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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K |
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管理番号 | 1326962 |
異議申立番号 | 異議2016-700481 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-05-20 |
確定日 | 2017-02-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5820207号発明「経皮吸収促進用組成物および貼付製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5820207号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-8]について訂正することを認める。 特許第5820207号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5820207号の発明についての出願は、平成23年9月13日を出願日とする特許出願であって、平成27年10月9日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、平成28年5月20日に特許異議申立人本田史樹より特許異議の申立てがなされ、同年8月9日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月13日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その後、同年12月8日に特許異議申立人本田史樹から意見書の提出があったものである。 第2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による請求項1?8に係る訂正は、以下の訂正事項1のとおりである。なお、下線は訂正請求書のとおりである。 訂正事項1 請求項1に記載の「炭素数12?20の不飽和高級アルコールと、炭素数3?8の多価アルコールと、炭素数2?9の有機アミンとを含み、多価アルコールと高級アルコールと有機アミンとの合計重量100重量部において、多価アルコールが90?97重量部である、経皮吸収促進用組成物。」を「炭素数12?20の不飽和高級アルコールと、炭素数3?8の多価アルコールと、炭素数2?9の有機アミンとを含み、多価アルコールと高級アルコールと有機アミンとの合計重量100重量部において、多価アルコールが90?97重量部である、経皮吸収促進用組成物(但し、カルボキシビニルポリマーまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む組成物を除く)。」と訂正する。また、当該請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし8も併せて訂正する。なお、訂正前の請求項1ないし8は、一群の請求項である。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項1は、訂正前の請求項1の「炭素数12?20の不飽和高級アルコールと、炭素数3?8の多価アルコールと、炭素数2?9の有機アミンとを含み、多価アルコールと高級アルコールと有機アミンとの合計重量100重量部において、多価アルコールが90?97重量部である、経皮吸収促進用組成物。」を、「炭素数12?20の不飽和高級アルコールと、炭素数3?8の多価アルコールと、炭素数2?9の有機アミンとを含み、多価アルコールと高級アルコールと有機アミンとの合計重量100重量部において、多価アルコールが90?97重量部である、経皮吸収促進用組成物(但し、カルボキシビニルポリマーまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む組成物を除く)。」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし8について訂正することを認める。 第3 特許異議申立について (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 炭素数12?20の不飽和高級アルコールと、炭素数3?8の多価アルコールと、炭素数2?9の有機アミンとを含み、多価アルコールと高級アルコールと有機アミンとの合計重量100重量部において、多価アルコールが90?97重量部である、経皮吸収促進用組成物(但し、カルボキシビニルポリマーまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む組成物を除く)。 