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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1327841
異議申立番号 異議2016-700191  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-07 
確定日 2017-03-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5775315号発明「低濃度システアミン含有の毛髪変形(デザイン形成)剤、毛髪柔軟化剤及び毛髪浸透促進剤、並びにこれら剤を使用した毛髪処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5775315号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3について訂正することを認める。 特許第5775315号の請求項1、2、3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5775315号の請求項1-3に係る特許についての出願は、平成23年1月28日に特許出願され、平成27年7月10日にその特許権の設定登録がされ、平成28年3月7日に特許異議申立人 小野幸範(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。
平成28年 5月13日付け:取消理由の通知
同年 7月14日 :訂正の請求及び意見書の提出 (特許権者)
同年10月14日 :意見書の提出 (申立人)
同年11月17日付け:取消理由(決定の予告)の通知
平成29年 1月17日 :訂正の請求及び意見書の提出 (特許権者)

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
平成29年1月17日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)特許請求の範囲の請求項1の
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、システアミン濃度が0.5?2.0重量%でpHが9.2?9.5であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
を、
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が0.5?2.0重量%でpHが9.2?9.5(但し、システアミン濃度が1.36重量%の場合を除く)であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
に訂正する(以下、「訂正事項1」という。)。
(2)特許請求の範囲の請求項2の
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、システアミン濃度が1.3?2.5重量%でpHが8.5?9.2であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
を、
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が1.3?2.5重量%でpHが8.5?9.2(但し、システアミン濃度が1.36重量%及び1.67重量%の場合を除く)であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
に訂正する(以下、「訂正事項2」という。)。
(3)特許請求の範囲の請求項3の
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、システアミン濃度が2?2.5重量%でpHが8.0?9.2であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
を、
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が2?2.5重量%でpHが8.0?9.2であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
に訂正する(以下、「訂正事項3」という。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1-3のいずれも、それぞれ本件特許出願の請求項1-3に係る毛髪変形(デザイン形成)剤において、還元剤をシステアミンのみに限定し、さらに、訂正事項1においては、本件特許出願の請求項1に係る毛髪変形(デザイン形成)剤のシステアミン濃度において、「1.36重量%」、訂正事項2においては、本件特許出願の請求項2に係る毛髪変形(デザイン形成)剤のシステアミン濃度において、「1.36重量%」及び「1.67重量%」を除くものである。
そうすると、上記訂正事項1-3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
また、上記訂正事項1-3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正請求による訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1-3に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-3に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
【請求項1】
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が0.5?2.0重量%でpHが9.2?9.5(但し、システアミン濃度が1.36重量%の場合を除く)であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
【請求項2】
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が1.3?2.5重量%でpHが8.5?9.2(但し、システアミン濃度が1.36重量%及び1.67重量%の場合を除く)であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
【請求項3】
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が2?2.5重量%でpHが8.0?9.2であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」

第4 取消理由についての判断
1 取消理由通知の概要
当審は平成28年11月17日付け取消理由(決定の予告)の通知において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。

本件発明2に係る特許は、その優先日前に日本国内において頒布された刊行物10及び刊行物3-6に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<各刊行物>
刊行物1:特開昭57-62217号公報(甲第1号証)
刊行物2:大木道則他編、「化学大辞典」第1版第6刷、東京化学同人、
2001年6月1日、p594(甲第2号証)
刊行物3:光井武夫編、「新化粧品学」第1版第2刷、南山堂、
1994年5月10日、p441-443(甲第3号証)
刊行物4:赤堀敏之他著、「サイエンス オブ ウェーブ」改訂版第2刷、
新美容出版、2002年4月25日、p38-49
(甲第4号証)
刊行物5:田村健夫著、「香粧品科学」第3版、日本毛髪科学協会、
1977年10月10日、p357-360(甲第5号証)
刊行物6:日本化粧品技術者会編、「最新化粧品科学」改訂増補II、
薬事日報社、平成4年7月10日、p131-135
(甲第6号証)
刊行物7:赤堀敏之他著、「サイエンス オブ ウェーブ」改訂版第2刷、
新美容出版、2002年4月25日、p25(甲第7号証)
刊行物8:特開2002-363041号公報(甲第8号証)
刊行物9:特開平6-24946号公報(甲第9号証)
刊行物10:「marcel(マルセル)」2003年4月号、
新美容出版、2003年4月1日、p50-57
(甲第10号証)
刊行物12:特開2003-226609号公報(甲第12号証)

2 甲各号証に記載された事項
(1)甲第10号証(刊行物10)に記載された事項
a 「カーリング剤のデータ収集の「実際」

●ターゲットとなる剤を選定する
⇒化粧品分類のカーリング剤に選定
「昨年の下半期から、ぞくぞく登場してきているカーリング剤。この剤自体の性能をとらえてみたい」が背景になっています。

