• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61M
管理番号 1327642
審判番号 無効2015-800133  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-06-04 
確定日 2017-05-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第4354525号発明「医療用ガイドワイヤ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4354525号の請求項1-9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

平成21年 5月20日 本件出願
平成21年 8月 7日 設定登録(特許第4354525号)
平成24年 6月27日 別件無効審判請求(無効2012-800111号)
平成25年 3月11日付け 別件無効審判審決(特許有効)
平成27年 6月 3日付け 本件無効審判請求(無効2015-800133号)
平成27年 8月21日付け 被請求人による審判事件答弁書(以下単に「答弁書」という。)提出
平成27年 9月16日付け 審理事項通知
平成27年10月15日付け 請求人による弁駁書提出
平成27年10月30日付け 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成27年11月10日付け 請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成27年11月16日 第1回口頭審理
平成27年11月30日付け 被請求人による上申書(以下単に「上申書1」という。)提出
平成27年12月10日付け 被請求人による上申書(以下単に「上申書2」という。)提出
平成27年12月14日付け 請求人による上申書提出
平成28年 2月29日付け 審決の予告
被請求人からは、審決の予告に対して、何ら応答がなかった。

なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、特許法の条文を指摘する際に「特許法」という表記を省略することがある。

第2 本件発明

本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、これらをまとめて単に「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次のとおりのものである。


「【請求項1】
遠位端側小径部と前記遠位端側小径部より外径の大きい近位端側大径部とを有するコアワイヤと、
前記コアワイヤの遠位端側小径部の外周に軸方向に沿って装着され、先端側小径部と、
前記先端側小径部よりコイル外径の大きい後端側大径部と、前記先端側小径部と前記後端側大径部との間に位置するテーパ部とを有し、少なくとも先端部および後端部において前記コアワイヤに固着されているコイルスプリングとを有し、
前記コイルスプリングの先端側小径部の長さが5?100mm、コイル外径が0.012インチ以下であり、
前記コイルスプリングの先端部は、Au-Sn系はんだにより、前記コアワイヤに固着され、
Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記コイルスプリングの先端側小径部のコイル外径が0.010インチ以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリングの後端側大径部のコイル外径が、何れも0.014インチ以上であることを特徴とする請求項2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
前記コイルスプリングの先端側小径部におけるコイルピッチが、コイル線径の1.0?1.8倍であり、
Au-Sn系はんだが、前記コイルスプリングの1?3ピッチに相当する範囲においてコイル内部に浸透していることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
前記コイルスプリングの内部に樹脂が充填されているとともに、前記コイルスプリングの外周に前記樹脂による樹脂層が形成され、前記樹脂層の表面に親水性樹脂層が積層形成され、
前記コアワイヤの表面には撥水性樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
前記コイルスプリングのテーパ部を含む外周が、前記樹脂層および親水性樹脂層で被覆されることにより、ガイドワイヤの形状としてのテーパが形成され、そのテーパ角度が、前記コイルスプリングのテーパ部のテーパ角度よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
前記コイルスプリングは、コイルピッチがコイル線径の1.0?1.8倍である先端側密巻部分と、コイルピッチがコイル線径の1.8倍を超える後端側疎巻部分とからなることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項8】
前記コイルスプリングの先端側密巻部分により先端側小径部およびテーパ部が形成され、前記コイルスプリングの後端側疎巻部分により後端側大径部が形成されていることを特徴とする請求項7に記載の医療用ガイドワイヤ。【請求項9】
前記コアワイヤがステンレスからなることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。」

第3 請求人の主張

1 要点
請求人の主張する請求の趣旨は、本件発明1ないし9についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めるものである。
そして、かかる無効理由の要点は、審判請求書(以下単に「請求書」という。)、弁駁書、口頭審理陳述要領書及び上申書の記載内容からみて、以下のとおりである。

本件発明1ないし9は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1乃至9に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証 須藤一,田村今男,西澤泰二 共著,金属組織学,丸善株式会社,2006年10月10日,p.27-28、及び表紙、奥付
甲第2号証 Wikipedia「はんだ」項
甲第3号証 新版接合技術総覧(新版接合技術総覧編集委員会 編),株式会社産業技術サービスセンター,1994年11月28日,p.432-435、及び表紙、奥付
甲第4号証 菅沼克昭 著,はじめてのはんだ付け技術,株式会社工業調査会,2002年12月15日,p.44-46、及び表紙、奥付
甲第5号証 大澤直 著,はんだ付技術なぜなぜ100問,株式会社工業調査会,1997年9月20日,p.84-87、126-129、及び表紙、奥付
甲第6号証 東京地裁平成26年(ワ)第25577号原告第2準備書面
甲第7号証 菅沼克昭 著,改訂増補 鉛フリーはんだ付け技術,株式会社工業調査会,2006年1月25日,p.122-133、148-149、206-207、216-217、及び表紙、奥付
甲第8号証 標準マイクロソルダリング技術 初版(社団法人日本溶接協会マイクロソルダリング技術認定・検定委員会 編),日刊工業新聞社,1992年11月30日,p.299-303、及び表紙、奥付
甲第9号証 はんだ材料評価報告書1 AMD-D15069
甲第10号証 はんだ材料評価報告書2 AMD-D15070
甲第11号証 東京地方裁判所平成26年(ワ)第25577号判決文
甲第12号証 知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10151号判決文
甲第13号証 報告書(実験報告書ADD-K15-001Au含有量が異なるAu-Sn系はんだ材の引張強度評価)
甲第14号証 中上明光、川上信之 著,「ナノインデンテーション法による薄膜の機械的特性評価」,神戸製鋼技報,Vol.52,No.2,2002年9月
甲第15号証 Wikipedia「バルク」項