【請求項2】 炭素数12?20の不飽和高級アルコールが、直鎖アルコールである、請求項1記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項3】 炭素数12?20の不飽和高級アルコールが、オレイルアルコールを含む、請求項1に記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項4】 炭素数3?8の多価アルコールが、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、オクタンジオールからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1?3のいずれか1項記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項5】 炭素数2?9の有機アミンが、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項6】 酸性薬物の経皮吸収促進用である、請求項1?5のいずれか1項記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項7】 貼付製剤用である、請求項1?6のいずれか1項記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項8】 請求項1?6のいずれか1項記載の組成物と薬物とを含む薬物含有粘着層または薬物貯蔵層を支持体の片面に有する、貼付製剤。」 (2)取消理由の概要 請求項1?8に係る特許に対して平成28年8月9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 請求項1?8に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 イ 請求項1?4に係る発明は、引用文献2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 ウ 請求項1?7に係る発明は、引用文献3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3)引用文献の記載 ア 引用文献1(甲第1号証:特表2011-507904号公報)について 引用文献1には、次のことが記載されている。 (ア1)「・・・。より詳しくいうと、オレイルアルコールおよびオレイン酸等の透過促進剤を含む製剤は、・・・。・・・。」(【0030】) (ア2)「・・・。皮膚に透過した薬物の累積量対時間のプロットの定常傾斜から、皮膚フラックス(μg/cm^(2)/h)を決定する。」(【0039】) (ア3)「(実施例6) 透過促進剤としてのオレイルアルコール。」(【0051】) (ア4)「(実施例7) 透過促進剤としてのオレイルアルコールの有効性。」(【0054】) (ア5)アルプラゾラム製剤Dについて、APIとしてアルプラゾラム1.0%w/w、賦形剤として、プロピレングリコール56.1%w/w、グリセリン27.0%w/w、精製水9.0%w/w、オレイルアルコール3.0%w/w、カルボマーコポリマータイプB1.5%w/w、トロラミン2.3%w/w、エデト酸二ナトリウム0.05%w/w、ブチル化ヒドロキシトルエン0.05%w/wを含有する、組成が記載されている(【0061】【表9】)。 (ア6)「皮膚フラックスは通常、高い薬剤濃度でより高いか、少なくとも同じであるため、製剤D(1%アルプラゾラム)およびE(1.5%アルプラゾラム)が製剤C(3%アルプラゾラム)より高い透過フラックスを生成したことは意外だった。」(【0062】)。 (ア7)「(実施例11) 1%アルプラゾラムを含む製剤のヒト薬物動態 実施例9の製剤D(1%アルプラゾラム)を0.86グラム含む貯留パッチを、12人のヒト対象で試験した。貯留パッチは、6.23cm^(2)の皮膚-製剤接触面積を有した。パッチを、除去の前に72時間対象の皮膚に適用する。・・・。」(【0065】) 特に上記摘示(ア5)より、引用文献1には以下の発明が記載されているといえる。 「プロピレングリコール56.1%w/w、グリセリン27.0%w/w、精製水9.0%w/w、オレイルアルコール3.0%w/w、カルボマーコポリマータイプB1.5%w/w、トロラミン2.3%w/w、エデト酸二ナトリウム0.05%w/w、ブチル化ヒドロキシトルエン0.05%w/wを含有する、アルプラゾラム製剤の賦形剤。」(以下、「引用発明1-1」という。) また、上記摘示(ア5)及び(ア7)より、引用文献1には以下の発明が記載されているといえる。 「APIとしてアルプラゾラム1.0%w/w、賦形剤として、プロピレングリコール56.1%w/w、グリセリン27.0%w/w、精製水9.0%w/w、オレイルアルコール3.0%w/w、カルボマーコポリマータイプB1.5%w/w、トロラミン2.3%w/w、エデト酸二ナトリウム0.05%w/w、ブチル化ヒドロキシトルエン0.05%w/wを含有する、アルプラゾラム製剤を含む貯留パッチ。」 (以下、「引用発明1-2」という。) イ 引用文献2(甲第2号証:特開平8-133979号公報)について 引用文献2には、次のことが記載されている。 (イ1)「【課題を解決するための手段】本発明者等はシクロスポリン類またはマクロライド系化合物およびオレイルアルコールからなる組成物に、溶剤としてプロピレングリコールを用いることにより高い皮膚透過性が得られることを見い出し、さらに特定の増粘剤を配合することによってのみ、十分な皮膚透過性を保持しかつ、局所適用し得る半固形状組成物が得られることを見出して本発明を完成し得たものである。」(【0009】) (イ2)実施例1には、シクロスポリン含有ゲルとして、シクロスポリン1重量%、オレイルアルコール5重量%、カルボキシビニルポリマー0.2重量%、トリエチルアミン0.17重量%、プロピレングリコール残部の処方例が記載されている。