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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05H
管理番号 1328309
審判番号 不服2016-14167  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-21 
確定日 2017-05-11 
事件の表示 特願2012-160706「粒子線照射システムとその運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 3日出願公開、特開2014- 22222〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月19日に出願された特願2012-160706号であって、平成27年11月24日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月1日付けで意見書が提出され、同年6月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年9月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年9月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「イオンビームを加速して出射するシンクロトロンと、
前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを照射する照射装置と、を備えた粒子線照射システムにおいて、
前記シンクロトロンを構成する機器の制御データが、一回の運転周期で複数のエネルギーのビーム出射制御を行うための運転制御データと、前記複数のエネルギーのビーム出射制御に対応した複数の減速制御データとから構成されていて、前記運転制御データを用いて前記機器を制御することで前記複数のエネルギーのビームの出射制御を行いかつ、前記複数の減速制御データを有することで、前記複数のエネルギーのうち、どのエネルギーからも速やかに減速制御へ遷移可能とする制御装置を備えることを特徴とする粒子線照射システム。」が

「イオンビームを加速して出射するシンクロトロンと、
前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを照射する照射装置と、を備えた粒子線照射システムにおいて、
前記シンクロトロンを構成する機器の制御データが、一回の運転周期で複数のエネルギーのビーム出射制御を行うための運転制御データと、前記複数のエネルギーのビーム出射制御に対応した複数の減速制御データとから構成されていて、前記複数のエネルギーのうち患者の照射条件に対応するエネルギーの組み合わせに応じた複数の減速制御データが予め記憶され、前記運転制御データを用いて前記機器を制御することで前記複数のエネルギーのビームの出射制御を行いかつ、前記複数の予め記憶された減速制御データを有することで、前記複数のエネルギーのうち、どのエネルギーからも速やかに減速制御へ遷移可能とする制御装置を備えることを特徴とする粒子線照射システム。」
と補正されたものである。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、補正前の「複数の減速制御データ」について、「複数のエネルギーのうち患者の照射条件に対応するエネルギーの組み合わせに応じた」ものであること、及び「予め記憶された」ものであることを限定して特定する補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。
すなわち、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-238463号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)
a「技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム照射システムに係り、特に、陽子及び炭素イオン等のイオンビームを患部に照射して治療する粒子線治療装置に適用するのに好適な荷電粒子ビーム照射システムに関する。」
b「【0019】
(実施形態1)
図1に示すように、本実施形態の粒子線治療装置(イオンビーム照射システム)は、治療ベッド217に固定された患者216の患部216aに対してイオンビーム(例えば陽子線)を照射するものであり、イオンビーム発生装置1,高エネルギービーム輸送系14,照射野形成装置200,中央制御装置100,照射制御システム300を備える。
【0020】