3 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)「本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項9には,発明の課題を解決するための手段として,『Au(金(以下,『Au』と記す))-Sn(スズ(以下,『Sn』と記す))系はんだ』と包括的に記載されているところ,同記載は,その構成元素の種類,元素の成分比率も特定されず,さらに被請求人の主張によれば『Au及びSn以外の元素や,不均一な組織構造を有する金属間化合物等を含む広い概念のはんだ』という広範な概念の記載であるのに対し,本件特許明細書の記載においてその全部がサポートされておらず,発明の詳細な説明の記載を超えるものであるから,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,本件特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。」(請求書第2ページ第16?26行)

(2)「(e)総括
(・・・中略・・・)e-1. 本件特許発明の請求項1に記載の発明特定事項のうち,『Au-Snはんだ』の文言を『Au及びSnを含むはんだであって,Au及びSn以外の元素を添加したものを含む』と理解した場合,本件特許権の発明の詳細な説明の記載には,『Au-Sn系はんだ』の組成については,『本発明で使用するAu-Sn系はんだは,例えば,Au75?80質量%と,Sn25?20質量%との合金からなる。』(【0057】)と記載され,また,その性質について『ステンレスと,白金(合金)とをAu-Sn系はんだを使用して固着することにより,Ag-Sn系はんだによって固着する場合と比較して2.5倍程度の固着力(引張強度)が得られる』(【0058】)と記載されているのみであり,文言の通常の意味又は当業者の技術的理解によっても,特許請求の範囲の『Au-Sn系はんだ』は,その定義,具体的組成及びその性質(固着力)等について本件明細書に記載された作用効果,すなわち,先端硬直部分の長さを0.1?0.5mmと短く(はんだによる固着領域が狭く)することができるとともに,コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分に高い(コアワイヤの遠位端側小径部の破断強度よりも高い)ものとすることができるようを奏することができるように明確に記載されていないと言わざるを得ない。
e-2. さらに,本件特許発明の請求項1に記載の発明特定事項のうち,『Au-Sn系はんだ』の文言を,被請求人が主張するように『Au及びSn以外の元素や,不均一な組織構造を有する金属間化合物等を含む広い概念のはんだ』であると理解した場合は,金属間化合物が一般に固くて脆い性質をもつため,かえってはんだ付部が弱くなる場合があることが公知文献に記載されているだけでなく,上記比較実験によれば,金属間化合物の一種である『AuSn4』は,『Ag-Sn系はんだ』の一種である『Sn96.5-Ag3.5』と同程度またはこれより低い固着力(引張強度)しかないため,本件明細書に記載された作用効果を奏し得ないものであることが実証されているから,本件特許請求の範囲はその全部が本件明細書の記載によってサポートされていないことが明らかである。
e-3. よって,本件特許請求の範囲には,その技術的事項を超えた,広範な技術的範囲を含む記載がされているから,本件特許発明のうち請求項1に係る発明は,特許法36条6項1号の規定するサポート要件に違反するものである。」(請求書第14ページ第1?34行)

(3)「本件特許出願時において,『Au及びSnを含んでいるはんだ(その他の元素,金属間化合物,不均一な組織態様を含んでいるものも含む)であれば,本件特許発明の効果を損なわない』などといった当業者の技術常識があることも認められない。」(弁駁書第7頁第19?22行)

(4)「実施例には,先端部及び中間部の固着に使用されたはんだの種類として,『Au-Sn系』並びに『Ag-Sn系』と記載されているに止まり,それらの成分比(具体的含有量)も記載されていないから,実施例の比較結果をもって『通常の意味での『Au-Sn系はんだ』による固着力は,通常の意味である『Ag-Sn系はんだ』による固着力よりも高い』などと一般化することはできない。」(弁駁書第8ページ第12?16行)

(5)「被請求人は、本件合議体から『発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から当業者が認識できることについて主張・立証』するよう釈明を求められた事項について、
○1(当審注:「○1」のように○に数字を付したものは、○の中に数字が記載されたものを意味する。以下同じ。)『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『Au』及び『Sn』の具体的含有量は『それらが主成分として含有されている量』である。
○2『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『その他の元素』の具体名は,『AgおよびPb』(甲3)、『Cu、In、Bi、Ag』(甲4及び甲7)、『Sb、Bi、Cu、In、Al、As、Cd、Fe、Ni及びZn』(乙5)である。
○3『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『その他の元素』(上記○2)の具体的含有量は『Au及びSnが主成分として含有されていることを妨げない量』(その意味は明らかではないが,『Au及びSnの成分量を超えない量』をいうものと理解される。)である。
とし、これらは当業者において認識できるものであると主張している。
しかしながら,本件明細書には上記○1、○2及び○3について一切記載されていない。
また、上記○2について、『AuとSnと上記『その他の元素』を含むはんだ』が『本件特許発明の効果を損なわない範囲』であることについては、上記甲3、4、甲7及び乙5には一切記載されていない。また,上記○3については、上記甲3、4、甲7及び乙5には何ら開示も示唆もない。
なお、甲4、甲7及び乙5に記載のその他の元素『Cu、In、Bi、Ag』及び『Sb、Bi、Cu、In、Al、As、Cd、Fe、Ni及びZn』)は『Au-Sn系はんだ』についての記載ではなく、『Au-Sn系はんだ』に含まれる『その他の元素』ではない。
被請求人は,上記○1、○2及び○3の事項は、『当業者において認識することができる』と主張しているが,『当業者において認識することができる』とする根拠については何ら具体的な証拠も提出しておらず,そもそも何も立証されていない。
他方,甲第5号証及び甲第8号証には,Au基はんだ(上記『Au75?80質量%と,Sn25?20質量%との合金からなるはんだ以外のAu-Sn系はんだ』を含む。)を用いた場合、一般に硬くて脆い性質をもつ金属間化合物を形成しやすいため、かえってはんだ付け部が弱くなる場合があることが記載されている。
(・・・中略・・・)『そもそも、合金は、通常、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するか予測することは困難であり、また、ある成分の含有量を増減したり、その他の成分を更に添加したりすると、その特性が大きく変わる』ということが当業者の技術常識である。
よって、『本件特許請求の効果を損なわない範囲』の具体的内容については、客観的な根拠に基づいて何ら主張・立証されていない。」(請求人口頭審理陳述要領書第7ページ第24行?第8ページ下から第2行)

