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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 発明同一  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1326965
異議申立番号 異議2016-700551  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-20 
確定日 2017-03-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5834793号発明「化学強化ガラスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5834793号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第5834793号の請求項1、3?5、9、10及び12?14に係る特許を維持する。 特許第5834793号の請求項2、6?8及び11についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5834793号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成23年11月11日(優先権主張 平成22年12月24日 平成23年5月23日)に特許出願され、平成27年11月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人井関和子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月25日に意見書及び訂正請求書の提出があり、同年12月2日付けで申立人に、上記取消理由通知の写し、訂正請求書及びこれに添付された訂正した明細書、特許請求の範囲の副本、取消理由通知に対応する特許権者の意見書副本を送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは何らの応答もなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア 特許請求の範囲について
(ア)訂正事項1
請求項1の「Al_(2)O_(3)を7?18%」を「Al_(2)O_(3)を7?9%(9を除く)」に訂正する。
(イ)訂正事項2
請求項1の「CaOを0?5%」を「CaOを0?0.5%」に訂正する。
(ウ)訂正事項3
請求項1の「Na_(2)Oを8?18%」を「Na_(2)Oを12?18%」に訂正する。
(エ)訂正事項4
請求項1の「K_(2)Oを0?1.9%」を「K_(2)Oを0?1%」に訂正する。
(オ)訂正事項5
請求項2を削除する。
(カ)訂正事項6
請求項3の「請求項1または2の化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1の化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(キ)訂正事項7
請求項4の「CaOを0?5%」を「CaOを0?0.5%」に訂正する。
(ク)訂正事項8
請求項4の「K_(2)Oを0?6%」を「K_(2)Oを0?1%」に訂正する。
(ケ)訂正事項9
請求項4の「B_(2)O_(3)、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、」を「B_(2)O_(3)、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、B_(2)O_(3)の含有量が5%以下、」に訂正する。
(コ)訂正事項10
請求項6を削除する。
(サ)訂正事項11
請求項7を削除する。
(シ)訂正事項12
請求項8を削除する。
(ス)訂正事項13
請求項9の「CaOを0?3%」を「CaOを0?0.5%」に訂正する。
(セ)訂正事項14
請求項9の「請求項1?8のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1および3?5のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(ソ)訂正事項15
請求項10の「請求項1?9のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1、3?5および9のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(タ)訂正事項16
請求項11を削除する
(チ)訂正事項17
請求項12の「請求項1?11のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1、3?5、9および10のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(ツ)訂正事項18
請求項13の「請求項1?12のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1、3?5、9、10および12のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(テ)訂正事項19
請求項14の「請求項1?13のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1、3?5、9、10、12および13のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。

イ 明細書について
(ア)訂正事項20
段落【0010】の「Al_(2)O_(3)を7?18%」を「Al_(2)O_(3)を7?9%(9を除く)」に、「CaOを0?5%」を「CaOを0?0.5%」に、「Na_(2)Oを8?18%」を「Na_(2)Oを12?18%」に、「K_(2)Oを0?1.9%」を「K_(2)Oを0?1%」に訂正する。
(イ)訂正事項21
段落【0011】の「CaOを0?5%」を「CaOを0?0.5%」に、「K_(2)Oを0?6%」を「K_(2)Oを0?1%」に、「B_(2)O_(3)、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、」を「B_(2)O_(3)、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、B_(2)O_(3)の含有量が5%以下、」に訂正する。
(ウ)訂正事項22
段落【0014】の「CaOを0?3%」を「CaOを0?0.5%」に訂正する。
(エ)訂正事項23
段落【0064】の「例6?10、13?15、17、19?24、26?28、47、66、67、69、70、72、73、79、80、84、85は本発明の実施例である。」を「例17、47、73、79、80、85は本発明の実施例である。」に訂正する。
(オ)訂正事項24
段落【0064】の「例3?5、11、12、16、18、25、29、30、32?36、49?55、81は参考例である。」を「例3?30、32?36、49?55、66、67、69、70、72、81、84は参考例である。」に訂正する。
(カ)訂正事項25
段落【0012】を削除する。
(キ)訂正事項26
段落【0013】の「また、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO_(2)を62?77%、Al_(2)O_(3)を7?18%、MgOを3?15%、CaOを0?5%、ZrO_(2)を0?4%、Na_(2)Oを8?18%含有し、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の含有量の合計が65?85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3?15%であり、Li_(2)OおよびK_(2)Oを含有しないものである化学強化ガラスの製造方法(以下、第4の発明ということがある。)を提供する。」の記載を削除する。
(ク)訂正事項27
段落【0013】の「なお、Li_(2)OおよびK_(2)Oを含有しないこのガラスを本発明の第4のガラスといい、本発明の第1、第2、第3および第4のガラスを本発明のガラスと総称する。」を「なお、本発明の第1および第2のガラスを本発明のガラスと総称する。」
(ケ)訂正事項28
段落【0014】の「また、Al_(2)O_(3)が9%以上かつCaOが0?2%である前記化学強化ガラスの製造方法を提供する。」の記載を削除する。

(2)訂正の目的の適否
ア 訂正事項1?4、7?9、13について
これらの訂正事項は、各成分範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

イ 訂正事項5、10?12、16にいて
これらの訂正事項は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

ウ 訂正事項6、14、15、17?19について
これらの訂正事項は、引用する請求項を減らすものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

エ 訂正事項20?22、25?28について
これらの訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項と整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

オ 訂正事項23、24について
これらに訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項に合わせて、本発明の実施例、参考例を整理し直したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

(3)新規事項の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、Al_(2)O_(3)の上限を「9%(9を除く)」とするものであるが、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の【0038】にAl_(2)O_(3)について「特に好ましくは9%以下」と記載されており、「9%(9を除く)」すなわち「9%未満」とすることは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

イ 訂正事項2、7、13について
訂正事項2、7及び13は、CaOの上限を「0.5%」とするものであるが、特許明細書等の【0040】にCaOについて「最も好ましくは0.5%以下」と記載されているから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、Na_(2)Oの下限を「12」とするものであるが、特許明細書等の【0042】にNa_(2)Oについて「特に好ましくは12%以上である」と記載されているから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 訂正事項4、8について
訂正事項4及び8は、K_(2)Oの上限を「1%」とするものであるが、特許明細書等の【0043】にK_(2)Oについて「特に好ましくは1%以下」と記載されているから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

オ 訂正事項9について
訂正事項9は、「B_(2)O_(3)の含有量が5%以下」とするものであるが、特許明細書等の【0051】に「B_(2)O_(3)は溶融性向上のために5%以下であることが好ましい」と記載されているから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

カ 訂正事項5、10?12、16について
これらの訂正事項は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