(【0025】【0026】) 以上より、引用文献2には以下の発明が記載されているといえる。 「オレイルアルコール5重量%、カルボキシビニルポリマー0.2重量%、トリエチルアミン0.17重量%、プロピレングリコール93.63重量%を含有する、シクロスポリン含有ゲル。」(以下、「引用発明2」という。) ウ 引用文献3(甲第3号証:特開2000-143540号公報)について 引用文献3には、次のことが記載されている。 (ウ1)「本発明ではこれら所定の水性アルコール系溶媒とオレイン酸及び又はオレイルアルコールとを組合せることを不可欠とする。これらの経皮吸収促進剤は単独で用いてもまた2種を併用してもよい。・・・。」(【0007】) (ウ2)実施例4には、ゲル剤として、エタノール56.6重量%、ケトプロフェノン3重量%、l-メントール3重量%、オレイン酸0.8重量%、オレイルアルコール0.2重量%、グリセリン5.7重量%、ヒドロキシプロピルセルロース0.5重量%、ジイソプロパノールアミン0.4重量%、水29.8重量%を含有する処方例が記載されている(【0013】)。 (ウ3)「実験例3 ヒト貼付試験による安全性評価 本発明の外用消炎鎮痛剤(実施例4,5)・・・のヒト健常皮膚における安全性をオープンパッチテスト及び24時間閉鎖貼付によるクローズドパッチテストにより検討した。・・・。オープンパッチテストは、被験者の上腕内側部に直径1cmの円を描き、予め決められた試験試料割り付け表に従って試料を綿棒で円内に一様に塗布し、20分後、24時間後、48時間後に判定した。クローズドパッチテストは予め決められた割り付け表に従って、試料をフィンチャンバ-にのせた濾紙にしみ込ませ、Scanpor tapeを用いて上腕内側部に24時間閉鎖貼付した。・・・。」(【0033】) 上記摘示(ウ2)より、引用文献3には以下の発明が記載されているといえる。なお、上記摘示(ウ2)には、「ケトプロフェノン」と記載されているが、「ケトプロフェノン」なる物質名は当業者に周知ではないことに加え、引用文献3の【請求項13】、【0027】、【0029】、【0030】には、「ケトプロフェン」と記載されていること、及び「ケトプロフェン」は当業者に周知の物質名であることを考慮すれば、上記摘示(ウ2)の「ケトプロフェノン」は、「ケトプロフェン」の誤記であると認められる。したがって、以下「ケトプロフェノン」は「ケトプロフェン」と記載する。 「エタノール56.6重量%、l-メントール3重量%、オレイン酸0.8重量%、オレイルアルコール0.2重量%、グリセリン5.7重量%、ヒドロキシプロピルセルロース0.5重量%、ジイソプロパノールアミン0.4重量%、水29.8重量%を含有する、貼付用のケトプロフェン外用消炎鎮痛剤。」(以下、「引用発明3」という。) (4)判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由について (ア)引用文献1に対する新規性の検討 a 本件訂正発明1?7について (a)対比 本件訂正発明1?7と、引用発明1-1とを対比すると、後者の「カルボマーコポリマータイプB」は、その記載から、カルボマーの一種、すなわち、カルボキシビニルポリマーの一種であることは自明であることを考慮すれば、以下の点で相違し、その余の点で一致している。 相違点1: 本件訂正発明1?7は、「経皮吸収促進用組成物」であるのに対し、引用発明1-1は「アルプラゾラム製剤の賦形剤」である点 相違点2: 本件訂正発明1?7は、「カルボキシビニルポリマーまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む組成物を除く」のに対し、引用発明1-1は、カルボキシビニルポリマーを含む点 (b)判断 上記相違点2について検討する。 引用文献1には、引用発明1-1のアルプラゾラム製剤の賦形剤から、カルボキシビニルポリマーを除くことは記載されていないし、除くことを示唆する記載もない。 したがって、上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1?7は、引用文献1に対して、上記相違点2の点で少なくとも新規性を有するものである。 b 本件訂正発明8 本件訂正発明8と、引用発明1-2とを対比すると、少なくとも上記相違点1、2の点で相違するから、本件訂正発明8は、上記本件訂正発明1?7についての判断と同様の理由により、新規性を有するものである。 (イ)引用文献2に対する新規性の検討 a 本件訂正発明1?4について (a)対比 本件訂正発明1?4と、引用発明2とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致している。 相違点3: 本件訂正発明1?4は、「経皮吸収促進用組成物」であるのに対し、引用発明2は「シクロスポリン含有ゲル」である点 相違点4: 本件訂正発明1?4は、「カルボキシビニルポリマーまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む組成物を除く」のに対し、引用発明2は、カルボキシビニルポリマーを含む点 (b)判断 上記相違点4について検討する。 引用文献2には、引用発明2のシクロスポリン含有ゲルから、カルボキシビニルポリマーを除くことは記載されていないし、除くことを示唆する記載もない。 