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審決分類 審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B65D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  B65D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  B65D
審判 全部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  B65D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B65D
審判 全部無効 1項2号公然実施  B65D
管理番号 1326154
審判番号 無効2015-800113  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-04-23 
確定日 2017-02-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5662387号発明「繊維ベールおよびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5662387号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求及び答弁の趣旨
審理の全趣旨からみて、請求人は、特許第5662387号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、被請求人は、上記結論と同旨の審決を求めている。


第2 手続の経緯
特許第5662387号(以下、「本件特許」という。)に係る主な手続の経緯を以下に示す。
平成24年 7月26日 本件特許出願(特願2012-16617
2号、特願2008-511124号の分
割出願、優先権主張日平成17年5月9日
)
平成26年12月12日 設定登録
平成27年 4月23日付け 審判請求
平成27年 8月19日付け 答弁及び訂正請求
平成27年 9月16日付け 審理事項通知
平成27年10月16日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年10月16日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年10月22日付け 審理事項通知(2)
平成27年11月 4日付け 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
平成27年11月 4日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
平成27年11月 6日付け 口頭審理陳述要領書(3)(被請求人)
平成27年11月 9日 口頭審理
平成27年11月17日付け 上申書(被請求人)
平成27年11月30日付け 上申書(請求人)


第3 当事者の主張及び証拠方法
1.請求人の主張及び証拠方法
(1)請求人の主張の要旨
ア.請求人は、被請求人が行った平成27年8月19日付けの訂正請求による訂正(以下、平成27年8月19日付けの訂正請求を「本件訂正請求」と、「本件訂正請求」による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものではない、また、同訂正は、訂正直前明細書の範囲内の訂正ではなく、実質上特許請求の範囲を変更するものでもあるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に違反し、同訂正は認められるべきでない、と主張している。(口頭審理陳述要領書(請求人)の「6.第2」)

イ.そして、本件訂正前の本件特許は、以下の(ア)?(エ)に示す無効理由1ないし無効理由4により、無効とすべきものであると主張している。(第1回口頭審理調書の「当事者双方」欄1)
(ア)無効理由1(特許法第36条第6項第2号違反(第123条第1項第4号))
a.請求項1に係る発明は、「繊維材料を高さにして0?25%広げるように圧力を除去する工程」において、数値範囲の限定に「0」を含む記載がなされている結果、発明の範囲が不明確である。
b.請求項2ないし9に係る発明も、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であるから、請求項1に係る発明と同様に不明確である。

(イ)無効理由2(特許法第36条第6項第1号第36条第4項第1号違反(第123条第1項第4号))
a.明細書には、請求項1に係る発明の構成を備えた実施例がなく、請求項1に係る発明の各要件の関係を裏付ける記載も存在しないから、当業者が「ベールプレスから出て48時間後の繊維ベールの頂上の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの頂上の高さが50%以下である」との要件を達成するように請求項1に係る発明を実施することができない。よって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、発明の詳細な説明は請求項1に係る発明を実施できる程度に記載されたものではない。
b.請求項2ないし9に係る発明も、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であるから、同様の無効理由が存在する。

(ウ)無効理由3(特許法第29条第2項違反(第123条第1項第2号))
a.請求項1に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第4号証から容易。
b.請求項2に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第4号証から容易。
c.請求項3に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第6号証から容易。
d.請求項4に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第4号証から容易。
e.請求項5に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第4号証から容易。
f.請求項6に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第6号証から容易。
g.請求項7に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第6号証から容易。
h.請求項8に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第4号証から容易。
i.請求項9に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証と、従たる証拠である甲第2号証ないし甲第4号証から容易。

(エ)無効理由4(分割要件違反に基づく出願日不遡及による新規性進歩性欠如(第123条第1項第2号))
本件特許が基づくもとの特許出願である特願2008-511124号の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面には、以下のa及びbの点が開示されていないから、本件特許は新規事項を含むものであり、分割出願として出願日の遡及は認められない。
a.「上部ベールプラテンおよび底部ベールプラテン」の「各プラテンが凸型表面」である場合に「ベールプレスから出て48時間後の繊維ベールの頂上の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの頂上の高さが50%以下である」との要件を満たすこと。
b.「高圧縮繊維材料12を高さにして約0?約25%広がるのを許す」ようにするために「圧力を除去する」こと。
したがって、請求項1ないし9に係る発明は、上記特願2008-511124号の公表公報(特表2009-508764号公報)である甲第8号証に記載された発明と同一の発明であるか又はそれから当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に違反するものである。

ウ.また、請求人は、仮に本件訂正が認められたとしても、本件訂正後の本件特許も、上記イ.の(ア)?(エ)に示した無効理由1ないし無効理由4により、無効とすべきものであると主張している。(第1回口頭審理調書の「請求人」欄2)

(2)証拠
請求人は、証拠方法として以下の甲第1号証ないし甲第10号証を提出している。甲第1号証ないし甲第9号証は審判請求書に、甲第10号証は平成27年10月16日付け口頭審理陳述要領書(請求人)に、それぞれ添付して提出されたものである。

甲第1号証:特開昭53-143491号公報
甲第2号証:独国実用新案第29615598号明細書及びその訳文
甲第3号証:英国特許第398144号明細書及びその訳文
甲第4号証:米国特許第3063363号明細書及びその訳文
甲第5号証の1:国際公開第03/089309号
甲第5号証の2:特願2003-586035号の国際出願翻訳文提出書
甲第6号証:米国特許出願公開第2004/0159658号明細書
甲第7号証:国際公開第2006/121555号
甲第8号証:特表2009-508764号公報
甲第9号証:韓国特許第1063655号の無効審判審決
(審判番号2013当2816)及びその訳文
甲第10号証:中山信弘、小泉直樹 編、「新・注解 特許法【下巻】」、
初版、株式会社青林書院、2011年4月26日、
2071?2072頁

2.被請求人の主張
(1)被請求人の主張の要旨
審理の全趣旨からみて、被請求人は、本件訂正請求は適法であるから訂正は認められるべきである、また、請求人が主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張している。

(2)証拠
被請求人は、証拠方法として以下の乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。

乙第1号証:特表2005-528096号公報
乙第2号証:米国特許第3442204号明細書
乙第3号証:「国際コンテナ輸送の知識?コンテナの種類とサイズについ
て」と題されたウェブページの印刷物
(URL:http://www.nnt.co.jp/ContainerSize.htm、印刷日
2015年10月24日)
乙第4号証:「JIS L 1013:2010化学繊維フィラメント糸試
験方法」と題されたウェブページの印刷物
(URL:http://kikakurui.com/l/L1013-2010-01.html、印刷
日 2015年10月28日)
乙第5号証:「紙の密度」の表が掲載されたウェブページの印刷物
(URL:http://www.matsushita-paper.co.jp/contents/
museum/index3.html、印刷日 2015年10月29日)


第4 訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、請求項1ないし9からなる一群の請求項について、次の訂正事項1ないし訂正事項3からなる訂正を請求するものである。

(1)訂正事項1
願書に添付した明細書の段落【0019】に記載の「凸型表面20は、高圧縮六面体繊維材料12上の一時的な凸型表面を生成する」を、「凸型表面20は、高圧縮六面体繊維材料12上の一時的な凹型表面を生成する」に訂正する。

(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0022】に記載の「頂上の高さ」を、「湾曲の高さ」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に記載の「頂上の高さ」を、「湾曲の高さ」に訂正する。

2.本件訂正についての当事者の主張
本件訂正請求による訂正事項2及び3について、請求人及び被請求人は概要以下の主張をしている。なお、訂正事項1については争いはない。
(1)請求人の主張
ア.本件特許の明細書の段落番号【0011】、【0013】、【0022】及び【表I】の記載から、「実施例」の表1の「例No.2」で行われて得られるものは、下記図1で示す繊維ベールXである、と当業者は理解する。

図1.実施例1の表Iにおける「例No.2」の「プレス中」(a)、「プレスから出た直後」(b)、「プレスから出て48時間」(c)の繊維ベールXを模式的に示す図

繊維ベールXは、(a)プレス中、上面凸型ベールプラテン及び底面平坦プラテンで圧縮され、その「頂上の高さ」は「ゼロ」である(表1参照のこと)。ここで、「頂上の高さ」の基準は、(a)プレス中の繊維ベールXの一番高いところである「頂上」の高さを基準(これを「ゼロ」)とし、以下、この基準からの増加分を表1に記載している、と当業者は理解する。
(c)プレスから出て48時間において、繊維ベールXの上面は、本件特許の明細書の段落番号【0011】及び【0013】に基づいて、「湾曲を実質的に有しない」面となっており、その「頂上」(繊維ベールXの一番高いところ)の高さは、基準面から「3cm」となることを表1で示している。
一方、「湾曲の高さ」という用語は、その定義が本件の明細書に一切開示されておらず、意味不明であるが、仮に、「湾曲の高さ」とは、湾曲部が開始する箇所を基準とし、湾曲部の最も高い地点までの距離であるとすると、下記図2に示すように、本件の明細書の記載と矛盾が生じる。

図2.「湾曲の高さ」と「頂上の高さ」とは異なる概念となることを示す図

図2において、「Y」で表される一点鎖線は、上述した「湾曲部が開始する箇所」であり、その基準を示した線である。これによると、「湾曲の高さ」は、図1で示した「頂上の高さ」である「3cm」よりも十分に小さい値となり、「湾曲の高さ」と「頂上の高さ」とが相矛盾することが明確にわかる。
(口頭審理陳述要領書(請求人)5頁5行?7頁下から5行)

イ.段落【0003】、【0011】に記載のとおり、本件訂正発明の方法が「湾曲を実質的に有しない」繊維ベールの製造方法であるにも拘らず、本件発明の製造方法によって製造された繊維ベールについて「湾曲の高さ」を規定するのは、本件発明においても「湾曲」が存在することを意味するのであり、明細書に記載された発明の趣旨とは明らかに異なっており、その意味はますます不明確となるもので「明瞭でない記載の釈明」にはあたらない。 したがって、「頂上の高さ」を「湾曲の高さ」へと訂正する訂正事項2及び3は、特許法134条の2第1項但し書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものではなく、訂正要件に違反である。
(口頭審理陳述要領書(請求人)8頁7?15行)

ウ.「湾曲の高さ」という用語が「本来の意」であることは、本件特許の明細書から明らかではないということは、即ち、いわゆる訂正直前明細書の範囲内の訂正でないことであり、訂正要件に違反する。
(口頭審理陳述要領書(請求人)8頁18?20行)

エ.上記図2から明らかなように、「湾曲の高さ」とすると、訂正前の用語である「頂上の高さ」を用いた場合と、その値が異なることとなる。したがって、「頂上の高さ」を「湾曲の高さ」へと訂正する訂正事項2及び3は、特許法134条の2第9項によって読み替えらえられる特許法126条6項に規定する要件に合致せず、実質上特許請求の範囲を変更するものでもあり、訂正要件に違反する。
(口頭審理陳述要領書(請求人)8頁23行?9頁1行)

(2)被請求人の主張
ア.本件発明は、貯蔵と干渉する湾曲を実質的に形成しない高密度繊維ベールを製造することを目的とする(【0003】)。貯蔵との干渉とは、積層された個々のベールの上部表面と底部表面がふくれて湾曲ができ、その湾曲が特に積層面で相互に斥け合って上下2つの湾曲の高さに相応する高さの隙間を生じさせるため、積層状態が不安定になることを意味する。この湾曲を実質的に形成しないようにする目的のもと行われた本件特許の実施例では、湾曲の高さが測定されるのが当然であり、訂正前の実施例の「時間の関数としてその頂上の高さの増加を決めるために各繊維ベール試料の上部表面の成長が測定された」(【0022】)の記載における「上部表面の成長」が「上部表面の湾曲の高さの成長」であることは明らかである。
(口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)2頁下から11?3行)