キ 訂正事項6、14、15、17?19について
これらの訂正事項は、引用する請求項を減らすものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ク 訂正事項20?22、25?28について
これらの訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項と整合を図るものであり、上記ア?キで説示したとおり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ケ 訂正事項23、24について
これらに訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項に合わせて、本発明の実施例、参考例を整理し直したものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
特許請求の範囲についての訂正事項1?19及び明細書ついての訂正事項20?28は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正事項1?19に係る訂正前の請求項1?14は、互いに引用、被引用の関係にあるから一群の請求項であり、これらの訂正は、特許法120条の5第4項に適合する。また、明細書についての訂正事項20?28は、当該一群の請求項の全てに対する訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3?5、9、10及び12?14に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1、3?5、9、10及び12?14」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1、3?5、9、10及び12?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、
ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO_(2)を61?77%、Al_(2)O_(3)を9(9を除く)?18%、MgOを3?15%、CaOを0?0.5%、ZrO_(2)を0?4%、Na_(2)Oを12?18%、K_(2)Oを0?1%含有し、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の含有量の合計が65?85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3?15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるRが0.66以上である化学強化ガラスの製造方法。
R=0.029×SiO_(2)+0.021×Al_(2)O_(3)+0.016×MgO-0.004×CaO+0.016×ZrO_(2)+0.029×Na_(2)O+0×K_(2)O-2.002
【請求項3】
SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、ZrO_(2)、Na_(2)OおよびK_(2)Oの含有量の合計が98.5%以上である請求項1の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項4】
溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO_(2)を61?77%、Al_(2)O_(3)を9.1?18%、MgOを3?15%、CaOを0?0.5%、ZrO_(2)を0?4%、Na_(2)Oを8?18%、K_(2)Oを0?1%ならびにB_(2)O_(3)、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、B_(2)O_(3)の含有量が5%以下、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の含有量の合計が65?85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3?15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるR’が0.66以上であるものである化学強化ガラスの製造方法。
R’=0.029×SiO_(2)+0.021×Al_(2)O_(3)+0.016×MgO-0.004×CaO+0.016×ZrO_(2)+0.029×Na_(2)O+0×K_(2)O+0.028×B_(2)O_(3)+0.012×SrO+0.026×BaO-2.002
【請求項5】
SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、ZrO_(2)、Na_(2)O、K_(2)O、B_(2)O_(3)、SrOおよびBaOの含有量の合計が98.5%以上である請求項4の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
SiO_(2)が63%以上、Al_(2)O_(3)が12%以下、MgOが12%以下、CaOが0?0.5%である請求項1および3?5のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
ZrO_(2)が2.5%以下かつNa_(2)Oが10%以上である請求項1、3?5および9のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項12】
化学強化ガラスの表面に形成された圧縮応力層の厚みが10μm以上、表面圧縮応力が200MPa以上である請求項1、3?5、9および10のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項13】
化学強化ガラスが厚み1.5mm以下のガラス板である請求項1、3?5、9、10および12のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項14】
化学強化ガラスがカバーガラスである請求項1、3?5、9、10、12および13のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。」

なお、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の【請求項4】には「・・・化学強化ガラスの製造方法を提供する。」と記載されているが、訂正前の【請求項4】には「・・・化学強化ガラスの製造方法。」と記載されており、訂正請求書にこれを「・・・化学強化ガラスの製造方法を提供する。」とする訂正事項は記載されていない。
したがって、「を提供する」部分は明らかな誤記と認め、職権にて当該記載は削除した。

第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、訂正前の請求項1?14に係る発明(以下「本件発明1?14」という。)は、優先権を主張している特願2010-288255号及び特願2011-114783号についての優先権の利益を享受しておらず、特許性の判断基準日は、本件特許の特願2011-247766号の出願日である平成23年11月11日になることを主張したうえで、証拠として以下の甲第1号証及び甲第2号証(以下「甲1」及び「甲2」という。)を提示し、本件発明1?14は、甲1又は甲2に記載されている発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、甲1又は甲2に記載されている発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものであるとしている。
さらに、「その他」として、「甲第1、2号証は、本件特許が特願2010-288255号の優先権の利益を享受すると仮定した場合でも、特許法第29条の2違反の引用適格を有している。」とも主張している。
甲1:国際公開第2011/022639号
甲2:国際公開第2011/011667号

第5 取消理由について
当審から、平成28年9月23日付けで以下の取消理由を通知している。
1 優先権主張の効果について
本件特許に係る出願は平成23年11月11日に出願されたものであって、平成22年12月24日(以下「優先日1」という。)を出願日とする特願2010-288255号(以下「P1」という。)、平成23年5月23日(以下「優先日2」という。)を出願日とする特願2011-114783号(以下「P2」という。)を基礎とする国内優先権を主張するものである。
(1)本件発明1は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが、上記成分とその含有量、及び各成分の含有量を用いて上記式Rにより算出される値によって特定される発明であるが、P1の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「P1明細書等」という。)には、本件発明1で特定される成分とその含有量及び式Rが記載されており、各成分の含有量を用いて算出されるRの値が0.66以上であることも記載されている。
そして、本件発明1を引用する本件発明2、3、9及び10で特定される成分とそれら成分量についてもP1明細書等に記載されており、本件発明1を引用する本件発明12及び13で特定される特性及び形態、本件発明1を引用する本件発明14で特定される用途についてもP1明細書等に記載されている。
してみれば、本件発明1及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、9、10、12?14は、P1を基礎とする国内優先権の主張の効果が認められることになる。

(2)本件発明4は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが、上記成分とその含有量、及び各成分の含有量を用いて上記式R’により算出される値によって特定される発明であるが、式R’はP1明細書等には記載されておらず、P2の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「P2明細書等」という。)に上記本件発明4で特定される成分とその含有量と共に記載されているものであり、P2明細書等には各成分の含有量を用いて算出されるR’の値が0.66以上であることも記載されている。
そして、本件発明4を引用する本件発明5、9及び10で特定される成分とそれら成分量についていもP2明細書等に記載されており、本件発明4を引用する本件発明12及び13で特定される特性及び形態、本件発明4を引用する本件発明14で特定される用途についてもP2明細書等に記載されている。
してみれば、本件発明4及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明5、9、10、12?14は、P1を基礎とする国内優先権の主張の効果はが認められないが、P2を基礎とする国内優先権の主張の効果が認められることになる。

(3)本件発明6は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが、上記成分とその含有量、及び各成分の含有量を用いて上記式R”により算出される値によって特定される発明であるが、式R”はP1明細書等にも、P2明細書等にも記載されていないことから、本件発明6及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明7、9?14については、P1を基礎とする国内優先権の主張も、P2を基礎とする国内優先権の主張の効果も認められない。


(4)本件発明8は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが、上記成分とその含有量で特定される発明であるが、P1明細書等には、本件発明8で特定される成分とその含有量が記載されている。
そして、本件発明8を引用する本件発明9?11で特定される成分とそれら成分量についてもP1明細書等に記載されており、本件発明8を引用する本件発明12及び13で特定される特性及び形態、本件発明8を引用する本件発明14で特定される用途についてもP1明細書等に記載されている。
してみれば、本件発明8及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明9?14は、P1を基礎とする国内優先権の主張の効果が認められることになる。

