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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
管理番号 1327885
異議申立番号 異議2016-700967  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-05 
確定日 2017-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5899022号発明「導電性ペースト、導電パターンの形成方法及び導電パターン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5899022号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、〔4〕について訂正することを認める。 特許第5899022号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5899022号(以下、「本件特許」という。)は、その出願が平成24年 3月29日(優先権主張 平成23年 3月31日)に特許出願され、その特許権の設定の登録が平成28年 3月11日にされたものである。
その後、本件特許の請求項1?4に係る特許について、特許異議申立人 早川 いづみ(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年11月17日付けで当審から取消理由が通知され、これに対して、特許権者より平成29年 1月18日付けで意見書及び訂正請求書が提出された。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年 1月18日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、訂正後の請求項1?3からなる一群の請求項についての訂正の請求(以下、「本件訂正請求1」という。)と訂正後の請求項4からなる一群の請求項についての訂正の請求(以下、「本件訂正請求2」という。)とからなる。

2 本件訂正請求1について
(1)訂正事項
本件訂正請求1は、以下の訂正事項1及び2からなる訂正を請求するものである。なお、以下ア及びイの下線は、訂正箇所を示す。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、」とあるのを、
「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、」と訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「前記有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と、前記熱可塑性樹脂又は前記熱乾燥性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする導電性ペースト。」とあるのを
「前記有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする導電性ペースト。」と訂正する。

(2)訂正の適否
ア 本件訂正前の請求項2及び3は、訂正事項1及び2の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は一群の請求項である。してみると、本件訂正請求1は、一群の請求項ごとにされたものである。

イ 訂正事項1は、請求項1の導電性ペーストについて、「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン形成用の導電性ペースト」であることをさらに特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

ウ さらに、訂正事項1によりさらに特定される「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン形成用の導電性ペースト」という事項は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0010】に記載されているから、訂正事項1は「新規事項の追加」に該当せず、また、訂正事項1は、請求項1の導電性ペーストをさらに特定するものであるから、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」でもない。

エ 訂正事項2は、請求項1において、有機バインダー樹脂が含有する樹脂について、「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂」から、択一的に記載されていた「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂」を削除し「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂」に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

オ そして、訂正事項2が「新規事項の追加」に該当せず、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」でもないことは明らかである。

3 本件訂正請求2について
(1)訂正事項
本件訂正請求2は、以下の訂正事項3及び4からなる訂正を請求するものである。なお、以下ア及びイの下線は、訂正箇所を示す。

ア 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に
「タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、」とあるのを、
「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターンであって、
タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、」と訂正する。

イ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と、前記熱可塑性樹脂又は前記熱乾燥性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する有機バインダー樹脂と、を含有し、
前記熱硬化性樹脂が、前記分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と架橋していることを特徴とする導電性パターン。」とあるのを
「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する有機バインダー樹脂と、を含有し、
前記熱硬化性樹脂が、前記分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と架橋していることを特徴とする導電性パターン。」と訂正する。

(2)訂正の適否
ア 本件訂正請求2が、一群の請求項ごとにされたものであることは明らかである。

イ 訂正事項3は、請求項4の導電パターンについて、「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン」であることをさらに特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

ウ さらに、訂正事項3によりさらに特定される「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン」という事項は、本件特許明細書の【0010】に記載されているから、訂正事項3は「新規事項の追加」に該当せず、また、訂正事項3は、請求項4の導電パターンをさらに特定するものであるから、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」でもない。

エ 訂正事項4は、請求項4において、導電パターンが含有する少なくとも一種の樹脂について択一的に記載されていた「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂」を削除し「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂」に特定し、これに合わせて、導電パターンが含有する有機バインダー樹脂が反応性を有する官能基について「前記熱可塑性樹脂の官能基」に特定し、さらに、前記熱硬化性樹脂が架橋している樹脂について「前記分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂」に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

オ そして、訂正事項4が「新規事項の追加」に該当せず、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」でもないことは明らかである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?3〕、4について訂正を認める。

第3 本件特許発明
前記2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、平成29年 1月18日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、
有機バインダー樹脂と、
有機溶剤と、を含有し、
前記有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
前記銀粉末は、球状であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の導電性ペーストを用いて、印刷により塗膜パターンを形成し、
前記塗膜パターンを、80?200℃にて乾燥及び/又は硬化する、ことを特徴とする導電パターンの形成方法。
【請求項4】
印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターンであって、
タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、
分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する有機バインダー樹脂と、を含有し、
前記熱硬化性樹脂が、前記分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と架橋していることを特徴とする導電パターン。

第4 申立理由、取消理由
1 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた理由は、特許異議申立書の記載によれば、以下のものであると認められる。

(申立理由1-1)
本件訂正前の本件特許発明1?4は、その「乾燥性樹脂」、「タップ密度」、及び、「比表面積」という発明特定事項が明確ではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、本件特許発明1?4が明確であるように記載されたものではなく、また、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号又は第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。

(申立理由1-2)
本件訂正前の本件特許発明1?4は、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂の酸価が特定されていないから、発明の詳細な説明に記載したものでなく、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。

(申立理由2-1)
本件訂正前の本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明とに基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、その特許を取り消すべきものである。

(申立理由2-2)
本件訂正前の本件特許発明1?4は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証、甲第3号証に記載された発明とに基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、その特許を取り消すべきものである。

(申立理由2-3)
本件訂正前の本件特許発明1?4は、甲第3号証に記載された発明と、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、その特許を取り消すべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2009-205908号公報
甲第2号証:特許第3520798号公報
甲第3号証:特許第4034555号公報
甲第4号証:特開2007-131950号公報
甲第5号証:特開2010-47716号公報
甲第6号証:特開2010-121102号公報

また、特許異議申立人は、平成29年 2月28日付け意見書において、証拠方法として、参考文献1及び参考文献2を提示し、スクリーン印刷をパターン印刷とすることは、当業者が容易に想到可能である旨主張している。

<証拠方法>
参考資料1:特開2000-258921号公報
参考資料2:特開2004-55568号公報

2 取消理由の概要
平成28年11月17日付けの取消理由通知で当審から通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

(取消理由1-1)
本件訂正前の本件特許発明1?4は、その「乾燥性樹脂」、「タップ密度」、及び、「比表面積」という発明特定事項が明確ではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、本件特許発明1?4が明確であるように記載されたものではなく、また、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号又は第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。

(取消理由1-2)
本件訂正前の本件特許発明1?4は、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂の酸価が特定されていないから、発明の詳細な説明に記載したものでなく、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許を取り消すべきものである。

(取消理由2-1)
本件訂正前の本件特許発明1、2、4は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証に記載された発明とに基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、その特許を取り消すべきものである。

(取消理由2-2)
本件訂正前の本件特許発明1、2、4は、甲第3号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、その特許を取り消すべきものである。

第5 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証について
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、第5において、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。

(1-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)、導電性粉体(C)および溶剤(D)からなる導電性ペースト組成物であって、
前記導電性粉体(C)が、平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状のものであることを特徴とする、導電性ペースト組成物。
・・・」

(1-イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エレクトロニクス回路などの配線パターンの高精細化に伴い、細かい配線を精密に形成させるためには、それに応じて孔径が小さいスクリーン版を用いる必要がある。このようなことから、孔径が小さいスクリーン版に対しても目づまりが発生しない導電性ペーストが望まれている。孔径が小さいスクリーン版を用いる場合、一般に導電性ペーストの印刷作業1回当たりの盛量を多くすることが困難であることから、所望厚さの導電性層を形成させるためには導電性ペースト組成物の重ね塗り回数が多くなる。
【0005】
このことから、高精度かつ所望厚さの導電性層を効率的に形成させるために、導電性ペースト印刷作業1回あたりの盛量を増大させることは生産性の観点から重要となるが、そのような導電性ペーストを得ることは困難であった。」

(1-ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<導電性ペースト組成物>
本発明による導電性ペースト組成物は、熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)、導電性粉体(C)および溶剤(D)からなる導電性ペースト組成物であって、前記導電性粉体(C)が、平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状のものであること、を特徴とする。ここで、「熱硬化性樹脂、硬化剤、導電性粉体および溶剤からなる」とは、上記の必須成分(即ち、熱硬化性樹脂、硬化剤、導電性粉体および溶剤)以外の他の成分が共存する導電性ペースト組成物を排除しない。すなわち、本発明による導電性ペースト組成物は、上記必須成分のみからなる導電性ペースト組成物、および、上記必須成分とこれらの必須成分以外の他の成分を含んでなる導電性ペースト組成物の両者を包含する。・・・。
・・・
【0020】
(1)熱硬化性樹脂(A)
熱硬化性樹脂(A)としては、導電性ペースト組成物の構成成分として使用可能な各種の熱硬化性樹脂、好ましくは、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびフェノール樹脂を挙げることができる。これらの各熱可塑性樹脂は、単独であるいは二種以上の混合物として用いることができる。・・・。
【0021】
(2)硬化剤(B)
硬化剤(B)は、熱硬化性樹脂(A)の種類および特性、硬化剤の反応性等を考慮して、適宜選めることができる。・・・。
・・・
【0023】
(3)導電性粉体(C)
本発明で使用される導電性粉体(C)は、平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状のものである。・・・。ここで、平均粒径d_(50)、平均粒径d_(90)および粒径は、レーザー回折・散乱法によるものである。・・・。また、球状形状とは、球または球に近い形状で実質的に角部を有しないことを意味する。・・・。
【0024】
平均粒径d_(50)、平均粒径d_(90)、粒径10μmを超過する粒子の占める割合および形状のいずれかが上記要件を満たさない場合、スクリーン印刷時にスクリーン版の目詰まりが発生しやすくなることから本発明の目的を達成することができない。
【0025】
そして、本発明で使用される導電性粉体(C)は、タップ密度が、4.0?5.0g/cm^(3)であるものが特に好ましい。タップ密度が上記範囲内であることによって、高充填による低抵抗値を得るという効果が顕著になる。ここで、タップ密度とは、ISO3953-1977(E)「金属粉末-タップ密度の測定法」の規定によるものである。
【0026】
本発明で使用される上記の導電性粉体(C)としては、各種の導電性微粉体、例えば銀粉、金粉、銅粉、ニッケル粉、白金粉、パラジウム粉、はんだ粉、前記金属の合金粉体等の金属粉体等を使用することができる。これらの導電性粉体は二種以上併用することもできる。・・・。」

