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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12Q
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12Q
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12Q
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12Q
管理番号 1327868
異議申立番号 異議2016-700126  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-15 
確定日 2017-04-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5767143号発明「ミトコンドリアDNA可変領域塩基配列による水産魚介類の標識および識別のための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5767143号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第5767143号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5767143号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成24年3月7日の特許出願であって、特願2009-269544号(国内優先権主張 平成20年11月27日)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づき分割して新たな出願としたものであり、平成27年6月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 公益社団法人全国豊かな海づくり推進協会、特許異議申立人 国立研究開発法人水産研究・教育機構(旧名称:国立研究開発法人水産総合研究センター)、及び特許異議申立人 株式会社 日本総合科学 の3者より特許異議の申立てがなされたものであり、それ以降の手続は、概ね以下のとおりである。

平成28年 5月19日付け 取消理由通知
平成28年 7月25日付け 訂正請求・意見書
平成28年 8月22日付け 訂正拒絶理由
平成28年 9月26日付け 手続補正書・意見書
平成28年10月12日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成28年12月16日付け 訂正請求・意見書
平成29年 3月 9日付け 意見書(特許異議申立人 国立研究開発法 人水産研究・教育機構)
平成29年 3月 9日付け 意見書(特許異議申立人 株式会社 日本 総合科学)

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成28年12月16日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のア、イのとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記回遊性水産魚類の雌親、または該雌親に由来する受精卵、仔魚、稚魚、成魚もしくは種苗から採取されるミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第1の塩基配列)を決定し」とあるのを
「前記回遊性水産魚類の雌親、または該雌親に由来する受精卵、仔魚、稚魚、成魚もしくは種苗から採取されるミトコンドリアについて、ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて、ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第1の塩基配列)を決定し」と訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「漁獲された前記回遊性水産魚類から採取されるミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第2の塩基配列)を決定し」とあるのを
「漁獲された前記回遊性水産魚類から採取されるミトコンドリアについて、ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて、ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第2の塩基配列)を決定し」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アの訂正事項に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には
「【0022】
本発明はまた、ミトコンドリアDNAのDループ全長の塩基配列を、ミトコンドリアプロリンtRNA特異的プライマーおよびミトコンドリアフェニルアラニンtRNA特異的プライマーを用いて増幅し、両鎖シークエンシングにより決定することをさらに含む、前記方法に関する。」、
「【0046】
一態様において、本発明の方法は、ミトコンドリアDNAのDループ全長の塩基配列を、ミトコンドリアプロリンtRNA特異的プライマーおよびミトコンドリアフェニルアラニンtRNA特異的プライマーを用いて両鎖シークエンシングにより決定することをさらに含む。ミトコンドリアDNAに含まれる遺伝子の配置や塩基配列は、水産魚介類の近縁種の間で、Dループを除いて、保存性が高い。Dループは0.8?1.5kb程度の塩基長を有する高度可変領域であるが、その3’末端側において隣接するプロリンtRNA遺伝子および5’末端側において隣接するフェニルアラニンtRNA遺伝子の塩基配列は保存性が高い。したがって、Dループを挟んでプロリンtRNAおよびフェニルアラニンtRNAの配列に対して各々プライマーを設計することにより、Dループの全長をPCRで増幅することができる。」と、ミトコンドリアDNAのDループ全長の塩基配列を両鎖シークエンシングにより決定することをさらに含むことが記載されており、これは、ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列を決定する際に、さらに含むことであると認められる。
また、段落【0053】?【0054】には、具体的なDループDNA両鎖シークエンス法が示され、実施例にも、Dループ全長の塩基配列を決定したことが示されている。
したがって、「ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて、ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第1の塩基配列)を決定」すること、すなわち、「ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第1の塩基配列)を決定」する際に、ミトコンドリアDNA Dループ全長の塩基配列を用いること、このミトコンドリアDNA Dループ全長の塩基配列を「ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定」することは、明細書に記載されているものと認められる。
また、上記アの訂正事項は、訂正前の請求項1において、「ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第1の塩基配列)を決定」する際に、「ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用い」ることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とすると認められる。
よって、上記アの訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において母系特異的塩基配列(第1の塩基配列)を決定するための方法を限定したものであるから新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記アの訂正事項と同様に、上記イの訂正事項も、明細書に記載された事項の範囲内において、ミトコンドリアDNA 母系特異的塩基配列(第2の塩基配列)を決定する方法を限定したものといえるから、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人 国立研究開発法人水産研究・教育機構は、本件特許明細書に、「ミトコンドリアプロリンtRNA特異的プライマーおよびミトコンドリアフェニルアラニンtRNA特異的プライマー」を用いた特定の態様に限定されない、一般化された技術思想としての「ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシング」が記載されているとは認められないから、本件訂正請求に係る訂正は本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではないと主張している。

