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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属する(申立て成立) B24D
管理番号 1327033
判定請求番号 判定2016-600037  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 判定 
判定請求日 2016-08-04 
確定日 2017-04-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第4398521号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明資料に示すクリストンMX#800は,特許第4398521号の請求項1及び5に記載された発明の技術的範囲に属する。 イ号図面及びその説明資料に示すクリストンMX#800は,特許第4398521号の請求項2及び3に記載された発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯

判定請求人の請求の趣旨は,判定請求書の全趣旨からみて,イ号説明資料に示すクリストンMX#800(以下,「イ号物件」という。)は,特許第4398521号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし3,及び5に記載された発明の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである。
また,判定請求人は,イ号物件を説明する資料として判定請求書に添付したイ号説明資料(丸囲いされた1?5表記のものを指す。なお,この文書の表示上の制約があることから,提出物に使用された丸囲いの番号表記は,すべて,1*,2*等へと表記を置き換える。)を提出し,更に回答書並びに証拠説明書の提出に関連して,イ号物件を説明する準文書として検第1号証を提出している。

本件に係る手続の経緯は,以下のとおりである。

平成10年 2月 2日 本件特許に係る特許出願
平成19年11月27日付け 拒絶理由通知書
平成20年 2月 4日 意見書
平成20年 7月30日付け 拒絶査定
平成20年 9月 1日 審判請求書
平成20年 9月30日 手続補正書
平成21年 9月 7日付け 拒絶理由通知書
平成21年 9月 9日 意見書及び手続補正書
平成21年 9月29日付け 審決
平成21年10月30日 設定登録

平成28年 8月 3日付け 判定請求書
平成28年 8月26日付け 判定請求書副本送付
平成28年 9月23日付け 答弁書(被請求人)
平成28年10月28日付け 審尋
平成29年 1月 4日付け 回答書
平成29年 1月24日付け 証拠説明書

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし3,及び5に記載された発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」等という。)は,各々本件特許の特許請求の範囲に記載されたとおりのものである。

1.本件特許発明1

本件特許発明1を判定請求書の5(3)に即して構成要件(A)?(D)に分説すると以下のとおりである。

(A)無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させ表裏に平坦面を備える平板状の成形体とし,

(B)前記無機長繊維を研磨方向に対して左右対称な二方向に配向させ,

(C)前記成形体の長手方向前端面に現れる前記各長繊維の繊維端面で研削,研磨するラッピング材であって,

(D)前記各長繊維が研磨方向に対して直交する方向であってかつ前記成形体の平坦面に対して平行方向に長軸を有する楕円形状の繊維端面を備えることを特徴とするラッピング材。

2.本件特許発明2,3,及び5

本件特許発明2,3,及び5は,次のとおりである。

「【請求項2】
前記無機長繊維を研磨方向に対して10?45度の角度で左右対称な二方向に配向させてなることを特徴とする請求項1に記載のラッピング材。
【請求項3】
前記無機長繊維を研磨方向に対して12.5?45度の角度で左右対称な二方向に配向させてなることを特徴とする請求項2に記載のラッピング材。
【請求項5】
前記無機長繊維はガラス繊維,アルミナ質繊維,炭化珪素質繊維,ボロン質繊維及び窒化珪素質繊維からなる群から選ばれた無機長繊維であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のラッピング材。」

第3 本件特許発明1に対応するイ号物件

1.判定請求人の特定するイ号物件

判定請求人は,イ号物件を,判定請求書5(4)及び(5)にて本件特許発明1の分説に合わせ,a?dとして次のように特定している。

a 無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させ表裏に平坦面を備える平板状の成形体とし,

b 前記無機長繊維を研磨方向に対して左右対称な二方向に配向させ,

c 前記成形体の長手方向前端面に現れる前記各長繊維の繊維端面で研削,研磨するラッピング材であって,

d 前記各長繊維が研磨方向に対して直交する方向であってかつ前記成形体の平坦面に対して平行方向に長軸を有する楕円形状の繊維端面を備えることを特徴とするラッピング材。

