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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特174条1項  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1327897
異議申立番号 異議2016-700747  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-16 
確定日 2017-04-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5864481号発明「低温結合方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5864481号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項9について訂正することを認める。 特許第5864481号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5864481号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし20に係る特許についての手続の経緯は,以下のとおりである。
平成25年 7月 8日 特許出願
(2001年(平成13年)2月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2000年2月16日,米国)を国際出願日とする出願である特願2001-560438号(以下「原出願」という。)の一部を,平成25年7月8日に新たな特許出願(特願2013-143038号)とした。)
平成27年11月17日 特許査定
平成28年 1月 8日 特許の設定登録
平成28年 8月16日 特許異議の申立て(特許異議申立人 尾田久敏)
平成28年10月20日 取消理由通知
平成29年 1月19日 意見書・訂正請求書提出(特許権者)
平成29年 1月27日 通知書
(特許法第120条の5第5項の規定により,特許異議申立人に訂正請求があった旨の通知をし,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,指定した期間内に特許異議申立人から意見書の提出はなかった。)


第2 訂正の適否

1 訂正の内容
平成29年1月19日に提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の記載より,本件訂正請求書で特許権者が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)における訂正事項(訂正事項1)は,次のとおりのものと認められる。(当審注.訂正箇所に下線を付した。)
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項9の「所望の結合化学種で停止された前記第1および第2の結合面を活性化することを含んだ請求項1記載の方法。」との記載を,「前記エッチング工程は,所望の結合化学種で停止される前に,前記第1および第2の結合面を活性化することを含んだ請求項1記載の方法。」と訂正する。

2 新規事項の有無,拡張・変更の存否,訂正の目的の適否,及び一群の請求項について
(1)訂正の目的について
本件訂正前の請求項9に記載の「所望の結合化学種で停止された前記第1および第2の結合面を活性化する」との発明特定事項は,当該請求項が引用する請求項1に記載の「前記第1,第2の結合面をエッチングすること; 前記エッチング工程の後,前記第1,第2の結合面を溶液に浸漬し,所望の化学種で停止された結合面を形成すること」との関係が不明であるため,本件訂正前の請求項9は,特許法第36条第6項第2号に規定する「発明が明確であること」という要件に適合するとは認められないものである。
そして,訂正事項1は,本件訂正前の請求項9記載を,「前記エッチング工程は,所望の結合化学種で停止される前に,前記第1および第2の結合面を活性化することを含んだ請求項1記載の方法。」として,請求項1の上記の記載における「前記第1,第2の結合面をエッチングすること」の内容を限定した,本件訂正後の請求項9に訂正するものであって,請求項1の上記の記載との関係を明確にして「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
以上から,訂正事項1による訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(2)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件特許の願書に添付した明細書には,「前記エッチング工程は,前記第1,第2の結合面を活性にすること,および前記第1,第2の結合面に選択された結合基を形成することを含んでもよい。結合基は,またおおよそ室温で化学結合の形成可能に形成されてもよく,かつ化学結合は結合基を前記第1,第2の結合面の界面から隔てて拡散または解離するように前記結合面の間に形成してもよい。前記化学結合は,前記結合基を拡散または解離することによって,前記結合面の結合強度を増大することができる。・・・前記エッチング工程後,前記合面は溶液に浸漬し,所望の化学種で停止された(terminate)結合面を形成してもよい。前記化学種は,少なくとも一つのシラノール基,NH_(2)基,フッ素基およびHF基を含んでもよい。また,所望の原子および所望の分子のいずれかの単一層を前記結合面に形成してもよい。表面を停止することは,前記僅かなエッチング後に前記結合材料をアンモニア系溶液でリンスすることを含んでもよい。アンモニア系溶液は,水酸化アンモニアまたはフッ化アンモニウムであってもよい。」(【0017】及び【0018】)との記載があるから,訂正事項1による訂正は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
以上から,訂正事項2による訂正は,特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるか否かについて
上記(2)のとおり,本件訂正後の請求項9の記載は,当該請求項で引用する請求項1に記載の「前記第1,第2の結合面をエッチングすること」の内容を限定するものであるから,訂正事項1による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 むすび
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項9について訂正を認める。


