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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
審判 全部申し立て 特39条先願  A61B
管理番号 1327907
異議申立番号 異議2017-700079  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-31 
確定日 2017-05-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5959710号発明「結び目をつける作業が不要な縫合糸及びそれを含むキット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5959710号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5959710号の請求項1?12に係る特許についての出願は、2012年12月24日(パリ条約による優先権主張 2011年12月27日(KR)大韓民国)を国際出願日とする特願2014-549981号の一部を平成27年10月30日に新たな特許出願とした特願2015-214011号の一部を、さらに平成27年12月10日に新たな特許出願としたものであって、平成28年7月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人医療法人社団翔友会(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5959710号の請求項1?12の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明12」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として
甲第1号証:特開2000-225118号公報
甲第2号証:特表2010-500102号公報
甲第3号証:特開2009-247890号公報
甲第4号証:特開2011-240133号公報
甲第5号証:特開2011-240134号公報
甲第6号証:特表2007-537017号公報
甲第7号証:特許第5981674号公報(特願2016-122504号)
を提出し、概略、以下のように主張している。

1.理由1
本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。よって、その特許は同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2.理由2
本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明1?5、7、9、10は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明8、11、12は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。よって、これらの特許は同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3.理由3
本件特許発明1?12は、同日出願された特願2016-122504号の請求項1?12に係る発明と同一であり、かつ当該発明は特許されており協議を行うことができないから、本件の請求項1?12に係る特許は、同法第39条第2項の規定に違反してされたものである。よって、その特許は同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 甲号証の記載
1.甲第1号証
図4の記載から、アンカー20は、図面上において左側の端部と右側の端部を有する形状であることがうかがえる(以下、これら「左側の端部」、「右側の端部」を、それぞれ「アンカー左端」、「アンカー右端」という。)。
また、同じく図4の記載から、図面上において、アンカー右端より右側にある縫合糸40は、閉じた形状を形成しており、それゆえに右側の端部を有するものであることがうかがえる(以下、その「右側の端部」を「右側末端」という。)。
さらに、同じく図4の記載から、第1の端部42の近傍にアンカー20が位置していることがうかがえる。
前記図面に記載された事項と、段落[0001]、[0003]、[0016]、[0019]の記載からみて、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「第1の端部42、第2の端部44及び右側末端を有し、第1の端部42の近傍にアンカー20を備えた縫合糸40において、アンカー20は、アンカー右端とアンカー左端を備え、アンカー右端とアンカー左端を貫通するテーパ状又は階段状のカニューレ22を備え、アンカー20は、アンカー左端が縫合糸40の第1の端部42の方を向くように設けられており、第1の端部42側の縫合糸40は、引き解け結び48の輪49を有し、縫合糸40はアンカー20のカニューレ22を貫通し、前記右側末端において閉じた形状を形成する縫合糸40。」

2.甲第2号証
段落[0018]、[0023]、[0031]、図1、図3、図11、図12A、図12Bの記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲2事項」という。)。
「縫合糸アセンブリ10において、柔軟体20に略円錐状構造の組織係合要素30?47を設け、柔軟体20に設けられた複数の結び目50?67によって組織係合要素30?47の移動を制限することで、縫合糸アセンブリ10に方向性特性を与えること。」

3.甲第3号証
段落[0005]、[0077]、図8Cの記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲3事項」という。)。
「縫合糸において、ループ63にエンドエフェクタとしての綿撒糸67及びバーブ68を設けることで、縫合糸の保持力を改善すること。」

4.甲第4号証
段落[0005]、[0080]、図8Cの記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲4事項」という。)。
「縫合糸において、ループ63にエンドエフェクタとしての外科用綿撒糸67及び棘68を設けることで、縫合糸の保持力を改善すること。」

5.甲第5号証
段落[0005]、[0081]、図8Cの記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲5事項」という。)。
「縫合糸において、ループ63にエンドエフェクタとしての外科用綿撒糸67及び棘68を設けることで、縫合糸の保持力を改善すること。」

6.甲第6号証
段落[0002]、[0021]、図1の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲6事項」という。)。
「縫合糸90において、縫合糸本体92にバーブ94を設けることで、縫合糸90をある方向に引くことを可能にする一方、縫合糸90が反対の方向に移動することを妨げ、さらに縫合糸本体92にアンカー98を設けることで、組織への最初の挿入点でかみ合い、縫合糸90がさらに移動することを妨げること。」

