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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B25J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B25J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B25J
管理番号 1326951
異議申立番号 異議2016-700627  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-19 
確定日 2017-02-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5846479号発明「ロボットとその制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5846479号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5について訂正することを認める。 特許第5846479号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5846479号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成23年8月23日に特許出願され、平成27年12月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人小原英一(以下「特許異議申立人」という)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年11月25日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成28年12月27日付けで意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成28年11月25日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という)による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 請求項1ないし4からなる一群の請求項に係る訂正
(ア)訂正事項1
請求項1に「エンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサ」とあるのを、「ワークを把持するエンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサ」に訂正する。

(イ)訂正事項2
請求項1に「前記複数の動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作を含む動作であり」とあるのを、「前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が記憶され」に訂正する。

(ウ)訂正事項3
請求項2に「前記手先接触動作の他に」とあるのを、「前記1つの動作の他に」に訂正する。

イ 請求項5に係る訂正
(ア)訂正事項4
請求項5に「エンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサ」とあるのを、「ワークを把持するエンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサ」に訂正する。

(イ)訂正事項5
請求項5に「前記複数の動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作を含む動作であり」とあるのを、「前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が前記ロボット制御装置に記憶され」に訂正する。

ウ 明細書に係る訂正
(ア)訂正事項6
明細書の段落【0013】の「複数の動作は、例えばワークの把持動作である。しかし、本発明はこれらの動作に限定させず、例えば組立、溶接、塗装等の動作であってもよい。」という記載から、「しかし、本発明はこれらの動作に限定させず、例えば組立、溶接、塗装等の動作であってもよい。」を削除する。

(イ)訂正事項7
明細書の段落【0013】に、「しかし、エンドエフェクタ12は、ロボットハンドに限定されず、その他のツール装置、例えば溶接用ヘッド、塗装用スプレイ装置等であってもよい。」とあるのを、「しかし、エンドエフェクタ12は、ロボットハンドに限定されない。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 請求項1ないし4からなる一群の請求項に係る訂正
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、取消理由通知で「エンドエフェクタ」の定義が不明であると指摘されたことに対し、訂正前の請求項1に記載されたエンドエフェクタを、「ワークを把持する」ものに限定して明確化するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1に関する記載として、明細書の段落【0014】には、「ワーク1は、・・・ロボットハンド12(エンドエフェクタ)が把持するようになっている。」と説明されているから、「ワークを把持するエンドエフェクタ」は明細書に記載されているものと認められる。よって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、取消理由通知で「手先接触動作」の定義が不明であると指摘されたことに対し、「エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作」がワークを把持する動作であって、「把持後持上げ動作」とは別であるとし、「複数の動作のうちの1つの動作」に「手先接触動作」及び「把持後持上げ動作」の両方が含まれることを明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、明細書の段落【0014】-【0015】には、エンドエフェクタがワークを把持する動作を行うことが記載され、段落【0018】には、ロボット制御装置の記憶装置にエンドエフェクタに作用する外力の閾値をロボットの動作毎に予め設定して記憶することが記載され、段落【0025】-【0026】からは、図2に示された「(3)把持位置移動」及び「(4)把持後持ち上げ」の上下動方向の矢印の動作の間は、表1の閾値番号3の「手先接触」によりZ方向の力センサの荷重を検出しない閾値を用いることが理解できる。そして、図2の「(4)把持後持ち上げ」の上方向の移動の直前にワークの把持動作が行われることは、当業者には自明の事項である。そうすると、ワークを把持する動作と把持後持上げ動作とは、同じ閾値を用いており、かつ連続する動作であるから、両動作を1つの動作に含めることも、当業者が当然理解するものと認められる。よって、訂正事項2は、明細書に記載された事項の範囲内において、手先接触動作の定義を明確にしたものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項2で請求項1を訂正したことに伴い、請求項2の記載の整合を図るために訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 請求項5に係る訂正
(ア)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項1に対する訂正事項1と同様の訂正を、請求項5に対して行うものであるから、上記ア(ア)で述べたのと同様の理由で、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項1に対する訂正事項2と同様の訂正を、請求項5に対して行うとともに、閾値の記憶先を「前記ロボット制御装置」であることを明確にするものであるから、上記ア(イ)で述べたのと同様の理由で、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 明細書に係る訂正
(ア)訂正事項6について
訂正事項6は、上記訂正事項1ないし5で特許請求の範囲を訂正したことに伴い、溶接、塗装等の動作についての記載を除去し、明細書の記載の整合を図るために訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項6が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(イ)訂正事項7について
訂正事項7は、上記訂正事項1ないし5で特許請求の範囲を訂正したことに伴い、溶接用ヘッドや塗装用スプレイ装置等のツール装置の例示の記載を除去し、明細書の記載の整合を図るために訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項7が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕,5について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1ないし5」という)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
複数の動作を実行するロボットの制御方法であって、
ワークを把持するエンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
ロボットアームを制御するロボット制御装置とを備え、
(A)外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、
前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が記憶され、
(B)ロボットアームを制御して各動作を順次実行し、
(C)各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボットの制御方法。
【請求項2】
前記複数の動作は、前記1つの動作の他に、空荷で移動、ワークを把持して搬送、挿入又は押付けである、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項3】
力センサに重畳されるエンドエフェクタ又はワークの重量を減算する重力補償を実施する、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項4】
力センサのサンプリング周期において、複数回連続して前記閾値を超えた場合に異常と判定しロボットアームを停止する、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項5】
複数の動作を実行するロボットであって、
ワークを把持するエンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、ロボットアームを制御して各動作を順次実行するロボット制御装置とを備え、
前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が前記ロボット制御装置に記憶され、
各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボット。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、平成28年9月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 特許法第29条第1項第3号
本件特許の請求項1及び5に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、又、本件特許の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、それぞれ特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 特許法第29条第2項
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
ウ 特許法第36条第6項第2号
本件請求項1ないし5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点a及びbで不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。
a.「手先接触動作」の定義が不明で、発明の範囲が特定できない。
b.「エンドエフェクタ」の定義が不明で、発明の範囲が特定できない。