(6)「Au80Sn20及びAu10Sn90という二例の『共晶はんだ』のみをもって、『よって、本件特許の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金はんだは、このような組成比率に限定されない、AuとSnから構成される(二元系合金)はんだにまで拡張あるいは一般化することができる。』とする被請求人の主張は余りにも論理が飛躍しているものであって、およそ合理的な主張とはいえない。」(上申書第5ページ第11?16行)

(7)「Au、Sn及びAgにより構成された三元系合金はんだについて、甲第3号証及び乙第10号証には、本件特許発明の効果を損なわない範囲である『Au』及び『Sn』の具体的含有量、本件特許発明の効果を損なわない範囲である『その他の元素』の具体名、本件特許発明の効果を損なわない範囲である『その他の元素』の具体的含有量は何ら記載も示唆もされていないのであるから、『よって、本件特許の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金はんだは、AuとSnとその他の元素で構成される(三元系以上の)はんだにまで拡張あるいは一般化することができる。』とする被請求人の主張は余りにも論理が飛躍しているものであって、およそ合理的な主張とはいえない。」(上申書第8ページ第1?9行)

第4 被請求人の主張

1 要点及び証拠方法
これに対し、被請求人は、以下の証拠方法に基づき、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。

乙第1号証 マグローヒル 科学技術用語大辞典 第三版,日刊工業新聞社,1996年9月30日,p.544、及び表紙、奥付
乙第2号証 東京地方裁判所平成26年(ワ)第25577号判決文
乙第3号証 菅沼克昭 編著,鉛フリーはんだ技術・材料ハンドブック,株式会社工業調査会,2007年7月10日,p.197-199、及び表紙、奥付
乙第4号証 溶接技術,産報出版株式会社,第60巻,第1号,p.86-90、及び表紙、奥付
乙第5号証 JIS Z3282(2006)
乙第6号証 INDIUM CORPORARION社の製品データシート
乙第7号証 三菱マテリアル社の金錫(AuSn)合金の物性値・平行状態図
(http://www.mmc.co.jp/adv/ele/ja/products/assembly/ausn-special03.html)
乙第8号証 特開2008-161913号公報
乙第9号証 無効2012-800110における請求人陳述要領書
乙第10号証 特許第4305511号公報
乙第11号証 Journal of MATERIANS RESEARCH,Volume20,Number8,August 2005
乙第11号証の2 乙第11号証の部分訳文
乙第12号証 特開2000-52083号公報
乙第13号証 特許第4617902号公報
乙第14号証 特許第4811661号公報
乙第15号証 特許第4872764号公報
乙第16号証 特許第5633812号公報
乙第17号証 特許第5633815号公報
乙第18号証 特許第5633816号公報
乙第19号証 米国特許第4,682,607号明細書
乙第19号証の2 乙第19号証の訳文
乙第20号証 知的財産高等裁判所平成27年(ネ)第10114号被請求人第1準備書面
乙第21号証 東京工業大学大学院総合理工学研究科の梶原正憲教授の見解書
乙第22号証 証拠説明書

2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)「特許請求の範囲の『Au-Sn系はんだ』は、Au及びSnを含み、本件特許発明の効果を損なわない範囲で、その他の元素を含んでいてもよく、構成する元素による金属間化合物を含んでいてもよく、不均一な組織態様を含んでいてもよいはんだ(合金)である。
また、比較する『Ag-Sn系はんだ』は、Ag及びSnを含み、その他の元素を含んでいてもよく、構成する元素による金属間化合物を含んでいてもよく、不均一な組織態様を含んでいてもよいはんだ(合金)である。」(答弁書第5ページ第11?17行)

(2)「本件特許の特許請求の範囲と、発明の詳細な説明、特に、段落【0075】-【0079】の実施例とにおいて、同じ『Au-Sn系はんだ』という用語を使用している。
また、発明の詳細な説明において、特許請求の範囲に記載されている『Au-Sn系はんだ』が、発明の詳細な説明(実施例)に記載されている『Au-Sn系はんだ』の上位概念であるというような記載も存在しない。
従って、本件特許の特許請求の範囲に記載されている『Au-Sn系はんだ』と、発明の詳細な説明に記載されている『Au-Sn系はんだ』とは同一の概念(範囲)であると考えるのが相当であり、『Au-Sn系はんだ』の用語を、特許請求の範囲では広く解釈し(例えば、他の元素を含むものと解釈し)、発明の詳細な説明(実施例)では狭く解釈する(例えば、AuとSnとのみからなるものと解釈する)ことは妥当ではない。」(被請求人口頭審理陳述要領書第1ページ下から第10?下から第1行)