2.判定請求人の主張

判定請求人は,判定請求書及び回答書において,イ号物件を上記1.a?dに特定する根拠として次の(1)ないし(6)を主張し,また,本件特許の解釈についても以下の(7)ないし(8)を主張している。

(1)aに関して
「イ号説明資料1*断面のマイクロスコープ画像によれば,繊維に樹脂が含浸しているのが確認出来る。」(判定請求書4ページ4?5行)
「また,イ号説明資料1*の外観写真より平坦面を備える平板状の成形体である。」(判定請求書4ページ6?7行)
「さらに,イ号説明資料2*に・・・示差走査熱量測定を行った結果,イ号説明資料4*にフーリエ変換赤外分光分析装置で分析した結果を示す。・・・ことから熱硬化性樹脂であることが明白である。」(判定請求書4ページ8?13行)
「そして,イ号説明資料3*に・・・エネルギー分散型X線分析の結果を示す。また,イ号説明資料5*に・・・繊維結晶構造定性分析をした結果を示す。・・・そのため,無機長繊維であることが明白である。」(判定請求書4ページ下から2行?5ページ3行)

(2)bに関して
「被請求人のホームページ写真(イ号説明資料1*左下,参考資料3)より,成形体の長手方向の端面を被研磨物に対して当てることにより研磨することが明らかであり,成形体の長手方向が研磨方向である。」(判定請求書5ページ4?6行)
「また,イ号説明資料1*の「スティック平坦面の拡大写真」によれば,繊維は品目ごとに図面左側又は右側(成形体の長手方向)に対して左右対称に配向していることが確認出来る。その角度は13.8°又は14.1°である。」(判定請求書5ページ7?9行)

(3)cに関して
「イ号説明資料1*の平坦面写真の長手方向には,繊維端面が露出している(同資料のマイクロスコープ画像参照)。また,前述の通り,長軸の端面を被研磨物に対して当てることになるため,繊維端面で研削,研磨することになる。」(判定請求書5ページ下から4行?末行)

(4)dに関して
「イ号説明資料1*「スティック断面拡大写真」によれば,断面に繊維端面が露出している。よって,繊維端面は,研磨方向に対して直交する事が分かる。
また,繊維端面は,長軸を有する(下記模式図参照)。イ号説明資料1*「スティック断面拡大写真」より,繊維端面の楕円の長軸は成形体の平坦面に平行である。」(判定請求書6ページ1?6行)

(5)要件B)のうち,(1)配向,及び(2)左右対称に関するもの
「2 要件B)に関するもの
(1)配向について
イ号製品中に含まれる多数の繊維が,2つの異なる方向を向いている事実は,以下の写真(検1)から確認できる。・・・なお,写真は繊維を2*から6*の順に剥がしていったものであり,平坦面の下にも繊維が2つの異なる方向を向いて配向されていることが確認できる。・・・・
(2)左右対称について
次に,かかる2つの異なる方向は,「研磨方向」に対して「左右対称」である。
まず,本件特許の・・・同方向に対して繊維が左右対称に配向されていることは前述の写真から明らかであり,例示すると以下の写真,図のとおりである。・・・この点,イ号製品は,研磨方向に対してそれぞれ17.7°,18.1°で左右のほぼ対称な二方向に繊維が配向されており,これによって発明の目的を達成できる角度であることから(17.5度?45度の範囲であれば目的を達成できる点につき本件特許明細書【0011】参照),本件特許の「左右対称」に該当する。」(回答書6ページ1行?8ページ7行)

