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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01C
管理番号 1327906
異議申立番号 異議2017-700031  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-13 
確定日 2017-05-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第5950171号発明「苗押さえバリ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5950171号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5950171号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年7月27日に特許出願され、平成28年6月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人宮崎幸雄(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


2 本件特許発明
特許第5950171号の請求項1及び2の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。また、それらをまとめて「本件特許発明」という。)。


3 申立理由の概要
申立人は、証拠として以下の甲第1ないし9号証を提出し、概ね以下のとおり主張している。

(1)本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者であれば容易に想到できる発明であり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明もしくは甲第1号証に記載された発明から当業者であれば容易に想到できる発明であり、その特許は特許法第29条第1項第3号もしくは第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
なお、甲第3ないし9号証は、周知技術を示す例である(特許異議申立書の第12及び13頁を参照。)。

[証拠方法]
甲第1号証:特開昭62-294005号公報
甲第2号証:実公昭63-5447号公報
甲第3号証:特開2006-254787号公報
甲第4号証:特開平5-304807号公報
甲第5号証:特開2005-229994号公報
甲第6号証:実願昭61-140876号(実開昭63-45164号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和63年3月26日特許庁発行)
甲第7号証:実願平3-71554号(実開平5-15711号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM(平成5年3月2日発行)
甲第8号証:特開平7-289029号公報
甲第9号証:「ペーパーポットの穿孔法および定植後のローラ鎮圧による活着促進効果について」、てん菜研究会報、20号、第193-202頁、1979年3月


4 各甲号証の記載
(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。

(ア) 「2.特許請求の範囲
(1)紙筒育苗容器で育苗した紙筒苗を移植する移植機であって、
圃場の移植する穴あるいは溝の側面の斜面に置並べた紙筒苗の紙筒の側面に突き刺さり紙筒に穴を開ける突起を有する紙筒穴開け装置と、
この紙筒穴開け装置が紙筒に穴を開けた後紙筒を突き刺したまま定植位置から持ち上げるのを防止する紙筒持ち上げ防止装置と、
を備えたことを特徴とする移植機。」

(イ) 第1頁右下欄第15行目-第2頁左上欄第3行目
「 (発明が解決しようとする問題点)
しかし、紙筒育苗容器で育苗した紙筒苗は、紙筒により包土を確実に保持したまま移植出来る反面、乾燥した条件などでは紙筒が長期間腐敗せず、根の発育を妨たげて成育を阻害し、重大な障害となることがあった。
本発明は、このような問題からなされたもので、紙筒苗を移植後、その根の発育を阻害することがないようにすることを目的とするものである。

(ウ) 第2頁右上欄第3行目-第2頁左下欄第2行目
「 (実施例)
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
第1図および第2図において、1は機枠で、この機枠1の前部にトラクタ連結部2が設けられている。また、上記機枠1の中間上部に座席3が取付けられているとともに、機枠1の両側に上記座席3の前方位置において足掛け4が突設されている。
・・・(略)・・・
上記機枠1の後部に紙筒穴開け装置10が設けられている。この紙筒穴開け装置10は、機枠1に固定した軸11に接地輪12が回転自在に嵌合され、この接地輪12の一側に、外周に多数の突起13を鋸歯状に形成した穴開け板14が取付けられている。

(エ) 第2頁左下欄第8行目-第11行目
「 18は紙筒苗で、この紙筒苗18は、個々の紙筒を整然と配列するとともに水溶性糊で分離可能に連結した紙筒育苗容器で育苗し、個々に分離したものである。」

(オ) 第2頁左下欄第20行目-第2頁右下欄第10行目
「 一方、座席3に腰掛けて座乗している作業者は圃場に順次形成される穴19の側面の斜面に紙筒苗18を順次置並べる。これとともに、覆土板9が圃場表面の土を削り取って前方に押しやりながら前進し、その土で紙筒苗18を穴19に入れたまま覆土する。
つづいて、紙筒穴開け装置10の接地輪12が覆土した部分を更に鎮圧しつつ転動するが、同時に、接地輪12に固定した穴開け板14の各突起13が土中に深く刺さり、紙筒苗18の紙筒の側面にまで刺さり込み、その側面に穴を開けながら転動する。」

(カ) 第2頁右下欄第20行目-第3頁左上欄第2行目
「 このようにして、圃場に移植された紙筒苗18の紙筒の側面に順次穴を開け、紙筒苗18の発根が阻害されないようにする。」

