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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B07C
管理番号 1326621
審判番号 不服2015-14019  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-24 
確定日 2017-03-29 
事件の表示 特願2011-542892「分類方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日国際公開、WO2010/073004、平成24年 6月14日国内公表、特表2012-513302〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願は、2009年12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年12月23日、イギリス国)を国際出願日とする出願であって、平成23年6月22日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成23年8月11日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文が提出され、平成26年1月10日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成26年7月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月18日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年7月24日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その後、当審において平成28年2月9日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年8月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2 本願発明
本件出願の請求項1ないし23に係る発明は、平成28年8月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに平成23年8月11日に提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「植物質の食品のフローから異物を分類する方法であって、
植物質の食品のフロー内の物体を識別する工程と、
識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲で反射強度を測定する工程と、
識別された各物体につき、800nmから1200nmの範囲の第1の波長における前記識別された物体からの第1の反射強度と、1470nmから1570nmの範囲の第2の波長における前記識別された物体からの第2の反射強度とを、強度-強度図により表わされ、該強度-強度図の分離領域が植物質の食品を表す参照プロファイルと比較する工程と
を含み、
識別された物体は、前記第1及び第2の反射強度が、前記参照プロファイルの前記分離領域から外れる場合、異物とみなされる
ことを特徴とする方法。」


3 刊行物に記載された発明
(1)引用刊行物の記載事項
当審拒絶理由に引用された刊行物であって、本件出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2005-233724号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
食品に光を照射して該食品の内部や、その表面に接触して存在する異物を検出する異物検出方法において、食品に900nm?1400nmの近赤外波長領域のレーザ光を照射して、その透過・散乱光の強度を測定して比較することにより、プラスチックを含む異物を検出するようにしたことを特徴とする異物検出方法。
【請求項2】
互いに波長が異なる複数のレーザ光を食品に照射して、その透過・散乱光の強度を測定することにより、異なる種類の異物を検出するようにしたことを特徴とする請求項1記載の異物検出方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

イ 「【0001】
本発明は食品の検査工程等で食品に光を照射して食品の内部や、その表面に接触して存在するプラスチックを含む異物を検出する異物検出方法および異物検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製造物責任法が施行され、HACCP対応が必須となっている現在、収穫時や製造時等に偶発的に、あるいは、誤って食品中に金属屑やプラスチック片等の異物が混入し、それが消費者に渡って発見されるような事態が発生すると、製造業者は多数の食品を回収しなければならなくなり、多額の損失が生じることになる。従って、このような食品中に紛れ込んだ異物を如何に検出して排除するかが食品業界での大きなテーマとなっている。
【0003】
そこで、食品を傷付けることなく異物検出する手段として例えば、瓶詰め品の最終検査工程で採用される目視選別法、異物を大きさと形によって選別する篩分け選別法、光電素子によって色彩選別を行う光学選別法、高周波電磁界中を金属が通過した場合の電磁束の乱れまたは損失に基づいて食品中の金属異物を検出する金属検出法、X線の高い物質透過性と画像処理技術を利用したX線異物検出法等が開発され、使用用途に応じて適宜選択活用されている。また、次に例示するように、かかる異物検出方法に関係する多くの発明や提案が為されている。
【特許文献1】特開2001-337040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる各種異物検出方法、例えば、金属検出機を用いてポリ袋に梱包された食品中の金属片を確実に検出したり、X線異物検出機を用いて外観からは視認できない密度の大きな異物を検出する等といった方法を目的に応じて使い分けることにより製品中の異物混入を著しく低減できるようになった。しかし、被検体中に埋没した金属以外の異物で、X線に対し高い透過性を示す異物などは検出することができない。
【0005】
本発明は従来技術におけるかかる課題を解決すべく為されたものであり、表面に接触した異物だけでなく食品中に埋没した、金属以外のプラスチック等の異物をも確実に検出することができる異物検出方法および異物検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、異物検出方法の発明は食品に900nm?1400nmの近赤外波長領域のレーザ光を照射して、その透過・散乱光の強度を測定して比較するようにしたものであり、異物検出装置の発明は900nm?1400nmの近赤外波長領域のレーザ光を照射する光照射手段と、該食品の透過・散乱光を受光する受光手段と、受光手段が受光した光の強度を基準値と比較することによりプラスチックを含む異物を検出する異物検出手段とを具えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、食品に900nm?1400nmの近赤外波長領域のレーザ光を照射して、その透過・散乱光の強度を測定して、食品の内部や、その表面に接触して存在する異物を検出するようにしたので、食品に損傷を与えることなく、比較的簡便かつ安価に、プラスチックを含む異物を確実に検出することができる。また、互いに波長が異なる複数のレーザ光を食品に照射して、その透過・散乱光の強度を測定すれば、異なる種類の異物を選別することができる。」(段落【0001】ないし【0007】)

