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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1326596
審判番号 不服2014-15527  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-06 
確定日 2017-03-30 
事件の表示 特願2012-535589「3-(置換ジヒドロイソインドール-2-イル)-2,6-ピペリジンジオン多結晶体及び薬用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年5月5日国際公開、WO2011/050590、平成25年3月14日国内公表、特表2013-509357〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2010年11月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年11月2日(CN)中国)を国際出願日とする出願であって、平成25年12月13日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月4日付けで拒絶査定がされ、同年8月6日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年8月6日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年8月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成26年8月6日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1である
「3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン半水和物の多結晶体Iであって、
Cu-Ka放射線を使用し、そのX線回折図は、強度で示される2θが11.9±0.2、15.6±0.2、22.5±0.2、23.8±0.2、26.4±0.2、27.5±0.2、29.1±0.2及び22.0±0.2において回折ピックを有する、多結晶体I。」
を、補正後に
「Cu-Ka放射を使用したX線回析図が下記の回析ピークを有する、3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン半水和物の多結晶体I。


とする補正を含んでいる。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否
この補正は、請求項1に係る発明について、Cu-Ka放射を使用したX線回析図における回折ピークに関し、補正前は「2θが11.9±0.2、15.6±0.2、22.5±0.2、23.8±0.2、26.4±0.2、27.5±0.2、29.1±0.2及び22.0±0.2において回折ピックを有する」と8個の2θの数値範囲で特定されていたものを、補正後は、「下記の回折ピークを有する」として表を示し、2θの数値として11.940、13.020、13.780、15.620、17.960、19.080、19.480、20.580、21.980、22.520、23.760、24.400、26.440、27.520、29.060、30.980、32.000、33.040、34.440の19個を挙げるとともに、その2θの数値毎にFlex幅、d値、強度及びL/L0 により特定するものである。ここで、補正後の2θの数値のうちの、11.940、15.620、22.520、23.760、26.440、27.520、29.060、21.980の8個は、それぞれ、補正前の2θの数値範囲である「11.9±0.2、15.6±0.2、22.5±0.2、23.8±0.2、26.4±0.2、27.5±0.2、29.1±0.2及び22.0±0.2」の8個に該当し、より限定されたものである。また、2θの数値を11個追加することと、2θの数値毎にFlex幅、d-値(以下「d値」という。)、強度及びL/L0 を特定することにより、X線回折図における回折ピークの特徴が、より限定される。
そうすると、上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するための事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)そこで、上記補正後の請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

ア 本願補正発明の認定について
本願補正発明は、上記1に示したとおりである。
ただし、本願補正発明の「Cu-Ka放射」の「Ka」は、特性X線を表す通常の用語に従い「K_(α)」を意味するものと認める。また、以下(i)及び(ii)に示す理由により、本願補正発明の「3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン」の「1-オキシ」は「1-オキソ」を意味し、「多結晶体I」は「結晶多形のうちIと称する結晶」を意味するものと認める。

(i)「1-オキシ」は、化合物命名法からみて不合理である他、この出願の明細書(以下「本願補正明細書」という。本件補正により段落【0013】、【0015】、【0016】、【0017】、【0024】、【0026】、【0027】、【0028】、【0034】、【0036】、【0037】、【0038】、【0049】、【0136】、【0137】において「ピック」を「ピーク」とする補正がされている。)の段落【0004】に「中国特許出願文献CN1871003A(開示番号)において3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンの8種の多結晶体及びその調製方法を説明し」と、本願補正発明の化合物と同じ化合物名が記載され、中国特許文献が提示されているところ、そのパテントファミリーに相当する特表2007-504248号公報(決定注:原審における引用文献1である。)には、「本発明は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの多形相を含むものである。特定の態様において、本発明は、本明細書中で形体A,B,C,D,E,F,G,及びHとして規定した化合物の多形体を提供する。」(段落【0006】)、「本発明は、下記構造を有する3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの多形相に対応する。

」(段落【0013】?【0014】)、と記載されている。
したがって、「1-オキシ」は「1-オキソ」を意味すると解するのが合理的である。
この理解は、この出願の外国語出願明細書には「3-(4-amino-l-oxo-l,3-dihydro-2H-isoindole-2-yl)-piperidine-2,6-dione」と記載されていることとも整合する。

(ii)「多結晶体」は、日本語における通常の用法では、多結晶の物体、すなわち、複数の微結晶から構成されていて結晶粒界を有している物体を意味するが、本願補正明細書には、その意味の多結晶体は記載されていない。上記(i)でも指摘した本願補正明細書の段落【0004】に提示された文献は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの結晶多形について記載した文献である。本願補正明細書には、「多結晶体I」、「多結晶体II」及び「多結晶体III」についての記載があるが、その内容は、それぞれ、3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン(決定注:正しくは3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン)の結晶多形のうちIと称する結晶、IIと称する結晶及びIIIと称する結晶について記載するものである。
したがって、「多結晶体I」は「結晶多形のうちIと称する結晶」を意味すると解するのが合理的である。
この理解は、この出願の外国語出願明細書には「a polymorph I」と記載されていることとも整合する。

イ 特許法第29条第1項第3号についての検討

(ア)刊行物
刊行物1:特表2007-504248号公報(原審における引用文献1)
刊行物2:第十五改正 日本薬局方,平成18年3月31日,p.57-58
刊行物2は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

