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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G03F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G03F 審判 全部申し立て 特39条先願 G03F |
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管理番号 | 1326961 |
異議申立番号 | 異議2016-700215 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-03-11 |
確定日 | 2017-03-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5785489号発明「ペリクル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5785489号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5785489号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5785489号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成23年12月27日に特許出願され、平成27年7月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人岡村英紀(以下、単に「申立人」という。)により請求項1?7に対して特許異議の申立てがされ、平成28年7月19日付けで取消理由が通知され(以下、単に「取消理由通知」という。)、同年9月20日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、同年11月11日付けで申立人から意見書が提出され、同年12月5日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年2月6日付けで意見書(以下、単に「意見書」という。)が提出されたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する(訂正事項)。 「 【請求項1】 開口部を有するペリクル枠と、前記ペリクル枠の一端面上に設けられた前記開口部を覆うペリクル膜と、前記ペリクル枠の他端面上に設けられた粘着剤層と、を有するペリクルであって、 前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と硬化材との反応生成物を含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分93?98質量%と、反応性モノマー2?7質量%と、をモノマー単位として含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記粘着剤層の応力緩和率が25%以上90%以下であることを特徴とするペリクル。」 (下線は、訂正箇所である。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。 したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。 3 結論 したがって、上記訂正請求による訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1についての訂正を認める。 第3 本件発明 上述のとおり、訂正後の請求項1についての訂正が認められたので、本件特許の訂正後の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 開口部を有するペリクル枠と、前記ペリクル枠の一端面上に設けられた前記開口部を覆うペリクル膜と、前記ペリクル枠の他端面上に設けられた粘着剤層と、を有するペリクルであって、 前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と硬化材との反応生成物を含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分93?98質量%と、反応性モノマー2?7質量%と、をモノマー単位として含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記粘着剤層の応力緩和率が25%以上90%以下であることを特徴とするペリクル。 【請求項2】 前記粘着剤層に深紫外線を照射した後の前記粘着剤層の剥離力が0.45?4.0kgfであることを特徴とする請求項1に記載のペリクル。 【請求項3】 前記硬化材が、多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のペリクル。 【請求項4】 前記粘着剤層が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量部と前記硬化材0.01?1.0質量部との反応生成物であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のペリクル。 【請求項5】 前記反応性モノマーがアクリル酸を含み、該アクリル酸に由来するモノマー単位の量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し2?7質量%であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のペリクル。 【請求項6】 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、炭素数1?3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のペリクル。 【請求項7】 前記炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位の量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、68?93質量%であり、 前記炭素数1?3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルのモノマー単位の量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、5?25質量%であり、 前記炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸オクチルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記炭素数1?3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることを特徴とする、請求項6に記載のペリクル。」 