そこで以下検討するが、上記主張は、「ミトコンドリアプロリンtRNA特異的プライマーおよびミトコンドリアフェニルアラニンtRNA特異的プライマー」を用いた特定の態様に限定されない、すなわち、上記2つのプライマー以外のプライマーを用いた態様も含む、一般化された技術思想としての「ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシング」が本件特許明細書に記載した事項の範囲内でない点を主張するものとの認められる。

本件特許明細書の段落【0046】には「ミトコンドリアDNAに含まれる遺伝子の配置や塩基配列は、水産魚介類の近縁種の間で、Dループを除いて、保存性が高い。」と記載されていること、また、本件特許明細書の段落【0034】に記載されているように、GeneBank(注:GenBankの誤記と認める。)やMitoFish(魚介類ミトコンドリアの公開データベース(http://mitofish.ori.u-tokyo.ac.jp/))などの、ミトコンドリアDNAの塩基配列を得るためのデータベースが公知であることを考慮すれば、Dループ全長の塩基配列を決定するために用いるプライマーとして、プロリンtRNA特異的プライマーやフェニルアラニンtRNA特異的プライマーに限定されない、Dループの3’末端側及び5’末端側の保存性が高い部分配列を用いたプライマーも、当業者なら当然に設計できるものであり、このような技術常識を考慮すれば、上記2つのプライマー以外のプライマーを用いた態様も含む、一般化された技術思想としての「ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシング」は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であるといえる。
したがって、特許異議申立人 国立研究開発法人水産研究・教育機構の主張は採用することができない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
本件発明1
「回遊性水産魚類を放流する事業の該回遊性水産魚類の漁獲高への貢献度を判定する方法であって、前記回遊性水産魚類の雌親、または該雌親に由来する受精卵、仔魚、稚魚、成魚もしくは種苗から採取されるミトコンドリアについて、ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて、ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第1の塩基配列)を決定し、次いで、
前記雌親に由来する受精卵、仔魚、稚魚もしくは成魚を放流し、次いで、
漁獲された前記回遊性水産魚類から採取されるミトコンドリアについて、ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて、ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第2の塩基配列)を決定し、次いで、
第1の塩基配列と第2の塩基配列とを比較して、両者が同一であるか否かを判別する、
ことを含む、前記方法。」

本件発明2
「マイクロサテライトにより核型を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成28年10月12日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1及び2に係る発明は、引用例1に記載された発明であるか、引用例1に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。
イ 請求項1に係る発明は、引用例3に記載された発明であるか、引用例3に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。
ウ 請求項2に係る発明は、引用例3及び引用例5に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)引用例の記載
(3-1)引用例1(North American Journal of Fisheries Management ,28,p.1294-1304 (Published online ; August 25,2008) ))には、レッドドラムの幼魚を放流し、成魚を採取する資源増強プログラムにおいて、湾から採取したレッドドラムの成魚が孵化場由来か野生由来かを帰属することについて記載されており、孵化場の繁殖用雌親について、Dループの370bpのフラグメントの塩基配列及びマイクロサテライトのゲノタイプを取得したこと、孵化場の繁殖用雄親についてマイクロサテライトのゲノタイプを取得したこと、湾から採取した漁試料について、Dループの370bpのフラグメントの塩基配列およびマイクロサテライトのゲノタイプを取得したこと、取得した繁殖用雌親のDループの370bpのフラグメントの塩基配列、繁殖用雄親、雌親のマイクロサテライトのゲノタイプと、湾から採取した魚試料のDループの370bpのフラグメントの塩基配列、マイクロサテライトのゲノタイプを比較し、採取した魚が孵化場由来か野生由来かを判別して帰属したことが記載されていると認められる。

(3-2)引用例3(ブレインテクノニュース,第84号,平成13年3月15日発行,22?25頁)には、どこで放流したヒラメがいつ、どこで、どれくらい漁獲されているかを明らかにする放流ヒラメの追跡調査について記載されており、生産施設の稚魚ヒラメと漁獲されたヒラメについて、mtDNA調節領域前半部分約400塩基対の塩基配列の分析し、両者の分析結果を照合したことが記載されていると認められる。