(1-エ)「【0037】
(7)導電性ペースト組成物の利用
本発明による導電性ペースト組成物は、例えばスクリーン印刷法、メタルマスク印刷法などの公知の印刷法によって基板上に印刷可能なものであって、良好な導電性を有する硬化物を形成可能なものである。従って、本発明による導電性ペースト組成物は、従来同様に広範な分野において利用可能なものである。
・・・
【実施例】
【0042】
<実施例1?4および比較例1?4>
・・・
各導電性ペースト組成物を、ガラス板上にスクリーン版(開口径80μm)を用い、1回印刷操作に付し、その後、180℃のオーブン内で30分間の硬化条件に付して導電性バンプを形成した。」

(2)甲第2号証について
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(2-ア)「【請求項1】平均粒径が0.5?2μmで、かつタップ密度が3?7g/cm^(3)であり、さらに比表面積が0.4?1.5m^(2)/gである導電性粉末と有機成分とを必須成分とすることを特徴とするプラズマディスプレイ用導電ペースト。
・・・」

(2-イ)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、形成する回路パターンやプラズマディスプレイ、プラズマディスプレイ用基板の電極に対して、微細パターンの形成が可能であり、厚みを薄くでき、低抵抗にできる導電性粉末および導電ペーストを提供することにある。」

(2-ウ)「【0015】
【発明の実施の形態】導電性粉末は、通常、有機成分や基板との接着成分等とともに混合され、導電ペーストの形で回路パターンの形成に使われる。そのため、導電性粉末の最適化は使用される導電ペーストの設計とともに行われる。
【0016】現在のところ、導電ペースト中に感光成分を持たせた感光性導電ペーストを使用して、フォトリソグラフィ技術を用いて回路パターンを形成する方法が最も精度良く高精細なパターンの形成ができる方法であり、本発明者らは、この感光性導電ペーストについて、そこに用いる導電性粉末をも視野に入れた最適化を行った。その結果、フォトリソグラフィ法による回路パターン形成での考慮点は、塗布されたペーストの下部まで感光できることとマスクにて被覆した部分への光硬化広がりを小さくすることであり、これらの点は、光を透過せず表面散乱させる導電性粉末と光の通り道となる有機成分のバランスにより達成されるとの結論を得た。
・・・
【0018】しかし、本発明者らは2μm以下の導電性粉末でもその分散性を確保することにより、有機成分量を減らした感光性導電ペーストを作製、使用することによって、上記問題点は解決できるとの結論を得た。そこで、本発明においては、導電性粉末の良好な分散性を示すパラメーターとして、平均粒径とタップ密度、さらには比表面積を選択し、それらによる導電性粉末の最適化規定を行った。
【0019】このため本発明の導電性粉末は、平均粒径が0.5?2μmである必要がある。ここで、平均粒径の測定は、レーザ式粒度分布測定装置(マイクロトラック9320-X100を使用し、測定サンプルは導電性粉体約0.5gを純水約100mlに添加したもの、分散条件は380μA 5分間)にて測定を行うものとする。
【0020】2μm以下の平均粒径を有する導電性粉末を導電ペーストに用いることによって、1?4μmという薄い厚みでも、ピンホール、断線などの欠陥がなく、低抵抗の回路パターンを得ることが可能になる。平均粒径が2μmより大きい場合には、ペースト塗布膜表面が粗くなり、厚さ4μm以下の薄膜ではピンホールや断線が発生し、回路パターン形成の歩留まりが低下する。回路パターンの厚みは、触針式粗さ計(例えば(株)小坂研究所製表面粗さ測定器SE-3300)等によって測定するものとする。
【0021】平均粒径が0.5μmより小さい場合は、凝集性が非常に高いため粉体が高度に分散した状態でペーストを得ることが困難である。また、フォトリソグラフィ技術を用いる場合に、光の散乱などの障害のために微細な回路パターンの形成が困難である。
【0022】また、本発明の導電性粉末のタップ密度は3?7g/cm^(3)であることが必要であり、好ましくは3?5g/cm^(3)、さらに好ましくは4?5g/cm^(3)である。タップ密度が小さくなるほど、形成される回路パターンの導電性粉末の密度が下がり、高抵抗化やピンホール等の欠陥が生じやすくなる。ここで、3g/cm^(3)より小さくなると、形成される回路パターンにピンホールや断線が発生し、回路パターン形成の歩留まりが低下する。
【0023】また、タップ密度が大きくなるほど、低抵抗化が図れるが、フォトリソグラフィ技術を用いる場合には、感光に用いる紫外線のペースト下部への透過性が悪くなっていく。このため、タップ密度が7g/cm^(3)より大きくなると、フォトリソグラフィ技術を用いる場合に、回路パターンの形成が困難となる。
【0024】タップ密度が3?7g/cm^(3)、好ましくは3?5g/cm^(3)、さらに好ましくは4?5g/cm^(3)の範囲にあると紫外線透過性が良く、形成する回路パターンの精度が向上する。さらに、ペーストの塗布性が良好で緻密な塗布膜が得られる。
【0025】導電性粉末の形状は特に限定されないが、より緻密な導体膜を形成した方が抵抗が低くなるので、粒状または球状の粒子が好ましい。
【0026】さらに本発明においては、導電性粉末の比表面積は、0.4?1.5m^(2)/gであることが好ましい。比表面積が0.4m^(2)/g以上であると、回路パターンの精度の点で特に優れ、また1.5m^(2)/g以下であると、フォトリソグラフィ技術を用いる場合の光の散乱が少なく、ペーストの下部まで十分硬化が進み、現像時に剥がれが生じることがない。
・・・
【0028】これら金属粉末の中でも、・・・、Ag単体であることがさらに好ましい。・・・。
・・・
【0030】次に導電ペーストについて説明する。本発明の導電ペーストは、上記導電性粉末と有機成分とを必須成分とするものである。
【0031】有機成分として、セルロース系誘導体や熱分解性の良好なアクリル系高分子が挙げられるが、これに限定されず、その他の可溶性のポリマー類でもよい。
【0032】特に、有機成分が光反応性の化合物を含有し、感光性の導電ペーストであることが好ましい。なお、感光性を持たない導電ペーストでは、回路パターンの形成にスクリーン印刷の手法を用いたり、フォトレジストを用いたエッチング法などでパターン化が行われる。一方、感光性を有する導電ペーストの場合には、パターン露光と現像の工程でパターン化ができる。焼成工程は、いずれの場合にも必須の工程である。
【0033】光反応性の化合物としては、活性な炭素-炭素二重結合を有する化合物が挙げられ、官能基として、ビニル基、アリル基、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基を有する単官能および多官能化合物が応用される。
・・・
【0036】光反応性化合物を含む有機成分の具体例としては、感光性モノマー、感光性オリゴマー、感光性ポリマーのうち少なくとも1種から選ばれた感光性成分の他に、光重合開始剤、必要に応じ増感剤を含むものが挙げられる。
【0037】さらに感光性の有無に関わらず、導電ペーストを構成する成分として、可塑剤、増粘剤、分散剤、その他の添加剤を必要に応じて加えることができる。導電ペースト中に加えられる有機成分および各種の有機成分からなる添加剤は、脱バインダー性と関連して回路や電極の特性に影響を与えるので、有機成分の種類と量は、その熱分解性を考慮して選択することが重要である。
・・・
【0042】本発明の導電ペーストは、例えば、上記の導電性粉末、有機成分、ガラスフリットの他に、必要に応じて増感剤、可塑剤、分散剤、安定化剤、チキソトロピー剤(増粘剤)、紫外線吸光剤、有機または無機の沈殿防止剤、有機溶媒などを添加し、混合物のスラリーとし、所定の組成となるように調整されたスラリーをホモジナイザーなどの攪拌機で均質に混合した後、3本ローラーや混練機で均質に分散することにより作製することができる。
・・・
【0045】次に本発明の導電ペーストを用いた回路パターンの形成法について一例を挙げて説明する。まず、導電ペーストを基板上に塗布した膜を70?120℃で20?60分加熱して乾燥して溶媒類を蒸発させてから、フォトリソグラフィ法により、回路パターンを有するネガフィルムまたはクロムマスクなどのマスクを介して紫外線を照射して露光し、感光性導電ペーストを光硬化させる。
【0046】露光後、露光部分と未露光部分の現像液に対する溶解度差を利用して、現像を行う。現像液には、感光性ペースト中の有機成分、特にオリゴマーもしくはポリマーが溶解可能な溶液を用いる。
【0047】導電ペーストの塗布膜から露光・現像の工程を経て形成された回路パターンは次に焼成炉で焼成されて、有機成分を熱分解して除去し、同時にガラスフリットを溶融させてガラス基板との密着性を確保し回路パターンを形成する。」

