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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1326280
審判番号 不服2015-6657  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-08 
確定日 2017-04-10 
事件の表示 特願2012-534084「ダイアタッチフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日国際公開,WO2011/046238,平成25年 3月 7日国内公表,特表2013-508943,請求項の数(14)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年10月16日を国際出願日とする出願であって,平成25年11月25日付けで拒絶理由が通知され,平成26年5月1日に意見書と手続補正書が提出され,同年12月4日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ,これに対し,平成27年4月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,手続補正書が提出され,その後,当審において平成28年8月31日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知し,同年12月2日に意見書と手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-14に係る発明は,平成28年12月2日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
基材フィルムと;上記基材フィルム上に形成された粘着部と;上記粘着部上に形成され,エポキシ樹脂,低弾性高分子量樹脂及び硬化剤を含む接着部と;を含み,
上記エポキシ樹脂は,二官能性エポキシ樹脂及び多官能性エポキシ樹脂の混合樹脂であり,
上記混合樹脂は,上記多官能性エポキシ樹脂100重量部に対して10重量部?50重量部の上記二官能性エポキシ樹脂を含み,
基材フィルムの厚さ(A)が80?90μm,粘着部の厚さ(B)が20?30μm,接着部の厚さ(C)が10?60μmの範囲に含まれ,
上記基材フィルムの厚さをA,粘着部の厚さをB,そして接着部の厚さをCとするとき,B/Aの値が0.222?0.375であり,B/Cの値が0.5?3であるダイアタッチフィルム。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-17,20
・引用文献1
・備考:
引用文献1の,特に【0038】,【0046】-【0050】,実施例1,2を参照すると,厚さ5?200μmの基材フィルムと,厚さ0.1?50μmの粘着層と,厚さ5?250μmであり,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,エポキシ基含有アクリルゴム,および,イミダゾール系硬化剤を含む接着層とが積層された接着シートを,ウェーハに貼り付けてダイシングし,個片化されたチップをピックアップしてダイボンドすることが記載されている。
よって,請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,請求項2-17,20に係る発明も,請求項1に係る発明と同様の理由で拒絶すべきものである。

・請求項18,19
・引用文献1
・備考:
引用文献1では,接着層の130℃で測定されたタック強度や,150℃で測定されたせん断強度について記載されていないが,引用文献1の実施例1,2における接着層の組成は,本願明細書の実施例における接着部の組成と類似しているから,引用文献1に記載された発明の接着層も,請求項18,19に係る発明で特定されるタック強度やせん断強度を有している蓋然性が高い。
よって,請求項18,19に係る発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項21,22
・引用文献1
・備考:
ウェーハのダイシングにおいて,ウェーハに貼り付けられたダイシングテープをウェーハリングフレームに固定することは,周知の技術と認められる。
してみると,引用文献1に記載された発明のウェーハのダイシングにおいて,ウェーハに貼り付けられた接着シートを,ウェーハリングフレームに固定することは,周知技術に基づき,当業者が容易になし得たことである。
よって,請求項21に係る発明は,引用文献1に記載された発明および周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,請求項22に係る発明も,請求項21に係る発明と同様の理由で拒絶すべきものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2004-35841号公報

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項
ア 原査定の理由で引用した文献1(以下「引例1」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同じ。)。
(1a)「【0038】
接着シートの厚みは,特に制限はないが,粘着層は0.1?50μmが好ましい。0.1μmより小さいとダイシング時の粘着力が十分でなくなる傾向があり,50μmより厚いとダイシング時に半導体素子が傷つき易くなる傾向がある。
また,接着層の厚みも,特に制限はないが,5?250μmが好ましい。5μmより薄いと応力緩和効果が乏しくなる傾向があり,250μmより厚いと経済的でなくなる上に,半導体装置の小型化の要求に応えられない。本発明の接着シートに用いる基材フィルムとしては,特に制限はなく,例えば,ポリエチレンテレフタレートフィルム,ポリイミドフィルムなどや,ポリテトラフルオロエチレンフィルム,ポリエチレンフィルム,ポリプロピレンフィルム,ポリメチルペンテンフィルム,ポリ酢酸ビニルフィルム等のポリオレフィン系などのプラスチックフィルム等が挙げられるが,プロセスコスト上,別々に作製した粘着層と接着層を貼り合せて製造する場合及び,粘着層の組成物を溶剤に溶解あるいは分散してワニスとし,基材フィルム上に塗布,加熱し溶剤を除去してフィルム状にした後,そのフィルムの粘着層上に,接着層を形成する組成物を溶剤に溶解あるいは分散してワニスとしたものを塗布,加熱して溶剤を除去することによって得る場合は粘着層を作製した際の基材フィルムを使用するのが好ましい。また,基材フィルムの厚みは5?200μmであることが好ましい。」

