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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
管理番号 1327845
異議申立番号 異議2016-700244  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-23 
確定日 2017-03-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5784555号発明「入浴装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 1.特許第5784555号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 2.特許第5784555号の請求項1?5に係る特許を取り消す。 3.特許第5784555号の請求項7に係る特許を維持する。 4.特許第5784555号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 1 手続の経緯
本件特許第5784555号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年7月31日にその特許権の設定登録がなされ(特許公報の発行日は平成27年9月24日)、その後、平成28年3月23日に特許異議申立人オージー技研株式会社より特許異議の申立てがなされ、同年6月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月5日付けで意見書の提出及び訂正請求がなされた。そして特許異議申立人に対し、平成28年8月18日付けで特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知がなされ、その指定期間内である同年9月23日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされ、同年10月26日付け取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内に特許権者より意見書等は提出されなかった。


2 訂正の適否
2-1 訂正の内容
平成28年8月5日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、訂正事項1,3における下線は訂正部分を示す。
ア 訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1に「浴槽と、車椅子に分離可能に含まれる椅子部を前記浴槽内に入れる機構と、を備える入浴装置であって、前記浴槽の外側面に、入浴者が当該浴槽につかまる際に使用可能な溝部が形成されていることを特徴とする入浴装置。」とあるのを、「浴槽と、車椅子に分離可能に含まれる椅子部を前記浴槽内に入れる機構と、を備える入浴装置であって、前記浴槽の外側面に、入浴者が当該浴槽につかまる際に使用可能な溝部が形成され、前記浴槽は平面視略矩形状に設けられ、前記機構は、前記浴槽の長手方向の一端部に、前記浴槽と一体的に設けられ、前記車椅子から分離された前記椅子部は、前記機構によって、昇降可能であるとともに前記浴槽の短手方向と平行な方向に水平移動可能であることを特徴とする入浴装置。」と訂正することを請求する。

イ 訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正を請求する。

ウ 訂正事項3
特許権者は、特許請求の範囲の請求項7に「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の入浴装置。」とあるのを「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の入浴装置」と訂正することを請求する。

2-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1は、請求項1において、「浴槽」の形状を「前記浴槽は平面視略矩形状に設けられ、」と記載することにより具体的に特定して限定し、かつ、「機構」が設けられる位置及び状態を「前記機構は、前記浴槽の長手方向の一端部に、前記浴槽と一体的に設けられ、」と記載することにより具体的に特定して限定し、さらに、「機構」の作用を「前記車椅子から分離された前記椅子部は、前記機構によって、昇降可能であるとともに前記浴槽の短手方向と平行な方向に水平移動可能である」と記載することにより具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項2は、請求項6の記載を削除しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3)訂正事項3は、請求項7において、「手すりとして利用される部分」を「前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部である」と記載することにより具体的に限定するとともに、請求項7が請求項1?6の記載を引用する記載であるところ、請求項6を引用しない記載とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(4)よって、訂正事項1?3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は願書に添付した明細書の段落【0019】、【0037】、【0041】?【0050】、【0056】等に記載された事項の範囲で訂正を行うものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項3は願書に添付した明細書の段落【0019】、【0052】等に記載された事項の範囲で訂正を行うものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)そして、これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

2-3 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正を認める。


3 本件特許発明
上記2のとおり本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。)は、その訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
浴槽と、
車椅子に分離可能に含まれる椅子部を前記浴槽内に入れる機構と、
を備える入浴装置であって、
前記浴槽の外側面に、入浴者が当該浴槽につかまる際に使用可能な溝部が形成され、前記浴槽は平面視略矩形状に設けられ、
前記機構は、前記浴槽の長手方向の一端部に、前記浴槽と一体的に設けられ、前記車椅子から分離された前記椅子部は、前記機構によって、昇降可能であるとともに前記浴槽の短手方向と平行な方向に水平移動可能であることを特徴とする入浴装置。
【請求項2】
前記溝部は、前記浴槽の外側面の上部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の入浴装置。
【請求項3】
前記溝部は、前記浴槽の長手方向の外側面に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の入浴装置。
【請求項4】
前記溝部は、前記浴槽の長手方向と平行な方向に細長く延在していることを特徴とする請求項3に記載の入浴装置。
【請求項5】
前記溝部の長手方向の長さは、前記浴槽の長手方向の長さの半分より長いことを特徴とする請求項4に記載の入浴装置。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、
前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の入浴装置。」


4 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし7に係る特許に対して平成28年6月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、「甲第1号証」等を単に「甲1」などという。
(1)請求項1ないし6に係る発明は甲1に記載された発明に甲2ないし甲9に示されるような周知事項1を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項7に係る発明は甲1に記載された発明に甲1に記載された事項並びに甲2ないし甲9に示されるような周知事項1を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)請求項7に係る発明は甲1に記載された発明に甲2ないし甲9に示されるような周知事項1並びに甲11,12,14-16に記載されるような周知事項2を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)請求項1ないし6に係る発明は甲10に記載された発明に甲2ないし甲9に示されるような周知事項1を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5)請求項7に係る発明は甲10に記載された発明に甲1に記載された事項並びに甲2ないし甲9に示されるような周知事項1を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(6)請求項7に係る発明は甲10に記載された発明に甲2ないし甲9に示されるような周知事項1並びに甲11,12,14-16に記載されるような周知事項2を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(7)請求項6に係る発明は特許請求の範囲の記載が不備のため、請求項6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。