(キ) 第3頁左上欄第8行目-第17行目
「 (発明の効果)
本発明によれば、包土を確実につけたまま移植できる紙筒苗を使用し、紙筒苗が持っている基本的な欠点である、移植後一定期間腐食しないで紙筒が存在するため発根が阻害される問題を根本的に解決することが出来る。
このことにより、紙筒育苗容器の持っている本来の性能を遺憾なく発揮させ、多くの農作物に移植栽培を導入し、農業経営の飛躍的向上をもたらすことが出来る。」

(ク) 第1図及び第2図から、「穴開け板14」は円板状の構造であることが見て取れる。そして、「突起13」が「穴開け板14」の外周に沿って一列であることが見て取れる。

(ケ) 上記(ア)ないし(ク)を踏まえると、「穴開け板14」について、機械的な強度や耐久性を確保するためには材質が金属であることは、当業者に明らかである。

イ 甲第1号証に記載の発明の認定
甲第1号証には、上記ア(ア)ないし(キ)で摘記した事項及び上記(ク)及び(ケ)の事項を踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「紙筒穴開け装置10の穴開け板14は、金属製の円板状の構造であり、
移植機の機枠1に固定した軸11に接地輪12が回転自在に嵌合され、この接地輪12の一側に取り付けられるものであって、
外周に多数の突起13が鋸歯状に一列に形成されており、
穴開け板14の各突起13が、紙筒苗18の紙筒の側面にまで刺さり込み、その側面に穴を開けながら転動する紙筒穴開け装置10の穴開け板14。」


(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の事項が記載されている。

(ア) 「実用新案登録請求の範囲
個々の紙筒が分離線を有する連結部にて多数連設され列状に引出し可能とした連続鉢体を順次個々の鉢体に分離移植する装置において多数の支持針を固設した一対の苗繰出回転体と該苗繰出回転体の繰出部に対応して苗繰出回転体の繰出方向と平行方向に進行せしめる如く回転し、かつ周速を苗繰出回転体より大とした多数の支持針を固設した分離回転体と分離回転体の下方に設けた苗落下管を具備したことを特徴とする連続鉢体の移植装置。」

(イ) 第1頁第1欄第13-23行目
「 この考案は連続鉢体に育苗された移植苗の移植装置に関するものである。
連続鉢体とは特公昭55-30805号に示される如く多数の紙筒が分離部を有する連結片にて連設され、育苗後紙筒集合体の一端を引張ると個々の紙筒がチエーン状に連続的に引出し可能とされているもので、従来の個々に分離された紙筒の集合体に比べ、単に引出しローラ等により順次引出し、連結片を切断することで全体の紙筒を自動的に落下管あるいは移植杆に供給して完全自動移植を可能とする育苗容器である。」

(ウ) 第1頁第2欄第5-24行目
「 然し、一対の回転円錐体が分離すべき紙筒を挾持回動する時に紙筒はぬれており且つやわらかいのでスリツプを起したり、あるいは、紙筒を押し潰したりして挾持部に後続の紙筒がつまり、回転体の回動を止め分離作業を不能にする欠陥がある。又、各紙筒連結部の分離部を二層の紙の同一位置とせず、づらして設けてある連続紙筒においては、分離部を切断する装置では分離できず剥離装置を必要としているものである。この為、この考案者は分離線を設けた連結部にて連結した連続紙筒集合体であれば、どのような連結部でも容易に分離し得る分離装置を有する移植機について種々研究した結果、一対の繰出回転体と一対の分離回転体を、それぞれ紙筒を押し潰さないで通過させ得るに必要な間隔をあけて設け、この回転体に紙筒を確実に支持確保するための突刺体を設けることにより、繰出回転体より繰出される連続紙筒を分離回転体にて個々の紙筒に分離することができる装置とし解決したのである。」

(エ) 第1頁第2欄第25行目-第2頁第4欄第3行目
「 以下これを図面により説明する。
1は移植機の機枠を示し、機枠1の下方には副枠1′を固定し、該副枠1′には駆動軸3を回動自在に取付け、駆動軸3の両端部には1対の接地輪2,2を固定する。従つて駆動軸3は接地輪2の進行により回転し、この回転は接地輪2の外側に位置し軸3に固定した駆動スプロケツト4を回転さす。
一方機枠1の上部には板状の苗載置台5を設け、該苗載置台5の前端には紙筒苗分離装置6を設け両者互に対向させてある。紙筒苗分離装置6は一対の繰出回転体7,8及び一対の分離回転体12,13よりなり、繰出回転体7,8はその間隔を紙筒A′の両側に当接挾持しながら押し潰ぶすことがない程度として、機枠1に設けた堅軸9,10に嵌合固着している。又、各繰出回転体7,8には挾持する紙筒A′の側面を突き刺し保持するための支持針11を多数固設してある。この繰出回転体7,8は単独の回転ローラに支持針11を固設しても又無端ベルトとしてベルト35に支持針11を固設してもよい。
分離回転体12,13は繰出回転体7,8の繰り出し部に対応して設けてあり、繰出回転体7,8と共に水平方向に回動する如く、機枠1に設けた回転軸14,15に嵌合固設し、その回転速度は後述する如く、繰出回転体7,8の回動周速より早くしてある。そしてこの周速の差により紙筒の連結部が破られる。又、この分離回転体12,13の周囲にも繰出回転体7,8と同様紙筒A′を突き刺し保持する支持針11を固設してある。17は繰出回転体7,8下方に設けた第1横軸で、機枠1に支持され堅軸9,10下端に設けた傘歯車18,19に噛み合う傘歯車20,21を設け、一端にスプロケツトを固定し、前記駆動スプロケツト4と対向させ、その間にチエン22を張設してある。24は分離回転体12,13下方に設けた第2横軸で回転軸14,15のそれぞれの下端に設けた傘歯車25,26と噛み合う傘歯車27,28を設けてある。又一端にはスプロケツト29を固設し、第1横軸17に固設したスプロケツト30と対向させ、その間に張設したチエーン31により連動する如くしてある。この第1横軸17のスプロケツト30より、第2横軸24に固設したスプロケツト29は回転を早くするものでこのため、繰出回転体7,8の周速より分離回転体12,13の回動周速が早くなる。この周速の差により連続紙筒集合体Aの連結部Bが破れ、個々の紙筒と分離するので、スプロケツト30の径を大としてあり、通常は2倍以上の周速となる様にスプロケツト29,30を設定する。」

(オ) 第2頁第4欄第9-16行目
「 又、この考案で使用の連続紙筒集合体Aとしては第5図に示す如く、紙筒A′の連結部Bに設ける分離線B′を二層の紙の同一位置に設けたもの(第5図イ)、分離線B′の位置を互いにづらしてあるもの(第5図ロ)、連結部B中央に長目の切目線を設けたもの(第5図ハ)、等連結部Bに分離線B′を設けてある連続紙筒集合体Aが使用出来るものである。」

(カ)第2図は、第1図の紙筒苗分離装置の平面図である。上記(イ)の「繰出回転体7,8はその間隔を紙筒A′の両側に当接挾持しながら押し潰ぶすことがない程度として、機枠1に設けた堅軸9,10に嵌合固着している」という記載及び第2図を踏まえると、繰出回転体8について、平面図で見て中心には、堅軸10にセットする穴を有すると認められる。

(キ)第3図は、第2図の側面図である。第3図から、繰出回転体8の側面には二列の支持針11が形成されていることが見て取れる。

(ク)第2図及び第3図から、繰出回転体8が円柱状であることが見て取れる。

(ケ)上記(イ)の「多数の紙筒が分離部を有する連結片にて連設され、育苗後紙筒集合体の一端を引張ると個々の紙筒がチエーン状に連続的に引出し可能とされているもの」という記載と上記(オ)及び第5図を踏まえると、連続紙筒集合体A、及びそれを個々に分離した紙筒A′は、チェーンポットであると認められる。

イ 甲第2号証に記載の発明の認定
甲第2号証には、上記ア(ア)ないし(オ)で摘記した事項並びに上記(カ)ないし(ケ)の事項を踏まえると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「一対の繰出回転体7,8及び一対の分離回転体12,13よりなり、周速の差によりチェーンポットである連続紙筒集合体Aの連結部Bが破れ、個々の紙筒A′と分離するようにした紙筒苗分離装置6に用いられる繰出回転体8は、円柱状の回転ローラであって、
平面図で見て中心には、堅軸10にセットする穴を有し、側面には二列の支持針11が多数固設されていて、
繰出回転体8を、繰出回転体7との間隔を紙筒A′の両側に当接挾持しながら押し潰ぶすことがない程度として、移植機の機枠1に設けた堅軸10に嵌合固着し、繰出回転体7とで挾持する紙筒A′の側面を突き刺し保持するようにした繰出回転体8。」