(1b)「【0046】
(製造例1)
エピコート828(油化シェルエポキシ(株)製商品名,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,エポキシ当量190)45重量部,ESCN195(住友化学工業(株)商品名,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,エポキシ当量195)15重量部,プライオーフェンLF2882(大日本インキ化学工業(株)製商品名,ビスフェノールAノボラック樹脂)40重量部,フェノトートYP-50(東都化成(株)商品名,フェノキシ樹脂,分子量5万)15重量部,エポキシ樹脂と非相溶である高分子量化合物HTR-860P-3(帝国化学産業(株)商品名,エポキシ基含有アクリルゴム,分子量100万,Tg-7℃)150重量部,キュアゾール2PZ-CN(四国化成工業(株)製商品名,1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール)0.5重量部,NUC A-187(日本ユニカー(株)製商品名,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.7重量部からなる組成物に,メチルエチルケトンを加えて攪拌混合し,真空脱気した。このワニスを,厚さ75μmの離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製,テイジンピューレックス:S31)上に塗布し,140℃で5分間加熱乾燥して,基材フィルムを備えた膜厚が50μmのBステージ状態のフィルム状接着層(F-1)を得た。このフィルム状接着層(F-1)を170℃で1時間硬化させた場合の貯蔵弾性率を動的粘弾性測定装置(レオロジ社製,DVE-V4)を用いて測定(サンプルサイズ:長さ20mm,幅4mm,膜厚80μm,昇温速度5℃/min,引張りモード,10Hz,自動静荷重)した結果,25℃で330MPa,260℃で10MPaであった。
【0047】
(実施例1)
YDCN-703(東都化成(株)製商品名,o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,エポキシ当量210)42.3質量部,プライオーフェンLF2882(大日本インキ化学工業(株)製商品名,ビスフェノールAノボラック樹脂)23.9質量部,HTR-860P-3(帝国化学産業(株)製商品名,エポキシ基含有アクリルゴム,分子量100万,Tg-7℃)44.1質量部,NUC A-187(日本ユニカー(株)製商品名,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.7質量部,合成例1で得られた放射線重合性化合物(A-1)22.05質量部からなる組成物に,メチルエチルケトンを加えて攪拌混合し,真空脱気した。このワニスを,厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(帝人(株)製,テイジンテトロンフィルム:G2-50)上に塗布し,100℃で5分間加熱乾燥して,基材フィルムを備えた膜厚が10μmのBステージ状態のフィルム状粘着層を作製した後,製造例1で得られた基材フィルムを備えた膜厚が50μmのBステージ状態のフィルム状接着層(F-1)をカバーフィルムとして積層し,接着シート(接着層と粘着層を併せた厚みが60μm)(接着シート1)を得た。
【0048】
得られた接着シート1を厚さ150μmのシリコンウェハ上に接着層側がシリコンウエハと接するように貼付け,接着シート付きシリコンウェハをダイシング装置上に載置した。次いで,半導体ウェハをダイシング装置上に固定して100mm/secの速度で5mm×5mmにダイシングした後,(株)オーク製作所製UV-330 HQP-2型露光機を使用して,500mJ/cm^(2)の露光量で接着シートの基材フィルム側から露光し,ピックアップ装置にてダイシングしたチップをピックアップし,ダイシング時のチップ飛び及びピックアップ性を評価した。さらに,上記接着シート付きシリコンウェハに500mJ/cm^(2)の露光量で接着シートの基材フィルム側から露光し,露光前後の接着層/粘着層界面の接着強度を,90°ピール強度で測定した(引張り速度 50m/min)。初期値として表1に示す。また,得られた接着シート1を温度25℃,湿度:23%の雰囲気中で30日間保管した後,上記と同様にダイシング時のチップ飛び,ピックアップ性及び露光前後の接着層/粘着層界面の接着強度を測定した。保管後として表1に示す。
【0049】
一方,上記ピックアップした接着層付きチップ(温度25℃,湿度:23%の雰囲気中で30日間保管していないもの)を厚み25μmのポリイミドフィルムを基材に貼り合せた半導体装置サンプル(片面にはんだボールを形成,半導体チップと接着層が接するように貼り合せ)を作製し,耐熱性及び耐湿性を調べた。耐熱性の評価方法には,耐リフロークラック性と温度サイクル試験を適用した。耐リフロークラック性の評価は,サンプル表面の最高温度が240℃でこの温度を20秒間保持するように温度設定したIRリフロー炉にサンプルを通し,室温で放置することにより冷却する処理を2回繰り返したサンプル中のクラックを目視と超音波顕微鏡で視察した。クラックの発生していないものを○とし,発生していたものを×とした。耐温度サイクル性は,サンプルを-55℃雰囲気に30分間放置し,その後125℃の雰囲気に30分間放置する工程を1サイクルとして,1000サイクル後において超音波顕微鏡を用いて剥離やクラック等の破壊が発生していないものを○,発生したものを×とした。また,耐湿性評価は,温度121℃,湿度100%,2.03×10^(5)Paの雰囲気(プレッシャークッカ-テスト:PCT処理)で72時間処理後に剥離を観察することにより行った。剥離の認められなかったものを○とし,剥離のあったものを×とした。これらの評価結果をまとめて表1に示す。
【0050】
(実施例2)
エピコート828(油化シェルエポキシ(株)製商品名,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,エポキシ当量190)23.4質量部,ESCN195(住友化学工業(株)商品名,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,エポキシ当量195)15質量部,プライオーフェンLF2882(大日本インキ化学工業(株)製商品名,ビスフェノールAノボラック樹脂)23.9質量部,HTR-860P-3)帝国化学産業(株)製商品名,エポキシ基含有アクリルゴム,分子量100万,Tg-7℃)44.1質量部,キュアゾール2PZ-CN(四国化成工業(株)製商品名,1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール)0.4質量部,NUC A-187(日本ユニカー(株)製商品名,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.7質量部,合成例1で得られた放射線重合性組成物(A-1)22.05質量部及び1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 0.5質量部からなる組成物に,メチルエチルケトンを加えて攪拌混合し,真空脱気した。この接着剤ワニスを,厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し,100℃で5分間加熱乾燥して,基材フィルムを備えた膜厚が10μmのBステージ状態のフィルム状粘着層を作製した後,製造例1で得られた基材フィルムを備えた膜厚が50μmのBステージ状態のフィルム状接着層(F-1)をカバーフィルムとして積層し,接着シート(接着層と粘着層を併せた厚みが60μm)(接着シート2)を作製した。得られた接着シート2を実施例1と同様の条件で評価した結果を表1に示す。」

