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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60C
管理番号 1327399
審判番号 不服2016-1033  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-25 
確定日 2017-04-13 
事件の表示 特願2013-139134号「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月19日出願公開、特開2015- 9789号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年7月2日に出願されたものであって、平成27年6月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月20日付けで拒絶査定がされ、平成28年1月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審において、同年9月7日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年11月1日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年11月1日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年11月1日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成28年11月1日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものであって、補正前の請求項1と、補正後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(補正前の請求項1)
「トレッド部に、タイヤ周方向にのびる縦溝及びタイヤ軸方向にのびる横溝で区分されたブロックが設けられた空気入りタイヤであって、
前記ブロックには、タイヤ軸方向にのび、かつ、両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するサイプが複数本設けられ、
前記サイプは、略一定の深さを有する基部と、前記基部よりも小さい深さを有する浅底部とを含む深さ変化サイプを複数本含み、
前記深さ変化サイプは、第1深さ変化サイプと、第2深さ変化サイプとを含み、
前記第1深さ変化サイプの前記浅底部は、前記第2深さ変化サイプの前記基部にタイヤ周方向で向き合っており、
前記横溝は、溝底面が隆起したタイバーを含み、
前記タイバーは、タイヤ周方向で隣り合う前記深さ変化サイプの前記基部とタイヤ周方向で向き合っており、
前記トレッド部に、最もトレッド接地端側でタイヤ周方向に連続してのびるショルダー主溝と、該ショルダー主溝よりもタイヤ軸方向外側でタイヤ周方向に連続してのびかつ前記ショルダー主溝よりも溝幅が小さいショルダー細溝とが設けられることにより、前記ショルダー主溝と前記ショルダー細溝との間の内側ショルダー陸部と、前記ショルダー細溝のタイヤ軸方向外側の外側ショルダー陸部とが区分され、
前記横溝は、前記ショルダー主溝と前記ショルダー細溝との間をのびる内側ショルダー横溝と、前記ショルダー細溝と前記トレッド接地端との間をのびる外側ショルダー横溝とを含み、
前記内側ショルダー横溝と前記外側ショルダー横溝とは、互いに向きっており、
前記外側ショルダー横溝は、一定の溝幅の第1外側ショルダー横溝と、タイヤ軸方向の外側に向って溝幅が増加する第2外側ショルダー横溝とを有し、前記第1外側ショルダー横溝の溝幅は、前記第2外側ショルダー横溝の最小溝幅よりも小さく、前記第1外側ショルダー横溝と前記第2外側ショルダー横溝とがタイヤ周方向に交互に設けられていることを特徴とする空気入りタイヤ。」