イ.従って、表Iに示された測定値は、時間の関数としての上部表面の「湾曲の高さ」である。積層面に隙間を生じさせる湾曲は曲面により構成されるから、「湾曲の高さ」とは「湾曲部が開始する位置」から「湾曲の頂点」までの高さである。請求人要領書7頁の図2では、この「湾曲部が開始する位置」は一点鎖線「Y」に相当するが、該図に「湾曲の頂点」が描かれていないので、一点鎖線「Y」と「湾曲の頂点」を描いた被請求人作成の図Aを以下に示す。

(口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)2頁末行?3頁5行及び「図A」)

ウ.訂正前の「頂上の高さ」は、その増加が「上部表面の成長」の測定により決まると記載されているところ、上記のように「上部表面の成長」が「上部表面の湾曲の高さの成長」のことであるから、結局、訂正前の「頂上の高さ」は、「湾曲の高さ」のことであり、図Aにおける一点鎖線「Y」から「湾曲の頂点」までの高さである。
(口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)4頁2?5行)

エ.請求人は、図1(c)及び図2において、表Iに示された例 No.2の「プレスから出て48時間」の繊維ベールXの「3cm」を湾曲部が開始していない位置(図2における破線)からのものとし、湾曲部がない部分も「3cm」に含めるように示しているが、本件発明の目的を考慮すればそのようにならない。湾曲部がない部分は、積層したベール間に隙間を生じさせず、積層状態を不安定にしないから、測定対象ではない。正しくは、「3cm」は、被請求人作成の図Aの一点鎖線「Y」から「湾曲の頂点」までの高さである。
(口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)4頁下から8?3行)

3.本件訂正に対する当審の判断
(1)一群の請求項について
請求項2、3、4、8及び9は請求項1の記載を引用し、請求項5は請求項4の記載を引用し、請求項6は請求項5の記載を引用し、請求項7は請求項6の記載を引用しているから、請求項1ないし9は、平成27年11月改正前の特許法施行規則第45条の4第4号に規定する関係を有する一群の請求項を構成するものである。
したがって、請求項1ないし9は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項に該当する。

(2)訂正の目的、新規事項、実質的拡張又は変更について
ア.訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の段落【0019】の「凸型表面20は、高圧縮六面体繊維材料12上の一時的な凸型表面を生成する」との記載を「凸型表面20は、高圧縮六面体繊維材料12上の一時的な凹型表面を生成する」に訂正するものである。
上記「凸型表面20」とは、段落【0019】に「凸型ベールプラテン18は、下記に詳細に説明するように凸型表面20を有する。本明細書で使用される凸型表面20は、外側に湾曲した表面、たとえば、球面を意味する。」と記載されているように、凸型ベールプラテン18に形成された「外側に湾曲した表面」を意味している。そのような形状の凸型ベールプラテン18により繊維材料を圧縮した場合、繊維材料の表面は、凸型ベールプラテン18の「外側に湾曲した形状」に対応して凹み、「凹型表面」が生成されることが当業者に自明である。そうすると、訂正前の「凸型表面を生成する」は「凹型表面を生成する」の誤記であったことが明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項、実質的拡張又は変更について
上記(ア)のとおり、訂正事項1に係る事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項、若しくはそれら事項から自明な事項であって、新たな技術的事項を導入するものではない。また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張したり、変更したりするものでないことが明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ.訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の段落【0022】に記載の「頂上の高さ」を、「湾曲の高さ」に訂正するものである。被請求人は、訂正の目的を「明瞭でない記載の釈明」としていることから、当該訂正事項2が明瞭でない記載の釈明を目的としたものであるか否かについて以下に検討する。

a.訂正前の「頂上の高さ」との用語について、明細書ではその意味を直接的には説明していない。そして、「頂上の高さ」との表現のみからは、繊維ベールにおける、どの位置を基準とした、どの部分までの高さを意味しているのか、直ちに明らかとまではいえない。

b.ところで、明細書の段落【0003】には「しかしながら、従来の方法は、上面または底面上の湾曲を実質的に形成することなく高密度繊維ベールを製造することができなかった。上面または底面の湾曲は、例えば、アセテートトウベールにおいて、互いの上面の高密度の繊維ベールの貯蔵と干渉し、結合をゆるめるので問題である。」と記載され、また、段落【0011】には「本発明の繊維ベールは、上面または底面上の湾曲を実質的に有しない高密度六面体繊維材料を含む。」と記載されていることから、「湾曲を実質的に形成しない」ことを本発明の目的としていることが読み取れる。

c.ここで、「湾曲を実質的に形成しない」とは、貯蔵の際に「結合をゆるめるので問題である」とされる部分を形成しないこと、すなわち繊維ベールの上面または底面における「湾曲が開始する位置」から「湾曲の頂点」までの高さ(湾曲の高さ)を抑えることを意味していると解される。

d.一方、段落【0022】及び表Iには、実施例として、本発明の上面凸型ベールプラテンを用いた場合に平坦プラテンを用いた場合と比較して上部表面の成長が抑えられている試験結果が示されており、これは、本発明の上記目的(「湾曲を実質的に形成しない」こと)が達成されていることを示したものと解される。そうすると、表Iの試験結果の数値及び訂正前の段落【0022】に記載された「頂上の高さ」とは、上記した「湾曲の高さ」を意味するものであったと解することが合理的である。

e.そうすると、訂正事項2に係る訂正は、直ちには意味が明らかではない「頂上の高さ」との用語を、その用語が本来意味していた「湾曲の高さ」へと明らかにするものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

f.請求人は『本件訂正発明の方法が「湾曲を実質的に有しない」繊維ベールの製造方法であるにも拘らず、本件発明の製造方法によって製造された繊維ベールについて「湾曲の高さ」を規定するのは、本件発明においても「湾曲」が存在することを意味するのであり、明細書に記載された発明の趣旨とは明らかに異なっており、その意味はますます不明確となるもので「明瞭でない記載の釈明」にはあたらない。』(「2.(1)」の「イ.」を参照)と主張している。
しかしながら、明細書の段落【0013】に記載されるように、「湾曲が実質的に存在しない」とは「平ら、わずかに窪んだ、またはわずかにふくれた表面」を意味しているから、本発明において湾曲が存在してもよいことは明らかであるし、湾曲を小さく抑えることを目的とした発明について「湾曲の高さ」を規定することで発明を特定することに何ら不合理な点はない。よって請求人の主張は採用できない。

したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項、実質的拡張又は変更について
上記「3.(2)イ.(ア)」の「b.」ないし「d.」で述べたとおり、訂正前の「頂上の高さ」とは「湾曲の高さ」を意味していたといえるから、「頂上の高さ」を「湾曲の高さ」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項、若しくはそれら事項から自明な事項の範囲内の訂正であって、新たな技術的事項を導入するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
なお、請求人は『「頂上の高さ」の基準は、(a)プレス中の繊維ベールXの一番高いところである「頂上」の高さを基準(これを「ゼロ」)とし、以下、この基準からの増加分を表1に記載している、と当業者は理解する。』との前提に立って、「頂上の高さ」と「湾曲の高さ」とが異なる概念である旨主張している(「2.(1)」の「ア.」、「ウ.」及び「エ.」を参照)。
しかしながら、仮に「頂上の高さ」の基準が「プレス中の繊維ベールの一番高いところ」であり、「この基準からの増加分を表1に記載している」ものであったとすると、段落【0022】の実施例において示す「頂上の高さ」や表Iの数値が、湾曲した部分の高さだけでなく、圧縮の開放による繊維ベール全体の高さの増加分も含むこととなる。そして、このような「頂上の高さ」についての試験結果を実施例として示すことは、「湾曲を実質的に形成しない」との発明の目的からみて無意味であることが明らかである。
よって、請求人の解釈は合理的とはいえず、上記主張は採用できない。

したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2に係る訂正にともなって、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、その訂正は、上記3.(2)イ.で訂正事項2について検討した内容と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項、若しくはそれら事項から自明な事項の範囲内でするものであって、新たな技術的事項を導入するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)本件訂正についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項1ないし3に係る訂正はいずれも適法であるから、本件訂正請求のとおりの訂正を認める。


第5 本件発明
上記第4のとおり、本件訂正は認められるから、本件発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、これらの発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)。なお、請求項1については、構成要件AないしHに分説して示す。

【請求項1】
A.上部ベールプラテンおよび底部ベールプラテンを備えたベールプレスを供給する工程であって、前記各プラテンは凸型表面を有し、前記凸型表面は最高点および底部を有し、前記最高点と前記底部との間の距離は1?10cmの範囲である工程、
B.前記ベールプレスにセルロースアセテートの繊維材料を供給する工程、
C.前記ベールプレスにより482.6?4826.3kPa(70?700psi)の範囲の総圧力をかけて、前記セルロースアセテートの繊維材料を1秒?数分間圧縮する工程、
D.これによって高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を形成する工程、
E.高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を高さにして0?25%広げるように圧力を除去する工程であって、これにより広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を形成する工程、
F.前記広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を包装材料で包装する工程、
G.および前記包装材料を締める工程、
H.を含むセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法であって、前記ベールプレスから出て48時間後の前記高圧縮された繊維ベールの湾曲の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの湾曲の高さの50%以下である、方法。

【請求項2】
前記繊維ベールに真空を引かない、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。

【請求項3】
前記包装材料で包装する工程の後に、前記繊維ベールに真空を引く工程をさらに含む、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。

【請求項4】
前記包装材料は、空気透過性締め具または空気不透過性締め具によって締められる、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。

【請求項5】
前記包装材料は、空気透過性材料、空気不透過性材料、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項4に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。

【請求項6】
前記包装材料は、真空を開放する手段をさらに含む、請求項5に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。

【請求項7】
前記真空を開放する手段は、閉じることが可能な開口である、請求項6に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。

【請求項8】
前記凸型ベールプラテンは、前記繊維ベール上へのひもの設定を容易にするための溝またはすじを有する、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。

【請求項9】
前記繊維ベールはひもを含む、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。


第6 無効理由1(特許法第36条第6項第2号)について
1.請求人の主張の要点
無効理由1について、請求人は以下の主張をしている。
(1)『本件請求項1の発明の「高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を高さにして0?25%広げるように圧力を除去する工程であって、これにより広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を形成する工程」の要件は、「繊維材料を高さにして0?25%広げるように圧力を除去する工程」を含むところ、当該要件自体において、「これにより広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料」と記載されており、これに次ぐ要件では、「前記広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を包装材料で包装する工程」、とされ、この発明は「圧力を除去」し繊維材料は、「広がった」ことが必須の構成であるのに、その前段において「0」を含む記載がなされており、「広がらない」ことを許容する規定となっていて、請求項に記載された要件自体で相互に矛盾しており、発明の範囲が不明確となる。』(審判請求書3頁5?18行)

(2)『圧縮梱包体は高い圧力をかけて体積を減ぜられるものであるから、内部には塑性変形が生じている。したがって、「圧力を減ずれば即座に広がる。」ようなものではなく、広がる場合でもかけられる圧力、時間により直ちに広がらない場合も当然に存在する。(広がるにしても、時間を置いて広がる )本件発明1の規定はこのような場合も念頭において広がらない場合を含めた規定であると理解するのが技術的も、文理上も正しい。すなわち、広げるのは「任意」工程である。仮にこれを必須工程とするのであれば、第36条第6項第2号違反である。
現に本件明細書を参照しても、唯一の実施例である【表I】の「例No.2」は、「プレスから出た直後」の「湾曲の高さ」が「0」であるとするのであるから、当業者が本件明細書を見て、「広がらない」場合である「0」を含まない、と理解することのほうが難しい。』
(口頭審理陳述要領書(請求人)13頁下から2行?14頁9行)

2.当審の判断
(1)本件発明1の「高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を高さにして0?25%広げるように圧力を除去する工程」に関して、本件訂正後の明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。

