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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1327924
異議申立番号 異議2017-700047  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-19 
確定日 2017-05-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5954931号発明「衝撃強度、表面特性および流動性に優れたエチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5954931号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5954931号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成22年12月20日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2009年12月18日 韓国(KR))に出願され、平成28年6月24日に特許の設定登録がされ、平成29年1月19日にその特許に対し、特許異議申立人 尾田久敏(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

特許第5954931号の請求項1ないし5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
アイソタクチックペンタッド分率が96%以上の高結晶性ホモポリプロピレン(A)を組成物全体を基準として70ないし85質量%、およびエチレンとプロピレンの組成比がエチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比で0.30ないし0.50のエチレン-プロピレン弾性共重合体(B)を組成物全体を基準として15ないし30質量%にて含んでなり、
該エチレン-プロピレン弾性共重合体(B)/該高結晶性ホモポリプロピレン(A)の絶対粘度の比率は1.5ないし2.5であり、該エチレン-プロピレン弾性共重合体(B)は水素/エチレンのモル比が0.05ないし0.20の条件で形成されている、エチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物であって、
該エチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は5.0ないし10.0であり、
該エチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物の溶融指数は10?40g/10minであることを特徴とする、エチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン-プロピレン弾性共重合体(B)は、-35℃以下のガラス転移温度を有することを特徴とする、請求項1に記載のエチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン-プロピレン弾性共重合体(B)は、0.5ないし2.0μmの大きさで前記樹脂組成物中に分散していることを特徴とする、請求項1に記載のエチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、前記高結晶性ホモポリプロピレン(A)および前記エチレン-プロピレン弾性共重合体(B)の100質量部に基いて、0.05ないし0.2質量部の核剤(C)をさらに含み、
該核剤(C)は、ジベンジリデンソルビトール、ジ(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、ジメチルベンジリデンソルビトール、アルキル安息香酸アルミニウム塩、有機リン金属塩、タルクおよびこれらの混合物の中から少なくとも1種選択されることを特徴とする、請求項1に記載のエチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物を成形して得られた試料の、ASTM D256に基いて23℃で測定されたアイゾット衝撃強度はノーブレーク(No-Break)であり、およびASTM D648に基いて測定された該試料の引張強度は200kg/cm^(2)以上であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のエチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。」

以下、特許第5954931号の請求項1ないし5に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。

第3 特許異議の申立ての概要

特許異議申立人は、証拠として、
・特表2006-522186号公報(以下、「甲1」という。)
・特表2007-501869号公報(以下、「甲2」という。)
・特開2000-204175号公報(以下、「甲3」という。)
・国際公開第97/19135号(以下、「甲4」という。)
・特公平7-30145号公報(以下、「甲5」という。)
・特開平6-93061号公報(以下、「甲6」という。)
・特表2007-538119号公報(以下、「参考1」という。)
・特表2009-516767号公報(以下、「参考2」という。)
・「プラスチック材料講座「7」 ポリプロピレン樹脂,昭和44年11月30日発行」(以下、「参考3」という。なお、前記「7」は丸付きの7の文字を表す。)
・「Polypropylene Handbook 2nd Edition, p. 18, Table 2.1; 2005、及び抄訳」(以下、「参考4」という。)
・「参考図1」
・「参考図2」
を提出し、特許異議の申立てとして要旨以下のとおりの主張をしている。

1.特許法第29条第2項について
本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2ないし6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

2.特許法第36条第4項第1号について
請求項1ないし5に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

3.特許法第36条第6項第1号について
請求項1ないし5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

第4 甲1ないし6の記載及び甲1に記載された発明

1.甲1の記載
甲1には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
A)多分散性指標(P.I.)値が4.6?10及び25℃のキシレン不溶画分について^(13)C NMRにより測定されるアイソタクチックペンタド(mmmm)含有量が98モル濃度より高い、プロピレンホモポリマー或いは3%若しくはそれより低いエチレン又はC_(4)-C_(10)α‐オレフィン又はそれらの組合せを含有するプロピレンコポリマー60?95%;
B)40%?70%のプロピレン又はC_(4)-C_(10)α‐オレフィン又はそれらの組合せを含有し、任意に少量のジエンを含有してもよいエチレンコポリマー5?40%を含み(特に示さない限り、重量基準)、
キシレン中で分画して40℃、80℃及び90℃の温度での画分を収集することによって得られる昇温溶出分画(TREF)プロフィールにおいて、90℃で収集した画分のエチレン含有量Yが次の関係式(I):
Y≦‐0.8+0.035X+0.0091X^(2)
(式中、Xは40℃で収集した画分のエチレン含有量であり、XとYは共に重量%で表わされる)を満足し、25℃でのキシレン可溶画分の固有粘度値[η]が1.8?4.2dl/gであるオレフィンポリマー組成物。
【請求項2】
成分(A)が、Mw/Mn比で表されGPCにより測定される7と等しいか又はそれより高い分子量分布及びGPCにより測定される3.6と等しいか又はそれより高いMz/Mw比値を有する請求項1の組成物。」

(2)「【0008】
本発明の組成物の特に好ましい特徴は、以下である:
‐ 成分(A)の分子量分布が、Mw/Mn比で表し、GPCにより測定して、7に等しいか又は7より高く、特に7?20であり;
‐ 成分(A)のMw/Mn比の値が、GPCにより測定して、3.6に等しいか又は3.6より高く、特に3.6?7であり;
‐ 曲げ弾性率が、900?2000MPa、より好ましくは1100?1700MPaであり;
‐ メルトフローレート(MFR)0.5?45g/10分、より好ましくは2?35g/10分であり(条件L、すなわち230℃、荷重2.16kgで測定);
共重合されるエチレンの全量は、好ましくは1.5?24重量%である。」

(3)「【0048】
実施例1及び比較例1と2
固体触媒成分の製造
窒素で浄化した500mlの四頚丸型フラスコ中に250mlのTiCl_(4)を0℃で導入した。攪拌しながら、10.0gの微小球状のMgCl_(2)*2.8C_(2)H_(5)OH(米国特許第4,399,054号の実施例2に記載の方法に従って、ただし10,000rpmに代えて3,000rpmで操作して製造)と7.4ミリモルのジエチル2,3‐ジイソプロピルスクシネートを添加した。温度を100℃に上昇させ、120分間維持した。次に、攪拌を中断し、固体生成物を沈降させ、上澄液を汲み出した。次に、2250mlの新鮮なTiCl_(4)を添加した。混合物を120℃で60分間反応させ、次に、上澄液を汲み出した。固体を60℃の無水ヘキサンで6回洗浄した(6×100ml)。
【0049】
触媒系及び予備重合処理
重合反応器に導入する前に、上述の固体触媒成分を、アルミニウムトリエチル(TEAL)及びジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)と、TEAL対固体触媒成分の重量比が11に等しく、重量比TEAL/DCPMSが4.4に等しい量で12℃にて24分間接触させる。約15に等しい
次いで、触媒系を、第一重合反応器に導入する前に、約5分間20℃の液体プロピレン中で懸濁状態に維持することにより予備重合に供する。
【0050】
重合
重合行程(run)を、生成物をある反応器から直後の次の反応器に移す装置を備えた一連の3つの反応器で連続様式にて実施する。最初の2つの反応器は液相反応器であり、第三反応器は流動床気相反応器である。成分(A)は第一反応器及び第二反応器で製造され、一方、成分(B)は第三反応器で製造される。
水素を分子量調整剤として使用する。
気相(プロピレン、エチレン及び水素)を、ガスクロマトグラフィーにより連続分析する。
行程の終点で、粉体を吐出させ、窒素気流下で乾燥させる。
主たる重合条件及び3つの反応器で製造されたポリマーに関する分析データを、表1に報告する。
【0051】
次に、ポリマー粒子を、回転ドラムに導入し、そこで、0.2重量%のIrganox B225(約50%のIrganox 1010と50%のIrgafos 168から製造)、0.3重量%のGMS90(モノステアリン酸グリセリン)及び0.09重量%のNaベンゾエートと混合して、核形成した組成物を得る。前述のIrganox 1010は、ペンタエリスリチル テトラキス3-(3,5-ジ‐tert‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロパノエートであり、一方、Irgafos 168は、トリス(2,4‐ジ‐tert-ブチルフェニル)ホスファイトである。
次に、ポリマー粒子を、250rpmの回転速度及び200?250℃の溶融温度にて二軸押出機で窒素雰囲気下に押出す。
このようにして得られたポリマーの特性を表2に報告する。この表に、非常に匹敵するMFR、ヘテロ相構造及び組成を有する2つの比較の核形成したポリマー組成物(比較例1及び)の特性も報告する。
【0052】
比較例1の比較ポリマー組成物は、
A) 33g/10分のMFR、98.8%のキシレン不溶含有量及び4.3のPIを有するプロピレンホモポリマー83.5%;
B) 45%のエチレンを含有するプロピレン/エチレンコポリマー16.5%
から製造され(全ての量が重量基準)、0.3%のGMS90、0.12%のIrganox B225及び0.09%のNaベンゾエートを含有する。更に、この比較組成物は、以下の特徴:
‐ (A)のキシレン不溶部分の(mmmm):99.1モル%;
‐ (A)のMw/Mn:10.1;
‐ (A)のMz/Mw:3.5;
‐ Y:15.1wt%;
‐ X:37.7wt%
及び固有粘度値2を有する15.3重量%のキシレン可溶画分を含有する。
【0053】
比較例2の比較ポリマー組成物は、
‐ 4.3のPIを有するプロピレンホモポリマー82%;
‐ 50%のエチレンを含有するプロピレン/エチレンコポリマー18%
から製造され(全ての量が重量基準)、0.3%のGMS90、0.12%のIrganox B225及び0.09%のNaベンゾエートを含有する。更に、この比較組成物は、以下の特徴:
‐ (A)のキシレン不溶部分の(mmmm):99.1モル%;
‐ (A)のMw/Mn:10.1;
‐ (A)のMz/Mw:3.5
及び固有粘度値2.58dl/gを有する16重量%のキシレン可溶画分を含有する。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】