(3)甲第3号証について
甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項5】
育苗箱は一列複数個で多数のポット状苗室を備え、その各苗室には無数の開穴又は開溝又は網目状の開口があることを特徴とする分岐根発生ポット式育苗箱。」

イ 「【0009】
本発明に係る出芽苗の育成方法では、稲用育苗の場合には、必要籾種の播種を行い、その後に麦の種子を重ね播種することで、多くの出根を促し、早急に根鉢体を作ることができる。また、本発明の催芽苗の育成方法は、培土を詰めた育苗箱に催芽種子の播種を行い根鉢体を作るだけの役目の種子を催芽種子の上にさらに播種して覆土を行い、育苗箱を温風強制循環恒温出芽庫内に積み重ねて出芽させることで出芽と同時に出芽苗となる。」

ウ 「【0017】
育苗箱2は、一列複数個のポット3のポット状苗室3aが形成され、図3(a)?(c)に示すように、ポット3にはポット状苗室3aに貫通する側面孔3b及び底穴3c、多数の円形孔3d、スリット3eが穿設されるか、図3(d)に示すように、全体を網目状に形成され、多数の分岐根が発生できるようにされている。」


(4)甲第4号証について
甲第4号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0009】
【実施例】図1は本発明苗供給装置を搭載した移植機の側面図で、1はその移植機のメインフレーム、2,2′はトラクタ(図示していない)に連結するための上下補助フレーム、3は駆動輪、4は夾雑物を切断するたローリングコルタ、5は畝溝を作るオープナ、6は畝溝の苗を鎮圧する鎮圧輪、7は作業員用の座席、8は苗群を載せておく苗台、Aは苗供給装置、Bは植付け器である。
【0010】この移植機は、トラクタで矢印9方向に牽引され走行するのにともない、苗供給装置A及び植付け器Bが駆動輪3の動力で駆動し、作業員が苗台8から手作業で転載した列苗を、その苗供給装置Aで各別の紙筒苗に分離するとともに左右に振分け、その紙筒苗を植付け器Bに供給し、それをオープナ5が作った溝に放出したところで、鎮圧輪6により鎮圧して完了する一連の移植作業を行う。
【0011】上記苗供給装置Aは、受入装置A_(1) と選別整列装置A_(2) と振分け装置A_(3) とで構成されている。受入装置A1 において、10は苗受入コンベアで、その受入端側10′を上記苗台8に対向位置させるとともに、送出端側10″の上方に押さえ輪11を軸架し、かつ、その送出端側10″の前方には、該苗受入コンベア10及び押さえ輪11より速い周速に設定した苗分離部材である分離輪12を軸架している。
【0012】座席7の作業員は、苗台8上の苗群(図示していない)から、別途用意した2列重合取り用の苗分割器(図示していない)等を使用して、23?35本の紙筒苗Pからなる列苗a,a′を2列重合した状態で一度に分割し、さらに、その2列が上下2段になる横置状態にして苗受入コンベア10の受入端側10′に乗載する。その上下2段の列苗a,a′は、送出端側10″と押さえ輪11との間から前方に送出され、かつ、上段の列苗aの先頭の紙筒苗Pと下段の列苗a′の先頭の紙筒苗Pとが、交互に、上記分離輪12に接合することによりそれぞれ後続の紙筒苗Pから分離し、送出端10″と分離輪12との間から送出されるようにしてある。
【0013】上記において、分離輪12を、苗受入コンベア10及び押さえ輪11に比し速い周速に設定した無端ベルトに代えることができることは明らかである。
【0014】13は、苗受入コンベア10から送出された紙筒苗Pを受入し転送する転送コンベアで、その受入端側13′の上方にゲートローラ14を軸架するとともに、送出端側13″の上方に押さえ輪15を軸架し、さらにその送出端側13″の前方に、該転送コンベア13及び押さえ輪15より速い周速に設定して縦設した苗分離部材である分離ベルト16の頂部を対向位置させ、かつ、その分離ベルト16に対向させて挟持ベルト17を縦設している。」