(3)「本件の『Au-Sn系はんだ』と、発明の詳細な説明に記載された唯一の具体例である『Au-Sn系はんだ』とは、同じ概念であり、何れも、Au及びSnを主成分とするはんだであり、Ag等の金属元素やAuSn4等の金属間化合物を含有する態様でもよく、不均一な合金の組織態様を含んでもよいものである。具体例(実施例)で使用した『Au-Sn系はんだ』がAuとSnのみからなる二元系はんだに限られるとする根拠はない。」(被請求人口頭審理陳述要領書第3ページ下から第6行?下から第1行)

(4)「○1
(・・・中略・・・)本件特許の『Au-Sn系はんだ』は、
・Au及びSnを(主成分として)含み、
・『本件特許発明の効果を損なわない範囲』で、その他の元素を含んでいてもよく、
・構成する元素による金属間化合物を含んでいてもよく、
・不均一な組織態様を含んでいてもよいという意味である。
○2『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『Au』及び『Sn』の具体的含有量については、それらが主成分として含有されている量であると、当業者は認識することができる。
○3『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『その他の元素』の具体名については、甲第3号証の第434頁の表3.7に記載されているAgおよびPb、甲第4号証の第44頁の表3.1及び甲第7号証の第123頁の表5.3に記載されているCu、In、Bi、Ag並びに乙第5号証(JIS Z 3282 2006)の表2(鉛フリーはんだの種類・記号および化学成分)に記載されているSb,Bi,Cu,In,Al,As,Cd,Fe,NiおよびZnを、当業者は認識することができる。
なお、甲第4号証、甲第7号証及び乙第5号証に記載されている上記各金属は、Au-Sn系はんだにおけるその他の元素に関するものではないが、『M1-M2系』で表される鉛フリーはんだにおけるM1及びM2以外の金属元素として示されているものである。
○4『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『その他の元素』の具体的含有量については、『Au』及び『Sn』が主成分として含有されていることを妨げない量であると当業者は認識することができる。
○5構成する元素による金属間化合物については、『本件特許発明の効果を損なわない範囲』という限定をつけていない。(・・・中略・・・)Au80-Sn20はんだ自体が金属間化合物によって構成されており、金属間化合物の量について具体的な範囲を論ずる必要はないからである。
○6不均一な組織態様についても、『本件特許発明の効果を損なわない範囲』という限定をつけていない。(・・・中略・・・)Au-Sn合金は組成の変化により様々な相を形成するものであり、不均一な組織態様を含むものと考えられるからである。」(被請求人口頭審理陳述要領書第5ページ下から第9行?第6ページ第22行)

(5)「Ag3.5Sn96.5よりも接合強度の高い、AuとSnから構成される(二元系合金)はんだとして、Au80Sn20に近いAuリッチの組成(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金からなるはんだとともに、Au10Sn90に近い組成(例えば、乙第8号証の請求項1に記載されているようなAuの含有量が5?15質量%)の合金からなるはんだについても当業者であれば認識することができる。
よって、本件特許の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金はんだは、このような組成比率に限定されない、AuとSnから構成される(二元系合金)はんだにまで拡張あるいは一般化することができる。」(上申書1第3ページ第12?19行)

(6)「上記特許公報の表1(当審注:乙第10号証(特許第4305511号公報の段落【0025】における表1)から、Agの含有量が20wt%以下(Au及びSnの具体的含有量が80wt%以上)である『Au-Sn系はんだ』(実施例1?12及び比較例1)の機械強度は、Au80wt%及びSn20wt%からなる『Au-Sn系はんだ』(比較例2)の機械強度(59MPa)と同程度またはそれ以上であり、20wt%以下のAgの添加によってはAg-Sn系の機械強度が大きく変化するようなことがないことが理解される。
(・・・中略・・・)
○4 上記のように、『Au』及び『Sn』の具体的含有量(合計含有量)が80wt%以上であり、Au及びSn以外の『その他の元素』の具体名が『Ag』であり、『その他の元素』である『Ag』の具体的含有量が20wt%以下である『Au-Sn系はんだ』は、Au80wt%及びSn20wt%からなる『Au-Sn系はんだ』と同程度またはそれ以上の引張強度(乙第6号証及び乙7号証を併せて考慮すれば少なくともAg3.5Sn96.5よりも格段に高い引張強度)を有する。
また、当業者である請求人によれば、はんだの引張強度が大きいほどはんだの接合強度も大きくなる(引張強度が接合強度の指標になる)というのであるから、『Ag』を20wt%以下の割合で含有する『Au-Sn系はんだ』は、Au80wt%及びSn20wt%からなる『Au-Sn系はんだ』と同程度またはそれ以上の接合強度(少なくともAg3.5Sn96.5よりも高い接合強度)を有することになると当業者が認識するのであるから、『Ag』を20wt%以下の割合で含有する『Au-Sn系はんだ』は、『本件特許発明の効果を損なわない範囲』の『Au-Sn系はんだ』である。
○5
(・・・中略・・・)
・『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『Au』及び『Sn』の具体的含有量(主成分と認識される含有量)が80重量%以上であることを、甲第3号証及び乙第10号証(更に後述する乙第13号証)などに記載された技術常識から、当業者が認識することができる。
・『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『その他の元素』として『Ag』が含まれることを、甲第3号証及び乙第10号証などに記載された技術常識から、当業者が認識することができる。
・『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『その他の元素』である『Ag』の具体的含有量が20重量%以下であることを、甲第3号証及び乙第10号証などに記載された技術常識から、当業者が認識することができる。
○6 よって、本件特許の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80重量%とSn25?20質量%)の合金はんだは、AuとSnとその他の元素で構成される(三元系以上の)はんだにまで拡張あるいは一般化することができる。」(上申書1第4ページ下から第4行?第5ページ下から第7行)

