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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部無効 2項進歩性  C09K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C09K
管理番号 1326163
審判番号 無効2015-800227  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-12-17 
確定日 2017-02-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5622057号発明「ネマチック液晶組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5622057号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件無効審判に係る特許

本件無効審判に係る特許第5622057号(以下、「本件特許」という。)は、被請求人であるDIC株式会社が特許権者であって、平成17年10月31日に特願2005-316168号として出願されたものの一部を平成24年9月27日に特願2012-214113号として新たに出願したものであって、平成26年10月3日、発明の名称を「ネマチック液晶組成物」、請求項の数を5として特許権の設定登録を受けたものである。

2 本件無効審判における手続の経緯

本件無効審判は、請求人であるJNC株式会社より請求されたものであって、手続の経緯(両当事者からの提出書類)は以下のとおりである。

平成27年12月17日 審判請求書(請求人)
平成28年 3月15日 審判事件答弁書及び訂正請求書(被請求人)
同年 5月 6日 弁駁書(請求人)
同年 6月29日付け 審理事項通知書
同年 9月14日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 9月28日 口頭審理
同年10月19日 上申書(被請求人)
同年11月 2日 上申書(請求人)

第2 両当事者の主張の概要と証拠方法

1 両当事者の主張

(1) 請求の趣旨

特許第5622057号の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

(2) 答弁の趣旨

本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

2 証拠方法

両当事者から提出された証拠方法は以下のとおりである(以下、各証拠につき、甲第1号証を「甲1」などと略して記載する。)。

(1) 請求人から提出された証拠

甲1:国際公開第2005/017067号
甲2:特開2004-238489号公報
甲3:特開2005-220355号公報
甲4:特開2001-181635号公報
甲5:特開2001-33748号公報
甲6:国際出願番号PCT/EP2006/004708号
(国際公開第2006/133783号参照)
甲7:国際出願番号PCT/EP2005/006428号
(国際公開第2005/123879号参照)
甲8:特願2006-144861号
(特開206-328399号公報参照)
甲9:国際公開第2006/038443号
甲10:特開2005-89759号公報
甲11:特開2007-119672号公報
(以上、審判請求書に添付して提出)
甲12:特開2003-183655号公報
甲13:特開2003-201477号公報
甲14:特開2004-149775号公報
甲15:特開2004-352992号公報
甲16:特開2005-179676号公報
甲17:特開平11-152297号公報
甲18:特開2004-2771号公報
甲19:特開2005-35985号公報
甲20:特開2004-2894号公報
甲21:岡村維彦他,“液晶科学実験講座 第4回:液晶材料特性の測定技術(2)”,液晶,日本液晶学会,2002年10月25日,6巻,4号,44-53頁
甲22:石原將市,“電圧保持率に及ぼす諸要因”,シャープ技報,2005年8月,92号,11-16頁
(以上、弁駁書に添付して提出)

(2) 被請求人から提出された証拠

乙1:特開2000-63305号公報
乙2:液晶便覧編集委員会編,“液晶便覧”,丸善株式会社,
2000年10月30日,312-316頁
乙3:“JEITA ED-2521B”,社団法人電子情報技術
産業協会,2009年,26-28、63-66頁
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出)
乙4:“無効審判口頭審理 技術説明資料”
(以上、平成28年10月19日付け上申書に添付して提出)

第3 平成28年3月15日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の可否について

本件訂正は、特許法第134条の2第3項及び同法同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項(請求項1ないし5)ごとに請求されたものであるところ、当審は、本件訂正の請求を認容すべきものと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「L^(1)、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-COO-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、」とあるのを「L^(1)、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、」と訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「であることを特徴とする」とあるのを「であり、加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDで注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印可電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれることを特徴とする」と訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「ネマチック液晶組成物。」とあるのを「ネマチック液晶組成物(ただし、1種または2種以上のエステル化合物を含有することを特徴とする、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体、
下記式の化合物
【化4】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-COで置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化5】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)を1種以上含むことを特徴とする、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
PPGU-V2-Fを含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。
【化6】

」と訂正する。

2 訂正の適否に係る判断

(1)特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするか否かについて

ア 訂正事項1
訂正事項1は、請求項1に記載の液晶組成物における一般式(2)中のL^(1)、L^(2)、L^(3)の選択肢の中から-COO-を削除することにより特許請求の範囲を減縮しているものと認められる。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることができる。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、請求項2に記載の液晶組成物を、「加熱温度150℃1時間後の60℃での保持率(%)・・が96%以上に保たれる」ものに限定することにより特許請求の範囲を減縮しているものと認められる。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることができる。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、請求項1に記載の液晶組成物から、エステル化合物を含む液晶組成物、甲6の特許請求の範囲の請求項1で必須成分とされた化合物群を含む液晶組成物、及び、甲7の実施例の一部で用いられている化合物を含む液晶組成物を除くことにより特許請求の範囲を減縮しているものと認められる。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることができる。

(2)特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて

ア 訂正事項1
請求項1に記載の液晶組成物において、一般式(2)中のL^(1)、L^(2)、L^(3)の選択肢として、「単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-COO-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-」が許容されていたことは明らかであるから(本件特許明細書の段落【0012】等)、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

イ 訂正事項2
訂正事項2の、「加熱温度150℃1時間後の60℃での保持率(%)・・が96%以上に保たれる」との技術事項の追加について、本件特許明細書の段落【0034】及び【0037】【表1】によれば、本件特許明細書には、「加熱温度150℃1時間後の60℃での保持率(%)・・が96%に保たれる」ことが記載されていたと認められる。さらに、同【0002】に、「アクティブマトリックス表示方式・・には高電圧保持率であることが重要視されている」と記載されているように、そもそも高電圧保持率であることが求められているのは技術常識であることを考慮すると、特段の事情がない限り、実施例における値(すなわち、良好な物性)である96%よりも高い電圧保持率は一律に良好であると理解するのが自然であるし、また、訂正事項2により、新たな事項が導入されるとも解されないから、本件特許に係る発明の「加熱温度150℃1時間後の60℃での保持率(%)」として、96%のみならず、「96%以上」も記載されていたに等しい事項と認められる。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、特定の化学構造を有する液晶化合物を含む液晶組成物の場合を除外する、いわゆる「除くクレーム」とするものであるが、これは、訂正前の請求項1に記載した事項で特定される発明における一部の態様を単に除外するものであって、当該除外によって、本件特許明細書等の記載に基づかない効果の発現等の新たな技術的事項が導入されるものでもない。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するか否かについて

ア 訂正事項1
訂正事項1は、請求項1に記載の液晶組成物における一般式(2)中のL^(1)、L^(2)、L^(3)の選択肢の中から-COO-を削除することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、請求項2に記載の液晶組成物を、「加熱温度150℃1時間後の60℃での保持率(%)・・が96%以上に保たれる」ものに限定することにより特許請求の範囲を減縮しているものであるから、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、特定の化学構造を有する液晶化合物を含む液晶組成物の場合を除外する、いわゆる「除くクレーム」とすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。
したがって、訂正事項3は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 訂正に係るまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の各規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第4 本件特許請求の範囲の記載

上記「第3」のとおり、本件訂正の請求は適法なものであるから、本件無効審判の請求の対象となっている請求項1ないし5の記載は、以下のとおりとなった。
「【請求項1】
第一成分として構造式(1)、
【化1】

で表される化合物を30%?65%含有し、第二成分として一般式(2)
【化2】

(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基であり、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は -N- に置き換えられてもよい)
からなる群より選ばれる基であり、上記の基(a)、基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、
Q^(1)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(1)?X^(3)はそれぞれ独立してH、F又はClである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を含有し、ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDで注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印可電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれることを特徴とするネマチック液晶組成物(ただし、1種または2種以上のエステル化合物を含有することを特徴とする、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体、
下記式の化合物
【化4】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-COで置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化5】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)を1種以上含むことを特徴とする、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
PPGU-V2-Fを含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。
【化6】