イ そうすると,引例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

・引用発明1
「基材フィルムと;上記基材フィルム上に形成された粘着層と;上記粘着層上に形成され,エピコート828(油化シェルエポキシ(株)製商品名,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,エポキシ当量190)45重量部,ESCN195(住友化学工業(株)商品名,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,エポキシ当量195)15重量部,プライオーフェンLF2882(大日本インキ化学工業(株)製商品名,ビスフェノールAノボラック樹脂)40重量部,フェノトートYP-50(東都化成(株)商品名,フェノキシ樹脂,分子量5万)15重量部,エポキシ樹脂と非相溶である高分子量化合物HTR-860P-3(帝国化学産業(株)商品名,エポキシ基含有アクリルゴム,分子量100万,Tg-7℃)150重量部,キュアゾール2PZ-CN(四国化成工業(株)製商品名,1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール)0.5重量部,NUC A-187(日本ユニカー(株)製商品名,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.7重量部を含む接着層と;を含み,
基材フィルムの厚さ(A)が5?200μm,粘着層の厚さ(B)が0.1?50μm,接着層の厚さ(C)が5?250μmの範囲に含まれる接着シート。」

(2)引用発明1と本願発明1との対比
ア 引用発明1の「接着シート」は,以下の相違点1,相違点2を除いて,本願発明1の「ダイアタッチフィルム」に相当する。

イ 引用発明1の「エピコート828(油化シェルエポキシ(株)製商品名,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,エポキシ当量190)」,「ESCN195(住友化学工業(株)商品名,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,エポキシ当量195)」は,引例1の【0011】の記載から「多官能性エポキシ樹脂」といえる。