(イ)刊行物の記載事項

a 刊行物1
(1a)「【0003】(2.本発明の背景)
多くの化合物は、異なる結晶性形体、又は多形体が存在し得る。これらは、異なる物理的、化学的、及び分光学的特性を示す。例えば、化合物の特定の多形体は、他のものよりも、特定の溶媒に容易に溶解することができ、容易に流動することができ、又は容易に圧縮することができる。例えば、P. DiMartinoらの論文,J. Thermal Anal.,48:447- 458 (1997)を参照されたい。薬剤の場合において、特定の固体形体は、他のものよりも生物的に利用可能であり得る。しかし、他のものの方が、特定の製造、貯蔵、及び生物学的状態下で安定であり得る。これは、規制の観点から特に重要なことである。なぜならば、薬剤は、厳格な純度や特徴付け基準を満たす場合に限り、米国食品医薬品局などの機関から認可されるためである。実際、特定の溶解性、及び物理化学的(分光学的を含む)特性を示す化合物の一多形体の該規制認可は、一般的に、その同一化合物の他の多形体を即時に認可するという意味ではない。
【0004】化合物の多形相が、該化合物の溶解性、安定性、流動性、取扱い性、及び圧縮性、並びに、それを含む薬剤の安全性、及び有効性などに影響を及ぼすことは、医薬技術において公知である。例えば、Knapman,K. Moderns Drug Discoveries,2000,53を参照されたい。従って、薬剤の新しい多形体の発見は、様々な利点を提供し得る。」
(1b)「【0004】・・・・・・・・・・・・
Mullerらの米国特許第5,635,517、及び6,281,230号の両文献は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンを開示しており、これは、制限されないが炎症性疾患,自己免疫疾患,及び癌を含む広範囲の疾患及び状態の治療、及び予防に有用である。3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの新しい多形相は、これらの慢性疾患の治療用製剤の開発を助長することができ、かつ多くの製剤、製造、及び治療的利点を与え得る。」
(1c)「【0006】(3.発明の要旨)
本発明は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの多形相を含むものである。特定の態様において、本発明は、本明細書中で形体A,B,C,D,E,F,G,及びHとして規定した化合物の多形体を提供する。また、本発明は、これらの形体の混合物を含むものである。さらなる実施態様において、本発明は、該多形体の製造、単離、及び特性付け方法を提供する。」
(1d)「【0008】本明細書中で使用される該用語“多形体”、及び“多形相”は、他に表示がない限り、化合物、又は複合体の固体結晶性形体を意味する。同一化合物の異なる多形体は、異なる物理的、化学的、及び/又は分光学的特性を示し得る。異なる物理的特性は、制限されないが、安定性(例えば、熱、又は光)、圧縮性、及び密度(製剤、及び製品の製造に重要)、並びに溶解割合(これは、生物学的利用能に影響を与える。)がある。
【0009】安定性の違いは、化学的反応性(例えば、投与形態が、1つの多形体を含む場合、他の多形体を含む場合よりも容易に変色するような、異なる酸化)、又は機械的特性(例えば、貯蔵において、速度論的に有利な多形体が、熱力学的に安定な多形体に変換するように、錠剤を砕く。)、若しくは、両方(例えば、1つの多形体の錠剤は、高湿度で分解されやすい。)の変化から生じ得る。多形体の異なる物理的特性は、これらの加工に影響を与え得る。例えば、1つの多形体は、例えば、その粒子の形、又はサイズ分布のために他のものよりも、溶媒和をさらに形成するようであり得る、又は不純物が存在しない濾過又は洗浄が困難になり得る。」
(1e)「【0010】分子の多形体を、当業者に公知の多くの方法により得ることができる。前記方法は、制限されないが、融解再結晶化、融解冷却、溶媒再結晶化、脱溶媒和、迅速なエバポレーション、急冷、徐冷、蒸気拡散、及び昇華がある。制限されないが、下記のような周知技術により、多形体を検出、同定、分類、及び特徴付けすることができる:示差走査熱量分析(DSC)、熱重量分析(TGA)、X線粉末回折法(XRPD)、単結晶X線回折法、振動分光法、溶液カロリメトリー、固体核磁気共鳴(NMR)、赤外線(IR)分光法、ラマン分光法、高温光学顕微鏡法(hot stage optical microscopy)、走査電子顕微鏡法(SEM)、電子結晶学及び定量分析、粒径分析(PSA)、表面積分析、溶解度、及び溶解割合である。」
(1f)「【0013】(5.2 多形相)
本発明は、下記構造を有する3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの多形相に対応する。
【0014】