【請求項2】
第三成分として一般式(3)
【化3】

(式中、R^(2)はR^(1)と同じ意味を表し、
B^(4)はB^(1)と同じ意味を表し、
L^(4)、L^(1)と同じ意味を表し、
B^(4)及びL^(4)が複数存在する場合はそれらは同一でも良く異なっていても良く、
mは 0、1又は2であり、
nは0又は1であり、
Q^(2)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(4)?X^(8)はそれぞれ独立してH、F又はClである。) で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有する請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項3】
ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、誘電率異方性Δεが2.5?10.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のネマチック液晶組成物を用いた液晶表示素子。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一項に記載のネマチック液晶組成物を用いたアクティブマトリックス液晶表示素子。」
(以下、本件訂正後の上記請求項1ないし5に係る発明を、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明5」といい、これらを併せて「本件発明」ということもある。)

第5 請求人が主張する無効理由

請求人が主張する無効理由は、以下のとおりである。

無効理由A、1-1、1-2、1-3、2-1、2-2、2-3、3

ただし、第1回口頭審理調書の「審判長」の「3」によれば、本件訂正後の特許請求の範囲を対象とする限りにおいて、無効理由1-2、2-1、2-2、2-3は審理の対象としないことが確認されている。したがって、以下では、無効理由A、1-1、1-3、3のみについて判断していくところ、無効理由A、1-1、1-3、3は、それぞれ以下のとおりであると認められる。

無効理由A :本件発明1ないし5は、各請求項に係る発明が、甲11に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由1-1:本件発明1ないし5は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由1-3:本件発明1ないし5は、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由3 :本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号、第2号に記載する要件を満たしておらず、また、本件の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないので、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許を受けることができるものではなく、同法同条第4項第1号又は第6項に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

第6 当審の判断

当審は、

請求人が主張する無効理由A、1-1、1-3、3につき、いずれも理由がない、

と判断する。
以下、その理由につき詳述する。

1.無効理由Aについて

(1)本件特許出願の分割要件の適否について

審判請求書82?83頁の「A)-1」及び「A)-2」によれば、「本件特許出願は、特願2005-316168号を原出願として平成24年9月27日にした分割出願に係るものであるが、原出願に開示されていない発明を分割出願したものであるから、適法な分割出願でない。」「よって、本件特許は特許法第44条第1項の要件を満たさず、その出願日は現実の出願日である平成24年9月27日と認められる。
そうすると、本件発明は、原出願の特許公開公報である甲11に記載された発明であるか、甲11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたのである」との理由により、無効理由Aに基づく審判請求がされている。そこで、まず、本件特許出願の分割要件の適否について検討する。

(1-1)原出願の【0014】の記載について

答弁書2?3頁によれば、被請求人は、『原出願(特願2005-316168号)の出願当初の明細書に、「本願発明における液晶組成物において、第一成分として構造式(1)で表される化合物の含有率は30?65%であるが、・・」と記載されていることからもわかるとおり(甲第11号証【0014】)、「本件発明1の「第一成分として構造式(1)、(式の記載を省略)で表される化合物を30%?65%含有し」とする技術事項は、原出願の「明細書に記載されて」いた事項である』旨主張している。
そこで、原出願(特願2005-316168号)の出願当初の明細書の記載をみていくと、
「【請求項1】
第一成分として構造式(1)、
【化1】

で表される化合物を35?65%含有し、」
「【0010】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一成分として構造式(1)、
【0011】
【化1】

で表される化合物を35?65%含有し、」
「【0014】
本願発明における液晶組成物において、第一成分として構造式(1)で表される化合物の含有率は30?65%であるが、40?60質量%の範囲であることが好ましい。」
「【0036】
(1?3) Synthesis of 液晶組成物の調整
以下に示すネマチック液晶組成物(No.1)、(No.2)及び(No.3)を調整しその物性値を測定し、その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
1?3のネマチック液晶組成物(No.1)?(No.3)特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)全ての特性において所望の値を示した。また粘性も低く、パネルの応答速度も良好であり、さらに加熱150℃1時間後の保持率も初期の値を保っており信頼性が良好であった。
【0039】
(比較例1?3) Synthesis of 液晶組成物の調整
比較例として以下に示すネマチック液晶組成物(R1)?(R3)を調整しその物性値を測定し、その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
比較例1?比較例3は第一成分の含有量を30%としたものだが、と比較して粘性が高いものであった。」
とある。しかるに、少なくとも、原出願の当初の明細書には、構造式((1)で表される化合物の含有率が30%の液晶組成物が、段落【0014】及び比較例1?比較例3として開示されている。一方、段落【0014】の記載を除くと、特許請求の範囲に係る発明における構造式(1)の下限値は35%であり、30%のものは比較例として扱われている。とするならば、段落【0014】には、確かに、「本願発明における液晶組成物において、第一成分として構造式(1)で表される化合物の含有率は30?65%である」と記載されているとして、『「構造式((1)で表される化合物の含有率は30?65%」の30%は、「35%」の誤記であると考えられ』(請求人による口頭審理陳述要領書7頁)なくもない。そこで、以下、原出願記載の当該比較例1?比較例3の記載を本件特許とする分割出願の適否について検討を進める。

(1-2)原出願に係る発明の本質と比較例1?比較例3の関係について

審判請求書の83頁に開示されている平成16年(行ケ)第5号特許取消決定取消請求事件には、「特許法44条1項に基づいてもとの出願から分割して新たな出願とすることのできる発明は,もとの出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載されていたものに限られず,その要旨とする技術的事項のすべてが,その発明の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者がこれを正確に理解し,かつ,容易に実施できる程度に記載されている場合には,同明細書の発明の詳細な説明ないし図面に記載されているものであっても差し支えない(最高裁昭和56年3月13日第二小法廷判決・裁判集民事132号225頁参照)」との一般論が示されるとともに、具体的事案につき検討し、『比較例7及び8の化合物に対しては,原明細書において「冷凍サイクルに使用できないものである」という否定的な評価が明確に与えられているのであり(原明細書15頁3行),このようなものを取り上げて,逆に,実施例としての位置付けを与えることは,原明細書に接したその発明の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者の理解の範囲を超えるものであるといわざるを得ない。したがって,かかる比較例7及び8が原明細書に記載されていたことは,原明細書において本件化合物を用いた冷凍装置が「その発明の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し,かつ,容易に実施できる程度に記載されている」ことを根拠付けるものでないことは明らかである』ことから、比較例7及び8の「化合物を,アンモニア冷凍装置に用いる作動流体組成物の潤滑油として含むことになる本件発明は,原出願に係る各発明の本質に合致せず,原明細書に記載されたものでないといわなければならない」旨説示している。とするならば、分割要件を満たすためには、比較例1?比較例3が、原出願に単に記載されていただけでなく、「原出願に係る発明の本質」と合致するものとして記載されていたことが求められるといえる。
そこで、以下、原出願記載の比較例1?比較例3が、原出願に係る発明の本質と合致するものとして記載されていたかについて検討する。

原出願(甲11)には、以下の記載がされている。
(11a)
「【0003】
ツイステッドネマチック液晶表示素子(TN-LCD)やスーパーツイステッドネマチック液晶表示素子(STN-LCD)においては、表示の応答速度を高速化させるために低粘性化された液晶組成物への要望が強くなっている。また低温領域から高温領域まで広い動作温度範囲を可能にするためにネマチック温度範囲の広い液晶組成物が要求されている。
【0004】
低粘性液晶組成物は、Δn値の小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし、これらの化合物はスメクチック性が高く、ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。
【0005】
比較的低粘性である液晶組成物は既に知られており、好ましい化合物の具体例が開示されている(特許文献3)。またビシクロヘキサン誘導体とphenylビシクロhexyl化合物を組み合わせた屈折率異方性の小さい液晶組成物も既に知られており、好ましい化合物の具体例が開示されている(特許文献4)。しかしながら、これら組成物の粘性は十分に低いものではなかった。
【0006】
一方、四環化合物を使用して液晶温度範囲を調整した液晶組成物も既に知られており、好ましい化合物の具体例が開示されている(特許文献5)。しかしながら、この組成物も高速応答に対応できるほど粘性が十分に低いものではなかった。
【0007】
以上のことから、液晶相温度範囲が広く、粘性が低い液晶組成物を得ることは困難であ
った。」

(11b)
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、液晶相温度範囲が広く、粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること、また、この液晶組成物を使用した動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子を提供することにある。」

(11c)(一部再掲)
「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一成分として構造式(1)、
【0011】
【化1】

