• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 F16F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F
管理番号 1328218
審判番号 不服2016-11655  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-03 
確定日 2017-05-30 
事件の表示 特願2014-254455「振動低減装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日出願公開、特開2016-114194、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月16日の出願であって、平成27年12月24日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月4日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年4月27日付け(発送日:同年5月6日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年8月3日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年2月1日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、平成29年4月5日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
A (新規性)本件出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物a、bに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
B (進歩性)本件出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物a?dに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
a.特開2000-120741号公報
b.特開2000-46107号公報
c.特開平8-114250号公報
d.特開2009-174706号公報

第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知の概要は次のとおりである。

1 (進歩性)本件出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?7に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 (明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1) 理由1(進歩性)について
引用文献等一覧
1.特開2000-120741号公報(拒絶査定時の刊行物a)
2.特許第3914372号公報(当審において新たに引用した文献)
3.特開昭49-3070号公報(当審において新たに引用した文献)
4.実願昭63-149996号(実開平2-71145号)のマイクロ
フィルム(当審において新たに引用した文献)
5.特開2003-343649号公報(当審において新たに引用した
文献)
6.特開2010-248350号公報(当審において新たに引用した
文献)
7.国際公開第2013/127018号(特表2015-508880
号公報を参照)(当審において新たに引用した文献)

(2) 理由2(明確性)について
請求項3について、「制振部材の円形の中心軸と一致すること」との記載は、明確ではない。また、請求項3の末尾の「振動低減システム」は、請求項1及び請求項2の末尾の「振動低減装置」と対応していない。

第4 本願発明
本願の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成29年4月5日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
隣接する制振部材に接触しないように隙間を有して配置した弾性変形可能な複数の制振部材を、
一対の上部安定板と下部安定板とで挟持して構成した振動低減装置であって、
前記制振部材は、前記下部安定板の中心から等距離で描いた円(25)上にのみ等間隔で独立して前記下部安定板の上に配置され、
前記上部安定板の上に搭載された自在継手の中心軸が、前記円(25)の中心軸と一致し、
前記制振部材の材質は、下記(a)又は(b)と、
ポリイソシアネートと、を、
ポリオールの水酸基(OH)に対するイソシアネートのイソシアネート基(NCO)の当量比(NCO/OH)が1.03?0.44を反応させて得られるポリウレタン樹脂で構成されるスポンジ硬度10?75の軟質エラストマーであることを特徴とする振動低減装置。
(a)官能基数2,分子量700?2000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオール
(b)官能基数3,分子量4000?8000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオール
【請求項2】
前記制振部材が、円柱、円錐台、角柱、角錐台、樽形又は逆円錐台形状のものであることを特徴とする請求項1に記載の振動低減装置。」

第5 引用文献及びその記載事項
1 当審拒絶理由通知に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-120741号公報(以下、「引用文献1」または「引用文献a」という。)には、「制振支持部材」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 制振単体と、この制振単体を挟み込む上下両板とからなり、上下両板間に複数の制振単体を配置できるようになっいる制振支持部材。
【請求項2】 上下両板に、制振単体を位置保持する為の凹凸が形成されている請求項1記載の制振支持部材。
【請求項3】 制振単体は弾性体製で、全体形状はほぼ円柱状で、外面にはリング鍔が形成され、中心には上下に貫通する孔が設けられている請求項1記載の制振支持部材。」

(2) 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、地震や機械運転時などに発生する振動を減衰・吸収する為、建築物や機械装置類の下面に設置される制振支持部材に関する。」

