• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01Q
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01Q
管理番号 1326983
異議申立番号 異議2016-701191  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-27 
確定日 2017-03-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第5941504号発明「電子機器のアンテナ・システムおよびアイソレーションを強化する方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5941504号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5941504号の請求項1ないし20に係る特許についての出願は,平成26年7月23日に特許出願され,平成28年5月27日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人 石川 宗利 により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5941504号の請求項1ないし20の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 石川 宗利 は,主たる証拠として「USB 3.0* Radio Frequency Interference Impact on 2.4GHz Wireless Devices」, intel White Paper,URL:http:www.usb.org/developers/docs/whitepapers/327216.pdf,2012年4月(甲第1号証),従たる証拠として特開2005-167821号公報(甲第2号証)及び特開2008-219840号公報(甲第3号証)を提出し,請求項1ないし20に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,請求項17に係る特許は同法第36条第6項第1号に違反してされたものであり,請求項7,17,20に係る特許は同法同条同項第2号に違反してされたものであるから,請求項1ないし20に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
ここで,特許異議申立人は,特許異議申立書において甲第1号証の名称のうち「USB 3.0*」を「USB 3.0」と「*」を省略しているが,甲第1号証のフロントページの「USB 3.0* Radio Frequency Interference Impact on 2.4GHz Wireless Devices」の記載からみて,「*」の省略は明らかな誤記と認める。

第4 特許法第29条第2項について
1.刊行物の記載
(1)甲第1号証及び甲1発明について
甲第1号証の9ページの図3-1(Figure 3-1)には,同ページの「3.1」の項を参照すると,USB3.0周辺デバイス(USB3.0 Peripheral Device )が接続されるUSB3.0コネクタ(USB3.0 Connector)と,2.4-2.5 GHz帯で動作し無線受信器(Wireless Receiver)に接続するアンテナ(Antenna)と,を備えたPC(PC)が見て取れ,「PC」という文字を含む実線の矩形内がPCの内部を表し,前記矩形が前記PCと外部との境界である筐体を表すと解される。
さらに,前記「3.1」の項において,前記PCでは,USB3.0周辺デバイスが放射する広帯域ノイズを前記アンテナが拾ってしまうという技術課題が示されている。当該技術課題を解決するために,甲第1号証では,「4.1」の項(13?15ページ)において,コネクタを含む前記USB3.0周辺デバイスの本体をシールドすることで,前記広帯域ノイズの放射量を低減することが記載されている。
また,甲第1号証の「4.2」の項(15?17ページ)では,USB3.0周辺デバイスからの放射に加えて,USB3.0レセプタクルコネクタ(USB3.0 receptacle connecter)からもノイズが放射されることから,前記USB3.0レセプタクルコネクタをシールドすることで,該レセプタクルコネクタが放射するノイズを低減することが記載されている。
さらに,甲第1号証の「5」の項(20ページ)には,USB3.0* 周辺デバイスとしてフラッシュドライブを用い,該フラッシュドライブをシールドした場合と,該フラッシュドライブが接続されるレセプタクルコネクタをシールドした場合とが開示されている。

以上の事項を考慮すると,甲第1号証には,以下の2つの発明が記載されていると認める。なお,「USB3.0周辺デバイス」及び「USB3.0* 周辺デバイス」を「周辺デバイス」と称し,該「周辺デバイス」と接続するPC側のコネクタを「レセプタクルコネクタ」と称することは任意である。

(甲1第1発明)
「所定の通信方式の電波を受信することが可能なアンテナと,
周辺デバイスを接続するためのレセプタクルコネクタと,
前記周辺デバイスからの放射ノイズを低減することで,前記アンテナで拾う前記放射ノイズを低減するための前記周辺デバイスを覆うシールドと,
を備えるPC。」

(甲1第2発明)
「所定の通信方式の電波を受信することが可能なアンテナと,
周辺デバイスを接続するためのレセプタクルコネクタと,
前記レセプタクルコネクタからの放射ノイズを低減することで,前記アンテナで拾う前記放射ノイズを低減するための前記レセプタクルコネクタを覆うシールドと,
を備えるPC。」

さらに,甲第1号証の前記「PC」は,図3-2(Figure 3-2),図3-4(Figure 3-4)等に記載されているように「ノートブックコンピュータ」(Notebook Computer)とすることができ,かつ,前記アンテナにより「無線通信が可能で」あることは明らかである。そして,「ノートブックコンピュータ」は,携帯できるコンピュータであるから「携帯できるPC」と称することは任意である。また,図3-1(Figure 3-1)より,矩形の筐体は4つの端面を備え,いずれかの前記端面にUSB3.0コネクタ(USB3.0 Connector)が配置され,前記端面の近辺にアンテナが配置されているといえるから,上述の点も合わせて考慮すると,甲第1号証には,さらに以下の2つの発明が記載されていると認める。

(甲1第3発明)
「無線通信が可能で携帯できるPCであって,
周辺が4つの端面で囲まれた矩形状の筐体と,
前記筐体のいずれかの前記端面の近辺に配置された所定の通信方式のアンテナと,
前記筐体の前記端面に配置された周辺デバイスを接続するためのレセプタクルコネクタと,
前記周辺デバイスからの放射ノイズを低減することで,前記アンテナで拾う前記放射ノイズを低減するための前記周辺デバイスを覆うシールドと,
を備えるPC。」

(甲1第4発明)
「無線通信が可能で携帯できるPCであって,
周辺が4つの端面で囲まれた矩形状の筐体と,
前記筐体のいずれかの前記端面の近辺に配置された所定の通信方式のアンテナと,
前記筐体の前記端面に配置された周辺デバイスを接続するためのレセプタクルコネクタと,
前記レセプタクルコネクタからの放射ノイズを低減することで,前記アンテナで拾う前記放射ノイズを低減するための前記レセプタクルコネクタを覆うシールドと,
を備えるPC。」

さらに,甲第1号証には,前記甲1第1発明及び甲1第2発明に対応して,以下の2つの発明が記載されていると認める。

(甲1第5発明)
「周辺デバイスをシールドで覆うことで,前記周辺デバイスからの放射ノイズを低減し,それによりアンテナで拾う前記放射ノイズを低減する方法。」

(甲1第6発明)
「周辺デバイスが接続されるレセプタクルコネクタをシールドで覆うことで,前記レセプタクルコネクタからの放射ノイズを低減し,それによりアンテナで拾う前記放射ノイズを低減する方法。」

なお,特許異議申立人は,甲第1号証には,「D:レセプタクルの近辺に配置され,レセプタクルに接続されたUSBデバイスが放射する電磁波の放射パターンを修正してアンテナが受信するノイズ・レベルを低減するシールド」が記載されていると認定(特許異議申立書17ページ下から6?4行)しているが,上述のとおりレセプタクルの近辺に配置されたシールドは,該レセプタクルからの放射ノイズ(電磁波)をシールドするためのものであって,「レセプタクルに接続されたUSBデバイスが放射する電磁波の放射パターンを修正」するものとはいえないから,前記認定は,妥当ではない。

(2)甲第2号証及び甲第2号証に記載された技術的事項について
甲第2号証の特に【0004】,【0015】-【0019】及び図面を参照すると,甲第2号証には以下の技術的事項(以下,「技術的事項1」という。)が記載されていると認める。

「筐体内に,第1の周波数で共振する第1のアンテナと,第2の周波数で共振する第2のアンテナを備えた無線機装置において,前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとのアイソレーションを向上するため,前記第2アンテナの付近に,一端が接地され前記第1の周波数の1/4波長の長さを有する導体を配置すること。」

(3)甲第3号証及び甲第3号証に記載された技術的事項について
甲第3号証には以下の技術的事項(以下,「技術的事項2」という。)が記載されていると認める。

「接続する機器が筐体内で発するノイズの影響を軽減するため,受信装置のコネクタと受信アンテナとの間にノイズブロックアンテナとして作用する,グランドに接地された付加アンテナを配置すること。」

2.判断
(1)請求項1に係る発明について
ア 甲1第1発明との対比・判断
請求項1に係る発明の「ノイズ緩和器」と甲1第1発明の「シールド」とを対比すると,いずれも外部周辺デバイス(周辺デバイス)が放射する電磁波(放射ノイズ)に作用して,アンテナが受信するノイズ・レベルを低減させる点で共通する。しかしながら,請求項1に係る発明では,「ノイズ緩和器」は,「アンテナ・システム」の一部であって「電子機器の筐体に収納」されるものであり,かつ,「レセプタクルの近辺に配置され」るものであるのに対し,甲1第1発明では,「シールド」は,「周辺デバイス」を覆うものであって,PCの筐体に収納されるものではない点(以下,「相違点1」という。)で,両発明は相違する。
そこで,相違点1について検討すると,技術的事項1,2は,電子機器の筐体の外で放射される放射ノイズを低減することを課題とするものではないから,甲1第1発明に技術的事項1,2を適用する動機付けはなく,また,仮に甲1第1発明に技術的事項1,2を適用したとしても,技術的事項1,2には,前記筐体の外で放射する放射ノイズを,筐体内,かつ,レセプタクルの近辺に配置した導体ないしアンテナで低減する技術思想がないから,相違点1に係る請求項1に係る発明の構成を充足することはできない。
よって,請求項1に係る発明は,甲1第1発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明することができたものではない。

イ 甲1第2発明との対比・判断
請求項1に係る発明の「ノイズ緩和器」と甲1第2発明の「シールド」とを対比すると,いずれもアンテナが受信するノイズ・レベルを低減する点で共通する。しかしながら,請求項1に係る発明の「ノイズ緩和器」は,「外部周辺デバイスが放射する電磁波の放射パターンを修正」するものであるのに対し,甲1第2発明の「シールド」は,「レセプタクルコネクタからの放射ノイズを低減する」点(以下,「相違点2」という。)で,両発明は相違する。
そこで,相違点2について検討すると,技術的事項1,2は,電子機器の筐体の外で放射される放射ノイズを低減することを課題とするものではないから,甲1第1発明に技術的事項1,2を適用する動機付けはなく,また,仮に甲1第2発明に技術的事項1,2を適用したとしても,技術的事項1,2には,前記筐体の外で放射する放射ノイズを,筐体内,かつ,レセプタクルの近辺に配置した導体ないしアンテナで低減する技術思想がないから,相違点2に係る請求項1に係る発明の構成を充足することはできない。
よって,請求項1に係る発明は,甲1第2発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)請求項2ないし12に係る発明について
請求項2ないし12に係る発明は,請求項1に係る発明をさらに限縮したものであるから,上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により,甲1第1発明と技術的事項1,2から,ないしは,甲1第2発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求項13に係る発明について
ア 甲1第3発明との対比・判断
請求項13に係る発明の「ノイズ緩和器」と甲1第3発明の「シールド」とを対比すると,いずれも外部周辺デバイス(周辺デバイス)が放射する電磁波(放射ノイズ)に作用して,アンテナが受信するノイズ・レベルを低減する点で共通する。しかしながら,請求項13に係る発明では,「ノイズ緩和器」が「携帯式電子機器」の「筐体の内側で何れかの前記端面の近辺に配置」されるものであるのに対し,甲1第3発明では,「シールド」が周辺デバイスを覆うものであって,PCの筐体に収納されるものではない点(以下,「相違点3」という。)で,両発明は相違する。
そこで,相違点3について検討すると,技術的事項1,2は,電子機器の筐体の外で放射される放射ノイズを低減することを課題とするものではないから,甲1第3発明に技術的事項1,2を適用する動機付けはなく,また,仮に甲1第3発明に技術的事項1,2を適用したとしても,技術的事項1,2には,前記筐体の外で放射する放射ノイズを,筐体の内側で該筐体の何れかの端面の近辺に配置した導体ないしアンテナで低減する技術思想がないから,相違点3に係る請求項13に係る発明の構成を充足することはできない。
よって,請求項13に係る発明は,甲1第3発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明することができたものではない。

イ 甲1第4発明との対比・判断
請求項13に係る発明の「ノイズ緩和器」と甲1第4発明の「シールド」とを対比すると,いずれもアンテナが受信するノイズ・レベルを低減する点で共通する。しかしながら,請求項13に係る発明では,「ノイズ緩和器」が「外部周辺デバイスが放射する電磁波の放射パターンを修正」するものであるのに対し,甲1第4発明では,「シールド」が「レセプタクルコネクタからの放射ノイズを低減する」点(以下,「相違点4」という。)で,両発明は相違する。
そこで,相違点4について検討すると,技術的事項1,2は,電子機器の筐体の外で放射される放射ノイズを低減することを課題とするものではないから,甲1第4発明に技術的事項1,2を適用する動機付けはなく,また,仮に甲1第4発明に技術的事項1,2を適用したとしても,技術的事項1,2には,前記筐体の外で放射する放射ノイズを,筐体の内側で該筐体の何れかの端面の近辺に配置した導体ないしアンテナで低減する技術思想がないから,相違点4に係る請求項13に係る発明の構成を充足することはできない。
よって,請求項13に係る発明は,甲1第4発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明することができたものではない。

(4)請求項14ないし17に係る発明について
請求項14ないし17に係る発明は,請求項13に係る発明をさらに限縮したものであるから,上記請求項13に係る発明についての判断と同様の理由により,甲1第3発明と技術的事項1,2から,ないしは,甲1第4発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)請求項18に係る発明について
ア 甲1第5発明との対比・判断
請求項18に係る発明と甲1第5発明とを対比すると,請求項18に係る発明では,「前記レセプタクルの近辺にグランドに接続された所定の長さの共振素子を配置するステップ」を備えるのに対し,甲1第5発明は,「周辺デバイスをシールドで覆う」ものであって,前記ステップを備えていない点(以下,「相違点5」という。)で相違する。
そこで,相違点5について検討すると,技術的事項1,2は,電子機器の筐体の外で放射される放射ノイズを低減することを課題とするものではないから,甲1第5発明に技術的事項1,2を適用する動機付けはなく,また,仮に甲1第5発明に技術的事項1,2を適用したとしても,技術的事項1,2には,前記筐体の外で発生する放射ノイズを,レセプタクルの近辺に配置した導体ないしはアンテナで低減する技術思想がないから,相違点5に係る請求項18に係る発明の構成を充足することはできない。
よって,請求項18に係る発明は,甲1第5発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明することができたものではない。

イ 甲1第6発明との対比・判断
請求項18に係る発明と甲1第6発明とを対比すると,請求項18に係る発明は,「携帯式電子機器に搭載するアンテナと,前記携帯式電子機器の筐体に設けたレセプタクルに接続される外部周辺デバイスの電磁波のアイソレーションを強化する方法」であって,「前記レセプタクルの近辺にグランドに接続された所定の長さの共振素子を配置するステップ」を備えるのに対し,甲1第6発明は,「前記レセプタクルコネクタからの放射ノイズを低減し,それにより前記アンテナで拾う前記放射ノイズを低減する方法」であって,「周辺デバイスが接続されるレセプタクルコネクタをシールドで覆う」ものである点(以下,「相違点6」という。)で相違する。
そこで,相違点6について検討すると,技術的事項1,2は,電子機器の筐体の外で放射される放射ノイズを低減することを課題とするものではないから,甲1第6発明に技術的事項1,2を適用する動機付けはなく,また,仮に甲1第6発明に技術的事項1,2を適用したとしても,技術的事項1,2には,前記筐体の外で発生する放射ノイズを,レセプタクルの近辺に配置した導体ないしはアンテナで低減する技術思想がないから,相違点6に係る請求項18に係る発明の構成を充足することはできない。
よって,請求項18に係る発明は,甲1第6発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明することができたものではない。

(6)請求項19ないし20に係る発明について
請求項19ないし20に係る発明は,請求項18に係る発明をさらに限縮したものであるから,上記請求項18に係る発明についての判断と同様の理由により,甲1第5発明と技術的事項1,2から,ないしは,甲1第6発明と技術的事項1,2から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.小活
以上のとおりであるから,特許異議申立人が提出した甲第1号証,甲第2号証及び甲第3号証により,請求項1ないし20に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとすることはできない。

第5 特許法第36条第6項第1号について
1.請求項17について
特許異議申立人は,以下の点を指摘している。
・ 筐体のある端面の全体を非導電性材料で形成するような構成は,本件特許の発明の詳細な説明には記載されていない点。
この点について検討すると,筐体の非導電性材料で形成する範囲に関する特許明細書【0021】の「筐体11は全体を電磁波が透過しない金属で形成しているため,(中略)ノイズ緩和器100を配置する位置に対応する側面11aの領域13aにも,電磁波を透過しやすい非導電性の合成樹脂を部分的に嵌め込んでいる。」の記載と,前記範囲の上限と解される同明細書【0018】の「本発明を適用する筐体11は,全体を非導電性の合成樹脂で形成していてもよい。」の記載を勘案すれば,前者と後者の間の範囲内に「筐体のある端面の全体を非導電性材料で形成するような構成」が含まれることが明らかである。そうすると,「筐体のある端面の全体を非導電性材料で形成するような構成」が特許明細書にサポートされていないとまではいえない。
よって,請求項17に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に違反してされたものとすることはできない。

第6 特許法第36条第6項第2号について
1.請求項7について
特許異議申立人は,以下の2点を指摘している。
・ 「前記外部周辺デバイスが放射する電磁波の偏波方向」がどのような方向を指すのか明確ではない点。
・ 共振素子の形状なども特定されていないため,共振素子が「電磁波の偏波方向に一致するように配置されている」というのが,どのような状態を指すのか,具体的に特定できない点。
この2点について検討すると,特許明細書【0034】の「ノイズ緩和器100の主要なパラメータの1つである偏波面の一致は,棒状のダイポール・アンテナとみなしたUSBメモリ・キー50とノイズ緩和器100の共振素子を同一平面に配置することで実現することができる。」の記載を勘案すれば,請求項7の記載は,USBメモリ・キーのように偏波面(偏波方向)が特定できる外部周辺デバイスの偏波面(偏波方向)と,ノイズ緩和器の共振素子の偏波面(偏波方向)とを一致させることと解することができる。
そうすると,請求項7の記載が前記2点について明確でないとまではいえない。

2.請求項17について
特許異議申立人は,以下の点を指摘している。
・ どの程度の範囲が非導電性材料で形成されていれば「前記ノイズ緩和器が配置される近辺の端面が非導電性材料で形成されている」といえるのか,請求項の記載から明らかでない点。
この点について検討すると,筐体全体を電磁波が透過しない金属で形成した場合,前記筐体内に配置されたノイズ緩和器が機能しないことは明らかであるから,前記ノイズ緩和器が「前記外部周辺デバイスが放射する電磁波の放射パターンを修正して前記アンテナが受信するノイズ・レベルを低減する」(請求項13)という作用を奏する程度の範囲で,前記ノイズ緩和器が配置される近辺の端面が非導電性材料で形成されることは明らかであって,具体的な範囲が特定されないからといって,請求項17の記載が明確でないとまではいえない。

3.請求項20について
特許異議申立人は,以下の点を指摘している。
・ 「外部周辺デバイス」がなんら特定されておらず,「前記外部周辺デバイスが放射する電磁波の偏波方向」を特定できない点。
・ 「前記共振素子の偏波方向と前記外部周辺デバイスが放射する電磁波の偏波方向を一致させ」た状態がどのような配置を指すのか,具体的に特定できない点。
この2点について検討すると,上記「1.請求項7について」と同様の理由により,請求項20の記載が前記2点について明確でないとまではいえない。

4.小活
よって,請求項7,17,20に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に違反してされたものとすることはできない。

第7 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし20に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-21 
出願番号 特願2014-149323(P2014-149323)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01Q)
P 1 651・ 537- Y (H01Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米倉 秀明  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
林 毅
登録日 2016-05-27 
登録番号 特許第5941504号(P5941504)
権利者 レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
発明の名称 電子機器のアンテナ・システムおよびアイソレーションを強化する方法  
代理人 袴田 眞志  
代理人 渡部 弘道  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