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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B60R
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60R
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60R
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60R
管理番号 1327864
異議申立番号 異議2015-700152  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-06 
確定日 2017-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5711803号発明「エアバッグ用基布」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5711803号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14、16、17〕〔15、18?21〕について訂正することを認める。 特許第5711803号の請求項15、18?21に係る特許を維持する。 特許第5711803号の請求項1?14、16、17に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5711803号の請求項1?17に係る特許についての出願は、平成27年3月13日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人足立道子(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成27年12月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である28年3月4日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年4月5日付で訂正請求があった旨が通知され(特許法第120条の5第5項)、同年5月10日付けで特許異議申立人より意見書が提出され、同年8月3日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年10月6日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年10月14日付で訂正請求があった旨が通知され(特許法第120条の5第5項)、同年11月17日付けで特許異議申立人より意見書が提出され、平成29年1月13日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年2月7日に意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正請求及びその手続補正について
1-1 手続補正について
平成28年10月6日付けの訂正請求書(以下「訂正請求書」という。)及びこれに添付した訂正特許請求の範囲は、平成29年2月7日付けの手続補正書(以下「補正書」ということがある。)により補正されたので、まずは当該補正の適否について検討する。
なお、平成28年3月4日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)補正の内容
ア 訂正請求書の4頁1?8行に
『(コ)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「剥離帯電が1000V以下であることを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。」とあるのを、『交絡数が15?35回/mである合成繊維からなる織物の少なくとも片面に樹脂が配される基布において、樹脂付着量が10?50g/m^(2)であり、樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であり、溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%であり、かつ、剥離帯電が1000V以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。』に訂正する。』とあるのを、
補正書の2頁5?6行のとおり、
『(コ)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10を削除する。』と補正する(以下「補正ア」という。)。

イ 訂正請求書の6頁に示される[表]の「請求項10」の項に、
『請求項1、請求項2、及び請求項7を引用する請求項10』とあるのを、
補正書の2頁に示される[表]の「請求項10」の項のとおり、
『(削除)』と補正する(以下「補正イ」という。)。

ウ 訂正請求書の12頁15行?13頁12行の記載を、補正書の3頁6?21行のとおり、
『j 訂正事項10
(a)訂正の目的について
上記訂正事項10は、請求項10を削除し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(b)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(a)の理由から明らかなように、上記訂正事項10は、請求項10を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(a)の理由から明らかなように、上記訂正事項10は、請求項10を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。』と補正する(以下「補正ウ」という。)。

エ 訂正請求書の23頁6?22行の記載を、補正書の3頁下から2行?4頁11行のとおり、
『(イ)一群の発明についての説明
上記訂正事項1?17に係る訂正前の請求項1?17は、当該訂正事項1を含む訂正前の請求項1の記載、当該訂正事項2を含む訂正前の請求項2の記載、当該訂正事項4を含む訂正前の請求項4の記載、当該訂正事項7を含む訂正前の請求項7の記載、当該訂正事項10を含む訂正前の請求項10の記載、当該訂正事項11を含む訂正前の請求項11の記載、当該訂正事項12を含む訂正前の請求項12の記載、当該訂正事項13を含む訂正前の請求項13の記載、及び当該訂正事項14を含む訂正前の請求項14の記載を、訂正後の請求項15が引用しているものであるから、これらに対応する訂正後の請求項1?21は、特許法第134条の2第3項(当審注:「特許法第120条の5第4項」の誤記と認める。)に規定する一群の請求項である。ただし、訂正後の請求項15、及び18?21については、引用関係の解消を目的とする訂正であるから、この訂正が認められる場合には、請求項1?14、16、及び17とは別途訂正することを求める。』と補正する(以下「補正エ」という。)。

オ 訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項10に
『【請求項10】
交絡数が15?35回/mである合成繊維からなる織物の少なくとも片面に樹脂が配される基布において、樹脂付着量が10?50g/m^(2)であり、樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であり、溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%であり、かつ、剥離帯電が1000V以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。』とあるのを、
補正書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項10とおり、
『【請求項10】(削除)』と補正する(以下「補正オ」という。)。

(2)補正の適否
ア 補正ア及びオについて
上記補正ア及びオは、請求項10の訂正事項を、当該請求項の削除という訂正事項に変更する補正であるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。

イ 補正イ、ウ及びエについて
上記補正イ、ウ及びエは、上記補正ア及びオの補正と整合させるための訂正請求書の補正であるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。

したがって、上記補正書による補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合するので、当該補正を認める。

