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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
管理番号 1328321
審判番号 無効2016-800098  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-08-09 
確定日 2017-05-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第4790091号発明「創離開防止用補助具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4790091号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年4月5日(優先日 平成22年7月29日、平成22年12月9日)に出願した特願2011-83394号であって、平成23年7月29日にその請求項1?3に係る発明について特許の設定登録がなされ、その後、平成28年3月23日に訂正審判(訂正2016-390045)が請求され、同年5月9日付けで訂正することを認める旨の審決がなされたものである。(以下、訂正後の特許請求の範囲及び本件特許明細書を、単に「特許請求の範囲」及び「本件特許明細書」という。)
本件無効審判は、平成28年8月9日付けで、無効審判請求人 株式会社共和(以下、「請求人」という。)により、「特許第4790091号発明の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」として請求がなされたものであって、本件審判の手続の概要は以下のとおりである。

平成28年 8月 9日 審判請求書
平成28年11月 8日 審判事件答弁書(以下、「答弁書」という。)
平成29年 2月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人より提出)
平成29年 2月13日 口頭審理陳述要領書(被請求人より提出)
平成29年 3月 3日 上申書(請求人より提出)
なお、平成29年2月27日に予定されていた口頭審理は、両当事者から、それぞれ平成29年2月15日及び2月16日付けで書面審理を申し立てる審理の方式の申立書が提出され、その後中止された。

第2 請求人の主張
請求人は「特許第4790091号発明の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」を請求の趣旨とし、証拠方法として甲第1号証?甲第3号証を提出し、次の無効理由を主張する。

1 無効理由1
本件特許の請求項1の記載には不明確な点があり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。本件特許の請求項1を引用する請求項2及び3にも同様のことが指摘される。従って、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2 無効理由2
本件特許の明細書の記載は、実施可能要件を満たしておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。従って、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

3 無効理由3
本件特許の請求項1?3に係る発明は、発明のサポート要件を満たしておらず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。従って、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

4 証拠方法
甲第1号証:特開2000-254164号公報
甲第2号証:判定請求書(判定2016-600013号)
甲第3号証:本件特許出願(特願2011-83394号)に係る平成23年5月16日付け手続補正書

なお、審判請求書の甲第1号証及び甲第2号証に基づく新規性及び進歩性欠如に関する無効理由の主張は、平成29年2月8日付け口頭審理陳述要領書(2頁下から4行?3行、15頁下から4行?3行)において撤回された。

第3 被請求人の主張
被請求人は「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」を答弁の趣旨とし、証拠方法として乙第1号証?乙第3号証を提出し、次のとおり主張する。

1 無効理由1(明確性要件)について
本件特許の請求項1に係る発明は、明確であって、その特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

2 無効理由2(実施可能要件)について
本件特許に係る明細書の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

3 無効理由3(サポート要件)について
本件特許の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、その特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

4 証拠方法
乙第1号証:国際公開第2006/124671号及びその翻訳文
乙第2号証:特開平6-339495号公報
乙第3号証:判定(判定2016-600013号)

