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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1327327
審判番号 不服2015-19768  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-02 
確定日 2017-04-19 
事件の表示 特願2013-117898「間欠性のあるデータトラフィックに関連した無線リソースのオーバーヘッドを削減するための方法および機器」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日出願公開,特開2013-192263〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2008年8月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年8月13日 米国)を国際出願日とする出願である特願2010-521158号の一部を,平成25年6月4日に新たな特許出願としたものであって,平成27年6月22日付けで補正の却下の決定がされるとともに同日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年11月2日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされ,平成28年1月22日付けで審査官により作成された前置報告に対して同年5月10日に上申書が提出され,その後,当審において同年6月24日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年10月28日付けで手続補正がされたものである。



第2 当審において通知した拒絶理由
当審拒絶理由の概要は,以下のとおりである。

理由1 (サポート要件及び明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
(理由2は省略。)
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
[理由1について]
(1)請求項1,13は,「前記WTRUがCELL_FACH状態またはCELL_DCH状態にある間に,・・・」とされているが,請求項1,13の記載からは「No-TXモード」に関する事項は認められず,「CELL_FACH状態」,「CELL_DCH状態」は,【非特許文献1】3GPP Technical Standard (TS) 25.331 V7.5.0等に示される,接続モードにおける周知の状態(通常の「CELL_FACH状態」,「CELL_DCH状態」。)と解される。
そして,「No-TXモード中にWTRUによって無線リソースおよび構成パラメータが解放され」(【0020】),「CELL_DCH状態では,全専用リソースがWTRUに割り振られ,電力制御ループは絶えず維持される。」(【0005】),「従来の通信システムでは,ノードBは,CELL_FACH状態に入るWTRUに様々なリソースを割り振ることができる。具体的には,ノードBは,RNTI(無線ネットワーク一時識別子:radio network temporary identifier),アップリンクスクランブル符号,少なくとも1つのフレームオフセット,ダウンリンクチャネル符号,ならびに様々な制御およびデータチャネル用シグネチャを,CELL_FACHの各WTRUに割り振ることができる。」(【0020】),「No-TX動作モードを出て,データの送信を再度再開し,ノードBとの無線リンク同期を再開するために,WTRUは,No-TX動作モードに入るときに解放した無線リソースを手に入れる必要がある。」(【0054】)等の記載からも明らかなように,「No-TXモード」ではリソースは解放されるが,通常の「CELL_FACH状態」,「CELL_DCH状態」ではリソースは解放されないものである。
そして,【0054】の上記記載によれば,チャネル捕捉リクエストの送信は,No-TX動作モードを出て,データの送信を再度再開し,ノードBとの無線リンク同期を再開するために,No-TX動作モードに入るときに解放した無線リソースを手に入れる必要があるために,WTRUによりなされるものである。
したがって,通常の「WTRUがCELL_FACH状態またはCELL_DCH状態にある間」にはリソースは解放されていないのであるから,チャネル捕捉リクエストを送信する必然性はなく,リソース割当を受信することもなく,割当てられたE-DCHリソースを解放することもないため,請求項1,13の上記記載は意味不明になっている。
請求項1,13を引用する各請求項についても同様である。
(2)請求項1,13は,「前記WTRUがCELL_FACH状態またはCELL_DCH状態にある間に,・・・」とされているが,その裏付けが不明確であり,また,当該各状態における動作として不明確である。請求項1,13を引用する各請求項についても同様である。
発明の詳細な説明の記載を総合すると,請求項1,13の「前記WTRUがCELL_FACH状態またはCELL_DCH状態にある間に,・・・」に記載されている各動作は,「No-TXモード」に関連した動作であると推察される。しかしながら,請求項1,13には「No-TXモード」を示す記載は存在しない。また,例えば【0030】の「No-TXモードが無効にされると,WTRUは,通常のCELL_FACH状態(または代替的には,CELL_DCH状態)に戻り,」との記載によれば,「No-TXモード」と通常の「CELL_FACH状態」,「CELL_DCH状態」とは,別個の状態であることは明らかである。このため,請求項1,13の「前記WTRUがCELL_FACH状態またはCELL_DCH状態にある間に,・・・」を「No-TXモード」として解釈することはできない。そして,通常の「CELL_FACH状態」又は「CELL_DCH状態」において請求項1,13に記載の動作をなすことは,発明の詳細な説明には記載されていない。
([補正の示唆]
上記(1),(2)に対して,チャネル捕捉リクエストの送信及びリソース割当の受信は,「WTRUおよびノードBに,CELL_FACH状態に留まりながらアップリンクDPCCH(専用物理制御チャネル)およびDPCH(ダウンリンク専用物理チャネル)またはF-DPCH(フラクショナルDPCH)を介した電力制御更新および関連の信号通知(signaling:シグナリング)の送信を停止させる」「No-TXモード」における動作であることを明らかにされたい。また,E-DCHリソースを用いた通信及び割当てられたE-DCHリソースを解放は,「No-TXモードではない通常のCELL_FACH状態」における動作であることを明らかにされたい。)
((3)は省略。)
(4)「前記WTRUがCELL_FACH状態またはCELL_DCH状態にある間に,前記割当てられたE-DCHリソースを用いて通信する」(請求項1),「前記WTRUがCELL_FACH状態またはCELL_DCH状態にある間に,前記E-DCHリソースを用いて通信する」(請求項13)について,「前記(割当てられた)E-DCHリソースを用いた通信」は,(割当てられた)E-DCHリソースを用いてさえいれば,いかなる通信でもよいことになるが,そのようなことは発明の詳細な説明に記載されておらず,自明でもない。
請求項1,13を引用する各請求項についても同様である。
([補正の示唆]
「割当てられたE-DCHリソースを用いた通信」は,【0046】?【0056】の「No-TXモードでのWTRU送信」の開示の範囲内のものであるはずである。
また,下記(5)の点も含め,請求項1と請求項13の記載(「前記割当てられたE-DCHリソース」,「前記E-DCHリソース」)を整合されたい。)
((5)は省略。)