(7)「『その他の元素』の具体名(及び具体的含有量)として、Ge(0.03?1.5質量%)、Bi(0.1?5質量%)、Sb(0.01?1質量%)、ln(0.1?5質量%)、W(0.02?0.5質量%)、Mo(0.02?4.3質量%)、Co(0.01?2.0質量%)、P(0.001?0.5質量%)、Zn、Te及びSiを当業者が認識することができる。
また、乙第13号証の記載により、主成分であるAuとSnとの合計含有量が80質量%以上(その他の元素の含有量が20質量%以下)であることを当業者が認識することができる。」(上申書1第14ページ第9?16行)

第5 当審の判断

1 明細書のサポート要件
特許法36条6項1号は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること(以下「明細書のサポート要件」という。)を規定するものであり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、以下、本件について、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載を確認し、発明の詳細な説明の記載から、本件発明の解決しようとする課題と課題を解決するための手段について検討することとする。

2 本件明細書の特許請求の範囲の記載について
本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1には、「遠位端側小径部と前記遠位端側小径部より外径の大きい近位端側大径部とを有するコアワイヤと、前記コアワイヤの遠位端側小径部の外周に軸方向に沿って装着され、先端側小径部と、前記先端側小径部よりコイル外径の大きい後端側大径部と、前記先端側小径部と前記後端側大径部との間に位置するテーパ部とを有し、少なくとも先端部および後端部において前記コアワイヤに固着されているコイルスプリングとを有」し、「前記コイルスプリングの先端側小径部の長さが5?100mm、コイル外径が0.012インチ以下」である医療用ガイドワイヤについて、Au-Sn系はんだにより前記コイルスプリングの先端部は前記コアワイヤに固着されること、及び、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであることが記載されている。
また、本件発明2ないし9に係る特許請求の範囲の請求項2ないし9は、いずれも本件請求項1を引用するものである。

3 本件明細書の発明の詳細な説明の記載について
本件明細書には以下の事項が記載されている。
(1) 「【0001】
本発明は、コアワイヤの遠位端側小径部の外周に装着されたコイルスプリングを有する医療用ガイドワイヤに関し、更に詳しくは、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度が高く、先端部分のシェイピング操作においてシェイピング長さを従来のものよりも短くすることができるとともに、曲げ剛性が高くてトルク伝達性にも優れた医療用ガイドワイヤに関する。」

(2) 「【0004】
ここに、コイルスプリングの先端部および後端部をコアワイヤに固着するためのはんだとしては、融点が低くて取扱いが容易であることから、Ag-Sn系はんだが使用されている。」

(3) 「【0016】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の第1の目的は、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度が高く、しかも、従来のものと比較してシェイピング長さを短くすることができる医療用ガイドワイヤを提供することにある。
本発明の第2の目的は、CTO病変のマイクロチャンネル内における操作性に優れた医療用ガイドワイヤを提供することにある。
本発明の第3の目的は、低侵襲性で、マイクロチャンネルにアクセスする際の操作性が良好でありながら、十分な曲げ剛性を有し、トルク伝達性にも優れた医療用ガイドワイヤを提供することにある。」

(4) 「【0027】
請求項1?4に係る医療用ガイドワイヤによれば、コイルスプリングの先端部をコアワイヤに固着するためのはんだとしてAu-Sn系はんだが使用されているので、先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmと短い(はんだによる固着領域が狭い)にも関わらず、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分に高い(コアワイヤの遠位端側小径部の破断強度より高い)ものとすることができ、コイルスプリングに挿入されている状態のコアワイヤに引張力を作用しても、コアワイヤが引き抜かれるようなことはない。
そして、先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmと短いので、シェイピング長さ(先端の折り曲げ長さ)を短くする(0.7mm以下とする)ことができ、この結果、マイクロチャンネル内での操作時において摩擦抵抗を十分に低減させることができる。
また、従来のガイドワイヤを使用したのでは行うことのできなかった狭い領域における治療も可能になる。
【0028】
本発明の医療用ガイドワイヤは、0.012インチ以下という先端側小径部における細いコイル外径、Au-Sn系はんだによる高い固着強度、0.1?0.5mmという短い先端硬直部分により、CTO病変のマイクロチャンネル内における操作性に優れたものとなる。
本発明の医療用ガイドワイヤを構成するコイルスプリングは、先端側小径部によりコイル外径の大きい後端側大径部を有することにより、曲げ剛性が確保され、トルク伝達性にも優れたものとなる。」

(5) 「【0057】
本発明の医療用ガイドワイヤは、コイルスプリングの先端側小径部をコアワイヤに固着させるためのはんだとして、Au-Sn系はんだを使用している点に特徴を有する。
本発明で使用するAu-Sn系はんだは、例えば、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなる。
【0058】
ステンレスと、白金(合金)とをAu-Sn系はんだを使用して固着することにより、Ag-Sn系はんだによって固着する場合と比較して2.5倍程度の固着力(引張強度)が得られる。
このため、先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmと短い場合(はんだの浸透範囲がコイルピッチの1?3倍である場合)であっても、コアワイヤ10に対するコイルスプリング20の固着強度を十分高くすることができ、具体的には、コアワイヤ10の遠位端側小径部11の引張破断強度より高くすることができる。このため、コイルスプリング20と、コアワイヤ10との間に引張力を作用しても、コアワイヤ10が引き抜かれるようなことを防止することができる。
また、Au-Sn系はんだは、Ag-Sn系はんだよりも造影性に優れている。
更に、Au-Sn系はんだは、Ag-Sn系はんだよりも血液および体液に対する耐蝕性にも優れている。」

