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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
管理番号 1328233
審判番号 不服2015-4966  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-13 
確定日 2017-05-08 
事件の表示 特願2012-503526「ポリマー‐薬剤抱合体、粒子、組成物、および関連する使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月14日国際公開、WO2010/117668、平成24年 9月20日国内公表、特表2012-522055〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、平成22年3月26日(パリ優先権による優先権主張:2009年3月30日(6件)、2009年11月20日(2件)、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年11月11日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成27年3月13日に拒絶査定不服審判が請求されるのと同時に手続補正書が提出され、平成28年5月31日付けで拒絶理由(以下、「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。

第2 本願発明及び本件拒絶理由について
本願の請求項1?22に係る発明は、平成27年3月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものである。
また、本件拒絶理由の内容は、本審決末尾に掲記のとおりである。

第3 むすび
請求人は、本件拒絶理由に対して、指定期間内に特許法第159条第2項で準用する同法第50条所定の意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして、本件拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせず、本願は本件拒絶理由で拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

以下、本件拒絶理由の内容を掲記する。

理由1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1 本願発明について
本願の請求項1?22に係る発明は、平成27年3月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。なお、以下、請求項1に係る発明、請求項2に係る発明を、「本願発明1」「本願発明2」などといい、それらをあわせて「本願発明」ともいう。


2 理由1について/引用文献1:特表2008-506780号公報(原査定での引用文献1)

備考
ア 引用文献1の記載事項及び引用文献1記載の発明

(ア)引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(ア1)「【請求項1】
両親媒性安定化剤、及び、
以下の式の抱合体を含む微粒子構築物
(活性成分-リンカー)_(n)-疎水性成分 (1)
・・・。
・・・
【請求項3】
前記活性成分が、治療剤又は診断剤であることを特徴とする請求項1に記載の構築物。
・・・
【請求項5】
前記疎水性成分が、疎水性ポリマーであることを特徴とする請求項1の構築物。
・・・
【請求項9】
前記両親媒性安定化剤が、共ポリマー・・・であることを特徴とする請求項1の構築物。
【請求項10】
前記共ポリマーが、メトキシポリエチレングリコール(mPEG)-ポリカプロラクトン(PCL)、・・・であることを特徴とする請求項9の構築物。
・・・
【請求項27】
50?200nmの範囲の直径であることを特徴とする請求項26の構築物。」

以上より、引用文献1には次の発明が記載されているといえる。
「共ポリマーである、両親媒性安定化剤、及び、「(治療剤-リンカー)_(n)-疎水性ポリマー」の式の抱合体を含む50?200nmの範囲の直径を有する微粒子構築物。」(以下、「引用発明1」という。)

引用文献1には、さらに以下の事項が記載されている。
(ア2)「【0072】
前記粒子性構築物の形成
・・・
【0073】
模範的な手順において、前記活性剤結合ポリマーとメトキシポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(ε-カプロラクトン)(mPEG-PCL、5,000-2,900g/モル、各々)の安定化二元ブロック共ポリマーを、・・・溶解した。得られた溶液を100mlガスタイトシリンジに装填し、それを電子制御シリンジポンプに固定する。300mMショ糖溶液を調製し、100mlガスタイトシリンジに装填し、それを第二のシリンジポンプに固定する。それらのシリンジを、前記のボルテックスミキサー入り口に接続し、そして、前記活性剤と前記ショ糖溶液を各々流速12及び120ml/分で、ポンピングする。ミキサーの出口にて、二つの試料を収集する。第一の試料はシンチレ-ションバイアル中に収集され、動的光散乱(DLS)によって粒径が分析され、そして、第二の試料は低温フリ-ザ-バイアル中に収集され、凍結乾燥される。」

以上、上記摘示(ア1)及び(ア2)より、引用文献1には次の発明が記載されているといえる。
「「(治療剤-リンカー)_(n)-疎水性ポリマー」の式の抱合体」と、メトキシポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(ε-カプロラクトン)の安定化二元ブロック共ポリマーを溶解して得られた溶液と、ショ糖溶液とを混合する、微粒子構造物の形成方法。」(以下、「引用発明2」という。)


