• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01J
管理番号 1327914
異議申立番号 異議2017-700106  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-03 
確定日 2017-05-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第5977200号発明「電子顕微鏡および電子顕微鏡制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5977200号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5977200号の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年5月27日に特許出願され、平成28年7月29日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人中石幸明(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。


第2 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件特許第5977200号の請求項1の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
各種データを格納する記憶部と、
試料に対する観察過程で撮像した各観察画像と、該当観察画像の撮像時における観察条件とを撮像機構から取得し、各観察画像を履歴画像として該当観察条件と対応付けて前記記憶部に格納する処理と、
現時点での前記試料における観察部位の観察画像と、前記試料について前記記憶部に格納してある所定数の履歴画像と、前記試料について前記記憶部に格納してある前記履歴画像のうち1つである広域画像とを、表示部に表示する処理と、
前記表示部で表示した広域画像中において、前記表示部にて表示中の観察画像および前記所定数の履歴画像について、それぞれの観察条件に基づく前記広域画像における相対的な位置、範囲、および向きを示す所定図形を表示する処理を実行する演算部と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡。」

2 申立理由の概要
(1)進歩性
申立人は、証拠として、特開2005-352100号公報(甲第1号証)及び特開平6-275226号公報(甲第2号証)を提出して、以下のとおり主張している。
本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
よって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(2)記載不備
申立人は、以下のとおり主張している。
本件特許発明1について、「広域画像における相対的な位置、範囲、及び向きを示す所定図形」における「所定図形」とは具体的にどのような図形であるのかが不明であり、本件特許発明1は明確でない。
よって、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、その特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

3 当審の判断
(1)進歩性について
ア 刊行物記載の発明
(ア)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付したものである。)

a 「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について述べる。
まず、図1乃至図9を用いて、本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明を適用した走査型顕微鏡の構成を説明するための図である。
【0023】
図1において、走査型顕微鏡100は、1つまたは複数設けることが可能なレーザ発振器1、レーザ発振器1からのレーザビーム(照明光)を拡張するビームエキスパンダ2、レーザビームを試料9へ導き、試料9からの蛍光または反射光とレーザビームを分離するビームスプリッタまたはダイクロイックミラー等の光路分割素子3、ガルバノミラー4、ガルバノミラー5、瞳投影レンズ6、結像レンズ7、対物レンズ8、光路分割素子3によって分割された試料9からの蛍光または反射光の共焦点効果を得るために設置された共焦点アバーチャ10、波長選択素子11、光強度検出器12、およびステージ13を備えている。
・・・
【0027】
これら電気的に駆動可能な部位は、図示しない制御部であるコンピュータによって制御される。
コンピュータの動作は、ステージ13の制御、ガルバノミラー4、5の駆動および座標制御、レーザ発振器1の調光およびON/OFF、光強度検出器12から送出された光強度情報の蓄積、ガルバノミラー4、5の座標で示される位置と光強度情報を座標上の画素として扱うことによって、点または線または2次元または3次元の色情報を付加した画像としてディスプレイに表示する。
【0028】
このコンピュータには、走査型顕微鏡100を操作するためのGUI(Graphical User Interface)が実装され、GUIは、ユーザの使い勝手を重視した優しい作りになっていることが望ましい。
【0029】
また、コンピュータヘの負荷が大きくならないようシステムのバランスを考慮した上で、制御機能の分散を図ることも必要である。
さらには、所謂コンピュータを使用するのではなく、走査型顕微鏡100の実装機能に特化した測定器あるいは制御ボックスを設けても構わない。例えば、コンピュータの場合、画橡情報を表示するディスプレイは2次元だが、これをホログラムのような3次元表示可能な出力装置に変更すれば、より立体的な試料像を表現することが可能となる。
【0030】
次に、このようなレーザ走査光学系を有する走査型顕微鏡100において、蛍光観察を行う場合のプロセスについて説明する。
・・・
【0035】
次に、ステップS23で試料9の焦点が合ったら、ステップS24において、第1の画像を取得する。第1の画像は試料9の全体像が望ましいが、用途によっては任意の大きさにしても構わない。本第1の実施の形態では、第1の画橡は試料9の全体像とする。そのためには、ガルバノミラー4およびガルバノミラー5を振る範囲を最大に設定し、必要であれば各機能の設定値を変更した後、スキャン回数は1回にして第1の画像を取得する。
【0036】
次に、ステップS25において、蛍光ブローブの退色またはリカバリまたは刺激による波長変化等の測定を行うための、第1の画像上の注目領域を詳細に設定する。このことによって得られる画像が第2の画像となる。
【0037】
次に、これら第1画像と第2の画像がどのように表示されるか説明する。
図3乃至図8は、表示例を示す図である。
図3は、第1の画像(図中の斜線部分)のみを表示した表示例であり、・・・図6は、2次元走査によって得られた第2の画像(図中の黒い矩形領域部分)を第1の画像に重ねあわせて表示した表示例である。
【0038】
このような表現方法を用いることで、細胞の蛍光観察においては、第2の画像の蛍光強度の退色あるいはリカバリあるいは復帰の様子を第1の画橡と対比させながら観察することができる。
【0039】
また、図7は、図6と同様、2次元走査によって得られた第2の画像を第1の画像に重ねあわせて表示した表示例であり、図8は、図7に表示された画像を角度を変えて表示した表示例である。
【0040】
このように、試料9上の走査範囲を変化させると、追従する第2の画橡を映し出すことによって、どこを見ているのかを常に意識しながら試料9の観察を行うことが可能となる。
【0041】
図8に示した表示例では、回転を扱ったが、走査範囲の移動または拡大または縮小についても追従することも可能である。この移動、拡大、縮小、回転された第2の画像は、第1の画線上に軌跡を残すような表示をしても良く、このことによって、試料9の最新状態が表示画像に履歴として残すことができる。
【0042】
図9は、2次元走査が完了する度に時間軸方向に第2の画像を重ねて表示する表示例を示す図である。
図9に示したような表現方法は、第2の画像が点走査または線走査によるものの場合、蛍光強度画像として表現することができる。また、走査回数を目視で確認することができるため、過剰な走査回数を防ぐ指標ともなる。
【0043】
本第1の実施の形態は、上述のような表示方法を使うことで、試料9の変化をリアルタイムで視覚的に捉えることが可能になり、走査型顕微鏡の操作性が向上する。なお、これら表現可能な表示手段は、使用者によって自由に選択することができる。従って、従来のように第2の画像のみを表示する手段も同時に提供されている。」