(補正後の請求項1)
「トレッド部に、タイヤ周方向にのびる縦溝及びタイヤ軸方向にのびる横溝で区分されたブロックが設けられた空気入りタイヤであって、
前記ブロックには、タイヤ軸方向にのび、かつ、両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するサイプが複数本設けられ、
前記サイプは、略一定の深さを有する基部と、前記基部よりも小さい深さを有する浅底部とを含む深さ変化サイプを複数本含み、
前記深さ変化サイプは、第1深さ変化サイプと、第2深さ変化サイプとを含み、
前記第1深さ変化サイプの前記浅底部は、前記第2深さ変化サイプの前記基部にタイヤ周方向で向き合っており、
前記横溝は、溝底面が隆起したタイバーを含み、
前記タイバーは、タイヤ周方向で隣り合う前記深さ変化サイプの前記基部とタイヤ周方向で向き合っており、
前記トレッド部に、最もトレッド接地端側でタイヤ周方向に連続してのびるショルダー主溝と、該ショルダー主溝よりもタイヤ軸方向外側でタイヤ周方向に連続してのびかつ前記ショルダー主溝よりも溝幅が小さいショルダー細溝とが設けられることにより、前記ショルダー主溝と前記ショルダー細溝との間の内側ショルダー陸部と、前記ショルダー細溝のタイヤ軸方向外側の外側ショルダー陸部とが区分され、
前記横溝は、前記ショルダー主溝と前記ショルダー細溝との間をのびる内側ショルダー横溝と、前記ショルダー細溝と前記トレッド接地端との間をのびる外側ショルダー横溝とを含み、
前記内側ショルダー横溝と前記外側ショルダー横溝とは、互いに向き合っており、
前記外側ショルダー横溝は、一定の溝幅の第1外側ショルダー横溝と、タイヤ軸方向の外側に向って溝幅が増加する第2外側ショルダー横溝とを有し、前記第1外側ショルダー横溝の溝幅は、前記第2外側ショルダー横溝の最小溝幅よりも小さく、かつ、前記内側ショルダー横溝の溝幅よりも小さく、
前記第1外側ショルダー横溝と前記第2外側ショルダー横溝とがタイヤ周方向に交互に設けられていることを特徴とする空気入りタイヤ。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無、特別な技術的特徴の変更の有無及び補正の目的の適否について
本件補正において、「向きって」を「向き合って」とする補正は、誤記を訂正するものであり、「第1外側ショルダー横溝の溝幅」について、「かつ、前記内側ショルダー横溝の溝幅よりも小さく、 」という事項を追加する補正は、願書に最初に添付された【図11】の記載に基いて「第1外側ショルダー横溝の溝幅」に係る発明特定事項を限定するものであって、いずれも新規事項を追加するものではない。また、本件補正は、特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではないことも明らかである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲を減縮及び同第3号に掲げられた誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 刊行物の記載事項及び認定事項並びに刊行物に記載された発明及び技術的事項
(ア)刊行物1の記載事項
当審の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された特開2008-120336号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同様。)
a 「【0004】
図2は、特許文献に記載されたものではないが、このような従来の空気入りタイヤのトレッドパターンの一例を展開して示す平面図であり、そのタイヤ周方向の一部を模式的に示す。
この空気入りタイヤ100は、図示のように、ジグザグ状に屈曲しつつタイヤ周方向(図では上下方向)に延びる4本の主溝110、111と、それらにより区画された5列の陸部列120、121、122と、を備えている。
【0005】
また、この空気入りタイヤ100では、各陸部列120、121、122内に、タイヤ幅方向(図では左右方向)に傾斜等して延びる複数本のラグ溝112をタイヤ周方向に所定間隔で配置して、それらを複数のブロック120B、121B、122Bに区画し、各ブロック120B、121B、122B内に、両端がその内部で終端するサイプ115を、ジグザグ状に屈曲しつつ略タイヤ幅方向に延びるように複数本(ここでは4本)ずつ配置している。更に、この空気入りタイヤ100では、各陸部列120、121、122を、略同一又は類似形状のブロック120B、121B、122Bに区画し、それらの配置位置(位相)をタイヤ周方向にずらせて、タイヤ踏面に略均等に配置している。
【0006】
この空気入りタイヤ100では、主溝110、111やラグ溝112の配置間隔を比較的短くする等して、トレッド部のブロック数(エッジ量)を増加させるとともに、各ブロック120B、121B、122B内に多数のサイプ115を配置し、これにより、氷雪路面等で発揮されるエッジ効果を高めて氷雪上性能を向上させている。」

b 「【0024】
また、この各中間陸部列21のタイヤ幅方向両外側に位置するショルダ陸部列22には、それぞれ外側主溝11と交差する方向に延びる複数本のラグ溝33、34、及び2種類のサイプ45、46が、タイヤ周方向に所定のパターンで繰り返し配置されている。各ラグ溝33、34は、タイヤ幅方向に略直線状に延び、両端が、それぞれ外側主溝11とトレッド端TEとに開口して、ショルダ陸部列22をタイヤ幅方向に横断している。これらラグ溝33、34の内、一方のラグ溝33は、溝幅が主溝10、11の溝幅よりも僅かに広く、かつタイヤ幅方向外側の端部が同方向に向かって広がるように形成され、他方のラグ溝34は、主溝10、11の溝幅よりも狭い溝幅に形成されている。また、ラグ溝33、34は、他の各ラグ溝30、31、32の配置間隔と略同一の所定間隔でタイヤ周方向に沿って交互に配置され、ショルダ陸部列22をタイヤ周方向に分断して複数のブロック22Bに区画している。」

