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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特39条先願  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1326995
異議申立番号 異議2016-700876  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-15 
確定日 2017-04-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第5886902号発明「カップ入り乾麺の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5886902号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5886902号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年2月19日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人有江純子より特許異議の申立てがされ、平成28年11月24日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年1月30日に意見書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1?8」という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項1】
主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を、90℃?150℃で発泡化および乾燥することによって得られた、最終糊化度が30%?75%である乾麺を、カップに収容することを特徴とするカップ入り乾麺の製造方法。
【請求項2】
前記発泡化および乾燥することが、90℃?130℃で行われることを特徴とする請求項1に記載のカップ入り乾麺の製造方法。
【請求項3】
前記発泡化および乾燥することが、120℃?150℃の第1の処理と、それに続く50℃?120℃での第2の処理により行われることを特徴とする請求項1に記載のカップ入り乾麺の製造方法。
【請求項4】
前記生麺体が生麺線であり、前記発泡化および乾燥することが3分?20分間行われることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載のカップ入り乾麺の製造方法。
【請求項5】
前記粉末油脂の添加量が主原料の総重量に対して0.75重量%?5重量%である請求項1?4の何れか1項に記載のカップ入り乾麺の製造方法。
【請求項6】
主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を、90℃?150℃で発泡化および乾燥することによって得られた、麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%?75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺を、カップに収容することを特徴とするカップ入り乾麺の製造方法。
【請求項7】
前記生麺体が生麺線であり、前記発泡化および乾燥することが3分?20分間行われることを特徴とする請求項6に記載のカップ入り乾麺の製造方法。
【請求項8】
前記粉末油脂の添加量が主原料の総量に対して0.75重量%?5重量%である請求項6または7に記載のカップ入り乾麺の製造方法。

第3 取消理由の概要
平成28年11月24日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
1 理由1
本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載について下記(1)及び(2)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1) 発明の詳細な説明には、「当該乾麺の糊化度は、30%?75%であってよく、40%?75%、50%?75%であってもよい。糊化度の測定は、グルコアミラーゼ法・ムタロターゼ・GOD法により測定されればよい。」(【0019】)と記載されているが、α化度の分析法であるグルコアミラーゼ法・ムタロターゼ・GOD法の具体的な分析方法の記載がないため、どのような分析方法によりα化度を測定したのか明らかでない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(2) 発明の詳細な説明には、「麺の乾燥温度と粉末油脂の添加量を変えて、乾麺における多孔質構造について比較した。同様に、市販乾麺についても調べた。その結果を表1に示す。観察は、オリンパス社製の顕微鏡(OLYMPUS、SZH-ILLB)により25倍の倍率で行った。検出限界は、0.03mm以上である。従って、以下の表において、検出限界以下の大きさの孔は観察することができないため、観察不能な場合の結果は『0.00』と記載した。」(【0076】)と記載されている。
ここで、空隙率、単位空隙率の測定方法について、上記のとおり、オリンパス社製の顕微鏡(OLYMPUS、SZH-ILLB)により25倍の倍率で観察したとあるが、どのように0.03mmの大きさの孔の面積を測定したのか、その具体的な測定方法が記載されておらず、不明瞭である。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

2 理由2
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(1)?(7)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1) 請求項1には、「生麺体を、90℃?150℃で発泡化および乾燥することによって得られた」乾麺と記載されている。
ここで、「比較例11?20」には、「(比較例11?20)<乾燥温度を変更した例> 実施例1と同様な材料を用いて、且つ熱風乾燥が、第1の条件として、温度160℃で1分?2分30秒間、150℃で2分間若しくは2分30秒間、または温度145℃で2分間若しくは2分30秒間、または温度140℃で2分30秒間、または温度135℃で2分30秒間の乾燥をそれぞれに行い得られた乾麺を比較例11?20とした。」(【0074】)と記載されている。
実施例1における乾燥は、「温度130℃」(【0047】)であり、比較例11?20と乾燥温度を変更した例であるから、乾燥温度以外の条件は、実施例1と同じである。
しかしながら、比較例11?20には、請求項1に包含される「150℃」、「145℃」、「140℃」及び「135℃」という乾燥温度が記載されているから、請求項1は、実施例ではない乾燥温度を含むものである。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(2) 請求項3には、「発泡化および乾燥することが、120℃?150℃での第1の処理と、それに続く50℃?120℃での第2の処理により行われる」と記載されている。
ここで、発明の詳細な説明には、「(145℃)第1の処理として温度145℃で行った処理は、2分以上の処理では、外観に焦げが生じたので、この時点で好ましくないと判断した(比較例17および18)。」(【0102】)、「(140℃)第1の処理として温度140℃で行った処理は、2分30秒間の処理では、外観に焦げが生じたので、この時点で好ましくないと判断した(比較例19)。」(【0106】)及び「(135℃)第1の処理として温度135℃で行った乾燥は、2分30秒間の処理では、外観に焦げが生じたので、この時点で好ましくないと判断した(比較例20)。」(【0109】)と記載されている。
しかしながら、請求項3には、「発泡化および乾燥することが、120℃?150℃の第1の処理」と記載されており、上記のような乾燥温度「145℃」、「140℃」、「130℃」という第1の処理で断念した事例を含むものであるから、本件発明3は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(3) 請求項4には、「発泡化および乾燥することが3分?20分間行われる」と記載されている。
ここで、発明の詳細な説明には、「実施例2-5-5および実施例2-5-6は、第1の処理として130℃で1分間または1分30秒間の処理を行った時点では多孔質構造を得ることができなかったが、第2の処理として、50℃?120℃で2分?19分間の間の時間で乾燥を行うことにより良好な乾麺が得られる(実施例2-5-5および実施例2-5-6)。」(【0113】)、「実施例2-5-7および実施例2-5-8は、第1の処理として120℃で1分間または1分30秒間の処理を行った時点では、多孔質構造を得ることができなかったが、第2の処理として、50℃?120℃で2分?19分間の間の時間で処理を行うことにより良好な乾麺が得られる(実施例2-5-7および実施例2-5-8)。」(【0115】)と記載されている。
しかしながら、上記記載には、第1の処理として「1分間または1分30秒間」、それに続く第2の処理として「2分?19分間」と記載されており、それら第1の処理と第2の処理を合わせた処理時間は、「3分?20分30秒」となり、請求項4に記載された事項と齟齬を生じるものであるから、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(4) 請求項6には、粉末油脂が、「90℃?150℃で発泡化および乾燥する」点が記載されている。
しかしながら、これらの点は、本件発明1について上記(1)に述べたとおりであって、請求項6は、発明の詳細な説明に記載のない事項を記載していることになるものであるから、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(5) 請求項7には、「発泡化および乾燥することが3分?20分問行われる」点が記載されている。
しかしながら、この点は、本件発明4について上記(3)に述べたとおり、請求項7に記載された事項と齟齬を生じるものであるから、本件発明7は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(6) 請求項6の記載から明らかなように、乾麺が「多孔質構造」を有することは本件発明の課題解決に不可欠な要素であり、多孔質構造が限定されていない本件発明1?5は、発明の詳細な説明の記載を超えるものである。

(7) 乾麺の多孔質構造について、発明の詳細な説明には、「検出限界は、0.03mm以上である。従って、以下の表において、検出限界以下の大きさの孔は観察することができないため、観察不能な場合の結果は『0.00』と記載した。」(【0076】)としているが、空隙率、単位空隙率については、測定する倍率、最小孔の大きさ次第で測定値が変化することになる。
したがって、孔の大きさが限定されていない本件特許発明6?8は、発明の詳細な説明の記載を超えるものである。

3 理由3
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(1)及び(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1) 請求項1を引用する請求項3には、「発泡化および乾燥することが、120℃?150℃の第1の処理と、それに続く50℃?120℃での第2の処理により行われる」と記載され、「50℃?120℃」という請求項1の乾燥温度と矛盾する記載がなされている点において、本件発明3は明確でない。

(2) 請求項6には、空隙率と単位空隙率が記載されているが、その定義が記載されていないから、当該空隙率及び単位空隙率がどのような割合を示すものなのか明らかでない。

第4 取消理由についての判断
事案に鑑み、まず理由3について判断する。
1 理由3について
(1) 理由3(1)について
請求項3は、「前記発泡化および乾燥することが、120℃?150℃の第1の処理と、それに続く50℃?120℃での第2の処理により行われることを特徴とする請求項1に記載のカップ入り乾麺の製造方法。」と記載されるところ、請求項1記載の「主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を、90℃?150℃で発泡化および乾燥することによって得られた、最終糊化度が30%?75%である乾麺を、カップに収容することを特徴とするカップ入り乾麺の製造方法。」を前提とするものである。
そうすると、請求項3の「前記発泡化および乾燥することが、120℃?150℃の第1の処理と、それに続く50℃?120℃での第2の処理により行われる」工程は、その工程中に請求項1記載の「90℃?150℃で発泡化および乾燥する」工程を含んでいればよいと解される。
すなわち、「120℃?150℃の第1の処理」において「発泡化および乾燥」する場合は、当該第1の処理中に請求項1記載の温度範囲内の「120℃?150℃」の範囲で発泡化および乾燥する工程が行われ、「それに続く50℃?120℃での第2の処理」において「発泡化および乾燥」する場合は、当該第2の処理中に請求項1記載の温度範囲内の「90℃?120℃」の範囲で発泡化および乾燥する工程が行われていればよい、と理解することができる。
よって、請求項3の記載は、本件発明3を不明確にしているとはいえない。

(2) 理由3(2)について
請求項6中には、「空隙率」及び「単位空隙率」についての具体的な定義は記載されていないため、発明の詳細な説明を参酌すると、「空隙率」は、「麺を長手方向と直交する方向で切断したときの断面積に占める全空隙面積の割合」であって、「1本の麺の1つの断面における面積、即ち、断面積」に対する、「前記1つの断面に存在する全ての空隙の面積を足し合わせた面積」の割合とされ、次の式として定義されている(【0009】?【0010】【数1】)。
空隙率(P)=全空隙面積(mm^(2))/断面積(mm^(2))×100
同様に、「単位空隙率」は、「麺を長手方向と直交する方向で切断したときの断面積に占める1つの空隙の面積の割合」であって、「『1本の麺の1つの断面における面積、即ち、断面積』に対する、最小単位としての『1つの空隙の面積』の割合」であるとされ、次の式として定義されている(【0011】?【0012】【数2】)。
単位空隙率(M)=(全空隙面積(mm^(2))/空隙個数)/断面積(mm^(2))×100
そして、「1つの断面に存在する多孔のうちのサイズの最も小さい孔、即ち『麺の断面に存在する最小空隙』は、例えば、25倍の倍率で観察した場合の検出限界値である0.03mmよりも大きなサイズであってよい。」(【0014】)とし、実施例をみれば、「空隙率」及び「単位空隙率」を算出するための測定は、「観察は、オリンパス社製の顕微鏡(OLYMPUS、SZH-ILLB)により25倍の倍率で行った。検出限界は、0.03mm以上である。従って、以下の表において、検出限界以下の大きさの孔は観察することができないため、観察不能な場合の結果は『0.00』と記載した。」(【0076】)という手法を用いたものであることが理解できる。
そうすると、請求項6中の「空隙率」及び「単位空隙率」は、発明の詳細な説明を参酌して、その具体的な定義とその測定方法が十分に理解できるものである。
よって、請求項6の記載は、本件発明6を不明確にしているとはいえない。

(3) 小括
以上のとおり、請求項3及び請求項6の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

2 理由1について
(1) 理由1(1)について
グルコアミラーゼ法・ムタロターゼ・GOD法は、概略、サンプルをグルコアミラーゼにより酵素処理したもの(S)、サンプルをアルカリ処理して完全にグルコアミラーゼ酵素により澱粉をグルコ-スに分解したもの(R)、ブランクとして失活したグルコアミラーゼ酵素を添加したもの(Ro)をムタロタ-ゼ・GOD法の発色薬を用いて発色させ、それぞれの吸光度を測定し、「(Rの吸光度)-(Roの吸光度)」をα化できるグルコース全量相当とし、「(Sの吸光度)-(Roの吸光度)」をα化したグルコース量相当とし、「(Sの吸光度)-(Roの吸光度)」を「(Rの吸光度)-(Roの吸光度)」で除して100倍することで糊化度(α化度)(%)を算出するという測定法であり、糊化度の測定法として確立されたものであって、当業者の技術常識であるといえる。
よって、発明の詳細な説明中に「グルコアミラーゼ法・ムタロターゼ・GOD法」との記載があれば、当業者は、技術常識に従って、対象物から適宜にサンプルを取得した上で、上記測定手順により糊化度を算出できるのであって、グルコアミラーゼ法・ムタロターゼ・GOD法自体の具体的な測定手順の記載がないことをもって、糊化度の算出が実施不可能であるとまではいえない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとすることはできない。

