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審決分類 審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01S
審判 全部無効 2項進歩性  H01S
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  H01S
審判 全部無効 判示事項別分類コード:857  H01S
管理番号 1326152
審判番号 無効2013-800099  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-31 
確定日 2017-01-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3933592号発明「窒化物系半導体素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 平成28年9月8日付け訂正請求において、特許第3933592号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕、9について訂正することを認める。 特許第3933592号の請求項1ないし請求項9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 本件の概要及び経緯
1 本件の概要
本件は、請求人(日亜化学工業株式会社)が、被請求人(三洋電機株式会社)が特許権者である特許第3933592号(以下、「本件特許」という。特許登録時の請求項の数は8である。)の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

2 本件特許に係る出願及び訂正の経緯概要
本件特許に係る出願及び訂正の経緯概要は、次のとおりである。

平成14年 3月26日 特願2002-85085号(以下「先の出願」という。)
平成15年 3月19日 本件特許に係る出願(特願2003-74966号。先の出願に基づく優先権主張を伴う出願。以下「本願」という。)
平成19年 1月30日 特許査定
平成19年 3月30日 設定登録(特許第3933592号)
平成19年 6月20日 特許公報発行
平成23年12月26日 訂正請求(明細書(特許請求の範囲を含む))
平成26年 9月30日 上記訂正請求によりなされた訂正が確定

なお、本件特許については、本件請求人により、平成23年10月7日に、別件特許無効審判が請求され(無効2011-800202号、以下「別件無効審判事件」ともいう。)、当該別件無効審判事件において平成23年12月26日に明細書(特許請求の範囲を含む)の訂正が請求され、平成24年7月20日に訂正を認め、請求が成り立たない旨の審決がなされ、当該審決について審決取消訴訟が提起された(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10302号)が、平成25年11月14日に請求棄却判決が言い渡され、当該請求棄却判決について、上告がなされるとともに上告受理が申し立てられたが、平成26年9月30日に上告が棄却される(最高裁判所平成26年(行ツ)第44号)とともに本件を上告審として受理しない旨の決定がなされた(最高裁判所平成26年(行ヒ)第55号)。これにより、別件無効審判事件において平成23年12月26日になされた訂正請求により訂正された明細書(特許請求の範囲を含む)が確定した。

3 本件特許無効審判事件の経緯
本件特許無効審判事件の経緯は、次のとおりである。

平成25年 5月31日 特許無効審判請求書
平成25年 8月16日 審判事件答弁書
平成25年 9月25日 審理事項通知書(合議体)
平成25年11月13日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成25年11月13日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成25年11月27日 口頭審理(無効理由通知)
平成25年12月27日 意見書・上申書(請求人)
平成25年12月27日 意見書(被請求人)
平成25年12月27日 訂正請求書(その1)
平成26年 1月27日 手続補正書(訂正請求書の全文を補正)
平成26年 2月 5日 手続中止通知書(合議体)
平成26年11月10日 手続中止解除通知書(合議体)
平成26年11月21日 手続補正書(訂正請求書の全文を補正)
平成27年 4月13日 審判事件弁駁書
平成27年 7月28日 審決の予告
平成27年 9月28日 訂正請求書(その2)・上申書(被請求人)
平成27年10月26日 上申書(請求人)
平成27年12月25日 訂正拒絶理由通知書、職権審理結果通知書
平成28年 2月 3日 意見書(被請求人)
平成28年 7月 5日 審決の予告
平成28年 9月 8日 訂正請求書(その3)・上申書(被請求人)

平成25年12月27日付けの訂正請求書(その1)は、平成27年9月28日付けの訂正請求書(その2)が提出されたことにより、また、平成27年9月28日付けの訂正請求項(その2)は、平成28年9月8日付けの訂正請求書(その3)が提出されたことにより、それぞれ、取り下げられたものとみなされる(特許法第134条の2第6項)から、審理の対象となる訂正請求は、平成28年9月8日付け訂正請求書(その3)の訂正請求である。
また、上記2のなお書きに記載した最高裁判所の決定により別件無効審判事件における訂正請求を容認する審決が確定したことを受けて、本件における訂正請求の基準となる明細書が確定した。当該確定した明細書の特許請求の範囲は次のとおりである。
「【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。
【請求項2】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度が、1×10^(6)cm^(-2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項3】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である、請求項1または2に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項4】
前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が加工され、該加工により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項6】
前記第1半導体層のn型ドーパントが酸素であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項7】
前記第1半導体層の上面上に、Si、Se及びGeのいずれかがドープされたn型の窒化物系半導体層を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項8】
前記第1半導体層は、HVPE法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。」

第2 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第3933592号の請求項1乃至8に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、本件特許は無効とすべきものであると主張している。

1 証拠方法
請求人が提出した甲第1号証ないし甲第23号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲23」という。)は次のとおりである。

審判請求書に添付したもの
甲1:特許第3933592号公報(本件特許)
甲2:特開2000-349338号公報
甲3の1:報告書(平成25年5月14日付け、日亜化学工業株式会社 総合部門 法知本部 主幹技師 丸谷幸利(請求人従業者)作成)
甲3の2:陳述書(4)(平成23年6月13日付け、三洋電機株式会社 電子デバイスカンパニー 光エレクトロニクス事業部 フォトニクス技術部 レーザ技術課 畑雅幸(被請求人従業者:本件特許発明者)作成、本件審判の被請求人(三洋電機株式会社)を原告とし本件審判の請求人(日亜化学工業株式会社)を被告とする特許権侵害行為差止損害賠償等請求事件(東京地裁平成23年(ワ)第26676号)における甲14)
甲3の3:技術説明資料(平成25年4月16日付け、別件無効審判事件(無効2011-800202号)の審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10302号)の技術説明会において被告(本件審判の被請求人)が使用したもの)
甲4:特開2000-223790号公報
甲5:特開2000-340511号公報
甲6:特開2001-192300号公報
甲7:特開2001-148357号公報
甲8:特開2001-284736号公報
甲9:特開2002-43695号公報
甲10:特開2000-44400号公報
甲11:別件無効審判事件(無効2011-800202号)の平成23年12月26日付け訂正請求書

口頭審理陳述要領書(請求人)に添付したもの
甲12:安永暢男著、「はじめての研磨加工」、東京電機大学出版局、2011年4月20日第1版1刷発行、7頁?21頁
甲13:特開2002-76502号公報
甲14:特開2002-76519号公報
甲15:特開2000-216498号公報
甲16:特開2001-160539号公報
甲17:Masaru Kuramoto外9名,“Room-Temperature Continuous-Wave Operation of InGaN Multi-Quantum-Well Laser Diodes Grown on an n-GaN Substrate with a Backside n-Contact”,Japanese Journal of Applied Physics,15 February 1999,Vol.38,Part 2,No.2B,pp.L184-L186
甲18:特開2002-26438号公報
甲19:E.T.Yu and M.O.Manasreh,“III-V Nitride Semiconductors:Applications & Devices”,Taylor & Francis,2003,p.46-49,p.64-67
甲20:A.P.Zhang外7名,“Vertical and lateral GaN rectifiers on free-standing GaN substrates”,APPLIED PHYSICS LETTERS,3 SEPTEMBER 2001,Volume 79,Number 10,pp.1555-1557
甲21:Joon Seop Kwak外6名,“Crystal-polarity dependence of Ti/Al contacts to freestanding n-GaN substrate”,APPLIED PHYSICS LETTERS,12 NOVEMBER 2001,Volume 79,Number 20,pp.3254-3256

平成25年12月27日提出の上申書に添付したもの
甲22:技術説明資料(平成25年11月27日の口頭審理において請求人が使用したもの)

審判事件弁駁書に添付したもの
甲23:知的財産高等裁判所平成26年(行ケ)第10204号審決取消請求事件の判決(平成27年3月11日言渡)

2 審判請求書における主張の概要
請求人は、審判請求書8頁14行?20行の「III 無効審判請求の根拠」において、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明8」といい、本件発明1ないし本件発明8を総称して「本件発明」という。)は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである旨を主張し、審判請求書8頁21行?22頁下から4行の「IV 本件特許を無効にすべき理由」において、本件特許を無効にすべき具体的理由について述べており、そのうち、本件発明1についての主張は概ね次のとおりである(審決注:丸付き数字は「マル○」のように表記する。以下同じ。)。

「(1)本件特許発明
本件特許の各請求項に係る発明(以下、『本件特許発明1』などといい、総称して『本件特許発明』という。)は、本件特許第3933592号公報の各請求項に記載されたとおり、次の構成を有している(A,B等の符号は請求人が付した)。

【請求項1】
A.ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層と、
B.前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
C.前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
D.前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、
E.窒化物系半導体素子。
・・・(中略)・・・

本件特許発明は、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度を『1×10^(9)cm^(-2)以下』とすることにより、窒化物系半導体基板などの窒素面と電極とのコンタクト抵抗を低減する発明である(甲1の段落0013、段落0024、段落0025)。

(2)先行技術発明が存在する事実及び証拠の説明
本件特許の出願前に頒布された甲2には、次の記載がある。なお、下線部は、本件審判請求人による。
・・・(中略)・・・
以上の記載に基づき、甲2に記載された発明(甲2発明)を本件特許発明の構成要件に合わせて分説すると、次のとおりになる(a,b等の符号は請求人が付した)。

(甲2発明)
a.ウルツ鉱構造を有するn型のGaN結晶膜65と、
b.前記GaN結晶膜65の裏面上に形成されたn型電極74とを備え、
c.GaN結晶膜65は、全断面にわたって転位密度が2×10^(8)/cm^(2)以下となる低転位層である、
e.GaN系半導体発光素子。

(3)本件特許発明と先行技術発明との対比
ア 本件特許発明1(請求項1)について
(ア)一致点及び相違点
甲2発明の『GaN結晶膜65』は、本件特許発明1の『窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層』に該当し、甲2発明の『n型電極74』は、本件特許発明1の『n側電極』に該当する。
また、甲2発明ではGaN結晶膜が全断面にわたって転位密度が『2×10^(8)/cm^(2)以下』となる低転位層とされ、本件特許発明1では第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度が『1×10^(9)cm^(-2)以下』とされるが、『2×10^(8)/cm^(2)以下』に含まれる値は、『1×10^(9)cm^(-2)以下』にも含まれる。
また、甲2発明の『GaN系半導体発行素子』は、本件特許発明1の『窒化物系半導体素子』に該当する。
したがって、両者は、
『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下である、
窒化物系半導体素子。』
である点で一致し、次の点で相違する。
・相違点
本件特許発明1では、n側電極と第1半導体層との界面におけるコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であるのに対し、甲2発明では、n側電極74とGaN結晶膜65との界面におけるコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であるとは明記されていない点。

(イ)相違点についての判断
甲2には、GaN結晶膜65のキャリア濃度が『1×10^(18)cm^(-3)』であると開示されているところ(甲2の段落0212)、キャリア濃度が『1×10^(18)cm^(-3)』であるGaN結晶膜65のコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であることは、キャリア濃度が『1×10^(18)cm^(-3)』よりも低いGaN基板において『0.05Ωcm^(2)以下』よりも遥かに小さいコンタクト抵抗が得られている本件特許明細書の記載を正しいとする限り(甲1の段落0054における表1の試料4の欄を参照。)、甲2発明においても当然に達成されている。
また、本件特許明細書には、『0.05Ωcm^(2)以下』のコンタクト抵抗を得るにあたり、転位密度を『1×10^(9)cm^(-2)以下』とする以外に特別な設計条件が必要であるとの記載がないから、転位密度を『2×10^(8)/cm^(2)以下』とする以外に特別の設計条件を用いていない甲2発明においても、事実として、当然に『0.05Ωcm^(2)以下』のコンタクト抵抗が得られている。
さらに、甲3の1として提出するとおり、甲2発明のコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であると仮定すると、レーザ素子の発振閾値電圧は249V程度になってしまうが、常識的に考えて、このような電圧でレーザ素子を発振させることはできないから(このような高電圧を引加すれば熱によりレーザ素子が破壊される。)、甲2発明のGaN結晶膜65においては、コンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』より遥かに低い値になっていると考えるのが当然である。
してみると、甲2発明において、n型電極74とGaN結晶膜65との界面におけるコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であることは、甲2に明記こそされていないものの、甲2発明に開示されたGaN結晶膜65の転位密度の値やキャリア濃度の値からして当然に達成されていることは明らかであり、少なくとも、常識的な駆動電圧を得るにあたり当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものに過ぎない。
・・・(中略)・・・

(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1?8は、甲2発明に基づいて当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(5)平成23年12月26日付け訂正請求書による訂正について
ア 経緯
本件特許権者は、特許無効審判事件(無効2011-800202号)にて訂正請求書(平成23年12月26日付け提出)を提出し、本件特許発明1(請求項1)と本件特許発明5(請求項5)とを訂正した(甲11)。
・・・(中略)・・・
しかしながら、たとえ本件訂正が認められたとしても、以下で述べるとおり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

イ 訂正の内容
本件訂正は、本件特許発明1(請求項1)及び本件特許発明5(請求項5)とをそれぞれ次のとおり訂正するものである(下線部は、訂正した箇所を示す。)。

【請求項1】
A.ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
B.前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
C.前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
D.前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、
E.窒化物系半導体素子。

【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が加工され、該加工により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。

以下、訂正された本件特許発明1、5をそれぞれ本件訂正発明1、5という。

ウ 本件訂正発明1、5と先行技術との対比
(ア)本件訂正発明1について
本件訂正発明1は、本件特許発明1(訂正前)において『窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層』とされていた構成が、『窒化物系半導体基板からなる第1半導体層』へと変更されたものであるところ、甲2発明の『GaN結晶膜65』は、本件訂正発明1の『窒化物系半導体基板からなる第1半導体層』に該当する。
よって、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものに過ぎない。
・・・(中略)・・・

(6)結語
以上のとおり、本件特許発明1?8並びに本件訂正発明1、5は、甲2発明に基づいて当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。」

3 口頭審理における請求人の主張の概要
平成25年11月13日付け口頭審理陳述要領書(請求人)における請求人の本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

「(1)平成25年9月17日付け審理事項通知書・・・で示された合議体の暫定的な認定および見解について

標記通知書において合議体が示されました暫定的認定および見解には、次の(マル1)?(マル5)の旨が含まれています。
(マル1)本件特許発明は、構成C(前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下である)が、課題解決手段の枢要部である(通知書7頁4行ないし12行)
(マル2)本件甲第2号証(以下『甲2』ということがある。)には、『甲2第一発明』と『甲2第二発明』が記載されている(『通知書』1アおよびイ)。
(マル3)『甲2第一発明』におけるGaN系半導体素子の作製法として『サファイア基板法』(『通知書』2頁16行)と『GaN基板法』(『通知書』2頁19行)が記載されている。
(マル4)『『甲2第二発明』を引用発明とする場合』、引用発明においては、GaN結晶膜の裏面を研磨する工程が存在しないので、ドライエッチングにより露出したGaN結晶膜の裏面の転位密度は、エピタキシャル成長したGaN結晶膜の低転位密度層の転位密度(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じかまたは同程度である。したがって、本件発明と甲2第二発明とは『n側電極との界面近傍における転位密度』において異ならず、両発明の相違点は、請求人が審判請求書で主張している相違点(=コンタクト抵抗の明記の有無)のみとなる(『通知書』5頁下10行ないし6頁5行)。
(マル5)しかしながら、『『甲2第一発明』を引用発明とする場合』には、(『サファイア基板法』、『GaN基板法』のいずれについても)『GaN結晶膜又はGaN基板にn側電極を形成する前に、該GaN結晶膜又はGaN基板の裏面を研磨する工程』が存在するから、当該研磨工程により、『GaN結晶膜又はGaN基板の裏面の転位密度』が『エピタキシャル成長したGaN結品膜の低転位密度層の転位密度(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)よりも増大していることは明らか』である。したがって、本件特許発明と『甲2第二発明』とは『n側電極との界面近傍における転位密度』において異なり(『相違点2』)、請求人は、この『相違点2』を看過している(『通知書』4頁下4行ないし5頁3行)。
請求人は、上記(マル1)ないし(マル4)の暫定的認定および見解につきましては、異存ございません。しかし、上記(マル5)につきましては、承服できません。以下に詳述するとおり、『『甲2第一発明』を引用発明とする場合』においても、『甲2発明』と『本件発明』における『n側電極との界面近傍における転位密度』は、(『サファイア基板法』、『GaN基板法』のいずれについても)相違せず、この点は、『本件特許発明』と『甲2第一発明』における『一致点』であります。なお、本件においては、以下の表のとおり、この点のみが争点になると理解しております。
・・・(表省略)・・・
以下、この争点を中心にして、合議体の暫定的見解に対する請求人の見解を述べます。

(2)甲2第一発明においても、構成Cが一致点であること
ア 本件特許発明1の構成Cに関する請求人の主張の概略
以下で詳述するとおり、合議体による『GaN基板法』及び『サファイア基板法』の認定自体から、また、甲2の記載自体から、本件特許発明1の構成Cは甲2第一発明との関係で一致点であることが明らかです。
また、このようになる理由は、甲2発明における『研磨』との用語が、本件明細書における『機械研磨』と『転位の除去』を含めた意味で使用されているためですが、この点についても、甲2に明記されています。
以下にこの2点について説明しますが、甲2における『研磨』の意味を明らかにすることは、以下の議論における先決問題といえるため、最初にこの点を説明し、続いて、この点も踏まえつつ、本件特許発明の構成Cが甲2第一発明との一致点であることを説明します。

イ 甲2発明における『研磨』の意味
(ア)『研磨』という用語が多義的であり、当該用語が使用されている文脈でその意味内容を判断しなければならないことについて
『研磨』という用語は、多義的な用語であり、それが使用される場面に応じて、様々な意味に使用されています。
この点は、例えば、2011年に発行された、研磨分野における教科書的な文献である永暢男著『はじめての研磨加工』(学校法人東京電機大学出版局発行、甲第12号証)に次のように記載されているとおりです。
『『研磨加工』は・・実はその定義はあいまいで、明確な規定はなされて
いないというのが実情といえる。利用分野や時代により、また人により
異なった捉え方がされている場合も多い』(同書第12頁、強調付加)
このように『研磨』との用語は、その定義があいまい(=多義的)であって、一義的な定義は存在しません。半導体レーザの分野における特許公報に限定しても、たとえば、次の(a)ないし(d)のようにそれぞれの文脈に応じた意味に使用されています(なお、これらの公報は、いずれも、本件出願前に公知であり、かつ、これらのうち(a)、(c)および(d)は、披請求人の出願に係るものです)。
(a)エッチングの意味で使用されている例(甲13:特開2002-76502号公報、出願人は被請求人)
『【0058】その後、n-GaAs基板1の裏面をエッチングにより研磨し、n-GaAs基板1の厚さを100μm程度とする。次いで、n-GaAs基板1の裏面に蒸着法によりn電極12を形成する。』ここでは、『研磨』という用語が、化学的要素を含む処理であるエッチング(etching)の意味で使用されています。
(b)CMP(化学機械研磨)の意味で使用されている例(甲14:特開2002-76519号公報、出願人は富士通)
『【0041】(2)-2化学機械研磨(chemica1 mechanical po1ishing:CMP)法を適用することに依り、基板11の裏面を研磨して厚さを100〔μm〕にする。』
ここでは、「研磨」という用語が、化学的要素と機械的要素を含む処理法であるCMPの意味で使用されています。
(c)ラッピングの意味で使用されている例(甲15:特開2000-216498号公報、出願人は被請求人)
『【0018】窒化物基板(6)の裏面を所定角度θだけ傾斜させる方法としては、例えば、先ず基板裏面をC面に形成した後、ラッピング装置などを用いてC面に対して斜め方向に研磨を施す方法が採用可能である。』
ここでは、『研磨』という用語が、ラッピング(lapping)、すなわち、本件明細書における『機械研磨』の意味で使用されています。
(d)表面を原子レベル(オングストローム(Å)のオーダ)で制御する処理の意味で使用されている例(甲16:特開2001-160539号公報、出願人は披請求人)
『【0081】上記のように第1GaN層4を成長させた後、図中のA-A線上の第1GaN層4を研磨して除去する。それにより、第1GaN層4において、サファイア基板1のC面から所定の方向(以下、オフ方向と呼ぶ)に所定の角度(以下、オフ角度と呼ぶ)Bだけ傾斜した面(以下、オフ面と呼ぶ)を露出させる。』
『【0082】以上のようにして、図1(c)に示すように、第1GaN層4にオフ面が形成されたGaNオフ基板25を作製する。この場合、GaNオフ基板25の表面、すなわち第1GaN層4のオフ面は、原子オーダの段差が形成されている。なお、図1(c)、図2(d)、(e)は原子オーダの段差を高さ方向に誇張して描いた模式図である。また、GaN第2バッファ層3におけるサファイア基板1付近で発生した転位が、GaN第2バッファ層3と第1GaN層4をc軸方向に伝播している。』
ここでは、『研磨』という用語が、表面を原子レベル(オングストローム(Å)のオーダ)で制御する処理の意味で使用されています。
このように、『研磨』という用語は、多義的な用語ですので、その技術的意義は、それぞれの文献における記載(文脈)に基づいて解釈することが必要となります(例えば、技術的範囲に関する判例ですが、東京高判平成13年4月25日(平成12年(ネ)第1266号(最高裁判所HP))を参照。)。
そこで、以下では、甲2における『研磨』の意味内容をその記載に基づいて説明します。

(イ)甲2の『研磨』の意味内容
a 甲2には、次の記載があります(下線部及び強調は、請求人によります。)。
・・・(中略)・・・
以上の記載のとおり、甲2では、『研磨』という用語を使用して、『サンドブラスト法』(段落【0182】)と、その後に行われるサファイア基板、下地結晶層、選択成長用マスク、GaNエピクキシャル層に至るまでを除去する『常法による研磨除去』(段落【0183】)の2つを開示しています。しかるところ、前者の『サンドブラスト法』は、基板を粗く削るという意味において、いわば本件明細書にいう『機械研磨』に相当するものであり、また、後者の『常法による研磨除去』については、『サファイア基板』や『下地結晶層』等を削るという意味において、本件明細書における『機械研磨』に該当したうえで、これに加えて、段落【0185】において『この領域を含む層領域(以下[高転位密度層]という。)を上記研磨の際に除去する」として、『転位』を除去する手段であることが明記されています。したがって、甲2における『研磨』が本件明細書における『転位の除去』(すなわち、新たな『転位』を発生させない除去手段)を含んでいることが明らかです。
このように、甲2における『研磨』との用語は、本件明細書の用語でいうところの、『機械研磨』とその後の転位の『除去』の2つの工程に対応していることが甲2に明記されています。
なお、上記における『高転位密度層』は結晶成長によって発生した『転位』ですが、このことは、『甲2の研磨が転位を除去する手段である』とする上記の結論にはまったく影響を与えません。また、甲2に記載されているのは、素子の性能に影響が生じないように、その原因となる『転位』が残ることを課題としている発明ですから、その発生原因にかかわらず、最終的に『転位』を残さないようにしていることも明らかです。現に、段落【0195】では裏面付近における高転位層の有無を比較しており(ここでは転位の発生原因を区別していません。)、その結果、A群ウェーハではGaN基板ウェーハ全断面にわたって低転位層となっていることを確認し、裏面付近に転位が無い方がよいと結論付けていますし、後述のとおり、甲2では、合議体が認定されている『GaN基板法』や『サファイア基板法』で用いられている『研磨』によって基板裏面に発生した『転位』の除去が行われています。
b また、甲2の段落【0200】には、次の記載があります。
・・・(中略)・・・
ここで、仮に、研磨したGaN基板の表面に『転位』が残っていれば、その上に形成した『DH構造』にも転位は引き継がれますので、得られたレーザの閾値電流は高くなっているはずです(甲2では転位密度が高くなると閾値電流が上がることが記載されています(甲2段落【0191】【0192】を参照)。)。しかしながら、上記段落【0200】では、『作製されたストライプレーザの閾値はバラツキが小さく良好なレーザ特性が得られた』と記載されていますので、甲2においては、研磨したGaN基板の表面に転位が生じていないことが明らかです。同様の例が段落【0201】にも記載されており、繰り返し甲2の『研磨』を行った面にDH構造を形成すれば良好なレーザ特性が得られることが記載されています。
この点からも、甲2の『研磨』が、本件明細書の用語でいうところの、『機械研磨』とその後の転位の『除去』の2つの工程に対応していることが示されています。

(ウ)小括
以上のとおり、甲2における『研磨』というのは、本件明細書の用語でいえば、『機械研磨』とその後の『除去』の2つの工程に対応します。このことは、甲2に明記されているところであって、疑問の余地がありません。

ウ 本件特許発明1の構成Cが甲2第一発明との関係で一致点であること
(ア)はじめに
合議体は、甲2第一発明に関して、これを『サファイア基板法』と『GaN基板法』とに大別したうえで、いずれにおいても、『GaN基板またはGaN結晶膜の裏面近傍は、n型電極の形成前までは低転位密度であるが、n型電極の形成時に研磨されるため、n型電極の形成後においては、もはや低転位密度ではないのではないか』とお考えのようです。
しかしながら、合議体の認定自体から、また、甲2の開示自体から、甲2第一発明では、『サファイア基板法』においてはもちろん、『GaN基板法』においても、n型電極の形成後においてGaN基板またはGaN結晶膜の裏面近傍が低転位密度になることが明らかです。
以下では、前述した甲2における『研磨』の意味も踏まえつつ、この点を説明いたします。

(イ)『サファイア基板法』と『GaN基板法』について
まず、議論の前提として、合議体が認定されている『サファイア基板法』と『GaN基板法』の工程を表にしてまとめますと、概略、以下のとおりになります。
この点は、通知書に記載された合議体の認定においても認められているものと思料いたしますが、念のために、このような認定が正しいことを示すために、甲2の記載に基づいて以下の工程を説明したものを本陳述要領書の別紙『甲2における『サファイア基板法』及び『GaN基板法』』として添付しますので、必要に応じご参照ください。
・・・(表省略)・・・
ここで、甲2第一発明が本件発明の構成Cと一致しているというためには、サファイア基板法の第3工程、あるいは、GaN基板法の第5工程における『研磨』によって、基板裏面の『転位』の除去がされていることが明らかにされる必要があります。
しかるところ、以下で説明するとおり、上記3つのいずれの『研磨』工程においても、基板裏面の『転位』が除去されているのですが、そのうちのGaN基板法の『第3工程』における『研磨』によって基板裏面の『転位』が除去されていることは、合議体の認定自体から異論のないところであると思われますので、最初にこの点を説明したうえで、争点であるサファイア基板法の第3工程、及びGaN基板法の第5工程における『研磨』もこれと同じ意味あること(すなわち、転位の除去をしていること)を説明します。

(ウ)GaN基板法の第3工程における『研磨』
まず、GaN基板法の第3工程における『研磨』については、合議体の認定自体から、これが本件発明の構成Cとの一致点てあることが明らかです。すなわち、合議体は、GaN基板法で用いられるGaN基板ウェーハについて、
『前記GaN基板法は、例えば、全断面にわたって低転位密度層となっているGaN基板ウェーハを用い、MOCVD法によりGaN基板側から・・・を順次形成して発光素子構造を形成し・・・』(通知書3頁6?7行)
と認定されていますが、この認定は甲2の記載に照らして正当な認定です。しかるところ、前記表から明らかなとおり、当該通知書で認定されているGaN基板法における『GaN基板ウェーハ』は、GaN基板法の第3工程後の状態にあり、第3工程で『研磨』されています(このことは、当該認定における『・・発光素子構造を形成し』がこれに続く第4工程に該当することからも明らかです。)。
このように、『研磨』されたGaN基板ウェーハが『全断面にわたって低転位密度層となっている』のですから、GaN基板法の第3工程における『研磨』を行うことで、GaN基板は、その裏面近傍を含む全断面にわたって低転位密度層[(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じか又は同程度:甲2の段落【0136】]になることは明らかです。通知書の前記認定も、このことを認める内容になっており、請求人としては、前述のとおり、甲2発明における『研磨』は本件明細書における『転位の除去』を含めたものであることから、当該通知書の認定はきわめて正当なものであると考えます。
以上のとおり、GaN基板法の第3工程における『研磨』を経たGaN基板が『転位』が除去された基板であることは、合議体におかれても異論のないところであると思料致します。
なおご参考までに申し添えると、甲2の発明者により、本件特許の出願前に発表された論文(甲17)は、GaN基板法に基づいて作製されたものですが、GaN基板の膜厚はLD構造成長前もn型電極形成後も同じ100μmと記載されていることから、第5工程の研磨は行われず、第3工程の研磨のみが行われていると理解されます。そして、ここには閾値電圧が10.5Vで閥値電流が144mAで発振するレーザ素子が記載されていますが、仮に、このレーザ素子の転位密度が高く、コンタクト抵抗が高いのであれば、このような電圧・電流ではレーザ発振をしません。このことからしても、GaN基板法において、研磨の際に、機械研磨により生じた転位を含む高転位密度層が除去されていることが裏付けられているといえます。

(エ)サファイア基板法の第3工程における『研磨』
次に、サファイア基板法の第3工程における『研磨』について説明します。前述のとおり、この点が構成Cとの一致点てあるかどうかは、本件の進歩性を検討するうえで、極めて重要な事実となります。
この点、サファイア基板法の第3工程における『研磨』は、GaN基板法の第3工程における『研磨』と同様に、『サファイア基板、下地結晶膜、マスク及びGaN結晶膜の一部』を加工対象とし、この加工対象を、共に、『研磨』という用語で表現される加工方法にて加工するものです。したがって、サファイア基板法の第3工程は、GaN基板法の第3工程における『研磨』と同じものです。この点け甲2の記載から明らかであり、本要領書に添付した別紙でも説明しておりますが、そもそも、GaN基板法におけるGaN基板は、サファイア基板法で得られたGaN結晶ですので、両者の『研磨』が同じ意味であることは当然です。
また、前述のとおり、甲2発明における『研磨』は『転位の除去』を含めたものですから、このように理解することは当然といえます。
したがって、サファイア基板法の第3工程における『研磨』は、GaN基板法の第3工程における『研磨』と同じ加工結果を有することになり、GaN基板は、その裏面近傍を含む全断面にわたって低転位密度層[(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じか又は同程度:甲2の段落【0136】]になります。
この点に関連してさらに付言しておくと、甲2の段落【0137】には、次の記載があります(下線部は、請求人によります。)。
『【0137】また、サファイア基板とマスクを含む下層領域を除去して好適なGaN結晶膜を得るためには、サファイア基板上へ形成するGaN結晶膜の膜厚は、20μm?1mmが好ましく、80μm?500μmがより好ましい。また、基板とともに除去する下部領域のGaN結晶膜の厚さは300μm以下が好ましく、5?150μmがより望ましい。
下地結晶層を形成している場合はサファイア基板等の除去とともに下地結晶層も除去することが好ましい。』
このように、甲2には、TEM等により転位の分布を測定したうえで(甲2段落【0119】?【0121】参照)、サファイア基板等を除去する際にはGaN結晶膜の裏面側を高転位密度層の厚み(せいぜい数十μm程度です。甲2の図10参照。)以上に除去(研磨)することが望ましいことが開示されています。つまり、甲2には、高転位密度層を十分に(完全に)除去すべきであることが明記されているといえます。そして、現に、甲2では、実際の作製例についてサファイア基板等を除去した後のサンプルを調査し、裏面付近に転位が残存していない方が良好な特性であったことを確認しています(甲2の段落【0193】?【0197】参照)。
このことからも、サファイア基板法の第3工程における『研磨』は、GaN基板裏面付近に転位を残さない加工方法であることが理解できます(GaN基板法の第3工程における『研磨』も同じです。)。

(オ)GaN基板法の第5工程における『研磨』
最後に、GaN基板法の第5工程における『研磨』について説明します。前述のとおり、この点が構成Cとの一致点であるかどうかも、本件の進歩性を検討するうえで、極めて重要な事実となります。
ここで、甲2第一発明は、GaN基板法の第5工程に関して、GaN基板法の第3工程やサファイア基板法の第3工程の場合と同様に、『研磨』という用語を使用しているところ、一つの明細書において同じ用語は同じ意味で使用されていると考えることが当然です(特許法施行規則様式29〔備考〕8項)。
また、GaN基板法の第5工程は、サファイア基板法の第3工程と同様に、n型電極を形成する直前の工程ですので、ここで求められる技術事項は等価といえます。さらに、前述のとおり、甲2における『研磨』は、転位を除去する加工方法であることが甲2に明記されています。
したがって、GaN基板法の第5工程における『研磨』によっても、GaN基板は、その裏面近傍を含む全断面にわたって低転位密度層[(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じか又は同程度:甲2の段落【0136】]になることが、甲2の記載自体に明らかに示されています。

(カ)補足
なお、上記の説明は、合議体が、甲2の段落【0195】で全断面の転位密度を調べたウェーハについて、GaN基板法の第4工程直後のもの(すなわち、第5工程の研磨や第6工程による電極が形成される前のもの)と理解されていると思われますので、その理解にしたがい記載しました。
この理解は、段落【0193】で検討されているレーザ素子は、1インチ(約2.5cm)直径のウェーハ(段落【0187】参照)をまずウェーハの中央部1cm直径を含む(段落【0193】参照)素子形成用の小片とその他の小片に分割してから、素子形成用の小片にのみGaN基板法の第5工程および第6工程を行うことで作製されたものであって、その他の小片は第4工程直後の状態にあることを前提にしていると思われます(1インチウェーハ全体について研磨及び電極形成がされているとすれば、段落【0195】のウェーハ(2)は第5、第6工程を経たウェーハになるはずです。)。しかし、この発光素子の作製プロセスを記載した段落【0189】にはそのような記載はなく、むしろ、1インチウェーハ全体を研磨し、電極を形成した後で、その一部をレーザ素子へ個片化していると理解する方が自然なように思われます。そして、そうであるとすれば、段落【0195】で全断面の転位が調べられたウェーハは、GaN基板法の第5工程および第6工程が行われた後に個片化されずに残された部分であると理解されます。
仮に、このように理解するのであれば、段落【0195】に記載されている『全断面にわたって低転位層』となっているのは、GaN基板法の第5工程における『研磨』後のGaN基板ということになりますので、この場合には、段落【0195】に記載されているのは、『第5工程』を経たGaN基板が、その裏面近傍を含む全断面にわたって低転位密度層[(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じか又は同程度:甲2の段落【0136】]になっていることとなり、本件の争点であるGaN基板法の第5工程の『研磨』が構成Cとの一致点となることが、甲2に明記されていることになります。
ただし、ウエーハ分割がいずれの工程後に行われたと理解しようとも、前記した内容に大きな差異は生じないものと考えます。

(キ)小括
以上のとおり、甲2第一発明では、サファイア基板法の第3工程における『研磨』、GaN基板法の第3工程における『研磨』、及びGaN基板法の第5工程における『研磨』のいずれによっても、GaN基板は、その裏面近傍を含む全断面にわたって低転位密度層[(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じか又は同程度:甲2の段落【0136】]になります(次表参照)。
・・・(表省略)・・・
したがって、合議体が通知書において相違点として挙げている本件特許発明1の構成C『前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり』は、甲2第二発明のみならず、甲2第一発明(サファイア基板法及びGaN基板法)についても一致点となります。

エ その他の主張の補足
(ア)本件特許発明1の構成Cの容易想到性
なお、本件特許発明1の構成Cは、たとえこれが相違点であると仮定しても(甲2における『研磨』が本件発明でいう『機械研磨等の粗い加工』の意味であると仮定しても)、当業者が容易に想到できた程度のものに過ぎません。
すなわち、甲2には、合議体が認定されたとおり、甲2第二発明として、『ドライエッチング』によりGaN基板の裏面を低転位密度にしたままこれにn型電極を形成する発明が記載されています。しかるに、甲2第二発明は甲2第一発明と同じ文献に記載されている発明であること、また、甲2は全断面にわたって低い転位密度の基板を得る発明であるところ、甲2第二発明における『ドライエッチング』は、『研磨(ここでは『機械研磨等の粗い加工』の意味として使用しています。)』と比較して、削るスピードでは劣るが、これよりもダメージを与えない方法(つまり、転位密度を増大させない方法)であることが周知であること、からすれば、甲2第一発明における『研磨(甲2でいえば『サンドブラスト法』等がこれに相当します。)』をしたうえで、その最終的な仕上げとして甲2第二発明に記載された『ドライエッチング』を適用することで、『裏面近傍を含む全断面にわたって低転位密度層[(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じか又は同程度:甲2の段落【0136】]』とすることは、極めて容易に想到されます(前述のとおり、甲2では『サンドブラスト法』と『常法による研磨除去』という2つの研磨工程を有することを記載していますので、当該『常法による研磨除去(の一部)』に代えて、よりダメージが少ないドライエッチングを適用するというだけのことです。)。そうであるとすれば、甲2第一発明に甲2第二発明の『ドライエッチング』を適用するなどして本件特許発明1の構成Cを想到することは、当業者が容易にできたことです。
また、GaN基板は、例えば段落【0186】では厚みとしては200μm程度ですから、必ずしもこれ以上に薄くして使用しなければならないというものではありません。そうであるとすれば、甲2第一発明において、前記したGaN基板法の第5工程(GaN基板ウェーハの裏面を『研磨』し、劈開可能な厚さに仕上げる工程)を省略して、200μm程度のままのGaN基板ウェーハに電極を付けることも可能です。そして、この場合のGaN基板ウェーハ裏面近傍の転位密度が『全断面にわたって低転位密度層となっている』ことは通知書に記載されているとおりです(通知書の3頁6?7行)。したがって、この点からも本件特許発明1の構成Cを想到することは容易です。
なお、基板を必ずしも薄くする必要がないことについては、例えば、被請求人の出願においても、120?200μmの基板を用いてエピタキシャル成長後に研磨を行わない態様の記載がありますし(甲18の段落【0077】?【0078】)、前述した甲2の発明者によって本件特許の出願前に発表された論文(甲17)では、100μm厚のGaN基板ウェーハを研磨することなく(前述した本件でいうGaN基板法の第5工程に相当するような工程を経ることなく)、厚膜のGaN基板ウェーハに直にn電極を付ける構成を開示しています。

(イ)本件特許発明1の構成Dの容易想到性
ここで、念のため、本件特許発明1の構成Dの容易想到性について付言しておくと、本件特許発明1の課題解決手段の枢要部は、本件特許発明1の構成Cであり、本件特許発明1の構成Dは、この構成Cにより必然的に導かれる構成です。したがって、GaN基板の裏面近傍における転位密度が本件特許発明1が規定する転位密度以下になっている甲2第一発明及び甲2第二発明においては、当然、コンタクト抵抗も本件特許発明1が規定する値以下になっていることがいえます。
事実、前述した甲2の発明者によって本件特許の出願前に発表された論文(甲17)には、閥値電圧が10.5Vで閥値電流が144mAで発振するレーザ素子が記載されており、このようなレーザ素子においては、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗が当然に実現されています。したがって、本件特許発明1の構成Dは、当業者が容易に想到できたものであることが明らかです。
なお、甲2第一発明に関して、合議体は、研磨されていないp型電極のコンタクト抵抗と研磨されたn型電極のコンタクト抵抗とを同じ値と仮定することについて疑問を持たれているようです(通知書6頁の『(2)甲3について』)。しかし、上記のとおり、甲2第一発明では、『研磨』に際して『除去』が行われ、この『研磨』に際して行われる『除去』によって機械研磨で生じた転位が除去されますから、『研磨』により転位密度が増大しません。したがって、甲2第一発明においては、本件特許発明1とは異なり、『研磨』の有無によって転位密度に違いは生じませんので、『研磨』の有無は上記仮定の成立に影響を与えません。
ちなみに、p型電極のコンタクト抵抗が0.05Ωcm^(2)程度というのは、半導体分野の総説(甲19)にも記載されている範囲の数値であり、それ自体、技術的に不合理なものではありません。

(ウ)小括
以上のとおり、本件特許発明1の構成Cは、甲2発明との関係において一致点であり、たとえ相違点であるとしても当業者が容易に想到できたものに過ぎません。また、本件特許発明1の構成Dは、当業者が容易に想到できる程度のものです。

(3)被請求人の平成25年8月16日付けの答弁書(以下、単に『答弁書』といいます。)について
被請求人は、答弁書において、『請求人の主張は全く理由がないものであり、本件特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件特許は無効にされるべきものではない』と主張しています(答弁書3頁『7.1 請求人の主たる主張』)。しかしながら、以下で述べるとおり、被請求人の主張がまったくの誤りであることは明らかです。以下、被請求人の答弁書に対する請求人の見解を述べます。

ア 本件特許発明について
被請求人は、答弁書において、本件特許発明は、『研磨』により『転位密度加増大した領域を除去するごとにより、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持った素子を実現したものである』と主張しています(答弁書3頁ないし4頁の『7.2 本件特許を無効にすべき理由に対して (1)本件特許発明について』)。
しかしながら、上記のとおり、本件特許発明1の構成Cは、甲2第一発明との関係において一致点であり、本件特許発明1の構成Dは、当業者が容易に想到された構成に過ぎません。また、本件特許発明が特定する程度の転位密度とコンタクト抵抗とを併せ持った素子は、甲2に開示されているもののほか、本件特許の出願前から広く実現されていたものに過ぎず(甲17、甲20、甲21)、本件特許の出願時において、すでに周知の技術でした。
したがって、上記被請求人の主張には理由がありません。