(6)要件D)に関するもの
「3 要件D)に関するもの
(1)研磨方向に対する直交(請求人は「直行」と記載しているが,明らかな誤記と認める。以下同様。)について
「研磨方向」とは,ラッピング材を研磨する方向であるが,前述のとおりラッピング材は,前後にストロークして研磨するものである以上,同方向は2次元的にはラッピング材の長手方向と同方向でもある。
この点,イ号製品においてラッピング材の端面が長手方向から直交するようにカットされており,繊維端面についても研磨方向すなわちラッピング材の長手方向に対して直交している。
加えて,イ号製品を研磨に使用する際も,同製品を被研磨剤に対して繊維端面を直交するようにあてて使用するものであり,研磨時も繊維端面は研磨方向に直交している。
(2)繊維端面の形状について
前述のとおり,「楕円」についても・・・この点,イ号製品のように繊維端面の形状が楕円の上下に凹みがあるといった略ピーナッツ形状であっても,通常の円に比して外周縁が長くなることにかわりなく,発明の目的を同様に達成する形状であるから,本件特許の「楕円」に含まれるものと解される。・・・
(3)繊維端面の向きについて
前述のとおり・・・この点,イ号製品の繊維端面は,決して何らの意図もなく無秩序にランダムな方向となっているものではなく,そのほぼ全ては端面に対して短軸よりも長軸が横向きになるように配向されている。・・・」(回答書8ページ下から11行?9ページ末行)

(7)本件特許の解釈に関するもの
「(1)本件特許の請求項の各文言は略形状を含むと解釈すべきこと
・・・したがって,本件発明にいう「平坦」「対称」「直交」「平行」「楕円」は,必ずしも数学的な意味での厳密なそれらである必要はなく,上記技術常識を前提とした一定のよれやズレがあるものも含むものと解される。・・・したがって,当業者が通常理解する一般的意味において,また,本件特許明細書の記載に鑑み,本件特許の請求項の解釈にあたっては,「平坦」「対称」「直交」「平行」「楕円」といった文言について,数学的意味での厳密な意味に解釈する必要はなく,それらの意義は,「略平坦」「略対称」「略直交」「略平行」「略楕円」形状等を含むものと解されることが相当である(同旨の裁判例として,平成17年9月26日大阪地裁判決,平成10年8月28日東京地裁判決参照)。」(回答書3ページ5行?4ページ16行)

(8)ラッピング材に対する技術常識について
「長繊維に樹脂を含浸硬化させた複合材のラッピング材は,・・・繊維端面を被研磨剤に直交させるようにあて,前後にストロークして研磨することに技術的意義があるものであり,したがって,ラッピング材は被研磨材に対して繊維端面を直交するようにあてる点,及び前後にストロークして使用するものであるとの点は,本発明の技術分野における当業者の技術常識である(甲5)。・・・また,技術的背景として,あらゆる方向に研磨するために用いるのは従来の砥粒による砥石であり,繊維を配向させた砥石(ラッピング材)は,従来の砥石では解決できなかった課題(折れやすい・・・)を解決するために開発されたものであり,研磨方向は前後にストロークさせて用いるものである。・・・」(回答書4ページ19行?5ページ末行)

3.被請求人の答弁・主張

被請求人は,答弁書の「6答弁の理由」の(1)にて,イ号物件について以下に示すとおり答弁し,かつ,「6答弁の理由」の(3)?(5)にて「イ号説明資料に示すクリストンMX#800は,特許第4398521号発明の技術的範囲に属しない」旨主張している。

(答弁1) 「クリストン(Cristone)MX#800・・・は,乙第1号証の図1に示すように,一方向(図中,長さ方向)に延びる略直方体形状に形成された砥石である(必要であれば,判定請求書に添付されたイ号説明資料1*の「スティック外観写真」を参照)。」(答弁書2ページ6行?9行)

(答弁2) 「イ号は,イ号の長さ方向における端面近傍を研磨面として研磨可能であり,たとえば金型などの被研磨材の研磨に用いられる。」(答弁書2ページ9行?11行)

(答弁3) 「イ号では,アルミナ系繊維が,イ号の長さ方向の端面にアルミナ系繊維の断面が露出するように,エポキシ系樹脂内に複数本埋設されている。」(答弁書2ページ17行?18行)

(答弁4) 「アルミナ系繊維のそれぞれは,乙第1号証の図1に示されるように,断面が略ピーナッツ形状を有しており,略ピーナッツ形状の長軸が,イ号の長さ方向における端面内でランダムな方向を向くように配列されている(必要であれば,判定請求書に添付されたイ号説明資料1*の「スティック断面拡大写真」(マイクロスコープ画像)のX500の写真を参照)。」(答弁書2ページ18行?23行)