第4 当審の判断
1 本件発明について
(1)本件特許明細書の記載事項
ア 本件特許明細書には、(1-ア)技術分野について「本発明は、創離開(創がさらに開くこと)を防止するための創離開防止用補助具に関する。」(段落【0001】)と記載され、(1-イ)背景技術について「創底が浅い場合は、絆創膏や包帯等で創を閉じて固定する手段で創離開を防止し、創底が深い場合は、縫合糸等による縫合の手段により創を閉じて創離開を防止している。」(段落【0002】)、「太い縫合糸を使用し、創の周辺組織を強く引き寄せ強く縫合するほど、縫合した創の周辺組織に対する血液等の循環は不良となり、次第に縫合した創の周辺組織に壊死が生じ、創離開が生じる。」(段落【0003】)、「切開手術等の縫合時に創離開防止用当て具を装着する技術を事前に習得することが不可欠となる。・・・創離開の防止そのものや創離開を防止するための従来の創離開防止用補助具を使用・装着することは容易ではなく、このような不利を適切に解決できる手段がなかったのが現状である。」(段落【0005】)、「従来の創離開防止用補助具においては、縫合した創の周辺組織や縫合糸が受けている創離開方向の生理的張力に対する考慮がなされていないことがわかる。」(段落【0013】)と記載され、(1-ウ)本件発明が解決しようとする課題について「身体の一部がきずつけられて生じた開放性のきずである創に対し、創の離開を防止する効果が高く、使用・装着が容易な創離開防止用補助具を提供することを課題とする。」(段落【0007】)と記載されている。
イ そして、(1-エ)特許請求の範囲には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
(A)身体の一部がきずつけられて生じた開放性のきずである創に対し、創およびその周辺組織を覆って装着し、創の離開を防止するための創離開防止用補助具であって、
(B)創およびその周辺組織を覆う創離開防止部と、該創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する機能を有する保持部と、前記創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、該創離開防止部の収縮を防止する機能を有する収縮防止部とを備え、
(C)前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備え、
(D)前記創離開防止部を創離開方向に引き伸ばし、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる状態で、前記創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、前記保持部で固定し装着した後に前記収縮防止部を取り外すことを特徴とする創離開防止用補助具。
【請求項2】
(E)前記創が、縫合された状態にある請求項1に記載の創離開防止用補助具。
【請求項3】
(F)前記創が、未縫合の状態にある請求項1に記載の創離開防止用補助具。」(審判請求書の5?6頁に倣い、構成要件(A)?(F)に分けて記載した。)
ウ また、(1-オ)本件発明の作用効果として「創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、創の周辺組織が受けている創を離開させる方向(以下、創離開方向と称する)の生理的張力を持続的に減少させて創離開を防止し、・・・創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、収縮を防止する機能を有する収縮防止部を備えることで、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態に維持できるため、装着が著しく容易となる。そして、保持部で固定して装着した後に収縮防止部を取り外すことで、創離開防止部を創離開方向に抗する方向に効率よく収縮させ、創離開防止用補助具として機能させることができる。」(段落【0009】)、「創離開防止部1を創離開方向に引き伸ばした状態を維持して容易に装着することができる。」(段落【0023】)、「創離開防止用補助具の装着に伴う収縮距離の度合は、縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となり、創離開方向に抗する方向から縫合部周辺の皮膚を弛ませ、軽くしわをよせ、縫合糸や縫合部および縫合部周辺の皮膚が受けている生理的張力を持続的に減少させる機能を備えることができる。」(段落【0018】)、「創の周辺組織を安静に保つことができ、自然治癒を早めることもできる。」(段落【0013】)と記載されている。
エ 一方、創離開防止用補助具に関し、(1-カ)発明を実施するための形態には、「創離開防止用補助具の材料として、医療用として使用可能な伸縮性を有する素材を選択すること、さらに、生理的張力に勝る伸縮力を有する素材を選択して創離開防止用補助具を構成することを着想した。創離開防止用補助具の材料をなす素材から試験片を切り出し、所定の力を加えてその伸びた長さを測定する。そして、この測定した、負荷を加えて引き伸ばした状態の数値から、負荷をゼロにすることによって収縮した状態の数値を差し引いた長さ(以下、収縮距離と称する)を求め、この収縮距離が異なる素材を用いることによって生じる、創離開防止用補助具の各部における収縮距離の差異によって生じる作用(装着する際に一定の力で引き伸ばした場合、収縮距離の長い部位は、収縮距離の短い部位よりさらに伸びる。すなわち、装着時において収縮距離の最も長い部位が最も縮む)と、素材と創の周辺組織との摩擦を考慮すれば、縫合した創の周辺組織や縫合糸が受けている生理的張力を持続的に減少させるための手段を創離開防止用補助具に機能として取り入れることができ、」(段落【0014】)、「ここで云う装着に伴う収縮距離とは、安静時にも起こりうる創離開防止用補助具の各部の装着後に生じる身体の生理的な動き(呼吸による胸囲や腹囲の変化等)によって引き伸ばされた状態の数値から、これらの負荷をゼロにすることによって収縮した状態の数値を差し引いた長さである。・・・本発明は、創離開防止部を創離開方向に引き伸ばし、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる状態で、創およびその周辺組織に密着させ、創離開防止部の収縮力により、創離開方向に抗する方向に収縮させて機能させるように、保持部で固定し装着するものである。」(段落【0015】)、「・・・創離開防止用補助具では、縫合部および縫合部周辺の皮膚を覆う創離開防止部1と、創離開防止部1を縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持する機能を有する保持部2a・・・と、創離開防止部1と保持部2a?2lを接続する接続部3a、3bとから構成される。・・・創離開防止部1を縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持するために、適切な保持部・・・によって前腕内側部で、創離開防止部の収縮力により、創離開方向に抗する方向に収縮させて機能させるように保持部で固定し装着され、・・・保持部は、創離開方向に配置され、かつ創離開防止部の両端に配置されることが縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持できるため好ましく、・・・」(段落【0016】)、「この創離開防止用補助具では、縫合部および縫合部周辺の皮膚を十分に覆う創離開防止部を備える創離開防止用補助具を選択し、縫合部に創離開防止部の中央線を一致させ、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばし、縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させ、・・・創離開防止部の収縮力により創離開方向に抗する方向に収縮させて機能させるように保持部で固定し装着する。」(段落【0018】)、「・・・創離開防止部1は、伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)からなり、装着に伴う創離開方向の収縮距離が装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より長くなる方向で使用し、・・・保持部2a・・・は、伸縮機能を備えない綿糸を使用した綾織り生地を細くして紐とし、・・・」(段落【0020】)、「・・・創離開防止部1の形状を正方形とし、保持部2a?2lを紐としたが、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備えていれば、用途に応じ創離開防止部1の形状は長方形、円形、菱形等でもよい。また、保持部2a?2lは、・・・伸縮性を有してもよく、紐状でなくてもよく、・・・また、創離開防止部1の両端を折り返して二重とし、接続部3a、3bとしたが、明確な接続部を設けなくてもよい。結果として、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備えさせればよい。」(段落【0021】)、「・・・保持部は、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する機能を備え、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備えさせていれば、用途に応じ、その素材や形状および部位等に制限を受けない。・・・粘着剤のみを保持部とし、創離開防止部の下層の一部もしくは全部に備えても良く、この時、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離は、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離と同等となることが望ましく、創離開防止部または保持部の形状により、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離と、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離との差異が少なくても良い。」(段落【0022】)、「図4に示す第2の実施の形態において、創離開防止部1は、伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)からなり、装着に伴う創離開方向の収縮距離が、装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より長くなる方向で使用し、創離開防止部1の両端を折り返して筒状にし、接続部3a、3bとした。また、保持部2a・・・は、伸縮機能を備えない綿糸を使用した綾織り生地を細くして紐とし、・・・筒状の接続部3a、3bには、図3に示したコの字型の金属からなる収縮防止部4が2個使用され、両側から差し込まれている。・・・装着状態においては、図5に示すように、創離開防止部1を縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持するために適切な保持部・・・によって前腕内側部で、創離開防止部の収縮力により、創離開方向に抗する方向に収縮させて機能させるように保持部で固定し装着され、・・・収縮防止部4は、装着後、筒状の接続部3a、3bから引き抜かれている。また、保持部は、創離開方向に配置され、かつ創離開防止部の両端に配置されることが縫合部および縫合部周辺の皮膚に密着させて保持できるため好ましく・・・」(段落【0025】)、「また、第2の実施の形態では、接続部3a、3bを筒状にしてコの字型の金属を差し込み、収縮防止部を備えた構成としたが、収縮防止部は、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持する機能を備えてさえいれば、用途に応じ、その素材や形状および部位等に制限を受けない。」(段落【0026】)と記載されている。