(6) 「【0060】
図1および図3(C)に示すように、コイルスプリング20の後端部である後端側大径部23の後端部分は、Ag-Sn系はんだ33により、コアワイヤ10に固着されている。
すなわち、Ag-Sn系はんだ33が、コイルスプリング20の後端部(後端側大径部23の後端部分)の内部に浸透し、コアワイヤ10(遠位端側小径部11)の外周と接触することにより、コイルスプリング20の後端部がコアワイヤ10(遠位端側小径部11)に固着されている。
【0061】
コアワイヤ10の遠位端側小径部11において、コイルスプリング20の後端側大径部23が固着する部分の外径は、コイルスプリング20の先端側小径部21が固着する部分(遠位端)の外径より大きい(相対的に固着面積が大きい)ため、Au-Sn系はんだと比較して固着力の小さいAg-Sn系はんだを使用することができる。」

上記記載によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、従来のコアワイヤの遠位端側小径部の外周に装着されたコイルスプリングを有する医療用ガイドワイヤでは、融点が低くて取扱いが容易であることから、コイルスプリングの先端部及び後端部をコアワイヤに固着するために、Ag-Sn系はんだが使用されていた(上記(1)、(2))ところ、ステンレスと、白金とをAu-Sn系はんだを使用して固着することにより、Ag-Sn系はんだによって固着する場合と比較して高い固着力(引張強度)が得られるため(上記(4)、(5))、先端硬直部分の長さが短いにも関わらず、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分に高いものとすることができ、先端硬直部分の長さを短くすることができる結果、マイクロチャンネル内での操作時において摩擦抵抗を低減させることができ、従来のガイドワイヤを使用したのでは行うことのできなかった狭い領域における治療も可能となり(上記(3)、(4))、0.012インチ以下の細い線径、Au-Sn系はんだによる高い固着強度、0.1?0.5mmという短い先端硬直部分により、操作性に優れたガイドワイヤが提供されること(上記(4))が記載されている。
よって、発明の詳細な説明の記載に基づけば、本件発明の解決しようとする課題は、従来の線径が0.012インチ以下のガイドワイヤでは、Ag-Sn系はんだを用いているところ、そのはんだの固着強度が低く、固着領域を小さくできなかったため、固着領域の大きさに依存するシェイピング長さ(ガイドワイヤの先端の折り曲げ長さ)を短くすることができなかったことであると把握でき、また、本件発明が、Au-Sn系はんだを用いて、コイルスプリングの先端部はコアワイヤに固着させるとともに、当該Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであるものとすることを、当該課題を解決するための手段とし、その手段を採用したことにより、コイル外径が0.012インチ以下の医療用ガイドワイヤにおいて、所望の固着強度とシェイピング長さを満たすことができるとの作用効果を奏するものと理解できる。
また、そのAu-Sn系はんだの具体例として、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金が例示されている(上記(5))。

4 本件明細書のサポート要件について
本件発明、即ち、Au-Sn系はんだを用いた特許請求の範囲に記載のガイドワイヤが、発明の詳細な説明においてAu-Sn系はんだを用いたガイドワイヤについて記載された事項から、上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、特許出願時の技術常識に照らし上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを以下、検討する。

(1)本件発明における「Au-Sn系はんだ」について
本件特許請求の範囲には、Au-Sn系はんだによりコイルスプリングの先端部はコアワイヤに固着されること、及び、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであることが特定事項として記載されている。
しかしながら、「はんだ」に関しては、「Au-Sn系はんだ」を用いることを単に特定するのみで、Au及びSnの具体的な含有量や、その他の元素や金属間化合物の有無、その他の元素や金属間化合物を含有する場合のその他の元素や金属間化合物の具体例及び含有量について何ら特定していない。
また、発明の詳細な説明には、「Au-Sn系はんだ」なる用語について特段の定義もない。
そうすると、特許請求の範囲に記載された「Au-Sn系はんだ」とは、一般的な技術用語として解釈するより他はないので、以下、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」がどのようなものかを検討する。

ア 甲第1号証第27ページ第4?6行の「2種類以上の金属または金属と非金属を溶かし併せたものを合金(alloy)といい、構成元素の数によって2元系合金(binary alloy)、3元系合金(ternary alloy)などと区別する。」との記載及び甲第2号証第1ページ第2?10行の「はんだとは、はんだ付けに利用される鉛とスズを主成分とした合金である(・・・中略・・・)鉛を含まない鉛フリーはんだ(無鉛はんだ)が使われることが多い。」との記載から、はんだが合金の一種であるところ、その成分(構成元素)を表記するために「?系」という表現が用いられることが認められるから、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」とは、その文言からAu及びSnを主成分とすることは、明らかである。

イ 甲第3号証第433ページ(5)Au基はんだの欄及び第434ページ表3.7の記載から、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」には、AuとSnだけで構成されるはんだと、AuとSnとAgなどのその他の元素で構成される合金としてのはんだの双方を含むものと理解される。