第4 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由について (1)理由1について ア 本件発明1 (ア)刊行物の記載 取消理由通知において引用した引用文献1(特開2011-128605号公報:甲第1号証)には、 「【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の発明で上記課題が解決することがわかった。 すなわち本発明は 1.ペリクル枠と、該ペリクル枠の一端面にペリクル膜を有し、他端面に粘着剤を有するペリクルであって、該粘着剤のトルエンによる重量膨潤度が5倍以上であることを特徴とするペリクル。 2.該粘着剤が、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化材との反応生成物を含むことを特徴とする上記1に記載のペリクル。 3.該粘着剤の引っ張り速度30mm/minでの引っ張り試験によって得られる23℃における300%モジュラス値が50?350mN/mm^(2)であることを特徴とする請求項1または上記2に記載のペリクル。 4.該硬化材が、多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート系化合物からなる群から選択される少なくともいずれか1つの硬化材であることを特徴とする上記1または上記2に記載のペリクル。」、 「【0019】 本願発明のペリクルに使用する粘着剤は、重量膨潤度が5倍以上であれば限定は無いが、特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化材との反応生成物を含んでなる組成物からなる粘着剤であって、該(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下「A成分」という。)と、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー(以下「B成分」という。)との少なくとも2つのモノマー成分を共重合させることによって得られる共重合体である粘着剤がマスクとの接着力が十分で、且つ、剥離後の糊残りが少ないという点で好ましい。 アルキルエステル共重合体は、A成分が99?80重量%、B成分が1?20重量%である単量体混合物の共重合体であることがマスクへの適度な接着力を発現することができ、より好ましい。」、 「【0050】 <実施例1> (粘着剤前駆体組成物の調整) (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体1は、周知の方法により調整した。具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(30重量部)を入れ、イソブチルアクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸/2-ヒドロキシエチルアクリレート/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(32重量部)を30/66/1.5/2.5/1.0の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を60℃で8時間反応する。反応終了後、トルエン(38重量部)を添加して、不揮発分濃度32重量% のアクリル共重合体溶液を得た(重量平均分子量130万)。得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能性エポキシ化合物(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、不揮発分濃度5%、トルエン溶液)を0.3重量部添加・攪拌混合し、粘着剤前駆体組成物を得た。 【0051】 (粘着剤付ペリクルの作製) その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面に調合した上記粘着剤前駆体組成物をディスペンサーで塗布した。これを2段階で加熱乾燥・キュア(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)して上記粘着剤前駆体組成物からなる粘着剤層(厚み0.2mm)を形成した実施例1のペリクルを得た。ついで、シリコーン離型処理した厚さ100μmのポリエステル製保護フィルムを貼り合わせ、室温(20±3℃)にて3日間養生させ、粘着力を安定化させ、粘着剤付ペリクルを作製した。得られた粘着剤付ペリクルについて、以下の方法で評価を実施した。」、 「【0061】 <実施例5> (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体3は、周知の方法により調整した。具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(50重量部)を入れ、ブチルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(32重量部)を98/2/1の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を65℃で8時間反応する。反応終了後、トルエン(18重量部)を添加して、不揮発分濃度32重量% のアクリル共重合体溶液を得た(重量平均分子量60万)。得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能性エポキシ化合物(1,3-ビスN,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、不揮発分濃度5%、トルエン溶液)を0.3重量部添加・攪拌混合し、粘着剤前駆体組成物を得た。以下実施例1と同様にペリクルサンプルを作製し、評価した。」、 「【0067】 【表1】 」 (下線は、当審が付した。) が記載されている。 (なお、上記段落【0061】の「得られたアクリル共重合体溶液100重量部に」は、「得られたアクリル共重合体100重量部に」の誤記であることは、当業者には明らかである。) これらの記載によれば、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「ペリクル枠と、該ペリクル枠の一端面にペリクル膜を有し、他端面に粘着剤を有するペリクルであって、 粘着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化材との反応生成物を含んでなる組成物からなる粘着剤であって、 (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(50重量部)を入れ、ブチルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(32重量部)を98/2/1の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を65℃で8時間反応させ、反応終了後、トルエン(18重量部)を添加して得られた、不揮発分濃度32重量% のアクリル共重合体溶液であって、 この得られたアクリル共重合体100重量部に多官能性エポキシ化合物(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、不揮発分濃度5%、トルエン溶液)を0.3重量部添加・攪拌混合し、粘着剤前駆体組成物を得て、 その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面に調合した上記粘着剤前駆体組成物をディスペンサーで塗布し、これを2段階で加熱乾燥・キュア(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)して、上記粘着剤層(厚み0.2mm)を形成したペリクル。」 (イ)対比 本件発明1と引用発明1を対比すると、 「開口部を有するペリクル枠と、前記ペリクル枠の一端面上に設けられた前記開口部を覆うペリクル膜と、前記ペリクル枠の他端面上に設けられた粘着剤層と、を有するペリクルであって、 前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と硬化材との反応生成物を含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分93?98質量%と、反応性モノマー2?7質量%と、をモノマー単位として含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であるペリクル。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点1-1) 本件発明1では、「前記粘着剤層の応力緩和率が25%以上90%以下である」のに対して、引用発明1では、「粘着剤層」の応力緩和率が不明である点。 (ウ)判断 以下、上記相違点1-1について検討する。 本件発明1と引用発明1とは、素材に関して、上記のように一致しているうえ、本件発明1の「ペリクル」の実施例3(応力緩和率:55%)の製造方法(下記本件特許明細書の段落【0046】?【0047】、【0056】の記載(特に、下線部参照))と、引用発明1の 「(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(50重量部)を入れ、ブチルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(32重量部)を98/2/1の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を65℃で8時間反応させ、反応終了後、トルエン(18重量部)を添加して得られた、不揮発分濃度32重量% のアクリル共重合体溶液であって、 この得られたアクリル共重合体100重量部に多官能性エポキシ化合物(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、不揮発分濃度5%、トルエン溶液)を0.3重量部添加・攪拌混合し、粘着剤前駆体組成物を得て、 その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面に調合した上記粘着剤前駆体組成物をディスペンサーで塗布し、これを2段階で加熱乾燥・キュア(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)して、上記粘着剤層(厚み0.2mm)を形成した」 とは、製造手順においても、同様のものである。 しかし、特許権者が意見書に添付して提出した「実験成績証明書」(乙第1号証)によれば、引用発明1の「粘着剤層」と同様に作成した「実験1」の粘着剤層の応力緩和率が7.1%であることを参照すれば、引用発明1の「粘着剤層」の応力緩和率は25%以上90%以下である蓋然性が高いとまではいえない。 すると、本件発明1は、上記相違点1-1において、引用発明1と相違する。 したがって、本件発明1は引用発明1であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。 本件特許明細書 「【0046】 <実施例1> (粘着剤組成物の調整) (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体1を、通常の方法により調整した。具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(30質量部)を入れ、ブチルアクリレート(BA)/メチルアクリレート(MA)/アクリル酸(AA)/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(32質量部)を77/19/4/0.3の質量比で仕込んで、反応溶液を調製した。窒素雰囲気下中、この反応溶液を8時間還流させて反応を行った。反応終了後、トルエン(38質量部)を添加して、不揮発分濃度32質量%のアクリル酸アルキルエステル共重合体1の溶液(アクリル共重合体溶液)を得た(重量平均分子量80万)。得られたアクリル共重合体100質量部に、多官能性エポキシ化合物(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、不揮発分濃度5%、トルエン溶液)を0.1質量部添加し、攪拌混合して、粘着剤前駆体組成物の溶液を得た。 【0047】 (粘着剤層付ペリクルの作製) その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面の全面に、調合した上記粘着剤前駆体組成物の溶液をディスペンサーで塗布した。塗布された溶液を2段階(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)の加熱によって乾燥及びキュアして、実施例1のペリクル用粘着剤組成物からなる粘着剤層(厚み0.3mm)を有する実施例1のペリクルを得た。