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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1327923
異議申立番号 異議2017-700182  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-24 
確定日 2017-05-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5977506号発明「軋み音低減用熱可塑性樹脂組成物、接触用部品及び構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5977506号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5977506号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成23年12月1日の出願であって、平成28年7月29日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年2月24日付け(受理日:同年2月27日)で特許異議申立人 小宮 邦彦(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下に芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体〔b1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A〕を含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕であって、
該エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の含有量が、該熱可塑性樹脂組成物〔X〕100質量%に対して5?30質量%であり、
該エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の引張強さ(T_(S))が0.5?7MPa、切断時伸び(E_(B))が500%以上、硬度(タイプAデュロメータ)が40?85、ムーニー粘度(ML_(1+4,100)℃ )が5?60であり、
該熱可塑性樹脂組成物〔X〕中のフリーゴム含有量が1?30質量%であることを特徴とする軋み音低減用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕が、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下にビニル系単量体〔b1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕と、ビニル系単量体〔b2〕の(共)重合体〔B〕とを含有してなることを特徴とする請求項1に記載の軋み音低減用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕が、エチレン・プロピレン共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の軋み音低減用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕が、エチレン5?95質量%及びα-オレフィン95?5質量%(ただし、エチレン及びα-オレフィンの合計で100質量%)からなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の軋み音低減用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物〔X〕からなることを特徴とする接触用部品。
【請求項6】
下記条件で測定した接触用部品の異音リスク値が5以下であることを特徴とする請求項5に記載の接触用部品。
〔測定条件〕
東芝機械製IS170FA射出成形機によりシリンダー温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形した、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの射出成形プレートから、縦60mm、横100mm、厚さ4mm及び縦50mm、横25mm、厚さ4mmの大小試験片をディスクソーで切り出し、番手#100のサンドペーパーで端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、大小2枚のプレートを接触用部品の試験片として準備する。前記大小2枚の試験片を80℃±5℃に調整したオーブンで400時間保持し、25℃で24時間冷却した後、ZIEGLER社製スティックスリップ試験機SSP-002に固定し、荷重40N、速度10mm/秒、振幅20mmの条件で3回擦り合わせて異音リスク値を測定し、その最も高い値を異音リスク値とする。
【請求項7】
少なくとも2個の接触用部品を含む構造体であって、該少なくとも2個の接触用部品が請求項5又は6に記載の接触用部品を含むことを特徴とする軋み音低減構造体。
【請求項8】
接触用部品の全てが、請求項5又は6に記載の接触用部品からなることを特徴とする軋み音低減構造体。
【請求項9】
自動車部品、事務機器用部品、住宅用部品、家電用部品であることを特徴とする請求項7又は8に記載の軋み音低減構造体。」

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、本件特許の出願前に、日本国内において頒布された刊行物である以下の甲第1ないし5号証及び本件特許の出願後に作成された文書である以下の甲第6号証を提出し、おおむね次の取消し理由を主張している。

理由1(甲第1号証を主引用文献とした場合の進歩性).本件特許発明1ないし9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由2(甲第5号証を主引用文献とした場合の進歩性).本件特許発明1ないし9は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1号ないし6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証.特開2000-119477号公報
甲第2号証.特開2011-1399号公報
甲第3号証.特開平11-181081号公報
甲第4号証.特開2002-19047号公報
甲第5号証.特開平4-275355号公報
甲第6号証.実験報告書(三井化学株式会社 高分子材料研究所 モディ
ファイヤーグループ 改質材料チーム 池田聰 2017年
2月22日)

第4 特許異議申立理由についての判断
1 甲第1ないし6号証の記載等
(1)甲第1号証に記載された事項及び甲1発明
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、次の記載(以下、総称して「甲第1号証に記載された事項」という。)がある。

・「【請求項1】 (A)エチレン/炭素数3?20のα-オレフィン/非共役ジエン=5?95/95?5/0?20重量%からなる融点(Tm)が0℃以上のゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種からなる単量体成分をグラフト重合して得られ、かつ、グラフト率が10?100%であり、メチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.2?0.8dl/gであるゴム変性熱可塑性樹脂1?99重量%、ならびに(B)ゴム質重合体(b)〔ただし、上記ゴム質重合体(a)を除く〕の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種からなる単量体成分をグラフト重合して得られるグラフト重合体を必須成分とするゴム強化スチレン系樹脂99?1重量%〔ただし、(A)+(B)=100重量%〕の合計量100重量部に対し、(C)ポリオレフィン系ワックスおよび/またはシリコーンオイル0.1?7重量部を配合してなるゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物(I)。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、摺動性、耐衝撃性、成形品表面外観、さらには難燃性に優れたゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ブタジエンゴムでスチレン-アクリロニトリル樹脂(AS樹脂)を強化したABS樹脂やアクリルゴムでAS樹脂を強化したAAS樹脂などのゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、成形性、成形品表面外観および耐熱性に優れた材料として知られている。しかしながら、これらの材料は、摺動性が劣るので、ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂の優れた特性を保持しつつ、さらに摺動性をも要求される機器、機構などの部材への展開はできなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の技術の課題を背景になされたもので、特定のエチレン-α-オレフィン系ゴムの存在下に特定量のビニル系単量体をグラフト重合して得られる特定の物性を有するゴム変性熱可塑性樹脂を配合した、摺動性、耐衝撃性、成形品表面外観、耐傷つき性、さらには難燃性のバランスに優れたゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。」