イ 本願発明1?3、5?8、15?18、20について

(ア)対比
本願発明1?3、5?8、15?18、20と、引用発明1とを対比する。

(a)引用発明1の「「(治療剤-リンカー)_(n)-疎水性ポリマー」の式の抱合体」が、本願発明の「a)複数の疎水性ポリマー-薬剤抱合体」に相当し、さらにポリマーであれば、通常はホモポリマーか2種類以上のモノマーサブユニットからなるポリマーのいずれかに該当することを考慮すると、さらに本願発明の「ii)前記薬剤に結合した前記疎水性ポリマーは、ホモポリマーまたは、2種類以上のモノマーサブユニットからなるポリマーであり得」にも相当する。
(b)引用発明1の「共ポリマーである、両親媒性安定化剤」は、「共ポリマー」及び「両親媒性」なる記載、並びに上記摘示(ア1)の両親媒性安定化剤の具体例を考慮すると、本願発明の「b)複数の親水性-疎水性ポリマーであり、i)前記複数の前記親水性-疎水性ポリマーの各々は、疎水性部分に結合した親水性部分を含み」に相当する。
(c)引用発明1の「50?200nmの範囲の直径を有する微粒子構築物」は、本願発明の「粒子の直径は200nm未満である、粒子」と、重複一致する。

そして、以下の点で相違する。
相違点1(疎水性ポリマー-薬剤抱合体について):
本願発明の薬剤が抗癌薬であり、疎水性ポリマーが特定の重量平均分子量を有するものであるのに対し、引用発明1はそのような特定がない点

相違点2(親水性-疎水性ポリマーについて):
本願発明の親水性-疎水性ポリマーは、親水性部分及び疎水性部分が、特定の重合平均分子量を有し、さらにOMeにおいて終止するのに対し、引用発明1はそのような特定がない点

相違点3(その他の成分について):
本願発明は、界面活性剤を含み、また末端アシル部分を有する疎水性ポリマーを含むのに対し、引用発明1はそのような特定がない点

相違点4(各成分含有量について):
本願発明は、粒子に対する、疎水性ポリマー-薬剤抱合体、薬剤、親水性-疎水性ポリマー、界面活性剤の含有量が特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定がない点

相違点5(粒子の使用態様について):
本願発明は、粒子と追加の成分とにより医薬として許容し得る組成物や、キットであるのに対し、引用発明1ではそのような特定がない点

(イ)判断
上記各相違点について検討する。

相違点1(疎水性ポリマー-薬剤抱合体について):
引用文献1には、治療剤として、パクリタキセル、ドキソルビシン等の抗悪性腫瘍剤がある得る旨記載されており(【0042】?【0044】)、実施例1?4、実施例12?17においては実際にパクリタキセルを用いた旨記載されている。
したがって、引用発明1において、上記記載に基づき、薬剤として特定の抗癌剤を用いること、あるいは、上記記載のとおり、特定の抗癌薬に限定する旨の記載もないことから、抗癌薬として周知の薬を用いることは、いずれも当業者が適宜なし得るものである。
また、引用文献1には、疎水性ポリマーに関して、「疎水性成分としてのポリマーは、分子量が800と200,000の間にあるべきである。」(【0063】)と記載されていることに加え、実施例2では、2.2kDのPCL(ポリカプロラクトン)(PCL2.2)が用いられ(【0122】)、その他に1.45kD、3.5kDのPCL(PCL1.45、PCL3.5)を用いた旨(【0123】)、実施例14では、16kDのPLA(ポリ(ラクチド))を用いた旨(【0144】)が記載され、これらの記載は種々の分子量を取り得ることを教示しているものといえる。
したがって、引用発明1において、上記記載及び教示に基づき、疎水性ポリマーの分子量を800?200,000という数値範囲の中から、適当な範囲を選択し、本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることであり、特定の分子量としたことにより格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