第5 判断
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本件特許発明6と甲1発明との対比
ア.本件特許発明6と甲1発明とを対比すると、その構造又は機能からみて、甲1発明の「第1の端部42」と「第2の端部44」は、本件特許発明6の「第1末端」に相当し、以下同様に、「右側末端」は「第2末端」に、「アンカー20」は「縫合糸支持体」に、「アンカー右端」は「下側末端部」に、「アンカー左端」は「上側末端部」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「カニューレ22」は、縫合糸支持体の下側末端部と上側末端部を貫通する限りにおいて、本件特許発明6の「連通孔」と対応する。

イ.そこで、まず、甲1発明は、本件特許発明6の「前記縫合糸は、前記上側末端部を基準にして前記第1末端の側に位置する前記縫合糸からなる結び目を有し、前記結び目から2本に分かれて、前記分かれた2本は前記縫合糸支持体の前記上側末端部から前記下側末端部へ前記連通孔を貫通し、前記第2末端において閉じた形状を形成する」との発明特定事項を有するといえるかどうかについて検討する。
甲1発明の「引き解け結び48」は第1の端部42側の縫合糸40が有している。また、甲第1号証の段落[0003]及び[0019]に示されている縫合糸40の固定方法によれば、当該縫合糸40の第2の端部44は、アンカー20のカニューレ22を通過し、修復したい組織と第2のアンカー80を経由し、アンカー20のカニューレ22を再び通過した後、当該「引き解け結び48」の「輪49」に通される。このように構成されているため、外科医が縫合糸40の第2の端部44を引っ張ると、当該「引き解け結び48」は移動し、アンカー20のカニューレ22にくい込み、縫合糸40を固定する。
一方、本件特許発明6の「結び目」は縫合糸の第1末端に設けられたものであり、縫合糸支持体を縫合糸から分離させないようにしたものである(段落[0021]参照)。これにより、「縫合糸支持体は、縫合をほどけさせない結び目の役割を行うだけではなく、縫合やリフティングを行いつつ、糸を引っ張るときに、縫合糸が移動せずに固定されるようにする。」(段落[0032]参照)という機能を発揮するものである。
そうすると、本件特許発明6の「結び目」は縫合糸支持体に対して移動しないのに対し、甲1発明の「引き解け結び48」はアンカー20に対して移動することから、当該「引き解け結び48」は、本件特許発明6の前記機能を発揮することができず、甲1発明の「引き解け結び48」は本件特許発明6の「結び目」に相当しない。
したがって、甲1発明は前記発明特定事項の前提となる「結び目」に相当する構成を有していないことから、甲1発明は本件特許発明6の前記発明特定事項を有していない。

ウ.以上のとおりであるから、その他の構成について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲1発明と同一であるとはいえない。

(2)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(第17ページのエ)において、甲1発明の「引き解け結び48」が、本件特許発明6の「結び目」に相当する旨、主張しているが、前記(1)に示したとおり、甲1発明の「引き解け結び48」は本件特許発明6の「結び目」に相当しないことから、このような主張には理由がない。

(3)まとめ
したがって、請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるとの取消理由1には、理由がない。

2.理由2(特許法第29条第2項)について
まず、本件特許発明6について検討し、続いて本件特許発明1、4について検討する。その後、本件特許発明1、4、6を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2、3、5、7?12について検討する。

(1)本件特許発明6について
ア.本件特許発明6と甲1発明との対比
本件特許発明6と甲1発明とを対比すると、その構造又は機能からみて、甲1発明の「第1の端部42」と「第2の端部44」は、本件特許発明6の「第1末端」に相当し、以下同様に、「右側末端」は「第2末端」に、「アンカー20」は「縫合糸支持体」に、「アンカー右端」は「下側末端部」に、「アンカー左端」は「上側末端部」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「カニューレ22」は、縫合糸支持体の下側末端部と上側末端部を貫通する限りにおいて、本件特許発明6の「連通孔」と対応する。
したがって、両者は「第1末端及び第2末端を有し、前記第1末端の近傍に縫合糸支持体を備えた縫合糸において、前記縫合糸支持体は、下側末端部と上側末端部を備え、前記下側末端部と上側末端部を貫通する連通孔を備え、前記縫合糸支持体は、前記上側末端部が前記縫合糸の第1末端の方を向くように設けられて」いる点で一致し、以下の点で相違する。

