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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1327014
異議申立番号 異議2017-700087  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-01 
確定日 2017-04-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5963676号発明「経腸栄養剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5963676号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5963676号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成23年 9月29日に特許出願され、平成28年 7月 8日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 本庄武男(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立がなされたものである。

第2 本件特許発明
特許第5963676号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりものである(以下、特許第5963676号の請求項1?6に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等という。)。

「【請求項1】
たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、およびミネラルを配合し、pHが3.0?4.5である経腸栄養剤において、前記たんぱく質が、全たんぱく質中に、分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する大豆たんぱく質が5?65%配合され、前記たんぱく質の前記大豆たんぱく質以外のたんぱく質が乳清たんぱくであり、平均粒子径が10μm以下で、50μmフィルタを透過可能なものであって、粘度が1000?30000mPa・sである経腸栄養剤。

【請求項2】
1gあたりの熱量が0.6?2.0kcalである請求項1に記載の経腸栄養剤。

【請求項3】
前記大豆たんぱく質は、水に溶解した際にpHが6.0?8.0となるものである請求項1または2に記載の経腸栄養剤。

【請求項4】
たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、およびミネラルを配合し、pHが3.0?4.5である経腸栄養剤において、前記たんぱく質が、全たんぱく質中に、分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する大豆たんぱく質が5?65%配合され、前記たんぱく質の前記大豆たんぱく質以外のたんぱく質が乳清たんぱくであり、平均粒子径が10μm以下で、50μmフィルタを透過可能なものであって、粘度が1000?30000mPa・sである経腸栄養剤を、UHT殺菌法で、130?150℃、2?120秒の加熱処理、レトルト殺菌で、110?125℃、4?30分の加熱処理、またはボイル(高温常圧)殺菌で、70?95℃、5?20分の加熱処理を行う経腸栄養剤の製造方法。

【請求項5】
前記径腸栄養剤の1gあたりの熱量が0.6?2.0kcalである請求項4に記載の経腸栄養剤の製造方法。

【請求項6】
前記大豆たんぱく質は、水に溶解した際にpHが6.0?8.0となるものである請求項4または5に記載の経腸栄養剤の製造方法。」

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1.申立理由の概要
申立人は、甲第1?9号証を提出し、下記申立理由1?4を挙げ、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1
本件特許発明1、2は、甲第1号証に記載された発明および甲第2?4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)申立理由2
本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明および甲第2?5、7、8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)申立理由3
本件特許発明4、5は、甲第1号証に記載された発明および甲第2?4、9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)申立理由4
本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明および甲第2?5、7?9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.証拠方法
(1)甲第1号証:機能性食品と薬理栄養、慶末元興ら、第5巻、第2号、第95?104頁、2008年 7月30日発行
(2)甲第2号証:米国特許第4959350号、1990年 9月25日発行
(3)甲第3号証:特公昭56-52543号公報、1981年12月12日発行
(4)甲第4号証:米国特許第5339072号、1994年 7月19日発行
(5)甲第5号証:国際公開第2009/155557号、2009年12月23日発行
(6)甲第6号証:特表2011-530274号公報、2011年12月22日発行
(7)甲第7号証:特表2008-537533号公報、2008年 9月18日発行
(8)甲第8号証:国際公開第2009/084529号、2009年 7月 9日発行
(9)甲第9号証:株式会社三和化学研究所ホームページ、「リカバリーニュートリート(R)」製品パンフレット、http://med.skk-net.com/food/products/item/30035_p.pdf、2010年 3月改訂

(以下、「甲第1号証」?「甲第9号証」をそれぞれ「甲1」?「甲9」という。)

第4 特許異議申立理由についての検討
1.甲1?4の記載
(1)甲1の記載

「リカバリーニュートリート(R)(以下RCV-NTと記す)は,約5,000mPa・s(25℃)の粘度に調製された半固形状の栄養食であり,高カロリー(1.5kcal/g)かつ高たんぱく質(5.0g/100kcal)な組成で十分な電解質量をバランスよく配合した製品である.」
(第95頁左欄下から7?2行目)