ついで、シリコーン離型処理した厚さ100μmのポリエステル製保護フィルムを粘着剤層に貼り合わせた。その状態で室温(20±3℃)にて3日間養生させて粘着力を安定化させ、粘着剤層付ペリクルを作製した。得られた粘着剤層付ペリクルについて、以下の方法で評価を実施した。」、 「【0056】 <実施例3> 攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(30質量部)を入れ、ブチルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(32質量部)を96/4/1.0の質量比で仕込んで、反応溶液を調製した。窒素雰囲気下中、この反応溶液を60℃で8時間加熱して、反応を行った。反応終了後、トルエン(38質量部)を添加して、不揮発分濃度32質量%のアクリル酸アルキルエステル共重合体2の溶液(アクリル共重合体溶液)を得た(重量平均分子量80万)。得られたアクリル共重合体100質量部に、多官能性エポキシ化合物(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、不揮発分濃度5%、トルエン溶液)を0.1質量部添加し、攪拌混合して、粘着剤前駆体組成物の溶液を得た。以下は実施例1と同様にしてペリクルを作製し、その評価を行った。」 イ 本件発明2?5 本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであって、上記「ア」で検討したとおり、本件発明1は引用発明1であるとはいえないから、同様に、本件発明2?5は引用発明1であるとはいえない。 したがって、本件発明2?5は特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。 (2)取消理由通知に記載した取消理由2について ア 本件発明1 (ア)刊行物の記載 取消理由通知において引用した引用文献2(特開2010-2895号公報:甲第3号証)には、 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、クロム薄膜表面と石英表面との双方の基材に対して適切な付着力を有し、剥離時に基材表面に残りにくいペリクル用粘着材を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と多官能性エポキシ化合物とを反応させた生成物を用いることにより、クロム薄膜表面と石英表面との双方の基材に対して適切な付着力(以下「粘着力」ともいう。)を有し、剥離時に基材表面に残りにくい粘着材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0009】 すなわち、本発明の一は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部と多官能性エポキシ化合物0.005?3重量部との反応生成物を含んでなる組成物であって、該(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、エポキシ基との反応性を有する官能基を有するモノマーとの少なくとも2つのモノマー成分を共重合させることによって得られる共重合体であることを特徴とするペリクル用粘着材組成物である。 【0010】 上記多官能性エポキシ化合物は、2?4個のエポキシ基を有する含窒素エポキシ化合物であることが好ましい。また、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成するモノマー総量の9?59重量%が炭素数4?14の分岐したアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。 本発明の二は、ペリクル枠の一端面に接着されたペリクル膜を有し、該ペリクル枠の他端面に本発明の一のペリクル用粘着材組成物からなる粘着材層を有することを特徴とするペリクルである。」、 「【0020】 本発明の粘着材組成物には、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と多官能性エポキシ化合物からなる架橋剤との反応生成物を含有する。 かかる架橋剤としては、多官能性エポキシ化合物以外にも、金属塩、金属アルコキシド、アルデヒド系化合物、非アミノ樹脂系アミノ化合物、尿素系化合物、イソシアネート系化合物、金属キレート系化合物、メラミン系化合物、アジリジン系化合物など、通常の粘着材に使用される架橋剤をあげることができるが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が有する官能基成分との反応性の点から、多官能性エポキシ化合物が好ましい。」、 「【0030】 <実施例1> (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体1は、周知の方法により調整した。具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(30重量部)を入れ、イソブチルアクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸/2-ヒドロキシエチルアクリレート/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(32重量部)を48/48/1.5/2.5/0.5の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を還流温度で8時間反応する。反応終了後、トルエン(38重量部)を添加して、不揮発分濃度32重量% のアクリル共重合体溶液を得た。次いで得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能性エポキシ化合物溶液(溶媒をトルエンとし、多官能性エポキシ化合物溶液中には1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを不揮発成分として5重量%含む)を1.5重量部添加した。この時、多官能性エポキシ化合物は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部あたり0.23重量部であった。その後攪拌混合し、粘着材前駆体組成物を得た。 【0031】 その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面に調合した上記粘着材前駆体組成物をディスペンサーで塗布した。