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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B05D |
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管理番号 | 1327867 |
異議申立番号 | 異議2016-700788 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-30 |
確定日 | 2017-03-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5881719号発明「複層塗膜の形成方法及び複層塗膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5881719号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第5881719号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5881719号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成24年9月11日(優先日:平成23年9月13日)に国際出願され、平成28年2月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人西郷新(以下「特許異議申立人」という)により特許異議の申立てがされ、平成28年11月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月10日に意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。なお、当該訂正の請求に対しては、特許異議申立人からの意見書の提出はなかった。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 平成29年1月10日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という)による訂正の内容は、請求項1に「前記第2ベース塗料及び前記クリア塗料の組み合わせとして」とあるのを、「前記第1ベース塗料、前記第2ベース塗料及び前記クリア塗料の組み合わせとして、硬化温度が第1ベース塗料、前記クリア塗料、第2ベース塗料の順に高くなり」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項は、複層塗膜の形成に用いる第1ベース塗料、第2ベース塗料及びクリア塗料の組み合わせを、「硬化温度が第1ベース塗料、前記クリア塗料、第2ベース塗料の順に高く」なる組み合わせに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、上記訂正事項に関する記載として、図面の図1には、実施例3として、塗料の硬化温度が第1ベース塗料、クリア塗料、第2ベース塗料の順に高くなっている組み合わせが示されているから、上記訂正事項は明細書又は図面に記載されているものと認められる。よって、上記訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 そして、訂正前の請求項1及び2は、請求項2が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、上記訂正事項による訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項の規定に適合する。 (3)小括 したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「 【請求項1】 電着塗装が施された被塗物上に、第1ベース塗料を塗装して第1ベース塗膜を形成する第1ベース塗膜形成工程と、 前記第1ベース塗膜上に、第2ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成する第2ベース塗膜形成工程と、 前記第2ベース塗膜上に、クリア塗料を塗装してクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する複層塗膜の形成方法であって、 前記第1ベース塗膜形成工程では、焼き付け硬化後の第1ベース塗膜の顔料濃度が40?60質量%となり且つ膜厚が20μm以上となるように前記第1ベース塗料を塗装して前記第1ベース塗膜を形成し、 前記第2ベース塗膜形成工程では、焼き付け硬化後の第2ベース塗膜の膜厚が8μm以上となるように前記第2ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成し、 前記第1ベース塗料、前記第2ベース塗料及び前記クリア塗料の組み合わせとして、硬化温度が第1ベース塗料、前記クリア塗料、第2ベース塗料の順に高くなり、第2ベース塗料の硬化温度において、クリア塗料の方が第2ベース塗料よりも塗膜の粘度が低い組み合わせを用いることを特徴とする複層塗膜の形成方法。 【請求項2】 前記第1ベース塗膜及び前記第2ベース塗膜を同時に焼き付け硬化する焼き付け工程をさらに有し、 前記第1ベース塗料及び前記第2ベース塗料の組み合わせとして、第1ベース塗料の方が第2ベース塗料よりも硬化温度が低い組み合わせを用いることを特徴とする請求項1に記載の複層塗膜の形成方法。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、平成28年11月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1及び2に係る特許は取り消すべきものである。 (3)甲号証の記載 甲第3号証(特開2002-35679号公報)には、「塗膜形成方法及び被塗物」について、図面とともに以下の記載がある。 ア 「【請求項1】 電着塗装された素材の上に、中塗り塗料、ベース塗料及びクリヤー塗料を順次塗装する工程、並びに、前記塗装された3層を一度に焼き付け硬化させる工程からなる塗膜形成方法であって、前記中塗り塗料、前記ベース塗料及び前記クリヤー塗料は、不揮発分90重量%における温度に対する粘度の測定をそれぞれについて行った場合に、最低粘度が、 中塗り塗料≧ベース塗料≧クリヤー塗料 の関係を満たすものであり、硬化開始温度が、 中塗り塗料≦ベース塗料≦クリヤー塗料 の関係を満たすものであることを特徴とする塗膜形成方法。」 イ 【表2】 表2には、「中塗り塗料」の欄に、実施例1の材料配分として、「アクリル樹脂1 35」、「非水ディスパージョン樹脂 35」、「サイメル254 30」及び「顔料 60」と記載され、これら数値から、中塗り塗料の顔料濃度が37.5重量%であることが算出できる。 また、表2には、「乾燥膜厚(μm)」として、「中塗り塗装 21」及び「ベース塗装 16」が示されている。 ウ 【図1】 図1には、ベース塗料及びクリヤー塗料の組み合わせとして、ベース塗料の硬化開始温度(100℃)において、クリヤー塗料の方がベース塗料よりも塗膜の粘度が低い組み合わせとなっていることが示されている。 