第3 請求人の対応
当審拒絶理由に対して,請求人は,平成28年10月28日付けで,特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書を提出した。

1 補正後の特許請求の範囲
平成28年10月28日付けで手続補正された特許請求の範囲(抜粋)は以下のとおりである。
なお,補正により補正前の請求項9,19が削除されたため,当審拒絶理由の上記理由1に記載中の「請求項13」は,補正後の請求項12に対応する。

「【請求項1】
ワイヤレス送受信ユニット(WTRU)において使用する方法であって,
前記WTRUが送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に,
ノードBへ,ランダムアクセス手順を行うことに関連してチャネル捕捉リクエストを送信することと,
前記チャネル捕捉リクエストに応じて前記ノードBからリソース割当を受信することであって,前記リソース割当はE-DCH(Enhanced Dedicated Channel)リソースの割当てを含む,ことと,
前記割当てられたE-DCHリソース上で通信することと,
前記WTRUが送信するデータを有していないという条件で,前記割当てられたE-DCHリソースを解放することと
を含むことを特徴とする方法。」
([当審注]:下線部は補正箇所を示す。)


2 意見書の主張
補正の根拠及び当審拒絶理由の上記理由1(1),(2),(4)に対して,請求人は平成28年10月28日付け意見書で以下のとおり主張している。

「また,本願明細書の第0073段落には『35.WTRUが送信バッファ中にデータをもっている場合,ノードBとの無線リンクを確立し直すための受信応答をノードBに送信するステップをさらに含む実施形態34に記載の方法。
36.WTRUが送信するべきデータをもたない場合,ノードBから受信されたポーリングメッセージを無視する』の記載があります。
また,本願明細書の第0021,0023段落には,WTRUがNo-TXモード(新しい形の「CELL_FACH状態」)に入った後,リソースをすぐに解放すれるのではなく,所定のリソースを所定の期間が経過した後に開放するリソース持続オプションが使われ得ることが説明されています。
このように,本願発明の詳細な説明は,WTRUが送信するべきデータをもっている場合(すなわち,E-DCHリソースの割当てを必要とし,ノードBとのリンクを確立するためにノードBからの送信に応答する必要がある場合),補正後の請求項1に記載のようなネットワーク/ノードBから『割当てられたE-DCHリソース上で通信する』,及び『前記WTRUが送信するデータを有していないという条件で,前記割当てられたE-DCHリソースを解放する』ことを開示します。」
「そこで,請求人は,請求項1及び12(補正前の請求項1及び13に対応)において,「CELL_FACH状態またはCELL_DCH状態にある間に」の記載から,「CELL_DCH状態」を削除し,「CELL_FACH状態にある間に」と補正しました。
さらに,請求人は,各動作が行われる状態に関して,「送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に」と補正しました。
さらに,請求人は,「割当てられたE-DCHリソースを解放する」ことに関して,「割当てられたE-DCHリソース上で通信すること,WTRUが送信するデータを有していないという条件で,割当てられたE-DCHリソースを解放する」を明確にしました。
これにより,拒絶の理由1の(1)及び(2)は解消されたものと思料いたします。」,
「上述したように,請求人は,各動作が行われる状態に関して,「送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に」と補正しました。さらに,請求人は,「チャネル捕捉リクエストに応じてノードBからリソース割当(E-DCH(Enhanced Dedicated Channel)リソースの割当てを含む)を受信」し,「前記割当てられたE-DCHリソース上で通信する」ことを明確にしました。
また,請求人は,請求項12(補正前の請求項13)の記載の「前記E-DCHリソース」を,請求項1に記載の「当てられたE-DCHリソース」に統一しました。
これにより,拒絶の理由1の(4)は解消されたものと思料いたします。」