(主張1) 「本件特許発明は,研磨の対象となる被研磨材に対するラッピング材の研磨方向(乙第2号証の意見書の第3頁の図を参照)を一方向に特定した上で,「前記無機長繊維を研磨方向に対して左右対称な二方向に配向させ」(構成要件B)ることにより,研磨方向に対して繊維を一方向で揃えていた場合に生じていた割れの問題を解決するものである。・・・それに対して,イ号は,上述したように,・・・イ号の曲げ強度を格段に向上させるとともに,研磨方向によらず均一に被研磨材を研磨することを可能にするものである。したがって,イ号の技術的思想は,二方向に配列された無機長繊維に対して研磨方向を特定して使用することを前提として上記問題を解決しようとする本件特許発明の技術的思想とは全く異なるものである。」(答弁書4ページ1行?19行)

(主張2) 「イ号に含まれる繊維は,イ号の研磨方向が不特定の方向を含んでいる以上,研磨方向に対する配向方向を特定できるものではない。したがって,イ号は,構成要件Bを満たさない。」(答弁書6ページ18行?20行)

(主張3) 「イ号は,乙第1号証の図1において示されるように,略直方体形状の長さ方向の端面内において,略ピーナッツ形状の繊維端面を備え,略ピーナッツ形状の長軸は,ランダムな方向を向いている・・・したがって,イ号は,構成要件Dを満たさない。」(答弁書6ページ22行?7ページ1行)

(主張4) 「仮に,繊維端面の形状について均等論にまで議論が及んだとしても,・・・したがって,少なくとも均等の第3要件は充足されず,判定請求人の主張は失当である。」(答弁書8ページ16行?末行)

第4 本件特許発明1,2,3,5の構成要件の充足性について

1.本件特許発明1の構成要件の充足性について
(1)構成要件(A)について

イ号説明資料3*及び5*は,各々イ号に使用された繊維のエネルギー分散型X線分析をした結果,及び,X線解析装置により繊維結晶構造定性分析をした結果を示したものであって,これらの結果は,イ号に使用された繊維が,Al原子とSi原子を平均して85.3:14.7の比率で含むこと,及び,イ号に使用された繊維の結晶構造はα-Al_(2)O_(3)が示す回折角度ピークの分散と,Mullite(ムライト:酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))と二酸化珪素(Si_(2)O_(3))との化合物)が示す回折角度ピークの分散とを重ね合わせた結果を示すこと,の両事実を表している。
よって,イ号に使用された繊維は,α-Al_(2)O_(3)とSi_(2)O_(3)からなる,アルミナ質繊維であるから,本件特許発明1の「無機繊維」が存在することを充足する。
イ号説明資料2*及び4*は,各々イ号の含浸した樹脂の示差走査熱量測定を行った結果,及び,フーリエ変換赤外分光分析装置で分析した結果を示したものであって,これらの結果は,2*がイ号の樹脂が,加熱による発熱(硬化)の発生を示すこと及び流動性の不連続低下を示すことの双方によりイ号の樹脂が熱硬化性であるという事実を確認でき,また4*が比較参照とされるエポキシ樹脂の赤外吸収のピーク波長の分散傾向とイ号の波長の分散傾向とが非常によく一致している傾向を示すことからみて,イ号樹脂がエポキシ樹脂である事実を表している。
よって,イ号で繊維を取り巻いている対象物は,エポキシ樹脂であり,当該樹脂の性質は熱硬化性を呈するから,本件特許発明1の「熱硬化性樹脂」が存在することを充足する。
さらに,イ号説明資料1*の「スティック外観写真」及び「スティック断面拡大写真」の双方から看取できる事実として,イ号が表裏に平坦面を備える平板状の成形体であること,及び,断面で灰色に見える複数のフィラメント,上記アルミナ質繊維とされるものの周囲が,水色の材料,上記エポキシ樹脂とされるもので隙間なく充填されていること,が見てとれるから,イ号の成形体は,アルミナ質繊維にエポキシ樹脂を含浸させたものと言える。
そして,検第1号証とされるイ号製品を焼成して繊維のみの状態とした2*?6*の写真から,イ号製品中の繊維が,成形体の長手方向全長にわたる十分な長さを備えた繊維である事実が確認できるので,イ号製品が備える繊維は,長繊維であると言える。
以上纏めると,イ号は「アルミナ質長繊維に熱硬化性であるエポキシ樹脂を含浸させ表裏に平坦面を備える平板状の成形体」であり,本件特許発明1の構成要件(A)を充足する。