●データ収集の目的を明確にする
⇒3種類の還元剤の違いで、
ウエーブ効率とダメージ具合を比較する
ここでは、51頁で整理したカーリング剤の位置づけと基本性能をベースに考えます。まず、パーマ剤と比較した場合のウエーブ効率とダメージ度合いを比較することがポイントになります。
さらに、カーリング剤には、大きく3つの還元剤があるため、それぞれ還元剤が違う場合にはウエーブ形成などにどのような違いがあるのかをチェックするのも重要です。以上のような要因から、上記の目的を設定しました。

●ターゲットの剤の基本性能を整理する
今回は、シス、サルファイト、システアミン3種類の還元剤でのデータを収集します。それぞれの基本性能は以下の通りです。

【システアミン系】
・pH=8.5
1剤 ・アルカリ量=アンモニア1.5ml
・還元剤配合量=システアミン1.67%」(53頁)

(2)甲第3号証(刊行物3)に記載された事項
a 「3-4-3.パーマネントウェーブ用剤の種類

1)チオグリコール酸類を主成分とするパーマネントウェーブ用剤
還元剤としてチオグリコール酸,またはその塩類…が使用され,ほかにアルカリ剤,界面活性剤,安定化剤などが配合される.

そのほか,安定化剤としてエデト酸塩などのキレート剤,…などが配合される.」(441頁)

(3)甲第4号証(刊行物4)に記載された事項
a 「パーマ剤の成分

2|パーマ剤の基本構成
パーマ剤の基本的な構成成分は図表1の通りで、次の4つに大別できます。
○1(注:原文は○の中に1。以下同じ)有効成分(還元剤または酸化剤)
○2助剤(アルカリ剤)
○3添加剤
○4水

5|添加剤

○1還元剤の安定剤
1剤の有効成分であるチオグリコール酸やシステインは、金属イオンが存在すると、それと結合して酸化が促進されます。特に、鉄イオンが存在すると紫色に呈色します。
したがって、通常はこれらの金属イオンを封鎖するためのキレート剤を安定剤として配合します。キレート剤としては、エデト酸(EDTA)またはその塩類や、エデト酸と類似した構造のジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはその塩類のほか、クエン酸、リン酸系の化合物が使用されます。」(38-43頁)

(4)甲第5号証(刊行物5)に記載された事項
a 「(4)原料成分とその作用
パーマネントウェーブ液の第1液の主成分は還元剤で,これに通常アルカリが添加され,さらに浸透をよくするために界面活性剤と安定剤が使用される。…
a)第1液の原料成分
i チオグリコール酸 Thioglycolic acid,とシステイン Cysteine

iv 安定剤
チオグリコール酸もシステインも共に,アルカリ性で酸化変質しやすく,特に光,熱,酸素,金属等によって酸化が促進される。酸化を防止するためには亜硝酸塩のような還元剤がよいとされているが,基準によって使用することができない。そのためエデト酸二ナトリウムのようなキレート剤が金属イオンを不活化するために使用されている。」(357-360頁)

(5)甲第6号証(刊行物6)に記載された事項
a 「4.4.3 パーマネント・ウェーブ用剤の原料およびその働き
パーマ液は還元剤を主成分とし,通常その還元作用をより効果的にするためのアルカリ剤,界面活性剤,安定剤,養毛剤等を含む第1剤と,酸化剤を主成分とし,界面活性剤,安定剤,養毛剤等を加えた第2剤とからなっている。

d)安定剤
パーマ液の還元剤は酸化され易く,特にアルカリ性で,かつ金属の存在により促進される。この防止策の一つとして通常エデト酸ナトリウムのごときキレート剤が添加される。」(131-133頁)
b 「

…」(135頁)

(6)甲第7号証(刊行物7)
a 「4|その他の要因について
今までは、主に1剤の配合成分の個々の変化にともなうパーマ剤の特徴について説明しましたが、パーマ剤はこれらの配合成分を組み合わせて調製されているものですから、ここではパーマ剤1剤全体を総合的に見た場合の特徴について説明します。
◆1剤のpHの変化
前述のアルカリ剤の項では、主にアルカリ剤の種類にともなう影響について説明しましたが、ここでは製品全体のpH(1剤のpH)の影響について説明します。
図表11にパーマ剤1剤のpHと毛髪の膨潤度、及びウェーブ効率の関係を示しました。このように、2つの曲線は同じようなカーブを描いていますから、毛髪の膨潤度とウェーブ効率には密接な関係のあることがわかります。
つまり、毛髪の膨潤度が大きい1剤ほど、その効果も強いということです。
毛髪の膨潤度はpHの上昇にともなって増加しますから、一般的に高いpHを持つ1剤ほど、強いウェーブ形成力や縮毛矯正効果を発揮することになります。」(25頁左欄)
b「

」(25頁右下)