「【0020】
製造においては、繊維材料は少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスに運ばれる。上部プラテンおよび下部プラテンは包装材料14で覆われている。少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスは、約1秒?約数分間、繊維材料上に約70psi?700psiの範囲の総圧力をかけ、これによって繊維材料を高圧縮六面体繊維材料12に圧縮する。次いで、少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスは、高圧縮繊維材料12が高さにして約0?約25%広がるのを許すように圧力を除去する。…」

(2)ここで、上記「次いで、少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスは、高圧縮繊維材料12が高さにして約0?約25%広がるのを許すように圧力を除去する。」という説明についてみると、「約0」との記載は、おおよそ0であることを意味すると解されるところ、高圧縮繊維材料12が「広がる」としていることに鑑みれば、広がらない場合、すなわち「0」は含まないと理解するのが合理的である。

(3)また、先に「第4 3.(2)イ.(ア)b.」で述べたように、本件発明は「湾曲を実質的に形成しない」ことを目的としていることから、圧力を除去したときに繊維材料が広がることを前提としていると解される。このことは、本件明細書の段落【0022】の表Iにおいて、平坦プラテンを使用した場合(No.1の欄)の「プレスから出た直後」の「湾曲の高さ」が「4cm」となっていることからも裏付けられている。そして、本件明細書の何れの箇所にも「広がらない場合」についての記載はなされていない。

(4)これらを踏まえると、本件発明1の「0?25%広げる」との記載も、「広がる」ことを前提としていると理解できるものであって、上記本件明細書の記載と同様に「0%」を含まないと解釈できるものである。そうすると、請求項の記載に矛盾が存在するものとはいえず、発明の範囲が不明確とはいえない。

(5)請求人は、『かけられる圧力、時間により直ちに広がらない場合も当然に存在する』こと、『【表I】の「例No.2」は、「プレスから出た直後」の「湾曲の高さ」が「0」である』ことを根拠に、『本件発明1の規定は……広がらない場合を含めた規定であると理解するのが技術的も、文理上も正しい』と主張している。(上記「1.(2)」を参照。)
しかしながら、仮に「直ちに広がらない場合が当然に存在する」としても、それは、特定の条件下で技術的に起こり得ることを意味するのみであって、本件発明1が広がらない場合を想定している根拠にならないことが明らかであるし、また、表Iの数値は、「湾曲が開始する位置」から「湾曲の頂点」までの高さを意味していることから(「第4 3.(2)イ.(ア)」の「c.」及び「d.」を参照。)、表IのNo.2の「プレスから出た直後」の数値が「0cm」であることが、繊維ベール全体が広がらないことを意味しているわけではないことも明らかである。
したがって、請求人の主張には根拠がなく、上記判断のとおり解するのが相当である。

よって、本件発明1が明確でないということはできない。また、請求項1を直接又は間接的に引用する発明である本件発明2ないし9についても、同様の理由により、明確でないということはできない。

3.無効理由1についてのまとめ
以上のことから、請求人の主張する無効理由1によっては、本件発明1ないし本件発明9についての特許を無効とすることはできない。


第7 無効理由2(特許法第36条第6項第1号第36条第4項第1号)について
1.請求人の主張の要点
無効理由2について、請求人は概要以下の主張をしている。
(1)段落【0022】の実施例は、請求項1の構成要件A、C、E、F、Gが条件として記載されていないのは明らかであり、明細書には請求項に記載の構成を実施した実施例が存在しない。請求項1に記載の発明は、各構成要件が有機的に結びついたものである筈であるが、発明の詳細な説明には、そのような有機的な結合による発明について記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に違反する。また、段落【0022】に記載の結果は、どのように得られたものであるのか不明であり、請求項1に記載の発明がどのようにすれば得られるのか、当業者がその実施をできる程度に記載がないので、特許法第36条第4項第1号に違反する。(審判請求書13頁下から3行?15頁7行)

(2)本件明細書には、構成要件Aを備えたものにおいて構成要件Hを達成できることの開示がない。すなわち、段落【0022】の実施例は構成要件Aを備えておらず、請求項1に係る発明の実施例ではないから、どのようにすることで構成要件Hが達成されるものであるのか、明細書の何れにも記載されていない。(審判請求書15頁8?26行)

(3)湾曲の高さを測定する基準点が不明である。明細書には「湾曲」なる語は、段落【0012】、【0013】等に「湾曲が実質的に存在しない」、段落【0019】に「外側に湾曲した表面」なる語があるだけで、「湾曲の高さ」なる語は見当たらない。また、湾曲の高さを測定する基準時も不明である。(口頭審理陳述要領書(請求人)9頁14行?10頁19行)

(4)表Iの実施例は、「プレスから出て48時間後の前記高圧縮された繊維ベールの湾曲の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの湾曲の高さの50%以下」とはなっていない。(口頭審理陳述要領書(請求人)10頁20行?11頁22行)

(5)本件明細書でも、凸型プラテンを有するプレスが従来から存在したことを認めており、本件明細書でもそのような「従来プレス」を使用することを前提としている(【0019】)。本件明細書に記載されている方法は、従来技術とどのように異なり、どのような効果を奏するのか全く不明である。(口頭審理陳述要領書(請求人)12頁4?13行)

2.当審の判断
(1)上記1.(1)及び(2)によると、請求人は、要するに、本件明細書には本件発明1すなわち構成要件AないしHの全てを備えた発明の記載がなく、本件発明1を実施できる程度の記載がない旨主張しているから、まず、この点について以下に検討する。

ア.本件明細書には、以下の記載がある。

「【0019】
図2および3を参照すると、繊維ベール10の製造を容易にするために、少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレス(図示しない)が導入される。従来のプレスは、通常、上部プラテンおよび底部プラテンを有し、上部プラテンまたは底部プラテンは凸型ベールプラテン18であることができる、しかしながら、代わりに、上部および底部プラテンが共に凸型ベールプラテン18であることができる。凸型ベールプラテン18は、下記に詳細に説明するように凸型表面20を有する。本明細書で使用される凸型表面20は、外側に湾曲した表面、たとえば、球面を意味する。凸型表面20は、平滑な表面、例えば、連続面、切り子面、または段状面である。凸型表面20は、最高点22および底部24を有する。最高点22と底部24の間の距離26は、約1cm?約10cmである。例えば、最高点22と底部24の間の距離26は約5cmである。凸型表面20は凸型ベールプラテン18の統合的な構成要素である。または、代わりに、従来の方法によって凸型ベールプラテン18に固定された分離された要素であることができる。凸型表面20は、高圧縮六面体繊維材料12上の一時的な凹型表面を生成する。これは、高圧縮六面体材料の内部圧力のために短い時間の間に消滅し、これによって繊維ベール10を製造する。凸型表面20は、繊維ベール10上への皮ひも(図示しない)の設定を容易にするための溝またはくぼみを有する。好ましくは、凸型表面20は、繊維ベール10上への皮ひも(図示しない)の設定を容易にするための複数の溝またはすじを有する。凸型表面20は、繊維ベール10にひも溝(図示しない)を生成するための手段をさらに有することができる。ひも溝を生成するための手段としては、これに限定されずに、パターンおよび刻印が挙げられる。本明細書で使用されるひも溝は、繊維ベール上の溝やすじのようなへこみを意味し、これはひもを繊維ベールに設定するのを容易にする。
【0020】
製造においては、繊維材料は少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスに運ばれる。上部プラテンおよび下部プラテンは包装材料14で覆われている。少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスは、約1秒?約数分間、繊維材料上に約70psi?700psiの範囲の総圧力をかけ、これによって繊維材料を高圧縮六面体繊維材料12に圧縮する。次いで、少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスは、高圧縮繊維材料12が高さにして約0?約25%広がるのを許すように圧力を除去する。次に、高圧縮六面体繊維材料12は包装材料14で包装される。次いで、包装材料14は締め具によって締められ、これによって繊維ベール10を製造する。真空がさらに繊維ベール10に引かれることができ、または、代わりに、繊維ベール10は真空でなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の繊維ベールを示す。
【図2】凸型ベールプラテンの断面図を模式的に示す。
【図3】凸型ベールプラテンの斜視図を模式的に示す。
【0022】
実施例
下記に詳細に示される2つの繊維ベール試料が製造され、時間の関数としてその湾曲の高さの増加を決めるために各繊維ベール試料の上部表面の成長が測定された。前記試験の結果が下記の表Iに示されている。繊維ベール試料1および2の製造条件は性格に一致している。繊維ベール試料1は標準の平坦プラテンを使用して製造され、繊維ベール試料2は本発明の上面凸型ベールプラテンを使用して製造された。
【表I】

【0023】
本発明は、本発明の精神および本質的特徴から離れない限り、他の形で実施され得る。したがって、本発明の範囲については、明細書ではなく特許請求の範囲を参照すべきである。」

イ.段落【0022】には、繊維ベール試料の製造についての実施例が記載されているが、製造条件等、本件発明1の構成要件A、C、E、F、Gで特定される事項については記載されていない。

ウ.ここで、構成要件Aで特定される凸型表面の最高点と底部との間の距離、構成要件C、Eで特定されるプレスについての製造条件、構成要件Fで特定される「包装する工程」、及び構成要件Gで特定される「包装材料を締める工程」については、段落【0019】又は【0020】において説明がなされている。
当該段落【0019】及び【0020】における説明は、本件発明の繊維ベールの製造方法に関して、使用されるプラテンの態様、繊維ベール製造の手順、工程毎の製造条件等を具体的に説明したものであって、実施例においてはこれらの説明を省略したものと考えられる。すると、実施例において、段落【0019】及び【0020】で説明されている上記技術事項を採用でき、その上で表Iに示された試験結果が得られると解するのが相当である。

エ.一方、構成要件Aで特定される「上部ベールプラテンおよび底部ベールプラテン」をともに「凸型表面」とする点については、段落【0019】に記載されているものの、段落【0022】の実施例においては、これを採用したものであるのか否かは説明されていない。

オ.そこで、仮に「上部ベールプラテンおよび底部ベールプラテン」をともに「凸型表面」とした場合に、実施例の表Iと同様の試験結果が、ベールの上部表面及び底部表面で得られるか、すなわち構成要件Hを達成することができるかについて次に検討する。

カ.まず、実施例のNo.2が、上部のみ凸型ベールプラテンを用いた場合の試験結果を示したものであったとすると、上部及び底部の両方に凸型ベールプラテンを用いた場合には、繊維ベールの圧縮の形状が実施例のNo.2と異なることになるから、繊維ベールの上部表面は必ずしも表Iの測定結果が得られるとは限らないし、底部表面にどのような成長が得られるのか必ずしも明らかではない。

キ.ところで、本件発明1は、繊維ベールのサイズについて特定されておらず、また、プラテンの凸型形状はその最高点と底部との間の距離が特定されているのみであるから、繊維ベールの大きさに対してどの程度湾曲した凸型プラテンを用いるのかについては特定していないものである。

ク.また、表Iに示した試験結果からみて、凸型プラテンを用いることで、平坦プラテンを用いた場合と比較して、繊維ベールの表面の湾曲の高さが抑えられているところ、より平坦に近い凸型プラテンを用いれば繊維ベールの湾曲の高さはあまり抑えられず、湾曲がより大きい凸型プラテンを用いれば繊維ベールの湾曲の高さはより抑えられるであろうことは、定性的に理解できるところである。

ケ.してみると、上部及び底部の両方に凸型ベールプラテンを用いた場合であっても、繊維ベールのサイズ及びプラテンの形状を適宜設定することで、繊維ベールの上部表面及び底部表面において、構成要件Hを達成できる程度に湾曲を抑えるよう本件発明1を実施することは可能というべきである。

コ.そして、上記ウ.で述べた点を踏まえれば、構成要件AないしGを組み合わせた発明が本件明細書に記載されていることが明らかであるところ、上記キ.及びク.の点からみて、そのような発明が構成要件Hを達成できること、及び、構成要件Hを備えた発明は「湾曲を実質的に形成しない」という本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであることが明らかであるから、構成要件AないしHを組み合わせた発明が本件明細書に裏付けられていないとはいえない。