(5)まとめ
以上、本件発明1?14に対する新規性(特許法第29条第1項)、進歩性(特許法第29条第1項)、拡大先願(特許法第29条の2本文)の適用にあたり、本件発明1及び8並びにそれらを直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、9?14については優先日1が、本件発明4及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明5、9、10、12?14については優先日2が、本件発明6及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明7、9?14については本件の出願日が基準日となる。

2 特許法第29条第1項第3号について
甲1及び甲2は、いずれも優先日1と優先日2との間で国際公開されたものであるから、本件発明1及び8並びにそれらを直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、9?14については、甲1及び甲2に基づく新規性進歩性の判断はできない

(1)本件発明4及びそれを引用する本件発明5、9、10、12?14について
ア 甲1及び甲2の記載事項
(ア)甲1について
a 甲1のTable1又はTable2に記載されているSample8、11、40、101、103、104のガラスは、以下のとおりである。

b そして、甲1の[0040] には「In one embodiment, the metal ions are monovalent alkali metal ions (e.g., Na ^(+), K^(+), Rb^(+), and the like), and ion exchange is accomplished by immersing the glass in a bath comprising at least one molten salt of the larger metal ion that is to replace the smaller metal ion in the glass. Alternatively, other monovalent ions such as Ag^(+), Tl^(+), Cu^(+), and the like may be exchanged for monovalent ions.The ion exchange process or processes that are used to strengthen the glass can include, but are not limited to, immersion in a single bath or multiple baths of like or different compositions with washing and/or annealing steps between immersions. 」(訳:1つの実施の形態では、金属イオンは一価のアルカリ金属イオン(例えば、Na^(+)、K^(+)、Rb^(+)など)であり、イオン交換は、ガラス中の小さい金属イオンと交換されるべき大きい金属イオンの少なくとも1種類の溶融塩を含む浴にガラスを浸漬することによって達成される。あるいは、Ag^(+)、Tl^(+)、Cu^(+)などの他の一価イオンが一価のイオンと交換されてもよい。ガラスを強化するのに用いられるイオン交換工程または複数のイオン交換工程には、限定はしないが、単一浴への浸漬、または、浸漬と次の浸漬の間に洗浄および/またはアニーリングの工程を有する、同様または異なる組成の複数の浴への浸漬が挙げられる。)と記載され、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法が示されており、そのガラスとして上記Sampleのガラスが用いられるものである。

(イ)甲2について
a 甲2のTable6又はTable10に記載されているExample24、47、50、51、52のガラスは、以下のとおりである。

b そして、甲2の [0071] には「According to one embodiment, the glass is ion exchanged in a salt bath comprising one or more salts of alkali ions. The glass can be ion exchanged to change its mechanical properties. For example, smaller alkali ions, such as lithium or sodium, can be ion-exchanged in a molten salt containing one or more larger alkali ions, such as sodium, potassium, rubidium or cesium.」(訳:ある実施の形態によれば、ガラスは、アルカリイオンの1つ以上の塩を含む塩浴中でイオン交換される。ガラスは、機械的特性を変えるためにイオン交換されてもよい。例えば、リチウムまたはナトリウムのようなより小さいアルカリイオンを、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウムのような1つ以上のより大きいアルカリイオンを含有する溶融塩中でイオン交換してもよい。)と記載され、上記甲1の記載など技術常識を参酌するに、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法が示されているといえ、そのガラスとして上記Exampleのガラスが用いられるものである

イ 以上から、本件発明4並びに本件発明4を直接又は間接的に引用する本件発明5、9、10及び12?14は、甲1又は甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

(2)本件発明6及びそれを引用する本件発明7、9?14について
ア 上記(1)ア(ア)bの記載と共に、甲1のTable1又はTable2に記載されているSample14、15、17、18、19、20、22、24、28、31、39、40、42、57、58、59、60、61、62、101、104、111、112、113、114のガラスは、以下のとおりである。


また、上記(1)ア(イ)bの記載と共に、甲2のTable6、Table8?10に記載されているExample20、22、23、24、25、37、42、46、47、50、51、52のガラスは、以下のとおりである。


イ 以上から、本件発明6並びに本件発明6を直接又は間接的に引用する本件発明7及び9?14は、甲1又は甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

3 特許法第29条第2項について
本件発明4又は6及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明5、7、9?14は、上記2で説示したとおり、いずれも甲1又は甲2に記載された発明であるが、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明ともいえることから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもある。

4 特許法第29条の2について
甲1は平成22年8月20日を国際出願日とする国際出願PCT/US2010/046153の国際公開、甲2は平成22年7月23日を国際出願日とする国際出願PCT/US2010/043027の国際公開であり、それらの国際出願は、指定国に日本を含む特許法184条の3で規定される外国語特許出願で、前者は特願2012-525727号(以下「先願甲1」という。)、後者は特願2012-521823号(以下「先願甲2」という。)である。
そして、先願甲1及び先願甲2とも、特許法184条の4第3項の規定により取り下げられたものではなく、本件特許に係る出願に係る発明者は、先願甲1に係る発明の発明者でも先願甲2に係る発明の発明者でもなく、本件特許に係る出願の出願人は、この出願の時において、先願甲1の出願人でも先願甲2の出願人でもない。

(1)本件発明1及びそれを引用する本件発明2、3、9、10、12?14について
ア 上記(1)ア(ア)bの記載と共に、先願甲1のTable1又はTable2に記載されているSample14、15、17、18、19、20、22、24、28、31、57、58、59、60、61、62、111、112、113、114のガラスは、以下のとおりである。


また、上記(1)ア(イ)bの記載と共に、先願甲2のTable6、Table8?10に記載されているExample20、22、23、24、25、37、42、46、47、52のガラスは、以下のとおりである。


イ 以上から、本件発明1並びに本件発明1を直接又は間接的に引用する2、3、9、10及び12?14は、その優先日1前の先願甲1又は先願甲2であって、その優先日1後に国際公開がされた先願甲1明細書等又は先願甲2明細書等に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものでもある。

(2)本件発明8及びそれを引用する本件発明9?14についてについて
ア 上記(1)ア(ア)bの記載と共に、先願甲1のTable1又はTable2に記載されているSample31、58、60、61、62、104のガラスは、以下のとおりである。


また、上記(1)ア(イ)bの記載と共に、先願甲2のTable 6、Table 8?10に記載されているExample22、23、25、37、42、46、47、50、51、52のガラスは、以下のとおりである。


イ 以上から、本件発明8並びに本件発明8を直接又は間接的に引用する9?14は、その優先日1前の先願甲1又は先願甲2であって、その優先日1後に国際公開がされた先願甲1明細書等又は先願甲2明細書等に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものでもある。

第6 取消理由についての判断
1 特許法第29条第1項第3号について
(1)本件訂正発明4について
甲1のTable1又はTable2に記載されているSample8、11、40、101、103、104のガラスにおいて、もはや、本件訂正発明4で特定される成分とその含有量を満たすものはない。また、甲2のTable6又はTable10に記載されているExample24、47、50、51、52のガラスにおいても、もはや、本件訂正発明4で特定される成分とその含有量を満たすものはない。
してみれば、本件訂正発明4は、甲1又は甲2に記載されている発明とはいえない。