中央制御装置100は、治療計画装置102で決められる患者216の患部216aに適切な照射野を形成するための照射条件(ビーム照射方向,SOBP幅,照射線量,最大照射深さ,照射野サイズ等)を読み込み,機器の種類,設置位置,設定値、等のノズル機器パラメータの選択や、ビームエネルギー,ビーム強度パターン、等の加速器運転パラメータを選択するものである。中央制御装置100は、メモリ101を備え、治療に必要な情報(照射ビームエネルギー,照射角度(ガントリー回転角度),走査電磁石パターン,レンジシフタ挿入量等)をメモリ101に記憶させる。照射制御システム300は、メモリ101に記録された情報に基づいて、照射野形成装置200を構成する各機器のパラメータを設定する。イオンビーム発生装置1を構成する各機器のパラメータは、メモリ101に記録された情報に基づいて、各機器の制御装置(図示せず)により設定される。
【0021】
イオンビーム発生装置1は、所定のビームエネルギーのイオンビームを発生させるための装置であり、イオン源4,前段加速器5,低エネルギービーム輸送系6及びシンクロトロン2を備える。シンクロトロン2は、シンクロトロン制御装置3に接続されている。イオン源4で生成されたイオンビームは、前段加速器5でシンクロトロン2の入射エネルギーまで加速され、低エネルギービーム輸送系6を経由してシンクロトロン2に入射される。
【0022】
シンクロトロン2は、図1に示すように、ビームの軌道を偏向して周回軌道を形成する偏向電磁石7,シンクロトロン中を周回するイオンビーム(周回ビーム)を収束・発散する四極電磁石8,高周波加速空洞9,出射用の高周波印加装置10,周回ビームの電荷量(周回ビーム電荷量)を測定するモニタ12及び出射用デフレクタ13を備える。高周波印加装置10は、高周波印加用の電極(図示せず)を備え、高周波印加用電極は出射用の高周波供給装置11から高周波電圧の供給を受ける。モニタ12はモニタ12の制御装置16を介して照射制御システム300に接続されている。
【0023】
シンクロトロン2へ入射されたイオンビームは、高周波加速空洞9に印加される高周波電圧により、所望のエネルギー(例えば70?250MeV)まで加速される。加速が終了した後、高周波供給装置11からの高周波電圧が高周波印加電極により周回ビームに印加されると、周回ビームは共鳴の安定限界を越え、出射用デフレクタ13を介してシンクロトロン2から出射される。
【0024】
高エネルギービーム輸送系14は、シンクロトロン2と照射野形成装置200とを連絡し、その一部は回転ガントリー15に設置されている。シンクロトロン2から出射されたイオンビームは、高エネルギービーム輸送系14を経由して、回転ガントリー15に設置した照射野形成装置200まで輸送される。回転ガントリー15の回転角度を調節することで、患者216に対して所望の方向からイオンビームを照射することが可能である。」
c「【0050】
シンクロトロン2の運転パターンについて、図7に示したシンクロトロン2の偏向電磁石7の運転パターンを用いて説明する。図7は横軸に時間、縦軸に偏向電磁石7の励磁量を取ったグラフであり、折れ線400が偏向電磁石7の運転パターンを表す。偏向電磁石7の運転パターン(シンクロトロン2の運転パターン)は入射期間,加速期間,出射準備期間,出射期間,減速準備期間,減速期間により構成され、ビーム入射期間開始から減速期間終了までを一周期とした周期運転を行っている。前段加速器5からのイオンビームは、入射期間にシンクロトロン2の周回軌道へ入射され、加速期間に目標のエネルギーまで加速される。出射準備期間において偏向電磁石7の励磁量は一定であるが、四極電磁石8や六極電磁石(図示せず)の励磁量が変更され、周回ビームのベータトロン振動の不安定領域(セパラトリクス)が形成される。出射期間において前述のレンジシフタ205の厚さの変更および各照射深さにおけるビーム走査を行い、シンクロトロン2から出射されずに残った周回ビームは減速期間においてシンクロトロン2の入射ビームと同じエネルギー(入射エネルギー)まで減速される。減速準備期間は、四極電磁石8および六極電磁石の励磁量を変更し、出射準備期間中に形成したセパラトリクスを解除する。」
d「【0067】
(実施形態2)
本実施形態の粒子線治療装置は、実施形態1と同様、患者216の患部216aに対してイオンビームの照射を行うものである。本実施形態の粒子線治療装置の構成を図11に示した。本実施形態の粒子線治療装置は、図1に示した実施例1と同様の構成を有するが、レンジシフタ205の厚さを変更する代わりに、シンクロトロン2からの出射ビームのエネルギーを変更することにより、シンクロトロン2の運転周期内において照射深さを変更する構成を有する。本実施例の粒子線治療装置は、シンクロトロン2の出射ビームエネルギーを変更することにより照射深さを調節するため、照射野形成装置200内のレンジシフタ205が省略されている。これにより、照射野形成装置200内を通過するイオンビームがレンジシフタにより横方向に散乱されることがなくなるため、照射ビームの横方向のサイズが減少し、より精度の高い横方向線量分布を形成することが可能である。
【0068】
実施形態1と同様、本実施形態においてもある照射深さにおける照射が完了した時点、あるいは横方向照射位置の一回の走査が完了した時点における周回ビーム電荷量を測定し、測定結果に基づいてシンクロトロン2の運転パターンを変更することにより、走査の途中でシンクロトロン2の周回ビーム電荷量が不足することによる横方向線量一様度の悪化を防止することができる。
【0069】
ある照射深さにおいてビームを複数回走査し、走査と走査の間で照射深さの変更がない場合、実施形態1と全く同様にして走査途中の周回ビーム電荷量の不足を防止することができる。一回の走査が完了した時点における周回ビーム電荷量が次回の走査完了に十分な場合のみシンクロトロン2の同じ運転周期内で次の走査に移行するため、走査の途中で周回ビーム電荷量が不足することがなく、横方向の線量分布をシンクロトロン2の二つの周期にわたって形成することによる横方向線量一様度の悪化が防止される。
【0070】
シンクロトロン2の同じ運転周期内で照射深さを変更する場合に、ビーム走査中に周回ビーム電荷量が不足することによる横方向線量一様度の悪化を防止する手法について、図12に示したフローチャート図を用いて説明する。
【0071】
ある照射深さにおける照射が完了すると、照射制御装置301は実施形態1と同様に照射完了時点におけるシンクロトロン2の周回ビーム電荷量を取得し、次の照射深さにおける一回の走査の完了に必要な周回ビーム電荷量と比較する。ここで、次の照射深さにおける照射が一回の走査で完了する場合、次の照射深さにおける一回の走査に必要な周回ビーム電荷量と次の照射深さにおける照射を完了するのに必要な周回ビーム電荷量は同一となる。照射制御装置301は、周回ビーム電荷量が次の照射深さにおける走査一回の完了に十分である場合、出射ビームエネルギーの変更を加速器制御装置3に指示し、周回ビーム電荷量が十分でない場合は周回ビームを減速して次の運転周期に移行するよう加速器制御装置3に指示を出す。出射ビームエネルギー変更の指示を受けた加速器制御装置3は、シンクロトロン2の同じ運転周期内で、周回ビームのエネルギーを次の照射深さに対応する値に変更し、変更後のエネルギーにおける出射準備が完了した時点で出射準備完了信号を照射制御装置301に出力する。次の運転周期へ移行するよう指示を受けた加速器制御装置3は、周回ビームをシンクロトロン2の入射エネルギーまで減速し、前段加速器5からのビームをシンクロトロン2へ入射し、周回ビームを次の照射深さに対応するエネルギーまで加速して出射準備を完了した後に出射準備完了信号を照射制御装置301へ出力する。
【0072】
シンクロトロン2の同じ運転周期内で出射ビームのエネルギーを変更する場合、照射制御装置301は高エネルギービーム輸送系14及びガントリー15に設置された電磁石の制御装置(図示せず)に指示を出し、これら電磁石の励磁量を変更後の出射ビームのエネルギーに対応した値に変更する。
【0073】
出射ビームエネルギーの変更あるいは次の運転周期への移行を指示された際のシンクロトロン2の運転パターンについて、図9を用いて説明する。図9は横軸に時間、縦軸にシンクロトロン2の偏向電磁石7の励磁量をとったグラフであり、二つの照射深さに対してイオンビームを照射する際の偏向電磁石7の運転パターンを表す。なお、各照射深さに対する照射は一回の走査で完了するものとする。折れ線410は同じ運転周期内における出射ビームエネルギーの変更を指示された場合の偏向電磁石7の励磁パターン、折れ線411は次の周期への移行を指示された場合の偏向電磁石7の励磁パターンである。黒丸414は周回ビーム電荷量を測定する時点表す。周回ビーム(出射ビーム)の運動量は偏向電磁石7の励磁量と比例関係にあるから、折れ線411が表すように、同一運転周期内に複数の出射期間を設けることにより、異なるエネルギーのビームを出射できる。
【0074】
このように、第一の照射深さに対する照射が完了した時点における周回ビーム電荷量が第二の照射深さにおける走査一回の完了に十分である場合のみシンクロトロン2の同じ運転周期内で周回ビームのエネルギーを変更するため、走査の途中で周回ビーム電荷量が不足することがなく、横方向線量分布を二つの運転周期にわたって形成することによる線量一様度の悪化が防止される。図9では照射深さの数を二つとし、シンクロトロン2の周回ビームエネルギーが低い方、すなわち体表面に近い照射深さからビームを照射するとしたが、照射深さの数及びシンクロトロン2の同じ運転周期内で照射する照射深さの数は二つ以上でも構わないし、周回ビームのエネルギーが高い方、即ち体表面から遠い照射深さから順番にビームを照射しても良い。また、ヒステリシスによる影響を緩和して偏向電磁石7を始めとする電磁石の励磁量の再現性を良くするため、第一の照射深さにおける照射開始の前あるいは減速準備の前に周回ビームを最大エネルギーまで加速するようにしても良い。
【0075】
本実施例では、ある照射深さに対する照射が完了した直後に周回ビーム電荷量を測定するとしたが、周回ビーム電荷量を測定するタイミングは、ある照射深さに対する照射が完了してから照射深さの変更あるいは次の運転周期への以降のために周回ビームのエネルギーの変更を開始するまでの間で任意に設定することができる。
【0076】
各照射深さに対する照射を一回の走査で完了する場合、本発明にはさらに次の効果がある。図10は図9と同様、偏向電磁石7の運転パターンを表す図であるが、折れ線411が第一の照射深さに対する照射が完了した時点で周回ビーム電荷量を測定し、周回ビーム電荷量が第二の照射深さに対する照射の完了に十分でないため次の運転周期に移行する場合の偏向電磁石8の運転パターン、折れ線412が周回ビーム電荷量を測定せずに第二の照射深さにおける照射に移行し、走査の途中で周回ビーム電荷量が不足した場合の偏向電磁石7の運転パターンであり、黒丸413が周回ビーム電荷量の不足が発生する時点を表す。図面から明らかなように、折れ線412では周回ビーム電荷量が不足した後に再度同じエネルギーまで周回ビームを加速する必要があるため、第二の照射深さにおいて出射準備と減速準備を二回行う必要がある。出射準備及び減速準備は運転周期全体の10%以上を占めることもあるため、出射準備及び減速準備の回数が増加すると照射に要する時間が増大する。本発明は、あるエネルギーに対する照射が完了する前に周回ビーム電荷量が不足することを防止するため、各照射深さにおける出射準備及び減速準備の回数を減少させ、照射時間を短縮する効果がある。」
e「【図1】


f「【図9】



イ 引用例1に記載された発明の認定
上記「ア」のfの【図9】のグラフに示されたシンクロトロン2の運転パターンから、減速のパターンに関しては、第1の照射深さに対応する励磁量からも第2の照射深さに対応する励磁量からも速やかに減速準備期間を経て減速期間に移行していることが見て取れる。
よって、上記「ア」のa?fの記載から、引用例1には、
「患者216の患部216aに対してイオンビーム(例えば陽子線)を照射して治療する粒子線治療装置に適用するのに好適な荷電粒子ビーム照射システムであって、
イオンビーム発生装置1,高エネルギービーム輸送系14,照射野形成装置200,中央制御装置100,照射制御システム300を備え、
イオンビーム発生装置1は、イオン源4,前段加速器5,低エネルギービーム輸送系6及びシンクロトロン2を備え、
シンクロトロン2へ入射されたイオンビームは、所望のエネルギー(例えば70?250MeV)まで加速され、加速が終了した後、シンクロトロン2から出射され、
シンクロトロン2から出射されたイオンビームは、高エネルギービーム輸送系14を経由して、回転ガントリー15に設置した照射野形成装置200まで輸送され、回転ガントリー15の回転角度を調節することで、患者216に対して所望の方向からイオンビームを照射することが可能であり、
シンクロトロン2の運転パターンは入射期間,加速期間,出射準備期間,出射期間,減速準備期間,減速期間により構成され、ビーム入射期間開始から減速期間終了までを一周期とした周期運転を行い、
イオンビームは、入射期間にシンクロトロン2の周回軌道へ入射され、加速期間に目標のエネルギーまで加速され、
出射準備期間において周回ビームのベータトロン振動の不安定領域(セパラトリクス)が形成され、各照射深さにおけるビーム走査を行い、シンクロトロン2から出射されずに残った周回ビームは、減速準備期間で、出射準備期間中に形成したセパラトリクスを解除し、減速期間においてシンクロトロン2の入射ビームと同じエネルギー(入射エネルギー)まで減速され、
シンクロトロン2の同じ運転周期内で出射ビームのエネルギーを変更する場合、第一の照射深さに対する照射が完了した時点における周回ビーム電荷量が第二の照射深さにおける走査一回の完了に十分である場合のみシンクロトロン2の同じ運転周期内で周回ビームのエネルギーを変更するものであり、
減速のパターンに関しては、第1の照射深さに対応する励磁量からも第2の照射深さに対応する励磁量からも速やかに減速準備期間を経て減速期間に移行する荷電粒子ビーム照射システム。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2011-233478号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
a「【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム発生装置、荷電粒子ビーム照射装置及びそれらの運転方法に係わり、特に円形加速器とその入射用直線加速器を備えた荷電粒子ビーム発生装置、この荷電粒子ビーム発生装置とその運転方法、荷電粒子ビーム発生装置から出射した荷電粒子ビームを腫瘍等の患部(照射対象)に照射する照射装置とを備え、荷電粒子ビームの照射により患部を治療する荷電粒子ビーム照射装置とその運転方法に関する。」
b「【0017】
本実施の形態における荷電粒子ビーム照射装置は、荷電粒子ビームを発生してシンクロトロン(円形加速器)200への入射に必要なエネルギーまで加速する入射器システム100、入射器システム100にて生成した荷電粒子ビームをシンクロトロン200まで輸送する入射輸送系130、入射した荷電粒子ビームを所望のエネルギーまで加速する前記のシンクロトロン(円形加速器)200、シンクロトロン200で加速した荷電粒子ビームを利用するビーム利用系500、加速器機器制御装置(制御装置又は第2制御装置)210及びビーム利用系制御装置(第1制御装置)400で構成される。」
c「【0020】
このシンクロトロンの電磁石励磁パターンについての詳細を図3に示す。図3において、入射タイミングは、直線加速器111で加速した荷電粒子ビームをシンクロトロン200に入射するタイミングであり、この入射タイミング以降、入射工程、加速工程を経て出射工程が開始されるまでの間、及び出射工程が完了してから、減速工程を経て次サイクルの入射タイミングに至るまでの間は電磁石励磁パターンとそれに対応した高周波加速や減速の制御が同期している。入射タイミング、入射工程、加速工程、減速工程中のパターンや時間はパターン作成時に予め定めておくものである。」
d「【図3】



エ 原査定において周知例として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-117111号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
a「【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子を加速する粒子加速器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粒子加速器の一種であるシンクロトロン(以降、単に加速器と称する)においては、複数の電磁石にそれぞれ電源装置より電流を供給することにより、加速粒子の軌道を制御している。加速粒子のエネルギーは低エネルギーで加速器に入射し、加速して高エネルギーとなった所で取り出し(出射し)、そのビームがそれぞれのユーザーの目的に応じて利用される。このとき、電磁石の電流値は、ビームエネルギーに対応して低い値から高い値になるようなパターン信号が電源装置に与えられて制御される。
【0003】
また、加速粒子にエネルギーを与える電磁波の振幅も、ビームエネルギーに対応して変化させる必要があり、こちらもパターン信号を電磁波発生装置に与えられて制御される。」
b「【0028】
図6に示すように、加速用のパターンA、加速維持用のパターンB、減速用のパターンCを予め作成して記憶しておく。第1の実施の形態の粒子加速器の制御装置の場合はスーパーサイクルパターンメモリ4に、第2の実施の形態の粒子加速器の制御装置の場合は、パターンメモリ群3内のパターンメモリ内バッファメモリ群8に記録する。」
c「【図6】



(2)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「入射されたイオンビーム」が「所望のエネルギー(例えば70?250MeV)まで加速され、加速が終了した後」「出射され」る「シンクロトロン2」は、本願補正発明の「イオンビームを加速して出射するシンクロトロン」に相当する。
引用発明の「シンクロトロン2から出射されたイオンビーム」が「輸送され」、当該「イオンビーム」を「回転ガントリー15の回転角度を調節することで」、「所望の方向から照射すること」を「可能」とする「照射野形成装置200」は、本願補正発明の「前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを照射する照射装置」に相当する。
引用発明の「シンクロトロン2の運転パターン」は、本願補正発明の「前記シンクロトロンを構成する機器の制御データ」に相当し、引用発明の「シンクロトロン2の運転パターンは入射期間,加速期間,出射準備期間,出射期間,減速準備期間,減速期間により構成され、ビーム入射期間開始から減速期間終了までを一周期とした周期運転を行い」「シンクロトロン2の同じ運転周期内で出射ビームのエネルギーを変更する場合」があり、「減速のパターンに関しては、第1の照射深さに対応する励磁量からも第2の照射深さに対応する励磁量からも速やかに減速準備期間を経て減速期間に移行する」ことが、本願補正発明の「前記シンクロトロンを構成する機器の制御データが、一回の運転周期で複数のエネルギーのビーム出射制御を行うための運転制御データと、前記複数のエネルギーのビーム出射制御に対応した複数の減速制御データとから構成されてい」ることに相当する。
引用発明の「シンクロトロン2から出射されずに残った周回ビームは、減速準備期間で、出射準備期間中に形成したセパラトリクスを解除し、減速期間においてシンクロトロン2の入射ビームと同じエネルギー(入射エネルギー)まで減速され」ること、及び「減速のパターンに関しては、第1の照射深さに対応する励磁量からも第2の照射深さに対応する励磁量からも速やかに減速準備期間を経て減速期間に移行する」ことが、本願補正発明の「前記複数のエネルギーのうち患者の照射条件に対応するエネルギーの組み合わせに応じた複数の減速制御データ」を有し、「減速制御データを有することで、前記複数のエネルギーのうち、どのエネルギーからも速やかに減速制御へ遷移可能とする」ことに相当する。
引用発明の「シンクロトロン2の同じ運転周期内で出射ビームのエネルギーを変更する場合、第一の照射深さに対する照射が完了した時点における周回ビーム電荷量が第二の照射深さにおける走査一回の完了に十分である場合のみシンクロトロン2の同じ運転周期内で周回ビームのエネルギーを変更する」ことが、本願補正発明の「前記運転制御データを用いて前記機器を制御することで前記複数のエネルギーのビームの出射制御を行」うことに相当する。