取消理由に引用された甲1ないし12、甲14ないし甲16は次のとおりである。
甲1:メトス介護用システムバス「個粋」&「個粋+」カタログ、第1-8頁、株式会社メトス 福祉営業部
甲2:実願昭52-039460号(実開昭53-135131号)のマイクロフィルム
甲3:特開昭56-106622号公報
甲4:特開平8-182631号公報
甲5:特開2000-354554号公報
甲6:特開平9-238863号公報
甲7:特開2000-51110号公報
甲8:意匠登録第1438049号公報
甲9:意匠登録第1213694号公報
甲10:特許第4762650号公報
甲11:酒井医療株式会社リハビリテーション機器カタログ2012-2013、表紙並びに裏表紙及び第242-243頁、酒井医療株式会社
甲12:株式会社メトス 個粋・個粋+(プラス)を紹介したウェブページ、インターネット、2009年6月21日、http://web.archive.org/web/20090621075009/http://metos.co.jp/products/carebath/koiki.html[検索日2016年6月1日]
甲14:特許第3531851号公報
甲15:特開平11-192278号公報
甲16:特開平11-262510号公報
また、平成28年9月23日付け意見書に添付された甲17ないし22は次のとおりである。
甲17:登録実用新案第3107085号公報
甲18:実願昭51-124504(実開昭53-42496号)のマイクロフィルム
甲19:株式会社アマノ AMANO ALL PRODUCTS 2004 表紙並びに裏表紙及び第72-73頁
甲20:OG GIKEN GENERAL CATALOG 2008 表紙及び第71-72,306頁
甲21:特開2001-161780号公報
甲22:特開2002-331013号公報


5 取消理由についての判断
以下、本件特許発明1ないし7について順次、取消理由の成否を検討する。

5-1 各甲号証の記載
当審の取消理由に引用した本件特許に係る出願前に頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった事項が記載された甲1ないし12,甲14ないし16、及び、平成28年9月23日付け意見書に添付された本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲17ないし22には、以下の発明又は事項が記載されていると認められる。なお、下線は当審で付したものである。

(1)甲10
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴装置に関する。すなわち、浴槽に付設され、高齢者や身体障害者を入浴させる、入浴装置に関するものである。」

イ「【0004】
ところで、このような従来例の入浴装置については、次の問題が指摘されていた。
《第1の問題点》
第1に、入浴する高齢者や身体障害者に圧迫感を与える、という問題が指摘されていた。すなわち、浴槽に昇降椅子装置が付設されたタイプの入浴装置では、浴槽の脇に大型昇降機構のマストや回動用のアームが、浴室天井近くまで高く立設されており、入浴中も頭部後方上にマストやアームが位置する等により、視覚的圧迫感が強かった。
もって、入浴者である高齢者や身体障害者にとって、在宅で入浴するようなリラックスした自然な入浴感が得られにくい、という問題があった。高齢者や身体障害者が、健常者と同じ浴槽が使えず疎外感等の精神的負担を感じる、という指摘もあった。
【0005】
《第2の問題点》
第2に、健常者等が付設された昇降椅子装置を使用しないで入浴する場合、違和感を感じる、という問題が指摘されていた。すなわち、昇降椅子装置を付設するタイプの入浴装置では、浴槽の脇にマスト,アーム,椅子付の大型の昇降機構が配されている。
そこで、その浴槽にて入浴する健常者や障害度・介護度の低い人、例えば家族や介護者にとっては、使用しないこれらの昇降椅子装置が邪魔になり、入浴行動を阻害することもあり、通常の浴槽での入浴に比し違和感が強かった。」

ウ「【0020】
《入浴装置1の概要について》
この入浴装置1は、浴室の浴槽2に付設され、もって高齢者や身体障害者等の入浴者Aを、浴槽2の内外で移動させて入浴させるために使用される。そしてマスト部3,アーム部4,椅子部5等を備えている。
以下、この入浴装置1について、図1,図2に示した基本的なタイプの第1例、次に、図3,図4に示した椅子部5が分離可能なタイプの第2例、更に、浴槽2が浴室の床面6に埋め込まれたタイプの図5,図6に示した第3例、そして、図8に示したマスト部3の例、等の順に説明する。
【0021】
《図1,図2の第1例について》
まず、図1,図2に示した第1例の入浴装置1について説明する。この入浴装置1は、浴槽2に隣接立設され昇降動可能なマスト部3と、マスト部3の上部に取付けられ水平回動可能なアーム部4と、アーム部4に取付けられた椅子部5と、を有している。これらについて詳述すると、まず、この入浴装置1のリフターであるマスト部3は、多段入れ子式よりなり、略筒状をなす少なくとも第1マスト7,第2マスト8,第3マスト9を、備えている。図示例のマスト部3は3段式よりなり、第1マスト7,第2マスト8,第3マスト9は、円筒状をなす。
第1マスト7は、下端が、例えば設置用のフレーム10(図8を参照)を介し、不動部である浴室の床面6に固定され、もって浴槽2端部に略垂直に隣接立設されている。第2マスト8は、第1マスト7に挿脱可能に配され、更に第3マスト9は、第2マスト8に挿脱可能に配されている。そして、内蔵されたアクチュエータ11(図8を参照)により、第2マスト8が、固定された第1マスト7に対し上下方向に内外に昇降可能とされ、更に第3マスト9が、第2マスト8に対し上下方向に内外に昇降可能となっている。
もってマスト部3は、第2マスト8および第3マスト9が、第1マスト7に対し降下,嵌挿,収納された収縮状態Bの降下位置D(図1の(1)図,図2の(2)図を参照)と、第1マスト7に対し第2マスト8が突出,上昇し、更に第2マスト8に対し第3マスト9が突出,上昇した伸長状態Cの上昇位置F(図1の(2)図を参照)とに、昇降動可能となっている。
アクチュエータ11としては、油圧式,水圧式,又は電動式等のシリンダが、代表的に使用される。
【0022】
次に、この入浴装置1のアーム部4は、マスト部3の第3マスト9上部の頭部に対し、浴槽内側位置Gと浴槽外側位置H間を水平回動可能に取付けられている(図2の(1)図を参照)。例えば、第3マスト9の第2マスト8から常時露出した頭部を垂直軸として、つまりマスト部3を回動中心として廻りを水平面で回動可能に、アーム部4の基端部が外嵌,取付けされている。
入浴装置1の椅子部5は、アーム部4の先端部に取付けられている。椅子部5は、例えば背シートと座シートを備えたフレーム構造よりなり、その背面上端部が、アーム部4先端部に取付けられている。そして、アーム部4と椅子部5とは、マスト部3の上下の収縮状態Bと伸長状態C、つまりその降下位置Dと上昇位置Fに従動して、それぞれ降下位置Dと上昇位置Fを取る。
なお図2中、12はケースであり、マスト部3を収納可能となっている。すなわちケース12は、浴槽2に隣設されており、上面が開放され、内部にマスト部3の第1マスト7が配設されており、マスト部3の収縮状態Bでは、第2マスト8の頭部を除き、第2マスト8や第3マスト9も内部に収納される。」