(2)本件発明の認定
以上を総合すると、(2-ア)本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1?3」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、上記(1-エ)の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであって、その発明は、(2-イ)創離開を防止するための創離開防止用補助具に関するものであり、(2-ウ)身体の一部がきずつけられて生じた開放性のきずである創に対し、創の離開を防止する効果が高く、使用・装着が容易な創離開防止用補助具を提供することを課題とし、(2-エ)特許請求の範囲に記載の発明特定事項を、課題を解決するための手段とし、それにより(2-オ)装着を著しく容易とし、創離開方向に抗する方向から創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、創の周辺組織が受けている生理的張力を持続的に減少させて創離開を防止するとの作用効果を奏するものと認められる。

(3)発明特定事項の技術的意義について
次に、本件発明の発明特定事項である「創離開防止部」、「保持部」、「収縮防止部」、「装着に伴う収縮距離」の技術的意義について、上記(1-ア)?(1-カ)の記載事項に基づきさらに検討する。
(3-ア)「創離開防止用補助具」の構成要素とその機能について
本件発明1の発明特定事項である「創離開防止用補助具」は、「創離開防止部」と「保持部」と「収縮防止部」から構成されるものであるところ、「創離開防止部」は、生理的張力に勝る伸縮力を有し、創およびその周辺組織を覆うものであり(上記(1-カ)参照)、「保持部」は、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する機能を有するものであり(上記(1-カ)参照)、「収縮防止部」は、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、創離開防止部の収縮を防止する機能を有するとともに、「創離開防止部」を「保持部」で固定して装着した後に取り外すものである(上記(1-オ)参照)と認められる。
そして、上記(1-カ)を参照すれば、本件特許明細書には、これらの構成要素について「創離開防止部」としては、「伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)」が、「保持部」としては、「伸縮機能を備えない綿糸を使用した綾織り生地を細くし」た「紐」や「創離開防止部の下層の一部もしくは全部に備え」た「粘着剤」が、「収縮防止部」としては、「コの字型の金属」が記載されている。なお、「収縮防止部」については、「コの字型の金属」に限らず、「創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持する機能を備えてさえいれば、用途に応じ、その素材や形状および部位等に制限を受けない」ことも記載されている。

(3-イ)「装着に伴う収縮距離」の技術的意義について
「装着に伴う収縮距離」は、上記(1-カ)の記載事項に基づけば、安静時にも起こりうる創離開防止用補助具の各部の装着後に生じる身体の生理的な動き(呼吸による胸囲や腹囲の変化等)によって引き伸ばされた状態の数値から、これらの負荷をゼロにすることによって収縮した状態の数値を差し引いた長さのことである。また、「安静時にも起こりうる創離開防止用補助具の各部の装着後に生じる身体の生理的な動き」とあるので、被請求人が口頭審理陳述要領書(3頁2行?4行)で主張するように、「安静時の身体の生理的な動き」が「装着者の動作等に伴う動き」を意味するものでないことは明らかである。そうすると、「装着に伴う収縮距離」は、創離開防止用補助具の各部に、安静時の身体の生理的な動きに相当する負荷をかけ、引き伸ばされた状態の長さから、当該負荷をゼロにして収縮した状態の長さを差し引いて得られる距離であり、これは創離開防止用補助具の各部の有する伸縮性(収縮距離が大きければ伸縮性が高く、逆に収縮距離が小さければ伸縮性が低いといえる。)を表現するものであると認められる。

(3-ウ)「創離開防止部」と「保持部」との関係について
「創離開防止部」と「保持部」は、「創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上」という関係にあり、上記(3-イ)を考慮すれば、創離開方向における「創離開防止部」の伸縮性が、「保持部」の伸縮性と同等か、それ以上であることを意味するものと認められる。
そして、上記(1-カ)を参照すれば、本件特許明細書には、この点について「伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)」を「創離開防止部」とし、「伸縮機能を備えない綿糸を使用した綾織り生地を細くし」た「紐」を「保持部」として、創離開防止部の伸縮性を保持部の伸縮性以上とすること、及び、創離開防止部の下層の一部もしくは全部に備えた粘着剤を保持部とする構成において、創離開防止部と保持部の創離開方向の伸縮性を同等とすることが記載されている。

(3-エ)「創離開防止部」と「創離開方向に対する垂直方向」の関係について
「創離開防止部」を、「創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる状態で、創およびその周辺組織に密着させ」ることは、上記(3-イ)を考慮すれば、創離開防止部の創離開方向の伸縮性が、創離開防止部の創離開方向に対する垂直方向の伸縮性と同等か、それ以上となる状態で、創およびその周辺組織に密着させることを意味し、すなわち、「創離開防止部」の伸縮性の高い方向を創離開方向に一致させた状態で創およびその周辺組織に密着させることを意味するものと認められる。
ここで、上記「創離開方向に対する垂直方向」とは、文言上、面状である「創離開防止部」の面と垂直な方向と、その面上において創離開方向と垂直な方向との2方向が考えられるが、上記(1-カ)を参照すれば、本件特許明細書に「創離開防止部1は、伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)からなり、装着に伴う創離開方向の収縮距離が、装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より長くなる方向で使用し」と記載されているので、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させる際のその方向を意味することは明らかであり、また、技術常識に照らしてみても、上記「創離開方向に対する垂直方向」は、「創離開防止部」の面上において創離開方向と垂直な方向と解すべきである。

(3-オ)創離開防止効果について
上記(3-ウ)及び(3-エ)を合わせて有することにより、創離開防止用補助具の装着に伴う収縮距離の度合、つまり創離開防止用補助具の伸縮性の度合は、創およびその周辺組織に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となる(上記(1-オ)参照)。そして、そのような創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばし、創およびその周辺組織に密着させるので、創離開防止用補助具の各部における伸縮性の差異によって生じる作用と、素材と創の周辺組織との摩擦により、創離開方向に抗する方向から創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、創の周辺組織が受けている生理的張力を持続的に減少させることが可能となり、創離開を防止するという、作用効果を奏する(上記(1-オ)参照)ものと認められる。

(3-カ)「収縮防止部」による作用効果について
上記(3-ア)のとおり「収縮防止部」は、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、創離開防止部の収縮を防止する機能を有するとともに、創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、保持部で固定して装着した後に取り外すことができるものであるので、創離開防止用補助具の装着が著しく容易となるという、作用効果を奏するものと認められる。

2 無効理由1(明確性要件)について
(1)本件発明1について
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。
そして、特許を受けようとする発明が明確か否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そのような前提に基づき、請求人の主張を以下に検討する。

(1-1)「収縮防止部」について
ア 請求人は、「この「収縮防止部」は、「前記創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、該創離開防止部の収縮を防止する機能を有する」という機能的な記載でしか規定されておらず、具体的にどのような構成のものを指すのかが全く不明確である。」(審判請求書7頁12行?15行)と主張し、「本件特許の明細書[0026]には、「また、第2の実施の形態では、接続部3a、3bを筒状にしてコの字型の金属を差し込み、収縮防止部を備えた構成としたが、収縮防止部は、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持する機能を備えてさえいれば、用途に応じ、その素材や形状および部位等に制限を受けない。」としか記載されておらず、収縮防止部が「コの字型の金属」である態様以外の態様については、要求される機能を記載しているにすぎず、具体的な構成について何ら説明されていない。また、被請求人は、本件特許の出願時の技術常識の例として、甲第1号証、乙第1号証、及び乙第2号証を挙げているが・・・乙第2号証のものは、本件特許発明に具体的にどのように適用するのかが不明確なものである。」(口頭審理陳述要領書4頁8行?20行)とも主張しているので、これらの点について検討する。

イ 上記1の(3-カ)で検討したとおり、「収縮防止部」とは、本件発明の作用効果に鑑みれば、「創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、創離開防止部の収縮を防止する」という機能を発揮し、「創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、保持部で固定して装着した後に取り外すことができるもの」であれば十分であることが理解できる。また、その具体例の一例として、上記1の(3-ア)のとおり「コの字型の金属」が示されているのであるから、本件明細書に接した当業者であれば、当該機能を発揮する構成について、その具体例のみならず、それ以外の構成も想到できると認められる。