(3) 「【0007】
【発明の実施の形態】本発明の制振支持部材の実施の形態を図面の実施例に基づいて説明する。1は制振単体で、同一のものが複数個(図示例では7個)用いられる。制振単体1は、ゴムやコイルバネなどの弾性材を単独で、あるいは適当に組み合わせて作ることが可能で、実施例はゴム成形品である。
【0008】実施例の制振単体1の詳細な形状は、図2、図3に示されている。全体的形状はほぼ円柱状で、外面には複数のリング鍔2が形成され、中心部には上下方向に貫通する孔3が設けられている。
【0009】4は下板、5は上板で、いずれも硬質材製とする。実施例は硬質合成樹脂の成形品である。下板4の上面には、位置決めと、移動防止の為に、複数の嵌合凸部6が形成されていて、ここに制振単体1の孔3が嵌る。また、上板5の下面には、複数の嵌合凹部7が形成されていて、ここに制振単体1の上端が嵌り込む。なお、凸部6及び凹部7は、その形状は制振単体1に合わせ、また形成個数や位置は、制振単体1の最大使用個数に合わせて定める。実施例では7個であるが、増減は自由である。
【0010】次に前記の制振支持部材の使用法を説明する。制振単体1及び上下両板4、5は組立や分解が自在であるから、先ず必要とする制振単体1の個数を定め、各単体1を、下板4の凸部6に嵌め込んで載置する。この際、単体1の配置は対称形状となるようにして平面的バランスを図る。なお、単体1の個数は、使用箇所に作用する予想負荷荷重に基づいて定める。単体1の実使用個数は1個でもよい。次に上面に上板5を載せ、凹部7に単体1を嵌め込む。このようにして組み立てを終えた制振支持部材は、建築物の柱の下面や、機械装置類の下などに設置して使用する。これにより、上下いずれの方向から振動が加わっても、その振動は制振単体1で減衰・吸収され、反対方向へは伝わらない。従って、地震による建築物への被害を防止でき、また、大形機械の運転時の振動をその支持部で吸収できる。
【0011】なお、本発明は前記の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の範囲内で自由に変形実施可能である。特に、制振単体1の素材や形状、その使用個数、配置、位置保持方式などは自由である。」

(4) 【図1】?【図3】を参酌すると、制振単体1が、隣接する制振単体1に接触しないように隙間を有して円形状に配置されているものが看取される。

以上のことから、引用文献1には、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、「制振支持部材」に関して、次の発明(以下「引用発明」または「引用発明a」という。)が記載されている。
「隣接する制振単体1に接触しないように隙間を有して円形状に配置したゴム成型品の複数の制振単体1を、
一対の上板5と下板4とで挟持して構成した制振支持部材であって、
前記複数の制振単体1は、下板4の中心から等距離で描いた円上に等間隔で、更に前記円の中心にも、独立して配置される制振支持部材。」

2 当審拒絶理由通知に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特許第3914372号公報(以下、「引用文献2」という。)(特に、段落【0001】、【0010】、及び【0025】?【0040】を参照。)には、「ポリウレタン樹脂組成物及びポリウレタン樹脂」に関して、【表3】に、例Lとして、官能基数2、分子量1000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオールと、ポリオールの水酸基(OH)に対するイソシアネートのイソシアネート基(NCO)の当量比(NCO/OH)が0.85を反応させて得られるポリウレタン樹脂で構成されるスポンジ硬度70の軟質エラストマーが、また、例Mとして、官能基数2、分子量1000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオールと、ポリオールの水酸基(OH)に対するイソシアネートのイソシアネート基(NCO)の当量比(NCO/OH)が0.85を反応させて得られるポリウレタン樹脂で構成されるスポンジ硬度15の軟質エラストマーが、それぞれ記載されている(以下、「引用文献2に記載された事項」という。)。

3 当審拒絶理由通知に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭49-3070号公報(以下、「引用文献3」という。)(特に、2ページ左上欄7行?左下欄4行、及び第1図?第4図を参照。)には、「防振機構」に関して、複数個の防振材3を同心円状に配置することが記載されており、第1図及び第3図を参酌すれば、防振材3は円上にのみ等間隔となっていることが看取される(以下、「引用文献3に記載された事項」という。)。

4 当審拒絶理由通知に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭63-149996号(実開平2-71145号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献4」という。)(特に、9ページ12行?16行、第1図、及び第2図を参照。)には、「振動機における防振ゴムの位置固定部材」に関して、防振ゴム21をベースブロック14に、円上に、120°の角度間隔で、配置したものが記載されている(以下、「引用文献4に記載された事項」という。)。