ウ 引用発明1の「プライオーフェンLF2882(大日本インキ化学工業(株)製商品名,ビスフェノールAノボラック樹脂)」は,引例1の【0012】の記載から「硬化剤」といえる。

エ 引用発明1の「エポキシ樹脂と非相溶である高分子量化合物HTR-860P-3(帝国化学産業(株)商品名,エポキシ基含有アクリルゴム,分子量100万,Tg-7℃)」は,本願発明1の「低弾性高分子量樹脂」に相当する。

オ したがって,本願発明1と引用発明1とを対比すると,以下の点で,一致,及び,相違する。

[一致点]
「基材フィルムと;上記基材フィルム上に形成された粘着部と;上記粘着部上に形成され,エポキシ樹脂,低弾性高分子量樹脂及び硬化剤を含む接着部と;を含むダイアタッチフィルム。」

[相違点]
・相違点1:本願発明1が,「上記エポキシ樹脂は,二官能性エポキシ樹脂及び多官能性エポキシ樹脂の混合樹脂であり,上記混合樹脂は,上記多官能性エポキシ樹脂100重量部に対して10重量部?50重量部の上記二官能性エポキシ樹脂を含」むのに対して,引用発明1は,そのような特定がされていない点。

・相違点2:本願発明1が,「基材フィルムの厚さ(A)が80?90μm,粘着部の厚さ(B)が20?30μm,接着部の厚さ(C)が10?60μmの範囲に含まれ,上記基材フィルムの厚さをA,粘着部の厚さをB,そして接着部の厚さをCとするとき,B/Aの値が0.222?0.375であり,B/Cの値が0.5?3である」であるのに対して,引用発明1は,そのような特定がされていない点。

(3)判断
・相違点1について
引例1には,引用発明1において,「上記エポキシ樹脂は,二官能性エポキシ樹脂及び多官能性エポキシ樹脂の混合樹脂であり,上記混合樹脂は,上記多官能性エポキシ樹脂100重量部に対して10重量部?50重量部の上記二官能性エポキシ樹脂を含」むものとする動機は記載も示唆もされておらず,周知技術から当業者が適宜なし得たものとも認められない。

・相違点2について
引例1には,引用発明1において,「基材フィルムの厚さ(A)が80?90μm,粘着部の厚さ(B)が20?30μm,接着部の厚さ(C)が10?60μmの範囲に含まれ,上記基材フィルムの厚さをA,粘着部の厚さをB,そして接着部の厚さをCとするとき,B/Aの値が0.222?0.375であり,B/Cの値が0.5?3である」ものとする動機は記載も示唆もされておらず,周知技術から当業者が適宜なし得たものとも認められない。