サ.したがって、本件明細書には、本件発明1すなわち構成要件AないしHの全てを備えた発明が記載されていないということはできず、また、本件発明1を実施できる程度の記載がないということもできない。

(2)また、上記1.(3)ないし(5)で述べた請求人の主張について検討しても、以下のとおり理由がない。
ア.「1.(3)」の主張について
先に「第4 3.(2)イ.(ア)」の「c.」及び「d.」で述べたとおり、「湾曲の高さ」とは「湾曲が開始する位置」から「湾曲の頂点」までの高さを意味しており、また、表Iの数値は「湾曲の高さ」を意味している。よって、「湾曲の高さを測定する基準点」は明らかであり、また、「湾曲の高さを測定する基準時」は表Iに示された各時点であることが明らかである。

イ.「1.(4)」の主張について
上記ア.のとおり、表Iの数値は「湾曲の高さ」を意味しているから、「プレスから出て48時間後の前記高圧縮された繊維ベールの湾曲の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの湾曲の高さの50%以下」となっていることは明らかである。

ウ.「1.(5)」の主張について
段落【0022】の実施例の記載からみて、「上面凸型ベールプラテン」を用いたものが「本発明」であることが明らかであるから、段落【0019】の「少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレス」とは、『「従来のプレス」に「凸型ベールプラテン18」を設けたもの』を意味することが明らかであり、本件明細書に記載されている方法が従来技術とどのように異なるのか不明とはいえない。

(3)よって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。また、発明の詳細な説明は本件発明1を実施できる程度に記載されたものではないとはいえない。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する発明である本件発明2?9についても、上記と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。また、発明の詳細な説明は、上記と同様の理由により、本件発明2?9を実施できる程度に記載されたものではないとはいえない。

3.無効理由2についてのまとめ
以上のことから、請求人の主張する無効理由2によっては、本件発明1ないし本件発明9についての特許を無効とすることはできない。


第8 無効理由3(特許法第29条第2項)について
1.甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項及び甲1発明
ア.甲第1号証の記載事項
本件特許が基づくもとの特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開昭53-143491号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

1a「2.特許請求の範囲
(1)開閉自在開口部(16a)を介していくつかの層の形態にある嵩張つた物質を圧縮チヤンバ(16)内に供給し、該圧縮チヤンバ内に該物質の層が供給される毎に該物質を圧縮し、所望の数の層を該圧縮チヤンバに供給した後高圧力下に最終圧縮を実施し、続いて、加圧を実質的に低圧にまで下げてベイルに圧縮された該物質を膨張させ、次いで、開閉自在開口部(16b)を介してベイルを圧縮チヤンバから放出し、前記した実質的低圧を維持したままで該ベイルを結束することを特徴とする圧縮及び結束による嵩張つた物質のベイルへの変形方法。
(2)圧力が低い値に下げられる前、ベイルが前記高圧下にしばらくの間圧縮維持されていることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の方法。」(1頁左下欄5?20行)

1b「(9)圧縮チヤンバ(16)から放出されたベイルを、低圧を保持したままで、結束を行なう前に、密着パツクシートでパツクすることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項?第(8)項のいずれかに記載の方法。
(10)ベイルを次の段階に進め、それぞれ張力を有するワイヤ又はストリツプで数回巻回することにより結束を行なうことを特徴とする特許請求の範囲第(1)項?第(9)項のいずれかに記載の方法。」(2頁左上欄17行?右上欄5行)

1c「(11)圧縮ダイヤを有する圧縮チヤンバ(16)と完全に圧縮されたベイルを放出するための装置とベイルを結束するための装置(51)とを具備し、該圧縮チヤンバの上側部分及び下側部分にそれぞれ開閉自在開口部(16a及び16b)が設けられて、物質が数層の形態で該開口部(16a)を介して供給され且つベイルの形態で該開口部(16b)を介して放出されるように構成されており、更に、圧縮チヤンバ(16)内での最終圧縮の際、高圧下にベイルを圧縮するために該圧縮ダイ(17)が下部位置に位置し、続いて実質的に低圧でベイルの膨張を許容するために該圧縮ダイ(17)が上部位置に位置するように構成されており、前記結束装置(51)が放出開口部(16b)の後に位置し、更に、圧縮から結束装置(51)までのベイルの移動時及び結束中前記実質的に低い圧力を維持するための手段(37)が具備されていることを特徴とする嵩張つた物質をベイルに変形する装置。」(2頁右上欄6行?左下欄4行)

1d「3.発明の詳細な説明
本発明は、嵩張つた物質特に織物繊維質を圧縮によりベイル(bale)に変形させる方法及びその装置に係る。」(3頁左下欄8?11行)

1e「本発明は、上記の欠点を解消することを目的とし、圧縮チヤンバ内での最終圧縮後のベイルが最終圧縮力よりも実質的に低い圧縮力の下で圧縮機内で膨張することを可能にし、続いて、前記した実質的に低い圧力効果を保持したまま且つ好ましくない摩擦力を生起することなしにベイルを圧縮チヤンバから結束装置へ移動させる方法及び装置に係る。」(4頁左上欄10?17行)

1f「続いて、該1つの層が第3段階の圧縮操作即ち最終圧縮へと移動することになる。最終圧縮は圧縮ダイ17を具備する圧縮チエンバ16でなされる。」(5頁左上欄11?14行)

1g「圧縮ダイ17が上部位置に達すると、ロツキングフオーク21が圧縮チヤンバ16内に移動する(第13図)。層はチヤンバ7からチヤンバ16へ横方向に移動することができる。この移動は、ロツキングフオーク21を支持体として、水力モーター22で作動される横方向移動プレート23によつてなされる。」(5頁右上欄6?13行)

1h「最終圧縮に於いて、ロツキングフオーク21及びストツプ部材19が圧縮チヤンバ16から外側へ移動する。該フオーク21の移動は比較的急速に行なわれる。その後、圧縮がチヤンバ16内で開始される(第15図)。圧縮ダイ17が850mmの位置を通過する際、横方向移動プレート23が第11図の如き外側位置に戻る。
700mmのレベルでリミツトスイツチ24が作動する(第16図及び第16a図)。圧縮を行う所望の調整保持時間の後、圧縮ダイ17が、850mmのレベルにまでゆつくりと戻り、リミツトスイツチ25からのインパルスのあとこの位置に停止する(第17図及び第17a図)。」(5頁右上欄20行?左下欄12行)

1i「三層の最終圧縮時、圧縮チヤンバに相対して設けられている壁26によるベイルに対する接触圧力が制限され得る。壁26はそれぞれ2つの水力モーター27によつて作動され、……。
……。付属バルブ30によつて水力モーターを圧力から開放することが好ましく、またそうすることによつて壁26が開放される。或いは又、圧力を、圧縮操作中の圧力よりも実質的に低い値に維持する。それによつて、ベイルに対する横方向の摩擦が減じられ、横方向の移動が行ない易くなる。この移動は、水力モーター31によつて作動される放出器32でなされる。圧縮から解放された後の完全に圧縮されたベイルが圧縮方向に対して横方向に顕著に膨張するので、通常約40mm程の壁26の外側への移動は必要な程度にまで横方向の摩擦を減じるのに充分である。圧縮完了のベイル内では圧縮方向に比較的大きな膨張力が生起するが、この力は開口部16bからのベイルの横方向への移動に支障をきたす程大きいものではなく、2つのローラーコンベヤ37間で容易に該横方向への移動が達成される。」(5頁右下欄9行?6頁左上欄18行)

1j「ベイルのパツキング及び結束は、第3図及び第18図乃至第24図に示される装置によつて、効果的に行なわれ得る。リール33からパツキング部材34が、ローラーコンベヤー37の前に、ロール35及びコンベヤ36によつて下方向に供給される。すでに言及したように、適当な部材は、薄いポリエチレン繊維であるが、しかし乍ら他のタイプの部材も使用可能である。所望の長さでパツキング部材はナイフ38で切断される。水力モーター31で作動される放出器32がベイルを圧縮機からローラーコンベヤ37に移動させる。該コンベヤ37に於いて、ベイルの前面、上面及び下面をパツクする。放出器が元の位置に戻つた後、折りたたみメタルシート39が降下し、切断されたパツキング部材の上部部分がベイルの後端部に移動する。次いで、下側の折りたたみメタルシート40が上方に移動し、対応するパツキング部材の下部先端が該シート40によつてベイルに対し上方に折りたたまれる。」(6頁右上欄13行?左下欄11行)

1k「包装完了後、ベイルは、すくなくとも一方がドライブローラーであるローラーコンベア37によつて、ワイヤもしくはテープによる結束位置まで移動される。ワイヤー縛りは、第3図に概略的に示されているそれ自体公知のバインデイングマシーン51によりおこなわれる。所望の数のワイヤ(通常7本のワイヤ)でベイルの回りを結束する。」(7頁左上欄2?9行)

1l「織物繊維質に対しては、ベイルにかかる特定の最終圧力は通常1cm^(2)当り10?100kpであり、好ましくは1cm^(2)あたり25?75kpであり、より好ましくは1cm^(2)当り45?55kpである。最終圧縮は、圧縮機内での拡張後のベイル高さの60?90%、好ましくは70?80%、より好ましくは約80%の高さにまでなるようにおこなわれる。この後、膨張段階がすぐに起りうるが、数秒の保持時間は有利であり、その間圧縮ダイは下部位置に留まつている。しかしながら、ある条件の下では該保持時間は実質的により長く選択され得る。膨張後維持される実質的に低い圧縮力は、1cm^(2)あたり0.5?4.0kp、好ましくは1cm^(2)あたり1.0?3.0kp、より好ましくは1cm^(2)あたり約2kpになるように選択され得る。圧縮力が除去され且つ結束が行なわれた後、即ちベイルが完全にできあがつた時、圧縮物の表面が膨張するので、先端においては数パーセント、ワイヤもしくはテープの間の中央においては5?10%高度が高くなる。」(7頁右上欄8行?左下欄7行)

1m「本発明に関するベイル圧縮機は、広い限度でベイルの大きさに応じて設計することができる。織物繊維質を含有するベイルの好ましいサイズは、縦約1050mm、横550mm、高さ900?1000mmである。密度を1m^(3)あたり125?350kgに変化させてもよい。繊維物質が圧縮機へ供給される時の密度は、1m^(3)あたり10kg程度の低い値である。
密度の大きな変化は、たとえば、レイヨン、ダクロン、トレビラ、パーロン、ドラロン等、繊維の異なる性質に起因する。さらに繊維物質は長さ及び厚さが異なる。」(7頁左下欄10行?右上欄1行)

1n 上記1c、1f、1hの記載及びFIG.15?FIG.17aより、圧縮ダイ17によるベイルの最終圧縮は圧縮チヤンバ16内にて行なわれ、圧縮チヤンバ16内の底面(圧縮チャンバ16下部)と圧縮ダイ17との間で圧縮が行なわれることが明らかである。

イ.甲1発明
上記ア.の記載事項1a?1nを、図面を参照しつつ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
《甲1発明》
a.圧縮ダイ17および圧縮チャンバ16下部を備えた圧縮機を供給する工程、
b.前記圧縮機にレイヨン、ダクロン、トレビラ、パーロン、ドラロン等の織物繊維質を供給する工程、
c.前記圧縮機により1cm^(2)当り10?100kpの最終圧力をかけて、織物繊維質を数秒以上の保持時間で圧縮する工程、
d.これによって最終圧縮されたベイルを形成する工程、
e.最終圧縮されたベイルを高さ700mmから850mmに広げるように圧力を除去する工程であって、これにより膨張後のベイルを形成する工程、
f.前記膨張後のベイルをパッキング部材34でパックする工程、
g.およびベイルの回りを結束する工程、
h.を含む、嵩張った物質のベイルへの変形方法。

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許が基づくもとの特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第2号証(独国実用新案第29615598号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、ウムラウトは省略し、エスツェットは「ss」で代用表記した。また、日本語訳は請求人が提出したものである。