以上の記載によれば、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「電着塗装が施された素材上に、中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成する中塗り塗膜形成工程と、 前記中塗り塗膜上に、ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、 前記ベース塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成するクリヤー塗膜形成工程と、を有する塗膜形成方法であって、 前記中塗り塗膜形成工程では、焼き付け硬化後の中塗り塗膜の顔料濃度が37.5重量%となり且つ膜厚が21μmとなるように前記中塗り塗料を塗装して前記中塗り塗膜を形成し、 前記ベース塗膜形成工程では、焼き付け硬化後のベース塗膜の膜厚が16μmとなるように前記ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、 前記中塗り塗料、前記ベース塗料及び前記クリヤー塗料の組み合わせとして、硬化開始温度が中塗り塗料≦ベース塗料≦クリヤー塗料の関係を満たし、ベース塗料の硬化開始温度において、クリヤー塗料の方がベース塗料よりも塗膜の粘度が低い組み合わせを用いる塗膜形成方法。」(以下「甲3発明」という) (4)判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由について (ア)本件発明1について 本件発明1と甲3発明とを対比すると、本件発明1が、「前記第1ベース塗料、前記第2ベース塗料及び前記クリア塗料の組み合わせとして、硬化温度が第1ベース塗料、前記クリア塗料、第2ベース塗料の順に高くなり、第2ベース塗料の硬化温度において、クリア塗料の方が第2ベース塗料よりも塗膜の粘度が低い組み合わせを用いる」のに対し、甲3発明は「前記中塗り塗料、前記ベース塗料及び前記クリヤー塗料の組み合わせとして、硬化開始温度が中塗り塗料≦ベース塗料≦クリヤー塗料の関係を満たし、ベース塗料の硬化開始温度において、クリヤー塗料の方がベース塗料よりも塗膜の粘度が低い組み合わせを用いる」ものであり、当該組み合わせ中でクリヤー塗料の硬化開始温度をベース塗料よりも低くしていない点で相違するものである。そして、この相違点については、甲第1号証(特開2000-281962号公報)及び甲第2号証(特開2000-317394号公報)には記載されておらず、従来周知の事項とする根拠もない。また、そもそも甲3発明は、各塗料の硬化開始温度が上記特定の関係を満たすように設定されるものであり、他の硬化開始温度の関係に変えることを阻害する事由があるものといえる。 そして、本件発明1は、上記相違点のように構成することにより、「第1ベース塗膜の硬化が開始された後に第2ベース塗膜の硬化が開始されるため、複層塗膜の平滑性を向上でき」、「クリア塗料の硬化開始温度が第2ベース塗料より低くても第2ベース塗膜とクリア塗膜間での混層を抑制でき、第2ベース塗膜の硬化歪を開放でき、外観特性としての艶感を向上できる」(平成29年1月10日付け意見書の5(4)エを参照)という効果を奏するものであり、当該効果は特許明細書の段落【0057】に記載された「艶引けは僅かである」という効果の記載とも整合する。よって、上記相違点に係る構成が単なる設計上の微差とも言うことはできない。 したがって、本件発明1は、甲3発明及び従来周知の事項から、当業者が容易に発明することができたものではない。 (イ)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様の理由で、甲3発明及び従来周知の事項から、当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るか、又は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得る、と主張している。 しかし、上記ア(ア)に示したとおり、本件発明1が「前記第1ベース塗料、前記第2ベース塗料及び前記クリア塗料の組み合わせとして、硬化温度が第1ベース塗料、前記クリア塗料、第2ベース塗料の順に高くな」る組み合わせである点については、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれにも記載がなく、当該点が従来周知の事項ではなく、設計上の微差とも言えないから、特許異議申立人の上記主張は理由がない。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 電着塗装が施された被塗物上に、第1ベース塗料を塗装して第1ベース塗膜を形成する第1ベース塗膜形成工程と、 前記第1ベース塗膜上に、第2ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成する第2ベース塗膜形成工程と、 前記第2ベース塗膜上に、クリア塗料を塗装してクリア塗膜を形成するクリア塗膜形成工程と、を有する複層塗膜の形成方法であって、 前記第1ベース塗膜形成工程では、焼き付け硬化後の第1ベース塗膜の顔料濃度が40?60質量%となり且つ膜厚が20μm以上となるように前記第1ベース塗料を塗装して前記第1ベース塗膜を形成し、 前記第2ベース塗膜形成工程では、焼き付け硬化後の第2ベース塗膜の膜厚が8μm以上となるように前記第2ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成し、 前記第1ベース塗料、前記第2ベース塗料及び前記クリア塗料の組み合わせとして、硬化温度が第1ベース塗料、前記クリア塗料、第2ベース塗料の順に高くなり、第2ベース塗料の硬化温度において、クリア塗料の方が第2ベース塗料よりも塗膜の粘度が低い組み合わせを用いることを特徴とする複層塗膜の形成方法。 【請求項2】 前記第1ベース塗膜及び前記第2ベース塗膜を同時に焼き付け硬化する焼き付け工程をさらに有し、 前記第1ベース塗料及び前記第2ベース塗料の組み合わせとして、第1ベース塗料の方が第2ベース塗料よりも硬化温度が低い組み合わせを用いることを特徴とする請求項1に記載の複層塗膜の形成方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-03-22 |
出願番号 | 特願2013-533673(P2013-533673) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B05D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中尾 奈穂子 |
特許庁審判長 |
平岩 正一 |
特許庁審判官 |
栗田 雅弘 渡邊 真 |
登録日 | 2016-02-12 |
登録番号 | 特許第5881719号(P5881719) |
権利者 | 本田技研工業株式会社 |
発明の名称 | 複層塗膜の形成方法及び複層塗膜 |
代理人 | 星野 寛明 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 星野 寛明 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 正林 真之 |