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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J |
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管理番号 | 1326249 |
審判番号 | 不服2015-10855 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-09 |
確定日 | 2017-03-16 |
事件の表示 | 特願2011-164522「半導体装置製造用の接着シート、ダイシングフィルム一体型半導体装置製造用の接着シート、及び、当該半導体装置製造用の接着シートを有する半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日出願公開、特開2013- 28679〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成23年7月27日の出願であって、平成26年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月25日付けで、意見書及び手続補正書が提出され、同年3月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に、手続補正書が提出され、平成28年9月5日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年10月26日付けで意見書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?15に記載された発明は、平成27年6月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。 「樹脂成分およびイオン捕捉剤(ただし、樹脂を除く)を含み、 α線放出量が0.002c/cm^(2)・h以下であることを特徴とする半導体装置製造用の接着シート。」 3.当審の拒絶理由の概要 当審の拒絶理由の概要は、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開2011-137057号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 4.引用例の記載 引用例には、「チップ保持用テープ、チップ状ワークの保持方法、チップ保持用テープを用いた半導体装置の製造方法、及び、チップ保持用テープの製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。 (a)「【0001】 本発明は、チップ保持用テープ、チップ状ワークの保持方法、チップ保持用テープを用いた半導体装置の製造方法、及び、チップ保持用テープの製造方法に関する。」 (b)「【0066】 また、チップ保持用テープ10は、例えば、ダイシング・ダイボンドフィルムを用いて個片化されたダイボンドフィルム付の半導体チップを引き剥がし可能な状態で保持するために使用することもできる。そこで、次に、チップ保持用テープに貼り付けられるダイシング・ダイボンドフィルムについて説明することとする。 【0067】 (ダイシング・ダイボンドフィルム) 図2は、本発明の第1実施形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。図2に示すにように、ダイシング・ダイボンドフィルム30は、ダイシングフィルム32上にダイボンドフィルム34が積層された構成を有する。ダイシングフィルム32は基材36上に粘着剤層38を積層して構成されており、ダイボンドフィルム34は粘着剤層38上に設けられている。なお、ダイシング・ダイボンドフィルム30を構成するダイシングフィルム32については、従来公知のものを用いることができるため、ここでの詳細な説明は省略することとする。 【0068】 ダイボンドフィルム34を構成する接着剤組成物としては、例えば、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を併用したものが挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又はフッ素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらの熱可塑性樹脂のうち、イオン性不純物が少なく耐熱性が高く、半導体素子の信頼性を確保できるアクリル樹脂が特に好ましい。 【0069】?【0071】(略) 【0072】 前記熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、又は熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。特に、半導体素子を腐食させるイオン性不純物等の含有が少ないエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。 【0073】?【0077】(略)」 (c)「【0078】 また、ダイボンドフィルム34には、その用途に応じて無機充填剤を適宜配合することができる。無機充填剤の配合は、導電性の付与や熱伝導性の向上、弾性率の調節等を可能とする。前記無機充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、石膏、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミナ、酸化ベリリウム、炭化珪素、窒化珪素等のセラミック類、アルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム、半田等の金属、又は合金類、その他カーボン等からなる種々の無機粉末が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。 