2a「Die Erfindung betrifft eine Ballenpresse, die z.B. zum Pressen von Papierballen gebraucht wird.」(2頁1?2行)
(日本語訳:本発明は、例えば紙のベールをプレスするために用いられる梱包プレスに関する。)

2b「Solche Ballenpressen sind seit langem bekannt. Die Befullung dieser Ballenpressen erfolgt bei hochgefahrenem Pressschild durch eine in der Fronttur befindliche Einwurfoffnung. Beim Befullen solcher Ballenpressen wird zwangslaufig mehr Material in der Mitte des Pressraumes als direkt an den Seitenwanden anfallen. Dies fuhrt dazu,dass die Ballen im allgemeinen an der Seite, die beim Vorgang des Pressens vom Pressenboden bzw. vom Pressschild begrenzt wurden, nach Auswurf des Ballens eine ballige Form aufweisen. Aus diesem Grunde sind diese Ballen schlechter und nur mit einem grosseren Platzaufwand zu stapeln als exakt rechteckige Ballen.」(2頁7?14行)
(日本語訳:この種の梱包プレスは長年にわたり知られている。これらの梱包プレスは、プレス板を上昇させた状態で、フロントドアに位置する導入開口を通して充填される。この種の梱包プレスが充填されると、材料は、側壁に直接的にではなく梱包チャンバの中央により多く必然的に蓄積する。その結果、ベールは、排出された後で、概ねプレス工程中にプレス床又はプレス板によって区切られる側において凸形状を有する。この理由から、これらのベールは積み重ねにくく、正確に矩形のベールよりも多くの空間を要する。)

2c「Der vorliegenden Gebrauchsmusteranmeldung liegt die Aufgabe zugrunde, durch geeignete Gestaltung des Pressschildes und des Pressenboden bzw. des Auswerfers die Herstellung rechteckiger Ballen zu gewahrleisten, die sich auch nach der Entnahme aus dem Pressraum nicht verformen, insbesondere nicht ballig werden.」(2頁15?18行)
(日本語訳:本実用新案出願は、プレス板及びプレス床又は排出器を適切に構成することによって、梱包チャンバから取り出すときに変形せず、特に凸状にならない矩形のベールを製造するという目的に基づくものである。)

2d「Das Pressschild (1) wird in Richtung auf den Pressraum (3) durch ein Begrenzungsblech (4) begrenzt, das zu den Seitenwanden (nicht dargestellt) und zur Ruckwand (5) sowie zur Fronttur (6) in einem Winkel stehen, der geringer als 90° ist. Vorzugsweise liegt der Winkel in einem Bereich zwischen 80 und 88° Grad.
Der den Ballen aus dem Pressraum (3) kippende Auswerfer (2), der um den Drehpunkt (7) schwenkt, ist ebenfalls in Richtung auf den Pressraum (3) hin durch ein Begrenzungsblech bedeckt, das zu den Seitenwanden der Presse und zur Vorder und Ruckwand in einem Winkel von weniger als 90° steht. Pressschild und Auswerfer weisen somit in Querschnitt eine konische Form auf.」(2頁21?29行)
(日本語訳:プレス板1は、側壁(図示せず)及び後壁5、並びにまたフロントドア6に対して90度未満の角度をなす区切り板4によって梱包チャンバ3の方向に区切られている。好ましくは、その角度は80度?88度の範囲にある。
ベールを傾けて梱包チャンバ3から出すと共に回転点7を中心に枢動する排出器2は同様に、プレスの側壁並びに前壁及び後壁に対して90度未満の角度をなす区切り板によって梱包チャンバ3の方向にカバーされている。したがって、プレス板及び排出器はその断面が円錐形である。)

2e「Wird jetzt Material in den Innenraum geworfen und gepresst, dann wird das zu pressende Material aufgrund der konischen Ausfuhrung des Pressschildes zunachst von den beim Verpressen wirkenden Kraften nicht nur nach unten gedruckt, sondern auch in Richtung auf die Seitenwande der Presse. Ebenso werden durch die beim Verpressen wirkenden Krafte, die Materialien, die sich im unteren Bereich der Presse befinden vom Auswerfer derart gelenkt, dass das Material ebenfalls in Richtung auf die Seitenwande bzw. die Ruckwand oder die Fronttur hin abgelenkt wird.」(2頁30?36行)
(日本語訳:ここで材料を内側チャンバへ投入してプレスすると、プレス板が円錐形状であるため、プレスされるべき材料がまず、圧縮中に作用する力によって下方へ押圧されるたけではなく、プレスの側壁の方向へも押圧される。同様に、圧縮中に作用する力によって、プレスの下側領域に位置する材料が排出器によって撓むため、材料は同様に側壁及び後壁又は前壁の方向に撓む。)

2f「Durch eine derartige konstruktive Gestaltung wird erreicht, dass die Ballen nach fertigem Verpressen gleichmassiger gefullt sind und insbesondere auf der Seite die dem Boden bzw. dem Pressschild zugewandt war, nach dem Entnehmen aus dem Pressraum keine ballige Form mehr aufweisen.」(2頁37?40行)
(日本語訳:そのような構造的形状によって、ベールは、圧縮の完了後により均一に充填され、梱包チャンバから取り出された後に、特に床又はプレス板に面する側が凸形状を有しなくなる。)

(3)甲第3号証の記載事項
本件特許が基づくもとの特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第3号証(英国特許第398144号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。日本語訳は請求人が提出したものである。

3a「This invention relates to baling presses, particularly for baling fibrous materials.」(1頁左欄10?11行)
(日本語訳:本発明は、特に繊維材料を荷造りするための荷造プレスに関する。)

3b「It is well known that when plane pressure plates are used the bale has a considerable upward expansion after the pressure has been removed, as the bands draw in the rectangular edges of the bale so that the surfaces of the bale lying between them bulge out considerably, thereby increasing the height of the bale.
In order to avoid this attempts have been made to use pressure plates having arched surfaces, but the above mentioned defect has not been overcome by this means.」(1頁左欄32?43行)
(日本語訳:平面加圧板を使用する場合、ベイルの直角の縁でバンドが引っ張られる結果、バンド間に位置するベイルの表面が大きく隆起することにより、ベイルの高さが増大するため、加圧を解いた後にベイルが上方へ大幅に膨張することがよく知られている。これを回避するために、表面がアーチ形の加圧板を使用することが試みられているが、上述の欠点はこの方法によっては克服されていない。)

3c「According to the invention it is now proposed to avoid the bulging out of the bales, which increases their cubic measurements, by making the binding plates arched transversely to the longitudinal direction of the plates between the binding grooves By means of this inward arching of the bale surface the tightening of the bands is made easier. On account of the greater tightening thus made possible, the drawback may occur that a considerable bulging out of the bale between the fastening bands takes place. For this reason the binding plates are at the same time rounded on the edges in such a way that the projecting rounding of the plates corresponds to the rounding of the bale edges formed by the tightening of the bands. In this way bales are pressed, having edges already rounded. The bands then lie round the rounded edges of the bale when being fastened. When the bales are taken out of the press they still certainly expand upwards to some extent, but this expansion does not then exceed the depth of the hollows impressed in the bales above and below by the arched binding plates, so that the upper and lower surfaces of the bale then lie in practically the same plane as the fastening bands. Bulging of the bales is thus prevented by the invention, which offers a considerable advantage in packing and shipping.」(1頁左欄44行?右欄77行)
(日本語訳:本発明によれば、結束板に結束溝同士の間の板の長手方向に対して横向きにアーチをつけることによって、体積を増大させるベイルの隆起を回避することを提案している。ベイル表面のこの内向きアーチによって、バンドの締めつけがより容易となる。このように起こり得るより強い締めつけのために、締付けバンド間のベイルが大幅に隆起するという障害が生じるおそれがある。この理由から、それに加えて、板の突出する丸みが、バンドの締めつけによって形成されるベイルの縁の丸みに一致するように、結束板の縁に丸みをつける。このようにして、既に丸みのついたベイルが圧縮される。次に、締め付ける際に、ベイルの丸みのついた縁の周りにバンドを回す。ベイルをプレスから取り出すと、ベイルは或る程度は上方に膨張するものの、このときこの膨張は、アーチがついた結束板によってベイルに上下に押しつけられた窪みの深さを超えないため、ベイルの上面及び下面が締付けバンドと同じ面に位置するようになる。このようにベイルの隆起は本発明によって防止され、これにより梱包及び輸送に大きな利点がもたらされる。)

3d「The pressure plate 1 is provided with grooves 2 running transversely of its s length, through which grooves, after the bale has been compressed, fastening bands are drawn, in order to hold the bale subsequently in the compressed form. In order to prevent a bulging out of the upper and lower sides of the bale after it has been banded and the pressure released, the pressure plates are provided, between the grooves 2, with a convex curved surface 3(Figure 2) running transversely to the length of the plates, so that during pressing a hollow is impressed in the upper and lower sides of the bale, corresponding to the said convexity. The plate 1 is provided on its two longitudinal sides with projecting rounded edges 4, so that during pressing the longitudinal edges of the bale are equally rounded. After completion of the pressing, the bands are passed round these rounded edges. When the bands are drawn together it is still impossible to avoid altogether an expansion of the bale upwards and downwards, but owing to the previously impressed rounding this expansion of the bale edges is substantially less than is the case with bales having rectangular edges, so that the expansion of the bale upwards does not in general exceed the depth of the hollows impressed in the bale. After the bale has been taken out of the press, the upper and lower surfaces of the bale are approximately rectilinear. In order to limit as far as possible the expansion of the bale in the longitudinal direction while it is being compressed, the surfaces 3 of the plates between the grooves 2 are also convex as shown at 6 in the longitudinal direction of the plate. By this means bowl shaped hollows are formed in the surface of the bale, which oppose any expansion of the bale in the longitudinal direction during pressing.」(1頁右欄101行?2頁左欄40行)
(日本語訳:加圧板1は、縦方向を横に走る溝2を備え、ベイルを圧縮した後、ベイルを圧縮形態で引き続き保持するために、その溝を通して締付けバンドを引く。ベイルを縛って加圧を解いた後のベイルの上側及び下側の隆起を防止するために、加圧板の溝2の間に、板の縦方向を横に走る凸曲面3(図2)を備え、加圧中に、上記凸曲面に対応する窪みがベイルの上側及び下側に押しつけられる。板1の2つの長辺は、突出する丸みのついた縁4を備えているため、加圧中に、ベイルの長手方向の縁が等しく丸みを帯びる。加圧の完了後、バンドをこれらの丸みのついた縁の周りに通す。バンドを一緒に引っ張る際、上方及び下方へのベイルの膨張を完全に回避することは依然として不可能であるが、先に押しつけられた丸みのために、ベイルの縁のこの膨張は、ベイルの縁が直角の場合よりも大幅に小さく、そのため、上方へのベイルの膨張は概して、ベイルに押しつけられた窪みの深さを超えない。ベイルをプレスから取り出した後、ベイルの上面及び下面は略直線となる。ベイルを圧縮する際、長手方向のベイルの膨張を可能な限り制限するために、溝2の間の板の表面3はまた板の長手方向の表面6に示されるように凸状でもある。この方法により、加圧中の長手方向のベイルの如何なる膨張にも対抗するボウル形状の窪みがベイルの表面に形成される。)

(4)甲第4号証の記載事項
本件特許が基づくもとの特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第4号証(米国特許第3063363号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。日本語訳は請求人が提出したものである。

4a「This invention relates to presses as used in the paper pulp manufacturing industry. More specifically stated, the invention relates to improvements in presses that are especially designed for the compressing of chemical cellulose pulp bales in order to increase the density of the pulp and to decrease the thickness of space occupied by the bale; the latter being in order that a more favorable ocean freight rate may be obtained where rates are based on the space occupied by the freight rather than on its weight.」(明細書1頁左欄9?18行)
(日本語訳:この発明は、紙パルプ製造産業で使用されるプレスに関するものである。もっと正確にいうと、この発明は、パルプの密度を高め、べールによって占められる厚み方向の空間を減少させる目的で化学セルロースパルプベールを圧縮するために特別に設計されたプレスの改良に関するものである。後者については、重さではなく、貨物によって占有される容積によってレートが定められる場合により好ましい海上運賃レートが得られるようにするためである。)