(3)甲号証の記載
ア 甲第1号証(特開2000-263481号公報)
甲第1号証には、「ビンピッキング装置」について、図面とともに以下の記載がある。
「【請求項1】 対象物が入った箱を見下ろすように上方に設置した2台のカメラと、視覚認識装置と、ロボットマニプレータと、ロボットコントローラとで構成し、カメラの映像を基に視覚認識装置が対象物を検出してその三次元的な位置と姿勢を計測し、通信回線を介してロボットコントローラに送られた計測結果を基にマニプレータが対象物を拾い出すビンビッキング装置において、マニプレータに動作の異常を検知するセンサを設置し、マニプレータが部品の拾い出し動作中にセンサが動作の異常を検知したときに、拾い出し動作を停止し、マニプレータを箱から一旦退避させ、視覚認識装置で部品の検出を再度行い、拾い出し作業を継続することを特徴とするビンピッキング装置。
【請求項2】 請求項1において、マニプレータのハンド部に6軸力覚センサを設置し、マニプレータが部品を把持するまでの間にセンサが一定以上の加重を検出した場合、把持の前後でセンサが一定以上の加重の変化を検出しなかった場合、ハンドが部品を把持した後の拾い出し動作中にセンサが一定以上の加重又は一定以上の変化を検知したときに、動作を停止し、マニプレータを箱から一旦退避させ、視覚認識装置で部品の検出を再度行い、拾い出し作業を継続することを特徴とするビンピッキング装置。」
そうすると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「複数の動作を実行するロボットマニプレータの制御方法であって、
部品を把持するハンドに作用する加重を検出する6軸力覚センサと、
3次元空間内でハンドの位置と姿勢を移動可能なロボットマニプレータと、
ロボットマニプレータを制御するロボットコントローラとを備え、
一定の加重を記憶し、
ロボットマニプレータを制御して各動作を順次実行し、
マニプレータが部品を把持するまでの間にセンサが一定以上の加重を検出した場合に、動作を停止する、ロボットマニプレータの制御方法。」(以下「甲1発明」という)