(2)本件訂正発明4を引用する本件訂正発明5、9、10、12?14について
本件訂正発明4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5、9、10及び12?14は、本件訂正発明4をより限定した発明であるから、甲1又は甲2に記載されている発明とはいえない。

(3)まとめ
本件訂正発明4並びに本件訂正発明4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5、9、10及び12?14は、特許法第29条第1項第3号に該当しないことから、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。

2 特許法第29条第2項について
(1)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件特許明細書の【0008】?【0009】に記載されている、
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先に述べたような用途などにおいては通常、化学強化のためのイオン交換処理はナトリウム(Na)を含有するガラスを溶融カリウム塩に浸漬して行われ、当該カリウム塩としては硝酸カリウムまたは硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩が使用される。
イオン交換処理ではガラス中のNaと溶融塩中のカリウム(K)のイオン交換が行われるので、同じ溶融塩を使用し続けながらイオン交換処理を繰り返すと溶融塩中のNa濃度が上昇する。
【0009】
溶融塩中のNa濃度が高くなると化学強化されたガラスの表面圧縮応力Sが低下するので、化学強化ガラスのSが所望の値を下回らないように溶融塩中のNa濃度を厳しく管理し、また溶融塩の交換を頻繁に行う必要があるという問題があった。
このような溶融塩の交換の頻度は少しでも減らすことが求められており、本発明はこのような問題を解決できる化学強化ガラスの製造方法の提供を目的とする。」を課題とする発明であり、その効果として【0028】に記載されている、
「【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、溶融塩中のNa濃度上昇による化学強化ガラスの表面圧縮応力Sの低下割合を小さくできるので、溶融塩中のNa濃度の管理を緩やかにし、溶融塩の交換頻度を低減することができる。
また、最初のイオン交換処理で得られた化学強化ガラスのSに対する溶融塩交換直前での化学強化ガラスのSの低下割合が小さくなり、Sのロット間ばらつきを小さくできる。」との効果が得られるものである。
一方、甲1は、「最もイオン交換し易いガラスはジルコンと反応し、ジルコンを分解してガラスに溶解するシリカと、溶融ガラス内への流れによって取り込まれ、最終的には最終製品に含まれる固形包有物を形成するジルコニアとを生じる。溶融ガラスによるジルコンの攻撃は長時間継続し、ガラス中のジルコニア包有物のレベルまたは濃度が増大する。これらの包有物は溶融ライン上で濃縮されることから、それらはイオン交換後の最大中心張力点に位置し、イオン交換したガラス部品の強度を危うくする可能性がある。」(【0004】)との技術課題を解決する発明であり、甲2は、「ディスプレイ用途に設計されたガラスの使用により、必要な高歪み点が提供されるが、これらのガラスの熱膨張係数(CTE)はしばしば低過ぎて、光電池膜とのCTEのミスマッチにより、大きい光電池パネルを確実に構築することができない。さらに、ディスプレイ用途に設計された多くのガラスは、意図的にアルカリを含まず、ガラスからのナトリウム拡散を所望とする薄膜光電池用途に有用でなくなる。」(【0005】)との技術課題を解決する発明であり、両者は上記本件特許発明4の技術課題とは異なり、両者とも、本件特許発明4の技術思想とは全く異なるものである。
してみれば、上記技術課題のもと、甲1又は甲2記載のガラス組成を本件訂正発明4のガラス組成を満たすように調整することはなく、そして、本件訂正発明4の上記効果が得られることは当業者において到底予期できないことである。
よって、本件訂正発明4は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。

(2)本件訂正発明4を引用する本件訂正発明5、9、10、12?14について
本件訂正発明4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5、9、10及び12?14は、本件訂正発明4をより限定した発明であるから、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。

(3)まとめ
本件訂正発明4並びに本件訂正発明4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5、9、10及び12?14は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでないことから、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。

3 特許法第29条の2について
(1)本件訂正発明1について
先願甲1のTable1又はTable2に記載されているSample14、15、17、18、19、20、22、24、28、31、57、58、59、60、61、62、111、112、113、114のガラスにおいて、もはや、本件訂正発明1で特定される成分とその含有量を満たすものはない。また、先願甲2のTable6、Table8?10に記載されているExample20、22、23、24、25、37、42、46、47、52のガラスにおいても、もはや、本件訂正発明1で特定される成分とその含有量を満たすものはない。
してみれば、本件訂正発明1は、先願甲1明細書等又は先願甲2明細書等に記載された発明と同一とはいえない。

(2)本件訂正発明1を引用する本件発明3、9、10、12?14について
本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明3、9、10及び12?14は、本件訂正発明1をより限定した発明であるから、先願甲1明細書等又は先願甲2明細書等に記載された発明と同一とはいえない。

(3)まとめ
本件訂正発明1並びに本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明3、9、10及び12?14は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものではないことから、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はなく、上記第4の「特許異議申立理由の概要」で記載したように、申立人が「その他」として主張している特許法第29条の2違反についても取消理由として通知した。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3?5、9、10及び12?14に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、3?5、9、10及び12?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項2、6?8及び11に係る特許に対してなされた特許異議申立については、訂正により申立の対象となる請求項が存在しないものとなった。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
化学強化ガラスの製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等のモバイル機器、大型液晶テレビ、大型プラズマテレビなどの大型薄型テレビおよびタッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラス等に好適な化学強化ガラスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器、液晶テレビやタッチパネルなどのディスプレイ装置に対しては、ディスプレイの保護ならびに美観を高めるためのカバーガラス(保護ガラス)が用いられることが多くなっている。
このようなディスプレイ装置に対しては、薄型デザインによる差異化や移動のための負担の減少のため、軽量・薄型化が要求されている。そのため、ディスプレイ保護用に使用されるカバーガラスも薄くすることが要求されている。しかし、カバーガラスの厚さを薄くしていくと強度が低下し、据え置き型の場合には物体の飛来や落下による衝撃などにより、携帯機器の場合には使用中の落下などによりカバーガラス自身が割れてしまいディスプレイ装置を保護するという本来の役割を果たすことができなくなるという問題があった。
【0003】
上記問題を解決するためには、カバーガラスの強度を高めることが考えられ、その方法としてガラス表面に圧縮応力層を形成させる手法が一般的に知られている。
ガラス表面に圧縮応力層を形成させる手法としては、軟化点付近まで加熱したガラス板表面を風冷などにより急速に冷却する風冷強化法(物理強化法)と、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス板表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的にはLiイオン、Naイオン)をイオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的にはKイオン)に交換する化学強化法が代表的である。
【0004】
前述したようにカバーガラスの厚さは薄いことが要求されている。しかしながら、カバーガラスとして要求される、厚みが2mmを下回るような薄いガラス板に対して風冷強化法を適用すると、表面と内部の温度差がつきにくいために圧縮応力層を形成することが困難であり、目的の高強度という特性を得ることができない。そのため、後者の化学強化法によって強化されたカバーガラスが通常用いられている。
【0005】
このようなカバーガラスとしてはソーダライムガラスを化学強化したものが広く用いられている(たとえば特許文献1参照)。
ソーダライムガラスは安価であり、また化学強化によってガラス表面に形成した圧縮応力層の表面圧縮応力Sを200MPa以上にできるという特徴があるが、圧縮応力層の厚みtを30μm以上にすることが容易ではないという問題があった。
【0006】
そこで、ソーダライムガラスとは異なるSiO_(2)-Al_(2)O_(3)-Na_(2)O系ガラスを化学強化したものがこのようなカバーガラスとして提案されている(たとえば特許文献2参照)。
前記SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-Na_(2)O系ガラスには前記Sを200MPa以上にできるだけでなく、前記tを30μm以上にすることも可能であるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-11210号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0286548号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先に述べたような用途などにおいては通常、化学強化のためのイオン交換処理はナトリウム(Na)を含有するガラスを溶融カリウム塩に浸漬して行われ、当該カリウム塩としては硝酸カリウムまたは硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩が使用される。
イオン交換処理ではガラス中のNaと溶融塩中のカリウム(K)のイオン交換が行われるので、同じ溶融塩を使用し続けながらイオン交換処理を繰り返すと溶融塩中のNa濃度が上昇する。
【0009】
溶融塩中のNa濃度が高くなると化学強化されたガラスの表面圧縮応力Sが低下するので、化学強化ガラスのSが所望の値を下回らないように溶融塩中のNa濃度を厳しく管理し、また溶融塩の交換を頻繁に行う必要があるという問題があった。
このような溶融塩の交換の頻度は少しでも減らすことが求められており、本発明はこのような問題を解決できる化学強化ガラスの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO_(2)を61?77%、Al_(2)O_(3)を9(9を除く)?18%、MgOを3?15%、CaOを0?0.5%、ZrO_(2)を0?4%、Na_(2)Oを12?18%、K_(2)Oを0?1%含有し、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の含有量の合計が65?85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3?15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるRが0.66以上である化学強化ガラスの製造方法(以下、第1の発明ということがある。)を提供する。なお、ここで用いられるガラスを本発明の第1のガラスといい、また、たとえば次式におけるSiO_(2)はSiO_(2)のモル百分率表示含有量である。
R=0.029×SiO_(2)+0.021×Al_(2)O_(3)+0.016×MgO-0.004×CaO+0.016×ZrO_(2)+0.029×Na_(2)O+0×K_(2)O-2.002。
本発明の第1のガラスのSiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、ZrO_(2)、Na_(2)OおよびK_(2)Oの含有量の合計は典型的には98.5%以上である。
【0011】
また、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO_(2)を61?77%、Al_(2)O_(3)を9.1?18%、MgOを3?15%、CaOを0?0.5%、ZrO_(2)を0?4%、Na_(2)Oを8?18%、K_(2)Oを0?1%ならびにB_(2)O_(3)、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、B_(2)O_(3)の含有量が5%以下、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の含有量の合計が65?85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3?15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるR’が0.66以上であるものである化学強化ガラスの製造方法(以下、第2の発明ということがある。)を提供する。なお、ここで用いられるガラスを本発明の第2のガラスという。
R’=0.029×SiO_(2)+0.021×Al_(2)O_(3)+0.016×MgO-0.004×CaO+0.016×ZrO_(2)+0.029×Na_(2)O+0×K_(2)O+0.028×B_(2)O_(3)+0.012×SrO+0.026×BaO-2.002。
本発明の第2のガラスのSiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、ZrO_(2)、Na_(2)O、K_(2)O、B_(2)O_(3)、SrOおよびBaOの含有量の合計は典型的には98.5%以上である。
【0012】(削除)
【0013】
なお、本発明の第1および第2のガラスを本発明のガラスと総称する。
【0014】
また、SiO_(2)が63%以上、Al_(2)O_(3)が12%以下、MgOが12%以下、CaOが0?0.5%である前記化学強化ガラスの製造方法を提供する。
また、ZrO_(2)が2.5%以下かつNa_(2)Oが10%以上である前記化学強化ガラスの製造方法を提供する。
また、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、ZrO_(2)、Na_(2)OおよびK_(2)Oの含有量の合計が98.5%以上である前記化学強化ガラスの製造方法を提供する。
【0015】
また、化学強化ガラスの表面に形成された圧縮応力層の厚みが10μm以上、表面圧縮応力が200MPa以上である前記化学強化ガラスの製造方法を提供する。
また、化学強化ガラスが厚み1.5mm以下のガラス板である前記化学強化ガラスの製造方法を提供する。
また、化学強化ガラスがカバーガラスである前記化学強化ガラスの製造方法を提供する。
【0016】
本発明者は、溶融カリウム塩にNa含有ガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換を何度も繰り返すことにより溶融カリウム塩中のNa濃度が上昇し、それとともに化学強化ガラスの表面圧縮応力が小さくなっていく現象とNa含有ガラスの組成との間に関係があるのではないかと考え、次のような実験を行った。
【0017】
まず、表1?3にモル%表示で示す組成を有し、厚みが1.5mm、大きさが20mm×20mmであり、両面が酸化セリウムで鏡面研磨された29種のガラス板を用意した。
これらガラスのガラス転移点Tg(単位:℃)およびヤング率E(単位:GPa)を同表に示す。
なお、*を付しているものは組成から計算して求めたものである。
Tgは次のようにして測定した。すなわち、示差熱膨張計を用いて、石英ガラスを参照試料として室温から5℃/分の割合で昇温した際のガラスの伸び率を屈伏点まで測定し、得られた熱膨張曲線における屈曲点に相当する温度をガラス転移点とした。
Eは、厚さが5?10mm、大きさが3cm×3cmのガラス板について超音波パルス法により測定した。
これら29種のガラス板を、KNO_(3)の含有割合が100%であり温度が400℃である溶融カリウム塩に10時間浸漬するイオン交換を行って化学強化ガラス板とし、その表面圧縮応力CS1(単位:MPa)を測定した。なお、ガラスA27はモバイル機器のカバーガラスに使用されているガラスである。
また、これら29種のガラス板を、KNO_(3)の含有割合が95%、NaNO_(3)の含有割合が5%であり温度が400℃である溶融カリウム塩に10時間浸漬するイオン交換を行って化学強化ガラス板とし、その表面圧縮応力CS2(単位:MPa)を測定した。なお、CS1、CS2は折原製作所社製表面応力計FSM-6000にて測定した。
CS1、CS2をそれらの比r=CS2/CS1とともに表1?3の該当欄に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】
これらの結果から、前記式で算出したR(表1?3に記載する。)と前記rとの間に高い相関があることを見出した。図1は、この点を明らかにするために横軸をR、縦軸をrとした作成した散布図であり、同図中の直線はr=1.033×R-0.0043、相関係数は0.97である。
なお、前記R’およびR”の値も表1?3のRの欄の下に併記する。
【0022】
本発明者が見出した前記相関から、次のようなことがわかる。すなわち、溶融塩の交換頻度を少しでも減らすためには溶融塩中のNa濃度増加による表面圧縮応力Sの低下割合が小さいガラスすなわち前記rが大きいガラスを用いればよいが、そのためにはガラスの前記Rを大きくすればよいことがわかる。
また、従来使用されているガラスA27のrは0.65であるから、Rを0.66以上とすることによりrが概ね0.68以上となってガラスA27よりも明らかに大きくなり、溶融塩の交換頻度が顕著に減少し、あるいは溶融塩の管理を大幅に緩くすることが可能になる。
【0023】
化学強化ガラスの強度は表面圧縮応力に強く依存し、表面圧縮応力が小さいほど化学強化ガラスの強度が低くなる。このため、化学強化処理によって得られる表面圧縮応力が溶融塩中のNa濃度が0%のときの表面圧縮応力に比べて68%以上すなわちrが0.68以上である必要がある。このことから、溶融塩中のNa濃度をCとすると、使用可能なCの範囲は以下の式を満たす範囲である。
【0024】
0.68≦(r-1)×C/5+1
すなわち、C≦1.6/(1-r)でなければならない。
【0025】
rが0.68未満では、溶融塩中のNa濃度上昇による化学強化ガラスの表面圧縮応力Sの低下割合が大きいので、Na濃度が5.0%未満までの狭い範囲でしか使用できないため、交換頻度が多くなる。rが0.75、0.79および0.81の場合にはそれぞれNa濃度が6.4%以下、7.6%以下および8.4%以下のNa濃度の広い範囲で使用可能となり、rが0.75、0.79および0.81の場合には、rが0.68の場合に比べて交換頻度をそれぞれ78%、66%および59%に抑えることができる。したがって、rは好ましくは0.70以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.79以上、特に好ましくは0.81以上である。
【0026】
また、rが0.68未満では溶融塩中のNa濃度変化による化学強化ガラスの表面圧縮応力Sの変化が大きいので、表面圧縮応力の調整が難しくなり、溶融塩中のNa濃度の管理が厳しくなる。
【0027】
また、29種のガラスの中で最もrが大きいガラス1、ガラス2を他の27種のガラスと比べるとK_(2)Oを含有しないという点で共通する。一方、Rを算出する前記式におけるK_(2)Oに係る係数は0であり、同じアルカリ金属酸化物であるNa_(2)Oに係る係数0.029に比べて著しく小さいことからこの点を説明することが可能である。
本発明はこのような経緯により想到したものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、溶融塩中のNa濃度上昇による化学強化ガラスの表面圧縮応力Sの低下割合を小さくできるので、溶融塩中のNa濃度の管理を緩やかにし、溶融塩の交換頻度を低減することができる。
また、最初のイオン交換処理で得られた化学強化ガラスのSに対する溶融塩交換直前での化学強化ガラスのSの低下割合が小さくなり、Sのロット間ばらつきを小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ガラス組成から計算して求めたRと、溶融カリウム塩中のNa濃度増加による表面圧縮応力の低下割合rとの関係を示す図である。
【図2】ガラス組成から計算して求めたR’と、溶融カリウム塩中のNa濃度増加による表面圧縮応力の低下割合rとの関係を示す図である。図中の直線はr=1.048×R’-0.0135、相関係数は0.98である。なお、この図の作成に用いたガラスは、表1?3の29種のガラス、後述の表4、5の20種のガラス、後述の表6の7種のガラス23?29、後述の表7の5種のガラス36?40、後述の表8の6種のガラス41?46、合計67種のガラスである。
【図3】ガラス組成から計算して求めたR”と、溶融カリウム塩中のNa濃度増加による表面圧縮応力の低下割合rとの関係を示す図である。図中の直線はr=1.014×R”+0.0074、相関係数は0.95である。なお、この図の作成に用いたガラスは、表1?3の29種のガラス、後述の表4、5の20種のガラス、後述の表6の7種のガラス23?29、後述の表7の5種のガラス36?40、後述の表8の6種のガラス41?46、後述の表9の8種のガラス49、51?55、57、58、後述の表10の8種のガラス59?64、66、68、後述の表11の5種のガラス69、73、74、77、78、後述の表12の6種のガラス79?82、84、85の合計94種のガラスである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の製造方法によって製造される化学強化ガラス(以下、本発明の化学強化ガラスということがある。)の表面圧縮応力Sは典型的には200MPa以上であるが、カバーガラスなどにおいては400MPa以上であることが好ましく、より好ましくは550MPa以上、特に好ましくは700MPa超である。また、典型的にはSは1200MPa以下である。
本発明の化学強化ガラスの圧縮応力層厚みtは典型的には10μm以上、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm超である。また、典型的にはtは70μm以下である。
【0031】
本発明における溶融塩は、ガラス表層のNaと溶融塩中のKとをイオン交換できるものであれば特に限定されないが、たとえば溶融硝酸カリウム(KNO_(3))が挙げられる。
溶融塩は前記イオン交換を行えるようにするためにはKを含有する溶融塩でなければならないが、本発明の目的を損なわないものであればそれ以外の制約はない。溶融塩としては先に述べた溶融KNO_(3)が通常使用されるが、KNO_(3)以外にNaNO_(3)を5%程度以下含有するものも一般的である。なお、Kを含有する溶融塩のKイオンの、陽イオン中の割合はモル比で0.7以上が典型的である。
ガラスに所望の表面圧縮応力を有する化学強化層(圧縮応力層)を形成するためのイオン交換処理条件はガラス板であればその厚みなどによっても異なるが、350?550℃の溶融KNO_(3)に2?20時間ガラス基板を浸漬させることが典型的である。経済的な観点からは350?500℃、2?16時間の条件で浸漬させることが好ましく、より好ましい浸漬時間は2?10時間である。
本発明の製造方法においては典型的には、ガラスを溶融塩に浸漬するイオン交換処理を行って化学強化ガラスとした後その化学強化ガラスを溶融塩から取り出し、次に、別のガラスを溶融塩に浸漬して化学強化ガラスとした後その化学強化ガラスを溶融塩から取り出す、というようにイオン交換処理を繰り返す。
【0032】
これら厚みが0.4?1.2mmであり本発明のガラスからなるガラス板を化学強化したものの圧縮応力層の厚みtは30μm以上、表面圧縮応力Sは550MPa以上であることが好ましく、典型的にはtは40?60μm、Sは650?820MPaである。
【0033】
本発明のディスプレイ装置用ガラス板は通常、本発明のガラスからなるガラス板について切断、穴あけ、研磨などの加工をして得られたガラス板を化学強化して得られる。
本発明のディスプレイ装置用ガラス板の厚みは典型的には0.3?2mmであり、通常は0.4?1.2mmである。
本発明のディスプレイ装置用ガラス板は典型的にはカバーガラスである。
【0034】
前記本発明のガラスからなるガラス板の製造方法は特に限定されないが、たとえば種々の原料を適量調合し、約1400?1700℃に加熱し溶融した後、脱泡、攪拌などにより均質化し、周知のフロート法、ダウンドロー法、プレス法などによって板状に成形し、徐冷後所望のサイズに切断して製造される。
【0035】
本発明のガラスのガラス転移点Tgは400℃以上であることが好ましい。400℃未満ではイオン交換時に表面圧縮応力が緩和してしまい、十分な応力を得られないおそれがある。典型的には570℃以上である。
【0036】
本発明のガラスのヤング率Eは66MPa以上であることが好ましい。66MPa未満では破壊靭性値が低くなり、ガラスが割れやすくなる。本発明のディスプレイ装置用ガラス板の製造に用いる場合などには本発明のガラスのEは67MPa以上であることが好ましく、より好ましくは68MPa以上、さらに好ましくは69MPa以上、特に好ましくは70MPa以上である。
【0037】
次に、本発明のガラスの組成について、特に断らない限りモル%表示含有量を用いて説明する。
SiO_(2)はガラスの骨格を構成する成分であり必須である。61%未満では、KNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、ガラス表面に傷がついた時にクラックが発生しやすくなる、耐候性が低下する、比重が大きくなる、または液相温度が上昇しガラスが不安定になる。好ましくは62%以上、典型的には63%以上である。なお、本発明の第4のガラスではSiO_(2)は62%以上である。
SiO_(2)が77%超では粘度が10^(2)dPa・sとなる温度T2または粘度が10^(4)dPa・sとなる温度T4が上昇しガラスの溶解または成形が困難となる、または耐候性が低下する。好ましくは76%以下、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは74%以下、特に好ましくは73%以下である。
【0038】
Al_(2)O_(3)はイオン交換性能および耐候性を向上させる成分であり必須である。1%未満ではイオン交換により所望の表面圧縮応力S、圧縮応力層厚みtが得られなくなる、または耐候性が低下する。好ましくは3%以上、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは6%以上、典型的には7%以上である。18%超では、KNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、T2もしくはT4が上昇しガラスの溶解もしくは成形が困難となる、または液相温度が高くなり失透しやすくなる。好ましくは12%以下、より好ましくは11%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは9%以下、典型的には8%以下である。
KNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化を特に小さくしたい場合Al_(2)O_(3)は6%未満であることが好ましい。
SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の含有量の合計は典型的には66?83%である。
【0039】
MgOは溶融性を向上させる成分であり必須である。3%未満では溶融性またはヤング率が低下する。好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは6%以上である。溶融性を特に高めたい場合MgOは7%超であることが好ましい。
MgOが15%超ではKNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、液相温度が上昇し失透しやすくなる、またはイオン交換速度が低下する。好ましくは12%以下、より好ましくは11%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは8%以下、典型的には7%以下である。
【0040】
CaOは高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするために5%まで含有してもよいが、KNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、またはイオン交換速度もしくはクラック発生に対する耐性が低下するおそれがある。CaOを含有する場合その含有量は、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.5%以下、典型的にはCaOを含有しない。
【0041】
CaOを含有する場合、MgOおよびCaOの含有量の合計は15%以下であることが好ましい。15%超ではKNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、またはイオン交換速度もしくはクラック発生に対する耐性が低下するおそれがある。好ましくは14%以下、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは12%以下、特に好ましくは11%以下である。
【0042】
Na_(2)OはKNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化を小さくする、イオン交換により表面圧縮応力層を形成させる、またはガラスの溶融性を向上させる成分であり、必須である。8%未満ではイオン交換により所望の表面圧縮応力層を形成することが困難となる、または、T2もしくはT4が上昇しガラスの溶解もしくは成形が困難となる。好ましくは9%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは11%以上、特に好ましくは12%以上である。Na_(2)Oが18%超では耐候性が低下する、または圧痕からクラックが発生しやすくなる。好ましくは17%以下、より好ましくは16%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは14%以下である。
【0043】
K_(2)Oは必須ではないがイオン交換速度を増大させる成分であり、6%まで含有してもよい。6%超ではKNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、圧痕からクラックが発生しやすくなる、または耐候性が低下する。好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.9%以下、特に好ましくは1%以下、典型的にはK_(2)Oを含有しない。なお、本発明の第4のガラスはK_(2)Oを含有しない。
【0044】
K_(2)Oを含有する場合Na_(2)OおよびK_(2)Oの含有量の合計R_(2)Oは8.5?20%であることが好ましい。20%超では耐候性が低下する、または圧痕からクラックが発生しやすくなる。好ましくは19%以下、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは17%以下、特に好ましくは16以下である。また、R_(2)Oが8.5%未満ではガラスの溶融性が低下する。好ましくは9%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは11%以下、特に好ましくは12%以上である。
【0045】
ZrO_(2)は必須成分ではないが、表面圧縮応力を大きくする、または耐候性を向上させる等のため、4%まで含有してもよい。4%超ではKNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、またはクラック発生に対する耐性が低下する。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、典型的にはZrO_(2)を含有しない。
【0046】
本発明のガラスは本質的に以上で説明した成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。そのような成分を含有する場合、それら成分の含有量の合計は5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、典型的には1.5%未満である。以下、このような成分について例示的に説明する。
【0047】
SrOは高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするために含有してもよいが、KNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、または、イオン交換速度もしくはクラック発生に対する耐性が低下するおそれがある。SrOの含有量は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、典型的にはSrOを含有しない。
【0048】
BaOは高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするために含有してもよいが、KNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、またはイオン交換速度もしくはクラック発生に対する耐性が低下するおそれがある。BaOの含有量は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、典型的にはBaOを含有しない。
【0049】
MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計ROは15%以下であることが好ましい。15%超ではKNO_(3)溶融塩中のNaNO_(3)濃度による表面圧縮応力の変化が大きくなる、またはイオン交換速度もしくはクラック発生に対する耐性が低下するおそれがある。好ましくは14%以下、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは12%以下、特に好ましくは11%以下である。
【0050】
ZnOはガラスの高温での溶融性を向上するために含有してもよい場合があるが、その場合における含有量は好ましくは1%以下である。フロート法で製造する場合には0.5%以下にすることが好ましい。0.5%超ではフロート成型時に還元し製品欠点となるおそれがある。典型的にはZnOは含有しない。
【0051】
B_(2)O_(3)は溶融性向上のために5%以下であることが好ましい。5%超では均質なガラスを得にくくなり、ガラスの成型が困難になるおそれがある。好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.7%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、典型的にはB_(2)O_(3)は含有しない。
SrO、BaOまたはB_(2)O_(3)を含有する場合前記R’が0.66以上であることが好ましい。
なお、本発明の第2のガラスはB_(2)O_(3)、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有する。
【0052】
TiO_(2)はガラス中に存在するFeイオンと共存することにより、可視光透過率を低下させ、ガラスを褐色に着色するおそれがあるので、含有するとしても1%以下であることが好ましく、典型的には含有しない。
【0053】
Li_(2)Oは歪点を低くして応力緩和を起こりやすくし、その結果安定した表面圧縮応力層を得られなくする成分であるので4.3%以下であることが好ましい。より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下、典型的にはLi_(2)Oを含有しない。
【0054】
SnO_(2)は耐候性の向上等のために含有してもよいが、その場合でも含有量は3%以下であることが好ましい。より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、典型的にはSnO_(2)を含有しない。
なお、本発明の第3のガラスはB_(2)O_(3)、SrO、BaO、ZnO、Li_(2)OおよびSnO_(2)のいずれか1成分以上を含有する。
【0055】
ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO_(3)、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。ただし、タッチパネルなどディスプレイ装置の視認性を上げるためには、可視域に吸収をもつFe_(2)O_(3)、NiO、Cr_(2)O_(3)など原料中の不純物として混入するような成分はできるだけ減らすことが好ましく、各々質量百分率表示で0.15%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下である。
【0056】
本発明の第1のガラスにおいて前記Rは0.66以上とされるが、B_(2)O_(3)、SrO、BaO、ZnO、Li_(2)OおよびSnO_(2)のいずれか1以上の成分を含有するときはこれら成分の含有量の合計は5モル%以下であることが好ましい。より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下であり、典型的には1.5%未満である。
【0057】
本発明の第2のガラスにおいて前記R’は0.66以上とされるが、ZnO、Li_(2)OおよびSnO_(2)のいずれか1以上の成分を含有するときはこれら成分の含有量の合計は5モル%以下であることが好ましい。より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下であり、典型的には1.5%未満である。
【0058】
本発明の第3のガラスにおいて前記R”は0.66以上とされるが、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、ZrO_(2)、Na_(2)O、K_(2)O、B_(2)O_(3)、SrO、BaO、ZnO、Li_(2)OおよびSnO_(2)の含有量の合計は95モル%超であることが好ましい。より好ましくは96%超、さらに好ましくは97%超、特に好ましくは98%超であり、典型的には98.5%以上である。
【0059】
本発明においてガラスのイオン交換処理を繰り返す方法は特に限定されないが、たとえば次のようにして行う。すなわち、150?600cm^(2)の大きさのNa含有ガラス板100枚を各ガラス板同士が接触しないように、スリットの付いた籠の各スリット間の隙間に1枚ずつガラス板を置く。400℃の溶融カリウム塩で満たした100000cm^(3)の大きさの槽に前記籠を8時間浸漬してイオン交換処理を行った後、その籠を取り出す。この後、別のガラス板を入れた籠を前記槽に浸漬してイオン交換処理を繰り返す。
【実施例】
【0060】
表1のガラス1、2および表3のガラスA21は本発明のガラスの例であり、次のようにして作製した。すなわち、各成分の原料を表のSiO_(2)からK_(2)Oまでの欄にモル%表示で示した組成となるように調合し、白金るつぼを用いて1550?1650℃の温度で3?5時間溶解した。溶解にあたっては、白金スターラを溶融ガラス中に挿入し、2時間撹拌してガラスを均質化した。次いで溶融ガラスを流し出して板状に成形し、毎分1℃の冷却速度で室温まで徐冷した。
【0061】
また、表4?8のSiO_(2)からK_(2)Oまでの欄にモル%表示で示した組成を有する例3?29、36?46のガラスおよび表9?12のSiO_(2)からSnO_(2)までの欄にモル%表示で示した組成を有する例49?82、84、85のガラスを、前記ガラス1、2、A21を作製したのと同様にして作製した。
【0062】
これらガラスのTg(単位:℃)、ヤング率E(単位:MPa)、R、R’、R”、CS1(単位:MPa)、CS2(単位:MPa)、rを表に示す。なお、例13?17、36?38、41?46、61、63、75、77?82、84のTgおよび例13?18、20、23?25、28、36?40、43?46、79?82のEは組成から計算または推定して求め、また例50、56、65、67、70?72、75、76についてはCS1、CS2、rは正確には測定できず組成から計算または推定して求めた。例41、42のガラスは本発明のガラスではなくMgOが3%未満であり、ヤング率も低く、破壊強度が小さいおそれがある。
【0063】
表6、7の例30?35、表8の例47、48、表12の例83のガラスについては先に述べたような溶解は行わず、これらの表に示すTg、E、CS1、CS2、rは組成から計算または推定して求めた。
【0064】
例17、47、73、79、80、85は本発明の実施例である。なお、例41、42、56?78は第1の発明の参考例、例16、35、42、79、80は第4の発明の参考例である。
例31、37?40、43?46、48、82、83は本発明の比較例、例3?30、32?36、49?55、66、67、69、70、72、81、84は参考例である。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【0071】
【表10】

【0072】
【表11】

【0073】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0074】
ディスプレイ装置のカバーガラスなどの製造に利用できる。また、太陽電池基板や航空機用窓ガラスなどの製造にも利用することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、
ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO_(2)を61?77%、Al_(2)O_(3)を9(9を除く)?18%、MgOを3?15%、CaOを0?0.5%、ZrO_(2)を0?4%、Na_(2)Oを12?18%、K_(2)Oを0?1%含有し、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の含有量の合計が65?85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3?15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるRが0.66以上である化学強化ガラスの製造方法。
R=0.029×SiO_(2)+0.021×Al_(2)O_(3)+0.016×MgO-0.004×CaO+0.016×ZrO_(2)+0.029×Na_(2)O+0×K_(2)O-2.002
【請求項2】(削除)
【請求項3】
SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、ZrO_(2)、Na_(2)OおよびK_(2)Oの含有量の合計が98.5%以上である請求項1の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項4】
溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO_(2)を61?77%、Al_(2)O_(3)を9.1?18%、MgOを3?15%、CaOを0?0.5%、ZrO_(2)を0?4%、Na_(2)Oを8?18%、K_(2)Oを0?1%ならびにB_(2)O_(3)、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、B_(2)O_(3)の含有量が5%以下、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の含有量の合計が65?85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3?15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるR’が0.66以上であるものである化学強化ガラスの製造方法。
R’=0.029×SiO_(2)+0.021×Al_(2)O_(3)+0.016×MgO-0.004×CaO+0.016×ZrO_(2)+0.029×Na_(2)O+0×K_(2)O+0.028×B_(2)O_(3)+0.012×SrO+0.026×BaO-2.002
【請求項5】
SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、MgO、CaO、ZrO_(2)、Na_(2)O、K_(2)O、B_(2)O_(3)、SrOおよびBaOの含有量の合計が98.5%以上である請求項4の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
SiO_(2)が63%以上、Al_(2)O_(3)が12%以下、MgOが12%以下、CaOが0?0.5%である請求項1および3?5のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
ZrO_(2)が2.5%以下かつNa_(2)Oが10%以上である請求項1、3?5および9のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
化学強化ガラスの表面に形成された圧縮応力層の厚みが10μm以上、表面圧縮応力が200MPa以上である請求項1、3?5、9および10のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項13】
化学強化ガラスが厚み1.5mm以下のガラス板である請求項1、3?5、9、10および12のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項14】
化学強化ガラスがカバーガラスである請求項1、3?5、9、10、12および13のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-20 
出願番号 特願2011-247766(P2011-247766)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉川 潤  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山本 雄一
三崎 仁
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5834793号(P5834793)
権利者 旭硝子株式会社
発明の名称 化学強化ガラスの製造方法  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
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