4b「In view of the foregoing explanatory matter, it has been the principal object of the present invention to provide an improved form of press platen for a pulp press, incorporating therein, certain novel vacuum breaking and design features whereby the present “retention period” for dissipation of air from the bale being pressed may be further reduced.
It is a further object of the present invention to provide a press platen with a bale engaging surface of novel contour that, in use of the platen, in bale pressing, avoids the trapping of air in the bale under compression and expedites air exhaustion therefrom. Furthermore, it is an object of this invention to so design the bale contacting surface of the platen that the compression of the bale progresses from the inside areas to the outside areas thereby bringing about a faster outflow of air from the bale and avoids compression of pulp fibers about the outer edge surface of the bale and thus permits easier flow of air within and its outflow from the bale.
Yet another object of the invention resides in the provision of an improved press platen, embodying the objects and advantages above recited, whereby under controlled pressures a perfectly flat top surface may be produced on the pressed and finished bale without lengthening the retention period.」(明細書1頁左欄55行?右欄8行)
(日本語訳:前記の説明に鑑み、パルププレスのためのプレスプラテンの改善された形態を提供することがこの発明の主要な目的である。そして、それには、プレスされるベールからの空気の放出のための現状の「保持時間」がさらに短くできる新規な真空の開放と設計の工夫が折り込まれている。
この発明の更なる目的は、ベールのプレスにおいて、プラテンの使用にあたり、圧縮中のベール中の空気がトラップされることを避け、そこからの空気の排出を促進する新規な外形のベールと接触する表面を持ったプレスプラテンを提供することである。更なる本発明の目的は、ベールの圧縮が内側から外側のエリアに進み、それにより、ベールからの空気の外側へのより速い流れをもたらし、ベールの外側の端の表面のパルプ繊維の圧縮を避け、そして、このようにして、ベール内及びベールの外側への空気の流れを容易にするようにプラテンのベールに接する表面を設計することである。
更にもう一つの発明の目的は、上述の目的と利点を具現化し、改善されたプレスプラテンを提供することにあり、そしてそれにより、制御された圧力のもと、完全に平らな上部表面が保持時間を長くしないでプレスされた仕上げベール上に形成されることである。)

4c「The basis of the present invention resides in so designing the contour of the platen that it first comes in contact with the center of the bale surface as the press closes, subjecting the air contained therein at the center to a greater pressure than at the edges, thereby bringing about a faster outflow of air from the bale, due to the delayed compression of the fibers around the bale edge.
It will also be called to attention that, in the normal pressing by use of flat surfaced platens, the center of the bale is apt to be left slightly convex, unless an excessive retention period is allowed; this by reason of compression of fibers about the bale edges while air is still trapped or held in the bale center.
The designing of the present platen has been to reduce air trapping to a minimum and effect the progressive application of pressure to the bale from center to to the outer edges thereof to expedite the outflow of air therefrom.」(明細書1頁右欄48行?65行)
(日本語訳:本発明の基礎は、プラテンの形態を、プレスが近づくにつれ、プラテンがベールの表面の中心に最初にコンタクトするように設計することである。こうすることで、中心に含まれている空気が端に含まれている空気よりもより大きな圧力を受け、これにより、ベール端の繊維の圧縮が遅延するために、ベールからのより速い空気の外側への流れが達成される。
平らな表面のプラテンを使用する通常のプレスでは、過度の保持時間をかけなければ、ベールの中心が若干凸型となったままとなることが多いことにも注目すべきである。これは、ベールエッジ付近の繊維が圧縮される一方、空気はベールセンターに捕捉されたもしくは保持されるためである。
本プラテンの設計は、空気の捕捉を最小にし、ベールからの空気の外部への流れを促進するように中心から外側のエッジに圧力が連続的にかかることを達成することであった。)

4d「Fixed to the under surface of the cross-head 13 is a press platen 16 embodying the improvements of the present invention. This platen, as has been well shown in FIGS. 2 and 4, is of rectangular form, and has horizontal dimensions that are preferably slightly greater than the dimensions of the top surface of the bale 14 to be pressed. The platen is fixed to the underside of the cross-head 13 in such position as to symetrically engage the top surface of the bale incident to the closing of the press against the bale. The top surface of the platen is flat and is seated flatly against and secured to the under surface of the cross-head 13 and it is formed from edge to edge of this top surface with a plurality of air escape channels 18 from each of which channels, air escape passages or holes 19 lead to the bale engaging surface of the platen as best seen in FIG. 3; these holes being at relatively close intervals over the platen surface. 」(明細書2頁左欄12?28行)
(日本語訳:クロスヘッド13の表面の下部に固定されているのは、本発明の改良を具現化しているプレスプラテン16である。このプラテンは、図2と4に明確に示されているように、4角形であり、プレスされるベール14の上部表面のサイズよりも好ましくは若干大きな平面サイズである。前記プラテンは、ベールに対してプレスが締まってくるにつれ、ベールの上部表面と対称的に接するように、クロスヘッドの裏面に固定されている。プラテンの上部表面は平面であり、クロスヘッド13の下部表面に平らに確実に取り付けられている。そして、この上部表面には、端から端まで複数の空気抜き溝18があり、それらの溝には、図3で最も良くわかるように、プラテンのベールに接する表面に続く空気発散通路または穴があり、これらの穴は、プラテンの表面全体にかなり密接に存在する。)

4e「An important feature of construction of this platen resides in the contour of its bale engaging surface. It is shown in FIGS.2 and 4 that the bale engaging surface is convex, both in its transverse and its longitudinal direction. However, it might, in some instances be convex in one direction only, as has been shown in the modified or alternative form illustrated in FIG.5. It is also proposed that such platens might also be made with a flattened pyramidal bale engaging surface such as that of the platen of FIG.6. In this latter device, the pyramid has been merged into a spherically curved tip, as designated by reference numeral 20.
In the pressing of a pulp bale, in a press using the platen of FIGS.2 and 4, the problem of exhausting air long distances through the bale through highly compressed fibers is accomplished. The same advantages reside in use of the platens of FIGS.5 and 6 by reason of the progressive application of pressure from the bale center outwardly.」(明細書2頁左欄29?47行)
(日本語訳:このプラテンの構成の重要な特徴は、ベールと接する表面の形態にある。それは図2と4に示されている。ベールと接する表面は、横縦方向に凸型である。しかしながら、一定の場合には、図5に変形としてまたは代替として示しているように、一方向にのみ凸型であってもかまわない。また、このようなプラテンは、図6のプラテンのように平坦なピラミッド型のベールと接する表面としてもいい。後者の装置では、ピラミッドは、参照番号20番で示されているように先端は球面状になっている。
図2と4に示されたプラテンを使用して、パルプベールをプレスする際に、高度に圧縮された繊維からベールを通して空気を長距離に渡って排気するという問題が克服された。同じ利点が、図5と6のプラテンを使用することでも得られる。というのは、これらのプラテンでも、ベールのセンターから外側へ向かって除々に圧力をかけていくことが出来るからである。)

2.本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア.甲1発明の「圧縮ダイ17」は、本件発明1の「上部ベールプラテン」に相当し、以下同様に、
「圧縮チャンバ16下部」は「底部ベールプラテン」に、
「圧縮機」は「ベールプレス」に、
「織物繊維質」は「繊維材料」に、
「パッキング部材34」は「包装材料」に、
「パックする」は「包装する」に、
「嵩張った物質のベイルへの変形方法」は「繊維ベールの製造方法」に、
それぞれ相当する。

イ.甲1発明の「1cm^(2)当り10?100kpの最終圧力をかけて、織物繊維質を数秒以上の保持時間で圧縮する」は、「圧力をかけて、繊維材料を圧縮する」ものである限りにおいて、本件発明1の「482.6?4826.3kPa(70?700psi)の範囲の総圧力をかけて、前記セルロースアセテートの繊維材料を1秒?数分間圧縮する」に相当する。

ウ.また、甲第1号証の記載事項1aによると、「最終圧縮」は「高圧力下」で実施されるものであるから、甲1発明の「最終圧縮されたベイル」は、「高圧縮された繊維材料」である限りにおいて、本件発明1の「高圧縮されたセルロールアセテートの繊維材料」に相当する。

エ.甲1発明の「膨張後のベイル」は、「広がった高圧縮された繊維材料」である限りにおいて、本件発明1の「広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料」に相当する。

オ.甲1発明の「高さ700mmから850mmに広げる」は、高さにして約21.43%広げることを意味するから、本件発明1の「高さにして0?25%広げる」との要件を満たす。

カ.甲第1号証の記載事項1kによると、ベイルの「結束」は、ベイルの包装完了後に行われるから、甲1発明の「ベイルの回りを結束する」ことは、本件発明1の「前記包装材料を締める」ことに相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は、それぞれ次のとおりである。

《一致点》
A’.上部ベールプラテンおよび底部ベールプラテンを備えたベールプレスを供給する工程、
B’.前記ベールプレスに繊維材料を供給する工程、
C’.前記ベールプレスにより圧力をかけて、繊維材料を圧縮する工程、
D’.これによって高圧縮された繊維材料を形成する工程、
E’.高圧縮された繊維材料を高さにして0?25%広げるように圧力を除去する工程であって、これにより広がった高圧縮された繊維材料を形成する工程、
F’.前記広がった高圧縮された繊維材料を包装材料で包装する工程、
G.および前記包装材料を締める工程、
H’.を含む繊維ベールの製造方法。

《相違点1》
構成要件Aに関して、上部ベールプラテンおよび底部ベールプラテンが、本件発明1においては、「凸型表面」を有し、かつ「前記凸型表面は最高点および底部を有し、前記最高点と前記底部との間の距離は1?10cmの範囲である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのような形状に特定されていない点。

《相違点2》
構成要件B?F、Hに関して、「繊維材料」及び「繊維ベール」が、本件発明1においては、「セルロースアセテート」であることが特定されているのに対し、甲1発明においては、「レイヨン、ダクロン、トレビラ、パーロン、ドラロン等」と特定されているのみであって、「セルロースアセテート」とは特定されていない点。

《相違点3》
構成要件Cに関して、繊維材料を圧縮する条件が、本件発明1においては、「482.6?4826.3kPa(70?700psi)の範囲の総圧力」をかけて「1秒?数分間」圧縮するのに対し、甲1発明においては、「1cm^(2)当り10?100kpの最終圧力」をかけて「数秒以上の保持時間で」圧縮する点。

《相違点4》
構成要件Hに関して、本件発明1においては、「前記ベールプレスから出て48時間後の前記高圧縮された繊維ベールの湾曲の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの頂上の高さの50%以下である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのように特定されていない点。

(2)本件発明1と甲1発明との相違点の検討
ア.請求人は、相違点1に関して、「繊維物質などの弾性体を圧縮梱包すると、圧縮を解放したあとその上下表面がドーム状に膨らむことは知られており、そのような膨らみがあると運搬や貯蔵に際し不都合であるため、そのような膨らみを避けるため、圧縮に使用するプラテンの形状を、ドーム型やピラミッド型にしておき、圧縮に際し、被梱包物(ベイル)の上下に窪みを作っておき、圧縮を解放したあとその上下表面を平坦にする技術」は、甲第2号証?甲第4号証に示されるように周知の技術であり、これを採用することは当業者の通常の創作能力の発揮である旨主張している(審判請求書41頁1?14行)。
そこで、まず、甲1発明に請求人の主張する周知技術を適用することにより、相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到し得るかについて検討する。

