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審決分類 審判 全部申し立て 特39条先願  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
管理番号 1326981
異議申立番号 異議2016-700777  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-24 
確定日 2017-03-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第5918796号発明「靭性に優れたフェライト系ステンレス熱延鋼板および鋼帯」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5918796号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5918796号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年 3月28日に特許出願され、平成28年 4月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年 8月24日に特許異議申立人 尾田 久敏(申立番号01)により特許異議の申立てがされ、同年11月 1日に特許異議申立人 井上 潤(申立番号02)により特許異議の申立てがされ、平成29年 1月11日付けで当審より取消理由を通知し、同年 2月24日付けで特許権者により意見書が提出されたものである。


第2 本件特許発明

特許第5918796号の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明9」といい、総称として「本件特許発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
質量%で、
C:0.012%以下、
N:0.015%以下、
Si:0.01?0.4%、
Mn:0.01?0.8%
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
Cr:10.0%以上18.0%未満
Ni:0.01?1%、
Nb:0.1?0.35%、かつ、
Nb/(C+N)が8以上(Nb、C、Nはそれぞれの成分含有量(質量%))
Ti:0.05%以下、
Al:0.10%以下、
B:0.0005%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、0℃におけるシャルピー衝撃値が 50J/cm^(2)以上であり、板厚5.0?10.0mmであることを特徴とする靭性に優れたフェライト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Mo:1.5%以下
Cu:0.4%以下
Sn:0.005?0.1%
Sb:0.005?0.1%、
Ga:0.0002?0.1%
の1種または2種以上
を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項3】
さらに、質量%で、
REM:0.001?0.20%
を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項4】
更に、質量%で、
V:1%以下、
W:1%以下
Co:1%以下
Ta:1%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の成分組成を有し、0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上であり、板厚5.0?10.0mmであることを特徴とする靭性に優れたフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス熱延鋼板からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼帯。
【請求項7】
請求項5に記載のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼帯。
【請求項8】
請求項1?4のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス熱延鋼板又は請求項5に記載のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板からなることを特徴とする自動車フランジ用フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項9】
請求項6または7に記載のフェライト系ステンレス鋼帯からなることを特徴とする自動車フランジ用フェライト系ステンレス鋼板。」


第3 申立理由の概要

1.申立番号01
特許異議申立人 尾田 久敏(以下、単に「特許異議申立人1」という。)は、証拠として、甲第1-1号証:特開2012-140688号公報、甲第1-2号証:特開2011-246813号公報、甲第1-3号証:特開平7-41854号公報を提出し、以下の申立理由1-1によって請求項1?9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1-1(進歩性)
本件特許発明1?9は、甲第1-1号証に記載された発明と甲第1-2、1-3号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2.申立番号02
特許異議申立人 井上 潤(以下、単に「特許異議申立人2」という。)は、証拠として、甲第2-1号証:特許第5885884号公報、甲第2-2号証:特開平11-290907号公報、甲第2-3号証:特開2013-209726号公報、甲第2-4号証:特開2011-179116号公報、甲第2-5号証:特開2012-140688号公報、甲第2-6号証:特開2010-100909号公報、甲第2-7号証:特開2005-307306号公報を提出し、以下の申立理由2-1?2-4によって請求項1?9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由2-1(先願)
本件特許発明1、2、4、6、8、9は、甲第2-1号証に係る特許発明と同一であるから、その特許は特許法第39条第1項の規定に違反してされたものである。

申立理由2-2(進歩性)
本件特許発明1?9は、甲第2-2号証に記載された発明及び甲第2-3?2-7号証に記載された事項から容易になし得た発明であるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由2-3(実施可能要件、サポート要件)
本件特許発明1?9は、「0℃におけるシャルピー衝撃値」の上限値を規定していないところ、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」がどのように高い衝撃値であっても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができることを開示しているとはいえないことから、その特許は特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
また、同様の理由から、本件特許発明1?9は、その特許は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

申立理由2-4(実施可能要件明確性要件)
本件特許発明1?9の「0℃におけるシャルピー衝撃値」について、本件特許の発明の詳細な説明の記載のみでは具体的な衝撃試験条件が不明であるから、その特許は特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
また、同様の理由から、「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」の技術的意味が不明確であるから、本件特許発明1?9は、その特許は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


第4 取消理由の概要

本件特許発明1?9に対して、平成29年 1月11日付けで通知した取消理由の概要は、上記申立理由2-4に基づく、次のとおりのものである。

本件特許発明1?9における「0℃におけるシャルピー衝撃値」について、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいても測定することができないことから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。また、本件特許発明1?9における「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」なる発明特定事項の技術的意味が明確でない。
よって、その特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


第5 取消理由に対する当審の判断

本件特許発明1?9における「0℃におけるシャルピー衝撃値」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0057】には、「熱延板、および、熱延焼鈍板に対して、0℃でシャルピー衝撃試験をJIS Z 2242に準拠して行った。」と記載されている。
そして、特許権者が平成29年 2月24日付け意見書に添付して提出した乙第1号証(JIS Z 2242:2005(金属材料のシャルピー衝撃試験方法)第366?369頁)の第368頁第9?10行には、金属材料のシャルピー衝撃試験方法について、「通常、半径2mmの衝撃刃を用いること、個別の材料規格などで半径8mmの衝撃刃を規定している場合は、半径8mmの衝撃刃を用いる」ことが記載されている。そして、ステンレス鋼のシャルピー衝撃試験方法において、半径8mmの衝撃刃を規定するというステンレス鋼に固有の規格もないことから、「通常、半径2mmの衝撃刃」を用いることは、本件特許の出願時における技術常識であるといえる。
また、同乙第2号証(「ステンレス鋼便覧第3版」、日刊工業新聞社、ステンレス協会編、1995年 1月24日初版第1刷発行、第944頁)の右欄第18?22行には、ステンレス鋼のシャルピー衝撃試験について、「衝撃試験の方法はJIS Z 2242(金属材料衝撃試験方法)に規定されており,シャルピー衝撃試験が一般的である.JIS Z 2202(金属材料衝撃試験)全定められたVノッチ付き4号試験片を用い,JIS B 7722のシャルピー衝撃試験機を用いて試験する.」と記載されており、ステンレス鋼のシャルピー衝撃試験において、「Vノッチ」の試験片を用いることは、本件特許の出願時における技術常識であるといえる。
そうすると、本件特許発明1?9について、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、JIS Z 2242で規定するシャルピー衝撃試験の試験条件として、半径2mmの衝撃刃を選択し、試験片のノッチ形状としてVノッチを選択して追試等を行うことは、当業者にとって過度の試行錯誤を要することとはいえない。
また、上述のとおり、本件特許発明1?9における「0℃におけるシャルピー衝撃値」の試験条件は明確であるから、本件特許発明1?9における「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」なる発明特定事項の技術的意味が明確でないとはいえない。
よって、当該取消理由には、理由がない。


第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に対する当審の判断

1.申立理由1-1について
(1)甲各号証の記載事項
ア)甲第1-1号証:特開2012-140688号公報
ア-1)甲第1-1号証には、次の記載がある。
(a)「【0012】
すなわち上記目的は、質量%で、C:0.030%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.040%以下、Cr:10.00?25.00%、N:0.030%以下、Nb:0.01?0.80%であり、必要に応じてNi:2.00%以下、Mo:2.50%以下、Cu:1.80%以下、Co:0.50%以下、Al:0.50%以下、W:1.80%以下、V:0.30%以下、Ti:0.50%以下、Zr:0.20%以下、B:0.0050%以下、REM(希土類元素):0.100%以下、Ca:0.0050%以下の1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、硬さが190HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が20J/cm^(2)以上に調整されている板厚5.0?10.0mmのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルによって達成される。」

(b)「【0015】
・・・したがって本発明は、自動車排ガス経路中の装置に用いられるフランジをはじめとする厚板部材の用途において、フェライト系ステンレス鋼材の普及に寄与しうる。」(なお、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様。)

(c)「【0017】
以下において成分元素における「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
〔化学組成〕
Cは、鋼を硬質化させ、靱性を低下させる要因となるので、0.030%以下の含有量に制限される。ただし、極度に低C化を図る必要はなく、通常、0.001?0.030%のC含有量とすればよい。
【0018】
Si、Mnは、脱酸剤として有効である他、耐高温酸化性を向上させる作用を有する。特に耐高温酸化性を重視する場合には、Siについては0.05%以上、Mnについても0.05%以上の含有量を確保することがより効果的である。ただし、これらの元素を多量に含有させると鋼の脆化を招く要因となる。種々検討の結果、Si、Mnともそれぞれ2.00%以下の含有量に制限される。それぞれ1.00%以下、あるいは0.50%以下に管理してもよい。
【0019】
P、Sは、多量に含有すると耐食性低下などの要因となりうるので、Pは0.050%以下、Sは0.040%以下に制限される。通常は、P:0.010?0.050%、S:0.0005?0.040%の範囲とすればよい。耐食性を重視する場合はS含有量を0.005%以下に制限することがより効果的である。
【0020】
Crは、ステンレス鋼としての耐食性を確保するために重要な元素である。また、耐高温酸化性の向上にも有効である。これらの作用を発揮させるためには10.00%以上のCr含有量が必要となる。15.00%以上、あるいは17.00%以上のCr含有量とすることがより効果的である。一方、多量にCrを含有させると、鋼の硬質化および靱性低下によって厚ゲージ鋼帯の製造性が難しくなる。種々検討の結果、Cr含有量は25.00%以下に制限される。22.00%以下、あるいは20.00%以下に管理してもよい。
【0021】
Nは、靱性を低下させる要因となるので、0.030%以下の含有量に制限される。ただし、極度に低N化を図る必要はなく、通常、0.001?0.030%のN含有量とすればよい。
【0022】
Nbは、C、Nを固定することによってCr炭化物・窒化物の粒界偏析を抑制し、鋼の耐食性や耐高温酸化性を高く維持するうえで極めて有効な元素である。そのためには0.01%以上のNb含有が必要となる。0.05%以上とすることがより効果的であり、0.20%以上とすることがさらに効果的である。ただし、過剰のNb含有は熱延コイルの靱性低下を助長するので好ましくない。種々検討の結果、Nb含有量は0.80%以下に制限される。0.60%以下に管理してもよい。
【0023】
Niは、腐食の進行を抑制する作用があり、必要に応じて添加することができる。その場合、0.01%以上のNi含有量を確保することがより効果的である。ただし、多量のNi含有は加工性に悪影響を及ぼすことがあるので、Niを添加する場合は2.00%以下の範囲で行う必要があり、1.00%以下の範囲に管理してもよい。
・・・
【0027】
Alは、脱酸剤として有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。その場合、0.005%以上のAl含有量とすることがより効果的である。ただし、多量のAl含有は靱性低下の要因となるので、Alを含有させる場合、Al含有量は0.50%以下に制限され、0.20%以下とすることがより好ましい。
・・・
【0029】
Ti、Zrは、Cを固定する作用があり、鋼の耐食性や耐高温酸化性を高く維持するうえで有効な元素である。そのため、必要に応じてTi、Zrの1種以上を添加することができる。その場合、Tiについては0.01%以上、Zrについては0.02%以上の含有量を確保することがより効果的である。ただし、過剰のTi含有は熱延コイルの靱性低下を助長しするので、Tiを添加する場合は0.50%以下の範囲で行う。・・・
【0030】
Bは、少量の添加によって耐食性や加工性を改善する元素であり、必要に応じてこれらの1種以上を添加することができる。その場合、0.0001%以上のB含有量を確保することがより効果的である。ただし、過剰のB含有は熱間加工性に悪影響を及ぼすので、Bを添加する場合は0.0050%以下の範囲で行う。」

(d)「【0039】
表1に示す鋼を溶製して連続鋳造スラブとし、連続熱間圧延ラインにて板厚8mmの熱延コイルを製造した。表1中に示す鋼はいずれも本発明で規定する化学組成を満たすものである。表2に熱延コイル製造条件を示す。熱延コイルの水冷は、水槽中の水に熱延コイルを浸漬する方法で行った。表1中には熱延コイル製造条件のうち、スラブ加熱温度、仕上圧延温度、巻取温度を具体的に記載した。」

(e)「【0041】
【表1】



(f)「【0044】
図1および図2に、それぞれ熱延コイルの25℃におけるシャルピー衝撃値および硬さ(いずれも上述の評価特性値)を示す。」

(g)「【0051】
実施例1で製造した熱延コイルを、連続焼鈍酸洗ラインに通板して熱延焼鈍コイルを得た。その焼鈍条件は、950?1150℃に加熱した後、加熱温度から400℃までの平均冷却速度を50℃/sec以上として冷却する条件を満たす範囲で、種々の条件を採用した。得られた熱延焼鈍コイルについて、上記と同様にシャルピー衝撃値およびビッカース硬さの評価特性値を求めた。その結果、本発明に従う分類eの条件によって製造した熱延コイルに由来する熱延焼鈍コイルは、いずれも、シャルピー衝撃値25J/cm^(2)以上かつ硬さ175HV以下の特性を満たすことが確認された。
【0052】
図3および図4に、それぞれ表1のNo.9、15、18、19、20、21(分類e)の熱延コイルを用いて種々の焼鈍条件で製造した熱延焼鈍コイルのシャルピー衝撃値および硬さ(いずれも上記の評価特性値)を例示する。」

(h)「




(i)「




ア-2)上記(a)の記載によれば、甲第1-1号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「質量%で、C:0.030%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.040%以下、Cr:10.00?25.00%、N:0.030%以下、Nb:0.01?0.80%であり、必要に応じてNi:2.00%以下、Mo:2.50%以下、Cu:1.80%以下、Co:0.50%以下、Al:0.50%以下、W:1.80%以下、V:0.30%以下、Ti:0.50%以下、Zr:0.20%以下、B:0.0050%以下、REM(希土類元素):0.100%以下、Ca:0.0050%以下の1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、25℃におけるシャルピー衝撃値が20J/cm^(2)以上に調整されている板厚5.0?10.0mmの、Nb含有自動車フランジ用フェライト系ステンレス鋼熱延コイル。」(以下、「甲1-1発明」という。)

イ)甲第1-2号証:特開2011-246813号公報
イ-1)甲第1-2号証には、次の記載がある。
(a)「【0054】
熱延板厚は、4mm以上とする。一般に、熱延板の靭性は、板厚が厚くなるほど組織が粗大化し低下する。しかし、本発明に従うフェライト系ステンレス鋼の熱延板は、4mm以上の熱延板や熱延焼鈍板においても、0℃で50J/cm^(2)以上の良好な靭性(シャルピー衝撃特性)を有するため、構造材として利用ができる。これは、付加的な長所ではあるが、厚い板厚の熱延板が製造可能となるため、熱延時に発生する肌荒れの発生も抑えられる効果があり、良好な表面の鋼板となる。」

(b)「【0058】
転炉-VOD精錬により、表1に示す成分組成になるフェライト系ステンレス鋼を溶製した後、連続鋳造法により200mm厚のスラブとした。なお、本実施例でZrの投入は、フェロジルコニウムをVOD実施中に鉄容器に密封した状態で投入した。
ついで、スラブの表面を専用のグラインダーを用いて削った後、1200℃の温度に加熱し、ついで、熱間圧延により板厚:5.0mmの熱延板コイルとした。熱延後の巻取り温度は、550℃とした。なお、No.4鋼以外については、さらに1050℃、1分の熱延焼鈍を施した。
【0059】
これらの鋼板を対象に、0℃でのシャルピー衝撃試験を実施した。結果を表1に併記する。なお、本試験の値(vE0)は、試験により得られた吸収エネルギーの値を、衝撃試験片のノッチ部の断面積にて除することにより、単位面積当たりの吸収エネルギー(vE0)に換算した値である。」

ウ)甲第1-3号証:特開平7-41854号公報
ウ-1)甲第1-3号証には、次の記載がある。
(a)「【0004】
・・・フェライト系ステンレス鋼熱延板を通板中、しばしばコイルが破断する場合がある。これは低温切欠靱性が乏しいためである。・・・」

(b)「【0014】通常の熱間圧延を行った場合、熱延板表面に生じるスケール疵は、圧延の変形抵抗、つまりスラブ加熱温度によって大きく異なるので、上記の熱延板についてスケール疵の深さを測定した。また、熱延板の低温切欠靱性を調べるため、0℃においてVノッチシャルピー衝撃試験を行った。」

(c)「【0022】熱延板の低温切欠靱性を調べるため、0℃でVノッチシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃値を算出した。この結果を表1に示すが、本発明例のフェライト単相ステンレス鋼はいずれも2kgf・m/cm^(2) 以上で、通板中にコイルが破断することはなかった。比較例のNo.8はフェライト単相鋼であるが、Ni、Cr、Moが特許請求の範囲を外れており、衝撃値は著しく低い。」

(2)対比・判断
A.本件特許発明1と甲1-1発明とを対比する。

a.甲1-1発明の「フェライト系ステンレス鋼熱延コイル」は、本件特許発明1の「フェライト系ステンレス熱延鋼板」に相当する。
b.甲1-1発明の「板厚5.0?10.0mm」は、本件特許発明1の「板厚5.0?10.0mm」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1-1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「板厚5.0?10.0mmであるフェライト系ステンレス熱延鋼板。」

(相違点1)
本件特許発明1では、「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」の「靱性に優れた」ものであるのに対し、甲1-1発明では、「25℃におけるシャルピー衝撃値が20J/cm^(2)以上に調整されている」点。

(相違点2)
鋼組成について、本件特許発明1における、C、N、Si、Mn、P、S、Cr、Ni、Nb、Ti、Al、Bの成分含有量の範囲は、いずれも、甲1-1発明の成分含有量の範囲と重複する部分はあるものの、甲1-1発明の方が広いものであり、また、甲1-1発明においては、Nb/(C+N)について特定がない点。

以下、相違点について検討する。

(相違点1)及び(相違点2)について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1に係る鋼組成の限定理由として、「Cは、成形性と耐食性、熱延板靭性を劣化させるため、その含有量は少ないほど好ましい。・・・したがって、上限を0.012%とする。」(【0021】)、「Nは、Cと同様に成形性と耐食性、熱延板靭性を劣化させるため、その含有量は少ないほど好ましい。・・・したがって、上限を0.015%とする。」(【0022】)、「Siは靭性を大きく低下させる元素であることが判明し、過度の添加は靭性ならびに常温延性を低下させる。また、Siは焼鈍後の冷却過程でLaves相の析出を促進し靭性を劣化させる作用もある。そのため、上限を0.4%とする。より、好ましくは、0.01%?0.2%である。」(【0023】)、「Pは、固溶強化能の大きな元素であるが、フェライト安定化元素であり、しかも耐食性や靭性に対しても有害な元素であるため、可能な限り少ないほうが好ましい。」(【0025】)、「Crは、・・・靭性を低下させる元素でもある。・・・18.0%以上では特に低温での加工性の低下や靭性の劣化をもたらすため、10.0%以上18.0%未満とする。」(【0028】)、「Niは、・・・熱延板の靱性向上に有効である。したがって、下限を0.01%とする。好ましくは、0.05%以上である。また、多量の添加は、固溶強化による材質硬化および靭性低下を招くおそれがあるため、その上限を1.0%とする。なお、靭性および合金コストを考慮すると0.05?0.30%が望ましい。」(【0029】)、「Nbは、・・・過度の添加は、Laves相の生成に起因する靭性の低下が問題となる。本発明では、これらを考慮し、Nbの下限を0.1%、上限を0.35%とする。」(【0030】)、「Tiは、・・・形成されるTiNは大きな角状析出物であり、破壊の起点となりやすく、靭性を低下させると言われている。また、Tiは焼鈍後の冷却過程でLaves相の析出を促進し靭性を劣化させる作用もある。したがって、本発明では、できるだけ低減する必要があり、その上限を0.05%以下とする。」(【0031】)、「Alは・・・過度の添加は、常温延性の低下、靭性の低下を招くため、その上限を0.10%とする。」(【0032】)、「Bは、・・・靭性の改善も期待できるため、これまで添加することが多かった。しかしながら、今回、Nb添加を低減させた成分系で検討した結果、B添加は靭性を低下させる効果をもつことが分かった。したがって、本発明では、Bは極力低減する。原料からの混入を考慮して、上限を0.0005%以下とする。」(【0033】)と記載されており、鋼組成、特に、C、N、Si、P、Cr、Ni、Nb、Ti、Al、Bの成分含有量は、靱性の指標である「0℃におけるシャルピー衝撃値」と密接に関連しているといえるから、(相違点1)と(相違点2)とを併せて検討する。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】には、本件特許発明1が解決しようとする課題として、「背景技術に記載のフェライト系ステンレス鋼板では、冬季でのフランジ製造時の割れをかならずしも防止できなかった。本発明の目的は、自動車フランジなどに用いられる、靭性および耐食性に優れたフェライト系ステンレス熱延鋼板とその製造方法および鋼帯を提供することにある。」と記載されている。そして、【0011】には、「本発明者等は、低温下での靭性向上を検討するに当たり、冬季のフランジ材料の製造環境を調査した。その結果、冬季には室温(25℃)を下回る環境で作業している場合も多いが、0℃を下回ることはほとんどないことが分かった。フェライト系ステンレス鋼の延性-脆性遷移温度は室温付近にあり、室温から0℃までの温度変化で靭性が大きく変わる場合がある。そのため、夏季では割れない作業が冬季で割れるということが起きると考えられる。したがって、発明者らは、室温(25℃)での靭性の検討では不十分であり、0℃での靭性を確保すれば、割れが起きないと考えられ、0℃での靭性を指標として、詳細な検討を行った。」と記載されており、上記本件特許発明1に係る鋼組成の限定理由において「靱性」を挙げているC、N、Si、P、Cr、Ni、Nb、Ti、Al、Bの成分含有量は、0℃での靱性の向上を前提として特定されているといえる。
ウ 一方、甲第1-1号証には、冬季のフランジ材料の製造環境など0℃でのフランジ材料の靱性確保について課題とすること及びフェライト系ステンレス鋼の延性-脆性遷移温度が室温付近にあって室温から0℃までの温度変化で靭性が大きく変わる場合があることについては、何ら記載も示唆もされていない。
エ また、甲第1-2号証の上記イ)(a)、(b)、甲第1-3号証の上記ウ)(a)?(c)に記載されるように、フェライト系ステンレス鋼板において、0℃におけるシャルピー衝撃試験を行うことが、本件特許に係る出願の出願日前において周知技術であるとはいえるものの、甲1-2号証及び甲1-3号証には、本件特許発明1の鋼組成とすることによって、0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上としたことは記載されてはいない。
オ そして、本件特許発明1について、各元素の成分含有量を特定し、0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上という低温での靱性を確保することにより、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0070】に記載される、「その優れた靭性により、鋼板自身の製造に優れるとともに、部品製造時、0℃で作業しても割れにくいため、材料歩留まりが良い等、部品製造性に優れる」という格別の作用効果が得られることは、当業者にとって予測し得ないものである。
カ そうすると、甲1-1発明において、0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上となるように各元素の成分含有量を本件特許発明1の範囲とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。
キ したがって、本件特許発明1は、甲第1-1号証に記載された発明と甲第1-2、1-3号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ク なお、特許異議申立人1は、その特許異議申立書の第14頁第2行?第16頁第11行において、甲1-1号証に記載された発明として、上記ア)(e)の表1に記載される比較例・発明例のNo.1?No.16、No.18?No.21の鋼組成における合金成分の最大値と最小値を用いて組成範囲を集約することで発明を認定しているが、表1において鋼組成毎にそれぞれ別個の発明が記載されているとはいえるものの、各合金の各成分は互いに合金特性等に影響するものであり、ある合金成分の含有量を変化させた場合の合金特性等への影響を予測することは困難であるという技術常識を鑑みれば、当該認定は採用できない。

B.本件特許発明2?9について
本件特許発明2?9は、上記(相違点1)、(相違点2)に係る本件特許発明1と同じ発明特定事項を有しているから、本件特許発明2?9についても、本件特許発明1と同様に、甲第1-1号証に記載された発明と甲第1-2、1-3号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.申立理由2-1について
(1)先願発明
本件特許の先願に係る甲第2-1号証:特許第5885884号公報の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「質量%で、
C:0.015%以下、
Si:0.01?0.4%、
Mn:0.01?0.8%、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
Cr:14.0?18.0%未満、
Ni:0.05?1%、
Nb:0.3?0.6%、
Ti:0.02%未満、
N:0.020%以下、
Al:0.10%以下、及び
B:0.0002?0.0020%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、
Nb、C、及びNの含有量が
Nb/(C+N)≧16
を満たし、
0℃におけるシャルピー衝撃値が10J/cm^(2)以上であり、
板厚が5.0?9.0mmである
ことを特徴とするフェライト系ステンレス熱延鋼板。」(以下、「先願発明」という。)

(2)対比・判断
A.本件特許発明1と先願発明とを対比する。

a.先願発明の「フェライト系ステンレス熱延鋼板」は、本件特許発明1の「フェライト系ステンレス熱延鋼板」に相当する。
b.先願発明の「板厚が5.0?9.0mm」は、本件特許発明1の「板厚5.0?10.0mm」に包含される。
c.鋼組成において、先願発明の「Si:0.01?0.4%」、「Mn:0.01?0.8%」、「P:0.04%以下」、「S:0.01%以下」、「Cr:14.0?18.0%未満」、「Ni:0.05?1%」、「Nb/(C+N)が8以上」、「Ti:0.02%未満」、「Al:0.10%以下」は、本件特許発明1の「Si:0.01?0.4%」、「Mn:0.01?0.8%」、「P:0.04%以下」、「S:0.01%以下」、「Cr:10.0%以上18.0%未満」、「Ni:0.01?1%」、「Nb/(C+N)≧16」、「Ti:0.05%以下」、「Al:0.10%以下」に一致又は包含される。また、先願発明がC、Nb、N、Bを含有する点及び残部がFe及び不可避的不純物からなる点について、本件特許発明1と一致する。

そうすると、本件特許発明1と先願発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「質量%で、
Cを含有、
Si:0.01?0.4%
Mn:0.01?0.8%、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
Cr:14.0?18.0%未満、
Ni:0.05?1%、
Nbを含有し、かつ、Nb/(C+N)≧16
Ti:0.02%未満、
N:を含有、
Al:0.10%以下、及び
B:を含有、
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、板厚5.0?9.0mmであることを特徴とするフェライト系ステンレス熱延鋼板。」

(相違点3)
本件特許発明1では、「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」の「靱性に優れた」ものであるのに対し、先願発明では、「0℃におけるシャルピー衝撃値が10J/cm^(2)以上」である点。

(相違点4)
鋼組成において、本件特許発明1では、「C:0.012%以下」、「N:0.015%以下」、「Nb:0.1?0.35%」、「B:0.0005%以下」であるのに対し、先願発明では、「C:0.015%以下」、「N:0.020%以下」、「Nb:0.3?0.6%」、「B:0.0002?0.0020%」である点。

以下、相違点について検討する。

(相違点3)及び(相違点4)について
ア 1.(2)A.の本件特許発明1についての検討において述べたのと同様に、本件特許発明1において、鋼組成、特に、C、N、Si、P、Cr、Ni、Nb、Ti、Al、Bの成分含有量は、靱性の指標である「0℃におけるシャルピー衝撃値」と密接に関連しているといえるから、(相違点3)と(相違点4)とを併せて検討する。
イ 先願発明における「C:0.015%以下」、「N:0.020%以下」は、本件特許発明1における「C:0.012%以下」、「N:0.015%以下」より広い数値範囲を特定し、先願発明における「Nb:0.3?0.6%」、「B:0.0002?0.0020%」は、本件特許発明1における「Nb:0.1?0.35%」、「B:0.0005%以下」に対して下限については狭い範囲を特定するものの、上限については広い範囲を特定するものである。
ウ そして、これらC、N、Nb、Bの成分含有量は、上述のとおり、靱性の指標である「0℃におけるシャルピー衝撃値」と密接に関連しているところ、本件特許発明1における「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」は、先願発明における「0℃におけるシャルピー衝撃値が10J/cm^(2)以上」と比較して、より靱性に優れたものを特定している。。
エ そうすると、本件特許発明1は、先願発明より狭い範囲の成分含有量を特定することで、より優れた靱性を得たものといえるから、上記(相違点3)及び(相違点4)は、実質的な相違点である。

したがって、本件特許発明1は、先願発明と同一ではない。

B.本件特許発明2、4、6、8、9について
本件特許発明2、4、6、8、9は、上記(相違点3)、(相違点4)に係る本件特許発明1と同じ発明特定事項を有しているから、本件特許発明2、4、6、8、9についても、本件特許発明1と同様に、先願発明と同一ではない。

3.申立理由2-2について
(1)甲各号証の記載事項
ア)甲第2-2号証:特開平11-290907号公報
ア-1)甲第2-2号証には、次の記載がある。
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フェライト系ステンレス熱延鋼帯の製造方法に係り、とくに表面性状に優れたフェライト系ステンレス熱延鋼帯の製造方法に関する。本発明の熱延鋼帯は、熱延鋼帯および熱延鋼板を含むものとする。」

(b)「【0007】本発明は、上記した状況に鑑み、熱延工程に特別な装置を設置することなく、スケール疵の発生がなく良好な表面性状を有する熱延鋼帯を製造できる、フェライト系ステンレス熱延鋼帯の製造方法を提供することを目的とする。」

(c)「【0017】
【発明の実施の形態】本発明で対象とするフェライト系ステンレス鋼は、通常公知の組成範囲を有する鋼が全て好適であるが、とくに好適なフェライト系ステンレス鋼の組成範囲は、wt%で、C:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:1.0 %以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:11?20%、N:0.02%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、必要に応じ、Mo:2.0 %以下、Ni:0.6 %以下、Al:0.1 %以下、Nbおよび/またはTi:0.5 %以下を適宜添加してもよい。」

(d)「【0023】
【実施例】表1に示す化学組成のフェライト系ステンレス鋼を溶製し、連続鋳造法で200mm 厚のスラブとした。これらスラブ表面に、表2に示す表面温度でショットブラスト処理を施した。なお、比較例として一部ショットブラスト処理を行わない場合もある。その後、これらスラブを加熱炉に装入し、表2に示す昇温速度、到達加熱温度、B値以上の積算時間の条件で加熱し、3基の粗圧延機により、30mm厚のシートバーとした。ついでこれらシートバーを、7基の圧延機からなる連続式仕上圧延ミルにより3.5mm 厚の熱延鋼帯とした。
【0024】得られた熱延鋼帯に連続焼鈍・酸洗処理を施したのち、コイル全長にわたって、表面スケール疵の発生の有無およびスケール疵の程度を調査した。なお、酸洗は、150g/l硫酸水溶液(液温:60℃)中30sec 浸漬したのち、150g/l硫酸水溶液(液温:60℃)中30sec 浸漬し、さらに100g/l硝酸+50g/l弗酸水溶液(液温:60℃)中30sec 浸漬することにより行った。」

(e)「【0026】
【表1】




ア-2)上記ア)(a)の記載から、「熱延鋼帯」は、「熱延鋼板」を含むものといえる。また、特に、上記ア)(e)表1の鋼No.Dに着目すると、Nb/(C+N)≒18.8と算出される。

ア-3)そうすると、甲第2-2号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「wt%で、C:0.010%、N:0.008%、Si:0.36%、Mn:0.52%、P:0.031%、S:0.006%、Cr:17.1%、Ni:0.08%、Nb:0.34%、、Nb/(C+N)≒18.8、Ti:0.002%、Al:0.001%、Mo:0.004%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、3.5mm厚であるフェライト系ステンレス熱延鋼板。」(以下、「甲2-2発明」という。)

イ)甲第2-3号証:特開2013-209726号公報
イ-1)甲第2-3号証には、次の記載がある。
(a)「【請求項1】
質量%にて、C:0.02%以下、Si:0.1?1.0%、Mn:0.6超?1.5%、P:0.01?0.05%、S:0.0001?0.0100%、Cr:13.0?20.0%、Mo:0.1?3.0%、Ti:0.005?0.20%、Nb:0.30?1.0%、B:0.0002?0.0050%、Al:0.005?0.50%、N:0.02%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、板厚をtとした場合、表層?t/4およびt/4?t/2の領域において{111}方位粒が面積率でそれぞれ20%および40%以上、かつ全厚域において{011}方位粒が15%以下存在することを特徴とする加工性に優れた耐熱フェライト系ステンレス冷延鋼板。」

(b)「【0009】
本発明の目的は、既知技術の問題点を解決し、加工性に優れた耐熱フェライト系ステンレス冷延鋼板、冷延素材用フェライト系ステンレス熱延鋼板及びそれらの製造方法を提供することにある。」

(c)「【0047】
巻取温度に関しては、熱延組織の回復抑制と熱延板靭性の観点から500℃以下とした。つまり本発明では、このように巻取温度を500℃以下の低温とすることにより、熱延工程によって得られた{111}集合組織を回復させることなく維持したまま後工程へと引き継ぐことができる。更に、生産性、靭性およびコイル形状を考慮すると400?480℃が望ましい。巻取温度が500℃超の場合、後に行う熱延板焼鈍工程の焼鈍温度が適正であっても、板厚の表層部近傍で生じた熱延せん断歪に起因する{110}方位粒が、熱延巻取後から常温まで冷却される過程で成長し、その後の焼鈍工程にて他方位を蚕食することで製品板まで残留する。この{110}方位粒はr値の低下をもたらすため、巻取温度は500℃以下とした。また、熱延仕上圧延後から巻取りまでの間における{110}方位粒の成長を抑制するために、50℃/sec以上の冷却速度で冷却することが望ましい。」

(d)「【0055】
(実施例1)
本実施例ではまず、表1に示す成分組成の鋼を溶製しスラブに鋳造し、スラブを熱間圧延して、5.0mm厚の熱延板とした。その後、熱延板を連続焼鈍処理した後、酸洗し、2.0mm厚まで冷間圧延し、連続焼鈍-酸洗を施して製品板とした。」

ウ)甲第2-4号証:特開2011-179116号公報
ウ-1)甲第2-4号証には、次の記載がある。
(a)「【請求項1】
質量%で、C:0.020%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.06%以下、S:0.01%以下、Cr:18.0?24.0%、Mo:0.3%以下、Ti:0.015%以下、N:0.020%以下、さらにAl:0.20?0.40%、さらに10×(C+N)≦Nb≦0.40%かつ、成分含有量が下記式(A)を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス冷延鋼板。
Ti×N≦8.0×10-5 ・・・・(A)
ここで、各元素記号は鋼中の成分含有量(質量%)を表す。」

(b)「【0004】
特に、板厚2mm超え?4mmの板厚の厚い低温靱性に優れた冷延鋼板を得る上で、冷延圧下率の確保の観点から、板厚6mm以上の熱延鋼板を製造することになる。フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて熱延材および冷延材の靱性が劣る。フェライト系ステンレス熱延鋼板は、通常、連続焼鈍炉を用いて熱延板焼鈍が行われるが、熱延材の靱性が不十分な場合、熱延鋼板に張力付加した状態で連続焼鈍工程のラインを通板すると、板厚の厚いほど板破断の可能性が高くなる。このため従来から冷延用素材としてのフェライト系ステンレス熱延鋼板の板厚は4?5mmが主流である。このため、板厚6mm以上のフェライト系ステンレス熱延鋼板の靱性向上が求められている。」

(c)「【0015】
そこで、本発明は、フェライト系ステンレス熱延鋼板の板厚6mm以上における靱性を大幅に改善することにより、板厚4mm以下の冷延鋼板において-50℃のシャルピー衝撃値が100J/cm^(2)以上であることを特徴とする靱性に優れた高耐食性フェライト系ステンレス冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。」

(d)「【0048】
本発明の効率的な製造方法は、スラブに連続鋳造し、1100?1300℃の範囲に加熱して、熱間圧延を行い、熱延コイルとする。熱間圧延におけるコイル巻取温度が650℃を超えると、巻取り後に炭化物や金属間化合物が析出して靭性が低下する。このため、巻取温度は650℃以下とすることが好ましく、高い靭性が要求される場合は、巻取温度を450℃以下とすることが好ましい。また、板厚4mm以下の靱性に優れた冷延焼鈍板、あるいは、板厚2mm以下の靭性および加工性に優れた冷延焼鈍板を製造するためには、冷延圧下率確保の観点から熱延鋼板(単に「熱延板」とも称す)の板厚を6mm以上とする。さらに好ましくは、7mm以上である。得られた熱延板を連続焼鈍、酸洗ラインにより900?1150℃の範囲で焼鈍、酸洗を行う。熱延板の連続焼鈍ラインによっては、熱延板に張力を付与した状態でライン通板するため、熱延板の靱性が不十分な場合、板破断が生じることもあるため、0℃での熱延板のシャルピー衝撃値は50J/cm^(2)以上であることが好ましい。」

エ)甲第2-5号証:特開2012-140688号公報
エ-1)甲第2-5号証には、次の記載がある。
(a)「【請求項1】
質量%で、C:0.030%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.040%以下、Cr:10.00?25.00%、N:0.030%以下、Nb:0.01?0.80%、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、硬さが190HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が20J/cm^(2)以上に調整されている板厚5.0?10.0mmのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイル。」

(b)「【0008】
本発明はこのような問題に鑑み、熱延コイルや熱延焼鈍コイルを展開して通板するラインにおいて材料割れの問題が安定して防止できるに足る靱性・延性を有する、厚ゲージのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルまたは熱延焼鈍コイルを提供することを目的とする。」

(c)「【0034】
〔熱延コイルの製造〕
熱間圧延は、スラブを加熱した後、抽出して、複数パスの圧下を行って板厚5.0?10.0mmの鋼帯とし、巻取るという、一連の工程によって実施される。その際、仕上圧延温度を890℃以上と高く設定することが重要である。それより仕上圧延温度が低いと熱延ひずみが大きくなって材料が硬質化し、ライン通板時の割れを誘発しやすくなる。また、仕上圧延温度を800℃付近よりも十分に高温とすることにより、巻取前の冷却過程で800℃付近の温度域を水冷によって短時間で通過させることができ、Laves相の生成を回避するうえで有利となる。ただし、仕上圧延温度を過度に高くすると後述の低温巻取が実施できなくなる場合がある。熱間圧延ラインの水冷能力にもよるが、通常、仕上圧延温度は1000℃以下の範囲とすればよい。
【0035】
仕上圧延後の鋼帯は、巻取前に水冷して、巻取温度400℃以下で低温巻取を行ってコイルとする。それより巻取温度が高いと、板厚中央部の高温領域でLaves相が生成してコイルが脆化しやすい。なお、仕上熱延後、巻取までの所要時間は100秒以下とすればよい。一般的な熱間圧延ラインでは、通常、上記の所要時間以内で巻取が実施される。
【0036】
従来、400℃以下という低温巻取を行った熱延コイルに対して、さらに水冷を行うというような入念な処理を施してNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルの脆化防止を図ることは行われていない。5mm未満の板厚であれば高温仕上・低温巻取の手法を採用することで、通常はそのままライン通板に供することが可能な熱延コイルが得られるからである。しかしながら、板厚5mm以上の厚ゲージ材になると、高温仕上・低温巻取を行うだけでは脆化の問題を解決することができない。前述の「復熱」による影響が無視できなくなるからである。そこで、本発明では、低温巻取を行って得られたコイルに対して、さらに水冷処理を行う。
【0037】
具体的には、巻取温度400℃以下で巻取られたコイルを、巻取終了時から30分以内に水中へ浸漬し、水冷する。巻取後に30分より長時間放置すると475℃脆化が生じる場合がある。水中への浸漬は、コイル全体が水没するようにして行う。浸漬時間は15分以上を確保する必要がある。それより短いと浸漬後に復熱が生じてコイルの中心部(最内周)に近い領域などで脆化が起こりやすくなる。」

オ)甲第2-6号証:特開2010-100909号公報
オ-1)甲第2-6号証には、次の記載がある。
(a)「【請求項1】
C:0.003?0.010質量%、Si:0.15質量%以下、Mn:0.2質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.005質量%以下、Al:0.05質量%以下、N:0.010質量%以下、Cr:20?23質量%、Cu:0.3?0.6質量%、Ni:0.5質量%以下、Nb:0.25?0.5質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、厚さ方向の1/4?3/4の領域に粒径70nm以下のNb炭化物および/またはNb炭窒化物が分散して析出した組織と、を有することを特徴とする抵抗スポット溶接継手強さの高い高耐食性フェライト系ステンレス鋼板。」

(b)「【0007】
本発明は、抵抗スポット溶接による溶接継手が優れた強度を発現する高耐食性フェライト系ステンレス鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。」

(c)「【0027】
次に、本発明の高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の製造方法を説明する。
所定の成分を有するフェライト系ステンレス鋼を溶製し、さらにスラブとした後、1000℃以上1200℃以下に加熱して熱間圧延(仕上げ温度:950℃以下,巻取り温度:500℃以下)を行ない、熱延鋼板とする。
加熱温度:1000℃以上1200℃以下
スラブの加熱温度が1200℃を超えると、スラブのフェライト結晶粒が粗大化する。フェライト系ステンレス鋼では、フェライト単一相のままで熱間圧延されるので、スラブの粗大化したフェライト結晶粒の再結晶が遅れて、後述する冷間圧延を行なった後も粗大なフェライト結晶粒が残留する。したがって、スラブの加熱温度は1200℃以下とする。加熱温度が1000℃未満では、Nb炭化物が熱間圧延前に粗大なままで溶解せず、結果として微細なNb炭化物を得ることができない。したがって、加熱温度は1000?1200℃の範囲内とする。
【0028】
仕上げ温度:950℃以下
熱間圧延の仕上げ温度が950℃を超えると、熱延鋼板のフェライト結晶粒が粗大化し、後述する冷間圧延を行なった後も粗大なフェライト結晶粒が残留する。したがって、熱間圧延の仕上げ温度は950℃以下とする。なお、仕上げ温度が800℃未満では、熱延ロールと圧延材間の摩擦係数が大きくなり、圧延材の表面性状が劣化する。したがって、加熱温度は800?950℃の範囲内が好ましい。
【0029】
巻取り温度:500℃以下
熱延鋼板の巻取り温度が500℃を超えると、粗大なNb炭化物やNb炭窒化物が析出する。したがって、熱延鋼板の巻取り温度は500℃以下とする。なお、巻取り温度が350℃未満では、熱延鋼板の形状が損なわれる。したがって、巻取り温度は350?500℃の範囲内が好ましい。」

カ)甲第2-7号証:特開2005-307306号公報
カ-1)甲第2-7号証には、次の記載がある。
(a)「【0005】
本発明は、上記問題を解決し、工程の追加を伴わずに耐リジング性および延性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を製造しうる、延性および耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法を提供することを目的とする。」

(b)「【0010】
熱間圧延は、通常の方法で行なえばよい。主な操業条件としては、例えばスラブ加熱温度:1100?1300℃、仕上げ圧延温度:900?1100℃、圧下率:40?95%、仕上げ板厚:2.0?8.0mm、巻取り温度:400?700℃が挙げられる。」

(2)対比・判断
A.本件特許発明2と甲2-2発明とを対比する。
なお、本件特許発明2と甲2-2発明とは、いずれも、鋼組成としてMoを含有しているから、まず、本件特許発明2を対比の対象とした。

a.甲2-2発明の「フェライト系ステンレス鋼熱延鋼板」は、本件特許発明2の「フェライト系ステンレス熱延鋼板」に相当する。
b.甲2-2発明の「wt%」は、本件特許発明2の「質量%」に相当する。
c.鋼組成において、甲2-2発明の「C:0.010%」、「N:0.008%」、「Si:0.36%」、「Mn:0.52%」、「P:0.031%」、「S:0.006%」、「Cr:17.1%」、「Ni:0.08%」、「Nb:0.34%」、「Nb/(C+N)≒18.8」、「Ti:0.002%」、「Al:0.001%」、「Mo:0.004%」、「残部Fe及び不可避的不純物からなり」は、本件特許発明2の「C:0.012%以下」、「N:0.015%以下」、「Si:0.01?0.4%」、「Mn:0.01?0.8%」、「P:0.04%以下」、「S:0.01%以下」、「Cr:10.0%以上18.0%未満」、「Ni:0.01?1%」、「Nb:0.1?0.35%」、「かつ、Nb/(C+N)が8以上(Nb、C、Nはそれぞれの成分含有量(質量%))」「Ti:0.05%以下」、「Al:0.10%以下」、「Mo:1.5%以下」、「残部がFe及び不可避的不純物からなり」に包含される。また、本件特許発明2は、Bの下限を特定せず、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0033】には、「原料からの混入を考慮して、上限を0.0005%以下とする。原料等を制限することにより、0.0003%以下とすることがより好ましい。」と記載されている点からみて、Bは、積極添加する元素ではなく不可避的不純物に該当するといえ、甲2-2発明は、Bを含有しない点について本件特許発明2と一致する。

そうすると、本件特許発明2と甲2-2発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「質量%で、
C:0.010%
N:0.008%
Si:0.36%
Mn:0.52%
P:0.031%
S:0.006%
Cr:17.1%
Ni:0.08%
Nb:0.34%、かつNb/(C+N)≒18.8、
Ti:0.002%
Al:0.001%
Mo:0.004%
残部Fe及び不可避的不純物からなる、フェライト系ステンレス熱延鋼板。」

(相違点5)
本件特許発明2では、「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」の「靱性に優れた」ものであるのに対し、甲2-2発明では、0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上の靱性に優れたものであることについて不明である点。

(相違点6)
本件特許発明2では、「板厚5.0?10.0mm」であるのに対し、甲2-2発明では、「3.5mm厚」である点。

以下、相違点について検討する。

(相違点5)について
上記1.(2)A.の本件特許発明1についての検討において述べたのと同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明2が解決しようとする課題として、冬季のフランジ材料の製造環境など0℃でのフランジ材料の靱性確保について課題とすることが記載されている。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0045】には、「本発明の熱延鋼板は、非常に成分限定を行ったため、設備に特段の制限はなく、常法の製造設備を使用できる。」と記載されるものの、具体的な製造条件として、同【0046】には、熱間圧延の「加熱温度は、1150℃から1250℃が好ましい。また、熱延仕上げ温度は、850℃以上が好ましい。さらには、熱延後、気水冷却等で、450℃まで急冷することが好ましい。しかし、急冷しすぎると、コイルの巻き傾向が劣化し、その後の過程で疵の発生原因となるため、好ましくなく、360℃超が好ましい。さらに、400℃超が好ましい。」ことが記載され、同【0049】には、「これらの成分限定と製造方法により、0℃でシャルピー試験による靭性値が、50J/cm^(2)となり、優れた靭性が発現する。」と記載されていることから、「フェライト系ステンレス熱延鋼板」が「0℃におけるシャルピー衝撃値が、50J/cm^(2)以上」という特性を得るためには、単に鋼組成だけを満たせばよいものではなく、当該特性を得るための製造条件を選択する必要があるといえる。
一方、甲2-2発明が解決しようとする課題は、上記ア)(b)によれば、「熱延工程に特別な装置を設置することなく、スケール疵の発生がなく良好な表面性状を有する熱延鋼帯を製造できる、フェライト系ステンレス熱延鋼帯の製造方法を提供すること」であって、甲第2-2号証には、冬季のフランジ材料の製造環境など0℃でのフランジ材料の靱性確保について課題とすることについては、何ら記載も示唆もされていない。
また、甲第2-3号証の上記イ)(a)?(c)、甲第2-4号証の上記ウ)(a)?(e)、甲第2-5号証の上記エ)(a)?(c)、甲第2-6号証の上記オ)(a)?(c)、甲第2-7号証の上記カ)(a)?(b)に記載されるように、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法において、熱間圧延の加熱温度、熱延仕上げ温度、巻取温度について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載される各温度範囲に一部重複する製造方法が、本件特許に係る出願の出願日前において周知又は慣用の製造方法であるとしても、フェライト系ステンレス鋼板の製造条件として、当該製造方法以外の製造方法を選択し得ないことを意味するものではない。
さらに、甲2-3号証?甲2-7号証には、甲2-2発明の鋼組成のものを、上記周知又は慣用の製造方法においてフェライト系ステンレス熱延鋼板とすることで、「0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上」としたことは記載されていない。
そして、本件特許発明2について、特定の鋼組成において、0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上という低温での靱性を確保することにより、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0070】に記載される、「その優れた靭性により、鋼板自身の製造に優れるとともに、部品製造時、0℃で作業しても割れにくいため、材料歩留まりが良い等、部品製造性に優れる」という格別の作用効果が得られることは、当業者にとって予測し得ないものである。
そうすると、甲2-2発明において、0℃におけるシャルピー衝撃値が50J/cm^(2)以上とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲第2-2号証に記載された発明と甲第2-3?2-7号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

B.本件特許発明1、3?9について
本件特許発明1、3?9は、上記(相違点5)、(相違点6)に係る本件特許発明2と同じ発明特定事項を有しているから、本件特許発明1、3?9についても、本件特許発明1と同様に、甲第2-2号証に記載された発明と甲第2-3?2-7号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.申立理由2-3について
本件特許発明1?9は、「0℃におけるシャルピー衝撃値」の上限値を規定していない。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0020】?【0043】には、鋼組成の各成分含有量が具体的に記載され、同【0044】?【0049】には、熱間圧延の加熱温度、熱延仕上げ温度、熱延後の冷却条件、焼鈍を行う場合の焼鈍温度および冷却条件について具体的に記載され、さらに、実施例も複数記載されている。
そして、本件特許発明1?9が解決しようとする課題として、同【0009】には、「背景技術に記載のフェライト系ステンレス鋼板では、冬季でのフランジ製造時の割れをかならずしも防止できなかった。本発明の目的は、自動車フランジなどに用いられる、靭性および耐食性に優れたフェライト系ステンレス熱延鋼板とその製造方法および鋼帯を提供することにある。」と記載され、同【0012】には、「0℃での靭性値が50J/cm^(2)以上あると、打ち抜き時の割れが起きないことが判明し」たことが記載されており、本件特許発明1?9における「0℃におけるシャルピー衝撃値」の上限値は、冬季でのフランジ製造時の割れを防止できる程度の意味において特定されるものであって、現実的ではない「0℃におけるシャルピー衝撃値」は除かれることは明らかである。
そうすると、「0℃におけるシャルピー衝撃値」の上限値を規定していないことをもって、本件特許発明1?9について、実施可能でない、また、発明の詳細な説明に裏付けられていないとはいえない。
したがって、当該申立理由には、理由がない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-21 
出願番号 特願2014-69282(P2014-69282)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 537- Y (C22C)
P 1 651・ 4- Y (C22C)
P 1 651・ 536- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 葉子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 松本 要
河本 充雄
登録日 2016-04-15 
登録番号 特許第5918796号(P5918796)
権利者 新日鐵住金ステンレス株式会社
発明の名称 靭性に優れたフェライト系ステンレス熱延鋼板および鋼帯  
代理人 内藤 俊太  
代理人 田中 久喬  
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所  
代理人 香取 英夫  
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