことを特徴とする窒化けい素質焼結体からなる無機系高機能材料のための原料粉砕・分散用メディアの製造方法。」

4 甲4の記載事項について
甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4ア)「しかるに窒化ケイ素成形体を黒鉛材料からなる容器に直接装填し、前述した条件で焼成を行なった場合、下記の式で示される反応が生じて焼結体の表面あるいは前記容器の表面に炭化ケイ素が生成し、それが原因となって焼結体の強度低下や組成の変化に伴う変形、あるいは黒鉛容器の劣化などの問題が生じている。
SiO+2C→SiC+CO↑ ・・・(1)
Si + C→SiC ・・・(2)」(1頁右欄7?15行)

(甲4イ)「この発明の焼成容器は第1図に示すように、窒化ケイ素成形体1を入れる本体部2を、黒鉛からなる外層3、炭化ケイ素からなる中間層4、および窒化ケイ素からなる内層5の3層構造とするとともに、本体部2を密閉する蓋6も同様に、黒鉛からなる外層7、炭化ケイ素からなる中間層8、および窒化ケイ素からなる内層9の3層構造とした構成である。
上記の焼成容器を用いて窒化ケイ素成形体1を焼成する場合には、その成形体1を前記本体部2に入れて蓋6により密閉するとともに、内部をN_(2)ガス雰囲気とし、その状態で所定温度まで加熱昇温する。」(2頁左下欄3?15行)

5 甲5の記載事項について
甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5ア)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来例では、検査対象が鋼球であるために、照射光としてハロゲン光を用いることで十分であったが、特に窒化けい素を主体とするセラミックス製の転動体の場合、鋼球に比べて明度が低いために、前述したハロゲン光を用いると、セラミックス製転動体からの反射光の強度が弱くなるために、検査精度が低下する。」

(甲5イ)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明のセラミックス製転動体の検査方法は、請求項1に示すように、窒化けい素を主体とするセラミックス製の転動体に対してレーザ光を照射し、当該転動体から反射した反射光に基づいてセラミックス製転動体の外観を検査する方法であって、検査対象となる前記セラミックス製転動体について、日本工業規格(JIS)で定められる三属性の色の表示方法(JIS・Z8721)における明度が、7.20以下に設定されているとともに、前記レーザ光の波長が、610?750nmに設定されている。」

6 甲6の記載事項について
甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6ア)「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1の照射領域と第1の照射領域を含む第2の照射領域とにそれぞれ光を照射して第1の照射領域及び第2の照射領域から戻って来る射出光をそれぞれ受光し、第1の照射領域及び第2の照射領域へのそれぞれの照射光量I1及びI2と、第1の照射領域及び第2の照射領域から受光したそれぞれの前記射出光の射出光量O1及びO2とを求め、各照射領域についての前記照射光量と前記射出光量との比O1/I1及びO2/I2をα1及びα2としたときに、α2を反射率R、(1-α1/α2)を透明性Tとするか、又はα1を反射率R、(1-α2/α1)を透明性Tとして透明性を評価する方法であって、明度の異なる複数の較正用グレーチャートに光を照射したときの、該光の波長ごとの反射率Rc(λ)及び透明性Tc(λ)を求め、透明性Tc(λ)を反射率Rc(λ)の対数に対して直線回帰させたときの切片C0及び傾きC1(λ)を予め求めておき、透明性評価の対象部における第1の照射領域及び第2の照射領域にそれぞれ光を照射して得られる前記反射率R及び前記透明性Tから、下記式(1)で補正される透明性T’に基づいて評価する透明性の評価方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
T’(λ)=(T(λ)-Tb(λ))/(1-Tb(λ))・・・(1)
ただし、Tb(λ)=C0(λ)+C1(λ)×log(R(λ))である。」

(甲6イ)「【0015】
光源22が放つ光の波長には特に制限はないが、測定を対象の外観に対応させる場合には、可視光領域(波長360?740nm)を含む光を発光できるものであることが望ましく、さらに各波長のダイナミックレンジをそろえるためには白色光(可視光領域のすべての波長を概ね均等に含んだ光)を発光できるものが望ましい。光源22には、例えばキセノンランプが用いられる。また、特定の波長成分に着目する場合には、光源22と入射窓211との間に分光器を介在させ、その波長成分の光を入射できるようにすることができる。フォトクロミックな化粧品を塗布した肌を測定する等の場合は、光源に可視光に加え紫外線を含む光を発光できるものを用いてもよい。」

第5 申立理由についての判断
1 申立理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「アルミナ粉末3重量部及びイットリア粉末3重量部」は、本件発明1の「それぞれ3?6wt%のAl_(2)O_(3)とY_(2)O_(3)」を満たすものであるから、甲1発明の「窒化珪素粉末94重量部、焼結助剤成分として、アルミナ粉末3重量部及びイットリア粉末3重量部」である「耐摩耗性に優れている窒化珪素質焼結部材」は、本件発明1の「それぞれ3?6wt%のAl_(2)O_(3)とY_(2)O_(3)および窒化珪素からなる」「耐摩耗性に優れた窒化珪素質焼結体」に相当する。

(イ)甲1発明の「50%粒子径が0.34?1.30μm、90%粒子径が0.64?2.40μm」であることは、上記摘記(甲1イ)の記載を参酌するに平均結晶粒径が3μm以下を満たすことは明かであるから、本件発明1の「平均結晶粒径が3μm以下」に相当する。

(ウ)なお、かさ密度について、申立人は異議申立書で、
「一般的に、窒化珪素の理論密度は3.185g/cm3であり、アルミナ(Al203)の理論密度3.99g/cm3であり、イットリア(Y203)の理論密度5.03g/cm3であります。この値から甲第1号証の[実験例]に記載の「ベアリング用セラミックボール43」の理論密度を求めると、3.185×0.94+3.99×0.03+5.03X0.03=3.2645g/cm3となります。また、甲第1号証の段落[0074]の記載のとおり二次焼結温度を1600?1750℃にする場合、甲第1号証の段落[0055]、[0056]の記載からベアリング用セラミックボール43中にポア等の欠陥が存在しないことがわかるため、ベアリング用セラミックボール43の密度が理論密度の99%以上であることは明らかです。すなわち、ベアリング用セラミックボール43の密度は3.2645×0.99=3.231855g/cm3以上であります。従って、本件特許発明1における「かさ密度が3.1g/cm3以上である」構成は、甲第1号証の記載から導き出せる事項であります。」
と主張しているが、上記摘記(甲1カ)に「ただし、焼結体は、焼成が均一に進行した場合には、表層部から中心部半径方向において、ほぼ一様な密度を呈するものとなる場合もある。」と記載されている一方で、「成形核体50(図10)が凝集層10aよりも低密度の場合は、外層部92を構成するセラミックの密度ρeが、核部91を構成するセラミックの密度ρcよりも高密度となることが多く、外層部92は核部91よりも明るい色調で表れる。なお、外層部92の相対密度は、セラミックの強度や耐久性確保の観点から、95%以上、望ましくは99%以上となっているのがよい。」と記載されており、申立人が主張する「理論密度の99%以上」というのは外層部だけに該当することであり、セラミック焼結部材全体のものではない。
してみれば、甲1発明の窒化珪素質焼結部材のかさ密度が、必然的に3.1g/cm^(3)以上であるとまではいえないことから、かさ密度については本件発明1と甲1発明との一致点とすることはできない。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「それぞれ3?6wt%のAl_(2)O_(3)とY_(2)O_(3)および窒化珪素からなる窒化珪素質焼結体において、
平均結晶粒径が3μm以下である、
耐摩耗性に優れた窒化珪素質焼結体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1の窒化珪素質焼結体は、「窒化珪素質焼結体を鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ものであるのに対し、甲1発明の窒化珪素質焼結部材が、そのようなものかどうか不明である点。

(相違点2)
本件発明1の窒化珪素質焼結体のかさ密度は、「3.1g/cm^(3)以上」であるのに対し、甲1発明の窒化珪素質焼結部材のかさ密度が不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1について
上記第4の甲2?甲6の記載事項を参照するに、甲2?6のいずれにも、窒化珪素質焼結体について、「鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで」「20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ことが記載されておらず、それを示唆する記載もない。
してみれば、上記相違点1は、甲2?甲6の記載事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

(イ)相違点1に対する申立人の主張について
a 製造方法についての主張
申立人は、本件発明1の窒化珪素質焼結体が、本件明細書の【0032】?【0043】に記載されている方法により製造されている(以下「本件製造方法」という。)ところ、甲1と甲2?甲4に記載されている製造方法を組み合わせれば、実質的に本件製造方法となることから、この甲1と甲2?甲4に記載されている製造方法を組み合わせた製造方法によって製造された窒化珪素質焼結部材は、上記相違点1の構成を具備したものとなることを主張している。
本件製造方法と甲1発明の窒化珪素質焼結部材の製造方法(摘記(甲1ケ)参照。以下「甲1製造方法」という。)とは、少なくとも、本件製造方法が「成形体は、窒化珪素製焼成用容器内で、室温から1000?1250℃まで10^(-2)Pa以下の真空下で昇温され」(【0039】)、「成形体は窒化珪素製焼成用容器に入れて焼成する」(【0041】)のに対し、甲1製造方法は、そのように昇温、焼結するのか不明である点で相違している。
ところで、甲4には、上記摘記(甲4ア)及び(甲4イ)に記載のように、窒化ケイ素成形体を黒鉛材料からなる容器に入れて焼成することの問題を解決するために、黒鉛からなる外層、炭化ケイ素からなる中間層、および窒化ケイ素からなる内層の3層構造とする焼成容器で窒化ケイ素成形体を昇温、焼成することが記載されている。
一方、甲1発明の窒化珪素質焼結部材は、摘記(甲1ウ)に記載されているとおり、「窒化珪素質焼結部材の鏡面研磨面の外観明度をVSとしたときに、少なくとも表層部の明度VSが3.0?9.0とすることで、その表面、特に研磨表面の検査を行う際に、ポアやカケあるいはキレなどの欠陥と、これとは色調の異なる異物等とのいずれに対しても識別しやすい背景色調が実現され、自動外観検査機等による検査精度を向上させることができる。」ものでもあるところ、窒化珪素質焼結部材の鏡面研磨面の外観明度VSを3.0?9.0とするために、摘記(甲1キ)には「着色剤の配合あるいは炭素濃化層の形成」をすることが記載されており、炭素濃化層の形成の具体的方法として、摘記(甲1ク)には「焼結体の表面を炭素成分源物質にて覆い、その状態で加熱することにより炭素成分源物質の炭素成分を焼結体表面に拡散させる浸炭熱処理工程を行う方法」が記載されている。
してみれば、甲1製造方法において、窒化珪素質焼結部材への炭素の混入を抑制しなければならないものではないから、甲1製造方法における昇温、焼成を甲4に記載されている内層が窒化ケイ素からなる焼成容器で行うことの動機付けがあるとはいえない。
したがって、本件製造方法と甲1製造方法とのその余の相違点をについて検討するまでもなく、本件製造方法は甲1製造方法と甲2?甲4に記載されている製造方法から当業者が容易になしえたものとはいえない。
加えて、そもそも、表面から250μmの深さまで20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)を抑えるための製造方法が甲2?4に記載されていないのであるから、白色斑点(スノーフレーク)を抑えるという動機付けのもと、甲1製造方法に甲2?甲4に記載されている製造方法を組み合わせることはなく、仮に、甲1製造方法に甲2?甲4に記載されている製造方法を組み合わせたとしても、その組み合わせた方法によって製造された窒化珪素質焼結部材が、「鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで」「20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ものになるとは認識できない。
以上のことから、申立人が、本件明細書の【0032】?【0043】に記載されている方法は、甲1と甲2?甲4に記載されている製造方法を組み合わせた製造方法であるから、それによって製造された窒化珪素質焼結部材は、上記相違点1の構成を具備したものとなるとの主張は正当なものではない。

b 白色斑点(スノーフレーク)の確認についての主張
申立人は、摘記(甲1ウ)?(甲1オ)の記載から、「甲1号証に記載の窒化珪素質焼結部材が「表面から250μmの深さまで20μm以上mの白色斑点(スノーフレーク)」がない」構成を具備することは明かです。」と主張し、そして、甲5に窒化珪素質焼結体に500?800nmの波長のハロゲン光を照射すること、甲6には測定用光源として500?800nmの波長のハロゲン光を用いることが記載されていることを主張している。
しかしながら、摘記(甲1ウ)?(甲1オ)に記載されているのは、表層部(部材表面からの厚さが500μmまでの領域)に遷移金属カチオンを0.1?3重量%の範囲にて含有させることで明度VSを3.0?9.0に調整して、研磨加工後の表面の金属異物やポア、キレ及び欠け等(これらを総称してポア等という)の欠陥を検査することであり、「鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで」「20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ことは記載されておらず、それを示唆する記載もない。
さらに、甲5は、上記摘記(甲5ア)及び(甲5イ)に記載されているように、窒化けい素を主体とするセラミックス製の転動体に対して610?750nmのレーザ光を照射し、当該転動体から反射した反射光に基づいてセラミックス製転動体の外観を検査する方法であり、レーザ光を「透過」させて検査するものではなく、さらにハロゲン光を用いると反射光の強度が弱くなるために検査精度が低下すると記載されている。また、甲6は、上記摘記(甲6ア)及び(甲6イ)に記載されているように、可視光領域(波長360?740nm)を含む光を各照射領域に照射させて、その反射率から透明性を評価する方法である。
したがって、甲1の記載事項にこれら甲5及び甲6の記載事項をいかに組み合わせても、上記相違点1である「窒化珪素質焼結体を鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ことが導出されるものではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2?6に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用してさらに発明特定事項を追加した発明であるから、本件発明1が当業者が容易に発明することができたものとはいえない以上、本件発明2についても、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

2 申立理由2について
(1)本件明細書の発明の詳細な説明の【0043】に「本発明の実施例および比較例として、図5に示す各条件で窒化珪素質焼結体を焼成し、3/8インチ規格のベアリングボールを製作した。」と、【0046】に「これらのベアリングボールの特性、微構造観察び耐久試験結果を図6に示す。」と記載され、図6として、以下の図が記載されている、
【図6】

そして、発明の詳細な説明の【0027】には「図1は、本発明の窒化珪素質焼結体を板厚0.2mmにスライス、研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際の光学顕微鏡写真であり、スノーフレークや欠陥は観察できない。」と記載され、図1として、以下の図面が記載されている。
【図1】

ベアリングボールすなわち球状体を板厚0.2mmにスライスし、それに光を透過させて球状体の断面を観察するとすると、周辺部から中心部に向かう方向は、球状体の表面から中心に向かう深さ方向に他ならない。ここで、上記図1の上図を見ると「0.250mm」(250μm)の目盛りが記載されていることから、これは表面からの深さ方向として250μmの深さ方向の長さを表しているものといえる。そして、その図1の下図を見ると「0.010mm」(10μm)の目盛りが記載されていることから、上記図1の上図を拡大したものであり、これを見ると、0.010mm(10μm)以上のスノーフレークを確認することはできない。
してみれば、上記図6の結果より、本件発明1の「窒化珪素質焼結体を鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ことはサポートされているものであり、本件明細書の詳細な説明に記載されたものである。

