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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D |
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管理番号 | 1326686 |
審判番号 | 不服2016-2100 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-02-10 |
確定日 | 2017-03-30 |
事件の表示 | 特願2014-83145号「クローラ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月16日出願公開、特開2015-202786号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年4月14日の出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。 平成27年8月7日付け :拒絶理由の通知 平成27年10月19日 :意見書、手続補正書の提出 平成27年11月5日付け :拒絶査定 平成28年2月10日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 平成28年2月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年2月10日にされた手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成28年2月10日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであって、請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。 (補正前の請求項1) 「弾性材料によって形成され、駆動輪及び従動輪に巻き掛けられる無端帯状のクローラ本体と、 前記クローラ本体に埋設され、前記クローラ本体の内周面を形成する本体内周部のクローラ外周側に重ねられ、クローラ周方向に延びるメインコードを備えるメインコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、クローラ周方向に対して斜めに延びる第1バイアスコードをクローラ周方向に並列して構成された第1バイアスプライを備え、前記メインコード層のクローラ外周側に重ねられる第1バイアスコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、クローラ周方向に対して斜めに延びると共に前記第1バイアスコードと交差する第2バイアスコードをクローラ周方向に並列して構成された第2バイアスプライを備え、前記第1バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられる第2バイアスコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、前記第2バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられると共に前記クローラ本体の外周面を形成する本体外周部のクローラ内周側に重ねられ、クローラ幅方向に沿って延びる保護コードをクローラ周方向に並列して構成された保護プライを複数枚重ねて形成された保護コード層と、 を有し、 前記本体内周部の厚みは、前記本体外周部の厚みよりも厚い、クローラ。」 (補正後の請求項1) 「弾性材料によって形成され、駆動輪及び従動輪に巻き掛けられる無端帯状のクローラ本体と、 前記クローラ本体に埋設され、前記クローラ本体の内周面を形成する無端帯状の本体内周部のクローラ外周側に重ねられ、クローラ周方向に延びるメインコードを備えるメインコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、クローラ周方向に対して斜めに延びる第1バイアスコードをクローラ周方向に並列して構成された第1バイアスプライを備え、前記メインコード層のクローラ外周側に重ねられる第1バイアスコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、クローラ周方向に対して斜めに延びると共に前記第1バイアスコードと交差する第2バイアスコードをクローラ周方向に並列して構成された第2バイアスプライを備え、前記第1バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられる第2バイアスコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、前記第2バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられると共に前記クローラ本体の外周面を形成する無端帯状の本体外周部のクローラ内周側に重ねられ、クローラ幅方向に沿って延びる保護コードをクローラ周方向に並列して構成された保護プライを複数枚重ねて形成された保護コード層と、 を有し、 前記本体内周部の厚みは、前記本体外周部の厚みよりも厚い、クローラ。」 2.