・「【0010】ゴム質重合体(a)の配合割合は、(A)ゴム変性熱可塑性樹脂全体に対し、5?40重量%が好ましく、さらに好ましくは10?35重量%である。5重量%未満であると、得られるゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物(I)の耐衝撃性が発現せず、一方、40重量%を超えると、樹脂組成物の摺動性および耐傷つき性が悪く表面光沢が低下し、好ましくない。」

・「【0026】ここで、グラフト率(重量%)は、グラフト共重合体(ゴム変性熱可塑性樹脂)1g中のゴム成分重量をx、メチルエチルケトン不溶分重量をyとすると、下式(1)により求められる値である。
グラフト率(重量%)=〔(y-x)/x〕×100
・・・・・(1)」

・「【0078】
【実施例】以下、実施例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何等制約されるものではない。なお、実施例中、部および%は特に断らない限り重量基準である。また、実施例中の各種評価は、次のようにして測定した値である。」

・「【0083】本発明の実施例および比較例に使用される各成分は次のとおりである。
参考例1
ゴム質重合体(a-1)の調製
窒素置換した20リットルオートクレーブに精製トルエン8リットル、精製トルエン40ml中に溶解したアルミニウム原子換算で60mmolのメチルアルミノキサンを加え、40℃に昇温した後、エチレンを3.3リットル/Hr、プロピレンを1.9リットル/Hrで連続的に供給した。次いで、精製トルエン12ml中に溶解したジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド12μmolを添加して重合を開始した。反応中は温度を40℃に保ち、連続的にエチレン、プロピレンを供給しつつ、20分間反応させた。その後、メタノールを添加して反応を停止させ、水蒸気蒸留にてクラム状ゴム質重合体(a-1)を回収した。(a-2)?(a-6)も、上記と同様に重合して得た。表1に得られた(a-1)?(a-6)の組成および物性を示す。これらを、下記(A)ゴム変性熱可塑性樹脂の製造に使用した。
【0084】
【表1】

【0085】参考例2
(A)ゴム変性熱可塑性樹脂(A-1)の調製
リボン型攪拌翼を備えた内容積10リットルのステンレス製オートクレーブに、ゴム質重合体(a-1)を20部、スチレンを55部、アクリロニトリルを25部、トルエンを100部仕込み、攪拌後、昇温しゴム質重合体(a-1)を完全溶解し均一溶液を得た。t-ドデシルメルカプタン0.1部とベンゾイルパーオキサイド0.5部、ジクミルパーオキサイド0.1部を添加し、95℃一定になるように制御しながら攪拌回転数200rpmにて重合反応を行わせた。反応開始6時間後から1時間を要して120℃まで昇温し、さらに2時間反応を行って終了した。重合転化率は97%であった。100℃まで冷却後、2、2-メチレンビス-4-メチル-6-ブチルフェノール0.2部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し細かく粉砕した後、40mmφベント付き押し出し機(220℃、700mmHg真空)にて実質的に揮発分を留去するとともに重合体をペレット化した。(A-2)?(A-10)も、上記と同様に溶液重合で得た。表2?3に、得られた(A-1)?(A-10)の組成および物性を示す。これらを、ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物の製造に使用した。
【0086】
【表2】



・「【0098】
【発明の効果】本発明のゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物は、摺動性、耐衝撃性、成形品表面外観および難燃性に優れており、樹脂組成物の新たな用途への展開を広げることが可能であり、例えばOA、家電分野、電気・電子分野、雑貨分野、サニタリー分野、自動車分野などの各種ハウジング、ケース、パーツ、トレー、フレーム、シャーシなどの材料に有用である。」

イ 甲1発明
甲第1号証に記載された事項、特に【請求項1】、【0001】、【0003】及び【0010】を整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「(A)エチレン/炭素数3?20のα-オレフィン/非共役ジエン=5?95/95?5/0?20重量%からなる融点(Tm)が0℃以上のゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種からなる単量体成分をグラフト重合して得られ、かつ、グラフト率が10?100%であり、メチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.2?0.8dl/gであるゴム変性熱可塑性樹脂1?99重量%、ならびに(B)ゴム質重合体(b)〔ただし、上記ゴム質重合体(a)を除く〕の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種からなる単量体成分をグラフト重合して得られるグラフト重合体を必須成分とするゴム強化スチレン系樹脂99?1重量%〔ただし、(A)+(B)=100重量%〕の合計量100重量部に対し、(C)ポリオレフィン系ワックスおよび/またはシリコーンオイル0.1?7重量部を配合してなるゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物(I)であって、
ゴム質重合体(a)の配合割合は、(A)ゴム変性熱可塑性樹脂全体に対し、5?40重量%である、摺動性、耐衝撃性、成形品表面外観、さらには難燃性に優れたゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物(I)。」