イ.まず、甲第2号証についてみると、先に1.(2)で摘記したように、甲第2号証の梱包プレスは、フロントドアに位置する導入開口を通して材料が充填されると、材料が、側壁に直接的にではなく梱包チャンバの中央により多く蓄積することとなるため、これに対応して、円錐形状のプレス板及び排出器により材料を側壁、後壁又は前壁の方向に押圧するように構成したものであり、材料が梱包チャンバ内に偏って導入されることを前提とした技術である。してみると、請求人の主張する技術とは前提が異なっており、繊維物質などの弾性体の圧縮を開放した後に上下表面がドーム状に膨らむことを防止するため技術が記載されているとはいえない。

ウ.次に、甲第3号証についてみると、先に1.(3)で摘記したように、甲第3号証の荷造プレスは、締めつけバンド間のベイルが隆起するという課題に対応して、加圧板1の溝2同士の間に凸曲面3を有する複数の凸部6を設け、かつ、加圧板1の長辺に縁4を設けることで、ベイルをプレスから取り出した後のベイルの上面及び下面を略直線とするものである。複数の凸部6が設けられていることからみて、請求人の主張する周知技術とは異なるプラテンの形状が示されているというべきである。

エ.次に、甲第4号証についてみると、先に1.(4)で摘記したように、甲第4号証のパルプベールプレスは、圧縮時にベールセンターの空気を排出するために、凸型のプレスプラテン16を用いることでベールの圧縮を内側から外側に向かって進行させ、ベール中の空気の外側への流れを促進するものである。記載事項4bによると、平らな上部表面が形成されたベールを得ることを目的の一つとしているものの、凸型のプレスプラテン16は上部のみに設けられており、「被梱包物(ベイル)の上下に窪みを作って」いるものではない。

オ.そうすると、甲第2号証ないし甲第4号証からは、請求人が主張する周知技術を把握することはできず、請求人が主張する技術が周知技術であるということはできない。よって、甲1発明に周知技術を適用することにより相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものとはいえない。

カ.仮に、請求人の主張する技術が周知技術であったとしても、次の理由により、甲1発明に当該周知技術を適用することができたとはいえない。
すなわち、1.(1)ア.の記載事項1eのとおり、甲1発明は、最終圧縮後のベイルが最終圧縮力よりも実質的に低い圧力効果を保持したまま、かつ、好ましくない摩擦力を生起することなしにベイルを圧縮チャンバから結束装置へ移動させることを目的としている。具体的には、記載事項1iのとおり、圧縮チャンバ16の壁26を外側へ移動させることで、放出器32によりベイルを横方向へ移動させる際の摩擦を減じるようにしているものである。
仮に圧縮チャンバ16の底面に凸型プラテンを導入した場合、最終圧縮後に下側のプラテンは退避できないと考えられるから、下側のプラテンが凸形状であることによりベイルの横方向への移動を妨げると考えられる。したがって、甲1発明に凸型プラテンを導入するという変更は、ベイルの移動の際の摩擦を減じるという甲1発明の目的に反するというべきであり、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、請求人は、技術常識に鑑みれば、甲第1号証の放出器32は壁と床面フォークからなり、ベイルは下部プラテンから浮いた状態で押されて移動するものと解すべきである旨主張している(口頭審理陳述要領書(2)(請求人)の5?6頁の「第2 無効理由3について」)。しかしながら、そのような技術は甲第1号証には示唆されていないし、技術常識であることを示す具体的な証拠も提示されていない。よって、請求人の主張は採用できない。

キ.念のため、甲1発明に甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された技術を適用することで、相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到し得るかについて検討しても、以下のとおり、容易に想到し得たものとはいえない。
甲第2号証の梱包プレスについての技術は、材料の導入時に材料が梱包チャンバの中央により多く蓄積することを前提とした技術であるところ、甲第1号証の材料(織物繊維質)は「層」の形態で予圧縮チャンバ7から圧縮チャンバ16へ導入されるものであるから(記載事項1gを参照)、甲1発明において甲第2号証の円錐形状のプラテンを採用する動機が存在しない。
また、本件特許明細書の段落【0019】、図2及び図3の記載をふまえれば、本件発明1のベールプラテンの凸型表面は、ベールプラテン全体にわたる単一の凸型表面を意味していることは明らかであるから、甲1発明において甲第3号証の複数の凸部6を備えた加圧板1を採用しても、本件発明1に想到することはない。
また、甲第4号証の凸型のプレスプラテン16は上部のみに設けられたものであり、ベールの圧縮を内側から外側に向かって進行させることが目的であるところ、凸型のプラテンを上部だけでなく底部にも設けることは示唆されていない。よって、甲1発明に甲第4号証のプレスプラテン16を適用しても、本件発明1に想到することはない。
そして、カ.で述べたように、甲1発明に凸型プラテンを導入するという変更は、甲1発明の目的に反するというべきであるから、この点からも、甲1発明に甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された技術を適用して本件発明1に想到することはないというべきである。

ク.そして、相違点1に係る本件発明1の構成は、その他の甲各号証にも記載されていない。よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

3.本件発明2ないし9について
本件発明2ないし9は、本件発明1の構成要件を全て備え、さらに他の構成要件を備える発明である。上記のとおり、本件発明1は甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成要件を全て備える本件発明2ないし9も、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.無効理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし9について請求人が主張する無効理由3は、いずれも理由がない。


第9 無効理由4(分割要件違反に基づく出願日不遡及による新規性進歩性欠如)について
1.当審の判断
請求人は、本件特許が基づくもとの特許出願である特願2008-511124号の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、当該明細書を「英文明細書」と、また、明細書、請求の範囲又は図面をまとめて「英文明細書等」という。)には、次に示すa及びbの点が開示されていない旨主張している(「第3 1.(1)イ.(エ)」を参照。)。
a.「上部ベールプラテンおよび底部ベールプラテン」の「各プラテンが凸型表面」である場合に「ベールプレスから出て48時間後の繊維ベールの湾曲の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの湾曲の高さが50%以下である」との要件を満たすこと。
b.「高圧縮繊維材料12を高さにして約0?約25%広がるのを許す」ようにするために「圧力を除去する」こと。
よって、以下、これらの点が英文明細書等に開示されているか否かについて検討する。

(1)「a.」の点について
ア.上記英文明細書(甲第7号証を参照。)の記載からみて、その実施例には「ベールプレスから出て48時間後の繊維ベールの湾曲の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの湾曲の高さが50%以下である」ものが記載されている(「第6 2.(2)イ.」も参照。)。

イ.一方で、この実施例には、繊維ベール試料2に関して「fiber bale sample 2 was produced using a top convex bale platen」と記載されているのみであり、当該実施例においては、上部および底部のプラテンがともに凸型表面であるとは説明されていない。そして、上部および底部のプラテンをともに凸型表面とすることは、英文明細書の「Detailed Description of the Invention」の説明中(甲第7号証の9頁1?2行)に記載されているのみである。

ウ.ところで、先に「第4 3.(2)イ.(ア)」の「b.」ないし「d.」で述べたのと同様に、上記英文明細書等に記載された発明は、「湾曲を実質的に形成しない」ことを目的としていると解されるところ、具体的な「湾曲の高さ」としては、実施例の表I(Table I)に示された程度まで抑えることで、上記目的が達成されたことを示したもの考えられる。

エ.すると、上部および底部のプラテンをともに凸型表面とした場合であっても、その場合に上記発明の目的が達成されたこととなる目安として、繊維ベール表面の湾曲の高さを上記実施例に記載された程度と同程度のものとすることは、英文明細書等の記載からみて新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

オ.そして、先に「第6 2.(1)」の「オ.」ないし「ケ.」で説示した点を同様に考慮すれば、上部および底部のプラテンをともに凸型表面とした場合に「ベールプレスから出て48時間後の繊維ベールの湾曲の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの湾曲の高さが50%以下である」との要件を満たす発明は、上記英文明細書等の記載に基づいて実施することが可能なものであって、また、英文明細書等に裏付けられているものでもある。

カ.そうすると、「a.」の点は、英文明細書等の記載から自明な事項であって、英文明細書等に開示されたものといえる。

(2)「b.」の点について
ア.本件明細書の段落【0020】には、「次いで、少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスは、高圧縮繊維材料12が高さにして約0?約25%広がるのを許すように圧力を除去する。」と記載されている。

イ.ここで、先に「第5 2.」の(2)及び(3)で述べたとおり、「約0?約25%広がる」とは、広がらない場合を含まない、すなわち実際に広がることを意味していると解されるから、「約0?約25%広がるのを許すように圧力を除去する。」とは、高圧縮繊維材料12を広がるようにすること、すなわち凸型ベールプラテン18を上方に(圧縮する方向と反対の方向に)移動させることによって圧力を除去することを意味しているといえる。

ウ.そして、英文明細書の「Subsequently, the conventional press including at least one convex bale 18 is retracted to allow the highly compressed fibrous material 12 to expand about 0 to about 25 % by height.」(審決注:「convex bale 18」は「convex bale platen 18」の誤記と認める。)との記載は、同様に「convex bale platen 18」を上方に(圧縮する方向と反対の方向に)移動させることを意味していると認められ、その結果、当然に圧力が除去されるものといえる。