1-2 訂正請求について
(1)訂正の内容
平成29年2月7日付けの手続補正により補正された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?21について訂正することを求めるものである。
そして、本件訂正における訂正事項は以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
サ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
シ 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12を削除する。
ス 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
セ 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項14を削除する。
ソ 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項15に「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧が0.5?20N/cmであることを特徴とする請求項11?14のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。」とあるのを、「織糸として交絡数が15?35回/mである合成繊維を用いて製織された織物の少なくとも片面に、低分子量アルコキシシランが1?10重量%添加されているか又は粘度500cP超え10,000cP未満の低粘度樹脂成分を含んでいる、粘度15,000?500,000cPのシリコーンコーティング樹脂液を、コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を0.5?20N/cmとして、フローティングナイフコーティングすることによって該織物表面に樹脂を配する工程を含む、該樹脂付着量が10?50g/m^(2)であり、該樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であり、溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%であり、かつ、剥離帯電が1000V以下であるエアバッグ用基布の製造方法。」に訂正する。
タ 訂正事項16
特許請求の範囲の請求項16を削除する。
チ 訂正事項17
特許請求の範囲の請求項17を削除する。
ツ 訂正事項18
訂正前の特許請求の範囲の請求項15の記載について、「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を(当審注:「接圧を」は「接圧が」の誤記と認める。)0.5?20N/cmであることを特徴とする請求項11?14のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。」とあるのを、「織糸中心断面の織糸扁平度が経糸および緯糸において、2.0以上6.0以下である、請求項15に記載の方法。」と改め、新たに請求項18とする。
テ 訂正事項19
訂正前の特許請求の範囲の請求項15の記載について、「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を(当審注:「接圧を」は「接圧が」の誤記と認める。)0.5?20N/cmであることを特徴とする請求項11?14のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。」とあるのを、「前記合成繊維がポリアミド繊維である、請求項15又は18に記載の方法。」と改め、新たに請求項19とする。
ト 訂正事項20
訂正前の特許請求の範囲の請求項15の記載について、「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を(当審注:「接圧を」は「接圧が」の誤記と認める。)0.5?20N/cmであることを特徴とする請求項11?14のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。」とあるのを、「前記織物が平織物である、請求項15、18、及び19のいずれか一項に記載の方法。」と改め、新たに請求項20とする。
ナ 訂正事項21
訂正前の特許請求の範囲の請求項15の記載について、「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を(当審注:「接圧を」は「接圧が」の誤記と認める。)0.5?20N/cmであることを特徴とする請求項11?14のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。」とあるのを、「前記基布は、インクジェット印字された基布である、請求項15、及び18?20のいずれか一項に記載の方法。」と改め、新たに請求項21とする。

(2)訂正の適否
(2-1)一群の請求項
訂正事項1?21に係る訂正前の請求項1?17について、請求項2?17は直接的又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?17に対応する訂正後の請求項1?21は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
(2-2-1)訂正事項1?14について
訂正事項1?14は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1?14を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1?14は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2-2-2)訂正事項15について
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項15は、訂正前の請求項15において、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少するとともに、請求項1、2、4、7、10?14を引用する態様を独立形式で書き下し、さらに、訂正前の請求項15が特定する「コーティング」を、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0025】及び段落【0043】等の記載を根拠として「フローティングナイフコーティング」に限定したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正といえる。
(イ)訂正前の請求項15の記載は、「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧が0.5?20N/cmであることを特徴とする請求項11?14のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。」であるから、訂正前の請求項15に係る発明(以下「訂正前請求項15発明」という。)の対象は、「エアバッグ用基布」という「物」であることは明らかである。
そして、訂正前の請求項15には「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧が0.5?20N/cmである」と特定されていることから、「エアバッグ用基布」に関し、その「製造方法」が記載されている。
ここで、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されている。
そこで、上記判示事項を踏まえて検討すると、訂正前の請求項15には「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧が0.5?20N/cmである」と記載され、「エアバッグ用基布」の製造方法が記載されているから、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
そして、訂正事項15は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項15を、「エアバッグ用基布の製造方法」として訂正後請求項15に訂正するものであって、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
(ウ)したがって、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、「明瞭でない記載の釈明」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0043】には、「[実施例1?3] 総繊度235dtex、フィラメント数72本、強度8.5cN/dtex、無撚りのナイロン6・6繊維で、交絡数20回/mの丸断面マルチフィラメント糸を用い、ウォータージェット織機にて、経糸と緯糸の織密度がともに72本/2.54cmになるように調整し、平織組織の織物を得た。この織物を拡幅状態で80℃で3段の温水浴で1分間の洗浄をし、110℃で乾燥した。次いでこの織物に、粘度6万cPの無溶剤系メチルビニルシリコーン樹脂を主成分とする付加反応架橋シリコーン液にテトラエトキシシラン(TES)を8重量%添加したコーティング樹脂液を、フローティングナイフコーターを用い、該織物と該ナイフの接圧を15、10、2N/cmとして、コーティングを行った後、190℃で2分間加硫処理を行い、エアバッグ用基布を得た。」と記載され、訂正後の請求項15に係る発明(以下「訂正後請求項15発明」という。)に対応する「エアバッグ用基布の製造方法」が記載されているから、訂正事項15は、本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項15は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
(ア) 発明が解決しようとする課題とその解決手段について
特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項は、特許法第120条の5第2項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。
また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているから、訂正前請求項15発明と訂正後請求項15発明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、訂正後請求項15発明の技術上の意義が、訂正前請求項15発明の技術上の意義を実質上拡張し、又は変更されたものであるか否かについて検討する。
ここで、訂正前請求項15発明は、その引用関係から訂正前の請求項1、2、4、7、10?13、15で特定される事項の全てを具備する発明として、あるいは、訂正前の請求項1、2、4、7、10?12、14、15で特定される事項の全てを具備する発明として特定され得るものであるところ、かかる発明の課題は、「展開速度、内圧保持性、および加工性に優れたエアバッグおよびエアバッグ用基布を提供すること」と理解することができ(本件明細書の段落【0008】)、その解決手段は、
・「合成繊維からなる織物の少なくとも片面に樹脂が配される基布において、樹脂付着量が10?50g/m^(2)であり、かつ、樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であること」(請求項1)、
・「溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%であること」(請求項2)、
・「樹脂がシリコーンであること」(請求項4)、
・「織物の製織に用いる織糸の交絡数が15?35回/mであること」(請求項7)、
・「剥離帯電が1000V以下であること」(請求項10)、
・「織物表面にコーティング樹脂液をコーティングすることによって樹脂が配されること」(請求項11)、
・「コーティング樹脂液の粘度が15,000?500,000cPであること」(請求項12)、
・「低分子量アルコキシシランがコーティング樹脂液に1?10重量%添加されていること」(請求項13)又は「コーティング樹脂液が、粘度が500cPを超え、10,000cP未満の低粘度樹脂成分を含んでいること」(請求項14)、及び、
・「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧が0.5?20N/cmであること」(請求項15)である。
他方、訂正後請求項15発明の課題は、「展開速度、内圧保持性、および加工性に優れたエアバッグおよびエアバッグ用基布を提供すること」と理解することができ(訂正後の本件特許の明細書の段落【0008】)、その解決手段は、
・「織糸として交絡数が15?35回/mである合成繊維を用いて製織された織物の少なくとも片面に、低分子量アルコキシシランが1?10重量%添加されているか又は粘度500cP超え10,000cP未満の低粘度樹脂成分を含んでいる、粘度15,000?500,000cPのシリコーンコーティング樹脂液を、コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を0.5?20N/cmとして、フローティングナイフコーティングすることによって該織物表面に樹脂を配する工程を含む」こと(以下「事項A」という。)、及び、
・「該樹脂付着量が10?50g/m^(2)であり、該樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であり、溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%であり、かつ、剥離帯電が1000V以下である」(以下「事項B」という。)ことである。
そして、訂正後請求項15発明において、上記事項Aは、実質的には訂正前の請求項1、4、7、11?14に特定されており、また、上記事項Bは、実質的には訂正前の請求項1、2、10に特定されているものといえるから、訂正前請求項15発明と訂正後請求項15発明の課題及び課題解決手段に実質的な変更はない。
なお、訂正前請求項15発明における「コーティング」は、訂正後請求項15発明において「フローティングナイフコーティング」と限定されるが、前者の「コーティング」は、その実施の形態として「フローティングナイフコーティング」を含むものであるから(本件明細書の段落【0025】及び段落【0043】等の記載を参照。)、かかる限定によって課題解決手段が変更されるものでない。
したがって、訂正後請求項15発明の技術上の意義は、訂正前請求項15発明の技術上の意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。

