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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1328362 |
審判番号 | 不服2016-2288 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-02-16 |
確定日 | 2017-05-17 |
事件の表示 | 特願2014-137637「軋み音を低減した成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成26年9月25日出願公開、特開2014-177656〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年2月19日に出願した特願2010-34304号(以下、「原出願」という。)の一部を平成26年7月3日に新たな特許出願としたものであって、平成27年8月12日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年10月14日に意見書が提出されたが、同年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年2月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 分割要件について 本願は、特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(分割出願)とされているから、本願が適法に分割されたものであるか否かを検討する。 特許法第44条第1項本文は、「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」、同条第2項は、「前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」と規定している。 分割出願が同条第2項の適用を受けるためには、分割出願に係る発明が、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(原出願の当初明細書等)に記載されていること、又は、これらの記載から自明であることが必要である。 1.本願特許請求の範囲、及び、関連する本願明細書の記載 本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明6」、まとめて、「本願発明」ともいう。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(下線は、合議体が付したものである。以下同じ。) 「【請求項1】 (A)下記の(A1)および(A2)からなるスチレン系樹脂10?55質量%、 (A1)共役ジエン系ゴム質重合体(a-1)および/またはアクリル系ゴム質重合体(a-2)からなるゴム質重合体(a)存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂15?70質量%、 (A2)芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるスチレン系共重合体85?30質量%、(上記(A1)成分および(A2)成分の合計が100質量%) (B)オレフィン系樹脂30?80質量%、および (C)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体10?40質量%、 からなり、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計が100質量%である熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする、軋み音を低減した成形品。 【請求項2】 (B)成分のオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂、またはポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物からなる請求項1記載の成形品。 【請求項3】 (A)成分、(B)成分および(C)成分の合計100質量部に対して、(D)成分として、低分子量酸化ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンから選ばれた少なくとも1種のポリエチレン系樹脂を0.1?30質量部配合してなる請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする成形品。 【請求項4】 (A) 成分、(B)成分および(C)成分の合計100質量部に対して、(E)成分としてシリコーンオイルを0.1?8質量部配合してなる請求項1?3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする成形品。 【請求項5】 他の部材と接触し擦れ合うことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の成形品。 【請求項6】 他の部材との嵌合部を有する部品に使用されることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の成形品。」 本願特許請求の範囲に関連する事項として、本願明細書には以下の事項が記載されている。 (1)「【0095】 本発明の成形品は、他材からなる部品と接触し、擦れ合うことにより発生する軋み音を大幅に低減させることが可能で、ドアトリム、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、ドアポケット、ベンチレータ、ダクト、エアコン、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/T インジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー、マスク類(マスクスイッチ、マスクラジオなど)、グローブボックス、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド等に使用することができる。その中でも、自動車用ベンチレータおよび自動車用エアコンとして好適に用いることができ、自動車用ベンチレータの板状羽根、バルクシャッター、ルーバー等として特に好適に用いることができる。このような他の部材との嵌合部を有する部品に好適である。」 (2)「【産業上の利用可能性】 【0108】 本発明によれば、部品が擦れ合うときに発生する軋み音が著しく低減され、且つ高温下に長時間置かれた場合においても軋み音低減効果が低下せずに維持され、さらには、耐衝撃性および成形品表面外観性に優れた熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を提供することができ、特に、他の部材との嵌合部を有する部品に好適に使用することができる。」 2.原出願の記載事項 原出願の当初明細書等には、「自動車内装部品」、「試験片」及び「成形品」に関して、以下の記載がある。 (1)「【請求項1】 (A)共役ジエン系ゴム質重合体(a-1)および/またはアクリル系ゴム質重合体(a-2)からなるゴム質重合体(a)存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A1)、および/または、該ビニル系単量体(b)のスチレン系(共)重合体(A2)からなるスチレン系樹脂8?93質量%、 (B)オレフィン系樹脂5?90質量%、および (C)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体2?50質量%、 からなり、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計が100質量%である熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする自動車内装部品。 