(7)甲第8号証(刊行物8)
a 「【0013】…
(第1発明の作用・効果)第1発明によれば、第1剤組成物のpHが従来の主流である8.5?9.5…」

(8)甲第9号証(刊行物9)
a 「【0041】

実施例1
毛髪全体に下記の還元性組成物を施すことにより毛髪にパーマネントウェーブをかけた:
-システアミン塩酸塩 4g
-GAF社から“Copolymer 845”の商品名で市販の
N-ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリレート
共重合体の20重量%水溶液 0.5g
-GOLDSCHMIDT社から“Tegobetain HS”
の商品名で市販のココアミドプロピル-ベタイン 2g
-アンモニア pH=9.2になる量
-着色剤 少量
-香料 少量
-水 全体が100gになる量」

(9)甲第1号証(刊行物1)
a 「一般式(I)
HSCH_(2)CH_(2)NH-R (I)
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基またはヒドロキシエチル基を示す)で表わされるシステアミンまたはその誘導体を含有することを特徴とするパーマネントウエーブ用第一液。」(請求項1)
b 「パーマネントウエーブ用第一液の還元成分として、従来最も多く使用されているものはチオグリコール酸(HSCH_(2)COOH)であるが、これは臭いが悪いため使用者に不快感を与えると共に、ウエーブ形成能も充分でないという欠点を有する。
近年、このチオグリコール酸の代りにシステインを主剤とする第一液が開発され、実用に供されている。この第一液はチオグリコール酸を使用するものに比較し、臭は改善されたが、ウエーブ形成能という基本的な点において未だ充分とはいえない。
そこで、本発明者は斯る欠点を解決せんと多面的に鋭意研究を行った結果、パーマネントウエーブ用第一液の主成分として、次の一般式(1)
HSCH_(2)CH_(2)NH-R (I)
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基またはヒドロキシエチル基を示す)で表わされるシステアミンまたはその誘導体を使用すれば、ウエーブを短時間で形成することができ、しかもウエーブ形成効果のたかいパーマネントウエーブ用第一液が得られることを見出し、本発明を完成した。
従つて、本発明は、一般式(I)で表わされるシステアミンまたはその誘導体を含有するパーマネントウエーブ用第一液を提供するものである。
本発明の第一液はシステアミンまたはその誘導体を単独でその主成分とすることもできるが、これに、従来パーマネントウエーブ用第一液に使用されている公知の還元剤を併用すると、そのウエーブ形成能は相剰的に増大される。
公知の還元剤としては、例えばチオグリコール酸、システイン、酸性次亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオグリセリン、チオ乳酸等が挙げられるが、その中で特にチオグリコール酸及びシステインが好ましい。
システアミンまたはその誘導体の本発明第一液中の濃度は、この使用時の濃度、例えば0.1重量%以上であれば特に制限されず、高濃度の場合には適宜希釈して使用できるが、取り扱いの点から0.1?15重量%、特に0.5?10重量%にするのが好ましい。また、公知還元剤を併用する場合には、システアミンまたはその誘導体1に対し0.01?100(重量)を配合するのが好ましい。」(2頁左上欄6行-右下欄8行)
c 「本発明のパーマネントウエーブ用第一液は、システアミンまたはその誘導体、更に公知還元剤を水に溶解させることによつて製造されるが、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲において、従来公知の他の第一液成分を添加配合することができる。他の成分としては、例えば…、クエン酸,リンゴ酸等の有機酸…、エチレンジアミン,モノ-,ジ-もしくはトリ-エタノールアミン,モルホリン,塩基性アミノ酸,アンモニア,苛性ソーダ等のアルカリ剤…が挙げられる。」(3頁左上欄3行-右上欄2行)
d 「実施例1
本発明のシステアミンまたはその誘導体からなる第一液及び従来品の第一液を使用してパーマネントウエーブ処理を行い、そのウエーブ度を比較した。
…これを第1表記載の化合物の7重量%水溶液からなる第一液(pH9.0)に30℃で所定時間浸漬し、…
実施例2
システアミンと他の還元剤とを併用した第一液を使用して、実施例1と同様にしてパーマネントウエーブ処理を行い、両者の併用による効果を調べた。尚第一液への浸漬時間は15分とした。その結果は第2表のとおりである。
第2表
┌────────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
│チオグリコール酸│ 7│ 5│ 3│ 0│ 0│ 0│ 0│
│ (重量%)│ │ │ │ │ │ │ │
├────────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│システイン │ 0│ 0│ 0│ 7│ 5│ 3│ 0│
│ (重量%)│ │ │ │ │ │ │ │
├────────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│システアミン │ 0│ 2│ 4│ 0│ 2│ 4│ 7│
│ (重量%)│ │ │ │ │ │ │ │
├────────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│ウエーブ度(%)│61│76│80│46│70│78│72│
│ │ │ │ │ │ │ │ │
└────────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘
第2表から明らかな如く、システアミンに他の還元剤を併用すると相剰効果が認められる。
実施例3
第一液のpHを変化させ、これに15分間浸漬させる以外は実施例1と同様に処理し、そのウエーブ度を測定した。尚還元剤は7重量%水溶液とし、pHはクエン酸又はアンモニア水で調整した。」(3頁右上欄6行-4頁右上欄4行)