相違点2(親水性-疎水性ポリマーについて):
引用文献1には、親水性-疎水性ポリマーの具体的な例として、「メトキシポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(ε-カプロラクトン)(mPEG-PCL、5,000-2,900g/モル、各々)」(【0073】)と記載され、実施例3では「メトキシポリエチレングリコールポリカプロラクトン(メトキシポリエチレングリコール分子量5kg/モル、PCL分子量7kg/モル)(mPEG5-PCL7)」(【0124】)と記載され、実施例4では「mPEG5-PCL6」(「メトキシポリエチレングリコール分子量5kg/モル、PCL分子量6kg/モル」の意味と解される。)と記載されており、これらの記載で示された分子量は、特に本願発明1、2での分子量と重複一致するものである。
また、本願発明3は「疎水性部分は、8?13kDの重量平均分子量を有し、」との特定を有するが、上記のとおり、引用文献1には 「mPEG5-PCL7」及び「mPEG5-PCL6」が記載されていることから、当業者は少なくともPCL、すなわち、疎水性ポリマーの分子量は可変量であって、適宜選択し得るものであることを容易に理解するものである。
したがって、引用発明1において、上記記載に基づき、親水性-疎水性ポリマーの重量平均分子量として、実施例で使用されたような分子量のものを使用すること、あるいは上記記載からの教示に基づき、疎水性ポリマーの分子量として、適当な値を選択し、本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得るものである。
また、上記記載にあるように、親水性-疎水性ポリマーとして具体的に用いられているメトキシポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコールの末端にメトキシ基が付加したものであり、「OMeで終止すること」に該当する。
したがって、引用発明1において、上記記載に基づいて、親水性部分はOMeにおいて終止したものとすることは、当業者が適宜なし得ることである
そして、特定の分子量としたこと及び末端をOMeとしたことにより格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

相違点3(その他の成分について):
引用発明1の粒子は、引用文献1の【請求項28】や、【0072】の記載によれば、水溶液に、ポリマー物質が溶解した混合物を添加する工程を有するナノ沈殿と呼ばれる方法によって製造されるものであるが、ナノ沈殿法において、水溶液に界面活性剤を含有させることは、下記文献A、B及びCにあるように、本願出願(優先日)時には周知技術であったといえる。
してみれば、引用発明1の粒子をナノ沈殿法を用いて製造する際に、上記周知技術に基づいて、水溶液に適当量の界面活性剤を添加することは、当業者が適宜なし得るものであり、当該製造方法によって得られた粒子は、おのずと界面活性剤が特定量含まれることとなり、本願発明の構成を充足するものとなる。
また、ナノ沈殿法を用いる際に、水溶液に界面活性剤を添加することにより、得られた粒子に格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

○文献A(国際公開2008/051245)
「[0078]
たとえば溶媒置換法とも称されるナノ沈殿法は、本発明における使用のためのナノ粒子を形成するための適切な方法の一例である。・・・。
・・・
[0081]
有機溶媒、水溶液またはその両方が、所望に応じて様々な他の種も同時に含み得る。・・・。そのような追加種は、たとえば・・・界面活性剤、・・・等を含み得る。・・・。
・・・
2.界面活性剤
・・・。
[0089]
界面活性剤は、陽イオン、陰イオンまたは非イオン界面活性剤を含む。・・・。非イオン界面活性剤は、中でも特に、たとえばPVA(ポリビニルアルコール)・・・を含む。」
(なお、文献Aは英語で記載されているところ、上記摘示はその日本語訳である。)

○文献B(特開2002-322016号公報)
「【0023】・・・。第1の方法は、’’溶媒ナノ沈殿(・・・)’’として公知であり、・・・。本発明のナノスフェアの水性懸濁液の製造に適用する場合は、本溶媒沈殿法は以下の工程から成る:
・・・
・緩く攪拌しながら、活性成分の有機溶液を水性相に導入する工程、ここで二つの相のうち少なくとも一つはその臨界ミセル濃度以上の濃度に溶解した界面活性剤の少なくとも一つを含んでいる、・・・。」