(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、次の記載(以下、総称して「甲第2号証に記載された事項」という。)がある。

・「【請求項1】
不織布を備えた基材と、該基材の第一面側に設けられた粘着剤層と、を有する異音防止シートであって、
前記粘着剤層を構成する粘着剤は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、粘着付与樹脂とを含み、
前記粘着剤層を80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量が、該粘着剤層1g当たり20μg以下である、異音防止シート。
【請求項2】
不織布に対する180°引き剥がし粘着力が4N/20mm以上である、請求項1に記載の異音防止シート。
【請求項3】
前記基材の第二面側表面は前記不織布が露出した面となっており、且つ、VDA230-206に準拠した手法にてスティックスリップ試験を行った場合において前記第二面側表面への粘着剤の染み出しが認められないことを特徴とする、請求項1または2に記載の異音防止シート。」

・「【0093】
[スティックスリップ試験(対PP)]
ジグラー社製のスティック&スリップ測定装置を用いて、以下の条件により異音レベルを測定した。
相手材:ポリプロピレン板
荷重:5N、10N、40N
摺動速度:1mm/秒、4mm/秒、10mm/秒
【0094】
日東電工株式会社製の両面接着テープ(グレード名「No.5000NS」)を用いて、厚み1.0mmのステンレス板上に厚み2.0mmのポリプロピレン板(プライムポリマー社製のPP板、グレード名「J830HV」)を貼り付けた。このPP板付きステンレス板を、PP板側が測定面側となる向きで、上記測定装置の治具に固定した。各例に係る異音防止シートを幅50mm×40mmの短冊状にカットしてサンプルを作製し、三角柱形状の可動部の一稜線(相手材に擦りあわされる稜線)に上記サンプルの幅中心を合わせるようにして、該サンプルを可動部に貼り付けた。そして、相手材の使用箇所を変えながら、上記の各荷重と速度の組み合わせにつき夫々3回づつ可動部を摺動させ、このときの異音レベルを上記可動部に設けられた加速度センサで数値化した。なお、ドイツ自動車工業会の基準によれば、上記異音レベルが3以下なら合格、4以上なら不合格である。」

(3)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、次の記載(以下、総称して「甲第3号証に記載された事項」という。)がある。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐摩擦・磨耗特性優れ、特に摺動部品に加工した際の寸法精度および消音特性に優れた自動車用、電気・電子機器製品などのポリケトン樹脂からなる摺動部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される熱可塑性ポリエステルは機械特性、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気的特性に優れているため自動車、電気・電子部品などの広い分野で使用されている。
【0003】近年、これらの樹脂はより過酷な条件下で使用される傾向にあり、さらに高度な性質が要求されている。この様な性質の一つとして、自動車、電気・電子製品などの摺動部品においては、摩擦磨耗特性の向上と、その長期的な持続性および摺動に伴う摩擦音の低減などが要求されている。」

・「【0050】実施例で使用した熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリアミドおよびその他の添加剤は下記の通りである。
【0051】・ポリブチレンテレフタレート(PBT):東レPBT1100s(東レ(株)製)を使用した。
【0052】・ポリエチレンテレフタレート(PET):LVNが0.65dl/g(25℃、フェノール/テトラクロロエタンの1:1混合溶液)のPETを使用した。
【0053】・ナイロン6:アミランCM1010(東レ(株)製)を使用した。」

・「【0060】
【表1】

実施例1、比較例1?3の測定結果より、ポリケトン樹脂は摺動特性に優れ、磨耗量も少ないことがわかる。また歯車の真円度に優れ、かつ歯車の回転時のきしみ音も少ないことがわかる。またポリケトン樹脂は耐加水分解性にも優れ、また歯車に加工した際の耐加水分解性も良好であることがわかる。」

・「【0074】
【表2】

実施例2、3、4に示したように、ポリケトン樹脂にガラス転移温度が20℃以下のエラストマーやエポキシ化合物あるいは結晶核剤を添加することにより、摺動特性や歯車の真円度、歯車のきしみ音がさらに向上することがわかる。特に結晶核剤としてタルクを配合した実施例4では磨耗量が特異的に低減できる。またエラストマー、ジエポキシ化合物、核剤の配合により耐加水分解性も向上することがわかる。一方、比較例4?6に示したようにPBTに同じようにガラス転移温度が20℃以下のエラストマーやエポキシ化合物、核剤を配合しても、摺動特性の向上効果は小さいことがわかる。」