ウ 「【0009】
以下図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施例に係る異物検出選別装置の概略構成を示す構成図、図2はその内部構造の概略を示す構造図、図3はその光学系の原理を説明するための説明図、図4はその異物検出の状況を示す要部斜視図、図5は異物がないレーズンを通過した透過・散乱光の受光信号(a)と異物が混入したものの透過・散乱光の受光信号(b)の信号波形を示す波形図、図6は演算処理部が行う異物検出選別処理の動作を説明する流れ図である。
【0010】
図1?3を参照して本実施例の構成を説明する。異物検出選別装置の上部には被検体である食品を振動させて異物検出部に搬入する搬入装置3が設けられている。異物検出部には発光部1と受光部2とがやや斜めに傾斜し相対峙して設けられている。異物検出部の下流には圧縮空気吐出機構で構成された選別装置4が設けられている。その鉛直方向Dg下流には異物不検出の食品を搬出するための搬出装置31が、分岐方向Dn下流には異物が検出された食品を収容するための受け箱30が配設されている。
【0011】
発光部1には波長が980nmのレーザビームを射出するレーザダイオードから成る発光素子11と射出されたレーザビームを光学的に横方向に大きく拡幅するビームエキスパンダ12が設けられている。受光部2は食品(本実施例ではレーズン;干し葡萄を用いた)R中を通過して散乱・透過したレーザ光Lを縦方向に集光する蒲鉾型のレンズ22と、レンズ22で集光された散乱・透過光を電気信号に変換する、横方向に多数配列されたフォトダイオードから成る受光素子21とで構成されている。
【0012】
異物検出選別装置の上部には図2では図示を省略した表示部9と操作部10とが設けられている。表示部9は装置の状態や異物検出の有無等の情報を表示し、操作部10は操作者が各種入力指令や選択指令を入力するためのものである。操作部10に入力された操作信号は演算処理部7に伝達され、そこで必要な演算処理が行われ、その結果は表示部9に表示されると共に該当する各被制御部に伝達される。即ち、食品の異物検出の有無を判定した異物有無信号は選別装置4に、発光素子11を駆動するための駆動信号はレーザドライバ5に出力される。また、受光素子21で受光され、電気信号に変換された受光信号Vdは受光器インタフェース6を介して演算処理部7に伝達される。また、外部機器制御部8が設けられていて、演算処理部7からの指令信号に基づいて搬入装置3と選別装置4とを制御する。
【0013】
図3,4に示すように、発光素子11から射出された直線状のレーザビームはビームエキスパンダ12により横方向に大きく拡幅されて平行面状に進行し、搬入装置3の端縁から、異物検出部ではほぼ鉛直方向Dに、かつ受光素子21からほぼ等距離を保って落下供給されたレーズンRを照射する。レーズンRに入射したレーザ光Lは進行方向に大きな散乱強度分布を有した散乱光に分散しながら直進する。こうしてレーズンR中を通過した透過・散乱光はレンズ22により線状に多数配置された受光素子21上に、レーザ光Lに照射されたレーズンRの実像が結像するように集光され、受光素子21により受光信号に変換される。各受光素子21から出力されたアナログ受光信号は図示しないA/D変換器でデジタル受光信号Vdに変換された後、受光器インタフェース6に送られる。
【0014】
図5は何ら異物を有しないレーズンRのみを搬入装置3の端縁から供給した場合(a)と、内部に鉛玉Bを包含したレーズンRを供給した場合(b)とについて測定された受光信号Viの波形図を示したものである。これらの図から明らかなように、内部に鉛玉Bを包含したレーズンRを供給した場合には、前述のように、受光素子21がレーズンRの実像を受光しているため、鉛玉Bの実像を受光した時点で受光信号Viの強度が著しく低下する。」(段落【0009】ないし【0014】)