・効果について
本願発明1は,相違点1及び相違点2を備えることによって,本願の発明の詳細な説明の【0039】-【0040】に記載された「二管能性エポキシ樹脂は,多管能性エポキシ樹脂100重量部に対して10重量部?50重量部の量で含まれることが好ましい。上記含量が10重量部未満なら,タックが低くなり,高温での接着力が低下するおそれがあり,50重量部を超過すれば,取り扱い性が低下するか,ダイシング工程時にバーの発生が増加するおそれがある。」とする効果,【0014】-【0015】,【0019】,【0066】に記載された「基材フィルム(厚さ:A)及び粘着部(厚さ:B)の厚さの比率(B/A)が・・・好ましくは,0.2?0.4の範囲である。本発明のフィルムにおいて,上記比率が0.15未満なら,基材フィルムの厚さに対して粘着部の厚さが小さすぎるので,ダイシング工程で多量のバーが発生するおそれがあり,エキスパンディングが難しくなり,ピックアップ不良が発生するおそれがある。また,上記比率が0.5を超過すれば,ダイシング工程時にチッピング現象が過度に発生するか,またはフィルムの取り扱い性が悪くなるおそれがある。」,「ダイシング用粘着部(厚さ:B)及びダイボンディング用接着部(厚さ:C)の厚さの比率(B/C)が・・・さらに好ましくは,0.5?3の範囲である。本発明のフィルムにおいて上記比率が0.2未満なら,ダイボンディング用接着部の厚さが小さくなり,ピックアップ時にダイだけがピックアップされるおそれがあり,5を超過すれば,作業性が過度に低下するおそれがある。」,「基材フィルムの厚さは,前述した関係を満たす限り,・・・さらに好ましくは80μm?90μmであることができる。上記厚さが10μm未満なら,ダイシング工程では,切断深さ(cut depth)の調節が不安定になるおそれがあり,200μmを超過すれば,ダイシング工程でバー(burr)が多量発生するか,または延伸率が低下し,エキスパンディング工程が正確に行われないおそれがある。」,「接着部の厚さは,前述した関係を満たす限り,・・・上記厚さが1μm未満なら,高温での応力緩和特性及び埋込み性が低下するおそれがあり,200μmを超過すれば,経済性が劣化する。」とする効果,及び,【表1】,【表2】から読み取れる,所定の組成を有する材料によって製造された,基材フィルムの厚さ(A)が,80?90μm,粘着層の厚さ(B)が20?30μm,接着層の厚さ(C)が,10?60μmの範囲に含まれ,かつ,B/Aが0.222?0.375,B/Cが0.5?3であるダイアタッチフィルムにおいて,「バー発生個数」,「チッピング発生個数」,「ピックアップ性」という評価が,同時に良好な結果を示すことができるとする効果を奏するものと認められる。
そして,当該効果を,引例1の記載及び技術常識から当業者が予測することができたと認めることはできない。
したがって,本願発明1は,引例1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
本願発明1は,引例1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2-14に係る発明は,本願発明1をさらに限定したものであるので,本願発明1と同様に,当業者が引例1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
この出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号,及び,第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


(1)第36条第6項第1号(サポート要件)について
発明の詳細な説明には,以下の事項が記載(下線は当審で付与した。以下同じ。)されている。
「【背景技術】
【0002】
近年,携帯電話またはモバイル端末機などに使用される半導体メモリの高集積化及び高機能化に伴い,半導体基板に複数の半導体チップをダイアタッチフィルムを使用して積層する方式が多く採用されている。
【0003】
ダイアタッチフィルムは,ダイシング工程で半導体チップを固定するための粘着剤層及びダイボンディング工程でチップの裏面に接着され,リードフレームなどの配線基板に付着される接着剤層で構成されている。
・・・<途中省略>・・・
【0005】
上記ダイシング工程時には,ダイヤモンドホイールなどでウェーハを所定の厚さにカットし,この際,過多な圧力または機械的衝撃が印加される場合,ウェーハ損傷によるチッピング(chipping)及びパターンを汚染させることができるバー(Burr)が発生する。最近,パッケージングのサイズが小さくなるにつれてウェーハの厚さが薄くなり,生産効率の増大のためにダイシング条件が苛酷になるにつれて前述のような問題の発生頻度が増加している。特にバーの場合,以前には問題にならなかった水準のバーが,ウェーハの厚さが薄くなるにつれて,ダイの上に上がる頻度が多くなり,チップの付着作業性を顕著に低下させることはもちろん,パターンを汚染させてパッケージ信頼性を悪化させる原因となっている。
【0006】
このようなバーを低減するための従来の技術は,フィルムの物性または工程条件のようなパラメータを変更させる方法が大部分であった。ところが,ダイシング工程のパラメータを調整することによって,バーの抑制を図る場合,後工程であるダイボンディング工程でエキスパンディング性が劣化するか,またはチップが容易にピックアップされない問題が発生する。また,チップがピックアップされるとしても,ダイボンディング時にポジションエラーが発生するか,または不十分なダイシングに起因してダイの上部でチッピングが発生する問題がある。
【0007】
一方,半導体パッケージング工程では,ダイシング工程後にフィルムから剥離された接着層を含むチップは,配線基板(例えば,リードフレームなど)にボンディングされた後,モールディング工程などが行われる。現在,上記のようなダイボンディング工程後には,高温で行われる前硬化(Pre-cure)工程が必ず実施されているが,その理由は,半導体チップの配線基板からの剥離,追加的なチップの積層時に下部チップの押され現象,モールディング工程でモールド樹脂の流れによるチップの集まりなどの不良を防止するためである。しかし,上記のような前硬化工程を行う場合,接着剤硬化が進行され,後工程で半導体基板に対する埋め込み性が低下し,前硬化工程中の熱に起因してウェーハまたは基板の反りなどが発生し,ワイヤボンディング時にバウンシング(Bouncing)不良などを引き起こすことができるので,半導体パッケージ信頼性が大きく低下することができる。」