(4)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、次の記載(以下、「甲第4号証に記載された事項」という。)がある。

・「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記問題を解決するべく鋭意研究の結果、異音の発生がクーラーなどで車内を急冷した際や、凹凸のある路面での走行時、急カーブでの走行時に、車体を構成する鉄板やプラスチック板と自動車の内装材の室外側表面とが接触し擦れ合うことに起因する点に着目し、鉄板やプラスチック板と接触する基材表面に、擦れ音の発生が抑えられる摺動性の良好なポリオレフィン系樹脂フィルムからなる異音防止フィルムを積層することで、異音の発生が防止できることに加え、この異音防止フィルム中にカーボンブラックに代表される着色剤としての黒色顔料および必要に応じて紫外線吸収剤を添加することにより、太陽光が当たっても劣化、光漏れのない自動車内装材が得られる事を見出し本発明を完成するに至った。」

(5)甲第5号証に記載された事項及び甲5発明
ア 甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、次の記載(以下、総称して「甲第5号証に記載された事項」という。)がある。

・「【請求項1】 下記(A)のグラフト共重合体10?60重量部及び(B)の硬質共重合体90?40重量部を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(A):エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体100重量部に対して変性低分子量α-オレフィン共重合体0.1?20重量部を含有するエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体含有架橋ラテックス40?80重量部(固形分として)の存在下、芳香族ビニル系単量体60?76重量%及びシアン化ビニル系単量体40?24重量%を含む単量体混合物60?20重量部を乳化グラフト重合して得られるグラフト共重合体。
(B):芳香族ビニル系単量体60?76重量%及びシアン化ビニル系単量体40?24重量%を含む硬質共重合体。」

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は熱可塑性樹脂組成物及びグラフト共重合体の製造方法に係り、特に特定のグラフト共重合体及び硬質共重合体を配合してなる、摺動特性、表面光沢、表面外観及び耐衝撃性に優れ、耐候性の高い熱可塑性樹脂組成物及びこの熱可塑性樹脂組成物の構成成分として好適な高特性グラフト共重合体を安定かつ高収率で得ることのできるグラフト共重合体の製造方法に関する。」

・「【0003】ところで、近年、事務機器、家電、自動車等分野においては、キーボード、軸受け材料、ギヤー材料等として摺動性、自己潤滑性の高い材料が要求されている。一般に、AES樹脂等の熱可塑性樹脂に摺動性、自己潤滑性を付与する場合、シリコーンオイル等の潤滑剤やポリエチレン等のポリオレフィン樹脂を添加し、溶融混練りする方法が用いられる。例えば、ゴム変性スチレン樹脂にポリオレフィン系樹脂、スチレン-オレフィングラフト共重合体、ジメチルシリコーンを混合した摺動性スチレン系樹脂組成物(特開昭63-182361号)や、多孔質弗素樹脂粉末を熱可塑性樹脂に溶融混練りした摺動材用組成物(特開昭63-179965号)が提案されている。また、合成樹脂の耐摩耗性を向上させる添加剤として、特定のポリエチレン成分が報告されている。(特開昭63-175069号)一方、出願人は、特定のゲル含有量を有するエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合ゴムラテックスに芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体を乳化重合により安定に製造する方法を見出し、先に、特開昭63-291913号として提案し、耐候性を有し耐衝撃性、耐熱性、表面光沢の優れた樹脂組成物を特開昭63-291942号、特開昭63-291943号として提案している。」

・「【0039】製造例1
EPDM含有架橋ラテックスの製造
三井石油化学社製EPDM(EPT3012P、エチレン含有量:82モル%)100部をn-ヘキサン566部に溶解した後、三井石油化学社製変性ポリエチレン(ハイワックス2203A)をそれぞれ表1に示す量添加し、更にオレイン酸を加え、完全に溶解した。別に、水700部にKOH0.9部を溶解した水溶液に、エチレングリコール0.5部を加え60℃に保ち、これに先に調製した上記重合体溶液を徐々に加えて乳化した後、ホモミキサーで撹拌した。次いで、溶剤と水の一部を留去して粒径0.4?0.6μmのラテックスを得た。このラテックスに、ゴム成分であるEPDM100部にジビニルベンゼン1.5部、ジ-t-ブチルパーオキシトリメチルシクロヘキサン1.0部を添加して、120℃で1時間反応させて、表1のEPDM含有架橋ラテックスNo.1-1?1-4を調製した。
【0040】なお、EPDM含有架橋ラテックスNo.1-5は、エチレングリコールの添加をせずに上記方法と同様にEPDM含有架橋ラテックスとしたものである。また、EPDM含有架橋ラテックスNo.1-6は、三井石油化学社製EPDM(EPT4045、エチレン含有量:72モル%)100部を用いて上記方法と同様にEPDM含有架橋ラテックスとしたものであり、EPDM含有架橋ラテックスNo.1-7、1-8は、ジ-t-ブチルパーオキシトリメチルシクロヘキサンをそれぞれ0.2部、3.0部添加し、上記方法と同様にEPDM含有架橋ラテックスとしたものである。更に、EPDM含有架橋ラテックスNo.1-9、1-10は、オレイン酸をそれぞれ7.0部、2.0部添加し上記方法と同様にEPDM含有架橋ラテックスとしたものである。
【0041】なお、それぞれのEPDM含有架橋ラテックスを希硫酸にて凝固させ、水洗乾燥した後、これを1g採取して200mlのトルエン中に40時間浸漬し、次いで、200メッシュのステンレス金網にて濾過し、残渣を乾燥することにより、各ラテックスのゲル含量を求めたところ、表1に示す結果が得られた。更に、それぞれのEPDM含有架橋ラテックスの粒子径を粒度分布測定装置(堀場製:CAPA-500)により求めたところ、表1に示す結果が得られた。
【0042】
【表1】