(イ) 訂正による第三者の不測の不利益について
特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。 また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項は、特許法第120条の5第2項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。
以上を踏まえ、訂正前請求項15発明と訂正後請求項15発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後請求項15発明の「実施」に該当する行為が、訂正前請求項15発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
ここで、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(訂正前請求項15発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(訂正後請求項15発明)の実施について比較する。
「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。
してみると、「物の発明」の実施と「物を生産する方法の発明」の実施において、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。
そして、訂正前請求項15発明は、「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧が0.5?20N/cmである」(請求項15)という製造方法(以下「特定の製造方法」という)を前提として、「合成繊維からなる織物の少なくとも片面に樹脂が配される基布において、樹脂付着量が10?50g/m^(2)であり、かつ、樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であること」(請求項1)、「溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%であること」(請求項2)、「樹脂がシリコーンであること」(請求項4)、「織物の製織に用いる織糸の交絡数が15?35回/mであること」(請求項7)、「剥離帯電が1000V以下であること」(請求項10)、「織物表面にコーティング樹脂液をコーティングすることによって樹脂が配されること」(請求項11)及び「コーティング樹脂液の粘度が15,000?500,000cPであること」(請求項12)、さらに「低分子量アルコキシシランがコーティング樹脂液に1?10重量%添加されていること」(請求項13)又は「コーティング樹脂液が、粘度が500cPを超え、10,000cP未満の低粘度樹脂成分を含んでいること」(請求項14)により「エアバッグ用基布」という物が特定された「物の発明」として特定することができるから、前記特定の製造方法により製造された「エアバッグ用基布」に加え、前記特定の製造方法により製造された「エアバッグ用基布」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。
他方、訂正後請求項15発明は、上記特定の製造方法により「エアバッグ用基布の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「エアバッグ用基布」を、特許発明の実施に含むものである。
したがって、訂正後請求項15発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項15発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、訂正前請求項15発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。

(ウ) 小括
以上のとおり、訂正後請求項15発明の技術上の意義は、訂正前請求項15発明の技術上の意義を実質上拡張し、又は変更するものではなく、訂正後請求項15発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項15発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえないから、訂正事項15は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ まとめ
したがって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2-2-3)訂正事項16及び17について
訂正事項16及び17は、それぞれ特許請求の範囲の請求項16及び17を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項16及び17は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2-2-4)訂正事項18について
訂正事項18に係る請求項18は、訂正前に存在せず、形式的には請求項を増加する訂正(いわゆる「増項訂正」)になるが、その内容は、実質的には訂正前の請求項15において、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少し(請求項1?4、7、10?14を引用する)、さらに、訂正前の請求項15が特定する「コーティング」を、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0025】及び段落【0043】等の記載を根拠として「フローティングナイフコーティング」に限定したものである。
ここで、審判便覧(改訂第16版)の「38-03P 2.(3)(4)」には、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少する訂正は「特許請求の範囲の減縮」に該当し、さらに、「請求項を増加する訂正」であっても、「n項引用している1の請求項をn-1以下の請求項に変更(引用形式による記載及び書き下しによる記載が含まれる。)する場合や、一つひとつの請求項で訂正後の発明を記載することが困難または不明瞭となることから請求項数を増やして表現せざるを得ないときには、「特許請求の範囲の減縮」に該当する旨が定められていることからして、上記訂正事項18もそれらの例に該当し、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少し(請求項1?4、7、10?14を引用する)、さらに、訂正前の請求項15が特定する「コーティング」を「フローティングナイフコーティング」に限定した発明の記載を訂正後の請求項15を引用する引用形式の請求項として書き改めたものといえるから、訂正事項18は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正といえ、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当する。
そして、上記(2-2-2)と同様の理由により、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2-2-5)訂正事項19について
訂正事項19に係る請求項19は、訂正前に存在せず、形式的には請求項を増加する訂正(いわゆる「増項訂正」)になるが、その内容は、実質的には訂正前の請求項15において、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少し(請求項1?5、7、10?14を引用する)、さらに、訂正前の請求項15が特定する「コーティング」を、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0025】及び段落【0043】等の記載を根拠として「フローティングナイフコーティング」に限定したものであり、上記(2-2-4)で述べた訂正事項18と同様の訂正といえる。
したがって、訂正事項19は、上記(2-2-4)と同様の理由により、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正といえ、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、また、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2-2-6)訂正事項20について
訂正事項20に係る請求項20は、訂正前に存在せず、形式的には請求項を増加する訂正(いわゆる「増項訂正」)になるが、その内容は、実質的には訂正前の請求項15において、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少し(請求項1?7、10?14を引用する)、さらに、訂正前の請求項15が特定する「コーティング」を、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0025】及び段落【0043】等の記載を根拠として「フローティングナイフコーティング」に限定したものであり、上記(2-2-4)で述べた訂正事項18と同様の訂正といえる。
したがって、訂正事項20は、上記(2-2-4)と同様の理由により、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正といえ、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、また、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2-2-7)訂正事項21について
訂正事項21に係る請求項21は、訂正前に存在せず、形式的には請求項を増加する訂正(いわゆる「増項訂正」)になるが、その内容は、実質的には訂正前の請求項15において、多数項引用形式の請求項の引用請求項数を減少し(請求項1?7、9?14を引用する)、さらに、訂正前の請求項15が特定する「コーティング」を、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0025】及び段落【0043】等の記載を根拠として「フローティングナイフコーティング」に限定したものであり、上記(2-2-4)で述べた訂正事項18と同様の訂正といえる。
したがって、訂正事項21は、上記(2-2-4)と同様の理由により、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正といえ、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に該当し、また、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2-3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?21について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項15、18?21に係る発明(以下「本件発明15、18?21」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、上記「第2」で述べたとおり、請求項1?14、16、17は削除された。
「【請求項15】
織糸として交絡数が15?35回/mである合成繊維を用いて製織された織物の少なくとも片面に、低分子量アルコキシシランが1?10重量%添加されているか又は粘度500cP超え10,000cP未満の低粘度樹脂成分を含んでいる、粘度15,000?500,000cPのシリコーンコーティング樹脂液を、コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を0.5?20N/cmとして、フローティングナイフコーティングすることによって該織物表面に樹脂を配する工程を含む、該樹脂付着量が10?50g/m^(2)であり、該樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であり、溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%であり、かつ、剥離帯電が1000V以下であるエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項18】
織糸中心断面の織糸扁平度が経糸および緯糸において、2.0以上6.0以下である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記合成繊維がポリアミド繊維である、請求項15又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記織物が平織物である、請求項15、18、及び19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記基布は、インクジェット印字された基布である、請求項15、及び18?20のいずれか一項に記載の方法。」

第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由の概要
訂正前の請求項7、15、18?23に係る特許に対して平成28年8月3日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
なお、上記「第2」で述べたとおり、本件訂正請求による訂正は認められ、かかる訂正によって訂正前の請求項7は削除されるものであるから、訂正前の請求項7に係る以下の取消理由I及び取消理由IIは解消した。
(1)取消理由I
訂正前の請求項7に係る発明は、刊行物1に記載の引用発明、刊行物4に記載の技術的事項及び慣用技術に基いて、
訂正前の請求項15に係る発明は、刊行物1に記載の引用発明、刊行物2、8、9に記載の技術的事項に基いて、
訂正前の請求項18?20に係る発明は、刊行物1に記載の引用発明、刊行物2、3、8、9に記載の技術的事項に基いて、
訂正前の請求項21に係る発明は、刊行物1に記載の引用発明、刊行物2?4、8、9に記載の技術的事項及び周知・慣用技術に基いて、
当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)取消理由II
訂正前の請求項7に係る発明は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

そして、刊行物1?4、8及び9として、以下の文献が示されている(なお、刊行物1?4、8及び9は、特許異議申立人が提出した甲号証であり、括弧内に対応する甲号証の番号を記す。)。
刊行物1:特開2010-13770号公報(甲第2号証)
刊行物2:特開2004-183152号公報(甲第3号証)
刊行物3:特開2006-249655号公報(甲第4号証)
刊行物4:特開2006-124859号公報(甲第5号証)
刊行物8:特開2003-278083号公報(甲第7号証)
刊行物9:特開2008-138305号公報(甲第1号証)