イ 甲第2号証(特開平7-24665号公報)
甲第2号証には、「自動組立装置」について、図面とともに以下の記載がある。
「【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、部品収納手段から部品を取り出して所定位置まで移動し、該部品を組み付ける作業を行うロボットと、該ロボットの動作を制御するロボットコントローラとを備えた自動組立装置において、ロボットの先端部に力検出手段を設けると共に、ロボットコントローラが、前記力検出手段で検出した力のフィードバックによりコンプライアンス制御を行う制御系を含み、力検出手段で検出した力と予め設定された力の閾値とを比較してその比較結果により、ロボットに行わせる次の動作を決定するものである。
【0013】本発明の一態様によると、ロボットは、その先端部を部品収納手段(例えば複数の板状部品を積み重ねて収納できるマガジン)の上方から下降させて該部品収納手段内の部品に接触後、当該部品を保持するように制御され、ロボットコントローラは、前記力検出手段で検出した力と予め設定された力の閾値とを比較して前者の値が当該閾値以上になった時、ロボットの先端部の下降動作を停止するように構成される。
・・・(中略)・・・
【0015】なお、力の閾値は、部品の取出し又は組付け作業の種類又は内容に応じて設定可能である。」
そうすると、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「複数の動作を実行するロボットの制御方法であって、
部品を保持する先端部に作用する力を検出する力検出手段と、
3次元空間内で先端部の位置と姿勢を移動可能なロボットと、
ロボットを制御するロボットコントローラとを備え、
力の閾値を部品の取出し又は組付け作業の種類又は内容に応じて記憶し、
ロボットを制御して各動作を順次実行し、
ロボットの先端部の下降動作中に力検出手段で検出された力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットの先端部を停止する、ロボットの制御方法。」(以下「甲2発明」という)

ウ 甲第3号証(特開昭63-89283号公報)
甲第3号証には、「ロボットの作業実行状態監視装置」について、図面とともに以下の記載がある。
「ロボットの作業実行状態に応じてその検出値を変化させるセンサと、上記作業が正常に行われた時に前記作業の進行に伴って前記センサから順次出力されるべき検出値に基づく値を発生させる手段と、この手段で発生された値と前記作業の実行に伴って順次入力される前記センサからの実際の検出値とを照合し、この照合結果に基づいて前記ロボットの作業実行状態の正常・異常を判定する手段とを具備したことを特徴とするロボットの作業実行状態監視装置。」(特許請求の範囲)
「第1図において、ロボットハンド1には、手首部2に力覚センサ3が装着され、指部4の把持面に触覚センサ5が装着されている。力覚センサ3は、例えばハンドの指部4と平行な方向の力をkgf単位で計測し出力するものである。」(2頁右上欄15?19行)
「これら両センサ3,5からの検出出力信号は、サンプリング部6によって所定のタイミングでサンプリングされA/D変換された後、照合部7の一方の照合入力に入力されている。照合部7の他方の入力には状態監視テーブル8からのデータが与えられている。照合部7から出力される照合結果のデータは、プログラム実行部9に入力されている。プログラム実行部9はプログラム記憶部10に記憶された教示プログラムを内部のメモリにロードして、照合部7からの照合結果を監視しつつ上記教示プログラムを実行するとともに、状態監視テーブル8に現在実行しているプログラムの行番号を状態監視テーブル8のアドレスとして出力している。」(2頁左下欄3?16行)
「この教示プログラムがプログラム記憶部10がらプログラム実行部9にロードされ、これが実行されると、第2図に示すように、ロボットハンド1は、先ずホームポジションHOMEからP1に移動し、ここで指部4が100mmに開き、P2へ移動した後、指部4を50mmに閉じることにより立法体Wを把持し、更にP1→P3→P4と移動して指部4が100mmに開き、立法体WをB点に載置した後、P3→HOMEの順にロボットハンド1が移動して作業が終了することになる。
この教示プログラムに対応する状態監視テーブル8の内容は、例えば第4図に示すようなものとなる。このテーブルの行番号は教示プログラムの行番号と対応しており、それぞれの行番号のコマンドの実行状態が正常である場合に力覚センサ3及び触覚センサ5から順次得られる筈の検出値が行番号と対応させて記憶されている。」(2頁右下欄8行?3頁左上欄4行)
また、第3図及び第4図を見ると、教示プログラムの行番号03でロボットハンドの指部がワークを把持するときの、正常実行状態の力覚センサの検出値が「-0.5?」であるのに対し、行番号04でロボットハンドが把持後に上昇するときの、正常実行状態の力覚センサの検出値が「47.0?53.0」で異なっていることが看取される。

そうすると、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「複数の動作を実行するロボットの制御方法であって、
ワークを把持する指部に作用する該指部と平行な方向の力を検出する力覚センサと、
3次元空間内で指部の位置と姿勢を移動可能なロボットハンドと、
ロボットハンドを制御するプログラム実行部とを備え、
実行状態が正常である場合の検出値をロボットハンドの動作毎に記憶し、
ロボットハンドを制御して各動作を順次実行し、
各動作の実行中に力覚センサで検出された力の検出値が、前記実行状態が正常である場合の検出値を超えた場合に、ロボットの作業実行状態の正常・異常を判定する、ロボットの制御方法。」(以下「甲3発明」という)

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)特許法第29条第1項第3号及び第2項について
a 本件発明1について
本件発明1と、甲1発明及び甲2発明とをそれぞれ対比すると、外力の閾値をロボットの動作毎に記憶するのに際し、本件発明1が、「前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が記憶され」るようにした事項について、甲1発明及び甲2発明が備えていない点で相違する。
甲1発明においては、ハンドにかかる外力を6軸力覚センサで検出するものではあるが、部品の把持時の加重の検出と、部品の把持後のハンドの上昇時の加重の検出とを、同じ動作として共通の閾値を用いて検出することまでは、記載されていない。
甲2発明においては、ロボット先端に取り付けたハンドに対し、力センサを力検出手段としているが、コンプライアンス制御時に下降動作中の力を検出し、閾値以上になったら下降動作を停止するものであり、部品の把持動作及び把持後のハンドの上昇動作を同じ動作として共通の閾値とするものではない。
したがって、甲1発明及び甲2発明は、それぞれ本件発明1と相違点を有するものであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明と同一とは言えない。

b 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様の理由で、甲2発明と同一とは言えない。

c 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の「ロボットの制御方法」に対して、当該ロボットの制御方法を行う制御装置を備えた「ロボット」の発明であるから、本件発明1とは実質的にカテゴリーのみ相違するものである。
よって、本件発明5は、本件発明1と同様の理由で、甲1発明及び甲2発明と同一とは言えない。

(イ)特許法第29条第2項について
a 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比すると、外力の閾値をロボットの動作毎に記憶するのに際し、本件発明1が、「前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が記憶され」るようにした事項について、甲3発明は、ロボットハンドの指部にかかる力を力覚センサで検出するものではあるが、教示プログラムの行番号03のワーク把持時の閾値を「-0.5?」とするのに対し、行番号04の把持後のハンド上昇時の閾値を「47.0?53.0」と異なる値にするものである点で相違する。
そして、本件発明1は、上記「前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が記憶され」るという上記相違点のように構成することで、「エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作が、ワークを把持する時の瞬時または短時間の動作であるので、ワークを把持した状態が正常であるかの判断を手先接触動作の時だけ行う場合には、誤判断となる可能性がある」という課題を、「瞬時または短時間の動作である手先接触動作と、その後の把持後持上げ動作との両方を含む期間にわたって、同じ閾値を超えたかを判断することで、ワークを把持した状態が正常であるかの判断を正確に行える」という解決結果となるようにするものである。
上記課題及び解決結果については、本件特許明細書には直接の記載がなく、平成28年11月25日付けの意見書で主張しているものではあるが、当該課題については本件明細書を見た当業者にとって自明の課題であり、解決結果も本件明細書の段落【0023】の「この場合、力センサ14の誤検出を回避するために、力センサ14のサンプリング周期に対し、3?5サイクル連続で閾値を超えた場合に異常と判定しロボットアーム16を停止するのがよい。」等の記載からみても、当業者が当然に理解できる事項である。
一方、甲第1、2、4?8号証には、上記相違点に係る構成についての記載はなく、上記相違点に係る構成がロボットの制御技術において周知技術であるとも認められない。また、上記相違点に係る構成により、上記の課題を解決する結果が得られるという効果も奏するのであるから、上記相違点に係る構成が単なる設計上の微差とも言うことはできない。
したがって、本件発明1は、甲3発明及び甲第1、2、4?8号証に記載された発明から、当業者が容易に発明することができたものではない。