・「【0043】製造例2
グラフト共重合体の製造
撹拌機付きステンレス重合槽に、表2及び表3のNo.2-1?2-12に示す処方で原料を仕込み、重合を行なった。重合温度は、80℃で一定温度とした。なお、成分IIの添加時間150分、成分III の添加時間は180分とした。重合後、酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、洗浄、脱水、乾燥の工程を経て、グラフト共重合体の粉末No.2-1?2-12を得た。なお、グラフト共重合体No.2-1?2-12の製造における各々の単量体転化率及び凝固物析出量を表2及び表3に示す。単量体転化率は、ラテックスの一部を採取してガスクロマトグラフィーを用いて求めた残存単量体から算出した。また、凝固物析出量から各々のラテックスの安定性を確認した。
【0044】
【表2】



・「【0048】実施例1?4、比較例1?14
製造例2で得られたグラフト共重合体と製造例3で得られた硬質共重合体をステアリン酸カルシウム0.5重量部、及びN,N’-エチレンビスステアリルアミド1.5重量部と共に表5、表6及び表7に示す配合でバンバリーミキサーにて混練りし、260℃にて成形を行なった。
【0049】得られた成形品No.4-1?4-17について以下の条件及び方法で諸特性を試験した。
摺動性:鈴木式摩擦摩耗試験(JIS-K7218)のB法(ピニオンデスク法)に準じた。
光沢:JIS Z 8741(入射角60°の反射率)に準じた。
【0050】成形外観の評価:次の基準にて肉眼評価した。
○ フローマーク及び真珠様光沢感のむらが無い。
△ フローマーク及び真珠様光沢感のむらが幾分認められる。
× フローマーク及び真珠様光沢感のむらが明瞭に認められる。
ノッチ付きアイゾット衝撃値:ASTM D 256に準じた。
【0051】また、実施例1?4の成形体について、下記方法により耐候性を調べた。
耐候性:試験片をウェザーメーター(スガ試験機製サンシャイン・スーパーロングライフ・キセノンウェザーメーターWEL-6XS-HCH-B)を用いて、ブラックパネル温度83℃(降雨無し)で200時間及び400時間後のアイゾット衝撃値(ASTM D 256に準じた。-30℃、ノッチ無し)を測定し、この衝撃値にて評価した。なお、比較のため汎用ABS樹脂(ゴム含量20重量%)についても同様に耐候性を調べた(比較例14)。
【0052】結果を表5、表6、表7に示す。表5、表6より、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、摺動特性、表面光沢、表面外観、耐衝撃性及び耐候性等のバランスが良好で、極めて優れた特性を有することが明らかである。
【0053】
【表5】



イ 甲5発明
甲第5号証に記載された事項、特に【請求項1】を整理すると、甲第5号証には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

「下記(A)のグラフト共重合体10?60重量部及び(B)の硬質共重合体90?40重量部を含む熱可塑性樹脂組成物。
(A):エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体100重量部に対して変性低分子量α-オレフィン共重合体0.1?20重量部を含有するエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体含有架橋ラテックス40?80重量部(固形分として)の存在下、芳香族ビニル系単量体60?76重量%及びシアン化ビニル系単量体40?24重量%を含む単量体混合物60?20重量部を乳化グラフト重合して得られるグラフト共重合体。
(B):芳香族ビニル系単量体60?76重量%及びシアン化ビニル系単量体40?24重量%を含む硬質共重合体。」