5 当審拒絶理由通知に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-343649号公報(以下、「引用文献5」という。)には、「積層ゴムを用いた免震ユニット」に関して、図1、図2、図7、及び図10に、積層ゴム14を正三角形、正方形及び正六角形の頂点の位置に配置したものが看取される。ここで、上記正三角形の頂点の位置は、各頂点を結ぶ円を等間隔とする位置となる。また、正方形及び正六角形の場合も同様に、各頂点の位置は、各頂点を結ぶ円を等間隔とする位置となる(以下、「引用文献5に記載された事項」という。)。

6 当審拒絶理由通知に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-248350号公報(以下、「引用文献6」という。)には、「ポリウレタン樹脂組成物」に関して、図2に、ポリウレタン樹脂組成物を円錐台形状としたものが看取される(以下、「引用文献6に記載された事項」という。)。

7 当審拒絶理由通知に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2013/127018号(以下、「引用文献7」という。)(特に、11ページ17行?18行、Fig.1、及びFig.2.1?Fig.2.3を参照。また、対応する国内公表である特表2015-508880号公報の【請求項8】、図1、及び図2を参照。)には、「振動絶縁装置および振動絶縁システム」に関して、構造物を絶縁するための連結器として、軸、平たいボールジョイントまたはヒンジに取り付けられる支持プラットフォームが記載されている(以下、「引用文献7に記載された事項」という。)。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「制振単体1」は、本願発明1の「制振部材」に相当する。
以下同様に、「上板5」は、「上部安定板」に、
「下板4」は、「下部安定板」に、
「制振支持部材」は、「振動低減装置」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の制振単体1は、ゴム成型品であるから、「弾性変形可能」である。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「隣接する制振部材に接触しないように隙間を有して配置した弾性変形可能な複数の制振部材を、
一対の上部安定板と下部安定板とで挟持して構成した振動低減装置であって、
前記制振部材は、前記下部安定板の中心から等距離で描いた円上に等間隔で独立して前記下部安定板の上に配置される振動低減装置。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
複数の制振部材の配置に関して、本願発明1では、「円(25)上にのみ等間隔」で配置されているのに対して、
引用発明では、円上に等間隔で、更に前記円の中心にも、配置されている点。

[相違点2]
制振部材の材質に関して、本願発明1では、
「下記(a)又は(b)と、
ポリイソシアネートと、を、
ポリオールの水酸基(OH)に対するイソシアネートのイソシアネート基(NCO)の当量比(NCO/OH)が1.03?0.44を反応させて得られるポリウレタン樹脂で構成されるスポンジ硬度10?75の軟質エラストマーであること。
(a)官能基数2,分子量700?2000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオール
(b)官能基数3,分子量4000?8000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオール」であるのに対して、
引用発明では、ゴム成型品である点。

[相違点3]
本願発明1では、「前記上部安定板の上に搭載された自在継手の中心軸が、前記円(25)の中心軸と一致し」しているのに対して、
引用発明では、自在継手を備えていない点。

(2) 相違点についての判断
相違点3について検討する。
引用文献2?6に記載された事項には、自在継手について、記載も示唆もされていない。
また、引用文献7に記載された事項には、構造物を絶縁するための連結器として、ボールジョイント(本願発明1の「自在継手」に相当。)に取り付けられる支持プラットフォームが記載されているが、該ボールジョイントの中心軸がどのように配置されるのかについては、記載も示唆もされていない。
すると、たとえ引用発明1に、引用文献2?7に記載された事項を適用したとしても、上記相違点3に係る本願発明1の構成に至るものではない。
したがって、上記相違点3に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

このように、上記相違点3に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、相違点1及び2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明、及び引用文献2?7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明、及び引用文献2?7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 小括
以上のとおり、本願発明1、2は、引用発明、及び引用文献2?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、当審拒絶理由通知の理由2(明確性)において、請求項3について、「制振部材の円形の中心軸と一致すること」との記載は、明確ではなく、また、末尾の「振動低減システム」は、請求項1及び請求項2の末尾の「振動低減装置」と対応していないとの拒絶の理由を通知した。
しかし、平成29年4月5日の手続補正により、補正前の請求項3は削除された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 原査定についての判断
1 理由A(新規性)について
(1) 引用文献aを主引例とした場合
前記「第5 1」で定義したように、「引用文献a」及び「引用発明a」は、「引用文献1」及び「引用発明」と同じである。
また、本願発明1と引用発明aとの一致点及び相違点は、前記「第6 1(1)」に記載したとおりである。
そして、本願発明1と引用発明aとは、前記相違点1?3の点において相違しているから、本願発明1は引用文献aに記載された発明とはいえない。
また、本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用文献aに記載された発明とはいえない。