b 「【図1】

【図3】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】



すると、上記甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「試料9の全体像である第1の画像を取得し、第1の画像上の注目領域を詳細に設定して得られた画像を第2の画像とし、
第1の画像に、2次元走査が完了する度に時間軸方向に第2の画像を重ねて表示する、レーザ走査光学系を有する走査型顕微鏡100。」

(イ)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付したものである。)

a 「【0029】以下、図2に示されている本発明の観察位置表示装置の実施例の動作について説明する。
【0030】まず最初に光学顕微鏡11の倍率を比較的低倍率として ITVカメラ12で撮像して光学顕微鏡11の視野の画像を得る。この比較的低倍率の画像は観察位置表示用画像としてスイッチSW1 の切換えにより第1画像メモリ2に記憶されると共に、画像合成手段6を経由して CRTディスプレイ7に表示される。図3はこのような第1画像メモリ2に記憶されている観察位置表示用画像が CRTディスプレイ7に表示された状態を示す模式図である。なお図3において、参照符号70は CRTディスプレイ7の画面を示している。
【0031】この際の光学顕微鏡11の視野の倍率及びステージ80の位置により定められる観察位置、即ち光学顕微鏡11の視野位置の情報は倍率変更器3及びステージ移動装置8からそれぞれ信号S1, S2としてマーク演算器4に与えられる。
【0032】次に、実際の観察が行われる場合は、光学顕微鏡11及び ITVカメラ12により得られた観察画像はスイッチSW1 の切換えにより第2画像メモリ9に送られて一旦記憶される。そして、この第2画像メモリ9に記憶されている観察画像はスイッチSW2 を経由して CRTディスプレイ7に表示することも可能である。
【0033】このようにして、それぞれの観察画像が得られた際の光学顕微鏡11の視野の倍率及び観察位置の情報は倍率変更器3及びステージ移動装置8から信号S1, S2としてマーク演算器4に与えられるので、マーク演算器4は第1画像メモリ2に観察位置表示用画像が記憶された際の光学顕微鏡11の視野の倍率及び観察位置の情報を基準として、信号S1, S2として与えられる情報に従ってマーク表示情報、即ちマーク画像の大きさ及び表示位置の情報を決定し、このマーク表示情報に基づいてマーク画像を発生し、第3画像メモリ5に記憶させる。
【0034】第3画像メモリ5に記憶されたマーク画像は、第1画像メモリ2に記憶されている観察位置表示用画像と画像合成手段6により合成されて CRTディスプレイ7に表示される。図4はこのようにして、第1画像メモリ2に記憶されている観察位置表示用画像にマーク画像が合成された画像が CRTディスプレイ7に表示された状態を示す模式図である。
【0035】なお図4において、参照符号70は CRTディスプレイ7の画面を示しており、参照符号83は現在の観察視野を示すマークを、参照符号84は現在の観察視野を示すマーク83とは異なる倍率, 観察位置で観察した場合の視野を示すマークをそれぞれ示している。
【0036】一方、個々の観察画像はそれぞれが第2画像メモリ9に記憶されている間に外部記憶装置10に記憶させることも可能である。この外部記憶装置10は複数の観察画像のデータを記憶することが可能である。
【0037】なお、第2画像メモリ9に個々の観察画像が記憶されている間にそれを外部記憶装置10に記憶させた場合には、外部記憶装置10から出力されている制御信号CSがアクティブになるので、第3画像メモリ5に記憶されているマーク画像は消去されずに順次重ね書きされる。これにより、第2画像メモリ9に記憶されている観察画像が順次的に外部記憶装置10に記憶された場合には、図5の模式図に示されているように、 CRTディスプレイ7の画面70には光学顕微鏡11の視野、即ち観察位置が順次移動したことを示すマークM1, M2, M3が表示される。
【0038】このようなマークの CRTディスプレイ7への重畳表示により、たとえば細胞膜の観察を行うような場合には図6の模式図に示されているように、細胞の全周に亙って光学顕微鏡11の視野を順次的に移動しつつ観察することが可能になる。なお、図5及び図6において、参照符号70は CRTディスプレイ7の画面を、M(M1, M2, M3)は表示されたマークを、71は細胞をそれぞれ示している。
【0039】図7は本発明の観察位置表示装置を走査型電子顕微鏡に適用した場合の具体的な実施例の一構成例を示すブロック図である。
【0040】図7において、参照符号1は観察装置であり、本実施例では走査型電子顕微鏡13にて構成されている。走査型電子顕微鏡13は、電子銃130,収束レンズ131,偏向コイル132,対物レンズ133,2次電子検出器134,増幅器135,透過電子検出器136,増幅器137 等にて構成されており、それ自体は公知であるので詳細な説明は省略する。
【0041】対物レンズ133 と透過電子検出器136 との間にサンプル100 を載置したステージ80が位置している。サンプル100 の像は2次電子検出器134,増幅器135 及び透過電子検出器136,増幅器137 により電気信号に変換され、重畳された水平, 垂直同期信号をトリガとしてスイッチSW1 へ出力される。
【0042】走査型電子顕微鏡13の倍率は偏向コイル132 により変更されるが、その制御は倍率変更器3により行われ、変更された倍率の情報は信号S1としてマーク演算器4に与えられることは前述の図2に示されている実施例と同様である。また、ステージ80の移動はステージ移動装置8により制御され、移動後のステージ80の位置の情報は信号S2としてマーク演算器4に与えられることも図2に示されている実施例と同様である。
【0043】従って、スイッチSW1 へ電気信号に変換された観察画像が出力されるた後の構成及び動作は前述の図2に示されている光学顕微鏡に適用した実施例と同様であるので、その説明は省略する。」