(2-エ)「【0048】
【実施例】・・・。
【0049】実施例1
導電性粉末として、平均粒径1.5μmの単分散球状で比表面積1.2m^(2)/g、タップ密度4g/cm^(3)の銀粉末を使用した。
【0050】導電性粉体88重量部、ガラスフリット3重量部、感光性ポリマー(X-4007)7重量部、感光性モノマー(・・・)4重量部、光重合開始剤(・・・)1.6重量部、増感剤(・・・)0.8重量部、可塑剤(・・・)0.5重量部、チキソトロピー剤(・・・)3重量部および有機溶媒(γ-ブチロラクトン)10重量部を溶解・混合・分散し3本ローラで均質に混練して感光性銀ペーストを作製した。ペースト粘度は、6000cpsであった。
・・・
【0053】この感光性導電ペーストを25cm×35cm角のガラス基板にスクリーン印刷法で塗布した。塗布は350メッシュのポリエステル製スクリーン印刷版を用い、印刷条件を検討して、厚み4および6μmの2種類の塗布膜を作製した。次に、塗布膜を80℃で40分間乾燥した。
【0054】回路パターン(ストライプ状、ピッチ140μm、線幅50μm)を有するネガ型のフォトマスクを介して出力15mW/cm^(2)の超高圧水銀灯で約30秒間の紫外線露光を行った。
【0055】現像は、30℃のモノエタノールアミン0.2%水溶液のシャワーで行い、露光されなかった部分を除去した。その後、純水のシャワーで残存する現像液を洗い流し、80℃で20分間乾燥した。
【0056】焼成は、250℃/時の速さで昇温し、最高温度590℃で15分間保持して行った。
【0057】このようにして、ともにピンホールや断線のない、ピッチ140μm、線幅50μmの良好な回路パターンが得られた。・・・。」

(2-オ)「【0083】・・・。
略記号の説明
X-4007:40%メタクリル酸、30%メチルメタクリレート、30%スチレンからなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加重合させた重量平均分子量43,000、酸価95のポリマー。DETX-S:2,4-ジエチルチオキサントン」

(3)甲第3号証について
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

(3-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性粉末、(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、および(F)溶剤を含有する組成物であって、前記導電性粉末(A)が、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合で配合され、且つ前記カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が1,000?100,000、酸価が20?250mgKOH/gであることを特徴とする導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂(E)がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の導電組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光硬化性熱硬化性導電組成物を用いて塗膜のパターンを露光現像により形成し、その後、80℃?300℃で熱硬化することを特徴とする導電回路の形成方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光硬化性熱硬化性導電組成物を用いて形成した導電回路。」

(3-イ)「【0002】
【従来の技術】
有機バインダーに導電性粉末を混合した非感光性の導電ペーストを用い、基材上に導電回路パターンを形成する方法として、従来、スクリーン印刷等の印刷技術を利用したパターン形成方法が広く用いられている。
しかしながら、スクリーン印刷では、工業的に安定して100μm以下の線幅を有する導電回路パターンを形成することは難しい。
【0003】
また一方で、感光性の導電ペーストを用い、フォトリソグラフィー技術を利用して基材上に導体回路パターンを形成する方法が考えられる。
しかしながら、かかる感光性の導電ペーストを用いるパターン形成方法では、通常、500℃以上の温度で焼成を行うことにより、ペースト中の有機成分を除去すると同時にガラスフリットを溶融させて、導電回路層の導電性と密着性を確保している。そのため、かかる方法では、熱に弱い基材上での適用が難しく、特に、酸化しやすい金属等を含むペーストでは、希ガス中で焼成を行う必要性があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、従来技術が抱える上記問題を解消するためになされたものであり、その主たる目的は、焼成することなく導電性と密着性を確保し得る微細な導電回路パターン形成のための導電組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、導電性と密着性が共に優れる微細な導電回路パターンを複雑な工程を経ることなく容易に形成し得る方法を提供することにある。」

(3-ウ)「【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記目的の実現に向け鋭意研究した結果、感光性の導電組成物にエポキシ化合物などの熱硬化成分を配合し、かつ導電性粉末の配合量を溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合とすることにより、以外(当審注:「意外」の誤記と認める。)にもこれを焼成することなく熱硬化することにより、基材との密着性と導電性が共に優れる微細な導電回路パターンが得られることを見出し、以下に示す本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性組成物は、(A)導電性粉末、(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、および(F)溶剤を含有する組成物であって、前記導電性粉末(A)が、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合で配合され、且つ前記カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が1,000?100,000、酸価が20?250mgKOH/gであることを特徴とする。
好適な態様において、前記熱硬化性樹脂(E)はエポキシ樹脂であることが好ましい。このような本発明の光硬化性熱硬化性導電組成物は、ペースト状形態であってもよく、また予めフィルム状に製膜したドライフィルムの形態であってもよい。
【0006】
また、本発明にかかる導電回路パターンの形成方法は、基材上に、光硬化性熱硬化性導電組成物を用いて塗膜のパターンを露光現像により形成し、その後、80℃?300℃で熱硬化することを特徴とする。
さらに本発明によれば、このような光硬化性熱硬化性導電組成物から形成されてなる導電回路が提供される。」