(6)甲第6号証の記載
甲第6号証には、次の記載(以下、総称して「甲第6号証に記載された事項」という。)がある。

・「評価サンプル,成形条件及び評価項目
1.評価サンプル:3012P
2.成形条件及び評価項目
<成形条件>
・熱プレス成形(50トンプレス成形機,190℃加熱,20℃冷却,圧力7.5MPa)
<評価項目>
1)引張試験(引張破断応力(T_(S)),引張破断歪み(E_(B)))
・測定機器:(株)東洋機機製作所 全自動ゴム引張試験機ストログラフAE型
・測定サンプル:2mm厚みプレスシート
・JIS K6251(JIS3号ダンベル)
・引張速度500mm/min.
2)硬度(タイプAデュロメーター)
・測定機器:高分子計器(株)デジタルゴム硬度計DD4-D型
・測定サンプル:2mm厚みプレスシート
・JIS K6253
3)ムーニー粘度(ML_(1+4,100℃))
・測定機器:(株)島津製作所 島津ムーニービスコメーターSMV-300J
・測定サンプル:2mm厚みプレスシート
・JIS K6300-1」

・「物性評価結果



2 理由1(甲第1号証を主引用文献とした場合の進歩性)について
2-1 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「エチレン/炭素数3?20のα-オレフィン/非共役ジエン=5?95/95?5/0?20重量%からなる融点(Tm)が0℃以上のゴム質重合体(a)」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「エチレン/α-オレフィゴム系ゴム質重合体〔a1〕」に相当し、以下、同様に、「芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種からなる単量体成分」は「芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体〔b1〕」に、「グラフト重合して得られ、かつ、グラフト率が10?100%であり、メチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.2?0.8dl/gであるゴム変性熱可塑性樹脂1?99重量%」は「重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A〕」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明における「摺動性、耐衝撃性、成形品表面外観、さらには難燃性に優れたゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物(I)」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「熱可塑性樹脂組成物〔X〕」及び「軋み音低減用熱可塑性樹脂組成物」と、「熱可塑性樹脂組成物」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下に芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体〔b1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A〕を含有してなる熱可塑性樹脂組成物。」

そして、次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「該エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の含有量が、該熱可塑性樹脂組成物〔X〕100質量%に対して5?30質量%」であるのに対し、甲1発明においては、「ゴム質重合体(a)の配合割合は、(A)ゴム変性熱可塑性樹脂全体に対し、5?40重量%」である点。

<相違点2>
本件特許発明1においては、「該エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の引張強さ(T_(S))が0.5?7MPa、切断時伸び(E_(B))が500%以上、硬度(タイプAデュロメータ)が40?85、ムーニー粘度(ML_(1+4、100) ℃)が5?60」であるのに対し、甲1発明においては、そのような特定はされていない点。

<相違点3>
本件特許発明1においては、「該熱可塑性樹脂組成物〔X〕中のフリーゴム含有量が1?30質量%」であるのに対し、甲1発明においては、そのような特定はされていない点。

<相違点4>
「熱可塑性樹脂組成物」に関して、本件特許発明1においては、「軋み音低減用」であるのに対して、甲1発明においては、「摺動性、耐衝撃性、成形品表面外観、さらには難燃性に優れた」ものである点。

<相違点5>
本件特許発明1においては、「ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕」を含有してなるのに対し、甲1発明においては、上記「ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕」に相当する「ゴム変性熱可塑性樹脂1?99重量%」を配合し、さらに「(B)ゴム質重合体(b)〔ただし、上記ゴム質重合体(a)を除く〕の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種からなる単量体成分をグラフト重合して得られるグラフト重合体を必須成分とするゴム強化スチレン系樹脂99?1重量%〔ただし、(A)+(B)=100重量%〕の合計量100重量部に対し、(C)ポリオレフィン系ワックスおよび/またはシリコーンオイル0.1?7重量部」を配合してなる点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点3及び4について判断する。
ア 相違点3について
相違点3について検討する。
甲第1号証には、熱可塑性樹脂組成物中のフリーゴムに着目し、その含有量を1?30質量%となるようにすることの記載はない。
この点に関して、特許異議申立人は、甲第1号証の【0086】の【表2】のゴム変性熱可塑性樹脂A-1のグラフト率が50%であり、本件特許明細書の【0107】の【表2】のAES1?3のグラフト率の41?48%と同程度のグラフト率であることから、甲1発明におけるフリーゴム含有量は本件特許発明1におけるフリーゴム含有量と同程度である旨主張している。
しかしながら、グラフト率とフリーゴム含有量の間に直接的な対応関係があるとはいえない。すなわち、グラフト率は甲第1号証の【0026】の記載から明らかなとおり、グラフト共重合体において実際にグラフトされている単量体成分の量を表す尺度であるのに対して、フリーゴム含有量は本件特許明細書の【0082】の「(1-7)フリーゴム含有量の測定
熱可塑性樹脂組成物〔X〕(ここで熱可塑性樹脂組成物(X)成分中のゴム量は、W1グラム。ゴム量は、配合処方からの計算、IR分析等により得ることができる。)を、ソックスレー抽出器を用いて、常圧下で、シクロヘキサンを8時間還流させる。シクロヘキサン溶液を乾固し、抽出物の重量を測定し(W2グラム)、下記式で、熱シクロヘキサン溶解量(フリーゴム含有量)を算出する。
フリーゴム含有量(%)=W2/W1×100」という記載から明らかなとおり、グラフト重合の際に仕込んだゴムのうち、グラフト重合後においてもグラフトせずにフリーで存在しているゴム量を表す尺度であって、両者は直接的な対応関係があるものではない(例えば、グラフト率が高い同じ値の場合であっても、多量割合のゴム粒子にグラフトしていれば、フリーゴム含有量は小さくなるが、少量割合のゴム粒子に多量の単量体がグラフトしていれば、フリーゴム含有量は大きくなる。また、グラフト率が低い同じ値の場合であっても、少量割合のゴム粒子にグラフトしていれば、フリーゴム含有量は大きくなるが、多量割合のゴム粒子に少量の単量体がグラフトしていれば、フリーゴム含有量は小さくなる。)。
したがって、甲1発明におけるフリーゴム含有量が、本件特許発明1におけるフリーゴム含有量と同程度であるとは直ちにはいえない。
また、甲第1号証には、ゴム変性熱可塑性樹脂中のフリーゴム含有量を1?30質量%とする動機付けとなる記載はない。
さらに、甲第2ないし4号証にも、ゴム変性熱可塑性樹脂中のフリーゴム含有量に関する記載はない。
よって、甲1発明において、甲第2ないし4号証に記載された事項を考慮しても、フリーゴム含有量を1?30質量%として、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