エ 「【0017】
本願発明者は上記装置と同様の装置を用いてレーザ光Lの光路中を落下する試料の材質を変えると共に発光素子11から射出されるレーザ光Lの波長を変化させ、それらの透過率を測定した。図7はこのようにして測定された試料物質毎のレーザ光の波長に対する透過・散乱光の透過率を示した透過率表である。同表から判るように、レーズンは900nm?1400nmの近赤外波長領域でレーザ光に対して優れた透過特性を有している。なお、有機物で構成された生体を主材料とする食品はレーズンと同様の光透過特性を有していることが判った。
【0018】
また、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリルも近赤外波長領域でのレーザ光に対して固有の光透過特性を有していることが判る。そして、900nm?1400nmの近赤外波長領域でのレーザ光の透過・散乱率を測定することにより、それぞれの波長でのレーザ光の透過率の違いから、食品中の異物を効果的に検出できる。さらに、このような物質毎の近赤外波長領域でのレーザ光に対する固有の光透過特性を利用して、異物として検出した物質の種類の判別を行うことができる。
【実施例2】
【0019】
図8は本発明の第2の実施例に係る異物検出選別装置の異物検出の状況を示す要部斜視図、図9はその検出選別処理の動作を説明する流れ図である。本実施例の構成は上述の第1の実施例のものと同様なので、要部の構成のみを示すに止め、他の構成の図示およびそれらの説明を省略する。本実施例では波長が異なる2つのレーザ光La,Lbの光路が途中で交差するように、2つの発光素子11a,11bが異なる取付角度を有して配設されている。即ち、ビームエキスパンダ12a,12bから射出されたレーザ光La,Lbは異物検出部近傍で交差する。そして、発光素子11a,11bから射出される2つのレーザ光La,Lbの波長は本実施例ではそれぞれ900nm,1300nmに設定されている。
【0020】
図9の流れ図を参照して本実施例の動作を説明する。始めに、レーザ光Laを受光した受光部2aからのデジタル受光信号Vdaを受光器インタフェース6を介して受信する(S11)。そして、このデジタル受光信号Vdaにフィルタ処理を施した受光信号Viaとする(S12)。次に、この受光信号Viaと基準信号Vsaとを比較し(S13)、Via<Vsaでなければ(NO)、レーズンR中に異物は存在しないものと判断して異物検出選別処理を終了する。
【0021】
また、Via<Vsaならば(YES)、レーザ光Lbを受光した受光部2bからのデジタル受光信号Vdbを受信し(S14)、フィルタ処理を施した受光信号Vibとする(S15)。次に、この受光信号Vibと基準信号Vsbとを比較し(S16)、Vib<Vsbならば(YES)、レーズンR中に異物Aが存在したと判断して、表示部9に異物A混入警告表示を指令する(S17)。また、Vib<Vsbでなければ(NO)、レーズンR中に異物Bが存在したと判断して、表示部9に異物B混入警告表示を指令する(S18)。そして、外部機器制御部8を介して選別装置4に異物選別信号を出力する(S19)。選別装置4は圧縮空気の突出圧力を変化させたり、上下方向に2箇所配設された突出位置から圧縮空気を突出させる等の選別手段により異物A,Bの選別を行う。
【0022】
本実施例では基準信号Vsa,Vsbの値を共に、図7に示した透過率が2%に相当する電圧に設定してあり、これにより、レーズンR中に検出した異物A=PE,Pbと異物B=PP、アクリルとを選別することができるようになっている。」(段落【0017】ないし【0022】)

(2)引用刊行物の記載事項及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)アないしエ並びに図1ないし5及び7ないし9の記載によれば、引用刊行物には、レーズンRのフローから異物を検出する異物検出方法が記載されていることが分かる。
そして、上記(1)アの【請求項2】において、「異なる種類の異物を検出する」と記載されているから、上記異物検出方法がレーズンRのフロー内の物体を識別することが分かる。

イ 上記(1)ア、イ及びエ並びに図8及び9の記載(特に、【請求項2】、段落【0007】及び【0017】ないし【0022】並びに図8及び9の記載)によれば、レーズンRのフローから異物を検出する異物検出方法は、識別された各物体につき、2つの異なる波長で透過光強度を測定する工程を含むことが分かる。

ウ 上記(1)エ並びに図8及び9の記載(特に、段落【0017】ないし【0022】並びに図8及び9の記載)によれば、レーズンRのフローから異物を検出する異物検出方法は、識別された各物体につき、900nmから1400nmの範囲の第1の波長における識別された物体の第1の透過光強度を示す受光信号Viaを第1の基準信号Vsaと比較すると共に、900nmから1400nmの範囲の第2の波長における識別された物体の第2の透過光強度を示す受光信号Vibを第2の基準信号Vsbと比較する工程を含むことが分かる。

エ 上記(1)エ並びに図8及び9の記載(特に、段落【0017】ないし【0022】並びに図8及び9の記載)によれば、レーズンRのフローから異物を検出する異物検出方法において、識別された物体は、第1の透過光強度を示す受光信号Viaが第1の基準信号Vsaより小さい場合、異物が存在するものと判断し、さらに、第2の透過光強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さい場合、異物Aが存在するものと判断するとともに、第2の透過光強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さくない場合、異物Bが存在するものと判断することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)を総合して、本願発明の表現にならって整理すると、引用刊行物には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「レーズンRのフローから異物を検出する異物検出方法であって、
レーズンRのフロー内の物体を識別する工程と、
識別された各物体につき、2つの異なる波長で透過光強度を測定する工程と、
識別された各物体につき、900nmから1400nmの範囲の第1の波長における識別された物体の第1の透過光強度を示す受光信号Viaを第1の基準信号Vsaと比較すると共に、900nmから1400nmの範囲の第2の波長における識別された物体の第2の透過光強度を示す受光信号Vibを第2の基準信号Vsbと比較する工程と、
を含み、
識別された物体は、第1の透過光強度を示す受光信号Viaが第1の基準信号Vsaより小さい場合、異物が存在するものと判断し、さらに、第2の透過光強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さい場合、異物Aが存在するものと判断するとともに、第2の透過光強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さくない場合、異物Bが存在するものと判断する、レーズンRのフローから異物を検出する異物検出方法。」


4 対比
本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「レーズンR」は、前者における「植物質の食品」に相当し、同様に、「異物を検出する」は「異物を分類する」に相当する。

・後者における「レーズンRのフローから異物を検出する異物検出方法」は、前者における「植物質の食品のフローから異物を分類する方法」又は「方法」に相当する。

・後者における「識別された各物体につき、2つの異なる波長で透過光強度を測定する工程」は、前者における「識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲で反射強度を測定する工程」に、「識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲で所定の光強度を測定する工程」という限りにおいて一致する。

・後者における「識別された各物体につき、900nmから1400nmの範囲の第1の波長における識別された物体の第1の透過光強度を示す受光信号Viaを第1の基準信号Vsaと比較すると共に、900nmから1400nmの範囲の第2の波長における識別された物体の第2の透過光強度を示す受光信号Vibを第2の基準信号Vsbと比較する工程」は、前者における「識別された各物体につき、800nmから1200nmの範囲の第1の波長における前記識別された物体からの第1の反射強度と、1470nmから1570nmの範囲の第2の波長における前記識別された物体からの第2の反射強度とを、強度-強度図により表わされ、該強度-強度図の分離領域が植物質の食品を表す参照プロファイルと比較する工程」に、「識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲での所定の光強度を所定の基準と比較する工程」という限りにおいて一致する。