(3-エ)「【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の光硬化性熱硬化性導電組成物は、エポキシ化合物等の熱硬化成分を含み、かつ導電性粉末の配合量を、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合とした点に最大の特徴がある。
これにより、熱硬化成分の熱硬化により基材との密着性が良好となる。しかも理由は明らかではないが、熱硬化成分の熱硬化により塗膜パターンの抵抗値が下がり、導電性粉末の配合量を、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合と規定することにより、導体回路として充分な導電性を有するものとなる。
従って、本発明によれば、焼成することなく導電性と密着性を確保し得る微細な導電回路パターンを形成することができ、熱に弱い基材上での適用が可能となる。
【0008】
以下、本発明にかかる光硬化性熱硬化性導電組成物の成分組成について説明する。
まず、導電性粉末(A)は、組成物において導電性を付与するものであればいかなるものでも用いることができる。このような導電性粉末としては、AgやAu、・・・、Ru等の単体とその合金の他、その酸化物、酸化錫(SnO_(2))、酸化インジウム(In_(2)O_(3))、ITO(Indium Tin Oxide)などを用いることができる。導電性粉末の形状としては、・・・、特に光特性や分散性を考慮すると球状のものを用いるのが好ましい。
【0009】
このような導電性粉末は、その平均粒径が0.05?10μm、好ましくは0.1?5μmであることが好ましい。この理由は、平均粒径が0.05μm未満では、光の透過性が悪くなりパターン形成が困難になる。一方、平均粒径が10μmを超えると、ラインの直線性が得られなくなるからである。
・・・
【0010】
有機バインダー(B)としては、カルボキシル基を有する樹脂、具体的にはそれ自体がエチレン性不飽和二重結合を有するカルボキシル基含有感光性樹脂及びエチレン性不飽和二重結合を有さないカルボキシル基含有樹脂のいずれも使用可能である。好適に使用できる樹脂(オリゴマー及びポリマーのいずれでもよい)としては、以下のようなものが挙げられる。
(1)・・・
(2)・・・
(3)(c)エポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と(b)不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に、(a)飽和又は不飽和カルボン酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂
(4)・・・
(5)・・・
(6)・・・
(7)(b)不飽和二重結合を有する化合物とグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体のエポキシ基に、(i)1分子中に1つのカルボキシル基を有し、エチレン性不飽和結合を持たない有機酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂
(8)(j)水酸基含有ポリマーに(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂
(9)・・・
【0011】
前記したようなカルボキシル基含有感光性樹脂及びカルボキシル基含有樹脂は、単独で又は混合して用いてもよいが、いずれの場合でもこれらは合計で組成物全量の5?20質量%の割合で配合することが好ましい。・・・。
・・・
【0013】
光重合性モノマー(C)としては、・・・などが挙げられるが、特定のものに限定されるものではなく、またこれらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。・・・。
・・・
【0015】
前記光重合開始剤(D)としては、・・・などが挙げられ、これら公知慣用の光重合開始剤を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。・・・。
・・・
【0017】
前記熱硬化性樹脂(E)としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、及びそれらの変性樹脂が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらに限定されるものではない。その他、分子中に少なくとも2個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物なども用いることができる。
【0018】
これらの熱硬化性樹脂のなかでも、特にエポキシ樹脂を好適に用いることができ、例えば、・・・公知慣用のエポキシ樹脂が挙げられるが、特定のものに限定されるものではなく、またこれらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
・・・。
【0019】
前記有機溶剤(F)としては、・・・などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で又は2種類以上の混合物として使用することができる。なお、有機溶剤の配合量は、塗布方法に応じた任意の量とすることができる。
【0020】
本発明の光硬化性熱硬化性導電組成物は、上記成分以外に、エポキシ樹脂等の熱硬化触媒を配合することが好ましい。熱硬化触媒としては、・・・などが挙げられるが、これらに限られるものではなく、熱硬化性樹脂の硬化反応を促進するものであればよく、単独で又は2種以上を混合して使用してもかまわない。
また、密着性付与剤としても機能する・・・を用いることもでき、好ましくはこれら密着性付与剤としても機能する化合物を前記熱硬化触媒と併用する。
【0021】
本発明の光硬化性熱硬化性導電組成物は、さらに必要に応じて、プリント配線板の回路、即ち銅の酸化防止の目的で、・・・等の化合物を配合することができる。
また、密着性、硬度、はんだ耐熱性等の特性を上げる目的で、・・・公知慣用の無機フィラーや、・・・有機フィラーを配合できる。
【0022】
さらに、必要に応じて、・・・公知慣用の着色剤(顔料や染料)、・・・公知慣用の熱重合禁止剤、・・・公知慣用の増粘剤、・・・消泡剤及び/又はレベリング剤、・・・公知慣用の密着性付与剤、分散助剤、難燃剤のような添加剤類を配合することができる。
【0023】
次に、本発明にかかる導電回路の形成方法は、光硬化性熱硬化性導電組成物のパターンを、500℃以上の温度で焼成することなく、好ましくは80℃以上300℃以下の温度で熱硬化する点に特徴がある。
このような本発明の導体回路パターンの形成方法によれば、500℃以上の温度で焼成する必要がないので、熱に弱い基材上でのパターン形成が容易となり、また、酸化しやすい金属等を含むペーストにおいても、希ガス中で焼成を行う必要がないという利点がある。
【0024】
また、本発明によれば、組成物中に含まれるエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を熱硬化するので、熱硬化が進むにしたがい金属粉末の鎖状連結が密になると共に基材との密着性が向上するため、導電性と密着性が共に優れた導体回路パターンを得ることができる。
【0025】
以下、本発明の導電回路の形成方法について説明する。
(1)まず、基材上に、本発明の光硬化性熱硬化性導電組成物を塗布し、乾燥する。
ここで、基材としては、特定のものに限定されるものではないが、例えば、ガラス基板やセラミック基板、ポリイミド基板、BT(ビスマレイミドトリアジン)基板、ガラスエポキシ基板、ガラスポリイミド基板、フェノール基板、紙フェノールなどの基板を用いることができる。
【0026】
本発明の光硬化性熱硬化性導電組成物に関し、上述した各必須成分、ならびに任意成分との混練分散は、三本ロールやブレンダー等の機械が用いられる。
こうして分散された光硬化性熱硬化性導電組成物は、スクリーン印刷法、バーコーター、ブレードコーターなど適宜の塗布方法で基材上に塗布し、次いで指触乾燥性を得るために熱風循環式乾燥炉、遠赤外線乾燥炉等で例えば約60?120℃で5?40分程度乾燥させて有機溶剤を蒸発させ、タックフリーの塗膜を得る。
・・・。
【0027】
(2)次に、パターン露光して現像する。
露光工程としては、所定の露光パターンを有するネガマスクを用いた接触露光又は非接触露光が可能である。・・・。
【0028】
現像工程としてはスプレー法、浸漬法等が用いられる。・・・。
【0029】
(3)そして、得られた光硬化性熱硬化性導電組成物のパターン塗膜を加熱硬化して、導電性と密着性が共に優れた導電回路パターンを形成する。
熱硬化工程においては、例えば、現像後の基板を80?300℃、好ましくは約120?200℃の温度で加熱処理を行い、所望の導体パターンを形成する。」

(4)甲第4号証について
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

(4-ア)「【0013】
・・・。
タップ密度はJIS K5101-1991の20.2のタップ法に準じた方法により測定した。タッピング回数は1,000回である。・・・。
・・・」

(5)甲第5号証について
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

(5-ア)「【0053】
(銀粉末のタップ密度及び平均粒径の測定)
1)タップ密度
JIS Z 2512:2006法に基づいて測定した。
・・・」

(6)甲第6号証について
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

(6-ア)「【0108】
[窒化ホウ素粉末のタップ密度]
ホソカワミクロン(株)製パウダーテスターPT-Eを用い、窒化ホウ素粉末を100cm^(3)の専用容器に充填し、タッピングタイム180秒、タッピング回数180回、タップリフト18mmの条件でタッピングを行った後の嵩比重を測定し、タップ密度とした。」

第6 当審の判断
1 申立理由及び取消理由について
申立理由及び取消理由の概要は、前記第4のとおりであるから、申立理由1-1(取消理由1-1と同様)、申立理由1-2(取消理由1-2と同様)、申立理由2-1、申立理由2-2(取消理由2-1を包含する)、申立理由2-3(取消理由2-2を包含する)について検討する。

2 申立理由1-1について
取消理由1-1は、本件訂正前の本件特許発明1?4が、その「乾燥性樹脂」、「タップ密度」、及び、「比表面積」という発明特定事項が明確ではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、本件特許発明1?4が明確であるように記載されたものではなく、また、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないことを理由とするものであるから、これらの発明特定事項について、順に検討する。

(1)「乾燥性樹脂」について
本件訂正により、本件特許発明1?4は、「乾燥性樹脂」という発明特定事項を有しないものとなったため、「乾燥性樹脂」についての理由は解消した。

(2)「タップ密度」について
ア 「タップ密度」という発明特定事項についての理由は、その測定方法が明確ではないことを理由とするものである。

イ そこで、「タップ密度」の測定方法について、本件特許明細書の発明の詳細な説明を精査するに、具体的な記載を見いだすことができない。

ウ これについて、特許権者は、平成29年 1月18日付け意見書において、「タップ密度の測定方法としては、甲第1号証のISO 3953、甲第4号証のJIS K 5101-1991、甲第5号証のJIS Z 2512、甲第6号証の方法があ」るが、「当業者は当然に、甲第6号証の測定方法のような独自の測定法でなく、規格に準じた測定方法に想到すると考えられ」、「甲第5号証のJIS Z 2512の測定方法は、国際規格である甲第5号証(当審注:「甲第1号証」の誤記と認める。)のISO 3953に対応する測定方法」であり、「甲第4号証のJIS K 5101-1991は本件の出願日前の2007年に既に廃止された規格で」あるから、「規格に準じた測定方法は実質的に1つであるといえ」るという理由から、本件特許発明において、タップ密度の測定に用いた測定方法は、当業者にとって明らかであると主張している。

エ この主張について検討すると、日本の国際規格であるJIS又は国家規格であるISOに測定方法が規定されている特性を測定する際に、これらの規格に準じて測定を行うことは、技術常識であるといえる。してみると、測定方法が特定されていない本件特許発明の「タップ密度」という発明特定事項について、その測定方法が測定時点において有効な規格に準じた測定方法であるとする特許権者の主張に不合理な点は見当たらないから、本件特許発明の「タップ密度」は、規格に準じた測定方法により測定されるものと認められる。

オ なお、特許異議申立人は、平成29年 2月28日付け意見書において、上記特許権者の主張に対して、「JIS Z 2512の測定方法はISO 3953を基とし、技術的内容を変更して作成した日本工業規格であることがJIS Z 2512の序文には明記されており、具体的には使用する容器の材質等が両者で異なる。また、甲第6号証の測定方法は、当業者である甲第6号証の出願人が市販されているパウダーテスターの装置を用いて測定したものであり、本件特許発明には、タップ密度の測定方法に関して何ら記載がない限りにおいては、当業者がこのような測定方法を採用しないことを断定することはできない。上記のように複数のタップ密度の測定方法が存在する。」と主張している。

カ そこで、特許異議申立人のこの主張について検討する。

キ JIS規格によれば、JIS規格とISO規格とは、測定に使用する容器について、ISO規格がガラス製容器であるのに対し、JIS規格がさらに透明な樹脂製容器を認める点で異なるが、タップ密度は、「容器内に規定量の粉末を入れ,タッピング装置を用い,粉末の体積がそれ以上減少しないところまでタップする。粉末の質量をタップ後の粉末体積で除し,タップ密度とする。」ものであって、粉末の体積がそれ以上減少しないところまでタップして測定することからみて、容器の材質の相違による影響は、極めて小さいものと考えられる。また、JIS規格において、樹脂製容器を認めている点からみても、両者の測定値に大きな差違がないものと推認される。

ク また、甲第6号証には、ホソカワミクロン(株)製パウダーテスターPT-Eを用いてタッピングを行った後の嵩密度を測定し、タップ密度としたこと(【0108】)が記載されており、市販されている装置を用いてタップ密度を測定することが、本件優先日時点において公知であるとはいえるものの、市販されている装置がJIS又はISOの規格に準じる方法で測定するものではないとはいえないから、甲第6号証の記載により、本件特許発明のタップ密度の測定方法がJIS又はISOの規格に準じる方法でないとはいえない。

ケ さらに、特許権者の主張は、合理的なものであって、上記エのとおり、本件特許発明の実施例に記載されている銀粉を特許権者の主張する規格に準じた測定方法により測定した結果が、本件特許発明1に記載の範囲内のタップ密度となることが立証されるまでもなく、妥当なものと認められる。

コ してみると、上記特許異議申立人の主張は採用することができない。

サ したがって、本件特許発明の「タップ密度」という発明特定事項は、その測定方法が明確でないとはいえず、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないともいえない。

(3)「比表面積」について
ア 「比表面積」という発明特定事項についての理由は、その測定方法が明確ではないことを理由とするものである。

イ そこで、「比表面積」の測定方法について、本件特許明細書の発明の詳細な説明を精査するに、具体的な記載を見いだすことができない。

ウ これについて、特許権者は、平成29年 1月18日付け意見書において、乙第1号証として、荒川正文ら編、「最新粉体の材料設計」、株式会社テクノシステム、1988年 6月10日発行、第117頁を提示するとともに、「比表面積の測定方法としては、透過法と気体吸着法に大別され」、「透過法は、kozeny-carmanの式を用いて比表面積を測定し」、「kozeny-carmanの式は経験則であり、1μm以下の粒径の粒子の測定ではズレが生じることがしられてい」るから、「透過法は粒径の大きな粒子の比表面積の測定に用いられ、本件のような粒径の小さな銀粉末の比表面積の測定には用いられ」ず、「一方、気体吸着法はBETの式を用いて比表面積を測定し」、「この気体吸着法は、1μm以下の粒径の粒子の測定に用いられることが知られてい」るから、「本件の比表面積の測定方法が気体吸着法(BET法)であることは当業者にとって明らか」である旨主張している。

エ この主張について検討すると、乙第1号証の「透過法は前述のように比表面積の次元をもつ値が得られるが,吸着法や浸漬熱のように物理化学的な意味をもつ減少を利用しているわけではないから真の比表面積は求められない。むしろ簡単で再現性の良い平均粒度測定法と考えた方が良い。」との記載によれば、透過法は、真の比表面積を求めることができるものではないが、簡単な方法として用いられているものといえる。さらに、乙第1号証の「空気等下方から求めた平均粒子径(比表面積法)と他の種々の方法による平均粒子径(体面積平均径に換算)を比較すると図3.29のように約1μm以下で透過法による平均粒子径が大きい方に外れてくる。・・・。したがって1μm以下の微粉体では,気体分子の拡散を考慮した分子流の式を用いねばならない。この方法はあるが商品化された装置がないので省略する。」との記載によれば、1μm以下の微粉体では、他の測定方法による測定値から、透過法による平均粒子径が大きい方に外れるため、気体分子の拡散を考慮した分子流の式を用いねばならないが、商品化された装置がないといえるから、1μm以下の微粉体には透過法を用いないことが技術常識であったと認められる。してみると、上記ウの主張は、妥当な主張であるといえ、本件特許発明の「比表面積」は、BET法により測定されるものと認められる。

オ なお、特許異議申立人は、平成29年 2月28日付け意見書において、上記ウの特許権者の主張に対して、乙第1号証の記載に基づいて、「1μm以下の微粉体では、気体分子の拡散を考慮した分子流の式を用いれば簡単で再現性のよい測定法となる可能性を示唆しており、乙第1号証を証拠として当加法が1μm以下の微粉体の比表面積の測定方法に用いられないということを断言できない。」旨主張し、透過法で1μm以下の粒径の粒子を測定している公報を列挙している。

カ この主張について、上記エで述べたように、乙第1号証には「商品化された装置がない」と記載されていることから、あえて気体分子の拡散を考慮した分子流の式を用いて透過法を用いることが、当業者の通常の着想であるとまではいえない。

キ また、特許異議申立人は、同意見書において、さらに、「気体吸着法においても吸着方法の違いや検出方法の違いにより様々な測定方法が存在することは広く知られており、仮に特許権者が主張するように本件特許発明における比表面積の測定方法が気体吸着法であると仮定しても、その測定方法は明確でない。」と主張している。

キ しかしながら、前記(2)エで検討したとおり、日本の国際規格であるJIS又は国家規格であるISOに測定方法が規定されている特性を測定する際に、これらの規格に準じて測定を行うことは、技術常識であり、ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法についても、JIS及びISOに、JIS Z 8830、ISO 9277として規定されているから、これらの規格に準じて測定することが、当業者の通常の着想であると認められる。

ク してみると、上記オ、キの特許異議申立人の主張は採用することができない。

ケ したがって、本件特許発明の「比表面積」という発明特定事項は、その測定方法が明確でないとはいえず、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないともいえない。

3 申立理由1-2について
ア 本件特許発明の「解決しようとする課題」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、高温プロセスを用いることなく微細な導電パターンを形成することが可能で、良好な電気的特性が得られ、良好な印刷適性を有することを同時に満たすペーストを得ることは困難であるという問題(【0006】)に対し、良好な印刷適性を有し、高温プロセスを用いることなく、良好な電気的特性を得ることができる微細な導電パターンを形成することが可能な導電性ペーストを提供することであると認められる。

イ そして、本件特許発明の「課題を解決するための手段」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、有機バインダー樹脂と、有機溶剤と、を含有し、上記有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基またはカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基またはカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と、熱可塑性樹脂又は熱乾燥性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有すること(【0008】)と認められ、このような構成により、良好な印刷適性を有し、高温プロセスを用いることなく良好な電気的特性を得ることができるパターンを形成することが可能となり、得られるパターンの耐溶剤性、密着性を向上させることができる(【0008】)ものと認められる。

ウ さらに、本件特許明細書の【0048】?【0064】には、タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末を用いることにより、良好な印刷適正と低いシート抵抗の両立が可能となる(【0064】)ことが、平均粒径、比表面積、タップ密度の異なる球状銀粉末を用いた参考例と比較例との対比により示されているといえる。

エ また、本件特許明細書の【0065】?【0078】には、熱硬化性樹脂を用いた実施例1?3の導電性ペーストにおいても、良好な印刷特性と低抵抗値の両立が可能となること、及び、加熱により架橋しているため、有機溶媒に浸漬してもパターンが溶解除去されることがないこと(【0078】)が記載されている。

オ これらの記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末を選択することにより、良好な印刷適正と低いシート抵抗の両立が可能とし、さらに、有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基またはカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有することにより、さらに有機溶媒に浸漬してもパターンが溶解除去されることがないという効果を奏することが記載されていると認められる。

カ してみると、上記アの本願発明が解決しようとする課題を解決することは、タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末とすることにより、達成されるものと当業者が認識することができるから、このことを特定する本件特許発明1?4が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

キ なお、特許異議申立人は、平成29年 2月28日付け意見書において、本件特許明細書の【0006】及び【0002】の記載を引用し、「良好な印刷特性を得ることが本件特許発明の必須の課題であることは明らかであ」り、「『微細な導電パターンを形成することが可能』と、印刷特性に優れることが同義であることは明らかである」から「本件特許発明における導電性ペーストが良好な印刷特性を有することは本件特許発明の必須の課題であり、有機バインダ樹脂の酸価及び水酸基価が特定されていない本件特許発明が、該課題を解決できない範囲を包含していることは明らかである。」旨主張している。

ク この主張について検討すると、上記オで述べたように、本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば、銀粉末のタップ密度、比表面積及び平均粒径を特定することにより、本件特許発明が解決しようとする課題である良好な印刷特性と低抵抗値の両立した導電性ペーストを提供することを可能とするものといえるから、有機バインダ樹脂の酸価及び水酸基価を特定されていない本件特許発明が、課題を解決できないとまではいえない。

ケ なお、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「このようなカルボキシル基含有樹脂の酸価は、カルボキシル基含有樹脂の酸価が40mgKOH/g未満であると導電性ペーストの凝集力が低下し、印刷時に転移不良を起こしやすくなる。一方、200mgKOH/gを超えると、導電性ペーストの粘度が高くなり過ぎ、多量の架橋剤を配合する必要があるなど、印刷適性の付与が困難となる。」(【0024】)と記載されており、カルボキシル基含有樹脂の酸価の値と印刷適正との相関があるといえる。しかしながら、本件特許発明の有機バインダー樹脂は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0021】?【0022】の記載によれば、印刷適性を付与するとともに、導電性ペーストを塗布・乾燥、硬化後も残存し、導電パターンの基材に対する良好な密着性、耐屈曲性、硬度などの物性を得るために用いられる(【0021】)ものであり、導電性ペーストに印刷適性を付与できるものであれば特に限定されるものではなく、光硬化を用いることなく低温でパターン形成(固化)が可能な、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱乾燥性樹脂が好適に用いられ、単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる(【0022】)ものであり、【0024】の記載は、有機バインダー樹脂が印刷適性を付与できる指標の一つとして酸価の好ましい値を示すものといえるから、この記載を根拠に、本件特許発明が酸価の値を特定することを要するとまではいえない。

4 申立理由2-1について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 前記(1-ア)の【請求項1】には、「 熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)、導電性粉体(C)および溶剤(D)からなる導電性ペースト組成物であって、
前記導電性粉体(C)が、平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状のものであることを特徴とする、導電性ペースト組成物。」が記載されている。

イ 上記アの導電性ペースト組成物について、前記(1-イ)の【0026】の記載によれば、銀粉を使用することができるものである。

ウ 上記アの導電性ペースト組成物について、前記(1-エ)の記載によれば、例えばスクリーン印刷法、メタルマスク印刷法などの印刷法によって基板上に印刷するものであり、180℃で硬化するものといえる。