【0079】 尚、ダイボンドフィルム34には、前記無機充填剤以外に、必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては、例えば難燃剤、シランカップリング剤又はイオントラップ剤等が挙げられる。前記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。前記イオントラップ剤としては、例えばハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。」 (d)「【0089】 (半導体装置の製造) 次に、半導体装置の製造方法について説明する。 先ず、ダイシング・ダイボンドフィルム30上に半導体ウェハ40を圧着して固定する(図2参照)。本工程は、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。マウントの際の貼り付け温度は特に限定されず、例えば20?80℃の範囲内であることが好ましい。 【0090】?【0093】(略) 【0094】 チップ保持用テープ10を用いて集められた半導体チップ42は、別途、半導体装置の製造に用いられることとなる。そこで、半導体チップ42を用いた半導体装置の製造方法について、図3を参照しながら説明することとする。 【0095】 図3は、本発明の一実施形態に係る半導体装置を示す断面模式図である。まず、チップ保持用テープ10に貼り付けられている、ダイボンドフィルム36付きの半導体チップ42を、チップ貼付領域18の粘着力を低下させることなく剥離する。ここで、「粘着力を低下させることなく剥離する」とは、放射線硬化型の粘着剤層に放射線を照射して硬化させ、粘着力を低下させるといったような化学的変化を起こさせたり、後述する熱発泡性を有する粘着剤層に熱を加えて、粘着力を低下させるといったような物理的変化を起こさせることなく、チップ状ワーク(半導体チップ)を剥離することをいう。剥離は、通常のダイシングした半導体チップをダイボンディング工程でピックアップするのと同様に、ピックアップにて行うことができる。 【0096】 ピックアップした半導体チップ42は、図3に示すように、ダイボンドフィルム34を介して被着体44に接着固定される(ダイボンド)。被着体44としては、リードフレーム、TABフィルム、基板又は別途作製した半導体チップ等が挙げられる。被着体44は、例えば、容易に変形されるような変形型被着体であってもよく、変形することが困難である非変形型被着体(半導体ウェハ等)であってもよい。」 (e)【図2】 (f)【図3】 5.引用発明の認定 (1)上記4(b)及び(e)から、「ダイシング・ダイボンドフィルム30」は、「ダイシングフィルム32」と「ダイボンドフィルム34」とからなり、「ダイボンドフィルム34」は、「ダイシングフィルム32」上に積層されていることがわかる。 (2)上記4(b)から、「ダイボンドフィルム34」は、「接着剤組成物」から構成され、該「接着剤組成物」は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを併用したものであることがわかる。また、熱硬化性樹脂として、シリコーン樹脂が例示されている。 (3)上記4(c)から、「ダイボンドフィルム34」は、難燃剤、シランカップリング剤又はイオントラップ剤のいずれかの添加剤を含み、「イオントラップ剤」は、「ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等」であることがわかる。 (4)上記4(a)、(d)及び(f)から、「ダイボンドフィルム34」は、半導体装置の製造に用いられるものであって、「ダイボンドフィルム34」によって、半導体チップ42が被着体44に接着固定されることがわかる。 (5)そうすると、引用例には、「熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を併用した接着剤組成物から構成され、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等のイオントラップ剤を含む、ダイシングフィルム32上に積層され、半導体チップ42を被着体44に接着固定するために用いられる、半導体装置製造用のダイボンドフィルム34。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 6.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を併用した接着剤組成物」は、本願発明の「樹脂成分」に相当し、引用発明の「ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等のイオントラップ剤」は、本願発明の「イオン捕捉剤(ただし、樹脂を除く)」に相当する。 また、引用発明の「ダイシングフィルム32上に積層され、半導体チップ42を被着体44に接着固定するために用いられる、半導体装置製造用のダイボンドフィルム34」は、本願発明の「半導体装置製造用の接着シート」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、「樹脂成分およびイオン捕捉剤(ただし、樹脂を除く)を含む、半導体装置製造用の接着シート。」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点) α線放出量について、本願発明は「0.002c/cm^(2)・h以下である」のに対し、引用発明のα線放出量は不明な点。 