したがって、上記相違点4は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1?4は、引用文献2に対して、上記相違点4の点で少なくとも新規性を有するものである。 (ウ)引用文献3に対する新規性の検討 a 本件訂正発明1?7について (a)対比 本件訂正発明1?7と、引用発明3とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致している。 相違点5: 本件訂正発明は、「経皮吸収促進用組成物」であるのに対し、引用発明3は「貼付用のケトプロフェン外用消炎鎮痛剤」である点 相違点6: 本件訂正発明は、「カルボキシビニルポリマーまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む組成物を除く」のに対し、引用発明3はヒドロキシプロピルセルロースを含む点 (b)判断 上記相違点6について検討する。 引用文献3には、引用発明3の貼付用のケトプロフェン外用消炎鎮痛剤から、ヒドロキシプロピルセルロースを除くことは記載されていないし、除くことを示唆する記載もない。 したがって、上記相違点6は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1?7は、引用文献3に対して、上記相違点6の点で少なくとも新規性を有するものである。 (エ)特許異議申立人の意見について 特許異議申立人本田史樹は、訂正により「カルボキシビニルポリマーまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む組成物を除く」とされた事項に関連して、「当該訂正に係る「カルボキシビニルポリマーおよびヒドロキシプロピルセルロース」は、各引用発明においてはゲル剤等の剤型を構築するための基剤ないしゲル化剤等に過ぎず(例えば、甲第3号証・3頁左欄24?25行参照)、各引用発明の作用効果(基本的に本件特許発明と同じ)に直接影響しませんから、例えば、引用発明3において、ゲル基剤(ヒドロキシプロピルセルロース)が他のゲル基剤(他の水溶性高分子、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースと基本等価なヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)やメチルセルロース(参考資料2参照))であっても、本件特許発明の技術分野における当業者であれば引用発明3と異なる発明とは思わず、実質同一の発明と考えます。」と主張する。 しかしながら、カルボキシビニルポリマーおよびヒドロキシプロピルセルロースがゲル剤等の剤型を構築するための基剤ないしゲル化剤等に過ぎないことと、カルボキシビニルポリマーおよびヒドロキシプロピルセルロースを、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやメチルセルロースに代えることが自明であることとは直接関連がないから、カルボキシビニルポリマーおよびヒドロキシプロピルセルロースがゲル剤等の剤型を構築するための基剤ないしゲル化剤等に過ぎないからといって、引用発明3において、ヒドロキシプロピルセルロースをヒドロキシプロピルメチルセルロースやメチルセルロースに代えることは自明とはいえない。したがって、本件訂正発明は引用発明3に対して新規性を有するものである。引用発明1および2についても同様である。 イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (ア)特許異議申立人本田史樹は、特許異議申立書(18頁25行?19頁7行)において、甲2の組成物は、本件特許発明5において限定列記されているトリエチルアミンを含むものであるから、本件特許発明5の構成要件を充足し、したがって、甲2に記載の組成物は、本件特許発明5と同一であることを主張している。 しかしながら、トリエチルアミンは、本件訂正発明5の発明特定事項ではないから、甲2に記載の組成物は、本件訂正発明5と同一であるということはできない。 (イ)特許異議申立人本田史樹は、特許請求の範囲の請求項1?5、7、8に関し、特許異議申立書(20頁14行?22頁最終行)において、甲第4号証(特開2011-51986号公報。以下、「甲4」という。)に記載の発明に、甲第5号証(特開平10-72351号公報。以下、「甲5」という。)の記載や技術常識を踏まえれば進歩性を有しないと主張する。 そこで甲4に基づく進歩性について検討する。 甲4に記載された発明は、特許異議申立書20頁19行?20行に記載のとおり、比較例1および2に基づいて認定でき(以下、「引用発明4」という。)、さらに本件訂正発明との相違点としては、少なくとも特許異議申立書20頁最終行?21頁5行に記載のとおりの相違点を有する。 しかしながら、比較例の具体的処方の成分の含有量、特にプロピレングリコールの含有量に着目する動機付けは見当たらない。 仮に、引用発明4のプロピレングリコールの含有量に着目する動機付けがあったとしても、これを本件訂正発明と同程度まで、例えば、特許異議申立書21頁15行?28行にて試算されるような、甲5におけるプロピレングリコールの含有量の最大値付近まで調製しようとする動機付けがないため、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 よって、本件訂正発明1?5、7、8は、甲4に記載された発明に基づいて想到容易であるということはできない。 (ウ)特許異議申立人本田史樹は、特許請求の範囲1?5、7、8に関し、特許異議申立書(23頁1行?24頁2行)において、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、塩基性薬物や中性薬物に対して、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないため、実施可能要件に違反すると主張する。具体的な主張は以下のとおりである。 「本件特許発明において、塩基性薬物や中性薬物に対する有機アミンの存在意義は全く不明であるといわざるをえない。・・・従って、本件特許明細書の教示によれば、塩基性薬物や中性薬物に対しては、有機アミンは「0」で良いことになるが、一方で本件特許発明は有機アミンを必須の構成成分として含むものであるから、本件特許発明を実施する上で、有機アミンをどのように含有すればよいのか、当業者に過度な試行錯誤を強いるものである。よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、塩基性薬物や中性薬物に対して、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものではない。」 しかしながら、本件特許明細書の【0071】?【0076】では、プロピレングリコール 96重量%、オレイルアルコール 2重量%、ジイソプロパノールアミン 2重量%からなる経皮吸収促進用組成物(実施例9)を調製し、塩基性薬物であるゾルミトリプタンの皮膚透過性の効果を確認しているのであるから、有機アミンの含有については、少なくとも当該実施例を参考にすれば、当業者に過度な試行錯誤を強いることなく、実施することができる。中性薬物についても、同様である(【0077】?【0082】)。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1?5、7、8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないため、実施可能要件に違反する、との主張は理由がない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 炭素数12?20の不飽和高級アルコールと、炭素数3?8の多価アルコールと、炭素数2?9の有機アミンとを含み、多価アルコールと高級アルコールと有機アミンとの合計重量100重量部において、多価アルコールが90?97重量部である、経皮吸収促進用組成物(但し、カルボキシビニルポリマーまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む組成物を除く)。 【請求項2】 炭素数12?20の不飽和高級アルコールが、直鎖アルコールである、請求項1記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項3】 炭素数12?20の不飽和高級アルコールが、オレイルアルコールを含む、請求項1に記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項4】 炭素数3?8の多価アルコールが、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、オクタンジオールからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1?3のいずれか1項記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項5】 炭素数2?9の有機アミンが、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項6】 酸性薬物の経皮吸収促進用である、請求項1?5のいずれか1項記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項7】 貼付製剤用である、請求項1?6のいずれか1項記載の経皮吸収促進用組成物。 【請求項8】 請求項1?6のいずれか1項記載の組成物と薬物とを含む薬物含有粘着層または薬物貯蔵層を支持体の片面に有する、貼付製剤。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-02-13 |
出願番号 | 特願2011-200023(P2011-200023) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K) P 1 651・ 536- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加藤 文彦 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
小川 慶子 齊藤 光子 |
登録日 | 2015-10-09 |
登録番号 | 特許第5820207号(P5820207) |
権利者 | 日東電工株式会社 |
発明の名称 | 経皮吸収促進用組成物および貼付製剤 |
代理人 | 鎌田 光宜 |
代理人 | 高山 繁久 |
代理人 | 中 正道 |
代理人 | 中 正道 |
代理人 | 鎌田 光宜 |
代理人 | 高島 一 |
代理人 | 高山 繁久 |
代理人 | 高島 一 |