(10)甲第12号証(刊行物12)
a 「【0037】還元剤としては、チオグリコール酸、システイン等を例示することができる。」
b 「【0054】本発明の化粧料および皮膚外用剤は、通常の方法に従って製造することができ、基礎化粧料、メーキャップ化粧品、毛髪用化粧品、芳香化粧品、ボディ化粧品、軟膏剤等が包含される。

【0057】毛髪用化粧品としては…、パーマネントウェーブ用剤…を例示することができる。」
c 「【0135】実施例43 カール剤
合成例17で得た本発明の組成物を用いて、下記処方のカール剤を製造した。
成 分 (1 液) 重量%
----------------------------------
1.システアミン塩酸塩 2.0
2.DLシステイン 0.4
3.モノエタノールアミン 0.9
4.アンモニア水(28%) 0.5
5.POE20ヤシ油脂肪酸ソルビタン 0.5
6.香料 0.1
7.塩化ジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体 1.0
8.エマコールVT-20(山栄化学) 3.0
9.POE20オレイルエーテル 0.5
10.POE50オレイルエーテル 0.2
11.合成例17で得たエステル 0.5
12.ラノリン脂肪酸オクチルドデシル
(YOFCO FE-1SS:日本精化) 0.3
13.ソルビタンモノステアレート 0.2
14.エデト酸四ナトリウム四水塩 0.1
15.リン酸アンモニウム 0.5
16.精製水 残余
----------------------------------
合計 100.0
【0136】16の一部(20重量%分)に1?3を加えて溶かし、予め別の容器で16の一部(10重量%分)に14、15を加えて溶かしたものを、約40℃で加えて均一に溶解させた(A部)。別の容器で16の残余を約75℃に加温した(B部)。別の容器に8?13を取り、約75℃に加温して溶解させた(C部)。C部にB部を加えて乳化させよく攪拌混合した後、40℃まで冷却してA部を加えて均一に攪拌した。次に7を加えて攪拌し、次いで5、6を加え、更に4を加えて均一に攪拌混合し、pH9.0?9.5に調整することにより、目的のカール剤1液を得た。」

3 対比・判断
(1)刊行物10に記載された発明に基づくもの
a 刊行物10に記載された発明(引用発明10)
刊行物10には、「カーリング剤」としてのシステアミン系還元剤(上記2(1)a)が、システアミン1.67%及びアンモニア1.5mlを含有し、pHが8.5であるものが記載されている。すなわち、刊行物10には以下の引用発明10が記載されていると認められる。
「還元剤としてのシステアミン及びアンモニアを含むカーリング剤であって、該カーリング剤が、システアミン濃度が1.67%でpHが8.5であることを特徴とするカーリング剤。」

b 本件発明2
ア 引用発明10との対比
引用発明10における「カーリング剤」及び「アンモニア」は、それぞれ本件発明の「毛髪変形(デザイン形成)剤」及び「pH調整剤」に相当するものと認められる。また、この剤には当然水が含まれるものと認められる。
そうすると、本件発明2と引用発明10とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、pH調整剤、及び水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、pHが8.5であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明2と引用発明10とは、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明2のシステアミン濃度は1.3?2.5重量%(但し、システアミン濃度が1.36重量%及び1.67重量%の場合を除く)であるところ、引用発明10は1.67%との記載に留まり、「重量%」表記であるか不明である点。
相違点2:本件発明2は、「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる」と規定されているところ、引用発明10は、還元剤としてのシステアミン、pH調整剤及び水の存在は明らかではあるが、金属封鎖剤についてはその存在が明らかでなく、精製水が使用されているか明らかでない点。

イ 判断
相違点1については、配合成分(システアミン、アンモニア、水)からみて、重量%で示されたものと解するのが相当である。
しかし、刊行物10には、システアミンの濃度を1.67(重量)%以外に設定することの記載はない。そして、刊行物10には、「3種類の還元剤の違いで、ウエーブ効率とダメージ具合を比較する」(上記2(1)a)ことの記載はあるものの、それぞれの還元剤の濃度を調整してみることについての示唆はない。
そして、その余の刊行物の記載事項を勘案しても、刊行物10に記載されたシステアミン濃度を調整することが当業者にとって容易に想到し得ることということはできない。
本件発明2は、システアミン濃度が特定の範囲の毛髪変形(デザイン形成)剤において、pHを特定の範囲に調整することで、「デザイン形成効果、におい、アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち、ダメージ、毛髪柔軟化、アルカリカラーの濃染(毛髪浸透促進性)等全ての効果の点で…特に優れた効果を奏することができた」というものであるところ、刊行物10やその余の刊行物の記載からは、そのような効果が予測可能とはいえない。
したがって、本件発明2は刊行物10及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

c 本件発明1
ア 引用発明10との対比
引用発明10は、上記(1)aに記載したとおりであり、上記(1)bアで検討したとおりに解釈できるから、本件発明1と引用発明10とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、pH調整剤、及び水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、システアミン濃度が1.67重量%であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明1と引用発明10とは、上記(1)bアで指摘した相違点2に加え、以下の点でも相違する。
相違点3:本件発明1はpHが9.2?9.5の範囲にあるのに対し、引用発明10はpHが8.5である点。