第3 取消理由及び特許異議の申立てについて

1 本件発明
本件訂正により訂正された,訂正後の請求項1ないし20の各請求項(以下,訂正後の請求項1ないし20を「本件請求項1」ないし「本件請求項20」という。)に係る発明(以下,訂正後の各請求項に係る発明を,請求項1ないし20の区分に応じて,「本件発明1」ないし「本件発明20」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
第1,第2の結合面を形成すること;
前記第1,第2の結合面をエッチングすること;
前記エッチング工程の後,前記第1,第2の結合面を溶液に浸漬し,所望の化学種で停止された結合面を形成すること;および
前記エッチング工程及び前記浸漬工程後に室温で前記第1,第2の結合面を共に結合することを含む結合方法。
【請求項2】
前記エッチング工程は,前記エッチング後の前記第1,第2の結合面のそれぞれの面粗さが前記エッチング前のそれぞれの面粗さと同じになるように前記第1,第2の結合面をエッチングすることを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
0.1から3.0nmの範囲の表面粗さを有する第1,第2の結合面を形成することを含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記エッチング工程は,前記第1,第2の結合面を活性にし,前記第1,第2の結合面に選択された結合基を形成することを含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
化学結合を形成可能な結合基を室温で形成することを含む請求項4記載の方法。
【請求項6】
結合基を前記第1,第2の結合面の界面から隔てて拡散または解離するように前記結合面の間に化学結合を形成することを含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記結合基を拡散または解離することによって前記第1,第2の結合面間の結合強度を増大することを含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記エッチング工程は,所望の原子および所望の分子のいずれかの単一層を前記結合面に形成することを含む請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記エッチング工程は,所望の結合化学種で停止される前に,前記第1および第2の結合面を活性化することを含んだ請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記所望の化学種は,少なくとも一つのシラノール基,NH_(2)基,フッ素基およびHF基を含む請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記第1の結合面は,表面に形成されたデバイスを有する第1半導体ウェハの表面を備え,かつ前記第2の結合面は,表面に形成されたデバイスを有する第2半導体ウェハの表面を備える請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記第1,第2のウェハのいずれかは,前記第1,第2のウェハのいずれかの基板の一部を除去後にデバイス領域を備える請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記第1,第2のウェハ中のデバイスを相互に接続することを含む請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記第1のウェハは,第1のタイプの第1電気デバイスを含み,前記第2のウェハは,前記第1のタイプとは異なる第2のタイプの第2電気デバイスを含む請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記第1,第2のウェハのいずれかは,集積回路を備える請求項11記載の方法。
【請求項16】
少なくとも500mJ/m^(2)の結合強度を得ることを含む請求項1記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1000mJ/m^(2)の結合強度を得ることを含む請求項1記載の方法。
【請求項18】
少なくとも2000mJ/m^(2)の結合強度を得ることを含む請求項1記載の方法。
【請求項19】
プラズマRIE法を用いて前記第1および第2の結合面をエッチングすることを含む請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記第1および第2の結合面の少なくとも一方として絶縁性の結合面を形成することを含む請求項1記載の方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし20の各請求項に係る特許に対して,平成28年10月20日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は,以下のとおりである。
(1)取消理由1(特許法第36条第6項第1号及び第2号)
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許の請求項9に記載の「所望の結合化学種で停止された前記第1および第2の結合面を活性化する」との発明特定事項は記載されておらず,また,当該技術分野における技術常識を参酌しても,本件特許の請求項9に係る発明の上記発明特定事項が記載されているとは認められない。
そうすると,本件特許の請求項9に係る発明は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とは認められない。

イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には,「前記第1,第2の結合面をエッチングすること; 前記エッチング工程の後,前記第1,第2の結合面を溶液に浸漬し,所望の化学種で停止された結合面を形成すること」と記載されているところ,当該請求項を引用する,本件特許の特許請求の範囲の請求項9には「所望の結合化学種で停止された前記第1および第2の結合面を活性化する」と記載され,本件特許の請求項9の記載からは,本件特許の請求項1における上記の記載と,本件特許の請求項9における上記の記載の関係が不明であり,また,本件特許の請求項9の上記の記載によって特定される事項の内容も不明である。
そうすると,本件特許の特許請求の範囲の請求項9には,当該請求項に係る発明の構成が明確に記載されているとは認められない。

ウ よって,本件特許の請求項9に係る発明は,特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件に適合せず,特許を受けることができないから,上記請求項に係る特許は,取り消すべきものである。

(2)取消理由2(特許法第29条第1項第3号)
ア 本件特許の請求項9に記載された事項は,原出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「原出願の当初明細書等」という。)に記載されておらず,また,当該技術分野における技術常識を参酌しても,原出願の当初明細書等の記載から自明であるとはいえない。
そうすると,本件特許の請求項9に記載された事項は,原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であるとはいえないから,本件特許に係る出願は分割要件を満たしておらず,出願の分割は認められない。
そして,本件特許に係る出願について,特許法第44条第2項の規定は適用されないから,本件特許に係る出願は,現実の出願日である,平成25年7月8日にしたものと認める。

イ 上記アのとおり,本件特許に係る出願は分割要件を満たしておらず,出願の分割は認められないから,特許異議申立書26頁下から2行ないし26頁3行までに記載された理由により,本件特許の請求項1ないし8,及び請求項10ないし20の各請求項に係る発明は,いずれも,本件特許に係る出願の出願日前,国内において頒布された刊行物である,甲第5号証(原出願の公表公報である特表2003-523627号公報)に記載された発明と認められる。

ウ よって,本件特許の請求項1ないし8,及び請求項10ないし20の各請求項に係る発明は,いずれも,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないから,上記各請求項に係る特許は取り消すべきものである。