また、本件発明1と甲1発明及び甲2発明とを対比すると、上記(ア)aで説示したとおり、外力の閾値をロボットの動作毎に記憶するのに際し、本件発明1が、「前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が記憶され」るようにした事項について、甲1発明及び甲2発明が備えていない点で相違する。そして、上記相違点は、甲3発明との相違点と同じである。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2?8号証に記載された発明から、当業者が容易に発明することができたものではないし、また、本件発明1は、甲2発明及び甲第1、3?8号証に記載された発明から、当業者が容易に発明することができたものではない。

b 本件発明2ないし本件発明4について
本件発明2ないし本件発明4は、本件発明1を引用する発明であるから、他の相違点を検討するまでもなく本件発明1と同様の理由で、甲1発明及び甲第2?8号証に記載された発明、甲2発明及び甲第1、3?8号証に記載された発明、甲3発明及び甲第1、2、4?8号証に記載された発明から、それぞれ容易に発明することができたものではない。

c 本件発明5について
本件発明5は、上記のとおり、本件発明1とは実質的にカテゴリーのみ相違するものである。
よって、本件発明5は、本件発明1と同様の理由で、甲1発明及び甲第2?8号証に記載された発明、甲2発明及び甲第1、3?8号証に記載された発明、甲3発明及び甲第1、2、4?8号証に記載された発明から、それぞれ容易に発明することができたものではない。

(ウ)特許法第36条第6項第2号について
a 「手先接触動作」について
「手先接触動作」については、本件訂正請求による訂正により、「把持後持上げ動作」と異なるが、「把持後持上げ動作」と一緒に「1つの動作」としてまとめられるものであり、「エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作」であることが明確になり、この訂正に本件特許明細書の記載を参酌すれば、「手先接触動作が」ワークを把持する動作であって、それ以外のエンドエフェクタの上下移動を伴う動作を含まないものであることが明確になったため、記載不備は解消した。

b 「エンドエフェクタ」について
「エンドエフェクタ」については、本件訂正請求による訂正により、「ワークを把持するエンドエフェクタ」であることが明確になったため、記載不備は解消した。

c 特許異議申立人の意見について
(a)「手先接触動作」について
特許異議申立人は、平成28年12月27日付けの意見書(以下「申立人意見書」という)の10頁20行?15頁21行で、特許法第36条第6項第2号について、理由1?4の理由により「手先接触動作」の定義が依然として不明であると主張しているので、検討する。
上記aで述べたとおり、本件訂正請求による訂正により、「手先接触動作」がワークを把持する動作であることが明確になり、本件特許明細書の【表2】の記載については、「把持後持上げ」動作の動作内容が、「部品を把持し」た後又はその状態で、「上方へ移動」する動作内容であると理解すれば、特許請求の範囲の記載とも矛盾しない。よって、理由1及び理由2について採用することはできない。
さらに、本件特許明細書の【表1】の閾値番号3に対応する動作内容である「手先接触(把持動作中)」については、【表2】からは「把持位置移動」及び「把持後持上げ」が該当することが理解できるが、本件訂正請求による訂正も踏まえれば、ワークを把持する動作である「手先接触動作」も含まれることも明らかである。そして、請求項1及び5の記載における、少なくとも「手先接触動作」及び「把持後持上げ動作」を含む「1つの動作」が、【表1】の閾値番号3の動作内容を行う動作に対応するものと認められるから、請求項2の「複数の動作」が、「1つの動作」以外に、【表1】でいう「空荷で移動」、「ワークを把持して搬送」の動作内容の動作を挙げていることが不明確であるとは言えない。よって、理由3についても採用できない。
また、理由4について検討すると、平成27年5月20日付けの意見書の内容は、「前記複数の動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作を含む動作であり」の構成全てが、甲第3号証に記載されていないというものであり、特許異議申立人が述べているような、「『エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作を含む動作』の構成は開示も示唆もないと主張」しているわけではないため、異議申立人の主張する理由4は失当である。