第4 当審の判断
1 本願の請求項1に係る発明
請求項1の記載によれば,「ノードBへ,ランダムアクセス手順を行うことに関連してチャネル捕捉リクエストを送信すること」,「前記チャネル捕捉リクエストに応じて前記ノードBからリソース割当を受信することであって,前記リソース割当はE-DCH(Enhanced Dedicated Channel)リソースの割当てを含む,こと」,「前記割当てられたE-DCHリソース上で通信すること」,「前記WTRUが送信するデータを有していないという条件で,前記割当てられたE-DCHリソースを解放すること」は,いずれも「前記WTRUが送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間」になされるものと認めらる。
このことは,意見書の上記「さらに,請求人は,各動作が行われる状態に関して,「送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に」と補正しました。」との記載からも明らかなように,請求人も認めているものである。

しかしながら,
(i) 「送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に」「前記割当てられたE-DCHリソース上で通信すること」,
(ii)「送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に」「ノードBへ,ランダムアクセス手順を行うことに関連してチャネル捕捉リクエストを送信すること」
は発明の詳細な説明に直接記載されていないので,以下,検討する。


2 本願明細書の記載
本願明細書には以下の記載がある。
「【0011】
間欠トラフィックに関連した無線リソースオーバーヘッドを削減するための方法および機器が開示される。具体的には,TPCコマンドが専用チャネル上で保留されるNo-TX動作モードが定義される。トリガおよび信号通知が,WTRU(ワイヤレス送受信ユニット)およびノードBに,CELL_FACH状態,あるいはCELL_DCH状態に留まりながらアップリンクDPCCH(専用物理制御チャネル)およびDPCH(ダウンリンク専用物理チャネル)またはF-DPCH(フラクショナルDPCH)を介した電力制御更新および関連の信号通知(signaling:シグナリング)の送信を停止させる。」,
「【0015】
TPC(送信電力制御:Transmission Power Control)コマンドが保留(suspend)される新規動作モードが提供される。この新規動作モードは本明細書では便宜上,No-TX(「送信なし:no Transmit」)モードと呼ばれる。ただし,所望により他の名称が使われてもよい。より一般的には,No-TXモードは,DPCH(専用物理チャネル)もF-DPCH(フラクショナルDPCH)リソースも割り当てられないが,必要とされるときにデータの完全送信を再開する時間を短縮するという意味で,新しい形のCELL_FACH状態と解釈され得る。」,
「【0017】
第1の実施形態によると,No-TXモードがアクティブにされると,DL(ダウンリンク)およびUL(アップリンク)送信機会のセットが,通信用のネットワークによって定義される。No-TXモードがアクティブにされると,DL F-DPCHまたはDPCHおよびUL DPCCH(専用物理制御チャネル)は,それ以上送信されない。DL F-DPCHまたはDPCHおよびUL DPCCHの送信を再開するために,ネットワークは,ノードBおよびWTRU両方に送信機会を与える。こうした送信機会は,それぞれ,DL上のWTRUおよびアップリンク上のノードBである,受信端でのリッスン期間の形をとる。例えば,ネットワーク(ノードB)送信機会(または同等にはWTRUリッスン期間)中,WTRUは,起こり得るネットワーク送信をリッスンする。WTRU送信機会(または同等にはネットワークリッスン期間)中,ネットワーク(ノードB)は,起こり得るWTRU送信をリッスンする。」,
「【0020】
リソース持続オプション
別の実施形態によると,No-TXモード中にWTRUによって無線リソースおよび構成パラメータが解放され,または維持されるレベルを記述するリソース持続オプションセットが提供される。(中略)
【0021】
WTRUがNo-TXモードに入ると,こうしたリソースのいくつかは,リソースが他のWTRUによって使われ得るように,システムレベルで解放すればよい。いくつかのリソース持続オプションの少なくとも1つは,No-TXモード用に構成することができる。完全持続,DL E-DCH制御チャネル解放,およびDL制御チャネル解放というリソース持続オプションが使われ得る。完全持続では,No-TXモードにあるWTRUは,割り振られたリソースすべてを保持し,その構成を維持する。DL E-DCH制御チャネル解放では,No-TXモードにあるWTRUが,例えば,E-RGCH(E-DCH相対許可チャネル),E-DCH HARQ(ハイブリッド自動再送リクエスト)受信応答インジケータチャネル(E-RICH),およびE-AGCH(E-DCH絶対許可チャネル)を含む,E-DCH(拡張専用チャネル)に関するダウンリンク制御チャネルをすべて解放するが,F-DPCH(またはDPCH)割振りおよび関係オフセット,さらにその様々なRNTI(無線ネットワーク一時識別子),アップリンクスクランブル符号ならびに他のリソースおよび構成を保持する。DL制御チャネル解放では,No-TXモードにあるWTRUが,チャネライゼーションコード,シグネチャ,およびフレームオフセットを含む,ダウンリンク制御チャネルリソースをすべて解放するが,様々なRNTI,アップリンクスクランブル符号ならびに他のリソースおよび構成を保持する。