これを2段階で加熱乾燥・キュア(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)して、実施例1のペリクル用粘着材組成物からなる粘着材層(厚み0.2mm)を形成した実施例1のペリクルを得た。ついで、シリコーン離型処理した厚さ100μmのポリエステル製保護フィルムを貼り合わせ、室温(20±3℃)にて3日間養生させ、粘着力を安定化させた。その後、該保護フィルムを剥がして、6025石英ブランクス基材および6025クロム付きマスクブランクス基材に簡易型マウンターで加重(30Kgf、60sec)貼付を行い、ペリクルを貼り付けた基材を得た。 ペリクルを貼り付けた基材を、室温(20±3℃)にて2時間放置後、粘着力と剥離性を前述の方法で評価した。 【0032】 <実施例2> (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体2は、実施例1と同様に調整した。具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(32重量部)を入れ、ブチルアクリレート/2-エチルヘキシルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(38重量部)を52/41/7/0.5の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を還流温度で8時間反応する。反応終了後、トルエン(30重量部)を添加して、不揮発分濃度38重量% のアクリル共重合体溶液を得た。次いで、得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能性エポキシ化合物溶液(溶媒をトルエンとし、多官能性エポキシ化合物溶液中には1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを不揮発成分として5重量%含む)を3重量部添加した。この時、多官能性エポキシ化合物は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部あたり0.39重量部であった。その後攪拌混合し、粘着材前駆体組成物を得た。 以下、実施例1と同様にして、実施例2のペリクル用粘着材組成物からなる粘着材層を形成した実施例2のペリクルを作成し、ペリクルの基材に対する粘着力および剥離性を評価して結果を表1に記載した。」 (下線は、当審が付した。) が記載されている。 これらの記載によれば、引用文献2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「ペリクル枠と、該ペリクル枠の一端面に接着されたペリクル膜を有し、該ペルクル枠の他端面にペリクル用粘着材組成物からなる粘着材層を有するペリクルであって、 ペリクル用粘着材組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、多官能性エポキシ化合物からなる架橋剤との反応生成物を含有し、 (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(32重量部)を入れ、ブチルアクリレート/2-エチルヘキシルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(38重量部)を52/41/7/0.5の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を環流温度で8時間反応させ、反応終了後、トルエン(30重量部)を添加して得られた、不揮発分濃度38重量%のアクリル共重合体溶液であって、 この得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能性エポキシ化合物溶液(溶媒をトルエンとし、多官能性エポキシ化合物溶液中には1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを不揮発成分として5重量%含む)を3重量部添加し、このとき、多官能性エポキシ化合物は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部あたり0.39重量部であり、その後攪拌混合し、粘着材前駆体組成物を得て、 その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面に調合した上記粘着材前駆体組成物をディスペンサーで塗布し、これを2段階で加熱乾燥・キュア(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)して、ペリクル用粘着材組成物からなる粘着材層(厚み0.2mm)を形成したペリクル。」 (イ)対比 本件発明1と引用発明2を対比すると、 「開口部を有するペリクル枠と、前記ペリクル枠の一端面上に設けられた前記開口部を覆うペリクル膜と、前記ペリクル枠の他端面上に設けられた粘着剤層と、を有するペリクルであって、 前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と硬化材との反応生成物を含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分93?98質量%と、反応性モノマー2?7質量%と、をモノマー単位として含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であるペリクル。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点2-1) 本件発明1では、「前記粘着剤層の応力緩和率が25%以上90%以下である」のに対して、引用発明2では、「粘着剤層」の応力緩和率が不明である点。 (ウ)判断 以下、上記相違点2-1について検討する。 本件発明1と引用発明2とは、素材に関して、上記のように一致しているうえ、本件発明1の「ペリクル」の実施例3(応力緩和率:55%)の製造方法(本件特許明細書の段落【0046】?【0047】、【0056】の記載(上記「(1)」「ア」「(ウ)」で引用)を参照)は、引用発明2の 「(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(32重量部)を入れ、ブチルアクリレート/2-エチルヘキシルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(38重量部)を52/41/7/0.5の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を環流温度で8時間反応させ、反応終了後、トルエン(30重量部)を添加して得られた、不揮発分濃度38重量%のアクリル共重合体溶液であって、 この得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能性エポキシ化合物溶液(溶媒をトルエンとし、多官能性エポキシ化合物溶液中には1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを不揮発成分として5重量%含む)を3重量部添加し、このとき、多官能性エポキシ化合物は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部あたり0.39重量部であり、その後攪拌混合し、粘着材前駆体組成物を得て、 その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面に調合した上記粘着材前駆体組成物をディスペンサーで塗布し、これを2段階で加熱乾燥・キュア(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)して、ペリクル用粘着材組成物からなる粘着材層(厚み0.2mm)を形成した」 とは、製造手順においても、同様のものである。 しかし、特許権者が意見書に添付して提出した「実験成績証明書」(乙第1号証)によれば、引用発明2の「粘着剤層」と同様に作成した「実験2」の粘着剤層の応力緩和率は12.7%であることを参照すれば、引用発明2の「粘着剤層」の応力緩和率は25%以上90%以下である蓋然性が高いとまではいえない。 すると、本件発明1は、上記相違点2-1において、引用発明2と相違する。 したがって、本件発明1は引用発明2であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。 イ 本件発明2?5 本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであって、上記「ア」で検討したとおり、本件発明1は引用発明2であるとはいえないから、同様に、本件発明2?5は引用発明2であるとはいえない。 したがって、本件発明2?5は特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。 (3)取消理由通知に記載した取消理由3について ア 本件発明1 (ア)刊行物の記載 引用文献2には、上記「(2)」「ア」「(ア)」で引用した段落【0007】?【0010】、【0020】、【0030】?【0031】の他、 「【0034】 <実施例3> (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体3は、実施例1と同様に調整した。具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(23重量部)を入れ、ブチルアクリレート/オクチルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(35重量部)を75/20/5/0.5の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を還流温度で8時間反応する。反応終了後、トルエン(42重量部)を添加して、不揮発分濃度35重量% のアクリル共重合体溶液を得た。次いで、得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能エポキシ化合物溶液(溶媒をトルエンとし、多官能性エポキシ化合物溶液中には1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを不揮発成分として5重量%含む)を4重量部添加した。この時、多官能性エポキシ化合物は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部あたり0.57重量部であった。その後攪拌混合し、粘着材前駆体組成物を得た。 以下、実施例1と同様にして、実施例3のペリクル用粘着材組成物からなる粘着材層を形成した実施例3のペリクルを作成し、ペリクルの基材に対する粘着力、および剥離性を評価して結果を表1に記載した。」 (下線は、当審が付した。) が記載されている。 これらの記載によれば、引用文献2には以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「ペリクル枠と、該ペリクル枠の一端面に接着されたペリクル膜を有し、該ペルクル枠の他端面にペリクル用粘着材組成物からなる粘着材層を有するペリクルであって、 ペリクル用粘着材組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、多官能性エポキシ化合物からなる架橋剤との反応生成物を含有し、 (メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(23重量部)を入れ、ブチルアクリレート/オクチルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(35重量部)を75/20/5/0.5の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を環流温度で8時間反応させ、反応終了後、トルエン(42重量部)を添加して得られた、不揮発分濃度35重量%のアクリル共重合体溶液であって、 この得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能性エポキシ化合物溶液(溶媒をトルエンとし、多官能性エポキシ化合物溶液中には1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを不揮発成分として5重量%含む)を4重量部添加し、このとき、多官能性エポキシ化合物は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部あたり0.57重量部であり、その後攪拌混合し、粘着材前駆体組成物を得て、 その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面に調合した上記粘着剤前駆体組成物をディスペンサーで塗布し、これを2段階で加熱乾燥・キュア(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)して、ペリクル用粘着材組成物からなる粘着剤層(厚み0.2mm)を形成したペリクル。」 (イ)対比 本件発明1と引用発明3を対比すると、 「開口部を有するペリクル枠と、前記ペリクル枠の一端面上に設けられた前記開口部を覆うペリクル膜と、前記ペリクル枠の他端面上に設けられた粘着剤層と、を有するペリクルであって、 前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と硬化材との反応生成物を含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分93?98質量%と、反応性モノマー2?7質量%と、をモノマー単位として含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であるペリクル。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点3-1) 本件発明1では、「前記粘着剤層の応力緩和率が25%以上90%以下である」のに対して、引用発明3では、「粘着剤層」の応力緩和率が不明である点。 (ウ)判断 以下、上記相違点3-1について検討する。 本件発明1と引用発明3とは、素材に関して、上記のように一致しているうえ、本件発明1の「ペリクル」の実施例3(応力緩和率:55%)の製造方法(本件特許明細書の段落【0046】?【0047】、【0056】の記載(上記「(1)」「ア」「(ウ)」で引用)を参照)は、引用発明3の 「(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に酢酸エチル(23重量部)を入れ、ブチルアクリレート/オクチルアクリレート/アクリル酸/2、2’-アゾビスイソブチロニトリルの混合物(35重量部)を75/20/5/0.5の重量比で仕込み、窒素雰囲気下中、この反応溶液を環流温度で8時間反応させ、反応終了後、トルエン(42重量部)を添加して得られた、不揮発分濃度35重量%のアクリル共重合体溶液であって、 この得られたアクリル共重合体溶液100重量部に多官能性エポキシ化合物溶液(溶媒をトルエンとし、多官能性エポキシ化合物溶液中には1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンを不揮発成分として5重量%含む)を4重量部添加し、このとき、多官能性エポキシ化合物は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部あたり0.57重量部であり、その後攪拌混合し、粘着材前駆体組成物を得て、 その後、一端面にペリクル膜を接着したアルミ合金製のペリクル枠(外径113mm×149mm、内径109mm×145mm、高さ4.8mm)の他端面に調合した上記粘着剤前駆体組成物をディスペンサーで塗布し、これを2段階で加熱乾燥・キュア(1段階:100℃、8分;2段階:180℃、8分)して、ペリクル用粘着材組成物からなる粘着剤層(厚み0.2mm)を形成した」 とは、製造手順においても、同様のものである。 しかし、特許権者が意見書に添付して提出した「実験成績証明書」(乙第1号証)によれば、引用発明3の「粘着剤層」と同様に作成した「実験3」の粘着剤層のの応力緩和率は10.3%であることを参照すれば、引用発明3の「粘着剤層」の応力緩和率は25%以上90%以下である蓋然性が高いとまではいえない。 すると、本件発明1は、上記相違点3-1において、引用発明3と相違する。 したがって、本件発明1は引用発明3であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。 イ 本件発明2?5 本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであって、上記「ア」で検討したとおり、本件発明1は引用発明3であるとはいえないから、同様に、本件発明2?5は引用発明3であるとはいえない。 したがって、本件発明2?5は特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。 (4)小括 以上検討のとおり、本件発明1?5は、いずれも、引用発明1、2又は3であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許法第29条第1項第3号 申立人は、本件発明1?5は、引用文献1(甲第1号証)、引用文献2(甲第3号証)に加え、特開2011-107468号公報(甲第2号証)に記載された発明と実質的に同一であると主張している。 まず、甲第1及び3号証に記載された発明について、上記1での検討を参照すると、引用発明1、2及び3以外の、甲第1及び3号証に記載された他の実施例(発明)も、本件発明1?5と、応力緩和率の数値において一致しているとはいえないから、本件発明1?5は、甲第1及び3号証に記載された発明と実質的に同一であるとはいえないことは明らかである。 次に、甲第2号証に記載された発明について、上記1での検討を参照すると、甲第2号証に記載された実施例(発明)は、いずれも、本件発明1?5と、応力緩和率の数値において一致しているとはいえないから、やはり、本件発明1?5は、甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であるとはいえないことは明らかである。 したがって、本件発明1?5は、いずれも、甲第1?3号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。 (2)特許法第29条第2項 ア 本件発明1?5 申立人は、本件発明1?5が、甲第1?3号証に記載された発明ではないとしても、当業者がその違いを区別することができないほどのものでしかないものであるから、特許法第29条第2項に規定により取り消されるべきものであると主張している。 しかし、本件発明1?5と、甲第1?3号証に記載された発明とは、応力緩和率の数値において一致しているとはいえず、また、この応力緩和率の数値に係る本件発明1?5の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得るものであるとする理由もない。 したがって、本件発明1?5は、甲第1?3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明6、7 申立人は、本件発明6、7は、甲第1?3号証、甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。 しかし、甲第6、7号証には、ペリクルとマスクを貼着する粘着材として、応力緩和率が25%以上90%以下である粘着材は記載も示唆もされていないことは明らかである。 すると、甲第1?3号に記載された発明に、甲第6、7号証に記載された技術事項を参酌しても、この応力緩和率の数値に係る本件発明1?5の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得るものではない。 