「[方法]
1 試験食:RCV-NT(株式会社三和化学研究所製品)は,粘度約5,000mPa・s(25℃)に調製された半固形状の栄養食である.栄養組成を表1に示す.RCV-NTは高カロリー(1.5kcal/g)かつ高たんぱく質(5.0g/100kcal)な組成で必要な栄養量を900kcalで充足することができ,600gの少容量で投与することができる.さらに,たんぱく質源としては植物性たんぱく質の大豆たんぱく質と動物性たんぱく質の乳清たんぱく質が55:45の割合で配合されていることを特徴としている.
・・・
3 投与方法:RCV-NTを,1日2回または3回に分け,PEGカテーテルより用手的に注入した.また,水の投与はRCV-NT投与の約30分前に行った.対象者の使用PEGカテーテルのタイプを表3に示した。
胃瘻カテーテルには,チューブ型とボタン型があるが,半固形栄養食を投与する場合にはボタン型は内径が狭く逆流防止弁もあるため注入し難いといわれている.また,チューブ型でも内径が細いほど注入が困難であるといわれている.」
(第95頁右欄下から7行目?第96頁右欄第27行目)





(第96頁表1)


「また,試験前に使用していた一般的な濃厚流動食が中性(pH=6.6?7.0)であるのに対して,RCV-NTは酸性(pH=3.9)の製品である.」
(第102頁左欄第28?30行目)


「RCV-NTは粘度約5,000mPa・sの半固形状に調製された栄養食であり,用手的に1食分(300?400kcal)を短時間で投与することができた.また,半固形栄養食の投与には,ボタン型よりチューブ型の方が投与しやすく,さらにチューブ型でも20Fr以上が推奨されている.本試験では14Fr径チューブ型や16Fr径ボタン型の胃瘻カテーテルを使用している対象者も存在していたが,短時間で注入することが可能であった.RCV-NTを短時間投与した結果,嘔吐や肺炎は起こらなかったことより胃食道逆流は起こらなかったと推察される.また,下痢も認められなかったことから,RCV-NTで液状の濃厚流動食を投与した場合の上記の問題は無く,これらのリスクを軽減できることが示唆された.」
(第102頁右欄第11?26行目)


(2)甲2の記載(英語で記載されているので訳文で示す)

「本発明はpH約4.5未満であって、水、脂質及び食用窒素化合物を含有し、該窒素化合物がたんぱく質由来である経腸栄養食品に関するものである。」
(第1欄第6?9行)


「したがって、pHが約4.5未満であって、食用窒素化合物としてたんぱく質由来の化合物、脂質、炭水化物及び水を含有して物理的及び微生物学的に安定した乳化物の特性を有することに加えて、良好な低浸透圧、良好な感覚刺激特性、良好な栄養特性、及び、診療所における良好な取扱い特性を有すべき経腸栄養食品に対するニーズが存在する。」
(第1欄第50?57行)


「総括すると、本発明による経腸栄養食品は、pHが約4.5未満のものであり、食用窒素化合物、脂質、炭水化物及び水を含むものである。該食用窒素化合物は、経腸栄養食品の他の構成成分と共に苦味のない性質のものである。また、該食用窒素化合物は、少なくとも下記の溶解度試験に従って、pH2?7の水性媒体において可溶性である。該食用窒素化合物の少なくとも50%は植物(たんぱく質)由来のものである。該経腸栄養食品の浸透圧は350ミリオスモル未満であり、経腸栄養製品の全エネルギー含量は少なくとも0.68kcal/mlである。」
(第3欄第10?23行)


「製品A
たんぱく質加水分解物の調製
酵素の不活性化のためにクエン酸の代わりに塩酸を用いる以外は、大豆由来のたんぱく質加水分解物を米国特許第4100024号公報の実施例2に従って製造した。」
(第9欄第56?62行)


「製品D
製品Aと同様、ただしDHは15%。

製品E
製品Aと同様、ただしDHは14%。」
(第11欄第15?20行)