イ 甲2発明について
被請求人は、甲2発明では、n型電極を形成する際の『研磨』により転位密度が増大しているはずであるとして、本件特許発明1の構成Cが甲2に開示も示唆もされてないと主張しています(答弁書4頁ないし7頁の『7.2 本件特許を無効にすべき理由に対して (2)甲2発明について』)。
しかしながら、本件特許発明1の構成Cが甲2において開示ないし示唆されていることは上記のとおりですから、被請求人の主張には理由がありません。

ウ 本件特許発明1と先行技術発明との対比(一致点及び相違点の認定)について
被請求人は、本件特許発明1の構成Cが、甲2発明との相違点であり、この相違点について、本件特許出願時に公知であったという証拠は何ら示されていない、と主張しています(答弁書7頁ないし8頁の『(3)本件特許発明と先行技術発明との対比について ア 本件特許発明1について (マル1)一致点及び相違点の認定について』)。
しかしながら、本件特許発明1の構成Cが、甲2において開示ないし示唆されており、甲2第一発明及び甲2第二発明との関係で一致点であることは上記のとおりです。
したがって、被請求人の主張には理由がありません。

エ 本件特許発明1と先行技術発明との対比(相違点の判断)について
(ア)キャリア濃度に関する被請求人の主張について
被請求人は、『甲2には本件特許明細書で開示されたキャリア濃度が開示されているから、甲2発明では本件特許発明のコンタクト抵抗が当然に達成されている』という趣旨の請求人の主張に関し、『請求人が主張の根拠とする甲1の資料のコンタクト抵抗は、試料4では機械研磨により発生した転位を含打領域が除去され、転位密度が1×10^(6)cm^(-2)以下と非常に小さい値であるからこそ達成された値である』(答弁書8頁13行ないし8頁下5行)と主張しています。
これは、『研磨』により転位密度が増大すれば、キャリア濃度が低くなり、したがってコンタクト抵抗が高くなる、という趣旨の主張であると思いますが、上記のとおり、甲2第一発明では、『研磨』に際して『除去』が行われ、この『研磨』に際して行われる『除去』によって機械研磨で生じた転位が除去されますから、『研磨』により転位密度が増大しません。
したがって、被請求人の主張には理由がありません。

(イ)転位密度に関する被請求人の主張について
被請求人は、『甲2に、電極形成面であるGaN基板の研磨裏面近傍の転位密度が記載されていないことは、前述(2)のとおりであるから、請求人の主張は、その前提において誤りである』と主張しています(答弁書8頁下4行ないし9頁5行)。
しかしながら、上記のとおり、甲2には、電極形成面であるGaN基板の研磨裏面近傍の転位密度が開示ないし示唆されています(甲2の段落【0195】)。
したがって、被請求人の主張には理由がありません。

(ウ)p型電極のコンタクト抵抗に関する仮定
被請求人は、『披請求人が、甲3の2において、p型電極のコンタクト抵抗とn型電極のコンタクト抵抗が同じであると仮定したのは、請求人が販売している製品では、p型電極のコンタクト抵抗及びn型電極のコンタクト抵抗がともに販売製品として問題がない低い値になっているからである』として、請求人が、審判請求書において、p型電極のコンタクト抵抗とn型電極のコンタクト抵抗が同じであると仮定としたのは技術的に全く正当ではない、と主張しています(答弁書9頁6行ないし9頁最終行)。
しかしながら、上記のとおり、甲2第一発明では、『研磨』に際して『除去』が行われ、この『研磨』に際して行われる『除去』によって機械研磨で生じた転位が除去されますから、『研磨』により転位密度が増大しません。
したがって、甲2第一発明においては、本件特許発明1とは異なり、『研磨』の有無によって転位密度に違いは生じず、『研磨』の有無は上記仮定の成立に影響を与えませんので、被請求人の主張は誤りです。
なお、被請求人は、0.05Ωcm^(2)というコンタクト抵抗が販売製品として問題がある高い値であると主張しているようですが、これは、本件特許発明1が、0.05Ωcm^(2)というコンタクト抵抗を含んだ発明であることを失念した主張であると考えます。
・・・(中略)・・・

オ 本件特許発明2について
・・・(中略)・・・

カ 本件特許発明3ないし8について
・・・(中略)・・・

キ 本件訂正発明1、5と先行技術発明との対比について
被請求人は、本件訂正発明1が本件特許発明1を限定したものであるため当業者が容易に発明することができたものではない、と主張します(答弁書12頁(4)本件訂正発明1、5と先行技術発明との対比について)。
しかしながら、請求人は、被請求人が答弁書提出に際して、別件無効審判(無効2011-800202)との整合を図るべく本件特許発明1、5を本件訂正発明1、5のように訂正するものと考えていましたが、結局、被請求人は当該訂正を行いませんでしたので、本件訂正発明1、5を議論する実益はもはやなくなったものと思いますが、この点を措くとしても、上述のとおり、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、また、本件訂正発明1は、本件特許発明1における『窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層』を『窒化物系半導体基板からなる第1半導体層』に限定したものに過ぎません。
したがって、被請求人の主張には理由がありません。
また、被請求人は、サファイア基板の除去とGaN基板の厚み加工とは全く別の加工であり、サファイア基板の除去の際に行った研磨をGaN基板の厚み加工に転用することは通常考えられず、容易に想到し得るものではない、と主張します(答弁書12頁7行ないし13頁下7行)。
しかしながら、これまで述べてきたとおり、甲2においてサファイア基板の除去の際に行った『研磨』(サファイア基板法の第3工程)とGaN基板の厚み加工に用いる『研磨』(GaN基板法の第5工程)とは、少なくとも本件明細書における『機械研磨』と『除去』とを含む点において共通していますから、被請求人の主張には理由がありません。
さらに、披請求人は、『研磨は、粗さを変えて段階的に行うのが普通であり、先の研磨により生じた転位を含む裏面近傍の領域が後の研磨により除去されるとしても、本件訂正発明5の知見を知らなければ、当然に後の研磨により新たな転位が生じることになり、転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下にはならないから、請求人の主張は成り立たない』と主張します(答弁書13頁下6行ないし14頁8行)。
しかしながら、繰り返しになりますが、甲2においてサファイア基板の除去の際に行った『研磨』(サファイア基板法の第3工程)とGaN基板の厚み加工に用いる『研磨』(GaN基板法の第5工程)とは、少なくとも本件明細書における『機械研磨』と『除去』とを含む点において共通しています(なお、甲2が『サンドブラスト法』と『常法による研磨除去』という二段階の『研磨』を開示していることも前述のとおりです。)。したがって、この点でも、披請求人の主張には理由がありません。
なお、被請求人も認めるとおり、研磨により転位が生じることは、本件特許の出願時において公知ですから(甲3の3の16頁:『研磨により『転位』が生じることは知られている。』)、当業者であれば、先の研磨に続く後の研磨により新たな転位が生じ得ることは十分に理解しているのであり、かかる理解の下に、後の研磨により生じた新たな転位を含む転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下にすることは、極めて容易に想到されます。

(4)結語
以上のとおり、被請求人の主張には理由がなく、本件特許発明1の構成Cは、甲2発明との関係において一致点であり、たとえ相違点であるとしても当業者が容易に想到できたものに過ぎません。また、本件特許発明1の構成Dは、当業者が容易に想到できる程度のものです。
したがって、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、無効にされるべきものです。」

4 意見書における請求人の主張の概要
平成25年12月27日付け意見書(請求人)における請求人の本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

「(1)職権審理事項1、2の内容
第1回口頭審理(平成25月11月27日期日)にて通知された職権審理事項1、2は、次のとおりである。
・・・(中略)・・・
本件特許発明は、職権審理事項1、2が通知するとおり、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。以下では、本件特許発明の位置付けを確認したうえで、本件特許発明が、職権審理事項1、2が通知するとおり特許を受けることができないものであることを説明する。

(2)本件特許発明の位置付け
被請求人は、(1)転位密度の増大によってコンタクト抵抗が増大するという知見が本件特許発明により初めて見出されたものであり、(2)この知見を有していない公知技術では、研磨により生じた転位を含む領域を転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下になるまで除去することは困難であると主張しているので(答弁書の4頁など)、この点について最初に述べておく。
本件特許にかかる別件審決(無効2011-800202号及び無効2011-800203号)及びその審決取消訴訟判決(平成24年(行ケ)第100302号及び同100303号)からも明らかなとおり、本件特許出願前から機械研磨によって発生した結晶欠陥層を除去するために基板裏面をエッチング処理すること自体は広く行われていたことであって、この点については多くの公知例(周知例)が存在する。ただ、上記審決や判決によると、それらの公知例においては「転位」に着目した記載がないから、それらの公知例に記載されている「ダメージ層等の除去」と本件発明の「転位を含む領域の除去」とが同一とはいえないとのことであった。
この点の当否は措くとしても、本件特許発明の進歩性を検討する際には、以下の点については十分にご留意いただきたい。
すなわち、前述のとおり、本件特許出願前から機械研磨によって発生した結晶欠陥層を除去するために基板裏面をエッチング処理すること自体は広く知られていた。また、本件特許発明ではエッチング量を増やせば「転位を含む領域」は除去され、その結果、(多少の設計事項はあるとしても)コンタクト抵抗が低減するとの発明とされている。そうであるとすれば、本件発明とこれらの周知技術との差は、そこで行われる「エッチング」が転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下になるまで行われる除去かどうか、言い換えると、エッチング量が多いか少ないかというだけのことに過ぎない。しかも、本件特許明細書によれば、その実施例では、百数十μmの厚みを有する研磨済み基板の裏面を0.5μmや1μm程度除去するとされているのであり、この例に基づけば、転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下になるまで行われる除去とは、せいぜい、その除去量が基板の厚みに対して2、3%程度の除去に過ぎないのであって、エッチングとして通常行われることのないような量をいっているのではなく、仮に新しい点があるとすれば、「転位密度」という基準があるかどうかというだけである。
しかるところ、そのような公知例においても、エッチング量を数μm程度多くしてはならないなどということはなく、むしろ、百μm以上ある基板の裏面に発生した結晶欠陥層を除去するために、エッチング量を厳密に制御しなければならない理由はなく、また、製造過程において、逐一、機械研磨によってどの程度の厚みの結晶欠陥層が発生したのかを確認する術はないことからすれば、当該エッチングとしてはある程度余裕をもって行うことの方が常識的である。そして、そうであるとすれば、従来から行われていたエッチングによっても、事実としては、本件特許発明が実施されていた蓋然性は極めて高いと考えられるし、少なくとも、被請求人であっても、従来技術において、エッチング量を数μm程度増やすことが技術として難しいかといえば、これが容易であること(むしろ、設計的事項といってよいこと)は否定しないであろう。
このような状況において、公知例には「転位」を除去した記載がなく、本件特許発明が「転位密度」という新たな基準に基づいてエッチング量を調整するとの思想を提供したとして、本件特許発明に進歩性を認めるとすれば、これは、従来から行われていた蓋然性が高い技術について、突然、特許権侵害になることを認めることと同義といってよい。
この点、特許法は新しい「技術思想(発明)」に独占権を付与する制度であることは事実であるが、その一方で、そのような思想が意識されていたか否かとはかかわりなく、事実として行われていたことが立証された行為を含む発明に独占権が付与されることはない(新規性の欠如)。問題は本件のような進歩性の場合に、これを明示した証拠はないが事実としては行われていた蓋然性が極めて高い行為を含む発明について、技術思想を明示した証拠がないという理由のみで独占権を付与できるかであるが、新しい技術に独占権を付与するという特許制度の趣旨からすれば、これは否定されるべきは当然であって、少なくとも、そのような発明に進歩性が認められるためには、当該発明が従来行われた技術を含まないことについて、出願人(特許権者)がその主張立証責任を負担するというべきである。この点は、パラメータ特許に関して特許庁の審査基準が明記しているところであるが、その理は本件のような場合にも同様に当てはまる。
本件において、被請求人は、(1)転位密度の増大によってコンタクト抵抗が増大するという知見が本件特許発明により初めて見出されたものであり、(2)この知見を有していない公知技術では、研磨により生じた転位を含む領域を転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下になるまで除去することは困難であると主張し、本件特許発明の「転位」ないし「転位密度」との基準が新しいこと(公知例に明示されていないこと)を強調するが、要するに、本件発明の実体は、従来から広く行われていた機械研磨によって発生した「結晶欠陥層」(これは、前記審決や判決によっても、本件発明における「転位を含む領域」を含むかもしれないし含まないかもしれない。)を除去するためのエッチング量を多少増やした(あるいは、エッチング量についての基準を転位に求めた)というだけのことに過ぎない。
繰り返しになるが、本件特許発明に進歩性を認め独占権を付与するということは、従来から広く行われていた機械研磨によって発生した結晶欠陥層を除去するためのエッチング量を、せいぜい数μm増やすこと(正確には、従来技術でも行われていた蓋然性が極めて高い行為である)に独占権を付与するということであり、本件の結論の当否は、このことを是とするか否とするかにかかっている。
本件審理にあたっては、是非、この意味をご理解いただきたい。

(3)職権審理事項1について
甲2発明を甲2第一発明と甲2第二発明とに分けて意見を述べる。
ア 甲2第一発明について
甲2第一発明においては、GaN結晶膜がn型電極の形成前に研磨される(平成25年9月25日付け審理事項通知書1頁下から8行?3頁20行)。しかしながら、甲2の文脈上、甲2の「研磨」には本件特許発明でいうところの機械研磨と除去が含まれているから(請求人の口頭審理陳述要領書)、甲2第一発明においては、研磨によって転位密度は増大せず、n型電極が形成されるGaN結晶膜の転位密度は、2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下とされる。また、甲2第一発明において0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗が達成されていることは、GaN結晶膜のキャリア濃度に鑑みても明らかである(審判請求書15頁14?21行)。したがって、本件特許の請求項1、3ないし8に係る発明は甲2第一発明と同一の発明である。

イ 甲2第二発明について
甲2第二発明においては、GaN結晶膜がn型電極の形成前にドライエッチングされる(平成25年9月25日付け審理事項通知書3頁23行?4頁34行)。したがって、甲2第二発明においては、研磨によって転位密度は増大せず、n型電極が形成されるGaN結晶膜の転位密度は、2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下とされる。また、甲2第二発明において0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗が達成されていることは、GaN結晶膜のキャリア濃度に鑑みても明らかである(審判請求書15頁14?21行)。したがって、本件特許の請求項1、3ないし8に係る発明は甲2第二発明と同一の発明である。

ウ 小括
以上のとおり、本件特許の請求項1、3ないし8に係る発明は、甲2第一発明と同一の発明であるとともに、甲2第二発明と同一の発明でもある。したがって、請求項1、3ないし8に係る発明は、甲2第一発明と甲2第二発明のいずれに基づいたとしても、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。よって、本件特許の請求項1、3ないし8に係る発明について新規性が認められないとした職権審理事項1は正当である。

(4)職権審理事項2について
甲2発明を甲2第一発明と甲2第二発明とに分けて意見を述べる。
ア 甲2第一発明について
甲21には、GaNの機械研磨面がドライエッチ処理され、これによりその転位密度が10^(7)cm^(-2)より低くなることが明記されている(甲第21号証の訳文第2頁2行?3行、及び同頁6?7行を参照)。しかるに、甲2第一発明と甲21に記載された技術事項とは、ともに低い転位密度を達成する発明であるから(甲2の【0136】)、甲2第一発明に甲21に記載された技術事項を適用することには動機がある。また、n型電極の形成面を平滑にすることは甲2第一発明において好ましいことであるから、この点でも甲2第一発明に「平滑」な面を得る甲21に記載された技術事項を適用することには動機がある。したがって、甲2第一発明に甲21に記載された技術事項を適用して、研磨されたGaN結晶膜をドライエッチ処理し、その転位密度を研磨前の状態に戻し10^(9)cm^(-2)以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、甲2第一発明において、n型電極の形成面の転位密度を10^(9)cm^(-2)以下としたときに0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗が達成されることは、GaN結晶膜のキャリア濃度に鑑みても明らかである(審判請求書15頁14?21行) 。
さらに、平成24年(行ケ)10302号の判決34頁6?10行にも判示されているとおり、本件出願に係る優先権主張日当時、研磨前のGaN基板の転位密度は、1×10^(4)?10^(8)cm^(-2)程度であったことは、周知の技術である 。
よって、請求項1ないし8に係る発明は、甲2第一発明、甲21に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ 甲2第二発明について
前述のとおり、甲21には、GaNの機械研磨面がドライエッチ処理され、これによりその転位密度が10^(7)cm^(-2)より低くなることが明記されている(甲第21号証の訳文第2頁2行?3行、及び同頁6?7行を参照)。しかるに、甲2第二発明と甲21に記載された技術事項とは、ともに低い転位密度を達成する発明であるから(甲2の【0136】)、甲2第二発明に甲21に記載された技術事項を適用することには動機がある。また、n型電極の形成面を平滑にすることは甲2第二発明において好ましいことであるから、この点でも甲2第二発明に「平滑」な面を得る甲21に記載された技術事項を適用することには動機がある。したがって、甲2第二発明において、GaN結晶膜を直ちにドライエッチ処理することに代えて、まずはGaN結晶膜を機械研磨し、その後、研磨面をドライエッチ処理して、その転位密度を研磨前の状態に戻し10^(9)cm^(-2)以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、甲2第二発明において、n型電極の形成面の転位密度を10^(9)cm^(-2)以下としたときに0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗が達成されることは、GaN結晶膜のキャリア濃度に鑑みても明らかである(審判請求書15頁14?21行) 。
さらに、平成24年(行ケ)10302号の判決34頁6?10行にも判示されているとおり、本件出願に係る優先権主張日当時、研磨前のGaN基板の転位密度は、1×10^(4)?10^(8)cm^(-2)程度であったことは、周知の技術である 。
よって、請求項1ないし8に係る発明は、甲2第二発明、甲21に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ウ 小括
以上のとおり、請求項1ないし8に係る発明は、甲2第一発明、甲21に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとともに、甲2第二発明、甲21に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1ないし8に係る発明は、甲2第一発明と甲2第二発明のいずれに基づいたとしても、職権審理事項2が通知するとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明について進歩性が認められないとした職権審理事項2は正当である。

(5)訂正について
前述のとおり、甲第21号証には、GaNの機械研磨面がドライエッチ処理され、これによりその転位密度が10^(7)cm^(-2)より低くなることが明記されている(甲第21号証の訳文第2頁2行?3行、及び同頁6?7行を参照)。
したがって、たとえ請求項1ないし8に係る発明が訂正され、本件特許発明が「機械研磨」や「研磨により生じた転位を含む領域の除去」などという発明特定事項で限定されたとしても、職権審理事項1、2の結論に変わりはない。

(6)結語
以上のとおり、本件特許発明は、職権審理事項1、2が述べるとおり、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものである 。したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するものとして、速やかに無効にされるべきである。」

5 審判事件弁駁書における請求人の主張の概要
平成27年4月13日付け審判事件弁駁書における請求人の主張の概要は概ね次のとおりである。
「(1)はじめに
被請求人は、平成26年11月21日付手続補正書により補正された平成25年12月27日付訂正請求書(以下、単に『訂正請求書』という。)により、請求項1、5の訂正を請求している。
しかしながら、これらの訂正(以下、『本件訂正』という。)は、訂正要件に違反するから認められない。また、仮に本件訂正が有効であったとしても、本件訂正は平成25年11月27日付第1回口頭審理調書(以下、単に『第1回口頭審理調書』という。)にて通知された無効理由を解消させるものではないから、本件特許には依然として無効理由がある。
そこで、弁駁の趣旨で述べたとおりの審決を求める次第である。
以下、詳述する。

(2)本件訂正が訂正要件に違反していることについて
・・・(中略)・・・

(3)仮に本件訂正が有効であったとしても、本件特許には依然として無効理由があることについて
以上のとおり、本件訂正は訂正要件違反であり認められるものではない。しかしながら、仮に本件訂正が有効であったとしても、本件訂正は第1回口頭審理調書にて通知された無効理由を解消させるものではないから、本件特許には依然として無効理由がある。
以下、説明する。

ア 第1回口頭審理調書にて通知された無効理由
・無効理由1
『請求項1、3ないし8に係る発明は、審判請求書に提示された甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』
・無効理由2
『請求項1ないし8に係る発明は、審判請求書に提示された甲第2号証に記載された発明、甲第21号証に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』

イ 最終的に得られた生産物自体として本件訂正発明を認定する場合(上記(2)のイ参照)
本件において、『機械研磨』は製造方法中の一工程に過ぎず、機械研磨を経た後にエッチングで第1半導体層の一部を除去しようと、機械研磨を経ずにエッチングのみで第1半導体層の一部を除去しようと、最終的に得られる生産物自体に変わりはない。
したがって、最終的に得られた生産物自体として本件訂正発明を認定する場合、本件訂正発明は本件訂正の請求項1から8に係る発明と同一発明ということになる。
したがって、本件特許は無効理由1、2によって無効にされるべきである。

ウ 『機械研磨』を経てエッチングされた窒化物系半導体素子に限定して本件訂正発明を認定する場合(上記(2)のウ参照)
(ア)甲2第一発明に基づく新規性進歩性の欠如
『機械研磨』を経てエッチングされた窒化物系半導体素子は、甲2第一発明に基づき新規性進歩性が欠如するから、本件特許は無効理由1、2によって無効にされるべきである。
この点については、請求人が提出した平成25年12月27日付け意見書(以下、「請求人意見書」という。)の7頁、及び8頁から11頁を参照。

(イ)甲2第二発明に基づく進歩性の欠如
『機械研磨』を経てエッチングされた窒化物系半導体素子は、甲2第二発明に基づき進歩性が欠如するから、本件特許は無効理由2によって無効にされるべきである。
すなわち、甲2第二発明は、ドライエッチングされたGaN結晶膜にn型電極を形成する発明であるところ、甲21には『機械研磨→ドライエッチング』という工程が開示されているから、甲2第二発明の『ドライエッチング』を甲21に開示される『機械研磨→ドライエッチング』に替えて本件訂正発明となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。また、機械研磨とエッチングを併用して厚み加工することは本件特許の優先日当時における技術常識であるから(例えば甲6、甲20)、甲2第二発明の『ドライエッチング』を『機械研磨→ドライエッチング』に替えて本件訂正発明を想到することは設計事項に過ぎない(請求人意見書の9頁から10頁も参照)。
したがって、『機械研磨』を経てエッチングされた窒化物系半導体素子は、甲2第二発明に基づき進歩性が欠如しており、本件特許は無効理由2によって無効にされるべきである。

(ウ)被請求人が提出した平成25年12月27日付け意見書(以下、「被請求人意見書」という。)について
被請求人は、甲21にショットキー接触と開示されていることをもって、甲第2号証に記載された発明に甲21の技術事項を適用することには阻害事由があると主張している(被請求人意見書の11頁4行以下など)。
しかしながら、甲21には、ショットキー接触という結果だけでなく、ショットキー接触にある原因(AlN界面層の形成)も開示されているのであるから、当業者であれば、甲2に記載された発明に甲21の技術事項を適用するにあたり、当該原因に対処してAlN界面層を形成させない方法(電極材料やアニーリング条件を変えるなど)を適宜採用し、オーミック接触を得ることができる。
したがって、ショットキー接触は阻害事由にならない。
被請求人の主張によれば、当業者として、甲21に開示されたショットキー接触という結果は理解できるが、同じ文献に開示されたその原因や当該原因への対処方法は理解できない者を想定することになるが、当業者とは、
『本願の属する技術分野の出願時の技術常識を有し、研究、開発のための通常の技術的手段を用いることができ、材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮でき、かつ、本願発明の属する技術分野の出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができる者、を想定したものである』(御庁の『特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 新規性進歩性 2 進歩性』参照)
であるから、被請求人の主張はまったくの失当である。

(5)結語
以上のとおりであるから、弁駁の趣旨で述べたとおりの審決を求める。」

第3 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない」、「審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め(審判事件答弁書3頁1行?4行)、請求人の主張は、全く理由がないものであり、本件特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、本件特許は無効にされるべきものではないと主張している(審判事件答弁書3頁12行?15行)。

1 証拠方法
被請求人が提出した乙第1号証(以下「乙1」という。)は次のとおりである。

審判事件答弁書に添付したもの
乙1:別件無効審判事件の平成24年7月20日付け審決

2 審判事件答弁書における主張の概要
審判事件答弁書における被請求人の本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

「(1)本件特許発明について
本件特許発明は窒化物系半導体素子を対象とし、第1半導体層はn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなるのであり、n型の窒化物系半導体基板の裏面にn側電極が設けられている。このような構成の窒化物系半導体素子において、所定の転位密度及びコンタクト抵抗が本件特許発明の規定する数値を同時に満たすものは、本件特許出願以前に全く知られていなかった。本件特許発明は、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層を用い、第1半導体層の裏面上にn側電極を備えた窒化物系半導体素子において、初めて、n側電極との界面近傍における転位密度を低く抑え、かつ、コンタクト抵抗が低い素子を実現したのである。本件特許出願以前に低い転位密度と低いコンタクト抵抗を併せ持った上記素子が存在しなかったのは、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかを用いた窒化物系半導体素子を作製するためには、一定の厚さを有する基板の上に素子機能を有する半導体層を積層し、その後で、基板裏面を機械研磨して、基板裏面にn側電極を設けるが、実際には、機械研磨によって、n側電極との界面近傍における転位密度が増大し、また、転位密度の増大に起因してコンタクト抵抗が増大してしまうからである。本件特許発明は、このことを見出し、転位密度が増大した領域を除去することにより、低い転位密度と低いコンタクト抵抗を併せ持った素子を実現したものである。本件特許発明の知見を有していない公知技術では、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持った素子は実現できないのである。
そこで、本件特許発明では、上記素子の具体的な構成を、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有するとして特定したのである。

(2)甲2発明について
請求人は、甲2発明を
『a.ウルツ鉱構造を有するn型のGaN結晶膜65と、
b.前記GaN結晶膜65の裏面上に形成されたn型電極74とを備え、
c.GaN結晶膜65は、全断面にわたって転位密度が2×10^(8)/cm^(2)以下となる低転位層である、
e.GaN系半導体発光素子。』
と認定している。
審判請求書の『I 請求の理由の要約』(3頁、4頁)によれば、甲2の図11の製造方法により製造されたGaN系半導体装置の実施形態を引用発明とし、甲2発明の構成cは、甲2の段落【0136】の『このGaN結晶膜中の全転位の転位密度は2×10^(8)/cm^(2)以下であることが好ましく、1×10^(7)/cm^(2)以下であることがより好ましい。』との記載に基づくものとしている。しかしながら、段落【0136】の記載は、『GaN結晶膜中の全転位の転位密度が2×10^(8)/cm^(2)以下であることが好ましい』であり、『全断面にわたって』とは記載されていない。また、この記載中の『全転位』とは、甲2の段落【0135】、【0136】の記載から分かるように、GaN結晶膜をサファイア基板上に成長させる際に発生した、A転位やB転位を含むすべての転位のことであり、『全断面』を意味するものではない。さらに、甲2の段落【0136】に記載されている転位は、結晶成長の際に発生した転位であり、機械研磨により発生した転位ではない。したがって、請求人が構成cの根拠とする段落【0136】には、GaN結晶膜中の、結晶成長の際に発生したすべての転位の転位密度が2×10^(8)/cm^(2)以下であることが記載されているにすぎず、機械研磨により発生した転位を含めて『GaN結晶膜65は、全断面にわたって転位密度が2×10^(8)/cm^(2)以下となる低転位層である』は開示も示唆もされていない。
また、甲2において、『全断面』の記載があるのは、段落【0195】であるが、この段落は、段落【0187】?【0190】に記載された図11とは異なる製造方法いより作製された、半導体レーザの結晶成長用のGaN基板ウエーハの評価に関する記載である。そして、この段落【0195】には、『A群ウエーハではGaN基板ウエーハ全断面にわたって低転位層となっている』との記載はあるが、ここでの低転位層の『転位』も結晶成長の際に発生した転位のことであり、機械研磨により発生した転位ではない。したがって、甲2の段落【0195】にも、機械研磨により発生した転位を含めて、全断面に転位密度が2×10^(8)/cm^(2)以下とは開示も示唆もない。また、段落【0195】に、『A群ウエーハとB群ウエーハの差異について詳しく調べたが出来上がったレーザに関して特別な差異は見られなかった。そこで、DH構造エピタキシャル成長後のウエーハについて断面構造を調べてみた。』との記載があるように、『A群ウエーハではGaN基板ウエーハ全断面にわたって低転位層となっている』における全断面とは、出来上がったレーザでは特別な差異が分からなかったために、評価用にDH構造エピタキシャル成長をしたウエーハについて断面構造を調べてみた際のウエーハの断面であって、GaN基板の裏面上にn側電極が形成された出来上がったレーザにおけるGaN基板の断面ではない。
さらに、審判請求書の4頁において甲2発明として摘記された段落【0128】には、次の記載がある。
・<GaN系半導体装置の製造>として、
『【0128】次に、発光素子構造を形成した基板を研磨器にセットし、基板1、下地結晶膜2、マスク4及びGaN結晶膜の一部を研磨してn型GaN結晶膜65を露出させる。露出したGaN結晶膜の面、すなわちGaN系半導体発光素子裏面側にn型電極74を形成し、表面側にp型電極75を形成する(図11(d))。』
この記載によれば、甲2発明では、基板、下地結晶層、マスク、及びGaN結晶膜の一部を研磨することでGaN基板を作成し、露出したGaN基板の裏面にn型電極を形成している。そうすると、甲2発明では、研磨によって、GaN基板のn側電極との界面近傍における転位密度が増大しているはずである。
また、甲2の段落【0183】及び【0189】には、図11とは別の製造方法の説明として、次の記載がある。
・<異種基板の除去方法>として、
『【0183】以上のようにして反りが解除されたウエーハは、GaN成長面(ウェーハ表面)にて通常の研磨用重しに平らに張り付けることができ、サファイア基板、下地結晶層、選択成長用マスクを常法により研磨除去することができる。その結果、GaNエピタキシャル層のみからなるウェーハが得られる。実際には、選択成長用マスクが露出した時点からウエーハ全体の厚さをモニターしながらGaNエピタキシャル層に至るまで研磨を行った。』
・<青色半導体レーザの作製>として、
『【0189】図16に、GaN基板上に形成したDH構造を有する半導体レーザの共振器断面より見た構造断面図を示す。・・・次に、p型電極面で研磨用重しに貼りつけ、GaN基板を研磨し、劈開可能な厚さ(通常、60μm?100μm)に仕上げた後、チタンとアルミニウムからなるn型電極211を裏面に形成する。』
これらの記載においても、甲2発明では、サファイア基板、下地結晶層、選択成長用マスク、及びGaNエピタキシャル層の一部を研磨することで異種基板を除去したり、研磨により厚さ加工されたGaN基板の裏面にn型電極を形成している。すなわち、この場合においても、研磨によって、GaN基板のn側電極との界面近傍における転位密度が増大しているはずである。
また、甲2の実施例においては、『厚膜成長を行ったGaN結晶膜には、欠陥が非常に少なく、転位密度は10^(7)/cm^(2)程度であった。なお、転位密度は、透過電子顕微鏡を用い、膜表面付近の平面観察によって計測した。』(段落【0208】)、『この結晶の表面付近の層領域の転位をTEM解析したところ、・・・その層領域の全転位密度も1×10^(6)/cm^(2)程度にまで減少していた。なお、転位密度は、透過電子顕微鏡を用い、膜表面付近の平面観察によって計測した。』(段落【0226】)と、低い転位密度は、エピタキシャル成長により形成したGaN結晶膜の膜表面付近の転位密度のみが記載されているのであり、電極形成面である研磨されたGaN基板裏面近傍の転位密度は計測されていない。
以上のとおりであるから、請求人が認定する甲2発明の構成cは、甲2には開示も示唆もされていない。

(3)本件特許発明と先行技術発明との対比について
ア 本件特許発明1について
(マル1)一致点及び相違点の認定について
請求人は、・・・(中略)・・・と認定している。
しかしながら、そもそも、本件特許発明1は、
『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。』
であり、請求人は、本件特許発明1において、転位密度を特定している箇所が『前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍』であるということを看過している。そして、甲2では、電極が形成されるGaN基板の研磨裏面近傍の転位密度が増加しており、甲2には機械研磨により発生した転位を含めて『前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下』が記載されていないことは前示(2)のとおりであるから、本件特許発明1の「前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下」であることは甲2発明との相違点である。
そして、この相違点について、本件特許出願時に公知であったという証拠は何ら示されていない。本件特許発明1は、GaN基板の裏面を研磨すると転位密度が高くなり、コンタクト抵抗が高くなることを初めて見出し、コンタクト抵抗を低くするために研磨裏面近傍を除去して、n側電極との界面近傍の転位密度を上記所定の値にしたものであるから、当然に進歩性を有するものである。

(マル2)相違点の判断について
請求人は、・・・(中略)・・・と主張している。
しかしながら、請求人が主張の根拠とする甲1の試料4のコンタクト抵抗は、試料4では機械研磨により発生した転位を含む領域が除去され、転位密度が1×10^(6)cm^(-2)と非常に小さい値であるからこそ達成された値である。一方、甲2発明では、前示(2)のとおり、GaN基板裏面の研磨によって
発生した転位が残っており、転位密度が大きいのであるから、甲2発明においてコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であるということは言えず、請求人の主張は誤りである。

次に、請求人は、・・・(中略)・・・と主張している。
しかしながら、甲2に、電極形成面であるGaN基板の研磨裏面近傍の転位密度が記載されていないことは、前示(2)のとおりであるから、請求人の主張は、その前提において誤りである。

さらに、請求人は、・・・(中略)・・・と主張している。そして、請求人が249V程度の発振閾値電圧を計算した甲3の1では、n側コンタクト抵抗を本件特許発明1の上限値である0.05Ωcm^(2)と仮定し、p側コンタクト抵抗についても、被請求人が侵害訴訟において算出した甲3の2(平成23年の陳述書)と同じ手法という理由で、n側コンタクト抵抗と同じ0.05Ωcm^(2)と仮定して計算している。
しかしながら、被請求人が、甲3の2において、p側コンタクト抵抗とn側コンタクト抵抗が同じであると仮定したのは、請求人が販売している製品では、p側コンタクト抵抗及びn側コンタクト抵抗がともに販売製品としては問題がない低い値になっているからである。請求人は、甲3の1において、p側コンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)としているが、この0.05Ωcm^(2)という値は、機械研磨により発生した転位が完全には除去されていない時のn側コンタクト抵抗と同じ値である(甲1の段落0054の表1の試料3を参照)。一方、甲2発明では、p型GaNコンタクト層73のp型電極75と接触する部分は機械研磨されておらず、機械研磨による転位は全く存在していないのであり、p側コンタクト抵抗が0.05Ωcm^(2) というような高い値にはならない。すなわち、甲3の1において、発振閾値電圧が249V程度という非常に高い値になったのは、p側コンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)という甲2発明のp側コンタクト抵抗としてはあり得ない高い値に仮定したからであり、請求人の主張は技術的に全く正当でない。
以上のとおり、n側電極との界面近傍における転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とするとともに、n側電極との界面において0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する窒化物系半導体素子は公知ではないし、容易に想到できるものであるはずがない。」

3 口頭審理における被請求人の主張の概要
平成25年11月13日付け口頭審理陳述要領書(被請求人)における被請求人の本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

「(1)被請求人に対する審理事項1への回答
ア 審理事項通知書では、『甲2について』の〔甲2第二発明を引用発明とする場合〕において、『引用発明においては、GaN結晶膜の裏面を研磨する工程がありませんので、ドライエッチングにより露出したGaN結晶膜の裏面の転位密度は、エピタキシャル成長したGaN結晶膜の低転位密度層の転位密度(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じか又は同程度である可能性があります。そうだとすると、本件特許発明1と引用発明との一致点は、『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層と、前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、前記第1半導体層の前記n側電板との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下である、窒化物系半導体素子。』となり、相違点は請求人が審判請求書で主張する相違点と同じということになります。そして、被請求人は、答弁書において、甲2第二発明を引用発明とする場合の本件特許発明1と引用発明との対比及び判断を記載していませんので、引用発明が本件特許発明1の構成Cを備えていないということについての主張、立証が足りていないということになります。』と指摘されている。
しかしながら、審理事項通知書では、『ドライエッチングにより露出したGaN結晶膜の裏面の転位密度は、エピタキシャル成長したGaN結晶膜の低転位密度層の転位密度(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じか又は同程度である可能性があります。』と認定しているが、甲2には、ドライエッチングによる除去で残されたGaN結晶膜の裏面が低転位密度層であるとは記載されていない。このドライエッチングによる除去の一態様が記載された実施例2のGaN結晶膜65は、実施例1と同様の成長過程により形成されたものである(甲2の段落【0212】参照)。甲2の実施例1では、『厚膜成長を行ったGaN結晶膜には、欠陥が非常に少なく、転位密度は10^(7)/cm^(2)程度であった。なお、転位密度は、透過電子顕微鏡を用い、膜表面付近の平面観察によって計測した。』(段落【0208】)と記載されているように、GaN結晶膜のエピタキシャル成長の際に生成される転位が最も少ない膜表面付近の転位密度は10^(7)/cm^(2)程度であるが、それ以外の転位密度については記載されておらず不明である。したがって、実施例1と同様の成長過程で形成された実施例2についても、GaN結晶膜65の転位密度は実施例1の場合と同様に、膜表面付近では10^(7)/cm^(2)程度であるが、それ以外については不明である。通知書では、甲2第二発明について、『・・・研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して・・・』と認定しているが、甲2の段落【0217】には、GaN結晶膜65がどの程度除去されるかは記載されておらず、甲2第二発明におけるドライエッチングにより露出したGaN結晶膜の裏面の転位密度は不明である。そして、そもそも甲2発明の目的は、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくいGaN結晶膜上に半導体素子構造を形成することであるから、甲2発明の技術的意義は、半導体素子構造を形成するGaN基板の表面の転位密度を低減することにある。したがって、甲2では、n型電極の形成面であるGaN基板の裏面近傍の転位密度は全く考慮されておらず、また、記載もされていないのである。
以上のとおりであるから、甲2第二発明を引用発明とした場合についても、『前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であ』る本件特許発明1の構成Cは、本件特許発明1と甲2第二発明との相違点である。

イ 審理事項通知書では、『甲3について』の〔甲2第二発明を引用発明とする場合〕において、『この場合、GaN結晶膜の裏面は研磨されませんので、p型GaNコンタクト層上に形成されたp型電極のコンタクト抵抗がGaN結晶膜の裏面に形成されたn型電極のコンタクト抵抗と同じであるという仮定を置くことは妥当であるのかも知れません』と指摘されている。
しかしながら、前示(1)のとおり、甲2第二発明におけるドライエッチングにより露出したGaN結晶膜の裏面の転位密度は不明であるから、p型電極のコンタクト抵抗がGaN結晶膜の裏面に形成されたn型電極のコンタクト抵抗と同じであるという仮定を置くことはできない。また、そもそも甲3の1で用いられている甲2の段落【0191】の<レーザ特性>は、甲2の段落【0187】?【0189】に記載された方法により作製された半導体レーザの特性であり、甲2第二発明の半導体レーザは、上記の甲2の段落【0187】?【0189】に記載された方法により作製された半導体レーザとは全く別のものであるから、甲2には、甲2第二発明の半導体レーザの<レーザ特性>については全く記載がない。したがって、甲2第二発明の半導体レーザは発振したかどうか不明であり、また、発振したとしても、どのような発振をしたか全く不明である甲2第二発明の半導体レーザのコンタクト抵抗を、計算により求めることなどできる筈がない。
以上のとおりであるから、甲2第二発明を引用発明とした場合についても、『前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、』との本件特許発明1の構成Dは、甲2第二発明との相違点である。

ウ 審理事項通知書では、本件特許発明2ないし8について、『本件特許発明1が当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすれば、本件特許発明2ないし8の構成は、甲4ないし甲10も考慮すれば、当業者が容易になすことができた程度のものではないか、と合議体は考えます。』と指摘されている。
しかしながら、本件特許発明2は、第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度を1×10^(6)cm^(-2)以下と特定するものである。一方、甲2第二発明を甲2発明とした場合においても、前示(1)のとおり、GaN結晶膜65の膜表面付近の転位密度は10^(7)/cm^(2)程度であるから、GaN結晶膜65の裏面の転位密度は『1×10^(6)cm^(-2)以下』にはならない。したがって、本件特許発明2は、甲4ないし甲10を考慮したとしても、甲2発明に基づいて当業者が容易になすことができたものではない。

(2)被請求人に対する審理事項2への回答
ア 口頭審理において、甲2第二発明を引用発明とする無効理由が口頭で通知された場合には、本件特許発明と甲2第二発明との相違をより明確にするために、請求項1及び請求項5を以下のとおり訂正する用意がある。

(ア)訂正事項1
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。訂正箇所に下線を付す(以下同様)。
(本件訂正前)
「【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。」
(本件訂正後)
「【請求項1】
裏面側が研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。」(以下、「訂正発明1」という。)