2.甲1に記載された発明
甲1には、特に実施例1において、成分A)は第1反応器及び第2反応器で製造され、成分B)は第3反応器で製造され、第1ないし3反応器のSplit(分画)がそれぞれ64wt%、17wt%、19wt%であるから、成分A)は81wt%、成分B)は19wt%と計算されること、及びその他の特性からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「A)アイソタクチックペンタド(mmmm)含有量が98.8モル%であり、Mw/Mnが15.1であるプロピレンホモポリマー81wt%、
B)水素/エチレンが0.062%の条件で重合され、45wt%のエチレンを含有するプロピレン/エチレンコポリマー19wt%、
を含むポリマー粒子を、0.2重量%のIrganox B225(約50%のIrganox 1010と50%のIrgafos 168から製造)、0.3重量%のGMS90(モノステアリン酸グリセリン)及び0.09重量%のNaベンゾエートと混合し、250rpmの回転速度及び200?250℃の溶融温度にて二軸押出機で窒素雰囲気下に押出して得られた、メルトフローレート(MFR)が21g/10分である、オレフィンポリマー組成物。」

3.甲2ないし6の記載
(1)甲2には、プロピレンポリマーと、エチレンを含むオレフィンポリマーゴムとを含むポリオレフィン組成物について、プロピレンポリマーの多分散度、重合条件、得られた生成物の性質が記載されている(請求項1、【0059】、【0060】)。また、当該組成物はとりわけ自動車分野での用途が見出され、特に低温であっても曲げ係数及びIZOD衝撃強さの改善されたバランスを有していることが記載されている(【0002】)。

(2)甲3には、結晶性ポリプロピレンおよびプロピレン-エチレンコポリマーからなる熱成形用プロピレン系樹脂シートについて、性能評価結果が記載されている(【0054】、【0055】)。

(3)甲4には、プロピレンホモポリマーおよびプロピレン-エチレンコポリマーからなるプロピレン系組成物について、製造条件および特性が記載されている(第35頁?第38頁)。