(中略)
【0023】
代替実施形態では,リソース持続オプションは,より長い非アクティブ期間の後により多くの情報が解放されるように,時間とともに変わる。例として,以下のリソース持続オプションパターンが構成されても,または信号通知されてもよい。No-TXモードを開始すると,完全持続オプションが有効にされる。一定の非アクティブ期間(予め定義し,または信号通知することができる)の後,例えばTTI,フレームの数または別の持続期間測定結果に関して,持続オプションは,自動的にDL(ダウンリンク)E-DCH制御チャネル解放に変わる。次いで,さらに一定の非アクティブ期間の後,持続オプションは,自動的にDL制御チャネル解放に変わる。他のリソース持続パターンも,所望に応じて定義することができる。」,
「【0030】
No-TXモードの無効化
トリガおよび方法のセットが,DPCCH送信を再開するためにNo-TX動作モードを非アクティブ化することができる。No-TXモードが無効にされると,WTRUは,通常のCELL_FACH状態(または代替的には,CELL_DCH状態)に戻り,DRXおよび/またはDTX期間を含むように構成すればよい。この挙動は,構成時などに,上位層によって信号通知(signaling)しても,事前構成してもよい。
(中略)
【0045】
別の実施形態では,WTRUは,No-TXモードの無効化を開始する。WTRUが,送信するべきデータをもっている場合,WTRUは,次の有効なWTRU送信機会を待つ
。WTRU送信バッファの状態をノードBに知らせるために,WTRUは,後で説明する異なる機構を用いて,ノードBにリクエストを送ることができる。首尾よくリクエストを送った後,ノードBは,WTRUが送信するべきデータをもっていることを意識し,リンク再確立手順を開始する。WTRUが,送信機会をとらえるのに失敗した場合,例えばWTRUが所与の期間にノードB返答または受信応答を受信していないとき,WTRUは,再度試みるために次の送信機会を待たなければならない。あるいは,所与の回数だけ試みが失敗した後,WTRUは,標準技術を用いてノードBと交信するのに,RACHを使うことができる。ネットワークは,WTRUがその無線リソースを保持するかどうか判定し,または新規無線リソース向けにWTRUを再構成することができる。あるいは,WTRUがCELL_DCH状態にある場合,WTRUは,自律的にCELL_FACH状態に復帰し,既存の機構を用いてデータ送信用のリソースをリクエストすることができる。」,
「【0046】
No-TXモードでのWTRU送信
No-TX動作モードは,WTRUによる送信の中断を特徴とするが,WTRUが,No-TX動作モードにある間にノードBに送信を送る必要があり得る場合がある。こうした場合は,以下の状況例に限定されるわけではないが,以下のいずれにおいても起こり得る。例えば,WTRUがNo-TX動作モードを出て,ノードBとの無線リンク同期(リンク再確立)を再開する必要がある場合がある。WTRUが依然としてアクティブであるとみなされるべきであることを示すために,WTRU活動通知(alive notification)などの通知を,ノードBに送信する必要がある場合がある。このことは,WTRUが,CELL_DCH状態であったとしてもCELL_FACH状態であったとしても,その現在の状態に保持されるべきであることを含意し得る。スケジュールされ,または予測不可能な機構によってトリガされて,測定されたCPICH(共通パイロットチャネル)電力の大規模な変化などの測定結果をノードBに送信する必要がある場合がある。ノードBのポーリングに受信応答または返答を送信する必要がある場合がある。
【0047】
No-TXモードにある間のWTRU送信のための4つのシナリオが挙げられる。すなわち,(1)ノードBでの過度なノイズ上昇の増大を制限するために,WTRUにその電力を設定させるランプアップ手順,(2)No-TXモードにあるWTRUに,WTRUが依然としてアクティブとみなされるべきであることをノードBに通知させるWTRU活動通知,(3)無線リンク同期を再開するためのチャネル捕捉送信(channel acquisition transmission),および(4)HS-SCCH(高速共有制御チャネル)を通して搬送される送信電力制御コマンドである。
(中略)
【0053】
定義により,No-TXモードは,どの信号もWTRUからノードBに送信されないように保留するので,ノードBは,どのユーザがCELL_DCH状態に保たれる必要があるか,またはCELL_DCH状態にあるどのユーザがCELL_FACHにプッシュされ,もしくは単に切断される必要があるかをモニターするために,それ以上電力制御ループに依拠しなくてよい。上述したように,WTRUがNo-TXモードにある間にノードBに信号を送信する1つの動機は,ノードBが,No-TXモードにあるどのWTRUが依然としてアクティブとみなされるべきか,何のためにノードBが,符号および/またはメモリなどいくつかのリソースを予約し続けることになるか,ならびにどのWTRUが切断される必要があるか追跡できるようにするためである。したがって,図2を参照して上述した送信バーストおよび手順は,WTRUによって,WTRUが依然としてアクティブユーザとみなされるべきであることを通知するのに使うことができる。WTRU活動通知は,定期的に送ればよく,その期間は,事前構成することも,ノードBによって信号通知することもでき,ノードBによってポーリングされた後に送ってもよい。
【0054】
No-TXモードによる恩恵の1つは,ノードBが,所与の時点での送信とは関係のないWTRUによって使われるリソースのいくつかを解放し,再利用することができることである。その趣旨で,無線リソース割振りの持続に関する異なるオプションが上述された。No-TX動作モードを出て,データの送信を再度再開し,ノードBとの無線リンク同期を再開するために,WTRUは,No-TX動作モードに入るときに解放した無線リソースを手に入れる必要がある。これは,ノードBにチャネル捕捉リクエストを送信するこ
とによって実施することができる。チャネル捕捉リクエストの基底にある方法および構造は,上で定義した手順に基づき得る。
【0055】
チャネル捕捉リクエストが含み得る無線リソースまたは構成パラメータは,F-DPCHリソース,例えばフレームオフセットおよびチャネライゼーションコード,E-AGCHリソース,例えばチャネライゼーションコード,E-HICHおよび/またはE-RGCHリソース,例えばチャネライゼーションコードおよびシグネチャ,ならびにHS-SCCHリソース,例えばチャネライゼーションコードである。あるいは,リソースは,無線帯域幅が保存され得るように,後で説明する暗黙の規則に基づいて割り振ることができる。
【0056】
No-TXモードにある間,WTRUは,割り振られたF-DPCHがない場合,サービス側セルに,電力制御コマンドをWTRUに送信させるためのH-RNTI識別子を割り当てられ得る。割り当てられるH-RNTIは,通常のCELL_FACH状態,あるいは通常のCELL_DCH状態で使われるものと同じでよい。一実施形態では,使われるH-RNTIは,通常モードで使われるものとは異なる。このH-RNTIは,二次H-RNTIと呼ばれる。二次H-RNTIは,共有することができ,単一WTRUまたは多くのWTRUを識別するのに使うことができる。送信電力制御コマンドは,ネットワークの裁量でいつでも送ることができ,HS-SCCH用の特殊形式,すなわちタイプ「P」を使って搬送される。このような形式は,同じ二次H-RNTIを共有する異なるWTRUに向けられたいくつかのコマンドの多重化を可能にする。この場合,WTRUは,そのTPCコマンドを搬送するビットを,規則およびタイムスロットなどの予め信号通知された割振りを用いて,他のWTRUからのコマンドを搬送するビットからどのようにして多重化解除するかを知っている。HS-SCCHタイプPは,WTRUの送信電力ではなく,またはそれに加えて,WTRUの最大データレートを制御するのに使うこともできる。これは,割り振られたE-RGCHがない場合のレート制御を可能にする。」,
「【0061】
あるいは,F-DPCHチャネライゼーションコードおよびオフセットのセットを共有するWTRUは,重複する送信機会をもってもよい。WTRUは,ランダムに,またはH-RNTIおよびE-RNTI(拡張RNTI)のような情報を用いて,わずかの確率の衝突しかないように,設定された規則に従って無線リソースを選択することができる。無線リンク再確立の失敗がある場合,WTRUは,次のWTRU送信機会に再度試せばよい。信号通知された,または事前構成された試行失敗回数に達したとき,WTRUは,CELL_FACHまたは他の予め定義された機構に復帰して,ネットワークと交信する。」,
「【0073】
実施形態
(中略)
35.WTRUが送信バッファ中にデータをもっている場合,ノードBとの無線リンクを確立し直すための受信応答をノードBに送信するステップをさらに含む実施形態34に
記載の方法。
36.WTRUが送信するべきデータをもたない場合,ノードBから受信されたポーリングメッセージを無視するステップをさらに含む実施形態34?35のいずれかに記載の方法。
(中略)
39.リソース割振り情報は,E-HICH(E-DCH(拡張専用チャネル)HARQ(ハイブリッド自動再送リクエスト)受信応答インジケータチャネル)チャネライゼーションコード,E-HICHシグネチャ,E-RGCH(E-DCH相対許可チャネル)シグネチャおよびE-AGCH(E-DCH絶対許可チャネル)チャネライゼーションコードの少なくとも1つを含む実施形態38に記載の方法。
(中略)
51.再送信の試行回数が閾値を超えた後で,RACH(ランダムアクセスチャネル)上でノードBにメッセージを送るステップをさらに含む実施形態50に記載の方法。」


3 判断
(1)上記【0011】,【0015】の記載によれば,請求項1の「送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間」とは,「No-TXモードにある間」といえる。
そして,上記【0015】,【0017】の記載によれば,当該「No-TXモードにある間」は,DL F-DPCHまたはDPCHおよびUL DPCCH(専用物理制御チャネル)は送信されず,また,上記【0020】,【0021】,【0023】の記載によれば,当該「No-TXモード」では,WTRU は割り振られていたリソースを解放するものである。
また,上記【0046】,【0047】の記載によれば,当該「No-TXモード」におけるWTRU送信は,「(3)無線リンク同期を再開するためのチャネル捕捉送信(channel acquisition transmission),および(4)HS-SCCH(高速共有制御チャネル)を通して搬送される送信電力制御コマンド」のみであるところ,請求項1の「前記割当てられたE-DCHリソース上で通信すること」は,これら以外のWTRU送信を当然に含むものであるから,「No-TXモードにある間」のWTRU送信とはいえない。
さらに,上記【0054】の記載によれば,請求項1の「前記WTRUが送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に,ノードBへ,ランダムアクセス手順を行うことに関連してチャネル捕捉リクエストを送信することと,前記チャネル捕捉リクエストに応じて前記ノードBからリソース割当を受信することであって,前記リソース割当はE-DCH(Enhanced Dedicated Channel)リソースの割当てを含む,こと」は,No-TX動作モードを出て,データの送信を再度再開し,ノードBとの無線リンク同期を再開するために,WTRUは,No-TX動作モードに入るときに解放した無線リソースを手に入れる動作と解される。
してみると,請求項1の「前記割当てられたE-DCHリソース上で通信すること」は,「No-TXモードにある間」の動作ではなく,No-TX動作モードを出てデータの送信を再度再開したときの動作であるはずである。
したがって,「送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に」,「前記割当てられたE-DCHリソース上で通信すること」は,発明の詳細な説明に記載も示唆もされておらず,自明でもない。
このため,「送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に」,「前記割当てられたE-DCHリソース上で通信すること」を発明特定事項とする,請求項1に係る発明は技術的に意味不明であり,また,発明の詳細な説明に記載されたものではない。