2 判断
2-1 取消理由通知(審決の予告)について
(1)刊行物1の記載事項(下線は当審で付した。以下同様。)
(1a)「【請求項1】
少なくとも片面にシリコーン樹脂からなる層を有するエアバッグ用織物であって、該織物のカバーファクターが750以上であり、該織物を構成する繊維糸条(A)と、それと交差している繊維糸条(B)との接触部表面積の70%以下が樹脂で覆われているエアバッグ用織物。 」
(1b)「【0001】
本発明は、自動車の側部衝突時の乗員保護装置として実用されているエアバッグ用織物およびエアバッグに関するものであり、更に詳しくは、縫合部縫い目の拡大が少なく、堅牢性に優れる縫合部を持つエアバッグ用織物およびエアバッグに関する。」
(1c)「【0009】
本発明は、縫合部の縫い目開きの少ないエアバッグ用基布およびエアバッグを提供するものである。」
(1d)「【0010】
すなわち、本発明は、少なくとも片面にシリコーン樹脂からなる層を有するエアバッグ用織物であって、該織物のカバーファクターが750以上であり、該織物を構成する繊維糸条(A)と、それと交差している繊維糸条(B)との接触部表面積の70%以下が樹脂で覆われているエアバッグ用織物に関する。」
(1e)「【0015】
本発明により、織物を構成する繊維糸条(A)と、それと交差している繊維糸条(B)との接触部表面の樹脂で覆われる面積を70%以下とすることにより、縫合部の縫い目開き量の小さいコーティングされたエアバッグ用織物、およびそれからなるエアバッグを得ることができる。」
(1f)「【0055】
(1)樹脂の被覆率
シリコーン樹脂を被覆加工した織物の経糸あるいは緯糸である繊維糸条(A)の一部を引き抜いて除去し、その糸と交差する繊維糸条(B)の露出した部分について、樹脂の塗布面からSEM写真を撮影した。撮影には株式会社日立ハイテクノロジーズ製、走査電子顕微鏡S-3000Nを用いた。繊維糸条(A)の抜き跡として観察される繊維糸条(B)の全幅(AW)と、樹脂の付着していない中心部(図1に示すSEM写真で、中央部に見える暗色部)の幅(FW)とを測定し、(AW-FW)/AW)×100%から、被覆率を求めた。繊維糸条(A)を経糸とする場合と緯糸とする場合とについて、それぞれN=5で行い、その総平均値を被覆率とした。」
(1g)「【0060】
実施例1
太さ470dtex/136f(単糸繊度3.5dtex)、強度8.5cN/dtex、破断伸度23%であるナイロン66繊維(丸断面)を用い、平織により織物を作成し、精練・セットを行った。ついで、得られた織物の片面に、Rhodorsil TCS7534(ブルースターシリコーン社製、2液付加反応型無溶媒シリコーン樹脂、調液後の粘度45Pa・s)をナイフコート法によりコーティングし、180℃で1分間熱処理して、コーティング織物を得た。織物の織密度は、経、緯いずれも20本/cm、カバーファクターは867、塗工量は25g/m^(2)であった。このコーティング織物を用い、前記製法に準じてエアバッグを作成し、展開試験を行った。被覆率、縫い目開き量およびエアバッグの特性を表1に示す。表1からわかるように、樹脂の被覆率が低いため、縫い目開き量および増加率も低く、展開試験でエアバッグは問題なく膨張し、展開後の外周縫合部の目開きも発生しなかった。」
(1h)「【0067】
【図1】本発明の織物のシリコーン樹脂被覆面における経糸を除去した後のSEM写真(倍率50)の一例である。」
(1i)刊行物1には、以下の図が示されている。



(2)刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1には、「自動車の側部衝突時の乗員保護装置として実用されているエアバッグ用織物およびエアバッグに関するものであり、更に詳しくは、縫合部縫い目の拡大が少なく、堅牢性に優れる縫合部を持つエアバッグ用織物およびエアバッグに関する」技術について開示されるところ(摘示(1b))、その特許請求の範囲には、
「【請求項1】
少なくとも片面にシリコーン樹脂からなる層を有するエアバッグ用織物であって、該織物のカバーファクターが750以上であり、該織物を構成する繊維糸条(A)と、それと交差している繊維糸条(B)との接触部表面積の70%以下が樹脂で覆われているエアバッグ用織物。」と記載されている(摘示(1a))。

イ 刊行物1には、上記エアバック用織物の製造方法の具体例として、
太さ470dtex/136f(単糸繊度3.5dtex)、強度8.5cN/dtex、破断伸度23%であるナイロン66繊維(丸断面)を用い、平織により織物を作成し、精練・セットを行い、ついで、得られた織物の片面に、Rhodorsil TCS7534(ブルースターシリコーン社製、2液付加反応型無溶媒シリコーン樹脂、調液後の粘度45Pa・s)をナイフコート法によりコーティングし、180℃で1分間熱処理して、コーティング織物を得ること、及び、カバーファクターは867、塗工量は25g/m^(2)であったこと、が記載されている(摘示(1f))。

ウ また、刊行物1の記載によれば、
図1(摘示(1i))が、上記エアバッグ用織物のシリコーン樹脂被覆面における経糸を除去した後のSEM写真(走査電子顕微鏡を用いて撮影した写真)であること(摘示(1f)(1h))、
図1(摘示(1i))に示すSEM写真で、経糸を除去した部分の中央部に見える暗色部は、樹脂の付着していない中心部であること(摘示(1f))、が明らかである。
さらに、刊行物1の図1(摘示(1i))から、上記エアバッグ用織物のシリコーン樹脂被覆面における緯糸の表面に、複数本の暗色部が存在することが看取される。

エ 以上によれば、刊行物1には、
「少なくとも片面にシリコーン樹脂からなる層を有するエアバッグ用織物であって、該織物のカバーファクターが750以上であり、該織物を構成する繊維糸条(A)と、それと交差している繊維糸条(B)との接触部表面積の70%以下が樹脂で覆われているエアバッグ用織物を製造する製造方法において、
太さ470dtex/136f(単糸繊度3.5dtex)、強度8.5cN/dtex、破断伸度23%であるナイロン66繊維(丸断面)を用い、平織により織物を作成し、精練・セットを行い、ついで、得られた織物の片面に、Rhodorsil TCS7534(ブルースターシリコーン社製、2液付加反応型無溶媒シリコーン樹脂、調液後の粘度45Pa・s)をナイフコート法によりコーティングし、180℃で1分間熱処理して、コーティング織物を得、カバーファクターは867、塗工量は25g/m^(2)であり、
前記エアバッグ用織物のシリコーン樹脂被覆面における経糸を除去した後のSEM写真(走査電子顕微鏡を用いて撮影した写真)において、前記経糸を除去した部分の中央部に見える暗色部は、前記樹脂の付着していない中心部であり、
前記シリコーン被覆面における緯糸の表面に、複数本の暗色部が存在する、エアバッグ用織物を製造する製造方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
(3-1)本件発明15について
ア 対比
本件発明15と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「繊維糸条」であって「ナイロン66繊維」は、本件発明15の「合成繊維」に相当し、また、引用発明の「平織により」「作成」された「織物」は、本件発明15における「織物」に相当する。
したがって、引用発明の「ナイロン66繊維(丸断面)を用い」、「平織により」「作成」された「織物」と、本願発明15の「織糸として交絡数が15?35回/mである合成繊維を用いて製織された織物」とは、「合成繊維を用いて製織された織物」の限度で共通するものといえる。
(イ)引用発明の「2液付加反応型無溶媒シリコーン樹脂」は、「ナイフコート法によりコーティング」されるから、本件発明15の「シリコーンコーティング樹脂液」に相当する。
また、引用発明の「2液付加反応型無溶媒シリコーン樹脂」は、「調液後の粘度」が「45Pa・s」であり、「45Pa・s」は、「45,000cP」と換算できるから、本願発明15の「シリコーンコーティング樹脂液」における「粘度15,000?500,000cP」の範囲を充足することは明らかである。
(ウ)引用発明の「ナイフコート法によりコーティング」することは、本件発明15の「フローティングナイフコーティングする」ことと、「ナイフコーティングすること」の限度で共通するものといえる。
(エ)上記(ア)?(ウ)を踏まえると、引用発明の「太さ470dtex/136f(単糸繊度3.5dtex)、強度8.5cN/dtex、破断伸度23%であるナイロン66繊維(丸断面)を用い、平織により織物を作成し、精練・セットを行い、ついで、得られた織物の片面に、Rhodorsil TCS7534(ブルースターシリコーン社製、2液付加反応型無溶媒シリコーン樹脂、調液後の粘度45Pa・s)をナイフコート法によりコーティングし、180℃で1分間熱処理して、コーティング織物を得」ることと、本件発明15の「織糸として交絡数が15?35回/mである合成繊維を用いて製織された織物の少なくとも片面に、低分子量アルコキシシランが1?10重量%添加されているか又は粘度500cP超え10,000cP未満の低粘度樹脂成分を含んでいる、粘度15,000?500,000cPのシリコーンコーティング樹脂液を、コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を0.5?20N/cmとして、フローティングナイフコーティングすることによって該織物表面に樹脂を配する工程を含む」という構成とは、「合成繊維を用いて製織された織物の少なくとも片面に、粘度15,000?500,000cPのシリコーンコーティング樹脂液を、ナイフコーティングすることによって該織物表面に樹脂を配する工程を含む」という構成の限度で共通するものといえる。
(オ)引用発明における「塗工量」が、本件発明15における「樹脂付着量」に相当することは明らかであるから、引用発明において「塗工量は25g/m^(2)」ことは、本件発明15において「該樹脂付着量が10?50g/m^(2)であ」ることに相当する。
(カ)引用発明における「エアバッグ用織物を製造する製造方法」は、本件発明15における「エアバッグ用基布の製造方法」に相当する。

したがって、本件発明15と引用発明とは、
「合成繊維を用いて製織された織物の少なくとも片面に、粘度15,000?500,000cPのシリコーンコーティング樹脂液を、ナイフコーティングすることによって該織物表面に樹脂を配する工程を含む、該樹脂付着量が10?50g/m^(2)であるエアバッグ用基布の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点1〕
合成繊維について、本件発明15は「織糸として交絡数が15?35回/mである」のに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
〔相違点2〕
シリコーンコーティング樹脂液について、本件発明15は「低分子量アルコキシシランが1?10重量%添加されているか又は粘度500cP超え10,000cP未満の低粘度樹脂成分を含んでいる」のに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
〔相違点3〕
ナイフコーティングについて、本件発明15は「フローティングナイフコーティング」であって「コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を0.5?20N/cmとして」構成するのに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
〔相違点4〕
本件発明15は「該樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であ」のに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
〔相違点5〕
本件発明15は「溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%である」のに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
〔相違点6〕
本件発明15は「剥離帯電が1000V以下である」のに対し、引用発明はそのように特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まずは相違点4について検討する。
(ア)本件明細書の記載によれば、本件発明15は、少なくとも、従来技術が有するエアバッグは折り畳みを実施した後、自動車内部へ収納されるが、その際に、コーティング面同士が粘着するため、展開時に円滑にバッグが膨らむことを阻害してしまうという問題(段落【0004】)、基布を縫製する際に、基布のコーティング樹脂による粘着性が高く、コーティング面同士が接する度に作業が中断されてしまい、作業性、加工性の低下が起きるという問題(段落【0005】)、さらには、エアバッグ用基布は、静電気を帯び易いため、加工時に扱いにくいうえに、自動車に搭載された際に、自動車内の電子制御機器に悪影響する懸念があるという問題(段落【0006】)等に鑑み、「展開速度、内圧保持性、および加工性に優れたエアバッグおよびエアバッグ用基布を提供すること」(段落【0008】)を解決課題とし、かかる課題を解決するために、少なくとも上記相違点4に係る「該樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であ」る、という解決手段を採用したものと理解することができる。
そして、その効果は、「上式で求められる織糸単糸露出率は、1?25%・・・である。1%以上であると、コーティング樹脂の粘着性の抑制効果があり、充分な展開速度および良好な取り扱い性が満足される。基布表面の織糸凸部で織糸単糸が露出することで、樹脂コーティング面同士の粘着が抑制される。また、1%以上で露出がより多ければ、織物の繊維面と樹脂コーティング面での剥離帯電がより抑制される。織物の繊維面と樹脂コーティング面の接触が織糸単糸露出部では同一物質の接触なので、帯電列差による帯電ではなくなるうえに、織糸単糸露出部が樹脂コーティング面から静電気を逃がす役割となると考えられる。織糸単糸露出率が25%以下の場合は、基布の通気度を充分に抑制し、良好な内圧保持性を維持することができる。」(段落【0015】)というものである。
また、本件明細書には、本件発明15が規定する「織糸単糸露出率」の求め方について、基布の樹脂コーティング面をSEM装置(S3400N(HITACHI製))及びEDX装置(INCAx-act(OXFORD製))にて撮影および画像処理を行ない、コーティング樹脂であるシリコーン由来の珪素(Si)の分布図および織糸単糸由来の炭素(C)の分布図を得、SEM観察像によって織糸露出と認められる部位に関して、珪素マッピング分布図の画像をもとに珪素の不在面積(S1)を測定し、撮影エリア(S0)に対する珪素の不在面積(S1)の割合((S1/S0)×100)により織糸単糸露出率を算出することが記載されている(段落【0013】、段落【0033】)。

