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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1326350
審判番号 不服2016-11722  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-04 
確定日 2017-04-04 
事件の表示 特願2013-134191「遮蔽電気ケーブルに関するコネクタ配置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 9日出願公開、特開2013-247117、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年12月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年8月31日 米国)を国際出願日とする出願である特願2013-503733号の一部を、平成25年6月26日に新たな特許出願としたものであって、平成26年6月5日付けで拒絶理由が通知され、同年12月10日付けで手続補正がなされ、平成27年8月31日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月8日付けで意見書が提出されたが、同年3月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の理由の概要

原査定(平成28年3月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)について

・請求項 1
・引用文献等 1乃至4
・備考

引用文献1(特に、第7乃至9図の記載を参照)に開示された周知のテープ状電線では、本願でいうところの「緩やかな移行」部分を有するか否かが(図がつぶれていて)不明瞭である。

しかしながら、
・引用文献2(特に、Fig.1を参照)には本願の「移行部分」に対応する構成は開示されていること(そもそも、「移行部分」を伴わずにフィルムを曲げることそれ自体が困難であることから、引用文献1においても引用文献2と同様に(どの程度の緩やかさかはさておくとして)「移行部分」を備えざるを得ないことは自明であること)、
・そして、「移行部分」をどの程度の緩やかさとするかそれ自体は、フィルムの屈曲性などに基づいて決定されるような、当業者が適宜なし得る設計的事項であること、
の2点を鑑みれば、本願発明の如く「移行部分」を「前記絶縁導体の直径未満である横方向長さを有する」か否かそれ自体は、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
(そもそも、本願明細書には、カバー部分の曲率半径に関して、本願発明のような具体的な数値範囲を設定することの技術的有意性について開示がない。そのため、当該数値範囲を超えるとどのような不具合が生じるのかすら定かでない。)

また、第1の導体セットと第2の導体セットとをどれだけ離すかは、クロストークの問題(導体に流す電流の大きさや周波数に依存するものの一般的には離れているほうが好ましい。)、ケーブルの大きさの問題(コンパクト化したい場合は離れていないほうが好ましい。)、ケーブルを接続するコネクタの問題(コネクタピッチに合わせたほうがスキューが小さくなる。)など、ケーブルの適用先によって決められるような当業者が適宜なし得る設計的事項である。
(本願発明では、導体に流す電流の大きさや周波数などの条件すら定かになっていないのに、本願発明のような規定をしたところで技術的有意性はない。)

ケーブルの構成例として、引用文献3(特に、段落【0024】乃至【0030】、【図2】、【図3】を参照)、引用文献4(特に、第4頁最終行から第5頁第9行の記載を参照)を提示する。


出願人は、意見書において、
「本発明者らは、鋭意研究の結果、「R1/r1は、2?15の範囲である」ときに、ケーブルが曲げられているときと同じくケーブルが曲がっていないときにおける、全体的な電気的性能とケーブルの密度を最適にすることができる事を見出しました。
まず、本発明者らは、移行部分を(緩やかでない)シャープな形状とした場合、ケーブルの全長にわたって形状を維持することが難しく、ケーブル長さ方向に沿ってサイズが実質的に変化してしまい、挿入損失などの電気的性能の許容できない変化に繋がることを発見いたしました。
一方、移行部分が緩やか過ぎる場合、ケーブルの密度が減少し、これによって高速で高密度のアプリケーションには適さないケーブルとなってしまいます。
従って、本発明者らは、「R1/r1は、2?15の範囲である」という条件を満たすように移行部分を緩やかにすることによって、電気的性能及び機械的性能を最適なものとすることを見出しました。すなわち、「R1/r1は、2?15の範囲である」という条件を採用することで、(a)ケーブルの密度を最適にすることができ、(b)ケーブルが曲がっていない時における、ケーブルの長さ方向にわたる電気的性能を一定にすることができ、(c)ケーブルが曲がっている時における、電気的性能及び機械的性能を低下させない、という効果を得ることが出来ます。」
と主張している。