イ 判断
相違点3に関し、毛髪変形(デザイン形成)剤において、pHを「9.2?9.5」の範囲とすることは、刊行物6-9に記載されるように、本願出願前において一般的な技術事項であるように見受けられる。
しかし、本件発明1は、システアミン濃度が「0.5?2.0重量%」という範囲の毛髪変形(デザイン形成)剤において、pHを「9.2?9.5」という特定の範囲に調整することで、「デザイン形成効果、におい、アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち、ダメージ、毛髪柔軟化、アルカリカラーの濃染(毛髪浸透促進性)等全ての効果の点で…特に優れた効果を奏することができた」というものであるところ、刊行物6-9や刊行物10、さらにはその余の刊行物の記載からは、そのような効果が予測可能とはいえない。
したがって、本件発明1は刊行物10及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

d 本件発明3
ア 引用発明10との対比
引用発明10は、上記(1)aに記載したとおりであり、上記(1)bアで検討したとおりに解釈できるから、本件発明3と引用発明10とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、pH調整剤、及び水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、pHが8.5であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明3と引用発明10とは、上記(1)bアで指摘した相違点2に加え、以下の点でも相違する。
相違点4:本件発明3はシステアミン濃度が2?2.5重量%の範囲にあるのに対し、引用発明10はシステアミン濃度が1.67(重量)%である点。

イ 判断
相違点4に関し、刊行物1に記載されるように、毛髪変形(デザイン形成)剤のシステアミン濃度を2重量%とすることは、本願出願前において既に知られていたことである。
しかし、本件発明3は、システアミン濃度が「2?2.5重量%」という範囲の毛髪変形(デザイン形成)剤において、pHを「8.0?9.2」という特定の範囲に調整することで、「デザイン形成効果、におい、アルカリカラーの色落ち、ヘアマニキュアの色落ち、ダメージ、毛髪柔軟化、アルカリカラーの濃染(毛髪浸透促進性)等全ての効果の点で…特に優れた効果を奏することができた」というものであるところ、刊行物1や刊行物10、さらにはその余の刊行物の記載からは、そのような効果が予測可能とはいえない。
したがって、本件発明1は刊行物10及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)刊行物12に記載された発明に基づくもの
a 刊行物12に記載された発明(引用発明12)
刊行物12の実施例43(上記2(10)c)には、「システアミン塩酸塩 2.0(重量)%」、「DLシステイン」、「エデト酸四ナトリウム四水塩」、「モノエタノールアミン、アンモニア水(28%)、リン酸アンモニウム」、「精製水」を含む「カール剤」1液、該「カール剤」1液は「pH9.0?9.5」であるものが記載されている。すなわち、刊行物12には以下の引用発明12が記載されていると認められる。
「システアミン塩酸塩及びDLシステイン、エデト酸四ナトリウム四水塩、モノエタノールアミン、アンモニア水(28%)、リン酸アンモニウム、及び精製水を含むカール剤1液であって、カール剤1液が、システアミン塩酸塩濃度が2.0重量%でpHが9.0?9.5であることを特徴とするカール剤1液。」

b 本件発明1
ア 対比
引用発明12における「システアミン(塩酸塩)」、「エデト酸四ナトリウム四水塩」、「モノエタノールアミン、アンモニア水(28%)、リン酸アンモニウム」、「精製水」、「カール剤」1液は、それぞれ本件発明の「還元剤としてのシステアミン」、「金属封鎖剤」、「pH調整剤」、「精製水」、「毛髪変形(デザイン形成)剤」に相当するものと認められ、この実施例43でのシステアミン濃度は2.0×(77.15〔システアミンの分子量〕/113.61〔システアミン塩酸塩の分子量〕)=1.36(重量%)、pHは9.0?9.5であり、本件発明1の「システアミン濃度が0.5?2.0重量%でpHが9.2?9.5」と重複する。また、この実施例では、本件発明において還元剤として認識される「DLシステイン 0.4重量%」も使用されている。
そうすると、本件発明1と引用発明12とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、pHが9.2?9.5であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明1と引用発明12とは、以下の点で相違する。
相違点1:還元剤として、本件発明1は「システアミンのみを含有」するものであるところ、引用発明12は「システアミン及びDLシステイン」を含むものである点。
相違点2:本件発明1は、「システアミン濃度が1.36重量%の場合を除く」と規定されているところ、引用発明12は、システアミン濃度が1.36重量%である点。
相違点3:本件発明1は、「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる」と規定されているところ、引用発明12は、上記のDLシステインやその他の添加成分が存在する点。