(2) 理由1(2)について
本件発明6?8に係る「空隙率」、「単位空隙率」については、上記1(2)に示したとおり、発明の詳細な説明の記載から、その具体的な定義とその測定方法が十分に理解できるものであるところ、個々の孔の個数や面積の測定にあたり、撮像した写真又は画像を拡大する等して孔を同定し、その個数及び面積を算出することは当業者の常套手段というべきものであって、そのような写真又は画像に基づいて孔の個数と面積を算出し得る周知の画像処理ソフト等を用いることで、簡便に孔の個数や面積を算出し得ることも技術常識である。
そして、測定に用いた顕微鏡が、倍率25倍での検出限界値が0.03mmであったことから、同定可能な孔は0.03mm以上の大きさのものとなることを考慮して、本件発明6?8に係る「空隙率」、「単位空隙率」の定義にあたっては、対象となる孔を0.03mm以上の大きさとしたと理解できる。
そうすると、0.03mmの大きさの孔の面積の具体的な測定方法についての具体的な記載がないことをもって、本件発明6?8に係る「空隙率」、「単位空隙率」の算出が実施不可能であるとまではいえない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとすることはできない。

(3) 小括
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

3 理由2について
(1) 理由2(1)、(2)及び(4)について
理由2(1)、(2)及び(4)は、要するに、本件発明の効果を奏さない比較例11?20が請求項1、3又は6の範囲に含まれているとの主張であるが、少なくとも比較例11?14は、乾燥温度が160℃であり(【0098】、【0118】【表8】)、本件発明1、3及び6の温度範囲外のものであるから、比較例11?14に基づく主張は失当である。
また、比較例15?20は、その乾燥温度は、本件発明1、3又は6の乾燥温度の範囲に含まれるものではあるが、比較例とされているのは、「白三角印 多孔質構造は形成されるが、外観に焦げが生じた条件」又は「黒三角印 多孔質構造は形成されるが、外観に焦げがあり、更に過乾燥となった条件」(【0117】)と評価されたものであって、外観に焦げが生じたことが「好ましくない」と判断されたからである(【0099】、【0102】、【0106】、【0109】)。しかし、これら比較例15?比較例20は、その構造に着目すれば、いずれも多孔質構造が形成されるものであることから、「多孔質構造を有しているので、茄で時間が短く、復元性と弾性に優れている」(【0043】)ものであることは窺える。そうすると、これら比較例15?比較例20についても、「丸印 良好な多孔質構造が形成され、且つ品質良好である条件」又は「X印→丸印 第1の処理後の観察では、多孔質構造が形成されないが、その後の50℃?120℃の温度条件で第2の処理を行うことにより多孔質構造が形成され、且つ品質良好である条件」と評価された本件発明の実施例に比して程度の差こそあれ、本件発明の課題を解決し、効果を奏し得るものということができる。
よって、理由2(1)、(2)及び(4)により、本件発明1、3及び6は発明の詳細な説明に記載したものでないとすることはできない。

(2) 理由2(3)及び(5)について
理由2(3)及び(5)は、要するに、発明の詳細な説明の記載は、第1の処理の時間の最大値と第2の処理の時間の最大値の合計が、本件発明4又は7の乾燥時間の範囲を超えているとの主張であるが、第1の処理の時間と第2の処理の時間の合計値が、本件発明4又は7で特定された処理時間の範囲を超えたものである例については、単に本件発明4又は7の実施例ではないと判断されるのみであって、そのような例があり得ることが発明の詳細な説明に記載されているとしても、そのことが、いわゆるサポート要件を満たさないとする根拠とはならない。
よって、本件発明4及び7と発明の詳細な説明の記載とに特段の齟齬は生じておらず、理由2(3)及び(5)により、本件発明4及び7は発明の詳細な説明に記載したものでないとすることはできない。

(3) 理由2(6)について
本件発明1?5は、「カップ入り乾麺の製造方法」という「物を生産する方法の発明」であるところ、「主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を、90℃?150℃で発泡化および乾燥することによって得られた、最終糊化度が30%?75%である乾麺」という製造方法により、当該カップ入り乾麺を多孔質構造にするものである。そして、上記製造方法により当該カップ入り乾麺が多孔質構造となることは、発明の詳細な説明に記載されているといえる。
よって、理由2(6)により、本件発明1?5は発明の詳細な説明に記載したものでないとすることはできない。

(4) 理由2(7)について
本件発明6?8に係る「空隙率」、「単位空隙率」は、上記1(2)に示したとおり、発明の詳細な説明の記載から、その定義や測定方法が明確にされたものであるところ、当然に、発明の詳細な説明の記載を超えるものを含み得る余地はない。
よって、理由2(7)により、本件発明6?8は発明の詳細な説明に記載したものでないとすることはできない。

(5) 小括
以上のとおり、請求項1?8の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1) 理由4
(理由4-1)
本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証?甲第16号証に記載された事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(理由4-2)
本件発明1?5は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術(甲第3号証?甲第9号証、甲第13号証及び甲第14号証に記載された事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2) 理由5
本件発明1?8は、甲第17号証記載の発明と同一であるから、特許法第39条第1項又は同第2項の規定により特許を受けることができない。

[甲各号証]
甲第1号証 特開2006-122020号公報
甲第2号証 特開平8-9908号公報
甲第3号証 特公昭54-44731号公報
甲第4号証 特公昭48-5027号公報
甲第5号証 特開昭52-128251号公報
甲第6号証 特公昭48-5026号公報
甲第7号証 特開昭59-173060号公報
甲第8号証 特公昭52-45776号公報
甲第9号証 特開昭59-63152号公報
甲第10号証 特開昭59-25655号公報
甲第11号証 社団法人日本即席食品工業協会監修、「日本が生んだ世界食!インスタントラーメンのすべて」、初版、株式会社日本食糧新聞社、平成16年12月20日、p.62-63
甲第12号証 特開2000-93106号公報
甲第13号証 特開昭59-95854号公報
甲第14号証 特開昭58-216655号公報
甲第15号証 特許第5172027号公報
甲第16号証 特願2012-64258号に係る平成24年7月12日付け上申書
甲第17号証 特許第5153964号公報

2 上記特許異議申立理由についての判断
(1) 理由4について
(1-1) 理由4-1について
(1-1-1) 本件発明1について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、
「主原料と、粒子径0.15mm以上の粉末粒状の油脂とを少なくとも含む麺原料と、水を混捏して得た混合物から麺線を作成し、該麺線を蒸煮し、次いで、熱風により膨化乾燥する、即席麺の製造方法であって、
前記主原料が小麦粉であり、
前記粉末粒状の油脂の添加量が、小麦粉に対して0.5?5%であり、
温度80℃?115℃、風速1?10m/sの範囲の熱風により乾燥し、麺線の水分を15%?25%にする予備乾燥工程と、
温度110℃?145℃、風速5?25m/sの範囲の熱風により乾燥し、麺線の水分を7%?14%にしながら麺線を発泡乾燥する本乾燥段階と、
を有する、即席麺の製造方法。」(以下「甲1発明」という。)
が記載されている(【請求項3】、【請求項5】、【請求項9】、【請求項11】、【0018】?【0019】、【0023】?【0024】、【0030】、【0041】、【0046】?【0047】、【0049】、【0053】?【0054】等参照)。

イ 本件発明1と甲1発明との対比、判断
本件発明1と甲1発明とを対比するに、「乾麺」とは、生麺体を蒸煮工程あるいは茹上げ工程なしに乾燥させた乾燥麺であることを踏まえれば(甲第11号証、図5-1参照)、両者は、少なくとも以下の点において相違する。

(相違点A)
本件発明1は、生麺体を蒸煮工程なしに乾燥して「乾麺」とするのに対して、甲1発明は、生麺体を蒸煮した上で乾燥して「即席麺」とする点。

そこで、上記相違点Aについて検討する。
甲1発明は、高温熱風乾燥の問題点であった「麺線の割れ」を解決すること、及び「生麺のごとき粘弾性」を容易に実現できる即席麺の製造方法を提供することを目的とするところ、甲第1号証には、粉末粒状の油脂が添加された麺原料に対して蒸し工程を行うことで、麺線内部の粉末粒状油脂が溶けることにより麺線内部および麺線表面に(適度なサイズの)穴が形成され、それに続く高温熱風乾燥工程において麺線内部の水分をスムーズに蒸発させて、麺線を乾燥することができるために、麺線の急激な発泡を防止することが可能となり、その結果、麺線の割れ防止と、湯戻し後の良好な食感の両立(更には、生産性および経済性の両立)が可能となるという効果が奏されることが示されているから、甲1発明において、粉末粒状の油脂が添加された生麺体に対して蒸煮した上で高温熱風乾燥を行う工程とすることには格別な技術的意義があり、甲1発明の課題を解決する手段として必要不可欠な技術的事項であるといえる。
そうすると、甲1発明に接した当業者にとって、粉末粒状の油脂が添加された生麺体の乾燥に際し、蒸煮工程を行わずに高温熱風乾燥を行うようにすることは、甲1発明の課題に反することであるから、そのようにする動機づけを見出すことはできない。
また、甲第3号証、甲第7号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第13号証及び甲第14号証にみられるように、たとえ乾燥麺製造の技術分野において生麺及び蒸し麺のいずれに対しても高温熱風乾燥を施すことが周知技術であったとしても、甲1発明において、蒸煮工程を経たものを高温熱風乾燥して即席麺とすることに代えて、蒸煮工程を行わずに高温熱風乾燥して乾麺とすることについては、阻害事由がある。
そのほか、甲第2号証?甲第16号証を参照しても、甲1発明について、上記相違点Aに係る本件発明1の構成とすることについての記載はないし、示唆する記載も見当たらない。

そして、本件発明1は、上記相違点Aに係る構成により、「本発明の態様に従う乾麺は、多孔質構造を有しているので、茹で時間が短く、復元性と弾性に優れている。」(【0043】)、「従来の乾麺と異なり、本発明の態様に従う乾麺は、茹で戻し時のぬめりが抑制され、調理時に必ずしも麺を混ぜたり、水洗したりする必要はない。これは、乾燥時の熱で澱粉の糊化度が30%?75%となり、ぬめりの原因である澱粉の溶出が抑制されるためである。そして、ぬめりが抑制されているため、麺を水洗せずに湯をそのままスープとして使用可能である。」(【0044】)、「本願発明に従う即席麺は、これまでの即席麺類に無かった戻りの良さと滑らかな喉越しを有するなど優れた食感を有することが明らかとなった。」(【0121】)、及び、「本発明に従う乾麺は、従来の何れの麺でも達成できなかった特徴を達成できた。即ち、従来の乾麺の特徴を持ちながら、即席麺(即ち、従来のノンフライ麺、従来のフライ麺)のような湯戻りの早さとしなやかな弾力を併せ持っていた。」(【0122】)という明細書記載の効果を奏している。

よって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(1-1-2) 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明2?5と甲1発明とは、上記(1-1-1)に示したとおり、少なくとも上記相違点Aにおいて相違する。
そして、上記相違点Aについての判断は上記(1-1-1)に示したとおりであるから、本件発明2?5は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(1-2) 理由4-2について
(1-2-1) 本件発明1について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、比較例4に関する記載に着目すると、
「小麦粉98重量部、粉末油脂2重量部、食塩2重量部、水36重量部を加え、ミキサーに入れ10分間撹拌した後、成形して麺帯とし、これを8番角刃にて切り出し、温度25?35℃、湿度62?78%、乾燥時間16時間で乾燥し、厚さ2.8mmの乾麺とする製造方法。」(以下「甲2発明」という。)
が記載されている(【0017】?【0022】、【表1】?【表3】参照)。

イ 本件発明1と甲2発明との対比、判断
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点において相違する。

(相違点B)
乾麺が、本件発明1では、生麺体を、90℃?150℃で発泡化および乾燥することによって得られた、最終糊化度が30%?75%のものであるのに対して、甲2発明は、25?35℃で乾燥するものであって、発泡化していないし、最終糊化度も明らかでない点。

そこで、上記相違点Bについて検討する。
甲2発明は、甲第2号証に記載された比較例としての位置づけであるところ、甲第2号証に接した当業者は、当該比較例について、その製造条件を変更しようとする動機づけはないから、甲2発明について、上記相違点Bに係る本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易に想到し得ることではない。
さらに、甲第2号証において用いられる油脂は、融点が40?90℃のものが良いとされ(【0014】)、実施例では牛脂(融点60℃)が使用されているところ、当該温度範囲を融点とする油脂を用いるのは、乾麺の製造中、40℃以下の乾燥工程においては溶け出さず、茹でた時にはじめて茹で水に溶出させて、麺の組織を多孔質にして茹で時間の短縮を図るためであるから(【0006】?【0008】、【0014】)、甲2発明について、乾麺を製造する際の乾燥工程を、粉末油脂を溶出させてしまう90?150℃の高温で行うことには、阻害事由がある。
甲第3号証?甲第9号証、甲第13号証及び甲第14号証を参照しても、甲2発明について、上記相違点Bに係る本件発明1の構成とすることについての記載はないし、示唆する記載も見当たらない。

そして、本件発明1は、上記相違点Bに係る構成により、上記(1-1-1)イに示したとおりの明細書記載の効果を奏している。

よって、本件発明1は、甲2発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(1-2-2) 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明2?5と甲2発明とは、上記(1-2-1)に示したとおり、少なくとも上記相違点Bにおいて相違する。
そして、上記相違点Bについての判断は上記(1-2-1)に示したとおりであるから、本件発明2?5は、甲2発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(1-3) 小括
以上のとおり、本件発明1?5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

(2) 理由5について
甲第17号証として提出された、本件特許の原出願に係る特許第5153964号の請求項1?10に記載された発明(以下「原特許発明1?10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項1】
麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%?75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺。
【請求項2】
主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を90℃?150℃で発泡化および乾燥することを具備し、最終糊化度が30%?75%の糊化度を有する乾麺の製造方法。
【請求項3】
前記発泡化および乾燥することが、90℃?130℃で行われることを特徴とする請求項2に記載の乾麺の製造方法。
【請求項4】
前記発泡化および乾燥することが、120℃?150℃の第1の処理と、それに続く50℃?120℃での第2の処理により行われることを特徴とする請求項2に記載の乾麺の製造方法。
【請求項5】
前記生麺体が生麺線であり、前記発泡化および乾燥することが3分?20分間行われることを特徴とする請求項2?4の何れか1項に記載の乾麺の製造方法。
【請求項6】
前記粉末油脂の添加量が主原料の総重量に対して0.75重量%?5重量%である請求項2?5の何れか1項に記載の乾麺の製造方法。
【請求項7】
請求項2?6の何れか1項に記載の製造方法により得られた乾麺。
【請求項8】
主原料と、前記主原料の総重量に対して0.5重量%よりも大きく6重量%未満の100%油由来の粉末油脂とを含む麺生地から形成した生麺体を90℃?150℃で発泡化および乾燥することを具備し、麺の断面積の空隙率が0.1%以上15%以下であり、麺の断面積の単位空隙率が0.01%以上1%以下であり、30%?75%の糊化度と多孔質構造とを有した乾麺を得ることを特徴とする乾麺の製造方法。
【請求項9】
前記生麺体が生麺線であり、前記発泡化および乾燥することが3分?20分間行われることを特徴とする請求項8に記載の乾麺の製造方法。
【請求項10】
前記粉末油脂の添加量が主原料の総量に対して0.75重量%?5重量%である請求項8または9に記載の乾麺の製造方法。

そこで、本件発明1?8と、原特許発明2?6、8?10とを、それぞれ対応させて比較すると、本件特許発明1?8は、その製造方法において、「カップに収容する」「カップ入り乾麺」としているのに対して、原特許発明2?6、8?10は、当該発明特定事項を有していない点で、それぞれ相違している。
よって、本件発明1?8と原特許発明2?6、8?10とは、同一の発明ではない。

よって、本件発明1?8は、特許法第39条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、上記取消理由1?3及び特許異議申立理由の上記理由4及び5によっては、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-31 
出願番号 特願2014-129618(P2014-129618)
審決分類 P 1 651・ 4- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 戸来 幸男  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 窪田 治彦
千壽 哲郎
登録日 2016-02-19 
登録番号 特許第5886902号(P5886902)
権利者 東洋水産株式会社
発明の名称 カップ入り乾麺の製造方法  
代理人 河野 直樹  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 鵜飼 健  
代理人 峰 隆司  

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