イ 「【0029】選別整列装置A_(2) から、さらに具体的には、整列ベルト24,24′及び整列ローラ25と押さえ輪25′とから定速で送出される紙筒苗Pは、上側左右振分けベルト27,28の垂直転送路33に挟持されることにより速度を上げ、したがって、互いに所要の間隔(予め設定する植付け間隔の1/2)を保持しながら下方に転送される。」


(5)甲第5号証について
甲第5号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの苗受入装置に受入した紙筒苗を、一つの苗振分け転送装置によって二つの苗植付装置に振分けて供給し、その紙筒苗を圃場に2条に植え付けるようにした苗移植機の苗振分け転送装置の改良に関する。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態・実施例】
【0022】
以下図1・2・3・4に概略を示して、一実施例を説明する。本実施例は、トラクター直装型2畦用苗振分け転送装置付移植機を示す。トラクターに連結する前フレーム30、移植機フレーム31が2個、駆動輪32が2個、オプナー33が2個、苗台34が1個、苗受入装置1としてのベルトコンベアが1本、苗振分け転送装置が1個、左右二つの苗植付装置14,15等を有している。本発明案は、勿論本実施例に限定されるものでは無い。」


(6)甲第6号証について
甲第6号証には、次の事項が記載されている。

ア 「2.実用新案登録請求の範囲
間隔をあけて平行に配置した円板を互いに連結し、該円板の軸心を両側から回転自在に支持する枠体と、該枠体に接続したハンドルとにより構成し、それぞれの円板の外周上に、間隔をあけて遠心方向に突出する切り刃を複数個設けたことを特徴とするマルチングシート用ゲージカッター。」

イ 明細書第3頁第10行目-第18行目
「 (実施例)
本考案を実施例によって説明すると、第1図は斜視図で、二つの円板1,1が間隔をあけて平行に配置され、それぞれの円板の軸心が枠体2によって回転自在に支持され、ハンドル3が該枠体2に接続して構成されている。上記円板1,1のそれぞれは互いに連結されており、かつ、それぞれの円板1,1外周上に間隔をあけて突出する切り刃4が複数個設けられる。」


(7)甲第7号証について
甲第7号証には、次の事項が記載されている。

「【0006】
【実施例】
次に本考案の一実施例を添付した図面に基いて詳細に説明する。1は移植機の走行機体であって、前輪2および後輪3を備えた機体フレーム4の前部にエンジン5が搭載され、その後方に運転席6が配設されている。走行機体1の後部には、種球を有するラッキョウ苗等のテープ苗を移植する6条植えの植付部7がリンク機構8を介して昇降自在に装着されている。
【0007】
上記植付部7には、支持台9が前高後低状に支持されており、該支持台9の上部側にテープ苗Aを収納する苗箱10が植付条数に対応して配設されている。上記テープ苗Aは、種球aを有する苗株bを所定間隔に配置し、テープ11により種球aの上方を連結して帯状に形成したものであって、互に隣接する苗株bの中間位置には、搬送孔12がテープ11に設けられている。そして、支持台9上には、苗箱10から繰出し供給されたテープ苗Aを立姿状に支持して下方の苗取出側に向けて搬送する搬送経路13が形成されている。
上記搬送経路13には、図1に示すように、その上手側に回転輪体14を設け、下手側には上手側の回転輪体14と同形状の回転輪体15を設けて、両回転輪体14,15に突成した搬送爪16,16がテープ苗Aの搬送孔12に係合してテープ苗Aを苗取出側に向けて搬送する。そして、上記搬送爪16は先端が先細り状に形成されており、両回転輪体14,15の外周に12本づつ等間隔に突成されていて、常時、両回転輪体14,15はそれぞれ1本以上の搬送爪16が必ず搬送孔12に係合している。また両回転輪体14,15を搬送爪16の4ピッチ分の間隔に配設することによって、搬送爪16が互に干渉しないようになっている。
17,17は下手側回転輪体15下方のテープ11を挾む位置に設けた一対の羽根車であって、該羽根車17は8枚の羽根体18,18・・・を等間隔に突成したゴム等の弾性体により形成されていて、互に逆方向に回転する羽根車17,17が搬送終端部の種球aを羽根体18の対向間に保持するものである。」