3 取消理由についての判断
(1)取消理由1について
ア 本件特許明細書における「前記エッチング工程は,前記第1,第2の結合面を活性にすること,および前記第1,第2の結合面に選択された結合基を形成することを含んでもよい。結合基は,またおおよそ室温で化学結合の形成可能に形成されてもよく,かつ化学結合は結合基を前記第1,第2の結合面の界面から隔てて拡散または解離するように前記結合面の間に形成してもよい。前記化学結合は,前記結合基を拡散または解離することによって,前記結合面の結合強度を増大することができる。・・・前記エッチング工程後,前記合面は溶液に浸漬し,所望の化学種で停止された(terminate)結合面を形成してもよい。前記化学種は,少なくとも一つのシラノール基,NH_(2)基,フッ素基およびHF基を含んでもよい。また,所望の原子および所望の分子のいずれかの単一層を前記結合面に形成してもよい。表面を停止することは,前記僅かなエッチング後に前記結合材料をアンモニア系溶液でリンスすることを含んでもよい。アンモニア系溶液は,水酸化アンモニアまたはフッ化アンモニウムであってもよい。」(【0017】及び【0018】)との記載より,本件請求項9に記載の「前記エッチング工程は,所望の結合化学種で停止される前に,前記第1および第2の結合面を活性化すること」は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められる。

イ 本件請求項9に記載の「前記エッチング工程は,所望の結合化学種で停止される前に,前記第1および第2の結合面を活性化すること」は,当該請求項9で引用する,本件請求項1に記載の「前記第1,第2の結合面をエッチングすること」の内容を限定したものと認められ,本件請求項9の上記の記載により,当該請求項に係る発明の構成は,明確に特定されているということができる。
ウ 上記ア及びイより,本件請求項9は,特許法第36条第6項第第1号及び第2号,それぞれに規定する要件に適合する。

(2)取消理由2について
ア 原出願の願書に最初に添付した明細書の「前記エッチング工程は,前記第1,第2の結合面を活性にすること,および前記第1,第2の結合面に選択された結合基を形成することを含んでもよい。結合基は,またおおよそ室温で化学結合の形成可能に形成されてもよく,かつ化学結合は結合基を前記第1,第2の結合面の界面から隔てて拡散または解離するように前記結合面の間に形成してもよい。前記化学結合は,前記結合基を拡散または解離することによって,前記結合面の結合強度を増大することができる。・・・前記エッチング工程後,前記合面は溶液に浸漬し,所望の化学種で停止された(terminate)結合面を形成してもよい。前記化学種は,少なくとも一つのシラノール基,NH_(2)基,フッ素基およびHF基を含んでもよい。また,所望の原子および所望の分子のいずれかの単一層を前記結合面に形成してもよい。表面を停止することは,前記僅かなエッチング後に前記結合材料をアンモニア系溶液でリンスすることを含んでもよい。アンモニア系溶液は,水酸化アンモニアまたはフッ化アンモニウムであってもよい。」(【0017】及び【0018】)との記載より,本件請求項9に記載の「前記エッチング工程は,所望の結合化学種で停止される前に,前記第1および第2の結合面を活性化すること」は,原出願の当初明細書等に記載された事項と認められる。
そうすると,本件請求項9に記載された事項は,原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であるから,本件特許に係る出願について,出願の分割が認められる。
そして,特許法第44条第2項の規定により,本件特許に係る出願は,原出願の国際出願日である,2001年(平成13年)2月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2000年2月16日,米国)にされたものとみなす。

イ 上記アより,本件特許に係る出願について,特許法第44条第2項の規定による出願日の遡及が認められるから,原出願の優先権主張の日(以下「原出願の優先日」という。)後,国内において頒布された刊行物である甲第5号証に記載された発明は,特許法第29条第1項第3号に掲げる発明には該当しない。
そうすると,本件請求項1ないし8,及び本件請求項10ないし20の各請求項に係る発明は,いずれも,甲第5号証に記載された発明であるとの理由で,特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(3)小括
したがって,取消理由1によって,本件請求項9に係る特許を取り消すことはできず,また,取消理由2によって,本件請求項1ないし8,及び本件請求項10ないし20の各請求項に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が主張する特許異議申立理由のうち,取消理由通知において採用しなかったものの概要は,以下のとおりである。
ア 異議理由1(特許法第29条第1項第3号及び第2号(同法第113条第2号))
本件特許の請求項1ないし8,及び請求項10ないし20の各請求項に係る発明は,いずれも,原出願の優先権主張の日(以下「原出願の優先日」という。)前,日本国内において頒布された刊行物である,特開平6-302486号公報(甲第1号証)に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し,特許を受けることができないものであり,上記の各請求項に係る特許は取り消すべきものである。
そうでないとしても,本件特許の請求項1,請求項2,請求項4ないし8,及び請求項16ないし20の各請求項に係る発明は,甲第1号証に記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許の請求項3に係る発明は,甲第1号証に記載の発明において,原出願の優先日前,日本国内及び外国において頒布された刊行物である,Hideki Takagi, Ryutaro Maeda, Teak Ryong Chung, Naoe Hosodaand Tadatomo Suga, "Effect of Surface Roughness Room-Temperature Wafer Bonding by Ar Beam Surface Activation", Jpn. J. Appl. Phys. Vol.37(1998)pp4197-4203(甲第2-1号証)及び原出願の優先日前,日本国内において頒布された刊行物である,高木秀樹,前田龍太郎,須賀唯知「アルゴンビームエッチングによるシリコンの常温無加圧接合」(電学論,117巻8号(平成9年)420-425頁(甲第3号証)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許の請求項10に係る発明は,甲第1号証に記載の発明において,甲第2-1号証に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,また,本件特許の請求項11ないし15の各請求項に係る発明は,甲第1号証に記載の発明において,原出願の優先日前,日本国内において頒布された刊行物である,特開平8-213548号公報(甲第4号証)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件請求項1ないし8,及び本件請求項10ないし20の各請求項に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであり,当該各請求項に係る特許は取り消すべきものである。