さらに、取消理由(決定の予告)の「第4 当審の判断」「2 本件発明6及び7について」で検討したとおり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成するモノマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数について、甲第1?3号証に記載された発明に、甲第6又は7号証に記載された発明を適用することはできない。 したがって、本件発明6、7は、甲第1?3号証、甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)特許法第39条第1項 申立人は、本件発明1?5は、特許第5319500号公報(甲第4号証:甲第2号証の出願に係る特許公報)、特許第5484785号公報(甲第5号証:甲第3号証の出願に係る特許公報)の特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一であると主張している。 しかし、甲第4及び5号証の特許請求の範囲の各請求項に記載された発明は、いずれも、応力緩和率が25%以上90%以下であるという発明特定事項を有さないことは明らかである。 また、上記1での検討を踏まえると、甲第4及び5号証の特許請求の範囲の各請求項に記載された発明が、実質的に、応力緩和率が25%以上90%以下であるという発明特定事項を備えるものであるということもできない。 したがって、本件発明1?5は、甲第4、5号証の特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。 (4)小括 以上検討のとおり、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての申立人の主張は理由がない。 第5 むずび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に、本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 開口部を有するペリクル枠と、前記ペリクル枠の一端面上に設けられた前記開口部を覆うペリクル膜と、前記ペリクル枠の他端面上に設けられた粘着剤層と、を有するペリクルであって、 前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と硬化材との反応生成物を含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分93?98質量%と、反応性モノマー2?7質量%と、をモノマー単位として含み、 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記粘着剤層の応力緩和率が25%以上90%以下であることを特徴とするペリクル。 【請求項2】 前記粘着剤層に深紫外線を照射した後の前記粘着剤層の剥離力が0.45?4.0kgfであることを特徴とする請求項1に記載のペリクル。 【請求項3】 前記硬化材が、多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のペリクル。 【請求項4】 前記粘着剤層が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量部と前記硬化材0.01?1.0質量部との反応生成物であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のペリクル。 【請求項5】 前記反応性モノマーがアクリル酸を含み、該アクリル酸に由来するモノマー単位の量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し2?7質量%であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のペリクル。 【請求項6】 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、炭素数1?3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のペリクル。 【請求項7】 前記炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位の量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、68?93質量%であり、 前記炭素数1?3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルのモノマー単位の量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマー単位に対し、5?25質量%であり、 前記炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸オクチルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記炭素数1?3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることを特徴とする、請求項6に記載のペリクル。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-02-23 |
出願番号 | 特願2011-286865(P2011-286865) |
審決分類 |
P
1
651・
4-
YAA
(G03F)
P 1 651・ 121- YAA (G03F) P 1 651・ 113- YAA (G03F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松岡 智也 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 伊藤 昌哉 |
登録日 | 2015-07-31 |
登録番号 | 特許第5785489号(P5785489) |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | ペリクル |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 西本 博之 |
代理人 | 西本 博之 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 沖田 英樹 |
代理人 | 沖田 英樹 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |