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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1327005 |
異議申立番号 | 異議2017-700012 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-06 |
確定日 | 2017-04-11 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5946555号発明「ポリウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5946555号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5946555号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成27年3月13日の出願であって、平成28年6月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年1月6日付け(受理日:同年1月10日)で特許異議申立人 安田 愛美(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、無機充填剤、及び分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤を含有する、反射板が銀を含む照明器具用電気電子部品の封止用ポリウレタン樹脂組成物において、120℃で24時間放置後の前記フェノール系酸化防止剤の加熱減量を0?3質量%とすることで、高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化を抑制する方法。 【請求項2】 前記ポリウレタン樹脂組成物が、分子内に硫黄原子を含む酸化防止剤を含有しない、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記フェノール系酸化防止剤がヒンダードフェノール系酸化防止剤である、請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】 前記フェノール系酸化防止剤の数平均分子量が400以上である、請求項1?3のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 前記ポリオールがヒマシ油系ポリオールおよび/またはポリブタジエン系ポリオールである、請求項1?4のいずれかに記載の方法。 【請求項6】 前記電気電子部品が、機器制御基板、又は変圧器である、請求項1?5のいずれかに記載の方法。 【請求項7】 ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、無機充填剤、及び分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤を含有するポリウレタン樹脂組成物により樹脂封止された、反射板が銀を含む照明器具用電気電子部品において、120℃で24時間放置後の前記フェノール系酸化防止剤の加熱減量を0?3質量%とすることで、高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化を抑制する方法。 【請求項8】 前記電気電子部品が、機器制御基板、又は変圧器である、請求項7に記載の方法。」 第3 特許異議申立て理由の概要 特許異議申立人は、証拠として、本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である以下の文献を提出し、おおむね次の取消理由を主張している。 (理由1)本件特許発明1ないし8は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2及び3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (理由2)本件特許の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 甲第1号証.特許第5550161号公報 甲第2号証.特開2012-255096号公報 甲第3号証.特開2011-208176号公報 (以下、順に「甲1」ないし「甲3」という。) 第4 特許異議申立て理由についての判断 第4-1 理由1について 1 甲1ないし3の記載等 (1)甲1に記載された事項及び甲1発明 ア 甲1に記載された事項 甲1には、次の記載がある。 ・「【請求項1】 水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物および無機充填材(D)を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、 前記水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオール(A)を含有し、 前記イソシアネート基含有化合物が、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)およびポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C)を含有し、 前記無機充填材(D)が、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムからなる群より選ばれる1種以上であり、無機充填材(D)の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して、50?95質量%である、 ポリウレタン樹脂組成物。 ・・・(略)・・・ 【請求項4】 電気電子部品用であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂組成物。」 ・「【0002】 従来、電子回路基板や電子部品は、外部からの汚染を防ぐためにポリウレタン樹脂等を用いて封止することが行われている。近年、電子部品などの長寿命化に伴って、長期にわたって高温条件下で使用されることから、優れた耐熱性を有することも求められている。」 ・「【0007】 本発明は、上記問題点に鑑みて為されたものであり、冷熱サイクル下における熱的耐久性に優れたポリウレタン樹脂組成物を提供することを課題とする。」 ・「【0015】 本発明に用いる水酸基含有化合物は、ポリブタジエンポリオール(A)を含有する。」 ・「【0018】 本発明に用いる水酸基含有化合物には、ひまし油系ポリオール(E)を含有させることも好ましい態様である。」 ・「【0022】 本発明に用いるイソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)およびポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C)を含有する。」 ・「【0035】 本発明のポリウレタン樹脂組成物には、必要により可塑剤(F)を配合することができる。」 ・「【0039】 また、本発明のポリウレタン樹脂組成物には、触媒、酸化防止剤、吸湿剤、防黴剤、シランカップリング剤など、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、例えばアルコキシシラン類、ビニル基含有シランカップリンク剤、エポキシ基含有シランカップリンク剤、メタクリル基含有シランカップリンク剤、アクリル基含有シランカップリンク剤などが挙げられる。」 ・「【0041】 本発明のポリウレタン樹脂組成物から得られるポリウレタン樹脂は、冷熱サイクル下における熱的耐久性を有していることから、発熱を伴う電気電子部品に好適に使用することができる。このような電気電子部品としては、トランスコイル、チョークコイルおよびリアクトルコイルなどの変圧器や機器制御基盤が挙げられる。本発明のポリウレタン樹脂を使用した電気電子部品は、電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機、電動工具、自動車、バイクなどにできる。」 ・「【0043】 実施例及び比較例において使用する原料を以下に示す。 (ポリブタジエンポリオール(A)) A1:平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオール (商品名:Poly bd R-15HT、出光興産社製) A2:平均水酸基価47mgKOH/gのポリブタジエンポリオール (商品名:Poly bd R-45HT、出光興産社製) (ひまし油系ポリオール(E)) E1: ひまし油 (商品名:ひまし油、伊藤製油社製) E2: ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル (商品名:URIC Y-403、伊藤製油社製) E3:ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル (商品名:HS 2G 160R、豊国製油社製) (ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)) B1:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体 (商品名:デュラネートTPA-100、旭化成ケミカルズ社製) B2:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体 (商品名:デュラネートTLA-100、旭化成ケミカルズ社製) (ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(C)) C:ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート変性体 (商品名:デュラネートA201H、旭化成ケミカルズ社製) (無機充填材(D)) D1:水酸化アルミニウム (商品名:ハイジライトH-32、昭和電工社製) D2:水酸化アルミニウム (商品名:水酸化アルミC-305、住友化学社製) (可塑剤(F)) F1:トリキシレニルホスフェート (商品名:TXP、大八化学工業社製) F2:トリクレジルホスフェート (商品名:TCP、大八化学工業社製) F3:ジウンデシルフタレート (商品名:サンソサイザー DUP、新日本理化社製) (シランカップリング剤(G)) G1:デシルトリメトキシシラン (商品名:KBM-3103、信越化学工業社製) G2:ビニルトリメトキシシラン (商品名:KBM-1003、信越化学工業社製) G3:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン (商品名:KBM-403、信越化学工業社製) G4:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン (商品名:KBM-503、信越化学工業社製) (触媒(H)) H:ジオクチル錫 ジラウレート (商品名:ネオスタンU-810、日東化成社製) (酸化防止剤(I)) I:ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] (商品名:イルガノックス1010、チバスペシャリティーケミカルズ社製)」 ・「【0045】 【表1】 【0046】 <評価方法> (相溶性) 別途、無機充填材(D)、可塑剤(F)および触媒(H)を除く成分を前記混合機を用いて混合し、25℃で5分間静置した後、混合液の濁り有無を目視にて確認した。 ○:濁りなし ×:濁りあり 【0047】 (熱伝導率) 上記ポリウレタン樹脂組成物を6cm×12cm×1cmの金型に流し込み、80℃で16時間養生した後、これを脱型し、さらに25℃で24時間静置することにより熱伝導率測定用の試験片を作成した。熱伝導率は、熱伝導率計(京都電子工業(株)製、QTM-D3)を用いてプローブ法にて測定した。 【0048】 (耐熱性(高温下における熱的耐久性評価)) 1.試験片の作成 上記ポリウレタン樹脂組成物を直径5cm、高さ3cmの金型に流し込み、80℃で16時間養生した後、これを脱型することにより、耐熱性評価用の試験片を作成した。 2.内部メルトの評価 125℃、4日間の耐熱性試験前後のポリウレタン樹脂を2等分し、切断面の中央の硬度(タイプA)をJIS K6253に従って測定し、耐熱性試験前の硬度に対する耐熱性試験後の硬度の割合を硬度保持率(%)とし、下記の通り評価した。 ○:硬度保持率が60%以上 ×:硬度保持率が60%未満 【0049】 (耐熱性(冷熱サイクル下における熱的耐久性評価)) 1.試験片の作成 前記高温下における熱的耐久性評価に用いた試験片と同様の方法で、耐熱性評価用の試験片を作成した。 2.応力の測定 インストロン万能試験機を用い、下部を固定した上で23℃から125℃に昇温させ、昇温前後の上部に掛かる応力の差を読み取った。なお昇温後の応力は、応力が平衡に達した後の値を読み取った。 3.冷熱サイクル下における耐久性の評価 -10℃で30分、昇温時間1時間、125℃で30分、降温時間1時間を1サイクルとしたものを30サイクル繰り返す条件における冷熱サイクル前後において、前記応力の評価を行った。冷熱サイクル前の応力に対する冷熱サイクル後の応力の割合を応力保持率(%)とし、下記の通り評価した。 ○:応力保持率が75%以上125%以下 ×:硬度保持率が75%未満および125%より大きい 【0050】 <評価結果> 実施例1?22から分かるように、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、混合粘度が使用可能な範囲であり、また、相溶性に優れている。さらに、得られるポリウレタン樹脂は良好な熱伝導率と冷熱サイクル下における熱的耐久性とを有していることが分かる。 【0051】 一方、比較例1、2のように、イソシアネート基含有化合物としてポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)のみ用いた場合には、得られるポリウレタン樹脂の冷熱サイクル下における熱的耐久性が劣ることがわかる。 【0052】 また、比較例3のように、イソシアネート基含有化合物としてポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C)のみ用いた場合には、イソシアヌレート変性体ではないポリイソシアネート化合物を用いた場合には、得られるポリウレタン樹脂の高温下における熱的耐久性および冷熱サイクル下における熱的耐久性が劣ることがわかる。」 イ 甲1発明 甲1の記載(特に、【請求項1】、【請求項4】、【0002】及び【0007】等。)を整理すると、甲1には、次の2つの発明(以下、順に「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明1> 「水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、及び無機充填材を含有する電気電子部品の封止用ポリウレタン樹脂組成物において、熱的耐久性に優れるようにする方法。」 <甲1発明2> 「水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、及び無機充填材を含有するポリウレタン樹脂組成物により樹脂封止された、電気電子部品において、熱的耐久性に優れるようにする方法。」 (2)甲2に記載された事項 甲2には、次の記載がある。 ・「【請求項1】 ポリオール成分を含むA液とポリイソシアネート成分を含むB液とからなる熱硬化型バリア性ポリウレタン樹脂であって、前記A液は3官能以上のポリオールを含み、水酸基価が550mgKOH/g以上であり、前記B液は脂環式ポリイソシアネート及びイソシアネート基が残存した前記脂環式ポリイソシアネートのプレポリマーを含み、そのイソシアネート含有率が30.0質量%以下、であることを特徴とする熱硬化型バリア性ポリウレタン樹脂組成物。」 ・「【0002】 銀や銀合金等の光学反射材は高い反射率を示すことから、各種の光学部材、光半導体装置、照明部材で多用されている。しかし、銀は大気雰囲気中の水分や酸素によって酸化したり、硫黄によって硫化して反射率の低下が生ずる問題がある。このため、銀や銀合金等を大気雰囲気から遮蔽するためにバリア膜で表面を被覆することが行われている。バリア膜としては銀合金等の無機膜、ポリマー等の有機膜があるが、必ずしもバリア性と光学特性や他の特性の両立が図られているとは言えない。 一般に、光半導体装置では、発光素子を固定、導通を得るためにリードフレームや配線基板が用いられており、発光効率を高めるためにリードフレームや配線基板表面の一部に銀メッキが施されている。これらリードフレームや配線基板は光を取り出すために必要な透明樹脂で封止されており、近年、耐熱・耐光性に優れることからシリコーン樹脂が封止部材として多用されている。しかし、ジメチルシロキサンポリマーを主成分とするシリコーン樹脂では水分、酸素、硫黄等に対するバリア性が低く、銀の変色劣化が問題となっている。このためフェニルシロキサン骨格を含有するバリア性に優れるシリコーン樹脂も開発されているが、靭性に劣る等の欠点もあり、必ずしも満足する特性は得られていない。」 (3)甲3に記載された事項 甲3には、次の記載がある。 ・「【請求項2】 銀めっき皮膜が、LED用リードフレームの反射板部分に形成されたものである請求項1に記載の銀めっき皮膜の変色防止膜。」 ・「【0004】 一方、近年、エネルギー消費量の低減への対応として、発光ダイオード(LED)の普及が急速に広がっており、従来の信号機、パチンコ設備などにおける利用に加えて、民政用ライティング(照明器具)としての実用化が進められている。LEDの照明器具としての用途において、LEDの光を効率よく照射するために、それぞれのLEDに反射板(リフレクター)が設けられている。この用途においても、銀めっき皮膜が適したものとされており、特に、高輝度銀めっきは、短波長可視光域の光線の反射率が優れており、反射板部分に銀めっき処理を施したLED用リードフレームの製造が進められている。」 2 本件特許発明1について (1)対比 本件特許発明1と甲1発明1を対比する。 甲1発明1における「水酸基含有化合物」は、甲1の【請求項1】、【0015】及び【0018】によると、ポリオールを含有することから、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「ポリオール」に相当する。 甲1発明1における「イソシアネート基含有化合物」は、甲1の【請求項1】及び【0022】によると、ポリイソシネート化合物を含有することから、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「ポリイソシアネート」に相当する。 甲1発明1における「電気電子部品」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「反射板が銀を含む照明器具用電気電子部品」と、「電気電子部品」という限りにおいて、一致する。 甲1発明1における「熱的耐久性に優れるようにする方法」と本件特許発明1における「高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化を抑制する方法」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、「方法」という限りにおいて、一致する。 したがって、両者は、次の点で一致する。 「ポリオール、ポリイソシアネート、及び無機充填剤を含有する、電気電子部品の封止用ポリウレタン樹脂組成物における、方法。」 そして、次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、封止用ポリウレタン樹脂組成物が可塑剤を含有するのに対して、甲1発明1においては、封止用ポリウレタン樹脂組成物が可塑剤を含有するか不明な点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、封止用ポリウレタン樹脂組成物が分子内に硫黄原子を含まないフェノール酸化防止剤を含有し、120℃で24時間放置後の前記フェノール系酸化防止剤の加熱減量を0?3質量%とするものであるのに対して、甲1発明1においては、そのようなものであるか不明な点。 <相違点3> 「電気電子部品」に関して、本件特許発明1においては、「反射板が銀を含む照明器具用」と用途を特定するのに対して、甲1発明1においては、特に用途を特定していない点。 <相違点4> 「方法」に関して、本件特許発明1においては、「高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化を抑制する」ものであるのに対し、甲1発明1においては、「熱的耐久性に優れるようにする」ものである点。 (2)相違点についての判断 相違点1ないし4について、以下に検討する。 <相違点1について> 甲1の【0035】には、必要により可塑剤を配合することができることが記載され、甲1の【0043】及び【0045】には、可塑剤を配合させた実施例が記載されていることから、甲1発明1において、封止用ポリウレタン樹脂組成物が可塑剤を含有するようにして、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 <相違点2について> 甲1の【0039】には、必要に応じて酸化防止剤を添加することができることが記載され、甲1の【0043】及び【0045】には、酸化防止剤として、ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1010、チバスペシャリティーケミカルズ社製)を添加させた実施例が記載されており、この酸化防止剤は、本件特許の明細書の【0075】及び【0080】の【表1】に記載されているように、本件特許発明の実施例1、5及び9において使用されている分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤と同じものであるから、甲1発明1において、封止用ポリウレタン樹脂組成物が分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤を含有し、120℃で24時間放置後の前記フェノール系酸化防止剤の加熱減量を0?3質量%とするようにして、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 <相違点3について> 「電気電子部品」に関して、甲1の【0041】には、「本発明のポリウレタン樹脂組成物から得られるポリウレタン樹脂は、冷熱サイクル下における熱的耐久性を有していることから、発熱を伴う電気電子部品に好適に使用することができる。このような電気電子部品としては、トランスコイル、チョークコイルおよびリアクトルコイルなどの変圧器や機器制御基盤が挙げられる。本発明のポリウレタン樹脂を使用した電気電子部品は、電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機、電動工具、自動車、バイクなどにできる。」と記載されており、甲1には、甲1発明1における「電気電子部品」が、「発熱を伴う電気電子部品」であり、具体的には、「トランスコイル、チョークコイルおよびリアクトルコイルなどの変圧器や機器制御基盤」及び「電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機、電動工具、自動車、バイクなど」であることが記載されているといえる。しかし、甲1には、「反射板が銀を含む照明器具用電気電子部品」は記載されていないし、「発熱を伴う電気電子部品」の用途が「反射板が銀を含む照明器具用」であることが本件特許の出願時の技術常識であったともいえない。 また、甲2及び3の記載から、リードフレームに銀メッキを施すこと及びリードフレームに反射板を設けることが本件特許の出願時の技術常識であったといえるとしても、甲2及び3のいずれにも、甲1に記載されているような「発熱を伴う電気電子部品」の用途が「反射板が銀を含む照明器具用」であることは記載も示唆もされていない。 したがって、「変圧器や機器制御基盤」を「照明器具」に用いることが技術常識であり、LEDの熱効率を高めるために、リードフレームに銀メッキを施すこと及びリードフレームに反射板を設けることが本件特許の出願時の技術常識であったとしても、甲1発明1において、「電気電子部品」の用途を「反射板が銀を含む照明器具用」と特定して、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 <相違点4について> <相違点2について>のとおり、甲1発明1において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 しかし、それによって、「反射板が銀を含む照明器具用電気電子部品」において、高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化が抑制されることは、甲1には記載も示唆もされていないし、本件特許の出願時の技術常識であったともいえない。 また、甲2及び3にも、反射板が銀を含む照明器具用電気電子部品において、高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化が抑制されることは記載も示唆もされていない。 したがって、甲1発明1において、甲2及び3に記載された事項を考慮しても、「高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化を抑制する」ようにして、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 よって、相違点1及び2に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものといえるが、相違点3及び4に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないので、本件特許発明1は、甲1発明1、すなわち甲第1号証に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項、すなわち甲第2及び3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 3 本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし4は、請求項1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2及び3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 4 本件特許発明7について (1)対比 本件特許発明7と甲1発明2を対比する。 甲1発明2における「水酸基含有化合物」は、甲1の【請求項1】、【0015】及び【0018】によると、ポリオールを含有することから、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明7における「ポリオール」に相当する。 甲1発明2における「イソシアネート基含有化合物」は、甲1の【請求項1】及び【0022】によると、ポリイソシネート化合物を含有することから、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明7における「ポリイソシアネート」に相当する。 甲1発明2における「電気電子部品」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明7における「封止反射板が銀を含む照明器具用電気電子部品」と、「電気電子部品」という限りにおいて、一致する。 甲1発明2における「熱的耐久性に優れるようにする方法」と本件特許発明7における「高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化を抑制する方法」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、「方法」という限りにおいて、一致する。 したがって、両者は、両者は、次の点で一致する。 「ポリオール、ポリイソシアネート、及び無機充填剤を含有するポリウレタン樹脂組成物により樹脂封止された、電気電子部品における、方法。」 そして、次の点で相違する。 <相違点5> 本件特許発明7においては、ポリウレタン樹脂組成物が可塑剤を含有するのに対して、甲1発明2においては、ポリウレタン樹脂組成物が可塑剤を含有するか不明な点。 <相違点6> 本件特許発明7においては、ポリウレタン樹脂組成物が分子内に硫黄原子を含まないフェノール酸化防止剤を含有し、120℃で24時間放置後の前記フェノール系酸化防止剤の加熱減量を0?3質量%とするものであるのに対して、甲1発明2においては、そのようなものであるか不明な点。 <相違点7> 「電気電子部品」に関して、本件特許発明7においては、「反射板が銀を含む照明器具用」と用途を特定するのに対して、甲1発明2においては、特に用途を特定していない点。 <相違点8> 「方法」に関して、本件特許発明7においては、「高温放置後の、反射板における銀の変色、及び、硬度変化を抑制する」ものであるのに対し、甲1発明2においては、「熱的耐久性に優れるようにする」ものである点。 (2)相違点についての判断 相違点5ないし8について検討するに、これらについては、それぞれ、相違点1ないし4と実質的に同じ相違点である。 したがって、相違点1ないし4と同様に、相違点5及び6に係る本件特許発明7の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものといえるが、相違点7及び8に係る本件特許発明7の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないので、本件特許発明7は、甲1発明2、すなわち甲第1号証に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項、すなわち甲第2及び3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 5 本件特許発明8について 本件特許発明8は、請求項7を引用するものであるから、本件特許発明7と同様に、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2及び3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 6 むすび したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しない。 第4-2 理由2について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。 そこで、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かを検討する。 本件特許の特許請求の範囲の記載によると、本件特許発明は、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、無機充填剤、及び分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤を含有するポリウレタン樹脂組成物を用いること並びに120℃で24時間放置後の前記フェノール系酸化防止剤の加熱減量を0?3質量%とすることをその発明特定事項として含むものである。 他方、本件特許の明細書には、発明が解決しようとする課題として、「しかしながら、本発明者等が研究を進める中で、従来のポリウレタン系樹脂は、酸化防止剤(特に分子内に硫黄原子を含まない酸化防止剤)が揮発にする事による金属の腐食や変色を十分に検討しておらず、酸化防止剤により周囲の金属(特に銀)の劣化が促進され得ることが見出された。」(【0006】)及び「そこで、本発明では、酸化防止剤を含んでいながらも、銀等の周囲の金属の高温下における変色や腐食をより抑制することができるポリウレタン樹脂組成物を提供することを課題とする。さらには、一旦硬化させた後の、高温による硬度上昇がより抑制されたポリウレタン樹脂組成物を提供することをも課題とする。」(【0007】)と記載されていることから、本件特許発明の発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「酸化防止剤(特に分子内に硫黄原子を含まない酸化防止剤)」を「含んでいながらも、銀等の周囲の金属の高温下における変色や腐食をより抑制することができるポリウレタン樹脂組成物を提供すること」及び「一旦硬化させた後の、高温による硬度上昇がより抑制されたポリウレタン樹脂組成物を提供すること」である。 そして、本件特許の明細書には、ポリオールについて、「ポリオールは、水酸基を2つ以上有するポリオールであれば特に限定されず、ポリウレタン樹脂組成物において用いられているものを各種使用することが可能である。ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、2メチル1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、2-メチルプロパン-1、2,3-トリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリット、ポリラクトンジオール、ポリラクトントリオール、エステルグリコール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール、シリコーンポリオール、フッ素ポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトンポリオール、ヒマシ油系ポリオール、ダイマー酸系ポリオール等が挙げられる。これらの中でも、ヒマシ油系ポリオール、及び/又はポリブタジエンポリオールを用いることが好ましい。」(【0022】)と記載され、ポリイソシアネートについて、「ポリイソシアネートは、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定はなく、ポリウレタン樹脂組成物において用いられているものを各種使用することが可能である。」(【0036】)と記載され、可塑剤について、「可塑剤は、特に限定されず、ポリウレタン樹脂組成物において用いられているものを各種使用することが可能である。可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレート等のフタル酸エステル;ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート等のアジピン酸エステル;メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、アセチル化リシノール酸トリグリセリド、アセチル化ポリリシノール酸トリグリセリド等のヒマシ油系エステル;トリオクチルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテート等のトリメリット酸エステル;テトラオクチルピロメリテート、テトライソノニルピロメリテート等のピロメリット酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、ジイソノニルフタレートが好ましい。」(【0049】)と記載され、無機充填剤について、「無機充填剤は、特に限定されず、ポリウレタン樹脂組成物において用いられているものを各種使用することが可能である。無機充填剤例としては、例えば水酸化アルミニウム、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、ゼオライト等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導性や難燃性に優れ、電気電子部品の封止用に適しているという観点から、好ましくは金属水酸化物が挙げられ、金属水酸化物の中でも好ましくは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等、より好ましくは水酸化アルミニウムが挙げられる。」(【0052】)と記載され、分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤について、「酸化防止剤は、分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤であり、且つ120℃で24時間放置後の加熱減量が0?3質量%である限り特に限定されず、ポリウレタン樹脂組成物において用いられているものを各種使用することが可能である。酸化防止剤としては、ジフェニルアミン系、p-フェニレンジアミン系、ヒドロキノン系、モノフェノール系、ポリフェノール系、ヒンダードフェノール系、フェノール系・亜リン酸エステル系等が挙げられる。これらの中でも、周囲の金属の高温下における変色や腐食をより抑制できるという観点から、より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。また、同様の観点から、本発明のポリウレタン樹脂組成物が分子内に硫黄原子を含む酸化防止剤を含有しないことが好ましい。また、同様の観点から、酸化防止剤としては、例えば数平均分子量が400以上、好ましくは数平均分子量が500以上、より好ましくは数平均分子量が500?2000、よりさらに好ましくは数平均分子量が500?1500のヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。」(【0056】)と記載されている。 また、本件特許の明細書の【0074】ないし【0085】には、ポリオール2種、ポリイソシアネート2種、可塑剤1種、無機充填剤2種、分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤4種を使用した実施例1ないし9について、高温放置後の銀の変色が無いこと及び一旦硬化させた後の高温放置後の硬度変化の上昇率が低いことが記載されている。 さらに、本件特許の明細書の「従来のポリウレタン系樹脂は、酸化防止剤(特に分子内に硫黄原子を含まない酸化防止剤)が揮発にする事による金属の腐食や変色を十分に検討しておらず、酸化防止剤により周囲の金属(特に銀)の劣化が促進され得ることが見出された。」(【0006】)という記載によると、金属の腐食や変色は、ポリウレタン系樹脂や酸化防止剤として何を用いるかではなく、酸化防止剤(特に分子内に硫黄原子を含まない酸化防止剤)の揮発が原因で生じるものであることが記載されているといえる。 したがって、本件特許の明細書の記載によれば、本件特許の明細書の【0074】ないし【0085】に記載された実施例1ないし9に限られず、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、無機充填剤、及び分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤を含有するポリウレタン樹脂組成物を用い且つ120℃で24時間放置後の分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤の加熱減量を0?3質量%とすることで、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。 よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとはいえず、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合しないものとはいえない。 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第4号に該当しない。 第5 結語 したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-03-31 |
出願番号 | 特願2015-50337(P2015-50337) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 前田 孝泰 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 守安 智 |
登録日 | 2016-06-10 |
登録番号 | 特許第5946555号(P5946555) |
権利者 | サンユレック株式会社 |
発明の名称 | ポリウレタン樹脂組成物 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |