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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1326968
異議申立番号 異議2016-700330  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-20 
確定日 2017-03-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5797778号発明「レドックスフロー二次電池及びレドックスフロー二次電池用電解質膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5797778号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4-9〕、〔10、11、13-18〕について訂正することを認める。 特許第5797778号の請求項1、2、4、5、6、7、8、10、11、13、14、15、16、18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5797778号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?18に係る特許についての出願は、2012年12月27日(優先権主張平成23年12月28日、日本国、平成24年1月20日、日本国)を国際出願日とし、平成27年8月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年4月20日に特許異議申立人小池直之(以下、「申立人」という。)により特許異議申立書が提出され、同年9月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月10日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、さらに、平成29年2月6日に申立人により意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下の(1)?(8)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記電解質膜がフッ素系微多孔膜からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなる、」と記載されているのを、「前記電解質膜がフッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、」に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記電解質膜が不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記不織布の空隙及び/又は前記炭化水素系微多孔膜の細孔に充填されてなる、」と記載されているのを、「前記電解質膜が炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記炭化水素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、」に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3のいずれか一項に」と記載されているのを、「請求項3に」に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に「フッ素系微多孔膜を補強材として有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなる、」と記載されているのを、「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)を補強材として有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、」に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11に「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記不織布の空隙及び/又は前記炭化水素系微多孔膜の細孔に充填されてなる、」と記載されているのを、「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記炭化水素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、」に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項13に「請求項10乃至12のいずれか一項に」と記載されているのを、「請求項12に」に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項17に「レドックスフロー二次電池」と記載されているのを、「レドックスフロー二次電池用電解質膜」に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項18に「前記レドックスフロー二次電池用電解質膜は、130?200℃にて1?60分間加熱処理されたものである、請求項10乃至17のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。」と記載されているのを、「請求項10乃至17のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法であって、前記レドックスフロー二次電池用電解質膜は、130?200℃にて1?60分間加熱処理されるレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法。」に訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
(1-1)訂正の目的について
ア 訂正事項1は、「電解質膜」が有する「補強材」について、本件訂正前の請求項1に、「フッ素系微多孔膜からなる」と記載されていたものを「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」と訂正するとともに、当該「補強材」は「前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことを付加するものである。

イ 訂正事項1のうち、「電解質膜」が有する「補強材」について、「フッ素系微多孔膜からなる」と記載されていたものを「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」と訂正することは、「補強材」が「不織布」であることを除くことによって、「補強材」の取り得る態様を限定するものである。
また、訂正事項1のうち、「補強材」が「前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことを付加することは、「補強材」についてその内部構造を具体的に限定するものである。

ウ したがって、訂正事項1は、「電解質膜」が有する「補強材」について限定することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項1を引用する請求項5?9においても、請求項1と同様に、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(1-2)新規事項の追加の有無について
「補強材」が取り得る形態のうち「不織布」を除く訂正は、願書に添付した明細書(以下単に「明細書」という。)に記載した事項の範囲内でしたものであることは明らかである。なお、明細書の段落【0087】には「本実施形態のレドックスフロー二次電池用電解質膜は、第1の形態として、フッ素系微多孔膜からなる補強材を有する。フッ素系微多孔膜としては、フッ素系高分子電解質ポリマーとの親和性が良好であれば特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる微多孔膜が挙げられ、延伸されて多孔化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系膜が好ましい。」(下線は当審が付した。)と記載されており、「フッ素系微多孔膜からなる補強材」が取り得る形態として、「不織布」ではない「延伸されて多孔化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系膜」が示されているので、「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材」は明細書に記載されている。
また、明細書の段落【0087】には「このPTFE系膜にフッ素系高分子電解質ポリマーを実質的に隙間無く埋め込んだ補強材が、薄膜の強度の観点、及び面(縦横)方向の寸法変化を抑える観点から、より好ましい。」と、段落【0083】には「本実施形態のレドックスフロー二次電池用電解質膜は、上述した高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造を有することが好ましい。」と記載されているから、「補強材」が「前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことは、明細書に記載されている。
よって、訂正事項1は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、請求項1を引用する請求項5?9においても、請求項1と同様に、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(1-3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記(1-1)で検討したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、この訂正事項1によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(1-4)独立特許要件について
特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項1による訂正前の請求項1を引用する請求項9は、異議申立てのされていない請求項であるので、訂正事項1による訂正後の請求項9に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
訂正事項1による訂正後の請求項1に係る発明は、下記第3の6で検討するように、特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであるから、当該請求項1を引用する請求項9についても特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであり、その他に当該請求項9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正事項1による訂正後における特許請求の範囲の請求項9に記載されている事項により特定される発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせないから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
(2-1)訂正の目的について
ア 訂正事項2は、「電解質膜」が有する「補強材」について、本件訂正前の請求項2に、「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜からなる」と記載されていたものを「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」と訂正するとともに、当該「補強材」は「前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことを付加するものである。

イ 訂正事項2のうち、「電解質膜」が有する「補強材」について、「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜からなる」と記載されていたものを「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」と訂正することは、「補強材」が「不織布」であることを除くことによって、「補強材」の取り得る態様を限定するものである。
また、訂正事項2のうち、「補強材」が「前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことを付加することは、「補強材」についてその内部構造を具体的に限定するものである。

ウ したがって、訂正事項2は、「電解質膜」が有する「補強材」について限定することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項2を引用する請求項5?9においても、請求項2と同様に、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2)新規事項の追加の有無について
「補強材」が取り得る「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜」なる2つの形態のうち「不織布」を除いて「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)」のみに限定する訂正は、明細書に記載した事項の範囲内でしたものであることは明らかである。なお、明細書の段落【0119】には、「炭化水素系微多孔膜」の製法として、ゲル化シートを延伸して形成することが記載されているから、「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)」が記載されている。
また、明細書の段落【0083】には「本実施形態のレドックスフロー二次電池用電解質膜は、上述した高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造を有することが好ましい。」と、段落【0121】には「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜に高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を実質的に隙間無く埋め込んだ補強材が、薄膜の強度の観点、及び面(縦横)方向の寸法変化を抑える観点から、より好ましい。」と記載されているから、「補強材」が「前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことは、明細書に記載されたものである。
よって、訂正事項2は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、請求項2を引用する請求項5?9においても、請求項2と同様に、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(2-3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、上記(2-1)で検討したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、この訂正事項2によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2-4)独立特許要件について
特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項2による訂正前の請求項2を引用する請求項9は、異議申立てのされていない請求項であるので、訂正事項2による訂正後の請求項9に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
訂正事項2による訂正後の請求項2に係る発明は、下記第3の6で検討するように、特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであるから、当該請求項2を引用する請求項9についても特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであり、その他に当該請求項9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正事項2による訂正後における特許請求の範囲の請求項9に記載されている事項により特定される発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせないから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
(3-1)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正事項1及び訂正事項2に係る訂正に伴い、本件訂正前の請求項4が請求項1乃至3のいずれか一項を引用するものであったものを、請求項3のみを引用するものとすることにより、請求項の引用関係について整合を図るものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(3-2)新規事項の追加の有無について
訂正事項3は、上記(3-1)で述べたように、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、この訂正事項によって、新たな技術事項を導入するものではないから、訂正事項3は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、請求項4を引用する請求項5?9においても、請求項4と同様に、訂正事項3は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(3-3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、上記(3-1)で検討したように、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、この訂正事項3によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(3-4)独立特許要件について
訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

(4)訂正事項4について
(4-1)訂正の目的について
ア 訂正事項4は、「電解質膜」が有する「補強材」について、本件訂正前の請求項10に、「フッ素系微多孔膜からなる」と記載されていたものを「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」と訂正するとともに、当該「補強材」は「前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことを付加するものである。

イ 訂正事項4のうち、「電解質膜」が有する「補強材」について、「フッ素系微多孔膜からなる」と記載されていたものを「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」と訂正することは、「補強材」が「不織布」であることを除くことによって、「補強材」の取り得る態様を限定するものである。
また、訂正事項4のうち、「補強材」が「前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことを付加することは、「補強材」についてその内部構造を具体的に限定するものである。

ウ したがって、訂正事項4は、「電解質膜」が有する「補強材」について限定することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項10を引用する請求項14?18においても、請求項10と同様に、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(4-2)新規事項の追加の有無について
「補強材」が取り得る形態のうち「不織布」を除く訂正は、願書に添付した明細書(以下単に「明細書」という。)に記載した事項の範囲内でしたものであることは明らかである。なお、明細書の段落【0087】には「本実施形態のレドックスフロー二次電池用電解質膜は、第1の形態として、フッ素系微多孔膜からなる補強材を有する。フッ素系微多孔膜としては、フッ素系高分子電解質ポリマーとの親和性が良好であれば特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる微多孔膜が挙げられ、延伸されて多孔化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系膜が好ましい。」(下線は当審が付した。)と記載されており、「フッ素系微多孔膜からなる補強材」が取り得る形態として、「不織布」ではない「延伸されて多孔化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系膜」が示されているので、「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材」は明細書に記載されている。
また、明細書の段落【0087】には「このPTFE系膜にフッ素系高分子電解質ポリマーを実質的に隙間無く埋め込んだ補強材が、薄膜の強度の観点、及び面(縦横)方向の寸法変化を抑える観点から、より好ましい。」と、段落【0083】には「本実施形態のレドックスフロー二次電池用電解質膜は、上述した高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造を有することが好ましい。」と記載されているから、「補強材」が「前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことは、明細書に記載されている。
よって、訂正事項4は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、請求項10を引用する請求項14?18においても、請求項10と同様に、訂正事項4は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(4-3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、上記(4-1)で検討したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、この訂正事項4によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4-4)独立特許要件について
特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項4による訂正前の請求項10を引用する請求項17は、異議申立てのされていない請求項であるので、訂正事項4による訂正後の請求項17に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
訂正事項4による訂正後の請求項10に係る発明は、下記第3の6で検討するように、特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであるから、当該請求項10を引用する請求項17についても特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであり、その他に当該請求項17に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正事項4による訂正後における特許請求の範囲の請求項17に記載されている事項により特定される発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせないから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
(5-1)訂正の目的について
ア 訂正事項5は、「電解質膜」が有する「補強材」について、本件訂正前の請求項2に、「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜からなる」と記載されていたものを「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」と訂正するとともに、当該「補強材」は「前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことを付加するものである。

イ 訂正事項5のうち、「電解質膜」が有する「補強材」について、「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜からなる」と記載されていたものを「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」と訂正することは、「補強材」が「不織布」であることを除くことによって、「補強材」の取り得る態様を限定するものである。
また、訂正事項5のうち、「補強材」が「前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことを付加することは、「補強材」についてその内部構造を具体的に限定するものである。

ウ したがって、訂正事項5は、「電解質膜」が有する「補強材」について限定することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項11を引用する請求項14?18においても、請求項11と同様に、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(5-2)新規事項の追加の有無について
「補強材」が取り得る「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜」なる2つの形態のうち「不織布」を除いて「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)」のみに限定する訂正は、明細書に記載した事項の範囲内でしたものであることは明らかである。なお、明細書の段落【0119】には、「炭化水素系微多孔膜」の製法として、ゲル化シートを延伸して形成することが記載されているから、「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)」が記載されている。
また、明細書の段落【0083】には「本実施形態のレドックスフロー二次電池用電解質膜は、上述した高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造を有することが好ましい。」と、段落【0121】には「不織布及び/又は炭化水素系微多孔膜に高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を実質的に隙間無く埋め込んだ補強材が、薄膜の強度の観点、及び面(縦横)方向の寸法変化を抑える観点から、より好ましい。」と記載されているから、「補強材」が「前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」ことは、明細書に記載されたものである。
よって、訂正事項5は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、請求項11を引用する請求項14?18においても、請求項11と同様に、訂正事項5は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(5-3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項5は、上記(5-1)で検討したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、この訂正事項5によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(5-4)独立特許要件について
特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項5による訂正前の請求項11を引用する請求項17は、異議申立てのされていない請求項であるので、訂正事項5による訂正後の請求項17に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
訂正事項5による訂正後の請求項11に係る発明は、下記第3の6で検討するように、特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであるから、当該請求項11を引用する請求項17についても特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであり、その他に当該請求項17に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正事項5による訂正後における特許請求の範囲の請求項17に記載されている事項により特定される発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせないから、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(6)訂正事項6について
(6-1)訂正の目的について
訂正事項6は、訂正事項4及び訂正事項5に係る訂正に伴い、本件訂正前の請求項13が請求項10乃至12のいずれか一項を引用するものであったものを、請求項12のみを引用するものとすることにより、請求項の引用関係について整合を図るものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(6-2)新規事項の追加の有無について
訂正事項6は、上記(6-1)で述べたように、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、この訂正事項によって、新たな技術事項を導入するものでないから、訂正事項6は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、請求項13を引用する請求項14?18においても、請求項13と同様に、訂正事項6は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(6-3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項6は、上記(6-1)で検討したように、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、この訂正事項6によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(6-4)独立特許要件について
訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

(7)訂正事項7について
(7-1)訂正の目的について
請求項17の末尾が「請求項10乃至16のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。」と記載されていたところ、「請求項10乃至16」に記載の発明は、いずれも、「レドックスフロー二次電池」の発明ではなく「レドックスフロー二次電池用電解質膜」の発明であるから、請求項17の上記記載は明らかな誤記であリ、訂正事項7によって、請求項17に「レドックスフロー二次電池」と記載されているのを「レドックスフロー二次電池用電解質膜」に訂正することは、誤記の訂正を図るものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。

(7-2)新規事項の追加の有無について
訂正事項7は、上記(7-1)で検討したように、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、この訂正事項によって、新たな技術事項を導入するものでないから、訂正事項7は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、請求項17を引用する請求項18においても、請求項17と同様に、訂正事項7は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(7-3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項7は、上記(7-1)で検討したように、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、この訂正事項7によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(7-4)独立特許要件について
誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正事項7による訂正前の請求項17は、異議申立てのされていない請求項であるので、訂正事項7による訂正後の請求項17、18に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
訂正事項7による訂正後の請求項17に係る発明は、「請求項10乃至16のいずれか一項」を引用するものであり、下記第3の6で検討するように、「請求項10乃至16」に係る発明は、特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由の全てを解消しているものであるから、「請求項10乃至16のいずれか一項」を引用する請求項17についても、特許異議の申立理由及び当審から通知した取消理由は存在せず、その他に当該請求項17に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。また、請求項17を引用する請求項18についても同様である。
したがって、訂正事項7による訂正後における特許請求の範囲の請求項17と請求項17を引用する請求項18に記載されている事項により特定される発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせないから、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(8)訂正事項8について
(8-1)訂正の目的について
ア 訂正事項8による訂正前の請求項18の末尾には「レドックスフロー二次電池用電解質膜。」と記載されているから、訂正事項8による訂正前の請求項18に係る発明は、「レドックスフロー二次電池用電解質膜」という物の発明であることは明らかである。
しかるに、訂正事項8による訂正前の請求項18には、「レドックスフロー二次電池用電解質膜」が「130?200℃にて1?60分間加熱処理されたもの」と特定されており、「レドックスフロー二次電池用電解質膜」の製造方法が記載されている。

イ ここで、「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)2658号を参照)」と判示されている。

ウ そこで、上記判示事項を踏まえて検討すると、訂正事項8による訂正前の請求項18には「130?200℃にて1?60分間加熱処理された」との「レドックスフロー二次電池用電解質膜」の製造方法が記載されているから、「発明が明確であること」という要件に適合しないおそれがあるものである。

エ そして、訂正事項8は、「発明が明確であること」という要件に適合しないおそれがある、訂正事項8による訂正前の請求項18を、「請求項10乃至17のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法であって、前記レドックスフロー二次電池用電解質膜は、130?200℃にて1?60分間加熱処理されるレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法。」と訂正することによって、「発明が明確であること」という要件に適合するものとなすものである。

オ したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(8-2)新規事項の追加の有無について
「レドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法」に関して、訂正事項8による訂正前の請求項18に「130?200℃にて1?60分間加熱処理」することが記載されているし、関連する事項が明細書の段落【0131】に「また、上記方法で成膜された電解質膜は、充分水洗浄し(又は必要に応じて、水洗前に、希薄な、塩酸、硝酸、硫酸等の水性酸性液で処理し)不純物を除去して、膜を空気中(好ましくは不活性ガス中)で、130?200℃、好ましくは140?180℃、より好ましくは150?170℃で、1?30分間熱処理することが好ましい。熱処理の時間は、より好ましくは2?20分であり、更に好ましくは3?15分、特に好ましくは5?10分程度である。」と記載されている。
よって、訂正事項8は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(8-3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
(8-3-1)発明が解決しようとする課題とその解決手段について
特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項は、特許法第120条の5第2項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。
また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているから、訂正前の請求項18に係る発明と訂正後の請求項18に係る発明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、訂正後の請求項18に係る発明の技術的意義が、訂正前の請求項18に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更されたものであるか否かについて検討する。

本件訂正前の明細書の段落【0132】の記載から、訂正事項8による訂正前の請求項18に係る発明の課題は、「成膜時のままの状態では、原料由来の粒子間(一次粒子及び二次粒子間)及び分子間が充分に絡み合っていないため、その粒子間及び分子間を絡み合わす目的で、特に耐水性(特に熱水溶解成分比率を下げ)、水の飽和吸水率を安定させ、安定なクラスターを生成させる」ことであり、その解決手段は「レドックスフロー二次電池用電解質膜」について、「130?200℃にて1?60分間加熱処理」することである。
一方、本件訂正後の明細書の段落【0132】の記載から、訂正事項8による訂正後の請求項18に係る発明の課題も、「成膜時のままの状態では、原料由来の粒子間(一次粒子及び二次粒子間)及び分子間が充分に絡み合っていないため、その粒子間及び分子間を絡み合わす目的で、特に耐水性(特に熱水溶解成分比率を下げ)、水の飽和吸水率を安定させ、安定なクラスターを生成させる」ことであり、その解決手段は「レドックスフロー二次電池用電解質膜」について、「130?200℃にて1?60分間加熱処理」することである。
してみると、訂正前の請求項18に係る発明と訂正後の請求項18に係る発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前の請求項18に係る発明と訂正後の請求項18発明における課題解決手段も、実質的な変更はない。
したがって、訂正後の請求項18に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項18に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。

(8-3-2)訂正による第三者の不測の不利益について
特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。
また、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項は、特許法第120条の5第2項に規定する訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。
以上を踏まえ、訂正前の請求項18に係る発明と訂正後の請求項18に係る発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後の請求項18に係る発明の「実施」に該当する行為が、訂正前の請求項18に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。

ここで、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(訂正前請求項1発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(訂正後請求項1発明)の実施について比較する。
「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。

すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。

そして、訂正前の請求項18に係る発明は、「130?200℃にて1?60分間加熱処理」するという製造方法(以下「特定の製造方法」という)により「レドックスフロー二次電池用電解質膜」という物が特定された「物の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「レドックスフロー二次電池用電解質膜」に加え、前記特定の製造方法により製造された「レドックスフロー二次電池用電解質膜」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。
一方、訂正後の請求項18に係る発明は、上記特定の製造方法により「レドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「レドックスフロー二次電池用電解質膜」を、特許発明の実施に含むものである。

したがって、訂正後の請求項18に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項18に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、訂正前の請求項18に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。

(8-3-3)小括
訂正後の請求項18に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項18に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではなく、また、訂正後の請求項18に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項18に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえないから、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(8-4)独立特許要件について
訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、訂正事項8による訂正前の請求項18は特許異議の申立てがされた請求項でもあるので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

(9)一群の請求項について
訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1、2について、請求項4?9は請求項1、2を直接または間接に引用するものであって、訂正事項1、2によって記載が訂正される請求項1、2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、2、4?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項4、5係る訂正前の請求項10、11について、請求項13?18は請求項10、11を直接または間接に引用するものであって、訂正事項4、5によって記載が訂正される請求項10、11に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項10、11、13?18は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、本件訂正は、上記一群の請求項ごとにされたものである。

(10) 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第2号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2、4?9〕、〔10、11、13?18〕について訂正を認める。

第3 特許異議申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1?18に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?18」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、
炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含み、
前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池であって、
前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
前記電解質膜がフッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、レドックスフロー二次電池。
【請求項2】
炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、
炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含み、
前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池であって、
前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
前記電解質膜が炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記炭化水素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、レドックスフロー二次電池。
【請求項3】
炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、
炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含み、
前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池であって、
前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
前記電解質膜が織布からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記織布の空隙に充填されてなる、レドックスフロー二次電池。
【請求項4】
前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、請求項3に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項5】
前記レドックスフロー二次電池は、バナジウムを含む硫酸電解液を、正極及び負極電解液として用いたバナジウム系レドックスフロー二次電池である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項6】
前記電解質膜は、前記高分子電解質ポリマーとして下記式(1)で表される構造を有するフッ素系高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含む、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
-[CF_(2)CX^(1)X^(2)]_(a)-[CF_(2)-CF((-O-CF_(2)-CF(CF_(2)X^(3)))_(b)-O_(c)-(CFR^(1))_(d)-(CFR^(2))_(e)-(CF_(2))_(f)-X^(4))]_(g)- (1)
(式(1)中、X^(1)、X^(2)及びX^(3)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子及び炭素数1?3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される1種以上を示す。X^(4)は、COOZ、SO_(3)Z、PO_(3)Z_(2)又はPO_(3)HZを示す。Zは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はアミン類(NH_(4)、NH_(3)R_(1)、NH_(2)R_(1)R_(2)、NHR_(1)R_(2)R_(3)、NR_(1)R_(2)R_(3)R_(4))を示す。R_(1)、R_(2)、R_(3)及びR_(4)は、それぞれ独立して、アルキル基及びアレーン基からなる群から選択されるいずれか1種以上を示す。ここで、X^(4)がPO_(3)Z_(2)である場合、Zは同じでも異なっていてもよい。R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1?10のパーフルオロアルキル基及びフルオロクロロアルキル基からなる群から選択される1種以上を示す。a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数を示す。bは0?8の整数を示す。cは0又は1を示す。d、e及びfは、それぞれ独立して、0?6の整数を示す(ただし、d、e及びfは同時に0ではない。)。)
【請求項7】
前記電解質膜は、前記高分子電解質ポリマーとして下記式(2)で表される構造を有するフッ素系高分子電解質ポリマーであるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(PFSA)を主体とするイオン交換樹脂組成物を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
-[CF_(2)CF_(2)]_(a)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2))_(m)-X^(4))]_(g)- (2)
(式(2)中、a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数を示し、m
は1?6の整数を示し、X^(4)はSO_(3)Hを示す。)
【請求項8】
前記高分子電解質ポリマーの当量質量EW(イオン交換基1当量あたりの乾燥質量グラム数)が300?1300g/eqであり、前記電解質膜の平衡含水率が5?80質量%である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項9】
前記イオン交換樹脂組成物が、前記高分子電解質ポリマー100質量部に対して0.1?20質量部のポリフェニレンエーテル樹脂及び/又はポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項10】
高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)を補強材として有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、
レドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項11】
高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記炭化水素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、
レドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項12】
高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
織布からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記織布の空隙に充填されてなる、
レドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項13】
前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、請求項12に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項14】
前記レドックスフロー二次電池用電解質膜は、前記高分子電解質ポリマーとして下記式(1)で表される構造を有するフッ素系高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含む、請求項10乃至13のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
-[CF_(2)CX^(1)X^(2)]_(a)-[CF_(2)-CF((-O-CF_(2)-CF(CF_(2)X^(3)))_(b)-O_(c)-(CFR^(1))_(d)-(CFR^(2))_(e)-(CF_(2))_(f)-X^(4))]_(g)- (1)
(式(1)中、X^(1)、X^(2)及びX^(3)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子及び炭素数1?3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される1種以上を示す。X^(4)は、COOZ、SO_(3)Z、PO_(3)Z_(2)又はPO_(3)HZを示す。Zは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はアミン類(NH_(4)、NH_(3)R_(1)、NH_(2)R_(1)R_(2)、NHR_(1)R_(2)R_(3)、NR_(1)R_(2)R_(3)R_(4))を示す。R_(1)、R_(2)、R_(3)及びR_(4)は、それぞれ独立して、アルキル基及びアレーン基からなる群から選択されるいずれか1種以上を示す。ここで、X^(4)がPO_(3)Z_(2)である場合、Zは同じでも異なっていてもよい。R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1?10のパーフルオロアルキル基及びフルオロクロロアルキル基からなる群から選択される1種以上を示す。a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数を示す。bは0?8の整数を示す。cは0又は1を示す。d、e及びfは、それぞれ独立して、0?6の整数を示す(ただし、d、e及びfは同時に0ではない。)。)
【請求項15】
前記高分子電解質ポリマーは、下記式(2)で表される構造を有するフッ素系高分子電解質ポリマーである、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(PFSA)である、請求項10乃至14のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
-[CF_(2)CF_(2)]_(a)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2))_(m)-X^(4))]_(g)- (2)
(式(2)中、a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数を示し、mは1?6の整数を示し、X^(4)はSO_(3)Hを示す。)
【請求項16】
前記高分子電解質ポリマーの当量質量EW(イオン交換基1当量あたりの乾燥質量グラム数)が300?1300g/eqであり、前記電解質膜の平衡含水率が5?80質量%である、請求項10乃至15のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項17】
前記イオン交換樹脂組成物が、前記高分子電解質ポリマー100質量部に対して0.1?20質量部のポリフェニレンエーテル樹脂及び/又はポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、請求項10乃至16のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項18】
請求項10乃至17のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法であって、前記レドックスフロー二次電池用電解質膜は、130?200℃にて1?60分間加熱処理されるレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法。」

2 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、下記甲第1号証?甲第12号証、甲第13号証(甲第13号証の1)と甲第13号証の2を提出し、以下の申立理由1?申立理由4によって請求項1、2、4?8、10、11、13?16、18に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開平6-260183号公報
甲第2号証:特開平11-260390号公報
甲第3号証:特開2001-093560号公報
甲第4号証:特開2001-167786号公報
甲第5号証:特開平10-208767号公報
甲第6号証:特開2005-342718号公報
甲第7号証:特表2008-544444号公報
甲第8号証:特開2004-273255号公報
甲第9号証:国際公開第2005/103161号
甲第10号証:米国特許出願公開第2006/0141315号明細書
甲第11号証:特開2001-243964号公報
甲第12号証:特開2005-060516号公報
甲第13号証(甲第13号証の1):国際公開2012/174463号
(特願2014-516062号)
甲第13号証の2:特表2014-525115号公報

申立理由1
本件特許の請求項1、2、6、10、11、14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
本件特許の請求項1、2、4?8、10、11、13?16、18に係る発明は、甲第1号証?甲第12号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由3-1
本件特許の請求項1、2、5?7、10、11、14、15、18に係る発明は、甲第13号証に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
申立理由3-2
本件特許の請求項4、13に係る発明は、甲第13号証に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
申立理由3-3
本件特許の請求項4、13に係る発明は、甲第13号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由4
本件特許の請求項18に係る発明は明確ではないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

3 取消理由の概要
当審において、請求項1、2、5?8、10、11、14?16、18に係る特許に対して通知した取消理由は、上記申立理由1?申立理由4に基づく、以下のものである。

(1)申立理由1、2に基づく取消理由
本件発明1、2、5、6、7、8は、甲第1号証に記載された引用発明1と、甲第1?5、7?12号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2、5、6、7、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件発明10は、甲第1号証に記載された引用発明2と、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件発明11のうち、「補強材」が「炭化水素系微多孔膜からなる」ものについては、甲第1号証に記載された発明(引用発明2)であるから、本件発明11に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
本件発明11のうち、「補強材」が「不織布からなる」ものについては、甲第1号証に記載された引用発明2と甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件発明14、15、16は、甲第1号証に記載された引用発明2と甲第1、5、8?12号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明14、15、16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由3-1、3-2、3-3に基づく取消理由
本件発明1、2、5、6、7、10、11、14、15、18は、本件特許に係る出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた、甲第13号証の外国語特許出願の国際出願日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2011年6月17日、米国)における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、本件発明1、2、5、6、7、10、11、14、15、18に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。(同法第184条の13参照。)
本件発明4は、甲第13号証の出願に係る国際公開のパンフレットに記載された引用発明3と甲第2?4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件発明13は、甲第13号証の出願に係る国際公開のパンフレットに記載された引用発明4と同一であるから、本件発明13に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。また、仮に、本件発明13と引用発明4が相違点を有するとしても、本件発明13は、当該技術分野の周知の技術を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
なお、甲第13号証に係る申立理由に関して、本件発明4、13については、優先権基礎出願の出願の時にされたものとみなす規定(第41条第2項)は適用されないため、本件特許に係る出願の現実の出願日である、平成24年12月27日に出願されたものとして、新規性進歩性の判断を行った。

(3)申立理由4に基づく取消理由
請求項18に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証(特開平6-260183号公報)
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第1号証には以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付与したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
1ア 「【0005】図1は、レドックスフロー型電池の一具体例を概略的に示す構成図である。図1を参照して、このレドックスフロー型電池1は、電池反応セル2、正極液タンク3、および、負極液タンク4を備える。
【0006】電池反応セル2内は、たとえば、イオン交換膜等からなる隔膜5により仕切られており、一方側が正極セル2a、他方側が負極セル2bを構成する。
【0007】正極セル2a内には、正極6が収容され、また、負極セル2b内には負極7が収容される。
【0008】正極セル2aと正極液タンク3とは、正極液を正極液タンク3から正極セル2aに供給する正極液供給用管路8と、正極液を正極セル2aから正極液タンク3に回収する正極液回収用管路9とにより連結される。
・・・
【0010】他方、負極セル2bと負極液タンク4とは、負極液を負極液タンク4から負極セル2bに供給する負極液供給用管路11と、負極液を負極セル2bから負極液タンク4に回収する負極液回収用管路12とにより連結される。」

1イ「【0013】正極電解液としては、たとえば、鉄イオンのような原子価の変化するイオンの水溶液が用いられ、また、負極電解液としては、たとえば、クロムイオンのような原子価の変化するイオンの水溶液が用いられる。
【0014】たとえば、そのような正極電解液として、正極活物質Fe^(3+)/Fe^(2+)を含む塩酸水溶液を用い、負極電解液として、負極活物質Cr^(2+)/Cr^(3+)を含む塩酸水溶液を用いることができる。
【0015】このような電解液を用いたレドックスフロー型電池1を用いて、充電時においては、負極液タンク4に蓄えられたCr^(3+)イオンを含む塩酸水溶液がポンプ13により、負極セル2bに送られ、負極7において電子を受け取り、Cr^(2+)イオンに還元され、負極液タンク4に回収される。
【0016】他方、正極液タンク3に蓄えられたFe^(2+)イオンを含む塩酸水溶液がポンプ10により正極セル2aに送られ、正極6において外部回路に電子を放出して、Fe^(3+)に酸化され、正極液タンク3に回収される。
【0017】また、放電時においては、負極液タンク4に蓄えられたCr^(2+)イオンを含む塩酸水溶液が、ポンプ13により負極セル2bに送られ、負極7において外部回路に電子を放出して、Cr^(3+)イオンに酸化され、負極液タンク4に回収される。
【0018】他方、正極液タンク3に蓄えられたFe^(3+)イオンを含む塩酸水溶液は、ポンプ10により正極セル2aに送られ、正極6において外部回路から電子を受け取り、Fe^(2+)イオンに還元され、正極液タンク3に回収される。
【0019】このようなレドックスフロー型電池においては、正極6および負極7における充放電反応は、下記の式のようになる。
【0020】
【化1】


1ウ 「【0021】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記したレドックスフロー型電池1は、通常の電池とは異なり、正極液と負極液との構成の異なる2液型電池構成であるため、両電解液の混合を阻止する必要があり、そのため選択性の強いイオン交換膜が隔膜5として用いられている。隔膜5としてイオン交換膜を用いた場合、レドックスフロー型電池1の内部抵抗を低減することができず、したがって、高い充放電効率を達成することができないという問題があった。すなわち、イオン交換膜は、機械的強度の問題から、膜厚として約100μm?200μm必要であり、このため内部抵抗を1.0Ω・cm^(2) 以下にするのは困難であった。」

1エ 「【0031】水溶媒系電池用隔膜としては、プロトン導電性が大きく、プロトン選択透過性が大きく、機械的・化学的強度が大きく、また、電解液との濡れ性が大きい隔膜が長年望まれていた。
【0032】本発明は、以上のような問題を解決するためになされたものであって、内部抵抗が十分小さく、かつ、電解液の分離能に優れた水溶媒系電気化学装置用隔膜およびそれを用いた水溶媒系電池を提供することを目的とする」

1オ 「【0044】実施例1
ポリプロピレン製多孔質膜(平均孔径0.05μm、厚み約100μm、気孔率55%)の両面に、ナフィオン溶液(5wt%)を極めて薄く(数μm厚)塗布した後、乾燥させた。なお、ナフィオン溶液とは、ナフィオン樹脂(デュポン社製)をメタノール等の溶剤に溶かした溶液をいう。
【0045】図1を参照して、レドックスフロー型電池1の隔膜5として、上記隔膜を用いた、電極面積9cm^(2 )の小型電池セル(単セル)を構成し、充放電特性を調べた。結果を表1に示す。なお、電解液としては、正極液として、3NHClにFeCl_(2 )1モルを溶解させたもの、負極液として、3NHClにCrCl_(3) 1モルを溶解させたものを用いた。」

1カ 「【0051】この発明において、複数の孔部を有する多孔質膜の材質としては、特に限定するものではないが、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等の耐酸材料(酸性に強い材料)を用いることができる。」

1キ 「【0057】すなわち、本発明に従う隔膜では、溶剤に溶かした親水性樹脂が、多孔質膜の複数の孔部の一部の孔部に毛細管現象により導入された後、乾燥されることにより、多孔質膜の複数の孔部の少なくとも一部の空隙部内全体にまたは部分的に親水性樹脂が設けられている。」

1ク 「【0061】本発明においては、親水性樹脂として、イオン交換樹脂を用いることができる。
【0062】イオン交換樹脂の材料としては、特に限定されることはないが、たとえば、下記一般式で示されるナフィオン樹脂の他、
【0063】
【化2】

【0064】一般的な公知のイオン交換樹脂、たとえば、-SO_(3 )H等の強酸性基等のイオン交換可能な酸性基を有する不溶性樹脂を挙げることができる。イオン交換樹脂の材料としては、特に限定されることはないが、たとえば、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルニトリル等を重合させた公知の材料を用いることができる。
【0065】また、多孔質膜の複数の孔部の少なくとも一部の空隙部内全体にまたは部分的にイオン交換樹脂を設ける工程は、特に限定されることはないが、たとえば、イオン交換樹脂を、メタノール等の溶剤に溶かした後、多孔質膜の少なくとも片方の表面に、溶剤に溶かしたイオン交換樹脂を塗布した後、乾燥させる方法を挙げることができる。樹脂濃度は、特に限定されることはないが、たとえば、ナフィオン樹脂を用いる場合は、0.1wt%?5wt%の溶液を用いることができる。そして、溶媒に溶かしたイオン交換樹脂の塗布量は、多孔質膜の少なくとも片方の表面に、膜厚1μm以上10μm以下塗布するのが好ましい。1μm以下の塗布量では、イオン隔離機能が十分でなく好ましくなく、また、10μmを超えると、内部抵抗が大きくなり好ましくない。」

1ケ「


(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記1アによれば、図1に記載されたレドックスフロー型電池は、正極6を収容する正極セル2aと、負極7を収容する負極セル2bと、正極セル2aと負極セル2bを仕切る隔膜5とを含む電池反応セル2を有するものであり、前記正極セル2aは正極液(後述するイの正極電解液を意味するものと認められる。)を、負極セル2bは負極液(後述するイの負極電解液を意味するものと認められる。)を含んでいる。

イ 上記1イによれば、図1に記載されたレドックスフロー型電池に含まれる正極電解液は、充放電時に、Fe^(3+)/Fe^(2+)のように原子価が変化する正極活物質を含んでおり、負極電解液は、充放電時に、Cr^(2+)/Cr^(3+)のように原子価が変化する負極活物質を含んでいる。これらのことから、上記レドックスフロー型電池は、鉄-クロム系のレドックスフロー型電池であるといえる。

ウ 上記1オによれば、実施例1として記載されている、図1のレドックスフロー型電池1の隔膜として、厚み約100μmのポリプロピレン製多孔質膜両面に、ナフィオン溶液を数μm厚で塗布した後、乾燥させたものを使用している。なお、上記1クによれば、ナフィオンはイオン交換樹脂であり、親水性樹脂であり、また、上記1エによれば、ナフィオンを備えた上記隔膜は、プロトン導電性が大きく、プロトン選択透過性が大きい膜であり、このような膜は、技術常識によれば、電解質膜であるといえる。

エ 上記1キによれば、溶剤に溶かした親水性樹脂が、多孔質膜の複数の孔部の一部の孔部に毛細管現象により導入された後、乾燥されるのであるから、実施例1の隔膜において、親水性樹脂であるナフィオンは、ポリプロピレン製多孔質膜の孔部に導入されているものと認められ、これは、上記孔部にナフィオンが充填されているといえる。

オ 以上、上記1ア?1ケの記載事項と、上記ア?エの検討事項に基づき、実施例1のレドックスフロー型電池に注目して、本件発明1及び本件発明10の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には以下に示すレドックスフロー型電池の発明と、レドックスフロー型電池の隔膜用電解質膜の発明、が記載されていると認められる。

「 正極6を収容する正極セル2aと、
負極7を収容する負極セル2bと、
前記正極セル2aと、前記負極セル2bとを仕切る、隔膜としての電解質膜と、
を含む電池反応セル2を有し、
前記正極セル2aは正極活物質を含む正極電解液を、前記負極セル2bは負極活物質を含む負極電解液を含み、
前記両電解液中の活物質の原子価の変化に基づき充放電する、鉄-クロム系のレドックスフロー型電池であって、
前記電解質膜である隔膜が、イオン交換樹脂であるナフィオンを含み、
前記電解質膜である隔膜が、ポリプロピレン製多孔質膜を有し、前記ナフィオンが前記ポリプロピレン製多孔質膜の表面部の孔に充填されてなり、厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜は、その両面に、前記ナフィオンの溶液を数μmの厚みで塗布した後に乾燥された構造である、レドックスフロー型電池。」(以下「引用発明1」という。)

「 イオン交換樹脂であるナフィオンを含み、
ポリプロピレン製多孔質膜を有し、前記ナフィオンが前記ポリプロピレン製多孔質膜の表面部の孔に充填されてなり、厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜は、その両面に、前記ナフィオンの溶液を数μmの厚みで塗布した後に乾燥された構造である、レドックスフロー型電池の隔膜用電解質膜。」(以下「引用発明2」という。)

(2)甲第2号証(特開平11-260390号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第2号証には次の事項が記載されている。
2ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はレドックスフロー電池、殊に特定の構造を有する隔膜を使用するレドックスフロー電池に関するものである。」

2イ 「【0003】
【従来の技術】レドックスフロー二次電池とは、電池活物質が液状であり、正、負極の電池活物質を液透過型の電解槽に流通せしめ、酸化還元反応を利用して充放電を行うものであり、従来の二次電池と比べレドックスフロー二次電池は 次の利点を有する。
(1) 蓄電容量を大きくするためには、貯蔵容器の容量を大きくし、活物質量を増加させるだけでよく、出力を大きくしない限り、電解槽自体はそのままでよい。
(2) 正、負極活物質は容器に完全に分離して貯蔵できるので、活物質が電極に接しているような電池と異なり、自己放電の可能性が小さい。
(3) 本電池で使用する液透過型炭素多孔質電極においては、活物質イオンの充放電反応(電極反応)は、単に、電極表面で電子の交換を行うのみで、亜鉛ー臭素電池における、亜鉛イオンのように電極に析出することはないので、電池の反応が単純である。」

2ウ 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明においては、レドックス電池のセル抵抗を小さくし、電力効率を高め、なおかつ長期の充放電サイクル特性に優れた新規なレドックスフロー電池を提供するものである。かかる状況に鑑み、本発明者等は、電池セルの抵抗を低減でき、電力効率が高く、かつ長期の充放電サイクル特性に優れたレドックスフロー型電池の開発について鋭意検討した結果本発明に到達したものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、液透過性の多孔性炭素電極からなる正極と負極が隔膜により分離され、正極と負極に正極液と負極液を通液し酸化還元反応を行い、充放電するレドックスフロー電池に於いて、隔膜が少なくとも1つのカチオン交換基層と少なくとも1つのアニオン交換基層が交互に積層されてなるイオン交換基層を有し、かつイオン交換基層の正極液に接触する側にカチオン交換基層が配列されていることを特徴とするものである。」

2エ「【0025】電解液としてはバナジウムの硫酸水溶液が好ましく用いられ、電解液における硫酸根の濃度は、好ましくは0.5モル/リットル以上9.0モル/リットル以下、より好ましくは0.8モル/リットル以上8.5モル/リットル以下、さらに好ましくは1.0モル/リットル以上8.0モル/リットル以下、特に好ましくは1.2モル/リットル以上7.0モル/リットル以下、最も好ましくは1.5モル/リットル以上6.0モル/リットル以下である。」

2オ「【0044】本発明のレドックスフロー電池は、液透過性の多孔性炭素電極からなる正極と負極が隔膜により分離され、多孔性炭素電極の隔膜側と反対側に集電体が配置されてなる単セル構造を少なくとも1つ以上有し、かつ隔膜と集電体との間に挟まれて配置される多孔性炭素電極の厚みが0.3mm以上3.5mm以下であり、かつ多孔性炭素電極の嵩密度が0.1g/cc以上0.8g/cc以下である電池である。
・・・
【0047】本発明の電池反応を全バナジウムレドックスフロー電池で例示する。電池セルの単セル構造は、図1に示すように、二枚の集電板電極AとBおよび隔膜の両側に液透過性多孔質電極を配置し、これらの部材を二枚の集電板電極AとBによってサンドイッチ状態に押圧し、隔膜で仕切られた室の一方を正極室、他方を負極室とし、その室の厚さは適当なスペーサーによって確保される。この各室、すなわち正極室にV^(4+)/V^(5+)から成る正極電解液を、負極室にV^(3+)/V^(2+)から成る負極電解液を流通させることによりレドックス電池が構成される。レドックスフロー電池の場合、充電時には正極室では、電子を放出しV^(4+)がV^(5+)に酸化される。放出された電子は、外部回路を通して負極室に供給される。負極室では、供給された電子によってV^(3+)がV^(2+)に還元される。この酸化還元反応に伴って正極室では、水素イオンH^(+)が過剰になる。一方、負極室では、水素イオンH^(+)が不足する。隔膜は、正極室の過剰な水素イオンH^(+)を選択的に負極室へ移動させ電気的中性が保たれる。放電時には、この逆の反応が進む。」


(3)甲第3号証(特開2001-093560号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第3号証には次の事項が記載されている。
3ア 「【0001】
【発明の属する技術の分野】本発明は、電力貯蔵等に有用なレドックスフロー電池、特に電解液の空気酸化を防止し長時間の連続運転を可能とするレドックスフロー二次電池に関する。」

3イ 「【0004】レドックスフロー型二次電池とは、電池活物質が液状であり、正極及び負極の電池活物質を液透過型の電解槽に流通せしめ、酸化還元反応を利用して充放電を行うものである。従来の二次電池と比べレドックスフロー型二次電池は 次の利点を有する。
(1) 蓄電容量を大きくするためには、貯蔵容器の容量を大きくし、活物質量を増加させるだけでよく、出力を大きくしない限り、電解槽自体はそのままでよい。
(2) 正極、負極の電解液の活物質はそれぞれ別個の容器に完全に分離して貯蔵できるので、活物質が電極に接しているようなその他のタイプの電池と異なり、自己放電の可能性が小さい。
(3) レドックスフロー型二次電池で使用する液透過型炭素多孔質電極においては、活物質イオンの充放電反応(電極反応)は、単に、電極表面で電子の交換を行うのみで、亜鉛-臭素電池における亜鉛イオンのように電極に電解液成分が析出することはないので、電池の反応が単純である。
【0005】しかし、レドックスフロー型二次電池でも、従来開発が行われてきた鉄-クロム系電池は、エネルギー密度が小さく、イオン交換膜を介して鉄とクロムが混合するなどの欠点があるために実用化にいたっていない。そのため正極液、負極液がともにバナジウムからなる、いわゆる全バナジウムレドックスフロー型電池(J.Electrochem.Soc.,133 1057(1986), 特開昭62-186473)が提案されており、この電池は、鉄-クロム系電池に比し起電力が高く、エネルギー密度が大きく、また電解液が一元素系であるたがめ隔膜を介して正極液と負極液が相互に混合しても充電によって簡単に再生することができ、電池容量が低下せず,電解液を完全にクローズド化できる等の利点を持っている。」

3ウ 「【0006】バナジウムレドックスフロー二次電池では電解液としてバナジウムの硫酸溶液が用いられている。バナジウムレドックスフロー二次電池の電解セルに於ける電極反応は以下の通りである。
正極: VO^(2+)+H_(2)O ⇔ VO^(2+)+2H^(+)+e
負極: V^(3+) +e ⇔ V^(2+)
充電動作の時は右方向に、放電動作の時は逆の左方向に反応が進行する。すなわち、充電時には正極においては電解液中の4価のバナジウムは酸化されて5価になり、負極においては3価のバナジウムは2価へと還元される。このとき電気エネルギーはイオンの価数変化により電解液中に蓄積される。上記の反応式に示したVO^(2+)とV^(2+)の濃度はそのまま充電状態の活物質の濃度を表す。そのため、電池のエネルギー密度は電解液中の活物質であるバナジウムの濃度に依存し、蓄電容量は電解液量の増加により増すことができる。」

(4)甲第4号証(特開2001-167786号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第4号証には次の事項が記載されている。
4ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は水溶液系電解液を用いたレドックスフロー電池の電解槽に用いられる電極材および電解槽に関する。特に本発明のレドックスフロー電池用電極材および電解槽は、特にバナジウム系レドックスフロー電池用の電極材および電解槽として有用である。」

4イ 「【0003】レドックスフロー電池は、正極に鉄の塩酸水溶液、負極にクロムの塩酸水溶液を用いたタイプから、起電力の高いバナジウムの硫酸水溶液を両極に用いるタイプに替わり、高エネルギー密度化されたが、最近さらに活物質濃度を高める開発が進み、一段と高エネルギー密度化が進んでいる。
【0004】レドックスフロー型電池の主な構成は、図1に示すように電解液を貯える外部タンク6, 7と電解槽ECから成り、ポンプ8, 9にて活物質を含む電解液を外部タンク6, 7から電解槽ECに送りながら、電解槽ECに組み込まれた電極上で電気化学的なエネルギー変換、すなわち充放電が行われる。
【0005】一般に、充放電の際には、電解液を外部タンクと電解槽との間で循環させるため、電解槽は図1に示すような液流通型構造をとる。該液流通型電解槽を単セルと称し、これを最小単位として単独もしくは多段積層して用いられる。液流通型電解槽における電気化学反応は、電極表面で起こる不均一相反応であるため、一般的には二次元的な電解反応場を伴うことになる。電解反応場が二次元的であると、電解槽の単位体積当たりの反応量が小さいという難点がある。
【0006】そこで、単位面積当りの反応量、すなわち電流密度を増すために電気化学反応場の三次元化が行われるようになった。図2は、三次元電極を有する液流通型電解槽の分解斜視図である。該電解槽では、相対する二枚の集電板1, 1間にイオン交換膜3が配設され、イオン交換膜3の両側にスペーサー2によって集電板1, 1の内面に沿った電解液の流路4a, 4bが形成されている。該流通路4a,4bの少なくとも一方には炭素繊維集合体等の電極材5が配設されており、このようにして三次元電極が構成されている。なお、集電板1には、電解液の液流入り口10と液流出口11とが設けられている。」

4ウ 「【0014】また、特開平5-234612号公報には、ポリアクリロニトリル系繊維を原料とする炭素質繊維で、X線広角解析より求めた<002>面間隔が3.50?3.60Åの擬黒鉛結晶構造を有し、炭素質材料表面の結合酸素原子数が炭素原子数の10?25%となるような炭素質材を、鉄-クロム系レドックスフロー電池の電解槽用電極材として用いることが提案されている。」

(5)甲第5号証(特開平10-208767号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第5号証には次の事項が記載されている。
5ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、極液にバナジウムを使用したバナジウム系レドックスフロー電池の正極液と負極液を隔てる隔膜に関する。」

5イ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来、バナジウム系レドックスフロー電池用の隔膜として提案されているイオン交換膜は、イオン交換膜としてスルホン酸型陽イオン交換膜等が使用されているが、耐酸化性に関し十分なものではなかった。特に、バナジウム系レドックスフロー電池は、正極室の活物質である5価バナジウム(V^(5+))の酸化力が強い為に、一般のイオン交換膜は、かかる正極室の室液に浸漬しただけでも酸化劣化を来して、このものを電池として使用しても、充放電効率が経時的に、或いは充放電サイクルの繰り返しと共にその電池性能が低下する問題があった。その為、バナジウム系レドックスフロー電池用隔膜では、実用化に向けて、充放電効率を高め、長期間の使用に耐え得るよう耐酸化性を向上させることが望まれていた。
【0007】以上の背景にあって、本発明は、隔膜として膜抵抗が低く、プロトンの透過性に優れ且つバナジウムイオンの透過性が低い他、この耐酸化性についても優れるイオン交換膜を開発することを目的とする。」

5ウ 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決する為に、鋭意研究を進めた。その結果、特定のイオン交換基を有する架橋重合体よりなるイオン交換膜がバナジウム系レドックスフロー電池の隔膜として、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】即ち、本発明は、ピリジニウム基を有する架橋重合体よりなるバナジウム系レドックスフロー電池用隔膜である。」

5エ 「【0029】本発明において、ビリジニウム基を有する架橋重合体からなるバナジウム系レドックスフロー電池用隔膜は、いかなる製造方法によって製造したものでも良い。好適な製造方法を示せば、ピリジル基を有するビニル重合性単量体、架橋剤、および必要により用いられる単官能ビニル重合性単量体を含む重合性組成物を、膜状に成形して重合し、その後、ピリジル基をピリジニウム基に変換する方法が挙げられる。」

5オ 「【0032】以上の配合組成で調製されたペースト状の重合性組成物は、膜状に成形重合される。この成形重合は、該重合性組成物を膜状の基材に付着させた後、加熱等の重合処理を施すことにより行うのが一般的である。基材としては、従来からイオン交換膜の基材として用いられているポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等の素材樹脂を、繊維化して織布、不織布、網、或いはフィルム化して多孔性シート等の形状に加工したものが使用できる。基材の厚さは、10?200μmの範囲、特に50?120μmが好適である。
【0033】重合性組成物の基材への付着方法は、例えば塗布、含浸、或いは浸漬等の公知の方法が使用でき、基材の材質や形状、或いは重合性組成物の性状に応じて適宜選択すれば良い。基材に付着させた重合性組成物は、配合される重合開始剤の種類に応じて、加熱による方法、或いは紫外線等の光や電離性放射線を照射する方法により重合される。重合開始剤が熱分解型重合開始剤であり加熱により重合する場合には、添加した重合開始剤の分解温度以上に加熱して重合が行なわれるが、一般には50?150℃の範囲で基材の樹脂素材の耐熱性を考慮して重合温度を設定すればよい。重合時間は、5?16時間の範囲から採択するのが好ましい。 このようにして製膜された架橋重合体よりなる膜状物には、次いで、そのピリジル基をピリジニウム基へ変換する処理が施される。かかるピリジニウム基への変換の方法は、公知の方法が制限なく使用される。例えばピリジニウム基として、ピリジン環の窒素原子にアルキル基等の有機基が配位結合しているものを得る場合は、前記膜状物をヨウ化メチル等のハロゲン化アルキルを含む浴に浸漬する等の従来公知の四級化方法で処理すればよい。」

(6)甲第6号証(特開2005-342718号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第6号証には次の事項が記載されている。

6ア 「【0013】
本発明は、現在公知のイオン交換膜を改良するものである。本発明のある態様例において、これは、ポリマーのフィブリルの多孔質微細構造を有する、延伸膨張ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を含む複合膜を提供することによって達成される。この複合膜は、イオン交換材料で膜全体が含浸されている。この含浸された延伸膨張ポリテトラフルオロエチレン膜は、10,000秒を上回るガーレイ数を有する。このイオン交換材料は、膜を実質的に含浸し、膜の内部体積を実質的に閉塞性にする。」

6イ 「【0019】
図1に最適に図解するように、基材4、及びイオン交換材料又はイオン交換樹脂2を含む複合膜が提供される。この基材4は、フィブリルによって相互に接続された結節を特徴とする多孔質微細構造(図3)、もしくは実質的にフィブリルを特徴とする多孔質微細構造(図5)で定義された膜である。このイオン交換樹脂は、実質的にこの膜を含浸し、その結果その内部体積を実質的に閉塞性にする。このイオン交換樹脂は、この膜の外面及び内面の両方、すなわちこの基材のフィブリル及び/又は結節に強固に接着している。
【0020】
本発明の複合膜は、様々な用途で使用することができ、これは例えば、極性を基にした化学分離;電気分解;燃料電池及び電池;浸透蒸発;気相分離;透析分離;クロルアルカリ製造及び他の電気化学的用途のような、工業的電気化学;超酸触媒としての使用;もしくは酵素固定の媒質としての使用を含むが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明の複合膜は均質であり、かつ機械的に強固である。ここにおいて使用される用語「均質」とは、この複合構造内にピンホール又は他の不連続の出口がない、イオン交換材料による連続的含浸と定義される。この膜は「閉塞性」でなければならず、このことはこの多孔質膜の内部体積が含浸され、イオン交換材料でこの内部体積が充填され、かつ最終的な膜が10,000秒を上回るガーレイ数を有し、本質的に不透過性であることを意味する。この膜の内部体積の90%以上の充填は、本発明の目的に適した閉塞性を提供するはずである。」

6ウ 「【0056】
(実施例1)
呼称厚さ0.75ミル(0.02mm)であるタイプI ePTFE 膜を、直径6インチの木製の刺繍用枠に装着した。過フッ化スルホン酸/テトラフルオロエチレンコポリマー樹脂溶液(H+形、それ自身、過フッ化スルホン酸/テトラフルオロエチレンコポリマー樹脂を5%、水を45%、及び低分子量アルコールの混合物を50%含み、E.I.DuPont deNemours,Inc.から、登録商標NAFIONタイプNR-50(1100EW) で市販されていて、以後“NR-50 ”と称する。)を95容量%、及びノニオン系界面活性剤であるオクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX-100 、Rohm Haas (フィラデルフィア、PA)から入手)を5%含む、イオン交換材料/界面活性剤溶液を調製した。この溶液を、前述の膜の両面に刷毛で塗り、含浸し、かつ膜の内部体積を実質的に閉塞性にした。次にこの試料を、140 ℃の炉で30分間乾燥した。この方法を更に2回繰り返し、その内部体積を完全に閉塞性にした。その後この試料を、イソプロパノールに5分間浸漬し、界面活性剤を除去した。蒸留水で洗浄した後、この試料を室温で乾燥させ、イオン交換材料/界面活性剤の最終塗膜を塗布した。この湿った膜を再度、140 ℃の炉で30秒間乾燥し、イソプロパノールに2分間浸漬した。最後にこの膜は、大気圧下、蒸留水中で30分間煮沸し、この処理した膜を膨潤した。この材料のガーレイ数を、表3にまとめた。イオン伝導度は、表4にまとめた。引張り強さは、表2に示した。この試料の重量変化の百分率は、表6に示した。この膨潤した膜を、140 ℃の炉で30秒間後乾燥し、脱水状態にした。この乾燥した複合膜の厚さを測定し、かつその基材の厚さとほぼ同じであることがわかった。
(実施例2)
公称厚さ0.75ミル(0.02mm)かつガーレイ透気度試験機の空気流れが2?4秒であるタイプI ePTFE 膜を、Conwed Plastics Corp. (ミネアポリス、MN)から入手したポリプロピレンネットの表面に配置した。これらの2種の材料を、圧力10psig、速度15フィート/分及び温度200 ℃でラミネーター(laminator) 上で互いに結合した。接着剤は使用しなかった。次にこの補強した膜の試料を、6インチの木製の刺繍用枠に装着した。アルコールを溶媒とする過フッ化スルホン酸/TFE コポリマー樹脂96容量%、及びノニオン系界面活性剤トリトンX-100 4%の溶液を調製した。この溶液を、前述の膜面にのみ刷毛で塗り、膜の内部体積を実質的に閉塞性にした。次にこの試料を、130 ℃の炉で乾燥した。この方法を更に3回繰り返し、膜の内部体積を完全に閉塞性にした。その後この試料を、140 ℃の炉で5分間焼成した。この試料を、イソプロパノールに5分間浸漬し、界面活性剤を除去した。次にこの膜を、大気圧下蒸留水中で30分間煮沸し、この処理した膜を膨潤した。この材料のガーレイ数を、表3にまとめた。
【0057】」

(7)甲第7号証(特表2008-544444号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第7号証には次の事項が記載されている。

7ア 「【技術分野】
【0001】
・・・バナジウムレドックス電池は、負ハーフセルにV(II)/V(III)カップルを利用し、正ハーフセルにV(IV)/V(V)を利用する全バナジウムレドックスセルおよび電池(V/VRBと呼ばれる)ならびにV(II)/V(III)カップルを負ハーフセルに利用し、臭化物/ポリハライドカップルを負ハーフセルに利用する臭化バナジウムレドックスセルおよび電池(V/BrRBと呼ばれる)を含む。・・・」(なお、上記「)」については、誤記のため、当審が補足したものである。)

7イ 「【背景技術】
【0002】
本明細書ではV/VRBと呼ばれる全バナジウムレドックスフロー電池は以下の特許に記載されている。豪州特許第575247号、同第696452号、同第704534号、米国特許第6143443号および同第6562514号。それに対して、本明細書ではV/BrRBと呼ばれる臭化バナジウムレドックスフローセルは、PCT/AU02/01157、PCT/GB2003/001757、およびPCT/AU2004/000310に記載されている。両方の電池は、バナジウム電解液を両方のハーフセルで利用するが、V/VRBの場合、硫酸バナジウム溶液が両ハーフセルで使用され、セルは、V(II)/V(III)カップルを負ハーフセルに利用し、V(IV)/V(V)カップルを正ハーフセル電解質に利用する。・・・」

(8)甲第8号証(特開2004-273255号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第8号証には次の事項が記載されている。
8ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体に関するものである。」

8イ 「【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、非定形の金属酸化物を含有する膜電極接合体が、電気抵抗の増大とガス透過性の低下を招くことがなく、高温低加湿条件下での燃料電池の発電性能を向上させることができることを見出した。
ここで、非定形とは、粒子状、繊維状のものが目視されず、定まった形状を有しないことを言い、高温低加湿とは、81℃?200℃、1RH%?90RH%のことであり、特には90℃?150℃、10RH%?60RH%のことを言う。
【0014】
即ち、本発明は、導電性粒子上に触媒粒子が担持された複合粒子とプロトン伝導性ポリマーを含有する触媒組成物を用いてプロトン交換膜上に触媒層を形成してなる接合体に、金属酸化物前駆体を含浸させた後、引き続き該前駆体を加水分解・重縮合反応させて金属酸化物とすることによって得られる燃料電池用の膜電極接合体を用いた燃料電池によって初めて電気抵抗の増大とガス透過性の低下を招くことがなく、高温低加湿条件下での燃料電池の発電性能を向上させることができたのである。」

8ウ 「【0020】
本発明に用いるプロトン伝導性ポリマーは、プロトン伝導性のある官能基を有するポリマーである。プロトン伝導性のある官能基としては、例えばスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基等が挙げられる。ポリマーの骨格としては、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレンのような炭化水素系重合体、パーフルオロカーボン重合体等が挙げられる。中でも、耐酸化性や耐熱性に優れた下記式(1)で表されるパーフルオロカーボン重合体が好ましい。
-[CF_(2)CX^(1)X^(2)]_(a)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2)-CF(CF_(2)X^(3)))_(b)-O_(c)-(CFR^(1))_(d)-(CFR^(2))_(e)-(CF_(2))_(f)-X^(4))]_(g)- (1)
(式中X^(1),X^(2)及びX^(3)はそれぞれ独立にハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、aは0以上20以下、bは0以上8以下の整数、cは0又は1、d,e及びfはそれぞれ独立に0以上6以下の整数(但し、d+e+fは0に等しくない)、gは1以上20以下、R1及びR2はそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基、X^(4)はCOOH,SO_(3)H,PO_(3)H_(2)又はPO_(3)Hである)
【0021】
このようなパーフルオロカーボン重合体の中でも、特に下記式(2)で表されるポリマーが好ましい。
-[CF_(2)CF_(2)]_(a)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2))_(2)-SO_(3)H)]_(g)- (2)
(式中aは0以上20以下、gは1以上20以下である)
プロトン伝導性ポリマーの当量質量EW(プロトン交換基1当量あたりのプロトン伝導性ポリマーの乾燥質量グラム数)には限定はないが、500以上2000以下が好ましく、より好ましくは600以上1500以下、最も好ましくは700以上1200以下である。」

8エ 「【0023】
・・・
また、本発明で用いるプロトン交換膜の種類には限定はないが、前記プロトン伝導性ポリマーと同様にパーフルオロカーボン重合体が好ましい。膜厚には制限はないが、1μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上100μm以下、最も好ましくは1μm以上50μm以下である。」

(9)甲第9号証(国際公開第2005/103161号)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に外国において頒布された、上記甲第9号証には次の事項が記載されている。
9ア 「 技術分野
[0001] 本発明は、高分子電解質組成物及びそれからなる固体高分子型燃料電池用のプロトン交換膜に関するものである。 」

9イ 「 [0003] このような固体高分子形燃料電池は、電極触媒層とガス拡散層とが積層されたガス拡散電極がプロトン交換膜の両面に接合された膜電極接合体を少なくとも備えている。ここでいうプロトン交換膜は、高分子鎖中にスルホン酸基、カルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換膜としては、化学的安定性の高いナフイオン (登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜が好適に用いられる。
・・・
[0006] このような固体高分子型燃料電池は、高出力特性を得るために 80℃近辺で運転するのが通常である。しかしながら、自動車用途として用いる場合には、夏場の自動車走行を想定して、高温低加湿条件下 (運転温度 100℃付近で、 50℃加湿 (湿度 12RH%に相当))でも燃料電池を運転できることが望まれている。ところが、従来のパーフルオロ系プロトン交換膜を用いて高温低加湿条件下で燃料電池を長時間運転すると、プロトン交換膜にピンホールが生じ、クロスリークが発生するという問題があり、 十分な耐久性が得られていない。」

9ウ 「 [0008] 本発明の目的は、高温低加湿条件下 (例えば、運転温度 100℃で、 50℃加湿 (湿度 12RH%に相当))でも高耐久性を有する高分子電解質組成物およびこの高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜を提供することである。」

9エ 「 [0015] 本発明で用いられるイオン交換基を有する高分子化合物 (A)としては、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物が特に好適である。
[0016] イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物としては、パーフルォロカーボンのスルホン酸ポリマーをはじめカルボン酸ポリマー、スルホンイミドポリマー、スルホンアミドボリマー、リン酸ポリマー、もしくはこれらのアミン塩、金属塩等が好適 に用いられ、具体例としては下記一般式(1)で表される重合体が挙げられる。
-[CF_(2)CX^(1)X^(2)]_(a)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2)-CF(CF_(2)X^(3)))_(b)-O_(c)-(CFR^(1))_(d)-(CFR^(2))_(e)-(CF_(2))_(f)-X^(4))]_(g)- (1)
式中X^(1),X^(2)およびX^(3)はそれぞれ独立にハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基であり、aおよびgは0≦a<1、0<g≦1、a+g=1であり、bは0以上8以下の整数であり、cは0又は1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の整数(但し、d+e+fは0に等しくない)であり、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基であり、X^(4)はCOOZ,SO_(3)Z,PO_(3)Z_(2)又はPO_(3)HZである。 ここで Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH_(4)、NH_(3)R_(1)、NH_(2)R_(1)R_(2)、NHR_(1)R_(2)R_(3)、NR_(1)R_(2)R_(3)R_(4))であり、 R_(1)、R_(2)、R_(3)及びR_(4)はアルキル基またはアレーン基である。
[0017] 中でも、下記一般式(2)または(3)で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーもしくはその金属塩が特に好ましい。
[0018]・・・
[0019] -[CF_(2)CF_(2)]_(e)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2))_(f)-SO_(3)Y)]_(g)- (3)
式中、 eおよび gは 0≦e<1、 0≦g<1、 e + g= 1であり、 fは 0以上 10以下の整数であり、Yは水素原子またはアルカリ金属原子である。 」

(10)甲第10号証(米国特許出願公開第2006/0141315号明細書)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に外国において頒布された、上記甲第10号証には次の事項が記載されている。
10ア 「TECHNICAL FIELD
[0001] The present invention relates to a polymer electrolyte composition and a proton exchange membrane comprising the composition, which is used for solid polymer electrolyte fuel cells. 」(当審訳:技術分野 本発明は、高分子電解質組成物及びその組成物からなる固体高分子型燃料電池用のプロトン交換膜に関するものである。)

10イ「 [0003] The solid polymer electrolyte fuel cell comprises at least a membrane electrode assembly in which a gas diffusion electrode obtained by stacking an electrode catalyst layer and a gas diffusion layer is joined on each of both surfaces of a proton exchange membrane. The proton exchange membrane as used herein means a material having a strongly acidic group such as sulfonic acid group and carboxylic acid group in the polymer chain and having a property of selectively passing a proton. The proton exchange membrane which is suitably used is a perfluoro-based proton exchange membrane as represented by Nafion (registered trademark, produced by du Pont) having high chemical stability. 」(当審訳:このような固体高分子形燃料電池は、電極触媒層とガス拡散層とが積層されたガス拡散電極がプロトン交換膜の両面に接合された膜電極接合体を少なくとも備えている。ここでいうプロトン交換膜は、高分子鎖中にスルホン酸基、カルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換膜としては、化学的安定性の高いナフイオン (登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜が好適に用いられる。)

10ウ「 [0006] The solid polymer electrolyte fuel cell is usually operated at around 80℃. in order to bring out high output properties, but in usage for automobiles, assuming travel of an automobile in the summer season, the fuel cell is required to be operable even under high-temperature low-humidification conditions (an operation temperature in the vicinity of 100℃. with 50℃. humidification (corresponding to a humidity of 12 RH %)). However, when a fuel cell using a conventional perfluoro-based proton exchange membrane is operated for a long time under high-temperature low-humidification conditions, this causes a problem in that pinholes are generated in the proton exchange membrane and cross-leakage is brought about, and sufficiently high durability is not obtained. 」(当審訳:このような固体高分子型燃料電池は、高出力特性を得るために 80℃近辺で運転するのが通常である。しかしながら、自動車用途として用いる場合には、夏場の自動車走行を想定して、高温低加湿条件下 (運転温度 100℃付近で、 50℃加湿 (湿度 12RH%に相当))でも燃料電池を運転できることが望まれている。ところが、従来のパーフルオロ系プロトン交換膜を用いて高温低加湿条件下で燃料電池を長時間運転すると、プロトン交換膜にピンホールが生じ、クロスリークが発生するという問題があり、 十分な耐久性が得られていない。)

10エ「 [0008] An object of the present invention is to provide a polymer electrolyte composition ensuring high durability even under high-temperature low-humidification conditions (for example, an operation temperature of 100℃. with 50℃. humidification (corresponding to a humidity of 12 RH %)), and a proton exchange membrane comprising the polymer electrolyte composition. 」(当審訳:本発明の目的は、高温低加湿条件下 (例えば、運転温度 100℃で、 50℃加湿 (湿度 12RH%に相当))でも高耐久性を有する高分子電解質組成物およびこの高分子電解質組成物からなるプロトン交換膜を提供することである。)

10オ 「Suitable examples of the perfluorocarbon polymer compound having an ion exchange group include sulfonic acid polymer, carboxylic acid polymer, sulfonimide polymer, sulfonamide polymer and phosphoric acid polymer of perfluorocarbon, and amine salts and metal salts thereof. Specific examples thereof include a polymer represented by the following formula (1):
-[CF_(2)CX^(1)X^(2)]_(a)-[CF_(2)-CF(-O-CF_(2)-CF(CF_(2)X^(3)))_(b)-O_(c)-(CFR^(1))_(d)-(CFR^(2))_(e)-(CF_(2))_(f)-X^(4))]_(g)- (1)
wherein X^(1,) X^(2) and X^(3) each is independently a halogen atom or a perfluoroalkyl group having from 1 to 3 carbon atoms, a and g are 0≦a<1, 0<g≦1 and a+g=1, b is an integer of 0 to 8, c is 0 or 1, d, e and f each is independently an integer of 0 to 6 (with the proviso that d+e+f is not 0), R^(1) and R^(2) each is independently a halogen element or a perfluoroalkyl or fluorochloroalkyl group having from 1 to 10 carbon atoms, and X^(4) is COOZ, SO_(3)Z, PO_(3)Z_(2) or PO_(3)HZ (wherein Z is a hydrogen atom, an alkali metal atom, an alkaline earth metal atom or an amine (e.g., NH_(4), NH_(3)R_(1), NH_(2)R_(1)R_(2), NHR_(1)R_(2)R_(3), NR_(1)R_(2)R_(3)R_(4)), and R_(1), R_(2), R_(3) and R_(4 )each is an alkyl group or an arene group). 」(当審訳:イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物の適切な実例としては、パーフルオロカーボンのスルホン酸ポリマーをはじめカルボン酸ポリマー、スルホンイミドポリマー、スルホンアミドボリマー、リン酸ポリマー、もしくはこれらのアミン塩、金属塩等が好適 に用いられ、具体例としては下記式(1)で表される重合体が挙げられる。
・・・
式中X^(1),X^(2)およびX^(3)はそれぞれ独立にハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基であり、aおよびgは0≦a<1、0<g≦1、a+g=1であり、bは0以上8以下の整数であり、cは0又は1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の整数(但し、d+e+fは0に等しくない)であり、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基であり、X^(4)はCOOZ,SO_(3)Z,PO_(3)Z_(2)又はPO_(3)HZである。(ここで Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH_(4)、NH_(3)R_(1)、NH_(2)R_(1)R_(2)、NHR_(1)R_(2)R_(3)、NR_(1)R_(2)R_(3)R_(4))であり、 R_(1)、R_(2)、R_(3)及びR_(4)の各々はアルキル基またはアレーン基である。)

10カ 「 In particular, a perfluorocarbonsulfonic acid polymer represented by the following formula (2) or (3) or a metal salt thereof is preferred:
・・・
-[CF_(2)CF_(2)]_(e)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2))_(f)-SO_(3)Y)]_(g)- (3)
wherein e and g are 0≦e<1, 0<g≦1 and e+g=1, f is an integer of 0 to 10, and Y is a hydrogen atom or an alkali metal atom. 」(当審訳:中でも、下記式(2)または(3)で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーもしくはその金属塩が特に好ましい。
・・・
式中、 eおよび gは 0≦e<1、 0≦g<1、 e + g= 1であり、 fは 0以上 10以下の整数であり、Yは水素原子またはアルカリ金属原子である。)

(11)甲第11号証(特開2001-243964号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第11号証には次の事項が記載されている。
11ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は固体高分子電解質型燃料電池に関する。」

11イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】固体高分子電解質型燃料電池に電解質として用いられる高分子膜は、通常厚さ50?200μmのプロトン電導性イオン交換膜が用いられ、特にスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜が基本特性に優れ広く検討されている。しかし、現在提案されている陽イオン交換膜の電気抵抗は、より高出力密度の電池を得る観点から必ずしも充分に低いとはいえない。
【0004】陽イオン交換膜の電気抵抗を低減する方法としては、スルホン酸基濃度を増加する方法と膜厚を低減する方法があるが、スルホン酸基濃度の著しい増加は、膜の機械的強度を低下させたり、長期運転において膜がクリープしやすくなり耐久性を低下させるなどの問題が生じる。一方膜厚の低減は、膜の機械的強度を低下させたり、さらにガス拡散電極との接合等の加工性・取扱い性を低下させるなどの問題が生じる。そのため、電気抵抗が低くかつ機械的強度が高い陽イオン交換膜の開発が望まれていた。
【0005】そこで、本発明は、電気抵抗が低く機械的強度が高い陽イオン交換膜を電解質として有することにより、出力が高く長期的に高出力を維持できる固体高分子電解質型燃料電池を提供することを目的とする。」

11ウ 「【0008】
【発明の実施の形態】本発明における陽イオン交換膜は、負極に近いほど含水率が高いフィルムが配置されるように、異なる含水率を有するパーフルオロカーボン重合体を含むフィルムを積層した構造を有することが好ましい。負極に隣接するフィルムの含水率は、正極に隣接するフィルムの含水率より5?50%、特に10?30%高くすることが好ましく、各フィルムの含水率は30?110%、特に35?95%に制御されていることが好ましい。」

11エ 「【0027】
【実施例】[例1(実施例)]CF_(2)=CF_(2)とCF_(2)=CFOCF_(2)CF(CF_(3))O(CF_(2))_(2)SO_(2)Fとの共重合体からなるイオン交換容量が1.0ミリ当量/g乾燥樹脂の共重合体(共重合体A)、及び1.1ミリ当量/g乾燥樹脂の共重合体(共重合体B)の2種類を用いてパーフルオロカーボン重合体を含むフィルムを作製した。まず、共重合体Aを220℃で押出し製膜し、厚さ20μmのフィルム1を得た。
【0028】次に、全質量の30%のジメチルスルホキシドと全質量の5%の水酸化カリウムとを含む水溶液(水溶液C)中で共重合体Bを加水分解し、水洗した後、1モル/Lの塩酸に浸漬して酸型化し、さらに水洗した。これをオートクレーブ中でエタノールに溶解し、溶質濃度が全質量の3%である共重合体Bの溶液を得た。多孔体として、空隙率80%、厚さ20μmのPTFE製の多孔フィルムを使用し、これに上記共重合体Bの溶液を含浸させて80℃で乾燥する工程を2回繰り返すことにより、厚さ20μmのフィルム2を得た。
【0029】フィルム1とフィルム2とを170℃にてロールを用いて積層、接合し、水溶液C中で加水分解し、水洗した後、1モル/Lの塩酸に浸漬して酸型化した膜を得た。次いで膜を水洗し、膜の四辺を専用治具で拘束した後、60℃で1時間乾燥し陽イオン交換膜を作製した。
【0030】なお、陽イオン交換膜を構成するフィルム1を酸型化したフィルムとフィルム2の含水率を以下のように測定した。フィルム1を水溶液C中で加水分解し、水洗した後、1モル/Lの塩酸に浸漬させて酸型化し、さらに水洗し、これをフィルム1’とした。フィルム1’及びフィルム2を用いてそれぞれの含水率を式1のとおり測定し算出したところ、含水率はそれぞれ50%及び70%であった。」

(12)甲第12号証(特開2005-060516号公報)の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第12号証には次の事項が記載されている。
12ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系イオン交換膜に関し、特に、固体高分子電解質型燃料電池の電解質、かつ、隔膜としての使用に適したフッ素系イオン交換膜に関するものである。」

12イ 「【0005】
固体高分子電解質型燃料電池に使用されるイオン交換膜の材質には、高い化学的安定性を有することからフッ素系イオン交換樹脂が広く用いられている。中でも、主鎖がパーフルオロカーボンで、側鎖末端にスルホン酸基を有するデュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」が広く用いられている。こうしたフッ素系イオン交換樹脂は、固体高分子電解質材料として概ねバランスのとれた特性を有するが、当該電池の実用化が進むにつれて、さらなる物性の改善が要求されるようになってきた。
燃料電池の長期耐久性に関しては、その要因として、例えば、高温高湿状態における機械強度との関連が示唆されている。イオン交換膜の機械強度を向上する手段として、従来からいくつかの方法が提案されている。
【0006】
特許文献1および2には、PTFE微多孔膜にフッ素系イオン交換樹脂の水溶液を含浸させたフッ素系イオン交換膜が開示されている。通常のフッ素系イオン交換膜は高い含水率を持つため、高温高湿状態では機械強度が大きく低下するが、前記特許文献においては、強固なPTFE微多孔膜の微細孔内部にフッ素系イオン交換樹脂を支持することにより、高温高湿状態でも高い機械強度を維持している。しかしながら、元来、水溶液として存在していたフッ素系イオン交換樹脂であるため、高温高湿状態で長期にわたって安定に存在し得ないという問題があった。
すなわち、従来技術は、高温高湿状態における機械強度、ひいては長期耐久性を向上する手段としては不十分であり、産業上有用な燃料電池用イオン交換膜とはなり得ていなかった。」

12ウ 「【0008】
本発明は、長期耐久性に優れたフッ素系イオン交換膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、高い含水率に加えて高い緩和膨潤圧を併せ持つフッ素系イオン交換膜が、燃料電池の運転において良好な長期耐久性を発現すること、さらに前記フッ素系イオン交換膜の具体的な製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。」

12エ 「【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
一般的に、フッ素系イオン交換膜は、含水率が高いものほど優れたプロトン伝導性を発現する。本発明者らは、このような高含水率膜について鋭意研究を進めていたところ、多種多様な高含水率膜の中で、特定の高含水率膜のみが優れた長期耐久性を発現することを見出した。この特定の高含水率膜についてさらに詳細に検討したところ、通常は含水率が
高いほど緩和膨潤圧が低くなるにもかかわらず、長期耐久性に優れた膜は、高含水率でありながら高い緩和膨潤圧を有することを見出した。」

12オ 「【0016】
(原料ポリマー)
イオン交換膜は、溶融成形性(熱可塑性)を有するイオン交換樹脂前駆体を膜状に成形したあと、加水分解処理によりにイオン交換基を生成させることによって作成できる。
本発明におけるフッ素系イオン交換樹脂前駆体は、化学式(1)で表されるフッ化ビニル化合物と、
CF_(2)=CF-O(OCF_(2)CFLO)_(n)-(CF_(2))_(m)-W (1)
(式中、Lは、F原子または炭素数1?3のパーフルオロアルキル基、nは、0?3の整数、mは、1?3の整数、Wは、加水分解によりCO_(2)HまたはSO_(3)Hに転換しうる官能基である)
化学式(2)でで表されるフッ化オレフィン
CF_(2)=CFZ (2)
(式中、Zは、H、Cl、Fまたは炭素数1?3のパーフルオロアルキル基である)
との、少なくとも二元共重合体からなる。」

12カ 「【0021】
(当量重量)
本発明のフッ素系イオン交換膜の当量重量(EW)は限定されないが、400?1400が好ましく、より好ましくは600?1200である。当量重量が大きすぎるとイオン交換基の密度が低くなるため、高い含水率を達成するのが困難な場合があり、イオン伝導度も低下する。当量重量が低すぎると強度の低下が起きやすくなる。一般的に、当量重量が1000を越えると、300℃?350℃の間に発熱ピークを生成する場合がある。このような発熱ピークのエンタルピーは当量重量とともに大きくなる傾向がある。」

12キ 「【0023】
(含水率)
本発明のフッ素系イオン交換膜の含水率は20wt%以上、好ましくは30wt%以上、より好ましくは40wt%以上、最も好ましくは50wt%以上である。含水率が20wt%未満では、プロトン伝導性が低くなる。含水率の上限は限定されないが、90wt%を越えると機械強度が低下する場合がある。」

(13)甲第13号証(特願2014-516062号に係る国際公開2012/174463号)
(13-1)甲第13号証の記載事項
本件特許に係る出願の日前の外国語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた、甲第13号証(甲第13号証の1)に係る外国語特許出願の国際出願日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2011年6月17日、米国)における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面には以下の事項が記載されている。(ここにおいて、翻訳は甲第13号証に係る国際出願の国内段階における公表公報(特表2014-525115号公報(甲第13号証の2))を参考にして当合議体が作成したものである。)

13ア 「What is claimed is:
1. A composite polymeric ion exchange membrane, said composite membrane having opposing surfaces and comprising:
(a) a porous nonwoven web material comprising non-conductive unconsolidated polymer fibers; and
(b) at least one ion exchange polymer impregnated between said opposing surfaces of said composite membrane such that said at least one ion exchange polymer has a volume fraction that is substantially equivalent throughout the composite membrane and which volume fraction between the opposing surfaces is greater than 50 percent.
・・・
4. The composite polymeric ion exchange membrane of claim 1 wherein the porous nonwoven web material has a porosity of at least about 65% and a mean pore size no greater than 10 pm.
5. The composite polymeric ion exchange membrane of claim 1 wherein said web material is selected from the group consisting of polyimide, polyethersulfone (PES) and polyvinylidine fluoride (PVDF). 」(第53頁の請求項1、4、5、当審訳:
【請求項1】
複合ポリマーイオン交換膜であって、
前記複合ポリマーイオン交換膜が互いに反対側の表面を有し、
(a)非伝導性非圧密化ポリマー繊維を含む多孔質不織ウェブ材料と、
(b)少なくとも1種類のイオン交換ポリマーであって、前記複合膜全体にわたって実質的に等しい体積分率を有し、互いに反対側の表面の間での体積分率が50パーセントを超えるように、前記複合膜の前記互いに反対側の表面の間に含浸された、少なくとも1種類のイオン交換ポリマーと
を含む、複合ポリマーイオン交換膜。
・・・
【請求項4】
前記多孔質不織ウェブ材料が、少なくとも約65%の多孔度及び10μm以下の平均孔径を有する、請求項1に記載の複合ポリマーイオン交換膜。
【請求項5】
前記ウェブ材料が、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される、請求項1に記載の複合ポリマーイオン交換膜。)

13イ 「FIELD OF THE INVENTION
Disclosed are composite polymeric ion exchange membranes and processes for making composite polymeric ion exchange membranes for use in a wide variety of electrochemical cells. 」(第1頁の第3?6行、当審訳:
【技術分野】
【0001】
複合ポリマーイオン交換膜、及び多種多様な電気化学セル中で使用するための複合ポリマーイオン交換膜が開示される。)

13ウ 「In order to solve the above-mentioned problem of mechanical stability in thin low EW membranes, a mechanically strong and chemically stable porous reinforcement support material, such as porous polytetrafluoroethylene (PTFE) is commonly being used. Incorporation of the porous reinforcement such as GORETEX(R) ePTFE (Ref. AIChE 1992, 38, 93) may improve the mechanical property of the composite membrane and allows the membrane to restrict its swelling and contraction under humidity cycles. Moreover, this porous reinforcement makes the thin membrane easy to handle during the fabrication of, for example, the membrane electrode assembly (MEA). Although the porous reinforcement matrix, such as porous ePTFE helps in improving the mechanical properties of the membrane, the presence of this non-conducting ePTFE layer in the membrane reduces the conductivity of the membrane. The conductivity of the ePTFE reinforced composite membrane is lower than that of the dense ionomeric cast membrane, such as DuPont Nafion(R) "NR212" membrane.

Without wishing to be bound by any particular theory and/or hypothesis, it is thought that much of the conductivity loss of the composite membrane happens due to the collapse of the porous ePTFE layer during the processing of the membrane. Besides the ePTFE collapse, the non-continuous or dead-end pores in ePTFE are also partly responsible for creating non-conducting capillaries along the thickness of the membrane. Moreover, often, large voids or "dead spaces" containing no ionomer material may be found in the central portion of the ePTFE reinforcement. All of these factors may lead to the conductivity loss of the composite membrane.」(第3頁の第4?29行、当審訳:
【0008】
薄い低EW膜の機械的安定性の上述の問題を解決するために、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの機械的に強く化学的に安定な多孔質強化支持材料が一般的に使用されている。GORETEX(登録商標)ePTFEなどの多孔質強化材の混入(AIChE 1992,38,93参照)によって、複合膜の機械的性質を改善することができ、湿度サイクル下での膜の膨潤及び収縮を制限することができる。更に、この多孔質強化材によって、例えば膜電極接合体(MEA)の製造中の薄膜の取り扱いが容易になる。多孔質ePTFEなどの多孔質強化材マトリックスは膜の機械的性質の改善を促進するが、膜中にこの伝導性ePTFE層が存在するために、膜の伝導度が低下する。ePTFEで強化された複合膜の伝導度は、本件特許出願人 Nafion(登録商標)「NR212」膜などの緻密なアイオノマーキャスト膜の伝導度よりも低い。
【0009】
なんらかの特定の理論及び/または仮説によって束縛しようと望むものではないが、複合膜の伝導度低下の多くは、膜の処理中に多孔質ePTFE層が崩壊するために生じると考えられる。ePTFEの崩壊に加えて、ePTFE中の不連続な細孔、即ち行き止まりのある細孔は、膜の長さに沿った非伝導性毛細管の形成の部分的な原因にもなる。更に、多くの場合、アイオノマー材料を全く含有しない大きな孔隙または「デッドスペース」が、ePTFE硬化剤の中央部分に見つかることがある。これらの要因のすべてが、複合膜の伝導度低下の原因となりうる。)

13エ 「High proton conductivity is a critical parameter for proton exchange membranes in fuel cells. It would be desirable to obtain a composite membrane wherein the ratio of the conductivity of the reinforced membrane/neat polymer is greater than 2/3, or even more desirable to essentially not have to pay a conductivity penalty disproportionate to the amount of reinforcement (measured by volume fraction) due to the inclusion of the reinforcement. 」(第5頁第1?7行、当審訳:
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
高プロトン伝導度は、燃料電池中のプロトン交換膜の重要なパラメータである。強化膜/ニートポリマーの伝導度の比が2/3を超え、更により望ましくは、強化材の混入による、強化材量(体積分率による)に対する不釣り合いな伝導度の低下が実質的に生じない複合膜が得られることが望ましい。)

13オ 「The invention provides a composite polymeric ion exchange membrane, said composite membrane having opposing surfaces and comprising: (a) a porous nonwoven web material comprising non- conductive unconsolidated polymer fibers; and (b) at least one ion exchange polymer impregnated between said opposing surfaces of said composite membrane such that said at least one ion exchange polymer has a volume fraction that is substantially equivalent throughout the composite membrane and which volume fraction between the opposing surfaces is greater than 50 percent.

In an embodiment, the ion exchange polymer is a cation exchange polymer.

In an embodiment, the ion exchange polymer is an anion exchange polymer.

In an embodiment, the porous nonwoven web material has a porosity of at least about 65% and a mean pore size no greater than 1 0 μιη. In an embodiment, the web material is selected from the group consisting of polyimide, polyethersulfone (PES) and polyvinylidine fluoride (PVDF). 」(第6頁第15行?第7頁3行、当審訳:
【0022】
本発明は、複合ポリマーイオン交換膜であって、互いに反対側の表面を有し:(a)非伝導性非圧密化ポリマー繊維を含む多孔質不織ウェブ材料と;(b)少なくとも1種類のイオン交換ポリマーであって、複合膜全体にわたって実質的に等しい体積分率を有し、互いに反対側の表面の間での体積分率が50パーセントを超えるように、前記複合膜の前記互いに反対側の表面の間に含浸させた、少なくとも1種類のイオン交換ポリマーとを含む、複合ポリマーイオン交換膜を提供する。
【0023】
一実施形態においては、イオン交換ポリマーはカチオン交換ポリマーである。
【0024】
一実施形態においては、イオン交換ポリマーはアニオン交換ポリマーである。
【0025】
一実施形態においては、多孔質不織ウェブ材料は、少なくとも約65%の多孔度及び10μm以下の平均孔径を有する。
【0026】
一実施形態においては、ウェブ材料は、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される。)

13カ 「DETAILED DESCRIPTION
Described herein is a process to prepare a polymer electrolyte membrane for an electrochemical cell, comprising: providing a reinforcing membrane, wherein the reinforcing membrane is a nanoweb that comprises a plurality of nanofibers, wherein the nanofibers may comprise in certain embodiments a fully aromatic polyimide, a polyethersulfone, or a polyvinylidene fluoride, and wherein the reinforcing membrane is not calendered or is lightly calendered; and impregnating the reinforcing membrane with an ion-exchange polymer.

The electrochemical cell can be any known in the art, such as fuel cells, batteries, chloralkali cells, electrolysis cells, sensors, electrochemical capacitors, and modified electrodes. The fuel cells can be anion or cation fuel cells, and can use any fuel source such as methanol or hydrogen.

The composite membrane described herein may be used in redox flow batteries as are described in U.S. Published Patent Application No. 2010/0003545. The redox flow battery stack designs described therein may be, for example, reactant combinations that include reactants dissolved in an electrolyte. One example is a stack containing the vanadium reactants V(ll)/V(lll) or V ^(2+) /V ^(3+) at the negative electrode (anolyte) and V(IV)/V(V) or V ^(4+) /V ^(5+) at the positive electrode (catholyte). The anolyte and catholyte reactants in such a system are typically dissolved in sulfuric acid. This type of battery is often called the all- vanadium battery because both the anolyte and catholyte contain vanadium species. Other combinations of reactants in a flow battery that can utilize the composite membrane in accordnace with the invention are Sn (anolyte)/Fe (catholyte), Mn (anolyte)/Fe (catholyte), V (anolyte)/Ce (catholyte), V (anolyte)/Br _(2) (catholyte), Fe (anolyte)/Br _(2) (catholyte), and S (anolyte)/Br _(2) (catholyte). Further examples of a workable redox flow battery chemistry and system are provided in U.S. Pat. No. 6,475,661 , the entire contents of which are incorporated herein by reference.」(第10頁第20行?第11頁第19行、当審訳:
【発明を実施するための形態】
【0046】
電気化学セル用のポリマー電解質膜の製造方法であって:強化膜を提供するステップであって、強化膜は、複数のナノファイバーを含むナノウェブであり、ナノファイバーは、ある実施形態においては、完全芳香族ポリイミド、ポリエーテルスルホン、またはポリフッ化ビニリデンを含むことができ、強化膜は、カレンダー加工されないか、または軽くカレンダー加工されるステップと;強化膜にイオン交換ポリマーを含浸させるステップとを含む、方法が、本明細書に記載される。
【0047】
本発明の電気化学セルは、燃料電池、電池、クロロアルカリセル、電解セル、センサー、電気化学キャパシタ、及び修飾電極などの当技術分野において周知のあらゆるものであってよい。燃料電池は、アニオン型またはカチオン型の燃料電池であってよく、メタノールまたは水素などのあらゆる燃料源を使用することができる。
【0048】
本明細書に記載の複合膜は、米国特許出願公開第2010/0003545号明細書に記載されるようなレドックスフロー電池中に使用することができる。その文献に記載されるレドックスフロー電池スタック設計は、例えば、電解質中に溶解させた反応物を含む反応物の組み合わせであってよい。一例は、負極にバナジウム反応物V(II)/V(III)またはV^(2+)/V^(3+)(アノライト)を含有し、正極にV(IV)/V(V)またはV^(4+)/V^(5+)(カソライト)を含有するスタックである。このような系中のアノライト及びカソライト反応物は、通常、硫酸中に溶解される。この種類の電池は、アノライト及びカソライトの両方がバナジウム種を含有するため、全バナジウム電池と呼ばれることが多い。本発明による複合膜を使用できるフロー電池中の反応物の別の組み合わせは、Sn(アノライト)/Fe(カソライト)、Mn(アノライト)/Fe(カソライト)、V(アノライト)/Ce(カソライト)、V(アノライト)/Br_(2)(カソライト)、Fe(アノライト)/Br_(2)(カソライト)、及びS(アノライト)/Br_(2)(カソライト)である。動作可能なレドックスフロー電池の化学的性質及び系の更なる例が、米国特許第6,475,661号明細書に示されており、その内容全体が参照により本明細書に援用される。」(WO:)

13キ 「Herein, EW is short for Equivalent Weight and is the weight of the polymer (ionomer) in acid form required to neutralize one mole equivalent of NaOH. An ionomer is an ion exchange polymer.

Both nonwoven webs and nonwoven nanowebs as defined below are contemplated as within the scope of the invention.

The term "nanoweb" as applied herein refers to a nonwoven web constructed of a large fraction of nanofibers. Large fraction means that greater than 25%, even greater than 50% of the fibers in the web are nanofibers, where the term "nanofibers" as used herein refers to fibers having a number average diameter less than 1 000 nm, even less than 800 nm, even between about 50 nm and 500 nm, and even between about 100 and 400 nm. In the case of non-round cross-sectional nanofibers, the term "diameter" as used herein refers to the greatest cross-sectional dimension. The nanoweb of the invention can also have greater than 70%, or 90% or it can even contain 100% of nanofibers.

Herein, a "non-consolidated" or "unconsolidated" web material is one that has not been compressed after manufacture, for example by calendaring, or by fixing or melt fusing polymer fibers together. "Calendering" is a process of compressing the web material, such as by passing a web through a nip between two rolls. Such rolls may be in contact with each other, or there may be a fixed or variable gap between the roll surfaces. Unconsolidated may include light calendaring at room temperature, or more preferably, no calendaring. In the present invention, any light calendaring must be mild enough to maintain a web material porosity of at least 65%, and preferably at least 70%, or at least 75%, and more preferably at least 80%, or at least 85%, or even greater than 90%. 」(第12頁第7行?第13頁第2行、当審訳:
【0052】
本明細書において、EWは、当量の略であり、1モル当量のNaOHを中和するために必要な酸の形態のポリマー(アイオノマー)の重量である。アイオノマーはイオン交換ポリマーである。
【0053】
以下に定義される不織ウェブ及び不織ナノウェブの両方が、本発明の範囲内にあると考慮される。
【0054】
本明細書において使用される場合、用語「ナノウェブ」は、大きな部分がナノファイバーで構成される不織ウェブを意味する。大きな部分は、25%を超え、更には50%を超えるウェブ中の繊維がナノファイバーである事を意味し、ここで、この場合に使用される用語「ナノファイバー」は数平均直径が1000nm未満、更には800nm未満、更には約50nm?500nmの間、更には約100?400nmの間である繊維を意味する。円形ではない断面のナノファイバーの場合、この場合に使用される用語「直径」は最大断面寸法を意味する。本発明のナノウェブは、70%、または90%を超えるナノファイバーを有することもできるし、更には100%のナノファイバーを含有することもできる。
【0055】
本明細書において、「圧密化されていない」または「非圧密化」ウェブ材料は、製造後に、例えばカレンダー加工によって、或いはポリマー繊維を互いに固定または溶融融合させることによって圧縮されていないウェブ材料である。「カレンダー加工」は、2つのロールの間のニップにウェブを通すことなどによってウェブ材料を圧縮するプロセスである。このようなロールは、互いに接触する場合もあるし、ロール表面の間で一定または可変の間隙が存在する場合もある。非圧密化は、室温における軽いカレンダー加工を含む場合があり、より好ましくはカレンダー加工を含まない。本発明において、あらゆる軽いカレンダー加工は、ウェブ材料の多孔度が少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、または少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、または少なくとも85%、更には90%を超えて維持されるのに十分穏やかなものである必要がある。)

13ク 「NON CONSOLIDATED MATERIAL AND LIGHTLY CONSOLIDATED MATERIAL

In embodiments of the invention the nonwoven web material may comprise a porous layer of fine polymeric fibers having a mean diameter in the range of between about 50 nm and about 3000 nm, such as, for example, from about 50 nm to about 1 000 nm, or from about 100 nm to about 800 nm, or from about 200 nm to about 800 nm, or from about 200 nm to about 600 nm, or, alternatively from about 1000 nm to about 3000 nm. In embodiments of the invention the nonwoven web material may be a nanoweb as previously defined. In embodiments of the invention, fine fibers in these ranges and the ranges set forth for nanowebs provide a nonwoven web material structure with high surface area which results in good ionomer absorption to provide the composite membrane in accordance with the invention.

In embodiments of the invention the nonwoven web material has a mean flow pore size of between about 0.01 pm and about 1 5 pm, even between about 0.1 pm and about 10 pm, even between about 0.1 pm and about 5 pm, and even between about 0.01 pm and about 5 pm or between about 0.01 pm and about 1 pm. These mean pore size values may be obtained after lightly calendaring the material at room temperature, or in the embodiment where no calendaring occurs, before imbibing with the cation or anion exchange polymer occurs.

In embodiments of the invention the nonwoven web material has a porosity of no less than 50%, and in other embodiments no less than 65%, or no less than 70%, or no less than 75%, and in other embodiments no less than 80% or 85%. These porosity values may be obtained after lightly calendaring the material at room temperature, or in the embodiment where no calendaring occurs, before imbibing with the cation or anion exchange polymer occurs. The high porosity of the nonwoven web material also provides for good ionomer absorption to provide the composite membrane in accordance with the invention.

A nonwoven web material useful in the composite membrane of the invention may have a thickness of between about 1 micron and 500 microns, or between about 2 microns and 300 microns, or between about 2 microns and 100 microns, or between about 5 microns and 50 microns, even between about 20 microns and 30 microns, even between about 1 0 microns and 20 microns, and even between about 5 microns and 1 0 microns. The nonwoven web material is thick enough to provide good mechanical properties while allowing good flow of ions.」(第18頁第12行?第19頁第17行、当審訳:
【0072】
圧密化材料及び軽く圧密化された材料
本発明の実施形態においては、不織ウェブ材料は、約50nm?約3000nmの間、例えば、約50nm?約1000nm、または約100nm?約800nm、または約200nm?約800nm、または約200nm?約600nm、或いはこれとは別に約1000nm?約3000nmの範囲内の平均直径を有する微細なポリマー繊維の多孔質層を含むことができる。本発明の実施形態においては、不織ウェブ材料は、前述の定義のナノウェブであってよい。本発明の実施形態においては、これらの範囲内でありナノウェブに関して記載した範囲内である微細繊維は、高表面積を有する不織ウェブ材料構造が得ら
れ、その結果アイオノマーの吸収が良好となり、本発明による複合膜が得られる。
【0073】
本発明の実施形態においては、不織ウェブ材料は、平均流孔径(mean flow pore size)が約0.01μm?約15μmの間、更には約0.1μm?約10μmの間、更には約0.1μm?約5μmの間、更には約0.01μm?約5μmの間、または約0.01μm?約1μmの間である。これらの平均孔径値は、材料を室温で軽くカレンダー加工した後に得られる場合もあるし、カレンダー加工が行われない実施形態では、カチオンまたはアニオン交換ポリマーが吸収される前に得られる場合もある。
【0074】
本発明の実施形態においては、不織ウェブ材料の多孔度は50%以上であり、別の実施形態においては65%以上、または70%以上、または75%以上であり、別の実施形態においては80%以上または85%以上である。これらの多孔度値は、材料を室温で軽くカレンダー加工した後に得られる場合もあるし、カレンダー加工が行われない実施形態では、カチオンまたはアニオン交換ポリマーが吸収される前に得られる場合もある。不織ウェブ材料の高い多孔度によって、アイオノマーの吸収も良好となり、本発明による複合膜が得られる。
【0075】
本発明の複合膜中に有用な不織ウェブ材料の厚さは、約1ミクロン?500ミクロンの間、または約2ミクロン?300ミクロンの間、または約2ミクロン?100ミクロンの間、または約5ミクロン?50ミクロンの間、更には約20ミクロン?30ミクロンの間、更には約10ミクロン?20ミクロンの間、更には約5ミクロン?10ミクロンの間であってよい。不織ウェブ材料の厚さは、良好な機械的性質が得られ、同時にイオンの流動が良好となるのに十分な厚さである。)

13ケ 「IMPREGNATION and/or IMBIBING
Impregnation, also known as imbibing or absorbing, means that an ion- exchange polymer is absorbed by or taken into the nanoweb. The impregnation is typically performed by soaking the nanoweb in a solution of the ion-exchange polymer for a period of time sufficient to accumulate the desired concentration within the nanoweb. Alternatively, the ion- exchange polymer may be formed in-situ by impregnating the nanoweb with a solution of the corresponding monomer or low molecular weight oligomer.
・・・
A suitable ion exchange polymer, also known as an ionomer, is a polymer that has cation exchange groups that can transport protons or a polymer that has anion exchange groups that can transport anions, for example, hydroxyl ions.

The Volume Fraction Ionomer is the volume fraction of ionomer in the composite membrane at a given location (for example, the midpoint; or, alternatively, throughout the composite structure) and is equal to volume of ionomer/ (volume of ionomer + volume occupied by the fibers in the non-woven substrate + volume of air + volume, if any, of additives including inorganic particles such as SiBCe) = the volume fraction of ionomer in the composite membrane at a given location. The volume fraction ionomer has no units as it is volume/volume which cancels, i.e., it is "unit-less".
・・・
In embodiments of the invention the volume fraction of ionomer is from 40%-90%, or from greater than 50% to 95%, or, in other embodiments, 60%-95%, or from preferably from 65% to 95% or from 70% to 95%, or from 75% to 95%, and in further embodiments 80%-95%. In embodiments of the invention the volume fraction of nonwoven membrane may be from 10%-60%, or from 5% to less than 50%, or from 5% to 40%, or 5% to 35%, or from 5% to 30%, or in other embodiments 5% to -25%, and in further embodiments 5%-20%. The volume fraction of air is negligible, e.g., it is substantially zero. Although some air volume may be present due to manufacturing or processing irregularities it is envisioned that in any event it is no greater than 0.1 volume%. The volume fraction of additives may be zero or up to 0.5% or more depending on the level of additives used. Any additives in accordance with the invention are added to the ionomer to incorporate them into the composite.」(第21頁第1行?第22頁第30行、当審訳:
【0083】
含浸及び/または吸収
含浸は、吸収または吸い込みとも呼ばれ、イオン交換ポリマーが、ナノウェブに吸収または取り込まれることを意味する。含浸は、通常、ナノウェブ中に所望の濃度で蓄積するのに十分な時間、ナノウェブをイオン交換ポリマーの溶液中に浸漬することによって行われる。或いは、イオン交換ポリマーは、対応するモノマーまたは低分子量オリゴマーの溶液をナノウェブに含浸させることによってその場で形成することができる。
・・・
【0085】
アイオノマーとも呼ばれる好適なイオン交換ポリマーは、プロトンを輸送可能なカチオン交換基を有するポリマー、またはアニオン、例えばヒドロキシルイオンを輸送可能なアニオン交換基を有するポリマーである。
【0086】
体積分率アイオノマーは、特定の位置(例えば、中間点;或いは複合構造全体)における複合膜中のアイオノマーの体積分率であり、アイオノマーの体積/(アイオノマーの体積+不織基材中の繊維によって示される体積+空気の体積+SiBCeなどの無機粒子などの添加剤が存在する場合にはその体積)=特定の位置における複合膜中のアイオノマーの体積分率に等しい。体積分率アイオノマーは、体積/体積が相殺されるため単位がなく、即ち「単位なし」である。
・・・
【0088】
本発明の実施形態においては、アイオノマーの体積分率は、40%?90%、または50%を超え95%までであり、別の実施形態においては、60%?95%、好ましくは65%?95%または70%?95%、または75%?95%であり、更なる実施形態においては80%?95%である。本発明の実施形態においては、不織膜の体積分率は、10%?60%、または5%?50%未満、または5%?40%、または5%?35%、または5%?30%であってよく、別の実施形態においては5%?25%であってよく、更なる実施形態においては5%?20%であってよい。空気の体積分率は無視でき、例えば実質的に0である。製造または加工の不規則性のためにある程度の空気の体積が存在しうるが、いずれの場合でも0.1体積%以下になると想定される。添加剤の体積分率は、使用される添加剤の量によって0または最大0.5%以上となりうる。本発明によるあらゆる添加剤は、複合材料に混入するためにアイオノマーに加えられる。)

13コ 「The ion-exchange polymer may typically comprise a polymer backbone with recurring side chains attached to the backbone with the side chains carrying the ion-exchange groups. Possible polymers include homopolymers or copolymers of two or more monomers, or blends thereof. Copolymers are typically formed from one monomer which is a nonfunctional monomer and which provides carbon atoms for the polymer backbone, and a second monomer that provides both carbon atoms for the polymer backbone and also contributes a side chain carrying the cation exchange group or its precursor, e.g., a sulfonyl halide group such as a sulfonyl fluoride (-S0 _(2) F), which can be subsequently hydrolyzed to a sulfonate ion exchange group. For example, copolymers of a first fluorinated vinyl monomer together with a second fluorinated vinyl monomer having a sulfonyl fluoride group (-S0 _(2) F) can be used. Possible first monomers include tetrafluoroethylene (TFE), hexafluoropropylene, vinyl fluoride, vinylidene fluoride, trifluoroethylene, chlorotrifluoroethylene, perfluoro (alkyl vinyl ether), and mixtures thereof. Possible second monomers include a variety of fluorinated vinyl ethers with sulfonate ion exchange groups or precursor groups which can provide the desired side chain in the polymer. The first monomer may also have a side chain which does not interfere with the ion exchange function of the sulfonate ion exchange group. Additional monomers can also be incorporated into these polymers if desired. The sulfonic acid form of the polymer may be utilized to avoid post treatment acid exchange steps.

Typical polymers for use as ion exchange polymers include a highly fluorinated, most typically a perfluorinated, carbon backbone with a side chain represented by the formula -(0-CF_(2)CFRf) _(a) -(0-C F_(2))_(b)-(CFR'f) _(c) S0 _(3) M, wherein Rf and R'f are independently selected from F, CI or a perfluorinated alkyl group having 1 to 10 carbon atoms, a = 0, 1 or 2, b = 0-1 , and c = 0 to 6, and M is hydrogen, Li, Na, K or N(R _(1))(R_( 2) )(R _(3) )(R_( 4)) and R _(1) , R _(2) , R _(3) , and R _(4 ) are the same or different and are H, CH _(3) or C _(2) H _(5) . Preferably, substantially all of the functional groups are represented by the formula -S0_( 3) M wherein M is H . Specific examples of suitable polymers include those disclosed in U .S. Patents 3,282,875; 4,358,545; and 4,940,525. One exemplary polymer comprises a perfluorocarbon backbone and a side chain represented by the formula -0-CF _(2) CF(CF _(3) )-0-CF _(2) CF _(2) S0_( 3) H . Such polymers are disclosed in U.S.Patent 3,282,875 and can be made by copolymerization of tetrafluoroethylene (TFE) and the perfluorinated vinyl ether CF _(2) =CF-0-CF _(2) CF(CF _(3) )-0-CF _(2) CF _(2) S0 _(2) F, perfluoro(3,6-dioxa-4-methyl-7-octenesulfonyl fluoride) (PDMOF), followed by conversion to sulfonate groups by hydrolysis of the sulfonyl fluoride groups and ion exchanging to convert to the acid, also known as the proton form.

Another ion-exchange polymer of the type disclosed in U.S.Patents 4,358,545 and 4,940,525 has a side chain -0-CF _(2 )CF _(2) SO _(3)H. The polymer can be made by copolymerization of tetrafluoroethylene (TFE) and the perfluorinated vinyl ether CF _(2) =CF-0-CF_( 2) CF _(2) S0 _(2) F , perfluoro(3- oxa-4-pentenesulfonyl fluoride) (POPF), followed by hydrolysis and acid exchange. 」(第25頁第5行?第26頁第20行、当審訳:
【0093】
イオン交換ポリマーは、通常、主鎖に結合する繰り返し側鎖を含むポリマー主鎖を含むことができ、側鎖はイオン交換基を有することができる。可能性のあるポリマーとしては、ホモポリマー、または2種類以上のモノマーのコポリマー、或いはそれらのブレンドが挙げられる。コポリマーは、通常、非官能性モノマーであり、ポリマー主鎖に炭素原子を提供する第1のモノマーと、ポリマー主鎖に炭素原子を提供し、カチオン交換基またはその前駆体、例えば、後に加水分解してスルホネートイオン交換基となることができるフッ化スルホニル(-SO_(2)F)などのハロゲン化スルホニル基を有する側鎖にもなる第2のモノマーとから形成される。例えば、第1のフッ素化ビニルモノマーとともに、フッ化スルホニル基(-SO_(2)F)を有する第2のフッ素化ビニルモノマーを有するコポリマーを使用することができる。可能性のある第1のモノマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、及びそれらの混合物が挙げられる。可能性のある第2のモノマーとしては、ポリマーに所望の側鎖を提供することができるスルホネートイオン交換基または前駆体基を有する種々のフッ素化ビニルエーテルが挙げられる。第1のモノマーは、スルホネートイオン交換基のイオン交換機能を妨害しない側鎖を有することもができる。希望するなら、これらのポリマーに更なるモノマーを組み込むこともできる。後処理酸交換ステップを回避するために、スルホン酸型のポリマーを使用することができる。
【0094】
イオン交換ポリマーとして使用するための典型的なポリマーは、高フッ素化、より典型的には過フッ素化された炭素主鎖を含み、式-(O-CF_(2)CFR_(f))_(a)-(O-CF_(2))_(b)-(CFR’_(f))_(c)SO_(3)M(式中、R_(f)及びR’_(f)は、独立して、F、Cl、または1?10個の炭素原子を有する過フッ素化アルキル基から選択され、a=0、1、または2、b=0?1、及びc=0?6であり、Mは、水素、Li、Na、K、またはN(R_(1))(R_(2))(R_(3))(R_(4))であり、R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)は、同じまたは異なるものであって、H、CH_(3)、またはC_(2)H_(5)である)で表される側鎖を有する。好ましくは、実質的にすべての官能基が、式-SO_(3)M(式中、MはHである)で表される。好適なポリマーの具体例としては、米国特許第3,282,875号明細書、米国特許第4,358,545号明細書、及び米国特許第4,940,525号明細書に開示されているものが挙げられる。代表的なポリマーの1つは、パーフルオロカーボン主鎖と、式-O-CF_(2)CF(CF_(3))-O-CF_(2)CF_(2)SO_(3)Hで表される側鎖とを含む。このようなポリマーは、米国特許第3,282,875号明細書に開示されており、テトラフルオロエチレン(TFE)と過フッ素化ビニルエーテルCF_(2)=CF-O-CF_(2)CF(CF_(3))-O-CF_(2)CF_(2)SO_(2)F(パーフルオロ(3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホニルフルオリド)(PDMOF))とを共重合させ、続いて、フッ化スルホニル基の加水分解によってスルホネート基に変換し、イオン交換によってプロトン型とも呼ばれる酸に変換することによって製造することができる。
【0095】
米国特許第4,358,545号明細書及び米国特許第4,940,525号明細書に開示される種類の別のイオン交換ポリマーは、側鎖-O-CF_(2)CF_(2)SO_(3)Hを有する。このポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)と、過フッ素化ビニルエーテルCF_(2)=CF-O-CF_(2)CF_(2)SO_(2)F(パーフルオロ(3-オキサ-4-ペンテンスルホニルフルオリド)(POPF))とを共重合させ、続いて加水分解及び酸交換を行うことによって製造することができる。)

13サ 「EXAMPLE 9
Fabrication of PES Reinforced Nafion# Composite Membranes

The polyethersulfone (PES) reinforced membranes (composite polymeric ion exchange membranes) were fabricated by impregnating (casting) the highly porous as-produced substrate with Nafion# PFSA polymer dispersion DE2020 (DuPont). The impregnation was done by using an adjustable doctor's blade on a sheet of glass covered with Teflon# FEP. Two passes of impregnation was used.

A membrane size of 4 inch x 4 inch and 50 microns thick was fabricated as follows: The substrate was 80% porous and the Nafion# dispersion had a solids content of 23% and a ratio of 6.5 to 1
・・・
First an initial layer of the dispersion using Knife #1 was cast onto the FEP. The substrates were then placed into the initial cast layer of the dispersion. The doctor's knife was adjusted to the Knife #2 setting then impregnation #2 was drawn onto the top side of the substrates. The wet impregnated membranes were dried under nitrogen at room temperature. The dried membranes were then heat treated in a convection oven at 160°C for 5 minutes. These samples are labeled Examples 9A and 9B. 」(第39頁第9行?第40頁第7行、当審訳:
【0144】
実施例9
PES強化Nafion(登録商標)複合膜の製造
製造されたままの状態の高多孔質基材にNafion(登録商標)PFSAポリマー分散体DE2020(本件特許出願人)を含浸させる(キャストする)ことによって、ポリエーテルスルホン(PES)強化膜(複合ポリマーイオン交換膜)を製造した。含浸は、Teflon(登録商標)FEPで覆われたガラス板上で調節可能なドクターブレードを用いてオーケーなった。2パスの含浸を使用した。
【0145】
4インチ×4インチ及び厚さ50ミクロンの大きさの膜を以下のように製造した:基材は80%多孔質であり、Nafion(登録商標)分散体は固形分が23%であり比は6.5対1であった。
【0146】
【表5】(省略)
【0147】
最初にナイフ#1を使用して分散体の最初の層をFEP上にキャストした。次に基材を分散体の最初のキャスト層中に配置した。ドクターナイフをナイフ#2の設定に調節した後、含浸#2を基材の上面上に行った。含浸させた未乾燥の膜を窒素下で室温において乾燥させた。乾燥した膜を、次に対流式オーブン中160℃で5分間熱処理した。これらのサンプルを実施例9A及び9Bと名付ける。)

(13-2)甲第13号証に記載された発明
ア 上記13オの段落【0022】によれば、甲第13号証に記載された複合ポリマーイオン交換膜は、非伝導性非圧密化ポリマー繊維を含む多孔質不織ウェブ材料と、少なくとも1種類のイオン交換ポリマーであって、複合膜全体にわたって実質的に等しい体積分率を有し、互いに反対側の表面の間での体積分率が50パーセントを超えるように、前記複合膜の前記互いに反対側の表面の間に含浸させた、少なくとも1種類のイオン交換ポリマーとを含む、複合ポリマーイオン交換膜である。

イ 上記13オの段落【0026】によれば、上記アの複合ポリマーイオン交換膜を構成する多孔質不織ウェブの材料は、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択されたものであり、また、上記13カの段落【0046】によれば、多孔質不織ウェブは、イオン交換ポリマーを含浸させる強化膜である。

ウ 上記13カの段落【0048】によれば、上記アの複合ポリマーイオン交換膜は、電池等の電気化学セル用の電解質膜であり、具体的には、上記電池がレドックスフロー電池であって、負極にバナジウム反応物V^(2+)/V^(3+)(アノライト)を含有し、正極にV^(4+)/V^(5+)(カソライト)を含有し、上記アノライト及びカソライトが硫酸中に溶解されたレドックスフロー電池に使用される電解質膜である。
ここで、上記レドックスフロー電池については、その詳細は記載されていないが、正極を含む正極セル室、負極を含む負極セル室、及び、これら正極セル室及び負極セル室を分離する隔膜としての電解質膜からなる電解槽を有するものであることは、技術常識から明らかである(この点については、例えば、甲第1?4号証を参照のこと)。そして、アノライトが溶解された硫酸及びカソライトが溶解された硫酸は、それぞれ、当該レドックスフロー電池の負極電解液及び正極電解液であり、負極セル室及び正極セル室に含まれるものであること、また、アノライト及びカソライトは、それぞれ、当該レドックスフロー電池の負極活物質及び正極活物質を表し、V^(2+)/V^(3+)及びV^(4+)/V^(5+)と記載されていることから、充放電にともなって価数変化するものであることも明らかである。

エ 上記アによれば、イオン交換ポリマーは、多孔質不織ウェブ材料に含浸されることにより、当該イオン交換ポリマーの体積分率が50パーセントを超えているものであり、上記体積分率とは、上記13ケの段落【0086】によれば、「アイオノマーの体積/(アイオノマーの体積+不織基材中の繊維によって示される体積+空気の体積+SiBCeなどの無機粒子などの添加剤が存在する場合にはその体積)」によって表されるものである。なお、上記13キの段落【0052】によれば、アイオノマーはイオン交換ポリマーを意味する。また、上記13ケの段落【0088】の「空気の体積分率は無視でき、例えば実質的に0である。製造または加工の不規則性のためにある程度の空気の体積が存在しうるが、いずれの場合でも0.1体積%以下になると想定される。」との記載から、上記アの複合ポリマーイオン交換膜には、いかなる場合でも空気はほとんど含まれておらず、したがって、多孔質不織ウェブ材料の細孔のほぼ全てがイオン交換ポリマーによって充填されているものと認められる。

オ 上記13コの段落【0094】?【0095】によれば、上記アの複合ポリマーイオン交換膜を構成するイオン交換ポリマーは、典型的には、「過フッ素化された炭素主鎖を含み、式-(O-CF_(2)CFR_(f))_(a)-(O-CF_(2))_(b)-(CFR’_(f))_(c)SO_(3)M(式中、R_(f)及びR’_(f)は、独立して、F、Cl、または1?10個の炭素原子を有する過フッ素化アルキル基から選択され、a=0、1、または2、b=0?1、及びc=0?6であり、Mは、水素、Li、Na、K、またはN(R_(1))(R_(2))(R_(3))(R_(4))であり、R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)は、同じまたは異なるものであって、H、CH_(3)、またはC_(2)H_(5)である)で表される側鎖を有する。好ましくは、実質的にすべての官能基が、式-SO_(3)M(式中、MはHである)で表される」ものであり、好適な別の例としては、「テトラフルオロエチレン(TFE)と、過フッ素化ビニルエーテルCF_(2)=CF-O-CF_(2)CF_(2)SO_(2)F(パーフルオロ(3-オキサ-4-ペンテンスルホニルフルオリド)(POPF))とを共重合させ、続いて加水分解及び酸交換を行うことによって製造」したものである。

カ 上記13サによれば、上記アの複合ポリマーイオン交換膜の実施例である、高多孔質基材にNafionの分散体を含浸させた複合ポリマーイオン交換膜の製造方法として、分散体を含浸させた未乾燥の膜を窒素下で室温において乾燥させ、乾燥した膜を対流式オーブン中で160℃で5分間熱処理することが記載されている。

キ 以上、上記ア?カの検討事項に基づき、上記アの複合ポリマーイオン交換膜を隔膜として用いたレドックスフロー電池に注目して、本件発明1、本件発明10、及び本件発明18の記載ぶりに則して整理すると、甲第13号証には以下に示すレドックスフロー電池の発明と、レドックスフロー電池用の電解質膜である複合ポリマーイオン交換膜の発明と、レドックスフロー電池用の電解質膜である複合ポリマーイオン交換膜の製造方法の発明が記載されていると認められる。

「正極を含む正極セル室と、
負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを分離する、隔膜としての電解質膜である複合ポリマーイオン交換膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室はバナジウム反応物V^(4+)/V^(5+)(カソライト)が硫酸中に溶解された正極電解液を、前記負極セル室はバナジウム反応物V^(2+)/V^(3+)(アノライト)が硫酸中に溶解された負極電解液を含み、
前記電解液中のバナジウム反応物の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー電池であって、
電解質膜である前記複合ポリマーイオン交換膜が、少なくとも1種類のイオン交換ポリマーを含み、
電解質膜である前記複合ポリマーイオン交換膜が、材料がポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択された、非伝導性非圧密化ポリマー繊維を含む、多孔質不織ウェブ材料からなる強化膜を有し、前記イオン交換ポリマーが前記多孔質不織ウェブ材料の細孔のほぼ全てに充填されてなる、レドックスフロー電池。」(以下「引用発明3」という。)

「少なくとも1種類のイオン交換ポリマーを含み、
材料がポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択された、非伝導性非圧密化ポリマー繊維を含む、多孔質不織ウェブ材料からなる強化膜を有し、前記イオン交換ポリマーが前記多孔質不織ウェブ材料の細孔のほぼ全てに充填されてなる、レドックスフロー電池用の電解質膜である複合ポリマーイオン交換膜。」(以下「引用発明4」という。)

「引用発明4のレドックスフロー電池用の電解質膜である複合ポリマーイオン交換膜の製造方法であって、当該複合ポリマーイオン交換膜は160℃で5分間熱処理される、レドックスフロー電池用の電解質膜である複合ポリマーイオン交換膜の製造方法。」(以下「引用発明5」という。)

5 本件特許に係る出願の優先権について
次の6において申立理由に基づく取消理由を検討するにあたり、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1?18に係る発明、すなわち、本件発明1?18に係る優先権について確認する。
本件特許に係る出願の優先日は、特願2011-290020号(以下「優先出願1」という。)の出願日である2011年12月28日と、特願2012-10454号(以下「優先出願2」という。)の出願日である2012年1月20日である。
そこで、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1?18のうち独立形式の請求項は請求項1と請求項10のみであるところ、当該請求項1に記載された、「前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」なる特定事項、及び、当該請求項10に記載された、「前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」なる特定事項について、優先出願1に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面、並びに、優先出願2に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたものであるかについて検討する。

まず、優先出願1に添付された明細書を見ると、多孔質膜からなる補強材を含浸する高分子電解質ポリマーが、当該多孔質膜の孔を含浸もしくは充填することについて記載された箇所は段落【0072】、【0076】、【0078】、【0090】、【0093】、【0116】であるが、上記段落の記載によれば、微多孔膜に高分子電解質ポリマー溶液(分散液)を充填させるにあたり、多孔質膜の空隙に十分充填させる等の記載はあるものの、具体的にどの程度充填しているかについて明確に表現された記載は認められない。また、本件特許明細書の段落【0176】の表1の右端に記載された「補強材層のポリマー含浸度」については、優先出願1の明細書の段落【0128】の表1には記載されていない。

次に、優先出願2に添付された明細書を見ると、多孔質膜からなる補強材を含浸する高分子電解質ポリマーが、当該多孔質膜の孔を含浸もしくは充填することについて記載された箇所は段落【0081】、【0082】、【0084】、【0107】、【00】、【0】であるが、上記段落の記載によれば、微多孔膜に高分子電解質ポリマー溶液(分散液、含浸液)を充填させるにあたり、多孔質膜の空隙に十分充填させる等の記載はあるものの、具体的にどの程度充填しているかについて明確に表現された記載は認められない。また、本件特許明細書の段落【0176】の表1の右端に記載された「補強材層のポリマー含浸度」については、優先出願2の明細書の段落【0116】の表1には記載されていない。

以上の検討から、請求項1に記載された、「前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」なる特定事項、及び、請求項10に記載された、「前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」なる特定事項は、優先出願1に最初に添付された明細書又は図面に記載されたものではなく、優先出願2に最初に添付された明細書又は図面に記載されたものでもない。
したがって、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1?18に係る発明、すなわち、本件発明1?18のいずれについても、優先権基礎出願の出願の時にされたものとみなす規定(第41条第2項)は適用されないため、本件発明1?18は、いずれも、本件特許に係る出願の現実の出願日である、平成24年12月27日に出願されたものとして、新規性進歩性の判断が行われる。

6 当審の判断
(1)申立理由1、2に基づく取消理由について
(1-1)本件発明1について
(1-1-1)本件発明1と引用発明1との対比

ア 引用発明1の「正極セル2a」、「負極セル2b」、「電池反応セル2」は、それぞれ本件発明1の「正極セル室」、「負極セル室」、「電解槽」に相当する。

イ 引用発明1の「正極活物質」及び「負極活物質」は、本件発明1の「活物質」に相当する。

ウ 引用発明1の「前記両電解液中の活物質の原子価の変化に基づき充放電する、鉄-クロム系のレドックスフロー型電池」は、本件発明1の「前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池」に相当する。

エ 引用発明1の「電解質膜である隔膜」は本件発明1の「電解質膜」に相当し、また、引用発明1において、「電解質膜である隔膜が、イオン交換樹脂であるナフィオンを含」むことは、ナフィオンが高分子電解質ポリマーであることは技術常識から明らかであり、また、隔膜はイオン交換樹脂としてナフィオンのみを含むものと認められるから、引用発明1の隔膜は、高分子電解質ポリマーであるナフィオンを主体として含むものであるといえる。
したがって、引用発明1において、「電解質膜である隔膜が、イオン交換樹脂であるナフィオンを含」むことは、本件発明1において、「前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含」むことに相当する。

オ 引用発明1の「ポリプロピレン製多孔質膜」と、本件発明1の「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)」は、いずれも「微多孔膜」であり、「電解質膜」の「補強材」である点で共通する。

カ 引用発明1において「前記ナフィオンが前記」「多孔質膜の表面部の孔に充填されてなる」ことは、本件発明1の「前記イオン交換樹脂組成物が前記」「微多孔膜の細孔に充填されてなる」ことに相当する。

キ 「厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜は、その両面に、前記ナフィオンの溶液を数μmの厚みで塗布した」ことによって、ナフィオンの溶液がポリプロピレン製多孔質膜に含浸することは明らかであるから、上記オ、カの検討事項も勘案すると、引用発明1において「厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜は、その両面に、前記ナフィオンの溶液を数μmの厚みで塗布した」ことは、本件発明1の「前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され」たことに相当する。

(1-1-2)そうすると、本件発明1と引用発明1の一致点と相違点は次のとおりとなる。

《一致点》
「正極を含む正極セル室と、
負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含み、
前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池であって、
前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
前記電解質膜が微多孔膜からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸された、レドックスフロー二次電池。」

《相違点》
《相違点1》
「正極」及び「負極」が、本件発明1においては、「炭素電極からなる」のに対して、引用発明1においては、材料が特定されていない点。
《相違点2》
「微多孔膜」「からなる補強材」が、本件発明1においては、「フッ素系」であり、「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明1においては、「ポリプロピレン製」であり、「不織布を除く」ものであるか不明である点。
《相違点3》
「補強材」が、本件発明1においては、「高分子電解質ポリマー」が「含浸」することによって「前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造」であるのに対して、引用発明1においては、「ナフィオンの溶液」が「厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜」の「両面」において「数μmの厚みで塗布した後に乾燥された」ものであり、「前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造」ではない点。

(1-1-3)当審の判断
ア 相違点3について検討する。
引用発明1において、電解質膜である隔膜は、厚み約100μmのポリプロピレン製多孔質膜の両面に、ナフィオンの溶液を数μmの厚みで塗布した後に乾燥して形成されているものであるから、ナフィオンは、当該多孔質膜の表面部の数μm厚さの部分にある孔を充填するのみであり、当該表面部以外の多孔質膜内部にある孔については充填していないものと認められる。
引用発明1の電解質膜である隔膜がこのような構成となっているのは、上記1ウに記載されているように、イオン交換膜の厚さを100?200μm程度にすると、内部抵抗を1.0Ω・cm^(2) 以下にするのは困難だからであり、また、上記1クの段落【0065】に記載されているように、イオン交換機能、即ち、プロトン伝導性及びプロトン選択透過性を十分に発揮するとともに、内部抵抗が小さくなるように、イオン交換膜を1?10μmの厚さで塗布することが好ましいからである。

イ 一方、甲第6号証には、上記6ア、6イに摘記したように、電池に使用される、多孔質微細構造で定義される基材とイオン交換樹脂からなる複合膜において、当該イオン交換樹脂がこの膜を含浸することによって、上記基材の内部体積を実質的に閉塞性とする発明が記載されている。

ウ そこで、引用発明1に対して、甲第6号証に記載の発明を適用することにより、厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜の内部体積を実質的に閉塞した構造とできるかについて検討する。
引用発明1は、上述のように、電解質膜である隔膜において、プロトン伝導性及びプロトン選択透過性を十分に発揮するとともに、内部抵抗を小さくするという課題を解決するように、多孔質膜の表面に薄いイオン交換膜を形成するものであるから、仮に、引用発明1において、甲第6号証に記載の発明を適用すると、イオン交換膜の厚みは、許容される最大値の10μmをはるかに超える100μmとなってしまい、上記課題を解決することができないものとなってしまうので、上記適用には阻害要因があるといえる。

エ したがって、引用発明1において、補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造とすること、すなわち、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

オ よって、引用発明1において、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

カ 以上、検討したとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(1-2)本件発明2について
(1-2-1)本件発明2と引用発明1との対比
本件発明2と本件発明1は、本件発明1では「補強材」が「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」のに対して、本件発明2では「補強材」が「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」点でのみ相違している。
そうすると、上記(1-1-1)の検討を踏まえて、本件発明2と引用発明1を対比すると、次の相違点4、5、6において相違し、その余の点において一致している。

《相違点》
《相違点4》
「正極」及び「負極」が、本件発明2においては、「炭素電極からなる」のに対して、引用発明1においては、材料が特定されていない点。
《相違点5》
「微多孔膜」「からなる補強材」が、本件発明2においては、「炭化水素系」であり、「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明1においては、「ポリプロピレン製」であり、「不織布を除く」ものであるか不明である点。
《相違点6》
「補強材」が、本件発明2においては、「高分子電解質ポリマー」が「含浸」することによって「前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造」であるのに対して、引用発明1においては、「ナフィオンの溶液」が「厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜」の「両面」において「数μmの厚みで塗布した後に乾燥された」ものであり、「前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造」ではない点。

(1-2-2)当審の判断
ア 上記相違点6は、上記相違点3と同じであるから、上記(1-1-3)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明1において、相違点6に係る本件発明2の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、相違点4及び相違点5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ よって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(1-3)本件発明5?8について
請求項1を引用することによって、請求項1に記載された特定事項の全てを備える本件発明5?8と引用発明1を対比するに、上記(1-1-1)の検討を踏まえると、少なくとも、上記相違点1?3の点で相違している。
そして、上記相違点3については、上記(1-1-3)に記載した理由によって、引用発明1において、相違点3に係る本件発明5?8の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5?8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

また、請求項2を引用することによって、請求項2に記載された特定事項の全てを備える本件発明5?8と引用発明1を対比するに、上記(1-2-1)の検討を踏まえると、少なくとも、上記相違点4?6の点で相違している。
そして、上記相違点6については、上記(1-2-2)に記載した理由によって、引用発明1において、相違点6に係る本件発明5?8の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5?8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(1-4)本件発明10について
(1-4-1)本件発明10と引用発明2との対比
本件発明10は、本件発明1のレドックスフロー二次電池が有する電解質膜に該当する発明であり、引用発明2は、引用発明1のレドックスフロー型電池が有する電解質膜に該当する発明である。
そうすると、上記(1-1-1)の検討を踏まえて、本件発明10と引用発明2を対比すると、次の相違点7、8において相違し、その余の点において一致している。

《相違点》
《相違点7》
「補強材として有」する「微多孔膜」が、本件発明10においては、「フッ素系」であり、「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明2においては、「ポリプロピレン製」であり、「不織布を除く」ものであるか不明である点。
《相違点8》
「補強材」が、本件発明10においては、「高分子電解質ポリマー」が「含浸」することによって「前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造」であるのに対して、引用発明2においては、「ナフィオンの溶液」が「厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜」の「両面」において「数μmの厚みで塗布した後に乾燥された」ものであり、「前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造」ではない点。

(1-4-2)当審の判断
ア 上記相違点8は、上記相違点3と実質的に同じであるから、上記(1-1-3)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明2において、相違点8に係る本件発明10の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、相違点7について検討するまでもなく、本件発明10は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ よって、本件発明10は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(1-5)本件発明11について
(1-5-1)本件発明11と引用発明2との対比
本件発明11は、本件発明2のレドックスフロー二次電池が有する電解質膜に該当する発明であり、引用発明2は、引用発明1のレドックスフロー型電池が有する電解質膜に該当する発明である。
そうすると、上記(1-2-1)の検討を踏まえて、本件発明11と引用発明2を対比すると、次の相違点9、10において相違し、その余の点において一致している。

《相違点》
《相違点9》
「微多孔膜」からなる「補強材」が、本件発明11においては、「炭化水素系」であり、「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明2においては、「ポリプロピレン製」であり、「不織布を除く」ものであるか不明である点。
《相違点10》
「補強材」が、本件発明11においては、「高分子電解質ポリマー」が「含浸」することによって「前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造」であるのに対して、引用発明2においては、「ナフィオンの溶液」が「厚み約100μmの前記ポリプロピレン製多孔質膜」の「両面」において「数μmの厚みで塗布した後に乾燥された」ものであり、「前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造」ではない点。

(1-5-2)当審の判断
ア 上記相違点10は、上記相違点6と実質的に同じであるから、上記(1-2-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明2において、相違点10に係る本件発明11の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、相違点9について検討するまでもなく、本件発明11は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ よって、本件発明11は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(1-6)本件発明14?16について
請求項10を引用することによって請求項10に記載された特定事項の全てを備える本件発明14?16と、引用発明2を対比するに、上記(1-4-1)の検討を踏まえると、両者は、少なくとも、上記相違点7、8で相違している。
そして、上記相違点8については、上記(1-4-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明2において、相違点8に係る本件発明14?16の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明14?16は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

また、請求項11を引用することによって、請求項11に記載された特定事項の全てを備える本件発明14?16と引用発明2を対比するに、上記(1-5-1)の検討を踏まえると、両者は、少なくとも、上記相違点9、10で相違している。
そして、上記相違点10については、上記(1-5-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明1において、相違点10に係る本件発明14?16の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明14?16は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(2)申立理由3-1、3-2、3-3に基づく取消理由について
上記5で検討したように、本件発明1?18は、いずれも、優先権基礎出願の出願の時にされたものとみなす規定(第41条第2項)は適用されず、本件特許に係る出願の現実の出願日である、平成24年12月27日に出願されたものとして扱われるため、甲第13号証の出願を他の出願とする、特許法第29条の2を根拠条文とする取消理由を維持することはできなくなった。
また、本件訂正前において、優先権基礎出願の出願の時にされたものとみなす規定(第41条第2項)は適用されず、本件特許に係る出願の現実の出願日である、平成24年12月27日に出願されたものとして扱われるとして、本件訂正前の請求項4に係る発明の特許には、甲第13号証(甲第13号証の1)の国際公開のパンフレットに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの特許法第29条第2項を根拠条文とする取消理由が通知され、また、本件訂正前の請求項13に係る発明の特許には、甲第13号証(甲第13号証の1)の国際公開のパンフレットに記載された発明と同一であるとの特許法第29条第1項第3号を根拠条文とする取消理由が通知された。
そこで、甲第13号証(甲第13号証の1)の国際公開のパンフレットを、本件特許に係る出願前に外国において頒布された刊行物とする、上記特許法第29条第1項第3号及び第2項についての取消理由が解消されているかを検討するにあたり、請求項4と13のみでなく、異議が申し立てられていない請求項3、9、12、17を除く全ての請求項について、ここ(2)において、まとめて検討することとする。

(2-1)本件発明1について
(2-1-1)本件発明1と引用発明3との対比
ア 引用発明3の「電解質膜である複合ポリマーイオン交換膜」は、本件発明1の「電解質膜」に相当する。

イ 引用発明3の「バナジウム反応物V^(4+)/V^(5+)(カソライト)」及び「バナジウム反応物V^(2+)/V^(3+)(アノライト)」は、本件発明1の「活物質」に相当する。

ウ 引用発明3の「前記電解液中のバナジウム反応物の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー電池」は、本件発明1の「前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池」に相当する。

エ 上記13コによれば、引用発明3の「少なくとも1種類のイオン交換ポリマー」は、典型的には、「過フッ素化された炭素主鎖を含み、式-(O-CF_(2)CFR_(f))_(a)-(O-CF_(2))_(b)-(CFR’_(f))_(c)SO_(3)Mで表される側鎖を有する」ものであるから、本件発明1の「高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物」に相当する。したがって、引用発明3において、「電解質膜である前記複合ポリマーイオン交換膜が、少なくとも1種類のイオン交換ポリマーを含」むことは、本件発明1において、「前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含」むことに相当する。

オ 引用発明3の「強化膜」と本件発明1の「補強材」は同義であるから、引用発明3の「電解質膜である前記複合ポリマーイオン交換膜が、材料がポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択された、非伝導性非圧密化ポリマー繊維を含む、多孔質不織ウェブ材料からなる強化膜」と、本件発明1の「前記電解質膜がフッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材」とは、「前記電解質膜が」「微多孔膜」「からなる補強材」の点で共通する。

カ 引用発明3において「前記イオン交換ポリマーが前記多孔質不織ウェブ材料の細孔のほぼ全てに充填されてなる」ことと、本件発明1の「前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」こととは、「前記イオン交換樹脂組成物が前記」「微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である」点で共通する。

(2-1-2)本件発明1と引用発明3の一致点と相違点
上記(2-1-1)の検討から、本件発明1と引用発明3の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「正極を含む正極セル室と、
負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含み、
前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池であって、
前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
前記電解質膜が微多孔膜からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、レドックスフロー二次電池。」

《相違点》
《相違点11》
「正極」及び「負極」が、本件発明1においては、「炭素電極からなる」のに対して、引用発明3においては、材料が特定されていない点。
《相違点12》
「微多孔膜」「からなる補強材」が、本件発明1においては、「フッ素系」であり「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明3においては、「材料がポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択された」ものであり「不織ウェブ」である点。

(2-1-3)当審の判断
ア 相違点12のうち、特に、「微多孔膜」「からなる補強材」が、本件発明1においては、「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明3においては、「不織ウェブ」である点について検討する。

イ 上記13イと13ウの段落【0008】によれば、甲第13号証において解決しようとする課題(以下単に「課題」という。)は、複合膜すなわち複合ポリマーイオン交換膜の機械的性質を改善し、湿度サイクル下での膜の膨潤及び収縮を制限するために、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの機械的に強く化学的に安定な多孔質強化支持材料を用いると、膜中に多孔質ePTFE層が存在するので、膜の処理中に多孔質ePTFE層が崩壊したり、行き止まりのある細孔や、アイオノマー材料を全く含有しない大きな孔隙が生じるために、複合膜の伝導度が低下することである。

ウ そして、上記13オの段落【0022】によれば、上記課題を解決する手段とは、「複合ポリマーイオン交換膜」を「互いに反対側の表面を有し:(a)非伝導性非圧密化ポリマー繊維を含む多孔質不織ウェブ材料と;(b)少なくとも1種類のイオン交換ポリマーであって、複合膜全体にわたって実質的に等しい体積分率を有し、互いに反対側の表面の間での体積分率が50パーセントを超えるように、前記複合膜の前記互いに反対側の表面の間に含浸させた、少なくとも1種類のイオン交換ポリマーとを含む、複合ポリマーイオン交換膜」とすることである。
ここで、「複合ポリマーイオン交換膜」が「非伝導性非圧密化ポリマー繊維を含む多孔質不織ウェブ材料」を有することの技術的な意義は、上記13クの記載によれば、不織ウェブ材料は、高表面積及び高い多孔度を有することによってアイオノマーの吸収が良好となり、また、適切な厚さとすることで良好な機械的性質が得られ、同時にイオンの流動が良好となることである。

エ つまり、甲第13号証に記載の発明は、「複合ポリマーイオン交換膜」において多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を有する場合に生じる上記課題を、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代えて、「多孔質不織ウェブ材料」を採用することで解決したものであるから、引用発明3において、「複合ポリマーイオン交換膜」が有する「強化膜」を「多孔質不織ウェブ材料」とすることは、課題を解決するための手段を基礎づける技術的思想の中核をなす特徴部分、すなわち本質的部分といえる。

オ そこで、甲第6号証の上記6ウには、電池用途に使用される、多孔質微細構造で定義される基材とイオン交換樹脂からなる複合膜において、当該基材として不織布ではないePTFE膜を用い、上記イオン交換樹脂がこの基材を含浸することによって、上記基材の内部体積を実質的に閉塞性とする発明が記載されているとしても、引用発明3において「強化膜」として「多孔質不織ウェブ材料」に代えて、上記ePTFE膜のような「微多孔膜(ただし、不織布を除く)」を採用すると、甲第13号証に記載された課題を解決するための手段を採用しないこととなり、甲第13号証に開示された技術的思想の本質的部分を否定することになるので、そのような置き換えをすることが容易であるということはできない。

カ したがって、引用発明3において、相違点12に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、相違点11について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

キ 以上、検討したとおり、本件発明1は、甲第13号証に記載された発明ではないし、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1に係る特許は、本件発明1が特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずされたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(2-2)本件発明2について
(2-2-1)本件発明2と引用発明3との対比
本件発明2と本件発明1は、本件発明1は、「補強材」が「フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」のに対して、本件発明2は「補強材」が「炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる」点でのみ相違している。
そうすると、上記(2-1-1)の検討を踏まえて、本件発明2と引用発明3を対比すると、両者は、次の相違点13、14において相違し、その余の点において一致している。

《相違点》
《相違点13》
「正極」及び「負極」が、本件発明2においては、「炭素電極からなる」のに対して、引用発明3においては、材料が特定されていない点。
《相違点14》
「微多孔膜」「からなる補強材」が、本件発明2においては、「炭化水素系」であり「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明3においては、「材料がポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択された」ものであり「不織ウェブ」である点。

(2-2-2)当審の判断
ア 上記相違点14のうち、「微多孔膜」「からなる補強材」が、本件発明2においては、「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明3においては、「不織ウェブ」である点については、上記(2-1-3)と同様の理由によって、引用発明3において、相違点14に係る本件発明2の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、相違点13について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 以上、検討したとおり、本件発明2は、甲第13号証に記載された発明ではないし、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2に係る特許は、本件発明2が特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずされたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(2-3)本件発明4について
本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項4は、特許異議が申し立てられた請求項1、2を引用せず、特許異議が申し立てられていない請求項3のみを引用するものとなったため、本件発明4に係る特許は、取消理由の対象ではないものとなった。

(2-4)本件発明5?8について
請求項1を引用することによって、請求項1に記載された特定事項の全てを備える本件発明5?8と引用発明3を対比するに、上記(2-1-1)の検討を踏まえると、少なくとも、上記相違点11、12の点で相違している。
そして、上記相違点12については、上記(2-1-3)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明3において、相違点12に係る本件発明5?8の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5?8は、甲第13号証に記載された発明ではないし、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

また、請求項2を引用することによって、請求項2に記載された特定事項の全てを備える本件発明5?8と引用発明3を対比するに、上記(2-2-1)の検討を踏まえると、少なくとも、上記相違点13、14の点で相違している。
そして、上記相違点14については、上記(2-2-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明3において、相違点14に係る本件発明5?8の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5?8は、甲第13号証に記載された発明ではないし、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

よって、本件発明5?8に係る特許は、本件発明5?8が特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずされたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(2-5)本件発明10について
(2-5-1)本件発明10と引用発明4との対比
本件発明10は、本件発明1のレドックスフロー二次電池が有する電解質膜に該当する発明であり、引用発明4は、引用発明3のレドックスフロー電池が有する電解質膜に該当する発明である。
そうすると、上記(2-1-1)の検討を踏まえて、本件発明10と引用発明4を対比すると、両者は、次の相違点15において相違し、その余の点において一致している。

《相違点》
《相違点15》
「補強材として有」する「微多孔膜」が、本件発明10においては、「フッ素系」であり「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明4においては、「材料がポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択された」ものであり「不織ウェブ」である点。

(2-5-2)当審の判断
ア 上記相違点15は、上記相違点12と実質的に同じであるから、上記(2-1-3)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明4において、相違点15に係る本件発明10の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、本件発明10は、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ よって、本件発明10は、甲第13号証に記載された発明ではないし、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明10に係る特許は、本件発明10が特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずされたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(2-6)本件発明11について
(2-6-1)本件発明11と引用発明4との対比
本件発明11は、本件発明2のレドックスフロー二次電池が有する電解質膜に該当する発明であり、引用発明4は、引用発明3のレドックスフロー電池が有する電解質膜に該当する発明である。
そうすると、上記(2-2-1)の検討を踏まえて、本件発明11と引用発明4を対比すると、両者は、次の相違点16において相違し、その余の点において一致している。

《相違点》
《相違点16》
「微多孔膜」「からなる補強材」が、本件発明10においては、「炭化水素系」であり「不織布を除く」ものであるのに対して、引用発明4においては、「材料がポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択された」ものであり「不織ウェブ」である点。

(2-6-2)当審の判断
ア 上記相違点16は、上記相違点14と実質的に同じであるから、上記(2-2-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明4において、相違点16に係る本件発明11の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、本件発明11は、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ よって、本件発明11は、甲第13号証に記載された発明ではないし、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明11に係る特許は、本件発明11が特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずされたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(2-7)本件発明13について
本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項13は、特許異議が申し立てられた請求項10、11を引用せず、特許異議が申し立てられていない請求項12のみを引用するものとなったため、本件発明13に係る特許は、取消理由の対象ではないものとなった。

(2-8)本件発明14?16について
請求項10を引用することによって請求項10に記載された特定事項の全てを備える本件発明14?16と、引用発明4を対比するに、上記(2-5-1)の検討を踏まえると、両者は、少なくとも、上記相違点15で相違している。
そして、上記相違点15については、上記(2-5-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明4において、相違点15に係る本件発明14?16の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明14?16は、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

また、請求項11を引用することによって請求項11に記載された特定事項の全てを備える本件発明14?16と、引用発明4を対比するに、上記(2-6-1)の検討を踏まえると、両者は、少なくとも、上記相違点16で相違している。
そして、上記相違点16については、上記(2-6-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明4において、相違点16に係る本件発明14?16の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明14?16は、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

よって、本件発明14?16は、甲第13号証に記載された発明ではないし、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明14?16に係る特許は、本件発明14?16が特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずされたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(2-9)本件発明18について
請求項10を引用することによって請求項10に記載された特定事項の全てを備える本件発明18と、引用発明5を対比するに、上記(2-5-1)の検討を踏まえると、両者は、少なくとも、上記相違点15で相違している。
そして、上記相違点15については、上記(2-5-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明5において、相違点15に係る本件発明18の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明18は、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

また、請求項11を引用することによって、請求項11に記載された特定事項の全てを備える本件発明18と、引用発明5を対比するに、上記(2-6-1)の検討を踏まえると、両者は、少なくとも、上記相違点16で相違している。
そして、上記相違点16については、上記(2-6-2)に記載した理由と同様の理由によって、引用発明5において、相違点16に係る本件発明18の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明18は、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

よって、本件発明18は、甲第13号証に記載された発明ではないし、甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明18に係る特許は、本件発明18が特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずされたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(3)申立理由4に基づく取消理由
上記第2 2(8)(8-1)で検討したように、本件訂正請求による訂正前の請求項18は「レドックスフロー二次電池用電解質膜」という物の発明であるにもかかわらず、「130?200℃にて1?60分間加熱処理された」との「レドックスフロー二次電池用電解質膜」の製造方法が記載されていたので、「発明が明確であること」という要件に適合しないおそれがあるものであった。
しかし、本件訂正請求によって、請求項18は、「請求項10乃至17のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法であって、前記レドックスフロー二次電池用電解質膜は、130?200℃にて1?60分間加熱処理されるレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法。」という方法の発明に訂正されたので、「発明が明確であること」という要件に適合するものとなった。
したがって、本件発明18に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反してされたものではない。

6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、2、4?8、10、11、13?16、18に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、4?8、10、11、13?16、18に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、
炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含み、
前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池であって、
前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
前記電解質膜がフッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、レドックスフロー二次電池。
【請求項2】
炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、
炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含み、
前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池であって、
前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
前記電解質膜が炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記炭化水素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、レドックスフロー二次電池。
【請求項3】
炭素電極からなる正極を含む正極セル室と、
炭素電極からなる負極を含む負極セル室と、
前記正極セル室と、前記負極セル室とを隔離分離させる、隔膜としての電解質膜と、
を含む電解槽を有し、
前記正極セル室は活物質を含む正極電解液を、前記負極セル室は活物質を含む負極電解液を含み、
前記電解液中の活物質の価数変化に基づき充放電するレドックスフロー二次電池であって、
前記電解質膜が、高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
前記電解質膜が織布からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記織布の空隙に充填されてなる、レドックスフロー二次電池。
【請求項4】
前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが、補強材に含浸され、前記補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、請求項3に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項5】
前記レドックスフロー二次電池は、バナジウムを含む硫酸電解液を、正極及び負極電解液として用いたバナジウム系レドックスフロー二次電池である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項6】
前記電解質膜は、前記高分子電解質ポリマーとして下記式(1)で表される構造を有するフッ素系高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含む、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
-[CF_(2)CX^(1)X^(2)]_(a)-[CF_(2)-CF((-O-CF_(2)-CF(CF_(2)X^(3)))_(b)-O_(c)-(CFR^(1))_(d)-(CFR^(2))_(e)-(CF_(2))_(f)-X^(4))]_(g)- (1)
(式(1)中、X^(1)、X^(2)及びX^(3)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子及び炭素数1?3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される1種以上を示す。X^(4)は、COOZ、SO_(3)Z、PO_(3)Z_(2)又はPO_(3)HZを示す。Zは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はアミン類(NH_(4)、NH_(3)R^(1)、NH_(2)R^(1)R^(2)、NHR^(1)R^(2)R^(3)、NR^(1)R^(2)R^(3)R^(4))を示す。R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、アルキル基及びアレーン基からなる群から選択されるいずれか1種以上を示す。ここで、X^(4)がPO_(3)Z_(2)である場合、Zは同じでも異なっていてもよい。R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1?10のパーフルオロアルキル基及びフルオロクロロアルキル基からなる群から選択される1種以上を示す。a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数を示す。bは0?8の整数を示す。cは0又は1を示す。d、e及びfは、それぞれ独立して、0?6の整数を示す(ただし、d、e及びfは同時に0ではない。)。)
【請求項7】
前記電解質膜は、前記高分子電解質ポリマーとして下記式(2)で表される構造を有するフッ素系高分子電解質ポリマーであるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(PFSA)を主体とするイオン交換樹脂組成物を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
-[CF_(2)CF_(2)]_(a)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2))_(m)-X^(4))]_(g)- (2)
(式(2)中、a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数を示し、mは1?6の整数を示し、X^(4)はSO_(3)Hを示す。)
【請求項8】
前記高分子電解質ポリマーの当量質量EW(イオン交換基1当量あたりの乾燥質量グラム数)が300?1300g/eqであり、前記電解質膜の平衡含水率が5?80質量%である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項9】
前記イオン交換樹脂組成物が、前記高分子電解質ポリマー100質量部に対して0.1?20質量部のポリフェニレンエーテル樹脂及び/又はポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項10】
高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
フッ素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)を補強材として有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記フッ素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、
レドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項11】
高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
炭化水素系微多孔膜(ただし、不織布を除く)からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記炭化水素系微多孔膜の細孔に充填されてなり、前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、
レドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項12】
高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含み、
織布からなる補強材を有し、前記イオン交換樹脂組成物が前記織布の空隙に充填されてなる、
レドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項13】
前記補強材は、前記高分子電解質ポリマーが含浸され、前記レドックスフロー二次電池用の補強材の内部体積を実質的に閉塞した構造である、請求項12に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項14】
前記レドックスフロー二次電池用電解質膜は、前記高分子電解質ポリマーとして下記式(1)で表される構造を有するフッ素系高分子電解質ポリマーを主体とするイオン交換樹脂組成物を含む、請求項10乃至13のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
-[CF_(2)CX^(1)X^(2)]_(a)-[CF_(2)-CF((-O-CF_(2)-CF(CF_(2)X^(3)))_(b)-O_(c)-(CFR^(1))_(d)-(CFR^(2))_(e)-(CF_(2))_(f)-X^(4))]_(g)- (1)
(式(1)中、X^(1)、X^(2)及びX^(3)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子及び炭素数1?3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される1種以上を示す。X^(4)は、COOZ、SO_(3)Z、PO_(3)Z_(2)又はPO_(3)HZを示す。Zは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はアミン類(NH_(4)、NH_(3)R^(1)、NH_(2)R^(1)R^(2)、NHR^(1)R^(2)R^(3)、NR^(1)R^(2)R^(3)R^(4))を示す。R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、アルキル基及びアレーン基からなる群から選択されるいずれか1種以上を示す。ここで、X^(4)がPO_(3)Z_(2)である場合、Zは同じでも異なっていてもよい。R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1?10のパーフルオロアルキル基及びフルオロクロロアルキル基からなる群から選択される1種以上を示す。a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数を示す。bは0?8の整数を示す。cは0又は1を示す。d、e及びfは、それぞれ独立して、0?6の整数を示す(ただし、d、e及びfは同時に0ではない。)。)
【請求項15】
前記高分子電解質ポリマーは、下記式(2)で表される構造を有するフッ素系高分子電解質ポリマーである、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(PFSA)である、請求項10乃至14のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
-[CF_(2)CF_(2)]_(a)-[CF_(2)-CF(-O-(CF_(2))_(m)-X^(4))]_(g)- (2)
(式(2)中、a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1を満たす数を示し、mは1?6の整数を示し、X^(4)はSO_(3)Hを示す。)
【請求項16】
前記高分子電解質ポリマーの当量質量EW(イオン交換基1当量あたりの乾燥質量グラム数)が300?1300g/eqであり、前記電解質膜の平衡含水率が5?80質量%である、請求項10乃至15のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項17】
前記イオン交換樹脂組成物が、前記高分子電解質ポリマー100質量部に対して0.1?20質量部のポリフェニレンエーテル樹脂及び/又はポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、請求項10乃至16のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜。
【請求項18】
請求項10乃至17のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法であって、前記レドックスフロー二次電池用電解質膜は、130?200℃にて1?60分間加熱処理されるレドックスフロー二次電池用電解質膜の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-02 
出願番号 特願2013-551830(P2013-551830)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (H01M)
P 1 652・ 121- YAA (H01M)
P 1 652・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 土屋 知久
池渕 立
登録日 2015-08-28 
登録番号 特許第5797778号(P5797778)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 レドックスフロー二次電池及びレドックスフロー二次電池用電解質膜  
代理人 都野 真哉  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 都野 真哉  
代理人 大貫 敏史  

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