エ.よって、本件明細書と英文明細書の記載の意味が相違するものではなく、「b.」の点が英文明細書等に開示されていないという請求人の主張には、根拠がない。

(3)したがって、英文明細書等に「a.」及び「b.」が開示されていないとはいえないから、請求人の主張する無効理由4は、前提において誤りであり、理由がない。

2.無効理由4についてのまとめ
以上のことから、請求人の主張する無効理由4によっては、本件発明1ないし本件発明9についての特許を無効とすることはできない。


第10 むすび
以上のとおりであって、本件訂正請求は適法であるから、請求のとおり訂正を認める。そして、本件発明1ないし9について請求人が主張する無効理由には、いずれも理由がない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
繊維ベールおよびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維ベールおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維材料、例えば、合成繊維および天然繊維は圧縮されたベールの形で販売、運搬される。
【0003】
高密度の繊維ベールを製造するために異なる方法が採用されている。一般に、繊維材料はベールに圧縮され、保護用包装材で覆われている。しかしながら、従来の方法は、上面または底面上の湾曲を実質的に形成することなく高密度繊維ベールを製造することができなかった。上面または底面の湾曲は、例えば、アセテートトウベールにおいて、互いの上面の高密度の繊維ベールの貯蔵と干渉し、結合をゆるめるので問題である。
【0004】
米国特許第3,991,670号明細書は、セルロースパルプのような繊維性材料の集合を圧縮し、得られたベールをワイヤまたはストラップで包装するための圧縮装置を開示している。移動可能な静止した第1圧縮板、前記圧縮板より離れた、前記第2圧縮板を動かす手段を有するベール圧縮スタンドが使用される。第2圧縮板は、第2圧縮板の移動方向に垂直な板境界表面によって構成される圧縮適用面、および前記装置に形成されるベールの末端表面の中心において多くのベールのまわりに包装されるワイヤまたはストラップの把握および持ちあげを容易にする前記境界表面の板から10?50mm突き出して中心に配置される部分を有する。
【0005】
米国特許第4,577,752号明細書は、ベールの周囲に伸びる複数の皮ひもによって覆われ固められた段ボールなどによって包装された改良された高密度トウベール、前記トウベールはベールを支えるための複数のパッドのパターンをその底に有し、またこれにそった皮ひもを受け取るためのパッドの間の領域を有する。
【0006】
米国特許第5,852,969号明細書は、綿のような材料を圧縮するためのベールプレスを開示している。このプレスは、基盤フレーム構造とベールを束ねる操作を容易にするために、綿ベールを圧縮するための長方形のベール圧縮面を一般に有する1対の板を含む。複数の伸びたくさび形のベール圧縮単位が少なくともプラテンの1つ上に供給される。これらベール圧縮単位は圧縮領域を提供するために積み上げられたプラテンから外側に突き出る。これは、単一のベールひもが置かれる位置に近い場所でベール綿が圧縮されるように十分に小さい。ベールに要求されるひもの適用を容易にするために十分に多くのベール圧縮単位が供給される。
【0007】
ドイツ実用新案第29615598U1は、材料の下向きへの圧縮だけでなくプレスの側壁に向かった方向への圧縮を容易にするための円錐形の圧縮シールドおよび排出器の使用を開示している。
【0008】
国際公開WO03/089309は、やっかいな湾曲および収縮を有しない上面および底面を有する高圧縮立法体形のフィルタートウベールを開示している。このベールは、1または複数の対流性の気密な接続が供給されている機械的自己支持、弾性包装材料で完全に包装されている。高圧縮立法体形フィルタートウベールの製造方法は、次の工程を含む。a)フィルタートウが圧縮形状で供給される、b)圧縮されたフィルタートウが包装用材料で包装される、c)包装材料が気密に閉じられる、d)包装されたベールが負荷を除去される(例えば、真空の適用により)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,852,969号明細書
【特許文献2】ドイツ実用新案第29615598号明細書
【特許文献3】国際公開03/089309号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
貯蔵および配送に適する高密度繊維ベールを開発する努力にもかかわらず、低コストで相対的に製造しやすい繊維ベールの需要が存在する。さらに、高密度繊維ベールの製造に使用される最新の技術よび装置、例えばプレスの改良が最小限で済む貯蔵および配送に適した高密度繊維ベールを製造する方法の需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は繊維ベールおよびこれを製造するための方法に関するものである。本発明の繊維ベールは、上面または底面上の湾曲を実質的に有しない高密度六面体繊維材料を含む。高圧縮六面体繊維材料は、少なくとも300kg/m^(3)の包装密度を有する。本発明の繊維ベールを製造する方法は、次の工程を含む。(1)少なくとも1つの凸面ベールプラテンを含む高圧縮六面体繊維材料を製造するプレスを供給する、(2)前記プレスに繊維材料を供給する、(3)プレスにより前記繊維材料を圧縮する、(4)これによって高圧縮された六面体繊維材料を形成する、(5)高圧縮された六面体材料を包装材料で包装する、および(6)前記包装材料を締めることによって繊維ベールを製造する。
【0012】
図面を参照して、本発明の詳細を説明するが、本発明は、図面に示された詳細な配列及び器具に限定されるものではない。図面の参照においては、同じ番号は同じ構成要素を示し、図1は繊維ベール10の好ましい実施態様である。繊維ベール10は、上面または底面上の湾曲が実質的に存在しない高圧縮六面体繊維材料12を含む。高圧縮六面体繊維材料12は少なくとも300kg/m3の包装密度を有し、包蔵材料14に完全に入れられる。包装材料は好ましくは締め具(図示しない)によって締められる。また、繊維ベール10は、真空またはこれに代わるものを含み、真空でなくてもよい。
【0013】
本明細書で使用される湾曲が実質的に存在しないとは、平ら、わずかに窪んだ、またはわずかにふくれた表面を意味する。
【0014】
本明細書で使用される真空とは、空気の除去によって生成される減圧、例えば、空気ポンプによる吸引、またはベールプラテンの収縮により生成される真空を意味する。
【0015】
高圧縮六面体繊維材料12は任意の繊維材料からなることができる。繊維材料は、例えば、天然繊維および合成繊維を含む。天然繊維としては、これに限定されずに、絹、毛、綿、麻、ジュートおよびラミーが挙げられる。天然繊維はこれらに限定されるものではない。合成繊維としては、これに限定されずに、化学的化合物から合成されたポリマー、例えば、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリウレタン、およびポリビニル繊維、変性または変形天然ポリマー、例えば、アルギン酸、並びにアセテートまたはレーヨンのようなセルロース系繊維が挙げられる。合成繊維はこれらに限定されるものではない。好ましい繊維材料は、セルロースアセテートトウである。
【0016】
包装材料14は高圧縮六面体繊維材料12を含むに十分な強度を有する任意の材料であることができる。包装材料14は、空気透過性材料、空気不透過性材料およびこれらの組合せからなる群より選択することができる。例えば、包装材料14は、薄膜、段ボール、織物、不織布、フォイル材料およびこれらの組合せからなる群より選択することができる。薄膜は、例えば、ポリエチレン薄膜のようなポリマー薄膜であり得る。織物材料は、織物を形成するために互いに織り交ぜられる2組の糸からなる織物である。不織布材料は、例えば、熱可塑性樹脂を互いに融着することにより、不規則な織布またはマットに機械的に重なり合わせることによって固められた繊維の集合体である。フォイル材料は任意の金属材料であることができる。フォイル材料はリストアップされた材料に限定されるものではない。包装材料14は少なくとも2つの部分、例えば、上部、および胴部またはこれに代替するものを有することができ、包装材料14は少なくとも3つの部分、例えば、上部、胴部および底部を有することができる。
【0017】
包装材料14は、さらに真空を開放する手段を有することができる。真空を開放する手段としては、これに限定されずに、開口(図示しない)が挙げられる。開口は、プラグによって閉じることが可能な開口であることができる。
【0018】
包装材料14は、好ましくは、締め具(図示しない)によって高圧縮六面体繊維材料のまわりを締められることができる。例えば、包装材料14は空気透過性締め具(図示しない)によって高圧縮六面体繊維材料のまわりを締めることができる。空気透過性締め具は六面体繊維材料12に周りを包装材料14で締め付ける手段であることができる。例えば、空気透過性締め具は、ベルクロ、ピン、フック、ストラップなどからなる群より選択することができる。空気透過性締め具はこれらに限定されない。代わりとして、包装材料14は空気不透過性締め具(図示しない)によって高圧縮六面体繊維材料のまわりを締めることができる。空気不過性締め具は六面体繊維材料12の周りに包装材料14を締め付ける任意の手段であり得る。例えば、空気不透過性締め具は、接着剤、融着などからなる群から選択することができる。空気不透過性締め具は、これらに限定されるものではない。
【0019】
図2および3を参照すると、繊維ベール10の製造を容易にするために、少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレス(図示しない)が導入される。従来のプレスは、通常、上部プラテンおよび底部プラテンを有し、上部プラテンまたは底部プラテンは凸型ベールプラテン18であることができる、しかしながら、代わりに、上部および底部プラテンが共に凸型ベールプラテン18であることができる。凸型ベールプラテン18は、下記に詳細に説明するように凸型表面20を有する。本明細書で使用される凸型表面20は、外側に湾曲した表面、たとえば、球面を意味する。凸型表面20は、平滑な表面、例えば、連続面、切り子面、または段状面である。凸型表面20は、最高点22および底部24を有する。最高点22と底部24の間の距離26は、約1cm?約10cmである。例えば、最高点22と底部24の間の距離26は約5cmである。凸型表面20は凸型ベールプラテン18の統合的な構成要素である。または、代わりに、従来の方法によって凸型ベールプラテン18に固定された分離された要素であることができる。凸型表面20は、高圧縮六面体繊維材料12上の一時的な凹型表面を生成する。これは、高圧縮六面体材料の内部圧力のために短い時間の間に消滅し、これによって繊維ベール10を製造する。凸型表面20は、繊維ベール10上への皮ひも(図示しない)の設定を容易にするための溝またはくぼみを有する。好ましくは、凸型表面20は、繊維ベール10上への皮ひも(図示しない)の設定を容易にするための複数の溝またはすじを有する。凸型表面20は、繊維ベール10にひも溝(図示しない)を生成するための手段をさらに有することができる。ひも溝を生成するための手段としては、これに限定されずに、パターンおよび刻印が挙げられる。本明細書で使用されるひも溝は、繊維ベール上の溝やすじのようなへこみを意味し、これはひもを繊維ベールに設定するのを容易にする。
【0020】
製造においては、繊維材料は少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスに運ばれる。上部プラテンおよび下部プラテンは包装材料14で覆われている。少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスは、約1秒?約数分間、繊維材料上に約70psi?700psiの範囲の総圧力をかけ、これによって繊維材料を高圧縮六面体繊維材料12に圧縮する。次いで、少なくとも1つの凸型ベールプラテン18を有する従来のプレスは、高圧縮繊維材料12が高さにして約0?約25%広がるのを許すように圧力を除去する。次に、高圧縮六面体繊維材料12は包装材料14で包装される。次いで、包装材料14は締め具によって締められ、これによって繊維ベール10を製造する。真空がさらに繊維ベール10に引かれることができ、または、代わりに、繊維ベール10は真空でなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の繊維ベールを示す。
【図2】凸型ベールプラテンの断面図を模式的に示す。
【図3】凸型ベールプラテンの斜視図を模式的に示す。
【0022】
実施例
下記に詳細に示される2つの繊維ベール試料が製造され、時間の関数としてその湾曲の高さの増加を決めるために各繊維ベール試料の上部表面の成長が測定された。前記試験の結果が下記の表Iに示されている。繊維ベール試料1および2の製造条件は性格に一致している。繊維ベール試料1は標準の平坦プラテンを使用して製造され、繊維ベール試料2は本発明の上面凸型ベールプラテンを使用して製造された。
【表I】

【0023】
本発明は、本発明の精神および本質的特徴から離れない限り、他の形で実施され得る。したがって、本発明の範囲については、明細書ではなく特許請求の範囲を参照すべきである。
【符号の説明】
【0024】
10 繊維ベール
12 高圧縮六面体繊維材料
14 包装材料
18 凸型ベールプラテン
20 凸型表面
22 上部点
24 底部
26 上部点と底部の距離
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部ベールプラテンおよび底部ベールプラテンを備えたベールプレスを供給する工程であって、前記各プラテンは凸型表面を有し、前記凸型表面は最高点および底部を有し、前記最高点と前記底部との間の距離は1?10cmの範囲である工程、
前記ベールプレスにセルロースアセテートの繊維材料を供給する工程、
前記ベールプレスにより482.6?4826.3kPa(70?700psi)の範囲の総圧力をかけて、前記セルロースアセテートの繊維材料を1秒?数分間圧縮する工程、これによって高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を形成する工程、
高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を高さにして0?25%広げるように圧力を除去する工程であって、これにより広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を形成する工程、
前記広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を包装材料で包装する工程、および前記包装材料を締める工程、
を含むセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法であって、前記ベールプレスから出て48時間後の前記高圧縮された繊維ベールの湾曲の高さが、平坦プラテンによって圧縮されたベールの湾曲の高さの50%以下である、方法。
【請求項2】
前記繊維ベールに真空を引かない、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。
【請求項3】
前記包装材料で包装する工程の後に、前記繊維ベールに真空を引く工程をさらに含む、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。
【請求項4】
前記包装材料は、空気透過性締め具または空気不透過性締め具によって締められる、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。
【請求項5】
前記包装材料は、空気透過性材料、空気不透過性材料、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項4に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。
【請求項6】
前記包装材料は、真空を開放する手段をさらに含む、請求項5に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。
【請求項7】
前記真空を開放する手段は、閉じることが可能な開口である、請求項6に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。
【請求項8】
前記凸型ベールプラテンは、前記繊維ベール上へのひもの設定を容易にするための溝またはすじを有する、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。
【請求項9】
前記繊維ベールはひもを含む、請求項1に記載のセルロースアセテートの繊維ベールの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-02-04 
結審通知日 2016-02-08 
審決日 2016-02-22 
出願番号 特願2012-166172(P2012-166172)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (B65D)
P 1 113・ 853- YAA (B65D)
P 1 113・ 112- YAA (B65D)
P 1 113・ 855- YAA (B65D)
P 1 113・ 854- YAA (B65D)
P 1 113・ 537- YAA (B65D)
P 1 113・ 841- YAA (B65D)
P 1 113・ 536- YAA (B65D)
P 1 113・ 852- YAA (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 三宅 達
栗林 敏彦
登録日 2014-12-12 
登録番号 特許第5662387号(P5662387)
発明の名称 繊維ベールおよびその製造方法  
代理人 中田 隆  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 井波 実  
代理人 横田 晃一  
代理人 紺野 昭男  
代理人 梶田 剛  
代理人 中田 隆  
代理人 横田 晃一  
代理人 新井 全  
代理人 梶田 剛  

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