ウ さらに、本件特許出願の最先の優先日(平成22年7月29日)前に頒布された刊行物である乙第2号証には、「医療補助用伸縮性テープ」に関する発明が記載され、特に、その段落【0008】?【0009】、図7?10には、第2実施例として、「図7乃至図10は第2実施例で、創傷治療用の本発明テープ及びその作用を示すものであるが、支持体(1)の両面に粘着層(2)(2)を設け、片面の粘着層(2)上に滅菌済・消毒液付ガーゼ(6)が配置され、更に当該粘着層(2)と該ガーゼ(6)の上にセパレーター(3)が施され、他の粘着層(2)の表面は非接着処理がなされて非接着処理面(5)が形成され、その表面上に特に支持体(1)の伸張を固定する作用をなすセパレーター(4)が設けられている。」(段落【0008】、下線は当審にて付与した。)と、支持体(1)の伸張を固定するセパレーター(4)について開示されており、医療用テープ等において、患部に密着させる部材を引き伸ばした状態に維持し、その収縮を防止する機能を有する部材、すなわち、本件発明の構成である「収縮防止部」と同等の構成を発揮する構成は、本件特許の出願当時において技術常識であったと認められる。

エ そして、上記技術常識を踏まえれば、例えば、上記1の(3-ア)や(3-ウ)に記載した、創離開防止部の下層の一部もしくは全部に備えた粘着剤を保持部とする構成に、収縮防止部を適用することが困難であるとは認められず、いずれにしても上記請求人の主張は採用できない。

(1-2)「創離開防止部」、「保持部」及び「収縮防止部」の相互の関係について
ア 次に、請求人は、「本件特許の請求項1の記載からは、「創離開防止部」と「保持部」と「収縮防止部」との間の相互作用を達成するための具体的な関係や手段が全く不明であり、明確でない。・・・本件特許の請求項1に係る発明が、「接続部」が存在する態様に限定されたとしても、「接続部」と「創離開防止部」、「保持部」、「収縮防止部」との間の関係が本件特許の請求項1に具体的に規定されなければ、不明確なままである。
従って、本件特許の請求項1に係る発明・・・は、「接続部」の点で、そして「接続部」と「創離開防止部」、「保持部」、「収縮防止部」との間の具体的な関係や手段の点で明確でない。」(審判請求書8頁8行?27行)と主張しているので、この点について検討する。

イ 上記1の(3-ア)に記載したとおり、「「収縮防止部」は、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、創離開防止部の収縮を防止する機能を有するとともに、「創離開防止部」を「保持部」で固定して装着した後に取り外すもの」であり、それにより、上記1の(3-カ)に記載したとおり、「創離開防止用補助具の装着が著しく容易となる」という作用効果を奏するのであるから、「創離開防止部」と「保持部」と「収縮防止部」との間の相互作用を達成するための具体的な関係や手段は、明確であり、上記請求人の主張は採用できない。

ウ また、上記(1-1)のウのとおり、本件発明1が属する医療用テープの分野において、接続部を必要としない収縮防止部の構成(乙第2号証の第2実施例のセパレーター(4))が本件特許の出願当時において技術常識であったので、本件特許明細書に接した当業者であれば、上記技術常識を踏まえ、「接続部」を用いた具体例のみならず、それ以外の構成も想到できると認められるから、上記請求人の主張は採用できない。

(1-3)「創離開方向の収縮距離」について
ア 請求人は、「本件特許の請求項1の構成要件(C)には、「前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備え、」と記載されている。
しかしながら、かかる記載は・・・機能的な記載であるために、具体的にどのような構成を指すものかが不明であり、また、ほとんど具体的に限定されていないと言える表現のために、要件としての範囲が広すぎて極めて不明確である。」(審判請求書9頁7行?13行、口頭審理陳述要領書11頁19行?20行)、「また、構成要件(C)は、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離よりどの程度大きいかを具体的に記載しないと、全く意味不明となり、不明確である。しかし、本件特許明細書には、創離開防止部がその創離開防止効果を十分に発揮するために必要な、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離と前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離との差の大きさの設定について何ら具体的に記載されていない。
従って、本件特許の請求項1に係る発明の構成要件(C)は、上述した収縮距離を使用した規定の点で明確でない。」(審判請求書10頁1行?9行、上申書7頁?8頁)と主張しているので、これらの点について検討する。

イ 構成要件(C)は、上記1の(3-ウ)で検討したとおり、「創離開方向における「創離開防止部」の伸縮性が、「保持部」の伸縮性と同等か、それ以上であることを意味する」のであるから、上記1の(3-オ)に記載したとおり、「創離開防止用補助具の伸縮性の度合は、創およびその周辺組織に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となる」ための必要条件の一つであると認められる。

