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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) E03C
管理番号 1327039
判定請求番号 判定2016-600074  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 判定 
判定請求日 2016-12-02 
確定日 2017-04-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第4371519号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及び説明書に示す「流し台のシンク」は、特許第4371519号に係る特許発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、判定請求書に添付したイ号図面並びに説明書に示す「流し台のシンク」(以下「イ号物件」という。)は、特許第4371519号に係る特許発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
なお、判定請求書において、「5.請求の趣旨」には対象となる請求項が特定されていないものの、請求項1に係る発明を本件特許発明として、イ号物件との対比を行っていることから、判定を求める請求項は請求項1であることは明らかである。



第2 本件特許発明
本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、本件特許の請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。)。

「【請求項1】
シンク本体の後壁面に、後方に湾曲した膨出部が設けられると共に、該膨出部の上端に連続したシンクの後側段縁部に、細径の首部を有する一対のピンが、所定の間隔を有して上方突設され、該ピンに、金属杆を屈曲して形成されたまな板立てが係脱可能に係止される流し台シンクであって、
前記まな板立ては、前後方向に所定の間隙を有するように連結された下向き略コ字形の前後の垂直保持部と、この垂直保持部の下端部において左右方向外側に開口するほぼU字状の左右の係止部とを有し、前記垂直保持部の下端部に拡開方向に作用する弾性復元力により、前記両係止部がそれぞれ前記ピンの首部に嵌り込み、前記垂直保持部が後側段縁部に起立状態に保持されるようになっていることを特徴とする流し台のシンク。」

そして、本件特許発明を構成要件ごとに分説するとともに(以下、分説された構成要件を「構成要件A」ないし「構成要件G」という。)、各部材に符号を付すと次のとおりである。

「A:シンク本体(2)の後壁面(2a)に、後方に湾曲した膨出部(2b)が設けられると共に、
B:該膨出部(2b)の上端に連続したシンクの後側段縁部(2c)に、細径の首部(3b)を有する一対のピン(3)が、所定の間隔を有して上方突設され、
C:該ピン(3)に、金属杆を屈曲して形成されたまな板立て(4)が係脱可能に係止される流し台シンク(1)であって、
D:前記まな板立て(4)は、前後方向に所定の間隙を有するように連結された下向き略コ字形の前後の垂直保持部(4a)と、
E:この垂直保持部(4a)の下端部において左右方向外側に開口するほぼU字状の左右の係止部(4c)とを有し、
F:前記垂直保持部(4a)の下端部に拡開方向に作用する弾性復元力により、前記両係止部(4c)がそれぞれ前記ピン(3)の首部(3b)に嵌り込み、
G:前記垂直保持部(4a)が後側段縁部(2c)に起立状態に保持されるようになっていることを特徴とする流し台のシンク。」



第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、判定請求書において、概略次の理由によりイ号物件は、特許第4371519号の本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。

(1)対象製品の説明
イ号図面及び説明書に記載のイ号製品は、次の構成a4?g4を有する。

「a4:シンク本体1の後壁面11に、後方に湾曲した膨出部10が設けられると共に、
b4:膨出部10の上端に連続したシンクの後側の段縁部12に、細径の首部15を有する一対のピン13が、所定の間隔を有して上方突設され、
c4:ピン13に、金属杆を屈曲して形成されたまな板立て2が係脱可能に係止される流し台シンクであって、
d4:まな板立て2は、前後方向に所定の間隙を有するように連結された下向き略コ字形の前後フレーム20,21と、
e4:前後フレーム20,21を構成する金属杆とは別体の金属板片により形成されるとともに、前フレーム20の下端部から前方に延びる取付バー23に溶着された、左右方向外側に開口するほぼU字状の左右のフック部22とを有し、
f4:前後フレーム20,21の下端部に拡開方向に作用する弾性復元力により、両フック部22がそれぞれピン13の首部15に嵌り込み、
g4:前後フレーム20,21が段縁部12に起立状態に保持されるようになっていることを特徴とする流し台のシンク。」

(2)相違点について
・・・(略)・・・被請求人は、類似製品は次の相違点1及び2において本件発明と相違すると主張している。

[相違点1]本件発明では、まな板立てが金属杆を屈曲して形成され、係止部が金属杆により形成されたものであるのに対して、類似製品のフック部22(係止部)は、金属杆とは別体の金属板片を金属杆に取り付けて構成されている。

[相違点2]本件発明では、係止部は、前後の垂直保持部の下端部に備えられているのに対して、類似製品のフック部22(係止部)は、前フレーム20の下端部前方に取り付けられている。

ア 相違点1について
相違点1に関する被請求人の主張は、本件発明の構成要件Cにおける「金属杆を屈曲して形成されたまな板立て」との文言を、まな板立てのすべての構成部品が金属杆であると解釈した結果であると推察される。
しかし、本件明細書の段落0016には、「まな板立て4は、図3に示すように、金属杆を下向き略コ字形に屈曲して形成した一対の垂直保持部4a,4aを、所定の間隙を有するように、その下端寄りで水平保持部4b,4bを介して連結し、さらにその下端の両側に略U字形の係止部4c,4cを、互いに外向きに連設したものであり・・・・・・」と記載されている。
上記の下線部分から明らかな通り、「金属杆を下向き略コ字形に屈曲して形成した」との修飾語は、「垂直保持部4a,4a」のみにかかっており、「水平保持部4b,4b」及び「係止部4c,4c」にはかかっていない。すなわち、本件明細書の実施形態においても、「係止部4c,4c」の構成部材は金属杆には限定されていない。従って、係止部4cの構成部材が金属杆に限定されないことは、本件明細書の記載から明らかである。
また、本件発明の技術的特徴は、垂直保持部4aの開く方向への弾性復元力によって係止部4cの首部3bに対する嵌め込み状態を維持し、まな板立て4を起立状態に保持する点にある(構成要件F及びG:本件明細書の段落0016)。この技術的特徴が係止部4cの構成材料(金属杆であるか金属板片であるか)とは特に関係がないということは、当業者であれば自明の事項である。従って、本件発明の技術的特徴を考慮すれば、係止部4cの構成部材が金属杆に限定されないことは明らかである。
以上から、フック部22が金属板片であること(相違点1)は、本件発明の構成要件Eとの実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
相違点2に関する被請求人の主張は、本件発明の構成要件Eにおける「この垂直保持部の下端部において左右方向外側に開口する・・・・・・左右の係止部」との文言を、前後双方の垂直保持部の下端部に係止部を連結することと解釈した結果であると推察される。
しかし、構成要件Eの上記の文言において、「この垂直保持部の下端部において」の修飾語は「開口する」を修飾するから、構成要件Eは、前後の垂直保持部と係止部との「取付位置」ではなく、係止部の「開口位置」を規定したものである。・・・(略)・・・
また、構成要件Eの上記の文言において、「この垂直保持部」は、直前の「前後の垂直保持部」の双方のみを表すものではなく、前後いずれか一方の垂直保持部も含まれることは、請求項1の字義から明らかである。・・・(略)・・・
以上から、フック部22(係止部)が、前フレーム20の下端部前方に取り付けられていること(相違点2)は、本件発明の構成要件Eとの実質的な相違点ではない。

(3)本件発明と対象製品との対比
・・・(略)・・・本件発明には、係止部の構成材料の限定はないので、金属板片よりなるフック部22は、当然に構成要件Eの係止部に含まれる。
・・・(略)・・・構成要件Eには、係止部と前後の垂直保持部との取付位置に関する限定はないので、前フレーム20の取付バー23に溶着されたフック部22は、当然に構成要件Eの係止部に含まれる。
上記の通り、イ号製品は、構成要件Eを充足するので、本件発明の技術的範囲に属する。

(4)むすび
以上説明した通り、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属する 。


2 被請求人の主張
被請求人は、判定請求答弁書において、概略次の理由によりイ号物件は、特許第4371519号の本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主張している。

(1)本件発明とイ号製品との解決課題との比較
ア 本件発明の解決課題
・・・(略)・・・本件発明の解決課題としては、「台所用シンクからまな板立てが簡単に取り外せるようにしたい」にある。
・・・(略)・・・他の解決課題としては、「本件発明の流し台のシンクに使用するまな板立ては、金属杆のみで形成して、取付部分の材料及び製作コストを低減したい」があげられる。

イ イ号製品の解決課題
一方、イ号製品では、段縁部12において、金属製の一対のピン13が、一対のピン13を直線で結ぶと湾曲部分をまたがない位置に突設されている。
イ号製品がこのような形状となっているのは、「まな板立て」に載置したまな板によって、膨出部の上方が塞がれることがないようにすることで、
「台所用シンクにまな板を載置したままでも膨出部の清掃等が容易に行えるようにしたい」
「シンク内とその上方での作業空間を広く確保したい」との解決課題を解決することができることとなっている。
・・・(略)・・・従って、流し台のオプションとしてまな板立てが着脱できるだけで清掃の度に取り外すことを前提としていない。

ウ 解決課題の比較
・・・(略)・・・本件発明とイ号製品とでは、解決課題が異なり、このような課題の相違に起因するイ号製品の特定が行われていないので、まず、「イ号製品の説明書」の記載の変更について主張する。


(2)イ号製品の説明書について
イ号製品の特定を下記の通り変更することを主張する。なお、変更部分のうち、追加部分についてはアンダーラインを付し、削除部分については取消ラインを付してある。
(当審注:取消ラインを付した削除部分については、記載を省略した。)


ア 「イ号製品の全体構成」について
イ号製品(ファミリーシンク)は、シンク本体1と、シンク本体1の後部に設置されるまな板立て2と、を備える流し台シンクである。
シンク本体1は、後方に湾曲する膨出部10が形成された後壁面11を有する。後壁面11の上端縁は、シンク本体1の最上端より低い水平な段縁部12が一体に連なる。
段縁部12には、金属製の一対のピン13が、一対のピン13を直線で結ぶと湾曲部分をまたがない位置に突設されている。ピン13は、頭部14と、頭部よりも細い径の首部15を有する。まな板立て2は、下端の板状のフック部22をピン13に係脱自在に係止することにより、シンク本体1に着脱自在に装着される。

イ 「まな板立ての構造」について
まな板立て2は、金属杆からなる前フレーム20と、金属杆からなる後フレーム21と、前フレーム20の下端に取り付けられた金属板片からなるフック部22とを備える。
前フレーム20は、左右に延びる前上バーと、前上バーの左右両端から下方に延びる前サイドバーと、前サイドバーの下端から左右方向内側に延びる前下バーと、前下バーの内端から前方に延びる前方バーと、前方バーの前端から下方に延びる中央バーと、中央バーの下端から前方に延びる取付バー23とを一体に有する。
後フレーム21は、左右に延びる後上バーと、後上バーの左右両端から下方に延びる後サイドバーと、後サイドバーの下端から前方に延びる設置バー(まな板の設置部分)と、設置バーの前端同士を繋ぐ左右方向の連結バー24とを一体に有する。
後フレーム21は、連結バー24を前フレーム20の前下バーに溶接することにより、前フレーム20に連結されている。なお、この溶接により前フレーム20と後フレーム21との剛性を高めており、容易に変形しない構成としている。
前フレーム20の取付バー23には、フック部22が溶接されている。フック部22は、平面視ほぼC字状の係止凹部を有する金属板片よりなる。フック部22の内径は、ピン13の頭部14よりも小径でかつ首部15よりも大径である。フック部22は、開口側を左右方向外側に向けた状態で取付バー23に溶接されている。
更に、一対のフック部22を直線で連結したときに、膨出部10の上方を横切らないこととなっている。また、この一対のフック部22を直線で連結したときの直線位置に対して取付バー23及び前方バーの長さ分だけ前フレーム20が後方にずれて位置するようになっている。

ウ 「まな板立て及びまな板の装着方法」について
まな板立て2をシンク本体1に装着するには、フック部22同士が互いに近づくように、前フレーム20の中央バーもしくは取付バーを摘まんで左右方向内側に屈曲させる。この状態で、各フック部22をそれぞれピン13の首部15に引っかけて手を離す。
すると、前方バー及び中央バーの弾性復元力により、各フック部22がピン16の首部15に引っかかった状態が維持され、まな板立て2が起立状態に保持される。
但し、前フレーム20は、閉ループ状の後フレーム21に溶接されているため、前後フレーム20,21は弾性変形できず、前方バー及び中央バーの弾性変形によってのみ着脱するため、力を付与しにくく、着脱しにくいこととなっている。
まな板をまな板立てに載置するには、前後フレーム20,21の間の設置バー上にまな板を位置させる。このまな板立て2に起立状態に保持されたまな板は、まな板が膨出部の上方をまたぐことなく段縁部の面及び最上端の面上に位置するようになっている。


(3)イ号製品の特定
イ号製品を、前記「イ号製品の説明書」に従って、かつ前記本件発明の分節に対応させて記載すると、下記の通りである。

「a4:シンク本体の後壁面に、後方に湾曲した膨出部が設けられると共に、
b4:該膨出部の上端に連続したシンクの後側の段縁部に、細径の首部を有する一対のピンが、一対のピンを直線で結んだときに前記膨出部の上方を横切ることがない位置で、所定の間隔を有して上方突設され、
c4:該ピンに、金属杆を屈曲したフレーム及びバーと共に、その一部に板材を溶接して形成されたまな板立てが係脱可能に係止される流し台シンクであって、
d4:前記まな板立ては、下向き略コ字状の前フレームと、前フレーム上端よりも高い位置に上端を設け、前フレームから所定間隔の位置に設けられるとともに側面視L字状に屈曲する閉ループ状の後フレームとを有し、前フレームは、その下端各々から後フレームの下端左右方向に延びる連結バーに溶接された左右一対の下バーと、これら下バーの内方端から前方に延びる前方バーと、前方バーの先端から下方に延びる中央バーと、中央バーの下端から前方に延びる取付バーとを一体に備え、
e4:前記取付バー先端下面に固定され、かつ前記ピンに係合させるために、両取付バーから外方に向かってほぼC字状の係止凹部を有する板状のフック部を有し、取付バーと前方バーの長さに対応して前フレームを後方に位置させるようになっており、
f4:前記前方バー及び中央バーの拡開方向に作用する弾性復元力により、前記両フック部がそれぞれ前記ピンの首部に嵌り込み、
g4:前記前フレーム及び後フレームが起立状態に保持され、前記前フレーム及び後フレームとの間の設置バーにまな板を載置可能に形成したことを特徴とする流し台のシンク。」


(4)本件発明とイ号製品との比較
ア ピンの位置
ピンの位置は、イ号製品においては、膨出部をまたぐことのない段縁部上に固定されている。
従って、イ号製品においては、ピンの上方にまな板を載置すると、膨出部の奥側の後壁面の清掃時にまな板が邪魔にならず、まな板を載置したままであっても、流し台シンクの膨出部の奥側の後壁面の清掃が支障なく行えることとなっている。
本件発明では、ピン位置に関して請求項に限定がないものの、図1乃至図3によると、膨出部を左右方向にまたぐ位置にピンが突設されているように見える。
但し、本件発明では、ピンの上方にまな板を載置することとしているものの、まな板立てが簡単に取り外せるので、清掃等が容易に行えることとなっている。
即ち、分節した本件発明のBと、イ号製品のb4とは、ピンの位置において構成が全く異なり、清掃時にまな板立てが邪魔になる本件発明と、まな板立てが全く邪魔にならないイ号製品とは別発明であり、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属しない。

イ まな板立ての材料について
(ア)本件発明のまな板立て
本件発明の特許請求の範囲の記載から、本件発明のまな板立てが、「金属杆」のみで形成されていることは明らかであるが、
本件発明の明細書には下記の記載もある。
「上記の形状に形成されたシンク本体2には、図3並びに図4に示すように、後側段縁部2cに形成されたピン孔2f,2fに、大径の頭部3aの下方に細径の首部3bが設けられたピン3が、側面視、略T字形に突出するように取り付けられ、このピン3で、金属杆を屈曲して形成した小物入れ4や、まな板立て5を着脱可能に係止するようにしている。
なお、この金属杆は、その太さが、シンクの段縁部2cから突出したピン3の首部3bの長さを上回らない寸法であることとする。」(0015)
「まな板立て4は、図3に示すように、金属杆を下向き略コ字形に屈曲して形成した一対の垂直保持部4a,4aを、所定の間隙を有するように、その下端寄りで水平保持部4b,4bを介して連結し、さらにその下端の両側に略U字形の係止部4c,4cを、互いに外向きに連設したものであり、垂直保持部4aの下端が内方(互いに接近する方向)に押動された際に、外方(互いに隔離する方向)へと開く方向に作用する弾性復元力により、両側の係止部4c,4cがそれぞれピン3の首部3bに嵌まり込み、シンクの膨出部2b近傍の後側段縁部2cに起立状態で保持されるようになっている。」(0016)
また、本件発明の図3に明瞭に示されているように、係止部は『杆』で形成されていることが明白である。
なお、判定請求書5頁下9-8行において、『フック部22が金属板片・・・実質的な相違点ではない。』と記載されている。すなわち請求人は、「本件発明の係止部とイ号製品のフック部について、文言上同一ではない」と認めている。
また、平成21年6月25日提出の「意見書」において、下記の主張がなされている。
「また、引用文献5の小物収納ラック2aでは、支持脚部22,22の下端部間に取付底板23を架設する構造になっているので、この取付底板23が必要となる分だけ、材料及び製作コストが嵩むという欠点があるのに対し、両係止部をそれぞれピンの首部に嵌め込み、これによって垂直保持部を後側段縁部に起立状態に保持するので、上記のような取付底板23が不要であり、引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。」
ここでも、
「引用文献5は、支持脚部の下端部間に取付底板を架設する構造」となっているのに対して、本件発明は、
「両係止部をそれぞれピンの首部に嵌め込み、これによって垂直保持部を後側段縁部に起立状態に保持するので、上記のような取付底板23が不要である」
「(本件発明は)引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。」
と主張していることから、本件発明のまな板立ては、
「金属杆のみで形成されている。」
と考えることが妥当である。
また前記意見書において本件発明のまな板立てが
「金属杆のみで形成されている。」
ことを根拠に引用文献5と比較した主張を行った上で、特許査定となったのであるから、
「本件発明のまな板立ては金属杆以外の部材を含んで形成されている。」
とは、禁反言の原則からも主張できない。
更に、平成23年(行ケ)第10358号では、請求範囲に、
「保護回路が半導体スイッチを2つ以上有しており」
「保護回路が半導体スイッチを2つのみ有しており」
の解釈が考えられるとした上で、半導体スイッチを2つ有している実施例しか記載されていない発明の詳細な説明を参酌し、判決では、
「特許請求の範囲には、「2つの半導体スイッチ」と記載され、本願発明の詳細な説明にも、2つの半導体スイッチ(トランジスタ)がある場合の実施例が記載されており、それを超える数の半導体スイッチがある場合についての記載がない。」
と認定し、
「保護回路は半導体スイッチを2つのみ有しており」
と判断すべきであるとした。
この判決の趣旨からしても、本件発明の請求項1の解釈が、
「まな板立てが金属杆のみによって形成されている」
「まな板立てが金属杆及び他の部材によって形成されている」
のいずれも可能であったとしても、発明の詳細な説明及び図面には、
「まな板立てが金属杆のみによって形成されている」
例しか開示されておらず、かつ前記判決に比べて、意見書においても、
「まな板立てが金属杆のみによって形成されている」
と主張している以上、
「まな板立てが金属杆のみによって形成されている」
と解釈することが相当である。
なお、この判決は、たまたま見つけた事例判決ではなく、審査基準と共に発表された審査ハンドブックに付属書類Dとして添付された「審判決例集」の(51-1)-2に記載されている判決であり、審査官はこの判決に沿って審査を行っていくこととされている判決である。

(イ)イ号製品のまな板立て
イ号製品のまな板立ては、
「まな板立ては金属杆と板材とで形成されている。」
ものである。

(ウ)構成の分節C、c4について
前記したように、本件発明は、
「まな板立ては金属杆のみで形成されている」
ものであり、イ号製品は、
「まな板立ては金属杆及び板材とで形成されている。」
ものである。
そのことに起因する作用・効果は、特許権者が意見書において主張したように、「(本件発明は)引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。」と主張している。
引用文献5とイ号製品とは異なる構成であるものの、本件発明とイ号製品との比較として、「金属杆のみ」なのか「金属杆と板材」なのかという点では同様である。
そして、この相違は、相違点(解決手段の相違)に起因して、本件発明ではコスト低減が達成できる一方、イ号製品ではコスト低減ができないという作用・効果の相違をもたらすのであるから、実質同一ということはできない
実質同一とは、解決手段に若干の相違があっても、作用・効果が同一である場合の考え方であって、本件のように、解決手段及び作用・効果共に相違点がある場合には、別発明であり、実質同一の発明とはいわない。
すると、構成の分節Cとc4とは、解決手段及び作用・効果が相違するので、本件発明とイ号製品とは別発明であり、従って、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属しない。

ウ 垂直保持部、係止部及び起立状態での保持について
(ア)本件発明の垂直保持部
・・・(略)・・・「前後の垂直保持部は同一形状である」と考えることが妥当である。
・・・(略)・・・本件発明の「まな板立て」は、
「一対の係止部の前端から上方に垂直保持部を設け、同時に一対の係止部の後端から上方に垂直保持部を設け、前方視「門形状」であり、側方視「横コ字状」となっている。すなわち、前フレームと後フレームの間に係止部が位置する。」
ものである。
(イ)本件発明の係止部
・・・(略)・・・この「係止部」は、前記した「7-6-2-1.本件発明のまな板立て」で説明したように、「垂直保持部と共に金属杆で形成されている」ものである。
(ウ)本件発明の起立状態に保持
・・・(略)・・・請求項1記載の発明では「水平保持部」が特定されていないので、「まな板は、ピンの上端に当接することで、荷重をピンの上端によって支えられて垂直保持部間で自立している。」こととなっている。
(エ)イ号製品の垂直保持部
・・・(略)・・・「前フレームと後フレームとでは形状が異なっている。」こととなっている。
(オ)イ号製品のフック部
・・・(略)・・・係止部に相当する部分が、「板状のフック部」によって形成され、「フレーム等とは異なった部材としての板材」となっている。
(カ)イ号製品の起立状態に保持
・・・(略)・・・フック部がピンに固定されることによって、ピンから取付バー及び前方バーの長さだけ後方に位置する前フレームと、この前フレームの下バーに溶接され、かつ設置バー分だけ後方にずれて位置する後フレームとが、起立状態に保持されている。


(5)構成の相違について
ア 構成D、d4について
本件発明では、「垂直保持部」が、
「前後の垂直保持部は同一形状である」
となっているものの、 イ号製品では、
「前フレームと後フレームとでは形状が異なっている。」
こととなっている。
・・・(略)・・・
このような相違は、・・・(略)・・・
「清掃等に際してまな板立ての脱着が容易な本件発明」
と、
「まな板立てを取り外すことなく膨出部の清掃が行えるイ号製品」
との、解決課題の相違による。
すると、構成の分節Dとd4とは、解決手段及び解決課題が共に相違するので、本件発明とイ号製品とは別発明であり、また実質的に同一の発明にも該当せず、従って、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属しない。

イ 構成E、e4について
本件発明では「係止部」が、
「垂直保持部と共に金属杆で形成されている」
ものの、 イ号製品では、
「フレーム等とは異なった部材としての板材」
となっている。この点は解決手段の相違である。
このような解決手段の相違により、イ号製品は、特許権者が意見書で主張した、「(本件発明は)引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。」との解決課題を達成できないから、本件発明とイ号製品は別発明であるといえる。
・・・(略)・・・
すると、構成の分節Eとe4とは、解決手段及び解決課題が共に相違するので、本件発明とイ号製品とは別発明であり、また実質的に同一の発明にも該当せず、従って、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属しない。

ウ 構成F、G、f4、g4について
・・・(略)・・・本件発明の「まな板立て」は、
「一対の係止部の前端から上方に垂直保持部を設け、同時に一対の係止部の後端から上方に垂直保持部を設け、前方視「門形状」であり、側方視「横コ字状」となっている。」
ものである。
・・・(略)・・・
そして、実施の形態的には、膨出部の奥の上部にまな板が起立状態で維持されるので、膨出部の清掃を考慮して、着脱が容易なまな板立てとしたものである。
一方、イ号製品では、閉ループ状の後フレーム及びこれに溶接された前フレーム部分は、弾性変形及び弾性復元力を生じることがなく、本件発明でいう「垂直保持部の下端部に拡開方向に作用する弾性復元力」は生じない。つまり、イ号製品は本件発明の構成要件Fを満たしていない。
また、一対のピンを結んだ位置よりも取付バー及び前方バーの長さ分だけ後方にずれた位置に前フレームが形成され、この前フレームよりも更に後方に位置する後フレームとの間にまな板を載置できるようになっている。
イ号製品がこのような形状となっているのは、・・・(略)・・・「台所用シンクにまな板を載置したままでも清掃等が容易に行えるようにしたい」、及び「膨出部を含むシンク内とその上方での作業空間を広く確保したい」との解決課題を解決することができることとなっている。
・・・(略)・・・
「起立状態に維持」する際の「まな板」の起立位置が相違する(解決手段が相違する)と共に、清掃のために外すことを前提にしているか否かが相違し(解決課題が相違する)、更に着脱の態様も全く相違し、構成の分節構成F、Gとf4、g4とは、解決手段及び解決課題が共に相違するので、本件発明とイ号製品とは別発明であり、また実質的に同一の発明にも該当せず、従って、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属しない。


(6)まとめ
今回の判定請求は、
・まな板立てを流し台のシンクの後側段縁部に固定する。
・まな板立ての主材が金属杆で形成されている。
点では共通しているものの、本件発明とイ号製品とは、解決課題も具体的解決手段も異なっているのであるから、
「イ号図面並びにその説明書に記載のイ号製品は、特許第4371519号発明の技術的範囲に属しない」
ものである。
特に、「まな板立て」全体の構成については、意見書における特許権者の主張との整合性から、前記結論が得られるものである。



第4 イ号物件
1 請求人及び被請求人の主張するイ号物件の構成
請求人が主張するイ号物件の構成a4ないしg4に対して(上記第3の1(1)を参照。)、被請求人は、構成a4については認めているが、構成b4ないしg4については争っている(上記第3の2(3)を参照。)。

以下、当審の判断において、イ号物件の構成a4ないしg4について数字4を省略し、構成aないしgと表記する。


2 当審によるイ号物件の特定
(1)提出書面の記載事項
ア 判定請求書に添付したイ号図面(図1ないし2)から、判定請求書に添付したイ号説明書及び当該イ号説明書に関する被請求人の主張も参酌して、以下の事項が認定できる。

(ア)流し台のシンクである。

(イ)シンク本体(1)の後壁面(11)に、後方に湾曲した膨出部(10)が設けられる。

(ウ)膨出部(10)の上端の右側に、水平な段縁部(シンクの後側段縁部)(12)が平面視で略L字形をなして連なる。
そして、後側段縁部(12)に、細径の首部(15)を有する一対のピン(13)が所定の間隔を有して上方突設される。

(エ)一対のピン(13)に、まな板立て(2)が係脱可能に係止される。

(オ)まな板立て(2)の構成について
a まな板立て(2)は、前フレーム(20)と、後フレーム(21)と、左右のフック部(22)とで構成される。
b 前フレーム(20)は、左右に延びる前上バーと、前上バーの左右両端から下方に延びる左右の前サイドバーと、左右の前サイドバーの最下位置から左右方向内側に延びる左右の前下バーと、左右の前下バーの内方端から前方に延びる左右の前方バーと、左右の前方バーの先端から下方に延びる左右の中央バーと、左右の中央バーの最下位置から前方に延びる左右の取付バー(23)とを備え、金属杆からなる。
c 後フレーム(21)は、左右に延びると共に、前上バーよりも高い位置に設けられた後上バーと、後上バーの左右両端から下方に延びる左右の後サイドバーと、左右の後サイドバーの最下位置から前方に延びる左右の設置バーと、左右の設置バーの前端同士を繋ぐ左右方向の連結バー(24)とを備え、金属杆からなる。設置バーは、まな板の設置部分となる。
d 前上バー及び左右の前サイドバーと後上バー及び左右の後サイドバーとが前後方向に設置バーの長さ分の間隙を有するように、左右の前下バーに連結バー(24)が溶接されている。
e 左右のフック部(22)は、一対の金属板片からなる。一対の金属板片のそれぞれは、平面視ほぼC字状をなすものであって、左右の取付バー(23)の先端部に溶接され、互いに左右方向外側に開口する係止凹部を備える。
f aないしeを踏まえると、まな板立て(2)は、金属杆を屈曲したフレーム(前フレーム(20)及び後フレーム(21))の一部に、金属板片(フック部(22))を溶接して形成されたものである。

(カ)前フレーム(20)及び後フレーム(21)は、後側段縁部(12)に起立状態に保持される。

イ まな板立て(2)のシンク本体(1)に対する装着について
(ア)イ号説明書には、まな板立て(2)の装着について、「まな板立て2をシンク本体1に装着するには、フック部22同士が互いに近づくように、前フレーム20・・・左右方向内側に屈曲させる。この状態で、各フック部22をそれぞれピン13の首部15に引っ掛けて手を離す。
すると、・・・の弾性復元力により、各フック部22がピン16の首部15に引っ掛かった状態が維持され、まな板立て2が起立状態に保持される。」という記載がある(「4.まな板の装着方法」を参照。)。ただし、「・・・」の部分については、請求人と被請求人とで見解が異なる。
(イ)上記のように「各フック部22同士が互いに近づくように」前フレーム(20)を「左右方向内側に屈曲させる」ためには、「前フレーム(20)において各フック部(22)になるべく近い箇所」を左右方向内側に押動することが効果的であることは、構造上明らかである。図1から、「前フレーム(20)において各フック部(22)になるべく近い箇所」は、前フレーム(20)の中央バー及び取付バー(23)である。
(ウ)以上から、「前記前フレーム(20)の中央バー及び取付バー(23)に拡開方向に作用する弾性復元力により、前記両フック部(22)がそれぞれ前記ピン(13)の首部(15)に嵌り込む」という事項を認定できる。


(2)イ号物件
上記(1)を踏まえ、判定請求書、判定請求書に添付された甲第1ないし4号証、並びに判定事件答弁書の記載を参酌して、イ号物件を上記構成要件AないしGに対応させて整理すると、イ号物件は以下のとおり分説した構成を具備するものと認められる(構成ごとに記号aないしgを付した。)。

「a:シンク本体(1)の後壁面(11)に、後方に湾曲した膨出部(10)が設けられると共に、
b:該膨出部(10)の上端の右側に平面視で略L字形をなして連なるシンクの後側段縁部(12)に、細径の首部(15)を有する一対のピン(13)が所定の間隔を有して上方突設され、
c:該ピン(13)に、金属杆を屈曲したフレームの一部に、金属板片を溶接して形成されたまな板立て(2)が係脱可能に係止される流し台シンクであって、
d:前記まな板立て(2)は、左右に延びる前上バーと、前上バーの左右両端から下方に延びる左右の前サイドバーと、左右の前サイドバーの最下位置から左右方向内側に延びる左右の前下バーと、左右の前下バーの内方端から前方に延びる左右の前方バーと、左右の前方バーの先端から下方に延びる左右の中央バーと、左右の中央バーの最下位置から前方に延びる左右の取付バー(23)とを備えた前フレーム(20)と、
左右に延びると共に、前上バーよりも高い位置に設けられた後上バーと、後上バーの左右両端から下方に延びる左右の後サイドバーと、左右の後サイドバーの最下位置から前方に延びる左右の設置バー(まな板の設置部分)と、左右の設置バーの前端同士を繋ぐ左右方向の連結バー(24)とを備え、前上バー及び左右の前サイドバーと後上バー及び左右の後サイドバーとが前後方向に設置バーの長さ分の間隙を有するように、左右の前下バーに連結バー(24)が溶接された後フレーム(21)と、
e:前フレーム(20)の左右の中央バーの最下位置から前方に延びる左右の取付バー(23)の先端部に溶接され、左右方向外側に開口するほぼC字状の係止凹部を備える金属板片からなる左右のフック部(22)とを有し、
f:前記前フレーム(20)の中央バー及び取付バー(23)に拡開方向に作用する弾性復元力により、前記両フック部(22)がそれぞれ前記ピン(13)の首部(15)に嵌り込み、
g:前記前フレーム(20)及び後フレーム(21)が後側段縁部(12)に起立状態に保持されるようになっている流し台のシンク。」


(3)被請求人の主張について
ア イ号物件の構成bについて
被請求人は、イ号物件の構成bにおいて「一対のピンを直線で結んだときに前記膨出部の上方を横切ることがない位置で、」と特定するよう主張している(上記第3の2(3)を参照。)。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Bにおいて、一対のピン(13)を結ぶ直線と膨出部(10)の上方との位置関係は特定されていないから、一対のピン(13)が所定の間隔を有して上方突設されていればよく、一対のピン(13)を結ぶ直線と膨出部(10)の上方との位置関係は問わないと解される。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

イ イ号物件の構成cについて
被請求人は、イ号物件の構成cにおいて「金属杆を屈曲したフレーム及びバーと共に、その一部に板材を溶接して形成されたまな板立て」と特定するよう主張している(上記第3の2(3)を参照。)。
しかしながら、バーはフレームの構成要素であるから(上記2(1)ア(オ)を参照。)、「金属杆を屈曲したフレーム及びバー」において「及びバー」の箇所は不要である。
また、フック部(22)が金属板片からなることは被請求人も認めているのであるから(上記第3の2(2)イを参照。)、「板材を溶接して」ではなく「金属板片を溶接して」と特定するのが妥当である。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

ウ イ号物件の構成eについて
被請求人は、イ号物件の構成eにおいて「板状のフック部」と特定するよう主張している(上記第3の2(3)を参照。)。
しかしながら、フック部(22)が金属板片からなることは被請求人も認めているのであるから(上記第3の2(2)イを参照。)、「フック部」(22)について「板状の」ではなく「金属板片からなる」と特定するのが妥当である。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

エ イ号物件の構成fについて
被請求人は、イ号物件の構成fにおいて「前記前方バー及び中央バーの拡開方向に作用する弾性復元力とにより、前記両フック部がそれぞれ前記ピンの首部に嵌り込み、」と特定するよう主張している(上記第3の2(3)を参照。)。
しかしながら、上記2(1)イで述べたとおり、イ号図面及びその説明書から「前記前フレーム(20)の中央バー及び取付バー(23)に拡開方向に作用する弾性復元力により、」という事項が認定できるから、被請求人の上記主張は採用できない。

オ イ号物件の構成gについて
被請求人は、イ号物件の構成gにおいて「前記前フレーム及び後フレームとの間の設置バーにまな板を載置可能に形成した」と特定するよう主張している(上記第3の2(3)を参照。)。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Gにおいて、まな板の載置箇所は特定されていないから、前記垂直保持部(4a)が後側段縁部(2c)に起立状態で保持されていればよく、まな板の載置箇所は問わないと解される。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。



第5 対比・判断
1 構成要件の充足性について
イ号物件が、本件特許発明の構成要件AないしGを充足するか否かについて検討する。

(1)構成要件Aの充足性について
本件特許発明の構成要件Aとイ号物件の構成aとを対比すると、構成aの「シンク本体(1)の後壁面(11)に、後方に湾曲した膨出部(10)が設けられる」は、構成要件Aの「シンク本体(2)の後壁面(2a)に、後方に湾曲した膨出部(2b)が設けられる」に該当する。
よって、イ号物件の構成aは、本件特許発明の構成要件Aを充足する。


(2)構成要件Bの充足性について
ア 対比
本件特許発明の構成要件Bとイ号物件の構成bとを対比すると、構成bの「該膨出部(10)の上端の右側に平面視で略L字形をなして連なる」は構成要件Bの「該膨出部(2b)の上端に連続した」に該当する。
そして、構成bの「シンクの後側段縁部(12)に、細径の首部(15)を有する一対のピン(13)が所定の間隔を有して上方突設され」は、構成要件Bの「シンクの後側段縁部(2c)に、細径の首部(3b)を有する一対のピン(3)が、所定の間隔を有して上方突設され」に該当する。
したがって、構成bの「該膨出部(10)の上端の右側に平面視で略L字形をなして連なるシンクの後側段縁部(12)に、細径の首部(15)を有する一対のピン(13)が所定の間隔を有して上方突設され」は、構成要件Bの「該膨出部(2b)の上端に連続したシンクの後側段縁部(2c)に、細径の首部(3b)を有する一対のピン(3)が、所定の間隔を有して上方突設され」に該当する。
よって、イ号物件の構成bは、本件特許発明の構成要件Bを充足する。

イ 被請求人の主張について
被請求人は、
「ピンの位置
ピンの位置は、イ号製品においては、膨出部をまたぐことのない段縁部上に固定されている。
従って、イ号製品においては、ピンの上方にまな板を載置すると、膨出部の奥側の後壁面の清掃時にまな板が邪魔にならず、まな板を載置したままであっても、流し台シンクの膨出部の奥側の後壁面の清掃が支障なく行えることとなっている。
本件発明では、ピン位置に関して請求項に限定がないものの、図1乃至図3によると、膨出部を左右方向にまたぐ位置にピンが突設されているように見える。
但し、本件発明では、ピンの上方にまな板を載置することとしているものの、まな板立てが簡単に取り外せるので、清掃等が容易に行えることとなっている。
即ち、分節した本件発明のBと、イ号製品のb4とは、ピンの位置において構成が全く異なり、清掃時にまな板立てが邪魔になる本件発明と、まな板立てが全く邪魔にならないイ号製品とは別発明であり、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属しない。」と主張している(上記第3の2(4)アを参照。)。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Bの記載では、膨出部(10)を左右方向にまたぐ位置に一対のピン(13)が突設されることは特定されていないのであるから、一対のピン(13)が膨出部(10)を左右方向にまたぐか否かを問わないといえる。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。


(3)構成要件Cの充足性について
ア 対比
本件特許発明の構成要件Cとイ号物件の構成cとを対比する。
まず、両者は「該ピンに、」「まな板立てが係脱可能に係止される流し台シンク」という点で一致する。
そして、構成cの「金属杆を屈曲したフレームの一部に、金属板片を溶接して形成された」「まな板立て(2)」が、構成要件Cの「金属杆を屈曲して形成された」「まな板立て(4)」に対応する。
したがって、構成cの「金属杆を屈曲したフレームの一部に、金属板片を溶接して形成された」が構成要件Cの「金属杆を屈曲して形成された」を充足するか否かが争点となる。

イ 本件特許発明の構成要件Cの解釈
(ア)本件特許発明の構成要件Cの記載
本件特許発明の構成要件Cの「金属杆を屈曲して形成されたまな板立て」との記載では、「金属杆のみ」とは特定されていないから、「まな板立てが金属杆のみで形成されている」との特定はないものと文言上は解釈できる。

(イ)本件特許発明の課題及び効果
本件特許発明は、「上記従来の流し台シンクが有していた問題点の解決」(段落【0008】)を課題とし、「シンクの後側段縁部に取り付けられた一対のピンに、まな板立てを着脱可能に取り付けるようにしたので、従来のようにシンクに小物入れ用のポケットを形成する必要がなく、シンクの構成が簡単となり、製造が容易になる。また、ポケットからの排水用の連通管を接続する作業も不要になり、その組立作業性が向上する。さらに清掃が困難で、不潔になり勝ちなポケットをなくしたので、衛生面での向上もはかられる」(段落【0024】)との効果を奏するものである。

(ウ)本件特許明細書及び図面の実施形態
本件特許明細書には、
「上記の形状に形成されたシンク本体2には、図3並びに図4に示すように、後側段縁部2cに形成されたピン孔2f,2fに、大径の頭部3aの下方に細径の首部3bが設けられたピン3が、側面視、略T字形に突出するように取り付けられ、このピン3で、金属杆を屈曲して形成した小物入れ4や、まな板立て5を着脱可能に係止するようにしている。
なお、この金属杆は、その太さが、シンクの段縁部2cから突出したピン3の首部3bの長さを上回らない寸法であることとする。」(段落【0015】)(当審注:「小物入れ4や、まな板立て5を」については、符号が逆である。)
「まな板立て4は、図3に示すように、金属杆を下向き略コ字形に屈曲して形成した一対の垂直保持部4a,4aを、所定の間隙を有するように、その下端寄りで水平保持部4b,4bを介して連結し、さらにその下端の両側に略U字形の係止部4c,4cを、互いに外向きに連設したものであり、垂直保持部4aの下端が内方(互いに接近する方向)に押動された際に、外方(互いに隔離する方向)へと開く方向に作用する弾性復元力により、両側の係止部4c,4cがそれぞれピン3の首部3bに嵌まり込み、シンクの膨出部2b近傍の後側段縁部2cに起立状態で保持されるようになっている。」(段落【0016】)との記載がある。
図3を参照すると、実施形態では、係止部(4c)も含めてまな板立て(4)の全体が金属杆で形成されていると認められる。
しかしながら、上記の実施形態は、本件特許発明の1例に過ぎないものであって、本件特許明細書及び図面には、係止部(4c)を金属杆で形成する点が特別な技術的特徴である旨の記載はない。
そして、まな板立て(4)の係止部(4c)が金属杆で形成されていない場合であっても、垂直保持部(4a)が金属杆で形成され、弾性復元力を有していれば、「シンクの後側段縁部に取り付けられた一対のピンに、まな板立てを着脱可能に取り付けるようにした」構成となり、上記(イ)の課題を解決して上記の効果を奏することは明らかであるから、係止部(4c)の材料は本件特許発明の課題解決や効果には何ら影響しないといえる。
このことは、出願当初の明細書の特許請求の範囲において、請求項4に「上記まな板立ては、下向き略コ字形の一対の垂直保持部が、所定の間隙を有するように連結され、下端に係止部が外向きに設けられたものであり」と、係止部(4c)が任意付加的構成として記載されていたことからも明らかである。
してみると、本件特許発明の技術的特徴は、金属杆で形成された垂直保持部(4a)が有する開拡方向への弾性復元力によって、係止部(4c)の首部(3b)に対する嵌め込み状態を維持し、まな板立て(4)を起立状態に保持する点(構成要件F及びG)にあるといえるから、当該技術的特徴が係止部(4c)の構成材料(金属杆であるか金属板片であるか)によらないことは、当業者に明らかである。
したがって、本件特許発明の当該技術的特徴を考慮すれば、まな板立て(4)の付加部分である係止部(4c)の構成材料は金属杆に限定されず、他の材料も採用できることは自明といえる。
以上から、係止部(4c)を金属杆以外の材料で形成することは、本件特許明細書に記載されているに等しい事項である。

(エ)本件特許の審査の経緯
請求人は、平成21年6月25日付け意見書において、
「d) 引用文献5との対比
引用文献5(特開平11-318730号公報)には、両支持脚部22,22の下端部間に取付底板23が架設され、この取付底板23に、大孔部23a1と小孔部23a2とからなる係止孔23aが形成された、まな板たてとしての機能を有する小物収納ラック2aが記載されています(引用文献5の図3参照)。
・・・(略)・・・
また、引用文献5の小物収納ラック2aでは、支持脚部22,22の下端部間に取付底板23を架設する構造になっているので、この取付底板23が必要となる分だけ、材料及び製作コストが嵩むという欠点があるのに対し、両係止部をそれぞれピンの首部に嵌め込み、これによって垂直保持部を後側段縁部に起立状態に保持するので、上記のような取付底板23が不要であり、引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。
このように、請求項1発明は、引用文献5の小物収納ラック2aに比べて有利な作用効果を奏するので、かかる観点からも、引用文献5の小物収納ラック2aに基づいて当業者が容易に想到することができたものではありません。」と主張している。
ここで、引用文献5の図3の小物収納ラック(2a)において、取付底板(23)は、「両支持脚部(22)(22)の下端部間にわたって配置され、略長方形状をなしており、当該長方形の長辺は、まな板(イ)の長辺と同程度の長さである。」「小物収納ラック(2a)をシンク後方天端面(12)に凹設された凹所(13)に取り付ける際には、取付底板(23)に設けられている各係止孔(23a)の大孔部(23a1)に、凹所(13)の底面(13a)に突設されている係止突部(13b)の頭部を挿入し、次いで各係止孔(23a)をずらしてその小孔部(23a2)に係止突部(13b)の首部を挿入して係止する。」という構成を有している。
そうすると、まな板立ての取り付け構造として、引用文献5の取付底板(23)は、イ号物件のフック部(22)と大きさ及び形状が相違しているから、引用文献5の図3の小物収納ラック(2a)は、イ号物件のまな板立て(2)とは別発明といえる。
したがって、意見書の当該主張は、本件特許発明を、取付底板(23)を用いる引用発明と対比した場合において、有利な効果を主張したに過ぎず、イ号物件のまな板立て(2)のようにフック部(係止部)だけを金属板片で形成する場合を、本件特許発明の技術的範囲から除外したものとはいえない。

(オ)以上から、本件特許発明の構成要件Cの「まな板立て(4)」について、「金属杆を屈曲して形成された」の範囲には、係止部(4c)を金属板片で形成し、垂直保持部(4a)を屈曲した金属杆で形成したものが含まれることは明らかである。

ウ 充足性について
したがって、構成cの「金属杆を屈曲したフレームの一部に、金属板片を溶接して形成された」は、構成要件Cの「金属杆を屈曲して形成された」を充足する。

エ 被請求人の主張について
(ア)被請求人は、
「 本件発明の特許請求の範囲の記載から、本件発明のまな板立てが、「金属杆」のみで形成されていることは明らかであるが、
本件発明の明細書には下記の記載もある。
「上記の形状に形成されたシンク本体2には、図3並びに図4に示すように、後側段縁部2cに形成されたピン孔2f,2fに、大径の頭部3aの下方に細径の首部3bが設けられたピン3が、側面視、略T字形に突出するように取り付けられ、このピン3で、金属杆を屈曲して形成した小物入れ4や、まな板立て5を着脱可能に係止するようにしている。
なお、この金属杆は、その太さが、シンクの段縁部2cから突出したピン3の首部3bの長さを上回らない寸法であることとする。」(0015)
「まな板立て4は、図3に示すように、金属杆を下向き略コ字形に屈曲して形成した一対の垂直保持部4a,4aを、所定の間隙を有するように、その下端寄りで水平保持部4b,4bを介して連結し、さらにその下端の両側に略U字形の係止部4c,4cを、互いに外向きに連設したものであり、垂直保持部4aの下端が内方(互いに接近する方向)に押動された際に、外方(互いに隔離する方向)へと開く方向に作用する弾性復元力により、両側の係止部4c,4cがそれぞれピン3の首部3bに嵌まり込み、シンクの膨出部2b近傍の後側段縁部2cに起立状態で保持されるようになっている。」(0016)
また、本件発明の図3に明瞭に示されているように、係止部は『杆』で形成されていることが明白である。」と主張している(上記第3の2(4)イ(ア)を参照。)。
しかしながら、上記イ(ア)ないし(ウ)で説示したとおりであるから、被請求人の上記主張は採用できない。

(イ)被請求人は、
「 また、平成21年6月25日提出の「意見書」において、下記の主張がなされている。
「また、引用文献5の小物収納ラック2aでは、支持脚部22,22の下端部間に取付底板23を架設する構造になっているので、この取付底板23が必要となる分だけ、材料及び製作コストが嵩むという欠点があるのに対し、両係止部をそれぞれピンの首部に嵌め込み、これによって垂直保持部を後側段縁部に起立状態に保持するので、上記のような取付底板23が不要であり、引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。」
ここでも、
「引用文献5は、支持脚部の下端部間に取付底板を架設する構造」となっているのに対して、本件発明は、
「両係止部をそれぞれピンの首部に嵌め込み、これによって垂直保持部を後側段縁部に起立状態に保持するので、上記のような取付底板23が不要である」
「(本件発明は)引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。」
と主張していることから、本件発明のまな板立ては、
「金属杆のみで形成されている。」
と考えることが妥当である。
また前記意見書において本件発明のまな板立てが
「金属杆のみで形成されている。」
ことを根拠に引用文献5と比較した主張を行った上で、特許査定となったのであるから、
「本件発明のまな板立ては金属杆以外の部材を含んで形成されている。」
とは、禁反言の原則からも主張できない。」と主張している(上記第3の2(4)イ(ア)を参照。)。
しかしながら、上記イ(エ)で説示したとおりであるから、被請求人の上記主張は採用できない。

(ウ)被請求人は、
「 更に、平成23年(行ケ)第10358号では、請求範囲に、
「保護回路が半導体スイッチを2つ以上有しており」
「保護回路が半導体スイッチを2つのみ有しており」
の解釈が考えられるとした上で、半導体スイッチを2つ有している実施例しか記載されていない発明の詳細な説明を参酌し、判決では、
「特許請求の範囲には、「2つの半導体スイッチ」と記載され、本願発明の詳細な説明にも、2つの半導体スイッチ(トランジスタ)がある場合の実施例が記載されており、それを超える数の半導体スイッチがある場合についての記載がない。」
と認定し、
「保護回路は半導体スイッチを2つのみ有しており」
と判断すべきであるとした。
この判決の趣旨からしても、本件発明の請求項1の解釈が、
「まな板立てが金属杆のみによって形成されている」
「まな板立てが金属杆及び他の部材によって形成されている」
のいずれも可能であったとしても、発明の詳細な説明及び図面には、
「まな板立てが金属杆のみによって形成されている」
例しか開示されておらず、かつ前記判決に比べて、意見書においても、
「まな板立てが金属杆のみによって形成されている」
と主張している以上、
「まな板立てが金属杆のみによって形成されている」
と解釈することが相当である。
なお、この判決は、たまたま見つけた事例判決ではなく、審査基準と共に発表された審査ハンドブックに付属書類Dとして添付された「審判決例集」の(51-1)-2に記載されている判決であり、審査官はこの判決に沿って審査を行っていくこととされている判決である。」と主張している(上記第3の2(4)イ(ア)を参照。)。
しかしながら、平成23年(行ケ)第10358号は、発明の進歩性の判断における請求項1の記載の解釈に関する判決であるから、特許後の権利範囲の解釈とは事案が異なる。
また、審査ハンドブックの付属書Dの審判決例集は、具体的な事案に「特許・実用新案審査基準」の当てはめを検討する際の参考資料に過ぎず、本件判定の指針となるものではない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

(エ)被請求人は、
「構成の分節C、c4について
前記したように、本件発明は、
「まな板立ては金属杆のみで形成されている」
ものであり、イ号製品は、
「まな板立ては金属杆及び板材とで形成されている。」
ものである。
そのことに起因する作用・効果は、特許権者が意見書において主張したように、「(本件発明は)引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。」と主張している。
引用文献5とイ号製品とは異なる構成であるものの、本件発明とイ号製品との比較として、「金属杆のみ」なのか「金属杆と板材」なのかという点では同様である。
そして、この相違は、相違点(解決手段の相違)に起因して、本件発明ではコスト低減が達成できる一方、イ号製品ではコスト低減ができないという作用・効果の相違をもたらすのであるから、実質同一ということはできない
実質同一とは、解決手段に若干の相違があっても、作用・効果が同一である場合の考え方であって、本件のように、解決手段及び作用・効果共に相違点がある場合には、別発明であり、実質同一の発明とはいわない。
すると、構成の分節Cとc4とは、解決手段及び作用・効果が相違するので、本件発明とイ号製品とは別発明であり、従って、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属しない。」と主張している(上記第3の2(4)イ(ウ)を参照。)。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Cの記載では、「まな板立て(4)」について「金属杆のみで形成された」とは特定されていないから、上記の相違点は認められない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

オ 小括
したがって、イ号物件の構成cは、本件特許発明の構成要件Cを充足する。


(4)構成要件Dの充足性について
ア 対比
本件特許発明の構成要件Dとイ号物件の構成dとを対比する。
まず、構成dの「前フレーム(20)」は、「左右に延びる前上バー」及び「前上バーの左右両端から下方に延びる左右の前サイドバー」を備えていることから、構成要件Dの「下向き略コ字形」を満たしている。
また、構成dの「後フレーム(21)」は、「左右に延びると共に、前上バーより高い位置に設けられた後上バー」及び「後上バーの左右両端から下方に延びる左右の後サイドバー」を備えていることから、構成要件Dの「下向き略コ字形」を満たしている。
そして、構成dの「前上バー及び左右の前サイドバーと後上バー及び左右の後サイドバーとが前後方向に設置バーの長さ分の間隙を有するように、左右の前下バーに連結バー(24)が溶接された」が構成要件Dの「前後方向に所定の間隙を有するように連結された」に該当するから、構成dの「前フレーム(20)」及び「後フレーム(21)」は、構成要件Dの「前後の垂直保持部(4a)」に該当する。
したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足する。

イ 被請求人の主張について
本件特許発明の構成要件D及びイ号物件の構成dについて、被請求人は、
「 本件発明では、「垂直保持部」が、
「前後の垂直保持部は同一形状である」
となっているものの、 イ号製品では、
「前フレームと後フレームとでは形状が異なっている。」
こととなっている。」と主張している(上記第3の2(5)アを参照。)。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Dにおいて、前後の垂直保持部(4a)が同一形状であるか否かは特定されていないから、前後の垂直保持部(4a)が下向き略コ字形であればよく、前後の垂直保持部(4a)が同一形状であることは問わないと解される。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。


(5)構成要件Eの充足性について
ア 本件特許発明の構成要件Eの解釈
(ア)本件特許発明の構成要件Eの記載
本件特許発明の構成要件Eの「この垂直保持部(4a)」との記載では、「前後の2つ両方の垂直保持部」とは特定されていないから、「前後の2つ両方の垂直保持部」との特定はないものと文言上は解釈できる。
(イ)本件特許発明の課題及び効果
本件特許発明の課題及び効果については、上記(3)イ(イ)で述べたとおりである。
(ウ)本件特許明細書及び図面の実施形態
本件特許明細書には、
「まな板立て4は、図3に示すように、金属杆を下向き略コ字形に屈曲して形成した一対の垂直保持部4a,4aを、所定の間隙を有するように、その下端寄りで水平保持部4b,4bを介して連結し、さらにその下端の両側に略U字形の係止部4c,4cを、互いに外向きに連設したものであり、垂直保持部4aの下端が内方(互いに接近する方向)に押動された際に、外方(互いに隔離する方向)へと開く方向に作用する弾性復元力により、両側の係止部4c,4cがそれぞれピン3の首部3bに嵌まり込み、シンクの膨出部2b近傍の後側段縁部2cに起立状態で保持されるようになっている。」(段落【0016】)との記載がある。
図3を参照すると、実施形態では、前後の2つ両方の垂直保持部の下端部に係止部(4c)が形成されていると認められる。
しかしながら、上記の実施形態は、本件特許発明の1例に過ぎず、本件特許明細書及び図面には、前後の2つ両方の垂直保持部(4a)の下端部に係止部(4c)が形成されている点が特別な技術的特徴である旨の記載はない。
そして、一方の垂直保持部(4a)の下端部に係止部(4c)が形成されている場合であっても、「シンクの後側段縁部に取り付けられた一対のピンに、まな板立てを着脱可能に取り付けるようにした」構成ならば、上記(イ)の課題を解決して上記の効果を奏することは明らかであるから、係止部(4c)の取付位置が「前後の2つ両方の垂直保持部の下端部」であるか「一方の垂直保持部(4a)の下端部」であるかは、本件特許発明の課題解決や効果には何ら影響しないといえる。
してみると、係止部(4c)に関して、その位置を特定する記載である、「この垂直保持部(4a)の下端部」を「前後の2つ両方の垂直保持部(4a)の下端部」と限定して解釈すべき根拠は、本件特許明細書の記載からは見出せない。
(エ)したがって、本件特許発明の構成要件Eの「この垂直保持部(4a)」は、「前後の2つ両方の垂直保持部」に限定されず、「前後の2つの垂直保持部」のうちの片方でもよいと解するのが妥当である。

イ 対比
本件特許発明の構成要件Eとイ号物件の構成eとを対比する。
係止部(フック部)の形状について、構成eの「ほぼC字状」は「C字状に近い」という意味であって、「U字状」は90°回転させると「C字状に近い」といえるから、構成eの「ほぼC字状」及び構成要件Eの「ほぼU字状」に実質的な違いはないといえる。
そして、構成eの「係止凹部を備える」は、構成要件Eの「係止部(4c)」について「開口するほぼU字状」であることと実質的な違いはないといえる。
また、上記(3)イで検討したとおり、「金属板片からなる」「フック部」は、「係止部(4c)」に該当する。
してみると、構成eの「左右方向外側に開口するほぼC字状の係止凹部を備える金属板片からなる左右のフック部(22)」は、構成要件Eの「左右方向外側に開口するほぼU字状の左右の係止部(4c)」に該当する。
そして、構成eの「前フレーム(20)」が構成要件Eの「この垂直保持部(4a)」に該当するものであり、構成eの「前フレーム(20)の左右の中央バーの最下位置から前方に延びる左右の取付バー(23)の先端部」は、構成要件Eの「この垂直保持部(4a)の下端部」に該当する。
してみると、構成eの「前フレーム(20)の左右の中央バーの最下位置から前方に延びる左右の取付バー(23)の先端部に溶接され、」及び「左右方向外側に開口するほぼC字状の係止凹部を備える金属板片からなる左右のフック部(22)」は、構成要件Eの「この垂直保持部(4a)の下端部において」及び「左右方向外側に開口するほぼU字状の左右の係止部(4c)」に該当する。
したがって、イ号物件の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足する。

ウ 被請求人の主張について
(ア)被請求人は、本件発明の垂直保持部について、
「・・・(略)・・・本件発明の「まな板立て」は、
「一対の係止部の前端から上方に垂直保持部を設け、同時に一対の係止部の後端から上方に垂直保持部を設け、前方視「門形状」であり、側方視「横コ字状」となっている。すなわち、前フレームと後フレームの間に係止部が位置する。」
ものである。」と主張している(上記第3の2(4)ウ(ア)を参照。)。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Eの記載では、前の垂直保持部(4a)と後の垂直保持部(4a)との間に係止部(4c)が位置することまでは特定されていないのであるから、被請求人の上記主張は採用できない。

(イ)被請求人は、
「構成E、e4について
本件発明では「係止部」が、
「垂直保持部と共に金属杆で形成されている」
ものの、 イ号製品では、
「フレーム等とは異なった部材としての板材」
となっている。この点は解決手段の相違である。
このような解決手段の相違により、イ号製品は、特許権者が意見書で主張した、「(本件発明は)引用文献5の小物収納ラック2aに比べて、取付部分の材料及び製作コストを低減できるという効果があります。」との解決課題を達成できないから、本件発明とイ号製品は別発明であるといえる。
・・・(略)・・・
すると、構成の分節Eとe4とは、解決手段及び解決課題が共に相違するので、本件発明とイ号製品とは別発明であり、また実質的に同一の発明にも該当せず、従って、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属しない。」と主張している(上記第3の2(5)イを参照。)。
しかしながら、上記(3)で構成要件Cについて検討したとおり、まな板立て(4)の付加部分である係止部(4c)等を含めて、全て金属杆で形成されるとまで特定されておらず、かつ、本件特許発明の構成要件Eの記載では、係止部(4c)が金属杆であるか否かは特定されていないのであるから、係止部(4c)が金属杆ではなく金属板片であるものも本件特許発明の構成要件Eの技術的範囲に含まれる。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。


(6)構成要件Fの充足性について
ア 対比
本件特許発明の構成要件Fとイ号物件の構成fとを対比すると、構成fの「前記両フック部(22)がそれぞれ前記ピン(13)の首部(15)に嵌り込み」は、構成要件Fの「前記両係止部(4c)がそれぞれ前記ピン(3)の首部(3b)に嵌り込み」に該当する。
そして、上記(5)で構成要件Eについて検討したのと同様に、構成要件Fの「前記垂直保持部(4a)」について、前後の2つ両方の垂直保持部とは特定されていないから、構成fの「前記前フレーム(20)」は構成要件Fの「前記垂直保持部(4a)」に該当するものであり、構成fの「中央バー及び取付バー(23)」は構成要件Fの「下端部」に該当する。
してみると、構成fの「前記前フレーム(20)の中央バー及び取付バー(23)に拡開方向に作用する弾性復元力により」は、構成要件Fの「前記垂直保持部(4a)の下端部に拡開方向に作用する弾性復元力により」に該当する。
したがって、イ号物件の構成fは、本件特許発明の構成要件Fを充足する。

イ 被請求人の主張について
被請求人は、本件特許発明の構成要件Fについて、
「イ号製品では、閉ループ状の後フレーム及びこれに溶接された前フレーム部分は、弾性変形及び弾性復元力を生じることがなく、本件発明でいう「垂直保持部の下端部に拡開方向に作用する弾性復元力」は生じない。つまり、イ号製品は本件発明の構成要件Fを満たしていない。」と主張している(上記第3の2(5)ウを参照。)。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Fの記載では、「前記垂直保持部(4a)の下端部」が「垂直保持部(4a)」において「下向き略コ字形」をなす部分における下端であること(言い換えると、下向き略コ字形の下端を意味すること)までは特定されておらず、上記(4)アで述べたように、前フレーム(20)及び後フレーム(21)の全体が「垂直保持部(4a)」に該当するものであるから、前フレーム(20)及び後フレーム(21)において下向き略コ字形でない部分(まな板立て(2)の脚部となる部分)が構成要件Fの「前記垂直保持部(4a)の下端部」に含まれる。
上記(3)イ(ウ)で述べたように、本件特許明細書及び図面の実施形態を踏まえると、本件特許発明の技術的特徴は、金属杆で形成された垂直保持部(4a)が有する開拡方向への弾性復元力によって、係止部(4c)の首部(3b)に対する嵌め込み状態を維持し、まな板立て(4)を起立状態に保持する点にあるといえる。イ号物件の「閉ループ状の後フレーム」及び「これに溶接された前下バー」には弾性変形及び弾性復元力を生じることがないとしても、前フレーム(20)の一部をなす中央バー及び取付バー(23)の部分(「前記垂直保持部(4a)の下端部」に該当)に弾性変形及び弾性復元力が作用するのであるから、構成fは当該技術的特徴を満たすとともに構成要件Fを満たしているといえる。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。


(7)構成要件Gの充足性について
本件特許発明の構成要件Gとイ号物件の構成gとを対比すると、構成gの「前記前フレーム(20)及び後フレーム(21)が後側段縁部(12)に起立状態に保持されるようになっている流し台のシンク」は、構成要件Gの「前記垂直保持部(4a)が後側段縁部(2c)に起立状態に保持されるようになっていることを特徴とする流し台のシンク」に該当する。
したがって、イ号物件の構成gは、本件特許発明の構成要件Gを充足する。


2 小括
上記1のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件AないしGを充足する。



第6 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件AないしGを充足するから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2017-03-28 
出願番号 特願2000-26933(P2000-26933)
審決分類 P 1 2・ 1- YA (E03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邉 聡  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 藤田 都志行
赤木 啓二
登録日 2009-09-11 
登録番号 特許第4371519号(P4371519)
発明の名称 流し台のシンク  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  
代理人 山口 義雄  

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