(2)構成要件(B)について

イ号製品を焼成して繊維のみの状態とした様子を焼成前と並べて示した写真である検第1号証によれば,イ号製品からバインダー樹脂を焼成により取り除いた後(写真2*?6*)に観察される残存物は,長い複数本の繊維様の物体が直線状に引き揃えられた束を複数スティック厚み方向に重ねたものと見られ,当該繊維様の物体の束は,成形体長手方向に対して一定の配向角度を保って配置されているとともに,厚み方向に隣接した繊維様の物体の束同士は,互いに異なる配向角度で規則的に重ねられている。また,束同士が形成している異なる配向角度は,回答書7?8ページ「(2)左右対称について」にて請求人が示す,「17.7°,18.1°」とされた角度であり,イ号の長手方向とのなす角度は,当該請求人が示す角度の1/2の角度であると見られ,検第1号証の写真2*?6*すべてにわたって,成形体長手方向に対して左右に略等しく対称な向きに重ねられているとみてとれる。
そうすると,前記1.にて検第1号証中の2*?6*写真に写る長い複数本の繊維様の物体はアルミナ質長繊維とされたことを踏まえると,イ号は「アルミナ質長繊維を成形体長手方向に対して左右対称な二方向である,±8.85°,あるいは,±9.05°に配向させ」と特定される。
当該イ号の特定事項を,本件特許発明1の構成要件Bと対比すると,長繊維が左右対称な二方向に配向させられている点では一致するものの,配向の基準とされる対象に関し,本件特許発明1では「研磨方向に対して」とされているのに対して,イ号では「成形体長手方向に対して」とされている点が文言上相違することになる。
ところが,本件特許における「研磨方向」の技術的意義について特許法第70条第1項及び第2項の定めに従い検討すると,長繊維の配向に対し基準となる方向を,研磨というラッピング材の使用態様,用法によって特定しようとしていることが明らかである。そして,ラッピング材の「研磨方向」を特定できる他の事項が特許請求の範囲には存在しないことから,特許法第70条第2項に従い,本件の願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮する。図1にはブロック材20とスティック21とが並べて示されており,図中に上方向へ向かう矢印を付しつつ,研磨方向と記されている。そうすると,本件における研磨方向とはスティック材21の長手方向を意味するものと理解でき,そのように解釈した場合に発明が解決しようとする課題とその解決手段との関係に対してなんら矛盾するものではない。そして,従来技術に対して同様に「研磨方向」との語を用いて説明した【0003】や,【0006】の「被研磨材に対して作用する繊維端面」に対して繊維の配向を説明した箇所とも整合することから,本件特許に対して使用した「研磨方向」とは,研磨材とされる「ラッピング材」の,長手方向という意味で用いられているものと理解できる。
そうすると,イ号の「アルミナ質長繊維を成形体長手方向に対して左右対称な二方向,±8.85°,あるいは,±9.05°に配向させ」たとする特定事項は,本件特許発明1の構成要件(B)を充足する。

なお,被請求人は,上記第3の「3.被請求人の答弁・主張」の(主張2)にて,イ号が構成要件(B)を充足しないとの主張を行っているが,その根拠は「イ号の研磨方向が不特定の方向を含んでいる」こととされている。
しかしながら,当該無機長繊維の配向の基準とされる「研磨方向」は,本件特許発明の認定として,「ラッピング材の長手方向」と理解できることを前提としてイ号製品との対比を試みた場合,上記の通り構成要件(B)を充足すると認められるのに対して,被請求人の主張は,イ号が「アルミナ質長繊維は,成形体長手方向・・・に配向させ」たものであることについて具体的に反論するものではなく,単にイ号製品が360度の如何なる方向にも使用できる旨述べ,「研磨方向」がラッピング材の長手方向とはいえないことを根拠とするものであるが,イ号製品の使用態様を具体的に明らかにするものではないし,現実のイ号製品中の繊維がどの方向を向いているかとは直接的に関係もないことが明らかである。そうすると,当該被請求人の主張を採用することはできない。

(3)構成要件(C)について

イ号説明資料1*のスティック断面拡大写真からみて,繊維端面が露出していることを確認できる。
よって,イ号は,本件特許発明1の構成要件(C)を充足する。
なお,イ号が,イ号内に含まれる繊維端面にて研削,研磨を行うラッピング材である点は,乙第1号証の図2と共に被請求人も自認する。

(4)構成要件(D)について

イ号説明資料1*の「スティック断面拡大写真」及び「フィラメント断面」をみた場合,拡大倍率が低い150倍の写真では構成要件(D)に関する事実はなんら確認することができず,500倍及び1000倍の写真では,写真中灰色部分が横長形状に映るとか,横長に延びる方向が全体として平坦面方向に対して一律に平行とされるとまでもは断じ得ない。また,その個々の形状が楕円に相似するか否かも明らかとはいえない。そして,2500倍に撮影された「フィラメント断面」のSEM画像では,二つの円の端部同士が融合した,ピーナッツ形状の輪郭の存在を確認することができるが,楕円とはいえない。
つまり,イ号製品の成形体の長手方向前端面に現れる各長繊維の端面形状は,構成要件(D)が特定する「楕円形状」とは相違する,略ピーナッツ形状といえ,更にその横長の軸は,必ずしも成形体の平坦面に対して平行ともいえない。

したがって,上記の通りの相違部分を有するから,イ号物件は本件特許発明1の構成要件(D)を充足しない。

(5)均等の判断

ア 請求人の主張

判定請求人は,判定請求書の第8ページの※以下において,構成要件(D)について「仮に厳密な意味での楕円ではなかったとしても,均等の範囲に属する。」と主張している。

イ 被請求人の主張

被請求人は,答弁書8ページ16行-末行において,「仮に,繊維端面の形状について均等論にまで議論が及んだとしても,・・・したがって,少なくとも均等の第3要件は充足されず,判定請求人の主張は失当である。」旨主張している。

ウ 当審の判断
そこで,上記(4)で言う構成要件(D)の相違部分に関し,均等と扱えるか否かについて検討する。

最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡)で示された均等の要件は,以下のとおりである。

特許請求の範囲に記載された構成中に,対象製品と異なる部分が存する場合であっても,以下の各要件をすべて満たす対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解する。

要件1 相違部分が特許発明の本質的な部分でない。
要件2 特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。
要件3 対象製品等の製造時に,上記異なる部分を置換することを,当業者が容易に想到できる。
要件4 対象製品等が,出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。
要件5 対象製品等が特許発明の出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。

以上の5要件について,上記(4)で言う相違部分が各々充足するか否かを検討する。

(ア)要件1について
相違部分である構成要件(D)が,本件特許発明1の本質的な部分といえるかについて検討する。
まず,本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照すると,発明が解決しようとする課題に関し【0003】に,従来ラッピング材での繊維が一方向に引き揃えて作成されたことによる割れの発生及び横スベリの発生が説明され,当該課題を解決する手段として【0004】に,繊維径が一定の繊維を使う前提で,研削,研磨の方向と当該繊維の引き揃え方向との間に一定の角度を設け,しかも一方向ではなく,研削,研磨方向に対して,左右の双方向に綾を振ることにより得られた板から得たスティックをラッピング材として用いることを解決手段と説明している。
そうすると,本件特許発明1の構成要件(B)の部分は,本件特許発明1の本質的な部分であると認められる。

そして,構成要件(D)が本質的な部分といえるかについて,以下検討する。
本件特許発明1の構成要件(D)は,ラッピング材の長手方向前端面に現れる前記各長繊維の繊維端面を特定するものであることは明らかであって,繊維端面が楕円形状であること及び楕円の長軸が成形体平坦面に平行であることとされている。
このような形状の繊維の端面が出現する過程について本件明細書の記載を参照すると,係る繊維の端面の状態を図示した図面として【図2】及び【図3】が添付され,【0006】には,
「また,繊維を研削,研磨方向に対して左右対称な二方向に配向することで,図2に示すように,各長繊維1は研磨方向に対して直交する方向に長軸を有する楕円形状の繊維端面を備えることになり,被研磨材に対して作用する繊維端面の前端側の外周縁1aが長くなり,研削,研磨効率が上がる。このように図3に示す,通常の円形の繊維端を有する長繊維1の研削,研磨用ラッピング材と繊維コンテントは同一にもかかわらず,研磨面における,被研磨材に対して作用する繊維端面の前端側の外周縁1aが長くなり,研削,研磨効率が上がることになり,あたかも,もっと太い繊維を使用したのと同じような効率のアップが可能となる。」
との説明がなされている。この記載によると,図2に図示された端面は,発明の実施の形態として「通常の円形の繊維端を有する長繊維」を研磨方向に対して左右対称な二方向に配向した際に出現するものであることが理解できる。
そうすると,構成要件(D)は,構成要件(B)を通常の円形繊維で実現した際に結果として生じる状態を特定するものと認められる。そして,解決しようとする課題である,割れの発生について,本件明細書は円形繊維に固有に生じる課題であるとの認識を示すものではなく,また,円形でない断面の繊維を選択した場合に課題の解決が図られないとする説明も見当たらない。
よって,構成要件(D)は,本件特許発明1の本質的な部分とはいえない。

したがって,構成要件(D)は,本件特許発明1の本質的な部分に該当しないから,均等の要件1を充足する。
なお,イ号が要件1を充足しないとする被請求人からの反論はされていない。

(イ)要件2について
まず,上記相違部分を有していても本件特許発明1の目的を達成することができるか否かを検討し,次いで当該相違部分を有していても本件特許発明1が奏するとする作用効果に対して同一の作用効果を奏するか否かについて検討する。
構成要件(A)?(C)を充足するイ号は,本件特許発明1の本質的な部分である構成要件(B)を充足することから,上記相違部分を有していても,割れの発生及び横スベリの発生を改善するとの目的を達成できるものと認められる。
また,イ号が当該構成要件(B)を充足することにより奏する効果は,本件特許発明1が構成要件(B)を有することにより奏する効果と同一であることが明らかである。
そうすると,イ号は,上記相違部分を有していても,本件特許発明1の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するから,要件2を充足する。
なお,イ号が要件2を充足しないとする被請求人からの反論もない。

(ウ)要件3について
当該相違部分が,イ号製品の製造時に当業者が容易に置換することができたか否かについて検討する。
請求人は要件3の置換容易性に関して,判定請求書においてイ号製品にも用いられているアルミナ質長繊維は,溶融状態の材料を射出口から射出する製造方法によって得られるものであり,射出口の形状を変更することにより長繊維の断面形状を容易に変化させることができる旨主張している。そして,他の公知文献からもその主張を確認することができる(例えば,特開2002-356380号公報の【0032】-【0033】を参照。)ものであり,イ号製品の製造時に断面形状が非円形であるアルミナ質長繊維による置換は,当業者が容易になし得たということができる。
なお,被請求人は,答弁書の8ページ16行-末行に,要件3を不成立とする主張を示しているが,当該不成立とする理由は,要するに,イ号製品では略ピーナッツ状の断面を有する繊維を採用したことにより,本件特許発明のラッピング材では成し得なかった作用効果が発生していることをもって当業者がイ号を容易想到ではないというものである。しかしながら長繊維の断面形状を容易に変化させることができることは上記の通りであるから,被請求人の係る主張は,要件3の成否を左右するものではない。

そうすると,当該相違部分は,イ号製品の製造時に当業者が容易に置換することができたというべきであり,要件3を充足する。

(エ)要件4について
イ号製品が公知技術と同一であるか否か,又は当業者が容易に推考することができたか否かについて検討する。
本件特許発明のように,無機長繊維を樹脂中に備えた研削,研磨用ラッピング材であって,その長繊維の配向角度を成形体の長手方向に対して左右対称にある角度をもって配向するとした構成要件(B)を採用することについて,本件特許発明の特許出願時において具体的に示す証拠は見当たらない。また,本件特許発明の属する技術分野における当業者が,その出願時にこれを公知技術から容易に推考できたことを窺わせる証拠もない。
そうすると,上記の構成要件(B)を採用するイ号製品が,本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術からその出願時に容易に推考できたとすることはできない。
よって,イ号は,要件4を充足する。

(オ)要件5について
イ号製品が本件特許発明の出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情の有無について検討する。
本件特許の出願手続全般にわたってイ号製品を意識的に除外するとしたことを示す事実は見当たらない。
そうすると,要件5を充足する。

以上まとめると,当該相違部分は,均等の5要件を全て充足するから,イ号製品は,本件特許の請求項1に記載された構成と均等なものであり,本件特許発明1の技術的範囲に属するものと認められる。

2.本件特許発明2,3の構成要件の充足性について
本件特許発明2,3は,本件特許発明1の構成要件(B)の「前記無機長繊維を研磨方向に対して左右対称な二方向に配向させ」と特定した事項に対して,各々,「前記無機長繊維を研磨方向に対して10?45度の角度で左右対称な二方向に配向させてなる」とする特定,及び,「前記無機長繊維を研磨方向に対して12.5?45度の角度で左右対称な二方向に配向させてなる」とする特定を更に加えた発明である。
請求人は,上記第3の2.の(5)で示した,「この点,イ号製品は,研磨方向に対してそれぞれ17.7°,18.1°で左右のほぼ対称な二方向に繊維が配向されており,これによって発明の目的を達成できる角度であることから(17.5度?45度の範囲であれば目的を達成できる点につき本件特許明細書【0011】参照),本件特許の「左右対称」に該当する。」(回答書6ページ1行?8ページ7行)と主張するが,回答書7ページの写真では,青線同士の成す角度が17.7°,18.1°であることが示されているのみであって,繊維の配向が左右対称であるとすると,研磨方向である成形体長手方向と繊維とが成す角度は,測定された角度の半分の8.85°,9.05°となり,本件特許発明2,3で更に加えた前記各々の特定事項を充足しない。
よって,イ号製品は,本件特許発明2,3のいずれの技術的範囲にも属しないと認められる。

3.本件特許発明5の構成要件の充足性について
本件特許発明5は,本件特許発明1の構成要件(A)の「無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させ表裏に平坦面を備える平板状の成形体とし」とされた特定事項に対して,「前記無機長繊維はガラス繊維,アルミナ質繊維,炭化珪素質繊維,ボロン質繊維及び窒化珪素質繊維からなる群から選ばれた無機長繊維である」とする特定を更に加えた発明である。
そして,上記「1.本件特許発明1の構成要件の充足性について」の「(1)構成要件(A)について」で述べたように,イ号に用いられた繊維はアルミナ質繊維であるから,本件特許発明5で更に加えられた択一的に挙げられた事項の一つである「アルミナ質繊維」であることを充足する。
よって,上記本件特許発明1の構成要件の充足性についての検討を踏まえると,イ号製品は,本件特許の請求項5に記載された構成と均等なものであり,本件特許発明5の技術的範囲に属するものと認められる。

第5 むすび

以上のように,イ号物件は,本件特許発明1及び5に対して,その構成要件(D)について相違部分を有するものであるが,当該相違部分はいわゆる均等の5要件を充足するから,本件特許発明1及び5の技術的範囲に属する。
一方,イ号物件は,本件特許発明2及び3の技術的範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
 
判定日 2017-03-29 
出願番号 特願平10-35522
審決分類 P 1 2・ - YA (B24D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 筑波 茂樹段 吉享  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
平岩 正一
登録日 2009-10-30 
登録番号 特許第4398521号(P4398521)
発明の名称 ラッピング材及びその製造方法  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
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