イ 異議理由2(特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号))
本件特許の請求項9に記載された「所望の結合化学種で停止された前記第1および第2の結合面を活性化すること」は,本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面には記載されていない。
そうすると,本件特許の請求項9に上記の記載を加える補正は,本件特許に係る出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく,特許法第17条の2第3項の規定に適合しないから,本件特許の請求項9に係る発明は,特許を受けることができないものであり,当該請求項に係る特許は取り消すべきものである。

ウ 異議理由3(特許法第36条第4項第1号,及び第6項第2号(同法第113条第4号))
本件特許の請求項16ないし18には,それぞれ,「少なくとも500mJ/m^(2)の結合強度を得ること」,「少なくとも1000mJ/m^(2)の結合強度を得ること」,及び「少なくとも2000mJ/m^(2)の結合強度を得ること」と記載されているが,接合強度に関する記載は発明の課題を記載するにとどまり,その計測方法が不明であり,当業者が実施し得る程度に記載されていない。
当該強度は,上記各請求項で引用している本件特許の請求項1に係る発明により得られるものでないから,本件特許の請求項1との関係が不明確であり,また,アニーリングにより得られるのであれば,発明の課題(段落【0012】)と背反し,貯蔵により得られるのであれば課題解決手段が不明確である。
以上から,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許の請求項16ないし18に係る発明について,当業者が容易に実施し得る程度に記載されておらず,また,本件特許の請求項16ないし18には,当該各請求項に係る発明の構成が明確に記載されていない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討
ア 異議理由1について
(ア)甲号証の記載について
a 甲第1号証について
甲第1号証の記載より,甲第1号証には,下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「真空槽11内において,接合ホルダー12に,予め鏡面研磨した被複合材料13及び14の接合面を露出して保持すること,
上記被複合材料13及び14の接合表面をイオンエッチングにより清浄化すること,
清浄化された後,上記真空槽11内において,水分子噴射ノズル41により純水ボトル43からの水蒸気を導入して,真空雰囲気中で上記被接合材料13及び14の表面に水酸基を吸着させること,及び
水酸基を吸着させた後,上記被接合材料13及び14の表面の接合表面を密着させ,一方の被接合材料面の水酸基の水素と,他方の被接合材料面の酸素原子との間に水素結合を発生させ,常温・低加圧力で接合することを含む2つの材料の直接接合方法。」
b 甲第2号証について
甲第2号証の記載より,甲第2号証には,以下の事項が記載されていると認められる。
・「結合力は最初,Arビームエッチングにより増加した。ここで示された全てのボンディング実験では,2つの試料が結合したとき1MPaの荷重を適用した。30秒のエッチングは,最大結合力を得るに十分である。」
・「60秒のエッチングで,2つの試料を共に加圧するために適用された荷重の効果を調査した.エッチング時間は表面酸化物を除去するに十分であるが,この時間は短いのでボンディングを阻害するような表面粗さを発生させない。」
・「60秒のエッチング後の表面は,約0.3nmのrms粗さである。」
・「ウェハ表面上の-OHグループ及び/又は-H,-F間の水素結合と,H_(2)O及び又はHF分子によってそれらをブリッジすることが従来方法では重要な役割であった。」
c 甲第3号証について
甲第3号証の記載より,甲第3号証には,「シリコンウェハーの表面が研磨技術の進歩により数原子層のステップ以下の粗さ(0.3nm程度)に仕上げられていること」が記載されていると認められる。
d 甲第4号証について
甲第4号証の記載より,甲第4号証には,「結合面が,表面にデバイスが形成された第1及び第2半導体ウェハの表面であること」が記載されていると認められる。
(ウ)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点は,以下のとおりであると認められる。
a 一致点
「第1,第2の結合面を形成すること;
前記第1,第2の結合面をエッチングすること;
前記エッチング工程の後,所望の化学種で停止された結合面を形成すること;および
前記エッチング工程及び前記浸漬工程後に室温で前記第1,第2の結合面を共に結合することを含む結合方法。」
b 相違点
一致点における「前記エッチング工程の後,所望の化学種で停止された結合面を形成する」との構成について,本件発明1は,「前記第1,第2の結合面を溶液に浸漬し,所望の化学種で停止された結合面を形成する」のに対し,甲1発明は,「真空槽11内において,水分子噴射ノズル41により純水ボトル43からの水蒸気を導入して,真空雰囲気中で上記被接合材料13及び14の表面に水酸基を吸着させる」点。
(エ)判断
以下,上記(ウ)より,本件発明1について,新規性及び進歩性それぞれの有無を検討する。
a 新規性について
上記(ウ)のとおり,本件発明1と甲1発明との間には,相違点があるから,本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
b 進歩性について
甲第1号証の記載より,甲1発明は,予めSiウエハを互いに鏡面研磨し,硫酸,過酸化水混合液に浸積してその表面を親水化処理(水酸基吸着)する従来技術では,上記親水化処理は,水溶液中で実施されるウエットプロセスであり,真空槽内で実施されるドライプロセスとは連続的に実施できない(【0003】,【0004】)との問題点に鑑み,2つの材料を直接接合する際に,真空雰囲気中で常温・低加圧力,しかも非加熱で接合できる2つの材料の直接接合方法を提供することを課題とした(【0007】)ものと認められ,そして,甲1発明は,水分子噴射ノズル41を真空槽内に設けることにより,真空槽や排気ポンプを汚染することなく,必要にして十分な水酸基量を制御性よく被接合材料表面に噴射,吸着させることができる(【0038】)ようにしたものと認められる。
そうすると,甲1発明において,水分子噴射ノズル41により純水ボトル43からの水蒸気を導入して,真空雰囲気中で被接合材料13及び14の表面に水酸基を吸着させる構成を,被接合材料13及び14の結合面を溶液に浸漬する構成に変更すると,甲1発明における上記の課題の解決は妨げられるから,当該構成の変更,すなわち,相違点に係る構成とすることには,阻害要因があると認められ,当業者が容易に想到し得たとはいえない。
以上から,本件発明1は,甲第1号証に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(オ)小括
a 上記(エ)aのとおり,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明であるとは認められず,また,本件発明1の構成を備える本件発明2ないし8及び本件発明10ないし20も,甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
b 上記(エ)bのとおり,本件発明1は,甲第1号証に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず,また,本件発明1の構成を備える本件発明2ないし8及び本件発明10ないし20も,同様の理由により,甲第1号証,及び甲第2ないし4号証に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
c したがって,異議理由1に理由はない。