・【0099】の【表1】,及び,【0105】の【表2】から,実施例1ないし実施例4として示される,基材フィルムの厚さ(A)が,80?90μm,粘着層の厚さ(B)が20?30μm,接着層の厚さ(C)が,10?60μmであり,かつ,B/Aが0.222?0.375,B/Cが0.5?3であるダイアタッチフィルムは,「バー発生個数」,「チッピング発生個数」,「ピックアップ性」に優れ,これに対して,比較例1ないし比較例3として示される,基材フィルムの厚さ(A)が,70μm,100μm,粘着層の厚さ(B)が10μm,40μm,接着層の厚さ(C)が,5μm,20μmであり,かつ,B/Aが0.1,0.571,B/Cが0.5,2,8であるダイアタッチフィルムは,「バー発生個数」,「チッピング発生個数」,「ピックアップ性」のいずれか,あるいは全てにおいて劣っていることが読み取れる。

そうすると,以上の記載から,本願の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されていると理解できる。

・パターンを汚染するバーの発生を低減するために,フィルムの物性または工程条件のようなパラメータを変更させるという従来の技術は,後工程であるダイボンディング工程でエキスパンディング性が劣化するか,またはチップが容易にピックアップされない問題が発生し,あるいは,チップがピックアップされるとしても,ダイボンディング時にポジションエラーが発生するか,または不十分なダイシングに起因してダイの上部でチッピングが発生する問題があった。
さらに,半導体チップの配線基板からの剥離,追加的なチップの積層時に下部チップの押され現象,モールディング工程でモールド樹脂の流れによるチップの集まりなどの不良を防止するために前硬化工程を行うと,接着剤硬化が進行され,後工程で半導体基板に対する埋め込み性が低下し,前硬化工程中の熱に起因してウェーハまたは基板の反りなどが発生し,ワイヤボンディング時にバウンシング(Bouncing)不良などを引き起こし,半導体パッケージ信頼性が大きく低下する。

・実施例1ないし実施例4には,所定の組成を有する材料によって製造された,基材フィルムの厚さ(A)が,80?90μm,粘着層の厚さ(B)が20?30μm,接着層の厚さ(C)が,10?60μmの範囲に含まれ,かつ,B/Aが0.222?0.375,B/Cが0.5?3であるダイアタッチフィルムが示され,これらのダイアタッチフィルムでは,「バー発生個数」,「チッピング発生個数」,「ピックアップ性」という評価において,同時に良好な結果を得ることができる。

一方,請求項1に記載された発明(以下「本願発明1」という。)は,基材フィルムの厚さ(A),粘着層の厚さ(B),接着層の厚さ(C)の比を特定するが,それぞれの厚さの絶対値は特定しない発明である。
そうすると,A,B及びCの比が特定の条件を満たす限りにおいて,本願発明1は,粘着層の厚さ(B),及び,接着層の厚さ(C)として,どのように厚いものも,あるいは,薄いものをも含むものと解される。

しかしながら,例えば,ダイシング工程時に生じるウェーハ損傷によるチッピングが,ウェーハの固定の状態,すなわち,粘着層の厚さ等の条件によって影響を受けることは,例えば,以下の周知例の記載からも明らかなように,当業者にとって周知の事項である。

・周知例:特開2004-35841号公報(拒絶理由通知書で引用した文献1)
「【0038】・・・粘着層は0.1?50μmが好ましい。0.1μmより小さいとダイシング時の粘着力が十分でなくなる傾向があり,50μmより厚いとダイシング時に半導体素子が傷つき易くなる傾向がある。・・・」

すなわち,粘着層の厚さ(B),及び,接着層の厚さ(C)が,厚すぎる場合には,ダイシング工程時に,ウェーハを所定の位置に十分に保持することができず,ふらつくウェーハをダイシングすることとなり,ウェーハが損傷してチッピングを生じることは明らかといえる。

そうすると,請求項1で特定される,B/A,B/Cの条件を満たす限りにおいて,本願発明が,発明の詳細な説明に記載された課題を解決することができるとは,発明の詳細な説明の記載,及び,技術常識からは認めるとはできない。

さらに,請求項1では,B/Aの値は,「0.15?0.5」と規定されているが,発明の詳細な説明には,B/Aが0.222?0.375である場合に,所定の効果を奏することが実施例において示されているだけであって,B/Aの値が,0.15?0.222,及び,0.375?0.5の場合に,所定の効果を奏するか明らかとはいえない。

すなわち,発明の詳細な説明の記載,及び,技術常識を勘案しても,発明の詳細な説明に記載された,「基材フィルムの厚さ(A)が,80?90μm,粘着層の厚さ(B)が20?30μm,接着層の厚さ(C)が,10?60μmの範囲に含まれ,かつ,B/Aが0.222?0.375,B/Cが0.5?3である」という組合せを超えて,請求項1に記載された,各層の厚さを何ら特定しない範囲にまで発明の詳細な説明に開示された発明の効果が奏されるとは認めることはできない。

してみれば,出願時の技術常識照らしても,請求項1に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
また,請求項2?18に係る発明についても同様といえる。
したがって,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるという要件を満たすものとは認められない。

(2)第36条第4項第1号(委任省令違反)について
特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない(特許法施行規則第24条の2)ところ,本願の発明の詳細な説明の記載からは,発明の課題の解決手段を理解することができないから,本願の発明の詳細な説明の記載は,委任省令要件違反に該当する。
すなわち,本願発明は,発明特定事項に,B/Aの値が0.15?0.5,B/Cの値が0.5?5という数式を含み,かつ,前記A,B,Cの厚さは,前述した厚さの関係を満たす限り,特に限定されるものではない(明細書【0019】,【0033】,【0066】)とするものである。
しかしながら,上記(1)で検討したように,B/Aの値が0.15?0.5,B/Cの値が0.5?5という数式を満たす限り,A,B,Cの厚さが,無限定に厚くても,あるいは,薄くても,発明の課題を解決することができるとは,直ちには理解することができない。
そして,発明の詳細な説明には,当該理解を助ける説明も,あるいは,広範な厚さの範囲において行われた具体的な実施例も開示されていない。
したがって,当業者は,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいても,発明の課題と,前記数式を満たす限り厚さを限定しなくとも課題を解決することができるとする特定との実質的な関係を理解することができず,発明の課題の解決手段を理解することができない。
したがって,発明の技術上の意義が不明であるから,本願の発明の詳細な説明の記載は委任省令要件違反に該当する。

2 当審拒絶理由の判断
(1)平成28年12月2日に提出された手続補正書によって,請求項1は,補正前の「上記基材フィルムの厚さをA,粘着部の厚さをB,そして接着部の厚さをCとするとき,B/Aの値が0.15?0.5であり,B/Cの値が0.5?3である」が,補正後の「基材フィルムの厚さ(A)が80?90μm,粘着部の厚さ(B)が20?30μm,接着部の厚さ(C)が10?60μmの範囲に含まれ,上記基材フィルムの厚さをA,粘着部の厚さをB,そして接着部の厚さをCとするとき,B/Aの値が0.222?0.375であり,B/Cの値が0.5?3である」に補正された。このことにより,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載したものとなった。
よって,当審拒絶理由(1)は解消した。

(2)平成28年12月2日に提出された手続補正書によって,請求項1は,補正前の「上記基材フィルムの厚さをA,粘着部の厚さをB,そして接着部の厚さをCとするとき,B/Aの値が0.15?0.5であり,B/Cの値が0.5?3である」が,補正後の「基材フィルムの厚さ(A)が80?90μm,粘着部の厚さ(B)が20?30μm,接着部の厚さ(C)が10?60μmの範囲に含まれ,上記基材フィルムの厚さをA,粘着部の厚さをB,そして接着部の厚さをCとするとき,B/Aの値が0.222?0.375であり,B/Cの値が0.5?3である」に補正された。このことにより,発明の技術上の意義が明確となった。
よって,当審拒絶理由(2)は解消した。

(3)小括
したがって,もはや,当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-29 
出願番号 特願2012-534084(P2012-534084)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 和樹水野 浩之田代 吉成  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 鈴木 匡明
加藤 浩一
発明の名称 ダイアタッチフィルム  
代理人 渡部 崇  
代理人 実広 信哉  

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