しかしながら、本願明細書には、
「【0125】
折り曲げられない平面構成では、同心部分及び移行部分を含む、遮蔽フィルム1808は、図13aに示す、同心部分の曲率半径R1、及び/又は移行部分の曲率半径r1によって特徴付けることができる。一部の実施形態では、R1/r1は、2?15の範囲である。」
「【0306】
折り曲げられない平面構成では、同心部分及び移行部分を含む、遮蔽フィルムは、同心部分の曲率半径R1、及び/又は移行部分の曲率半径r1によって特徴付けることができる。これらのパラメータは、ケーブル20902に関する図36cに示される。例示的実施形態では、R1/r1は、2?15の範囲である。」
程度の説明しかなく、本出願人の主張は、本願明細書等に基づくものではないので採用しない。

<引用文献等一覧>
1.特開昭61-292814号公報
2.米国特許第04611656号明細書
3.特開2006-286480号公報
4.実願昭60-076507号(実開昭61-194218号)のマイクロフィルム


第3 本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成26年12月10日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
遮蔽電気リボンケーブルであって、
前記ケーブルに沿って縦方向に延在し、かつ前記ケーブルの幅方向に沿って互いに離間する、複数の導体セットであって、各導体セットが、1つ以上の絶縁導体を含み、前記導体セットは、第2導体セットに隣接する第1導体セットを含む、複数の導体セットと、
前記ケーブルの厚さ方向に対向する側に配置される第1及び第2の遮蔽フィルムであって、前記第1及び第2のフィルムは、カバー部分及び挟まれた部分を含み、前記カバー部分は同心部分及び移行部分を含み、横断面で、前記第1及び第2のフィルムの前記カバー部分が組み合わされて、各導体セットを実質的に包囲し、前記第1及び第2のフィルムの前記挟まれた部分が組み合わされて、各導体セットの前記ケーブルの幅方向における両側に、前記ケーブルの挟まれた部分を形成するように配置構成され、前記同心部分が、各導体セットの前記1つ以上の端部絶縁導体と実質的に同心であり、前記移行部分が、前記同心部分と前記挟まれた部分との間に緩やかな移行を提供するように配置される、第1及び第2の遮蔽フィルムと、を含み、
前記ケーブルが平坦に配置される場合、前記第1導体セットの第1絶縁導体が、前記第2導体セットの直近にあり、前記第2導体セットの第2絶縁導体が、前記第1導体セットの直近にあり、前記第1及び第2の絶縁導体が、中心間の間隔Sを有し、
前記第1絶縁導体が、外法寸法D1を有し、前記第2絶縁導体が、外法寸法D2を有し、
S/Dminが、1.7?2の範囲であり、Dminが、D1及びD2のうちの小さい方であり、
2つの遮蔽フィルムの一方は、第1同心部分と第1挟まれた部分との間に緩やかな移行を提供する第1移行部分を含み、
前記第1同心部分は、曲率半径R1を有し、前記移行部分は、曲率半径r1を有し、R1/r1は、2?15の範囲である、遮蔽電気リボンケーブル。」


第4 引用発明

1.引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-292814号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の記載がある。(下線は当審において付加した。)


ア.「(実施例)
まずテープ状電線の完成品の構造を説明すると、第7図はダイヤル通信用の電話線として使用されるテープ状電線の断面図を示しており、この第7図において、芯線Cは複数本の導体1とこれを覆う絶縁被覆2からなっており、それらの芯線Cを2本ずつビニールシース3によりまとめて複数の芯線群(シースコア)1′を構成している。ビニールシース3は難燃性PVC系プラスチックである。各芯線群1′は互いに一定間隔を隔てて配列されており、上下2枚のラミネートテープ5、5′により挟持接着されている。テープ状電線Tには芯線収納凸部7と、ラミネートテープ5、5′同志が接着された凹状接着部8が形成されている。接着部8の中央部には芯線1と平行なミシン目Mが形成されている。ラミネートテープ5、5′は第8図に示すように外側にポリエステル層Pを備え、中間部に例えばアルミ層Aを備え、内側に接着剤層Bを備えている。」(2頁左下欄4行?同頁右下欄2行)