(8)甲第8号証について
甲第8号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】ある広さの板(1)に、数個の上下が閉塞していない円筒部(2)と数個の小穴(3)で、構成された草花植え込み用具」

イ 「【0007】実施例2
図3に基づいて説明する。実施例2の植え込み用具は、実施例1の円筒部(2)の側面に小穴を設けたものである。」

ウ 「【0009】
【効果】
(イ) 円筒部(2)は、大きさを育苗用小鉢に合わしているため、市売の苗等を小鉢から草花を抜いた状態で植えれる。又、円筒部(2)で区切ってあるので、隣の草花に関係なく植え替え等が出来る。
(ロ) 円筒部(2)は、上下を閉塞していないので草木の生育を妨げない。又、側面に小穴を構成すれば、より根の張りを妨げない。
(ハ) 円筒部(2)は、板(1)に固定しているので一定の形になる。又、この草花植え込み用具を連接すれば、草花を植えると一定の形になる。
(ニ) 小穴(3){板(1)の縁の小穴は半円状になる}があるので、この植え込み用具に草花を植えた後でも、土及び肥料をいれれる。板(1)の縁の小穴は半円状になっているため、同じ形状の植え込み用具を連接すれば、円形になるし、プランターの大きさに適合させた植え込み用具では取り出し用にもなる。
(ホ) 円筒部(2)及び小穴(3)以外は、板(1)で、土を覆うので、雑草は生えない。」


(9)甲第9号証について
甲第9号証には、次の事項が記載されている。

ア 第193頁 「1.緒言」
「 それらのことから一方策としてペーパーポットを穿孔することにより,育苗中の根張りを増加させ栄養吸収の良い苗を作り定植後の破筒促進化を図った。更に定植後,苗をローラ鎮圧することによりペーパーポットと土壌との間隙をうめ、土壌の物理的効果を上げることにより活着を促進させその後の生育・収量に好結果が得られたので報告する。」

イ 第194頁 「イ.穿孔」
「穿孔針は直径3mm,長さ7cmのものが縦5列,横20列の合計100本装着されている。ペーパーポットは規格1号を使用し穿孔状況は図2に示す。」

ウ 第195-196頁 「3.試験結果」
「(1)育苗について
穿孔方法,又は一般苗との比較検討を行なったが顕著な処理差はみられなかった。しかし,穿孔処理苗は育苗中の根張りが良くなり,栄養吸収の良い健苗育成が出来たものと判断される。まだ具体的に穿孔紙筒の健苗育成方法は明らかではないが一般慣行管理において写真4に示す様に根群が発達し土もちが良いことがわかる。これは育苗30日目に紙筒を破った状況である。」

エ 第200頁 「4.考察」
「 又,定植後穿孔箇所から根毛が伸長しており,破筒・活着促進効果となっていた。」


5 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1の「苗押さえバリ」について
(ア)「苗押さえバリ」は、「苗押さえ」と「バリ」という用語を連結したものであるから、「苗押さえ」に関連する部材であると解される。
(イ)そして、本件明細書の段落【0010】及び【0011】に、「苗押さえバリ本体を固定するシャフト(9)を平面からみて、中間に苗押さえバリ本体(1)が、設置されるが、その左右は苗押さえスポンジ(6)で挟まれている形状である。」及び「苗押さえスポンジ(6)はペーパーポットに植えられた苗を畑に移植する際に連結された苗を生育させるペーパーポット(7-1)を個別に取り外すための働きをするもので、この間に苗押さえバリ(1)を取り付けることにより、移植時に同時にペーパーポットに横穴を開けることが出来る。」と記載されていることから、「苗押さえバリ」とは、苗を入れた容器であるペーパーポットを押圧する部材(苗押さえスポンジ)と一体で機能するとともに、ペーパーポットに横穴を開ける針を備える部材であると解される。