エ してみると、甲第1号証には、以下の発明が記載されている。
「例えばスクリーン印刷法、メタルマスク印刷法などの印刷法によって基板上に印刷し、180℃で硬化する導電性ペースト組成物であって、
平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状の銀粉である導電性粉体(C)と、
熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)と、
溶剤(D)からなる導電性ペースト組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

オ また、形成された導電性バンプに着目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「例えばスクリーン印刷法、メタルマスク印刷法などの印刷法によって基板上に印刷し、180℃で硬化した導電性バンプであって、
平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状の銀粉である導電性粉体(C)と、
熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)と、
を含有する導電性バンプ。」(以下、「甲1-2発明」という。)

(2)対比・判断
(2-1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

イ 甲1発明の「銀粉である導電性粉体(C)」、「熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)」、「溶剤(D)」は、それぞれ、本件特許発明1の「銀粉末」、「有機バインダー樹脂」、「有機溶剤」に相当する。

ウ 甲1発明の「例えばスクリーン印刷法、メタルマスク印刷法などの印刷法によって基板上に印刷」すること、及び、「180℃で硬化すること」は、それぞれ、本件特許発明1の「印刷により塗膜パターンを形成」すること、「80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する」に相当する。

エ してみると、両者は、
「 印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
銀粉末と、
有機バインダー樹脂と、
有機溶剤とを含有する導電性ペースト。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:銀粉末について、本件特許発明1が「タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μm」であるのに対し、甲1発明は「平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状」である点
相違点1-2:有機バインダー樹脂について、本件特許発明1が「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する」ものであるのに対し、甲1発明は「熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)」である点

オ そこで、これらの相違点について、相違点1-2から検討する。

カ 甲第1号証には、「熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)」を「前記有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する」ものとすることについて、記載も示唆もされておらず、また、このことが技術常識であるともいえない。

キ 一方、 甲第3号証には、「スクリーン印刷では、工業的に安定して100μm以下の線幅を有する導電回路パターンを形成することは難しい」(前記(3-イ)の【0002】)ことから、「感光性の導電ペーストを用い、フォトリソグラフィー技術を利用して基材上に導体回路パターンを形成する方法が考えられる」が「500℃以上の温度で焼成を行う」ために、「熱に弱い基材上での適用が難しく、特に、酸化しやすい金属等を含むペーストでは、希ガス中で焼成を行う必要性があった」(同【0003】)という問題に対して、「焼成することなく導電性と密着性を確保し得る微細な導電回路パターン形成のための導電組成物を提供すること」(同【0004】)を課題として、感光性の導電組成物にエポキシ化合物などの熱硬化成分を配合し、かつ導電性粉末の配合量を、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合とすることにより、これを焼成することなく熱硬化することにより、基材との密着性と導電性が共に優れる微細な導電回路パターンが得られること(前記(3-ウ)の【0005】)ことが記載されている。

ク しかしながら、甲1発明の導電性ペースト組成物は、例えばスクリーン印刷法、メタルマスク印刷法などの公知の印刷法によって基板上に印刷するものであって、フォトリソグラフィー技術を利用して基材上に導体回路パターンを形成する方法に用いるものではない。してみると、甲1発明の導電性ペースト組成物と、甲第3号証に記載された導電ペーストとは、用途が異なるから、甲1発明の「熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)」に替えて、甲第3号証に記載される感光性の導電組成物にエポキシ化合物などの熱硬化成分を配合したものとする動機付けがない。

ケ また、甲1発明の「熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)」を、「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する」ものとすることについて、甲第2号証、甲第4号証?甲第6号証のいずれにも記載されていないし、技術常識であるともいえない。

コ してみると、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

サ したがって、相違点1-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件特許発明2、3について
ア 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1のすべての発明特定事項を有するものであるから、前記(2-1)の本件特許発明1についての理由と同様の理由により、甲1発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-3)本件特許発明4について
ア 本件特許発明4と甲1-2発明とを対比する。

イ 前記(2-1)のイ?ウの検討を踏まえると、両者は、
「 印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターンであって、
銀粉末と、
有機バインダー樹脂と、を含有する導電パターン。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-3:銀粉末について、本件特許発明4が「タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μm」であるのに対し、甲1-2発明は「平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状」である点

相違点1-4:有機バインダー樹脂について、本件特許発明4が「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての硬化性樹脂を含有する」のに対し、甲1-2発明は、「熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)」である点

ウ そこで、これらの相違点について、相違点1-4から検討する。

エ 相違点1-4は、前記(2-1)で検討した相違点1-2と実質的に同様の相違点であるから、本件特許発明1について前記(2-1)で検討した理由と同様の理由により、甲1-2発明において、相違点1-4に係る本件特許発明4の発明特定事項とすることは、甲1-2発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

オ したがって、本件特許発明4は、相違点1-3について検討するまでもなく、甲1-2発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 申立理由2-2について
(1)甲第2号証に記載された発明
ア 前記(2-ア)の【請求項1】には、平均粒径が0.5?2μmで、かつタップ密度が3?7g/cm^(3)であり、さらに比表面積が0.4?1.5m^(2)/gである導電性粉末と有機成分とを必須成分とするプラズマディスプレイ用導電ペーストが記載されている。

イ 上記アの「導電性粉末」は、前記(2-ア)の【請求項3】、及び、前記(2-ウ)の【0025】、【0028】の記載によれば、銀からなり、その形状は球状が好ましいものといえる。また、上記アの「平均粒径」は、前記(2-ウ)の【0019】の記載によれば、レーザ式粒度分布測定装置により測定を行うものである。

ウ 上記アの「プラズマディスプレイ用導電ペースト」は、前記(2-ウ)の【0042】の記載によれば、有機溶媒を添加しても良いものといえる。

エ 上記アの「プラズマディスプレイ用導電ペースト」は、前記(2-ウ)の【0016】、前記(2-ウ)の【0045】?【0047】、前記(2-エ)の【0053】?【0056】の記載によれば、フォトリソグラフィ法により回路パターンを形成し、焼成炉で焼成されて、回路パターンを形成するものであり、実施例における焼成温度は、最高温度590℃である。

オ してみると、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「フォトリソグラフィ法により回路パターンを形成し、最高温度590℃で焼成されて、回路パターンを形成するプラズマディスプレイ用導電ペーストであって、
タップ密度が3?7g/cm^(3)であり、比表面積が0.4?1.5m^(2)/gであり、レーザ式粒度分布測定装置により測定した平均粒径が0.5?2μmであり、形状が球状である銀からなる導電性粉末と、
有機成分とを必須成分とし、有機溶媒を添加した、プラズマディスプレイ用導電ペースト。」(以下、「甲2発明」という。)

カ また、形成された回路パターンに着目すると、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「フォトリソグラフィ法により回路パターンを形成し、最高温度590℃で焼成する回路パターンであって、
タップ密度が3?7g/cm^(3)であり、比表面積が0.4?1.5m^(2)/gであり、レーザ式粒度分布測定装置により測定した平均粒径が0.5?2μmであり、形状が球状である銀からなる導電性粉末と、
有機成分を含有した、プラズマディスプレイ用導電ペーストを用いて形成した回路パターン。」(以下、「甲2-2発明」という。)

(2)対比・判断

(2-1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。

イ 甲2発明の「銀からなる導電性粉末」、「有機成分」、「有機溶媒」は、それぞれ、本件特許発明1の「銀粉末」、「有機バインダー樹脂」、「有機溶剤」に相当する。

ウ してみると、両者は、
「銀粉末と、
有機バインダー樹脂と、
有機溶剤と、を含有し、
前記有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と、前記熱可塑性樹脂又は前記熱乾燥性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする導電性ペースト。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:導電性ペーストについて、本件特許発明1が、「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを、乾燥及び/又は硬化する」ものであるのに対し、甲2発明は、「フォトリソグラフィ法により回路パターンを形成し、最高温度590℃で焼成されて、回路パターンを形成する」ものである点。

相違点2-2:銀粉末について、本件特許発明1が、「タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μm」であるのに対し、甲2発明が、「タップ密度が3?7g/cm^(3)であり、比表面積が0.4?1.5m^(2)/gであり、レーザ式粒度分布測定装置により測定した平均粒径が0.5?2μm」である点。

相違点2-3:有機バインダー樹脂について、本件特許発明1が、「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と、前記熱可塑性樹脂又は前記熱乾燥性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する」のに対し、甲2発明は、かかる発明特定事項を有していない点。

エ そこで、これらの相違点について検討する。

オ まず、相違点2-2について検討する。

カ 銀粉末の平均粒径について、本件特許発明1が「走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径」であるのに対し、甲2発明は「レーザ式粒度分布測定装置により測定した平均粒径」であるから、両者の測定方法は異なり、単純に両者を比較することができない。

キ しかしながら、レーザ式粒度分布測定装置により測定される平均粒径は、球相当径として測定されるものであり、球状のものを測定する場合には、レーザ式粒度分布測定装置による測定結果は、例えば走査型電子顕微鏡による観察等により直接測定される粒径と同様の値となるものと考えられる。

ク そして、甲2発明の銀粉末の形状が球状であるから、甲2発明の「レーザ式粒度分布測定装置により測定した平均粒径」の値は、「走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径」の値と同様の値であると推認される。