(イ)以上を踏まえて検討する。
刊行物1の記載によれば、引用発明は、「縫合部の縫い目開きの少ないエアバッグ用基布およびエアバッグを提供する」ことを解決課題とし(摘示(1c))、かかる課題を解決するために、少なくとも、「該織物のカバーファクターが750以上であり、該織物を構成する繊維糸条(A)と、それと交差している繊維糸条(B)との接触部表面積の70%以下が樹脂で覆われている」という解決手段を採用したものと理解することができる(摘示(1d))。
そして、その効果は、「織物を構成する繊維糸条(A)と、それと交差している繊維糸条(B)との接触部表面の樹脂で覆われる面積を70%以下とすることにより、縫合部の縫い目開き量の小さいコーティングされたエアバッグ用織物、およびそれからなるエアバッグを得ることができる」というものであるから(摘示(1e))、引用発明は、「織物を構成する繊維糸条(A)」と、「それと交差している繊維糸条(B)」との接触部表面に存在する樹脂で覆われる面積を所定の範囲に調整することで、縫合部の縫い目開き量の小さいエアバッグ用織物を得ることに、その技術的意義が存在するものといえる。
そうすると、「展開速度、内圧保持性、および加工性に優れたエアバッグおよびエアバッグ用基布を提供すること」を解決課題とし、「織物表面」における所定の織糸単糸露出率を課題解決手段として特定する本件発明15と、「縫合部の縫い目開きの少ないエアバッグ用基布およびエアバッグを提供する」ことを解決課題とし、繊維糸条(A)とそれと交差している繊維糸条(B)との「接触部表面」における所定の樹脂被覆率を課題解決手段として特定する引用発明とは、課題、課題解決手段及び作用効果において異なることが明らかである。
また、引用発明において「前記シリコーン被覆面における緯糸の表面に」「存在」する「複数本の暗色部」は、図1(摘示(1i))に示されているとおり、「前記経糸を除去した部分の中央部に見える暗色部」と同程度の暗色をなすものと視認し得ることから、上記「複数本の暗色部」は、上記「前記経糸を除去した部分の中央部に見える暗色部」と同様に「前記樹脂の付着していない」部位とも解し得るが、そのように視認される暗色部は、あくまでも「走査電子顕微鏡を用いて撮影した」「SEM写真」により判断されるものであって、上記「(ア)」で述べたSEM装置(S3400N(HITACHI製))及びEDX装置(INCAx-act(OXFORD製))にて撮影および画像処理が行われることにより作成された「珪素(Si)の分布図」をも含めて判断されるものではないから、刊行物1に記載された「SEM写真」に基づいて、本件発明15が特定する「織糸単糸露出率」を評価することはできない。
したがって、引用発明に基づいて上記相違点4に係る本件発明の構成が当業者にとって容易に想到できたものということはできない。
また、念のため、上記取消理由Iにおいて引用した他の刊行物の記載事項を検討しても、
刊行物2(甲第3号証)には、エアバック用基布を、カバーファクターが2,050?2,300の範囲内にある合成繊維織物の少なくとも片面が5?25g/m^(2)の付着量の樹脂で被覆されており、かつ残留油分量が0.1重量%以下で構成することが記載され(【請求項1】)、
刊行物3(甲第4号証)には、エアバッグ用基布に用いられるコーティング布帛において、シリコーン膜の塗布量を1?25g/m^(2)で構成すること(【請求項4】)、及び、織糸扁平度を2.5?3程度とすることが記載され(図8、図9)、
刊行物4(甲第5号証)には、交絡数が12?30個/mの合成繊維マルチフィラメントからなるエアバッグ用原糸パッケージをタテ糸およびヨコ糸として用いて製織してなる基布の少なくとも1つの面に塗布量が10?50g/m2であるシリコーン樹脂を塗布(コーティング)して形成されたエアバッグ用基布が記載され(【請求項1】、段落【0023】、【0033】、【0041】)、
刊行物8(甲第7号証)には、エアバッグ基布コーティング用シリコーン組成物において、シリコーン硬化皮膜と基布との接着性を向上させるために、アルキルアルコキシシラン類、テトラアルコキシシラン類などの低分子量アルコキシシランを添加すること(段落【0029】、【0031】)、及び、コーティング用シリコーン組成物として、25℃の粘度が5?4,000mPa・s(=5?4,000cP)の低粘度樹脂成分と、25℃の粘度が5,000?100,000mPa・s(=5,000?100,000cP)の高粘度樹脂成分の混合物を用いることにより、硬化皮膜中に架橋点が偏在し、硬化皮膜が破壊されにくくなるために気密性や接着性を十分に保持できることが記載され(【請求項1】?【請求項3】、段落【0021】、【0024】)、
刊行物9(甲第1号証)には、合成繊維織物の少なくとも一方の面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布において、該合成繊維織物の樹脂被覆面に位置する経糸および緯糸の断面外周が、該樹脂により90%以上包囲されるように構成すること(【請求項1】)、及び、エアバッグ用基布にコーティング樹脂液をナイフコーティングする際、ナイフとベッドによる合成繊維織物の挟み力(すなわち接圧)を0.5?4.0N/cmとすることが記載されているが(段落【0025】)、
いずれの刊行物にも、上記相違点4に係る本件発明15の構成は記載されていない。

(ウ)小活
以上のとおり、本件発明15は甲1発明と相違点1?6において相違するものであるところ、少なくとも相違点4に係る本件発明15の構成は当業者にとって容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明15は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-2)本件発明18?21について
本件発明18?21は、本件発明15をさらに限定した発明であるから、本件発明18?21と引用発明とは、少なくとも上記相違点1?6の点で相違する。
そして、相違点4に係る本件発明15の構成については、上記「(3-1)」で検討したとおり、当業者が容易に想到することができたものとはいえないから、本件発明18?21は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-2 取消理由通知(審決の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人は、訂正前の請求項1?17に係る発明について、刊行物9(甲第1号証)を主引用例とする、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定による取消理由を主張するが、刊行物9(甲第1号証)には、上記「2-1(3)(3-1)イ」で述べたとおり、合成繊維織物の少なくとも一方の面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布において、該合成繊維織物の樹脂被覆面に位置する経糸および緯糸の断面外周が、該樹脂により90%以上包囲されるように構成すること(【請求項1】)、及び、エアバッグ用基布にコーティング樹脂液をナイフコーティングする際、ナイフとベッドによる合成繊維織物の挟み力(すなわち接圧)を0.5?4.0N/cmとすることが記載されているが(段落【0025】)、上記相違点4に係る本件発明15の構成は記載されていない。
また、上記相違点4に係る本件発明15の構成が公知あるいは周知技術と解すべき合理性もない。
したがって、特許異議申立人による上記主張は理由がない。

(2)特許異議申立人は、「織糸単糸露出率」はその方法が明りょうであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分なものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する。
しかし、本件明細書の段落【0013】及び段落【0033】には、本件発明が規定する「織糸単糸露出率」の求め方について、基布の樹脂コーティング面をSEM装置(S3400N(HITACHI製))及びEDX装置(INCAx-act(OXFORD製))にて撮影および画像処理を行ない、コーティング樹脂であるシリコーン由来の珪素(Si)の分布図および織糸単糸由来の炭素(C)の分布図を得、SEM観察像によって織糸露出と認められる部位に関して、珪素マッピング分布図の画像をもとに珪素の不在面積(S1)を測定し、撮影エリア(S0)に対する珪素の不在面積(S1)の割合((S1/S0)×100)により織糸単糸露出率を算出することが記載されており、具体的な測定装置及び測定方法が記載されているから、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分なものではない、ということはできない。
したがって、特許異議申立人による上記主張は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(審決の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項15、18?21に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項15、18?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1?14、16、17に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1?14、16、17に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
【請求項15】
織糸として交絡数が15?35回/mである合成繊維を用いて製織された織物の少なくとも片面に、低分子量アルコキシシランが1?10重量%添加されているか又は粘度500cP超え10,000cP未満の低粘度樹脂成分を含んでいる、粘度15,000?500,000cPのシリコーンコーティング樹脂液を、コーティング時に使用するナイフと基布との接圧を0.5?20N/cmとして、フローティングナイフコーティングすることによって該織物表面に樹脂を配する工程を含む、該樹脂付着量が10?50g/m^(2)であり、該樹脂表面に織糸単糸が露出し、織糸単糸露出率が1?25%であり、溶媒抽出油分が0.15?0.005重量%であり、かつ、剥離帯電が1000V以下であるエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項16】(削除)
【請求項17】(削除)
【請求項18】
織糸中心断面の織糸偏平度が経糸および緯糸において、2.0以上6.0以下である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記合成繊維がポリアミド繊維である、請求項15又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記織物が平織物である、請求項15、18、及び19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記基布は、インクジェット印字された基布である、請求項15、及び18?20のいずれか一項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-14 
出願番号 特願2013-210446(P2013-210446)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B60R)
P 1 651・ 536- YAA (B60R)
P 1 651・ 113- YAA (B60R)
P 1 651・ 537- YAA (B60R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 粟倉 裕二  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 氏原 康宏
島田 信一
登録日 2015-03-13 
登録番号 特許第5711803号(P5711803)
権利者 旭化成せんい株式会社
発明の名称 エアバッグ用基布  
代理人 石田 敬  
代理人 中村 和広  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三間 俊介  
代理人 石田 敬  
代理人 中村 和広  
代理人 齋藤 都子  
代理人 古賀 哲次  
代理人 三間 俊介  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
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