ウ 乙第6号証製品データシート欄、乙第7号証「物性値」の表、乙第8号証段落【0002】?【0003】の記載から、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」とは、AuとSnだけで構成される場合に、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%という成分比率だけでなく、両者の成分比率として種々の比率を含むものと理解される。

エ 甲第4号証第45ページ第7行?第46ページ第16行及び図3.2の記載から、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」には、AuとSn以外の元素や、不均一な組織構造を有するAuSn4等の金属間化合物等を含み得るものと理解される。

以上のア?エを総合すれば、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」とは、Au及びSnを主成分として含むはんだである必要があり、AuとSn以外のその他の元素や金属間化合物を含有しても、しなくてもよく、含有しない場合、Auと、Snの成分比率も何ら限定されない「はんだ」と認められる。
なお、この解釈は、第4の2(1)及び(3)からみて、「Au-Sn系はんだ」の解釈に関する被請求人の主張とも整合するものである。

(2) 本件明細書のサポート要件の判断
上記のとおり、特許請求の範囲に記載された「Au-Sn系はんだ」とは、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」を意味するものと解すべきであるが、この一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」を用いた特許請求の範囲に記載のガイドワイヤが、発明の詳細な説明においてAu-Sn系はんだを用いたガイドワイヤについて記載された事項から、本件発明の上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明をみると、本件発明の解決しようとする上記課題を解決するための手段として、上記3で検討したとおり、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%を用いたガイドワイヤについて実施例と、その作用効果が記載されているにすぎず、AuとSnとの二成分からなるはんだを用いたガイドワイヤの場合、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%という成分比率以外にどのような成分比率のはんだを用いれば上記課題が解決できるのかについて、発明の詳細な説明には何ら開示されていない。
また、AuとSnと、Au及びSn以外のその他の元素や金属間化合物を含有するはんだを用いたガイドワイヤの場合、その他の元素としてどのような元素を用い、また、どの程度の含有量を含んだはんだを用いれば上記課題が解決できるのかについて、発明の詳細な説明には何ら開示されていない。
そこで、出願時の技術常識について検討すると、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」を用いた特許請求の範囲に記載のガイドワイヤが、いかなる成分比率のはんだを用いても、Ag-Sn系はんだを用いるよりも固着強度が高く、Au-Sn系はんだを用いてコイルスプリングの先端部をコアワイヤに固着した場合に、Ag-Sn系はんだを用いるよりもシェイピング長さを短くすることができるものであるとは、技術常識であるとも認められないし、またそのように認識することができると認めるに足りる証拠もない。
むしろ、合金は、通常、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するか予測することは困難であって、ある成分の含有量をわずかに増減したり、その他の成分をわずかながらでも更に添加すると、その特性が大きく変わるということが当業者の技術常識であることに照らせば、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」を用いたガイドワイヤであれば、はんだの具体的成分にかかわらず必ず上記課題を解決できるものと当業者が予測することはほとんど不可能である。
してみると、当業者において、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」を用いた特許請求の範囲に記載のガイドワイヤが、当業者が出願時の技術常識に照らしても上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

(3) 被請求人の主張について
被請求人は、一般的な技術用語としてのAu-Sn系はんだに関して、上記第4の2(5)?(7)の主張で、各元素等の含有量の具体的数値について言及し、一般的な技術用語としてのAu-Sn系はんだが上記課題を解決できる旨の主張をしているものと認められる。
これらの主張は、AuとSnとからなるAu-Sn系はんだのAuとSnの含有量についての主張(上記第4の2(5))、その他の元素や金属間化合物を含有するAu-Sn系はんだの各元素の含有量についての主張(上記第4の2(6)及び(7))、Au-Sn系はんだにおけるAuとSnの合計含有量の下限についての主張(上記第4の2(6)及び(7))の3つであると整理されるが、以下ア-ウのとおり、失当である。

ア 被請求人は、上記第4の2(5)の主張からみて、乙第6?8号証により、Ag3.5Sn96.5よりも接合強度の高い、AuとSnから構成される(二元系合金)はんだとして、Au80Sn20に近いAuリッチの組成(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金からなるはんだとともに、Au10Sn90に近い組成(例えば、乙第8号証の請求項1に記載されているようなAuの含有量が5?15質量%)の合金からなる共晶はんだについても当業者であれば認識することができ、よって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金はんだは、このような組成比率に限定されない、AuとSnから構成される(二元系合金)はんだにまで拡張あるいは一般化することができる、旨の主張をしている。
しかしながら、乙第6?8号証からは、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」の例であるAu80Sn20及びAu10Sn90が、Ag-Sn系はんだの1つであるAg3.5Sn96.5よりも高い接合強度を有することが認識できるのみであって、これら以外の一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」が、Ag-Sn系はんだよりも高い接合強度を有することは判断できない。
また、被請求人は、AuとSnの含有量が、共晶はんだ以外のどのような含有量であっても、Ag3.5Sn96.5からなるはんだ以外の一般的なAg-Sn系はんだよりも高い固着強度を有し、当業者が上記3で認定した課題を解決できることを認識できるか否かについて、他の証拠方法を提出していない。
してみると、被請求人が提出した乙第6?8号証からは、被請求人が主張するような、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金はんだは、AuとSnだけで構成される場合に、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%という成分比率以外のあらゆる含有量のはんだにまで拡張あるいは一般化することができるものとは認められない。