(4)甲5には、結晶性ポリプロピレン部[(a)成分]とエチレンプロピレンランダム共重合部[(b)成分]を含有し、(a)成分および(b)成分の極限粘度をそれぞれ[η]_(PP)および[η]_(EP)としたときにその比([η]_(EP)/[η]_(PP))が0.5?2.0であるプロピレンブロック共重合体について、極限粘度の比が2.0を超えると耐面衝撃性が低下し、0.5未満であると耐面衝撃性が低下するとともに、剛性も低下することが記載されている(第4欄第1行?第3行)。

(5)甲6の記載
甲6には、プロピレンを主体とした重合体部分(A成分)とエチレン-プロピレン共重合部分(B成分)を重合して得られ、B成分の極限粘度(〔η〕B)とA成分の極限粘度(〔η〕A)の比(〔η〕B/〔η〕A)が1.8以下のブロック共重合体を溶融混練してなるポリプロピレンブロック共重合体について、〔η〕B/〔η〕Aは、低温での耐衝撃性と外観の点から、0.8?1.7の範囲が好ましいことが記載されている(【0020】)。

第5 対比・判断

1.特許法第29条第2項について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「プロピレンホモポリマー」、「プロピレン/エチレンコポリマー」、「メルトフローレート(MFR)」、「オレフィンポリマー組成物」は、それぞれ、本件発明1における「ホモポリプロピレン」、「エチレン-プロピレン」「共重合体」、「溶融指数」、「ポリプロピレン樹脂組成物」に相当する。
甲1発明において「アイソタクチックペンタド(mmmm)含有量が98.8モル%」であることは、本件発明1において「アイソタクチックペンタッド分率が96%以上」という数値範囲を満たすとともに、甲1発明におけるプロピレンホモポリマーは、本件発明1におけるホモポリプロピレンと同程度のアイソタクチックペンタド(mmmm)を含有していることから、本件発明1におけるホモポリプロピレンと同様に「高結晶性」であるものと認められる。
甲1発明におけるプロピレン/エチレンコポリマーは、それに相当する本件発明1におけるエチレン-プロピレン共重合体と同様に「弾性」という性質を有しているものと認められる。また、甲1発明のオレフィンポリマー組成物において、該組成物に含まれるプロピレン/エチレンコポリマーは、本件発明1にいう「ベース」であるといえる。
甲1発明においては、プロピレンホモポリマー81wt%、プロピレン/エチレンコポリマー19wt%を含むポリマー粒子に、0.2重量%のIrganox B225、0.3重量%のGMS90、0.09重量%のNaベンゾエートを混合しており、ポリマー以外の計0.59重量%の添加剤を考慮すると、オレフィンポリマー組成物全体の100重量%において、プロピレンホモポリマーは約80.5重量%、プロピレン/エチレンコポリマーは約18.9重量%であると認められる。してみると、甲1発明におけるプロピレンホモポリマーとプロピレン/エチレンコポリマーの含有量は、本件発明1において、ホモポリプロピレンを「70ないし85質量%」含み、エチレン-プロピレン共重合体を「15ないし30質量%」含むという数値範囲を満たすといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「アイソタクチックペンタッド分率が96%以上の高結晶性ホモポリプロピレン(A)を組成物全体を基準として70ないし85質量%、およびエチレン-プロピレン弾性共重合体(B)を組成物全体を基準として15ないし30質量%にて含んでなり、
エチレン-プロピレン共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物であって、
該エチレン-プロピレン共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物の溶融指数は10?40g/10minであることを特徴とする、エチレン-プロピレン共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1においては、「ポリプロピレン樹脂組成物」の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が「5.0ないし10.0」であるのに対して、甲1発明においては、「プロピレンホモポリマー」のMw/Mnが「15.1」である点。

<相違点2>
本件発明1においては、エチレン-プロピレン弾性共重合体は「水素/エチレンのモル比が0.05ないし0.20の条件で形成されている」のに対して、甲1発明においては、プロピレン/エチレンコポリマーは「水素/エチレンが0.062%」の条件で重合されており、比がモル比であることは明示がないとともに、その単位が%である点。