(イ)刊行物1の認定事項
a 【図2】の記載より、「陸部列122」にある「ラグ溝112」は、それぞれの溝幅が概ね等しいことが看取できる。

b それら、「陸部列122」にある「ラグ溝112」に対し、更にタイヤ幅方向外側に連なって記載される横溝状のものは、同様箇所のものを説明する【図1】及び上記摘示事項bの「一方のラグ溝33」、「他方のラグ溝34」に関する下線を付加した箇所の記載からみて、同様に「一方のラグ溝」、「他方のラグ溝」といえる。(下記「参考図」参照。)

c 【図2】の記載及び同様箇所のものを説明する【図1】及び上記摘示事項bの「一方のラグ溝33」、「他方のラグ溝34」に関する下線を付加した箇所の記載からみて、「一方のラグ溝」は、タイヤ幅方向外側に向って溝幅が増加していることが明らかであり、「他方のラグ溝」は一定溝幅であることが明らかである。

d 【図2】の記載より、「陸部列122」にある「ラグ溝112」に対し「一方のラグ溝」が連なる箇所が拡幅されており、かつ、当該箇所は「一方のラグ溝」における最小幅となっていること、「ラグ溝112」に対し「他方のラグ溝」が連なる箇所は同様の幅であることが看取され、上記aと併せると、「他方のラグ溝」の溝幅は、「一方のラグ溝」の最小溝幅よりも小さいことが明らかである。

e 【図2】の「主溝111」よりもさらにタイヤ幅方向外側に記載される縦溝状のものは、空気入りタイヤの技術常識を考慮すれば、「主溝111」よりも溝幅が小さい「ショルダー細溝」といえるものであることは明らかである。(下記「参考図」参照。)

f 【図2】の記載と空気入りタイヤの技術常識より、上記「ショルダー細溝」よりタイヤ幅方向外側の領域により、「タイヤ幅方向外側の陸部列」が構成されることも明らかであり、当該「タイヤ幅方向外側の陸部列」のブロックは「外側のブロック」といえるものである。(下記「参考図」参照。)

g 上記「一方のラグ溝」及び「他方のラグ溝」は、空気入りタイヤの技術常識より、「ショルダー細溝」と「トレッド接地端」との間をのびるものであることは明らかである。

h 【図2】の記載より、「陸部列122」にある「ラグ溝112」と上記「一方のラグ溝」及び「他方のラグ溝」とは、互いに向き合っていることが看取できる。

i 【図2】の記載及び同様箇所のものを説明する【図1】及び上記摘示事項bの「一方のラグ溝33」、「他方のラグ溝34」に関する下線を付加した箇所の記載からみて、上記「一方のラグ溝」及び「他方のラグ溝」は、タイヤ周方向に交互に設けられていることが明らかである。

[参考図]
刊行物1の【図2】に対し、当審が説明文と引き出し線を付加した。



(ウ)刊行物1に記載された発明
上記(ア)、(イ)より、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「トレッド部に、タイヤ周方向に延びる主溝110、111、ショルダー細溝及びタイヤ幅方向にのびるラグ溝112、一方のラグ溝及び他方のラグ溝で区分されたブロック120B、121B、122B及び外側のブロックが設けられた空気入りタイヤであって、
前記ブロック120B、121B、122Bには、略タイヤ幅方向に延び、かつ、両端がその内部で終端するサイプ115が多数配置され、
前記トレッド部に、主溝111と、該主溝111よりもタイヤ幅方向外側でタイヤ周方向に連続して延びかつ前記主溝111よりも溝幅が小さいショルダー細溝とが設けられることにより、前記主溝111と前記ショルダー細溝との間の陸部列122と、前記ショルダー細溝のタイヤ幅方向外側の陸部列とが区画され、
前記ラグ溝112、一方のラグ溝及び他方のラグ溝は、前記主溝111と前記ショルダー細溝との間を延びるラグ溝112と、前記ショルダー細溝と前記トレッド接地端との間を延びる一方のラグ溝及び他方のラグ溝とを含み、
前記ラグ溝112と前記一方のラグ溝及び他方のラグ溝とは、互いに向き合っており、
前記一方のラグ溝及び他方のラグ溝は、一定の溝幅の他方のラグ溝と、タイヤ幅方向の外側に向って溝幅が増加する一方のラグ溝とを有し、前記他方のラグ溝の溝幅は、前記一方のラグ溝の最小溝幅よりも小さく、前記他方のラグ溝と前記一方のラグ溝とがタイヤ周方向に交互に設けられている空気入りタイヤ。」