エ「【0025】
《図3,図4の第2例について》
次に、図3,図4に示した第2例の入浴装置1について、説明する。この第2例の入浴装置1では、椅子部5が、アーム部4から分離可能であると共に、専用台車13上に連結可能となっている。
すなわち、この第2例では、アーム部4先端部にフック部14が設けられており、椅子部5は、このフック部14により、背面上端部がアーム部4に係止されている。もって椅子部5は、フック部14の操作により必要に応じ容易に、アーム部4に連結,保持可能(図3の(2)図,図4の(1)図,(2)図を参照)であると共に、分離,離脱可能となっている。
又、アーム部4そして入浴装置1から分離、離脱された椅子部5は、専用台車13上に載せられ,連結,合体可能となっている(図3の(1)図を参照)。専用台車13は、フレーム構造よりなると共に、四隅下にキャスター等の車輪を備え、上部に椅子部5の係止固定機構(図示せず)が設けられている。
椅子部5は、係止固定機構の操作により、専用台車13に対し連結,合体可能であると共に、分離,離脱可能となっている。」

オ「【0027】
なお第1に、この足上機構15付の足置台16は、前述した図1,図2の第1例や、後述する図5,図6の第3例にも、勿論適用可能である。
第2に、ところで図7に示した例では、ケース12にカバー17が付設されている。すなわち、ケース12の開放された上面を開閉可能なカバー17が、ケース12上端にピンにて枢着されている。そしてカバー17は、マスト部3が収縮状態Bにあると共に椅子部5が分離,除去された状態で、フック部14付のアーム部4を、水平回動し横向きに方向転換させて、内部に収納するために使用される。
第3に、この図3,図4の第2例について、その他の構成等は、図1,図2の第1例において述べた所に準じるので、同符号を付しその説明は省略する。
図3,図4の第2例の入浴装置1は、このように構成されている。」

カ「【0039】
第2に、この入浴装置1は、このように、マスト部3,アーム部4,椅子部5の全体的寸法が小さく、工程の移動距離が短く、視覚的位置も入浴者Aに目立たず、小型化されコンパクト化されており、意識されにくい。
そこで、介護者Jその他の健常者や障害度・介護度の低い人が、このように付設された入浴装置1を使用しないで、その浴槽2に入浴しても違和感を与えない。この浴槽2は、介護者Jその他の健常者や障害度・介護度の低い人の入浴に際しては、ほぼ通常の浴槽2として機能する(図7を参照)。
特に椅子部5を、アーム部4から分離可能としたり、マスト部3を、収縮状態Bとしてケース12内に収納したり、アーム部4も、ケース12上の開閉カバー17内に収納したり、ケース12を浴槽2と一体成形するようにすると、この種の違和感は確実に解消される。すなわち、椅子部5を分離,離脱,回収し、マスト部3やアーム部4を収納し、ケース12を浴槽2と一体化することにより、介護者Jその他の健常者や障害度・介護度の低い人は、この浴槽2を通常の浴槽2として入浴可能となる。」

キ「【0043】
又、この入浴装置1は、椅子部5を、アーム部4から分離可能であると共に、走行可能な専用台車13上に連結可能とした場合は、更に、次のようになる(図3,図4,図5,図6を参照)。
この場合、高齢者や身体障害者等の入浴者Aは、ベットや脱衣所から浴槽2への途中で乗換えすることなく、入浴することができる。すなわち、まずアーム部4から分離,離脱された椅子部5が、専用台車13上に連結されており、入浴者Aは、ベット近くや脱衣所において椅子部5に着座した後、そのまま走行する専用台車13にて、浴室内の浴槽2まで移動される(図3の(1)図,図5の(1)図を参照)。
そして椅子部5が、専用台車13との連結を解かれて分離,離脱されると共に、浴槽外側位置Hの降下位置Dにおいて、入浴装置1のアーム部4に取付けられる。
それから入浴者Aは、前述したところにより(図4の(2)図,図6の(2)図を参照)、着座したまま浴槽2内で入浴し、入浴後は、上述とは逆のステップを辿り、専用台車13上に連結された椅子部5にて、ベットや脱衣所へと戻される。
もって、この面からも、高齢者や身体障害者等の入浴者Aの移動がスムーズ化され、安全性に優れるようになる。」

ク「【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る入浴装置について、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第1例を示し、(1)図は、浴槽外側,降下位置の側面図、(2)図は、浴槽外側,上昇位置の側面図である。
【図2】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第1例を示し、(1)図は、浴槽外側,浴槽内側位置の平面図、(2)図は、浴槽内側,降下位置での入浴時 の正面図である。
【図3】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第2例を示し、(1)図は、車椅子として走行時の側面図、(2)図は、浴槽外側,上昇位置の側面図である。
【図4】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第2例を示し、(1)図は、浴槽外側,浴槽内側位置の平面図、(2)図は、浴槽内側,降下位置での入浴時の正面図である。
【図5】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第3例を示し、(1)図は、車椅子として走行時の側面図、(2)図は、浴槽外側,上昇位置の側面図である。
【図6】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、第3例を示し、(1)図は、浴槽外側,浴槽内側位置の平面図、(2)図は、浴槽内側,降下位置での入浴時の正面図である。
【図7】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、ケースのカバー等の説明に供し、(1)図は、正面図、(2)図は、側面図である。
【図8】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、マスト部の一例の正断面図である。」

摘記事項キの「離脱された椅子部5が、専用台車13上に連結されており」という記載と摘記事項クの「車椅子として走行時」という記載を併せ考えると、「専用台車13」と「椅子部5」とは、あいまって「車椅子」を構成しているといえ、さらに、椅子部は車椅子に離脱可能に連結されるということができる。
図7を参照しつつ、摘記事項カの「ケース12を浴槽2と一体成形する」という記載に着目しつつ、摘記事項オの「ケース12にカバー17が付設されている。すなわち、ケース12の開放された上面を開閉可能なカバー17が、ケース12上端にピンにて枢着されている。そしてカバー17は、マスト部3が収縮状態Bにあると共に椅子部5が分離,除去された状態で、フック部14付のアーム部4を、水平回動し横向きに方向転換させて、内部に収納するために使用される。」という記載を整理すると、浴槽2と一体成形されたケース12に枢着されたカバー17の内部にマスト部3とアーム部4が収納可能と言い換えられる。
また、図2(1)の「浴槽外側,浴槽内側位置の平面図」において、浴槽2の形状に着目すると、浴槽は平面視略矩形状に設けられ、長手方向の一端部にアーム部4とマスト部3、ケース12が設けられていることが看取できる。

したがって、甲10には、次に示す発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されていると認める。
<甲10発明>
「浴槽2と、車椅子に離脱可能に連結される椅子部5を浴槽2内に入れるマスト部3及びアーム部4と、を備える入浴装置1であって、前記浴槽は平面視略矩形状に設けられ、マスト部3とアーム部4は、前記浴槽2の長手方向の一端部に、前記浴槽2と一体成形されたケース12に枢着されたカバー17内部に収納可能であり、前記車椅子から離脱された前記椅子部5は、マスト部3とアーム部4によって、昇降動可能であるとともに水平回転可能である入浴装置1」

(2)甲1
甲1の第8頁下部には、「このカタログの内容は2009年4月現在のものです。」と記載されており、一般に、カタログは、なるべく最新の商品情報を伝えなければならない性質のものであるから、本件カタログも、作成後遅滞なく頒布されたものと推認すべきであり、遅くとも本件発明の出願日である2012年(平成24年)7月12日より前に頒布されたものと認める。
甲1の第3頁における「杖使用の方には」の欄における図などからみて、甲1には次に示す事項(以下、「甲1事項」という。)が記載されていると認める。
<甲1事項>
「椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分が浴槽を跨ぐように設けられた介護浴槽」

(3)甲2
甲2の明細書第2頁第12-14行及び第1図,第2図の記載などからみて、甲2には、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在する、長手方向の長さの半分より長い「凹段部9」を設けることが記載されていると認める。

(4)甲3
甲3の第2頁右上欄第4-14行及び第2図(a)の記載などからみて、甲3には、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在する、長手方向の長さの半分より長い「凹所」を設けることが記載されていると認める。

(5)甲4
甲4の段落【0021】及び【図1】の記載などからみて、甲4には、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在する、長手方向の長さの半分より長い「凹部6」を設けることが記載されていると認める。

(6)甲5
甲5の段落【0017】及び【図1】の記載などからみて、甲5には、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在する、長手方向の長さの半分より長い「凹部2a」を設けることが記載されていると認める。

(7)甲6
甲6の段落【0009】、【0058】、【図1】、【図12】-【図16】の記載などからみて、甲6には、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在する、長手方向の長さの半分より長い「指掛け部B」を設けることが記載されていると認める。

(8)甲7
甲7の段落【0024】-【0025】、【図2】の記載などからみて、甲7には、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在する、長手方向の長さの半分より長い「凹部56」を設けることが記載されていると認める。

(9)甲8
甲8の【意匠に係る物品の説明】及び【参考斜視図1】の記載などからみて、甲8には、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在する、長手方向の長さの半分より長い「手摺グリップ」を設けることが記載されていると認める。

(10)甲9
甲9の【意匠の説明】及び【使用状態を示す参考図2】の記載などからみて、甲9には、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在する、長手方向の長さの半分より長い「えぐり」を設けることが記載されていると認める。

(11)甲11
甲11の表紙には、「2012-2013」と記載され、また、裏表紙右下部には、「SG2012 201204」と記載されている。「2012-2013」が2012年-2013年という西暦を指すことは明らかであり、そうすると、「SG2012 201204」は2012年4月を指すものと推認できる。そして、一般に、カタログは、なるべく最新の商品情報を伝えなければならない性質のものであるから、本件カタログも、作成後遅滞なく頒布されたものと推認すべきであり、遅くとも本件発明の出願日である2012年(平成24年)7月12日より前に頒布されたものと認める。
次に、甲11の242頁「直接入浴」の欄の図からみて、甲11には、浴槽に、入浴用車椅子が使用されない場合に手すりとして利用される部分を設けることが記載されていると認める。

(12)甲12
甲12の「特長」の欄における「手すり使用」及び「移乗ボード使用」、「シャワーキャリー使用(機械浴)」の図からみて、甲12には、椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分が介護浴槽付近に設けられる点が記載されていると認める。

(13)甲14
甲14の段落【0015】及び【図1】、【図2】の記載からみて、甲14には、介護用の浴槽に可動手摺4を設ける点が記載されていると認める。
(14)甲15
甲15の段落【0015】-【0017】及び【図1】の記載からみて、甲15には、介護用の浴槽に補助手摺9を設ける点が記載されていると認める。

(15)甲16
甲16の段落【0024】-【0026】及び【図1】の記載からみて、甲16には、介護用の浴槽に介護手摺12及び補助手摺13を設ける点が記載されていると認める。

(16)甲17
甲17の段落【0061】-【0071】及び【図1】の記載からみて、甲17には、車椅子11から分離された座部13を昇降及び横行させて浴槽1に入れる入浴補助装置10が記載されていると認める。

(17)甲18
甲18の実用新案登録請求の範囲の記載から、甲18には、浴槽の1側壁上又は浴槽外側に基端部を固設した平行リンク機構からなる支持腕を湯槽内に昇降可能に突設し、該支持腕の先端作動部に担架を装着する第枠を水平状態を保持しながら昇降可能に設けた入浴装置が記載されていると認める。

(18)甲19
甲19の表紙には「2004」と記載され、また、裏表紙右下には、「2004.3」と記載されている。「2004」が2004年という西暦を指すことは明らかであり、一般に、カタログは、なるべく最新の商品情報を伝えなければならない性質のものであるから、本件カタログも、作成後遅滞なく頒布されたものと推認すべきであり、遅くとも本件発明の出願日である2012年(平成24年)7月12日より前に頒布されたものと認める。
甲19の第72頁「車いすが横へスライド安心入浴。既存一般浴槽へ設置簡単バスリフト」及び第73頁中段のstep1ないしstep4の写真及び説明からみて、甲19には、車いすを昇降及び浴槽の短手方向に横スライドできる既存の浴槽へ設置できる横スライド式バスリフトが記載されていると認める。

(19)甲20
甲20の第306頁右下部には、「2008年4月1日発行」と記載されており、一般に、カタログは、なるべく最新の商品情報を伝えなければならない性質のものであるから、本件カタログも、作成後遅滞なく頒布されたものと推認すべきであり、遅くとも本件発明の出願日である2012年(平成24年)7月12日より前に頒布されたものと認める。
甲20の第72頁の上段右の写真及び中段右の「介護者の労力軽減」の説明からみて、甲20には、車いすを昇降及び横スライドできる入浴リフトが記載されていると認める。

(20)甲21
甲21の段落【0013】-【0016】及び【図1】、【図3】の記載からみて、甲21には、車椅子に着脱可能な座席を昇降及び浴槽の短手方向に横行移動させる入浴用介護補助装置が記載されていると認める。

(21)甲22
甲22の段落【0005】-【0006】及び【図1】-【図3】の記載からみて、甲22には、折畳式椅子(6)を垂直移動並びに浴槽の短手方向に水平移動させることができる入浴補助装置が記載されていると認める。

5-2 対比・判断
(1)本件特許発明1について
最初に、本件特許発明1について検討する。
(1-1)対比
本件特許発明1と甲10発明とは、いずれも「入浴装置」に関するものであって、甲10発明の「浴槽2」は、その構造又は機能からみて本件特許発明1の「浴槽」に相当し、以下、同様に「離脱」は「分離」に、「連結される」は「含まれる」に、「椅子部5」は「椅子部」に、「マスト部及びアーム部」は相まって「機構」に、「昇降動可能」は「昇降可能」に、それぞれ相当する。
また、甲10発明のマスト部3とアーム部4は「前記浴槽2と一体成形されたケース12に枢着されたカバー17内部に収納可能であり」は、浴槽2とケース12とカバー17とが一体的に設けられているとも言え、さらに、カバー17に収納されるマスト部3とアーム部4もまた浴槽2と一体的に設けられていると言える。
したがって、マスト部3とアーム部4は「前記浴槽2と一体成形されたケース12に枢着されたカバー17内に収納可能であり」は本件特許発明1の機構は「前記浴槽と一体的に設けられ」に相当する。
以上から、両者は
「浴槽と、
車椅子に分離可能に含まれる椅子部を前記浴槽内に入れる機構と、
を備える入浴装置であって、
前記浴槽は平面視略矩形状に設けられ、
前記機構は、前記浴槽の長手方向の一端部に、前記浴槽と一体的に設けられ、
前記車椅子から分離された前記椅子部は、前記機構によって、昇降可能であることを特徴とする入浴装置。」で一致し、以下の2点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1の浴槽は、外側面に、入浴者が当該浴槽につかまる際に使用可能な溝部が形成されているのに対し、甲10発明の浴槽はそのようなものか不明な点。
<相違点2>
本件特許発明の機構は、椅子部が昇降可能であるとともに浴槽の短手方向と平行な方向に水平移動可能であるのに対し、甲10発明の機構は昇降及び水平移動可能であるものの、短手方向と平行な方向に水平移動可能ではない点。