ウ したがって、構成要件(C)は、本件発明の作用効果に鑑みれば、具体的な限定であり、明確でもあるので、上記請求人の主張は採用できない。

(1-4)「創離開方向の垂直方向」について
ア 請求人は、「・・・「前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる状態で」という部分中の「前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向」の意味が不明である。「創離開方向の垂直方向」と言った場合、本件特許の明細書の図4の紙面に対する鉛直方向と紙面の上下方向との二通りの方向が考えられる。おそらくこの垂直方向は、本件特許の明細書の図4の紙面の上下方向を指すのであろうが、現在の規定や明細書からはそのように一義的に判断できない。即ち、構成要件(D)のうち「創離開方向の垂直方向」の部分の意味が不明確である。」(審判請求書10頁下から6行?11頁3行)と主張し、「さらに、垂直方向が本件特許の明細書の図4の紙面の上下方向を指すと解釈した場合、垂直方向の収縮距離はほとんどゼロであるのが通常である。創離開防止方向の垂直方向には収縮力を一般に働かせないからである。従って、構成要件(D)の・・・記載は、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離と同等(同一)又は前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より若干大きい程度の場合を含むから、この場合、創離開方向の収縮距離がほとんどなく、創離開防止部がその創離開防止効果を発揮できないことは明らかである。・・・構成要件(D)は、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離よりどの程度大きいかを具体的に記載しないと、全く意味不明となり、不明確である。」(審判請求書11頁3行?22行、上申書2頁?5頁、及び8頁?9頁)とも主張しているので、これらの点について検討する。

イ 上記1の(3-エ)で検討したとおり、構成要件(D)の「垂直方向」が、「創離開防止部」の面上において、創離開方向と垂直な方向を意味すること、つまり、本件特許明細書の図4の紙面の上下方向を意味することは自明であり、上記請求人の主張は採用できない。

ウ 構成要件(D)の「創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる状態で、創およびその周辺組織に密着させ」は、上記1の(3-エ)で検討したとおり、「「創離開防止部」の伸縮性の高い方向を創離開方向に一致させた状態で創およびその周辺組織に密着させることを意味する」のであるから、上記1の(3-オ)に記載したとおり、「創離開防止用補助具の伸縮性の度合は、創およびその周辺組織に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となる」ための必要条件の一つであると認められる。

エ そして、構成要件(D)では、創離開方向に対する方向を決定した創離開防止部を「創離開方向に引き伸ばし、」「創およびその周辺組織に密着させ、前記保持部で固定し装着した後に前記収縮防止部を取り外す」のであるから、上記1の(3-オ)及び(3-カ)に記載したとおり、「創離開方向に抗する方向から創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、創の周辺組織が受けている生理的張力を持続的に減少させることが可能となり、創離開を防止」し、「創離開防止用補助具の装着が著しく容易となる」という作用効果を奏するものである。

オ また、そのような作用効果を奏するために、上記1の(3-オ)に記載したとおり、「創離開防止用補助具の伸縮性の度合は、創およびその周辺組織に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となる」ようにできればよく、つまり、創離開防止部ではその伸縮性の高い方向を創離開方向に一致させることができればよく、その程度の大きさを問題としていないことは明らかである。

カ そうすると、構成要件(D)は、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離と同等(同一)又は創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より若干大きい程度の場合を含み、この場合、創離開方向の収縮距離がほとんどないかもしれないが、だからといって、創離開防止部がその創離開防止効果を発揮できないものではない。

キ したがって、構成要件(D)は、本件発明の作用効果に鑑みれば、具体的な限定であり、明確でもあるので、上記請求人の主張は採用できない。

(1-5)小括
上記(1-1)?(1-4)で検討したとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件発明1は明確である。

(2)本件発明2及び3について
請求人は、「本件特許の請求項2及び3に係る発明は、本件特許の請求項1に係る発明に従属しているから、本件特許の請求項2及び3に係る発明についても、本件特許の請求項1に係る発明の構成要件(B)、(C)、(D)で指摘した特許法第36条違背が同様に適用される。」(審判請求書12頁6行?9行)と主張している。
しかしながら、請求人の当該主張は、本件発明1が不明確であるとの主張を前提とするものであるところ、上記(1-5)に記載したとおり、その主張はいずれも理由がないから、請求人の本件発明2及び3についての上記主張はその前提において理由がない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。

3 無効理由2(実施可能要件)について
発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号で規定する実施可能要件に適合するか否かは、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が、特許請求の範囲に記載された発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できるか否かを検討して判断すべきものである。
そのような前提に基づき、請求人の主張を以下に検討する。

(1)請求人は、「本件特許の請求項1に係る発明のうち「収縮防止部」が「コの字型の金属」である態様以外の態様については、明細書(発明の詳細な説明)に具体的に記載されていないし、当業者が実施することができる程度に本件特許の明細書(発明の詳細な説明)に明確かつ十分に記載されていない。」(審判請求書7頁下から4行?1行、口頭審理陳述要領書6頁下から5行?1行)と主張しているので、この点について検討する。

ア 「収縮防止部」について、上記2の(1-1)のウで示した本件特許の出願当時の技術常識に照らせば、「コの字型の金属」に限らず、その構成を具体的に想定できるので、上記請求人の主張には理由がない。