イ 判断
相違点1及び2に関し、刊行物12には、システアミンの濃度を1.36重量%以外に設定することの記載はなく、係る濃度を調整しうることの示唆もない。仮に係る濃度が調整可能であるとしても、刊行物12には還元剤をシステアミンのみとすることの記載乃至示唆はない。刊行物12の実施例43(上記2(10)c)においても還元剤としてシステアミンのみの使用が記載乃至示唆されていないだけでなく、【0037】(上記3(10)a)においても「還元剤としては、チオグリコール酸、システイン等を例示することができる。」とあり、還元剤としてシステアミンのみとすると解することはできない。そして、他の刊行物において還元剤としてシステアミンのみを用いたものやシステアミンの濃度を1.36重量%としたものがあるとしても、引用発明12においてこれらの技術事項を導入する根拠は存在しない。
したがって、本件発明1は刊行物12及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

c 本件発明2
ア 対比
引用発明12は、上記(2)aに記載したとおりであり、上記(2)bアで検討したとおりに解釈できるから、本件発明2と引用発明12とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、pHが9.0?9.2であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明2と引用発明12とは、上記(2)bアで指摘した相違点1及び3に加え以下の点で相違する。
相違点2’:本件発明2は、「システアミン濃度が1.36重量%及び1.67重量%の場合を除く」と規定されているところ、引用発明12は、システアミン濃度が1.36重量%である点。

イ 判断
本件発明2と引用発明12においても、上記(2)bイで検討したとおりであり、したがって、本件発明2は刊行物12及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

d 本件発明3
ア 対比
引用発明12は、上記(2)aに記載したとおりであり、上記(2)bアで検討したとおりに解釈できるから、本件発明3と引用発明12とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、pHが9.0?9.2であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明3と引用発明12とは、上記(2)bアで指摘した相違点1及び3に加え以下の点で相違する。
相違点2'':本件発明3は、「システアミン濃度が2?2.5重量%」と規定されているところ、引用発明12は、システアミン濃度が1.36重量%である点。

イ 判断
本件発明3と引用発明12においても、上記(2)bイで検討したとおりであり、したがって、本件発明3は刊行物12及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)刊行物1に記載された発明に基づくもの
a 刊行物1に記載された発明(引用発明1)
刊行物1の実施例2第2表(上記2(9)d)には、「パーマネントウエーブ用第一液」において、システアミン2重量%と、チオグリコール酸あるいはシステインを含有するもの、係る実施例2の「パーマネントウエーブ用第一液」は、実施例1と同様にして得られるものと解され、そして、実施例1ではシステアミン等の水溶液(pH9.0)の第一液とするものであるから、この実施例2の第一液についてもpH9.0の水溶液と解される。さらに、チオグリコール酸やシステインは還元剤として認識されている(上記3(9)b)。すなわち、刊行物1には以下の引用発明1が記載されていると認められる。
「システアミン及び還元剤としてのチオグリコール酸あるいはシステイン、及び水を含むパーマネントウエーブ用第一液であって、該パーマネントウエーブ用第一液が、システアミン濃度が2重量%でpHが9.0であることを特徴とするパーマネントウエーブ用第一液。」

b 本件発明2
ア 対比
引用発明1における「パーマネントウエーブ用第一液」は、本件発明の「毛髪変形(デザイン形成)剤」に相当するものと認められる。また、引用発明1においては「システアミン」が還元剤として記載されていることは明らかでないが、公知の還元剤に代わり使用されていることに鑑みると、還元剤に相当するものと解される。
そうすると、本件発明2と引用発明1とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、及び水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、システアミン濃度が2重量%でpHが9.0であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明2と引用発明1とは、以下の点で相違する。
相違点1:還元剤として、本件発明2は「システアミンのみを含有」するものであるところ、引用発明1は「システアミン及びチオグリコール酸あるいはシステイン」を含むものである点。
相違点2:本件発明2は、「還元剤(としてのシステアミン)、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる」と規定されているところ、引用発明1は、還元剤及び水の存在は明らかではあるが、金属封鎖剤、pH調整剤についてはその存在が明らかでない点。

イ 判断
相違点1に関し、刊行物1には、システアミン濃度が2重量%の際、還元剤をシステアミンのみとすることの記載乃至示唆はない。刊行物1の実施例2において還元剤をシステアミンのみとしたものはあるが、このとき、システアミン濃度は7重量%である。
引用発明1において、還元剤をシステアミンのみとして、システアミン濃度が2重量%、あるいは本件発明2の範囲内としうるか否か検討する。
刊行物1の実施例2(上記2(9)d)では、使用される還元剤の配合比は多種存在するが、いずれにおいてもその合計値は7重量%である。係るシステアミン濃度に関し、刊行物1には「システアミンまたはその誘導体の本発明第一液中の濃度は、この使用時の濃度、例えば0.1重量%以上であれば特に制限されず、高濃度の場合には適宜希釈して使用できるが、取り扱いの点から0.1?15重量%、特に0.5?10重量%にするのが好ましい。」(上記2(9)b)と記載されているが、システアミン濃度を2重量%、あるいは本件発明2の範囲内とすること、その際の「パーマネントウエーブ用第一液」のpHを本件発明2の範囲内に調整することは、刊行物1に記載されているとはいえず、また示唆もない。そして、他の刊行物において還元剤としてシステアミンのみを用いたものやシステアミンの濃度を本件発明2の範囲内としたもの、加えてpHを本件発明2の範囲内としたものがあるとしても、引用発明1においてこれらの技術事項を導入する根拠は存在しない。
したがって、本件発明2は刊行物1及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