(イ)訂正事項2
本件明細書の特許請求の範囲の請求項5を次のとおり訂正する。
(本件訂正前)
「【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が加工された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。」
(本件訂正後)
「【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が研磨され、該研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。」(以下、「訂正発明5」という。)

イ 訂正発明について
(ア)訂正発明1及び訂正発明5について
訂正発明1は、上記の訂正により、n型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層の裏面側が研磨されたものであることがより明確となる。すなわち、訂正発明1は窒化物系半導体素子を対象とし、第1半導体層は、その裏面側が研磨されたn型の窒化物系半導体基板からなるのであり、n型の窒化物系半導体基板の裏面上にn側電極が設けられている。このような構成の窒化物系半導体素子において、所定の転位密度及びコンタクト抵抗が訂正発明1の規定する数値を同時に満たすものは、本件特許出願以前に全く知られていなかった。訂正発明1は、裏面側が研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層を用い、第1半導体層の裏面上にn側電極を備えた窒化物系半導体素子において、初めて、n側電極との界面近傍における転位密度を低く抑え、かつ、コンタクト抵抗が低い素子を実現したのである。本件特許出願以前に低い転位密度と低いコンタクト抵抗を併せ持った上記素子が存在しなかったのは、裏面側が研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板を用いた窒化物系半導体素子を作製するためには、一定の厚さを有する基板の上に素子機能を有する半導体層を積層し、その後で、基板の裏面側を研磨して、基板の裏面上にn側電極を設けるが、実際には、研磨によって、n側電極との界面近傍における転位密度が増大し、また、転位密度の増大に起因してコンタクト抵抗が増大してしまうからである。訂正発明1は、このことを見出し、研磨によって転位密度が増大した領域を除去することにより、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持った素子を実現したのである。訂正発明1の知見を有していない公知技術では、裏面側が研磨されたn型の窒化物系半導体基板からなる素子において、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持ったものは実現できないのである。
そこで、訂正発明1では、上記素子の具体的な構成を、裏面側が研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有するとして特定したのである。
また、本件明細書には実施例として、第1半導体層を所定の厚さになるまで裏面側が加工された後、研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域を除去し、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とし、n側電極と第1半導体層との界面において0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗とする製造方法が具体的に開示されており、訂正発明5においては、窒化物系半導体素子がそのような第1半導体層を用いて作成されていることを表現するために、第1半導体層を所定の厚さになるまで裏面側が研磨され、研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域が除去されたことを特定したのである。

(イ)訂正発明1と甲2第二発明との対比判断
訂正発明1では、n側電極を形成する基板の裏面側が研磨されているのに対し、甲2第二発明では、研磨は行わずにドライエッチングによりGaN結晶膜の裏面側を除去しており、GaN結晶膜の裏面側を研磨する工程は存在しないから、n側電極を形成する基板の裏面側が研磨されていることも、訂正発明1と甲2第二発明との相違点である。そして、甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングによりGaN結晶膜の裏面側を除去することに技術的意義があるから、ドライエッチングに代えて、n側電極を形成する基板の裏面側を研磨することを適用できるはずがない。また、仮に甲2第二発明において、ドライエッチングに代えて、n側電極を形成する基板の裏面側を研磨するようにしたとしても、訂正発明1の知見を知らなければ、当然に研磨によってn側電極との界面近傍における転位密度が増大し、また、転位密度の増大に起因してコンタクト抵抗が増大してしまうことになるから、訂正発明1の低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持った素子は容易に想到できるものではない。したがって、訂正発明1は、甲2第二発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

(ウ)訂正後の請求項2ないし8に係る発明について
訂正後の請求項2ないし8は請求項1を引用するものであり、訂正発明1が、甲2第二発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、訂正後の請求項2ないし8に係る発明についても、甲2第二発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。」

4 意見書における被請求人の主張の概要
平成25年12月27日付け意見書(被請求人)における被請求人の本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

「(1)本件特許発明について
ア 本意見書と同時に提出した訂正請求書において訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明は、以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子
(ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く)。
【請求項2】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度が、1×10^(6)cm^(-2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項3】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である、請求項1または2に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項4】
前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項6】
前記第1半導体層のn型ドーパントが酸素であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項7】
前記第1半導体層の上面上に、Si、Se及びGeのいずれかがドープされたn型の窒化物系半導体層を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項8】
前記第1半導体層は、HVPE法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。

イ 本件特許発明1について
本件特許発明1は、上記の訂正により、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子が除かれたため、n型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層の、n側電極が形成される裏面側が機械研磨されたものであることが明確となった。すなわち、本件特許発明1は窒化物系半導体素子を対象とし、第1半導体層は、その裏面側が機械研磨されたn型の窒化物系半導体基板からなるのであり、n型の窒化物系半導体基板の裏面上にn側電極が設けられている。このような構成の窒化物系半導体素子において、所定の転位密度及びコンタクト抵抗が本件特許発明1の規定する数値を同時に満たすものは、本件特許出願以前に全く知られていなかった。本件特許発明1は、裏面側が機械研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層を用い、第1半導体層の裏面上にn側電極を備えた窒化物系半導体素子において、初めて、n側電極との界面近傍における転位密度を低く抑え、かつ、コンタクト抵抗が低い素子を実現したのである。本件特許出願以前に低い転位密度と低いコンタクト抵抗を併せ持った上記素子が存在しなかったのは、裏面側が機械研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板を用いた窒化物系半導体素子を作製するためには、一定の厚さを有する基板の上に素子機能を有する半導体層を積層し、その後で、基板の裏面側を機械研磨して、基板の裏面上にn側電極を設けるが、実際には、機械研磨によって、n側電極との界面近傍における転位密度が増大し、また、転位密度の増大に起因してコンタクト抵抗が増大してしまうからである。本件特許発明1は、このことを見出し、機械研磨によって転位密度が増大した領域を除去することにより、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持った素子を実現したのである。本件特許発明1の知見を有していない公知技術では、裏面側が機械研磨されたn型の窒化物系半導体基板からなる素子において、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持ったものは実現できないのである。
そこで、本件特許発明1では、上記素子の具体的な構成を、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有するとして特定し、さらに、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除いたのである。
また、本件明細書には実施例として、第1半導体層を所定の厚さになるまで裏面側が加工された後、機械研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域を除去し、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とし、n側電極と第1半導体層との界面において0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗とする製造方法が具体的に開示されており、本件特許発明5においては、窒化物系半導体素子がそのような第1半導体層を用いて作成されていることを表現するために、第1半導体層を所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、機械研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域が除去されたことを特定したのである。

(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証では、サファイア基板上に形成されたGaN結晶膜5、65は、段落【0205】及び【0211】に記載されているように、サファイア基板の(0001)面上に成長した膜である。サファイア等の種基板の(0001)面上にGaN膜を成長した場合、たとえば、甲第7号証の段落【0014】、【0035】?【0039】、図23に記載されているように、種基板を除去したGaN膜は、上面がGa終端面となり、下面がN終端面となる。すなわち、甲2第一発明、甲2第二発明における、サファイア基板の(0001)面上に成長したGaN結晶膜5、65は、上面がGa面(Ga終端面)であり、サファイア基板を除去することにより露出した下面がN面(N終端面)である。
甲2第一発明のサファイア基板法では、サファイア基板、マスク等を研磨により除去し、GaN結晶膜を露出させ、その露出したGaN結晶膜の面にn型電極を形成している。また、GaN基板法では、サファイア基板が除去された側の裏面を研磨してGaN基板を劈開可能な厚さに仕上げ、その研磨された面にn型電極を形成している。したがって、甲2第一発明では、サファイア基板法、GaN基板法のいずれにおいても、GaN結晶膜5、65の露出した下面(N面)にn型電極を形成しており、GaN基板の裏面であるN面にn型電極が形成された素子である。
また、甲2第二発明においても、研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、マスク等を除去して露出したGaN結晶膜65の下面(N面)にn型電極を形成しており、甲2第一発明と同様、GaN基板の裏面であるN面にn型電極が形成された素子である。

イ 甲2第一発明では、GaN結晶膜又はGaN基板にn型電極を形成する前に、該GaN結晶膜又はGaN基板の裏面を機械研磨する工程があり、該機械研磨により転位が発生して転位密度が増大しているが、甲第2号証のどこにもn型電極を形成するために機械研磨して露出したGaN結晶膜又はGaN基板の裏面近傍における転位密度が記載されていないことは、審理事項通知書4頁35行?5頁6行に記載のとおりである。また、甲2第一発明は、機械研磨で発生したGaN基板の裏面側の『転位』を除去した後に、n型電極を形成するものではない。
甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、マスク等を除去しており、本件特許発明の課題であるコンタクト抵抗の増大の原因となる『転位』は発生していない。
また、甲第2号証の段落【0175】には、マスクを選択エッチングで除いた場合、ウエーハ裏面にマスクの跡であるストライプ状の溝ができ、このような溝等があればゴミや汚れがつきやすく、かつ取りにくくなる場合もあるため、マスクを除去した後、裏面が平坦になるように研磨あるいは研削を行うことが好ましいと記載されている。この段落【0175】の記載は、機械研磨で発生する『転位』を除去するどころか、サファイア基板やマスクを除去する工程の最後に、『転位』が発生する機械研磨を行うことが好ましいという内容であり、むしろ、本件特許発明と逆の技術思想である。
したがって、甲第2号証には、機械研磨で発生した『転位』を電極形成前に除去し、低いコンタクト抵抗のn型電極を形成するという技術は全く開示も示唆もない。

(3)甲第21号証について
ア 甲第21号証には、以下のことが記載されている。
・GaN基板を使用する利点は、裏面n電極のデバイスを作製できることであり、活性層を含む素子構造は、通常、GaN基板のGa極性側に成長させるため、裏面オーミック電極はGaNのN極性側に形成する必要がある。本研究では、n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性に対する結晶極性(Ga極性、N極性)の影響を検討する。(3254頁左欄4行?6行、同欄23行?26行、同欄29行?31行参照)
・サファイア基板上に成長されたGaN層をサファイア基板から剥離して得たGaNウエハについて、Ga面とN面の両方を、機械研磨とドライエッチ処理し、Ga面及びN面ともに、代表的な転位密度を10^(7)cm^(-2)よりも低くしたあと、Ga面、N面のそれぞれに電極を形成した。(3254頁右欄3行?8行、同欄13行?15行、同欄24行?26行参照)
・それぞれの電極に対して高温でアニールを行い、I-V特性を測定したところ、Ga面上の電極では接触抵抗率は2×10^(-5)Ωcm^(2)のオーミックとなったが、N面上の電極ではショットキーダイオード特性が測定された。(3255頁左欄14行?25行、同頁右欄1行?5行、3256頁左欄5行?9行参照)
・まとめると、異なる極性を有する試料上に作製された電極の電気特性は大きく異なっており、n型GaNのGa面上の電極は高温でアニールするとオーミックとなったが、n型GaNのN面上の電極は同一のアニール条件でショットキーコンタクトを形成する。(3256頁右欄22?30行参照)
すなわち、甲第21号証には、裏面n電極が形成されるGaN基板のN面については、機械研磨とドライエッチングを行った後、電極を形成してもオーミック電極を形成することはできず、ショットキーコンタクトとなることが記載されているのであり、むしろ、GaN基板のN面に機械研磨とドライエッチングを行った後に電極を形成することを否定している文献である。
したがって、甲第21号証には、GaN基板のN面からなる裏面への電極形成前に、機械研磨とドライエッチを行い、低いコンタクト抵抗のn電極を形成する技術は全く記載されていない。
なお、甲第21号証の3255頁の図3には、500℃で30秒アニールした後のN面のI-V特性について記載されているが、0.1Vでの電流は1×10^(-5)Aであるから、抵抗Rは約10000Ωである。ここで、Ga面の接触抵抗率とn-GaNウエハの抵抗は十分小さいから、試料全体の抵抗Rは、ほとんどN面のコンタクト抵抗によるものである。甲第21号証では、N面に直径180μmの電極を形成(3256頁左欄3行参照)しているから、N面での接触抵抗率は約2.5Ωcm^(2)と計算される。すなわち、図3の500℃で30秒アニールした後の試料のN面では、0.05Ωcm^(2)以下の接触抵抗率は得られていないことは明らかである。また、甲第21号証の図2の500℃でアニールした場合についても、図3の500℃で30秒アニールした試料と同じ試料であるから、0.05Ωcm^(2)以下の接触抵抗率は得られていない。

イ 甲第21号証は無効審判事件(無効2011-800202)の甲17であり、この無効審判事件の審決取消訴訟である302号判決では、甲17(本件の甲第21号証)について、『原告は,・・・甲17には,エッチング除去した後の基板の表面の転位密度が10^(7)cm^(-2)よりも低かったこと,コンタクト抵抗が2×10^(-5)Ωcm^(2)であったことが記載されており,これらの内容は本件発明1と同内容であると主張する。しかし,甲17に記載された接触抵抗率は、Ga面(表面)についてのものであって、N面(裏面)に関するものではない。また、これらの文献には、結晶欠陥である転位についての記載はあるものの、研磨によって転位が生ずること、研磨によって生じた転位をエッチングによって除去することに関する記載はなく、そのような過程を経ることによってコンタクト抵抗が低下することに関する記載もない。したがって、これらの記載から、機械研磨で生じた『転位』を電極形成前にエッチングで除去することが記載されていると認めることはできない。』(36頁9行?20行)と判示している。
すなわち、甲第21号証に、機械研磨で生じた『転位』を電極形成前にエッチングで除去することが記載されていないことは、302号判決でも判示されており、これは上記アの記載とも一致している。

(4)無効理由1に対して
ア 本件特許発明1と甲2第二発明との対比判断
本件特許発明1では、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子が除かれているのに対し、甲2第二発明は、前記(1)エのとおり、「研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含む、GaN系半導体発光素子。」である。すなわち、甲2第二発明では、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造されているから、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子が除かれていることは、本件特許発明1と甲2第二発明との相違点である。また、甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングによりGaN結晶膜の裏面側を除去することに技術的意義があるから、ドライエッチングに代えて、n側電極を形成する基板の裏面側を研磨することを適用できるはずもない。
したがって、本件特許発明1は、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く点で甲2第二発明と相違するから、甲2第二発明と同一ではない。

イ 本件特許発明3ないし本件特許発明8について
請求項3ないし8は請求項1を引用するものであり、本件特許発明1が甲2第二発明と同一ではないから、本件特許発明3ないし本件特許発明8についても、甲2第二発明と同一ではない。

(5)無効理由2に対して
ア 本件特許発明1について
甲第2号証に記載された甲2第一発明及び甲2第二発明はいずれも、GaN基板の裏面であるN面にn電極が形成された素子である。一方、甲第21号証は、裏面n電極が形成されるn型GaN基板のN面に対して、機械研磨とドライエッチングを行っても低いコンタクト抵抗の電極を形成することはできず、ショットキーコンタクトとなってしまうことが記載されており、GaN基板のN面に機械研磨とドライエッチングを行った後に電極を形成するということを否定している。したがって、甲2第一発明や甲2第二発明のGaN基板の裏面(N面)に対して、甲第21号証の機械研磨とドライエッチングの技術を適用するための動機付けがない上に、大きな阻害要因が存在する。
また、甲第2号証には、電極形成前に機械研磨により発生した『転位』を除去して、コンタクト抵抗を低減するという技術思想(知見)は全くない。甲第21号証にも、GaN基板のN面(裏面)への電極形成前に、機械研磨とドライエッチを行い、低いコンタクト抵抗の電極を形成する技術は記載されておらず、機械研磨で生じた『転位』を電極形成前にエッチングで除去することが記載されていないことは、302号判決でも判示されている。したがって、本件特許発明の技術思想の根幹であるGaN基板の裏面への電極形成前に、機械研磨で発生した『転位』を除去して、低いコンタクト抵抗の電極を形成するという技術は、甲第2号証及び甲第21号証のいずれにも全く開示も示唆もない。
そして、302号判決では、『技術事項1』(研磨前のGaN基板の転位密度は,1×10^(6)cm^(-2)程度であったこと)、『技術事項2』(GaN基板を機械研磨すると,GaN基板内部に当業者が「ダメージ」等と呼称し,また,本件発明では『転位』と呼称されている,透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される結晶欠陥が生じること)、及び『技術事項3』(電極形成前に,『転位』(当業者がいう『ダメージ』等)の全て(少なくとも『大部分』。)をエッチングなどで除去すること(その結果,エッチング後の基板の転位密度が,元の転位密度に戻っていること))について、甲17(本件の甲第21号証)を含む証拠に対し、『以上によれば,原告の主張する技術事項2及び3については,周知の技術であったと認めることができない。』とし、かつ、以下のように判示している。
『また,仮に技術事項1ないし3がいずれも周知の技術であったとしても,引用発明において,GaN基板のn型電極との界面近傍における転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下になっているものとは認められない。
すなわち,前記第4の1(2)のとおり,本件発明の課題は,n型GaN基板の裏面を機械研磨することにより基板裏面近傍に発生した転位によって,基板裏面上に形成したn型電極とのコンタクト抵抗が増加することであって,その解決手段は,ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層(GaN基板)のn側電極との界面近傍における転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とすることである。
・・・
また,技術事項1ないし3に関して原告が提出した各証拠にも,本件発明の上記課題やその解決手段については何ら記載も示唆もされていない。
以上のとおり,引用例や原告が提出した上記各証拠には,GaN基板を機械研磨することにより発生する『転位』によって,n電極とのコンタクト抵抗が増加するという課題の認識はなく,その転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下にするという技術思想もないのであるから,転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下にするような転位の除去を行う動機付けは開示されておらず,仮に,技術事項1ないし3が周知技術であったとしても,引用発明に技術事項1ないし3を適用することにより,GaN基板のn型電極との界面近傍における転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下になっているということはできない。』(37頁15行?38頁15行)
すなわち、甲第2号証や甲第21号証においても、GaN基板を機械研磨することにより発生する『転位』によって、n電極とのコンタクト抵抗が増加するという課題の認識はなく、その転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下にするという技術思想もないのであるから、転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下にするような転位の除去を行う動機付けは開示されておらず、仮に、技術事項1ないし3が周知技術であったとしても、甲2第一発明や甲2第二発明に技術事項1ないし3を適用することにより、GaN基板のn型電極との界面近傍における転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下になっているということはできないのである。

以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第2号証、甲第21号証及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができものではない。

イ 本件特許発明2ないし本件特許発明8について
請求項2ないし8は請求項1を引用するものであり、本件特許発明1が、甲第2号証、甲第21号証及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし本件特許発明8についても、甲第2号証、甲第21号証及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)むすび
以上述べたとおり、平成25年11月27日付け無効理由通知の無効理由に理由はなく、本件特許に無効理由は存在しないから、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めるものである。」

5 上申書における被請求人の主張の概要
平成27年9月28日付け上申書(被請求人)における被請求人の主張は概ね次のとおりである。

「5 上申の内容
被請求人は、平成27年7月28日付け審決の予告を受けて、以下のとおり上申する。

5.1 審決の予告について
平成27年7月28日付け審決の予告の内容は、概ね以下の(1)及び(2)のとおりである。
(1)『第5 訂正請求についての当審の判断』の『2 訂正の可否に対する判断』について
・・・(省略)・・・
(2)『第6 本件発明に対する当審の判断』について
審決の予告では、本件訂正の請求は認められなかったので、本件発明1ないし本件発明8は、本件訂正前の特許請求の範囲に記載されたものと認定した上で、本件発明1と甲2第二発明とは、
『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下である、
窒化物系半導体素子。』
で一致し、
相違点:『前記n側電極と前記第1半導体層との界面』における『コンタクト抵抗』が、本件発明1では、『0.05Ωcm^(2)以下』であるのに対し、甲3第一発明(被請求人注:『甲2第二発明』の誤記と認められる。)では、0.05Ωcm^(2)以下であるかどうか不明である点
で相違すると認定している。そして、甲2第二発明において第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下となすことは、発明を実施する際に当業者が適宜なし得る程度の、いわゆる設計的事項であるから、甲2第二発明において、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下となすこと、すなわち、相違点に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易になし得たことであると判断している。
(3)手続違背について
特許無効審判における訂正の請求を規定する特許法第134条の2第5項では、『審判官は、第一項の訂正の請求が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず、又は第九項において読み替えて準用する第百二十6条第5項から第七項までの規定に適合しないことについて、当事者又は参加人が申し立てない理由についても、審理することができる。この場合において、当該理由により訂正の請求を認めないときは、審判長は、審理の結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならない。』と規定している。また、工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第19版](乙第2号証)には、特許法第134条の2の解説において、[参考]<従来の訂正における拒絶理由の運用の問題>として、次の記載がある。
『訂正拒絶理由通知に関する165条は、従来から特許無効審判における訂正請求に準用されていたが、本来査定系審判である訂正審判に関する規定であるため、訂正請求が不適法である理由が職権で発見されたものであるか、或いは審判請求人が申し立てたものであるか否かに拘わらず、常に審判長が訂正請求をした特許権者にその旨通知し、相当期間を定めて意見書を提出する機会を与えることとしていた。
しかし、当事者系の特許無効審判においては、審判請求人が、訂正請求における訂正が不適法であることを主張することがある。その場合においては、その主張に対して被請求人に答弁機会が与えられるから、審判長がさらに同一の訂正拒絶理由について通知をし、答弁機会を付与すると、同一の論争を再度繰り返すこととなり、不必要に審理を長期化させる原因となっていた。また、165条は、職権審理を当然の前提とする訂正審判の規定であるため、特許無効審判における訂正請求の適法性についての職権審理の根拠条文とはなり得ず、従来、無効審判における訂正拒絶理由の職権審理の根拠は必ずしも明らかではなかった。』(400頁?401頁)
この記載によれば、職権審理の結果とは関係なく、請求人が、訂正請求における訂正が不適法であることを主張した場合には、その主張に対して被請求人に答弁の機会が与えられるとされている。
本件では、審決の予告における訂正請求に対する審判合議体の判断は、請求人が平成27年4月13日付け弁駁書で主張した、訂正請求における訂正が不適法であるとした訂正拒絶の理由に基づくものである。そして、審決の予告に記載された訂正拒絶の理由は、審決の予告が届くまで被請求人に提示されていないから、特許法第134条の2第5項に基づいて訂正拒絶理由が通知されるべきものであった。また、審判合議体においても、審決の予告の『エ PBPクレームとしてみた場合の明確性について』(イ)において、『被請求人は、本件の審理において、本件特許について、不可能・非実際的事情が存在する旨の主張をしておらず、非請求人のすべての主張に鑑みても、そのような事情の存在を認めるべき根拠を見出すことはできない。』と説示しているとおり、被請求人が審決の予告に記載された訂正拒絶理由に対する意見を述べていないことは認識していたと解される。しかるに、本件では、訂正拒絶理由が通知されることなく審決の予告がなされたため、被請求人は、審決の予告に記載された訂正拒絶理由に対する意見を述べることができなかったのである。訂正拒絶理由が通知されていれば、被請求人は本上申書と同様な内容の意見を述べることができたのであり、その後たとえ審決の予告がなされたとしても、その審決の予告には被請求人の意見に対する判断が記載されたいたはずであるから、被請求人は、その審判合議体の判断を参酌した上で、訂正を行うことができたのである。したがって、今後、仮に審決の予告と同様な内容の審決がなされるとしたも、審決の前に被請求人には再度訂正の機会が与えられるべきであると思料する。

5.2 本件訂正発明について
(1)本上申書と同時に提出した訂正請求書において訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された発明は、以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子
(ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く)。
【請求項2】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度が、1×10^(6)cm^(-2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項3】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である、請求項1または2に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項4】
前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項6】
前記第1半導体層のn型ドーパントが酸素であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項7】
前記第1半導体層の上面上に、Si、Se及びGeのいずれかがドープされたn型の窒化物系半導体層を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項8】
前記第1半導体層は、HVPE法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項9】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有し、
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする、窒化物系半導体素子。
なお、本件訂正は、本件訂正前の請求項1?4の記載を引用する請求項5を、請求項2?4の記載を引用する新たな請求項5と、請求項1の記載を引用しない独立形式の新たな請求項9とにすること以外は、平成25年12月25日付け訂正請求書による訂正(以下、「前訂正」という。)と同じ内容のものである。

(2)本件訂正発明について
本件訂正発明1は、本件訂正により、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子が除かれたため、n型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層の、n側電極が形成される裏面側が機械研磨されたものであることが明確となった。すなわち、本件訂正発明1は窒化物系半導体素子を対象とし、第1半導体層は、その裏面側が機械研磨されたn型の窒化物系半導体基板からなるのであり、n型の窒化物系半導体基板の裏面上にn側電極が設けられている。このような構成の窒化物系半導体素子において、所定の転位密度及びコンタクト抵抗が本件訂正発明1の規定する数値を同時に満たすものは、本件特許出願以前に全く知られていなかった。本件訂正発明1は、裏面側が機械研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層を用い、第1半導体層の裏面上にn側電極を備えた窒化物系半導体素子において、初めて、n側電極との界面近傍における転位密度を低く抑え、かつ、コンタクト抵抗が低い素子を実現したのである。本件特許出願以前に低い転位密度と低いコンタクト抵抗を併せ持った上記素子が存在しなかったのは、裏面側が機械研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板を用いた窒化物系半導体素子を作製するためには、一定の厚さを有する基板の上に素子機能を有する半導体層を積層し、その後で、素子の劈開、分離のために所定の厚さになるまで基板の裏面側を機械研磨して、基板の裏面上にn側電極を設けるが、実際には、機械研磨によって、n側電極との界面近傍における転位密度が増大し、また、転位密度の増大に起因してコンタクト抵抗が増大してしまうからである。本件訂正発明1は、このことを見出し、機械研磨によって転位密度が増大した領域を除去することにより、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持った素子を実現したのである。本件訂正発明1の知見を有していない公知技術では、裏面側が機械研磨されたn型の窒化物系半導体基板からなる素子において、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持ったものは実現できないのである。
そこで、本件訂正発明1では、上記素子の具体的な構成を、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有するとして特定し、さらに、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除いたのである。
また、本件明細書には実施例として、第1半導体層を所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨された後、機械研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域を除去し、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とし、n側電極と第1半導体層との界面において0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗とする製造方法が具体的に開示されており、本件訂正発明5及び9においては、窒化物系半導体素子がそのような第1半導体層を用いて作成されていることを表現するために、第1半導体層を所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、機械研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域が除去されたことを特定したのである。

5.3 訂正請求について
(1)本上申書と同時に提出した訂正請求書では、以下の訂正事項1ないし訂正事項3からなる訂正を請求した。
ア 訂正事項1
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。
(本件訂正前)
『【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。』
(本件訂正後)
『【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子
(ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く)。』
イ 訂正事項2
本件明細書の特許請求の範囲の請求項5を次のとおり訂正する。
(本件訂正前)
『【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が加工され、該加工により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。』
(本件訂正後)
『【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。』
ウ 訂正事項3
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を引用する請求項5を新たな請求項9とするとともに、請求項5の『加工』を『機械研磨』として、次のとおり訂正する。
(本件訂正後)
『【請求項9】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有し、
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする、窒化物系半導体素子。』

(2)訂正事項1について
ア 訂正請求書において述べたとおり、訂正事項1は、本件発明が、n側電極が形成されるn型GaN基板の裏面にコンタクト抵抗増加の原因である機械研磨が行われていることを前提とするものであることを明確にするために、本件訂正前の請求項1に、新たな発明特定事項である『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』を付加して、n型GaN基板の裏面に機械研磨を行わずに製造された素子を除外するものである。発明は、技術的思想の創作であり、特許請求の範囲は技術的思想を記述するものであるから、訂正事項1のように新たな発明特定事項を追加した本件訂正後の請求項1は、機械研磨を行わずにエッチングによりコンタクト抵抗増加の技術課題を生じずに製造された素子を含んでいる本件訂正前の請求項1よりも、技術的範囲が減縮されていることは明らかである。したがって、本件訂正後の請求項1記載の第1半導体層は、n側電極が形成される裏面側が機械研磨されたものであることが明確となるように減縮されることになるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ また、仮に、機械研磨を行った後にエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子と、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子とが、物(窒化物系半導体素子)として差異がないとの理由で、訂正事項1が特許請求の範囲を減縮するものではないとしても、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するものである。
すなわち、窒化物系半導体基板からなる素子は、製造中の強度を得るために、ある程度の厚さが必要であるが、分割するためには、所定の厚さになるまで薄くする必要があるため、機械研磨により厚み加工をしている。厚み加工をすることは、エッチングのみでも可能であるが、所定の厚さになるまで薄くするためには膨大な時間を必要とする。このため、窒化物系半導体素子は、機械研磨を行うことなく、エッチングのみで厚み加工して製造することは現実的でなく、実際に行われていない。したがって、甲第2号証の段落【0217】の『研磨を行わずにドライエッチングによりn型GaN層66または65まで除去してn型電極を形成』との記載は、単に理論的には可能であることを示すにすぎず、現実の製造方法として実現されることを記載したのではないから、上記記載から甲2第二発明を認定することは妥当でない。これに対し、本件発明では、通常の製造方法による機械研磨が行われており、その結果転位が生じていることを前提として、『第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下』と限定しているのであるが、本件では、審判合議体から上記段落に基づいて認定した甲2第二発明に基づく無効理由が通知されたため、被請求人は、本件発明と甲2第二発明との区別を明確にするために『除くクレーム』とする訂正を行ったのである。
訂正事項1は、形式的には特許請求の範囲の減縮に相当するが、現実の製造方法としては、エッチングのみで厚み加工して製造することは行われていないから、本件発明が、エッチングのみで厚み加工するという非効率で工業的生産としては現実には行われない製造方法により製造された甲2第二発明とは異なるものであることを明確にするために行ったものであり、不明瞭な記載の釈明に相当する。すなわち、本件発明は実施可能な発明であるから、『除くクレーム』とする訂正を行わなくても、機械研磨が行われ、その結果転位が生じていることを前提とするものであることは明らかであるが、審判合議体は、本件発明が、エッチングのみで膜厚を薄くするという工業的生産としては現実には行われない製造方法により製造された窒化物系半導体素子である甲2第二発明と対比できるものと判断しているため、訂正事項1により、あえて本件発明を明確化したのである。
ウ さらに、仮に本件訂正発明1がPBPクレームであるとしても、PBPクレームでなければならない不可能・非実際的事項が存在する。以下に、その理由を述べる。
本件発明は、窒化物系半導体基板を機械研磨することによって生じる転位がコンタクト抵抗を増大させるという技術課題を初めて見出し、その技術課題を初めて解決した新しい窒化物系半導体素子であることに技術的特徴がある。そして、このような技術的特徴を備えた窒化物系半導体素子であることを特定するためには、『電極が形成される第1半導体層の裏面側が機械研磨されていること』、あるいは『機械研磨を行わずに第1半導体層の一部を除去して露出した裏面に電極を形成する工程を含む製造方法により製造されたものを除くこと』により、本件発明を特定するしかなく、物の構造又は特性により直接特定することは不可能である。すなわち、本件訂正発明1がPBPクレームであるとしても、そこには、PBPクレームでなければならない不可能・非実際的事情が存在する。

(3)訂正事項2について
本件訂正の訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項5を、請求項1の記載を引用しないものとした以外は、前訂正の訂正事項2と同じである。そして、審決の予告において、審判合議体は、『本件訂正前の本件特許の明細書等には、「機械研磨を行った後にエッチングする方法」で製造された窒化物系半導体素子が記載されているから、「加工」を「機械研磨」に訂正しようとする訂正事項2を含む本件発明が、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないともいえない。』(68頁20行?24行)、『訂正事項2については、「加工」をその下位概念である「機械研磨」に変更するものであり、請求項5の記載事項を限定することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。』(同頁33行?36行)と判断しているから、本件訂正の訂正事項2についても、同様にすべての訂正要件を満たすものである。

(4)訂正事項3について
本件訂正の訂正事項3は、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項5を、請求項1の記載を引用しない独立形式の新たな請求項9としたものであるから、上記(3)と同様に、すべての訂正要件を満たすものである。

5.4 審決の予告の『第6 本件発明に対する当審の判断』に対して
本上申書と同時に提出した訂正請求書で訂正した本件訂正発明1ないし本件訂正発明9について、『第6 本件発明に対する当審の判断』に対する意見を述べる。
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1は、前訂正発明1と同じ内容のものであり、平成25年12月27日付け意見書において詳細に述べたとおり、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子が除かれていることが、甲2第二発明との相違点である。また、甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングによりGaN結晶膜の裏面側を除去することに技術的意義があるから、ドライエッチングに代えて、n側電極を形成する基板の裏面側を研磨することが適用されるはずもない。
したがって、本件訂正発明1は、甲2第二発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2ないし本件訂正発明8について
本件訂正発明2ないし本件訂正発明8は、請求項2ないし請求項8が請求項1を引用するものであるから、本件訂正特許発明1と同様の理由により、甲2第二発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、第1半導体層が、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である。すなわち、甲2第二発明では、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去しているから、第1半導体層が、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることは、本件特許発明9と甲2第二発明との相違点である。また、甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングによりGaN結晶膜の裏面側を除去することに技術的意義があるから、ドライエッチングに代えて、第1半導体層の裏面側を機械研磨することが適用されるはずもない。
したがって、本件訂正発明9は、甲2第二発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

5.5 平成25年11月27日付け無効理由通知の無効理由に対して
平成25年11月27日付け無効理由通知の無効理由についても、上記5.4で述べたことと同様の理由により、本件訂正発明1ないし本件訂正発明9は、甲第2号証、甲第21号証及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、無効理由通知の無効理由に理由はない。

5.6 むすび
以上述べたとおり、審決の予告における訂正拒絶理由及び無効理由、並びに、平成25年11月27日付け無効理由通知の無効理由に理由はなく、本件特許に無効理由は存在しないから、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めるものである。」

6 意見書における被請求人の主張の概要
平成28年2月3日付け意見書(被請求人)における被請求人の主張は概ね次のとおりである。

「(1)訂正拒絶理由通知の内容
・・・(略)・・・

(2)訂正事項1について
ア 物としての同一性に対して
訂正拒絶理由では、機械研磨を行った後にエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子と、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子とは、少なくとも、前者の窒化物系半導体素子がエッチングにより窒化物系半導体素子の裏面(窒素面)から機械研磨により生じた転位を含む層が完全に除去された場合に、n側電極形成前の裏面(窒素面)の転位の存在状態の点において、物(窒化物系半導体素子)としてどのように異なるのかが不明であり、n側電極形成前の裏面(窒素面)の状態以外の点において、両者の間に、物の構造、特性等に何らかの差異があると考えるべき根拠も見出せないと判断している。
しかしながら、特許請求の範囲は技術的思想を表すものであるから(特許法第36条第5項、同法第2条第1項参照)、特許請求の範囲が実際の窒化物系半導体素子を表現しているものとして比較するのではなく、本件訂正の前後における請求項1に係る発明の技術的思想について比較検討する必要がある。すなわち、本件訂正前の請求項1に係る発明は、窒化物系半導体基板を機械研磨することにより発生する『転位』によって、n電極とのコンタクト抵抗が増加するという課題を認識し、その『転位』の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下にするために転位を除去して、1×10^(9)cm^(-2)以下の転位密度と、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を共に有する窒化物系半導体素子の技術的思想であるが、機械研磨を行わずにエッチングのみで製造されたことにより、上記転位密度とコンタクト抵抗の条件を満たす素子の技術的思想をも含むものである。これに対し、訂正事項1は、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』ことで、本件訂正前の請求項1に係る発明から、機械研磨を行わずにエッチングのみで製造された素子の技術的思想を排除するものであるから、本件訂正の前後で、請求項1に係る発明の技術的思想は異なるものである。一方、特許法第134条の2第1項第1号の『特許請求の範囲の減縮』も、技術的思想の範囲における減縮である。したがって、訂正後の請求項1の技術的思想は、訂正前の請求項1の技術的思想から一部排除することで減縮されているから、訂正事項1は、『特許請求の範囲の減縮』を目的とするものに該当する。
次に、上記の訂正拒絶理由の『物(窒化物系半導体素子)としてどのように異なるのか』に対して意見を述べると、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子は、基板の厚み加工(例えば、400ミクロンから100ミクロン)が行われていない素子であるから、本件訂正により除かれた後の、機械研磨により厚み加工が行われている素子とは物としても異なる。機械研磨による厚み加工の代わりにエッチングにより厚み加工を行うことは現実的でないから、技術的思想としてはそのような素子を考えることができるが、実際の物としては考えられない。したがって、特許請求の範囲の記載が現実のものを表現しているとの考え方によっても、両者は、物の構造、特性等に差異があるというべきである。つまり、訂正事項1における『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という事項は、現実の物(窒化物系半導体素子)の構造、特性等として、機械研磨による厚み加工を行わないで製造された物(窒化物系半導体素子)を排除しているから、『訂正事項1により被請求人が除こうとしている物と、除かれた後に残った物のうちの一部との間に物(窒化物系半導体素子)としての差異がな』いということはない。いずれにしても、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであり、訂正目的要件を充足する。

イ PBPクレームとしてみた場合の明確性に対して
(ア)まず、訂正拒絶理由では、最高裁判決を引用し、不可能・非実際的事情が存在するか否かを検討している。
しかしながら、最高裁判決は、『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲の記載において、その製造方法が記載されていると、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか、又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり、適当ではない。』ということを前提としている。 これに対し、本件訂正発明についてみると、厚み加工をすることはエッチングのみでも可能であるが、所定の厚さになるまで薄くするためには膨大な時間を必要とするから、窒化物系半導体素子は、機械研磨を行うことなく、エッチングのみで厚み加工して製造することは現実的でなく、工業的生産としては実際に行われていない。そうすると、当業者であれば、請求項1に、『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という事項が記載されていたとしても、非効率で現実的でなく工業的生産としては実際に行われていない事項を除いているにすぎないものと、発明の内容を明確に理解することができ、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うということはない。したがって、訂正後の請求項1は、最高裁判決に基づいて、不可能・非実際的事情が存在するか否かを検討する必要がなく、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるものである。

(イ)次に、不可能・非実際的事情が存在するか否かについても検討する。
本件訂正発明は、窒化物系半導体基板を機械研磨した場合の技術課題を解決しようとするものであって、機械研磨された半導体基板を前提とするものであるが、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という本件訂正発明の特徴を、物の構造又は特性により直接特定することは、不可能である。すなわち、本件訂正発明と『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子』との差は、窒化物系半導体素子中に機械研磨による転位が存在する可能性がある場合と、全く存在しない場合という窒化物系半導体素子の結晶性の違いによるものであり、製造方法以外の文言により特定することは、不可能である。そして、他に、上記特徴を構造上又は特性上、明確に特定する文言も存在しない。
仮に、機械研磨による転位が窒化物系半導体素子のどの位置まで発生しているのかを明確にするために、窒化物系半導体素子の内部における転位密度を測定したとしても、その特定の試料の転位の状態が判明するだけのことにすぎない。そのような測定を多数回繰り返し、統計的処理を行い、上記の特徴を特定する指標を見いだすには、著しく多くの試行錯誤を重ねることが必要であり、およそ実際的ではない。
したがって、訂正後の請求項1は、不可能・非実際的事情が存在するから、『発明が明確であること』という要件に適合するものである。

(ウ)以上のとおり、PBPクレームとしてみた場合においても、訂正後の請求項1は、不可能・非実際的事情が存在するから、『発明が明確であること』という要件に適合し、本件訂正前の請求項1に、新たな発明特定事項である『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』を付加して、n型GaN基板の裏面に機械研磨を行わずに製造された素子を除外するものであり、訂正事項1は、『特許請求の範囲の減縮』を目的とするものに該当する。

ウ 明瞭でない記載の釈明に当たるか否かに対して
(ア)訂正拒絶理由では、本件訂正前の請求項1が機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造したものを包含することは明確なのであって、そもそも本件訂正前の請求項1の記載が『明瞭でない記載』であるとは認められないと判断している。
しかしながら、本件訂正発明は、窒化物系半導体基板を機械研磨した場合の技術課題を解決しようとするものであって、機械研磨された半導体基板を前提とするものであるから、訂正拒絶理由で指摘されている本件訂正前の請求項1が、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造したものを包含することが明確であるということは、技術課題を解決する必要のない方法で製造したものを包含することを意味する。すなわち、本件訂正前の請求項1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていないから、明確ではない。したがって、訂正事項1は、請求項1に係る発明を、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造したものを排除することで明確にしているから、『明瞭でない記載の釈明』を目的とするものに該当する。

(イ)訂正拒絶理由では、訂正事項1によりn側電極が形成される裏面側が機械研磨を行わずにエッチングにより除去されたものを含まないことが明確となったとしても、請求項1に係る発明が物として明確になったとはいえず、むしろ、訂正事項1によって除こうとしている物と除かれた後に残った物のうちの一部との間に物として差異がないということは、何が除かれたのかが不明ということでもあるから、物としては不明確になったとみることもできると判断している。
しかしながら、上記アで述べたとおり、訂正事項1は、物(窒化物系半導体素子)の構造、特性等として、機械研磨による転位が全く発生することのない物(窒化物系半導体素子)を排除しているから、物として明確にするものである。