○文献C(国際公開2007/141050)
「好ましい態様においては、ポリマーナノ粒子は、ナノ沈殿により生成される、沈殿した凝集体を含んで成る。このためには、次の生成方法が特に利用できる:
・界面活性剤を含む水溶液へのポリマー物質の溶解された混合物の添加、及び磁気撹拌機を用いての続く十分な混合による、試験管における直接的な沈殿、
・マイクロ-ミキサーシステムを用いての、前記2種の溶液を組合すことによる、界面活性剤含有水溶液におけるポリマー物質の混合物の沈殿、
・界面活性剤含有水溶液におけるポリマー物質の混合物の均等な分布のためへの超音波の使用。」(第23頁第21行?最終行)
(なお、文献Cはドイツ語で記載されているところ、上記摘示はその日本語訳である。)

また、引用発明1の粒子を製造するためには、粒子に含まれる疎水性ポリマー-薬剤抱合体を予め用意する必要があるが、疎水性ポリマー-薬剤抱合体は市販されているものではなく、引用文献1の実施例2(【0122】)、実施例14(【0144】)に記載されているように、疎水性ポリマーと薬剤とを化学的に反応させ、結合することにより得られるものであるとされているため、その純度については、一般の化学反応であれば100%を下回ることは当然であることを考慮すれば、反応の結果、得られる生成物としては、疎水性ポリマー-薬剤抱合体の他に未反応の薬剤及び疎水性ポリマーも含有されること、さらにいえば、精密な分離精製工程を経なければ、当該生成物を用いて製造された粒子の中にも、未反応物の薬剤及び疎水性ポリマーが含有されてしまうことは、当業者の想定の範囲内である。
ところで、引用文献1において、薬剤と結合する疎水性ポリマーについては、「前記疎水性成分の性質に依存して、複数の連結部位を介して実質的に2以上の活性成分を含む、2以上のものが適合可能であってもよい。ポリマー成分は、それにより活性成分が連結し得る100部位ほどを有していてもよい。・・・。例えば、上述した前記ポリマーは、前記活性成分に結合するための複数の官能基を容易に提供し得る。」(【0066】)と記載されているように、疎水性ポリマーが有する官能基の数と、薬剤(活性成分)の結合数とは関連するものであることを考慮すると、薬剤と結合する疎水性ポリマーとして、所望の薬剤の結合割合に応じて部分的に保護基化した疎水性ポリマーを用いることは、当業者が適宜なし得ることである。加えて、保護基として、アセチル基に代表されるアシル基は、本願出願(優先日)時には文献を挙げるまでもなく周知であったといえる。
このとおり、アシル基で保護基化した疎水性ポリマー、言い換えれば「末端アシル部分を有する疎水性ポリマー」を、疎水性ポリマー-薬剤抱合体の原料として使用するのが容易になし得るものであると判断するのであるから、上記の原料の純度の問題から、おのずと粒子の中にも原料の未反応物である「末端アシル部分を有する疎水性ポリマー」が含有されるものとなり、本願発明の構成を充足するものとなる。

相違点4(各成分含有量について):
引用発明1の粒子が、薬剤を含んでいる以上、医薬品として使用されることは当然であり、薬剤の作用の強度や、医薬品としての適当な有効成分量等を勘案して、薬剤そのものの割合、「疎水性ポリマー-薬剤抱合体」としての割合を適宜定め、本願発明の構成とすること、及び薬剤の含有割合を最適化する目的で、薬剤以外の成分である親水性-疎水性ポリマーや、界面活性剤の量を適宜定め、本願発明の構成とすることに、格別の創意を要したものではない。
また、各成分の含有量を特定のものとしたことにより、格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

相違点5(粒子の使用態様について):
引用文献1には、粒子性構造物が、適当な獣医学的又は医薬的組成物中に製剤化される旨記載され(【0089】)、組成物によりキットを構築する旨も記載されている(【0112】【0113】)。
したがって、引用発明1の粒子を、上記記載に基づいて、医薬組成物とすること、またキットとすることは当業者が適宜なし得るものである。

(ウ)まとめ
以上より、本願発明1?3、5?8、15?18、20は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。


ウ 本願発明9?14、19、21について

(ア)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
上記相違点1?5の他に、以下の点で相違する。

相違点6(疎水性ポリマー-薬剤抱合体について):
疎水性ポリマー-薬剤抱合体について、本願発明は疎水性ポリマーを、第一および第二の種類のモノマーサブユニットからなるもの、具体的にはPLGAとし、さらに乳酸とグリコール酸の比を特定しているのに対し、引用発明1はそのような特定がない点

相違点7(親水性-疎水性ポリマーについて):
親水性-疎水性ポリマーについて、本願発明は、PEG-PLGAとするのに対し、引用発明1はそのような特定がない点。

相違点8(界面活性剤について):
本願発明は、PVAを含むのに対し、引用発明1はそのような特定がない点。

相違点9(その他の成分について):
本願発明は凍結保護剤を含むのに対し、引用発明1はそのような特定がない点

相違点10(ゼータ電位について):
本願発明は、特定のデータ電位を有するのに対し、引用発明1はそのような特定がない点

(イ)判断
上記各相違点について検討する。
相違点1?5については、既に上記「イ 本願発明1?3、15?18、20」において検討済みである。

相違点6(疎水性ポリマー-薬剤抱合体について):
引用文献1には、特に好適な疎水性ポリマーの一つとして、乳酸及びグリコール酸の共ポリマー類を挙げている(【0063】)。
してみれば、引用発明1において、上記記載に基づき、疎水性ポリマー-薬剤抱合体の疎水性ポリマーを、具体的に乳酸及びグリコール酸の共ポリマーとすることは当業者が適宜なし得るものであり、その際、乳酸とグリコール酸の比が、適当なものを選択し、本願発明の構成とすることに格別な困難性はない。
また、乳酸とグリコール酸の比が特定のPLGAを用いたことによって、格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

相違点7(親水性-疎水性ポリマーについて):
引用文献1には、両親媒性共ポリマー中の特に好適な疎水性ブロックの一つとして、乳酸及びグリコール酸の共ポリマー類が挙げられ(【0068】)、両親媒性共ポリマー中の好適な親水性ブロックの一つとして、ポリエチレンオキシドが挙げられている(【0069】)。
してみれば、引用発明1において、上記記載に基づき、親水性-疎水性ポリマーとして、親水性ポリマー及び疎水性ポリマーの各々を具体的に選択することは当業者が適宜なし得るものであり、例えばPEG-PLGAの組み合わせを選択することに格別な困難性は認められない。
また、PEG-PLGAを用いたことによって、格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

相違点8(界面活性剤について):
ナノ沈殿法において、水溶液に用いる界面活性剤として、PVAを用いることは上記文献Aにもあるとおり、周知技術である。
してみれば、引用発明1の粒子をナノ沈殿法を用いて製造する際に、上記周知技術に基づいて、水溶液に適当量のPVAを添加することは、当業者が適宜なし得るものであり、それによって得られた粒子には、おのずとPVAが特定量含まれることとなる。

相違点9(その他の成分について):
引用文献1には、パクリタキセル製剤を調製し、凍結乾燥する旨(実施例15【0152】)が記載されている。
してみれば、引用発明1においても、上記記載の基づき、後段に凍結乾燥工程を有する場合であっては、粒子に「凍結保護剤」を含有させることは、当業者が適宜なし得るものである。

相違点10(ゼータ電位について):
本願明細書には、ゼータ電位を特定の範囲とするために、特段の原料、製造方法を取ることは示されていないことから、本願発明と同じ構成を有する粒子であれば、自ずとゼータ電位も同じ数値範囲を取るものと考えられる。
そして、上記相違点1?9で検討したように、本願発明は、引用発明1から容易に想到し得るものと判断したのであり、そうであれば、ゼータ電位も同じ数値範囲を取るものと認められる。

(ウ)まとめ
以上より、本願発明9?14、19、21は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。


エ 本願発明4、22について

(ア)対比・判断
本願発明4、22と引用発明2とを対比する。

(a)引用発明2の「「(治療剤-リンカー)_(n)-疎水性ポリマー」の式の抱合体」と、メトキシポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(ε-カプロラクトン)の安定化二元ブロック共ポリマーを溶解して得られた溶液」が、本願発明4、22の「以下を含む有機溶液を提供すること、a)複数の疎水性ポリマー-薬剤抱合体であり、」、「b)複数の親水性-疎水性ポリマーであり、」に相当する。
(b)引用発明2の「ショ糖溶液」が、本願発明4の「水溶液」に相当する。

そして、本願発明4、22と引用発明2とは、上記相違点1?4、10の他に、以下の点で相違する。

相違点11:
本願発明は、水溶液に溶媒を含むのに対し、引用発明2にはそのような特定がない点

上記相違点11について検討するに、ナノ沈殿法は、引用文献1に「水混和性溶媒中に溶解された前記二元ブロック共ポリマーと活性剤とを含む一つの噴射流が、該活性剤と該共ポリマーの疎水性ブロックに対し抗溶媒である水を含むもう一つの噴射流で、高速で混合される・・・」(【0072】)と記載されているように、「水」(水溶液)は、活性剤と共ポリマーの疎水性ブロックに対し「抗溶媒」として機能することにより、ナノ粒子が生成されるものであるのだから、活性剤と共ポリマーの疎水性ブロックに対し抗溶媒であれば、水に限定されることなく、使用できることは当業者が容易に理解するところである。
したがって、引用発明2において、上記記載からの教示に基づいて、ショ糖溶液に加えて、抗溶媒として作用するような溶媒を用いることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、水溶液に溶媒を添加したことにより、格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

(なお、本願発明4、22については、以下のとおり明確性についての拒絶理由を有するが(「理由2 ウ」参照)、本願明細書の記載に鑑み、水溶液に界面活性剤が含まれることが特定されたとしても、上記相違点3で検討したとおり、進歩性を有するものではない点にも留意されたい。)

(イ)まとめ
以上より、本願発明4、22は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。



3 理由2について

ア 本願発明1には「ii)前記薬剤に結合した前記疎水性ポリマーは、ホモポリマーまたは、2種類以上のモノマーサブユニットからなるポリマーであり得、」との記載があるが、「あり得」るとは、必須の構成を意味しているのか、任意の構成を意味しているのか不明であり、結果として、本願発明1が不明確となっている。
本願の明細書を参酌すると、「ii)前記薬剤に結合した前記疎水性ポリマーは、ホモポリマーまたは、2種類以上のモノマーサブユニットからなるポリマーであり」との構成は必須であるため、必須の構成であることが、特許請求の範囲において把握できるように、「あり得、」を「あり、」に変更する等の補正を検討されたい。
同様のことが、本願発明2?4、9についてもいえる。
以上より、本願発明1?4、9及びこれを引用する本願発明5?8、10?22も不明確である。

イ 本願発明16には「前記抗癌薬が、タキサンである、請求項1?3および9?14のいずれか一項に記載の粒子、請求項5に記載の医薬として許容し得る組成物、請求項6に記載のキット、または請求項7に記載の組成物。」と記載されているが、「粒子」「組成物」「キット」は共通の概念を構成するものではないため、一の請求項に記載された事項に基づいて、一の発明を把握することができない。
よって、本願発明16は不明確である。
同様のことが、本願発明18、21にもいえる。

ウ 本願発明4は「以下を含む、請求項1に記載の粒子を製造する方法」であるが、本願発明4の方法においては、請求項1で特定されている「界面活性剤」が特定されていないため、本願発明4と本願発明1との関係が不明確である。
同様のことが、本願発明4を引用する本願発明22についてもいえる。
 
審理終結日 2016-12-02 
結審通知日 2016-12-05 
審決日 2016-12-16 
出願番号 特願2012-503526(P2012-503526)
審決分類 P 1 8・ 121- WZF (A61K)
P 1 8・ 537- WZF (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克池上 京子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 齊藤 光子
関 美祝
発明の名称 ポリマー‐薬剤抱合体、粒子、組成物、および関連する使用方法  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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