c 本件発明1
ア 引用発明1との対比
引用発明1は、上記(3)aに記載したとおりであり、上記(3)bアで検討したとおりに解釈できるから、本件発明1と引用発明1とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、及び水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、システアミン濃度が2重量%であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明1と引用発明1とは、上記(3)bアで指摘した二点に加え、以下の点でも相違する。
相違点3:本件発明1はpHが9.2?9.5の範囲にあるのに対し、引用発明1はpHが9.0である点。

イ 判断
本件発明1と引用発明1においても、上記(3)bイで検討したとおりである。加えて、相違点3に関しても、上記(1)cイで検討したとおりである。
したがって、本件発明1は刊行物1及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

d 本件発明3
ア 引用発明1との対比
引用発明1は、上記(3)aに記載したとおりであり、上記(3)bアで検討したとおりに解釈できるから、本件発明3と引用発明1とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、及び水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、システアミン濃度が2重量%でpHが9.0であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明3と引用発明1とは、上記(3)bアで指摘した二点で相違する。

イ 判断
本件発明3と引用発明1においても、上記(3)bイで検討したとおりであり、したがって、本件発明3は刊行物1及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 異議申立ての理由についての検討
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
・申立ての理由I
本件発明2及び3は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
・申立ての理由II
本件発明1-3は、甲第1号証及び甲第2-9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
・申立ての理由III
本件発明1-3は、甲第10号証及び甲第1-9、11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
・申立ての理由IV
本件発明1-3は、甲第11号証及び甲第1-10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
・申立ての理由V
本件発明1及び2は、甲第12号証に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
・申立ての理由VI
本件発明1-3は、甲第12号証及び甲第1-11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
・申立ての理由VII
本件発明1-3は、実施可能要件及びサポート要件に違反しており、特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号の規定を満たしていないものに対して特許されたものである。

(1)申立ての理由I-III、V-VIについて
上記3で検討したとおり、これらの理由によって本件発明1-3の特許を取り消すことはできない。

(2)申立ての理由IVについて
a 甲第11号証(特開平3-271214号公報:刊行物11)の記載事項
ア 「2.特許請求の範囲
(1) 酸及び塩から選ばれた1種または2種以上を含み、pHが2?2.7であって1ml当たり0.1?0.5ミリ当量の酸を含有していることを特徴とするシステアミン毛髪加工剤用の後処理剤。
(2) ケラチン加水分解物1?10%を含有するシステアミン毛髪加工剤を用いて毛髪の加工をしたのち、酸及び塩から選ばれた1種または2種以上を含み、pHが2?2.7であって1ml当たり0.1?0.5ミリ当量の酸を含有している後処理剤を用いて毛髪の後処理を行なうことを特徴とする毛髪加工法。」
イ 「 第 1 表
システアミン毛髪加工剤第1剤(部)
処 方 A_(1) A_(2)
塩酸システアミン水溶液^(*) 2.0 2.0
25%アンモニア水で調整 pH7.8 pH7.8
乳化剤 2.0 2.0
ケラチン加水分解物^(**) 5.0 0
精製水で全量を調整 100 100
^(* )…システアミンとして50重量%を含む。
^(**)…(株)成和化成製、プロモイスW-K 」(3頁右上欄)

b 対比・判断
ア 刊行物11に記載された発明
刊行物11には、「システアミン毛髪加工剤」において、全量100部としてシステアミン50重量%を含む塩酸システアミン水溶液を2.0部、25%アンモニア水を含有し、pHが7.8であるものが記載されている。
配合成分からみて、「部」は「重量部」で示されたものと解するのが相当である。そして、全量100(重量)部としてシステアミン50重量%を含む塩酸システアミン水溶液を2.0(重量)部用いているのであるから、システアミン濃度は1.0重量%と認められる。また、毛髪加工剤において、システアミンが還元剤であることは、例えば刊行物1、9、10、12(上記2(1)、(8)-(10))により、本件優先日前において周知であるといえる。
そうすると、刊行物11には以下の引用発明11が記載されていると認められる。
「還元剤としてのシステアミン、アンモニア、及び精製水を含むシステアミン毛髪加工剤であって、該毛髪加工剤が、システアミン濃度が1.0%でpHが7.8であることを特徴とするシステアミン毛髪加工剤。」

イ 本件発明1との対比
引用発明11における「システアミン毛髪加工剤」及び「アンモニア」は、それぞれ本件発明の「毛髪変形(デザイン形成)剤」及び「pH調整剤」に相当するものと認められる。
そうすると、本件発明1と引用発明11とは以下の点で一致する。
「還元剤としてのシステアミン、pH調整剤、及び精製水を含む毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が1.0重量%であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。」
そして、本件発明1と引用発明11とは、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明1は、pHが9.2?9.5の範囲にあるのに対し、引用発明11は7.8である点。
相違点2:本件発明1は、「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる」と規定されているところ、引用発明11は、金属封鎖剤についてはその存在が明らかでない点。