(ア)相違点1
本件特許発明6は「前記縫合糸は、前記上側末端部を基準にして前記第1末端の側に位置する前記縫合糸からなる結び目を有し、前記結び目から2本に分かれて、前記分かれた2本は前記縫合糸支持体の前記上側末端部から前記下側末端部へ前記連通孔を貫通し、前記第2末端において閉じた形状を形成する」との発明特定事項を有するのに対し、甲1発明はそのような発明特定事項を有していない点。

(イ)相違点2
本件特許発明6では「第2末端」が「1本の糸の略半分で折られた部分」であるのに対し、甲1発明では外科医が「第2の端部44」を引っ張ることで各構成の相対的な位置関係が変化するため、右側末端が縫合糸40の略半分で折られた部分であるかどうか明らかでない点。

イ.判断
相違点1について検討する。
当該相違点1に係る発明特定事項は、前記1.において判断したとおり、甲第1号証に記載も示唆もされていない。また、当該発明特定事項は、甲第2号証?甲第6号証のいずれにも記載も示唆もされておらず、しかも本件の出願時における技術常識であるともいえない。
仮に、甲1発明の「引き解け結び48」について本件特許発明6の「結び目」と同様の機能を発揮するように、当該「引き解け結び48」がアンカー20に対して相対移動しない構成を実現しようとすると、「引き解け結び48」がアンカー20のカニューレ22にくい込むことを妨げることに加え、第2の端部44も「引き解け結び48」に固定されてしまい、甲第1号証の段落[0019]に記載されている使用法、つまり外科医が第2の端部44を引っ張ってアンカー20と第2のアンカー80を近付けるという使用法が不可能となる。このことは、組織の修復ができなくなることを意味するから、甲1発明において「結び目」の機能を実現する際の阻害要因となる。
よって、甲1発明において相違点1に係る発明特定事項を有するものとすることは、当業者にとって容易になし得たことではない。

加えて、本件特許発明6は、前記相違点1に係る技術的特徴により、「本発明で提供する縫合糸は、縫合組織の密着時、支持時または固定時に、結び目をつけなくとも安全に実施することができ、縫合糸が施術部位において、堅固に維持・固定され、さらに効果的に組織を押さえつけることができる。また、本発明で提供するキットを使用する場合、医師の熟練度と係わりなく施術が容易であり、簡単であって、優秀な施術効果を達成することができる。」(段落[0013])という格別の効果を得るものである。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲1発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明1について
ア.本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、その構造又は機能からみて、甲1発明の「第1の端部42」と「第2の端部44」は、本件特許発明1の「第1末端」に相当し、以下同様に、「右側末端」は「第2末端」に、「アンカー20」は「縫合糸支持体」に、「アンカー右端」は「下側末端部」に、「アンカー左端」は「上側末端部」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「カニューレ22」は、縫合糸支持体の下側末端部と上側末端部を貫通する限りにおいて、本件特許発明1の「連通孔」と対応する。
したがって、両者は「第1末端及び第2末端を有し、前記第1末端の近傍に縫合糸支持体を備えた縫合糸において、前記縫合糸支持体は、下側末端部と上側末端部を備え、前記下側末端部と上側末端部を貫通する連通孔を備え、前記縫合糸支持体は、前記上側末端部が前記縫合糸の第1末端の方を向くように設けられて」いる点で一致し、以下の点で相違する。

(ア)相違点3
本件特許発明1は「前記縫合糸は、前記上側末端部を基準にして前記第1末端の側に位置する前記縫合糸からなる結び目を有し、前記結び目から2本に分かれて、前記分かれた2本は前記縫合糸支持体の前記上側末端部から前記下側末端部へ前記連通孔を貫通し、前記第2末端において閉じた形状を形成し」との発明特定事項を有するのに対し、甲1発明はそのような発明特定事項を有していない点。

(イ)相違点4
本件特許発明1の「縫合糸支持体」は「切頭円錐状または切頭角錐状の形状を有し、前記下側末端部の直径は前記上側末端部の直径より大きい」との発明特定事項を有するのに対し、甲1発明の「アンカー20」はそのような発明特定事項を有しているかどうか明らかでない点。