(1g)「【0016】3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの多形体を、溶媒再結晶化、脱溶媒和、蒸気拡散、迅速なエバポレーション、急冷、及び徐冷を含む、当業者に公知の技術により得ることができる。多形体は、秤量した多量の3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンを、高温で、様々な溶媒に溶解することにより製造され得る。次に、該化合物の溶液を、濾過し、かつ開口バイアル中(高速高温エバポレーションのために)で、又は小さい穴を持つアルミホイルで覆ったバイアル中(高温でゆっくりとエバポレーション)でエバポレートすることができる。また、多形体を、懸濁液から得ることができる。幾つかの方法を用いて、多形体を、溶液、又は懸濁液から結晶化することができる。例えば、高温(例えば60℃)の溶液を素早く濾過し、次いで、室温に冷却することができる。室温にしてすぐに、結晶化していない該試料を、冷蔵庫に移し、次いで濾過することができる。または、温度上昇(例えば45?65℃)で、溶媒中の該固体の溶解、次いで乾燥氷/溶媒浴槽での冷却により、冷却したクラッシュ(crash)とすることができる。」
(1h)「【0017】本発明の一実施態様は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体Aを含む。形体Aは、溶媒和されておらず、非-水溶媒系から得ることができる結晶物質である。本発明の他の実施態様は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体Bを含む。形体Bは、半水和されており、様々な溶媒系から得ることができる結晶物質である。本発明の他の実施態様は、3-(4-アミノ 1-オキソ-1,3ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体Cを含む。形体Cは、半溶媒和されており、制限されないが、アセトンなどの溶媒から得ることができる結晶物質である。本発明の他の実施態様は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体Dを含む。形体Dは、結晶性であり、アセトニトリルと水との混合液から調製される溶媒和多形体である。本発明の他の実施態様は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体Eを含む。形体Eは、二水和物の結晶物質である。本発明の他の実施態様は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体Fを含む。形体Fは、溶媒和されておらず、形体Eの脱水により得ることができる結晶物質である。本発明の他の実施態様は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体Gを含む。形体Gは、溶媒和されておらず、形体B、及びEを、制限されないがテトラヒドロフラン(THF)のような溶媒中に懸濁化することにより得ることができる結晶物質である。本発明の他の実施態様は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体Hを含む。形体Hは、形体Eを相対湿度0%に曝すことにより得ることができる、部分的に水和した結晶物質である。これらの形体の各々は、下記で詳細に議論される。」
(1i)「【0019】(5.2.1 形体A)
・・・・・・・・・・・・・・・
形体Aを、制限されないが1-ブタノール,酢酸ブチル,エタノール,酢酸エチル,メタノール,メチル エチル ケトン,及びTHFを含む様々な溶媒から得ることができる。図1に、形体Aの典型的なXRPDパターンを示す。・・・
【0020】形体Aの典型的な熱的特性を、図4に示す。・・・
【0021】相互変換研究は、形体Aを、水溶媒系で形体Bに変換することができ・・・ることを示している。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
要約すると、形体Aは、結晶性であり、約270℃で融解する、溶媒和されていない固体である。形体Aは、わずかに吸湿性を示すか、又は全く示さず、かつ今までに発見された3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンにおいて、最も熱力学的に安定な無水多形体である。」
(1j)「【0022】(5.2.2 形体B)
形体Bを、制限されないがヘキサン, トルエン, 及び水を含む多くの溶媒から得ることができる。図6は、約16,18,22,及び27度(2θ)にあるピークにより特徴付けられる、形体Bの典型的なXRPDパターンを示す。
溶液プロトンNMRにより、形体Bが3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの形体であることを確認している。典型的なIR、及びラマンスペクトルを、それぞれ図7、及び図8に示す。・・・
【0023】形体Bの典型的なDSC、及びTGAデータを図9に示す。該DSC曲線は、約146℃、及び268℃で吸熱を示す。これらのことは、高温顕微鏡法実験により、脱水、及び融解として同定される。通常、形体Bは、約175℃に至るまで、約3.1%の揮発分を損失する(水、約0.46モルあたり)。該揮発分と水とのIRスペクトル比較は、これが水であることを示している(図10参照)。TGAデータからの計算は、形体Bが半水和物であることを示す。また、カールフィッシャー水分析も、この結論をサポートしている。
【0024】典型的な水分吸着、及び脱着データを、図11に示す。通常、形体Bは、各相対湿度の各段階で平衡に達する場合、相対湿度5%?95%において、有意な重量増加を示さない。形体Bを、相対湿度95%から5%に下げて乾燥させると、通常、相対湿度5%での該形体は、開始から終了までに約0.0022重量%(約0.003mg)の増加があるだけであり、その重量を維持する傾向にある。形体Bは、約10日間、相対湿度約84%に曝されても、異なる形体に変換されない。
【0025】相互変換研究は、形体Bが、通常、THF溶媒系で形体Aに変換され、かつ通常、アセトン溶媒系で形体Cに変換されることを示している。純水、及び10%水溶液のような水溶媒系において、形体Bは、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの最も安定な多形相である。しかし、水の存在下で、形体Eに変換され得る。脱溶媒和実験は、約5分間、約175℃に加熱すると、通常、形体Bは、形体Aに変換されることを示している。
2つの異なる温度/相対湿度のストレス条件下(室温/0% RH、及び40℃/93% RH)に、約85日間保存した場合、形体Bは、異なる形体に変換されない。
要約すると、形体Bは、半水和されており、約267℃で融解する結晶性固体である。相互変換研究は、形体Bが、水溶媒系において、形体Eに変換され、かつアセトン、及び他の無水系において、他の形体に変換されることを示している。」
(1k)「【0026】(5.2.3 形体C)
形体Cを、アセトン溶媒系のエバポレーション、懸濁液、及び徐冷から得ることができる。この形体の典型的なXRPDパターンを、図12に示す。・・・
【0027】形体Cの典型的な熱的特性を、図15にプロットする。・・・
【0028】・・・形体Cは、約10日間、相対湿度84%で保存した場合、形体Bに変換され得る。
【0029】・・・要約すると、形体Cは、結晶性であり、約269℃で溶解する半溶媒和固体である。形体Cは、約85% RH以下では水を含まないが、高相対湿度で、形体Bに変換され得る。」
(1L)「【0030】(5.2.4 形体D)
形体Dを、アセトニトリル溶媒系のエバポレーションから得ることができる。該形体の典型的なXRPDパターンを、図18に示す。・・・
【0031】形体Dの典型的な熱的特性を、図21にプロットする。・・・
【0032】・・・・・・・・・・・・
要約すると、形体Dは、水とアセトにトリルとで溶媒和されている結晶性固体であり、約270℃で溶解する。形体Dは、わずかに吸湿性を示すか、又は示さない。しかし、通常、高相対湿度でストレスを加えた場合、形体Bに変換されるであろう。」
(1m)「【0033】(5.2.5 形体E)
形体Eは、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンを水に懸濁化し、かつアセトン:水の比が9:1の溶媒系中の3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンをゆっくりとエバポレーションすることにより得られ得る。典型的なXRPDパターンを、図23に示す。・・・
【0034】形体Eの典型的な熱的特性を、図24にプロットする。・・・形体Eは・・・約10.58%の揮発分を損失しており、溶媒和物質で・・・カールフィッシャー、及びTG-IR実験は、形体Eの該揮発分の重量損失が、水のためであるという結論をサポートしている。・・・約269℃での吸熱は・・・融解に起因する。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0036】・・・水溶媒系で、形体Eは、最も安定な形体になるようである。形体Eに対して行った脱溶媒和実験は、約5分間、約125℃に加熱した時に、形体Eが、形体Bに変換され得るであろうことを示している・・・ 」
(1n)「【0037】(5.2.6 形体F)
形体Fを、形体Eの完全脱水により得ることができる。図26に示した、形体Fの典型的なXRPDパターンは・・・特徴付けられる。
形体Aの典型的な熱的特性を、図27に示す。・・・約269℃で吸熱を示しており・・・DSCサーモグラムは・・・溶媒和していない物質であることを提案する。」
(1o)「【0038】(5.2.7 形体G)
THF中に形体B、及び形体Eを懸濁化することにより、形体Gを得ることができる。この形体の典型的なXRPDパターンを、図28に示す。・・・
形体Gの典型的な熱的特性を、図29にプロットする。・・・DSC曲線は・・・約248℃で吸熱を示し・・・溶媒和されていない物質であることを提案する。」
(1p)「【0039】(5.2.8 形体H)
形体Hは、形体Eを室温、及び0% RHで、約7日間保存することにより得られ得る。典型的なXRPDパターンを、図30に示す。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
要約すると、形体Hは、約0.25モルの水で水和した結晶性固体であり、約269℃で融解する。」
(1q)「【0040】(5.3 使用方法、及び医薬組成物)
本発明の多形体は、薬剤製造、保存、又は使用に有益な物理的特性を示す。本発明の全多形体は、医薬的有効成分、又はその中間体として有用である。
本発明は、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの多形体を用いた、多種多様の疾患、及び状態の治療、及び予防方法を含む。該方法の各々において、治療的、又は予防的有効量の該化合物を、前記治療、又は予防が必要である患者に投与する。前記疾患、及び状態の例を挙げると、制限されないが、好ましくない血管形成に関連した疾患、癌(例えば、固体、及び血管感染性腫瘍)、炎症性疾患、自己免疫疾患、及び免疫疾患がある。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
【0043】本発明は、治療、及び予防方法に使用され得る医薬組成物、及び単一ユニット投与形態を含み、これらは、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの1以上の多形体、及び任意に1以上の賦形剤、又は希釈剤を含む。・・・一実施態様において、単一の投与形態は、約5,10,25又は50mgの量の多形体(例えば、形体B)を含む。」
(1r)「【0044】(6. 実施例)
(6.1 多形体のスクリーニング)
3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの異なる固体形体を生成するために、多形体のスクリーニングを次のように行った。
3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの秤量済み試料(通常、約10mg)を、一定分量の該試験溶媒で処置した。溶媒は、試薬、又はHPLCグレードとした。該一定分量は、通常、約200μLとした。添加の間、通常、該混合物を、振盪するか、又は超音波処理した。該固体を、目視検査の判断で溶解した時、推定溶解度を計算した。溶液を提供するように使用した全溶媒に基づく、これらの実験から、溶解度を見積もった。実際の溶解度は、非常に大きな溶媒分量の使用、又は低速度の溶解のために、計算されたものよりも大きくなり得る。
【0045】高温で溶液(通常、20mL中に約30mg)を生成し、ろ過し、かつ該溶液を、開口バイアル中(高温高速エバポレーション)、又は小さい穴を持つアルミホイルで覆ったバイアル中(高温でゆっくりとエバポレーション)でエバポレートすることにより、試料を作成した。
また、懸濁液実験を行った。通常、約25mgの固体を、3、又は5mLの溶媒中に置いた。次に、該試料を、周囲温度、又は40℃で、4?10日間、オービタルシェイカー(orbital shakers)に置いた。
【0046】結晶化を、様々な冷却方法を用いて行った。固体を、高温で溶媒に溶解し(例えば、約60℃)、素早く濾過し、かつ室温に冷却した。室温にしてすぐに、結晶化していない試料を、冷蔵庫に移した。濾過、又はデカンテーションにより固体を除去し、かつ空気中で乾燥させた。上昇温度で、固体を溶媒に溶解することにより、集中的な冷却を行い、続いて、ドライアイス/アセトン浴槽で冷却した。
【0047】約1週間、相対湿度84%のチャンバー内で、各多形体の一部分を認識することにより、吸湿性研究を行った。
約1週間、各多形体を70℃オーブン内で加熱することにより、脱溶媒和研究を行った。
飽和溶媒中に2つの形体を含む懸濁液を作ることにより、相互変換実験を行った。該懸濁液を、約7?20日間、大気温度で撹拌した。濾過により、不溶性固体を回収し、かつXRPDを用いて分析した。」
(1s)「【0048】(6.2 多形相の調製)
3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6 ジオンの8つの固体形体を、下記のように調製した。
形体Aを、1-ブタノール,酢酸ブチル,エタノール,酢酸エチル,メタノール,メチル エチル ケトン,及びテトラヒドロフランを含む、様々な非-水溶媒から結晶化することにより得た。また、形体Bを、溶媒ヘキサン,トルエン,及び水から結晶化することにより得た。形体Cを、アセトン溶媒系のエバポレーション、懸濁液、及び徐冷から得た。形体Dを、アセトニトリル溶媒系のエバポレーションから得た。形体Eを、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンを水中で懸濁化することにより得た。形体Fを、形体Eの完全脱溶媒和により得た。これは、溶媒和されておらず、約269℃で融解する結晶性物質であることがわかった。形体Gを、形体B、及びEをTHF中で懸濁化することにより得た。形体Hを、形体Eを室温、及び0% RHで7日間、ストレスを加えることにより得た。」
(1t)「【0049】(6.2.1 多形体B、及びEの統合)
形体Bは、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの活性医薬成分(API)として所望される多形体である。この形体は、臨床研究用薬剤製品中に配合されるAPIの製剤において使用されている。3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの未微粉化APIの明白な多形体混合物として、3つの群を製造した。
【0050】この多形体混合物から多形体Bを生じ、かつ有効な一群における厳密な多形体制御、及び3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンのAPIの将来的製造を行うことができるプロセスを規定するために、開発研究を行った。該研究で製造された多形相の特徴付けを、XRPD,DSC,TGA,及びKFにより行った。
また、形体Eの大規模調製のためのプロセスを開発した。多形体E物質を、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6 ジオンのカプセル溶解試験において、多形体Bの薬剤製品と比較を行うために調製した。水3L中の多形体混合物150gを、室温で48時間撹拌した。該生成物を、濾過により回収し、かつ減圧下、25℃で24時間乾燥した。
【0051】予備研究において、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン多形体混合物の水懸濁液を、高温(75℃)で長期間撹拌することにより、この多形体混合物が、形体Bだけに変換されることを示した。温度、溶媒、堆積、及び乾燥パラメーター(温度、及び減圧)を含む、幾つかの特定のパラメーターを同定した。XRPD,DSC,TGA,KF,及びHPLC分析は、該群すべての特徴付けに使用した。該最適化研究の終了後、該最適化プロセスで、3つのAPIを100?200gにスケールアップした。乾燥研究を、20℃,30℃,及び40℃、並びにmmHgの減圧下65℃で行った。その結果を、表1?5に示す。
【0052】3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン懸濁液の冷却、及び保持期間を研究した。該実験室データは、多形体Bが初めに形成され、かつRT条件で、一定時間を超過して、多形体Eの方に平衡が生じることを示唆している。従って、形体B、及びEの混合物が生成される。この結果は、多形体Bが、動的生成物であるように見え、かつ長いプロセス時間が、該物質を形体Eに変換し、形体B、及びEの混合物を生じるという事実をサポートしている。
【0053】3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの多形体Bのみを生じるための実験室手順を開発した。該手順は、?75℃で、6?24時間撹拌した、10倍体積の水の懸濁液を含む。次の好ましいプロセスのパラメーターを同定している:
1.70?75℃の熱懸濁液温度
2.65?75℃での3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンの濾過物
3.3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン湿気固形物中の非結合性水の効率的除去のために、減圧下60?70℃で乾燥することが好ましい。
4.3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの濾過段階は、時間依存的操作であり得る。効率的な固液分離装置の使用が好ましい。
5.5%よりも高いKFでの3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン湿気固形物の保持期間は、多形体Bの動的平衡が、多形体E、及びBの混合多形体の方に傾き得る。
【0054】KF<4.0%水に乾燥することで、?3時間(30?70℃、152mmHg)を達成した。多形体B、及びEを、KF、及びTGAにより測定された水レベルにより識別した。多形体Bの参照試料は、APIを微粉化したものである。XRPDにより厳密な比較を行うために、試料を、分析にかける前に、穏やかに粉にした。これは、該多形体同定の明瞭性を上げる。すべての試料を、XRPD,DSC,TGA,KF,及びHPLCで分析した。
【0055】