引用発明の「荷電粒子ビーム照射システム」が、本願補正発明の「粒子線照射システム」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明とは、
「イオンビームを加速して出射するシンクロトロンと、
前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを照射する照射装置と、を備えた粒子線照射システムにおいて、
前記シンクロトロンを構成する機器の制御データが、一回の運転周期で複数のエネルギーのビーム出射制御を行うための運転制御データと、前記複数のエネルギーのビーム出射制御に対応した複数の減速制御データとから構成されていて、前記複数のエネルギーのうち患者の照射条件に対応するエネルギーの組み合わせに応じた複数の減速制御データを有し、前記運転制御データを用いて前記機器を制御することで前記複数のエネルギーのビームの出射制御を行いかつ、前記複数の減速制御データを有することで、前記複数のエネルギーのうち、どのエネルギーからも速やかに減速制御へ遷移可能とする制御装置を備える粒子線照射システム。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
「減速制御データ」について、本願補正発明においては「予め記憶する」ものであるのに対して、引用発明においてはその点の特定がない点。

(3)当審の判断
ア 上記相違点について検討する。
荷電粒子ビーム照射装置における運転パターン(シンクロトンの電磁石励磁パターン)について、引用例2には「入射タイミング、入射工程、加速工程、減速工程中のパターンや時間はパターン作成時に予め定めておくものである」(上記(1)「ウ」「c」参照)ことが記載され、引用例3には「加速用のパターンA、加速維持用のパターンB、減速用のパターンCを予め作成して記憶しておく」(上記(1)「エ」「b」参照)ことが記載されている。
したがって、荷電粒子ビーム照射装置における運転パターンにおける減速パターン、すなわち、減速制御データを、予め作成し記憶しておくことは、引用例2及び引用例3にも記載されているように周知の技術である。
引用発明においても、システムの便宜性向上のため、周知技術を採用し、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年9月21日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成28年9月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成28年9月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 平成28年9月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)本願補正発明と引用発明の対比」の「ア 対比」において記載したのと同様の対比の手法により、本願発明と引用発明は、
「イオンビームを加速して出射するシンクロトロンと、
前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを照射する照射装置と、を備えた粒子線照射システムにおいて、
前記シンクロトロンを構成する機器の制御データが、一回の運転周期で複数のエネルギーのビーム出射制御を行うための運転制御データと、前記複数のエネルギーのビーム出射制御に対応した複数の減速制御データとから構成されていて、前記運転制御データを用いて前記機器を制御することで前記複数のエネルギーのビームの出射制御を行いかつ、前記複数の減速制御データを有することで、前記複数のエネルギーのうち、どのエネルギーからも速やかに減速制御へ遷移可能とする制御装置を備える粒子線照射システム。」
の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。
したがって、本願発明は引用発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号で規定される発明に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-10 
結審通知日 2017-03-14 
審決日 2017-03-27 
出願番号 特願2012-160706(P2012-160706)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05H)
P 1 8・ 113- Z (H05H)
P 1 8・ 121- Z (H05H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 波多江 進  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松川 直樹
森林 克郎
発明の名称 粒子線照射システムとその運転方法  
代理人 特許業務法人開知国際特許事務所  

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