(2)請求人は、「本件特許の請求項1に係る発明のうち、「接続部」を必須とする態様以外の態様については、明細書(発明の詳細な説明)に具体的に記載されていないし、当業者が実施することができる程度に本件特許の明細書(発明の詳細な説明)に明確かつ十分に記載されていない。」(審判請求書8頁下から2行?9頁2行、口頭審理陳述要領書8頁下から1行?9頁3行)と主張しているので、この点について検討する。

ア 上記2の(1-2)のウで検討したとおり、「接続部」を必須とする態様以外の態様が、本件特許の出願当時において技術常識であったと認められるので、上記請求人の主張には理由がない。

(3)請求人は、「本件特許の請求項1に係る発明の構成要件(C)に関する態様については、明細書(発明の詳細な説明)に具体的に記載されていないし、当業者が実施することができる程度に明細書(発明の詳細な説明)に明確かつ十分に記載されていない。」(審判請求書10頁10行?13行、口頭審理陳述要領書11頁20行?23行、上申書7頁?8頁)と主張しているので、この点について検討する。

ア 本件発明1の構成要件(C)は、上記1の(3-ウ)に記載したとおり、「「伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)」を「創離開防止部」とし、「伸縮機能を備えない綿糸を使用した綾織り生地を細くし」た「紐」を「保持部」とすること、及び、創離開防止部の下層の一部もしくは全部に備えた粘着剤を保持部とする構成において、創離開防止部と保持部の創離開方向の伸縮性を同等とすることが記載されている」のであるから、本件特許明細書に具体的に記載され、また、本件特許明細書に接した当業者であれば、上記2の(1-1)のウで示した本件特許の出願当時の技術常識を踏まえ、実施することもできるものと認められる。
よって、上記請求人の主張に理由はない。

(4)請求人は、「本件特許の請求項1に係る発明の構成要件(D)に関する態様については、明細書(発明の詳細な説明)に具体的に記載されていないし、当業者が実施することができる程度に明細書(発明の詳細な説明)に明確かつ十分に記載されていない。」(審判請求書11頁下から2行?12頁2行、口頭審理陳述要領書14頁21行?24行、上申書2頁?5頁、及び8頁?9頁)と主張しているので、この点について検討する。

ア 本件発明1の構成要件(D)は、上記1の(3-エ)に記載したとおり、「創離開防止部1は、伸縮性のベア天竺生地(綿89%、ポリウレタン11%)からなり、装着に伴う創離開方向の収縮距離が、装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より長くなる方向で使用」するのであるから、本件特許明細書に具体的に記載され、また、たとえ上記1の(3-ウ)に記載した、「創離開防止部の下層の一部もしくは全部に備えた粘着剤を保持部とする構成」であったとしても、本件特許明細書に接した当業者であれば、上記2の(1-1)のウで示した本件特許の出願当時の技術常識を踏まえ、実施することができるものと認められる。
よって、上記請求人の主張に理由はない。

よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしており、上記請求人のいずれの主張も理由がない。

(5)小括
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものである。

4 無効理由3(サポート要件)について
(1)本件発明1について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号で規定するサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そのような前提に基づき、請求人の主張を以下に検討する。

(1-1)請求人は、「「収縮防止部」は、本件特許の明細書([0023]、[0026]及び図3,4)には、「コの字型の金属」であることしか例示されておらず、「コの字型の金属」以外の「収縮防止部」として具体的にどのような構成のものが使用できるのかについて何ら記載されていないし、当業者が同様の機能を持つものを容易に想像することができない。この点で、本件特許の請求項1に係る発明は、「収縮防止部」が「コの字型の金属」である態様以外の態様については、明細書(発明の詳細な説明)に開示された範囲を大きく超えて請求していることになる。」(審判請求書7頁16行?23行)と主張しているので、この点について検討する。

ア 上記2の(1-1)や上記3の(1)で検討したとおり、「収縮防止部」については、上記2の(1-1)のウに示した本件特許の出願当時の技術常識に照らせば、「コの字型の金属」に限らず、その具体的な構成を想定でき、また、「収縮防止部」は上記1の(3-カ)に示した「創離開防止用補助具の装着が著しく容易となる」という作用効果を奏するものと認められる。
よって、上記請求人の主張には理由がない。

(1-2)請求人は、「本件特許の請求項1に係る発明のうち、「接続部」を必須とする態様以外の態様については、明細書(発明の詳細な説明)に具体的に記載されていないし、当業者が実施することができる程度に本件特許の明細書(発明の詳細な説明)に明確かつ十分に記載されていない。」(審判請求書8頁下から2行?9頁2行、口頭審理陳述要領書8頁下から1行?9頁3行)と主張している。

ア しかしながら、上記(1-1)で検討したとおり、「収縮防止部」は、本件特許の出願当時の技術常識に照らせば、「コの字型の金属」に限らず、「接続部」を必須としない具体的な構成(例えば、上記2の(1-1)のウに示した乙第2号証の第2実施例のセパレーター(4))を想定できるので、上記請求人の主張には理由がない。