イ 甲1発明について
甲1発明の「穴開け板14」は、「穴開け板14の各突起13が、紙筒苗18の紙筒の側面にまで刺さり込み、その側面に穴を開けながら転動する」(上記4(1)イを参照。)から、「紙筒(ペーパーポット)に横穴を開ける針を備える部材」である。よって、甲1発明の「穴開け板14」と本件特許発明1の「苗押さえバリ」とは、紙筒(ペーパーポット)に横穴を開ける針を備える部材である点で共通する。
一方、甲1発明の「穴開け板14」は、「移植機の機枠1に固定した軸11に接地輪12が回転自在に嵌合され、この接地輪12の一側に取り付けられる」(上記4(1)イを参照。)から、「接地輪12」と一体で機能するものである。ここで、甲1発明の「接地輪12」は、「苗を入れた容器であるペーパーポットを押圧する」機能を有していない、すなわち、「苗を入れた容器であるペーパーポットを押圧する部材(苗押さえスポンジ)」に該当しない。してみると、甲1発明の「穴開け板14」は、「苗を入れた容器であるペーパーポットを押圧する部材(苗押さえスポンジ)と一体で機能する」ものではないといえる。
したがって、甲1発明の「穴開け板14」は、本件特許発明1の「苗押さえバリ」に相当するものとはいえない。

ウ 甲2発明について
甲2発明の「繰出回転体8」は、「繰出回転体7との間隔を紙筒A′の両側に当接挾持しながら押し潰ぶすことがない程度として」いるから(上記4(2)イを参照。)、「苗を入れた容器である紙筒A′を押圧する部材」であるといえる。甲2発明の紙筒A′はチェーンポットであって、ペーパーポットではない。
また、甲2発明の「繰出回転体8」は、「側面には二列の支持針11が多数固設されていて」「紙筒A′の側面を突き刺し保持する」から(上記4(2)イを参照。)、「紙筒A′に横穴を開ける針を備えた部材」であるといえる。
したがって、甲2発明の「繰出回転体8」は、「苗を入れた容器である紙筒A′を押圧する部材」と「紙筒A′に横穴を開ける針を備えた部材」とを兼用しているといえる。
一方、本件特許発明1の「苗押さえバリ」は、苗を入れた容器であるペーパーポットを押圧する部材(苗押さえスポンジ)と一体で機能するとともに、ペーパーポットに横穴を開ける針を備える部材である。
してみると、甲2発明の「繰出回転体8」と本件特許発明1の「苗押さえバリ」とは、苗を入れた容器に横穴を開ける針を備える部材である点では共通する。
しかしながら、両者は、甲2発明の「繰出回転体8」は「円柱状の回転ローラであ」るのに対し、本件特許発明1の「苗押さえバリ」は「円柱状の金属を輪切り状にした構造であ」るから、構造が異なるとともに、苗を入れた容器を押圧する部材(苗押さえスポンジ)を兼用するか否かという点で異なる。また、苗を入れた容器がチェーンポットであるかペーパーポットであるかという点でも異なるといえる。すなわち、甲2発明は、「分離線を設けた連結部にて連結した連続紙筒集合体であれば、どのような連結部でも容易に分離し得る分離装置」(上記4(2)ウを参照。)を提供することを課題としているのであるから、「分離線を設けた連結部にて連結した連続紙筒集合体」(チェーンポット)の使用を前提にしているといえる。そして、甲第2号証にはペーパーポットについては何ら記載されていない。
したがって、甲2発明の「繰出回転体8」は、本件特許発明1の「苗押さえバリ」に相当するものとはいえない。

エ 甲1発明と甲2発明の組み合わせについて
甲1発明の課題は、突起13で紙筒の側面に穴を開けることについて、「紙筒苗を移植後、その根の発育を阻害することがないようにすること」(上記4(1)ア(イ)を参照。)であるのに対して、甲2発明の課題は、支持針11で紙筒A′の側面を突き刺し保持することについて、「この回転体に紙筒を確実に支持確保するため」(上記4(2)ア(ウ)を参照。)であるから、甲1発明と甲2発明との間には課題の共通性がない。
また、甲1発明の「穴開け板14」は、「金属製の円板状の構造であ」るのに対し、甲2発明の「繰出回転体8」は、「円柱状の回転ローラであ」るから、構造が異なる。
さらに、甲1発明の「穴開け板14」は、「紙筒穴開け装置10」の「接地輪12の一側に取り付けられる」のに対し、甲2発明の「繰出回転体8」は、「紙筒苗分離装置6」の一部として「移植機の機枠1に設けた堅軸10に嵌合固着」されるものであるから、取付箇所が異なる。
したがって、甲1発明の「穴開け板14」と甲2発明の「繰出回転体8」とは、課題の共通性がないことに加えて、構造及び取付箇所が異なるから、甲1発明の「穴開け板14」に甲2発明の「繰出回転体8」が具備する事項を適用する動機付けがあるとはいえない。

オ 甲第3ないし9号証について
甲第4及び5号証には、苗押さえに相当する技術事項が記載されているが、ペーパーポットに横穴を開ける点は、記載も示唆もされていない。
甲第3、6ないし9号証には、上記4(3)、(6)ないし(9)で述べた事項が記載されているが、甲第3、6ないし9号証のいずれにも、本件特許発明1の「苗押さえバリ」に相当するものが記載されていない。

カ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2発明、並びに甲第3ないし9号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

キ 申立人の主張について
申立人は、
(ア)甲1発明における「 紙筒穴開け装置10の円柱状の金属を輪切りにした構造の穴開け板14」は、本件特許発明1における「円柱状の金属を輪切り状にした構造の苗押さえバリ本体(1)」に相当し、同様に「機枠1に固定した軸11に接地輪12が回転自在に嵌合され、この接地輪12の一側に、外周に多数の突起13を鋸歯状に形成した穴開け板14が取り付けられている点」は、「平面から見て中点には、移植機のシャフトにセットする穴(5)と、側面には二列の針を設け、」に、また、「(移植機の)機枠1に固定した軸11に接地輪12が回転自在に嵌合され、この接地輪12の一側に、外周に多数の突起13を鋸歯状に形成した穴開け板14が取り付けられ、穴開け板14の各突起13が、紙筒苗18の紙筒の側面にまで刺さり込み、その側面に穴を開けながら転動する点」は「苗押さえバリ本体(1)を移植機のシャフトにセットして、ペーパーポットに横穴をあけられる構造にした事」に、それぞれ相当する。」(特許異議申立書の第12頁を参照。)
及び
(イ)「穴開け板の「側面には二列の針を設け」る点は、甲第2号証に開示されているから、当業者の設計的事項である。」と主張するとともに、
(ウ)「したがって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証の記載に基づき、当業者が容易に想到し得るものである。」と主張している(特許異議申立書の第13頁を参照。)。

しかしながら、上記イで述べたように、甲1発明の「穴開け板14」は本件特許発明1の「苗押さえバリ」に相当するものではない。
また、上記エで述べたとおり、甲1発明の「穴開け板14」に甲2発明の「繰出回転体8」が具備する事項を適用する動機付けがあるとはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。


(2)本件特許発明2について
ア 対比・判断
(ア)本件特許発明2は、本件特許発明1を引用したものである。
上記(1)イと同様に、甲1発明の「穴開け板14」は、本件特許発明2の「苗押さえバリ」に相当するものとはいえない。
したがって、本件特許発明2は、甲1発明と同一とは認められない。

(イ)甲1発明の「穴開け板14」について、「接地輪12」を「苗を入れた容器であるペーパーポットを押圧する部材(苗押さえスポンジ)」に変更する動機付けが認められないから、本件特許発明2は、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ 申立人の主張について
申立人は、
(ア)「 本件特許発明2で、穴開け体の側面での針の配列が「一列バリ」である点は、甲1発明において、針に相当する突起が「一列」に、鋸歯状に形成されているから、針の配列について本件特許発明2と甲1発明とで相違はない。なお、農機具において、円板状あるいは回転輪体の周囲に、針状のものを一列に設ける点は、甲第6号証あるいは甲第7号証に記載されているように、従来周知の事項である。」と主張するとともに、
(イ)「したがって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明もしくは甲第1号証の記載に基づき、当業者が容易に想到し得るものである。」と主張している(特許異議申立書の第13頁を参照。)。

しかしながら、針の配列において両者に相違がないとしても、上記ア(ア)で述べたとおり、甲1発明の「穴開け板14」は本件特許発明2の「苗押さえバリ」に相当するものとはいえないから、本件特許発明2が甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、上記ア(イ)で述べたとおり、甲1発明の「穴開け板14」について、「接地輪12」を「苗を入れた容器であるペーパーポットを押圧する部材(苗押さえスポンジ)」に変更する動機付けが認められないから、本件特許発明2は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。


6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-17 
出願番号 特願2015-147411(P2015-147411)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 和雄  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
藤田 都志行
登録日 2016-06-17 
登録番号 特許第5950171号(P5950171)
権利者 筑田 利昭
発明の名称 苗押さえバリ  

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