イ 相違点4について
相違点4について検討する。
用途に関して、甲第1号証には、「従来、従来、ブタジエンゴムでスチレン-アクリロニトリル樹脂(AS樹脂)を強化したABS樹脂やアクリルゴムでAS樹脂を強化したAAS樹脂などのゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、成形性、成形品表面外観および耐熱性に優れた材料として知られている。しかしながら、これらの材料は、摺動性が劣るので、ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂の優れた特性を保持しつつ、さらに摺動性をも要求される機器、機構などの部材への展開はできなかった。」(【0002】)及び「本発明のゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物は、摺動性、耐衝撃性、成形品表面外観および難燃性に優れており、樹脂組成物の新たな用途への展開を広げることが可能であり、例えばOA、家電分野、電気・電子分野、雑貨分野、サニタリー分野、自動車分野などの各種ハウジング、ケース、パーツ、トレー、フレーム、シャーシなどの材料に有用である。」(【0098】)と記載されていることから、甲1発明は、「摺動性をも要求される機器、機構などの部材」への展開を想定するものであり、具体的には、「OA、家電分野、電気・電子分野、雑貨分野、サニタリー分野、自動車分野などの各種ハウジング、ケース、パーツ、トレー、フレーム、シャーシ」への展開を想定するものといえる。
しかし、甲第1号証には、軋み音低減用に使用されることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。また、摺動性に優れることだけでは、必ずしも他の部材と接触し擦れ合うことにより発生する軋み音を低減できるとはいえない。
さらに、甲第3号証(特に【表1】及び【表2】等を参照。)には、ポリケトン樹脂からなる歯車がPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂及びN6(ナイロン6)からなる歯車よりも、摩擦係数が小さく、軋み音が少ないことが記載され、甲第4号証には「擦れ音の発生が抑えられる摺動性の良好なポリオレフィン系樹脂フィルムからなる異音防止フィルムを積層することで、異音の発生が防止できる」と記載されているが、甲1発明のような特定の組成の熱可塑性樹脂組成物を他の部材と接触し擦れ合うことにより発生する軋み音の低減用に使用することの動機付けとなる記載はない。
さらにまた、甲第2号証にも、甲1発明のような特定の組成の熱可塑性樹脂組成物を他の部材と接触し擦れ合うことにより発生する軋み音の低減用に使用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において、甲第2ないし4号証に記載された事項を考慮しても、「ゴム変性熱可塑性樹脂」の使用の用途を「軋み音低減用」として、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、相違点1、2及び5について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-2 本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3 理由2(甲第5号証を主引用文献とした場合の進歩性)について
3-1 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲5発明を対比する。
甲5発明における「エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体100重量部に対して変性低分子量α-オレフィン共重合体0.1?20重量部を含有するエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体含有架橋ラテックス40?80重量部(固形分として)」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「エチレン/α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕」に相当し、以下、同様に、「芳香族ビニル系単量体60?76重量%及びシアン化ビニル系単量体40?24重量%を含む単量体混合物60?20重量」は「芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体〔b1〕」に、「乳化グラフト重合して得られるグラフト共重合体」である「下記(A)のグラフト共重合体」は「重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A〕」に、「下記(A)のグラフト共重合体10?60重量部及び(B)の硬質共重合体90?40重量部を含む熱可塑性樹脂組成物」は「ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕を含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下に芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体〔b1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A〕を含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕。」

そして、次の点で相違する。
<相違点6>
本件特許発明1においては、「該エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の含有量が、該熱可塑性樹脂組成物〔X〕100質量%に対して5?30質量%」であるのに対し、甲5発明においては、そのような特定はされていない点。