(2)上記(1)に記載のとおり、「板厚0.2mmにスライス」する方向は、球状体の表面から中心に向かう深さ方向であるから、研摩される面は、深さ方向に平行といえる。
また、セラミックスにおける「鏡面研磨」とは、一般に、仕上面粗さが1μmRmax以下であり、さらに、荒研削した際の切り込みが20μm、中仕上げした際の切り込みが2?10μm程度であるという技術常識(例えば、齋藤肇監修「ファインセラミックスの活用・上」大河出版発行、昭和61年8月1日初版発行、第100頁参照)を参酌すると、鏡面研磨、あるいは、荒研削、中仕上げ後に鏡面研磨する場合であっても、表面から250μmの深さまでに存在する「10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)」が、その研磨により削除されるとはいえない。
してみれば、申立人が主張するように、研磨によって表面から0.2mm(200μm)付近にあった欠陥や白色斑点(スノーフレーク)が削除されているとはいえないことから、本件発明1の「表面から250μmの深さまで10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ことが、研磨による削除によって生じたものではことは明かである。

(3)小括
よって、本件発明1の「窒化珪素質焼結体を鏡面研磨して500nm?800nmの波長のハロゲン光を透過した際、表面から250μmの深さまで10μm以上の欠陥および20μm以上の白色斑点(スノーフレーク)がない」ことは、本件明細書の詳細な説明に記載されたものであるから、特許請求の範囲の記載は、本件発明1及び2について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

3 申立理由3について
(1)本件明細書の【0029】に「本発明において、欠陥の測定は、焼結体をダイヤモンド砥石および砥粒で鏡面にまで研磨し、SEMで1000倍の倍率で無作為に10カ所観察し、その観察した欠陥の最大サイズを欠陥サイズとした。また、スノーフレークは、同様に鏡面研磨した焼結体を500nm?800nmの波長のハロゲン光を用いて光学顕微鏡で100倍の倍率で、無作為に10カ所観察し確認されたスノーフレークの最大サイズとした。」と記載されており、本件発明1の「10μm以上の欠陥」および「20μm以上の白色斑点」について、前者は「焼結体をダイヤモンド砥石および砥粒で鏡面にまで研磨し、SEMで1000倍の倍率で無作為に10カ所観察し、その観察した欠陥の最大サイズ」であり、後者は「鏡面研磨した焼結体を500nm?800nmの波長のハロゲン光を用いて光学顕微鏡で100倍の倍率で、無作為に10カ所観察し確認されたスノーフレークの最大サイズ」と定義されるものであり、不明確とはいえない。

(2)本件発明2の「窒化珪素質焼結体の表面を加工し転がり軸受け部材とした」ことについて、本件明細書の【0043】?【0045】に「ベアリングボールとした場合には、真球度が0.05μm以下、表面粗さ(Rmax)を0.01μm以下にすることが容易である。本発明の実施例および比較例として、図5に示す各条件で窒化珪素質焼結体を焼成し、3/8インチ規格のベアリングボールを製作した。これらのベアリングボールは、・・・φ10mmの球を作製した。・・・。作製した球をそれぞれ研磨加工し、3/8インチ規格のベアリングボールとした。」と記載されている。ここで、ベアリングボールは転がり軸受け部材であり、本件発明2の「窒化珪素質焼結体の表面を加工し転がり軸受け部材とした」ことは、転がり軸受け部材の表面が粗さが小さいという構造若しくは特性を表していることが明かであるから、「窒化珪素質焼結体の表面を加工し転がり軸受け部材とした」との記載が不明確であるとはいえない。

(3)小括
よって、本件発明1及び2の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないことから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできず、さらに、請求項1及び2に係る特許が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、特許法第113条第4号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-08 
出願番号 特願2010-1660(P2010-1660)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
P 1 651・ 537- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 瀧口 博史
三崎 仁
登録日 2016-06-03 
登録番号 特許第5945382号(P5945382)
権利者 株式会社ニッカトー 株式会社ツバキ・ナカシマ
発明の名称 窒化珪素質焼結体および耐摩耗部材  
代理人 藤本 信男  
代理人 藤本 信男  

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