(エ)刊行物2の記載事項
当審の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された特開平8-104112号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】 トレッド部の周りに延びる複数本の縦溝と、これらの縦溝と交差する多数本の横溝とで区分したブロック陸部をトレッド部に有し、前記ブロック陸部に複数本の横サイプを配設してなる空気入りタイヤにおいて、
横溝に隣接する横サイプの配設に伴い、この横サイプで実質的に区分されたブロック陸部部分の幅方向両端部で生じる陸部剛性の差を是正する強化手段を有することを特徴とする空気入りタイヤ。」

b 「【0010】
図1(a)に、本発明にしたがう空気入りタイヤの代表的なトレッドパターンを、図2(a)にこのタイヤの2個のブロック陸部を拡大して示す。図中1はトレッド部、2は縦溝、3は横溝、4はブロック陸部、5は横溝に隣接する横サイプ、6は溝底隆起部、7は横サイプ5の開口、8はタイヤ赤道面である。
この空気入りタイヤは、タイヤ赤道面8に対して平行かつ直線状に延びる4本の縦溝2と、該赤道面8に対して直交し前記縦溝2と交差する多数本の横溝3とで区分した矩形のブロック陸部4a内に、2本の直線状の横サイプ5a、5bを具えている。この図では、横サイプ5a、5bを、互い違いに配置した一端開口サイプとしたが、これだけには限定されず、例えば、切り込み形状を適正化したオープンサイプにしてもよい。なお、このオープンサイプの形状については後述する。」

c 「【0016】
なお、ここまで述べてきた実施例は、いずれも、横サイプ5a、5bを一端開口サイプとした場合であったが、その他の実施例として、横サイプ5a、5bを、図13(a)に示すようなオープンサイプにしてもよい。但し、この場合は、図13(b)?(j)に示すように、オープンサイプ5a、5bを、それぞれ他の幅方向端部15a、15b側では、この幅方向端部12a、12bに比し切り込み深さを浅くなるように配設し、かつ、前記幅方向端部12a、12b側では、低下した陸部剛性を強化する手段(例えば、図13(a)に示すような溝底隆起部6)を設けることにより、前述した一端開口サイプの場合と実質的に同様な作用がある。」

d 「【符号の説明】
・・・
12, 12a, 12b,12c 陸部剛性が小さい方の幅方向端部
・・・」

(オ)刊行物2の認定事項
a 刊行物2の【図13】(c)の記載より、当該図面に係る例は、切り込み深さが浅くなっていない箇所は、略一定の深さとなっていることが看取できる。

b 刊行物2の【図13】(a)の記載より、「幅方向端部12a」、「幅方向端部12b」側は、「横サイプ5a」、「横サイプ5b」のそれぞれ反対側の幅方向端部に設けられていることから、それぞれ横サイプの上記切り込み深さが浅くなっていない箇所と切り込み深さが浅くなっている箇所は、トレッド部周りで向き合っていることが明らかである。

(カ)刊行物2に記載された技術的事項
上記(エ)、(オ)より、刊行物2には次の技術的事項が記載されているものと認める。
「トレッド部1に、タイヤ赤道面8に対して平行かつ直線状に延びる複数本の縦溝2及びこれらの縦溝2と交差する横溝3で区分されたブロック陸部4が設けられた空気入りタイヤであって、
前記ブロック陸部4には、オープンサイプとした横サイプ5a、5bが複数本設けられ、
前記横サイプ5a、5bは、それぞれ陸部剛性が大きい方の幅方向端部15a、15b側では、陸部剛性が小さい方の幅方向端部12a、12b側に比し切り込み深さを浅くなるように配設し、切り込み深さが浅くなっていない箇所は、略一定の深さとなっており、前記横サイプ5bの切り込み深さが浅くなっている箇所は、前記横サイプ5aの切り込みが浅くなっていない箇所にタイヤ赤道面8の方向で向き合っており、
前記横溝3は、溝底隆起部6を含み、
前記溝底隆起部6は、タイヤ赤道面8の方向で隣り合う前記横サイプ5a、5bの前記幅方向端部12a、12b側に設けた空気入りタイヤ。」