イ 異議理由2について
前記第2のとおり,本件特許の特許請求の範囲の請求項9は,本件訂正により訂正され,上記1の本件請求項9のとおり,「前記エッチング工程は,所望の結合化学種で停止される前に,前記第1および第2の結合面を活性化することを含んだ請求項1記載の方法。」との記載となった。
そして,本件特許の願書に最初に添付した明細書には,「前記エッチング工程は,前記第1,第2の結合面を活性にすること,および前記第1,第2の結合面に選択された結合基を形成することを含んでもよい。結合基は,またおおよそ室温で化学結合の形成可能に形成されてもよく,かつ化学結合は結合基を前記第1,第2の結合面の界面から隔てて拡散または解離するように前記結合面の間に形成してもよい。前記化学結合は,前記結合基を拡散または解離することによって,前記結合面の結合強度を増大することができる。・・・前記エッチング工程後,前記合面は溶液に浸漬し,所望の化学種で停止された(terminate)結合面を形成してもよい。前記化学種は,少なくとも一つのシラノール基,NH_(2)基,フッ素基およびHF基を含んでもよい。また,所望の原子および所望の分子のいずれかの単一層を前記結合面に形成してもよい。表面を停止することは,前記僅かなエッチング後に前記結合材料をアンモニア系溶液でリンスすることを含んでもよい。アンモニア系溶液は,水酸化アンモニアまたはフッ化アンモニウムであってもよい。」(【0017】及び【0018】)との記載があるから,本件請求項9に記載された事項は,本件特許の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されていると認められる。
そうすると,本件発明9は,本件特許の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されていると認められるから,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
したがって,異議理由2に理由はない。

ウ 異議理由3について
(ア)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
a 本件特許明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。(当審注.下線は当審で付した。)
(a)「【0030】
図1および図3の(A)?(E)を参照して本発明に係る方法の第1実施形態を説明する。ウェハ30,好ましくは処理された半導体デバイスウェハ,より好ましくは処理されたシリコンデバイスウェハは処理されたデバイスを持つデバイス層31を含む。デバイス層31は,いくつかの層を含み,かつウェハ30の表面領域を備えてもよい。層31の幾何学面は,典型的に非平面である。そう31は,また活性デバイス,相互接続,絶縁,その他のようないくつかの層を含む処理された集積回路が存在してもよい。
【0031】
前記集積回路は,残りのプロセスが結合工程後になされる,完全に処理されるか,部分的に処理されるか,いずれでもよい。結合後の処理は,完全または部分基板除去,または相互接続のための結合ウェハ間の形成を経由を含んでもよい。
【0032】
結合層32は,層31上に形成される(ステップ1,図1)。結合層32は,低温で堆積または形成されることができ,かつ十分に平滑な面に研磨されることができるいかなる固体状態材料でもよい。層32は,化学蒸発堆積(CVD),プラズマ増大CVD(PECVD),スパッタを用いるか,または蒸着によって形成されるSiO,シリコン窒化物,アモルファスシリコンのような絶縁物であってもよい。ポリマー,半導体,または焼結材料のような他の材料も同様に用いてもとい。層32は,層31の幾何学面より大きな厚さを有するべきである。
【0033】
層32の面33は,図1のスッテプ2および図3の(B)に示すように平坦化,平滑化されている。面33の粗さ/平坦さは,例証となる目的のために図3の(A)に誇張されていることに気が付く。このステップは,化学機械研磨を用いて達成される。面33は,実質的に平坦である約3nm以下,好ましくは0.1nm以下の粗さまで研磨されることが好ましい。前記表面粗さ度合は,典型的に二乗平均(RMS)で与えられる。また,表面粗さは前記RMS値とほぼ同じである平均値で与えられてもよい。研磨後に面33は,洗浄,乾燥され,研磨工程からのいかなる残渣を除去する。研磨された面33は,それから溶液でリンスすることが好ましい。
・・・
【0035】
図3の(B)は前記研磨/平坦化および洗浄工程後に上部に面34を有する層32を示す。面34は,それから活性処理を受ける(図1のスッテプ3)。この活性処理は,エッチング処理,好ましくは非常に僅かなエッチング(VSE)処理である。VSEの用語は,非常に僅かにエッチングされた面の二乗平均ミクロン粗さ(RMS)がおおよそ未エッチング値,典型的に<0.5nm,好ましくは0.1nm?3nmの範囲,で残ることを意味する。除去される材料の最適量は,その材料および除去に用いられる方法に依存する。除去される典型的な量は,オングストロームから数ナノメータまで変化する。材料をさらに除去することができる。VSEは,処理された面上の結合の破断を含み,かつ材料の重要な除去なしで生じることができる。前記VSEは,例えば表面層を電気充電または損傷で充電することによって面の単純な変更から識別される。本発明に係る方法の第1例において,前記VSE処理は,特別の電力レベルで特別の時間でのガスまたは混合ガス(酸素,アルゴン,窒素,CF_(4),NH_(3)のような)プラズマプロセスからなる(図3の(C))。プラズマプロセスの電力および持続期間は,所望の結合エネルギーを得るために使用される材料に依存して変化するが,一般的に電力および持続期間は経験的に決定される。
・・・
【0039】
前記VSEプロセスは,前記面を洗浄するため,およびウェハ面上の酸化物の結合を壊すために供する。前記VSEプロセスは,したがって表面活性を重大に増大できる。所望の結合化学種は前記VSEの適切な設計によってVSEの間面34を停止するために用いられる。択一的に,後VSE処理の間,所望の停止化学種で面を活性および停止する後VSE処理は,用いられてもよい。
【0040】
前記所望の化学種は,仮の結合を面34の原子層に形成し,この面が図3の(D)に示すように同じまたは別の結合化学種36によって停止される面で互いに接合できる次の時まで前記原子層を効果的に停止することがさらに好ましい。前記面上の所望の化学種は,前記化学種が拡散または解離および結合界面から隔てた反応された所望の化学種の拡散によって増大される低温または室温で面34,36間を化学的結合をなすように十分に近接している時にさらに互いに反応することが好ましい
前記後VSEプロセスは,所望の化学種で結合面34の停止をもたらす表面反応を発生するための選択された化学を含む溶液の浸漬からなることが好ましい。前記浸漬は,前記VSEプロセス後に直ぐになすことが好ましい。前記後VSEプロセスは,前記VSEプロセスが遂行される同じ装置でなされてもよい。両VSEおよび後VSEが乾式,すなわちプラズマ,RIE,ICP,スパッタまたはその他か,湿式,すなわち溶液浸漬のいずれである場合,これは最もたやすくなされる。所望の化学種は単一層,または原子もしくは分子の僅かな単一層からなることが好ましい。
・・・
【0043】
前記ウェハは,任意にリンスされ,それから乾燥される。2つのウェハは,それらを位置合わせ(必要であれば)することによって結合され,結合界面を形成するためにそれらを互いに接合される。図3の(D)に示すように第2ウェハ35は,図3の(C)に示す手法で処理され,結合面35を調製する。前記2つのウェハは例えば市販ウェハ結合装置(図示せず)によって接合され,結合界面を創始する(図3の(E))。
【0044】
自発的な結合は,それから結合界面中のいくつかの場所で典型的に生じ,ウェハにわたって増やされる。最初の結合が増やし始めるので,化学結合をもたらす高分子化のような化学反応は,前記面が十分に近くにある場合,面34,36を停止するのに用いられる化学種の間で起こる。結合エネルギーは,楔を挿入することによって部分的に脱離される結合界面で分離面のいずれかの特有の表面エネルギーとして規定される。前記反応の副産物は,それから結合界面からウェハ端部に向けて拡散するか,またはウェハ,典型的に周囲材料によって吸収される。前記副産物は,拡散するか,またはウェハに吸収される別の副産物に転換されてもよい。共有および/またイオン結合の量は転換化学種の除去により増大され,結合強度の更なる増加をもたらす。」
(b)「【実施例】
【0081】
例1
第1例において,3インチ,1?10Ω-cm,ボロンドープシリコンウェハが用いられ,PECVD酸化物は前記シリコンウェハのいくつかの上に堆積された。比較のために,熱酸化シリコンウェハは調査された。前記PECVD酸化物厚さは,0.5μmで,ウェハの前側面および裏側面でそれぞれ0.3μmであった。酸化物は,研磨中のウェハ曲がりを最小にし,かつ平坦化を改良するために前記ウェハの両側面に堆積した。軽い研磨は,前記酸化物の約30nmを除去し,かつ前酸化物面を初期に?0.56nmのマイクロ粗さ二乗平均値(RMS)を有する前酸化物面を最終?0.18nmに平滑にするためになされた。変更されたRCA1溶液は前記ウェハを洗浄するために用いられ,それにスピン乾燥が続く。
【0082】
2つのウェハは,プラズマシステムに装入され,両ウェハはRF電極上に置かれ,RIEモードのプラズマ中で処理された。比較のために,いくつかのウェハはウェハが接地電極に置かれているプラズマモードで処理された。酸素プラズマは,16scc/mの公称流速を用いた。RF電力は,13,56MHzにて20?400W(典型的に80W)で,かつ真空レベルは100mTorrであった。前記酸化物被覆ウェハは,15秒?5分の間の時間でプラズマ処理された。プラズマ処理されたシリコンウェハは,適切な溶液に浸漬され,または脱イオン水でリンスされ,スピン乾燥,室温,空気中の結合が続く。プラズマ処理のウェハいくつかは,リンスまたは浸漬せずに空気で直接結合された。
【0083】
結合エネルギーは,楔を界面に挿入することによって測定し,次式に従ってクラック長さを測定した。
【数1】


【0084】
Eおよびt_(w)は,一つおよび二つのウェハのヤング率および厚さであり,t_(b)はウェハのエッジから長さLの分離ウェハでもたらされる2つのウェハ間に挿入した楔の厚さである。
【0085】
結合されたプラズマ処理酸化物被覆シリコンウェハの貯蔵時間の作用としての室温結合エネルギーは,図6Aに示される。この図は,次のように要約することができる。測定された室温結合エネルギー対示されているように4つの異なるケースの貯蔵時間を示す。結果は,(1)浸漬され,結合されたRIEプラズマ処理酸化物ウェハに対して,室温結合エネルギーは貯蔵時間に伴って増加し,かつ空気または低真空で?20時間後に安定値に達する,(2)RIEモードはプラズマモードに比べて高い結合エネルギーをもたらす,(3)過度に短いプラズマ露出時間または過度に低いプラズマ出力は結合エネルギーに小さいか,無視でき増加を提供する,(4)プラズマ処理後のNH_(4)OH浸漬は水リンスに比べて結合エネルギーを非常に高い増加を示す,(5)浸漬またはリンスせずにプラズマ処理後に空気中での直接結合は時間に伴っても殆ど一定の結合エネルギーを示す。室温結合後に直ぐに直接的に結合されたウェハ対の前記結合エネルギーは,脱イオン水リンスまたはNH_(4)OH浸漬ウェハ対に比べて僅かに高くなる。
【0086】
図6Bは,Siの室温結合およびPECVD酸化物堆積層を持つAlNを示す。約100時間の貯蔵時間後,2000mJ/m^(2)を超える結合エネルギーが観察された。
・・・
【0088】
空気中,室温で?24時間貯蔵後,?1000mJ/m^(2)と高い結合エネルギーがRIEモードプラズマ処理およびNH_(4)OH浸漬PECVD酸化物被覆ウェハ対で達せられた。ファンデールワール結合シリコン酸化物被覆ウェハの最大結合エネルギーは,約200mJ/m^(2)であるので,結合エネルギーの大きい部分は前記式に従って室温,結合鬼面で共有結合の形態を帰する。」

【図6A】


【図6B】


b 上記aの本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載より,「結合エネルギー」は,結合された2枚のウェハの結合界面に楔を挿入することによって,当該結合界面を分離させるために必要なエネルギーを測定したものであって,上記2枚のウェハの結合の強度を表す値であると理解できる。加えて,当該技術分野において,本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された,2枚のウェハの結合界面に楔を挿入することによって,当該結合界面を分離させるために必要なエネルギーを測定する方法は,当業者には周知の技術と認められる。
そして,本件発明16ないし18における「接合強度」の単位は「mJ/m^(2)」であり,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載の「結合エネルギー」の単位と一致し,また,本件発明16ないし18に係る発明における「接合強度」の値は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載の本件特許に係る発明の実施例がとり得る「結合エネルギー」の値と一致する。
そうすると,本件発明16ないし18における「接合強度」は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載の「結合エネルギー」のことと認められ,その測定方法も,本件特許明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施し得る程度に記載されていると認められる。
以上から,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件発明16ないし18における「接合強度」の計測方法について,当業者が容易に実施し得る程度に記載されていると認められるので,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件発明16ないし18について,当業者が容易に実施し得る程度に記載されていないとの異議申立人の主張は採用できない。
(イ)明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
上記1の本件請求項1の記載より,本件発明1における第1及び第2の結合面を構成する材料として任意のものが包含され得ると認められ,また,本件発明1には,第1及び第2の結合面を結合した後,これを貯蔵することを行うものと行わないものの両方が包含され得ると認められる。
そして,本件特許明細書の記載より,本件特許に係る発明は,「低温または室温で材料を結合する方法を提供する」(【0008】)ことを目的とすると認められるところ,上記(ア)a(a)より,本件発明1が,上記の目的を達成し得ることは明らかであるといえる。
そのうえで,上記(ア)a(b)より,本件特許の請求項16?18に係る発明は,いずれも,引用する本件発明1において,第1及び第2の結合面を構成する材料や,貯蔵の時間を選択した発明であることは明らかであるといえる。
そうすると,本件請求項16ないし18の各請求項の記載から,当該各請求項で引用する本件発明1との関係は明確と認められる。
以上より,上記(ア)から,本件請求項16ないし18の各請求項における「接合強度」との文言の意味内容は明確と認められ,また,本件請求項16ないし18の各請求項の記載から,当該各請求項で引用する本件発明1との関係も明確と認められるので,本件請求項16ないし18には,当該各請求項に係る発明の構成が明確に記載されていないとの異議申立人が主張は採用できない。
(ウ)小括
上記(ア)及び(イ)より,異議理由3の理由により,本件特許明細書の発明の詳細な説明が,特許法第36条第4項第1項の規定に適合していないということはできず,また,本件請求項16ないし18が,同法第36条第6項第2号の規定に適合してないということもできない。
したがって,異議理由3に理由はない。