・後者における「識別された物体は、第1の透過光強度を示す受光信号Viaが第1の基準信号Vsaより小さい場合、異物が存在するものと判断し、さらに、第2の透過光強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さい場合、異物Aが存在するものと判断するとともに、第2の透過光強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さくない場合、異物Bが存在するものと判断する」は、前者における「識別された物体は、前記第1及び第2の反射強度が、前記参照プロファイルの前記分離領域から外れる場合、異物とみなされる」に、「識別された物体は、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲での所定の光強度が、所定の基準に対して所定の状態にある場合、異物とみなされる」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「植物質の食品のフローから異物を分類する方法であって、
植物質の食品のフロー内の物体を識別する工程と、
識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲で所定の光強度を測定する工程と、
識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲での所定の光強度を所定の基準と比較する工程と
を含み、
識別された物体は、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲での所定の光強度が、所定の基準に対して所定の状態にある場合、異物とみなされる方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
「識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲で所定の光強度を測定する工程」に関し、本願発明においては、「識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲で反射強度を測定する工程」であるのに対して、引用発明においては、「識別された各物体につき、2つの異なる波長で透過光強度を測定する工程」である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
「識別された各物体につき、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲での所定の光強度を所定の基準と比較する工程」に関して、本願発明においては、「識別された各物体につき、800nmから1200nmの範囲の第1の波長における前記識別された物体からの第1の反射強度と、1470nmから1570nmの範囲の第2の波長における前記識別された物体からの第2の反射強度とを、強度-強度図により表わされ、該強度-強度図の分離領域が植物質の食品を表す参照プロファイルと比較する工程」であるのに対して、引用発明においては、「識別された各物体につき、900nmから1400nmの範囲の第1の波長における識別された物体の第1の透過光強度を示す受光信号Viaを第1の基準信号Vsaと比較すると共に、900nmから1400nmの範囲の第2の波長における識別された物体の第2の透過光強度を示す受光信号Vibを第2の基準信号Vsbと比較する工程」である点(以下、「相違点2」という。)。

[相違点3]
「識別された物体は、少なくとも2つの異なる波長もしくは波長範囲での所定の光強度が、所定の基準に対して所定の状態にある場合、異物とみなされる」ことに関して、本願発明においては、「識別された物体は、前記第1及び第2の反射強度が、前記参照プロファイルの前記分離領域から外れる場合、異物とみなされる」のに対して、引用発明においては、「識別された物体は、第1の透過光強度を示す受光信号Viaが第1の基準信号Vsaより小さい場合、異物が存在するものと判断し、さらに、第2の透過光強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さい場合、異物Aが存在するものと判断するとともに、第2の透過光強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さくない場合、異物Bが存在するものと判断する」点(以下、「相違点3」という。)。


5 判断
(1)相違点1について
引用発明においては、物体からの所定波長の光の強度を測定して、異物を分類する手法として、物体の透過光強度を測定して、異物を分類する手法(以下、「手法1」という。)を用いているところ、物体からの所定波長の光の強度を測定して、異物を分類する手法として、当該手法1と、物体からの反射強度を測定して、異物を分類する手法(以下、「手法2」という。)とは、双方とも本件出願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術」という。手法2について必要であれば、特開2007-278846号公報(特に、段落【0005】ないし【0008】及び【0017】ないし【0021】)、特開2001-99783号公報(特に、段落【0019】)及び特開2006-177890号公報(特に、段落【0021】)を参照。)である。
ところで、引用刊行物には、段落【0001】における「本発明は食品の検査工程等で食品に光を照射して食品の内部や、その表面に接触して存在するプラスチックを含む異物を検出する異物検出方法および異物検出装置に関する。」との記載、段落【0005】における「本発明は従来技術におけるかかる課題を解決すべく為されたものであり、表面に接触した異物だけでなく食品中に埋没した、金属以外のプラスチック等の異物をも確実に検出することができる異物検出方法および異物検出装置を提供することを目的とする。」との記載、及び、段落【0018】における「そして、900nm?1400nmの近赤外波長領域でのレーザ光の透過・散乱率を測定することにより、それぞれの波長でのレーザ光の透過率の違いから、食品中の異物を効果的に検出できる。」との記載によれば、食品外部の異物だけでなく、食品内部の異物も検出するために、食品の透過光強度を測定することが認められるところ、食品の種類によっては、食品内部に異物が存在しないもの(例えば、米や豆類のように表面が硬いもの)があることから、そのような食品のフローから異物を検出する場合には、必ずしも食品の透過光強度を測定する必要がないことは当業者が当然に認識することである。
そして、引用発明は、測定の対象がレーズンであるが、レーズンは一例であって、他の植物質の食品を測定の対象とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、引用発明において、周知技術である手法1及び手法2の何れを採用するかは、異物検出に係る食品の種類やコスト等に応じて当業者が適宜なし得る選択的事項というべきものであるから、手法1に代えて手法2を採用し、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2及び3について
上記(1)の検討によれば、引用発明において、第1の波長における識別された物体の第1の反射強度を示す受光信号Via(本願発明の「第1の反射強度」に相当。)を第1の基準信号Vsaと比較すると共に、第2の波長における識別された物体の第2の反射強度を示す受光信号Vib(本願発明の「第2の反射強度」に相当。)を第2の基準信号Vsbと比較する工程を含み、識別された物体は、第1の反射強度を示す受光信号Viaが第1の基準信号Vsaより小さい場合、異物が存在するものと判断し、さらに、第2の反射強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さい場合、異物Aが存在するものと判断すると共に、第2の反射強度を示す受光信号Vibが第2の基準信号Vsbより小さくない場合、異物Bが存在するものと判断する事項を備えるものとなるところ、当該事項は、実質的に、識別された各物体につき、第1の反射強度を示す受光信号Viaと、第2の反射強度を示す受光信号Vibとを、強度-強度線図により表わされ、異物がない領域(本願発明の「分離領域」に相当。)、異物Aが存在する領域及び異物Bが存在する領域が設定され、異物のない領域が植物質の食品を示す参照プロファイルと比較を行い、識別された物体は、第1の反射強度を示す受光信号Via及び第2の反射強度を示す受光信号Vibが、参照プロファイルの異物がない領域から外れる場合、異物とみなされる事項であるということができる。
仮に、参照プロファイルが、制御ユニット等に予め記憶されたものであるとしても、そのようなことは、特開2003-329582号公報(特に、段落【0042】ないし【0050】及び図6ないし8)にも記載があるように、当業者が適宜なし得ることである。