ここで、相違点について検討する。 α線が半導体装置に照射されることで、半導体装置のシリコン酸化膜やシリコン基板にイオンが発生し、半導体装置の誤動作を引き起こすことは周知である(必要であれば、特開平11-111858号公報の【0012】の「ところで、上記従来の半導体メモリ装置においては、半導体装置中のシリコン酸化膜やシリコン基板にα線等の放射線が照射すると、イオン化したシリコンや電子が発生する。このイオン化したシリコンや電子がゲート酸化膜等に注入されることにより、記憶保持状態で電位が反転するなどのソフトエラーが引き起こされる。」という記載を参照されたい。)。 そして、一般に、半導体装置を構成する部材からの、イオン発生の原因となるα線放出が望ましくないことは技術常識である(必要であれば、原査定で引用された引用文献2(特開平11-21537号公報)の「【0027】フィラー中のウラン含有量を1.0ppb以下とすることにより、フィラーからのα線の放出が抑制される。この接着剤を半導体装置に適用した場合、α線による半導体装置の誤動作を抑制することができる。」という記載、同引用文献3(特開昭59-28362号公報)の「フェイス・ダウン・ボンディングでは、次のようなα粒子が、SER(当審注:ソフト・エラー率)の問題を生じる一原因となっている。即ち、集積回路チップ搭載用のセラミック基板中に存在する放射性不純物から放出されるα粒子である。これらのα粒子は、基板とチツプどの間の狭いギヤツプを横切って、チップに衝突し、電圧ノイズ・バースト(electronic noise burst)を生じる。この電圧ノイズ・バーストは、例えば、集積回路チップの1部分によって検出され、論理信号と間違えられる。これによって、″ソフト・エラー″と呼ばれるエらー(当審注:「エラー」の誤記と認める。)を生じることになる。さらに、類似にエラーがメモリで起き得る。即ち、放射線は、例えば、0を1に変えるようにして、情報ビットを変え得る。」(1頁右下欄16行?2頁左上欄9行)という記載、及び特開平3-235354号公報の「10は前記回路面7を覆うα線遮蔽板で、前記IC6に例えば接着剤11によって固着されている。このα線遮蔽板10は、例えば不純物としてウランやトリウムの放射性元素が少ないポリイミド樹脂のフィルムシート(東レ・デュポン(株)のカプトン200Hでα線量が0.001カウント/cm^(2)・hrs以下で選別されたもの)によって形成されている。また、前記接着剤11は、例えば不純物としてウランやトリウムの放射性元素が少ないシリコーン樹脂(α線量が0.001カウント/cm^(2)・hrs以下に選別されたものであり、例えば「トーレシリコーン(株)のJCR6110」)によって形成されている。」(2頁左上欄左上欄19行?右上欄10行)という記載を参照されたい。) なお、上記特開平3-235354号公報の「接着剤11」に用いられた「シリコーン樹脂」は、引用発明の「熱硬化性樹脂」として、引用例に例示されている。 そうすると、引用発明の「半導体装置製造用のダイボンドフィルム34」について、上記周知技術に照らせば、「ダイボンドフィルム34」として、できる限り、イオン発生の原因となるα線の放出が少ない材料を選択することは、当業者が容易に想到し得ることであって、その際に、どの程度のα線放出量を許容範囲とするかは、半導体チップの用途等によって適宜決定する事項にすぎず、しかも、上記特開平3-235354号公報に,フィルムシート及び接着剤のα線放出量を、それぞれ、0.001カウント/cm^(2)・hrs(c/cm^(2)・hと等価である。)以下とすることが記載されるように、「ダイボンドフィルム34」のα線放出量を「0.002c/cm^(2)・h以下」とすることは格別なことではないことから、引用発明の「α線放出量」を「0.002c/cm^(2)・h以下」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである (請求人の平成29年1月5日付けの意見書における主張について) 請求人は、上記意見書において、引用例のダイボンドフィルム34において、α線放出が望ましくないことが認定されるべきであり、引用例のダイボンドフィルム34において、α線放出が望ましくないことは、周知技術ではない旨主張している。 しかしながら、上記の特開平11-21537号公報、特開昭59-28362号公報、特開平3-235354号公報等に示されるように、半導体装置にα線が照射されることによって、半導体装置に誤作動を生じることは周知であって、引用発明のダイボンドフィルム34は、半導体チップ42を接着固定するものである以上、上記ダイボンドフィルム34は、当然、α線放出を低い値とするものであるというべきである。 したがって、請求人の上記主張は、採用できない。 7.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-01-16 |
結審通知日 | 2017-01-17 |
審決日 | 2017-02-01 |
出願番号 | 特願2011-164522(P2011-164522) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C09J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西澤 龍彦、平塚 政宏、内藤 康彰 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
川端 修 原 賢一 |
発明の名称 | 半導体装置製造用の接着シート、ダイシングフィルム一体型半導体装置製造用の接着シート、及び、当該半導体装置製造用の接着シートを有する半導体装置 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |