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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F02M
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F02M
管理番号 1327209
審判番号 訂正2017-390014  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-02-09 
確定日 2017-04-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5956633号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5956633号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第5956633号に係る出願は、平成27年3月13日に特許出願され、平成28年6月24日に特許権の設定登録がされたものであって、平成29年2月9日に本件訂正審判が請求されたものである。

2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の要旨は、特許第5956633号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲のとおり、すなわち下記(1)ないし(8)のとおり訂正することを求めるものである(なお、下線は訂正箇所を示すため請求人が付したものである。)。

(1)訂正事項1
本件特許明細書の段落【0002】において「サウンドクリエータ」と記載されているのを、「サウンドクリエータ(登録商標)」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の段落【0006】において「吸気音伝達装置(サウンドクリエータ系)の伝達管」と記載されているのを、「吸気音伝達装置の伝達管」に訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の段落【0007】ないし【0017】において「サウンドクリエータ系」と記載されているのを、「吸気音伝達系」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0008】、【0011】ないし【0014】、【0016】、【0017】、【0019】、【0026】、【0028】ないし【0030】、【0032】ないし【0034】、【0038】、【0040】ないし【0042】及び【0044】において「サウンドクリエータ」と記載されているのを、「振動体」に訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0026】、【0028】、【0029】、【0031】ないし【0034】、【0038】、【0040】ないし【0042】及び【0044】において「サウンドクリエータ装置」と記載されているのを、「吸気音伝達系」に訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許明細書の段落【0044】において「(サウンドクリエータ系)」と記載されているのを、削除する訂正をする。

(7)訂正事項7
本件特許請求の範囲の請求項1、3、4及び5において「サウンドクリエータ」と記載されているのを、「振動体」に訂正する。

(8)訂正事項8
本件特許請求の範囲の請求項1ないし5において「サウンドクリエータ系」と記載されているのを、「吸気音伝達系」に訂正する。

3 当審の判断
以下、訂正事項1ないし8について検討する。

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0002】において「サウンドクリエータ」と記載されているのを、「サウンドクリエータ(登録商標)」に訂正しようとするものである。

ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0002】において「サウンドクリエータ」と記載されているのを、誤記の訂正を目的として、「サウンドクリエータ(登録商標)」に訂正しようとするものである。
本件訂正前の明細書の段落【0002】において特許文献1(特許第4993755号公報)に記載された吸気音伝達装置についての説明中に記載されている「サウンドクリエータ」は、特許文献1の特許権者の一人である株式会社マーレフィルターシステムズが商標権を有する登録商標(商標登録第4814801号「サウンドクリエータ Sound Creator」)である。したがって、正しくは「サウンドクリエータ(登録商標)」と記載すべきところ、「サウンドクリエータ」と誤記していたものを、正しい記載に訂正するものであるから、訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0002】において、本件訂正前の「サウンドクリエータ」を、本件訂正後に「サウンドクリエータ(登録商標)」と訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0002】において、本件訂正前の「サウンドクリエータ」を、本件訂正後に「サウンドクリエータ(登録商標)」と訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 独立特許要件について
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0002】において、本件訂正前の「サウンドクリエータ」を、本件訂正後に「サウンドクリエータ(登録商標)」と訂正するものであるから、この訂正によって、新たな無効理由が発生することはない。
したがって、訂正事項1による訂正後の請求項1ないし5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

オ 小括
よって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項ないし第7号の規定に適合する。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的
訂正事項2は、明細書の段落【0006】において、本件訂正前に「吸気音伝達装置(サウンドクリエータ系)の伝達管」と記載されているのを、「吸気音伝達装置の伝達管」と訂正するものである。
本件訂正前の明細書に記載されている「吸気音伝達装置(サウンドクリエータ系)の伝達管」は、登録商標(商標登録第4814801号)を含んでいることから、明瞭でない記載であったところ、「(サウンドクリエータ系)」を削除することにより記載を明瞭にするものであるから、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、明細書の段落【0006】において、本件訂正前の「吸気音伝達装置(サウンドクリエータ系)の伝達管」という記載から、「(サウンドクリエータ系)」を削除して、「吸気音伝達装置の伝達管」に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項2は、明細書の段落【0006】において、本件訂正前の「吸気音伝達装置(サウンドクリエータ系)の伝達管」という記載から、「(サウンドクリエータ系)」を削除して、「吸気音伝達装置の伝達管」に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 独立特許要件について
訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について

ア 訂正の目的
訂正事項3は、明細書の段落【0007】ないし【0017】において、本件訂正前に「サウンドクリエータ系」と記載されているのを、「吸気音伝達系」に訂正するものである。
本件訂正前の明細書に記載されている「サウンドクリエータ系」は、登録商標(商標登録第4814801号)を含んでいることから、明瞭でない記載であったところ、一般的な技術用語である「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、明細書の段落【0007】ないし【0017】において、本件訂正前の明瞭でない記載である「サウンドクリエータ系」を、本件訂正後に一般的な技術用語である「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項3は、願書に添付した明細書の「吸気音伝達装置(サウンドクリエータ系)の伝達管」(段落【0006】)、「内燃機関3の吸気音を車室4に伝達するサウンドクリエータ装置50」(段落【0026】)等の記載に基づき、本件訂正前の明瞭でない記載である「サウンドクリエータ系」を、本件訂正後に一般的な技術用語である「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 独立特許要件について
訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項3は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について

ア 訂正の目的
訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0008】、【0011】ないし【0014】、【0016】及び【0017】、【0019】、【0026】、【0028】ないし【0030】、【0032】ないし【0034】、【0038】、【0040】ないし【0042】並びに【0044】において「サウンドクリエータ」と記載されているのを、「振動体」に訂正するものである。
本件訂正前の明細書に記載されている「サウンドクリエータ」は、登録商標(商標登録第4814801号)であることから、明瞭でない記載であったところ、本件訂正後に登録商標を含まない一般的な技術用語である「振動体」に訂正するものであるから、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、本件明細書中の「サウンドクリエータ」という明瞭でない記載を、本件訂正後に一般的な技術用語である「振動体」に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項4は、願書に添付した明細書の「吸気脈動によって振動する振動面及び振動面の振動を促進する蛇腹部を有し、導入管の一端を覆うように設けられる振動体(サウンドクリエータ)」(段落【0002】)、「吸気脈動により振動するサウンドクリエータ」(段落【0026】)、「サウンドクリエータ52は、特許文献1に記載のものと同様の構成、具体的には、蛇腹部52aと、蛇腹部52aの先端に設けられた振動板52bとを有する樹脂製部材であり、・・・蛇腹部52aにより支持された振動板52bが導入通路51aに導入された吸気脈動を受けることで振動し」(段落【0028】)等の記載に基づき、本件訂正前の明瞭でない記載である「サウンドクリエータ」を、本件訂正後に一般的な技術用語である「振動体」に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 独立特許要件について
訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項4は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について

ア 訂正の目的
訂正事項5は、本件特許明細書の段落【0026】、【0028】及び【0029】、【0031】ないし【0034】、【0036】、【0038】、【0040】ないし【0042】並びに【0044】において「サウンドクリエータ装置」と記載されているのを、「吸気音伝達系」に訂正するものである。
本件訂正前の明細書に記載されている「サウンドクリエータ装置」は、登録商標(商標登録第4814801号)を含むことから、明瞭でない記載であったところ、本件訂正後に、一般的な技術用語である「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、訂正事項5は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、本件訂正前の明細書に記載されている「サウンドクリエータ装置」という明瞭でない記載を、本件訂正後に、明細書中の一般的な技術用語である「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
なお、「サウンドクリエータ装置」を、「吸気音伝達装置」ではなく「吸気音伝達系」に訂正しているのは、仮に「サウンドクリエータ装置」を「吸気音伝達装置」へ訂正すると、明細書の段落【0008】に記載の「吸気音伝達装置(1)」や段落【0021】に記載の「吸気音伝達装置1」と区別がつかなくなるから、これを避けるためである。
この点については、本件訂正前の段落【0044】における「50 サウンドクリエータ装置(サウンドクリエータ系)」という記載からも分かるように、願書に添付した明細書において、「サウンドクリエータ装置50」と、「サウンドクリエータ系50」とは、同じものを意味していたから、「サウンドクリエータ装置」を、「吸気音伝達系」に訂正しても、不自然ではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項5は、願書に添付した明細書の「吸気音伝達装置(サウンドクリエータ系)の伝達管」(段落【0006】)、「サウンドクリエータ系(50)」(段落【0008】)、「サウンドクリエータ装置(サウンドクリエータ系)」(段落【0044】)等の記載に基づき、「吸気音伝達装置」のうちの「吸気音伝達」と、「サウンドクリエータ系」のうちの「系」とを合わせた一般的な用語である「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 独立特許要件について
訂正事項5は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項5は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6)本件訂正6について

ア 訂正の目的について
訂正事項6は、明細書の段落【0044】に記載された「(サウンドクリエータ系)」を削除する訂正をするものである。
訂正前の明細書における「(サウンドクリエータ系)」という記載は、登録商標(商標登録第4814801号)を含むことから、明瞭でない記載であったところ、「(サウンドクリエータ系)」という記載を削除する訂正をするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、明細書中の明瞭でない記載を削除することによって明瞭にするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、明細書中の明瞭でない記載を削除することによって明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 独立特許要件について
訂正事項6は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項6は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。

(7)本件訂正7について

ア 訂正の目的について
訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項1、3、4及び5における「サウンドクリエータ」を、「振動体」に訂正するものである。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3、4及び5に記載されていた「サウンドクリエータ」は、登録商標(商標登録第4814801号)であるから、明瞭でない記載であったところ、一般的な技術用語である「振動体」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、「サウンドクリエータ」を、一般的な技術用語である「振動体」に訂正するものである。
ここで、「振動体」は、「サウンドクリエータ」よりも広い概念を有するものであるが、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1において、「吸気脈動により振動する振動体」と限定され、請求項3ないし5において、「前記振動体」と引用されることから、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、願書に添付した明細書における「吸気脈動によって振動する振動面及び振動面の振動を促進する蛇腹部を有し、導入管の一端を覆うように設けられる振動体(サウンドクリエータ)」(段落【0002】)、「サウンドクリエータは、吸気脈動に応じて振動するように、吸気管から分岐する導入管の先端を塞ぐように設けられる。」(段落【0005】)、「吸気脈動により振動するサウンドクリエータ52」(段落【0026】)、「サウンドクリエータ52は、特許文献1に記載のものと同様の構成、具体的には、蛇腹部52aと、蛇腹部52aの先端に設けられた振動板52bとを有する樹脂製部材であり、導入管51が形成する導入通路51aと伝達管53が形成する伝達通路53aとを隔てるように設けられている。サウンドクリエータ52は、蛇腹部52aにより支持された振動板52bが導入通路51aに導入された吸気脈動を受けることで振動し、吸気音を伝達通路53aに放出する。」(段落【0028】)等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 独立特許要件について
訂正事項7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項7は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。

(8)本件訂正8について

ア 訂正の目的について
訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項1ないし5における「サウンドクリエータ系」を、「吸気音伝達系」に訂正するものである。
本件訂正前の特許請求の範囲に記載されている「サウンドクリエータ系」は、登録商標(商標登録第4814801号)を含むことから、明瞭でない記載であったところ、一般的な技術用語である「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項1ないし5における明瞭でない記載である「サウンドクリエータ系」を、明細書中の一般的な技術用語を用いて「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、願書に添付した明細書における「吸気音伝達装置(サウンドクリエータ系)の伝達管」(段落【0006】)、「第2吸気装置20には、内燃機関3の吸気音を車室4に伝達するサウンドクリエータ装置50が付設されている。サウンドクリエータ装置50は、一端(50a)が第2吸気装置20におけるインタークーラー24とスロットルバルブ25との間に接続され、吸気脈動を導入する導入通路51aを形成する導入管51と、導入管51の他端に取り付けられ、吸気脈動により振動するサウンドクリエータ52と、サウンドクリエータ52を介して導入管51の他端に接続されて車室4に連通し、サウンドクリエータ52が発した吸気音を車室4に伝達する伝達通路53aを形成する伝達管53とを備えている。」(段落【0026】)等の記載に基づき、特許請求の範囲の請求項1ないし5における明瞭でない記載である「サウンドクリエータ系」を、明細書中の一般的な用語を用いて「吸気音伝達系」に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 独立特許要件について
訂正事項8は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項8は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。

4 まとめ
したがって、本件訂正審判の請求に係る訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
また、本件訂正審判の請求に係る訂正事項2ないし8は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車両の吸気音伝達装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関の吸気音を車室に伝達する車両の吸気音伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸気脈動に起因して発生する音波(以下「吸気音」という)を車室内に伝達する吸気音伝達装置が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の吸気音伝達装置は、内燃機関の吸気通路に接続されて吸気系内の吸気脈動を導く導入管と、吸気脈動によって振動する振動面及び振動面の振動を促進する蛇腹部を有し、導入管の一端を覆うように設けられる振動体(サウンドクリエータ(登録商標))と、振動体を介して導入管と連接されると共に、その振動体の振動によって生じる吸気音のうち所定周波数帯の音圧を増大する共鳴管とを備えており、吸気音を放出する共鳴管の開口部は、吸気音が車室内で聞き易いようにエンジンルーム内の遮音され難い位置に配置されている。
【0003】
また、吸気管から分岐して吸気脈動を導く導入管の先端に、吸気脈動により振動するサウンドクリエータが設けられ、導入管に接続されてサウンドクリエータの発する吸気音を伝達する伝達管が車室に連通するように構成された吸気音伝達装置も公知である(例えば、特許文献2)。この吸気音伝達装置では、サウンドクリエータが発生する音が伝達管から車室に直接放出されるため、吸気音がより効果的に車室内に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4993755号公報
【特許文献2】特開2014-185602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、吸気管には、燃料タンクからの蒸発燃料や内燃機関で発生したブローバイガス等の燃料ガスを還流されるための燃料還流管が接続されていることがある。サウンドクリエータは、吸気脈動に応じて振動するように、吸気管から分岐する導入管の先端を塞ぐように設けられる。過給機が設けられていない内燃機関では通常、吸気管の内部は機関運転中、常に負圧になっているため、例えば劣化によりサウンドクリエータに孔が開いた場合やサウンドクリエータが外れた場合であっても、燃料ガスを含む空気が伝達管側に流れ込むことはない。
【0006】
しかしながら、サウンドクリエータが破損して導入管に孔が開いている状態では、機関停止後に吸気管内に残っている燃料ガスが吸気音伝達装置の伝達管を通って車室に流れ込む可能性がある。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑み、吸気系に還流された燃料ガスが吸気音伝達系を介して車室に流れ込むことを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、車両のエンジンルーム(2)に搭載される内燃機関(3)の吸気音を車室(4)に伝達する吸気音伝達装置(1)であって、前記内燃機関に接続される第1吸気系(10)及び第2吸気系(20)と、前記内燃機関又は燃料タンク(35)に接続される一端(30a、40a)、及び前記第1吸気系に接続される他端(30b、40b)を有する燃料還流系(30、40)と、前記第2吸気系に接続される一端(50a)、前記車室に連通する他端(50b)、及び前記第2吸気系側(51a)と前記車室側(52a)とを隔てるように設けられ、吸気脈動により振動する振動体(52)を有する吸気音伝達系(50)とを備える構成とする。
【0009】
この構成によれば、燃料還流系が第1吸気系に接続され、吸気音伝達系が第2吸気系に接続されるため、燃料還流系から吸気系に還流された燃料ガスが吸気音伝達系を介して車室に流れ込むことが防止される。
【0010】
また、上記の発明において、前記第1及び第2吸気系(10、20)は、それぞれ上流側から順に過給機(13、23)、インタークーラー(14、24)、スロットルバルブ(15、25)及び吸気マニホールド(16、26)を有し、吸気マニホールドにおいて互いに連通しており、前記吸気音伝達系の前記一端が、前記インタークーラー(24)と前記スロットルバルブ(25)との間に接続されている構成とすることができる。
【0011】
この構成によれば、吸気音伝達系がインタークーラーよりも下流側に接続され、過給機により加圧されて昇温した空気が吸気音伝達系に流れ込むことがないため、振動体の熱による劣化及び破損が抑制される。そのため、燃料還流系から第1吸気系に還流された燃料ガスが破損した吸気音伝達系を介して車室に流れ込むことが抑制される。
【0012】
また、上記の発明において、前記吸気音伝達系における前記振動体よりも前記第2吸気系側(51a)には、エンジン回転数に応じて通路面積(As)を制限するコントロールバルブ(55)が設けられている構成とすることができる。
【0013】
この構成によれば、振動体よりも第2吸気系側で吸気音伝達系の通路面積がエンジン回転数に応じてコントロールバルブにより制限されるため、車室に伝達される吸気音の音圧を所望に調整できる。また、振動体が破損した場合にも、燃料ガスが第2吸気系へ逆流することが抑制される。
【0014】
また、上記の発明において、前記コントロールバルブの開度は、前記振動体が破損した場合に前記第1吸気系からの空気が前記吸気マニホールド(16、26)を介して前記吸気音伝達系に逆流し得る値(A)よりも小さな値に設定されている構成とすることができる。
【0015】
この構成によれば、第1吸気系の空気が第2吸気系に逆流することが防止されるため、燃料ガスが吸気音伝達系に達することがない。
【0016】
また、上記の発明において、前記吸気音伝達系における前記一端から前記振動体までの距離(L)が、前記第2吸気系の1回の脈動によって空気が前記一端(50a)から前記吸気音伝達系を逆流し得る最大逆流到達距離よりも大きい構成とすることができる。
【0017】
この構成によれば、万が一、拡散等によって燃料ガスが第2吸気系を逆流し、吸気音伝達系の一端に達したとしても、第2吸気系の1回の脈動によって空気が一端から吸気音伝達系を逆流して振動体に達することが防止される。そのため、燃料ガスが吸気音伝達系を介して車室に流れ込むことはない。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明によれば、吸気系に還流された燃料ガスが吸気音伝達装置を介して車室に流れ込むことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る吸気音伝達装置の概略構成図
【図2】振動体の破損時における燃料ガスの吸気音伝達装置への流入状態を示す説明図
【図3】振動体に開いた孔の直径と空気の質量流量との相関を示すグラフ
【図4】エンジン回転数と逆流が発生する開口の直径との相関を示すグラフ
【図5】エンジン回転数と逆流が発生する開口面積及びコントロールバルブ開口面積との相関を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、吸気音伝達装置1は、自動車のエンジンルーム2に搭載された内燃機関3の吸気音を車室4に伝達するための装置であり、大部分がエンジンルーム2に位置するように自動車に搭載される。エンジンルーム2と車室4とは、バルクヘッド(フロントエンジン車)やリアパネル或いはパーティションパネル(ミッドシップ車)等の車体構成部材5により区画されている。車体構成部材5の車室4側には、ダッシュボードやライニング材等の内装部材6が取り付けられる。車室4には、右座席7R及び左座席7Lが配置されている。
【0022】
本実施形態の内燃機関3は、左バンク8及び右バンク9のそれぞれに3つの気筒Cが形成されたV型6気筒ガソリンエンジンである。左右のバンク8、9の互いに隣接する側の側面には、それぞれ3つの吸気ポートが開口しており、右バンク9の吸気ポートには第1吸気装置10が接続され、左バンク8の吸気ポートには第2吸気装置20が接続されている。第1及び第2吸気装置10、20は、それぞれ一連の吸気通路を形成しており、上流側から順に、吸気入口11、21、エアクリーナ12、22、過給機13、23(ターボチャージャ)のコンプレッサ、インタークーラー14、24、スロットルバルブ15、25、吸気マニホールド16、26を有している。第1吸気装置10の吸気マニホールド16と第2吸気装置20の吸気マニホールド26とは、吸気圧の均一化や吸気脈動低減のために互いに連通している。
【0023】
図示省略するが、左右のバンク8、9の互いに離反する側の側面には、それぞれ3つの排気ポートが開口しており、右バンク9の排気ポートには図示しない右排気装置が接続され、左バンク8の排気ポートには図示しない左排気装置が接続される。左右の排気装置は、それぞれ一連の排気通路を形成しており、上流側から順に、排気マニホールド、過給機13、23のタービン、触媒コンバータ、消音器、排気出口等を有している。左右の排気装置は、過給機13、23のタービンや触媒コンバータの下流側で共通であってもよい。
【0024】
また、内燃機関3には、クランクケース内に発生したブローバイガスを吸気に還流させるべく、一端30aが内燃機関3に接続され、他端30bが第1吸気装置10に接続されたブローバイガス還流装置30(ブリーザ装置)が付設されている。ブローバイガス還流装置30は、クランクケース内に連通するようにシリンダヘッドカバー等に設けられ、ブローバイガスからエンジンオイルを分離するブリーザチャンバや、ブリーザチャンバと第1吸気装置10におけるスロットルバルブ15の下流側部分とを接続するブリーザ通路31、ブリーザ通路31に介装されるPCVバルブ32等により構成されている。また、図示省略するが、第1吸気装置10におけるエアクリーナ12と過給機13との間の部分には、内燃機関3のクランクケース内に新気を送り込むための新気通路が接続される。
【0025】
自動車の適所(座席の下等)には燃料タンク35が搭載されている。燃料タンク35内の燃料は、燃料ポンプにより燃料配管36へ圧送され、内燃機関3に設けられた燃料噴射弁37によって各気筒Cの燃焼室に供給される。また、燃料タンク35には、燃料タンク35内の蒸発ガスが大気に放出されるのを防止するべく、一端40aが燃料タンク35に接続され、他端40bが第1吸気装置10に接続された燃料蒸発ガス排出防止装置40が付設されている。燃料蒸発ガス排出防止装置40は、タンク上部に設けられる図示しないフロートバルブや、フロートバルブと第1吸気装置10におけるエアクリーナ12と過給機13との間とを接続するベント通路41と、ベント通路41に介装され、内部に活性炭を収容するキャニスタ42及びパージコントロール用の図示しないソレノイド弁等により構成されている。燃料蒸発ガス排出防止装置40は、キャニスタ42の活性炭により燃料蒸気を吸着し、内燃機関3の運転時にソレノイド弁がベント通路41を開放して燃料蒸気を内燃機関3に還流させる。
【0026】
一方、第2吸気装置20には、内燃機関3の吸気音を車室4に伝達する吸気音伝達系50が付設されている。吸気音伝達系50は、一端(50a)が第2吸気装置20におけるインタークーラー24とスロットルバルブ25との間に接続され、吸気脈動を導入する導入通路51aを形成する導入管51と、導入管51の他端に取り付けられ、吸気脈動により振動する振動体52と、振動体52を介して導入管51の他端に接続されて車室4に連通し、振動体52が発した吸気音を車室4に伝達する伝達通路53aを形成する伝達管53とを備えている。つまり、吸気音伝達系50は、第2吸気装置20に接続する一端50aと車室4に連通する他端50bとを備えている。
【0027】
本実施形態では、伝達管53は2股に分岐して左右に延び、左右の分岐管部54L、54Rのそれぞれが車室4に至っている。より具体的には、左右の分岐管部54L、54Rの終端は、車室4のうち車体構成部材5と内装部材6との間に形成される中間層4aに連通している。右の分岐管部54Rの終端は右座席7R(例えば運転席)の近傍に、左の分岐管部54Lの終端は左座席7L(例えば助手席)の近傍にそれぞれ配置される。
【0028】
振動体52は、特許文献1に記載のものと同様の構成、具体的には、蛇腹部52aと、蛇腹部52aの先端に設けられた振動板52bとを有する樹脂製部材であり、導入管51が形成する導入通路51aと伝達管53が形成する伝達通路53aとを隔てるように設けられている。振動体52は、蛇腹部52aにより支持された振動板52bが導入通路51aに導入された吸気脈動を受けることで振動し、吸気音を伝達通路53aに放出する。伝達管53の終端(吸気音伝達系50の他端50b)が車室4に連通していることにより、吸気音が効果的に乗員に伝達される。なお、伝達管53は、気柱の固有振動を利用して低音域の圧を増大する共鳴管として機能してもよい。
【0029】
導入管51は後述する所定の長さLを有しており、導入管51における第2吸気装置20との接続部(吸気音伝達系50の一端50a)に近い位置には、導入通路51aの通路面積As(開度)を変更し、振動体52に伝わる吸気脈動の振幅(音圧)を調整するコントロールバルブ55が設けられている。また、エンジンルーム2にはコントロールバルブ55の開度を制御するバルブ制御ユニット56が設けられている。吸気脈動の周波数はエンジン回転数に応じて変化する。振動体52では蛇腹部52aがダンパーとして働き、吸気音を発し易い周波数と吸気音を発し難い周波数とがあるため、エンジン回転数に対応する吸気音が振動体52から発生しない。そのため、バルブ制御ユニット56は、内燃機関3に設けられたクランク角センサ57の出力(エンジン回転数)に基づいてコントロールバルブ55の開度を制御し、振動体52に加わる吸気脈動を所定の音圧に調整することで、車室4に伝達される吸気音の音圧をエンジン回転数に対応させる。
【0030】
ここで、振動体52は、温度や湿度、圧力、脈動等の外部環境での使用において破損しないよう設定される。しかしながら、想定した使用環境や耐用年数、走行距離等を超えるような条件で使用された場合には、振動体52が破損することがあり得る。振動体52に孔が開くと、吸気系に還流される燃料ガスが車室4に流れ込む虞がある。
【0031】
本実施形態では、ブローバイガス還流装置30及び燃料蒸発ガス排出防止装置40が第1吸気装置10に接続され、吸気音伝達系50が第2吸気装置20に接続されているため、ブローバイガス還流装置30や燃料蒸発ガス排出防止装置40から第1吸気装置10に還流された燃料ガスが吸気音伝達系50を介して車室4に流れ込むことが抑制される。なお、本実施形態では、第1及び第2吸気装置10、20が吸気マニホールド16、26で互いに連通しているが、これらが連通していなければ、燃料ガスが車室4に流れ込むことはない。
【0032】
また、吸気音伝達系50が第2吸気装置20におけるインタークーラー24よりも下流側に接続されているため、過給機23により加圧されて昇温した空気が吸気音伝達系50に流れ込むことがなく、振動体52の熱による劣化及び破損が抑制される。そのため、第1及び第2吸気装置10、20が互いに連通していても、ブローバイガス還流装置30や燃料蒸発ガス排出防止装置40から第1吸気装置10に還流された燃料ガスが、第2吸気装置20に接続された吸気音伝達系50の破損部を介して車室4に流れ込むことが抑制される。
【0033】
また、吸気音伝達系50の導入管51、つまり振動体52よりも第2吸気装置20側にコントロールバルブ55が設けられ、振動体52よりも第2吸気装置20側において吸気音伝達系50の通路面積Asがコントロールバルブ55により制限されるため、燃料ガスの第2吸気装置20への逆流が抑制される。
【0034】
ここで、図2を参照して、燃料ガスを含む第1吸気装置10内の空気が第2吸気装置20を逆流する条件について検討する。過給機13、23(図1)が設けられていない場合、内燃機関3の運転中は常に吸気通路内が負圧になる。一方、本実施形態では、第1及び第2吸気装置10、20に共に過給機13、23が設けられており、過給機13、23の下流側が正圧になり、この部分に吸気音伝達系50が接続されている。従って、振動体52に破線で示すような孔が開くと、この孔から空気が漏洩し、伝達管53を通って車室4に流れ込む虞がある。
【0035】
但し、孔が小さい場合には、第2吸気装置20の過給機23により加圧された燃料ガスを含まない空気(白抜き矢印)が漏洩するだけであり、第1吸気装置10内の空気は全て気筒Cに吸い込まれる。第1吸気装置10内の燃料ガス(黒塗り矢印)を含む空気が吸気マニホールド16、26の連通部を通って第1吸気装置10に逆流するか否かは、破損部の開口面積A及びエンジン回転数に依存する。そして、スロットルバルブ15、25が絞られている時には、スロットルバルブ15、25の下流側の圧力が上流側の圧力に対して低くなるため、第1吸気装置10内の空気が第2吸気装置20のスロットルバルブ25を超えて逆流し難い。つまり、スロットルバルブ15、25の開度(通路面積As)が大きいほど第1吸気装置10側から第2吸気装置20側への空気の逆流が発生し易い。
【0036】
図3は、第1吸気装置10の空気が最も逆流し易いスロットルバルブ全開(WOT)の条件の下、エンジン回転数を1500rpmとした場合に、図2中に示す判定ポイントP(第2吸気装置20における吸気音伝達系50との接続部とスロットルバルブ25との間)を流れる空気の質量流量をクランク角に応じて示したグラフである。質量流量がプラスの領域は通常の吸気の流れ(逆流が発生しない領域)であり、質量流量がマイナスの領域は通常の吸気とは逆向きの流れ(逆流が発生する領域)である。ここでは、破損した孔の開口面積Aを、これに相当する円形孔の直径φに換算して示している。孔の直径φが10mmの場合が細線(実線)で示され、孔の直径φが17.3mmの場合が中間線(実線)で示され、孔の直径φが38mmの場合が太線(実線)で示されている。また、それぞれの太さに対応する一点鎖線は、それぞれの孔の直径φにおける平均質量流量を示している。つまり、平均質量流量がプラスであれば、全体として(脈動時の瞬間的なものを除いて)逆流が発生せず、平均質量流量がマイナスであれば、全体として逆流が発生することを意味する。
【0037】
このようにして判定ポイントPにおける空気の平均質量流量がマイナスになる破損部の孔の直径φを求め、エンジン回転数に応じて孔の直径φを示したグラフが図4である。図示されるように、エンジン回転数が低いほど小さな孔で逆流が発生することがわかる。
【0038】
他方、本実施形態では振動体52よりも第2吸気装置20側にコントロールバルブ55が設けられている。このコントロールバルブ55によって導入通路51aの通路面積Asが絞られて上記逆流が発生する破損部の開口面積Abよりも小さくなっていれば、例えば振動体52が外れていたとしても(最も大きな直径の孔が開いていても)、判定ポイントPでの空気の逆流は発生しない。そこで、本実施形態のバルブ制御ユニット56は、導入通路51aの通路面積Asが空気の逆流が発生しない大きさとなるようにコントロールバルブ55の開度を制御する。これにより、第1吸気装置10の空気が第2吸気装置20に逆流することが防止され、燃料ガスが吸気音伝達系50に達することがない。
【0039】
図5は、コントロールバルブ55の開度(導入通路51aの通路面積As)と、逆流が発生する開口面積Abとをエンジン回転数に応じて示したグラフである。但し、逆流が発生し得る開口面積Abは上記以外の条件によって変化することが考えられるため、本実施形態ではこの開口面積Abに所定の幅を持たせてその下限値Abminよりも上側を逆流発生領域と考え、下限値Abmin以下の逆流が発生しない領域に収まるようにコントロールバルブ55の開度が設定されている。
【0040】
このようにして、振動体52の破損時に第1吸気装置10からの空気が吸気マニホールド16、26を介して吸気音伝達系50に逆流し得る値よりも小さな値にコントロールバルブ55の開度が設定されることにより、燃料ガスの第2吸気装置20への逆流が防止され、燃料ガスが吸気音伝達系50に達することがない。
【0041】
そして、導入管51の長さL(図1)は、第2吸気装置20の1回の脈動によって空気が導入管51を逆流し得る最大逆流到達距離よりも長くなるように設定されている。なお、最大逆流到達距離は、導入管51の径に応じて決定される値であり、導入管51の径が小さいほど長くなり、導入管51の径が大きいほど短くなる。つまり、吸気音伝達系50の一端50aから振動体52までの距離が、最大逆流到達距離よりも大きくなっている。
【0042】
導入管51の長さLがこのように設定されることにより、万が一、拡散等によって燃料ガスが第2吸気装置20を逆流し、吸気音伝達系50の一端50aに達したとしても、第2吸気装置20の1回の脈動によって空気が一端50aから吸気音伝達系50を逆流して振動体52に達することが防止される。そのため、燃料ガスが吸気音伝達系50を介して車室4に流れ込むことはない。
【0043】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、内燃機関3が左右のバンク8、9を有するV型エンジンとされているが、直列エンジンであってもよい。また、第1吸気装置10及び第2吸気装置20がそれぞれ吸気入口11、21、エアクリーナ12、22、過給機13、23、インタークーラー14、24を備えているが、これらの全て又は一部が共通のものとして構成され、インタークーラーの下流側やコンプレッサの下流側で第1吸気系及び第2吸気系に分岐してもよく、過給機13、23やインタークーラー14、24が設けられない構成であってもよい。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、数値など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 吸気音伝達装置
2 エンジンルーム
3 内燃機関
4 車室
10 第1吸気装置(第1吸気系)
20 第2吸気装置(第2吸気系)
13、23 過給機
14、24 インタークーラー
15、25 スロットルバルブ
16、26 吸気マニホールド
30 ブローバイガス還流装置(燃料還流系)
30a 一端
30b 他端
35 燃料タンク
40 燃料蒸発ガス排出防止装置(燃料還流系)
40a 一端
40b 他端
50 吸気音伝達系
50a 一端
50b 他端
51 導入管
51a 導入通路
52 振動体
53 伝達管
53a 伝達通路
55 コントロールバルブ
Ab 逆流が発生する破損部の開口面積
As 導入通路51aの通路面積(コントロールバルブ55の開度)
L 導入管51の長さ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンルームに搭載される内燃機関の吸気音を車室に伝達する吸気音伝達装置であって、
前記内燃機関に接続される第1吸気系及び第2吸気系と、
前記内燃機関又は燃料タンクに接続される一端、及び前記第1吸気系に接続される他端を有する燃料還流系と、
前記第2吸気系に接続される一端、前記車室に連通する他端、及び前記第2吸気系側と前記車室側とを隔てるように設けられ、吸気脈動により振動する振動体を有する吸気音伝達系と
を備えることを特徴とする車両の吸気音伝達装置。
【請求項2】
前記第1及び第2吸気系は、それぞれ上流側から順に過給機、インタークーラー、スロットルバルブ及び吸気マニホールドを有し、吸気マニホールドにおいて互いに連通しており、
前記吸気音伝達系の前記一端が、前記インタークーラーと前記スロットルバルブとの間に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の吸気音伝達装置。
【請求項3】
前記吸気音伝達系における前記振動体よりも前記第2吸気系側には、エンジン回転数に応じて通路面積を制限するコントロールバルブが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の車両の吸気音伝達装置。
【請求項4】
前記コントロールバルブの開度は、前記振動体が破損した場合に前記第1吸気系からの空気が前記吸気マニホールドを介して前記吸気音伝達系に逆流し得る値よりも小さな値に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の車両の吸気音伝達装置。
【請求項5】
前記吸気音伝達系における前記一端から前記振動体までの距離が、前記第2吸気系の1回の脈動によって空気が前記一端から前記吸気音伝達系を逆流し得る最大逆流到達距離よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載の車両の吸気音伝達装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-03-15 
結審通知日 2017-03-17 
審決日 2017-03-28 
出願番号 特願2015-50953(P2015-50953)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (F02M)
P 1 41・ 852- Y (F02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲葉 大紀  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 松下 聡
金澤 俊郎
登録日 2016-06-24 
登録番号 特許第5956633号(P5956633)
発明の名称 車両の吸気音伝達装置  
代理人 特許業務法人 大島特許事務所  
代理人 特許業務法人大島特許事務所  

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