イ.判断
相違点3について検討する。
当該相違点3は、前記相違点1と実質的に相違するものではない。
そうすると、前記(1)イ.に示した判断と同様に、当該相違点3に係る発明特定事項は、甲第1号証に記載も示唆もされていない。また、当該発明特定事項は、甲第2号証?甲第6号証のいずれにも記載も示唆もされておらず、しかも本件の出願時における技術常識であるともいえない。
よって、甲1発明において相違点3に係る発明特定事項を有するものとすることは、当業者にとって容易になし得たことではない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(第18ページの(イ))において、甲1発明の「アンカー20」に換えて甲2事項の「組織係合要素30」等を使用し、本件特許発明1の「縫合糸支持体」を構成することは当業者にとって容易である旨、主張しているので検討する。
甲1発明の「アンカー20」は、その内部にカニューレ22が設けられており、このカニューレ22に引き解け結び48がくい込むことで縫合糸を固定するものである。つまり、カニューレ22に引き解け結び48がくい込むまでは、縫合糸に対して「アンカー20」は相対的に移動することができるものである。
一方、甲2事項の「組織係合要素30?47」は、結び目50?67によって縫合糸上の移動が制限されている。また、「組織係合要素30?47」を略円錐状構造とすることで、縫合糸に方向性特性を与えるものである。
そうすると、「アンカー20」と「組織係合要素30」等は、縫合糸に設けられている点では共通するものの、引き解け結び48を内部のカニューレ22にくい込ませて縫合糸を固定する部材である点と、結び目50?67によって縫合糸に対する移動を制限され単に縫合糸に方向性特性を与える部材である点とで、縫合糸に対する作用も縫合糸に設けられる目的も異なっていることから、「アンカー20」を「組織係合要素30」等に置き換えようとする動機付けがなく、その置き換えは当業者であっても容易ではない。
仮に、甲1発明において、「アンカー20」を「組織係合要素30」等に置き換えようとすると、カニューレ22が失われてしまうため、第2の端部44をカニューレ22に再び通すことも、カニューレ22に引き解け結び48をくい込ませて縫合糸を固定することも実現できない。その結果、甲第1号証の段落[0019]に記載されている使用法、つまり外科医が第2の端部44を引っ張って「組織係合要素30」等と第2のアンカー80を近付けるという使用法が不可能となる。このことは、組織の修復ができなくなることを意味するから、甲1発明において「アンカー20」を「組織係合要素30」等に置き換える際の阻害要因となる。
以上に示したとおり、当業者であっても甲1発明の「アンカー20」に換えて甲2事項の「組織係合要素30」等を使用することは容易でないことから、申立人による前記主張には理由がない。

(3)本件特許発明4について
ア.本件特許発明4と甲1発明との対比
本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、その構造又は機能からみて、甲1発明の「第1の端部42」と「第2の端部44」は、本件特許発明4の「第1末端」に相当し、以下同様に、「右側末端」は「第2末端」に、「アンカー20」は「縫合糸支持体」に、「アンカー右端」は「下側末端部」に、「アンカー左端」は「上側末端部」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「カニューレ22」は、縫合糸支持体の下側末端部と上側末端部を貫通する限りにおいて、本件特許発明4の「連通孔」と対応する。
したがって、両者は「第1末端及び第2末端を有し、前記第1末端の近傍に縫合糸支持体を備えた縫合糸において、前記縫合糸支持体は、下側末端部と上側末端部を備え、前記下側末端部と上側末端部を貫通する連通孔を備え、前記縫合糸支持体は、前記上側末端部が前記縫合糸の第1末端の方を向くように設けられて」いる点で一致し、以下の点で相違する。

(ア)相違点5
本件特許発明4は「前記縫合糸は、前記上側末端部を基準にして前記第1末端の側に位置する前記縫合糸からなる結び目を有し、前記結び目から2本に分かれて、前記分かれた2本は前記縫合糸支持体の前記上側末端部から前記下側末端部へ前記連通孔を貫通し、前記第2末端において閉じた形状を形成する」との発明特定事項を有するのに対し、甲1発明はそのような発明特定事項を有していない点。

(イ)相違点6
本件特許発明4は「前記縫合糸は、前記縫合糸の第1末端の方から組織内部に貫いて入り込む」との発明特定事項を有するのに対し、甲1発明では縫合糸40をアンカー20のカニューレ22に通し、修復したい組織と第2のアンカー80を経由し、再びアンカー20のカニューレ22に通し、引き解け結び48の輪49に通す点。

イ.判断
相違点5について検討する。
当該相違点5は、前記相違点1と実質的に相違するものではない。
そうすると、前記(1)イ.に示した判断と同様に、当該相違点5に係る発明特定事項は、甲第1号証に記載も示唆もされていない。また、当該発明特定事項は、甲第2号証?甲第6号証のいずれにも記載も示唆もされておらず、しかも本件の出願時における技術常識であるともいえない。
よって、甲1発明において相違点5に係る発明特定事項を有するものとすることは、当業者にとって容易になし得たことではない。
したがって、相違点6について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲1発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(第20ページの(オ))において、縫合糸を組織内部に挿入する方向は、使用状況に応じて適宜選択し得る事項であり、甲第2号証の記載又は示唆に基づいて、甲1発明のアンカー20が設けられた側から組織内部に縫合糸を挿入することは当業者にとって容易である旨、主張しているので検討する。
甲1発明は、甲第1号証の段落[0003]及び[0019]に示されているように、縫合糸40の「第2の端部44」を、アンカー20のカニューレ22に通し、修復したい組織と第2のアンカー80を経由し、アンカー20のカニューレ22を再び通した後、引き解け結び48の輪49に通すように構成されている。そのため、外科医が縫合糸40の「第2の端部44」を引っ張ると、引き解け結び48が移動し、アンカー20のカニューレ22にくい込み、縫合糸40を固定するものである。
このように、甲1発明は、縫合糸40の「第2の端部44」を各要素に順次通していくことで縫合糸40の固定が達成されるものであり、縫合糸40を組織内部に挿入する方向は明確に定められていることから、この方向を変更しなければならない特段の事情はなく、この方向を変更することは当業者であっても容易ではない。
仮に、縫合糸を組織内部に挿入する方向が適宜選択し得る事項であるとしても、甲1発明において、縫合糸40の「第1の端部42」から組織内部に挿入しようとすると、「第1の端部42」に設けられた引き解け結び48の輪49により、縫合糸40を円滑には組織内部に挿入することができない上、引き解け結び48がアンカー20のカニューレ22から離脱する方向に移動することから、縫合糸40を固定することもできない。このことは、組織の修復ができなくなることを意味するから、甲1発明において縫合糸40を組織内部に挿入する方向を変更する際の阻害要因となる。
以上に示したとおり、当業者であっても甲1発明の縫合糸40を「第1の端部42」から組織内部に挿入することは容易でないことから、申立人による前記主張には理由がない。

(4)本件特許発明2、3、5、7?12について
本件特許発明2及び3は本件特許発明1を直接的又は間接的に引用するものである。
本件特許発明5は本件特許発明4を直接的に引用するものである。
本件特許発明7?12は本件特許発明1、4及び6のいずれかを直接的又は間接的に引用するものである。
ここで、前記(1)?(3)に示したとおり、本件特許発明1、4及び6は甲1発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そうすると、本件特許発明1、4及び6のいずれかを直接的又は間接的に引用する本件特許発明2、3、5、7?12も甲1発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)まとめ
したがって、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとの取消理由2には、理由がない。

3.理由3(特許法第39条第2項)について
(1)甲第7号証
甲第7号証として提出された、本件特許の分割出願に係る特許第5981674号の請求項1?12に記載された発明(以下、それぞれ「分割特許発明1」?「分割特許発明12」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)対比
本件特許発明1?12と、分割特許発明1?12とを、それぞれ対応させて対比すると、両者発明は以下の点で相違する。

ア.本件特許発明1?12は、縫合糸が結び目から2本に分かれるのに対し、分割特許発明1?12は、これに限定していない点。

イ.分割特許発明1?12は、縫合糸支持体が生体内で吸収可能な材料であるのに対し、本件特許発明1?12は、当該発明特定事項を有していない点。

(3)判断
前記(2)に示した点で相違することから、本件特許発明1?12と、分割特許発明1?12とは、同一の発明ではない。

(4)理由3についてのまとめ
したがって、請求項1?12に係る特許は、特許法第39条の規定に違反してなされたものであるとの取消理由3には、理由がない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-26 
出願番号 特願2015-241510(P2015-241510)
審決分類 P 1 651・ 4- Y (A61B)
P 1 651・ 113- Y (A61B)
P 1 651・ 121- Y (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 昌弘森林 宏和  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 二階堂 恭弘
熊倉 強
登録日 2016-07-01 
登録番号 特許第5959710号(P5959710)
権利者 ワイ.ジェイコブス メディカル インコーポレーテッド
発明の名称 結び目をつける作業が不要な縫合糸及びそれを含むキット  
代理人 前川 純一  
代理人 きさらぎ国際特許業務法人  
代理人 上島 類  
代理人 森田 拓  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 佐尾山 和彦  
代理人 二宮 浩康  
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