イ 対比
(ア)本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「トレッド部」は前者の「トレッド部」に相当し、以下同様に、「タイヤ周方向」は「タイヤ周方向」に、「主溝110、111及びショルダー細溝」は「縦溝」に、「タイヤ幅方向」及び「略タイヤ幅方向」は「タイヤ軸方向」に、「ラグ溝112、一方のラグ溝及び他方のラグ溝」は「横溝」に、「ブロック120B、121B、122B及び外側のブロック」は「ブロック」に、「空気入りタイヤ」は「空気入りタイヤ」に、「主溝111」は「最もトレッド接地端側でタイヤ周方向に連続してのびるショルダー主溝」に、「陸部列122」は「内側ショルダー陸部」に、「ショルダー細溝のタイヤ幅方向外側の陸部列」は「外側ショルダー陸部」に、「区画」は「区分」に、「前記主溝111と前記ショルダー細溝との間を延びるラグ溝112」は「内側ショルダー横溝」に、「トレッド接地端」は「トレッド接地端」に、「前記ショルダー細溝と前記トレッド接地端との間を延びる一方のラグ溝及び他方のラグ溝」は「外側ショルダー横溝」に、「他方のラグ溝」は「第1外側ショルダー横溝」に、「一方のラグ溝」は「第2外側ショルダー横溝」にそれぞれ相当する。

(イ)本願補正発明の「前記ブロックには、タイヤ軸方向にのび、かつ、両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するサイプが複数本設けられ、」という事項について検討する。
本願請求項1には、上記事項の前提として「トレッド部に、タイヤ周方向にのびる縦溝及びタイヤ軸方向にのびる横溝で区分されたブロックが設けられた空気入りタイヤであって」(以下、「前提事項」という。)との記載がある。
そして、請求項1には、「前記横溝は、前記ショルダー主溝と前記ショルダー細溝との間をのびる内側ショルダー横溝と、前記ショルダー細溝と前記トレッド接地端との間をのびる外側ショルダー横溝とを含み、」との記載がある。
しかしながら、本願補正発明に対応する【図11】に係る「他の実施形態」の前提となる【図1】?【図10】に係る「本実施形態」を説明するところの本願明細書の段落【0067】には、「外側ショルダー陸部10には、例えば、外側ショルダーサイプ35が設けられている。外側ショルダーサイプ35は、タイヤ軸方向外側の端縁10eからタイヤ軸方向内側に向かってのびている。外側ショルダーサイプ35は、外側ショルダー陸部10内で終端している。このような外側ショルダーサイプ35は、外側ショルダー陸部10のタイヤ軸方向内側の剛性を維持しつつ、エッジ成分を増加させる。このため、氷上性能及び耐摩耗性能がバランス良く向上する。」と記載されており【図11】をみても、同様事項を有していることは明らかであって、「外側ショルダー陸部10」の「外側ショルダーブロック34」に設けられる「外側ショルダーサイプ35」は、本願請求項1に記載される「両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するサイプ」とは異なるものである。
そして、本願明細書(特に段落【0037】?【0041】)及び各図面全体を参酌しても、「両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するサイプ」を有する「ブロック」は、「外側ショルダーブロック34」を除いた残りの「ブロック30」(センターブロック31、ミドルブロック32、内側ショルダーブロック33)に設けられているもののみであり、上記した外側ショルダー陸部10内で終端させた理由からみても、当該「外側ショルダーサイプ35」まで「両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するサイプ」を有する「ブロック」ということはできない。
そうすると、請求項1において「前記ブロック」と記載されていても、その前提事項の「ブロック」全てではなく、実質的に「ショルダー細溝」よりタイヤ軸方向内側のブロックを示すと解すべきである。
したがって、引用発明の「前記ブロック120B、121B、122B」は、本願補正発明の「前記ブロック」に相当するといえるので、引用発明の「前記ブロック120B、121B、122Bには、略タイヤ幅方向に延び、かつ、両端がその内部で終端するサイプ115が多数配置され、」と本願補正発明の「前記ブロックには、タイヤ軸方向にのび、かつ、両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するサイプが複数本設けられ、」とは、「前記ブロックには、タイヤ軸方向にのびるサイプが複数本設けられ、」の限度で一致するといえる。