「実施例1
食品製品は以下の組成をもとに製造される。
・・・
同様の栄養食品1000リットルの調製のための手順は以下の通り。

成分
I クエン酸カルシウム 750g
クエン酸 1750-
クエン酸カリウム 1000-
アスパルテーム 240-
アスコルビン酸 100-
II 製品D 50kgたんぱく質
N×6.25基準で50kgに相当する量
III マルトデキストリン MDO1 118.9kg
脱塩水 400l
IV Viscoleo 29.8kg
大豆油 5.9kg
V 脱塩水 1000l

製造手順
IをIIに溶解する。pHは4.3であった。マルトデキストリンを50℃に加熱した水に溶解する。(III)。IIIはIとIIと混合され、IVが添加される。最終的に水(V)を体積合計が1000lとなるように添加される。製品は低圧ホモジナイザーで事前に均質化され、85℃で4秒間低温殺菌され、最終的に60℃で約200kg/cm^(2)の圧力で均質化される。低温殺菌及び攪拌された製品は滅菌された貯蔵タンクに集められる。製品は適切な容器に無菌状態で充填され、4℃で保管される。
・・・
液滴の平均直径は1.1μmであり、直径が0.8μmのものは検出されなかった。」
(第11欄第25行?第12欄第42行)


「実施例3(a)
食品製品は、食用窒素化合物を乳清たんぱく質/製品EをN×6.25基準で1:1の割合にて含有するもので置き換えること以外は、実施例1と同様に調製される。
分析データは表2参照。

実施例3(b)
食品製品は、食用窒素化合物を乳清たんぱく質/製品EをN×6.25基準で40:60の割合にて含有するもので置き換えること以外は、実施例1と同様に調製される。
分析データは表2参照。」
(第12欄第63行?第13欄第6行)

(3)甲3の記載

「特許請求の範囲
1 大豆タンパク質5?20%W/Wの範囲の基質濃度で、大豆タンパク質1kg当り4?25アンソン単位の範囲のタンパク分解活性に相当する濃度のマイクロバイアルアルカリプロテイナーゼを用いて、7乃至10の範囲のpHで且つ至適温度より15℃低い温度から至適温度までの範囲の温度で、8?15%の範囲の加水分解度が達成されるまで、大豆タンパク質を加水分解し、然る後食品銘柄の酸でpHを減少させることにより前記酵素を失活させ、次いで上澄液を沈降物から分離せしめ、そして活性炭で処理することを特徴とする、2?7の範囲のpHを有する水性媒体中に可溶性で且つ大豆タンパク質から誘導され且つ低タンパク質酸性食料生成物用添加物として使用するに適したポリベプチドを含有するポリペプチド生成物の製造方法。
2 前記基質濃度が大豆タンパク質8?15%W/Wの範囲にある特許請求の範囲第1項記載の方法。
3 達成される前記加水分解度が9?12%の範囲にある特許請求の範囲第1項または第2項記載の方法。
4 達成される前記加水分解度が9.5?10.5%の範囲にある特許請求の範囲第3項記載の方法。」
(第1欄第23行?第2欄第9行)


「本発明は、2?7の範囲のpHを有する水性媒体中に可溶であり、且つ大豆タンパク質から誘導され且つ低タンパク質酸性食料生成物用添加剤として使用するのに適したポリペプチドの製造方法における又はに関する改善及びそのようにして製造されたポリペプチドに関する。
低タンパク質酸性食料生成物の例は、ソフトドリンク、たとえば炭酸性ソフトドリンク、マーマレード及びジャムを包含する飲料である。」
(第3欄第25?33行)


「本発明は、何ら意義ある程の苦味を伴わない味を有する生成物が製造されるのを常に可能にし、一方、上記米国特許明細書に記載の方法に従って製造された生成物のあるものは苦い味を有することに注意されたい。」
(第4欄第29?33行)


「加水分解度(略記してDH)は下記式
DH=(開裂したペプチド結合の数/ペプチド結合の総数)×100%
により定義される。
J.Adler-Nissen.J.Agr Food Chem.24、Nov.-Dec1976(出版中)参照、上記文献にはDHの定義について更に詳細な討論がなされている。」
(第6欄第23?30行)


「加水分解物及びドリンクの組成並びに評価の結果は下記に示す:
加水分解物:大豆タンパク質-基質濃度=8.0%;酵素:12AU/kgタンパク質の量のアルカラーゼ(R);pH=8.0;T=50℃。
ドリンク処方:クエン酸によりpH4.5に調節された、2.62%タンパク質(N×6.25)+9.0%スクロース、フレーバーは添加しなかった。審査員は誰もまずい味であるとの文句を言わなかった。」
(第10欄第32?41行)


「実施例1
約8%タンパク質(N×6.25)を含んだ大豆タンパク質単離物の懸濁液4000mlを、pH8.0及び温度50℃で0.2%のアルカラーゼS6.0(上記タンパク質重量基準として計算されそして0.96アンソン単位/lのタンパク分解活性に相当する)により加水分解する。アルカラーゼS6.0は6.0アンソン単位/lのタンパク分解活性を有する。加水分解期間中、該加水分解はpHスタット(pH-STAT)(ラジオメーター)により追跡され、そしてpHは4N NaOHの添加により一定に保持された。加水分解時間2時間の後、0.8ミリ当量/gに対応する10%の加水分解度が得られた。次いでpHが3.5に到達するまで4Mクエン酸を加えた。次いで加水分解混合物を30分間放置し、その後ろ紙により上澄液をデカントした。ろ過助剤としてケイソウ土を使用した。この上澄液を30℃の温度で30分間活性炭粉末0.01%W/Vで2回処理した。活性炭はLurgiApparate-Technik G.m.b.H.,Frank-furt a.Mからのコポラフイン(Coporafin)B.G.Nであった。かくして苦味のない、快い味のタンパク質加水分解物が68%収率で製造された。”Coporafin”なる用語は商標名である。
タンパク質加水分解物3%、スクロース10%及びファーメンニッチテトラロームレモンp05.51(Firmenich Tetrarome Lemon p05.51)0.005%を含む飲料(beverage)を製造しそして感覚受容的に許容され得ることが見出された。上記飲料を密閉容器中でパスツール殺菌しそして数週間冷蔵庫中に保存した。微生物の析出及び増殖は起こらず、そしてメイラード反応による催かな変色(discolouration)が得られたにすぎない。

実施例2
大豆タンパク質単離物の代りに大豆タンパク質濃縮物を使用すること以外は実施例1と同じく前記加水分解を行なった。得られる混合物は透明な液体であり、このものを防腐剤としてソルビン酸0.1%W/Wを添加した後安定に維持した。この液体は水で容易に希釈することができそして標準ドリンク(2.62%N×6.25及び9%スクロース)を調製した。このドリンクの苦味を評価して苦味はないことが示された。4人の経験のある味覚エキスパートから成る審査員団によって評価はなされた。下記実施例3及び4においても同じ審査員団が行なった。」
(第11欄第10行?第12欄第21行)

(4)甲4の記載(英語で記載されているので訳文で示す)

「ヒト免疫不全ウイルスに感染したヒトのCD4細胞のアポトーシスを妨げる方法であって、治療有効量の下記(a)?(c)を含む経腸栄養製品を該ヒトに経腸的に給仕することを含む方法:
(a)約14?17の範囲の加水分解度及びある分子量画分を有する大豆たんぱく質加水分解物であって、サイズ排除クロマトグラフィによって測定した場合に、該粒子の30%?60%が1500?5000ダルトンの範囲の分子量を有し、該大豆たんぱく質加水分解物のアミノ酸組成は、遊離アミノ酸が1重量%未満である;
(b)大豆たんぱく質加水分解物と無傷のたんぱく質を栄養製品中で安定に乳化されるのに十分な量の無傷のたんぱく質源を含む第2のたんぱく質源、および
(c)n-3脂肪酸の合計に対するn-6脂肪酸の合計の重量比が約1.3:1?2.5:1であることを特徴とする脂肪源。」
(第22欄第44?65行)


「本発明の栄養製品におけるたんぱく質源として用いられる大豆たんぱく質加水分解物は、米国特許第4,100,024号に教示される方法を用いて製造できる。」
(第6欄第32?35行)


「加水分解度が16%である大豆たんぱく質加水分解物(SPH)について、おおよその分子量の分画を、サイズ排除クロマトグラフィによって4ロットのサンプルから算出した測定結果を、表4に示す。」
(第7欄第24?29行)





(審決注:表のタイトルは「大豆たんぱく質加水分解物の分子量の分画(、サイズ排除クロマトグラフィによって4ロットの異なるサンプルから算出した測定結果)」。各列の数字は、左側から「分子量(ダルトン)」、「この分子量中の分解物の割合%」の「平均値」、「標準偏差」および「範囲」。)」
(第8欄表4)

2.引用発明
引用例1の記載事項ア?オによれば、甲1には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下「引用発明」という。)

「たんぱく質、脂質、MCT、糖質、食物繊維、V.B1などのビタミン、および、Mgなどの電解質を配合し、pHが3.9である半固形状の栄養食において、前記たんぱく質として大豆たんぱく質と乳清たんぱく質が55:45の割合で配合され、粘度が約5000mPa・sであり、胃瘻患者に対して胃瘻カテーテルを使用して投与される半固形状の栄養食。」

3.本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「V.B1などのビタミン」、「Mgなどの電解質」、および「胃瘻患者に対して胃瘻カテーテルを使用して投与される半固形状の栄養食」は、それぞれ本件特許発明1における「ビタミン」、「ミネラル」および「経腸栄養剤」に相当し、引用発明のpH「3.9」は本件特許発明1の「3.0?4.5」に、引用発明の粘度「約5000mPa・s」は本件発明1の「1000?30000mPa・s 」の範囲にそれぞれ含まれる。
また、前記記載事項イにおける「たんぱく質源としては植物性たんぱく質の大豆たんぱく質と動物性たんぱく質の乳清たんぱく質が55:45の割合で配合されていることを特徴としている.」なる記載は、たんぱく質源が大豆たんぱく質を55重量%、乳清たんぱく質を45重量%含むことを意味するものと認められるから、引用発明におけるたんぱく質は、全たんぱく質中に大豆たんぱく質が55%配合され、前記たんぱく質の前記大豆たんぱく質以外のたんぱく質が乳清たんぱく質であるものといえる。
そうすると、本件特許発明1と引用発明とは「たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、およびミネラルを配合し、pHが3.0?4.5である経腸栄養剤において、前記たんぱく質が、全たんぱく質中に、大豆たんぱく質が5?65%配合され、前記たんぱく質の前記大豆たんぱく質以外のたんぱく質が乳清たんぱくであり、粘度が1000?30000mPa・sである経腸栄養剤。」である点で一致する。
一方、本件特許発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。
(相違点1)本件特許発明1は、大豆たんぱく質が「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」ものであるのに対し、引用発明では大豆たんぱく質中の分子量6000未満のペプチド画分について規定されていない。
(相違点2)本件特許発明1は、「平均粒子径が10μm以下で、50μmフィルタを透過可能なもの」であるのに対し、引用発明では平均粒子径等について規定されていない。

(2)判断
ア.相違点について
上記相違点1について、甲1には、大豆たんぱく質として「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」ものを使用することについて記載も示唆もない。
また、記載事項カ?ニのとおり、甲2?4には、経腸栄養食品または飲料などに使用される大豆たんぱく質加水分解物が記載されているものの、「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」大豆たんぱく質について記載されておらず、当然RCV-NTのような製品化された経腸栄養剤における大豆たんぱく質を「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」ものに換えることを動機付ける記載もない。
したがって、甲1?4の記載では、引用発明に含まれる大豆たんぱく質を「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」ものとすることを想到し得ない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明および甲2?4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.申立人の主張について
申立人は、上記相違点1に関し、以下(ア)および(イ)の主張をしている。

(ア)引用発明のRCV-NTに用いられている大豆たんぱく質が「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」かどうかについては、甲1に文言上記載されていないため定かではないが、酸性の栄養飲料や経腸栄養食といった技術分野において、一般に、大豆たんぱく質は凝集し、食感や飲み口がざらついたものとなりやすいことは周知の課題で有り、当該課題改良が当然行われているはずであるから、同様の大豆たんぱく質加水分解物が用いられている蓋然性は高く、この点が相違点であるとはいえない。
(イ)仮にその点が相違点であったとしても、甲2には、引用発明と同様の栄養組成を有し、大豆たんぱく質と乳清たんぱく質が50:50で配合されたpH4.5未満の物性的に安定な経腸栄養食が記載されており、さらに上記大豆たんぱく質は、甲3に記載された製法で得られる加水分解度(以下、「DH」という。)14または15の加水分解物であると記載されているところ、甲4には、同じく甲3に記載された製法で得られる大豆たんぱく質加水分解物が、DH14?17かつ1500?5000ダルトンの画分を30?60%含有すると記載されていることから、甲2の大豆たんぱく質が「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」ものである蓋然性が高いことから、引用発明において、より物性的に安定で風味のよい経腸栄養食を得るために、甲2に記載の大豆たんぱく質加水分解物を採用し、本件特許発明1としてみることは、当業者が容易になし得たことである。

まず、主張(ア)について検討するに、一般に、大豆たんぱく質が凝集し、食感や飲み口がざらついたものとなりやすいことが周知の課題であり、引用発明のRCV-NTにおいて、かかる課題の改良が行われているとしても、それはRCV-NTにおける大豆たんぱく質が「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」ことを意味するものではないから、引用発明に含まれる大豆たんぱく質が「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」蓋然性が高いという出願人の主張には何ら根拠がない。
よって、主張(ア)は採用できない。

次に、主張(イ)について検討する。
申立人は、甲3、4の記載に基づいて、甲2におけるDH14または15の大豆たんぱく質が「分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有する」ものである蓋然性が高いと主張するが、甲3、4には、DH14または15の大豆たんぱく質加水分解物における分子量6000未満のペプチド画分の含有割合については記載されていないし、甲4の「約14?17の範囲の加水分解度及びある分子量画分を有する大豆たんぱく質加水分解物であって、サイズ排除クロマトグラフィによって測定した場合に、該粒子の30%?60%が1500?5000ダルトンの範囲の分子量を有し」(記載事項テ)なる記載は、DE14または15の大豆たんぱく質が分子量6000未満のペプチド画分を20?40%含有することを意味するものでもないから、かかる主張には根拠がない。
さらに、記載事項ニによれば、DH16の大豆たんぱく質加水分解物の分子量分布は、分子量5000以下の画分の合計が96.7%であり、DE16の大豆たんぱく質加水分解物における分子量6000未満のペプチド画分の割合が96.7%以上であって、「20?40%」なる範囲を大きく逸脱していることが理解され、このことからすれば、加水分解度がこれと近似するDH14または15の大豆たんぱく質加水分解物、すなわち甲2に記載の大豆たんぱく質加水分解物における分子量6000未満のペプチド画分の割合が「20?40%」の範囲にある蓋然性が高いとはいえない。
よって、主張(イ)は、その前提からして当を得ないものであり、採用できない。

(3)小括
以上検討したとおり、本件特許発明1は、引用発明および甲2?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立理由1には理由がない。

4.本件特許発明2?6について
本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに限定した発明であるから、本件特許発明2に対する申立理由1に理由がないことは明らかである。
本件特許発明3は、本件特許発明1または2をさらに限定した発明であるから、甲第1?5、7、8号証について検討するまでもなく、申立理由2に理由がないことは明らかである。
本件特許発明4?6は、本件特許発明1の経腸栄養剤の製造方法の発明であるから、甲第1?5、7?9号証について検討するまでもなく、申立理由3、4に理由がないことは明らかである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由及び証拠によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-31 
出願番号 特願2012-536531(P2012-536531)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 春田 由香  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 大久保 元浩
清野 千秋
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5963676号(P5963676)
権利者 テルモ株式会社
発明の名称 経腸栄養剤  

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