以上総合すると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

〈引用発明〉

「複数本の導体1とこれを覆う絶縁被覆2からなる芯線Cと、それらの芯線Cを2本ずつ難燃性PVC系プラスチックであるビニールシース3によりまとめて複数の芯線群(シースコア)1′を構成し、各該芯線群1′は互いに一定間隔を隔てて配列されており、上下2枚のラミネートテープ5、5′により挟持接着されたテープ状電線であって、
該テープ状電線Tには芯線収納凸部7と、ラミネートテープ5、5′同志が接着された凹状接着部8が形成され、接着部8の中央部には芯線1と平行なミシン目Mが形成され、
前記ラミネートテープ5、5′は外側にポリエステル層Pを備え、中間部に例えばアルミ層Aを備え、内側に接着剤層Bを備えた、
ダイヤル通信用の電話線として使用されるテープ状電線。」


第5 当審の判断

1.対比

本願発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。


ア.引用発明の「芯線C」は、「複数本の導体1とこれを覆う絶縁被覆2からなる」ものであるから、本願発明の「絶縁導体」に相当する。
また、引用発明の「芯線群(シースコア)1′」は、「芯線Cを2本ずつ難燃性PVC系プラスチックであるビニールシース3によりまとめて複数」あり、「互いに一定間隔を隔てて配列され」るものであり、そして、隣接する各「芯線群(シースコア)1′」を、「第1」、及び「第2」と呼ぶことは任意であるから、引用発明の「芯線群(シースコア)1′」は、本願発明の「ケーブルに沿って縦方向に延在し、かつ前記ケーブルの幅方向に沿って互いに離間する、複数の導体セットであって、各導体セットが、1つ以上の絶縁導体を含み、前記導体セットは、第2導体セットに隣接する第1導体セットを含む、複数の導体セット」に含まれる。

イ.引用発明の「上下2枚のラミネートテープ5、5′」は、「外側にポリエステル層Pを備え、中間部に例えばアルミ層Aを備え、内側に接着剤層Bを備えて」いることから、遮蔽フィルムと認められ、さらに、「芯線群(シースコア)1′」を、「上下」から「挟持接着」するものであるから、引用発明の「上下2枚のラミネートテープ5、5′」は、本願発明の「ケーブルの厚さ方向に対向する側に配置される第1及び第2の遮蔽フィルム」に相当する。

ウ.引用発明の「テープ状電線」は、「互いに一定間隔を隔てて配列」した「各該芯線群1′」を、「上下2枚のラミネートテープ5、5′により挟持接着」したものであって、「芯線収納凸部7と、ラミネートテープ5、5′同志が接着された凹状接着部8が形成され」ていることから、引用発明の「上下2枚のラミネートテープ5、5′」には、「芯線収納凸部7」に対応する、各「芯線群1′」を実質的に包囲する部分があり、さらに、「凹状接着部8」を形成する、前記実質的に包囲する部分間に挟まれ、互いに接着される部分があるものと認められる。
そして、引用発明の「上下2枚のラミネートテープ5、5′」の前記実質的に包囲する部分の「芯線C」と接着される部分は、「芯線C」と同心となっていることは明らかであり、さらに、該同心の部分となっている部分と前記互いに接着される部分の間には、当然、移行部分が存在し、該移行部分はどの程度かは不明であるが、緩やかなものと認められる。
してみれば、引用発明の「実質的に包囲する部分」が、本願発明の「カバー部分」に対応し、引用発明の「互いに接着される部分」が、本願発明の「挟まれた部分」に対応するから、引用発明の「上下2枚のラミネートテープ5、5′」は、本願発明の、「カバー部分及び挟まれた部分を含み、前記カバー部分は同心部分及び移行部分を含み、横断面で、前記第1及び第2のフィルムの前記カバー部分が組み合わされて、各導体セットを実質的に包囲し、前記第1及び第2のフィルムの前記挟まれた部分が組み合わされて、各導体セットの前記ケーブルの幅方向における両側に、前記ケーブルの挟まれた部分を形成するように配置構成され、前記同心部分が、各導体セットの前記1つ以上の端部絶縁導体と実質的に同心であり、前記移行部分が、前記同心部分と前記挟まれた部分との間に緩やかな移行を提供するように配置される、第1及び第2の遮蔽フィルム」に相当する。