で表される化合物を35?65%含有し、第二成分としてとして一般式(2)
【0012】
【化2】

(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基であり、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) trans-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は -O- 及び又は -S- に置き換えられてもよい)
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は -N- に置き換えられてもよい)
からなる群より選ばれる基であり、上記の基(a)、基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-COO-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、
Q^(1)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(1)?X^(3)はそれぞれ独立してH、F又はClである。) で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することを特徴とするアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物及び当該液晶組成物を構成部材とする液晶表示素子を提供する。」

(11d)
「【0030】
本発明において、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は70℃以上であることがより好ましい。固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))は-20℃以下であることが好ましい。25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0であることが好ましく、3.0?5.0であることがより好ましい。25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08?0.13であることが好ましい。」

(11e)(再掲)
「【0036】
(1?3) Synthesis of 液晶組成物の調整
以下に示すネマチック液晶組成物(No.1)、(No.2)及び(No.3)を調整しその物性値を測定し、その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
1?3のネマチック液晶組成物(No.1)?(No.3)特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)全ての特性において所望の値を示した。また粘性も低く、パネルの応答速度も良好であり、さらに加熱150℃1時間後の保持率も初期の値を保っており信頼性が良好であった。
【0039】
(比較例1?3) Synthesis of 液晶組成物の調整
比較例として以下に示すネマチック液晶組成物(R1)?(R3)を調整しその物性値を測定し、その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
比較例1?比較例3は第一成分の含有量を30%としたものだが、と比較して粘性が高いものであった。」

(11f)
「(比較例4) Synthesis of 液晶組成物の調整
比較例として以下に示すネマチック液晶組成物(R4)を調整しその物性値を測定し、その結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
比較例4ネマチック液晶組成物(R4)は粘性がと比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった。またネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))が65℃と低く、液晶相の温度範囲が狭いため実用的な液晶組成物としては使用することができないものであった。
【0045】
(比較例5?8) Synthesis of 液晶組成物の調整
比較例として以下に示すネマチック液晶組成物(R5)?(R8)を調整しその物性値を測定し、その結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
比較例5?比較例8のネマチック液晶組成物(R5)?(R8)の特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は高いものの粘性がと比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった。
【0048】
(比較例9) Synthesis of 液晶組成物の調整
比較例として以下に示すネマチック液晶組成物(R9)を調整しその物性値を測定し、その結果を表4に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
比較例9のネマチック液晶組成物(R9)の特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は高いものの粘性がと比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった。」(当審注:下線は、当審が付した。)

上位摘示事項(11a)の【0004】によれば、「低粘性液晶組成物は、Δn値の小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる」が「ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった」ことが、本願出願前に当業者に公知であったと認められる。また、【0006】によれば、「四環化合物を使用して液晶温度範囲を調整した液晶組成物も既に知られて」いたが、「この組成物も高速応答に対応できるほど粘性が十分に低いものではなかった」ところ、原出願に係る発明は、上記摘示事項(11b)によれば、「液晶相温度範囲が広く、粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供」することを技術課題とし、上記摘示事項(11c)によれば、その解決手段として、所定量のビシクロヘキサン系化合物と四環化合物を併用するものと認められる。
そして、上記摘示事項(11d)によれば、原出願に係る発明における「液晶相温度範囲が広」いとは、好ましくは、「ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は70℃以上であ」り、「固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))は-20℃以下であること」と解される。一方で、原出願に係る発明における「粘性が低い」とはどの程度を意味するのか明記されていない。そして、上記摘示事項(11e)の【表1】、【表2】によれば、実施例1?3(No.1?No.3)の回転粘度γ_(1)は33?35であり、また、ηは、通常粘度を表すところ(例えば、特開2005-187604号公報の【0038】参照)、ηは9.4?9.6であり、一方、比較例1?3の回転粘度γ_(1)は、37?39であり、また、ηは10.0?10.6であり、【0041】に「比較例1?比較例3は第一成分の含有量を30%としたものだが、と比較して粘性が高い」と記載されている(なお、被請求人が、平成28年10月19日付け上申書の9頁で、『0d1-Cy-Cy-3を30%含有する液晶組成物は実施例1?3の液晶組成物と「比較して粘性が高いものであ」る』と述べているから、上記【0041】の記載は、「比較例1?比較例3は・・・実施例1?実施例3と比較して粘性が高い」との趣旨であると推認される。)。
一方で、上記摘示事項(11f)によれば、比較例4、9では、粘度と解されるηが11、17であり、【0044】によれば、「比較例4ネマチック液晶組成物(R4)は粘性がと比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった」、【0050】によれば、「比較例9のネマチック液晶組成物(R9)の特性は・・・粘性がと比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった」と記載されている(上記検討結果から類推し、上記【0044】の記載は、「比較例4ネマチック液晶組成物(R4)は粘性が実施例1?実施例3と比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった」との趣旨であり、【0050】の記載は、「比較例9のネマチック液晶組成物(R9)の特性は・・・粘性が実施例1?実施例3と比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった」との趣旨であると推認される。)。同様に、比較例5?比較例8では、回転粘度γ_(1)が、98?108であり、【0047】によれば、「比較例5?比較例8のネマチック液晶組成物(R5)?(R8)の特性は・・・粘性がと比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった」と記載されている(上記検討結果から類推し、上記【0047】の記載は、「比較例5?比較例8のネマチック液晶組成物(R5)?(R8)の特性は・・・粘性が実施例1?実施例3と比較して高くパネルの応答速度が十分に高速ではなかった」との趣旨であると推認される。)。
すなわち、【0044】、【0047】、【0050】によれば、回転粘度γ_(1)が98?108であったり、粘性ηが11?17であると、「パネルの応答速度が十分に高速ではな」いと評価されており、上記摘示事項(11a)の【0003】の「表示の応答速度を高速化させるために低粘性化された液晶組成物への要望が強くなっている」との記載と併せると、「表示の応答速度を高速化させ」られない程度に粘性が高いものは、上記摘示事項(11b)に記載の課題を解決し得ると認められないから、少なくとも、回転粘度γ_(1)が98?108程度であったり、粘性ηが11?17程度に高いものは、原出願において、明確に否定的評価が与えられていたと認められる。
しかしながら、実施例1?実施例3と比較例1?比較例3とは、回転粘度γ_(1)が「33?35」と「37?39」であり、粘度と解されるηが「9.4?9.6」と「10.0?10.6」であり、いずれも実施例の方が低く、実際、【0041】で、「比較例1?比較例3は実施例1?実施例3と比較して粘性が高い」と評価されているが、【0041】の記載は、【0044】、【0047】、【0050】の記載と異なり、あくまでも、比較例1?比較例3が、実施例1?実施例3と相対的に粘度が高いとの評価を与えるに留まり、上記摘示事項(11b)に記載の課題を解決していないとまでの評価は与えられていないとみるべきである(少なくとも、課題解決との関係で否定的評価が与えられていると認める根拠はない。)。

(1-3)小括

よって、比較例1?比較例3で採用されている、構造式(1)で表される化合物の含有量である「30%」との数値は、原出願に係る発明の本質と合致するものとして記載されていたと認められる。

(2)本件特許の出願日と下記刊行物の公開日との関係について
甲11:特開2007-119672号公報

上記のとおりであるから、本件特許は、原出願の出願日である平成17年10月31日にしたものとみなされるところ、甲11は、平成19年5月17日を公開日とする公開特許公報であるから、本件特許の出願日前に頒布されたものでない。
したがって、甲11に基いて本件特許の特許性を検討することはできない。

(3)まとめ

以上のとおり、本件発明1ないし5は、各請求項に係る発明が、甲11に記載された発明でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもなく、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

2.無効理由1-1について
(1)刊行物
甲1:国際公開第2005/017067号
甲21:岡村維彦他,“液晶科学実験講座 第4回:液晶材料特性の測定技術(2)”,液晶,日本液晶学会,2002年10月25日,6巻,4号,44-53頁
甲22:石原將市,“電圧保持率に及ぼす諸要因”,シャープ技報,2005年8月,92号,11-16頁

(2)刊行物に記載の発明

1.甲1に記載の事項(甲1の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である特表2007-501301号公報によるものであり、甲1の記載箇所も併せて記載した。)
(1a)請求の範囲
「【請求項1】
正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I
【化1】