(b)「エンドエフェクタ」について
申立人意見書15頁下から7行?17頁2行に記載されたエンドエフェクタの定義が依然として不明であるという主張について検討すると、上記bで述べたように、「ワークを把持するエンドエフェクタ」であることが明確になり、明細書から削除された「組立」の動作を行うエンドエフェクタであっても、「ワークを把持する」ものであるか否かで除外されているか否か明確に判断できる。よって、「エンドエフェクタ」の定義が依然として不明であるという特許異議申立人の主張は採用できない。

(c)「1つの動作」について
申立人意見書17頁3?19行に記載された1つの動作の定義が不明確であるという主張について検討すると、特許異議申立人も述べているように、本件訂正請求による訂正により、「1つの動作」とは、「手先接触動作」と「把持後持上げ動作」を含み、これらと同じ閾値が記憶されている動作と解されるものであって、定義は明確であると認められる。そして、当該「1つの動作」が「把持位置移動動作」を含むか否かが不明であるからといって、発明の範囲が特定できないわけではないから、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(d)「前記1つの動作に同じ前記閾値が記憶され」について
申立人意見書17頁下から8行?18頁12行に記載された主張について検討すると、複数の動作の全てに同じ閾値が記憶されているものであっても、それが各動作における条件の変化を考慮して各閾値が設定されたものであれば、本件特許明細書に記載された効果を奏するものと認められる。よって、請求項1ないし5に、課題を解決するために必要な事項の全てが発明特定事項として記載されていないとはいえないから、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(e)「外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し」について
申立人意見書18頁下から16行?19頁13行に記載された主張について検討すると、「この陳述によれば、『手先接触動作』を除く段落0026に記載された各動作においては、エンドエフェクタに作用する外力に対して『閾値』は記憶されていないことになります。」という記載について、なぜ閾値が記憶されていないことになるのか、意味及び根拠が不明であり、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、「本件の全特許発明は、『前記複数の動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作を含む動作であり、』という発明特定事項を含むため、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲外を含んでいる」から、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであると主張している。
しかし、本件訂正請求による訂正により、「手先接触動作」及び「エンドエフェクタ」の定義が明確になり、「溶接、塗装等の動作」や「溶接用ヘッド塗装用スプレイ装置等」の例示が明細書から削除されたため、特許異議申立人の主張は成立しないものとなった。
したがって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ロボットとその制御方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の動作を実行するロボットとその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットのエンドエフェクタに力センサを取り付け、ワークへの衝突や周辺機器への干渉を検出することが、例えば、特許文献1?5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-219205号公報、「直交座標系上で柔らかさが調節可能なサーボ系」
【特許文献2】特開平11-104921号公報、「組立用ロボット」
【特許文献3】特開平5-305591号公報、「組立ロボット」
【特許文献4】特開2011-110688号公報、「ロボットの教示装置、及びロボットの制御装置」
【特許文献5】特開2003-127081号公報、「組立ロボット及び当該組立ロボットによる部品組立方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットが複数の動作を実行する場合、エンドエフェクタやロボットアームに予期せぬ外力が加わったとき、関節モータの負荷トルク値が上昇するため、そのトルク値又はモータ電流から、過負荷を検出してロボットを緊急停止させることが従来から行われている。
しかし、この停止手段の場合、過負荷の検出閾値が高すぎるとワーク、エンドエフェクタ等の破壊事故を招くおそれがある。また、逆に過負荷の検出閾値が低すぎると、正常動作中に頻繁に誤作動して停止する可能性が高い。
【0005】
そこで、障害物との接触力を検知して、その力に応じて倣い制御する「ソフトフロート機能」などが利用されている(例えば、特許文献1)。
しかし、特許文献1の手段は、特定の動作、たとえば部品の嵌め合い動作に適用して、倣い制御することができるが、不測の衝突には対処できない。また、特別な制御アルゴリズムを実装する必要がある。さらに動作が緩慢になる問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、ロボットが複数の動作を実行する場合に、そのうちの特定の動作に制限されずに、各動作における条件の変化を考慮して、各動作において正常動作中に誤作動することなく過負荷を確実に検出し安全に停止させることができるロボットとその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、複数の動作を実行するロボットの制御方法であって、
エンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
ロボットアームを制御するロボット制御装置とを備え、
(A)外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、