よって,当審拒絶理由の理由1(1),(2),(4)が解消されたとはいえない。

(2)平成28年10月28日付け手続補正により,「前記WTRUからノードBにチャネル捕捉リクエストを送信することと」が「ノードBへ,ランダムアクセス手順を行うことに関連してチャネル捕捉リクエストを送信すること」に補正された。
発明の詳細な説明には,ランダムアクセスに関しては,
上記【0005】の「CELL_FACH状態にあるWTRUは,RACH(ランダムアクセスチャネル)上でのデータ送信を開始することができるが,RACHは,少量のデータにのみ適している。」,
上記【0045】の「・・・WTRUが,送信機会をとらえるのに失敗した場合,例えばWTRUが所与の期間にノードB返答または受信応答を受信していないとき,WTRUは,再度試みるために次の送信機会を待たなければならない。あるいは,所与の回数だけ試みが失敗した後,WTRUは,標準技術を用いてノードBと交信するのに,RACHを使うことができる。ネットワークは,WTRUがその無線リソースを保持するかどうか判定し,または新規無線リソース向けにWTRUを再構成することができる。あるいは,WTRUがCELL_DCH状態にある場合,WTRUは,自律的にCELL_FACH状態に復帰し,既存の機構を用いてデータ送信用のリソースをリクエストすることができる。」,
上記【0061】の「WTRUは,ランダムに,またはH-RNTIおよびE-RNTI(拡張RNTI)のような情報を用いて,わずかの確率の衝突しかないように,設定された規則に従って無線リソースを選択することができる。」,
上記【0073】の「51.再送信の試行回数が閾値を超えた後で,RACH(ランダムアクセスチャネル)上でノードBにメッセージを送るステップをさらに含む実施形態50に記載の方法。」及び「76.共有専用チャネルのチャネライゼーションコードのセットは,ランダムにアクセスされる実施形態74に記載の方法。」
との記載があるのみである。
このため,発明詳細な説明を参酌しても,何をもって「ランダムアクセス手順を行うことに関連して」というのか,その技術的範囲が不明確である。

また,「ランダムアクセス手順を行うこと」とは,その文言からみて,「RACH(ランダムアクセスチャネル)上でノードBにメッセージを送る手順」も包含していると認められる。すなわち,請求項1の「前記WTRUが送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に,ノードBへ,ランダムアクセス手順を行うことに関連してチャネル捕捉リクエストを送信すること」は,「No-TXモードにある間に,ノードBへRACH上でチャネル捕捉リクエストを送信すること」を含むと認められる。
しかしながら,当該動作は,上記【0045】及び【0073】の「51.」の記載によれば,No-TXモードにある間にノードBへチャネル捕捉リクエストを送信することを所与の回数だけ試みたが,当該チャネル捕捉リクエストに応じてノードBからリソース割当を受信することに失敗した後,標準技術を用いてノードBと交信するのにRACHを使うことを意味していると解される。そして,「RACHでの送信」は「標準技術」におけるものであることに鑑みれば,本願において新たに提案された新しい形のCELL_FACH状態である,「前記WTRUが送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態」における動作ではないはずである。
したがって,「前記WTRUが送信電力制御(Transmission Power Control(TPC))コマンドが保留されるCELL_FACH状態にある間に,ノードBへ,ランダムアクセス手順を行うことに関連してチャネル捕捉リクエストを送信すること」は,発明の詳細な説明に記載されていない。

よって,当審拒絶理由の理由1(1),(2)が解消されたとはいえない。



第5 むすび
以上のとおり,本件出願は,特許請求の範囲の記載に不備があり,特許法第36条第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-21 
結審通知日 2016-11-22 
審決日 2016-12-07 
出願番号 特願2013-117898(P2013-117898)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 正明  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 萩原 義則
菅原 道晴
発明の名称 間欠性のあるデータトラフィックに関連した無線リソースのオーバーヘッドを削減するための方法および機器  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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