補正の適否 (1)新規事項の追加の有無、シフト補正の有無、及び補正の目的の適否について 上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「本体内周部」及び「本体外周部」について、本願の願書に最初に添付された明細書の段落【0024】の記載を根拠に、それぞれ、「無端帯状」との限定を付加するものであるから、発明特定事項を限定するものであって、新規事項を追加するものではなく、また、補正前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 したがって、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとともに、特許法第17条の2第3項に適合するものである。 また、上記補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。 (2)独立特許要件 ア.引用例の記載事項 (ア)引用例1の記載事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2013-166475号公報(以下、「引用例1」という。)には、「弾性クローラ」に関し、以下の事項が記載されている(下線部は当審で付与。以下同様。)。 a.「【0025】 第1実施形態に係る弾性クローラの一例としての無端状のゴムクローラ10は、芯金をもたない、いわゆる芯金レスタイプの弾性クローラである。なお、本実施形態のゴムクローラ10は、主に舗装機などに用いられるものであり、路面などを傷めないように地面(路面)Gとの接地部分が平坦状とされている。」 b.「【0033】 図1に示すように、ゴムクローラ10は、ゴム材を無端帯状に形成したゴムベルト12を有している。なお、本実施形態のゴムベルト12は、本発明の無端状の弾性体の一例である。また、本実施形態のゴムベルト12の周方向、幅方向、内周側、外周側は、それぞれクローラ周方向、クローラ幅方向、クローラ内周側、クローラ外周側と一致している。 【0034】 また、図1、図5に示すように、ゴムベルト12の外周には、地面Gと接地する接地面13が形成されている。この接地面13は、平坦状とされている。」 c.「【0037】 本実施形態では、前述のように、駆動輪100、遊動輪102、及び転輪104が車輪転動面16上を転動する。 ここで、ゴムクローラ10(ゴムベルト12)が所定の張力をもって、駆動輪100及び遊動輪102に巻き掛けられることにより、駆動輪100の外周面100Bと車輪転動面16との間に摩擦力が生じ、駆動輪100の駆動力がゴムクローラ10へ伝達され、ゴムクローラ10が駆動輪100と遊動輪102との間を循環して、ゴムクローラ10が走行する。」 d.「【0041】 図3に示すように、ゴムベルト12には、クローラ周方向に沿って延びる無端帯状のベルト層20が埋設されている。このベルト層20は、クローラ幅方向の両端部20Aがクローラ幅方向両側の周方向溝18よりもクローラ幅方向外側にそれぞれ配置されている。また、ベルト層20は、ゴムベルト12を形成するゴム材よりも硬い材料であり、抗張力(引っ張り強さ)に優れるベルトコードによって構成されている。 【0042】 ベルト層20について具体的に説明すると、図3に示すように、本実施形態のベルト層20は、クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層(本実施形態では、4層積層)して構成されている。なお、図4では、クローラ外周側から見たベルト層20を示している。 【0043】 メインコード層22は、クローラ周方向に沿って螺旋状に巻回された1本のメインコード22Aをゴム被覆して形成、または、クローラ周方向に沿う複数本のメインコード22Aを並列(クローラ幅方向に並列)させると共にゴム被覆して形成されている。 なお、本実施形態では、引張り強度に優れるスチールコードをメインコード22Aとして用いているが、本発明はこの構成に限定されず、十分な引張り強度を有していれば、有機繊維(例えば、ナイロン繊維、芳香族ポリアミド繊維など)で構成した有機繊維コードをメインコード22Aとして用いてもよい。 【0044】 傾斜コード層24は、メインコード22Aに対して傾斜する傾斜コード24Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されている。 一方、傾斜コード層26は、メインコード22Aに対して傾斜コード24Aと逆向きに傾斜する傾斜コード26Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されている。 【0045】 また、ゼロ度コード層28は、メインコード22Aに対して直交する、またはクローラ幅方向に沿う(クローラ周方向に対して90度)ゼロ度コード28Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されている。」 e.「【0047】 なお、本実施形態では、クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層してベルト層20を構成しているが、本発明はこの構成に限定されず、ベルト層20を構成する各コード層の積層順序は、仕様に応じて種々変更してもよい。例えば、クローラ内周側から順にメインコード層22、ゼロ度コード層28、傾斜コード層24、及び傾斜コード層26を積層してベルト層20を構成してもよい。 また、本実施形態では、ベルト層20を上述の4層のコード層(コード層22、24、26、28)で構成しているが、本発明はこの構成に限定されず、ベルト層20を5層以上のコード層で構成しても、3層以下のコード層で構成してもよい。ただし、メインコード層22については、ゴムクローラ10の張力を保持するためのものであり、1層は必要とされる。」 これらの記載事項a.?e.及び図面内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ゴム材によって形成され、駆動輪100及び遊動輪102に巻き掛けられる無端帯状のゴムベルト12と、 クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層して構成され、前記ゴムベルト12に埋設されているベルト層20と、 を有し、 前記ゴムベルト12の外周には平坦状の接地面13が形成されており、 前記メインコード層22は、クローラ周方向に沿う複数本のメインコード22Aをクローラ幅方向に並列させると共にゴム被覆して形成されており、 前記傾斜コード層24は、メインコード22Aに対して傾斜する傾斜コード24Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されており、 前記傾斜コード層26は、メインコード22Aに対して傾斜コード24Aと逆向きに傾斜する傾斜コード26Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されており、 前記ゼロ度コード層28は、クローラ幅方向に沿うゼロ度コード28Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されている、 芯金レスゴムクローラ10。」 (イ)引用例2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用文献5として示された国際公開第2001/53144号(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。 a.明細書第2頁25行目から同頁28行目 「本発明の基本的な構成を示すもので、スチール等からなる周方向メインコード5とその外周側(接地側で図面下方)に配設された同じくスチール等からなるバイアス等の補強コード7、8が厚さTの本体部2に埋設された芯金レスゴムクローラ1」 b.明細書第3頁16行目から同頁24行目 「図2は、本発明のゴムクローラの第2実施の形態を示す横断面図である。 本実施の形態では、メインコード5の埋設深さHを、H>1/2×Tとなるように埋設して構成したことを特徴とする。つまり、最内層に埋設されるメインコード5を本体部2の厚さTの半分より接地部側に配設したものである。 このような構成によって、内周面側に充分なゴム厚を確保することができるので、走行時の緩衝機能が向上する他、巻掛け中心であるメインコード5からの接地側のゴム厚さを小さくして、引張り歪みを受ける接地ラグ側の変形歪みを小さくでき、耐久性が向上する上、バイアスコード層7、8等が外周側に配設されることによってゴムクローラの横剛性が向上する。」 イ.発明の対比 (ア)本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、引用発明の「ゴム材」は本願補正発明の「弾性材料」に相当し、以下同様に、「駆動輪100」は「駆動輪」に、「遊動輪102」は「従動輪」に、「ゴムベルト12」は「クローラ本体」に、「平坦状の接地面13」は「クローラ本体の外周面」に、「メインコード22A」は「メインコード」に、「傾斜コード24A」は「第1バイアスコード」に、「傾斜コード26A」は「第2バイアスコード」に、「芯金レスゴムクローラ10」は「クローラ」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「ゼロ度コード28A」と本願補正発明の「保護コード」は、「コード」という限度で一致する。 (イ)引用発明の「ゴム材によって形成され、駆動輪100及び遊動輪102に巻き掛けられる無端帯状のゴムベルト12」は、本願補正発明の「弾性材料によって形成され、駆動輪及び従動輪に巻き掛けられる無端帯状のクローラ本体」に相当する。 (ウ)引用発明の「メインコード層22」は、「クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層して構成され、前記ゴムベルト12に埋設されているベルト層20」と特定されるように、ゴムベルト12に埋設されているベルト層20の最内周側に位置しており、併せて図3、5、6も参照すると、「メインコード層22」は、ゴムベルト12に埋設され、前記ゴムベルト12の内周面を形成するゴムベルト内周部のクローラ外周側に重ねられるものと認められる。 そして、引用発明の「ゴムベルト12」は無端帯状であるから、ゴムベルト12の内周面を形成するゴムベルト内周部も無端帯状であるものと認められる。 したがって、引用発明の「クローラ周方向に沿う複数本のメインコード22Aをクローラ幅方向に並列させると共にゴム被覆して形成されて」いる「メインコード層22」は、本願補正発明の「前記クローラ本体に埋設され、前記クローラ本体の内周面を形成する無端帯状の本体内周部のクローラ外周側に重ねられ、クローラ周方向に延びるメインコードを備えるメインコード層」に相当する。 (エ)引用発明の「傾斜コード層24」は、「クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層して構成され、前記ゴムベルト12に埋設されているベルト層20」と特定されるように、ゴムベルト12に埋設されているベルト層20においてメインコード層22の外周側に積層されており、併せて図3、5、6も参照すると、「傾斜コード層24」は、ゴムベルト12に埋設され、メインコード層22のクローラ外周側に重ねられるものと認められる。 また、引用発明の「傾斜コード層24」は、「傾斜コード24Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されて」いるので、バイアスプライを備えているものと認められる。 そして、引用発明の「傾斜コード24A」は、「クローラ周方向に沿う」「メインコード22Aに対して傾斜する」ものであるから、クローラ周方向に対して斜めに延びるものと認められる。 したがって、引用発明の「メインコード22Aに対して傾斜する傾斜コード24Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されて」いる「傾斜コード層24」は、本願補正発明の「前記クローラ本体に埋設され、クローラ周方向に対して斜めに延びる第1バイアスコードをクローラ周方向に並列して構成された第1バイアスプライを備え、前記メインコード層のクローラ外周側に重ねられる第1バイアスコード層」に相当する。 (オ)引用発明の「傾斜コード層26」は、「クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層して構成され、前記ゴムベルト12に埋設されているベルト層20」と特定されるように、ゴムベルト12に埋設されているベルト層20において傾斜コード層24の外周側に積層されており、併せて図3、5、6も参照すると、「傾斜コード層26」は、ゴムベルト12に埋設され、傾斜コード層24のクローラ外周側に重ねられるものと認められる。 また、引用発明の「傾斜コード層26」は、「メインコード22Aに対して傾斜コード24Aと逆向きに傾斜する傾斜コード26Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されて」いるので、バイアスプライを備えているものと認められる。 そして、引用発明の「傾斜コード26A」は、「クローラ周方向に沿う」「インコード22Aに対して傾斜コード24Aと逆向きに傾斜する」ものであるから、クローラ周方向に対して斜めに延びると共に傾斜コード24Aと交差するものと認められる。 したがって、引用発明の「メインコード22Aに対して傾斜コード24Aと逆向きに傾斜する傾斜コード26Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されて」いる「傾斜コード層26」は、本願補正発明の「前記クローラ本体に埋設され、クローラ周方向に対して斜めに延びると共に前記第1バイアスコードと交差する第2バイアスコードをクローラ周方向に並列して構成された第2バイアスプライを備え、前記第1バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられる第2バイアスコード層」に相当する。 (カ)引用発明の「ゼロ度コード層28」は、「クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層して構成され、前記ゴムベルト12に埋設されているベルト層20」と特定されるように、ゴムベルト12に埋設されているベルト層20の最外周側に位置しており、併せて図3、5、6も参照すると、「ゼロ度コード層28」は、ゴムベルト12に埋設され、傾斜コード層26のクローラ外周側に重ねられると共にゴムベルト12の外周面である接地面13を形成するゴムベルト外周部のクローラ内周側に重ねられるものと認められる。 そして、引用発明の「ゴムベルト12」は無端帯状であるから、ゴムベルト12の外周面である接地面13を形成するゴムベルト外周部も無端帯状であるものと認められる。 また、引用発明の「ゼロ度コード層28」は、「クローラ幅方向に沿うゼロ度コード28Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されて」いるので、プライから形成されているものと認められる。 したがって、引用発明の「クローラ幅方向に沿うゼロ度コード28Aをクローラ周方向に並列させると共にゴム被覆して形成されている」「ゼロ度コード層28」と、本願補正発明の「前記クローラ本体に埋設され、前記第2バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられると共に前記クローラ本体の外周面を形成する無端帯状の本体外周部のクローラ内周側に重ねられ、クローラ幅方向に沿って延びる保護コードをクローラ周方向に並列して構成された保護プライを複数枚重ねて形成された保護コード層」は、「前記クローラ本体に埋設され、前記第2バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられると共に前記クローラ本体の外周面を形成する無端帯状の本体外周部のクローラ内周側に重ねられ、クローラ幅方向に沿って延びるコードをクローラ周方向に並列して構成されたプライから形成されたコード層」という限度で一致する。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致している。 <一致点> 「弾性材料によって形成され、駆動輪及び従動輪に巻き掛けられる無端帯状のクローラ本体と、 前記クローラ本体に埋設され、前記クローラ本体の内周面を形成する無端帯状の本体内周部のクローラ外周側に重ねられ、クローラ周方向に延びるメインコードを備えるメインコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、クローラ周方向に対して斜めに延びる第1バイアスコードをクローラ周方向に並列して構成された第1バイアスプライを備え、前記メインコード層のクローラ外周側に重ねられる第1バイアスコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、クローラ周方向に対して斜めに延びると共に前記第1バイアスコードと交差する第2バイアスコードをクローラ周方向に並列して構成された第2バイアスプライを備え、前記第1バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられる第2バイアスコード層と、 前記クローラ本体に埋設され、前記第2バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられると共に前記クローラ本体の外周面を形成する無端帯状の本体外周部のクローラ内周側に重ねられ、クローラ幅方向に沿って延びるコードをクローラ周方向に並列して構成されたプライから形成されたコード層と、 を有する、クローラ。」 そして、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で相違している。 <相違点1> 「前記第2バイアスコード層のクローラ外周側に重ねられると共に前記クローラ本体の外周面を形成する無端帯状の本体外周部のクローラ内周側に重ねられ」る「コード層」に関し、 本願補正発明では、「クローラ幅方向に沿って延びる『保護』コードをクローラ周方向に並列して構成された『保護』プライを『複数枚重ねて』形成された『保護』コード層」であるのに対し、 引用発明では、そのように特定されていない点。 <相違点2> 本願補正発明では、「前記本体内周部の厚みは、前記本体外周部の厚みよりも厚い」のに対し、 引用発明では、そのように特定されていない点。 ウ.相違点の検討 (ア)相違点1について 上記ア.(ア)e.(段落【0047】)に「また、本実施形態では、ベルト層20を上述の4層のコード層(コード層22、24、26、28)で構成しているが、本発明はこの構成に限定されず、ベルト層20を5層以上のコード層で構成しても、3層以下のコード層で構成してもよい。」と記載されているように、引用例1には、引用発明の「クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層して構成され、前記ゴムベルト12に埋設されているベルト層20」を、5層以上のコード層で構成することが示唆されている。 一方、例えば、特開2009-248904号公報(段落【0022】、【0029】、【0030】及び図3等に記載の、第2、第3、第4の補強層33、34、35の点参照)又は特開2010-36730号公報(段落【0022】及び図2等に記載の、二層の0°コード層6、7の点)に記載されるように、芯金レスゴムクローラにおいて、ゴムクローラの外周側にゼロ度コード層を複数重ねて配置するという技術は、従来周知の技術である。 してみれば、引用発明において、上記周知の技術を参酌しつつ、「クローラ内周側から順にメインコード層22、傾斜コード層24、26、及びゼロ度コード層28を積層して構成され、前記ゴムベルト12に埋設されているベルト層20」を、5層以上のコード層で構成するとの示唆に基いて、ゼロ度コード層を複数重ねることで、ベルト層20を5層以上とすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。 そして、その結果として、引用発明の「ゼロ度コード層」は、本願補正発明の「保護コード層」と同様の構成を有することになるから、本願補正発明同様に、傾斜コード層24、26等に対する保護機能を奏する、すなわち、「保護コード層」として機能するものと認められる。 なお、請求人は、平成28年4月20日提出の上申書において、周知例として例示した特開2010-36730号公報について、「引用文献2(特開2010-36730号公報)には二層の0°コード層が記載されています。しかしながら、段落[0006]に『バイアスコード層を排除して、』と明記され、段落[0003]に『バイアスコード層によってゴムクローラの巻き掛け追従性が小さくなり、歯飛びが発生しやすくなる』という問題が生じることが記載されているように、引用文献2の0°コード層については、バイアスコード層との組合せが除外されています。よって、当業者が、引用文献2の二層の0°コード層を、引用文献1のクローラに適用することはありません。」と主張しているが、例えば、特開2010-36730号公報の段落【0019】には、「このように構成してなるゴムクローラ1は、補強層2を、メインコード層5と、二層の0°コード層6,7とで構成してなることで、周方向張力に対してはメインコード層5が、そして、幅方向拡縮力に対しては0°コード層6,7がそれぞれ高い抗力を発揮することができる。」と記載されている。そして、当該公報にバイアスコード層を除外することが記載されているとしても、0°コード層を複数重ねるという技術及びその作用効果を把握することは可能であり、その技術の適用が容易であることは上述したとおりである。