エ 審決の予告において、審判合議体は、『本件訂正前の本件特許の明細書等には、上記(1)ウで述べたとおり、本発明の一実施形態である、「機械研磨を行った後にエッチングする方法」で製造された窒化物系半導体素子が記載されており、他方、「機械研磨を行わずにエッチングする方法」で製造された窒化物系半導体素子については本件特許の明細書の【0068】に記載されているから、請求項1の記載から後者の物を除く訂正事項1を含む本件訂正が、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないとはいえない。』(68頁13行?19行)と判断しているから、本件訂正の訂正事項1についても同様に、新規事項の追加禁止の要件を満たすものである。また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。したがって、訂正事項1は、すべての訂正要件を満たすものである。

(3)訂正事項2について
ア まず、下記の裁判例(東京高裁平成17年3月28日(平成16年(行ケ)第427号))において判示されているように、訂正が特許法126条1項ただし書の要件を満たすか否かの判断においては、請求項の訂正が、請求項の記載全体として同項ただし書に適合するかを検討する必要がある。

○ 東京高裁平成17年3月28日(平成16年(行ケ)第427号)
『(4)本件審決の取消事由
本件審決は、本件訂正が特許法126条1項ただし書の要件に適合するか否かの判断を誤り、かつ、本件訂正発明が独立特許要件を満たすか否かの判断を誤ったものであり、その誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
ア 訂正事項についての判断の誤り(取消事由1)
訂正が特許法126条1項ただし書の要件を満たすか否かについては、訂正前の特許請求の範囲の記載と、訂正後の特許請求の範囲の記載を全体として比較し、「特許請求の範囲の減縮」に当たるか否かを判断すべきである。
本件訂正のうち、本件訂正前(設定登録時)の請求項1の「ステアリルアミン」を「艶消し効果及び表面汚れ防止効果付与物質としてのステアリルアミン」とする訂正が、ステアリルアミンという化合物自体の減縮を意味しないとしても、本件訂正は、本件訂正前の請求項1につき、ステアリルアミンについての上記訂正に加えて、「シラノール縮合触媒」を含むものとする限定を付しているから、本件訂正後の請求項1に記載された発明である本件訂正発明は、本件訂正前の請求項1に記載された発明と対比して、全体として減縮したものとなっている。
したがって、本件訂正は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものというべきでり、本件訂正は、特許法126条1項ただし書の要件を満たしている。
・・・
3 被告の反論
審判請求人たる原告がした本件訂正が特許法126条1項ただし書、同条4項の規定に適合しないとした本件審決の判断に、誤りはない。
(1)訂正の目的についての判断の誤り(取消事由1)について
本件訂正が特許法126条1項ただし書の規定する訂正の要件を充足するか否かについては、本件訂正の各箇所のすべてについて、それぞれ、その訂正が同項ただし書の規定のいずれに該当する訂正であるかどうかを判断すべきものであって、特定の請求項に係る特許請求の範囲の全体につき訂正前と訂正後の記載内容を比較して「特許請求の範囲の減縮」に該当するか否かを判断すべきものではない。
例えば、特許請求の範囲において、訂正が一つで、その訂正が特許請求の範囲の減縮にも、明りょうでない記載の釈明にも、誤記・誤訳の訂正にも該当しない場合、その訂正は認められないはずであり、訂正が2箇所で、一つの箇所が「特許請求の範囲の減縮」に該当する場合には、他の箇所が同項ただし書各号のいずれにも該当しないときでも、全体として「特許請求の範囲の減縮」に該当するとして、訂正が認められるとすると、訂正が一つの場合と二つの場合とでその結果の判断が違ってくることになり、整合性がとれなくなるからである。
本件審決は、上記の観点に立って、本件訂正は、特許法126条1項ただし書の規定に適合しないと判断したものであり、正当である。
・・・
第4 当裁判所の判断
・・・
2 取消事由1(訂正事項についての判断の誤り)について
(1)本件訂正審判の請求は、前記のように本件訂正前の請求項2を削除することを求めるとともに、本件訂正前の請求項1につき、(マル1)「ステアリルアミン」を「艶消し効果及び表面汚れ防止効果付与物質としてのステアリルアミン」とする訂正と、(マル2)「シラノール縮合触媒」を含むものと限定する訂正との2つの訂正を求めるものである。そして、上記(マル2)の訂正は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められる。また、上記(マル1)の訂正は、単にステアルアミンの添加効果あるいは添加目的を示す記載を付加するものにすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、本件訂正前の請求項1についての上記(マル1)(マル2)の訂正は、全体として「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと解するのが相当であるから、請求項2の削除を含む本件訂正は、同項ただし書に適合するというべきである。してみると、本件訂正が特許法126条1項ただし書の規定に適合しないとした本件審決は、その判断を誤ったものということになる。』

本件訂正事項2についてみると、訂正拒絶理由通知においても、訂正事項2のうち『請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子』を『請求項2?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子』とした点は、訂正前に含まれていた請求項1の記載のみを引用する請求項5が訂正後は含まれなくなるから特許請求の範囲の減縮を目的とすると認められている。そうすると、訂正事項2における『加工』を『機械研磨』とした点が特許請求の範囲を減縮するものであるか否かにかかわらず、訂正事項2は、全体として『特許請求の範囲の減縮』を目的とするから、訂正目的要件を充足するものである。

イ また、本件訂正発明は、窒化物系半導体基板を機械研磨した場合の技術課題を解決しようとするものであり、機械研磨された半導体基板を前提とするものであるから、本件訂正前の請求項5が、『機械研磨』以外の『加工』を包含するということは、技術課題を解決する必要のない方法で製造したものを包含することを意味する。すなわち、本件訂正前の請求項5は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていないから、明確ではない。したがって、訂正事項2は、請求項5に係る発明を、機械研磨に特定することで明確にしているから、『明瞭でない記載の釈明』を目的とするものに該当する。

ウ そして、審決の予告において、審判合議体は、『本件訂正前の本件特許の明細書等には、「機械研磨を行った後にエッチングする方法」で製造された窒化物系半導体素子が記載されているから、「加工」を「機械研磨」に訂正しようとする訂正事項2を含む本件訂正が、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないともいえない。』(68頁20行?24行)、『訂正事項2については、「加工」をその下位概念である「機械研磨」に変更するものであり、請求項5の記載事項を限定することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。』(同頁33行?36行)と判断しているから、本件訂正の訂正事項2についても、同様にすべての訂正要件を満たすものである。

(4)訂正事項3について
本件訂正の訂正事項3は、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項5を、請求項1の記載を引用しない独立形式の新たな請求項9としたものであり、この訂正事項が、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを訂正の目的とするものであることは、訂正拒絶理由通知においても認められている。また、請求項5の『加工』を『機械研磨』とする訂正についても、審決の予告(68頁33行?36行)で判断されているとおり、『加工』をその下位概念である『機械研磨』に変更するものであり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、訂正目的要件を充足する。また仮に、この訂正が特許請求の範囲を減縮するものではないとしても、上記(3)アと同様に、訂正事項3における『加工』を『機械研磨』とした点が特許請求の範囲を減縮するものであるか否かにかかわらず、訂正事項3は、全体として『他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること』を目的とするから、訂正目的要件を充足するものである。したがって、上記(3)と同様の理由により、訂正事項3は、すべての訂正要件を満たすものである。

(5)むすび
以上述べたとおり、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正(訂正事項1及び2)、並びに、請求項9に係る訂正(訂正事項3)は、すべての訂正要件に適合し、本件訂正に訂正拒絶理由は存在しないから、本件訂正は認められるべきものである。
また、訂正後の請求項9については、引用関係の解消を目的とする訂正であるから、この訂正が認められる場合には、請求項1?8とは別の請求単位として扱われることを求める。

(6)訂正の機会について
平成27年9月28日付け上申書で述べたとおり、本件では、訂正拒絶理由が通知されることなく審決の予告がなされたため、被請求人は、審決の予告に記載された訂正拒絶理由に対する意見を述べることができなかった。訂正拒絶理由が通知されていれば、被請求人は上申書と同様な内容の意見を述べることができたのであり、その後たとえ審決の予告がなされたとしても、その審決の予告には被請求人の意見に対する判断が記載されていたはずであるから、被請求人は、その審判合議体の判断を参酌した上で、訂正を行うことができたのである。そして、この点は、今回、訂正拒絶理由が通知されたからといって解消されるものではないから、今後、仮に審決の予告と同様な内容の審決がなされるとしても、審決の前に被請求人には再度訂正の機会が与えられるべきであると思料する。」

7 上申書における被請求人の主張の概要
平成28年9月8日付け上申書(被請求人)における被請求人の主張は概ね次のとおりである。

「5 上申の内容
被請求人は、平成28年7月5日付け審決の予告を受けて、以下のとおり上申する。

5.1 審決の予告について
平成28年7月5日付け審決の予告の内容は、概ね以下の(1)及び(2)のとおりである。
(1)『第5 訂正請求(その2)についての当審の判断』について
審決の予告では、請求項1に『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という事項を付加する訂正事項1は、これによって特定される発明の範囲自体が実質的には本件訂正(その2)の前と後で何ら変わっていないものであり、特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件を充足しないから、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正は、これを認めることができないと判断している。

(2)『第6 本件発明に対する当審の判断』の『3 対比・判断』について
ア 審決の予告では、本件訂正の請求は認められなかったので、本件発明1ないし本件発明8は、本件訂正前の特許請求の範囲に記載されたものと認定した上で、本件発明1と甲2第二発明とは、
『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極を備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下である、
窒化物系半導体素子。』
で一致し、
相違点:『前記n側電極と前記第1半導体層との界面』における『コンタクト抵抗』が、本件発明1では、『0.05Ωcm^(2)以下』であるのに対し、甲2第二発明では、0.05Ωcm^(2)以下であるかどうか不明である点
で相違すると認定している。そして、甲2第二発明において第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下となすことは、発明を実施する際に当業者が適宜なし得る程度の、いわゆる設計的事項であるから、甲2第二発明において、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下となすこと、すなわち、相違点に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易になし得たことであると判断している。

イ 審決の予告では、本件発明9の要旨は、最高裁判決の判示に従えば、製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として認定されるべきものであり、本件発明9は本件発明1と何ら変わらないから、本件発明9と甲2第二発明との対比により導出される両者の相違点は、結局、本件発明1と甲2第二発明との相違点に帰結するのであって、同様に、甲2第二発明において、当該相違点に係る本件発明9の構成となすことは、当業者が容易になし得たことであると判断している。

ウ 審決の予告では、『(5)付言』として、仮に、本件訂正(その2)の請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正を認めたとしても、本件訂正発明1において、『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』としたことによっても、甲2第二発明と何ら差異のない物(窒化物系半導体素子)が依然として含まれているのだから、『物同一説』によれば、結局、本件訂正発明1は、甲2第二発明を除いたことになっていないといわざるを得ないから、本件訂正発明1と甲2第二発明との対比により導出される両者の相違点は、結局、本件発明1と甲2第二発明との相違点に帰結するのであって、同様に、甲2第二発明において、当該相違点に係る本件訂正発明1の構成となすことは、当業者が容易になし得たことであると判断している。

5.2 本件訂正発明について
(1)本上申書と同時に提出した訂正請求書において訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された発明は、以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなり、裏面側が機械研磨された第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。
【請求項2】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度が、1×10^(6)cm^(-2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項3】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である、請求項1または2に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項4】
前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項6】
前記第1半導体層のn型ドーパントが酸素であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項7】
前記第1半導体層の上面上に、Si、Se及びGeのいずれかがドープされたn型の窒化物系半導体層を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項8】
前記第1半導体層は、HVPE法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項9】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有し、
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする、窒化物系半導体素子。

なお、本件訂正は、請求項1について以外は、平成27年9月28日付け訂正請求書による訂正(以下、『前訂正』という。)と同じ内容である。

(2)本件訂正発明について
本件訂正発明1は、本件訂正により、『窒化物半導体基板』をその下位概念である『GaN基板』に限定し、さらに『第1半導体層』を『裏面側が機械研磨された第1半導体層』に限定したため、GaN基板からなる第1半導体層の、n側電極が形成される裏面側が機械研磨されたものであることが明確となった。すなわち、本件訂正発明1は窒化物系半導体素子を対象とし、第1半導体層は、その裏面側が機械研磨されたn型のGaN基板からなるのであり、n型のGaN基板の裏面上にn側電極が設けられている。このような構成の窒化物系半導体素子において、所定の転位密度及びコンタクト抵抗が本件訂正発明1の規定する数値を同時に満たすものは、本件特許出願以前に全く知られていなかった。本件訂正発明1は、裏面側が機械研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなる第1半導体層を用い、第1半導体層の裏面上にn側電極を備えた窒化物系半導体素子において、初めて、n側電極との界面近傍における転位密度を低く抑え、かつ、コンタクト抵抗が低い素子を実現したのである。本件特許出願以前に低い転位密度と低いコンタクト抵抗を併せ持った上記素子が存在しなかったのは、裏面側か機械研磨された、ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板を用いた窒化物系半導体素子を作製するためには、一定の厚さを有する基板の上に素子機能を有する半導体層を積層し、その後で、素子の劈開、分離のために所定の厚さになるまで基板の裏面側を機械研磨して、基板の裏面上にn側電極を設けるが、実際には、機械研磨によって、n側電極との界面近傍における転位密度が増大し、この転位密度の増大に起因してコンタクト抵抗が増大してしまうからである。本件訂正発明1は、このことを見出し、機械研磨によって転位密度が増大した領域を除去することにより、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持った素子を実現したのである。本件訂正発明1の知見を有していない公知技術では、裏面側が機械研磨されたn型のGaN基板からなる素子において、低い転位密度と低いコンタクト抵抗とを併せ持ったものは実現できないのである。
そこで、本件訂正発明1では、上記素子の具体的な構成を、ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなり、裏面側が機械研磨された第1半導体層と、第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有するとして特定したのである。
また、本件明細書には実施例として、第1半導体層を所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨された後、機械研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域を除去し、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とし、n側電極と第1半導体層との界面において0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗とする製造方法が具体的に開示されており、本件訂正発明5及び9においては、窒化物系半導体素子がそのような第1半導体層を用いて作成されていることを表現するために、第1半導体層を所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、機械研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域が除去されたことを特定したのである。

5.3 訂正請求について
(1)本上申書と同時に提出した訂正請求書では、以下の訂正事項1ないし訂正事項3からなる訂正を請求した。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。
(本件訂正前)
『【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。』
(本件訂正後)
『【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなり、裏面側が機械研磨された第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。』

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を次のとおり訂正する。
(本件訂正前)
『【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が加工され、該加工により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。』
導体素子。」
(本件訂正後)
『【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。』

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の記載を引用する請求項5を新たな請求項9とするとともに、請求項5の『加工』を『機械研磨』として、次のとおり訂正する。
(本件訂正後)
『【請求項9】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有し、
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする、窒化物系半導体素子。』

(2)訂正事項1について
まず、訂正請求書において述べたとおり、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1について、『窒化物半導体基板』をその下位概念である『GaN基板』に限定するものであるから、本件訂正後の請求項1記載の第1半導体層は、GaN基板からなるものに減縮されることになるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、『第1半導体層』を『裏面側が機械研磨された第1半導体層』に限定する訂正は、特許・実用新案審査ハンドブックの『2204 『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』に該当するか否かについての判断』『3.『その物の製造方法が記載されている場合』に該当しない類型・具体例』『類型(2):単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合』に具体例として例示された『AがBと異なる厚さに形成された物』、『ゴム組成物を用いて作製されたタイヤ』、『A部材に溶接されたB部材』、『面取りされた部材』、『本体にかしめ固定された蓋』、『ポリマーAで被覆された顔料』と同様に単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合に該当するから、『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』に該当しない。したがって、『第1半導体層』を『裏面側が機械研磨された第1半導体層』に限定する訂正事項により、審決の予告における、請求項1によって特定される発明の範囲自体が実質的には本件訂正の前と後で何ら変わっていないとの指摘事項は解消され、n側電極が形成される裏面側か機械研磨された第1半導体層に減縮されることになるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
よって、本件訂正の訂正事項1は、訂正請求書で述べたとおり、すべての訂正要件を充足するものである。

(3)訂正事項2について
本件訂正の訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項5を、請求項1の記載を引用しないものとしたこと以外は、前訂正の訂正事項3と同じ訂正事項である。そして、審決の予告において、訂正事項3がすべての訂正要件を充足すると判断されているから、本件訂正の訂正事項2についても、同様にすべての訂正要件を充足するものである。

(4)訂正事項3について
本件訂正の訂正事項3がすべての訂正要件を充足することは、審決の予告においても認められている。

5.4 審決の予告の『第6 本件発明に対する当審の判断』に対して
本上申書と同時に提出した訂正請求書で訂正した本件訂正発明1ないし本件訂正発明9について、職権無効理由に関する『第6 本件発明に対する当審の判断』に対して意見を述べる。

(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲2第二発明との相違点の認定
本件訂正発明1と甲2第二発明とを対比すると、以下の点で相違する。
相違点:
本件訂正発明1は、『n側電極』が形成される『第1半導体層』の『裏面側』が、『機械研磨された』ものであり、『第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度は1×10^(9)cm^(-2)以下であり、n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する』のに対して、甲2第二発明では、転位密度は1×10^(9)cm^(-2)以下であるが、『n側電極を形成するGaN結晶膜の裏面側が、機械研磨されることなく、ドライエッチングされたもの』であり、『コンタクト抵抗が0.05Ωcm^(2)以下であるかどうか不明』である点。

イ 本件訂正発明1と甲2第二発明との相違点の判断
甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングによりGaN結晶膜の裏面側を除去することを記載するが、その場合厚み加工のために膨大な時間を要する。ドライエッチングに代えて、n側電極を形成するGaN結晶膜の裏面側を研磨することは加工時間を短縮する慣用技術であるが、その場合は機械研磨によって転位が生じて、コンタクト抵抗が増大し、動作可能な窒化物系半導体素子とならない。甲2第二発明には研磨を行った後にドライエッチングをして転位を除去することの示唆はない。したがって、たとえ甲2第二発明でのコンタクト抵抗が、機械研磨を行わないことによって、0.05Ωcm^(2)以下であったとしても、本件訂正発明1は、短い加工時間と低いコンタクト抵抗が両立し、甲2第二発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2ないし本件訂正発明8について
本件訂正発明2ないし本件訂正発明8は、請求項2ないし請求項8が請求項1を引用するものであるから、本件訂正特許発明1と同様の理由により、甲2第二発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明9について
ア 本件訂正発明9は、第1半導体層が、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であるが、上記5.3(2)で述べたのと同様の理由により、この構成は、特許・実用新案審査ハンドブックの『2204 『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』に該当するか否かについての判断』における、『単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合』に該当するから、『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』に該当しない。
イ この点につき、審決の予告では、
『本件発明9は、『窒化物系半導体素子』という物の発明であるが、『第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である』との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項9にはその物の製造方法が記載されているといえ、請求項9はPBPクレームである。』(141?2頁)
と説示している。しかしながら、本件訂正発明9のどの構成もって、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当すると判断したのかは明確ではないが、特許・実用新案審査ハンドブックの『類型(1-2):製造に関して、技術的な特徴や条件が付された記載がある場合』に具体例として例示されているのは、『モノマーAとモノマーBを50℃で反応させて得られるポリマーC)』、『1?1. 5気圧下で焼成してなる蛍光体』、『外面に粒子状の物質を衝突させた粗化処理が施されたゴム製品』であり、製造に関して、明らかに技術的な特徴や条件が付された記載がある場合である。これに対し、本件訂正発明9は、『所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む』であり、単に、転位の発生状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないから、『単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合』に該当し、『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』には該当しない。さらに、特許・実用新案審査ハンドブックの『2204』『1.基本的な考え方 (1)』に、『以下の類型、具体例に形式的に該当しても、当該技術分野における技術常識に基づいて異なる判断がされる場合があることに留意が必要である』と記載されているとおり、本件訂正発明9は、仮に類型(1-2)に形式的に該当したとしても、単に、転位の発生状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないことは明らかであるから、『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』には該当しない。したがって、本件訂正後の請求項9はPBPクレームではない。
ウ 一方、甲2第二発明では、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去しており、機械研磨により発生した転位は存在しないから、本件訂正発明9の『前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であること』は、本件訂正発明9と甲2第二発明との相違点である。そして、本件訂正発明9は、上記相違点の構成により、短縮された加工時間で製造され、かつ、低いコンタクト抵抗を有する素子であるのに対し、甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングによりGaN結晶膜の裏面側を除去するので、低いコンタクト抵抗であっても、膨大な加工時間を要する素子であるという顕著な技術的相違が存在する。
よって、本件訂正発明9は、甲2第二発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.5 むすび
以上述べたとおり、審決の予告における訂正拒絶理由及び職権無効理由に理由はなく、本件特許に無効理由は存在しないから、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めるものである。」

第4 審判合議体の無効理由通知及び平成28年7月5日付け審決の予告の概要
1 平成25年11月27日に開催した口頭審理において審判合議体が通知した無効理由(以下「職権無効理由」という。)の概要は次のとおりである。

(1)「本件の次の請求項に係る特許は、合議の結果、以下の理由によって無効とすべきものと認められる。これについて意見があれば、平成25年12月27日までに意見書の正本1通及びその副本2通を特許庁に提出すると同時にファクシミリにより請求人に送付してください。
理 由
ア 請求項1、3ないし8に係る発明は、審判請求書に提示された甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
イ 請求項1ないし8に係る発明は、審判請求書に提示された甲第2号証に記載された発明、甲第21号証に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
詳細は、平成25年9月25日付け審理事項通知書1頁下から8行?3頁20行、同3頁23行?4頁34行、同5頁35行?6頁5行、同7頁20?29行、審判請求書15頁8?12行、同15頁14?21行、甲第21号証、平成24年(行ケ)10302号の判決34頁6?10行のとおりである。」

(2)平成25年9月25日付け審理事項通知書の各参照箇所の内容は次のとおりである。
・1頁下から8行?3頁20行
「『ウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体、例えば、GaN系半導体発光素子において、
格子定数や熱膨張係数が異なるサファイア基板上にGaN結晶膜のエピタキシャル成長を行うと、基板やエピタキシャル層に歪みや欠陥、転位が発生し、また、厚い膜を成長した場合にはクラックが発生し、デバイスとしての性能が極端に悪くなるという問題があったので、
サファイア基板上にエピタキシャル成長を行って形成されたものであっても、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくい、GaN結晶膜を提供するために、
サファイア基板上にMOCVD法で膜厚1μmの下地結晶膜としてのGaN膜を形成し、該GaN膜上にSiO_(2)膜を形成し、該SiO_(2)膜をフォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状に成形してマスクを形成し、該ストライプ状のマスク間の領域である成長領域上に、塩化ガリウム(GaCl)をGa原料とし、アンモニア(NH_(3))ガスをN原料として、ハイドライドVPE法によりGaN結晶をエピタキシャル成長させると、GaN結晶は、初期段階ではマスク上に成長せず前記成長領域のみで成長するため、前記成長領域上のGaN結晶には基板の面方位とは異なる面方位を有するファセットが出現し、エピタキシャル成長を続けると、GaN結晶はファセット面に対して垂直な方向に成長が進むため、前記成長領域だけでなくマスク上にも成長し、やがてマスクを覆うようになって隣接する成長領域のGaN結晶のファセットと接触し、さらにエピタキシャル成長を続けると、ファセットが埋め込まれ、平坦な表面を有するGaN結晶膜を得て、
得られたGaN結晶膜上に発光素子構造を形成した後にサファイア基板とマスクと前記GaN結晶膜の一部を除去する方法(以下「サファイア基板法」という。)、あるいは、GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクと該GaN結晶膜の一部を除去して得たGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハを基板として、該基板上に発光素子構造を形成する方法(以下「GaN基板法」という。)により作製されたGaN系半導体発光素子であって、
前記GaN結晶膜において、転位は、ファセットに向かって進み基板と垂直に伸びていたものが垂直な方向へ伸びることができなくなるためファセットの成長とともに横方向に曲げられ、そのほとんどは結晶の端に出てしまうか閉ループを形成するので、エピタキシャル膜の膜厚増加に伴い上部の成長領域では転位が減少していき、その結果、上層領域において、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層を有するn型GaN結晶膜となり、
前記サファイア基板法は、例えば、キャリア濃度が1×10^(18)cm^(-3)以上の前記n型GaN結晶膜が形成された基板をMOCVD装置にセットし、所定の温度、ガス流量、V族元素/III族元素比で、厚さ1μmのSi添加n型GaN層、厚さ0.4μmのSi添加n型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ2.5nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と厚さ5nmの無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.4μmのMg添加p型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、及び厚さ0.5μmのMg添加p型GaNコンタクト層を順次形成して発光素子構造を形成し、次に、該発光素子構造を形成したサファイア基板を研磨器にセットし、前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記GaN結晶膜の一部を研磨してn型GaN結晶膜を露出させ、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含み、
前記GaN基板法は、例えば、全断面にわたって低転位密度層となっているGaN基板ウエーハを用い、MOCVD法によりGaN基板側から厚さ0.5μmのSi添加n型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ3nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる7周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nインジウム解離防止層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.5μmのMg添加p型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層、及び厚さ0.2μmのMg添加p型GaNコンタクト層を順次形成して発光素子構造を形成し、該発光素子構造の最上層にはSiO_(2)膜を形成し、幅10μmのストライプ状の電流注入用窓を形成し、この上にニッケルと金からなるp型電極を形成し、p型電極面で研磨用重しに貼りつけ、GaN基板の裏面を研磨し、通常、60μm?100μmの劈開可能な厚さに仕上げ、チタンとアルミニウムからなるn型電極を前記裏面に形成する工程を含む、
GaN系半導体発光素子。』(以下「甲2第一発明」といいます。)」

・3頁23行?4頁34行
「『ウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体、例えば、GaN系半導体発光素子において、
格子定数や熱膨張係数が異なるサファイア基板上にGaN結晶膜のエピタキシャル成長を行うと、基板やエピタキシャル層に歪みや欠陥、転位が発生し、また、厚い膜を成長した場合にはクラックが発生し、デバイスとしての性能が極端に悪くなるという問題があったので、
サファイア基板上にエピタキシャル成長を行って形成されたものであっても、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくい、GaN結晶膜を提供するために、
サファイア基板上にMOCVD法で膜厚1μmの下地結晶膜としてのGaN膜を形成し、該GaN膜上にSiO_(2)膜を形成し、該SiO_(2)膜をフォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状に成形してマスクを形成し、該ストライプ状のマスク間の領域である成長領域上に、塩化ガリウム(GaCl)をGa原料とし、アンモニア(NH_(3))ガスをN原料として、ハイドライドVPE法によりGaN結晶をエピタキシャル成長させると、GaN結晶は、初期段階ではマスク上に成長せず前記成長領域のみで成長するため、前記成長領域上のGaN結晶には基板の面方位とは異なる面方位を有するファセットが出現し、エピタキシャル成長を続けると、GaN結晶はファセット面に対して垂直な方向に成長が進むため、前記成長領域だけでなくマスク上にも成長し、やがてマスクを覆うようになって隣接する成長領域のGaN結晶のファセットと接触し、さらにエピタキシャル成長を続けると、ファセットが埋め込まれ、平坦な表面を有するGaN結晶膜を得て、
得られたGaN結晶膜上に発光素子構造を形成した後にサファイア基板とマスクと前記GaN結晶膜の一部を除去して作製されたGaN系半導体発光素子であって、
前記GaN結晶膜において、転位は、ファセットに向かって進み基板と垂直に伸びていたものが垂直な方向へ伸びることができなくなるためファセットの成長とともに横方向に曲げられ、そのほとんどは結晶の端に出てしまうか閉ループを形成するので、エピタキシャル膜の膜厚増加に伴い上部の成長領域では転位が減少していき、その結果、上層領域において、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層を有するn型GaN結晶膜となり、
例えば、キャリア濃度が1×10^(18)cm^(-3)以上の前記n型GaN結晶膜が形成された基板をMOCVD装置にセットし、所定の温度、ガス流量、V族元素/III族元素比で、厚さ1μmのSi添加n型GaN層、厚さ0.4μmのSi添加n型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ2.5nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と厚さ5nmの無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.4μmのMg添加p型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、及び厚さ0.5μmのMg添加p型GaNコンタクト層を順次形成して発光素子構造を形成し、次に、研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含む、
GaN系半導体発光素子。』(以下「甲2第二発明」といいます。)」

・5頁35行?6頁5行
「そうだとすると、本件特許発明1と引用発明との一致点は、
『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下である、
窒化物系半導体素子。』
となり、相違点は請求人が審判請求書で主張する相違点と同じということになります。 」

・7頁20?29行
「〔甲2第二発明を引用発明とする場合〕
この場合、引用発明において、ドライエッチングにより露出したGaN結晶膜の裏面の転位密度が、エピタキシャル成長したGaN結晶膜の低転位密度層の転位密度(好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下)と同じ又は同程度であるか否かが問題になると考えます。
もし、ドライエッチングにより露出したGaN結晶膜の裏面の転位密度が、エピタキシャル成長したGaN結晶膜の低転位密度層の転位密度と同じ又は同程度であれば、上記1(1)のとおり、本件特許発明1と引用発明との相違点は請求人が審判請求書で主張する相違点と同じとなりますので、該相違点についての判断をすることになります。」

(3)審判請求書の各参照箇所の内容は次のとおりである。
・15頁8?12行
「・相違点
本件特許発明1では、n側電極と第1半導体層との界面におけるコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であるのに対し、甲2発明では、n型電極74とGaN結晶膜65との界面におけるコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であるとは明記されていない点。」

・15頁14?21行
「甲2には、GaN結晶膜65のキャリア濃度が『1×10^(18)cm^(-3)』であると開示されているところ(甲2の段落0212)、キャリア濃度が『1×10^(18)cm^(-3)』であるGaN結晶膜65のコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』であることは、キャリア濃度が『1×10^(18)cm^(-3)』よりも低いGaN基板において『0.05Ωcm^(2)』よりも遥かに小さいコンタクト抵抗が得られている本件特許明細書の記載を正しいとする限り(甲1の段落0054における表1の試料4の欄を参照。)、甲2発明においても当然に達成されている。」

(4)甲21
甲21には、次のアないしウの事項(請求人作成の全訳による)が記載されている。

ア「自立n型GaN基板へのTi/Al電極の結晶極性の依存性」(タイトル)

イ「n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性上の結晶極性の影響が研究されてきた。n型GaN基板のGa面上に形成されたTi/Al電極は、30秒間600℃よりも高温でアニールすることで、接触抵抗値2×10^(-5)Ωcm^(2)のオーミックとなった。一方、n型GaN基板のN面上の電極は、非線形の電流-電圧曲線を示し、1eVを超える高いショットキー障壁が同じアニール条件で測定された。これらの結果は、GaN基板の異なる極性によるGaN/AlNヘテロ構造における逆向きのピエゾ電界により説明できる。」(要約)

ウ「自立GaNは、転位密度が低く、熱伝導率が高く、劈開が容易であることから、電子デバイスならびに光電子デバイスの基板として注目されている。GaN基板を使用するもう一つの利点は、裏面n電極のデバイスを作製できることである。これにより、製造工程を簡単で確実なものにし、デバイスのサイズを小さくすることができ、このことは、量産収率を向上させる。
GaN基板は結晶極性が異なる二つの面、Ga極性面とN極性面を有するが、それらは金属/GaN界面のほかAlGaN/GaNヘテロ構造における界面の電気特性にも大きな影響を与える。Karrerらは、プラズマ誘起分子線エピタキシャル成長法(PIMBE)で成長させたPt/GaNショットキーダイオードの特性に対する結晶極性の影響を調査検討し、二つの異なる面に接しているPtの異なった障壁高さは、GaNのGa面とN面でそれぞれ1.1eVと0.9eVであったと報告した。彼は、この挙動は、異なる極性をもったエピタキシャル層内の自発分極が異なることが原因で、伝導帯および価電子帯のバンド曲がりが異なることによるものとできるとした。Fangらも、Ni/Au電極が、GaNのN面上(0.75eV)よりも高い1.27eVの障壁高さであることを自立GaNのGa面上で示したことを報告した。活性層を含む素子構造は、通常、GaN基板のGa極性側に成長させるため、裏面オーミック電極はGaNのN極性側に形成する必要がある。しかし、Ga極性およびN極性のGaN基板上のオーミック電極間の電気特性の比較はほとんど行われてこなかった。
Ti/Al電極はn型GaN上のオーミック電極に広く使用されていることから、本研究では、n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性に対する結晶極性の影響を検討する。このために、ハイドライド気相成長法(HVPE)で成長させた自立n型GaN基板を使用し、なぜならそれらは一方の表面にGa極性面を有しもう一方の表面にN極性面を有するからであるが、そして、n型GaN基板のGa面上とN面上のTi/Al電極を比較する。異なる極性を有する試料に形成した電極の電気特性は大きく異なることが示されるが、それは、極性に依存する逆向きのピエゾ電界によって説明することができる。
試料は、HVPE法により、サファイア基板上に300μmの膜厚に成長させた。自立GaN基板を得るため、レーザー誘起リフトオフにより、厚いGaN層をサファイア基板から剥離した。GaNウェハは、平滑なエピレディ表面を得るため、Ga面とN面の両方を、機械研磨とドライエッチ処理した。二結晶X線回析(DXRD)を用いて構造特性を調査検討した。Ga面とN面に対する(0002)ピークの半値全幅(FWHM)を測定したところ、それぞれ126arcsecと153arcsecであった。それらの非対称(1012)ピークは、96arcsecおよび104arcsecであった。Ga面およびN面ともに、代表的な転位密度は10^(7)cm^(-2)よりも低かった。試料は、Siがドープされていた。室温におけるホール測定により得られた電子濃度および移動度は、それぞれ1.5×10^(17)cm^(-3)および 825cm^(2)/Vsであった。
Ga面とN面はともにアセトンおよびメタノール中で脱脂し、脱イオン(DI)水中で洗浄し、フォトリソグラフィーによりパターンを施した。その後、それらを緩衝酸化物エッチング液中でエッチングし、DI水中で洗浄し、窒素ガスで乾燥した後、金属蒸着するために真空システムに装填した。厚さ50nmのTi層及び厚さ500nmのAl層のTi/Al層を電子ビーム蒸着により形成した。I-V特性を、幅200μmギャップ間隔30μmの2枚の金属パッドを使用し、測定した。伝送長法(TLM)を用いて接触抵抗を測定するため、適宜、環状の電極構造を形成した。試料はN_(2)雰囲気の高速熱アニールシステム中でアニールした。
GaN基板の両側の極性を判定するため、原子間力顕微鏡法(AFM)を伴う化学エッチング技術およびオージェ電子分光法(AES)を適用し、そしてその結果を表Iにまとめた。化学エッチング実験は、室温で0.1MKOH溶液を用いて、あるいは、220℃で85%H_(3)PO_(4)溶液を用いて行なわれた。表Iに示すように、測定されたエッチング速度は上面でゼロに近く、それは、HVPE法による成長面と同等であった。上面の表面粗さはエッチング後も変わらなかった。
しかし、表Iに示すように、底面では、1μm/分という高いエッチング速度が得られ、その表面はエッチング後に非常に粗くなった。我々はまた、オージェ電子の脱出率により評価された上面1nmの膜のN/Ga比率も測定した。上面および底面のN/Ga比率を計算すると、それぞれ0.74と0.97であった。これらの結果は、上面はGa面極性を有し、底面はN面極性を有することを示している。さらに、Jasinskiらは、本研究で使用したシステムと全く等しいHVPEシステムで成長させた自立GaN基板の極性を収束電子線回析により検討し、成長面(上面)および底面はGaおよびN面極性をそれぞれ有したことを報告した。
図1は、n型GaN基板のGa面とN面の両方に堆積されたTi/Al電極のI-V特性を示す。Ti/Al電極は、n型GaNのGaおよびN面上の両方の電極を30秒間500℃でアニールした後では、図1に示した様に、非線形なI-V曲線を示した。n型GaNのGa面上のTi/Al電極では、30秒間700℃および900℃でアニールした後では、I-V曲線は線形になった。これらは、Ti/Al電極は600℃より高温でアニールすることでオーミック性が得られたこれまでの結果と、よく一致している。しかし、図1に示されるように、n型GaNのN面上のTi/Al電極は、700℃でのアニール後に依然として非線形のI-V関係を示し、I-V曲線の傾きは減少した。
図2は、バイアス電圧0.1Vで測定された二個のTi/Al電極パッド間の電流変化をアニール温度の関数として示す。図2に示すように、n型GaN基板のN面上のそれらと比較し、n型GaN基板のGa面上のTi/Al電極についての測定電流値のアニール温度依存性は、非常に異なっている。n型GaNのGa面上の電極の場合、アニール温度が500℃から600℃に上昇するにつれて電流が大幅に増加し、600℃?800℃で30秒アニールした後、TLMから測定された接触抵抗率は2×10^(-5)Ωcm^(2)であった。これより高い温度でアニールすると、電流測定値が低下した。n型GaN基板のN面上のTi/Al電極の場合、30秒間500℃でアニールした後の0.1Vでの電流は、図2に示すように、n型GaNのGa面上の電極で得られたものと同様であった。しかし、図2に示したように、600℃での30秒アニール後の測定電流値は、一桁減少していた。図2に示したように、700℃で30秒間のアニール後では、0.1Vで300nAの最小電流が得られたが、これは、n型GaN基板のGa面上の電極より4桁低いものであった。
n型GaNのN面におけるTi/Al電極の電気特性の更なる調査研究として、ショットキー障壁高さを、電流-電圧測定を使用して測定し、その結果を図3に示した。障壁高さを測定するため、Ti/Al電極をn型GaNのGa面に堆積し、30秒間700℃でアニールし、これにより低い接触抵抗率のオーミックが得られ、また、直径180μmのTi/Al電極がn型GaNのN面に形成された。概略図を図3に挿入した。n型GaNのN面上のTi/Al電極は、30秒間500℃でのアニール後では、図3に示すように、I-Vグラフに線形領域が無いが、一方、30秒間700℃でアニールされたTi/Al電極は線形領域を示しており、これはショットキーダイオード特性である。30秒間700℃でアニールしたn型GaNのN面上のTi/Al電極の障壁高さ及び理想係数を算出したところ、それぞれ1.09eVと1.29となった。また、90分間500℃でアニールしたn型GaNのN面上のTi/Al電極の障壁高さも測定したところ、図3に示すように、障壁高さは1.01eVとなり、理想係数1.67を得た。さらに、図3に示すように、Tiの役割を解明するために、n型GaN基板のN面上のPd/Al電極の障壁高さを調べた。Pd/Al電極の障壁高さと理想係数は、それぞれ1.10と1.44eVであったが、それらは、n型GaNのN面上のTi/Al電極と同様であった。Karrerらの報告では、PIMBEで成長させたn型GaNのN面上のPt電極の障壁高さは0.9eVであり、Fangらの報告では、HVPEn型GaN基板のN面上のNi/Au電極の障壁高さは0.75eVであった。TiとAl(それぞれ4.33eVおよび4.28eV)の仕事関数がPtとNi(それぞれ5.65eVおよび5.15eV)のそれらよりかなり低いことを考慮すると、n型GaNのN面上のTi/Al電極とPd/Al電極の障壁高さが1eVより高いということは、アニールで高仕事関数を有する界面層が形成されたことを示唆するようにみえる。さらに、n型GaNのGa面上の電極はオーミックとなることから、図1および図2に示すように、界面層は、n型GaNのGa面上のTi/Alにオーミック接触になる。
Lutherらは、GaN上のTi/Al電極およびPd/Al電極の界面の特性について述べ、Ti/Al電極の界面だけでなく600℃でアニールしたPd/Al電極の界面で、非常に薄いAlN層を観測した。我々も、電界放出型オージェ電子分光法を用いてn型GaNのN面上のTi/Alを分析したところ、600℃で30秒のアニール後、GaNの表面にAlのピークが検出された。Ti/AlあるいはPd/Al電極とGaNの界面の薄いAlN層の役割については、Lutherらは、他の金属絶縁体-半導体構造の場合のように、薄いAlN層(2-3nm)の形成は、金属/GaN界面におけるフェルミレベルのピン留めを除去することにより金属電極とn型GaNの間のバンド並びに影響を及ぼす可能性があるか、あるいは、障壁高さを下げる可能性があると示唆した。この示唆は、n型GaN基板のGa面上のTi/Alにはオーミック接触が形成されることを説明できるが、その一方、本研究で観察されたn型GaNのN面上のTi/Alにはショットキー接触が形成されることについては説明することができない。結晶極性に依存するTi/Alのオーミックあるいはショットキー接触の形成におけるAlNの薄層の役割について、別な説明としては、GaNの異なる極性に起因してAlN/GaN界面で逆向きのピエゾ電界が生成することが挙げられる。Asbeckらは、Ga極性を有するAlGaN/GaNヘテロ構造は、ピエゾ電界的に誘起されたドナーを加えることにより二次元電子ガス(2DEG)の密度を増加させることを報告した。圧電的に誘起されたドナーの付加は、Ga極性の歪みヘテロ構造でのみ起こる。事実、Lutherらは、GaN上のTi/Al間あるいはPd/Al間の反応により生成した薄いAlNは、歪み下にあることを報告した。2DEGにおけるシートキャリア密度の増加は、ショットキー障壁幅を減少させ、障壁通過するキャリアのトンネリングを高め、それに続いてオーミック接触が形成される。しかし、逆向きの極性を有するAlGaN/GaNヘテロ構造は、2DEGを相殺してショットキー障壁を高くすることがある。GaskaらはAl_(0.2)Ga_(0.8)N/GaNヘテロ構造における逆方向のピエゾ電界が、障壁高さを0.7eV以上増加させたことを示唆した。また、Yuらは、ピエゾ電界効果を用いて、AlGaN/GaNヘテロ構造におけるNiの障壁高さを0.37eV増加させた。本研究では、我々は、n型GaN基板のN面上のTi/AlまたはPd/Al電極について、1eVという高い障壁高さを観察した。このように、本研究では、Ti/Al電極の反対の電気特性が結晶極性に依存することが観察され、それは自立n型GaN基板の結晶極性に依存しているAlN/GaNヘテロ構造における逆向きのピエゾ電界により説明できる。
まとめると、我々は、n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性における結晶極性の影響を調査研究した。異なる極性を有する試料上に作製された電極の電気特性は、大きく異なっていた。n型GaNのGa面上のTi/Al電極は30秒間600℃より高温でアニールするとオーミックとなったが、一方、n型GaNのN面上の電極は同一のアニール条件で1eVを超える障壁高さを有するショットキーコンタクトを形成した。これらの結果は、AlN界面層の形成によるものと説明することができる。GaNのGa面上のAlN層は、ピエゾ電界により誘導されたドーピングにより2DEGの密度を増加させ、結果としてオーミック接触を形成したが、一方、GaNのN面上のAlNは2DEGを相殺してTi/AlとGaNの間の障壁を増加させ、より高い障壁高さを有するショットキー接触を形成する結果となった。」(本文)