【0056】

【0057】最適条件を、70?80℃で6?24時間、溶媒の10倍体積になるように決定した。
【0058】

【0059】保持時間は、混合物の結果を与えた。該物質を、60?65℃で濾過するべきであり、かつ該物質を、0.5倍体積の温水(50?60℃)で洗浄すべきであることが決定された。
【0060】

【0061】

【0062】乾燥研究により、該含水率が≦4%w/wになるまで、該物質を、125?152mmHg、3?22時間、35?40℃で乾燥するべきであることを判断した。
多形体E(5222-152-B)の大規模調製のために、5-L丸底フラスコに、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン(150g,0.579モル)、及び水(3000 mL,20倍体積)を加えた。該混合物を、窒素雰囲気下、室温(23?25℃)で48時間、機械的に撹拌した。
【0063】該混合物を濾過する前に、試料を、24、及び48時間後に取り出し、かつ該フィルター上で1時間、空気-乾燥した。該物質を、乾燥トレイに移し、かつ室温(23?25℃)で24時間乾燥した。該乾燥した物質のKF分析は、含水率11.9%を示した。該物質を、XRPD,TGA,DSC,及びHPLC分析にかけた。分析は、該物質が、純粋な多形体Eであることを示した。
【0064】多形体B(5274-104)の大規模調製のために、2Lの三つ口丸底フラスコに、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン(多形体混合物,100g,0.386モル)、及び水(1000mL,10.0倍体積)を加えた。該混合物を、窒素雰囲気下で機械的に撹拌するとともに、約30分にわたって、約75℃に加熱した。
【0065】該混合物を60?65℃に冷却する前に、試料を、6、及び24時間後に取り出し、濾過し、かつ該物質を、温水(50?60℃)(50mL、0.5倍体積)で洗浄した。該物質を、乾燥トレイに移し、かつ30℃、152mmHgで8時間乾燥した。該乾燥した物質のKF分析は、含水率3.6%を示した。該物質を粉砕後に、XRPD,TGA,DSC,及びHPLC分析にかけた。分析は、該物質が、純粋な多形体Bであることを示した。該物質の結果を、図32?46に示す。」
(1u)「【0066】(6.3 X-線粉末回折測定)
X-線粉末回折測定を、CuK_(α) 放射線を用いるシマズ XRD-6000 X-線粉末回折計(Shimadzu XRD-6000 X-ray powder diffractometer)で行った。該機器は、微小焦点X線管を備えている。該管電圧、及びアンペア数を、それぞれ、40kB、及び40mAに設定した。該発散、及び散乱スリットを、1°に設定し、かつ検出スリットを、0.15mmに設定した。回折される放射線を、NaIシンチレーション検出器により検出した。2.5度(2θ)?40度(2θ)まで、3°/分(0.4秒/0.02°ステップ)で、シータ-2シータ連続走査を使用した。ケイ素標準を、毎日分析し、該機器の調節をチェックした。
【0067】また、X-線粉末回折分析を、曲がり位置検出器を備えたInel XRG-3000回折計のCuKα放射線を用いて行った。分解能0.03°で、シータ-2シータ範囲120°にわたってリアルタイムにデータを収集した。該管電圧、及び電流を、それぞれ40kV、及び30mAとした。ケイ素標準を、毎日分析し、該機器の調節をチェックした。該図には、2.5?40度(2θ)の領域のみを示した。」
(1v)「【0068】(6.4 熱分析)
TG分析は、TA機器 TGA 2050、又は2950で行った。較正標準を、ニッケル、及びアルメルとした。試料約5mgを皿にのせ、正確に秤量し、かつ該TG炉に入れた。該試料を、窒素中、最終温度300、又は350℃まで、10℃/分の速度で加熱した。
DSCデータを、TA2920機器で得た。該較正標準を、インジウムとした。試料約2?5mgを、DSC皿にのせ、かつ該重量を正確に記録した。分析には、1つの穴を有する圧着皿を使用し、かつ該試料を、窒素雰囲気下、最終温度350℃まで、10℃/分の速度で加熱した。」
(1w)「

」(28頁、図6)
(1x)「

」(29頁、図9)
(1y)「



」(35頁、図32?図34)
(1z)「

」(37頁、図42?図44)

b 刊行物2
(2a)「2.58 粉末X線回折測定法
粉末X線回折測定法は,原則として無配向化した粉末試料にX線を照射し,その物質中の電子を強制振動させることにより生じる干渉性散乱X線による回折強度を,各回折角について測定する方法である.結晶性物質のX線回折パターンは各化合物の各結晶形に固有かつ特徴的である.したがって,本測定法は結晶,結晶多形及び溶媒和結晶の同定,判定又は定量,結晶性の定性的評価,結晶化度の測定などに用いることができる.・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
装置
・・・・・・・・・・・・・・・
操作法
・・・・・・・・・・・・・・・
同定及び判定
同定は測定した試料の粉末X線回折パターンを標準試料のそれと比較することにより行う.結晶多形,溶媒和結晶の判定はそれぞれの結晶形が示す固有の特徴的なX線回折パターンを測定した試料間で相互に比較するか,又は標準試料のそれと比較することにより行う.
回折X線の相対強度(ある回折角でのピーク強度と基準ピークの強度、通例、X線回折パターン中最も強いピーク強度との比)と面間隔dを比較に用いる.ただし,同一のX線波長を用いて測定された試料間の同定には,面間隔の代わりに回折角を比較に用いることができる.医薬品各条で別に規定するもののほか通例,有機化合物の結晶では,回折角の捜査範囲は5°?40°である.同定又は判定しようとするX線回折パターンを比較するとき,両者のX線回折パターンが同一の面間隔のところに同様の相対強度の回折ピークを与えるならば,両者の同一性が確認される.同一結晶形では通例,回折角は±0.2°の範囲内で一致する.
定量
・・・・・・・・・・・・・・・」(57頁右欄27行?58頁右欄36行)

(ウ)刊行物に記載された発明
刊行物1は、炎症性疾患、自己免疫疾患及び癌を含む広範囲の疾患及び状態の治療及び予防に有用な化合物として知られている、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの、異なる結晶性形体すなわち多形体について記載した特許文献である(摘示(1a)?(1c))。
刊行物1には、上記化合物の多形体として形体A、B、C、D、E、F、G及びHを提供することが記載され(摘示(1c))、結晶の多形体の性質、製造及び測定についての一般的な記載(摘示(1d)(1e))、上記化合物の入手についての記載(摘示(1f))、上記化合物の多形態の製造についての一般的な記載(摘示(1g))、上記化合物の各多形体の溶媒和又は水和についてまとめた記載(摘示(1h))のあとに、形体A?形体Hについて、順次、製造し、粉末X線回折(XRPD)(審決注:「X線粉末回折」の用語で記載されているが日本語訳は「粉末X線回折」が適当であるので、以下「粉末X線回折」又は「XRPD」という。)や熱分析により特徴付けしたことが記載されている(摘示(1i)?(1p))。なお、粉末X線回折はCuK_(α) 線によるものである(摘示(1u))。
そのうちの形体Bについては、半水和物であり、ヘキサン、トルエン及び水を含む多くの溶媒から得ることができること(摘示(1h)(1j))、XRPDパターンは、図6が典型的であり、約16、18、22、及び27度の2θの数値により特徴付けられることが記載されている(摘示(1j)(1w))。
刊行物1には、続けて、上記多形体を医薬の有効成分として用いることについての一般的な記載がされ、そこでは一実施態様として、「単一の投与形態は、約5,10,25,又は50mgの量の多形体(例えば、形体B)を含む」と、形体Bに特に言及されている(摘示(1q))。
そして、実施例において、実験手順の一般的な記載(摘示(1r))、上記形体A?形体Hの調製についての一般的な記載(摘示(1s))に続いて、「形体Bは、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの活性医薬成分(API)として所望される多形体である。この形体は、臨床研究用薬剤製品中に配合されるAPIの製剤において使用されている」、「3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの多形体Bのみを生じるための実験室手順を開発した」として、主として形体Bを得るための手順が検討され、実際に多くの条件で形体Bが得られたこと、XRPDや熱分析の結果は図32?図46のとおりであったことが記載されている(摘示(1t))。形体BのXPRDパターンは、図32?図34に示されている(摘示(1y))。
以上によれば、刊行物1には、
「3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンの半水和物の形体Bの結晶であって、以下の図6、図32、図33又は図34で代表される、約16、18、22、及び27度の2θに回折ピークを有するCuK_(α) 線による粉末X線回折パターンを与える、上記の結晶。








の発明(以下「引用発明」といい、3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3 ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンを「引用化合物」という。)が記載されているということができる。

(エ)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用化合物は、本願補正発明の「3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン」と、同じ化学構造の化合物であり(以下、この化合物を「化合物P」という。)、また、半水和物の形体Bの結晶として存在するものである。また、引用発明における「CuK_(α) 線による粉末X線回折パターン」は、本願補正発明の「Cu-Ka放射を使用したX線回折図」に相当する。
そうすると、本願本願発明と引用発明とは、
「化合物Pの半水和物の結晶」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願補正発明においては、化合物Pの半水和物の結晶が、Cu-Ka放射を使用したX線回折図が、以下の表

の形式で記載された、19個の2θの数値及びその2θの数値毎に特定の数値のFlex幅、d値、強度及びL/L0 である、回折ピークの組を有する、化合物Pの半水和物の多結晶体I(すなわち、結晶多形のうちIと称する結晶)であると特定されているのに対し、引用発明においては、以下の図6、図32、図33又は図34で代表される、約16、18、22、及び27度の2θに回折ピークを有するCu-Ka放射を使用したX線回折図を与える、化合物Pの半水和物の形体Bの結晶である点