で表される1種または2種以上の化合物および式IA
【化2】

で表される1種または2種以上の化合物を含み、ここで、該媒体中の式Iで表される化合物の比率は、少なくとも18重量%であり、ここで、個々の基は、以下の意味:
R^(1)は、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基であり、
R^(2)は、H、1?15個の炭素原子を有し、ハロゲン化されているか、CNもしくはCF_(3)により置換されているか、または非置換であるアルキル基であり、ここでさらに、これらの基中の1つまたは2つ以上のCH_(2)基は、各々、互いに独立して、O原子が互いに直接結合しないように、
【化3】

により置換されていてもよく、
X^(1)は、各々6個までの炭素原子を有するアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基またはアルケニルオキシ基であり、a=1である場合には、またF、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCSまたはOCNであり、
X^(2)は、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、OCN、各々6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり、
Z^(1)およびZ^(2)は、各々、互いに独立して、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-または単結合であり、ここでZ^(1)≠Z^(2)であり、
aは、0または1であり、
【化4】

は、各々、互いに独立して、
【化5】

であり、
L^(1?4)は、各々、互いに独立して、HまたはFである、
を有することを特徴とする、前記液晶媒体。」
「【請求項3】
式I-1?I-5
【化12】

式中、alkenylは、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基であり、alkylは、1?15個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の液晶媒体。」

(1b)11頁14?34行
「【0035】
本発明の液晶混合物は、利用できるパラメーター自由度の顕著な拡大を可能にする。透明点、低温における粘度、熱的およびUV安定性並びに誘電異方性の達成可能な組み合わせは、従来技術からの従前の材料に比較してはるかに優れている。
【0036】
EP 1 046 694 A1に開示されている混合物と比較して、本発明の混合物は、高い透明点、低いγ_(1)値、流動粘度についての低い値および100℃におけるVHRについての極めて高い値を有する。本発明の混合物は、好ましくは、3.3および2.5Vドライバーを有するノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として適する。
【0037】
本発明の液晶混合物は、-30℃まで、特に好ましくは-40℃までのネマティック相を維持しながら、70℃を超える、好ましくは75℃を超える、特に好ましくは≧80℃の透明点、同時に≧6、好ましくは≧8の誘電異方性値Δε並びに優れたSTNおよびMLCディスプレイを得ることを可能にする比抵抗値についての高い値を達成することを可能にする。特に、この混合物は、低い動作電圧により特徴づけられる。TNしきい値は、1.5Vより低く、好ましくは1.4Vより低く、特に好ましくは<1.3Vである。」
「【0040】
20℃における流動粘度ν_(20)は、好ましくは<20mm^(2)・s^(-1)、特に好ましくは<19mm^(2)・s^(-1)である。本発明の混合物の20℃における回転粘度γ_(1)は、好ましくは<140mPa・s、特に好ましくは<120mPa・sである。ネマティック相範囲は、好ましくは少なくとも100°、特に少なくとも110°である。この範囲は、好ましくは少なくとも-40°?+80°まで拡大される。」

(1c)13頁1?18行
「【0042】
電圧保持率(HR)の測定値[S. Matsumoto et al., Liquid Crystals 5, 1320 (1989); K. Niwa et al., Proc. SID Conference, San Francisco, 1984年6月、 p. 304 (1984); G. Weber et al., Liquid Crystals 5, 1381 (1989)]は、式IおよびIAで表される化合物を含む本発明の混合物は、式
【化6】

で表されるシアノフェニルシクロヘキサン類または式
【化7】

で表されるエステル類を、式IAで表される化合物の代わりに含む類似する混合物よりも、温度の上昇に伴うHRの減少が顕著に小さいことを示した。
【0043】
本発明の混合物は、好ましくは、ニトリル類をほとんど(≦20%、特に≦10%)または全く含まない。20℃における本発明の混合物の保持比は、少なくとも98%、好ましくは>99%である。本発明の混合物のUV安定性はまた、顕著に一層良好であり、即ち、これらは、UVに露光した際にHRの顕著に小さい低下を示す。」

(1d)30頁21?29行
「【0069】
・・(省略)・・
-式IAおよびI?VIで表される化合物の合計の、全体としての混合物中の比率は、少なくとも50重量%である;
-式Iで表される化合物の、全体としての混合物中の比率は、≧18重量%、好ましくは≧20重量%、特に≧22重量%、極めて特に好ましくは≧24重量%である;
-式IAで表される化合物の、全体としての混合物中の比率は、5?40重量%、特に好ましくは10?30重量%である;
-式II?VIで表される化合物の、全体としての混合物中の比率は、30?80重量%である;」

(1e)66頁27行?67頁2行
「【0131】
以下の例は、本発明を限定せずに、本発明を説明することを意図する。本明細書中、パーセンテージは重量パーセントである。すべての温度を、摂氏度で示す。m.p.は融点を示し、cl.p.は透明点を示す。さらに、C=結晶状態、N=ネマティック相、S=スメクティック相およびI=アイソトロピック相である。これらの記号間のデータは、転移温度を示す。Δnは、光学異方性(589nm、20℃)を示し、Δεは、誘電異方性(1kHz、20℃)を示す。流動粘度ν_(20)(mm^(2)/秒)は、20℃において決定する。回転粘度γ_(1)(mPa・s)は、同様に20℃において決定する。」

2.甲21に記載の事項
(21a)51頁右欄下から9?15行、52頁左欄9?14行
「5.2 電圧保持率(VHR)
AM-LCDにおいて,各画素のほとんどの部分は液晶材料で構成されている.このため,高いコントラストや信頼性,良好な画像表示能力などを達成するためには,電極間からの漏れ電流を最小化することによって,液晶材料が一定周期(一般的にNTSC方式の信号に準じて60Hzを用いる)の間電荷を保持できるようにする必要がある.」
「測定時の温度条件は,基本的に任意であるが,近年要求されているような高い信頼性をもった液晶材料の場合,常温における測定では明確な差が現れない場合もある(0.1%以下など).このような場合には,通常高温(ただし,液晶材料のT_(NI)以下)での測定を行うことによって,より明確な差が確認できる場合もある.」

3.甲22に記載の事項
(22a)13頁右欄下から13?17行
「配向膜のないセルでは,VHRはp型液晶分子含有割合(液晶材料誘電率異方性Δεの大きさ)に依存せずCRで決められるが,配向膜付きのセルではΔεとVHRは相間があり,しかも,CN系に比べてF系液晶は高電圧保持率を示す(図9)。」

(22b)図9




(3)甲1に記載された発明

ア 上記摘示事項(1a)によれば、甲1には、請求項1を引用する請求項3として、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式Iで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)および式IAで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、ここで、該媒体中の式Iで表される化合物の比率は、少なくとも18重量%であり、
(式Iで表される化合物として、)式I-1?I-5で表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含む、液晶媒体」が記載されていると認められる。

イ 上記摘示事項(1d)によれば、甲1に記載の液晶媒体において、式Iで表される化合物の全体としての混合物中の比率は、極めて特に好ましくは「≧24重量%」であるといえる。

ウ 上記摘示事項(1b)の【0037】によれば、甲1に記載の液晶媒体は、ネマチック液晶媒体であることが理解される。

エ 上記摘示事項(1b)の【0037】によれば、甲1に記載の液晶媒体は、「70℃を超える、好ましくは75℃を超える、特に好ましくは≧80℃の透明点」を有するといえる。

オ 上記摘示事項(1c)の【0043】によれば、甲1に記載の液晶媒体は、20℃における電圧保持比が、「少なくとも98%、好ましくは>99%である」といえる。

上記アないしオの検討事項より、甲1には、
「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式Iで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)および式IAで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、ここで、該媒体中の式Iで表される化合物の比率は、少なくとも18重量%、好ましくは24重量%以上であり、
(式Iで表される化合物として、)式I-1?I-5で表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、
70℃を超える、好ましくは75℃を超える、特に好ましくは≧80℃の透明点を有し、20℃における電圧保持比が少なくとも98%、好ましくは>99%であるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・検討

(4-1)本件発明1について

本件発明1と甲1発明とを対比する。
○甲1発明の「ネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「ネマチック液晶組成物」に相当する。

○甲1発明の「式Iで表される1種または2種以上の化合物(式省略)」「を含み、ここで、該媒体中の式Iで表される化合物の比率は、少なくとも18重量%、好ましくは24重量%以上であり、」と本件発明1の「第一成分として構造式(1)で表される化合物(式省略)を30%?65%含有し、」は、「第一成分としてアルケニル基を有する化合物を特定量含有し、」である点で一致する。