前記複数の動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作を含む動作であり、
(B)ロボットアームを制御して各動作を順次実行し、
(C)各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボットの制御方法が提供される。
【0008】
また本発明によれば、複数の動作を実行するロボットであって、
エンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、ロボットアームを制御して各動作を順次実行するロボット制御装置とを備え、
前記複数の動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作を含む動作であり、
各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボットが提供される。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明の装置及び方法によれば、エンドエフェクタに作用する外力の閾値をロボットの動作毎に記憶しており、各動作の実行中に力センサで外力を検出するので、アームの動作状態に応じて、記憶した閾値を超えたときに異常と判定し、自動的にロボットアームを停止することができる。
従ってロボットが複数の動作を実行する場合に、そのうちの特定の動作に制限されずに、各動作における条件の変化を考慮して、各動作において正常動作中に誤作動することなく過負荷を確実に検出し安全に停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるロボットの実施形態図である。
【図2】本発明による把持動作の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0012】
図1(A)(B)は、本発明によるロボットの実施形態図である。
この図において、ロボット10は、複数の動作を実行する自動装置であり、エンドエフェクタ12、力センサ14、ロボットアーム16、及びロボット制御装置20を備える。
【0013】
複数の動作は、例えばワークの把持動作である。
エンドエフェクタ12は、この例ではロボットハンドである。しかし、エンドエフェクタ12は、ロボットハンドに限定されない。
【0014】
この図においてワーク1は、円筒形部材であり、その上端をロボットハンド12(エンドエフェクタ)が把持するようになっている。ワーク1は、この例では、作業台2の上に静置されている。
【0015】
ロボットハンド12は、図1(A)において水平に開閉する1対の爪12aを有し、1対の爪12aでワーク1を把持するようになっている。
【0016】
力センサ14は、エンドエフェクタ12に作用する外力を検出するセンサである。
この例において、力センサ14は直交3軸方向の力(Fx,Fy,Fz)と各軸まわりのトルク(Tx,Ty,Tz)を計測可能な6軸センサであり、3次元的に移動可能なロボットアーム16に取り付けられ、これに作用する6自由度の外力(3方向の力Fx,Fy,Fzと、3軸まわりのトルクTx,Ty,Tz)を検出するようになっている。
なお、本発明はこれに限定されず、エンドエフェクタ12に作用する外力が検出できる限りで、その他の力センサであってもよい。
【0017】
ロボットアーム16は、手先にロボットハンド12を取り付け、その位置と姿勢を3次元空間内で移動可能に構成されている。
ロボットアーム16は、この例では、多関節ロボットのロボットアームであるが、本発明はこれに限定されず、その他のロボットであってもよい。
【0018】
ロボット制御装置20は、記憶装置21にエンドエフェクタ12に作用する外力の閾値をロボット10の動作毎に予め設定して記憶し、ロボットアーム16を制御する。
ロボット制御装置20は、例えば数値制御装置であり、指令信号によりロボットアーム16を6自由度(3次元位置と3軸まわりの回転)に制御するようになっている。
【0019】
記憶装置21に記憶された各動作における外力の閾値の例を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
この例において、複数の動作は、(1)空荷で移動、(2)ワークを把持して搬送、(3)手先接触、(4)挿入又は押付けの4動作である。この各動作に対するが外力の閾値を、例えば表1のように予め設定し記憶装置21に記憶する。
また、この例では、(1)?(4)の各動作における外力の閾値に対応して閾値番号を1?4の整数で表している。
【0022】
図1において、(A)と(B)は、ロボットアーム16(すなわちエンドエフェクタ12)の姿勢の相違を示している。
エンドエフェクタ12が下向きの場合(A)とエンドエフェクタ12が横向きの場合(B)とを比較すると、同じ「空荷で移動」であっても、力センサ14で検出される力に相違が生じる。
従って、ロボットアーム16の姿勢を変更したときには、力センサ14に重畳されるエンドエフェクタ12又はワーク1の重量を減算する重力補償を実施することが好ましい。
【0023】
上述した装置を用い、本発明の方法は、S1?S3の各ステップからなる。
S1では、外力の閾値をロボット10の動作毎に予め設定し、記憶装置21に記憶する。
この記憶内容は、例えば上述した表1の内容である。
S2では、ロボット制御装置20により、ロボットアーム16を制御して各動作を順次実行する。この動作は、例えば表1の(1)?(4)の各動作である。
S3では、各動作の実行中に力センサ14で検出された外力が、記憶した閾値を超えた場合に、ロボットアーム16を停止する。
この場合、力センサ14の誤検出を回避するために、力センサ14のサンプリング周期に対し、3?5サイクル連続で閾値を超えた場合に異常と判定しロボットアーム16を停止するのがよい。
【実施例1】
【0024】
図2は、本発明による把持動作の模式図である。
この例において、把持動作は、(1)計測位置への移動、(2)把持前位置移動、(3)把持位置移動、(4)把持後持上げ、(5)次動作への搬送の各動作からなる。
この各動作に対するが外力の閾値を、例えば表2のように予め設定し記憶装置21に記憶する。
なお、この例では、(1)?(5)の各動作における外力の閾値を、表1の閾値番号で表している。
【0025】
【表2】