<相違点3>
本件発明1においては、エチレン-プロピレン弾性共重合体は「エチレンとプロピレンの組成比がエチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比で0.30ないし0.50」であるのに対して、甲1発明においては、プロピレン/エチレンコポリマーは「45wt%のエチレンを含有する」、すなわち、エチレンの分子量28、プロピレンの分子量42を用いて換算すると、エチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比が約0.55である点。

<相違点4>
本件発明1においては、エチレン-プロピレン弾性共重合体/高結晶性ホモポリプロピレンの「絶対粘度の比率は1.5ないし2.5」であると特定されているのに対して、甲1発明においては、そのような特定はされていない点。

<相違点5>
本件発明1においては、エチレン-プロピレン共重合体が「ブロック」共重合体と特定されているのに対して、甲1発明においては、プロピレン/エチレンコポリマーが「ブロック」コポリマーと特定されていない点。

相違点1について検討する。
相違点1に係る構成の本件発明1における技術的意義は、本件特許明細書の記載(【0041】ないし【0043】)からみて、分子量分布等の各種の要素をいずれも適切な条件とすることで、ポリプロピレン樹脂組成物が衝撃強度、表面特性及び流動性の全てにおいて優れたものとすることであると理解される。
甲1には、成分(A)、すなわちプロピレンホモポリマーのMw/Mnが7以上であることが記載され(第4 1.(2))、実施例1としてプロピレンホモポリマーのMw/Mnは15.1であることが記載されている(第4 1.(3))が、成分(A)と成分(B)を含むオレフィンポリマー組成物、すなわち本件発明1における「ポリプロピレン樹脂組成物」のMw/Mnについては記載も示唆もされていない。また、15.1という数値は本件発明1における「5.0ないし10.0」という範囲から外れるものである。
一方、甲2ないし6には、プロピレンホモポリマーとプロピレン/エチレンコポリマーとの組成物又はエチレンプロピレン共重合体が記載され、甲2には、プロピレンホモポリマーの多分散度(Mw/Mn)が記載されているものの、オレフィンポリマー組成物のMw/Mnを5.0ないし10.0にすることで、オレフィンポリマー組成物が衝撃強度、表面特性及び流動性に優れたものとなることについては、甲2ないし6には記載も示唆もされていない。
そうである以上、たとえ、甲2ないし6に、第4 3.で摘示したような技術の開示があったとしても、甲1発明において、オレフィンポリマー組成物を衝撃強度、表面特性及び流動性の全てにおいて優れたものとするための具体的な解決手段として、オレフィンポリマー組成物のMw/Mnを5.0ないし10.0にする動機付けがないことから、甲1発明において相違点1に係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。
また、本件発明1が、相違点1を含め、請求項1の発明特定事項を備えることで、ポリプロピレン樹脂組成物が衝撃強度、表面特性及び流動性の全てにおいて優れたものとなるという効果は、甲1ないし6に記載も示唆もなく、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。

以上のとおり、本件発明1は甲1発明と相違点1ないし5において相違するものであり、これらの相違点のうち相違点1は想到容易とはいえないのであるから、相違点2ないし5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ところで、特許異議申立人の主張について検討すると、相違点1に関して、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲1には、プロピレンホモポリマーのMw/Mnが7と等しいか又はそれより高いことが記載されており、相違点1は相違点ではない旨主張している(3.(4)ウ(ア))。
しかしながら、甲1において、Mw/Mnが7と等しいか又はそれより高いことが記載されているのはプロピレンホモポリマーである一方、本件発明1において、Mw/Mnが5.0ないし10.0であるのはポリプロピレン樹脂組成物、すなわちホモポリプロピレン及びエチレン-プロピレン共重合体であり、両者のMw/Mnは対象としているポリマーが異なるから、本件発明1に規定される、ポリプロピレン樹脂組成物のMw/Mnが5.0ないし10.0であることは、甲1に記載されているとはいえない。そして、相違点1についてすでに検討したように、甲1に記載された発明において当該相違点に係る構成とすることはたとえ当業者であっても到底容易であるとはいえず、それによる効果は、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。