b 「【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】



イ 対比・判断
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明は、
「前記表示部で表示した広域画像中において、前記表示部にて表示中の観察画像および前記所定数の履歴画像について、それぞれの観察条件に基づく前記広域画像における相対的な位置、範囲、および向きを示す所定図形を表示する処理を実行する演算部」を備えない点(以下、「相違点a」という。)、及び、
「電子顕微鏡」ではない点(以下、「相違点b」という。)
で相違する。

相違点aについて、検討する。
甲第2号証には、比較的低倍率の画像である「観察位置表示用画像」(本件特許発明1の「広域画像」に相当)と、実際の「観察画像」(本件特許発明1の「広域画像」以外の「観察画像」に相当)の「視野の倍率及び観察位置の情報」にしたがって決定された「マーク表示情報、即ちマーク画像の大きさ及び表示位置情報」に基づいて発生した「マーク画像」(本件特許発明1の「所定図形」に相当)とを重畳表示するという技術事項が記載されている。
しかし、甲1発明は、「試料9の全体像である第1の画像」(本件特許発明1の「広域画像」に相当)に、「第1の画像上の注目領域を詳細に設定して得られた画像を第2の画像」(本件特許発明1の「広域画像」以外の「観察画像」に相当)を「重ねて表示する」構成、すなわち、「第1の画像」上に直接「第2の画像」を重ねて表示するものであるから、さらに、「第1の画像」上に、「第2の画像」の大きさや位置を示すマーク画像を重畳表示することは不要であることは自明である。
したがって、甲1発明に甲第2号証に記載された技術事項を適用することには、阻害要因がある。

よって、本件特許発明1は、相違点bを検討するまでもなく、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明し得たものとは認められない。

ウ 結論
以上のとおり、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって取り消されるべきものであるとすることはできない。

(2)サポート要件について
本件特許発明1の「広域画像における相対的な位置、範囲、及び向きを示す所定図形」について、「所定図形」は、「観察画像」や「履歴画像」の「広域画像における相対的な位置、範囲、及び向き」がわかるような任意の図形であればよいことは、当業者には明らかであって、該記載事項を含む本件特許発明1が明確でないとはいえない。

よって、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものとすることはできない。


第3 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件特許発明1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-26 
出願番号 特願2013-110882(P2013-110882)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (H01J)
P 1 652・ 121- Y (H01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 仁美  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
松川 直樹
登録日 2016-07-29 
登録番号 特許第5977200号(P5977200)
権利者 株式会社日立ハイテクノロジーズ
発明の名称 電子顕微鏡および電子顕微鏡制御方法  
代理人 一色国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