ところで、光照射により物体を分類するに際して、少なくとも1000nm?1500nmの範囲の波長における光強度を測定することは、本件出願の優先日前に周知の事項(以下、「周知事項1」という。必要であれば、特開2008-209211号公報(特に、段落【0143】及び【0167】)、特表2002-540397号公報(特に、段落【0007】)及び特表平9-509477号公報(特に、17ページ5行ないし18ページ4行を参照。)である。
また、異なる波長の光を用いて物体を分類するに際して、分類する物体に応じた波長の光を選択することは、本件出願の優先日前に周知の事項(以下、「周知事項2」という。必要であれば、特表2002-540397号公報(特に、段落【0007】)及び特表平9-509477号公報(特に、17ページ5行ないし18ページ4行)を参照。)である。これは、引用刊行物の段落【0017】及び【0018】の記載において、レーズンが900nm?1400nmの近赤外波長領域でレーザ光に対して優れた透過特性を有していることから、900nm?1400nmの近赤外波長領域での透過光強度を測定することが説明されていることからも理解できる。
しかも、プラスチックを分類するのに、光の波長を1500nm程度とすることは、本件出願の優先日前に周知の事項(以下、「周知事項3」という。必要であれば、特表2002-540397号公報(特に、段落【0007】には、「追加の例として、5つの異なるプラスチック、つまりPA(ポリアミド)、PE、PS、PP及びPETPが1500nmと1800nmの間の5つの異なる波長での測定ポイントを活用して分離されてよい。」と記載されている。)を参照。)である。
これら周知事項1ないし3を考慮すれば、引用発明において、900nmから1400nmの範囲の波長における上限の1400nmを1500nm程度まで拡大することに格別な困難性はなく、レーズンRを他の植物質の食品にすることや検出する異物の変更に伴い、第1の波長を800nmから1200nmの範囲内とし、第2の波長を1470nmから1570nmの範囲内とすることは当業者が適宜なし得たことである。

そうすると、引用発明において、上記相違点2及び3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、周知技術である手法2及び周知事項1ないし3に基づき、当業者が容易に想到できたことである。

(3)そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、周知技術である手法2及び周知事項1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術である手法2及び周知事項1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6 むすび
上記5のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないのであるから、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-28 
結審通知日 2016-11-01 
審決日 2016-11-15 
出願番号 特願2011-542892(P2011-542892)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 杏子高山 芳之  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 松下 聡
槙原 進
発明の名称 分類方法及び装置  
代理人 右田 登志男  

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