ケ してみると、本件特許発明1と甲2発明との「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲を対比すると、甲2発明のこれらの数値範囲は、それぞれ、本件特許発明1のこれらの数値範囲を包含する数値範囲であるといえる。

コ そこで、甲2発明において、「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲を本件特許発明1のこれらの数値範囲に特定することについて、さらに検討する。

サ 相違点2-2に係る本件特許発明1の「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲について、その技術的意義は、本件特許明細書の【0015】?【0018】の記載によれば、タップ密度の数値範囲は導電パターンの抵抗値、比表面積の数値範囲は保存時の沈降及び流動性、平均粒径の数値範囲は導電性、緻密性を考慮して定められたものといえる。

シ そして、本件特許明細書には、比抵抗値について、導電ペーストを、スクリーン印刷にてガラス基板上に形成し、120℃で30分間乾燥(低温加熱処理)し、導電パターンを形成した(【0056】)場合において、本件特許発明1の「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲を満たす参考例の比抵抗値が小さい一方、その数値範囲を満たさない比較例の比抵抗値が大きい又は「導通せず」であることが示され(【0058】の【表3】)、また、印刷適正について、グラビア印刷により100μm厚のポリエステルフィルム上に格子状のペーストパターンを形成し、120℃で30分乾燥(低温加熱処理)し、格子状の導電パターンを形成した透光性導電フィルムを形成した場合(【0060】、【0061】)において、本件特許発明1の「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲を満たす参考例は印刷適性が良好で、シート抵抗値が低い一方、その数値範囲を満たさない比較例は印刷適正が不良であるか、シート抵抗値が高いことが示されている。

ス 本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明1の「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲を満たすことにより、導電ペーストを印刷により基板上に形成し、低温加熱処理した際に、比抵抗値及び印刷特性が良好であるといえる。

セ 一方、甲2発明において、これらの数値範囲を定める技術的意義は、前記(2-ウ)の【0018】?【0026】の記載によれば、「タップ密度」を回路パターンの高抵抗化やピンホール等の欠陥(【0022】)、紫外線透過性、ペーストの塗布性(【0024】)、「比表面積」を回路パターンの精度、フォトリソグラフィ技術を用いる場合の現像時の剥がれ(【0026】)、「平均粒径」をピンホールや断線が発生することによる回路パターンの歩留りの低下、ペースト塗布膜表面の粗さ(【0020】)、ペーストを得ることが困難性(【0021】)を考慮して、定めたものであるが、前記(2-ウ)の【0032】に記載されるように、焼成工程を必須の工程とし、【0045】?【0047】に記載されるように、回路パターンは焼成炉で焼成されて有機成分を熱分解して除去(【0047】)するものである。

ソ してみると、甲2発明において、「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲を定める技術的意義と、本件特許発明1において、これらの数値範囲を定める技術的意義は異なるから、甲2発明において「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲を本件特許発明1のこれらの数値範囲とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

タ 次に、相違点2-1と相違点2-3とを合わせて検討する。

チ 甲第3号証には、感光性の導電ペーストを用い、フォトリソグラフィー技術を利用して基材上に導体回路パターンを形成する方法において、通常、500℃以上の温度で焼成を行うため、熱に弱い基材上での適用が難しく、特に、酸化しやすい金属等を含むペーストでは、希ガス中で焼成を行う必要性があった(前記(3-イ)の【0003】)という問題に対して、焼成することなく導電性と密着性を確保し得る微細な導電回路パターン形成のための導電組成物を提供すること(同【0004】)を課題とし、感光性の導電組成物にエポキシ化合物などの熱硬化成分を配合し、かつ導電性粉末の配合量を、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合とすることにより、これを焼成することなく熱硬化することにより、基材との密着性と導電性が共に優れる微細な導電回路パターンを得ることを見いだし、そのためのアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性組成物として、(A)導電性粉末、(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、および(F)溶剤を含有する組成物であって、前記導電性粉末(A)が、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合で配合され、かつ前記カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が1,000?100,000、酸価が20?250mgKOH/gであること(前記(3-ウ)の【0005】)が記載されている。

ツ ここで、甲2発明の導電性ペーストも、前記(2-ウ)の【0016】の記載によれば、フォトリソグラフィ技術を用いて回路パターンを形成する方法に用いるものであり、上記サの甲第3号証に記載された事項と、同様の技術分野であるから、甲2発明の導電性ペーストの有機成分、及び、有機溶媒に替えて、甲第3号証に記載される(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、及び、(F)溶剤とすることにより、相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得ることといえる。

テ しかしながら、甲2発明の導電性ペーストの有機成分及び有機溶媒に替えて、甲第3号証に記載される(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、及び、(F)溶剤とした場合の導電性ペーストは、「感光性の導電ペーストを用い、フォトリソグラフィー技術を利用して基材上に導体回路パターンを形成する方法」用のものであり、相違点2-1に係る本件特許発明1の「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン形成用の導電性ペースト」には、適用することができない。

ト さらに、甲2発明において、相違点2-1?相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することについて、甲第1号証、甲第4号証?甲第6号証に記載されていないし、技術常識であるともいえない。

ナ してみると、本件特許発明1は、甲2発明と甲第1号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ニ なお、甲第2号証には、前記(2-ウ)の【0032】に、「有機成分が光反応性の化合物を含有し、感光性の導電ペーストであることが好ましい。なお、感光性を持たない導電ペーストでは、回路パターンの形成にスクリーン印刷の手法を用いたり、フォトレジストを用いたエッチング法などでパターン化が行われる。・・・。焼成工程は、いずれの場合にも必須の工程である。」と記載されており、甲第2号証に記載された発明が、感光性を持たない導電ペーストであって、回路パターンの形成にスクリーン印刷の手法を用いる発明(以下、「甲2-3発明」という。)と認定することも考えられる。

ヌ しかしながら、感光性を持たない導電ペーストである甲2-3発明は、感光性の導電ペーストを用い、フォトリソグラフィー技術を利用して基材上に導体回路パターンを形成する甲第3号証の記載事項とは技術分野が相違するから、甲2-3発明において、甲第3号証に記載された事項を組み合わせる動機付けがない。

ネ してみると、甲第2号証に記載された発明として、甲2-3発明を認定したとしても、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件特許発明2、3について
ア 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1のすべての発明特定事項を有するものであるから、前記(2-1)の本件特許発明1についての理由と同様の理由により、甲2発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-3)本件特許発明4について
ア 本件特許発明4と甲2-2発明とを対比する。
イ 前記(2-1)のイ?ウの検討を踏まえると、両者は、
「銀粉末と、
有機バインダー樹脂と、を含有する導電パターン。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-4:導電パターンについて、本件特許発明4が、「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン」であるのに対し、甲2-2発明が、「フォトリソグラフィ法により回路パターンを形成し、最高温度590℃で焼成する回路パターン」である点。

相違点2-5:銀粉末について、本件特許発明4が、「タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μm」であるのに対し、甲2-2発明が、「タップ密度が3?7g/cm^(3)であり、比表面積が0.4?1.5m^(2)/gであり、レーザ式粒度分布測定装置により測定した平均粒径が0.5?2μm」である点。

相違点2-6:有機バインダー樹脂について、本件特許発明4が、「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と、前記熱可塑性樹脂又は前記熱乾燥性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する有機バインダー樹脂と、を含有し、
前記熱硬化性樹脂が、前記分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と架橋している」のに対し、甲2-2発明は、かかる発明特定事項を有していない点。

ウ そこで、これらの相違点について相違点2-4から検討する。

エ 相違点2-4?相違点2-6は、前記相違点2-1?相違点2-3と実質的に同様の相違点であるから、本件特許発明4は、本件特許発明1について前記(2-1)で検討した理由と同様の理由により、甲2-2発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 申立理由2-3について
(1)甲第3号証に記載された発明
ア 前記(3-ア)の【請求項1】には、「(A)導電性粉末、(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、(E)熱硬化性樹脂、および(F)溶剤を含有する組成物であって、前記導電性粉末(A)が、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合で配合され、かつ前記カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が1,000?100,000、酸価が20?250mgKOH/gであることを特徴とする導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物。」が記載されている。

イ 上記アの「(A)導電性粉末」について、前記(3-エ)の【0008】には、Agを用いることができること、及び、その形状として、球状のものを用いるのが好ましいことが記載されて、同【0009】には、その平均粒径が好ましくは0.1?5μmであることが記載されている。

ウ 上記アの「(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂」について、前記(3-エ)の【0010】には、有機バインダー(B)として、好適に使用できる樹脂として、(3)(c)エポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と(b)不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に、(a)飽和又は不飽和カルボン酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂」、「(7)(b)不飽和二重結合を有する化合物とグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体のエポキシ基に、(i)1分子中に1つのカルボキシル基を有し、エチレン性不飽和結合を持たない有機酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂」、「(8)(j)水酸基含有ポリマーに(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂」を用いることが記載されている。