(1-3)請求人は、「構成要件(C)で述べられている「前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能」は・・・前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離と同等(同一)又は前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離より若干大きい程度の場合を含み、この場合、保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離はそもそもほとんどゼロであるから創離開方向の収縮距離もほとんどなく、創離開防止部がその創離開防止効果を発揮できないことは明らかである。そもそも前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離より十分に大きくないと、実際には創離開防止部がその創離開防止効果を十分に発揮できない。従って、このような構成要件(C)の規定を含む本件特許の請求項1は、本件特許発明の効果を達成できない範囲まで権利を請求していることになる。」(審判請求書9頁14行?29行、上申書7頁?8頁)と主張しているので、この点について検討する。

ア 上記2の(1-3)で検討したとおり、構成要件(C)は「創離開防止用補助具の伸縮性の度合は、創およびその周辺組織に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となる」ための必要条件の一つであると認められる。

イ また、本件発明1の作用効果の一つは、上記1の(3-オ)に記載したとおり、「創離開防止用補助具の各部における伸縮性の差異によって生じる作用と、素材と創の周辺組織との摩擦により、創離開方向に抗する方向から創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、創の周辺組織が受けている生理的張力を持続的に減少させることが可能となり、創離開を防止する」ことにあり、この創離開防止効果を奏するためには、創離開防止用補助具の各部の伸縮性の程度の大きさは必須の要件ではなく、各部の伸縮性の相対的な差異を特定することが必要であると認められる。

ウ そして、たとえ創離開防止用補助具の各部の伸縮性が同程度であったとしても、上記アの「創離開防止用補助具の伸縮性の度合は、創およびその周辺組織に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となる」ようにすることは可能であり、その創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばし、創およびその周辺組織に密着させるので、創離開方向に抗する方向から創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせた状態となり、創離開防止効果を奏するものと認められる。
よって、上記請求人の主張には理由がない。

(1-4)請求人は、「垂直方向が本件特許の明細書の図4の紙面の上下方向を指すと解釈した場合、垂直方向の収縮距離はほとんどゼロであるのが通常である。創離開防止方向の垂直方向には収縮力を一般に働かせないからである。従って、構成要件(D)のうち、「前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる」という記載は、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離と同等(同一)又は前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より若干大きい程度の場合を含むから、この場合、創離開方向の収縮距離がほとんどなく、創離開防止部がその創離開防止効果を発揮できないことは明らかである。そもそも前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離より十分に大きくないと、実際には創離開防止部がその創離開防止効果を十分に発揮できない。従って、このような構成要件(D)の規定を含む本件特許の請求項1は、本件特許発明の効果を達成できない範囲まで権利を請求していることになる。」(審判請求書11頁4行?18行、上申書2頁?5頁、及び8頁?9頁)と主張しているので、この点について検討する。

ア 上記2の(1-4)で検討したとおり、構成要件(D)は「創離開方向に抗する方向から創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせ、創の周辺組織が受けている生理的張力を持続的に減少させることが可能となり、創離開を防止」し、「創離開防止用補助具の装着が著しく容易となる」という作用効果を奏するものであり、「創離開防止用補助具の伸縮性の度合は、創およびその周辺組織に密着する創離開防止部の創離開方向が最大となる」ようにできればよく、つまり、創離開防止部ではその伸縮性の高い方向を創離開方向に一致させることができればよく、その程度の大きさは必須の要件ではないことは明らかである。

イ なお、たとえ創離開防止部の伸縮性がどの方向にも同程度であったとしても、上記イの「伸縮性の高い方向を創離開方向に一致させること」は可能であり、その創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばし、創およびその周辺組織に密着させるので、創離開方向に抗する方向から創の周辺組織を弛ませ、軽くしわをよせた状態となり、創離開防止効果を奏するものと認められる。
よって、上記請求人の主張には理由がない。

(1-5)小括
上記(1-1)?(1-4)で検討したとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、本件発明1はサポート要件を満たす。

(2)本件発明2及び3について
請求人は、「本件特許の請求項2及び3に係る発明は、本件特許の請求項1に係る発明に従属しているから、本件特許の請求項2及び3に係る発明についても、本件特許の請求項1に係る発明の構成要件(B)、(C)、(D)で指摘した特許法第36条違背が同様に適用される。」(審判請求書12頁6行?9行)と主張している。
しかしながら、請求人の当該主張は、本件発明1がサポート要件を満たしていないとの主張を前提とするものであるところ、上記(1-5)に記載したとおり、その主張はいずれも理由がないから、請求人の本件発明2及び3についての上記主張はその前提において理由がない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。

第5 まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1?3及び提出した証拠方法によっては本件発明1?3についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人らが負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-22 
結審通知日 2017-03-27 
審決日 2017-04-07 
出願番号 特願2011-83394(P2011-83394)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (A61B)
P 1 113・ 536- Y (A61B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 山口 直
橘 均憲
登録日 2011-07-29 
登録番号 特許第4790091号(P4790091)
発明の名称 創離開防止用補助具  
代理人 浅野 典子  
代理人 嶋崎 英一郎  
代理人 奈良 泰宏  
代理人 風早 信昭  
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