○甲1発明の「式IAで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、」と本件発明1の「第二成分として一般式(2)で表される化合物(式省略)群から選ばれる2種以上の化合物を含有し、」は、「第二成分として2種以上の四環化合物を含有し、」である点で一致する。

○ネマチック液相媒体における「透明点」が、ネマチック-アイソトロピック転移温度と同義であることは自明であるから、甲1発明の「70℃を超える、好ましくは75℃を超える、特に好ましくは≧80℃の透明点を有し」と、本件発明1の「ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃である」とは、「ネマチック-アイソトロピック転移温度が70℃?120℃である」点で重複する。

上記より、本件発明1と甲1発明とは、「第一成分としてアルケニル基を有する化合物を特定量含有し、第二成分として2種以上の四環化合物を含有し、ネマチック-アイソトロピック転移温度が70℃?120℃であるネマチック液晶組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1>
アルケニル基を有する化合物の構造及び含有量が、本件発明1では、「構造式(1)、
【化1】

で表される化合物」及び「30?65%」であるのに対し、甲1発明では、「式Iで表される1種または2種以上の化合物

ここで、個々の基は、以下の意味:
R^(1)は、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基であり、
X^(1)は、各々6個までの炭素原子を有するアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基またはアルケニルオキシ基であり、a=1である場合には、またF、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCSまたはOCNであり、
aは、0または1であり、
L^(1?2)は、各々、互いに独立して、HまたはFである」及び「少なくとも18重量%、好ましくは24重量%以上」である点。

<相違点1-2>
四環化合物が、本件発明1では、「一般式(2)で表される化合物
【化2】

(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基であり、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は -N- に置き換えられてもよい)
からなる群より選ばれる基であり、上記の基(a)、基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、
Q^(1)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(1)?X^(3)はそれぞれ独立してH、F又はClである。)」であるのに対し、甲1発明では、「式IAで表される」「化合物

ここで、個々の基は、以下の意味:
R^(2)は、H、1?15個の炭素原子を有し、ハロゲン化されているか、CNもしくはCF_(3)により置換されているか、または非置換であるアルキル基であり、ここでさらに、これらの基中の1つまたは2つ以上のCH_(2)基は、各々、互いに独立して、O原子が互いに直接結合しないように、
【化3】

により置換されていてもよく、
X^(2)は、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、OCN、各々6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり、
Z^(1)およびZ^(2)は、各々、互いに独立して、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-または単結合であり、ここでZ^(1)≠Z^(2)であり、
【化4】

は、各々、互いに独立して、
【化5】

であり、
L^(3?4)は、各々、互いに独立して、HまたはFである」である点。

<相違点1-3>
電圧保持率に関し、本件発明1では、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDで注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印可電圧との比を%で表した値)が96%以上」であることが特定されているのに対し、甲1発明では、「20℃における電圧保持比が少なくとも98%、好ましくは>99%」である点。

<相違点1-4>
本件発明1では、「(ただし、1種または2種以上のエステル化合物を含有することを特徴とする、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体、
下記式の化合物(式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
PPGU-V2-F(式省略)を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。 」ことが特定されているのに対し、甲1発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点1-3>について
甲1発明は、「20℃における電圧保持比が少なくとも98%、好ましくは>99%」であることまでは特定されているものの、その際、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDで注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印可電圧との比を%で表した値)」がどの程度の値を示すかまでは開示されていない。そして、上記摘示事項(21a)によれば、「常温における測定では明確な差が現れない・・・ような場合には,通常高温(ただし,液晶材料のT_(NI)以下)での測定を行うことによって,より明確な差が確認できる」ことが知られているから、20℃において99%以上の電圧保持率を有することをもって、ただちに加熱150℃1時間後の60℃での保持率も同程度、少なくとも96%以上であるということはできない。特に、上記摘示事項(22a)によれば、「配向膜付きのセルではΔεとVHRは相間があ」ることが知られており、(22b)の図9によれば、相間とは、Δεが大きくなると、VHRが小さくなることを意味するといえる(そして、本件発明1における保持率%の測定条件は、「TN-LCD」(ツイストネマチック液晶ディスプレイ)を用いるものであるが、これは配向膜付きであると認められる。)。そして甲1発明は、上記摘示事項(1b)の【0037】及び(1e)の【0131】によれば、「≧6、好ましくは≧8の誘電異方性値Δε(1kHz、20℃)」を有するものであると認められ、一方、本件発明1は、本件特許明細書の【0030】によれば、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0であることが好ましく、3.0?5.0であることがより好ましい」とされており、【0037】【表1】、及び【0040】【表2】によれば、実際、実施例1?6では、Δεは3.0?3.1に調整されていることからして、甲1発明におけるΔεは、本件発明1よりも一定程度大きな値と認められ、そうであるならば、甲1発明の電圧保持率は、本件発明1よりも低くなる蓋然性が高い。とするならば、甲1発明の「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)」は、本件発明1と同程度であるとは推認できず、したがって、96%以上である蓋然性が高いとはいえない。
また、甲1には、上記摘示事項(1c)にあるように、電圧保持率が高いことが好適であるとの認識が示されており、また、上記摘示事項(21a)にあるように、本願出願時の技術水準として、高温下における電圧保持率が高いことが好ましいとの認識がされていたことからして、甲1発明を実施するに際し、高温下での電圧保持率を高い水準にしようとすることまでは、当業者が容易に想到し得ることといえるが、甲1発明の実施形態といえる態様の中で、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDで注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印可電圧との比を%で表した値)」を96%以上とする具体的な手段が技術常識であるという具体的根拠が見当たらないことからして、甲1発明において、相違点1-3に係る構成を具備する液晶媒体を想到することが、当業者にとって容易であるということはできない。

請求人は、口頭審理陳述要領書の17?18頁「オ.相違点1-Bの検討」において、上記摘示事項(1c)の記載を引用し、20℃における電圧保持比が『少なくとも98%、好ましくは>99%である甲1発明は、「温度の上昇に伴うHRの減少が顕著に小さいことも記載されているから、本件訂正発明1の加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)96%以上に保たれることと同等であることを意味しており、この点は実質的な相違点でない。又は甲1発明Xにおいて、加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)96%以上と限定することは当業者ならば容易に想到し得ることである』旨主張している。
しかしながら、上記摘示事項(1c)に記載されているのは、式IAで表される化合物を含む甲1発明が、換わりに、式【化6】(式省略)で表されるシアノフェニルシクロヘキサン類や式【化7】(式省略)で表されるエステル類を含む類似液晶媒体と比較して、温度の上昇に伴う電圧保持率の減少が顕著に小さいことを述べているにすぎず、式IAで表される化合物を含む甲1発明の温度の上昇前と比べた温度の上昇後の電圧保持率の減少が、顕著に小さいとは述べておらず、甲1発明において、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率」が96%以上に留まるだろうと推認することはできない。
また、上記摘示事項(21a)にもあるように、液晶素子に用いる液晶組成物の分野において、常温のみならず、高温時の電圧保持率が高いことが好ましいことは、本願出願前より認識されていたことであるから、甲1発明において20℃における電圧保持率のみならず、高温条件下、例えば、加熱150℃1時間後の60℃での電圧保持率も高いことが好ましいことは当業者にとって明らかであるが、上記で検討したとおり、それを達成するための手段が、甲1に記載されておらず、また、技術常識であったと認める証拠も見当たらないことから、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)96%以上と限定することは当業者ならば容易に想到し得ることである」ということはできない。

よって、本件発明1は、相違点1-1、1-2、1-4について検討するまでもなく、当業者といえども甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものでない。

(4-2)本件発明2ないし5について

本件発明2ないし5は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が甲1発明に基いて容易に想到し得るものでないことは、上記(4-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明2ないし5も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)無効理由1-1のまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし5は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

3.無効理由1-3について

(1)刊行物
甲3:特開2005-220355号公報

(2)甲3に記載の事項

(3a)

「【請求項1】
次の成分(A)?(D)を含む液晶媒体。
成分(A):式Iの誘電的に正の化合物の1種または2種以上と、式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物の1種または2種以上とを含有する誘電的に正の成分、成分(A)
【化1】

(式中、
R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、炭素数1?7のアルキル、アルコキシ、フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、炭素数2?7のアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルであり、
【化2】