エ 小括
上記アないしウより,異議理由1によって,本件請求項1ないし8及び本件請求項10ないし20の各請求項に係る特許を取り消すことはできず,異議理由2によって,本件請求項9に係る特許を取り消すことはできず,また,異議理由3によって,本件請求項16ないし18の各請求項に係る特許を取り消すことはできない。

5 むすび
上記2ないし4より,本件の特許請求の範囲の請求項1ないし20の各請求項に係る特許を,当審で通知した取消理由1及び2,並びに特許異議の申立ての理由1ないし3によって取り消すことはできない。


第4 結言

以上のとおりであるから,本件特許の請求項1ないし20に係る特許は,取消理由通知に記載した取消理由,及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,取り消すことができない。
また,他に,本件特許の上記各請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2の結合面を形成すること;
前記第1、第2の結合面をエッチングすること;
前記エッチング工程の後、前記第1、第2の結合面を溶液に浸漬し、所望の化学種で停止された結合面を形成すること;および
前記エッチング工程及び前記浸漬工程後に室温で前記第1、第2の結合面を共に結合することを含む結合方法。
【請求項2】
前記エッチング工程は、前記エッチング後の前記第1、第2の結合面のそれぞれの面粗さが前記エッチング前のそれぞれの面粗さと同じになるように前記第1、第2の結合面をエッチングすることを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
0.1から3.0nmの範囲の表面粗さを有する第1、第2の結合面を形成することを含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記エッチング工程は、前記第1、第2の結合面を活性にし、前記第1、第2の結合面に選択された結合基を形成することを含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
化学結合を形成可能な結合基を室温で形成することを含む請求項4記載の方法。
【請求項6】
結合基を前記第1、第2の結合面の界面から隔てて拡散または解離するように前記結合面の間に化学結合を形成することを含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記結合基を拡散または解離することによって前記第1、第2の結合面間の結合強度を増大することを含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記エッチング工程は、所望の原子および所望の分子のいずれかの単一層を前記結合面に形成することを含む請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記エッチング工程は、所望の結合化学種で停止される前に、前記第1および第2の結合面を活性化することを含んだ請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記所望の化学種は、少なくとも一つのシラノール基、NH_(2)基、フッ素基およびHF基を含む請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記第1の結合面は、表面に形成されたデバイスを有する第1半導体ウェハの表面を備え、かつ前記第2の結合面は、表面に形成されたデバイスを有する第2半導体ウェハの表面を備える請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記第1、第2のウェハのいずれかは、前記第1、第2のウェハのいずれかの基板の一部を除去後にデバイス領域を備える請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記第1、第2のウェハ中のデバイスを相互に接続することを含む請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記第1のウェハは、第1のタイプの第1電気デバイスを含み、前記第2のウェハは、前記第1のタイプとは異なる第2のタイプの第2電気デバイスを含む請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記第1、第2のウェハのいずれかは、集積回路を備える請求項11記載の方法。
【請求項16】
少なくとも500mJ/m^(2)の結合強度を得ることを含む請求項1記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1000mJ/m^(2)の結合強度を得ることを含む請求項1記載の方法。
【請求項18】
少なくとも2000mJ/m^(2)の結合強度を得ることを含む請求項1記載の方法。
【請求項19】
プラズマRIE法を用いて前記第1および第2の結合面をエッチングすることを含む請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記第1および第2の結合面の少なくとも一方として絶縁性の結合面を形成することを含む請求項1記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-03 
出願番号 特願2013-143038(P2013-143038)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 55- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 536- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 樫本 剛  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 河口 雅英
加藤 浩一
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5864481号(P5864481)
権利者 ジプトロニクス・インコーポレイテッド
発明の名称 低温結合方法  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 直樹  
代理人 野河 信久  
代理人 鵜飼 健  
代理人 野河 信久  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 直樹  
代理人 鵜飼 健  

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