したがって、上記請求人の主張は採用できない。 (イ)相違点2について 上記ア.(イ)a.、b.の記載事項及び図面内容を総合すると、引用例2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「引用例2に記載の技術的事項」という。)。 「周方向メインコード5とその外周側に配設された補強コード7、8が厚さTの本体部2に埋設された芯金レスゴムクローラ1において、最内層に埋設される前記メインコード5を本体部2の厚さTの半分より接地部側に配設した、芯金レスゴムクローラ1。」 引用発明と引用例2に記載の技術的事項とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、引用例2に記載の技術的事項の「芯金レスゴムクローラ1」、「本体部2」は、それぞれ、本願補正発明の「クローラ」、「クローラ本体」に相当する。 そして、引用例2に記載の技術的事項の「芯金レスゴムクローラ1」において、「最内層に埋設される前記メインコード5」は「本体部2の厚さTの半分より接地部側に配設」されており、併せて図2を参照すると、本体部2の内周面を形成する本体内周部の厚みは、本体部2の外周面を形成する本体外周部の厚みよりも厚いものと認められる。 したがって、引用例2には、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項と同様な事項が記載されていると認められる。 ここで、上記ア.(イ)b.に「このような構成によって、内周面側に充分なゴム厚を確保することができるので、走行時の緩衝機能が向上する他、巻掛け中心であるメインコード5からの接地側のゴム厚さを小さくして、引張り歪みを受ける接地ラグ側の変形歪みを小さくでき、耐久性が向上する」と記載されるように、引用例2に記載の技術的事項により、芯金レスゴムクローラ1の走行時の緩衝機能の向上及び耐久性の向上が図られることが記載されている。 そして、引用発明の「芯金レスゴムクローラ10」においても、走行時の緩衝機能の向上及び耐久性の向上が好ましいことは、当業者にとって自明の事項である。 また、引用発明の「芯金レスゴムクローラ10」と引用例2に記載の技術的事項の「芯金レスゴムクローラ1」は、ともに芯金レスゴムクローラという点で共通するものでもある。 そうすると、引用例2に記載の技術的事項を、引用発明に適用する動機付けは十分にあるといえる。 してみれば、引用例2に記載の技術的事項を、引用発明に適用し、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。 (ウ)そして、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用例2に記載の技術的事項及び従来周知の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。 エ.まとめ したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載の技術的事項及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成27年10月19日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、かかる請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1.(補正前の請求項1)」に記載されたとおりのものである。 第4 引用例とその記載事項等 原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2、その記載事項、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載の技術的事項は、上記「第2 2.(2)ア.」に記載したとおりである。 第5 当審の判断 本願発明は、本願補正発明から、上記「第2 2.(1)」で述べたとおりの限定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2.(2)ウ.、エ.」で述べたとおり、引用発明、引用例2に記載の技術的事項及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、引用例2に記載の技術的事項及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載の技術的事項及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-01-26 |
結審通知日 | 2017-01-31 |
審決日 | 2017-02-16 |
出願番号 | 特願2014-83145(P2014-83145) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B62D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 畔津 圭介 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
森林 宏和 一ノ瀬 覚 |
発明の名称 | クローラ |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 中島 淳 |