(2) 特開2000-46107号公報を主引例とした場合
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-46107号公報(以下、「引用文献b」という。)には、「免震用スライド機構」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(以下、「引用文献bに記載された事項」という。)。

ア 「【請求項1】 球体支持板と、
該球体支持板に乗せられた少なくとも3個の剛性を持つ球体と、
前記少なくとも3個の球体を転動自在に、かつ相互の間隔を維持した状態で保持するための球体保持板と、
該球体保持板と被免震構造物との間に設けられた自在継手とを含み、
前記球体支持板に作用する水平方向の振動が前記被免震構造物に伝達されることを防止するようにしたことを特徴とする免震用スライド機構。」

イ 「【0014】図1において、本形態における免震用スライド機構は、住宅の基礎部1に設置される球体支持板10と、この球体支持板10に乗せられた3個の球体11-1、11-2、11-3と、3個の球体11-1?11-3を転動自在に、かつ相互の間隔を維持した状態で保持するための球体保持板12と、球体保持板12の上端部と住宅の床下部における鋼製の支柱2の下端部との間に設けられた球体継手13とを含み、地震等により球体支持板10に作用する水平方向の振動が住宅に伝達されることを防止するものである。
【0015】球体継手13は、住宅の荷重を、球体保持板12を介して3個の球体11-1?11-3に均一に分散するためのものである。言い換えれば、地震等の揺れにより支柱2が図示の垂直状態から様々に変位したとしても、球体保持板12が傾むくことを防止し、住宅の荷重を3個の球体11-1?11-3に均一に分散させるように作用する。このために、球体継手13の球体はボールベアリングの機能をも有する。このような理由で、支柱2と球体保持板12との間に設けられる継手は球体継手13が最も好ましいが、周知の他の自在継手を用いても良い。そして、球体継手13の場合には、支柱2の下端部には球体を受けるための凹部が受部として形成される。」

ウ 「【0021】図3において、3個の球体11-1?11-3は、球体支持板10上の図中一点鎖線で示す同一円周上に間隔をおいて設けられる。また、球体継手13は、図中破線で示す上記の同一円周の中心部に対応する位置に設けられる。」

エ 【図1】及び【図3】を参酌すると、球体11-1?11-3が、隣接する球体11-1?11-3に接触しないように隙間を有して円形状に配置され、球状支持板10の中心から等距離で描いた円上のみ等間隔で配置されたものが看取される。

以上のことから、引用文献bには、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、「免震スライド機構」に関して、次の発明(以下、「引用発明b」という。)が記載されている。
「隣接する球体11-1?11-3に接触しないように隙間を有して配置した複数の剛性を持つ球体11-1?11-3を、
一対の球状保持板12と球状支持板10とで挟持して構成した免震用スライド機構であって、
前記球体11-1?11-3は、前記球状支持板10の中心から等距離で描いた円上のみ等間隔で配置され、
前記球状保持板12の上に搭載された自在継手の中心軸が前記円の中心軸と一致する免震用スライド機構。」

本願発明1と引用発明bとを対比する。
引用発明bの「剛性を持つ球体11-1?11-3」は、本願発明1の「制振部材」に相当する。
以下同様に、「球状保持板12」は、「上部安定板」に、
「球状支持板10」は、「下部安定板」に、
「免震用スライド機構」は、「振動低減装置」に、それぞれ相当する。