また、相違点2に関して、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲1には、水素/エチレンのモル比が0.062であることが記載されており、相違点2は相違点ではない旨主張している(3.(4)ウ(ア))。
相違点3に関して、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲1、2、参考1、2記載のデータに基づく参考図1を参照すれば、甲1には、本件発明1における「エチレンとプロピレンの組成比がエチレン/(エチレン+プロピレン)のモル比で0.30ないし0.50」に相当する事項が記載されており、相違点3は実質的な相違点ではない旨主張している(3.(4)ウ(イ)(a))。
相違点4に関して、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲2ないし4記載のデータに基づく参考図2を参照すれば、甲1には、本件発明1における「絶対粘度の比率は1.5ないし2.5」に相当する事項が記載されており、相違点4は実質的な相違点ではない旨主張している(3.(4)ウ(イ)(b))。
しかしながら、仮に、特許異議申立人が主張するように、相違点2ないし4が実質的には相違点ではなかったとしても、上記のように、本件発明1は甲1発明と相違点1、5において相違するものであり、相違点1は想到容易とはいえないのであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人は特許異議申立書において、参考4には、水素応答性が触媒系の種類に大きく依存することが記載され、水素注入量が触媒の種類に大きく依存することが示唆されている一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、ホモポリプロピレンの製造方法として、水素注入量をどのように変えるかについての記載はなく、また、ホモポリプロピレンを製造する場合の、水素注入量以外の製造条件については一切記載されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないと主張している(3.(4)エ(ア))。
しかしながら、水素注入量以外の製造条件については、温度等の製造条件が本件特許明細書の【0038】に記載されており、また、水素注入量については、ポリプロピレンのハンドブックである参考4に、触媒系と水素応答性との対応関係が記載されているように、本件特許の出願時に触媒系の水素応答性は当業者に周知の事項であり、水素応答性の程度に応じて水素注入量を調節することは、当業者であればどのように実施するかを理解することができるものと認められる。
また、特許異議申立人は特許異議申立書において、本件特許明細書の表1の実施例2と比較例3とでは、分子量分布(Mw/Mn)の差がどのような製造条件の違いによるものであるのか、また、比較例5と比較例6とでは、溶融指数(MFR)や絶対粘度比率の差がどのような製造条件の違いによるものであるのか何ら説明されていないとも主張している(3.(4)エ(ア))。
しかしながら、前者の差については、成分(B)を製造する際のエチレンのガス比が異なることが表1に示されており、後者の差については、実施例との比較ではなく比較例同士の比較である上、両比較例は核剤の有無でも相違するものであり、それらの差の理由について説明する記載がないことをもって、当業者が本件発明1ないし5を実施することができないとはいえない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、これらの主張は採用することができない。

3.特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人は特許異議申立書において、参考4を引用して説明したように、アイソタクチックペンタッド分率及びMw/Mnは触媒の種類に大きく影響し、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の技術的範囲を触媒系について何ら限定のない範囲まで拡張ないし一般化できるものとはいえず、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないと主張している(3.(4)エ(イ))。
しかしながら、ポリプロピレンのハンドブックである参考4に、触媒系とアイソタクチックペンタッド分率及びMw/Mnとの対応関係が記載されているように、所定のアイソタクチックペンタッド分率及びMw/Mnを有するポリプロピレンを得るためにはどのような触媒系が用いられるかは、明示はなくても本件特許の出願時の技術常識であったと認められ、触媒系が特定されていないことをもって、本件発明1ないし5が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
そうすると、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、この主張は採用することができない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-02 
出願番号 特願2010-283704(P2010-283704)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 渕野 留香
西山 義之
登録日 2016-06-24 
登録番号 特許第5954931号(P5954931)
権利者 エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
発明の名称 衝撃強度、表面特性および流動性に優れたエチレン-プロピレンブロック共重合体ベースのポリプロピレン樹脂組成物  
代理人 特許業務法人はなぶさ特許商標事務所  
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