(5)平成24年(行ケ)10302号の判決34頁6?10行の記載は次のとおりである。
「甲3ないし9によれば,本件出願に係る優先権主張日当時、研磨前のGaN基板の転位密度は,1×10^(4)?10^(8)cm^(-2)程度であったことは,周知の技術であったものと認められる。そうすると,原告の主張する技術事項1(研磨前のGaN基板の転位密度は,1×10^(6)cm^(-2)程度であったこと)はおおむね認めることができる。」

2 平成28年7月5日付け審決の予告の概要は次のとおりである。
「第1ないし第4
・・・(省略)・・・

第5 本件訂正(その2)についての当審の判断
1 本件訂正(その2)の内容
被請求人は、平成27年9月28日に訂正請求書(その2)を提出して訂正を求めた(以下、『本件訂正(その2)』という。)。本件訂正(その2)の内容は、本件発明の明細書を訂正請求書(その2)に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、次の(1)及び(2)の事項をその訂正内容とするものである(・・・)。
・・・(省略)・・・

(1)請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項1
・・・(省略)・・・

イ 訂正事項2
・・・(省略)・・・

(2)請求項9に係る訂正
訂正事項3
・・・(省略)・・・

2 訂正要件の充足性についての判断
(1)請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正
訂正事項1が特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件(以下『訂正目的要件』という。)を充足するか否かについて検討する。
ア 特許請求の範囲の減縮に当たるか否かについて
(ア)訂正事項1は、・・・本件訂正(その2)前の請求項1に係る発明から、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子』を除こうとするものであって、本件訂正(その2)前の請求項1に係る発明を、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』以外の製造方法で製造されたものに形式的に限定して特定しようとするものである。

(イ)そこで、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』以外の製造方法で製造された窒化物系半導体素子、及び、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』で製造された窒化物系半導体素子が、それぞれどのような構造、特性等を有するものであるかについて、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載(当審注:本件訂正(その2)の前後で発明の詳細な説明の記載に変更はない。)に基づいて、以下検討する。

イ 物としての同一性について
(ア)訂正明細書の発明の詳細な説明には、n型GaN基板の裏面(窒素面)の機械研磨による厚み加工(n型GaN基板の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する)を行った後に、当該n型GaN基板の裏面(窒素面)を、反応性イオンエッチング(RIE)法によりエッチングし、その後、当該n型GaN基板の裏面(窒素面)上にn側電極を形成する工程で製造された『本発明の一実施形態』が記載されており(【0043】?【0049】)、上記『本発明の一実施形態』は、本件訂正(その2)前の請求項1に係る発明の実施形態であるとともに、平成27年9月28日付け訂正請求書(訂正請求書(その2))の5頁23行?6頁19行に、『(b)願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件訂正前の明細書の段落【0043】には『この後、図3および図4に示すように、n型GaN基板1の(000-1)面である裏面(窒素面)を機械研磨する。』(・・・(略)・・・)と記載され、段落【0044】には『図3に示した機械研磨装置30を用いて、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をn型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する。具体的には、ホルダ12の下面に取り付けられた窒化物系半導体レーザ素子構造20のn型GaN基板1の裏面(図4参照)を、研磨剤が配置されているバフ13の上面に、一定の負荷で押圧する。そして、バフ13(図3参照)に水またはオイルを流しながら、ホルダ12をR方向に回転する。このようにして、n型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで機械研磨を行う。』と記載されている。・・・
よって、訂正事項1は、新規事項の追加ではない(・・・(略)・・・)。』との記載があり、段落【0043】、【0044】の記載が訂正事項1が新規事項の追加ではないことの根拠であるとされていることからみて、上記『本発明の一実施形態』は、本件訂正(その2)後の請求項1に係る発明の実施形態でもあると認められる。
したがって、訂正事項1は、本件特許の請求項1に係る発明が、上記『本発明の一実施形態』のような、機械研磨を行った後にエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法(以下、便宜上、『機械研磨を行った後にエッチングする方法』という。)で製造された窒化物系半導体素子を含むものであることについては変更せず、ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法(以下、便宜上、『機械研磨を行わずにエッチングする方法』という。)で製造された窒化物系半導体素子を含まないものとしようとするものであると認められる。

(イ)そこで、機械研磨を行った後にエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子と、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子とを対比する。
機械研磨を行った後にエッチングする方法において、エッチングは機械研磨により生じた転位を除去することを目的としているから、エッチングにより窒化物半導体素子の裏面(窒素面)から機械研磨により生じた転位を含む層が完全に除去された場合、当該n側電極形成前の窒化物系半導体素子の裏面(窒素面)には、エッチングにより加工された表面のみが露出していると認められる。そうすると、この場合、窒化物系半導体素子の裏面(窒素面)の状態は、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子におけるエッチング後(n側電極形成前)の裏面(窒素面)の状態(当然、エッチングにより加工された表面のみが露出している)と何ら区別できないものと認められる。

(ウ)上記(イ)からみて、機械研磨を行った後にエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子と、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子とは、少なくとも、前者の窒化物系半導体素子がエッチングにより窒化物半導体素子の裏面(窒素面)から機械研磨により生じた転位を含む層が完全に除去された場合に、n側電極形成前の裏面(窒素面)の転位の存在状態の点において、物(窒化物系半導体素子)としてどのように異なるのかが不明であるといわざるを得ない。また、n側電極形成前の裏面(窒素面)の状態以外の点において、両者の間に、物の構造、特性等に何らかの差異があると考えるべき根拠も見出せない。

(エ)そうすると、訂正事項1により被請求人が除こうとしている物と、除かれた後に残った物のうちの一部との間に物(窒化物系半導体素子)としての差異がなく、結局、除かれた物と同一の物が本件訂正(その2)後の請求項1に包含されることになるのであるから、当該請求項1の記載事項によって特定される発明の範囲自体は、実質的には本件訂正(その2)の前と後で何ら変わっていないといわざるを得ない。
したがって、訂正事項1における『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という事項が、物(窒化物系半導体素子)の構造、特性等を限定していると認めることはできず、したがって、訂正事項1は請求項1の記載事項を限定すること等によって特許請求の範囲を減縮するものであるということはできない。

ウ PBPクレームとしてみた場合の明確性について
(ア)ところで、『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法を除く』とは、請求項1に係る発明が『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』以外の製造方法で製造されたものであることを特定するものであり、そうすると、『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法を除く』との記載を含む本件訂正(その2)後の請求項1を含む特許請求の範囲は、物(窒化物系半導体素子)の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に該当するから、当該特許請求の範囲は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下『PBPクレーム』という。)である。PBPクレームにおける発明の要旨の認定に関し、『平成24年(受)第2658号 特許権侵害差止請求事件 平成27年6月5日 最高裁判所第二小法廷判決』(以下『最高裁判決』という。)は、『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当である。』と判示している(4頁11行?14行)。また、上記最高裁判決は、『・・・(略)・・・特許法36条6項2号によれば、特許請求の範囲の記載は、『発明が明確であること』という要件に適合するものでなければならない。・・・(中略)・・・物の発明についての特許に係る特許請求の範囲の記載において、その製造方法が記載されていると、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか、又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり、適当ではない。他方、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては、通常、当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが、その具体的内容、性質等によっては、出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、特定する作業を行うことに著しく課題な経済的支出や時間を要するなど、出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく、上記のような事情がある場合には、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても、第三者の利益を不当に害することがないというべきである。以上によれば、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である・・・(略)・・・。』とも判示している(4頁15行?6頁7行)。

(イ)そこで、本件特許について、出願日において当該物(窒化物系半導体素子)をその構造、特性等により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下『不可能・非実際的事情』という。)が存在するか否かを検討する。
本件訂正(その2)後の請求項1に係る発明において、製造方法を、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』以外の方法に限定することによって特定される『窒化物系半導体素子』という物の構造又は特性は、本件特許明細書の記載によれば、『n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する』という特性であると認められる。
そうすると、製造方法を限定することによって特定される『窒化物系半導体素子』という物の構造又は特性は、本件特許の出願時において『n側電極と第1半導体素子との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する』として直接特定することが不可能であったとはいえず、また、およそ実際的でなかったということもできない。
そもそも、製造方法を限定することによって特定される『n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する』という『窒化物系半導体素子』という物の特性は、本件訂正(その2)前後の請求項1に発明特定事項として明記されているのであるから、当該物の特性を製造方法を限定することにより二重に特定する必要がないことは明らかである。
したがって、本件特許において、不可能・非実際的事情は存在しないから、訂正事項1を含む本件訂正(その2)後の請求項1に係る発明は明確でないというべきである。

(ウ)被請求人は、平成27年9月28日付け上申書(10頁32行?11頁8行)において、次のように主張している。
『本件発明は、窒化物系半導体基板を機械研磨することによって生じる転位がコンタクト抵抗を増大させるという技術課題を初めて見出し、その技術課題を初めて解決した新しい窒化物系半導体素子であることに技術的特徴がある。そして、このような技術的特徴を備えた窒化物系半導体素子であることを特定するためには、『電極が形成される第1半導体層の裏面側が機械研磨されていること』、あるいは『機械研磨を行わずに第1半導体層の一部を除去して露出した裏面に電極を形成する工程を含む製造方法により製造されたものを除くこと』により、本件発明を特定するしかなく、物の構造又は特性により直接特定することは不可能である。すなわち、本件訂正発明1がPBPクレームであるとしても、そこには、PBPクレームでなければならない不可能・非実際的事情が存在する。』
しかし、本件発明が、窒化物系半導体基板を機械研磨した場合の技術課題を解決しようとするものであり、機械研磨された半導体基板を前提とするものであるとしても、その機械研磨により生じた転位を含む領域が完全に除去された場合には、本件発明に係る窒化物系半導体素子には、もはや機械研磨の影響を受けた領域は残存しないから、『電極が形成される第1半導体層の裏面側が機械研磨されていること』や『機械研磨を行わずに第1半導体層の一部を除去して露出した裏面に電極を形成する工程を含む製造方法により製造されたものを除くこと』は、本件発明に係る窒化物系半導体素子を物として何ら特定するものとはいえない。
したがって、本件発明に係る窒化物系半導体素子は、『電極が形成される第1半導体層の裏面側が機械研磨されていること』、あるいは、『機械研磨を行わずに第1半導体層の一部を除去して露出した裏面に電極を形成する工程を含む製造方法により製造されたものを除くこと』により特定せざるを得ないものとはいえない。そして、本件特許に不可能・非実際的事情が存在しないことは、上記bで述べたとおりである。よって、被請求人の主張は採用できない。

(エ)上記(イ)及び(ウ)からみて、訂正事項1における『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という事項は、除こうとする対象が、物(窒化物系半導体素子)として明確でないといわざるを得ず、したがって、本件訂正(その2)後の請求項1に係る発明は明確でないといわざるを得ない。そうすると、訂正後の特許請求の範囲の記載が技術的に明確であるとはいえないから、訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じることができず、本件訂正(その2)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができるための前提を欠くというべきである(参考判決:平成26年(行ケ)第10204号 審決取消請求事件 平成27年3月11日 知的財産高等裁判所第3部)。よって、訂正事項1は、請求項1の記載事項を限定すること等によって特許請求の範囲を減縮するものであるということはできない。

エ アないしウのまとめ
上記イ及びウのいずれからみても、訂正事項1の目的が、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる『特許請求の範囲の減縮』であるということはできない。

オ 誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることに当たるか否かについて
(ア)訂正事項1の目的が、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる『誤記又は誤訳の訂正』であるとも、同条同項ただし書第4号に掲げる『他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。』であるともいえないことは明らかである。

(イ)被請求人は、本件訂正請求書(5頁17?22行)で『また、仮に、訂正事項1が特許請求の範囲の減縮を目的とするものではないとしても、訂正事項1により、本件訂正(その2)後の請求項1記載の第1半導体層は、n側電極が形成される裏面側が機械研磨を行わずにエッチングにより除去されたものを含まないことが明確となるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する(特許法第134条の2第1項ただし書第3号)。』と述べるとともに、平成27年9月28日付け上申書(9頁28行?10頁28行)において、次のとおり主張している。
『イ また、仮に、機械研磨を行った後にエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子と、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子とが、物(窒化物系半導体素子)として差異がないとの理由で、訂正事項1が特許請求の範囲を減縮するものではないとしても、訂正事項1は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
すなわち、窒化物系半導体基板からなる素子は、製造中の強度を得るために、ある程度の厚さが必要であるが、分割するためには、所定の厚さになるまで薄くする必要があるため、機械研磨により厚み加工している。厚み加工をすることは、エッチングのみでも可能であるが、所定の厚さになるまで加工するには膨大な時間を必要とする。このため、窒化物系半導体素子は、機械研磨を行うことなく、エッチングのみで厚み加工して製造することは現実的でなく、実際に行われていない。したがって、甲第2号証の段落【0217】の『研磨を行わずにドライエッチングによりn型GaN層66または65まで除去してn型電極を形成』との記載は、単に理論的には可能であることを示すにすぎず、現実の製造方法として実現されることを記載したものではないから、上記記載から甲2第二発明を認定することは妥当ではない。これに対し、本件発明では、通常の製造方法による機械研磨が行われており、その結果転位が生じていることを前提として、『第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下』と限定しているのであるが、本件では、審判合議体から上記段落に基づいて認定した甲2第二発明に基づく無効理由が通知されたため、被請求人は、本件発明と甲2第二発明との区別を明確にするために『除くクレーム』とする訂正を行ったのである。
訂正事項1は、形式的には特許請求の範囲の減縮に相当するが、現実の製造方法としては、エッチングのみで厚み加工して製造することは行われないから、本件発明が、エッチングのみで厚み加工するという非効率的で工業的生産としては現実には行われない製造方法により製造された甲2第二発明とは異なるものであることを明確にするために行ったものであり、不明瞭な記載の釈明に該当する。すなわち、本件発明は実施可能な発明であるから、『除くクレーム』とする訂正を行わなくても、機械研磨が行われ、その結果転位が生じていることを前提とするものであることは明らかであるが、審判合議体は、本件発明が、エッチングのみで膜厚を薄くするという工業的生産としては現実には行われない製造方法により製造された窒化物系半導体素子である甲2第二発明と対比できるものと判断しているため、訂正事項1により、あえて本件発明を明確化したのである。』
しかしながら、まず、本件訂正(その2)前の請求項1が機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造したものを包含することは明確なのであって、そもそも本件訂正(その2)前の請求項1の記載が『明瞭でない記載』であるとは認められない。次に、上記イ(イ)及び(ウ)で述べたとおり、n側電極が形成される裏面側が機械研磨を行わずにエッチングにより除去された窒化物系半導体素子と機械研磨を行った後にエッチングにより除去された窒化物系半導体素子とは物として区別することができないのであるから、訂正事項1によりn側電極が形成される裏面側が機械研磨を行わずにエッチングにより除去されたものを除くと規定しても、請求項1に係る発明が物として明確になったとはいえず、むしろ、訂正事項1によって除こうとしている物と除かれた後に残った物のうちの一部との間に物として差異がない(上記イ(エ))ということは、一体全体何が除かれたのかが不明ということでもあるから、物としては不明確になったとみることもできる。また、訂正事項1では、『除くクレーム』がPBPクレームであることにより、除こうとする対象が物として明確でない(上記ウ(エ))。そうすると、訂正事項1は、『明瞭でない記載の釈明』どころか、むしろ、元来明瞭であった記載を明瞭でない記載にしようとするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる『明瞭でない記載の釈明』を目的とするものに当たるともいえない。

カ 訂正事項1についての小括
よって、訂正事項1は、訂正目的要件を充足しないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件(以下『新規事項の追加禁止の要件』という。)の充足性及び特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件(以下『特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件』という。)の充足性について判断するまでもなく、訂正要件を充足しない。

(2)請求項9に係る訂正
ア 訂正目的要件の充足性について
訂正事項3は上記1(2)のとおりであり、請求項1の記載を引用する請求項5を新たな請求項9とする訂正と、本件訂正(その2)前の請求項5の『加工』を『機械研磨』とする訂正との2つの訂正を求めるものである。そして、前者の訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること(引用関係の解消)を目的とするものと認められる。また、後者の『加工』を『機械研磨』とする訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、請求項9に係る訂正は、全体として引用関係の解消を目的とするものと解される。
訂正事項3は、全体として他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること(引用関係の解消)を訂正の目的とするものであるから、訂正目的要件を充足する。

新規事項の追加禁止の要件の充足性及び特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件の充足性について
本件明細書の段落【0043】?【0049】には、n型GaN基板の裏面(窒素面)の機械研磨による厚み加工(n型GaN基板の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する)を行った後に、当該n型GaN基板の裏面(窒素面)を、反応性イオンエッチング(RIE)法によりエッチングして約1μmの厚み分だけ除去し、その後、当該n型GaN基板の裏面(窒素面)上にn側電極を形成する工程で製造された『本発明の一実施形態』が記載されており、エッチング後のn型GaN基板の裏面(窒素面)の結晶欠陥(転位)密度が1×10^(6)cm^(-2)以下にまで減少したとされており(【0046】)、また、上記『本発明の一実施形態』と同様の方法により作製された『試料4』のコンタクト抵抗が7.0×10^(-4)Ωcm^(2)であったことが記載されており(【0054】【表1】、【0056】)、訂正事項3は、本件明細書の記載から導き出すことができる事項であるから、新規事項を追加するものでない。
また、訂正事項3のうち『加工』を『機械研磨』とする訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであり、請求項1の記載を引用する請求項5を新たな請求項9とする訂正は請求項間の引用関係の解消を目的とするものである(上記ア参照。)から、訂正事項3は、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものでない。

3 意見書における被請求人の主張について
平成28年2月3日付け意見書(被請求人)における被請求人の主張(・・・)についての当審の見解は次のとおりである。

(1)訂正拒絶理由通知(・・・)の『(1)請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正 ア 訂正事項1 (イ)物としての同一性について』に対する被請求人の主張について
上記最高裁判決は、『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、その特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である』と判示している(物同一説)。そして物同一説に基づけば、審決予告(その1)及び訂正拒絶理由通知で説示したとおり、訂正事項1により被請求人が除こうとしている物と、除かれた後に残った物のうちの一部との間に物としての差異がなく、結局、除かれた物と同一の物が本件訂正後の請求項1に包含されることになるのであるから、当該請求項1の記載事項によって特定される発明の範囲自体は、実質的には本件訂正の前と後で何ら変わっていないといわざるを得ないのであって、被請求人の『訂正事項1は、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』ことで、本件訂正前の請求項1に係る発明から、機械研磨を行わずにエッチングのみで製造された素子の技術的思想を排除するものである』という見解には同意できない。したがって、被請求人の主張は、その前提を誤っており、採用できない。
また、十分な時間をかけてエッチングすれば、被請求人がいう『厚み加工』ができることは明らかであり、エッチングのみで製造された素子は機械研磨後にエッチング加工して製造された素子と物の構造、特性等に差異がない。また、エッチングのみで製造する方法がコスト等において現実的なのか否かは、両製造方法で製造した物における物の構造、特性等に差異があるのか否かとは関係がない。したがって、被請求人の主張は採用できない。

(2)訂正拒絶理由通知の『(1)請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正 ア 訂正事項1 (ウ)PBPクレームとしてみた場合の明確性について』に対する被請求人の主張について
訂正後の請求項1に記載された『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という事項を見た当業者は、訂正事項1により被請求人が除こうとしている物と、除かれた後に残った物のうち一部との間に物としての差異がないので、被請求人が何を除こうとしているのかを明確に理解することができない。そうすると、訂正事項1は、権利者(被請求人)がどの範囲について独占権を有するのかについて当業者が予測することをかえって困難にするものであるから、被請求人の主張は採用できない。
物同一説では、物の構造、特性等が同一の物であれば、例え、製造方法が異なっても、技術的範囲に包含されることとなるのだから、本件についてみると、物の構造、特性等に差異がないのであれば、例え『ただし、・・・製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という発明特定事項が存在していても、除かれたはずの当該製造方法で製造した物は、訂正後クレームの技術的範囲に包含されることになる。したがって、物同一説に立てば、『・・・を除く』によって、どのような物の構造、特性等を有するものを除外しているのかが明確でない限りは、当該『・・・を除く』は明確でないとされるのが相当である。被請求人の主張は、除かれた製造方法で製造された物は、どのような物でもクレームの技術的範囲外にあることを前提としていると理解できるが、当該前提はいわゆる製法限定説に立脚しているので、最高裁判決に反する主張である。
平成27年12月25日付け訂正拒絶理由通知の2(1)ア(ウ)bに記載したとおり、本件訂正後の請求項1に係る発明において、製造方法を、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』以外の方法に限定することによって特定される『窒化物系半導体素子』という物の構造又は特性は、『n側電極と第1半導体層の界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する』という特性であり、そうすると、製造方法を限定することによって特定される『窒化物系半導体素子』という物の構造又は特性は、本件特許の出願時において『n側電極と第1半導体層の界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する』として直接特定することが不可能であったとはいえないから、出願日において当該物(窒化物系半導体素子)をその構造、特性等により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとは認められない。
なお、本件発明を機械研磨による転位が残っている物に限定するのであれば、被請求人の主張は採用できなくもないが、訂正後の発明特定事項は、そのような物に限定したものとは認められない(『転位が存在する可能性がある場合』ということは、まったく存在しない場合も含むと解される。)。
以上のとおり、訂正事項1について、不可能・非実際的事情が存在するとは認められず、訂正事項1に係る訂正が訂正目的要件を充足するとは認められない。

(3)訂正拒絶理由通知の『(1)請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正 ア 訂正事項1 (オ)誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることに当たるか否かについて』に対する被請求人の主張について
本件訂正前の請求項1に係る発明は、物の発明として明確であるから、訂正事項1が『明瞭でない記載の釈明』を目的とするものであるとする被請求人の主張は採用できない。
なお、本件訂正前の請求項1が、技術課題を解決する必要のない方法で製造したものを包含するということは、発明の明確性の問題ではなく、請求項1が、解決しようとする課題を超えて拡張ないし一般化されているといういわゆるサポート要件違反の問題である。
上述のとおり、本件訂正前の請求項1に係る発明は、物の発明として明確である。他方、訂正事項1により被請求人が除こうとしている物と、除かれた後に残った物のうち一部との間に物としての差異がないので、被請求人が何を除こうとしているのかを明確に理解することができないため、当該訂正事項1は明確でない発明を明確にするというよりも、むしろ明確である発明を明確でない発明にする訂正であるといえる。よって、被請求人の主張は採用できない。

4 小括
上記2(1)のとおり、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正における訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件を充足しない。したがって、訂正事項2について判断するまでもなく、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正は、これを認めることができない。
また、上記2(2)のとおり、請求項9に係る訂正(訂正事項3)は特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件及び同法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を充足する。したがって、請求項9に係る訂正は、これを認める。

第6 本件発明に対する当審の判断
1 本件発明
上記第5のとおり、本件訂正の請求(その2)のうち、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正は認められず、請求項9に係る訂正は認められたので、本件の請求項1ないし8に係る発明は、本件訂正(その2)前の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認め、また、本件の請求項9に係る発明は、本件訂正(その2)後の特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

『【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。
【請求項2】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度が、1×10^(6)cm^(-2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項3】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である、請求項1または2に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項4】
前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が加工され、該加工により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項6】
前記第1半導体層のn型ドーパントが酸素であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項7】
前記第1半導体層の上面上に、Si、Se及びGeのいずれかがドープされたn型の窒化物系半導体層を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項8】
前記第1半導体層は、HVPE法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項9】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有し、
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする、窒化物系半導体素子。』(以下、請求項1ないし請求項9に係る発明を、それぞれ『本件発明1』ないし『本件発明9』という。)

2 甲各号証に記載された事項
(1)甲2に記載された発明(以下『甲2発明』という。)
ア 甲2の記載事項
・・・(省略)・・・

イ 甲2発明
上記アの摘記事項(ア)ないし(ケ)を含む甲2の全記載(特に、【0217】の『研磨を行わずにドライエッチングによりn型GaN層66または65まで除去してn型電極を形成する』方法についての記載を含む)からみて、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。

ウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体、例えば、GaN系半導体発光素子において、格子定数や熱膨張係数が異なるサファイア基板上にGaN結晶膜のエピタキシャル成長を行うと、基板やエピタキシャル層に歪みや欠陥、転位が発生し、また、厚い膜を成長した場合にはクラックが発生し、デバイスとしての性能が極端に悪くなるという問題があったので、サファイア基板上にエピタキシャル成長を行って形成されたものであっても、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくい、GaN結晶膜を提供することを目的とした発明であって、
『サファイア基板上にMOCVD法で膜厚1μmの下地結晶膜としてのGaN膜を形成し、該GaN膜上にSiO_(2)膜を形成し、該SiO_(2)膜をフォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状に成形してマスクを形成し、該ストライプ状のマスク間の領域である成長領域上に、塩化ガリウム(GaCl)をGa原料とし、アンモニア(NH_(3))ガスをN原料として、ハイドライドVPE法によりGaN結晶をエピタキシャル成長させると、GaN結晶は、初期段階ではマスク上に成長せず前記成長領域のみで成長するため、前記成長領域上のGaN結晶には基板の面方位とは異なる面方位を有するファセットが出現し、エピタキシャル成長を続けると、GaN結晶はファセット面に対して垂直な方向に成長が進むため、前記成長領域だけでなくマスク上にも成長し、やがてマスクを覆うようになって隣接する成長領域のGaN結晶のファセットと接触し、さらにエピタキシャル成長を続けると、ファセットが埋め込まれ、これにより平坦な表面を有するGaN結晶膜を得て、
GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得たGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハを基板として、該基板上に発光素子構造を形成する方法(以下『GaN基板法』という。)により作製されたGaN系半導体発光素子であって、
前記GaN結晶膜において、転位は、ファセットに向かって進み基板と垂直に伸びていたものが垂直な方向へ伸びることができなくなるためファセットの成長とともに横方向に曲げられ、そのほとんどは結晶の端に出てしまうか閉ループを形成するので、エピタキシャル膜の膜厚増加に伴い上部の成長領域では転位が減少していき、その結果、マスク近傍の比較的転位密度が大きい層領域である高転位密度層と、上層領域において、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層とを有するn型GaN結晶膜となり、
前記GaN基板法は、例えば、キャリア濃度が1×10^(18)cm^(-3)以上の前記n型GaN結晶膜が形成された基板をMOCVD装置にセットし、所定の温度、ガス流量、V族元素/III族元素比で、厚さ1μmのSi添加n型GaN層、厚さ0.4μmのSi添加n型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ2.5nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と厚さ5nmの無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.4μmのMg添加p型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、及び厚さ0.5μmのMg添加p型GaNコンタクト層を順次形成して発光素子構造を形成し、次に、研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含むものである、
GaN系半導体発光素子。』(審理事項通知書での呼称に合わせて、以下、『甲2第二発明』という。)

(2)その外の甲各号証(ただし、甲1、甲3の3、甲11、甲22、甲23を除く)に記載された事項の概要
・・・(省略)・・・

3 対比・判断
職権無効理由について判断する。
(1)本件発明1について
本件発明1と甲2第二発明とを対比する。
ア 甲2第二発明の『『サファイア基板上』に『GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得』た『GaNエピタキシャル層のみからなるウェーハ』からなる『基板』』、『『研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、下地結晶膜、マスク及びn型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面』、『素子裏面』』、『n型電極』及び『GaN系半導体発光素子』は、それぞれ、本件発明1の『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層』、『第1半導体層の裏面』、『n側電極』及び『窒化物系半導体素子』に相当する。

イ 甲2第二発明は、『第1半導体層の裏面(研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面)』側にチタンとアルミニウムからなる『n側電極(n型電極)』を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含み、『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層(GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得たGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハ)』を基板として、該基板上に発光素子構造を形成する方法(GaN基板法)により作製された『窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)』であるから、甲2第二発明の『窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)』と本件発明1の『窒化物系半導体素子』とは、少なくとも、『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極を備え』ている点で一致する。

ウ 甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成しているから、『第1半導体層の裏面(研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、下地結晶膜、マスク及びn型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面)』には、機械研磨により発生する転位は存在しない。そして、前記ドライエッチングにより、甲2第二発明の『第1半導体層の裏面』には、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層が露出することになるから、甲2第二発明の『窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)』と本件発明1の『窒化物系半導体素子』とは、少なくとも、『前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下』である点で一致する。

エ 上記ア?ウからみて、本件発明1と甲2第二発明とは、
『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極を備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下である、
窒化物系半導体素子。』で一致し、次の点において相違する。

相違点:
『前記n側電極と前記第1半導体層との界面』における『コンタクト抵抗』が、
本件発明1では、『0.05Ωcm^(2)以下』であるのに対し、
甲2第二発明では、0.05Ωcm^(2)以下であるかどうか不明である点

オ 相違点について
a 本件発明1における転位密度の上限値である『1×10^(9)cm^(-2)』及びコンタクト抵抗の上限値である『0.05Ωcm^(2)』については、機械研磨したGaN基板の裏面をRIE法(Cl_(2)ガス)によりエッチングして0.5μmの厚み分だけ除去した後にn側電極形成した試料3の裏面の結晶欠陥密度(転位密度)が『1×10^(9)cm^(-2)』であり(本件特許明細書の【0058】)、コンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)』であった(同【0054】【表1】)ことに基づいている。
また、【0039】?【0061】を含む本件特許明細書全体の記載から、本件発明1における転位密度の上限値『1×10^(9)cm^(-2)』及びコンタクト抵抗の上限値『0.05Ωcm^(2)』の持つ技術上の意義は、GaN基板の裏面を機械研磨した後にRIE法によるエッチングを行わずに(そのまま、あるいは塩酸処理しただけで)電極形成した試料(試料1及び試料2)における裏面の転位密度やコンタクト抵抗の値と比べてこれらの値が1桁以上小さいことであると理解できる(試料1及び試料2の裏面の転位密度は明記されていないが、【0046】の『エッチング前には、結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上であった』との記載から、1×10^(10)cm^(-2)かそれよりも少し高い程度であると考えられる。)。
b 本件発明1におけるコンタクト抵抗の上限値『0.05Ωcm^(2)』の持つ技術上の意義は、GaN基板の裏面を機械研磨した後にRIE法によるエッチングを行わずに(そのまま、あるいは塩酸処理しただけで)電極形成した試料(試料1及び試料2)における裏面のコンタクト抵抗の値と比べて1桁以上小さいことであると理解できる。しかしながら、試料3(エッチングあり)を試料2(エッチングなし)と比較すると、コンタクト抵抗は2分の1に(0.1Ωcm^(2)から0.05Ωcm^(2)に)なっているに過ぎないのに対し、試料4(エッチングで1μmの厚み分だけ除去)を試料3(エッチングで0.5μmの厚み分だけ除去)と比較すると、コンタクト抵抗は2桁下がって(0.05Ωcm^(2)から7.0×10^(-4)Ωcm^(2)になって)いることを考慮すると、本件発明1におけるコンタクト抵抗の上限値である『0.05Ωcm^(2)』は、機械研磨により発生した転位の一部のみを除去することにより達成できた値であり、RIE法によるエッチングを行わない試料2の転位密度に比べて格別に低い値というわけではないといわざるを得ない。
さらに、甲7に、GaN基板中の不純物濃度が1×10^(17)cm^(-3)を超えると接触比抵抗が1×10^(-5)Ω・cm^(2)以下となることが記載されており(上記2(2)カ参照。)、このことに照らしても、『0.05Ωcm^(2)』は格別の値ではないといわざるを得ない。
c 甲2第二発明においては、機械研磨を行わずに(甲2の【0217】参照。)ドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面にn型電極を形成しているところ、機械研磨を行っていないため、そのときの第1半導体層の裏面には機械研磨により発生する転位は存在しないのであるから、上記a及びbからみて、そのときの第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗は、機械研磨により発生した転位の一部のみを除去することにより達成できた値であり、裏面近傍の領域を除去しない(RIE法によるエッチングを行わない)試料の転位密度と比べて2分の1程度に過ぎず、かつ、本件特許の優先日前に知られていた値と比べて3桁も高い『0.05Ωcm^(2)以下』の範囲に入っている蓋然性が高く、仮にそうとまではいえないとしても、甲2第二発明において第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下となすことは、発明を実施する際に当業者が適宜なし得る程度の、いわゆる設計的事項であるといわざるを得ない。
d 上記aないしcからみて、甲2第二発明において、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下となすこと、すなわち、相違点に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

カ 効果について
本件発明1の奏する効果は、甲2第二発明の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

キ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明9について
・・・(省略)・・・

(3)本件発明2ないし8について
ア 本件発明2について
・・・(省略)・・・

イ 本件発明3について
・・・(省略)・・・

ウ 本件発明4について
・・・(省略)・・・

エ 本件発明5について
・・・(省略)・・・

オ 本件発明6について
・・・(省略)・・・

カ 本件発明7について
・・・(省略)・・・

キ 本件発明8について
・・・(省略)・・・

ク 本件発明2ないし本件発明8についてのまとめ
以上のとおり、本件発明2ないし本件発明5は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)及び周知技術1に基づいて容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明6ないし本件発明8は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(4)まとめ
上記(1)ないし(3)のとおり、本件発明1ないし本件発明9は、いずれも、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)付言
・・・(省略)・・・

第7 むすび
・・・(省略)・・・」

第5 本件訂正(その3)についての当審の判断
1 本件訂正(その3)の内容
被請求人は、平成28年9月8日に訂正請求書(その3)を提出して訂正(以下、「本件訂正(その3)」という。)を求めた。本件訂正(その3)の内容は、本件発明の明細書を訂正請求書(その3)に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、次の(1)及び(2)の事項をその訂正内容とするものである(訂正による変更部分に当審で下線を付した。)。
なお、上記第1の3に記載したとおり、本件特許無効審判事件において先にした訂正の請求(訂正請求書(その1)、訂正請求書(その2))は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなされた。これにより、別件無効審判事件(その審決は平成26年9月30日に確定した。)においてなされた訂正請求により訂正された請求項1及び請求項5が、本件訂正(その3)の前の請求項1及び請求項5となる。

(1)請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。

(本件訂正(その3)前)
「【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。」

(本件訂正(その3)後)
「【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなり、裏面側が機械研磨された第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。」

イ 訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を次のとおり訂正する。

(本件訂正(その3)前)
「【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が加工され、該加工により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。」

(本件訂正後)
「【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。」

(2)請求項9に係る訂正
訂正事項3
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を引用する請求項5を引用関係を解消して新たな請求項9とするとともに、請求項5の「加工」を「機械研磨」として、次のとおり訂正する。

(本件訂正(その3)前)
「【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。」
「【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が加工され、該加工により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。」

(本件訂正(その3)後)
「【請求項9】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有し、
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする、窒化物系半導体素子。」

2 訂正要件の充足性についての判断
(1)請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項1
(ア)特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件(以下「訂正目的要件」という。)の充足性について
訂正事項1は、上記1(1)アのとおりであり、本件訂正(その3)前の請求項1の「窒化物半導体基板」を「GaN基板」にする訂正と、本件訂正(その3)前の請求項1の「第1半導体層」について、その「裏面側が機械研磨された」ものであることを特定する訂正とからなる。前者の訂正は、「窒化物系半導体基板」をその下位概念である「GaN基板」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、後者の訂正の「裏面側が機械研磨された」は、単に「第1半導体層」の裏面側が機械研磨されているということを示す記載を付加するものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、訂正事項1は、全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件(以下「新規事項の追加禁止の要件」という。)の充足性について
願書に添付した明細書の段落【0043】には「この後、図3および図4に示すように、n型GaN基板1の(000-1)面である裏面(窒素面)を機械研磨する。」と記載され、段落【0044】には「図3に示した機械研磨装置30を用いて、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をn型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する。具体的には下面に取り付けられた窒化物系半導体レーザ素子構造20のn型GaN基板1の裏面(図4参照)を、研磨剤が配置されているバフ13の上面に、一定の負荷で押圧する。そして、バフ13(図3参照)に水またはオイルを流しながら、ホルダ12をR方向に回転する。このようにして、n型GaN基盤1の厚みが約120μm?約180μmになるまで機械研磨を行う。」と記載されていること等からみて、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。したがって、訂正事項1は、新規事項の追加禁止の要件を充足する。

(ウ)特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件(以下「特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件」という。)の充足性について
上記ア(ア)のとおり、訂正事項1は、全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件訂正(その3)前の請求項1に包含されていなかったものを、本件訂正(その3)後の請求項1が包含していることはないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。また、訂正事項1は、本件訂正(その3)前の請求項1の記載以外に、本件訂正(その3)前の請求項2?8の記載について何ら訂正するものではなく、本件訂正(その3)前の請求項2?8に包含されていなかったものを、本件訂正(その3)後の請求項2?8が包含していることはない。したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件を充足する。

(エ)(ア)ないし(ウ)のまとめ
上記(ア)ないし(ウ)のとおりであるから、訂正事項1は、訂正要件を充足する。

イ 訂正事項2
(ア)訂正目的要件の充足性について
訂正事項2は、上記1(1)イのとおりであり、本件訂正(その3)前の請求項5の「加工」を「機械研磨」とする訂正と、請求項5の引用請求項を本件訂正(その3)前の請求項1?4から請求項2?4にする訂正との2つの訂正を求めるものである。そして、後者の訂正は、訂正事項3において、請求項1の記載を直接引用する請求項5を請求項1を引用しない書き下した形にして新たな請求項9としたこと(下記(2)参照。)に伴い、従属請求項である請求項5から請求項1の記載を直接引用する請求項5を削除するものであるから、事実上、請求項9に係る訂正(訂正事項3)と一体となる訂正であって、訂正事項3とともに、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること(以下「請求項間の引用関係の解消」という。)を目的とするものである。また、前者の「加工」を「機械研磨」とする訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、訂正事項2は、全体として請求項間の引用関係の解消を目的とするものであるから、訂正目的要件を充足する。

(イ)新規事項の追加禁止の要件の充足性について
願書に添付した明細書の段落【0045】には「これにより、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を約1μmの厚み分だけ除去する。その結果、上記機械研磨に起因して発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板1の裏面近傍の領域を除去することができる。」と記載され、段落【0046】には「上記したエッチングによる効果を確認するために、エッチング前後におけるn型GaN基板1の裏面の結晶欠陥(転位)密度を、TEM(Transmission Electron Microscope)分析により測定した。その結果、エッチング前には、結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上であったのに対して、エッチング後には、結晶欠陥密度は、1×10^(6)cm^(-2)以下にまで減少していることが判明した。」と記載され、段落【0051】には「本実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセルでは上記したように、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を、RIE法によりエッチングすることによって、研磨工程に起因して発生したn型GaN基板1の裏面近傍の結晶欠陥を含む領域を除去することができる。」と記載され、段落【0056】には「すなわち、本発明による試料3?7では、機械研磨により発生した結晶欠陥を含む領域が、RIE法によるエッチングにより除去されたと考えられる。」と記載され、段落【0058】には「Cl_(2)ガスを用いたRIE法により、n型GaN基板の裏面を約1μmの厚み分だけ除去した試料4では、Cl_(2)ガスを用いたRIE法により、n型GaN基板の裏面を約0.5μmの厚み分だけ除去した試料3よりも、低いコンタクト抵抗を得ることができた。これは、約0.5μmの厚み分の除去では、機械研磨により発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板の裏面近傍の領域を十分に除去することができなかったためであると考えられる。これらの試料において、n型GaN基板の裏面の結晶欠陥(転位)密度を、TEM分析により測定したところ、試料3の結晶欠陥密度は1×10^(9)cm^(-2)であった。一方、試料4では、観察した視野中に結晶欠陥は観察されず、結晶欠陥密度は1×10^(6)cm^(-2)以下であった。したがって、RIE法によりn型GaN基板の裏面を約1.0μm以上の厚み分除去するのが好ましい。」と記載されているから、n型GaN基板の裏面を所定の厚み分除去する厚み加工が機械研磨で行われていること、及び、この機械研磨に起因して転位が発生していることが記載されていることは明らかである。したがって、本件訂正(その3)後の発明特定事項である「所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去された」は、願書に添付した明細書の記載から導き出すことができる事項である。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加禁止の要件を充足するものである。