(1-2)判断
(相違点1について)
甲2ないし甲9に示されるように、浴槽の外側面に入浴者が浴槽につかまる際に使用可能な溝部を、浴槽の長手方向の外側面の上部に、長手方向と平行に細長く延在し、長手方向の長さの半分より長く、設けることは従来周知の技術事項(以下、「周知事項1」という。)に過ぎない。
そして、甲10の段落【0039】(上記摘記事項カ)には、「介護者Jその他の健常者や障害度・介護度の低い人が、このように付設された入浴装置1を使用しないで、その浴槽2に入浴しても違和感を与えない。この浴槽2は、介護者Jその他の健常者や障害度・介護度の低い人の入浴に際しては、ほぼ通常の浴槽2として機能する(図7を参照)。特に椅子部5を、アーム部4から分離可能としたり、マスト部3を、収縮状態Bとしてケース12内に収納したり、アーム部4も、ケース12上の開閉カバー17内に収納したり、ケース12を浴槽2と一体成形するようにすると、この種の違和感は確実に解消される。」と記載されるように、健常者の入浴に際しては通常の浴槽として機能するのだから、健常者が入浴するもことを考慮して、甲10発明に、浴槽に溝部を設ける周知事項1を適用することに格別の困難性はない。
したがって、甲10発明に周知事項1を適用することによって、相違点1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得たものである。

(相違点2について)
甲19,甲21,甲22に示されるように、入浴補助装置において、入浴者の座席を昇降及び浴槽の短手方向に横スライドさせることにより入浴させることは従来周知の技術事項(以下、「周知事項3」という。)に過ぎない。
そして、例えば、甲21段落【0016】に「入浴者が載置された座席と共に洗い場と浴槽の間を水平方向に移動される、この本体の水平方向の移動形態としては、横行移動(直線的な移動)、回転移動などの場合があり、浴室の構造及び広さ等に応じて適宜選択される。」と記載されるように、座席の水平方向の移動方法は浴槽が設置される浴室のスペースや構造等に応じて当業者が任意に選択し得る事項と認められ、甲10発明において、周知事項3のように座席を横スライド及び昇降させるよう構成して相違点2の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本件特許発明1の効果は、甲10発明及び周知事項1、周知事項3から当業者が予測できた程度のものと認められる。

(1-3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲10発明、周知事項1、周知事項3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件特許発明2について
(2-1)対比
次に本件特許発明2について検討する。
本件特許発明2は、本件特許発明1に、さらに「前記溝部は、前記浴槽の外側面の上部に設けられていること」を付加するものである。
したがって、本件特許発明2と甲10発明とを対比すると、両者は上記した相違点1,2に加えて、さらに次の点で相違する。
(相違点3)
本件特許発明2は「前記溝部は、前記浴槽の外側面の上部に設けられていること」との発明特定事項を有するものであるのに対し、甲10発明は当該構成を有しない点。

(2-2)判断
(相違点1,2について)
相違点1,2については、上記(1-2)における検討と同様に当業者が容易になし得たものである。
以下、同様な相違点については、判断が同様である旨の記載を省略する。
(相違点3について)
相違点3に係る発明特定事項は周知事項1に包含されるものと認める。
したがって、相違点1について検討したとおり、甲10発明に周知事項1を適用することによって、相違点3の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得たものである。

(2-3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲10発明、周知事項1、周知事項3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明3について
(3-1)対比
次に本件特許発明3について検討する。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2に、さらに「前記溝部は、前記浴槽の長手方向の外側面に設けられていること」を付加するものである。
したがって、本件特許発明3と甲10発明とを対比すると、両者は上記した相違点1?2に加えて、さらに次の点で相違する。
(相違点4)
本件特許発明3は「前記溝部は、前記浴槽の長手方向の外側面に設けられていること」との発明特定事項を有するものであるのに対し、甲10発明は当該構成を有しない点。

(3-2)判断
(相違点4について)
相違点4に係る発明特定事項は周知事項1に包含されるものと認める。
したがって、相違点1について検討したとおり、甲10発明に周知事項1を適用することによって、相違点4の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得たものである。

(3-3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明3は、甲10発明、周知事項1、周知事項3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件特許発明4について
(4-1)対比
次に本件特許発明4について検討する。
本件特許発明4は、本件特許発明3に、さらに「前記溝部は、前記浴槽の長手方向と平行な方向に細長く延在していること」を付加するものである。
したがって、本件特許発明4と甲10発明とを対比すると、両者は上記した相違点1?4に加えて、さらに次の点で相違する。
(相違点5)
本件特許発明4は「前記溝部は、前記浴槽の長手方向と平行な方向に細長く延在していること」との発明特定事項を有するものであるのに対し、甲10発明は当該構成を有しない点。

(4-2)判断
(相違点5について)
相違点5に係る発明特定事項は周知事項1に包含されるものと認める。
したがって、相違点1について検討したとおり、甲10発明に周知事項1を適用することによって、相違点5の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得たものである。

(4-3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明4は、甲10発明、周知事項1、周知事項3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件特許発明5について
(5-1)対比
次に本件特許発明5について検討する。
本件特許発明5は、本件特許発明4に、さらに「前記溝部の長手方向の長さは、前記浴槽の長手方向の長さの半分より長いこと」を付加するものである。
したがって、本件特許発明5と甲10発明とを対比すると、両者は上記した相違点1?4に加えて、さらに次の点で相違する。
(相違点6)
本件特許発明5は「前記溝部の長手方向の長さは、前記浴槽の長手方向の長さの半分より長いこと」との発明特定事項を有するものであるのに対し、甲10発明は当該構成を有しない点。

(5-2)判断
(相違点6について)
相違点6に係る発明特定事項は周知事項1に包含されるものと認める。
したがって、相違点1について検討したとおり、甲10発明に周知事項1を適用することによって、相違点6の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得たものである。