ウ 一致点、相違点
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
「トレッド部に、タイヤ周方向にのびる縦溝及びタイヤ軸方向にのびる横溝で区分されたブロックが設けられた空気入りタイヤであって、
前記ブロックには、タイヤ軸方向にのびるサイプが複数本設けられ、
前記トレッド部に、最もトレッド接地端側でタイヤ周方向に連続してのびるショルダー主溝と、該ショルダー主溝よりもタイヤ軸方向外側でタイヤ周方向に連続してのびかつ前記ショルダー主溝よりも溝幅が小さいショルダー細溝とが設けられることにより、前記ショルダー主溝と前記ショルダー細溝との間の内側ショルダー陸部と、前記ショルダー細溝のタイヤ軸方向外側の外側ショルダー陸部とが区分され、
前記横溝は、前記ショルダー主溝と前記ショルダー細溝との間をのびる内側ショルダー横溝と、前記ショルダー細溝と前記トレッド接地端との間をのびる外側ショルダー横溝とを含み、
前記内側ショルダー横溝と前記外側ショルダー横溝とは、互いに向き合っており、
前記外側ショルダー横溝は、一定の溝幅の第1外側ショルダー横溝と、タイヤ軸方向の外側に向って溝幅が増加する第2外側ショルダー横溝とを有し、前記第1外側ショルダー横溝の溝幅は、前記第2外側ショルダー横溝の最小溝幅よりも小さく、前記第1外側ショルダー横溝と前記第2外側ショルダー横溝とがタイヤ周方向に交互に設けられている空気入りタイヤ。」

[相違点1]
本願補正発明は、「サイプ」が「両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口する」ものであり、
「前記サイプは、略一定の深さを有する基部と、前記基部よりも小さい深さを有する浅底部とを含む深さ変化サイプを複数本含み、
前記深さ変化サイプは、第1深さ変化サイプと、第2深さ変化サイプとを含み、
前記第1深さ変化サイプの前記浅底部は、前記第2深さ変化サイプの前記基部にタイヤ周方向で向き合っており、
前記横溝は、溝底面が隆起したタイバーを含み、
前記タイバーは、タイヤ周方向で隣り合う前記深さ変化サイプの前記基部とタイヤ周方向で向き合っており、」というものであるのに対し、
引用発明は、「サイプ115」(サイプ)が「両端がその内部で終端する」ものであり、深さ変化サイプではなく、また、「ラグ溝112、一方のラグ溝及び他方のラグ溝」(横溝)がタイバーを含んでいない点。

[相違点2]
本願補正発明は、「第1外側ショルダー横溝の溝幅」が、「前記内側ショルダー横溝の溝幅より小さく」というものであるのに対し、
引用発明は、「他方のラグ溝」(第1外側ショルダー横溝)の溝幅が、そのようにはなってはいない点。

相違点の判断
[相違点1]について
a 本願補正発明と上記ア(オ)の「刊行物2に記載された技術的事項」とを対比すると、後者の「トレッド部1」は前者の「トレッド部」に相当し、以下同様に、「タイヤ赤道面8に対して平行かつ直線状に延びる」は「タイヤ周方向」に、「縦溝2」は「縦溝」に、「これらの縦溝2と交差する横溝3」は「タイヤ軸方向にのびる横溝」に、「ブロック陸部4」は「ブロック」に、「空気入りタイヤ」は「空気入りタイヤ」に、「オープンサイプとした横サイプ5a、5b」は「両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するサイプ」に、「溝底隆起部6」は「タイバー」にそれぞれ相当する。