イ 被請求人は、上記第4の2(6)の主張からみて、甲第3号証並びに乙第6,7,10及び13号証により、Ag3.5Sn96.5よりも接合強度の高い、AuとSnから構成される(三元系合金)はんだを示すとともに、「Ag」を20wt%以下の割合で含有する「Au-Sn系はんだ」は、Au80wt%及びSn20wt%からなる「Au-Sn系はんだ」と同程度またはそれ以上の接合強度(少なくともAg3.5Sn96.5よりも高い接合強度)を有することになると当業者が認識するのであるから、「Ag」を20wt%以下の割合で含有する「Au-Sn系はんだ」は「本件特許発明の効果を損なわない範囲」の「Au-Sn系はんだ」である旨主張するとともに、「本件特許発明の効果を損なわない範囲」である「Au」及び「Sn」の具体的含有量(主成分と認識される含有量)が80重量%以上であり、「本件特許発明の効果を損なわない範囲」である「その他の元素」として「Ag」が含まれ、「本件特許発明の効果を損なわない範囲」である「その他の元素」である「Ag」の具体的含有量が20重量%以下である旨主張し、さらに、本件特許の発明の詳細な説明に記載された(Au75から80重量%とSn25から20質量%)の合金はんだは、AuとSnとその他の元素で構成される(三元系以上の)はんだにまで拡張あるいは一般化することができる旨主張している。
また、上記第4の2(7)の主張からみて、「その他の元素」の具体名(及び具体的含有量)として、Ge(0.03?1.5質量%)、Bi(0.1?5質量%)、Sb(0.01?1質量%)、ln(0.1?5質量%)、W(0.02?0.5質量%)、Mo(0.02?4.3質量%)、Co(0.01?2.0質量%)、P(0.001?0.5質量%)、Zn、Te及びSiを当業者が認識することができる旨主張している。
しかしながら、甲第3号証並びに乙第6,7及び10号証からは、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」の例であるいくつかのはんだが、Ag-Sn系はんだの1つであるAg3.5Sn96.5よりも高い接合強度を示すのみであって、これら以外の一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」が、Ag-Sn系はんだよりも高い接合強度を有することは判断できない。
また、乙第13号証からは、「その他の元素」として、Ge(0.03?1.5質量%)、Bi(0.1?5質量%)、Sb(0.01?1質量%)、ln(0.1?5質量%)、W(0.02?0.5質量%)、Mo(0.02?4.3質量%)、Co(0.01?2.0質量%)、P(0.001?0.5質量%)、Zn、Te及びSiが含まれた一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」が、Ag-Sn系はんだよりも高い接合強度を有することは判断できない。
そもそも、乙第10号証の段落【0023】には、「Ag-Au-Sn系はんだ」と記載されているところ、表1の実施例1?12について、被請求人は「Ag-Sn系はんだ」ではなく、「Au-Sn系はんだ」という前提で主張を行っているが、表1の実施例1?12で示される「Ag-Au-Sn系はんだ」について、当業者が、「Ag-Sn系はんだ」と比較される「Au-Sn系はんだ」を理解すると認め得る客観的な根拠を示していない。
また、被請求人は、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」が、その他の元素を含む場合に、Au及びSnが主成分であれば、Au及びSnがいかなる含有量であり、その他の元素が具体的にどのような元素であって、また、その他の元素が具体的にどのような含有量であっても当業者が上記3で認定した課題を解決できることを認識できるか否かについて、他の証拠方法を提出していない。
してみると、被請求人が提出した甲第3号証並びに乙第6,7,10及び13号証からは、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金はんだが、このような組成比率に限定されない、AuとSn以外のその他の元素や金属間化合物を含有する態様のはんだにまで拡張あるいは一般化することができるものとは認められない。

ウ 被請求人は、上記第4の2(6)及び(7)の主張からみて、Au及びSnの合計含有量が80wt%以上であるものを、本件発明の効果を損なわない範囲である旨の主張を行っている。
しかしながら、この主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから、採用できない。
また、いずれの証拠にも、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」について、AuとSnの合計含有量について、その下限を定めたものは認められず、いわんや上記課題を解決するための上記合計含有量がどの程度必要なのかについて言及したものは認められない。

(4) 小括
上記(2)で検討したとおり、本件明細書に接する当業者において、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」を用いた特許請求の範囲に記載のガイドワイヤの全ての態様について、発明の詳細な説明には、記載されているとはいえないし、また発明の詳細な説明には、その示唆がされているとも認められないから、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」を用いた特許請求の範囲に記載のガイドワイヤが、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲であるものとはいえない。また、当業者において、一般的な技術用語としての「Au-Sn系はんだ」を用いた特許請求の範囲に記載のガイドワイヤが、当業者が出願時の技術常識に照らし上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
また、上記(3)で検討したとおり、被請求人の主張を参酌しても、上記判断を覆すに足るものとはいえない。
したがって、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。
また、請求項1を引用する請求項2ないし9の記載も、同様の理由により、明細書のサポート要件に適合するということはできない。
以上のとおり、本件発明の「Au-Sn系はんだ」を用いたガイドワイヤが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識によって裏付けられているということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、本件明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものである。
よって、本件発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるので、同法第123条第1項第4項に該当し、無効とすべきである。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-24 
結審通知日 2016-05-26 
審決日 2016-06-07 
出願番号 特願2009-121810(P2009-121810)
審決分類 P 1 113・ 537- Z (A61M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内藤 真徳  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 宮下 浩次
関谷 一夫
登録日 2009-08-07 
登録番号 特許第4354525号(P4354525)
発明の名称 医療用ガイドワイヤ  
代理人 愛智 宏  
代理人 三木 浩太郎  
代理人 早川 尚志  
代理人 吉本 聡  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