以上のことから、本願発明1と引用発明bとは次の点で一致する。
「隣接する制振部材に接触しないように隙間を有して配置した複数の制振部材を、
一対の上部安定板と下部安定板とで挟持して構成した振動低減装置であって、
前記制振部材は、前記下部安定板の中心から等距離で描いた円上にのみ等間隔で独立して前記下部安定板の上に配置され、
前記上部安定板の上に搭載された自在継手の中心軸が、前記円の中心軸と一致する振動低減装置。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点4]
制振部材に関して、本願発明1では、「弾性変形可能」で、
「制振部材の材質は、下記(a)又は(b)と、
ポリイソシアネートと、を、
ポリオールの水酸基(OH)に対するイソシアネートのイソシアネート基(NCO)の当量比(NCO/OH)が1.03?0.44を反応させて得られるポリウレタン樹脂で構成されるスポンジ硬度10?75の軟質エラストマーであること。
(a)官能基数2,分子量700?2000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオール
(b)官能基数3,分子量4000?8000の末端に1級ヒドロキシル基を有するポリオール」であるのに対して、
引用発明bでは、剛性を持つ球体である点。

このように、本願発明1と引用発明bとは、相違点4の点で相違しているから、本願発明1は引用文献bに記載された発明とはいえない。
また、本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用文献bに記載された発明とはいえない。

2 理由B(進歩性)について
(1) 引用文献aを主引例とした場合
本願発明1と引用発明aとの一致点及び相違点は、前記「第6 1(1)」に記載したとおりである。
そこで、相違点3について検討する。
引用発明aは、ゴム成型品の制振単体1を一対の上板5と下板4とで挟持し、該ゴム成型品の制振単体1の変形により振動を減衰・吸収するものである。
これに対して、引用文献bに記載された事項では、スライド機構として、剛性を持つ球体11-1?11-3がスライドすることにより制振するもので、該スライド時に球状保持板12が傾くことを防止しするとともに、荷重を球体に均一に分散させるために、自在継手(球状継手12)が、スライド機構に必要不可欠の構成となっている。
このように、引用発明aと引用文献bに記載された事項とでは、制振機構の主要な構成(前者はゴム成型品の制振単体、後者は剛性を持つ球体と自在継手。)と、その制振のメカニズム(前者は弾性変形で、後者はスライド。)が異なる。
そうすると、引用文献bに記載された事項のスライド機構のうちで、自在継手の部分だけを、引用発明aに適用する動機付けがあるとはいえない。

原査定に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-114250号公報(以下、「引用文献c」という。)には、「支持機構」に関して、【図1】に、基盤6に、第1の支持部材3、第2の支持部材4及び第3の支持部材5を、互いに等間隔に配置したものが看取される(以下、「引用文献cに記載された事項」という。)。
また、原査定に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-174706号公報(以下、「引用文献d」という。)には、「定盤固定構造」に関して、【図2】に、アタッチメント14a?14cを、定盤上に円状に120°間隔で固定したものが看取される(以下、「引用文献dに記載された事項」という。)。
しかし、引用文献c及びdに記載された事項には、自在継手について、記載も示唆もされていない。

以上のことから、上記相違点3に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

このように、上記相違点3に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、相違点1及び2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明a、及び引用文献b?dに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

また、本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明a、及び引用文献b?dに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2) 引用文献bを主引例とした場合
本願発明1と引用発明bとの一致点及び相違点は、前記「1(2)」に記載したとおりである。
そこで、相違点4について検討する。
引用発明aには、制振部材(制振単体1)を、弾性変形可能(ゴム成型品)としたものが記されている。
しかし、引用発明bでは、球体11-1?11-3が剛性であることが必須であるところ、仮に球体11-1?11-3が弾性変形可能とすると、振動の際にスライドすることができなくなり、引用発明bが機能しなくなる。
そうすると、引用発明bにおいて、制振部材である球体11-1?11-3を弾性変形可能とすることには、阻害要因がある。
以上のことから、上記相違点4に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明b及び引用発明a、並びに引用文献c及びdに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

また、本願発明bは、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明b及び引用発明a、並びに引用文献c及びdに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
る。

3 小括
以上のことから、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明1、2は、引用発明、及び引用文献2?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、原査定の理由及び当審拒絶理由通知の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-15 
出願番号 特願2014-254455(P2014-254455)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (F16F)
P 1 8・ 121- WY (F16F)
P 1 8・ 537- WY (F16F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 保田 亨介  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
発明の名称 振動低減装置  
代理人 特許業務法人太田特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