(5-3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明5は、甲10発明、周知事項1、周知事項3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)本件特許発明7について
(6-1)対比
次に本件特許発明7について検討する。
本件特許発明7は、本件特許発明1に、さらに「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」を付加するものである。
したがって、本件特許発明7と甲10発明とを対比すると、両者は上記した相違点1?2に加えて、さらに次の点で相違する。
(相違点7)
本件特許発明7は「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」との発明特定事項を有するものであるのに対し、甲10発明は当該構成を有しない点。

(6-2)判断
(相違点7について)
甲1?12,14?22に、上記発明特定事項についての記載若しくは示唆があるかどうかについて検討する。
まず、上記発明特定事項のうち「椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部」に着目して、甲各号証が、椅子取付部に相当する構成を有するか否かについて検討すると、椅子部を着脱可能な構成を有する甲号証は、甲1,甲10,甲12,甲17,甲19ないし21であるから、甲2?9,11,14?16,18,22には、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もないことは明らかである。
次に、甲1,甲10,甲12,甲17,甲19ないし21について、椅子部を着脱可能な構成が、手すりとして利用されることについての記載又は示唆されているか順次検討する。

(6-2-1)甲1
甲1第7頁右上ないし左下の写真によれば、椅子が取り付けられない場合に、昇降装置にカバーが覆われている点が看取される。
そうすると、椅子が取り付けられない場合には、着脱部はカバーに覆われるものと推認され、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえない。

(6-2-2)甲10
甲10には、本件特許発明7の椅子取付部に相当するフック部14について、段落【0027】に、「第2に、ところで図7に示した例では、ケース12にカバー17が付設されている。すなわち、ケース12の開放された上面を開閉可能なカバー17が、ケース12上端にピンにて枢着されている。そしてカバー17は、マスト部3が収縮状態Bにあると共に椅子部5が分離,除去された状態で、フック部14付のアーム部4を、水平回動し横向きに方向転換させて、内部に収納するために使用される。」と記載され、椅子部が分離除去された状態で、本件特許発明7の椅子取付部に相当するフック部14はカバー17内部に収納されることが記載されている。
そうすると、椅子が取り付けられない場合には、フック部14はカバー17に覆われるものと推認され、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえない。

(6-2-3)甲12
甲12第1頁中段の写真によれば、椅子が取り付けられない場合に、昇降装置にカバーが覆われている点が看取される。
そうすると、椅子が取り付けられない場合には、着脱部はカバーに覆われるものと推認され、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえない。

(6-2-4)甲17
甲17には、本件特許発明7の椅子取付部に相当するフック32について、段落【0037】に、「ロック手段25は、車輪部12の上部に設けられロックレバー31の回動操作と共に回動するフック32と、座部13の下部に設けられフック32と係止可能な係止ロッド33とから構成され、フック32を係止ロッド33に係止させることで、車輪部12と座部13との上下方向および前後方向の相対移動を規制するものである。」と記載され、段落【0064】に、「続いて、車椅子11におけるロック手段25のロックレバー31を操作して、フック32と係止ロッド33との係止を解除して、車輪部12と座部13とが分離可能な状態にする(図4(イ)参照)。」と記載されているに過ぎない。
そうすると、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえない。

(6-2-5)甲19
甲19には、椅子をどのように取り付けているのかについて具体的に開示はされていないため、椅子取付部に相当する構成を特定できない。
そうすると、甲19には、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえない。

(6-2-6)甲20
甲20には、椅子をどのように取り付けているのかについて具体的に開示はされていないため、椅子取付部に相当する構成を特定できない。
そうすると、甲20には、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえない。

(6-2-7)甲21
甲21には、本件特許発明7の椅子取付部に相当するフック54について、段落【0024】に、「図4及び図5を参照すると、昇降台座4の上部には、移送座席10の上部パイプ63が着脱可能に係合するフック54が固定されている。移送座席10を台座4側に移送して支持させる場合には、移送座席10の上部パイプ(昇降台座4に対する枢支部)63がフック54の下になるよう昇降台座4を下降させ、パイプ63を昇降台座4に当てた状態で昇降台座4を上昇させることにより、フック54に引っ掛かる状態となる。また、昇降台座4には、ロックハンドル55の中間部が枢支され、その枢着点近傍にはロックばね57の一端が固定されている。ロックハンドル55の一端は握り部であり、その他端にはロックばね57の付勢力が常時作用している。」と記載され、段落【0025】に、「ロックハンドル55は、ロックばね57によって図6中反時計方向に回動するよう常時付勢されている。この結果、上部パイプ63をフック54に係合させる 際には、ロックハンドル55は上部パイプ63によって付勢されて図6中時計方 向に回動し、該係合完了後はロックばね57の付勢力によって同図中反時計方向に回動する。この結果、ロックハンドル55他端に形成された折曲部とフック54の間に上部パイプ63が挟持され、移送座席10が昇降台座4側に嵌合かつロックされる。」と記載されるに過ぎない。
そうすると、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえない。

したがって、甲1ないし甲12,甲14ないし甲22のいずれにも、本件特許発明7の上記発明特定事項についての記載も示唆もあるとすることはできない。
よって、甲10発明において、本件特許発明7に係る相違点7の発明特定事項を有するものとすることは当業者が容易になし得るものとすることはできない。

(6-3)甲1発明を主発明とする取消理由について
先の取消理由において認定した甲1発明は「浴槽と、車椅子に分離可能に含まれる椅子部を浴槽内に入れる昇降装置と、を備える1台でみんなが使える介護浴槽」というものであるところ、(6-2)にて検討したとおり、甲1?12,14?22には、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえないから、甲1発明を主発明としても、相違点7に係る構成は当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(6-4)小括
本件特許発明7は、取消理由通知に記載した取消理由によって取り消すことはできない。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は特許異議申立書第37頁において、「i.甲第10号証記載の発明、甲第1号証記載の製品又は甲第11号証記載の発明、周知技術(甲2、甲3、甲4、甲5、甲6、甲7、甲8、甲9)から容易想到。ii.甲第10号証記載の発明、周知技術(甲1、甲11)、周知技術(甲2、甲3、甲4、甲5、甲6、甲7、甲8、甲9)から容易想到。iii.甲第10号証記載の発明、周知技術(甲14、甲15、甲16)、周知技術(甲2、甲3、甲4、甲5、甲6、甲7、甲8、甲9)から容易想到。」と主張するが、甲1?12,14?22には、「前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であること」について、記載も示唆もあるといえないことは、既に検討したとおりである。
また、特許異議申立人は、平成28年9月23日付け意見書において、訂正後の請求項7について、『請求項7における「椅子部が使用された場合に手すりとして利用される部分をさらに備える」なる構成は取消理由通知で認定されている通り、甲1事項から容易に想到できるし、また、甲11,12,14?16から従来周知の技術事項(周知事項2)であると言える。そうすると、該手すりとして使用される部分が、椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であるという構成(以下「構成i」と言う)が追加されたとしても、構成iの効果については、明細書及び意見書を参照しても一切記載されておらず、また、椅子部が使用されない場合には手すりとして使用されるものに変わりははないのだから、訂正後の請求項7記載の発明の効果は訂正前の請求項7記載の発明(本件特許発明)と効果と何ら変わるところはなく、格別な効果ではない。」と主張する。
これにつき検討するに、明細書段落【0051】に「例えば、軽度の要介助者や健常者等が入浴する場合には、入浴装置1は、図1(a)及び図2(a)に示される状態とされる。すなわち、椅子取付部11には椅子部31は取り付けられず、椅子取付部11は、昇降部12によって持ち上げられることなく、更に、スライド移動部13によって引っ張り出されていない状態とされる。」と記載され、続く段落【0052】には、「この場合、椅子取付部11(椅子取付部11を構成する棒状部11a)は、浴槽2の側壁20dの上面に沿うように(浴槽2の側壁20dの近傍に)配置されることになり、入浴者は、椅子取付部11を手すりとして利用して浴槽2内に入ることができる。そして、椅子取付部11は、浴槽2内に向かって過度に突出するものではないために、入浴者は入浴装置1によって圧迫感を与えられることはなく、入浴装置1を邪魔と感じない。更には、椅子取付部11に椅子が取り付けられない場合でも、椅子取付部11は、カバーを用いて収納する必要がない。すなわち、本実施形態の入浴装置1は、カバーを開くための余分なスペースが必要とならないために、入浴装置を設けるためのスペースの低減が図れる。」と記載されている。
そうすると、「該手すりとして使用される部分が、椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であるという構成」に基づく効果は明細書に記載されており、また、訂正前の請求項7記載の効果に加えて新たな効果を奏するものと認められるから、請求人の主張には理由がない。

なお、特許異議申立人が提出した証拠である甲13は、甲1製品を紹介するウェブページに掲載されている2016年3月16日時点の動画のスクリーンショットであるが、本件特許の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものではなく、また、甲1又は甲12に開示される事項以外のものは実質的に記載されていないから、甲1又は甲12を検討すれば足りるものである。


7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1?5は甲10発明及び周知事項1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許発明7に係る特許は、先の取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許発明7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項6に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項6に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽と、
車椅子に分離可能に含まれる椅子部を前記浴槽内に入れる機構と、
を備える入浴装置であって、
前記浴槽の外側面に、入浴者が当該浴槽につかまる際に使用可能な溝部が形成され、
前記浴槽は平面視略矩形状に設けられ、
前記機構は、前記浴槽の長手方向の一端部に、前記浴槽と一体的に設けられ、
前記車椅子から分離された前記椅子部は、前記機構によって、昇降可能であるとともに前記浴槽の短手方向と平行な方向に水平移動可能であることを特徴とする入浴装置。
【請求項2】
前記溝部は、前記浴槽の外側面の上部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の入浴装置。
【請求項3】
前記溝部は、前記浴槽の長手方向の外側面に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の入浴装置。
【請求項4】
前記溝部は、前記浴槽の長手方向と平行な方向に細長く延在していることを特徴とする請求項3に記載の入浴装置。
【請求項5】
前記溝部の長手方向の長さは、前記浴槽の長手方向の長さの半分より長いことを特徴とする請求項4に記載の入浴装置。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記椅子部が使用されない場合に手すりとして利用される部分を更に備え、
前記手すりとして使用される部分は、前記椅子部が着脱可能に取り付けられる椅子取付部であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の入浴装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-20 
出願番号 特願2012-156243(P2012-156243)
審決分類 P 1 651・ 537- ZDA (A61H)
P 1 651・ 121- ZDA (A61H)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 岩田 洋一  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 宮下 浩次
関谷 一夫
登録日 2015-07-31 
登録番号 特許第5784555号(P5784555)
権利者 酒井医療株式会社
発明の名称 入浴装置  
代理人 安藤 順一  
代理人 齊藤 武志  
代理人 佐野 静夫  
代理人 齊藤 武志  
代理人 特許業務法人佐野特許事務所  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  
代理人 佐野 静夫  
代理人 井上 温  
代理人 井上 温  
代理人 上村 喜永  
代理人 前川 真貴子  

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