b また、後者の「前記横サイプ5a、5bは、それぞれ陸部剛性が大きい方の幅方向端部15a、15b側では、陸部剛性が小さい方の幅方向端部12a、12b側に比し切り込み深さを浅くなるように配設し、切り込み深さが浅くなっていない箇所は、略一定の深さとなっており、前記横サイプ5bの切り込み深さが浅くなっている箇所は、前記横サイプ5aの切り込みが浅くなっていない箇所にタイヤ赤道面8の方向で向き合っており、」という事項は、前者の「前記サイプは、略一定の深さを有する基部と、前記基部よりも小さい深さを有する浅底部とを含む深さ変化サイプを複数本含み、前記深さ変化サイプは、第1深さ変化サイプと、第2深さ変化サイプとを含み、前記第1深さ変化サイプの前記浅底部は、前記第2深さ変化サイプの前記基部にタイヤ周方向で向き合っており、」という事項に相当するといえる。
同様に、後者の「前記横溝3は、溝底隆起部6を含み、前記溝底隆起部6は、タイヤ赤道面8の方向で隣り合う前記横サイプ5a、5bの前記幅方向端部12a、12b側に設けた」という事項は、前者の「前記横溝は、溝底面が隆起したタイバーを含み、前記タイバーは、タイヤ周方向で隣り合う前記深さ変化サイプの前記基部とタイヤ周方向で向き合っており、」という事項に相当するといえる。

c 引用発明のようなブロックにサイプを有する空気入りタイヤにおいて、サイプの両端がタイヤ軸方向両側のブロック縁でそれぞれ開口するようなサイプを用いれば、エッジ効果や吸水効果に優れたものとなることは自明の事項であり、かつ、ブロックにサイプを有する空気入りタイヤにおいては、ブロックの適度な剛性が求められることも自明の課題である。
そして、それら自明の事項あるいは課題に鑑み、引用発明に対し上記刊行物2に記載されたサイプ及び横溝に係る技術的事項を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
したがって、引用発明において上記相違点1に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点2]について
a 特開2006-192959号公報には、その段落【0012】、【0017】?【0018】、【0030】及び【図1】、【図2】の記載からみて、「重荷重用タイヤ(空気入りタイヤ)において、第1の横溝4o1の外側部分(第1外側ショルダー横溝)の溝幅は、第2の横溝4o2の外側部分(第2外側ショルダー横溝)の最小溝幅よりも小さく、かつ、横溝4oの内側部分(内側ショルダー横溝)の溝幅よりも小さくした技術」(かっこ書きは本願補正発明の対応する部材名)が記載されていることが把握でき、かつ、前提となる段落【0002】?【0006】の記載からみて、ショルダブロックの適切な剛性を考慮しているものといえる。
また、同様の溝の構成を有するものは、他に特開2006-56459号公報(特に【図1】参照。)や特開2004-106747号公報(特に【図2】参照。)にも記載されており、上記技術は本願出願前の周知技術といえるものである。

b そして、引用発明の「ショルダー細溝のタイヤ幅方向外側の陸部列」(外側ショルダー陸部)においても適度な剛性確保が望ましいことは自明のことであり、かつ、一般に空気入りタイヤにおいて溝幅が狭ければブロックの剛性が向上することやゴムボリュームが増えることは常識的なことであるから、引用発明の「他方のラグ溝」(第1外側ショルダー横溝)の溝幅に対し、上記周知技術を適用することは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことである。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明の作用効果について検討しても、引用発明、刊行物2に記載された技術的事項及び周知技術から予測できる程度のものであって、格別でない。

オ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術的事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成28年1月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1(補正前の請求項1)」に記載されたとおりである。

第4 刊行物とその記載事項等
当審の拒絶の理由に引用された刊行物とその記載事項及び認定事項は、上記「第2 2(2)ア(ア)、(イ)、(エ)、(オ)」に記載したとおりであり、その刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、上記「第2 2(2)ア(ウ)、(カ)」に記載したとおりである。

第5 当審の判断
本願発明は、誤記を除けば、上記「第2」で検討した本願補正発明から、「第1外側ショルダー横溝の溝幅」について、「かつ、前記内側ショルダー横溝の溝幅より小さく」という限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)」で述べたとおり、引用発明、刊行物2に記載された技術的事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-13 
結審通知日 2017-02-14 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2013-139134(P2013-139134)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田合 弘幸山本 裕太  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 出口 昌哉
一ノ瀬 覚
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 住友 慎太郎  

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