(オ)相違点についての検討

a 本願補正発明において、X線回折図の回折ピークを記載した表は、本願明細書の段落【0012】?【0015】の記載及び図1を併せて参照すると、上記表における2θ、Flex幅、強度及びL/L0 を、図1のX線回折図に現れた回折ピークを数値により表の形式で表現したものであると認められる(d値は2θからの換算であると認める。)。その図1は、以下のとおりである。
【図1】

これと、引用発明における引用化合物が与えることがあるX線回折パターンの一例である図32

とを比較すると、2θのピーク位置はほぼ同じで、ピークの相対強度のパターンも、ほぼ同じである。
刊行物1には、X線回折図における2θや強度について数値により記載されていないので、本願補正発明における2θの数値と引用発明における図32の2θの数値を厳密に対比することはできない。しかし、医薬化合物の分析によく用いられている粉末X線回折において、同一結晶形では2θ回折角の数値が0.2°以内で一致する、つまりこの範囲の変動があり得ることが、技術常識であること(摘示(2a)参照)を考慮すれば、上記のようにこの出願の図1のX線回折パターンと刊行物1の図32のX線回折パターンがほぼ同じであることは、本願補正発明の結晶と引用発明の結晶とが同一の結晶であることを、強く推認させるものである。

b 上記aと同様にして、引用発明の結晶が与えることがあるX線回折パターンの一例である図6、図33、図34についても検討する。
この出願の図1のX線回折パターンと刊行物1の図6、図33、図34のX線回折パターンとを比較すると、2θのピーク位置はほぼ同じで、ただ、ピークの相対強度のパターンは一部のピークで異なっている。しかし、上記aで述べた技術常識に加え、2θピークの相対強度はかなり変動し得ることも技術常識であること(現に、刊行物1の図6、図32、図33、図34はいずれも結晶形BのX線回折パターンである。)を考慮すれば、上記のようにこの出願の図1のX線回折パターンと刊行物1の図6、図33、図34のX線回折パターンにおける2θのピーク位置がほぼ同じであることは、本願補正発明の結晶と引用発明の結晶とが同一の結晶であることを、強く推認させるものである。

c なお、請求人は、審判請求書において、引用文献1(決定注:刊行物1)に記載された結晶体は本願補正発明の「多結晶体I」とは、以下の(A)?(D)の相違点があるから、本願補正発明は引用文献1の発明とは同一ではないと主張している。
(A)「X線粉末回折法(XRPD)スペクトル」からみた相違点
(B)「示差走査熱量分析(DSC)」からみた相違点
(C)「赤外線(IR)分光法」からみた相違点
(D)「製造方法」からみた相違点
しかし、以下に示すとおり、請求人の主張は、何れも採用することができないものである。
(A)の点について、請求人は、概略、本願補正発明の結晶は2θが26と28.5の間に2つのピーク(26.440及び27.520)のみを有するものであるのに対し、引用文献1における形体Bの結晶体は、図6をみると明らかなとおり3つのピークを有するものであるので、構造が異なる別異の結晶体であると主張している。しかし、引用発明の結晶が与えることがあるX線回折パターンは、図6のものに限られず、図32のような2つのピークを有するものもあるのであるから、請求人の主張は理由がない。
(B)の点については、DSC走査の吸熱ピークは、そもそも本願補正発明の発明特定事項ではない上に、仮に発明特定事項であったとした場合でも、刊行物1の図42?図44(摘示(1z))には、引用発明の形体Bの結晶につき、160℃前後及び約270℃に吸熱ピークを有することが示されていることからすると、請求人の主張は理由がない。
(C)の点については、赤外吸収スペクトルの吸収ピークは、そもそも本願補正発明の発明特定事項ではないから、請求人の主張は理由がない。
(D)の点については、本願補正発明は物の発明であって、製造方法により特定された発明ではないから、そもそも、請求人の主張は理由がない。

(カ)以上のとおり、本願補正発明は、上記相違点に係る2θ等の数値の特定がされているというだけで、実質的には、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明である。

ウ 特許法第29条第2項についての検討
仮に、本願補正発明が刊行物1に記載された発明であるとはいえないとした場合、本願発明が、刊行物1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか否かを検討する。

(ア)刊行物
刊行物1:特表2007-504248号公報(原審における引用文献1)
刊行物2:第十五改正 日本薬局方,平成18年3月31日,p.57-58
刊行物3:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善,平成15年1月30日,p.178
刊行物4:長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,「岩波 理化学辞典 第5版」,第5版第8刷,2004年12月20日,岩波書店,p.504
刊行物5:緒方章,菰田太郎,新延信吉著,「化学実験操作法」,訂正第36版,昭和52年6月20日,南江堂,p.526-533
刊行物6:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186
刊行物2?6は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

(イ)刊行物の記載事項

a 刊行物1の記載事項は、上記イ(イ)aに記載したとおりである。

b 刊行物2の記載事項は、上記イ(イ)bに記載したとおりである。

c 刊行物3
(3a)「4.3.3 晶析
a.晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe_(2)O_(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b.結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布 ・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.
c.晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.また・・・圧力晶析・・・が開発されている.後三者の操作の特徴は,次のとおりである.
・・・・・・・・・・・・・・・
(ii) 貧溶媒晶析 目的物質の溶液に,その溶媒とは容易に混合しあうが目的物質との親和性は低い溶媒(貧溶媒)を添加する,あるいはその逆の操作で結晶を析出させるものであり,医薬品中間体などの製造に多用される.また,貧溶媒であっても溶液との混合性が低い溶媒を添加して溶液を懸濁させ,溶液から徐々に溶媒を除去することによって球状の凝集結晶を析出させる球形晶析法^(3)) もある.
・・・」(178頁左欄5行?右欄下から7行)

d 刊行物4
(4a)「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.そのためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶媒に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合溶液中に残るので,精製の方法としてよく使われる.」(504頁右欄017の項)

e 刊行物5
(5a)「分別結晶(分別晶出)
2種あるいは,それ以上の物質の混合物を,分離精製するには,再結晶^(*)(Recrystallization・・・)なる仕方による.各物質の溶剤への,溶解度(Solubility・・・)は違っているので,その溶剤を適当に使った場合に,一方の物質は析出し,他方の物質は母液中に残る性質を利用するのである.
また2物質の,同一溶剤中から晶出する速度が,著しく異っているときにも,分別結晶の仕方によって,両物質を分離できる.」(526頁16?22行)
(5b)「飽和溶液を冷やして結晶させる仕方
この仕方は再結晶の一般的な仕方であって,普通に“再結晶を行なう”というときには,この仕方か,あるいはつぎに述べる仕方による.
再結晶を行なうには,溶質を加えた溶剤を沸点まで熱して,その中に溶質を溶けるだけ溶かし,熱時にこし分け,ろ液を冷やして結晶を析出させる.
溶剤の選び方 ・・・予試験を各種の溶剤について行ない,冷熱両時の溶解度の差の最大なものを採用する.しかし・・・結晶を母液からこし分けることが困難なものや,結晶の析出速度があまりに速いものは,操作が面倒であるから・・・他のものを選ぶ方がよい.・・・
物質の溶かし方 ・・・一般に溶剤は過量に使わないようにする.・・・
さて透明なろ液を得てから,冷やして結晶を析出させるのであるが,その冷やし方は,大きな結晶を作ろうとするのと,小さな結晶を作ろうとするのとで違ってくる・・・・大きな結晶を作る場合には・・・極ゆるゆると冷やす.また小さな結晶を作る場合には・・・急に冷やす.いずれの場合でも,液がある温度まで下がっても,すぐにその条件で析出し得る結晶が全部析出するものではないから,しばらくそのまま放置して,待たなければならない.このようにして常温で出た結晶をこし分ける.さらにその「ろ液」を冷やすと,なお多量の結晶を得る場合がある.」(527頁26行?529頁17行)
(5c)「溶液を濃縮して結晶させる仕方
物質の溶液を蒸発濃縮して,結晶を析出させることは,物質を精製する点からいえば,“飽和溶液を冷やして結晶させる仕方”(p.527)よりも好ましくはないが,溶液を冷やしただけでは,結晶の出る量が少ないから,通常は適当に濃縮して結晶を出す場合が多い.濃縮結晶を行なう場合は,
○1(注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同じ。) 溶剤を使いすぎたとき 誤って溶剤を多量に使いすぎたときは,無論のことであるが,物質が飽和溶液になる量の溶剤で溶かすことは,操作に時間がかかるから,物質を溶かしやすい程度に溶剤を幾分過量に加え,つぎに適当に濃縮して,結晶を出すことはよく行なっている.
○2 物質を熱して溶かすことができないとき 物質が熱のために,分解しやすくて,熱することができない場合には,まず物質を常温で溶剤に飽和させ,ろ過してから減圧,低温で溶剤の一部を留去する.
○3 冷熱両時の物質の溶解度に大差がないとき ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
溶剤の一部分を蒸散させて結晶させるときの結晶容器は,物質の性質や,溶剤の蒸発を常温で行なうか,熱時で行なうかなどによって違ってくる.常温で蒸発させる場合には,口が広くて浅い「さら」を使う.
・・・・・・・・・・・・・・・
溶剤がエーテル,アセトンなどのように引火性,もしくは高価なもののときには,水浴上で蒸発することは避け,溶剤を蒸留回収する.この際には容器として三角フラスコを使い,蒸留中にフラスコ内の液の周囲に,乾燥固着してくる結晶は,ときどきフラスコを振り動かして,液中に落して溶かすか,または固着しているフラスコの外壁に,口で息を吹きかけて溶かす・・・.
第1回の結晶をこし分けた母液をそのまま放置するか,または適度の濃さまで蒸発または蒸留濃縮すると,第2回の結晶を得るが,実際には冷やして析出させる仕方と,濃縮して析出させる仕方とを,あわせて行なう場合が多い.」(531頁17行?532頁下から5行)
(5d)「溶液に他の液体を加えて結晶させる仕方
溶液を冷やすか,溶剤を蒸散または留去して,過飽和の状態に導く仕方以外に,溶液に他の液体を混ぜて,溶質の溶解度を減じ,結晶を析出させる仕方もある.
これに使う溶剤のおもな組合わせは,つぎの通りである.
・・・・・・・・・・・・・・・
この仕方のうち,最も多く使われるものは,水とエタノールとである.この二つは互に随意の比に混じるから,一方に溶けて他方に溶けない性質の物質は,この二つの溶剤を適当に使い分ければ,よく結晶する.」(533頁15?26行)

f 刊行物6
(6a)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のR_(f) 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい^(1)).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値E_(T);ε,δ,E_(T) は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの危機分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行)
(6b)「

」(186頁)

(ウ)刊行物に記載された発明
刊行物1に記載された発明は、上記イ(ウ)に記載したとおりである。

(エ)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、上記イ(エ)に記載したとおりである。

(オ)相違点についての検討
化合物Pを、特定のFlex幅、d値、強度及びL/L0 を有する特定の2θピークの組を含むX線回折パターンを有する、Iと称する結晶とすることについて検討する。
この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討することは、文献を示すまでもなく、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。結晶化の条件により得られる結晶が異なり、結晶毎に物理的化学的性質が異なることがあることも、よく知られている。結晶を得る手段、結晶を分析する手段についても、各種知られている。刊行物1にも、そのことが記載されている(摘示(1a)(1d)(1e)(1g)(1u)(1v))。
そうすると、化合物Pについても、当業者が結晶が得られる条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。特に、上記イ(ウ)に示したとおり、刊行物1には化合物Pの半水和物の結晶である形体Bが活性医薬成分として所望される多形体であることが記載され、また、一般に水和物結晶は医薬化合物においてよく用いられるものであることから、半水和物結晶などの水和物結晶を得ることには、十分な動機付けを認めることができる。
そして、本願明細書には、本願補正発明の化合物Pの、Iと称する結晶を製造するための方法については、
段落【0019】?【0023】に
「本発明の実施形態において、本発明は3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン半水和物の多結晶体Iを提供し、該方法は以下のステップを含む。
ステップ(1)、3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンをジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)の溶液に加え、ジメチルホルムアミドと3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンとの容積及び質量比が通常1:1より大きいべきであり、好ましくは、ジメチルホルムアミドと3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンとの容積及び質量比が2:1より大きく、最も好ましくは、ジメチルホルムアミドと3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンとの容積及び質量比が3.5:1?4:1である。ジメチルスルホキシドと3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンとの容積及び質量比が通常1.5:1より大きいべきであり、最も好ましくは、ジメチルスルホキシドと3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンとの容積及び質量比が2.5:1?3:1である。撹拌下で加熱して溶解させる。
ステップ(2)、純化水または純化水と有機溶媒との混合溶剤系を滴下し、純化水または純化水と有機溶媒との混合溶剤系の容積とジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドとの容積比が通常1:1より大きいべきであり、好ましくは、純化水または純化水と有機溶媒との混合溶剤系の容積とジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドとの容積比が2:1より大きいべきであり、最も好ましくは、純化水または純化水と有機溶媒との混合溶剤系の容積とジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドとの容積比が3:1より大きいべきである。前記有機溶媒は3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンが溶けないまたはやや溶ける1種または複数種の混合溶剤であり、好ましくはアセトニトリル、トリクロロメタン、シクロヘキサン、1,2-塩化ビニリデン、ジクロロメタン、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、2-エトキシエタノール、エチレングリコール、ノルマルヘキサン、メタノール、2-メトキシエタノール、メチルブチルケトン、メチルシクロヘキサン、N-メチルピロリドン、ピリジン、テトラリン、テトラヒドロフラン、トルエン、1,1,2-トリクロロエテン、ジメチルベンゼン、アセトン、アニソール、n-ブチルアルコール、ブチルアルコール、酢酸ブチル、tert-ブチルメチルエーテル、イソプロピルベンゼン、エタノール、酢酸エステル、ジエチルエーテル、蟻酸エステル、ノルマルヘプタン、酢酸イソブチル、イソプロピルアセタート、酢酸メチル、イソペンチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソブチルアルコール、ノルマルペンタン、第一アミルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸プロピル、1,1-ジメトキシプロパン、1,1-ジメトキシメタン、2,2-ジメトキシプロパン、イソオクタン、イソプロピルエーテル、メチルイソプロピルケトン、メチルテトラヒドロフラン、石油エーテルから選ばれ、最も好ましくはアセトン、アニソール、n-ブチルアルコール、ブチルアルコール、酢酸ブチル、tert-ブチルメチルエーテル、イソプロピルベンゼン、エタノール、酢酸エステル、ジエチルエーテル、蟻酸エステル、ノルマルヘプタン、酢酸イソブチル、イソプロピルアセタート、酢酸メチル、イソペンチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソブチルアルコール、ノルマルペンタン、第一アミルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸プロピル、1,1-ジメトキシプロパン、1,1-ジメトキシメタン、2,2-ジメトキシプロパン、イソオクタン、イソプロピルエーテル、メチルイソプロピルケトン、メチルテトラヒドロフラン、石油エーテルなどのうちの1種または2種以上から選ばれ、混合溶剤系を水と有機溶媒とからなる1成分または2成分以上の混合系であるようにする。そのうち、水と前記有機溶媒との重量比が通常10%より大きいべきで、好ましくは、水と前記有機溶媒との重量比が20%より大きく、最も好ましくは水と前記有機溶媒との重量比が30%より大きい。
ステップ(3)、撹拌下で温度を徐々に下げて固体を析出させる。
ステップ(4)、固体を回収し、減圧真空乾燥する。」
と記載され、
段落【0114】?【0115】の実施例に
「実施例1、
多結晶体Iの調製
3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン100gをDMF400ml(またはDMSO300ml)の溶液に加え、撹拌加熱して溶解させ、純化水1600ml[または純化水1000と有機溶媒600mlとの混合溶剤系(例えば水と、アセトン、アセトニトリル、酢酸エステル、ジクロロメタン、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノールなど3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンが溶けない有機溶媒と、によって構成される2成分または2成分以上の混合系]を滴下し、撹拌しながら温度を徐々に下げて固体を析出させ、固体を回収して減圧真空乾燥を行い、3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン多結晶体Iを得る。
DMF/水系:生成物重量78g、収率78%、
DMSO/水系:生成物重量90g、収率90%。」
と記載されている。
上記の製造方法は、化合物Pをジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドに溶解し、貧溶媒である水又は水と有機溶媒の混合物を加えて結晶を析出させるものであって、ごく一般的な、溶液からの貧溶媒晶析である(摘示(3a)(4a)(5d))。溶媒及び貧溶媒の選択にしても、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドと水との組合せのような、ありふれた、医薬化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒が用いられるものであると認められる。このことは、刊行物1には、化合物Pの形体Eの製造に関連して、化合物Pを水に懸濁化する旨の記載があり(摘示(1m)(1s))、化合物Pが水に難溶であることが理解でき、一方、化合物Pの形体Aの製造に関連して、1-ブタノール、酢酸ブチル、エタノール、酢酸エチル、メタノール、メチルエチルケトン、THFなど様々な溶媒から結晶化することができることが記載され(摘示(1i)(is))、化合物Pが多くの有機溶媒に可溶であることが理解でき、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドは、刊行物1の上記の有機溶媒に含まれるものではないものの、上記に挙げられているエタノールや酢酸エチルと並んで有機化合物の結晶化によく用いられる溶媒であること(摘示(6a)(6b))からも、明らかである。
してみると、本願補正発明の、化合物Pの半水和物のIと称する結晶は、引用発明において、当業者が、通常行う結晶化の操作により得られるものであると認められる。
そして、相違点に係る、特定のFlex幅、d値、強度及びL/L0 を有する特定の2θピークの組を含むX線回折パターンを有する結晶である点は、当業者が、結晶性が期待される医薬化合物の分析において通常用いるX線回折を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない(摘示(2a))。
以上によれば、引用発明において、化合物Pの結晶、特に半水和物結晶等の水和物結晶を得ることを試み、その際に結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点に係る本願補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(カ)発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願明細書の段落【0008】に「3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンの新しい多結晶体・・・は理化の性質が優れており、安定性がよく、工業化の量産により適応するなどの利点を有する」と記載され、段落【0052】?【0065】に「3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン(半水和物)多結晶体Iの特性」と題して、溶解性、安定性(光照射試験、高温試験、高湿試験、加速試験)の試験をしたことが記載され、その結果、分解が少なく、「性質が安定で・・・吸湿性が非常に小さい」と記載されていることからみて、安定な結晶形としての、化合物Pの半水和物のIと称する結晶を提供できたことであると認められる。
しかし、引用発明において、相違点に係る本願補正発明の構成を備えた、化合物Pの半水和物のIと称する結晶とすることは、当業者が容易に想到し得ることは、上記(オ)で述べたとおりであり、その結晶は、安定な結晶であるという特徴を当然に備えていると解されるから、上記の本願補正発明の効果は、格別のものであるとすることはできない。

(キ)以上のとおり、本願補正発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、また、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
平成26年8月6日付けの手続補正は上記第2に記載されたとおり却下されたので、この出願の発明は、平成26年3月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「3-(4-アミノ-1-オキシ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン半水和物の多結晶体Iであって、
Cu-Ka放射線を使用し、そのX線回折図は、強度で示される2θが11.9±0.2、15.6±0.2、22.5±0.2、23.8±0.2、26.4±0.2、27.5±0.2、29.1±0.2及び22.0±0.2において回折ピックを有する、多結晶体I。」
ただし、上記第2の2(2)アで述べたのと同様に、本願発明の「Cu-Ka放射線」の「Ka」、「1-オキシ」及び「多結晶体I」は、それぞれ「K_(α)」、「1-オキソ」及び「結晶多形のうちIと称する結晶」を意味するものと認める。また、「回折ピック」は「回折ピーク」を意味するものと認める。

第4 原査定の理由
原査定の理由である平成25年12月13日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、理由1及び2であり、その理由2の概要は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に・・・頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、その「下記の刊行物」は、引用文献1として提示された特表2007-504248号公報(上記第2の2(2)イの刊行物1と同じ。以下「刊行物1」という。)である。その「下記の請求項」は、請求項1?16である。本願発明は、拒絶理由通知で言及された請求項2に係る発明に相当する。

第5 当審の判断

1 刊行物、刊行物の記載事項、刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、その記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記第2の2(2)イ(ア)?(ウ)及びウ(ア)?(ウ)に記載したとおりである。また、技術常識を示す刊行物2?6及びその記載事項は、上記第2の2(2)イ(ア)(イ)及びウ(ア)(イ)に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、上記第2の2(1)で検討したとおり、上記第2の2(2)で検討した本願補正発明において、X線回折図における回折ピークの特徴が、より少ない限定により特定されたものである。
そうすると、本願補正発明が、上記2の2(2)ウに記載したとおり、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-14 
結審通知日 2015-12-15 
審決日 2015-12-28 
出願番号 特願2012-535589(P2012-535589)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07D)
P 1 8・ 113- Z (C07D)
P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 冨永 保
中田 とし子
発明の名称 3-(置換ジヒドロイソインドール-2-イル)-2,6-ピペリジンジオン多結晶体及び薬用組成物  
復代理人 主代 静義  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 主代 静義  

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