(ウ)特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件の充足性について
訂正事項2は、上記したように、特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消を目的とするものであって、本件訂正(その3)前の請求項5に包含されていなかったものを、本件訂正(その3)後の請求項5が包含していることはないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件に適合するものである。
訂正事項2は、訂正前の請求項5の記載を引用する訂正前の請求項6?8の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記のとおり、本件訂正(その3)後の請求項5の記載は、本件訂正(その3)前の請求項5との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項2は、本件訂正(その3)前の請求項5の記載以外に、本件訂正(その3)前の請求項6?8の記載について何ら訂正するものではなく、本件訂正(その3)前の請求項6?8に包含されていなかったものを、本件訂正(その3)後の請求項6?8が包含していることはない。
したがって、訂正事項2は、本件訂正(その3)前の請求項6?8との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件を充足するものである。

ウ 請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正
請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正は、訂正事項1と訂正事項2とからなるところ、上記ア及びイからみて、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正は、訂正目的要件、新規事項の追加禁止の要件及び特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件を充足する 。

(2)請求項9に係る訂正
ア 訂正目的要件の充足性について
訂正事項3は上記1(2)のとおりであり、請求項1の記載を引用する請求項5を新たな請求項9とする訂正と、本件訂正(その3)前の請求項5の「加工」を「機械研磨」とする訂正との2つの訂正を求めるものである。そして、前者の訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること(請求項間の引用関係の解消)を目的とするものと認められる。また、後者の「加工」を「機械研磨」とする訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、請求項9に係る訂正は、全体として請求項間の引用関係の解消を目的とするものと解される。
訂正事項3は、全体として他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること(請求項間の引用関係の解消)を訂正の目的とするものであるから、訂正目的要件を充足する。

新規事項の追加禁止の要件の充足性及び特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止の要件の充足性について
願書に添付した明細書の段落【0043】?【0049】には、n型GaN基板の裏面(窒素面)の機械研磨による厚み加工(n型GaN基板の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する)を行った後に、当該n型GaN基板の裏面(窒素面)を、反応性イオンエッチング(RIE)法によりエッチングして約1μmの厚み分だけ除去し、その後、当該n型GaN基板の裏面(窒素面)上にn側電極を形成する工程で製造された「本発明の一実施形態」が記載されており、エッチング後のn型GaN基板の裏面(窒素面)の結晶欠陥(転位)密度が1×10^(6)cm^(-2)以下にまで減少したとされており(【0046】)、また、上記「本発明の一実施形態」と同様の方法により作製された「試料4」のコンタクト抵抗が7.0×10^(-4)Ωcm^(2)であったことが記載されており(【0054】【表1】、【0056】)、訂正事項3は、願書に添付した明細書の記載から導き出すことができる事項であるから、新規事項を追加するものでない。
また、訂正事項3のうち「加工」を「機械研磨」とする訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであり、請求項1の記載を引用する請求項5を新たな請求項9とする訂正は請求項間の引用関係の解消を目的とするものである(上記ア参照。)から、訂正事項3は、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものでない。

3 小括
上記2(1)のとおり、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件及び同法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を充足する。したがって、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正は、これを認める。
また、上記2(2)のとおり、請求項9に係る訂正(訂正事項3)は特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件及び同法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を充足する。したがって、請求項9に係る訂正は、これを認める。

第6 本件発明に対する当審の判断
1 本件発明
上記第5のとおり、本件訂正の請求(その3)のうち、請求項1?8からなる一群の請求項に係る訂正は認められ、また、請求項9に係る訂正も認められたので、本件の請求項1ないし9に係る発明は、本件訂正(その3)後の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなり、裏面側が機械研磨された第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。
【請求項2】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度が、1×10^(6)cm^(-2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項3】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である、請求項1または2に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項4】
前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項6】
前記第1半導体層のn型ドーパントが酸素であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項7】
前記第1半導体層の上面上に、Si、Se及びGeのいずれかがドープされたn型の窒化物系半導体層を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項8】
前記第1半導体層は、HVPE法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項9】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有し、
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする、窒化物系半導体素子。」(以下、請求項1ないし請求項9に係る発明を、それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明9」という。)

2 甲各号証に記載された事項
(1)甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。)
ア 甲2の記載事項
甲2には、次の(ア)ないし(ケ)の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(ア)「【請求項41】 成長させる結晶とは異なる材料からなる異種基板上に複数の成長領域を形成するようにストライプ状にパターニングされたマスクを形成する工程、該マスクの表面の清浄化処理を行う工程、該成長領域からファセット構造を形成しながら結晶成長させ、該マスクを介して隣り合う成長領域から成長した結晶と合体して該マスクを覆い、さらに該ファセット構造を埋め込んで表面を平坦化するようにエピタキシャル成長する工程を有することを特徴とするIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項42】 気相成長法によりエピタキシャル成長する請求項41記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項43】 マスク表面の清浄化処理をマスク表面をエッチングすることにより行う請求項41又は42記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項44】 マスク表面の清浄化処理をオゾン又は紫外光照射により行う請求項41又は42記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項45】 マスク表面の清浄化処理を、還元性雰囲気下で熱処理を行うことにより行う請求項41又は42記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項46】 前記マスクのストライプ方向が<11-20>又は<1-100>方向である請求項41?45のいずれか1項に記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項47】 前記異種基板上に下地結晶層を設け、該下地結晶層上にエピタキシャル成長する請求項41?46のいずれか1項に記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項48】 前記エピタキシャル成長後、前記異種基板を研磨あるいは研削して薄くする工程を有する請求項41?47のいずれか1項に記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項49】 前記異種基板を、エピタキシャル成長層の厚さの半分以下になるまで薄くする請求項48記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項50】 前記異種基板として、エピタキシャル成長層の所定の厚さの半分以下の厚さを有する異種基板を用いる請求項41?47のいずれか1項に記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項53】 前記異種基板の厚さがエピタキシャル結晶層の半分以下の厚さの状態で該異種基板にクラックを発生させた後、該異種基板を研磨あるいは研削により除去する請求項49又は50記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項54】 前記異種基板上に下地結晶膜を形成し、該下地結晶膜上にストライプ状マスクを形成する工程を有するIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法であって、研磨あるいは研削によって該異種基板とともに該下地結晶膜も除去する請求項53記載の半導体ウェーハの製造方法。
【請求項55】 クラック形成後、前記異種基板を研磨あるいは研削によって除去した後、前記ストライプ状マスクを除去する工程を有する請求項53又は54記載の半導体ウェーハの製造方法。
【請求項56】 クラック形成後、前記異種基板を研磨あるいは研削によって除去するとともに前記ストライプ状マスクを除去する工程を有する請求項53又は54記載の半導体ウェーハの製造方法。
【請求項57】 前記ストライプ状マスクが除去された側の結晶面を研磨により平坦化する工程を有する請求項55又は56記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。」

(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような異種基板上にエピタキシャル成長を行うと、基板やエピタキシャル層に歪みや欠陥が発生し、また、厚い膜を成長した場合にはクラックが発生することが報告されている(ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライド フィジックス第32巻(1993)1528-1533頁(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)pp.1528-1533))。このような場合には、デバイスとしての性能が極端に悪くなるどころか、成長層が粉々に破壊されるという結果をしばしば招いていた。
・・・(略)・・・
【0013】さて、ウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体の応用の一つには先に述べたように青色系の光デバイスがある。特に高密度記録の書き込み、読み出しが可能な青色レーザを光源としたデジタルビデオデイスク(DVD)への期待は大きい。このような半導体レーザのファブリペロ共振器は一般に劈開によって形成される。例えばサファイア基板の上にGaNエピタキシャル層を形成し、その上に窒素をV族元素としたIII族元素窒化物半導体でレーザ用ダブル・ヘテロ(DH)構造をエピタキシャル法で形成し、前記リソグラフィ技術における問題を克服してストライプ構造を形成できたとしよう。その後のプロセスとしては電極等を形成するわけであるが、最終的には一般に劈開によってファブリペロ共振器を形成しなければならない。」
・・・(略)・・・
【0017】そこで本発明の目的は、格子定数や熱膨張係数が異なる異種基板上にエピタキシャル成長を行って形成されたものであっても、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくい、GaN結晶膜、III族元素窒化物半導体ウェーハ及びその製造方法を提供することである。」

(ウ)「【0038】
【発明の実施の形態】<GaN結晶膜の成長方法>本発明のGaN結晶膜の成長方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0039】初めに、サファイア基板1上にGaNを含む下地結晶膜2を成長し、その表面上にフォトリソグラフィー法とウェットエッチング法を用いてストライプ状のマスク4を形成し、成長領域3を形成する(図1(a))。
【0040】マスク4は基板1上に直接形成してもよいが、下地結晶膜2の形成により予め転位密度をある程度低減することができ、後に形成するGaN結晶膜5の転位構造をより効果的に制御できるため、この下地結晶膜2は形成することが好ましい。このような下地結晶膜の材料としては、GaN、AlN、Al_(x)Ga_(1-x)N(0<X<1)、In_(x)Ga_(1-x)N(0<X<1)などのIII族元素窒化物が好ましい。なお、前記下地結晶膜の組成は必ずしも後にその上に形成するエピタキシャル層の組成と同じである必要はなく、場合によってはIII族元素窒化物に限る必要もないが、上記エピタキシャル層と同じ結晶系でウルツ鉱型結晶構造を有する材料が好ましい。このような下地結晶膜の厚さは0.5μm?20μmが好ましい。薄すぎると十分な効果が得られず、厚すぎるとクラックが発生しやすくなる。
・・・(略)・・・
【0051】マスクの形状はストライプ形状が好ましく、このときマスク14の厚さは0.01?5μmが好ましい。マスクの材料としては、SiO_(2)を用いることが好ましいがこれに限られるものではなく、SiN_(x)等の絶縁体膜でもよい。
・・・(略)・・・
【0055】次に、成長領域3に対しGaN結晶のエピタキシャル成長を行う。マスク4の付いた基板をエピタキシャル装置の反応管に挿入して、水素ガス、窒素ガス、または、水素と窒素の混合ガスとN原料ガスを供給しながら基板を所定の成長温度まで昇温する。温度が安定してからGa原料を供給して、成長領域3にGaN結晶層を成長する。結晶成長方法は、Ga原料に塩化ガリウム(GaCl)を用い、N原料にアンモニア(NH_(3))ガスを用いる塩化物輸送法による気相成長(VPE:Vapor Phase Epitaxy)であるハイドライドVPE法が好ましいが、Ga原料に有機金属化合物を用いる有機金属化合物気相成長(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)を用いてもよい。
【0056】GaN結晶は、初期段階ではマスク4上に成長せず、成長領域3のみで結晶成長が起こり、成長領域上のGaN結晶には基板の面方位とは異なる面方位を有するファセット6が形成される(図1(b))。このときのGaN結晶の成長条件はファセット構造が形成されるように650℃から1100℃の成長温度、N原料の供給量はGa原料の供給量に対し等倍から1000倍の範囲で行うことが好ましい。
【0057】さらにエピタキシャル成長を続けると、GaN結晶はファセット面に対して垂直な方向に成長が進むため、成長領域だけでなくマスク4を覆うようになる。そして隣接する成長領域のGaN結晶のファセットと接触する(図1(c))。
【0058】さらにエピタキシャル成長を続けると、ファセットが埋め込まれ(図1(d))、最終的には、平坦な表面を有するGaN結晶膜5を得ることができる(図1(e))。
【0059】通常、サファイア基板上にGaN結晶の結晶成長を行うと、基板との界面で発生した結晶欠陥にともなう転位は、界面と垂直方向に伸びるために、たとえエピタキシャル膜を厚くしても、転位の低減は見られない。
【0060】本発明における成長方法では、選択成長により成長領域にファセット構造を形成している。このファセットは成長速度が他の面より遅いために現れる。ファセットの出現により転位がファセットに向かって進み、基板と垂直に伸びていた転位が垂直な方向へ伸びることができなくなる。転位はファセットの成長とともに横方向に曲げられ、そのほとんどの転位は、結晶の端に出てしまうか、閉ループを形成する。その結果、エピタキシャル膜の膜厚増加に伴い、上部の成長領域では結晶欠陥が減少していく。これにより、エピタキシャル膜内の欠陥の低減を図ることができる。このようにファセット構造を形成して成長することで、結晶欠陥を大幅に減らすことが可能になる。
【0061】特に、Ga原料に塩化物を用いる塩化物輸送法による気相成長では、GaN結晶の成長が速いため、ファセット構造のうち基板面と同じ面が消えるのがはやい。したがって基板と垂直に伸びる転位は、はやくからファセット構造のうち基板面と異なる面の方向に伸びることになりGaN結晶における垂直に伸びる転位(貫通転位)を大幅に減らすことができる。
【0062】なお、Ga原料に有機金属化合物を用いる有機金属化合物気相成長では塩化物輸送法による気相成長と比べて成長速度が遅くなるが、上述のようにのGaN結晶のファセット構造のうち基板面と同じ面が速く消えるようにすればよい。例えば成長領域に対するマスクの面積を大きくすればマスク上からの成長種の供給量が増えるため成長領域におけるGaN結晶の成長を速めることができる。
【0063】またGaNのエピタキシャル成長について述べたが、InGaN膜、AlGaN膜あるいはInN膜をエピタキシャル成長しても同様な効果が得られる。さらに成長するこれらの結晶膜に不純物を添加しても同様な効果が得られる。
【0064】上述のように、本実施の形態で得られるGaN結晶膜は、結晶欠陥が大幅に減少しており、このGaN結晶膜上に形成する半導体レーザ等の素子構造(GaN結晶膜を含む積層構造)における結晶欠陥も大幅に減少させることができる。このため、異種基板(例えばサファイア基板)上に作製する積層構造の結晶性を改善することができ、優れた特性を有する半導体レーザ等の半導体装置を提供することができる。
【0065】また、このようなGaNの結晶膜の膜厚を所望の厚さに成長した後、少なくともサファイア基板等の異種基板を除去することで、好ましくは異種基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去することで、結晶欠陥の少ないGaN結晶膜が得られ、これを基板として用いることで半導体レーザ等の素子を形成する上でさらに様々な利点が得られる。
【0066】例えば、半導体発光素子の製造にGaN結晶膜の基板を用いた場合は、サファイア基板等の絶縁性の異種基板を用いた場合に問題となっていた半導体発光素子における基板裏面への電極形成が可能になる。
【0067】さらに、GaN結晶膜からなる基板(GaN結晶膜基板)上に形成する半導体発光素子がGaN結晶膜を含む半導体レーザの場合は、GaN結晶膜基板と半導体レーザの積層構造との劈開面が同じであるため、劈開による共振器ミラーの作製が可能となる。
【0068】なお、上記では、GaN結晶膜基板を用いて素子を作製した場合の利点について説明したが、サファイア基板等の異種基板上に、前述の選択成長方法により所望の厚さのGaN結晶膜を形成した後に半導体素子構造を順次作製し、その後、この異種基板を除去することによっても、基板裏面への電極形成と、劈開による共振器ミラーの形成が可能であることは言うまでもない。
【0069】サファイア基板等の異種基板上へのGaN結晶膜形成時の膜厚としては、20μm?1mmが好ましく、80μm?500μmがより好ましい。
【0070】また、GaN結晶膜上に素子構造を形成する場合には、結晶成長する側のGaN結晶膜の面だけでなく、異種基板付きGaN結晶膜から異種基板やマスク等を削除した側、すなわちGaN結晶膜の異種基板側の面を利用して素子構造を形成してもよい。この場合に、異種基板とともに除去するGaN結晶膜の厚さは300μm以下が好ましく、5?150μmがより望ましい。
【0071】このようなGaN結晶膜を素子基板として用いることにより、形成される半導体素子の積層構造の結晶性を改善することができ、その結果、優れた特性を有する半導体素子を提供することができる。
【0072】また半導体発光素子に適用した場合は、サファイア基板で問題となっていた半導体発光素子における基板裏面への電極形成が可能になる。
【0073】さらに半導体発光素子が半導体レーザの場合は、GaN結晶膜と劈開面が異なる異種基板上にレーザ構造を形成しても、劈開による共振器ミラーの作製が可能になる。」

(エ)「【0117】以下、転位構造に起因する、膜厚に依存する膜表面の転位密度の推移を述べる。
【0118】まず、各転位の全転位密度に対する割合の推移については、本発明によるGaN結晶膜中では、図17に示すような上記転位構造によって、上層領域(低転位密度層)において、A転位(c面に対して平行な変位ベクトルを持つ転位)すなわち下地結晶中の刃状転位であった転位が減少し、B転位(c面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つ転位)すなわち下地結晶2中の混合転位であった転位はそのまま上部層へ引き継がれるため、全転位数に対するA転位の割合は少なくなり、反してB転位の割合が多くなる。
【0119】ここでは、上記TEM観察によってGaN結晶膜中の転位のキャラクタを判別した結果、従来の一般的な方法でサファイア基板上に直接成長したGaN結晶膜中では、B転位の割合が30%以下であったのに対して、マスク幅、開口部幅、マスク周期に対する開口部幅の割合、マスクのストライプ方向を変化させることで全転位数に対して少なくとも50%以上がB転位となる領域が存在することを確認した。」

(オ)「【0126】まず、上記のGaN結晶膜の成長方法に従って、基板1上にn型GaN結晶膜65を形成する(図11(a)及び(b))。
【0127】次に、このn型GaN結晶膜65上にGaN系半導体発光素子の素子構造を作製する。n型GaN結晶膜65が形成された基板をMOCVD装置にセットし、所定の温度、ガス流量、V族元素/III族元素比で、n型GaN層66、n型AlGaNクラッド層67、n型GaN光ガイド層68、アンドープInGaN量子井戸層とアンドープInGaN障壁層からなる多重量子井戸構造活性層69、p型AlGaN層70、p型GaN光ガイド層71、p型AlGaNクラッド層72、p型GaNコンタクト層73を順次形成して発光素子構造を作製する(図11(c))。
【0128】次に、発光素子構造を形成した基板を研磨器にセットし、基板1、下地結晶膜2、マスク4及びGaN結晶膜の一部を研磨してn型GaN結晶膜65を露出させる。露出したGaN結晶膜の面、すなわちGaN系半導体発光素子裏面側にn型電極74を形成し、表面側にp型電極75を形成する(図11(d))。
【0129】本実施の形態により以下の効果が得られる。
【0130】本発明のGaN結晶膜上にGaN系半導体素子構造を成長することにより、従来のサファイア基板を用いた成長で問題となっていたGaN系半導体素子構造におけるエピタキシャル成長膜の結晶性が改善でき、素子特性を向上させることができる。
【0131】特にGaN系半導体発光素子の場合においては、裏面に電極を形成することができるため、従来のようにドライエッチング等の複雑な作製工程で電極をGaN結晶膜の表面に形成することなく素子を作製でき電極作製工程が簡略化できる。
【0132】またGaN系半導体発光素子がGaN系半導体レーザの場合は、結晶欠陥が少ないGaN結晶厚膜を形成した後に、基板、マスク等を除去することで、劈開によりGaN系半導体レーザ構造の共振器ミラー面を形成できる。サファイアとGaN結晶とは結晶の劈開面が異なるため、従来、サファイア基板上に作製したレーザ構造の共振器ミラーは劈開により形成することが困難であった。これに対し、本発明では結晶欠陥が少ないGaN結晶膜65を厚く成長することができるため、サファイア基板やマスクを除去してもGaN結晶膜上に形成したGaN系半導体レーザ構造には影響はなく、またGaN結晶膜65上のレーザ構造は劈開により共振器ミラー面を形成できる利点を持っているため、従来のドライエッチング等による複雑な工程で共振器ミラー面を形成したものに比べ大幅に簡略化でき歩留まりも大幅に向上できる。
【0133】なお、上記の説明では、GaN結晶膜上にGaN系半導体素子の積層構造を作製した後に基板1とマスク2とGaN結晶膜65の一部を除去したが、GaN結晶膜を形成し基板1とマスク2とGaN結晶膜65の一部を除去した後にGaN系半導体素子の積層構造を作製してもよい。
【0134】またGaN系半導体素子としては、GaN系半導体レーザやGaN系LED等のGaN系半導体発光素子の他にFETやHBTなどのデバイスにも適用可能である。」

(カ)「【0135】<GaN結晶膜の転位のキャラクタ組成>前記のGaN結晶膜の成長方法に従ってサファイア基板上に成長したGaN結晶膜において、サファイア基板とマスクを含む下層領域が除去されたGaN結晶膜は、含有される転位の過半数がGaN結晶のc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つ転位(B転位)であることが、前記のTEMによる解析で確認された。これに対して従来の一般的な方法でサファイア基板上に直接成長したGaN結晶膜(サファイア基板を除く結晶層領域)中では、B転位の割合が30%以下であった。また、本発明のGaN結晶膜の上層領域(サファイア基板とマスクを含む下層領域が除去された結晶領域)中のA転位(GaN結晶のc面に平行な変位スベクトルを持つ転位)の全転位数に対する割合は、従来のGaN結晶膜中のそれに対して少なくなっており、本発明の結晶膜の上層領域中に含有される転位は、ほぼB転位とA転位のみであった。
【0136】本発明のGaN結晶膜は上記の特徴的な転位構造を有するため、GaN結晶膜中のB転位の割合が増大していることはA転位が低減、すなわち全転位の密度が低減していることを意味する。よって、半導体レーザ等の半導体装置の用途に好適なGaN結晶膜は、B転位がGaN結晶膜に含有される転位中の50%以上であることが好ましい。また、このGaN結晶膜中のA転位の全転位数に対する割合は50%未満であることが好ましい。さらにA転位の転位密度は1×10^(8)/cm^(2)未満であることが好ましい。このGaN結晶膜中の全転位の転位密度は2×10^(8)/cm^(2)以下であることが好ましく、1×10^(7)/cm^(2)以下であることがより好ましい。
【0137】また、サファイア基板とマスクを含む下層領域を除去して好適なGaN結晶膜を得るためには、サファイア基板上へ形成するGaN結晶膜の膜厚は、20μm?1mmが好ましく、80μm?500μmがより好ましい。また、基板とともに除去する下部領域のGaN結晶膜の厚さは300μm以下が好ましく、5?150μmがより望ましい。下地結晶層を形成している場合はサファイア基板等の除去とともに下地結晶層も除去することが好ましい。
【0138】以上は、GaNからなる結晶膜について説明したが、本発明はウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体であれば適用可能である。GaN以外のIII族元素窒化物半導体としては、InGaN、AlGaN、InN等が挙げられる。なお、ボロンと窒素からなるIII族元素窒化物半導体の結晶構造は立方晶であるが、III族元素窒化物半導体にボロンが含有されていても、ウルツ鉱型結晶構造を保てる含有量の範囲であれば本発明に包含される。」

(キ)「【0176】<異種基板の除去方法>次に、異種基板を取り除く方法について具体例を挙げて説明する。ここでは約250μm厚のGaN結晶をサファイア基板上に成長して得られたウエーハを研磨してサファイア基板を除去した例を説明する。
【0177】まず、GaN結晶側の表面(ウェーハ表面)を粘土状のいわゆるコンパウンドで保護する。次に露出したサファイア表面(ウェーハ裏面)をサンドブラスト法によって研磨する。サンドブラスト法は良く知られているように研磨面にジルコニア、アルミナ、炭化珪素などの粒子をノズルから高速で衝突させるものであるため、曲面をもった素材の高速の研磨に適した方法である。高速で研磨しようとすれば粒径の尺度として500番程度のものを用い、低速で研磨する場合は3000番程度の粒径の小さなものを用いることが好ましい。また、粒子の材料としてはジルコニアが好ましく、サファイア以外の炭化珪素、MgAl_(2)O_(4)などからなる異種基板についても良好な研磨性が得られた。
【0178】このサンドブラストによる研磨はサファイア基板の厚さが50μm厚程度になるまで行った。この後、コンパウンドを取り去ると反りは著しく軽減されていた。同時にサファイア基板にはクラックが多数発生しており、サファイア基板が薄くなった以上に反りの軽減が加速されていた。
【0179】クラックの発生はサファイア基板の厚さが100μmでも発生し、実質的に反りが解除される。
【0180】サンドブラスト法による研磨、コンパウンド除去後においてクラックの発生がない場合には反りはかなり残存している。しかし、この場合においてもドライアイスや液体窒素などの寒剤に曝することによってウエーハ温度を下げるとサファイア基板にクラックが発生し、反りを低減できる。
【0181】クラックを発生させて実質的に反りを解除するための条件は、III族元素窒化物半導体エピタキシャル層の厚さ100?500μmにおいては、異種基板の厚さがそのエピタキシャル層の厚さの2分の1以下であることが好ましい。厚めの異種基板を用いて結晶成長し、エピタキシャル層の厚さの2分の1以下になるまで異種基板を研磨してもよいし、所定のエピタキシャル層の厚さの2分の1以下の厚さの異種基板を用いてエピタキシャル成長を行ってもよい。例えば、厚さ200μmのサファイア基板上に厚さ500μmのGaN層をエピタキシャル成長させた場合、成長温度から室温に降温する段階でサファイア基板にクラックが発生し、反りが軽減される。たとえクラックが発生しなくても寒剤に浸して温度を下げれば、容易にクラックが発生して反りが軽減される。
【0182】なお、サファイア基板のサンドブラスト研磨はサファイア基板を完全に取り除くまで行ってもよいが、サンドブラスト法によるGaN層への損傷をなるべく避けるために10μm厚程度のサファイア基板を残しておくとよい。
【0183】以上のようにして反りが解除されたウエーハは、GaN成長面(ウェーハ表面)にて通常の研磨用重しに平らに張り付けることができ、サファイア基板、下地結晶層、選択成長用マスクを常法により研磨除去することができる。その結果、GaNエピタキシャル層のみからなるウェーハが得られる。実際には、選択成長用マスクが露出した時点からウエーハ全体の厚さをモニターしながらGaNエピタキシャル層に至るまで研磨を行った。
【0184】なお、このような研磨の際、選択成長マスクまで研磨せず、マスクが露出した時点で研磨を停止し、マスクをエッチングで取り除いてもよい。マスク材がSiO_(2)ならば希フッ酸ですぐに除去することができる。
【0185】また、後述するが、半導体レーザ等のデバイスの作製のためには、マスク近傍の領域は比較的転位密度が大きいため、この領域を含む層領域(以下「高転位密度層」という。)を上記研磨の際に除去することが好ましい。
【0186】また、GaNエピタキシャル層のみからなるウェーハの厚みとしては、200μm程度以上あれば、後に述べるその上へのDH構造の形成や各種デバイス作製プロセスに必要な十分な強度が得られる。
【0187】<青色半導体レーザの作製>次に、上記のようにして得られた1インチ直径のGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハを基板(以下「GaN基板」という。)として、半導体レーザ用DH構造形成のためのエピタキシャル成長を行い、青色半導体レーザを作製した一例を説明する。
【0188】DH構造は種々のプロセスで形成可能であるが、ここではGaAs基板やInP基板等の導電性基板の上に形成された半導体レーザの製造プロセスとほぼ同様のプロセスを用いることができる。
【0189】図16に、GaN基板上に形成したDH構造を有する半導体レーザの共振器断面より見た構造断面図を示す。GaN基板201側よりケイ素添加n型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層202(厚さ0.5μm)、ケイ素添加n型GaN光ガイド層203(厚さ0.1μm)、無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層(厚さ30A)と無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる7周期の多重量子井戸構造活性層204、マグネシウム添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nインジウム解離防止層205(厚さ200A)、マグネシウム添加p型GaN光ガイド層206(厚さ0.1μm)、マグネシウム添加p型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層207(厚さ0.5μm)、及びマグネシウム添加p型GaNコンタクト層208(厚さ0.2μm)を連続してMOCVD法によって形成した。DH構造の最上層には酸化珪素膜209を形成し、幅10μmのストライプ状の電流注入用窓を形成し、この上にニッケルと金からなるp型電極210を形成した。212はレーザ光出射領域である。次に、p型電極面で研磨用重しに貼りつけ、GaN基板を研磨し、劈開可能な厚さ(通常、60μm?100μm)に仕上げた後、チタンとアルミニウムからなるn型電極211を裏面に形成する。この後、劈開によって共振器面を形成し、隣り合う電流注入用窓の中間で切断すれば青色レーザ素子ペレットが完成する。最終的に出来上がったレーザのストライプ長すなわち共振器間隔長は250μmとした。
【0190】このような上記プロセスの利点は、裏面に電極を形成する直前に、劈開可能な厚さまでウエーハを研磨すればよく、上部電流狭窄用ストライプ構造の形成や表面への電極の形成が厚いウエーハ状態で実施できるメリットがある。
【0191】<レーザ特性>以上のようにして作製した半導体レーザを室温(約25℃)でパルス動作させ、閾値を測定した。得られたレーザの閾値電流は120mA(電流密度?4kA/cm^(2))前後の良好な値を示した。これに対して、選択成長用マスクなしにサファイア基板上に成長したGaNウエーハを基板として作製したレーザは、50mA程度高い値を示した。
【0192】この理由については、転位密度が減ったこと、とりわけA転位密度が大幅に減少したためと考えられる。GaN系では転位密度の高い結晶においても高い輝度の発光ダイオードが容易に得られることから、転位は少数キャリアの再結合センターとしての機能は小さいようである。しかし、半導体レーザでは閾値電流は十分に下がらない。半導体レーザはよく知られているように活性層中での導波光に対して光学的利得を得る条件が達成されなくてはならない。しかし、前記のようにA転位は結晶中の小傾角粒界の発生原因であり、この小傾角粒界においては光散乱が起こりやすい。すなわち、A転位密度の大きな結晶においては小傾角粒界での光散乱が原因で導波光に対する光学的利得が上がらないために閾値を下げることができなかったと解釈される。逆に言えば、本発明によればA転位密度を大幅に減少できたことで、本発明のウェーハ上に成長したDH構造活性層中での導波光の散乱が減少し、高い光学的利得を得たことにより閾値の減少が達成されたと考えられる。
【0193】さて、閾値測定を行ったレーザはいずれもウエーハの中央部1cm直径内から劈開したもので共振器となる劈開面に傷等のないものを選別したものである。しかし、ウエーハ間で閾値のバラツキに特徴があり、これが2つに分類できることが判明した。閾値のバラツキの少ないものをA群のウエーハ、閾値にややバラツキがあるものをB群のウエーハとして以下説明する。
【0194】A群のウエーハでは各ウエーハにおいて閾値のバラツキは10パーセント内外であり、かつ最も大きい閾値のものでもウエーハ内平均値の120パーセントを超えるものは見つからなかった。B群のウエーハにおいても閾値のバラツキはやはり10パーセント内外であることには変わりがないが、特徴はウエーハ内平均値の1.5倍以上のものが10ないし20個に1つ程度の割合で生じることである。
【0195】A群ウエーハとB群ウエーハの差違について詳しく調べたが出来上がったレーザに関して特別な差違は見られなかった。そこで、DH構造エピタキシャル成長後のウエーハについて断面構造を調べてみた。この結果、A群ウエーハではGaN基板ウエーハ全断面にわたって低転位層となっているのに対し、B群ウエーハではGaN基板ウエーハ裏面付近に高転位層が存在していることが解った。
【0196】高転位層がどのようにDHエピタキシャル層に影響し、さらにレーザ閾値に影響するかについては現状ではよく解らない。しかし、以下に述べる理由がその原因だと考えられる。すなわち、前記したようにGaN基板ウエーハに高転位層が存在した場合には、DH構造エピタキシャル成長や後のプロセスにおける高温加熱時に高転位層で転位が反応したり、高転位層でウエーハ面と水平に折れ曲がった刃状転位が再び、層厚に方向に折れ曲がってDH構造エピタキシャルに到達するためと考える。10ないし20個に1つの割合で閾値の大きなものがでる理由は図9からも予想されることであるがストライプ選択成長マスクの周期で転位密度の変化がGaN基板エピタキシャル層の高転位密度層を含む初期成長層には存在し、この周期変化に応じた特に高密度の領域から延びた転位群が電流狭窄用ストライプ活性層領域に到達した場合に生じると考えられる。
【0197】従って、製造歩留まりや特性検査工数を考えた場合には高転位密度層を完全に除去したGaN基板を用意してDH構造エピタキシャル成長を行うことが好ましい。すなわち、半導体レーザの作製に用いるGaN基板としては、サファイア基板、下地結晶層、マスク、マスク近傍の高転位密度層までをすべて取り除いたものが好ましい。ただし、レーザ構造の形成のためのエピタキシャル成長の際には、GaN基板に適度の厚みが要求されることを考慮することが必要である。
【0198】以上、サファイア基板上に成長したGaNウェーハを基板に用いて作製したレーザの特性について述べたが、サファイア基板上に成長する際にAlを添加したGaN、すなわちAlGaNウェーハを基板として作製したレーザについてもレーザ特性を調べた。この場合、レーザの閾値電流は20mA程度低減するものが得られた。この場合のAl_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層202の厚みは1.5μmとした。閾値電流の低減は、クラッド層202の厚膜化による光閉じ込め効果が原因と思われ、上部クラッド層207についても厚膜化すればさらに閾値電流や微分量子効率の改善が可能であると考えられる。
【0199】<成長表面の平坦化による閾値の再現性向上>半導体レーザのDH構造をエピタキシャル成長する場合にはGaN基板の表面状態について注意が必要である。注意する点はGaN基板の成長表面の平坦性で、成長表面が平坦でないとDH構造エピタキシャル層、特に活性層の平坦性が保持できない。活性層の平坦性の確保が重要なことは導波の点から考えれば明らかであるが、特に結晶学的に決まる劈開によって形成される共振器面と活性層面のなす角度が直角からズレることの方を危惧すべきである。この角度のズレがあると導波してきた光が共振器面で反射されてもどる場合に大きく損失し、しきい値を増大させるからである。この角度のズレの許容限界は1度を大きく下回ると考えられる。
【0200】一般に、GaN基板の成長表面は100μm以上の厚いエピタキシャル成長後の表面であり、多くは成長縞やうねりがみられる。そこで、サファイア基板を除去し、マスクと共にマスク近傍の高転位密度層を取り除いたGaN基板を研磨用重りからはがして裏表を張り替え、GaN基板の成長最上層を研磨して成長縞やうねりを取り除いてから、DH構造形成のためのエピタキシャル成長を行った。すなわち、ここでは、GaN基板の成長終了面を研磨して平滑化した表面を主面としてDH構造形成のためのエピタキシャル成長を行った。このようにして作製されたGaN基板をウエーハに用いて作製されたストライプレーザの閾値はバラツキが小さく良好なレーザ特性が得られた。
【0201】別の形態として、DH構造形成のためのエピタキシャル成長を、サファイア基板、下地結晶層、マスク、及びマスク近傍の高転位密度層を取り除いて形成されたGaN基板の裏面(サファイア基板が存在していた側の面)に行って半導体レーザを作製した。すなわち、III族元素窒化物半導体ウェーハの表裏の2つの主面のうち転位密度の比較的高い方の主面上に素子構造が形成された場合においても、得られた半導体レーザの閾値等のレーザ特性は同様に良好であった。この場合、成長面の成長縞やうねりを除去するための研磨工程が不要となる。なお、GaN基板の表面に成長した場合に較べて転位密度は若干高くなることが考えられるが、マスク近傍の高転位密度層を十分に除去すれば、閾値等のレーザ特性が良好な半導体レーザを作製することができる。
【0202】以上、半導体レーザのDH構造が平坦である場合について説明した。しかし、DH構造を有する半導体レーザの製造方法には、水平横モードの制御を行うために、DH構造の形成ためのエピタキシャル成長前に基板表面を加工して予め電流注入領域となる部分に溝を彫り込む等の技術がある。このような技術においても本発明のGaN基板等のIII族元素窒化物半導体ウェーハは問題なく適用可能である。
【0203】本発明のIII族元素窒化物半導体ウェーハは、電界効果トランジスタ等の電子輸送デバイスに適用しても、電子の移動度が改善されたり、電極等の製造歩留まりや信頼性が向上する等の効果が得られる。この電子の移動度の改善は、A転位がもたらす小傾角粒界での散乱が減ったためと考えられる。また、電極の信頼性の改善は、半導体レーザにもいえるが、転位が減少した結果、電極金属の転位線(特にA転位)に沿っての異常拡散が減少したためと考えられる。このように、本発明のウェーハは、高集積化された各種半導体装置に適用可能であり、III族元素窒化物半導体の応用分野の一つとして期待されている、自動車エンジン等の発熱装置の近くに搭載しても動作可能な高温動作-高性能半導体装置の実現にも大きく寄与するものである。
【0204】
【実施例】次に本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0205】(実施例1)本発明の実施例について図1を参照して説明する。本実施例では、基板として、(0001)面サファイア(Al_(2)O_(3))基板1上に膜厚1μmのGaN膜(下地結晶膜)2をあらかじめ形成した基板を用いた。この下地結晶膜の成長にはMOCVD装置を用いた。まずサファイアを450℃に加熱して、Ga原料のトリメチルガリウム(TMG:(CH_(3))_(3)Ga)とアンモニア(NH_(3))を供給して、400Åの厚さのGaNを成長した。その後、温度を1000℃に上昇させてGaNを成長させた。このGaN膜2表面にSiO_(2)膜を形成し、フォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状のマスク4を形成し、成長領域3を分離・形成した。成長領域3及びマスク4は、それぞれ幅5μm及び2μmのストライプ状とした。ストライプ方向は<11-20>方向とした((図1(a))。
【0206】成長領域3に成長するGaN結晶は、Ga原料にガリウム(Ga)と塩化水素(HCl)の反応生成物である塩化ガリウム(GaCl)とN原料にアンモニア(NH_(3))ガスを用いるハイドライドVPE法により成長させた。GaClは、金属GaとHClを800℃程度に保った反応管上流部で反応させて得た。基板を成長装置にセットし、水素雰囲気で成長温度1000℃に昇温する。成長温度が安定してから、HCl流量を20cc/毎分で供給し、NH_(3)流量1000cc/毎分で5分程度供給することで、成長領域3にGaN結晶の{1-101}面からなるファセットを成長させた(図1(b))。さらに、20分間程度エピタキシャル成長を続け、マスク4を覆うまでファセット6を発達させた(図1(c))。
【0207】エピタキシャル成長を続けることによりファセット構造を埋め込み(図1(d))、最終的には、5時間の成長で200μm程度の平坦な表面を有するGaN膜を形成させた(図1(e))。GaN結晶膜5を形成後、アンモニアガスを供給しながら、常温まで冷却し成長装置より取り出した。
【0208】本実施例によって形成されたGaN膜5には、サファイア基板1と格子定数や熱膨張係数が違うにもかかわらずクラックが入っていないことが確認された。しかも、厚膜成長を行ったGaN結晶膜には、欠陥が非常に少なく、転位密度は10^(7)/cm^(2)程度であった。なお、転位密度は、透過電子顕微鏡を用い、膜表面付近の平面観察によって計測した。
【0209】本実施例で成長したGaN結晶膜は欠陥が非常に少なく、この上にレーザ、FET、HBTなどの高品質なデバイス構造を成長することで、デバイス特性を向上させることが可能となる。
【0210】(実施例2)本実施例について図11を参照して説明する。図11は、本発明のGaN結晶膜上にGaN系半導体レーザを製造する方法を説明するための概略工程断面図である。
【0211】(0001)面のサファイア基板1上に、実施例1と同様にMOCVD法で膜厚1μmのGaN膜2を形成した。このGaN膜2上にSiO_(2)膜を形成し、実施例1と同様にフォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状のマスク4を形成し、成長領域3を分離・形成した。成長領域3及びマスク4は、それぞれ幅5μm及び2μmのストライプ状とした。ストライプ方向は<11-20>方向から10度傾けて形成した(図11(a))。
【0212】成長領域3に成長するGaN結晶は、上記の実施例1と同様にGa原料にガリウム(Ga)と塩化水素(HCl)の反応生成物である塩化ガリウム(GaCl)とN原料にアンモニア(NH_(3))ガスを用いるハイドライドVPE法を用いた。基板を成長装置にセットし、水素雰囲気で成長温度1000℃に昇温する。650℃の温度から基板をNH_(3)ガス雰囲気にする。成長温度が安定してから、HCl流量を40cc/毎分で供給し、NH_(3)流量1000cc/毎分、およびシラン(SiH_(4))流量0.01cc/毎分で150分間の成長で、実施例1で説明した図1の(a)から(e)の成長過程を経て、マスク4を埋め込んだ膜厚200μmのn型GaN結晶膜65を形成する(図11(b))。n型GaN結晶膜65を形成後、NH_(3)ガス雰囲気で常温まで冷却し、成長装置より取り出す。GaN結晶膜65は、1×10^(18)cm^(-3)以上のキャリア濃度であった。
【0213】次に、GaN系半導体レーザ構造の作製には、有機金属化学気相成長法(MOVPE)を用いて作製した。
【0214】GaN膜65を形成後、MOCVD装置にセットし、水素雰囲気で成長温度1050℃に昇温する。650℃の温度からNH_(3)ガス雰囲気にする。Siを添加した1μmの厚さのn型GaN層66、Siを添加した0.4μmの厚さのn型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層67、Siを添加した0.1μmの厚さのn型GaN光ガイド層68、2.5nmの厚さのアンドープIn_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と5nmの厚さのアンドープIn_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層69、マグネシウム(Mg)を添加した20nmの厚さのp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層70、Mgを添加した0.1μmの厚さのp型GaN光ガイド層71、Mgを添加した0.4μmの厚さのp型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層72、Mgを添加した0.5μmの厚さのp型GaNコンタクト層73を順次形成しレーザー構造を作製した。p型のGaNコンタクト層73を形成した後、HN_(3)ガス雰囲気で常温まで冷却し、成長装置から取り出した(図11(c))。2.5nmの厚さのアンドープIn_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と5nmの厚さのアンドープIn_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる多重量子井戸構造活性層69は、780℃の温度で形成した。
【0215】次に、レーザー構造が形成されたサファイア基板を研磨器にセットし、サファイア基板1、GaN膜2、SiO_(2)マスク4、及びGaN結晶膜65の50μmを研磨してGaN結晶膜65を露出させた。
【0216】露出したGaN結晶膜65面には、チタン(Ti)-アルミ(Al)のn型電極74を形成し、p型のGaN層73上にはニッケル(Ni)一金(Au)のp型電極75を形成した(図11(d))。
【0217】なお、本実施例では、サファイア基板1、GaN下地結晶膜2、SiO_(2)マスク4及びGaN結晶膜65の一部を研磨により除去してn型の電極を形成したが、研磨を行わずにドライエッチングによりn型GaN層66または65まで除去してn型電極を形成し、共振器ミラー面を形成してもよい。」

(ク)図5は、GaN結晶膜のマスク上領域の欠陥構造を表す膜断面のTEM写真であり、当該図5から、GaN結晶膜5中のマスク上領域の欠陥構造がみてとれる。

(ケ)図10は、GaN結晶膜表面で検出された全エッチピット密度を膜厚に対してプロットした図であり、当該図10から、甲2のエッチピット密度が1×10^(8)/cm^(2)以下であることがみてとれる。


イ 甲2発明
上記アの摘記事項(ア)ないし(ケ)を含む甲2の全記載(特に、【0217】の「研磨を行わずにドライエッチングによりn型GaN層66または65まで除去してn型電極を形成する」方法についての記載を含む)からみて、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。

ウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体、例えば、GaN系半導体発光素子において、格子定数や熱膨張係数が異なるサファイア基板上にGaN結晶膜のエピタキシャル成長を行うと、基板やエピタキシャル層に歪みや欠陥、転位が発生し、また、厚い膜を成長した場合にはクラックが発生し、デバイスとしての性能が極端に悪くなるという問題があったので、サファイア基板上にエピタキシャル成長を行って形成されたものであっても、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくい、GaN結晶膜を提供することを目的とした発明であって、
「サファイア基板上にMOCVD法で膜厚1μmの下地結晶膜としてのGaN膜を形成し、該GaN膜上にSiO_(2)膜を形成し、該SiO_(2)膜をフォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状に成形してマスクを形成し、該ストライプ状のマスク間の領域である成長領域上に、塩化ガリウム(GaCl)をGa原料とし、アンモニア(NH_(3))ガスをN原料として、ハイドライドVPE法によりGaN結晶をエピタキシャル成長させると、GaN結晶は、初期段階ではマスク上に成長せず前記成長領域のみで成長するため、前記成長領域上のGaN結晶には基板の面方位とは異なる面方位を有するファセットが出現し、エピタキシャル成長を続けると、GaN結晶はファセット面に対して垂直な方向に成長が進むため、前記成長領域だけでなくマスク上にも成長し、やがてマスクを覆うようになって隣接する成長領域のGaN結晶のファセットと接触し、さらにエピタキシャル成長を続けると、ファセットが埋め込まれ、これにより平坦な表面を有するGaN結晶膜を得て、
GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得たGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハを基板として、該基板上に発光素子構造を形成する方法(以下「GaN基板法」という。)により作製されたGaN系半導体発光素子であって、
前記GaN結晶膜において、転位は、ファセットに向かって進み基板と垂直に伸びていたものが垂直な方向へ伸びることができなくなるためファセットの成長とともに横方向に曲げられ、そのほとんどは結晶の端に出てしまうか閉ループを形成するので、エピタキシャル膜の膜厚増加に伴い上部の成長領域では転位が減少していき、その結果、マスク近傍の比較的転位密度が大きい層領域である高転位密度層と、上層領域において、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層とを有するn型GaN結晶膜となり、
前記GaN基板法は、例えば、キャリア濃度が1×10^(18)cm^(-3)以上の前記n型GaN結晶膜が形成された基板をMOCVD装置にセットし、所定の温度、ガス流量、V族元素/III族元素比で、厚さ1μmのSi添加n型GaN層、厚さ0.4μmのSi添加n型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ2.5nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と厚さ5nmの無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.4μmのMg添加p型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、及び厚さ0.5μmのMg添加p型GaNコンタクト層を順次形成して発光素子構造を形成し、次に、研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含むものである、
GaN系半導体発光素子。」(審理事項通知書での呼称に合わせて、以下、「甲2第二発明」という。)

(2)その外の甲各号証(ただし、甲1、甲3の3、甲11、甲22、甲23を除く)に記載された事項の概要
ア 甲3の1
請求人日亜化学工業株式会社総合部門法知本部主幹技師丸谷幸利作成の報告書であり、甲2に開示されている半導体レーザ(甲2の図16に構造断面図が示されている半導体レーザ)について、n電極(裏面電極)のコンタクト抵抗が本件発明1の上限値と同じ「0.05Ωcm^(2)」であったと仮定した場合における発振閾値電圧を甲2の記載(段落【0189】、【0191】)から算出したところ、249Vになった、としている(1頁「1.結論」参照。)。

イ 甲3の2
被請求人三洋電機株式会社電子デバイスカンパニー光エレクトロニクス事業部フォトニクス技術部レーザ技術課畑雅幸作成の陳述書であり、日亜化学工業株式会社の波長405nmのレーザ光を発する半導体レーザ代オード製品(型番NDV4212)を入手して、その基板裏面とn電極との界面のコンタクト抵抗を測定したところ、その結果、2つのサンプルについて、それぞれ「9.80×10^(-5)Ωcm^(2)」及び「1.24×10^(-4)Ωcm^(2)」という測定値(本件特許1のコンタクト抵抗の規定「0.05Ωcm^(2)以下」の0.05Ωcm^(2)より十分小さな値である)が得られた、としている(1頁下から6行?末行参照。)。

ウ 甲4
第2の実施例において、青色窒化物半導体レーザ装置のn-GaN層より上部に位置する各窒化物層はすべてMOCVD(有機金属気相成長法)により成長を行い、成長条件は、圧力は常圧、バッファー層以外のGaN、AlGaN層は基本的には窒素、水素、アンモニアを混合した雰囲気で1000℃から1100℃の範囲とし、活性層を含む成長は窒素とアンモニア雰囲気で、700℃から850℃の範囲としたこと(【0019】、【0020】、【0026】)、基板としてハイドライド気相成長法(HVPE)により成長したn型GaN基板を用い、GaN基板成長時にもラテラル成長技術を取り込んでおり、転位密度を10^(4)cm^(-2)以下に抑制したこと(【0026】)等が記載されている。

エ 甲5
近年、ハライド気相エピタキシャル法(HVPE)等を使って高品質のGaN基板が得られるようになってきてはいるが、それでも10^(5)?10^(7)cm^(-2)の転位密度の基板であり、デバイスの高性能化には更に転位密度を下げることが要求され、また不可欠でもあること(【0005】)、本発明は、GaN系化合物半導体結晶のエピタキシャル成長において、従来の選択成長に用いられるSiO_(2)などのマスク材料を用いることなしに転位密度を低減させた、高品質なエピタキシャル膜を備える半導体基材及び成長方法を提供することを目的とし、特に、比較的高品質なGaN基板を、更に転位密度を低減させ、より高品質なエピタキシャル膜を得るための成長方法を提供することを目的とすること(【0006】)、「実施例2」として、実施例1で得られたGaN半導体結晶を基板として用い、実施例1と同様にしてアンチサーファクタント材料の供給源としてのテトラエチルシランを供給し、その後結晶成長させる工程を繰り返し、アンチサーファクタント材料が固定化された界面を5つ多重化したGaN半導体結晶を作成し、5つ目の界面上に成長したGaN半導体結晶層の転位密度を測定したところ、10^(2)cm^(-2)まで低下したこと(【0028】)、「実施例3」として、基板として、転位密度が10^(5)cm^(-2)のGaN基板を使用し、この基板をMOCVD装置内にセットし、水素雰囲気下で1100℃(700℃以上はアンモニアも同時に流した)まで昇温し、サーマルエッチングを行ない、その後、1050℃まで温度を下げ、Ga原料であるTMG、N原料であるアンモニアを流し、GaNを2μm成長し、次に原材料ガスの供給を止め、成長温度をそのままにし、H_(2)をキャリアガスとして、アンチサーファクタント材料としてのシラン(SH_(4))を供給し、GaN表面に15秒間接触させ、シランの供給を止め、再びTMG、アンモニアを供給し、GaNを2μm成長し、その上に、InNの混晶比が20%のInGaNを100nm続けて成長し、得られた前記InGaN層の表面に現れるピットの数で転位密度を評価したところ、10^(2)cm^(-2)の転位密度であったこと(【0029】)等が記載されている。

オ 甲6
窒化物系化合物半導体の結晶をエピタキシャル成長させることができる結晶基材上に、不純物を添加した窒化物系化合物半導体からなる下地層を第1の温度において堆積させる工程、前記下地層上に、第2の温度において窒化物系化合物半導体の結晶を形成する工程、および前記下地層をエッチングにより除去して、前記窒化物系化合物半導体の結晶を基板として分離する工程を含み、前記第2の温度は、前記窒化物系化合物半導体の結晶が十分に成長する温度である一方、前記第1の温度は、前記第2の温度より低い温度である、窒化物系化合物半導体基板の製造方法(【請求項2】)であって、本発明により得られた窒化物半導体基板を用いることにより、例えば、発光素子においては、素子を貫通する転位が減少し、また、劈開面を利用した光共振器を作成できるため、発光特性や駆動電圧、電流および素子寿命が格段に向上すること(【0025】)、実施例3においては、(0001)面サファイア上に、Si添加されたGaN層を低温で成長させ下地層として用い、該下地層上にGaN厚膜を成長させた後、下地層をエッチングすることによりGaN厚膜を剥離して窒化物半導体基板(GaN基板)とし(【0030】)、作製したGaN基板上に下地層として低温でGaNを堆積し、再度その上にHVPE法を使ってGaN結晶を成長させ、次いで、燐酸と硫酸を3対1の体積比で混合した溶液を220℃に加熱し、下地層のみ選択的にエッチング除去することによりGaN結晶を剥離させてGaN基板を得て(【0041】、【0043】)、得られたGaN基板の表面及び裏面を研磨してエピタキシャル成長用の基板に加工し、断面TEM観察したところ、貫通転位密度は10^(4)cm^(-2)と見積もられたこと(【0043】)等が記載されている。

カ 甲7
GaN系化合物半導体膜を製造する際にSiCを基板として使用する場合、エピタキシャル成長を行う成長温度で薄いAlN膜をバッファー層として使用すると良いことが知られているが、GaN系化合物半導体以外の基板を使用すると、成長させるGaN系化合物半導体膜と基板との熱膨張係数の違いや、格子定数の違いにより、製造されるGaN系化合物半導体中には多数の欠陥が発生し、その欠陥は刃状転位と螺旋転位に分類され、その密度は合計で約1×10^(9)cm^(-2)?1×10^(10)cm^(-2)程度にもなり、これらの欠陥は、キャリアをトラップして、調製した膜の電気的特性を損ねることが知られている他、大電流を流すようなレーザーに対しては、寿命の低下を招くことが知られていること(【0005】)、III-N系化合物半導体装置のIII-N系化合物半導体基板の窒素終端面上に電極を有すること、及び、種基板の(0001)面上に成長したGaNがGa終端面とN終端面を有すること(【0013】、【0014】、図23)、III-N系化合物半導体基板、特にGaN基板、及びレーザ等の素子構造へのドーパントとして、n型の場合は、Si、Ge、Sn、O、S、Se又はTe、p型の場合は、Mg、Be、Ca、Sr、Ba、Zn又はCdを使用することができること(【0032】)、GaN基板中の不純物濃度が1×10^(17)cm^(-3)を超えると接触比抵抗が1×10^(-5)Ω・cm^(2)以下となり、その後は不純物濃度の増加とともに接触比抵抗は下がっていくこと(【0053】、図10)等が記載されている。

キ 甲8
厚さ400μmのサファイア基板21上にアンドープのAl_(0.5)Ga_(0.5)Nからなる低温バッファ層22を例えば600℃で成長させ、その上に例えば1050℃でアンドープの第1GaN層23を成長させ、更にその上にストライプ状のSiO_(2)膜24を形成すること(【0026】)、次に、ストライプ状のSiO_(2)膜24間に露出したGaN層23上にアンドープの第2GaN層25を選択成長させること(【0027】)、次に、塩化ガリウム(GaCl)、NH_(3)、SiH_(4)を原料とするハイドライドVPE法により、Siドープの第4GaN層27を成長させること(【0031】)、次に、サファイア基板21側から研磨またはエッチングを行うことにより、サファイア基板21、Al_(0.5)Ga_(0.5)バッファ層22、第1GaN層23、SiO_(2)膜24、第2GaN層25、第3GaN層26の全部、および第4GaN層27の一部を除去し、この除去により残った第4GaN層がn型のGaN基板1となること(【0034】)、n型のGaN基板1は上面が(0001)面であり、この(0001)面から[2-1-10]方向に所定角度(本実施例では0.5°)傾斜させて研磨することにより、微傾斜基板を作製することができること(【0035】)等が記載されている。

ク 甲9
まず、HVPE法で種基板(例えば、サファイア基板)上に厚膜のGaNを積層し、その後、研磨でサファイア基板を剥き取り、厚さ400μm、大きさ2インチφのC面(0001)のn型GaN基板100を作製し、該n型GaN基板のn型極性は、Siをドーピングすることによって得られ、該Siの濃度は、2×10^(18)cm^(-3)であり、さらに、前記n型GaN基板中に約8×10^(16)cm^(-3)の塩素(Cl)をドービングし、次に、MOCVD装置に、前記n型GaN基板100をセットし、1050℃の成長温度でn型GaNバッファ層101を1μm形成(このn型GaNバッファ層は、種基板からn型GaN基板を剥き取るときに生じたn型GaN基板の表面歪みの緩和、表面モフォロジや表面凹凸の改善(平坦化)を目的に設けた層であり、無くても構わない)し、n型GaNバッファ層101を形成後、続けて1.0μm厚のn型Al_(x1)Ga_(1-x1)N層102を形成したところ、このときx1=0.1であったこと(【0011】)等が記載されている。

ケ 甲10
n型の電子伝導を示すドーパントとして酸素を添加してあり他材料の基板部分を持たない窒化ガリウム単結晶基板(【請求項1】)において、n型をGaN結晶に与えているのは酸素であるところ、酸素をドープしなくてもガス中に不純物として酸素が含まれ、この酸素がGaN結晶の中で電子を供出するn型ドーパントとして機能することを本発明者は突き止めたこと(【0032】)等が記載されている。

コ 甲12
「研磨加工」は、古くから多用されている技術・技能であるためか、実はその定義はあいまいで、明確に規定されていないのが実情といえ、利用分野や時代により、また人により異なった捉え方がされている場合も多いこと(12頁14?18行)等が記載されている。

サ 甲13
n-GaAs基板1の裏面を「エッチングにより研磨」し、n-GaAs基板1の厚さを100μm程度とし、次いで、n-GaAs基板1の裏面に蒸着法によりn電極12を形成すること(【0058】)等が記載されている。

シ 甲14
「化学機械研磨(chemical mechanical polishing:CMP)法」を適用することにより、基板11の裏面を「研磨」して厚さを100〔μm〕にすること(【0041】)、真空蒸着法を適用することにより、厚さが0.2〔μm〕のNiからなるn側電極19を蒸着形成すること(【0042】)等が記載されている。

ス 甲15
窒化物基板の裏面を所定角度θだけ傾斜させる方法としては、例えば、先ず基板裏面をC面に形成した後、ラッピング装置などを用いてC面に対して斜め方向に「研磨」を施す方法が採用可能であること(【0018】)等が記載されている。

セ 甲16
第1の窒化物系半導体層の表面を「研磨」することによりC面から所定の方向に所定の角度傾斜した面を露出させてもよく、この場合、「研磨」により露出させた第1の窒化物系半導体層の傾斜した面においては、所定の方向にストライプ状に延びる微小な階段状の段差が形成されること(【0024】)、第1GaN層4を成長させた後、当該第1GaN層4の一部を「研磨」して除去し、それにより、第1GaN層4において、サファイア基板1のC面から所定の方向(以下、オフ方向と呼ぶ)に所定の角度(以下、オフ角度と呼ぶ)Bだけ傾斜した面(以下、オフ面と呼ぶ)を露出させること(【0081】)等が記載されている。

ソ 甲17
裏面n電極をもった低転位n-GaN基板上に成長されたInGaN多重量子井戸(MQW)レーザダイオード(LD)が室温連続発振動作を示したことが記載されており、より具体的には、低圧(100torr)有機金属気相成長法(LP-MOVPE)により100μm厚FIELO基板の上にLD構造を成長したこと、LDの概略構造は、100μm厚n型GaN層、1μm厚n型Al_(0.07)Ga_(0.93)Nクラッド層、0.1μm厚n型GaN光導波層、InGaN・MQW層、20nm厚p型Al_(0.19)Ga_(0.81)Nキャップ層、0.1μm厚p型GaN光導波層、0.5μm厚p型Al_(0.07)Ga_(0.93)Nクラッド層と0.05μm厚p型GaNコンタクト層から成り、上記InGaN・MQW層が5nm厚SiドープIn_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層により区切られた3nm厚アンドープIn_(0.2)Ga_(0.8)N井戸層3ペアから構成されたこと、上記p型GaNコンタクト層の上にPd/Pt/Auからなるp型電極が蒸着され、n型GaN基板の裏面にTi/Alからなるn型電極が蒸着されたこと、通常の劈開手法でミラー端面を形成し、共振器長が440μmとなったこと、上記のように作成したInGaN・MQW・LDのレーザ特性を室温(20℃)でパルスとCW電流注入条件下で測定したこと、室温でCWとパルス電流注入条件下のコート端面あたりの注入電流の関数としての光出力(L-I)特性と電圧-電流(V-I)特性をFig.2とFig.3に示すこと、等が記載されている。
なお、甲43の2では、甲5のLD構造の記載及びFig.2のV-I特性に基づいてn電極のコンタクト抵抗を見積もったところ、約0.021Ωcm^(2)未満になった、としている。

タ 甲18
n-GaN基板1上に各層2?6を成長させた後にn-GaN基板1の裏面を「研磨」することに替えて、あらかじめn-GaN基板1の一方の面(裏面)を「研磨」し、その後、n-GaN基板1の他方の面に各層2?6を成長させてもよく、この場合においても同様の効果が得られること(【0077】)、この場合においては、「研磨」によりあらかじめn-GaN基板1の厚さを120?200μm、好ましくは120?150μmとすること(【0078】)等が記載されている。

チ 甲19
47頁の表1.3に、p-GaNへの低抵抗オーミックコンタクトについて広範に研究されている種々の金属被覆法の代表的な一覧が記載されており、当該表1.3には、固有コンタクト抵抗値として、1.7、3.31±1.29、1.2、1、9.2(単位はいずれも×10^(-2)Ωcm^(2))といった値が記載されている。

ツ 甲20
擬似バルクGaN基板の上で作られたエッジ終端のショットキー整流器は、接触電極面積に関して、そして、整流器の配置に解して逆方向降伏電圧が強く依存することを示し、小直径(75μm)のショットキー電極に対して、3mΩcm^(2)のON状態抵抗(R_(ON))で、縦配置で測られるVBは?700Vであること(1555頁上方の要約)等が記載されている。

テ 甲21
甲21の記載事項は、上記第4の1(4)のとおりである。

3 対比・判断
職権無効理由について判断する。
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲2第二発明とを対比する。
ア 甲2第二発明の「『サファイア基板上』に『GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得』た『GaNエピタキシャル層のみからなるウェーハ』からなる『基板』」、「『研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、下地結晶膜、マスク及びn型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面』、『素子裏面』」、「n型電極」及び「GaN系半導体発光素子」は、それぞれ、本件訂正発明1の「『ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からな』る『第1半導体層』」、「第1半導体層の裏面」、「n側電極」及び「窒化物系半導体素子」に相当する。

イ 甲2第二発明は、「第1半導体層の裏面(研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面)」側にチタンとアルミニウムからなる「n側電極(n型電極)」を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含み、「ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなる第1半導体層(GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得たGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハ)」を基板として、該基板上に発光素子構造を形成する方法(GaN基板法)により作製された「窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)」であるから、甲2第二発明の「窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子」とは、少なくとも、「ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からな」る「第1半導体層と、前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極を備え」ている点で一致する。

ウ 甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成しているから、「第1半導体層の裏面(研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、下地結晶膜、マスク及びn型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面)」には、機械研磨により発生する転位は存在しない。そして、前記ドライエッチングにより、甲2第二発明の「第1半導体層の裏面」には、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層が露出することになるから、甲2第二発明の「窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子」とは、少なくとも、「前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下」である点で一致する。

エ 上記ア?ウからみて、本件訂正発明1と甲2第二発明とは、
「ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極を備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下である、
窒化物系半導体素子。」で一致し、次の点において一応相違する。

相違点1:
前記「GaN基板からなる第1半導体層」が、
本件訂正発明1では、「裏面側が機械研磨された」ものであるのに対し、
甲2第二発明では、「裏面側が機械研磨された」とは特定されていない点。

また、本件訂正発明1と甲2第二発明とは、次の点においても相違する。

相違点2:
「前記n側電極と前記第1半導体層との界面」における「コンタクト抵抗」が、
本件訂正発明1では、「0.05Ωcm^(2)以下」であるのに対し、
甲2第二発明では、0.05Ωcm^(2)以下であるかどうか不明である点。

オ 相違点1について
(ア) a 本件訂正発明1においては、「第1半導体層」について、「裏面側が機械研磨された」ものであることと「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下であ」ることとの少なくとも二つの特定がなされている。
ここで、「第1半導体層」についての「裏面側が機械研磨された」という特定事項は、いわゆる「物同一説」に従えば、「第1半導体層」の「裏面側が機械研磨された状態であること」を意味するものと解するのが相当である。
そして、「裏面側が機械研磨された状態であること」は、「裏面側が機械研磨された直後の状態であること」を含むと解するのが自然であるが、本件訂正発明1においては、「第1半導体層」について、「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下であ」ることも特定されているので、はたして「裏面側が機械研磨された直後の状態であること」と、「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下であ」ることとが両立し得るか否かについて、検討する必要がある。
b そこで、本件訂正(その3)後の明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の記載を参照すると、【0009】に、「n型GaN基板の裏面を機械研磨する際に、n型GaN基板の裏面近傍に応力が加わる。このため、n型GaN基板の裏面近傍にクラックなどの微細な結晶欠陥が発生するという不都合がある。その結果、n型GaN基板と、n型GaN基板の裏面(窒素面)上に形成されたn側電極とのコンタクト抵抗が増加するという問題点があった。」との記載があり、当該記載から、少なくとも裏面側を機械研磨した直後には、当該裏面近傍に機械研磨に起因した結晶欠陥が発生していること(結晶欠陥が発生すれば、転位密度が高くなることは自明である)を理解できる。また、【0044】?【0046】には、「図3に示した機械研磨装置30を用いて、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をn型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する。・・・この後、本実施形態では、反応性イオンエッチング(RIE)法により、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を、約20分間エッチングする。・・・これにより、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を約1μmの厚み分だけ除去する。その結果、上記機械研磨に起因して発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板1の裏面近傍の領域を除去することができる。・・・ここで、上記したエッチングによる効果を確認するために、エッチング前後におけるn型GaN基板1の裏面の結晶欠陥(転位)密度を、TEM(Transmission Electron Microscope)分析により測定した。その結果、エッチング前には、結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上であったのに対して、エッチング後には、結晶欠陥密度は、1×10^(6)cm^(-2)以下にまで減少していることが判明した・・・」との記載があり、さらに、【0054】の【表1】及び【0058】には、GaN基板の裏面を研磨後、RIE法(Cl_(2)ガス)による0.5μmエッチングを施し、n側電極を形成した試料3における「GaN基板からなる第一半導体層」の「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)」であり、RIE法によるエッチング深さを1μmとしたことを除き試料3と同様の工程を経た試料4における「GaN基板からなる第一半導体層」の「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(6)cm^(-2)」であることが記載されている。
一方、本件訂正明細書の【0054】の【表1】には、GaN基板の裏面を研磨後、n側電極を形成した試料1や、GaN基板の裏面を研磨後、塩酸処理を施し、n側電極を形成した試料2も記載されているが、当該試料1や試料2における「GaN基板からなる第一半導体層」の「n側電極との界面近傍における転位密度」についての明示的な記載はない。しかしながら、【0046】に、「・・・エッチングによる効果を確認するために、エッチング前後におけるn型GaN基板1の裏面の結晶欠陥(転位)密度を、TEM(・・・)分析により測定した。その結果、エッチング前には、結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上であったのに対して、エッチング後には、結晶欠陥密度は、1×10^(6)cm^(-2)以下にまで減少していることが判明した。」との記載があることや、試料1及び試料2におけるコンタクト抵抗値である20Ωcm^(2)及び0.1Ωcm^(2)が、試料3の0.05Ωcm^(2)や試料4の7.0×10^(-4)Ωcm^(2)に比べて高い(【0054】の【表1】参照。)ことからみて、試料1や試料2における「GaN基板からなる第一半導体層」の「n側電極との界面近傍における転位密度」が、少なくとも試料3の1×10^(9)cm^(-2)を超えるものであることは明らかである。
してみれば、本件訂正明細書には、「GaN基板からなる第一半導体層」の裏面側が、研磨された後にエッチング処理された状態のものであって、「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下であ」るものは記載されているが、「裏面側が機械研磨された直後の状態であること」と、「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下であ」ることとを両立したものは記載されていないこととなる。
c 上記bからみて、本件訂正発明1は、「裏面側が機械研磨された直後の状態であ」り、「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下であ」るものではなく、むしろ、裏面側が機械研磨された後に、「n側電極との界面近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下」となるように、エッチング処理された状態のものであると解すべきである。仮に、そうとまではいいきれないとしても、少なくとも、上記エッチングされた状態のものは本件訂正発明1に含まれると解すべきである。
d すなわち、本件訂正発明1の「裏面側が機械研磨された」という事項が、「窒化物系半導体素子」という物の発明の「第1半導体層」の如何なる構造・特性等を特定しているのかについて検討するに、「第1半導体層」の裏面上にはn側電極が形成され、「第1半導体層」の「n側電極との界面近傍における転位密度」は、少なくとも「1×10^(9)cm^(-2)以下」まで低下しているのであるから、上記cのとおり、「裏面側が機械研磨された」という事項が、裏面側が機械研磨された直後の状態である「第1半導体層」のみを表しているとはおよそ考え難いのであり、そうすると、本件訂正(その3)前の請求項1の「第1半導体層」を本件訂正(その3)後の「裏面側が機械研磨された第1半導体層」にする訂正において、「裏面側が機械研磨された」という事項は、機械研磨された直後の状態を表すとも限らない(その後のエッチング処理により状態は変わり得るのであり、しかも、エッチング処理によって機械研磨の影響がまったく残っていない状態となった物も排除されていない)のであるから、当該「裏面側が機械研磨された」という事項は、「窒化物系半導体素子」という物の発明の「第1半導体層」の構造・特性等の特定に寄与していないというべきである。

(イ) a もっとも、「裏面側が機械研磨された」という事項が、「第1半導体層」の裏面側が機械研磨されていることを示すことによって、エッチング処理を経たとしても、n側電極との界面近傍における転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下となった「第1半導体層」の裏面側に機械研磨の影響(すなわち、機械研磨によって発生した転位)が多少なりとも残っていることを表している可能性もないとはいえないので、これについて、以下検討する。
b 当審の平成28年7月5日付け審決の予告において、被請求人が、平成27年9月28日に訂正請求書を提出して求めた訂正(以下「本件訂正(その2)」という。)の訂正事項1(本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を対象とする訂正)について、当審は、特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件、すなわち訂正目的要件を充たさないので訂正を認めないとした。
c 本件訂正(その2)後の請求項1は、次のとおりのものである(下線は訂正箇所を表す。)。
「【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子
(ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く)。」
d 平成28年7月5日付け審決の予告における、上記訂正事項1が訂正目的要件を充足するか否かについての当審の検討の内容は、上記第5の2に記載したとおりであるが、その一部を抜粋して下記に再掲する(ただし、下線は新たに追加したものである。)。
「訂正事項1は、・・・本件訂正(その2)前の請求項1に係る発明から、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子』を除こうとするものであって、本件訂正(その2)前の請求項1に係る発明を、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』以外の製造方法で製造されたものに形式的に限定して特定しようとするものである。
そこで、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』以外の製造方法で製造された窒化物系半導体素子、及び、『機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法』で製造された窒化物系半導体素子が、それぞれどのような構造、特性等を有するものであるかについて、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載・・・に基づいて、以下検討する。
・・・訂正明細書の発明の詳細な説明には、n型GaN基板の裏面(窒素面)の機械研磨による厚み加工(n型GaN基板の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する)を行った後に、当該n型GaN基板の裏面(窒素面)を、反応性イオンエッチング(RIE)法によりエッチングし、その後、当該n型GaN基板の裏面(窒素面)上にn側電極を形成する工程で製造された『本発明の一実施形態』が記載されており(【0043】?【0049】)、上記『本発明の一実施形態』は、本件訂正(その2)前の請求項1に係る発明の実施形態であるとともに、平成27年9月28日付け訂正請求書(訂正請求書(その2))の5頁23行?6頁19行に、『(b)願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件訂正前の明細書の段落【0043】には『この後、図3および図4に示すように、n型GaN基板1の(000-1)面である裏面(窒素面)を機械研磨する。』(・・・(略)・・・)と記載され、段落【0044】には『図3に示した機械研磨装置30を用いて、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をn型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する。具体的には、ホルダ12の下面に取り付けられた窒化物系半導体レーザ素子構造20のn型GaN基板1の裏面(図4参照)を、研磨剤が配置されているバフ13の上面に、一定の負荷で押圧する。そして、バフ13(図3参照)に水またはオイルを流しながら、ホルダ12をR方向に回転する。このようにして、n型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで機械研磨を行う。』と記載されている。・・・
よって、訂正事項1は、新規事項の追加ではない(・・・(略)・・・)。』との記載があり、段落【0043】、【0044】の記載が訂正事項1が新規事項の追加ではないことの根拠であるとされていることからみて、上記『本発明の一実施形態』は、本件訂正(その2)後の請求項1に係る発明の実施形態でもあると認められる。
したがって、訂正事項1は、本件特許の請求項1に係る発明が、上記『本発明の一実施形態』のような、機械研磨を行った後にエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法(以下、便宜上、『機械研磨を行った後にエッチングする方法』という。)で製造された窒化物系半導体素子を含むものであることについては変更せず、ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法(以下、便宜上、『機械研磨を行わずにエッチングする方法』という。)で製造された窒化物系半導体素子を含まないものとしようとするものであると認められる。
・・・そこで、機械研磨を行った後にエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子と、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子とを対比する。
機械研磨を行った後にエッチングする方法において、エッチングは機械研磨により生じた転位を除去することを目的としているから、エッチングにより窒化物半導体素子の裏面(窒素面)から機械研磨により生じた転位を含む層が完全に除去された場合、当該n側電極形成前の窒化物系半導体素子の裏面(窒素面)には、エッチングにより加工された表面のみが露出していると認められる。そうすると、この場合、窒化物系半導体素子の裏面(窒素面)の状態は、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子におけるエッチング後(n側電極形成前)の裏面(窒素面)の状態(当然、エッチングにより加工された表面のみが露出している)と何ら区別できないものと認められる。
・・・上記・・・からみて、機械研磨を行った後にエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子と、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子とは、少なくとも、前者の窒化物系半導体素子がエッチングにより窒化物半導体素子の裏面(窒素面)から機械研磨により生じた転位を含む層が完全に除去された場合に、n側電極形成前の裏面(窒素面)の転位の存在状態の点において、物(窒化物系半導体素子)としてどのように異なるのかが不明であるといわざるを得ない。また、n側電極形成前の裏面(窒素面)の状態以外の点において、両者の間に、物の構造、特性等に何らかの差異があると考えるべき根拠も見出せない。
・・・そうすると、訂正事項1により被請求人が除こうとしている物と、除かれた後に残った物のうちの一部との間に物(窒化物系半導体素子)としての差異がなく、結局、除かれた物と同一の物が本件訂正(その2)後の請求項1に包含されることになるのであるから、当該請求項1の記載事項によって特定される発明の範囲自体は、実質的には本件訂正(その2)の前と後で何ら変わっていないといわざるを得ない。
したがって、訂正事項1における『ただし、機械研磨を行わずにエッチングにより第1半導体層の一部を除去して、露出した第1半導体層の裏面にn側電極を形成する工程を含む製造方法で製造された窒化物系半導体素子を除く』という事項が、物(窒化物系半導体素子)の構造、特性等を限定していると認めることはできず、したがって、訂正事項1は請求項1の記載事項を限定すること等によって特許請求の範囲を減縮するものであるということはできない。」
e 上記dに掲げた当審の説示に接した当業者であれば、当審が、機械研磨を行った後にエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子が、エッチングにより窒化物系半導体素子の裏面(窒素面)から機械研磨により生じた転位が完全に除去された場合に、機械研磨を行わずにエッチングする方法で製造された窒化物系半導体素子(甲2第二発明)と物として差異がないと判断しており、その結果、訂正が容認されないでいることを直ちに理解することができる。実際、被請求人が提出した平成28年7月5日付け上申書の記載内容(上記第3の7参照。)に照らして、被請求人が上記当審の判断を正しく理解していることは明らかである。そして、上記の当審の判断を正しく理解した当業者であれば、訂正が容認されるようにするためには、請求項1に係る発明から、甲2第二発明と物として重複している部分を除けばよいことも直ちに理解できるはずである。そうすると、平成28年7月5日付け審決の予告に対抗して、被請求人は、本件特許の請求項1に係る発明から、甲2第二発明と物として重複している部分を除くための新たな訂正を、本件特許の請求項1について請求することもできたはずである。
f 本件特許の請求項1に係る発明から、甲2第二発明と物として重複している部分を除く訂正をした後の請求項1は、例えば、次のようなものになる(下線は訂正箇所を表す。以下、これを「訂正案」という。なお、「訂正案」は、本件特許無効審判事件において被請求人がこれまでに行った訂正請求(訂正請求(その1)及び(その2))で用いた表現及びいわゆる「除くクレーム」の形式を踏襲したものとし、さらに、「窒化物系半導体」を「GaN」に限定する訂正を併せて行ったものとした。)。
「【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなり、裏面側が機械研磨された第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子
(ただし、前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍に機械研磨により発生した転位が存在しない窒化物系半導体素子を除く)。」
ところが、実際に被請求人が請求した本件訂正(その3)後の請求項1は、上記1に掲載したとおりのものであり、実際の本件訂正(その3)後の請求項1は、「訂正案」と比較すると、括弧内ただし書きの部分(いわゆる「除くクレーム」に係る記載)がないものとなっている。
g 上記bないしfからみて、被請求人は、平成28年7月5日付け審決の予告に対抗して、例えば、「訂正案」のような訂正をすることができたにも関わらず、あえて本件訂正(その3)のように訂正することを選択したものと解さざるを得ず、このことに鑑みると、本件訂正(その3)後の請求項1は、「第1半導体層のn側電極との界面近傍に機械研磨により発生した転位が存在しない窒化物系半導体素子」を除いてはいないと解する以外にない。
そうすると、本件訂正発明1の「裏面側が機械研磨された」という事項は、「第1半導体層」の裏面側が機械研磨されていることを示すことによって、n側電極との界面近傍における転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下となった「第1半導体層」の裏面側に機械研磨の影響(すなわち、機械研磨によって発生した転位)が多少なりとも残っていることを表すものではないというべきである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)の検討結果からみて、本件訂正発明1が、機械研磨後に該機械研磨により影響を受けた層が残らなくなるまで「第1半導体層」の裏面を厚く除去し、その結果、当該裏面近傍に機械研磨により発生した転位が存在しなくなった「窒化物系半導体素子」を含んでいることは明らかである。
甲2第二発明は、研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、下地結晶膜、マスク及びn型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成しており、前記露出したGaN結晶膜の面、すなわち、本件訂正発明1の「第1半導体層の裏面」に相当する面に、機械研磨により発生する転位が存在しないものであって、本件訂正発明1が包含する「窒化物系半導体素子」に該当するから、相違点1は、本件訂正発明1と甲2第二発明との実質的な相違点ではない。

カ 相違点2について
(ア)本件訂正発明1における転位密度の上限値である「1×10^(9)cm^(-2)」及びコンタクト抵抗の上限値である「0.05Ωcm^(2)」については、機械研磨したGaN基板の裏面をRIE法(Cl_(2)ガス)によりエッチングして0.5μmの厚み分だけ除去した後にn側電極形成した試料3の裏面の結晶欠陥密度(転位密度)が「1×10^(9)cm^(-2)」であり(本件訂正(その3)後の特許明細書の【0058】)、コンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)」であった(同【0054】【表1】)ことに基づいている。
また、【0039】?【0061】を含む本件訂正(その3)後の特許明細書全体の記載から、本件発明1における転位密度の上限値「1×10^(9)cm^(-2)」及びコンタクト抵抗の上限値「0.05Ωcm^(2)」の持つ技術上の意義は、GaN基板の裏面を機械研磨した後にRIE法によるエッチングを行わずに(そのまま、あるいは塩酸処理しただけで)電極形成した試料(試料1及び試料2)における裏面の転位密度やコンタクト抵抗の値と比べてこれらの値が1桁以上小さいことであると理解できる(試料1及び試料2の裏面の転位密度は明記されていないが、【0046】の「・・・エッチング前には、結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上であった・・・」との記載から、1×10^(10)cm^(-2)かそれよりも少し高い程度であると考えられる。)。

(イ)本件発明1におけるコンタクト抵抗の上限値「0.05Ωcm^(2)」の持つ技術上の意義は、GaN基板の裏面を機械研磨した後にRIE法によるエッチングを行わずに(そのまま、あるいは塩酸処理しただけで)電極形成した試料(試料1及び試料2)における裏面のコンタクト抵抗の値と比べて1桁以上小さいことであると理解できる。しかしながら、試料3(エッチングあり)を試料2(エッチングなし)と比較すると、コンタクト抵抗は2分の1に(0.1Ωcm^(2)から0.05Ωcm^(2)に)なっているに過ぎないのに対し、試料4(エッチングで1μmの厚み分だけ除去)を試料3(エッチングで0.5μmの厚み分だけ除去)と比較すると、コンタクト抵抗は2桁下がって(0.05Ωcm^(2)から7.0×10^(-4)Ωcm^(2)になって)いることを考慮すると、本件発明1におけるコンタクト抵抗の上限値である「0.05Ωcm^(2)」は、機械研磨により発生した転位の一部のみを除去することにより達成できた値であり、RIE法によるエッチングを行わない試料2の転位密度に比べて格別に低い値というわけではないといわざるを得ない。
さらに、甲7に、GaN基板中の不純物濃度が1×10^(17)cm^(-3)を超えると接触比抵抗が1×10^(-5)Ω・cm^(2)以下となることが記載されており(上記2(2)カ参照。)、このことに照らしても、「0.05Ωcm^(2)」は格別の値ではないといわざるを得ない。

(ウ)甲2第二発明においては、機械研磨を行わずに(甲2の【0217】参照。)ドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面にn型電極を形成しているところ、機械研磨を行っていないため、そのときの第1半導体層の裏面には機械研磨により発生する転位は存在しないのであるから、上記a及びbからみて、そのときの第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗は、機械研磨により発生した転位の一部のみを除去することにより達成できた値であり、裏面近傍の領域を除去しない(RIE法によるエッチングを行わない)試料のコンタクト抵抗と比べて2分の1程度に過ぎず、かつ、本件特許の優先日前に知られていた値と比べて3桁も高い「0.05Ωcm^(2)以下」の範囲に入っていないとはおよそ考え難い。
仮にそうとまではいえないとしても、甲2第二発明において第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下となすことは、発明を実施する際に当業者が適宜なし得る程度の、いわゆる設計的事項であるといわざるを得ない。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、相違点2は実質的な相違点ではない。仮に実質的な相違点だとしても、甲2第二発明において、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下となすこと、すなわち、相違点2に係る本件訂正発明1の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

キ 効果について
本件訂正発明1の奏する効果は、甲2第二発明の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

ク 本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正発明2ないし4について
ア 本件訂正発明2について
本件特許に係る出願の優先日前に、GaN基板の転位密度を10^(5)cm^(-2)以下にすることは周知である(以下「周知技術1」という。例えば、甲4の【0026】(上記2(2)ウ参照。)、甲5の【0005】、【0006】、【0028】及び【0029】(上記2(2)エ参照。)、甲6の【0043】(上記2(2)オ参照。))から、ドライエッチング後の「1×10^(6)cm^(-2)」は格別の値ではないといわざるを得ない。
したがって、本件訂正発明2は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)及び周知技術1に基づいて容易に発明をすることができたものである。

イ 本件訂正発明3について
甲2第二発明では、n型GaN結晶膜(甲2の【0212】のGaN結晶膜65)のキャリア濃度は、1×10^(18)cm^(-3)以上であるから、本件訂正発明3と甲2第二発明との対比において、上記相違点1及び2(上記(1)エ参照。)以外の新たな相違点は生じない。
したがって、本件訂正発明3は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)及び周知技術1に基づいて容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件訂正発明4について
本件特許に係る出願の優先日前の技術常識(例えば、甲7の【0013】、【0014】(上記2(2)カ参照。)、甲8の【0034】、【0035】(上記2(2)キ参照。)、甲9の【0011】(上記2(2)ク参照。))からみて、甲2第二発明において、ドライエッチングにより露出したGaN結晶膜の面が窒素面であることは明らかである。
したがって、本件訂正発明4は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)及び周知技術1に基づいて容易に発明をすることができたものである。

エ 本件訂正発明2ないし4についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明2ないし本件訂正発明4は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)及び周知技術1に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(3)本件訂正発明5について
ア 本件訂正発明5のうち請求項1及び請求項3の記載を引用する請求項5に係る発明(以下、これを、単に「本件訂正発明5」という。)と甲2第二発明とを対比する。
(ア)本件訂正発明5における被引用請求項1に記載された構成と甲2第二発明の構成との対比については、上記(1)アないしウのとおりである。
また、甲2第二発明では、n型GaN結晶膜(甲2の【0212】のGaN結晶膜65)のキャリア濃度は、1×10^(18)cm^(-3)以上である(上記2(2)イ参照。)ことから、甲2第二発明は、本件訂正発明5の被引用請求項3に記載された構成、すなわち、「第1半導体層のn側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である」との構成を備えている。

(イ)そうすると、本件訂正発明5と甲2第二発明とを対比すると、両者は、次の相違点1において形式的に相違し、また、相違点2において相違するとともに、さらに、相違点3においても形式的に相違し、その余の点において一致する。

相違点1:
前記「GaN基板からなる第1半導体層」が、
本件訂正発明5では、「裏面側が機械研磨された」ものであるのに対し、
甲2第二発明では、「裏面側が機械研磨された」とは特定されていない点。

相違点2:
「前記n側電極と前記第1半導体層との界面」における「コンタクト抵抗」が、
本件訂正発明5では、「0.05Ωcm^(2)以下」であるのに対し、
甲2第二発明では、0.05Ωcm^(2)以下であるかどうか不明である点。

相違点3:
「第1半導体層」が、
本件訂正発明5では、「所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」のに対し、
甲2第二発明では、「裏面側が機械研磨された」とは特定されておらず、「機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」とも特定されていない点。

イ 相違点1及び2は、上記(1)エに記載した本件訂正発明1と甲2第二発明との相違点1及び2であって、上記(1)オ及びカで述べたことと同様に、当該相違点1及び2は実質的な相違点でないか、少なくとも、甲2第二発明において、当該相違点1及び2に係る本件訂正発明5の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について検討する。
(ア)本件訂正発明5は、「窒化物系半導体素子」という物の発明であるが、「第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項5にはその物の製造方法が記載されているといえる。そうすると、「第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」との記載を含む本件訂正(その3)後の請求項5を含む特許請求の範囲は、物(窒化物系半導体素子)の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に該当するから、当該請求項5は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下「PBPクレーム」という。)である。

(イ)PBPクレームにおける発明の要旨の認定に関し、「平成24年(受)第2658号 特許権侵害差止請求事件 平成27年6月5日 最高裁判所第二小法廷判決」(以下「最高裁判決」という。)は、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当である。」と判示している(4頁11行?14行。なお、下線は審決で付した。)。すなわち、PBPクレームについては、クレームで特定された製造方法で製造された物ばかりでなく、これとは異なる製造方法で製造された物であっても、物として同一である物については、当該PBPクレームに包含されると解される(いわゆる「物同一説」。)。

(ウ)そうすると、本件訂正発明5の要旨は、上記最高裁判決の判示に従えば、引用請求項に記載された構成をすべて備え、かつ、「第1半導体層」が、「所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」物と構造、特性等が同一である物として認定されるべきものであるから、相違点3に係る本件訂正発明5のプロセスによる物(GaN基板からなる第1半導体層を備えた窒化物系半導体素子)と、甲2第二発明のプロセスによる物とで、物としての構造・特性等に、プロセスの違いに基づく差異があるか否かを検討する必要がある。

(エ)ところが、相違点3に係る本件訂正発明5のプロセスによる物は、機械研磨により発生した結晶欠陥(転位)を、「第1半導体層」と「n側電極」との「界面」において、その「近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下」となるまで除去したものであるのだから、前記結晶欠陥(転位)をすべて除去したものを包含している。そして、当該結晶欠陥(転位)をすべて除去したものと、甲2第二発明との間に差異はない。よって、相違点3は、実質的な相違点ではない。

エ 以上のとおり、本件訂正発明5は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第ニ発明)に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(4)本件訂正発明6ないし8について
ア 本件訂正発明6について
本件特許に係る出願の優先日前に、窒化物系半導体において、n型ドーパントとして酸素を用いることは周知である(以下「周知技術2」という。例えば、甲7の【0032】(上記2(2)カ参照。)、甲10の【請求項1】、【0032】(上記2(2)ケ参照。))から、甲2第二発明において、第1半導体層のn型ドーパントを酸素となすことは容易であるといわざるを得ない。
したがって、本件訂正発明6は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

イ 本件訂正発明7について
甲2第二発明では、n型GaN結晶膜が形成された基板をMOCVD装置にセットし、所定の温度、ガス流量、V族元素/III族元素比で、厚さ1μmのSi添加n型GaN層、厚さ0.4μmのSi添加n型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ2.5nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と厚さ5nmの無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.4μmのMg添加p型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、及び厚さ0.5μmのMg添加p型GaNコンタクト層を順次形成して発光素子構造を形成しているのであるから、本件訂正発明7と甲2第二発明との対比において、上記相違点1及び2(上記(1)エ参照。)以外の新たな相違点は生じない。
したがって、本件訂正発明7は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件訂正発明8について
甲2第二発明では、ストライプ状のマスク間の領域である成長領域上に、塩化ガリウム(GaCl)をGa原料とし、アンモニア(NH_(3))ガスをN原料として、ハイドライドVPE法によりGaN結晶をエピタキシャル成長させてn型GaN結晶膜が形成された基板を得ており、「第1半導体層」はHVPE法により形成されるといえるから、本件訂正発明8と甲2第二発明との対比において、上記相違点1及び2(上記(1)エ参照。)以外の新たな相違点は生じない。
したがって、本件訂正発明8は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

エ 本件訂正発明6ないし8についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明6ないし本件訂正発明8は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(5)本件訂正発明9について
ア 本件訂正発明9と甲2第二発明とを対比する。
(ア)甲2第二発明の「『サファイア基板上』に『GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得』た『GaNエピタキシャル層のみからなるウェーハ』からなる『基板』」、「『研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、下地結晶膜、マスク及びn型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面』、『素子裏面』」、「n型電極」及び「GaN系半導体発光素子」は、それぞれ、本件訂正発明9の「『ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からな』る『第1半導体層』」、「第1半導体層の裏面」、「n側電極」及び「窒化物系半導体素子」に相当する。

(イ)甲2第二発明は、「第1半導体層の裏面(研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面)」側にチタンとアルミニウムからなる「n側電極(n型電極)」を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含み、「ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層(GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得たGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハ)」を基板として、該基板上に発光素子構造を形成する方法(GaN基板法)により作製された「窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)」であるから、甲2第二発明の「窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)」と本件訂正発明9の「窒化物系半導体素子」とは、少なくとも、「ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からな」る「第1半導体層と、前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極を備え」ている点で一致する。

(ウ)甲2第二発明では、研磨を行わずにドライエッチングにより前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記n型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成しているから、「第1半導体層の裏面(研磨を行わずにドライエッチングによりサファイア基板、下地結晶膜、マスク及びn型GaN結晶膜の一部を除去して、露出したGaN結晶膜の面)」には、機械研磨により発生する転位は存在しない。そして、前記ドライエッチングにより、甲2第二発明の「第1半導体層の裏面」には、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層が露出することになるから、甲2第二発明の「窒化物系半導体素子(GaN系半導体発光素子)」と本件訂正発明9の「窒化物系半導体素子」とは、少なくとも、「前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下」である点で一致する。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、本件訂正発明9と甲2第二発明とは、
「ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極を備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下である、
窒化物系半導体素子。」で一致し、次の相違点4において相違し、さらに、相違点5において形式的に相違する。

相違点4:
「前記n側電極と前記第1半導体層との界面」における「コンタクト抵抗」が、
本件訂正発明9では、「0.05Ωcm^(2)以下」であるのに対し、
甲2第二発明では、0.05Ωcm^(2)以下であるかどうか不明である点

相違点5:
「第1半導体層」が、
本件訂正発明9では、「所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」のに対し、
甲2第二発明では、「裏面側が機械研磨された」とは特定されておらず、「機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」とも特定されていない点。

イ 相違点4は、上記(1)エに記載した本件訂正発明1と甲2第二発明との相違点2と同じであり、上記(1)カで相違点2について述べたことと同様に、相違点4は実質的な相違点ではないか、仮に実質的な相違点だとしても、甲2第二発明において、上記相違点4に係る本件訂正発明9の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点5について検討する。
(ア)本件訂正発明9は、「窒化物系半導体素子」という物の発明であるが、本件訂正(その3)後の請求項9の「第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項9にはその物の製造方法が記載されているといえ、請求項9はPBPクレームである。

(イ)そうすると、本件訂正発明9の要旨は、上記最高裁判決の判示(上記(3)ウ参照。)に従えば、「第1半導体層」が、「所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層である」物と構造・特性等が同一である物として認定されるべきものであるから、相違点5に係る本件訂正発明9のプロセスによる物(窒化物系半導体基板からなる第1半導体層を備えた窒化物系半導体素子)と、甲2第二発明のプロセスによる物とで、物としての構造・特性等に、プロセスの違いに基づく差異があるか否かを検討する必要がある。

(ウ)ところが、相違点3について述べたことと同様に(上記(3)ウ(エ)を参照。)、相違点5に係る本件訂正発明9のプロセスによる物は、機械研磨により発生した結晶欠陥(転位)を、「第1半導体層」と「n側電極」との「界面」において、その「近傍における転位密度」が「1×10^(9)cm^(-2)以下」となるまで除去したものであるのだから、前記結晶欠陥(転位)をすべて除去したものを包含している。そして、当該結晶欠陥(転位)をすべて除去したものと、甲2第二発明との間に差異はない。よって、相違点5は、実質的な相違点ではない。

エ 以上のとおり、本件訂正発明9は、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)に基づいて容易に発明をすることができたものである。

オ なお、被請求人は、平成28年9月8日付け上申書において、本件訂正(その3)後の請求項9に係る発明(本件訂正発明9)において、「第1半導体層」は「所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層」であるが、この構成は、単に、転位の発生状態を示すことにより構造又は特性を特定しているに過ぎないから、特許・実用新案審査ハンドブック「2204」の「単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」に該当し、「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合」には該当しない(本件訂正(その3)後の請求項9はPBPクレームではない)と主張している(上記第3の7に掲げた上記上申書の概要の5.4(3)イ参照。)。 その上で、被請求人は、本件訂正発明9の「前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であること」は、本件訂正発明9と甲2第二発明との相違点であると主張している(上記第3の7に掲げた上記上申書の概要の5.4(3)ウ参照。)。
仮に、被請求人が主張するとおり、本件訂正(その3)後の請求項9における上記構成が、単に、転位の発生状態を示すことにより構造又は特性を特定しているに過ぎないものであるとした場合、上記構成が特定している構造又は特性とは、「第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度は1×10^(9)cm^(-2)以下である」ことである。
また、機械研磨により発生した転位が最終的に残っているか否かについては請求項9に記載されておらず、前記転位が完全に除去されたものも本件訂正発明9に包含されるとしか解釈できないから、請求項9がPBPクレームであろうがなかろうが、甲2第二発明と、物として(少なくとも裏面の状態(構造・特性等)に関し)差異はない。
そうすると、結局、本件訂正発明9は、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下である甲2第二発明と、物として何ら差異はないのだから、請求人が相違点であると主張する上記の点は、相違点にはなり得ない。
したがって、仮に、本件訂正(その3)後の請求項9がPBPクレームでないとしても、本件訂正発明9が、当業者が甲2第二発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるという結論に変わりはない。

(6)まとめ
上記(1)ないし(5)のとおり、本件訂正発明1ないし本件訂正発明9は、いずれも、当業者が甲2に記載された発明(甲2第二発明)、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
本件特許第3933592号の請求項1ないし請求項9に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
窒化物系半導体素子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツ鉱構造を有するn型のGaN基板からなり、裏面側が機械研磨された第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する、窒化物系半導体素子。
【請求項2】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度が、1×10^(6)cm^(-2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項3】
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である、請求項1または2に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項4】
前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項5】
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項6】
前記第1半導体層のn型ドーパントが酸素であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項7】
前記第1半導体層の上面上に、Si、Se及びGeのいずれかがドープされたn型の窒化物系半導体層を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項8】
前記第1半導体層は、HVPE法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の窒化物系半導体素子。
【請求項9】
ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、
前記第1半導体層の前記n側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、
前記n側電極と前記第1半半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有し、
前記第1半導体層は、所定の厚さになるまで裏面側が機械研磨され、該機械研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された層であることを特徴とする、窒化物系半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化物系半導体素子に関し、特に、電極を有する窒化物系半導体素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、窒化物系半導体レーザ素子は、次世代の大容量光ディスク用光源としての利用が期待され、その開発が盛んに行われている。
【0003】
通常、窒化物系半導体レーザ素子を形成する場合、絶縁性のサファイア基板が用いられる。しかし、サファイア基板上に、窒化物系半導体層を形成する場合、サファイア基板と窒化物系半導体層との格子定数の差が大きいので、窒化物系半導体層内に格子定数の差に起因した多数の結晶欠陥(転位)が発生するという不都合があった。その結果、窒化物系半導体レーザ素子の特性が低下するという問題点があった。
【0004】
そこで、従来、窒化物系半導体層との格子定数の差が小さいGaN基板などの窒化物系半導体基板を用いた窒化物系半導体レーザ素子が提案されている。
【0005】
図7は、n型GaN基板を用いて形成された従来の窒化物系半導体レーザ素子を示した断面図である。図7を参照して、従来の窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、n型GaN基板101上に成長される窒化物系半導体層(102?110)の結晶性を向上させるため、窒化物系半導体層(102?110)は、ウルツ鉱構造を有するn型GaN基板1のGa面((HKLM)面:Mは正の整数)上に成長される。また、ウルツ鉱構造を有するn型GaN基板101の窒素面((HKL-M)面:Mは正の整数)は、裏面として用いられるとともに、このn型GaN基板101の裏面上にn側電極112が形成される。以下、従来の窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを詳細に説明する。
【0006】
図7に示すように、約300μm?約500μmの厚みを有するn型GaN基板101の上面(Ga面)上に、MOCVD法(Metal Organic ChemicalVapor Deposition;有機金属化学気相成長法)などを用いて、約3μmの厚みを有するn型GaNからなるn型層102と、約100nmの厚みを有するn型In_(0.05)Ga_(0.95)Nからなるn型バッファ層103と、約400nmの厚みを有するn型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nからなるn型クラッド層104と、約70nmの厚みを有するn型GaNからなるn型光ガイド層105と、MQW(Multiple Quantum Well;多重量子井戸)構造を有するMQW活性層106と、約200nmの厚みを有するp型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nからなるp型層107と、約70nmの厚みを有するp型GaNからなるp型光ガイド層108と、約400nmの厚みを有するp型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nからなるp型クラッド層109と、約100nmの厚みを有するp型GaNからなるp型コンタクト層110とを順次形成する。
【0007】
次に、p型コンタクト層110の上面上の所定領域に、p側電極111を形成する。そして、n型GaN基板101の裏面をn型GaN基板101が所定の厚み(100μm程度)になるまで研磨した後、n型GaN基板101の裏面(窒素面)上に、n側電極112を形成する。最後に、n型GaN基板101および各層102?110を劈開することにより、素子分離および共振器端面の形成を行う。これにより、図7に示した従来の窒化物系半導体レーザ素子が完成される。
【0008】
図7に示した従来の窒化物系半導体レーザ素子では、n型GaN基板101の硬度が非常に大きいので、劈開により素子分離および共振器端面の形成を良好に行うのが困難であるという不都合がある。このような不都合に対処するため、劈開工程の前にn型GaN基板の裏面を機械研磨して、n型GaN基板の裏面の凹凸の大きさを小さくすることによって、素子分離および共振器端面の形成を良好に行う方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】
特開2002-26438号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1に開示された従来の方法では、n型GaN基板の裏面を機械研磨する際に、n型GaN基板の裏面近傍に応力が加わる。このため、n型GaN基板の裏面近傍にクラックなどの微細な結晶欠陥が発生するという不都合がある。その結果、n型GaN基板と、n型GaN基板の裏面(窒素面)上に形成されたn側電極とのコンタクト抵抗が増加するという問題点があった。
【0010】
また、n型GaN基板の窒素面は、酸化されやすいので、これによっても、n型GaN基板の裏面(窒素面)上に形成されたn側電極とのコンタクト抵抗が増加するという問題点があった。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、
この発明の目的は、窒化物系半導体基板などの窒素面と電極とのコンタクト抵抗を低減することが可能な窒化物系半導体素子を提供することである。
【0024】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記目的を達成するために、この発明の窒化物系半導体素子は、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層と、第1半導体層の裏面上に形成されたn側電極とを備え、第1半導体層のn側電極との界面近傍における転位密度は、1×10^(9)cm^(-2)以下であり、n側電極と第1半導体層との界面において、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗を有する。
【0025】
この発明の窒化物系半導体素子では、n側電極と第1半導体層とのコンタクト抵抗を、0.05Ωcm^(2)以下にすることによって、n側電極と第1半導体層とのコンタクト抵抗が低減された良好な素子特性を有する窒化物系半導体素子を得ることができる。
【0026】
上記の窒化物系半導体素子において、好ましくは、第1半導体層のn側電極との界面近傍における電子キャリア濃度は、1×10^(17)cm^(-3)以上である。このように構成すれば、容易に、n側電極と第1半導体層とのコンタクト抵抗が低減された窒化物系半導体素子を得ることができる。
【0028】
上記の窒化物系半導体素子において、好ましくは、第1半導体層の裏面は、第1半導体層の窒素面を含む。
【0035】
上記の窒化物系半導体素子において、第1半導体層は、GaN、BN、AlN、InNおよびTlNからなるグループより選択される少なくとも1つの材料からなるn型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板を含んでいてもよい。また、n側電極は、Al膜を含んでいてもよい。
【0036】
上記の局面による窒化物系半導体素子において、好ましくは、窒化物系半導体素子は、窒化物系半導体発光素子である。このように構成すれば、窒化物系半導体発光素子において、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗を低減することができるので、良好な発光特性を有する窒化物系半導体発光素子を得ることができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0038】
図1?図5は、本発明の一実施形態による窒化物系半導体レ-ザ素子の製造プロセスを説明するための断面図および斜視図である。
【0039】
図1?図5を参照して、本発明の一実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスについて説明する。まず、本実施形態では、たとえば、特開2000-44400号公報に開示された方法によりウルツ鉱構造を有する酸素ドープのn型GaN基板1を形成する。具体的には、HVPE法を用いてGaAs基板(図示せず)上に、酸素ドープのn型GaN層を約120μm?約400μmの厚みで形成する。その後、GaAs基板を除去することによって、図1に示されるようなn型GaN基板1を得る。このn型GaN基板1のホール効果測定による基板キャリア濃度は、5×10^(18)cm^(-3)である。また、n型GaN基板1のSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)分析による不純物濃度は、1×10^(19)cm^(-3)である。なお、n型GaN基板1は、本発明の「第1半導体層」の一例である。
【0040】
そして、n型GaN基板1の(0001)面である上面(Ga面)上に、常圧MOCVD法を用いて、約1気圧(約100kPa)の圧力下で、約5μmの厚みを有するn型GaNからなるn型バッファ層2と、約1μmの厚みを有するn型Al_(0.08)Ga_(0.92)Nからなるn型クラッド層3と、InGaNからなるMQW活性層4と、約0.28μmの厚みを有するp型Al_(0.08)Ga_(0.92)Nからなるp型クラッド層5と、約70nmの厚みを有するp型GaNからなるp型コンタクト層6とを順次形成する。
【0041】
なお、MQW活性層4は、約20nmの厚みのGaNからなる4層のバリア層と、約3.5nmの厚みのIn_(0.15)Ga_(0.85)Nからなる3層の井戸層とを交互に積層することにより形成する。また、原料ガスとしては、Ga(CH_(3))_(3)と、In(CH_(3))_(3)と、Al(CH_(3))_(3)と、NH_(3)とを用い、キャリアガスとしては、H_(2)とN_(2)とを用いる。本実施形態では、これらの原料ガスの供給量を変化させることにより、各層2?6の組成を調整している。また、n型バッファ層2およびn型クラッド層3のn型ドーパントとしては、SiH_(4)ガス(Si)を用いる。p型クラッド層5およびp型コンタクト層6のp型ドーパントとしては、Cp_(2)Mgガス(Mg)を用いる。
【0042】
次に、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて、p型コンタクト層6およびp型クラッド層5の一部の領域をエッチングする。これにより、図2に示すように、p型クラッド層5の凸部とp型コンタクト層6とからなる約2μmの幅を有する凸部(リッジ部)を形成する。次に、p型コンタクト層6の上面上に、下から上に向かって、約1nmの厚みを有するPt膜と、約10nmの厚みを有するPd膜と、約300nmの厚みを有するNi膜とからなるp側電極7を形成する。これにより、図2に示したような複数の素子が形成される領域を含む窒化物系半導体レーザ素子構造20が形成される。
【0043】
この後、図3および図4に示すように、n型GaN基板1の(000-1)面である裏面(窒素面)を機械研磨する。この研磨工程に用いる機械研磨装置30は、図3に示すように、平坦な表面を有するガラス基板11と、上下に移動可能で、かつ、R方向に回転可能に支持されたホルダ12と、バフ13とから構成されている。バフ13上には、約0.2μm?約1μmの粒子粗さのダイヤモンド、酸化ケイ素またはアルミナなどからなる研磨剤(図示せず)が配置されている。この研磨剤の粒子粗さは、約0.2μm?約0.5μmの範囲であれば、特に良好に裏面研磨を行うことができる。また、ホルダ12の下面には、図3および図4に示すように、窒化物系半導体レーザ素子構造20が、ワックス14により、ホルダ12と直接接触することのないように間隔を隔てて取り付けられている。これにより、機械研磨に際して、窒化物系半導体レーザ素子構造20が破損するのを防止する。なお、ガラス基板11などに代えて、金属などからなる平坦な研磨盤を用いてもよい。
【0044】
図3に示した機械研磨装置30を用いて、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をn型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する。具体的には、ホルダ12の下面に取り付けられた窒化物系半導体レーザ素子構造20のn型GaN基板1の裏面(図4参照)を、研磨剤が配置されているバフ13の上面に、一定の負荷で押圧する。そして、バフ13(図3参照)に水またはオイルを流しながら、ホルダ12をR方向に回転する。このようにして、n型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで機械研磨を行う。なお、n型GaN基板1の厚みを、約120μm?約180μmの範囲に加工するのは、この範囲の厚みであれば、後述する劈開工程を良好に行うことができるためである。
【0045】
この後、本実施形態では、反応性イオンエッチング(RIE)法により、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を、約20分間エッチングする。このエッチングは、ガス流量、Cl_(2)ガス:10sccm、BCl_(3)ガス:5sccm、エッチング圧力:約3.3Pa、RFパワー:200W(0.63W/cm^(2))、エッチング温度:常温の条件下で行った。これにより、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を約1μmの厚み分だけ除去する。その結果、上記機械研磨に起因して発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板1の裏面近傍の領域を除去することができる。また、n型GaN基板1の裏面を、機械研磨のみで加工した場合と比べて、より平坦な鏡面にすることができる。なお、n型GaN基板1の裏面の反射像を目視により良好に確認することができる表面状態を鏡面とする。
【0046】
ここで、上記したエッチングによる効果を確認するために、エッチング前後におけるn型GaN基板1の裏面の結晶欠陥(転位)密度を、TEM(Transmission Electron Microscope)分析により測定した。その結果、エッチング前には、結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上であったのに対して、エッチング後には、結晶欠陥密度は、1×10^(6)cm^(-2)以下にまで減少していることが判明した。また、エッチング後のn型GaN基板1の裏面近傍の電子キャリア濃度を、エレクトロケミカルC-V測定濃度プロファイラーにより測定した。その結果、n型GaN基板1の裏面近傍の電子キャリア濃度は、1.0×10^(18)cm^(-3)以上であった。これにより、RIE法によるエッチングによって、裏面近傍の電子キャリア濃度を、n型GaN基板1の基板キャリア濃度(5×10^(18)cm^(-3))と同程度にできることがわかった。
【0047】
また、上記したエッチング条件では、エッチング時間とエッチング深さとは比例関係になる。したがって、エッチング時間を調整することにより、エッチング深さを精度よく制御することができる。また、エッチングガスの組成により、エッチングレートおよび表面状態は変化する。図6は、RIE法のエッチングガスを変化させた場合のエッチングレートの変化を示したグラフである。この場合、Cl_(2)ガス流量を10sccmに固定するとともに、BCl_(3)ガス流量を変化させた場合のエッチングレートを測定した。その結果、図6に示すように、Cl_(2)ガスに対するBCl_(3)ガスの流量比が、30%以上70%以下の範囲であれば、エッチングされた面が平坦な鏡面になることが判明した。なお、Cl_(2)ガスに対するBCl_(3)ガスの流量比が、5%未満の場合または85%を越える場合には、エッチングされた面の平坦性が損なわれるとともに、白濁した面となった。
【0048】
上記のようなエッチング工程を行った後、窒化物系半導体レーザ素子構造20を、室温のHCl溶液(濃度10%)に1分間浸漬することにより塩酸処理を行う。これにより、RIE法によるエッチング時に、n型GaN基板1の裏面に付着した塩素系残留物が除去される。
【0049】
この後、スパッタリング法または真空蒸着法などを用いて、窒化物系半導体レーザ素子構造20のn型GaN基板1の裏面(窒素面)上に、n型GaN基板1の裏面に近い方から順に、6nmの厚みを有するAl膜と、2nmの厚みを有するSi膜と、10nmの厚みを有するNi膜と、300nmの厚みを有するAu膜とからなるn側電極8を形成する。
【0050】
最後に、劈開により、素子分離および共振器端面の形成を行うことによって、図5に示すような本実施形態による窒化物系半導体レーザ素子が完成される。
【0051】
本実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、上記したように、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を、RIE法によりエッチングすることによって、研磨工程に起因して発生したn型GaN基板1の裏面近傍の結晶欠陥を含む領域を除去することができる。これにより、結晶欠陥による電子キャリアのトラップなどに起因する電子キャリア濃度の低下を抑制することができる。また、n型GaN基板1の裏面が窒素面である場合には、n型GaN基板1の裏面が酸化されやすいので、その酸化された部分をエッチングにより除去することができる。これらの結果、n型GaN基板1とn側電極8とのコンタクト抵抗を低減することができる。なお、本実施形態に沿って作製された窒化物系半導体レーザ素子におけるn型GaN基板1とn側電極8とのコンタクト抵抗をTLM法(Transmission Line Model)により測定したところ、コンタクト抵抗は、2.0×10^(-4)Ωcm^(2)以下であった。また、n型GaN基板1の裏面(窒素面)上にn側電極8を形成した後、さらに500℃の窒素ガス雰囲気中で10分間の熱処理を行った場合には、コンタクト抵抗はさらに低い1.0×10^(-5)Ωcm^(2)であった。
【0052】
また、本実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスでは、上記したように、n型GaN基板1の裏面を、RIE法によりエッチングすることによって、機械研磨の場合に比べて、n型GaN基板1の裏面の平坦性をより向上させることができる。これにより、n型GaN基板1の裏面上に形成されたn側電極8の平坦性を向上させることができる。その結果、窒化物系半導体レーザ素子をジャンクションダウンで取り付ける構造の場合には、n側電極8に対するワイヤボンディングのボンディング特性を向上させることができる。また、n側電極8を放熱基台(サブマウント)に取り付ける構造の場合には、n側電極8と放熱基台との密着性を向上させることができるので、良好な放熱特性を得ることができる。
【0053】
次に、RIE法を用いてn型GaN基板の裏面(窒素面)のエッチングを行う本発明の効果をより詳細に確認するため、以下の表1に示すような実験を行った。
【0054】
【表1】

上記表1を参照して、ウルツ鉱構造を有するn型GaN基板からなる試料1?7に、種々の窒素面(裏面)処理を施した後、n型GaN基板の裏面近傍の電子キャリア濃度を、エレクトロケミカルC-V測定濃度プロファイラーにより測定した。また、電子キャリア濃度測定後の試料1?7のn型GaN基板の裏面上に、n側電極を形成した後、n型GaN基板とn側電極とのコンタクト抵抗を、TLM法により測定した。
【0055】
なお、試料1?7のn側電極は、上記した一実施形態と同様、Al膜とSi膜とNi膜とAu膜とにより形成した。また、基板研磨、RIE法によるエッチングおよび塩酸処理のその他の条件は、上記した一実施形態と同様である。なお、試料6は、上記した一実施形態の製造プロセスを用いて作製した。
【0056】
結果としては、RIE法を用いてn型GaN基板の裏面のエッチングを行った本発明による試料3?7では、従来と同様の方法により作製された試料1よりもコンタクト抵抗が大きく低減された。具体的には、試料1のコンタクト抵抗は、20Ωcm^(2)であったのに対して、本発明による試料3?7のコンタクト抵抗は、0.05Ωcm^(2)以下であった。これは以下の理由によると考えられる。すなわち、本発明による試料3?7では、機械研磨により発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板の裏面近傍の領域が、RIE法によるエッチングにより除去されたと考えられる。このため、n型GaN基板の裏面近傍における結晶欠陥に起因して電子キャリア濃度が低下するのが抑制されたためであると考えられる。
【0057】
また、本発明による試料3?7では、従来例に対応する試料1よりも、n型GaN基板の裏面近傍の電子キャリア濃度が高かった。具体的には、従来例に対応する試料1の電子キャリア濃度は、2.0×10^(16)cm^(-3)であったのに対して、本発明による試料3?7の電子キャリア濃度は、1.0×10^(17)cm^(-3)以上であった。
【0058】
また、Cl_(2)ガスを用いたRIE法により、n型GaN基板の裏面を約1μmの厚み分だけ除去した試料4では、Cl_(2)ガスを用いたRIE法により、n型GaN基板の裏面を約0.5μmの厚み分だけ除去した試料3よりも、低いコンタクト抵抗を得ることができた。これは、約0.5μmの厚み分の除去では、機械研磨により発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板の裏面近傍の領域を十分に除去することができなかったためであると考えられる。これらの試料において、n型GaN基板の裏面の結晶欠陥(転位)密度を、TEM分析により測定したところ、試料3の結晶欠陥密度は1×10^(9)cm^(-2)であった。一方、試料4では、観察した視野中に結晶欠陥は観察されず、結晶欠陥密度は1×10^(6)cm^(-2)以下であった。したがって、RIE法によりn型GaN基板の裏面を約1.0μm以上の厚み分除去するのが好ましい。
【0059】
また、Cl_(2)ガスおよびBCl_(3)ガスを用いたRIE法によるエッチングを行った試料5では、Cl_(2)ガスのみを用いたRIE法によってn型GaN基板の裏面のエッチングを行った試料4に比べて、さらに低いコンタクト抵抗を得ることができた。
【0060】
また、Cl_(2)ガスおよびBCl_(3)ガスを用いたRIE法によりn型GaN基板の裏面をエッチングした後、塩酸処理を行った上記一実施形態に対応する試料6、および、さらに500℃の窒素雰囲気中で10分間の熱処理を行った試料7では、塩酸処理および熱処理を行わない試料5に比べて、さらに低いコンタクト抵抗を得ることができた。また、試料6と試料7との比較から、熱処理によって、n型GaN基板とn側電極とのコンタクト抵抗をさらに減少することができるとともに、n型GaN基板の裏面近傍の電子キャリア濃度をさらに向上させることが判明した。
【0061】
なお、RIE法によるエッチングを行わずに、10%の濃度のHCl溶液による約10分間の浸漬処理(塩酸処理)を行った試料2では、塩酸処理を行わなかった従来例に対応する試料1よりも、低いコンタクト抵抗を得ることができた。具体的には、試料1のコンタクト抵抗は、20Ωcm^(2)であったのに対して、試料2のコンタクト抵抗は、0.1Ωcm^(2)であった。これは、塩酸処理により、n型GaN基板の裏面が清浄化されたためであると考えられる。
【0062】
また、n型GaN基板のn型ドーパントとして酸素を用いた場合、コンタクト抵抗を低くするために酸素のドーピング量を多くしてキャリア濃度を上げると結晶性が低下する。しかし、本発明により、上記一実施形態によるn型GaN基板1の酸素ドープ量(基板キャリア濃度:5×10^(18)cm^(-3))においてもコンタクト抵抗を低くすることができる。
【0063】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0064】
たとえば、上記一実施形態では、n型GaN基板1を用いて窒化物系半導体レーザ素子を形成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体基板または窒化物系半導体層を用いた場合であってもよい。たとえば、BN(窒化ホウ素)、AlN(窒化アルミニウム)、InN(窒化インジウム)またはTlN(窒化タリウム)などからなる窒化物系半導体基板または窒化物系半導体層が考えられる。また、これらの混晶からなる窒化物系半導体基板または窒化物系半導体層であってもよい。
【0065】
また、上記一実施形態では、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をRIE法によりエッチングしたが、本発明はこれに限らず、他のドライエッチング(反応性エッチング)を用いてもよい。たとえば、反応性イオンビームエッチングや、ラジカルエッチングや、プラズマエッチングを用いてもよい。
【0066】
また、上記一実施形態では、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を、Cl_(2)ガスとBCl_(3)ガスとを用いて、RIE法によりエッチングを行ったが、本発明はこれに限らず、他のエッチングガスを用いてもよい。たとえば、Cl_(2)とSiCl_(4)との混合ガスやCl_(2)とCF_(4)との混合ガスやCl_(2)ガスを用いてもよい。
【0067】
また、上記一実施形態では、RIE法によるエッチング後、窒化物系半導体レーザ素子構造20をHCl溶液に浸漬(塩酸処理)することにより、n型GaN基板1の裏面に付着した塩素系残留物を除去したが、本発明はこれに限らず、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、イオウおよびアンモニアの少なくとも1つを含む溶液に浸漬してもよい。
【0068】
また、上記一実施形態では、n型GaN基板1の上面(Ga面)上に各層2?6を成長した後、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を機械研磨した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をあらかじめ所定の厚みに機械研磨した後、n型GaN基板1の上面(Ga面)上に各層2?6を形成する場合であってもよい。また、n型GaN基板1の窒素面の機械研磨を行わない場合であってもよい。
【0069】
また、上記一実施形態では、各層2?6を形成する際のn型ドーパントおよびp型ドーパントとして、それぞれ、SiおよびMgを用いたが、本発明はこれに限らず、他のn型またはp型のドーパントを用いてもよい。たとえば、n型ドーパントして、SeやGeなどを用いてもよい。また、p型ドーパントして、BeやZnなどを用いてもよい。
【0070】
また、上記一実施形態では、常圧MOCVD法により、n型GaN基板1上に各層2?6を形成したが、本発明はこれに限らず、他の成長法により、各層2?6を形成してもよい。たとえば、減圧MOCVD法により、各層2?6を形成してもよい。
【0071】
また、上記一実施形態では、n型GaN基板1上に、n型バッファ層2を形成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、n型バッファ層2を形成しない場合であってもよい。この場合、各層3?6の結晶性は若干低下するが、製造プロセスを簡略化することができる。
【0072】
また、上記一実施形態では、n側電極8材料としてAl/Si/Ni/Au膜を用いたが、本発明はこれに限らず、10nmの厚みを有するTi膜と500nmの厚みを有するAl膜とからなるn側電極、6nmの厚みを有するAl膜と10nmの厚みを有するNi膜と300nmの厚みを有するAu膜とからなるn側電極、または、10nmの厚みを有するAlSi膜と300nmの厚みを有するZn膜と100nmの厚みを有するAu膜とからなるn側電極などのAlを含む他の電極構造を用いてもよい。
【0073】
また、上記一実施形態では、電流狭窄構造または横方向光閉じ込め構造として、リッジ構造を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、高抵抗のブロック層またはn型のブロック層を用いた埋め込み構造により電流狭窄を行ってもよい。また、イオン注入法などにより、電流狭窄層または横方向光閉じ込め構造としての光吸収層を形成してもよい。
【0074】
また、上記一実施形態では、本発明を窒化物系半導体レーザ素子に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、ウルツ鉱構造を有するn型の窒化物系半導体層または窒化物系半導体基板を用いた半導体素子であればよい。たとえば、表面の平坦性が要求されるMESFET(Metal Semiconductor Field Effect Transistor)、HEMT(High Electron Mobility Transistor)、発光ダイオード素子(LED)または面発光レーザ素子(VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser))などに本発明を適用してもよい。
【0075】
また、上記一実施形態では、所定の厚みを有するp側電極7およびn側電極8を用いたが、本発明はこれに限らず、他の厚みを有する電極であってもよい。たとえば、電極の各層の厚みを薄くして、電極が透光性を有するように形成することによって、面発光レーザ素子や発光ダイオード素子として用いてもよい。特に、n側の電極は透光性を有するような薄い厚みに形成しても、本発明により、n側電極のコンタクト抵抗を十分に低くすることができる。
【0076】
また、上記一実施形態では、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を、RIE法によりドライエッチングを行ったが、本発明はこれに限らず、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をウェットエッチングするようにしてもよい。n型GaN基板1の裏面の窒素面をウェットエッチングする場合には、ウェットエッチング液として、王水、KOHやK_(2)S_(2)O_(8)などを用いる。たとえば、0.1Molの濃度のKOHを用いてn型GaN基板1の裏面の窒素面を室温でウェットエッチングすればよい。なお、この場合、約120℃に昇温すれば、室温の場合に比べて、エッチングレートを約10倍にすることができる。
【0077】
また、上記一実施形態では、n型GaN基板1の窒素面からなる裏面を、RIE法によりドライエッチングする場合について説明したが、本発明はこれに限らず、n型GaN基板1の裏面がGa面からなる場合に、そのn型GaN基板1のGa面からなる裏面をウェットエッチングするようにしてもよい。n型GaN基板1の裏面のGa面をウェットエッチングする場合には、ウェットエッチング液として、王水、KOHやK_(2)S_(2)O_(8)などを用いる。たとえば、0.1Molの濃度のKOHを用いて365nmの水銀ランプを用いて、室温でn型GaN基板1の裏面のGa面をウェットエッチングすればよい。なお、この場合、約120℃に昇温すれば、室温の場合に比べて、エッチングレートを約10倍にすることができる。
【0078】
また、上記一実施形態では、裏面が全て窒素面であるn型GaNジャスト基板を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、n型GaN基板の裏面に少しGa面が存在するn型GaNオフ基板を用いてもよい。このn型GaNオフ基板の場合にも、裏面は本発明の窒素面に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図2】本発明の一実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図3】本発明の一実施形態による窒化物系半導体レ-ザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図4】図3に示したプロセスにおける拡大断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための斜視図である。
【図6】RIE法のエッチングガスを変化させた場合のエッチングレートの変化を示したグラフである。
【図7】従来の窒化物系半導体レーザ素子を示した断面図である。
【符号の説明】
1 n型GaN基板(第1半導体層)
8 n側電極
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-11-29 
結審通知日 2016-12-01 
審決日 2016-12-13 
出願番号 特願2003-74966(P2003-74966)
審決分類 P 1 113・ 857- ZAA (H01S)
P 1 113・ 832- ZAA (H01S)
P 1 113・ 851- ZAA (H01S)
P 1 113・ 121- ZAA (H01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橿本 英吾  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
登録日 2007-03-30 
登録番号 特許第3933592号(P3933592)
発明の名称 窒化物系半導体素子  
代理人 ▲廣▼瀬 文雄  
代理人 古城 春実  
代理人 豊岡 静男  
代理人 今田 瞳  
代理人 松田 一弘  
代理人 今田 瞳  
代理人 蟹田 昌之  
代理人 豊岡 静男  
代理人 尾崎 英男  
代理人 尾崎 英男  
代理人 ▲廣▼瀬 文雄  
代理人 牧野 知彦  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 堀籠 佳典  
代理人 加治 梓子  
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