エ また、上記アの「アルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物」は、前記(3-エ)の【0025】?【0029】の記載によれば、(1)まず、基材上に、本発明の光硬化性熱硬化性導電組成物を塗布し、乾燥する(2)次に、パターン露光して現像する(3)そして、得られた光硬化性熱硬化性導電組成物のパターン塗膜を加熱硬化して、導電性と密着性が共に優れた導電回路パターンを形成するという方法に用いられ、また、熱硬化工程においては、例えば、現像後の基板を80?300℃、好ましくは約120?200℃の温度で加熱処理を行い、所望の導体パターンを形成するものである。

オ してみると、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「塗布し、乾燥し、パターン露光して現像し、得られたパターン塗膜を約120?200℃の温度で加熱硬化する導電回路パターンを形成する方法に用いられる導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物であって、
(A)平均粒径が0.1?5μmである球状のAgからなる導電性粉末、
(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂である、(3)(c)エポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と(b)不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に、(a)飽和又は不飽和カルボン酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂、(7)(b)不飽和二重結合を有する化合物とグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体のエポキシ基に、(i)1分子中に1つのカルボキシル基を有し、エチレン性不飽和結合を持たない有機酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂、又は、(8)(j)水酸基含有ポリマーに(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂、
(C)光重合性モノマー、
(D)光重合開始剤、
(E)熱硬化性樹脂、および
(F)溶剤を含有する組成物であって、
前記導電性粉末(A)が、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合で配合され、かつ前記カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が1,000?100,000、酸価が20?250mgKOH/gであることを特徴とする導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物。」(以下、「甲3発明」という。)

カ また、甲第3号証には、本発明の導電回路の形成方法について、前記(3-エ)の【0025】?【0029】に記載される方法により得られる導電回路について次の発明が記載されていると認められる。

「(A)平均粒径が0.1?5μmである球状のAgからなる導電性粉末、
(B)(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂である、(3)(c)エポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と(b)不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に、(a)飽和又は不飽和カルボン酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂、(7)(b)不飽和二重結合を有する化合物とグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体のエポキシ基に、(i)1分子中に1つのカルボキシル基を有し、エチレン性不飽和結合を持たない有機酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂、又は、(8)(j)水酸基含有ポリマーに(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂、
(C)光重合性モノマー、
(D)光重合開始剤、
(E)熱硬化性樹脂、および
(F)溶剤を含有する組成物であって、
前記導電性粉末(A)が、溶剤を除く組成物中に70?90質量%の割合で配合され、かつ前記カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が1,000?100,000、酸価が20?250mgKOH/gであることを特徴とする導電回路形成用のアルカリ現像型の光硬化性熱硬化性導電組成物を
基材上に塗布し、パターン露光して現像し、得られた光硬化性熱硬化性導電組成物のパターン塗膜を約120?200℃の温度で加熱硬化して形成された導電回路。」(以下、「甲3-2発明」という。)

(2)対比・判断
(2-1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲3発明とを対比する。

イ 甲3発明の「Agからなる導電性粉末」、「溶剤」は、それぞれ、本件特許発明1の「銀粉末」、「有機溶剤」に相当し、甲3発明の「導電性粉末」の平均粒径は、本件特許発明1の「銀粉末」の平均粒径の範囲と重複する。

ウ 本件特許発明1の「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂又は分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂」は、本件特許の発明の詳細な説明の【0022】に列挙される樹脂を含むものであることを踏まえると、甲3発明の「(B)カルボキシル基含有感光性樹脂および/またはカルボキシル基含有樹脂である、(3)(c)エポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と(b)不飽和二重結合を有する化合物の共重合体に、(a)飽和又は不飽和カルボン酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂、(7)(b)不飽和二重結合を有する化合物とグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体のエポキシ基に、(i)1分子中に1つのカルボキシル基を有し、エチレン性不飽和結合を持たない有機酸を反応させ、生成した2級の水酸基に(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂、又は、(8)(j)水酸基含有ポリマーに(d)多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂の(B)カルボキシル基含有樹脂」は、本件特許発明1の「分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂又は分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂」に相当する。

エ また、甲3発明の「熱硬化性樹脂」は、技術常識からみて、甲3発明のカルボキシル基を含有する(B)の樹脂と反応性を有し、架橋剤としての機能を有するものと認められ、本件特許発明1の「熱硬化性樹脂」に相当する。

オ してみると、両者は、
「平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、
有機バインダー樹脂と、
有機溶剤とを含有し、
前記有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と、前記熱可塑性樹脂又は前記熱乾燥性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する導電性ペースト。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3-1:導電性ペーストについて、本件特許発明1が、「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを、80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する」ものであるのに対し、甲3発明は、「塗布し、乾燥し、パターン露光して現像し、得られたパターン塗膜を約120?200℃の温度で加熱硬化する導電回路パターンを形成する方法に用いられる」ものである点。

相違点3-2:銀粉末について、本件特許発明1が、「タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである」のに対して、甲3発明が「平均粒径が0.1?5μm」であるが、タップ密度及び比表面積が特定されていない点。

カ そこで、これらの相違点について、相違点3-1から検討する。

キ 相違点3-1について、甲3発明は、パターン露光して現像する工程を必須の工程とするものであり、甲第1号証?甲第6号証のいずれの文献をみても、甲3発明において、パターン露光して現像する工程を省略することについて、記載も示唆もされておらず、また、技術常識であるともいえない。

ク また、相違点3-2についても検討する。

ケ 甲第2号証には、導電ペースト中に感光成分を持たせた感光性導電ペーストについて、平均粒径が0.5?2μmで、かつタップ密度が3?7g/cm^(3)であり、さらに比表面積が0.4?1.5m^(2)/gである導電性粉末と有機成分とを必須成分とすることを特徴とするプラズマディスプレイ用導電ペーストが記載されているが、前記5(2-1)オ?クにおいて検討したように、甲第2号証の記載事項から、本件特許発明の「タップ密度」、「比表面積」及び「平均粒径」の数値範囲とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

コ なお、甲第1号証には、銀粉末を「平均粒径d_(50)が0.5?5μm、平均粒径d_(90)が3?8μmであり、粒径が10μmを超過する粒子の占める割合が0.5重量%以下であり、タップ密度が4.0?6.0g/cm^(3)の球状形状」とすることが記載されているが、甲1発明の導電性ペースト組成物は、甲第3号証に記載された導電ペーストと用途が異なるから、甲3発明において、甲第1号証の銀粉末を採用する動機付けがない。

サ また、甲3発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することについて、甲第4号証?甲第6号証のいずれにも記載も示唆もされておらず、技術常識であるともいえない。

シ してみると、本件特許発明1は、甲3発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件特許発明2、3について
ア 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1のすべての発明特定事項を有するものであるから、前記(2-1)の本件特許発明1についての理由と同様の理由により、甲3発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-3)本件特許発明4について
ア 本件特許発明4と甲3-2発明とを、対比する。

イ 前記(2-1)のア?エで検討した事項を踏まえると、両者は、
「平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、
分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と、前記熱可塑性樹脂又は前記熱乾燥性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する有機バインダー樹脂と、を含有し、
前記熱硬化性樹脂が、前記分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂および分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱乾燥性樹脂の少なくとも一種の樹脂と架橋していることを特徴とする導電パターン。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点3-3:導電パターンについて、本件特許発明4が、「印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する」導電パターンであるのに対し、甲2-2発明が、「基材上に塗布し、パターン露光して現像し、得られた光硬化性熱硬化性導電組成物のパターン塗膜を約120?200℃の温度で加熱硬化して形成された」導電パターンである点。
相違点3-4:銀粉末について、本件特許発明4が、「タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである」のに対して、甲3-2発明が「平均粒径が0.1?5μm」であるが、タップ密度及び比表面積が特定されていない点。

ウ 相違点3-3及び相違点3-4は、それぞれ、前記相違点3-1及び相違点3-2と同様の相違点であるから、本件特許発明1について前記(2-1)で検討した理由と同様の理由により、本件特許発明4は、甲3-2発明と甲第1号証?甲第6号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターン形成用の導電性ペーストであって、
タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、
有機バインダー樹脂と、
有機溶剤と、を含有し、
前記有機バインダー樹脂が、分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
前記銀粉末は、球状であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の導電性ペーストを用いて、印刷により塗膜パターンを形成し、
前記塗膜パターンを、80?200℃にて乾燥及び/又は硬化する、ことを特徴とする導電パターンの形成方法。
【請求項4】
印刷により塗膜パターンを形成し、前記塗膜パターンを80℃?200℃にて乾燥及び/又は硬化する導電パターンであって、
タップ密度が4.9?6.0g/cm^(3)で、比表面積が0.7?1.3m^(2)/gで、走査型電子顕微鏡で測定した平均粒径が0.6?1.0μmである銀粉末と、
分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂の官能基との反応性を有する架橋剤としての熱硬化性樹脂を含有する有機バインダー樹脂と、を含有し、
前記熱硬化性樹脂が、前記分子中に水酸基又はカルボキシル基を含む熱可塑性樹脂と架橋していることを特徴とする導電パターン。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-27 
出願番号 特願2012-76668(P2012-76668)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01B)
P 1 651・ 536- YAA (H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 富永 泰規
土屋 知久
登録日 2016-03-11 
登録番号 特許第5899022号(P5899022)
権利者 太陽ホールディングス株式会社
発明の名称 導電性ペースト、導電パターンの形成方法及び導電パターン  
代理人 特許業務法人 天城国際特許事務所  
代理人 特許業務法人天城国際特許事務所  

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