(3-3)引用例5(養殖,2007年12月,第559号、81?83頁)には、「ヒラメの放流効果は多くの場合、混入率(放流魚漁獲尾数/全漁獲尾数)や回収率(放流魚漁獲尾数/放流尾数)で表されます。」、「DNAマーカーを分析することにより、親子鑑定の要領で天然海域に分布するヒラメの稚魚の中から放流魚の子供のを捜し出すことを試みたのです。・・・・産卵群にどこで放流されたヒラメがどのくらいの割合で含まれているかを調べました。これには、各地で放流された種苗のミトコンドリアDNA(mtDNA)塩基配列データベースに漁獲された放流魚の分析結果を照合する(養殖03年12月号84-87頁参照)という手法を用いました。・・・・親世代のmtDNA塩基配列データベースに加えて、さらに精度を上げるために、3種類のマイクロサテライトDNAマーカー(MSマーカー)型データベースを作成し、若狭湾内ならびにその周辺海域で採集した合計1709個体の天然稚魚の分析結果を照合しました。」との記載がある。

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
本件発明1は、第1の塩基配列(放流前の雌親、または該雌親に由来する受精卵、仔魚、稚魚、成魚もしくは種苗(以下「放流前の稚魚等」という。)の母系特異的塩基配列)と、第2の塩基配列(漁獲された魚の母系特異的塩基配列)を決定し、次いで、第1の塩基配列と第2の塩基配列とを比較して、両者が同一であるか否かを判別することを含む方法であって、第1、第2の塩基配列が「ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて」決定されたものであること、すなわち、両鎖シーケンシング法によって、放流前の稚魚等と漁獲された魚のそれぞれのミトコンドリアDNA Dループ全長の塩基配列を決定し、次いで、決定されたそれぞれのミトコンドリアDNA Dループ全長の塩基配列を用いて、それぞれのミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列を決定する点を特徴とする方法であると認められる。
これに対し、上記ア?ウの取消理由で引用した引用例1、3、5には、上記の点は記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明1、2は、引用例1に記載された発明、または引用例3に記載された発明と上記の点で相違するから、本件発明1、3は、引用例1または引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、特許異議申立人 公益社団法人全国豊かな海づくり推進協会、特許異議申立人 国立研究開発法人水産研究・教育機構、及び特許異議申立人 株式会社 日本総合科学が提出した引用例1、3、5以外の各甲号証にも、上記の点は記載も示唆もされていない。その他にも、Dループ全長の両鎖シーケンシングをする必要性を示す事情は見出せない。
したがって、引用例1、3、5、および各甲号証の記載をみても、上記の点について当業者が想到することはできない。
そして、本件特許明細書の段落【0046】に「配列の信頼性の観点から、両鎖シークエンスを行うことが好ましい。」と記載されるように、本件発明1、2は、ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシング法を採用したことによって、精度の高い判定ができるという効果を奏し得るものと認められる。

イ 特許異議申立人の意見について
(ア)特許異議申立人 公益社団法人全国豊かな海づくり推進協会は、指定期間内に意見書を提出しなかった。

(イ)特許異議申立人 国立研究開発法人水産研究・教育機構は、参考文献1を示し、シーケンス精度を向上するために両鎖シークエンスを行うことは周知技術であるから、訂正後の請求項1、2に係る発明(本件発明1、2)は、進歩性を有さない旨を主張している。
しかし、引用発明1は「Dループの370bpのフラグメントの塩基配列」、引用発明3は「mtDNA調節領域前半部分約400塩基対の塩基配列」という、ミトコンドリアDNA Dループの部分塩基配列をそれぞれ分析の対象とする方法であるから、分析にあたり、放流前の稚魚等、漁獲された魚において決定しなければならないのは、Dループ全長ではなくDループの部分塩基配列である。
そして、Dループの部分塩基配列の決定で足りる場合に、わざわざ手間やコストをかけてDループの全長の塩基配列を両鎖とも決定しようなどと当業者が考えるとはいえない。
したがって、引用発明1、3においてDループ全長の塩基配列を決定しようとする動機がないから、例え両鎖シークエンス法が周知技術であっても、引用発明1、3において、Dループ全長の塩基配列を決定する工程をさらに設けることを当業者が想到するとはいえない。

(ウ)特許異議申立人 株式会社 日本総合科学は、訂正事項により追加された事項は、第1の塩基配列第2の塩基配列を比較するための単なる一手段であり、塩基配列をシーケンシングにより決定することは技術常識であるから、技術的意味としては訂正前後で相違せず、本件発明と引用例1及び3で実施されている技術は、実質的に同一である、と主張する。
しかし、第1、第2の塩基配列が「ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて」決定されたものであることを特定する訂正は、本件発明1、2の方法が、両鎖シーケンシング法によって、放流前の稚魚等と漁獲された魚のそれぞれのミトコンドリアDNA Dループ全長の塩基配列を決定し、次いで、決定されたそれぞれのミトコンドリアDNA Dループ全長の塩基配列を用いて、それぞれのミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列を決定することを特定するものであるから、訂正前の請求項1、2に係る発明において、それぞれのミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列を決定する前に、それぞれのミトコンドリアDNA Dループ全長の塩基配列を決定する工程をさらに設けることを特定するものであると認められる。
したがって、塩基配列を両鎖シーケンシングにより決定することが技術常識であっても、本件発明1、2は、ミトコンドリアDNA Dループ全長の塩基配列を両鎖シークエンシングにより決定するという工程を含む方法であるから、引用例1、3に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。

ウ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人 国立研究開発法人水産研究・教育機構は、訂正前の特許請求の範囲に関し、以下の理由を挙げている。
請求項1に記載の「回遊性水産魚類」はあらゆる水産魚全体を包含するが、本件特許出願時の技術常識に照らしても、「回遊性水産魚類」全体を包含する本件発明1、2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないし、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1、2を実施できる程度に十分記載されているとはいえない。
また「ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列」本件特許明細書の記載に基づくと、異母個体との間で0?2個程度の違いのような、高度の相同性は示すが、完全には一致しない場合を包含するが、そのような場合にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないし、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1、2を実施できる程度に十分記載されているとはいえない。

そこで、以下、検討する。
放流事業によって稚魚等を放流するような「回遊性水産魚類」であれば、発明の詳細な説明の実施例に具体的に示された魚種以外の魚種であっても、本件発明1、2の方法を実施できるし、そのような「回遊性水産魚類」まで拡張ないし一般化できると考えられる。
また、Dループ全長の塩基配列の決定について、両鎖シーケンシング法を用いることが特定された本件発明1、2は、精度の高い判定ができる方法であると認められるから、異母個体との間で高度の相同性は示すが、完全には一致しない場合であっても、本件発明1、2の方法を実施できると考えられるし、そのような「ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列」まで拡張ないし一般化できると考えられる。
したがって、特許異議申立人 国立研究開発法人水産研究・教育機構の上記の理由はいずれも理由がない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回遊性水産魚類を放流する事業の該回遊性水産魚類の漁獲高への貢献度を判定する方法であって、前記回遊性水産魚類の雌親、または該雌親に由来する受精卵、仔魚、稚魚、成魚もしくは種苗から採取されるミトコンドリアについて、ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて、ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第1の塩基配列)を決定し、次いで、前記雌親に由来する受精卵、仔魚、稚魚、成魚を放流し、次いで、漁獲された前記回遊性水産魚類から採取されるミトコンドリアについて、ミトコンドリアDNA Dループ全長の両鎖シーケンシングにより決定された塩基配列を用いて、ミトコンドリアDNA Dループの母系特異的塩基配列(第2の塩基配列)を決定し、次いで、第1の塩基配列と第2の塩基配列とを比較して、両者が同一であるか否かを判別することを含む、前記方法。
【請求項2】
マイクロサテライトにより核型を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-30 
出願番号 特願2012-50265(P2012-50265)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C12Q)
P 1 651・ 536- YAA (C12Q)
P 1 651・ 537- YAA (C12Q)
P 1 651・ 121- YAA (C12Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 長井 啓子
三原 健治
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5767143号(P5767143)
権利者 有限会社ジェノテックス
発明の名称 ミトコンドリアDNA可変領域塩基配列による水産魚介類の標識および識別のための方法  
代理人 飯田 雅人  
代理人 小池 順造  
代理人 志賀 正武  
代理人 森田 昭生  
代理人 高島 一  
代理人 高橋 勇  
代理人 土井 京子  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 當麻 博文  
代理人 小椋 正幸  
代理人 高橋 勇  
代理人 森田 昭生  
代理人 高橋 詔男  
代理人 石井 良夫  

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