<相違点7>
本件特許発明1においては、「該エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の引張強さ(T_(S))が0.5?7MPa、切断時伸び(E_(B))が500%以上、硬度(タイプAデュロメータ)が40?85、ムーニー粘度(ML_(1+4、100) ℃)が5?60」であるのに対し、甲5発明においては、そのような特定はされていない点。

<相違点8>
本件特許発明1においては、「該熱可塑性樹脂組成物〔X〕中のフリーゴム含有量が1?30質量%」であるのに対し、甲5発明においては、そのような特定はされていない点。

<相違点9>
「熱可塑性樹脂組成物」に関して、本件特許発明1においては、「軋み音低減用」であるのに対して、甲5発明においては、そのような用途の明示がない点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点8及び9について判断する。
ア 相違点8について
相違点8について検討する。
甲第5号証には、熱可塑性樹脂組成物中のフリーゴムに着目し、その含有量を1?30質量%となるようにすることの記載はない。
この点に関して、特許異議申立人は、甲第5号証の【0044】の【表2】のグラフト共重合体2-1について、グラフト率を算出し、その値が、31.5?39.4%であり、十分に低い値であることから、甲5発明におけるフリーゴム含有量も相違点6の範囲内に該当する旨主張している。
しかしながら、相違点3についての箇所で検討したように、グラフト率とフリーゴム含有量の間に直接的な対応関係があるとはいえない。
したがって、甲5発明における熱可塑性樹脂組成物中のフリーゴム含有量が、相違点8の範囲内に該当するとは直ちにはいえない。
また、甲第5号証には、ゴム変性熱可塑性樹脂中のフリーゴム含有量を1?30質量%とする動機付けとなる記載もない。
さらに、甲第1ないし4及び6号証にも、ゴム変性熱可塑性樹脂中のフリーゴム含有量に関する記載はない。
よって、甲5発明において、甲第1ないし6号証に記載された事項を考慮しても、ゴム変性熱可塑性樹脂中のフリーゴム含有量を1?30質量%として、相違点8に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

イ 相違点9について
相違点9について検討する。
用途に関して、甲第5号証には、「摺動特性、表面光沢、表面外観及び耐衝撃性に優れ、耐候性の高い熱可塑性樹脂組成物及びこの熱可塑性樹脂組成物の構成成分として好適な高特性グラフト共重合体を安定かつ高収率で得ることのできるグラフト共重合体の製造方法に関する。」(【0001】)及び「ところで、近年、事務機器、家電、自動車等分野においては、キーボード、軸受け材料、ギヤー材料等として摺動性、自己潤滑性の高い材料が要求されている。」(【0003】)と記載されていることから、甲5発明は、「摺動特性、表面光沢、表面外観及び耐衝撃性に優れ、耐候性の高い」熱可塑性樹脂組成物が使用される分野への展開を想定するものであり、具体的には、「事務機器、家電、自動車等分野」における「キーボード、軸受け材料、ギヤー材料等」への展開を想定するものといえる。
しかし、甲第5号証には、軋み音低減用に使用されることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。また、摺動性に優れることだけでは、必ずしも他の部材と接触し擦れ合うことにより発生する軋み音を低減できるとはいえない。
さらに、甲第3号証(特に【表1】及び【表2】等を参照。)には、ポリケトン樹脂からなる歯車がPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂及びN6(ナイロン6)からなる歯車よりも、摩擦係数が小さく、軋み音が少ないことが記載され、甲第4号証には「擦れ音の発生が抑えられる摺動性の良好なポリオレフィン系樹脂フィルムからなる異音防止フィルムを積層することで、異音の発生が防止できる」と記載されているが、甲5発明のような特定の組成の熱可塑性樹脂組成物を他の部材と接触し擦れ合うことにより発生する軋み音の低減用に使用することの動機付けとなる記載はない。
さらにまた、甲第1、2及び6号証にも、甲5発明のような特定の組成の熱可塑性樹脂組成物を他の部材と接触し擦れ合うことにより発生する軋み音の低減用に使用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲5発明において、甲第1ないし6号証に記載された事項を考慮しても、「熱可塑性樹脂組成物」の用途を「軋み音低減用」として、相違点9に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、相違点6及び7について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明、すなわち甲第5号証に記載された発明及び甲第1ないし6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-2 本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第5号証に記載された発明及び甲第1ないし6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4 むすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しない。

第5 結語
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-26 
出願番号 特願2011-263491(P2011-263491)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 赤澤 高之  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 加藤 友也
橋本 栄和
登録日 2016-07-29 
登録番号 特許第5977506号(P5977506)
権利者 テクノポリマー株式会社
発明の名称 軋み音低減用熱可塑性樹脂組成物、接触用部品及び構造体  
代理人 伊丹 健次  
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