エ.引用発明の「テープ状電線」は、本願発明の「遮蔽電気リボンケーブル」に相当する。

よって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致、ないし相違している。

(一致点)

「遮蔽電気リボンケーブルであって、
前記ケーブルに沿って縦方向に延在し、かつ前記ケーブルの幅方向に沿って互いに離間する、複数の導体セットであって、各導体セットが、1つ以上の絶縁導体を含み、前記導体セットは、第2導体セットに隣接する第1導体セットを含む、複数の導体セットと、
前記ケーブルの厚さ方向に対向する側に配置される第1及び第2の遮蔽フィルムであって、前記第1及び第2のフィルムは、カバー部分及び挟まれた部分を含み、前記カバー部分は同心部分及び移行部分を含み、横断面で、前記第1及び第2のフィルムの前記カバー部分が組み合わされて、各導体セットを実質的に包囲し、前記第1及び第2のフィルムの前記挟まれた部分が組み合わされて、各導体セットの前記ケーブルの幅方向における両側に、前記ケーブルの挟まれた部分を形成するように配置構成され、前記同心部分が、各導体セットの前記1つ以上の端部絶縁導体と実質的に同心であり、前記移行部分が、前記同心部分と前記挟まれた部分との間に緩やかな移行を提供するように配置される、第1及び第2の遮蔽フィルムと、を含む、
遮蔽電気リボンケーブル。」

(相違点1)
本願発明では、「前記ケーブルが平坦に配置される場合、前記第1導体セットの第1絶縁導体が、前記第2導体セットの直近にあり、前記第2導体セットの第2絶縁導体が、前記第1導体セットの直近にあり、前記第1及び第2の絶縁導体が、中心間の間隔Sを有し、前記第1絶縁導体が、外法寸法D1を有し、前記第2絶縁導体が、外法寸法D2を有し、S/Dminが、1.7?2の範囲であり、Dminが、D1及びD2のうちの小さい方であ」るのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。

(相違点2)
本願発明では、「2つの遮蔽フィルムの一方は、第1同心部分と第1挟まれた部分との間に緩やかな移行を提供する第1移行部分を含み、
前記第1同心部分は、曲率半径R1を有し、前記移行部分は、曲率半径r1を有し、R1/r1は、2?15の範囲である」のに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。


2.相違点についての判断

下のア.?ウ.に示す理由で、引用発明において上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者といえども容易に推考し得たこととはいえない。

ア.引用発明を開示する引用例1には、引用発明において上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することについての記載も、それを示唆する記載もない。

イ.また、拒絶の理由で引用したの他の引用例においても、上記相違点2についての記載はされていない。
そして、本願発明は上記相違点2の構成を有することによって、(a)ケーブルの密度を最適にすることができ、(b)ケーブルが曲がっていない時における、ケーブルの長さ方向にわたる電気的性能を一定にすることができ、(c)ケーブルが曲がっている時における、電気的性能及び機械的性能を低下させない、という効果(本願の明細書段落【0113】?【0114】等参照。)を有するものである。

ウ.ほかに引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することが当業者にとって容易であったといえる根拠は見当たらない。

したがって、その他の点について判断するまでもなく、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、いずれも、当業者が引用発明に基づいて容易に発明することができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-22 
出願番号 特願2013-134191(P2013-134191)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 山田 正文
山澤 宏
発明の名称 遮蔽電気ケーブルに関するコネクタ配置  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 柳 康樹  
代理人 阿部 寛  

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