【0026】
(3)の「把持位置への移動」から、(4)の「把持後持上げ」が完了するまでの間は、表1の閾値番号3の「手先接触」によりZ方向の力センサ14の過荷重を検出しない。これにより、ロボット手先が部品トレイに接触したときのZ方向発生力を過剰検出しないようにすることができる。
(1)の「計測位置移動」、(2)の「把持前位置移動」は、ワーク1がないことから表1の閾値番号1の「空荷で移動」として扱う。
【0027】
上述した本発明の装置及び方法によれば、外力の閾値をロボットの動作毎に記憶しており、各動作の実行中に力センサで外力を検出するので、アームの動作状態に応じて、記憶した閾値を超えたときに異常と判定し、自動的にロボットアームを停止することができる。
従ってロボットが複数の動作を実行する場合に、そのうちの特定の動作に制限されずに、各動作における条件の変化を考慮して、各動作において正常動作中に誤作動することなく過負荷を確実に検出し安全に停止させることができる
【0028】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0029】
1 ワーク、2 作業台、
10 ロボット、
12 エンドエフェクタ(ロボットハンド)、12a 爪、
14 力センサ、16 ロボットアーム、20 ロボット制御装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の動作を実行するロボットの制御方法であって、
ワークを把持するエンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
ロボットアームを制御するロボット制御装置とを備え、
(A)外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、
前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が記憶され、
(B)ロボットアームを制御して各動作を順次実行し、
(C)各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボットの制御方法。
【請求項2】
前記複数の動作は、前記1つの動作の他に、空荷で移動、ワークを把持して搬送、挿入又は押付けである、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項3】
力センサに重畳されるエンドエフェクタ又はワークの重量を減算する重力補償を実施する、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項4】
力センサのサンプリング周期において、複数回連続して前記閾値を超えた場合に異常と判定しロボットアームを停止する、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項5】
複数の動作を実行するロボットであって、
ワークを把持するエンドエフェクタに作用する外力を検出する力センサと、
3次元空間内でエンドエフェクタの位置と姿勢を移動可能なロボットアームと、
外力の閾値をロボットの動作毎に記憶し、ロボットアームを制御して各動作を順次実行するロボット制御装置とを備え、
前記複数の動作のうちの1つの動作は、エンドエフェクタとワークが接触する手先接触動作と、把持後持上げ動作とを含み、前記1つの動作に同じ前記閾値が前記ロボット制御装置に記憶され、
各動作の実行中に力センサで検出された外力が、前記閾値を超えた場合に、ロボットアームを停止する、ことを特徴とするロボット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-15 
出願番号 特願2011-181174(P2011-181174)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B25J)
P 1 651・ 121- YAA (B25J)
P 1 651・ 537- YAA (B25J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 彰洋  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
長清 吉範
登録日 2015-12-04 
登録番号 特許第5846479号(P5846479)
権利者 株式会社IHI
発明の名称 ロボットとその制御方法  
代理人 野村 俊博  
代理人 堀田 実  
代理人 野村 俊博  
代理人 堀田 実  

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