ウ 判断
相違点1に関し、上記3(1)cイで検討したことと同様であり、本件発明1は刊行物11及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明2、3との対比、判断
本件発明2と引用発明11とは、少なくとも以下の点で相違する。
相違点3:本件発明1は、pHが8.5?9.2の範囲にあるのに対し、引用発明11は7.8である点。
本件発明3と引用発明11とは、少なくとも以下の点で相違する。
相違点4:本件発明1は、pHが8.0?9.2の範囲にあるのに対し、引用発明11は7.8である点。
そして、相違点3、4に関し、上記3(1)cイで検討したことと同様であり、本件発明2、3は刊行物11及びその余の刊行物に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

c むすび
したがって、この理由によって本件発明1-3の特許を取り消すことはできない。

(3)申立ての理由VIIについて
申立人は、異議申立書44-45頁において、本件特許出願は、実施可能要件及びサポート要件に違反する旨、縷々主張する。
しかし、「本件発明1?3の「還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤」の「からなる」との記載を「のみからなる」と解釈するとすれば」との仮定は、本件発明1-3はいずれも「還元剤としてはシステアミンのみを含有し」と規定されていることに鑑みると、本件発明1-3に係る「毛髪変形(デザイン形成)剤」は、そのうちの「還元剤」が「システアミン」のみからなるものと解するのが相当であり、上記の仮定は成立しない。
また、「本件発明1?3の剤は「毛髪内のシスチン(SS)結合の切断」にしか使用されておらず、毛髪を変形(デザインを形成)を行うことは、酸化剤を含む「パーマ2剤」によってなされている…。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には「…からなる」剤が、毛髪を変形(デザインを形成)させる剤(毛髪変形(デザイン形成)剤)として、その実施…ができる程度に明確かつ十分には、記載されていない。」と主張するが、本件発明は、その背景技術として、
「【0002】
毛髪にウエーブ、カールあるいはストレー卜を形成する等の毛髪の一般的な変形方法としては、以下の二つの手順が挙げられる。
第1の手順
1.還元剤が配合された剤を用いて、毛髪内部のシスチン(SS)結合を切断する。
2.…
3.酸化剤が配合された剤を用いてシスチン(SS)結合を再結合させ、変形した毛髪を固定する。
第2の手順
1.…
2.人工的に毛髪を変形した状態で還元剤が配合された剤を用いて、毛髪内部のシスチン(SS)結合を切断する。
3.酸化剤が配合された剤を用いてシスチン(SS)結合を再結合させ、変形した毛髪を固定する。」
との認識の基になされ、
「【0007】
本発明者らは、システアミン…あるいはその毛髪化粧料として許容される塩…を配合した毛髪処理剤はそのpHを高く設定すること、特にシステアミンの濃度に応じて特定の範囲のpHを設定することで、ウエーブデザインやカールデザイン、あるいはストレートデザイン形成剤等の毛髪変形(デザイン形成)剤…等の毛髪処理剤として使用する場合、…本発明に到達することができた。」
とあるように、還元剤が配合された剤が本件発明でいう「毛髪変形(デザイン形成)剤」であり、また、酸化剤は別途存在しうるものである。そうすると、本件発明において、酸化剤の有無はその成立において何ら関係がない。
したがって、本件特許出願は、実施可能要件違反があるとも、サポート要件違反があるともいえないから、異議申立人の係る主張は理由がなく、この理由によって本件発明1-3の特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件発明1-3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1-3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が0.5?2.0重量%でpHが9.2?9.5(但し、システアミン濃度が1.36重量%の場合を除く)であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。
【請求項2】還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が1.3?2.5重量%でpHが8.5?9.2(但し、システアミン濃度が1.36重量%及び1.67重量%の場合除く)であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。
【請求項3】還元剤としてのシステアミン、金属封鎖剤、pH調整剤、及び精製水からなる毛髪変形(デザイン形成)剤であって、該毛髪変形(デザイン形成)剤が、還元剤としてはシステアミンのみを含有し、システアミン濃度が2?2.5重量%でpHが8.0?9.2であることを特徴とする毛髪変形(デザイン形成)剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-08 
出願番号 特願2011-16856(P2011-16856)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 光本 美奈子松本 直子大島 彰公  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 小川 慶子
大熊 幸治
登録日 2015-07-10 
登録番号 特許第5775315号(P5775315)
権利者 株式会社アリミノ
発明の名称 低濃度システアミン含有の毛髪変形(デザイン形成)剤、毛髪柔軟化剤及び毛髪浸透促進剤、並びにこれら剤を使用した毛髪処理方法  
代理人 川島 利和  
代理人 大石 敏弘  
代理人 川島 利和  

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