は、互いに独立して、且つ
【化3】

が、2つ存在するときはこれらも互いに独立して、それぞれ
【化4】

であり、
Z^(21)、Z^(22)、およびZ^(3)は、互いに独立して、且つZ^(21)および/またはZ^(3)が2つ存在するときはこれらも互いに独立して-CH_(2)CH_(2)-、-COO-、trans--CH=CH-、trans--CF=CF-、-CH_(2)O-、-CF_(2)O-または単結合であり、
nおよびmは、互いに独立して、0、1または2であり、
X^(1)、X^(2)およびX^(3)は互いに独立して、ハロゲン、炭素数1?3のハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ、または炭素数2または3のハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり、
Y^(21)およびY^(22)は、互いに独立してHまたはFであり、そして
Y^(31)およびY^(32)は、互いに独立してHまたはFであり、但し、
【化5】

であるときは、Y^(31)およびY^(32)は両方ともHまたはFのどちらかである。)
成分(B):任意成分として誘電的に中性の成分、成分(B)
成分(C):任意成分としてさらに誘電的に正の成分、成分(C)
成分(D):任意成分として誘電的に負の成分、成分(D)」
「【請求項6】
下記式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物を含む誘電的に中性の成分、成分(B)を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の液晶媒体。
【化11】

(式中、R^(41)およびR^(42)は、請求項2で定義された意味を有する。)」(当審注:請求項2において、「R^(41)およびR^(42)」は、請求項1の式IのR^(1)に定義されるものと同じ意味である。)

(3b)
「【0127】
成分(B)は、好ましくは全混合物の0%?45%の濃度で使用され、より好ましくは10%?40%、さらに好ましくは15%?35%、最も好ましくは20%?30%の範囲で使用される。」

(3c)
「【0138】
本発明の液晶媒体の1kHz、20℃におけるΔεは、好ましくは4.0以上、より好ましくは6.0以上、最も好ましくは10.0以上であり、特に6.0?20.0である。」

(3d)
「【0142】
本発明の媒体のネマチック相は、少なくとも0℃から70℃、好ましくは少なくとも-20℃から75℃まで、最も好ましくは少なくとも-30℃から80℃まで、とくに少なくと-40℃から85℃まで(あるいは90℃までさえも)広がることが好ましい。ここで、「ネマチック相が、少なくとも低温限界から高温限界まで広がる」とは、ネマチック相が、低温限界の温度までさらにはそれを超えて広がること、そして高温限界までまたはそれを超えて広がることを意味する。」

(3)甲3に記載された発明

ア 上記摘示事項(3a)によれば、甲3には、請求項1を引用する請求項6として、「次の成分(A)?(D)を含む液晶媒体
成分(A):式Iの誘電的に正の化合物(式省略)の1種または2種以上と、式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物(式省略)の1種または2種以上とを含有する誘電的に正の成分、成分(A)
成分(B):式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物(式省略)を含む誘電的に中性の成分、成分(B)
成分(C):任意成分としてさらに誘電的に正の成分、成分(C)
成分(D):任意成分として誘電的に負の成分、成分(D)」が記載されていると認められる。

イ 上記摘示事項(3b)によれば、甲3の液晶媒体において、成分(B)は、「好ましくは全混合物の0%?45%の濃度で使用され、より好ましくは10%?40%、さらに好ましくは15%?35%、最も好ましくは20%?30%の範囲で使用される」といえる。

ウ 上記摘示事項(3d)によれば、甲3の液晶媒体は、ネマチック液晶媒体であるといえる。

エ 上記摘示事項(3d)によれば、甲3の液晶媒体におけるネマチック相の上限温度は、少なくとも70℃であるといえる。

上記アないしエの検討事項より、甲3には、
「次の成分(A)?(D)を含む、ネマチック相の上限温度が少なくとも70℃であるネマチック液晶媒体。
成分(A):式Iの誘電的に正の化合物(式省略)の1種または2種以上と、式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物(式省略)の1種または2種以上とを含有する誘電的に正の成分、成分(A)
成分(B):式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物(式省略)を含む、好ましくは全混合物の0%?45%の濃度で使用され、より好ましくは10%?40%、さらに好ましくは15%?35%、最も好ましくは20%?30%の範囲で使用される、誘電的に中性の成分、成分(B)
成分(C):任意成分としてさらに誘電的に正の成分、成分(C)
成分(D):任意成分として誘電的に負の成分、成分(D)」(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・検討

(4-1)本件発明1について

本件発明1と甲3発明とを比較する。

○甲3発明の「ネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「ネマチック液晶組成物」に相当する。

○甲3発明の「ネマチック相の上限温度が少なくとも70℃である」と本件発明1の「ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃である」とは、「ネマチック-アイソトロピック転移温度が70℃?120℃である」場合に重複する。

上記より、本件発明1と甲3発明とは、
「ネマチック-アイソトロピック転移温度が70℃?120℃であるネマチック液晶組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3-1>
本件発明1では、「構造式(1)、
【化1】

で表される化合物を30?65%含有」することが特定されているのに対し、甲3発明では、「式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物を含む、好ましくは全混合物の0%?45%の濃度で使用され、より好ましくは10%?40%、さらに好ましくは15%?35%、最も好ましくは20%?30%の範囲で使用される

(式中、R^(41)およびR^(42)は、互いに独立して、炭素数1?7のアルキル、アルコキシ、フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、炭素数2?7のアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルである。)」点。

<相違点3-2>
本件発明1では、「一般式(2)
【化2】

(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基であり、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は -N- に置き換えられてもよい)
からなる群より選ばれる基であり、上記の基(a)、基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、
Q^(1)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(1)?X^(3)はそれぞれ独立してH、F又はClである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を含有」することが特定されているのに対し、甲3発明では、「式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物の1種または2種以上とを含有

(式中、
R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、炭素数1?7のアルキル、アルコキシ、フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、炭素数2?7のアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルであり、

は、互いに独立して、且つ

が、2つ存在するときはこれらも互いに独立して、それぞれ

であり、
Z^(21)、Z^(22)、およびZ^(3)は、互いに独立して、且つZ^(21)および/またはZ^(3)が2つ存在するときはこれらも互いに独立して-CH_(2)CH_(2)-、-COO-、trans--CH=CH-、trans--CF=CF-、-CH_(2)O-、-CF_(2)O-または単結合であり、
nおよびmは、互いに独立して、0、1または2であり、
X^(2)およびX^(3)は互いに独立して、ハロゲン、炭素数1?3のハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ、または炭素数2または3のハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり、
Y^(21)およびY^(22)は、互いに独立してHまたはFであり、そして
Y^(31)およびY^(32)は、互いに独立してHまたはFであり、但し、

であるときは、Y^(31)およびY^(32)は両方ともHまたはFのどちらかである。)」する点。

<相違点3-3>
本件発明1では、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDで注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印可電圧との比を%で表した値)が96%以上」であることが特定されているのに対し、甲3発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点3-4>
本件発明1では、「(ただし、1種または2種以上のエステル化合物を含有することを特徴とする、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体、
下記式の化合物(式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
PPGU-V2-F(式省略)を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。 」ことが特定されているのに対し、甲3発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点3-3>について
甲3には、電圧保持率に関する記載がされておらず、甲3発明が、いかなる電圧保持率を示すのか不明であるが(そして、上記摘示事項(3c)によれば、甲3発明の誘電率異方性Δεの値はある程度高く調整されていることが理解されるところ、上記摘示事項(22a)、(22b)によれば、誘電率異方性Δεの値が高いと、電圧保持率が低下する傾向にあるといえるから、甲3発明の電圧保持率は高いと推察することはできない。)、上記摘示事項(21a)にもあるように、本願出願時において、高温時の電圧保持率が高いことが好ましいとの認識が持たれていたことからすると、少なくとも、甲3発明において、高温時の電圧保持率を高くしようとする動機は、当業者が十分に認識し得るものといえる。
しかしながら、甲3発明の実施形態といえる態様の中で、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDで注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印可電圧との比を%で表した値)」を96%以上とする具体的な手段が技術常識であるという具体的根拠が見当たらないことからして、甲3発明に基いて相違点3-3に係る構成を具備する液晶媒体を想到することが、当業者にとって容易であるということはできない。

請求人は、口頭審理陳述要領書の24頁「キ.相違点3-Bの検討」において、「甲3には、液晶媒体、特にアクティブマトリックスにより駆動するディスプレイに関すること(【0001】)が記載され、通常、AM駆動の正の液晶材料では、電圧保持率が高いもの方が信頼性の点からも当然に求められていたのであるから(・・)、甲3発明Xにおいて、保持率96%以上とすることも当業者ならば容易に想到し得ることである。」旨主張している。
確かに、甲3発明においても、電圧保持率が高いことが好ましいことは当然であるが、それを達成するための手段が、甲3に記載されておらず、また、上記「<相違点1-3>について」でも検討したとおり、技術常識であったと認める証拠も見当たらないことから、加熱150℃1時間後の60℃での「保持率96%以上とすることも当業者ならば容易に想到し得ることである」ともいえない。
したがって、甲3発明において、相違点3-3に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。

よって、本件発明1は、相違点3-1、3-2、3-4について検討するまでもなく、当業者といえども甲3発明に基いて容易に発明をすることができたものでない。

(4-2)本件発明2ないし5について

本件発明2ないし5は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が甲3発明に基いて容易に想到し得るものでないことは、上記(4-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明2ないし5も、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)無効理由1-3のまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし5は、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

4.無効理由3について

(1)特許法第36条第6項第1号又は同条第4項第1号の規定について

(1-1)本件発明が解決しようとする課題について

本件特許明細書の【0009】等を参照すると、本件発明が解決しようとする課題は、「液晶相温度範囲が広く、粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供」することにあるものと認められる。

(1-2)第二成分、第三成分について

本件特許明細書の【0010】?【0012】に、「上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一成分として構造式(1)で表される化合物(式省略)を35?65%含有し、第二成分として一般式(2)で表される化合物(式省略)群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有する・・アクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物・・を提供」することが記載されており、本件発明は、構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との組合せによって、上記課題を解決することが理解される。
また、【0020】?【0021】には、「一般式(2)の具体的な構造として以下の化合物が好ましい。
【化4】

(式中R^(1)はそれぞれ独立して、炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基を表す。)」ことが記載され、また、【0022】には、「組成物の物性値を調整し、さらに低粘性化、低電圧化を達成させるために第三成分として、一般式(3)で表される化合物(式省略)群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物含有することが好ましい」ことが記載されている。
そして、実施例として、【0037】【表1】、【0040】【表2】には、本件特許の要件を満足する6つのネマチック液晶組成物(No.1)?(No.3)、(R1)?(R3)が開示されているが、これらのネマチック液晶組成物(No.1)?(No.3)、(R1)?(R3)は、一般式(2)で表される化合物として、一般式(2-1)で表される化合物のみが用いられ、かつ、一般式(3)で表される化合物が併用されている点で共通する。すなわち、構造式(1)で表される化合物と共に、一般式(2-1)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物を併用した場合に、上記課題が解決し得ることが具体的に確認されているものの、それ以外の場合にまで上記課題が解決し得るかについての十分な証拠が、本件特許明細書に開示がされているとまではただちにいうことができない。

そこで、まず、一般式(2-1)以外の一般式(2)で表される化合物であっても上記課題が解決するかについて検討すると、被請求人は、口頭審理陳述要領書6頁において、『四環液晶化合物のT_(N-I)が高いことは液晶分野の当業者に知られていたことですので(乙第2号証)、2-Cy-Cy-Ph-Ph1-F、3-Cy-Cy-Ph-Ph1-F、4-Cy-Cy-Ph-Ph1-Fを含有する実施例1?3の液晶組成物の「特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))、・・・所望の値を示した。」(【0038】)という記載に接した当業者は、2-Cy-Cy-Ph-Ph1-F、3-Cy-Cy-Ph-Ph1-F、4-Cy-Cy-Ph-Ph1-F以外の一般式(2)で表される化合物を用いた場合でも、0d1-Cy-Cy-3と組み合わせて技術常識に従い適宜組成を調整して所望のT_(N-I)とすることができる』旨主張している。そして、乙第2号証には、312頁右欄に「ベンゼン環は1,4-位で連結され,環の数が増えると棒状分子の長さが長くなり,液晶相の熱安定性が高くなる.ビフェニル系液晶のN-I転移温度は35℃であり,同じ末端基をもち,ベンゼン環が一つ多いテルフェニル系液晶のN-I転移温度は240℃である.ベンゼン環が一つ増え,二環から三環になると,N-I転移温度が205℃高くなる」ことが、313頁右欄に「液晶骨格中のシクロヘキサン環の数が増えても,ベンゼン環同様に液晶相の熱安定性は顕著に高くなる.ビフェニル系液晶からシクロヘキサン環が一つ増えた三環のビフェニルシクロヘキサン系液晶のN-I転移温度は,」当該ビフェニル系液晶「のN-I転移温度より,187℃高い」ことが記載されており、シクロヘキシレン基やフェニレン基を多数有する四環液晶化合物であれば、「T_(N-I)が高いことは液晶分野の当業者に知られていたこと」といえることが理解されるから、実施例で用いられ、課題を解決することが確認されている液晶組成物では、常に一般式(2-1)で表される化合物のみが用いられているとして、当業者であれば、その他の四環化合物であっても、すなわち、一般式(2)の要件を満たす化合物であれば、上記課題を解決し得ると推察する技術的根拠があるといえる。さらに、被請求人は、平成28年10月19日付け上申書で添付した乙第4号証の10頁で、追加実験例1?3を示し、一般式(2-2)、(2-6)で表される化合物を用いても良好な結果が得られることを示した。
これに対して、請求人は、平成28年11月2日付け上申書の5?6頁で、判決を引用し、「後出しの実験データが認められない」旨主張する。しかしながら、請求人が引用した平成17年(行ケ)第10042号審決取消請求事件の判決で、「発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに」と記載されているように、「発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示」しない場合であって、かつ、当該「具体例を開示」していない事項が「本件出願時の当業者の技術常識」でもない場合に、(当初明細書の不足部分を)追加実験例によって補足することは許されるものではないが、本件における当該論点には、上述した技術常識が存在し、それを裏付ける証拠として提出された実験データであるから、当該追加実験例1?3は参酌されるべきものである。
次に、一般式(3)で表される化合物が任意成分であるかについて検討すると、本件特許明細書の【0022】には、一般式(3)で表される化合物が、「組成物の物性値を調整し、さらに低粘性化、低電圧化を達成させるために」含有させることが好ましい任意成分であることが記載されていたところ、被請求人は、口頭審理陳述要領書の5頁で、『1-フルオロ-2-(3,4,5-トリフルオロフェニル)-6-プロピルナフタレンをはじめとする一般式(I)で表されるフツ素置換-2-フェニルナフタレン誘導体が「低粘度で応答性に優れ、屈折率が大きく、かつ広いネマチック相温度範囲と,低い閾値電圧とを兼ね備えた液晶組成物を得る上において、従来の化合物より優れた効果を有していること」は本件特許の出願時の当業者に知られていたことです(特開2000-63305号公報(乙第1号証)・・・』旨主張し、さらに、平成28年10月19日付け上申書で添付した乙第4号証の10頁で、追加実験例3を示し、一般式(3)で表される化合物を用いなくても良好な結果が得られることを示した。請求人は、上記と同様に、「後出しの実験データが認められない」旨主張するが、当該追加実験例3は、本件特許明細書に出願当初より記載された事項を裏付けるためのものであるから、やはり、参酌されるべきものである。
そして、上記主張及び追加の実験データを参酌すれば、第二成分として一般式(2)で表される化合物が広く適用でき、また、第三成分が任意成分であることは明らかであるし、請求人の他のいずれの主張を参照しても、それを覆すに足る事由を見出せない。

(1-3)第一成分の下限値、第二成分の種類数について

本件特許明細書の【0037】【表1】と【0040】【表2】を比較すると、本件発明の構造式(1)で表される化合物(0d1-Cy-Cy-3)の含有量と回転粘度γ_(1)との間にある程度の相間関係があることが見て取れる(なお、例えば、液晶組成物(No.1)と(No.3)で、0d1-Cy-Cy-3の含有量は(No.3)の方が多いが、回転粘度は低くなっていないように、液晶組成物の低粘性は、構造式(1)で表される化合物の含有量のみによって決まるものではないことも分かる。)。そして、審判請求書の92頁表1によると、0d1-Cy-Cy-3の含有量を25%から54%に増加させていくと、回転粘度γ_(1)は連続的に減少し、30%付近に変曲点がなかったことが示されている。
しかしながら、本件特許明細書の【0004】に、「低粘性液晶組成物は、Δn値の小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし、これらの化合物はスメクチック性が高く、ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。」と記載され、また、【0006】に、「一方、四環化合物を使用して液晶温度範囲を調整した液晶組成物も既に知られてられており、好ましい化合物の具体例が開示されている(特許文献5)。しかしながら、この組成物も高速応答に対応できるほど粘性が十分に低いものではなかった。」ことが記載され、そして、【0009】に、「本発明が解決しようとする課題は、液晶相温度範囲が広く、粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること」と記載されているように、本件発明は、含有量を増やせば低粘性が得られるが、ネマチック相温度範囲を広くすることが困難であることが知られるビシクロヘキサン誘導体と、液晶温度範囲を調整するために用いられるが、粘性が十分に低いものとすることができていなかった四環化合物とを併用することで、液晶相温度範囲が広く、粘性が低い液晶組成物を得ようとするものと理解され、少なくとも、低粘性の変曲点を見出すことを課題とする発明でない。そして、構造式(1)で表される化合物の含有量を30%とすれば、(その他の成分や比率にもよるとして、)必要な粘度が得られることが確認されているのであるから、構造式(1)で表される化合物の下限値を30%とすることは、上記課題との関係で意味を有するものと認められる。
また、審判請求書の93頁表2で、含有させる第二成分の種類数を1種、2種、3種と変えても、作用効果(課題解決)に影響がないことが示されているが、そもそも、本件特許の当初明細書では、第二成分は、「1種または2種以上」であれば良いとされていたところ、「2種以上」と発明特定事項をさらに限定するものであるから、上記課題を解決する範囲に発明が限定されていることは明らかであり、上記課題との関係で直接的な意味が認められないとして、そのことをもって、特許法第36条第6項第1号又は同条第4項第1号の規定に反することとはならない(単に、この点で、有利な効果が認められないというだけである。)。

(1-4)実施例の有無について

本件発明1は、「下記式の化合物
【化4】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-COで置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化5】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)を1種以上含むことを特徴とする、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体」であるものを含まないことが特定されている。そして、上記化合物が、「Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-」と「mは、0」との要件を同時に満たす場合にどのような化合物が許容されるかについて検討すると、m=0の場合、Z^(1)は存在しないことから、Z^(2)が「基-CF=CF-」でなくては、化合物中に「基-CF=CF-」が存在しないこととなるので、「Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-」を必須要件とする化合物において、m=0の場合は、Z^(2)が「基-CF=CF-」となると理解するのが自然である。また、当該訂正事項は、訂正請求書の7頁を参照すると、「国際公開された(国際公開第2006/133783号。甲第6号証)・・・に記載された液晶組成物を除くものである」ことが理解されるところ、甲6を参照しても、m=0の場合は、Z^(2)が「基-CF=CF-」となると解するのが妥当である。
とするならば、上記化合物は、本件特許明細書の実施例で用いられている液晶組成物(No.1)?(No.3)、(R1)?(R3)に配合されている「3-Ph-T-Ph-1」、「0d3-Ph-T-Ph-3d0」を包含するものでないから、本件発明1の液晶組成物から、上記化合物を含む液晶組成物が除かれたとして、それによって、実施例がなくなることはなく、したがって、実施例の不存在を根拠とする当該無効理由を認めることはできない。

(2)特許法第36条第6項第2号の規定について

(2-1)誘電率異方性Δεについて

本件発明3は、誘電率異方性Δεの値を発明特定事項の一つとするものであるが、本件特許明細書には、誘電率異方性Δεの測定条件が開示されていない。
ここで、答弁書26頁の「Δεの値は、常法(通常日本電子機械工業会規格EIAJ・ED-2521A)にしたがって測定するというのが本件特許出願時の当業者の技術常識である。」との記載、及び、被請求人の口頭審理陳述要領書6?7頁の『乙第3号証(当審注:JEITA・ED-2521B。日本電子機械工業会規格EIAJ・ED-2521Aが2009年3月に改正されたもの。)には、液晶材料の比誘電率測定方法として、「(1)平行板パネルを用いる場合」、「(2)静磁場及び平行板パネルを用いる場合」及び「(3)交流インピーダンス測定器を用いる場合」が記載されています・・・。
そうすると、本件特許の出願時、液晶材料の比誘電率測定方法として、「(1)平行板パネルを用いる場合」、「(2)静磁場及び平行板パネルを用いる場合」及び「(3)交流インピーダンス測定器を用いる場合」が当業者に技術常識であったといえます。
そして、この三つの場合は、液晶の配向のさせ方が異なる(「(1)平行板パネルを用いる場合」及び「(3)交流インピーダンス測定器を用いる場合」は「配向パネル」、「(2)静磁場及び平行板パネルを用いる場合」は「静磁場」、が用いられる)ものの、いずれも、「液晶の交流電気信号に対する・・・液晶材料の比誘電率(ε)はC/C_(air)の値となる。」という理論に基づき、配向した液晶の「静電容量を測定」する方法ですので、技術常識を有する当業者が普通に測定すれば、その比誘電率(ε)の値は当然一致します。
さらに、「(1)平行板パネルを用いる場合」、「(2)静磁場及び平行板パネルを用いる場合」及び「(3)交流インピーダンス測定器を用いる場合」のいずれかの測定方法で測定してもε_(||)及びε_(⊥)の値は一致しますので、測定方法がいずれであっても、Δεの値も当然に一致します。』との記載によれば、誘電率異方性Δεの測定条件は、本件特許の出願時に規格化がされていたこと、及び、当該規格には3つの異なる測定条件が含まれているが、いずれの測定条件で測定してもΔεの値は一致することが理解される。
とするならば、本件発明3において、誘電率異方性Δεの測定条件が不明であると認められるとして、規格化されたいずれの常法にしたがっても誘電率異方性Δεの値は一致するのであるから、「誘電率異方性Δεが2.5?10.0である」との発明特定事項は明確であるといえる。

(3)無効理由3のまとめ

以上のとおり、請求人が主張するいずれの理由によっても、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に記載する要件を満たしており、また、本件の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているので、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、同法同条第4項第1号又は第6項に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきものでない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、無効とすべきものでない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項で読み替えて準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分として構造式(1)、
【化1】

で表される化合物を30%?65%含有し、第二成分として一般式(2)
【化2】

(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基であり、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a)トランス-1,4-シクロヘキシレン基
(b)1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は-N-に置き換えられてもよい)
からなる群より選ばれる基であり、上記の基(a)、基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、
Q^(1)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(1)?X^(3)はそれぞれ独立してH、F又はClである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を含有し、ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、
加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDに注入し、5V印加、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれることを特徴とするネマチック液晶組成物(ただし、1種または2種以上のエステル化合物を含有することを特徴とする、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体、
下記式の化合物
【化4】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化5】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)を1種類以上含むことを特徴とする、化合物の混合物に基づく正の誘電異方性を有する液晶媒体、並びに、
PPGU-V2-Fを含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。
【化6】

【請求項2】
第三成分として一般式(3)
【化3】

(式中、R^(2)はR^(1)と同じ意味を表し、
B^(4)はB^(1)と同じ意味を表し、
L^(4)、L^(1)と同じ意味を表し、
B^(4)及びL^(4)が複数存在する場合はそれらは同一でも良く異なっていても良く、
mは0、1又は2であり、
nは0又は1であり、
Q^(2)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(4)?X^(8)はそれぞれ独立してH、F又はClである。)で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有する請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項3】
ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、誘電率異方性Δεが2.5?10.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のネマチック液晶組成物を用いた液晶表示素子。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一項に記載のネマチック液晶組成物を用いたアクティブマトリックス液晶表示素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-12-22 
結審通知日 2016-12-27 
審決日 2017-01-10 
出願番号 特願2012-214113(P2012-214113)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (C09K)
P 1 113・ 113- YAA (C09K)
P 1 113・ 121- YAA (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 岩田 行剛
橋本 栄和
登録日 2014-10-03 
登録番号 特許第5622057号(P5622057)
発明の名称 ネマチック液晶組成物  
代理人 清水 義憲  
代理人 河野 通洋  
代理人 吉住 和之  
代理人 中塚 岳  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 石井 良夫  
代理人 河野 通洋  
代理人 城所 宏  
代理人 中塚 岳  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉住 和之  

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