【請求項2】 (B)成分のオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂、またはポリエチレン系樹脂を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物からなる請求項1記載の自動車内装部品。 【請求項3】 (A)成分、(B)成分および(C)成分の合計100質量部に対して、(D)成分として、低分子量酸化ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンから選ばれた少なくとも1種のポリエチレン系樹脂を0.1?30質量部配合してなる請求項1および2記載の熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする自動車内装部品。 【請求項4】 (A) 成分、(B)成分および(C)成分の合計100質量部に対して、(E)成分としてシリコーンオイルを0.1?8質量部配合してなる請求項1?3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする自動車内装部品。 【請求項5】 自動車用ベンチレーターに使用されることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の自動車内装部品。 【請求項6】 自動車用エアコンに使用されることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の自動車内装部品。」 (2)「【0001】 本発明は自動車内装部品に関し、更に詳しくは、他の部品と接触し、擦れ合うことにより発生する軋み音を大幅に低減させた熱可塑性樹脂組成物製自動車内装部品に関する。 【0002】 ABS樹脂は、その優れた機械的性質、耐熱性、成形性等により自動車内装部品の製造に広範囲に使用されている。 【0003】 しかし、自動車走行時の振動に伴い、ABS樹脂製自動車内装部品が該部品同士や該部品とクロロプレンゴム、ポリウレタン、天然ゴム、ポリエステルまたはポリエチレン製の内張りシート、フォームなどの他の部品と接触して擦れ合うような場合において、軋み音(擦れ音)を発生することがある。また、例えばABS樹脂製のベンチレーターには、風量を調整するためにクロロプレンゴム製フォーム等をシール材として使用したバルブシャッターが内部に装着されており、風量調整のためにバルブシャッターを回転させるとシール材とベンチレーターのケースとが互いに擦れ合う。このようにABS樹脂製自動車内装部品が他の部品と擦れ合う使用状況下でも軋み音が発生する場合がある。 【0004】 また、ABS樹脂、ASA樹脂は非晶性樹脂であるため、結晶性樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタールなどの樹脂と比較すると摩擦係数が高く、自動車内のエアコン吹き出し口やカーステレオのボタン等のように、他樹脂からなる部品と嵌合する場合に、スティックスリップ現象(非特許文献1)が発生し、異音(軋み音)が発生することもよく知られている。これらの軋み音は乗車時の快適性、静粛性を損ねる大きな原因となっており、軋み音の低減が強く望まれていた。」 (3)「【0006】 また、自動車内装部品に用いられる材料自体を改質する方法として、例えば、ポリカーボネート樹脂およびABS樹脂からなる樹脂に有機ケイ素化合物を配合する技術(特許文献1)が、またABS樹脂に難燃剤、難燃助剤およびシリコーンオイルを配合する技術( 特許文献2) が、またABS樹脂、MBS樹脂およびHIPS( ハイインパクトポリスチレン) 樹脂にシリコーンオイルを配合する技術(特許文献3)が、またABS樹脂にアルカンスルホネート系界面活性剤を配合する技術( 特許文献4) が、さらにABS樹脂にエポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基から選ばれる少なくとも1 種の反応基を有する変性ポリオルガノシロキサンを配合し、撥水性を高め浴室内やトイレ内の水廻り部品に使用する技術( 特許文献5) が開示されている。 【0007】 しかしながら、これらの方法による軋み音の低減効果は十分とはいえず、成形直後にはある程度の軋み音防止効果を示しても効果の持続性に乏しく、特に、高温下に長時間置かれた場合にはその効果が低下するという問題があった。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0008】 【特許文献1】特公昭63-56267号公報 【特許文献2】特許第2798396号公報 【特許文献3】特許第2688619号公報 【特許文献4】特許第2659467号公報 【特許文献5】特開平10-316833号公報」 (4)「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、かかる実情に鑑み、部品が擦れ合うときに発生する軋み音が著しく低減され、かつ高温下に長時間置かれた場合においても軋み音低減効果が低下せず維持され、さらには耐衝撃性および成形品表面外観性に優れた熱可塑性樹脂組成物からなる自動車内装部品の提供を目的とする。」 (5)「【0015】 本発明の(A)成分であるスチレン系樹脂は、共役ジエン系ゴム質重合体(a?1)および/またはアクリル系ゴム質重合体(a-2)からなるゴム質重合体(a)存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A1)、および/または、該ビニル系単量体(b)のスチレン系(共)重合体(A2)からなるスチレン系樹脂である。 本発明の(A)成分は、耐衝撃性および軋み音低減性から、ゴム質重合体(a)の存在下にビニル系単量体(b)をグラフト重合させた重合体の少なくとも1種であるゴム強化スチレン系樹脂(A1)を含むものが好ましい。ゴム質重合体(a)の含有量は、(A)成分を100質量%として、好ましくは3?80質量%、更に好ましくは5?70質量%、特に好ましくは10?60質量%である。 本発明の(A)成分として、ゴム強化スチレン系樹脂(A1)とスチレン系(共)重合体(A2)とを併用する場合、基本的には上記ゴム質重合体(a)の含有量となるように配合すればよいが、必要に応じ、(A1)成分のゴム質重合体(a)の量を上記より高くすることができる。(A1)成分と(A2)成分との好ましい配合割合は、(A1)成分と(A2)成分とを100質量%としたとき、(A1)成分は好ましくは10?80質量%、更に好ましくは15?70質量%、(A2)成分は好ましくは90?20質量%、更に好ましくは85?30質量%である。」 (6)「【0095】 本発明の自動車内装用部品は、他材からなる部品と接触し、擦れ合うことにより発生する軋み音を大幅に低減させることが可能で、ドアトリム、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、ドアポケット、ベンチレータ、ダクト、エアコン、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/T インジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー、マスク類(マスクスイッチ、マスクラジオなど)、グローブボックス、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド等に使用することができる。その中でも、自動車用ベンチレータおよび自動車用エアコンとして好適に用いることができ、自動車用ベンチレータの板状羽根、バルクシャッター、ルーバー等として特に好適に用いることができる。このような他の部材との嵌合部を有する部品に好適である。」 (7)「【0096】 以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない、尚、実施例中において部および%は、特に断らない限り質量基準である。 【0097】 (1)評価方法: 実施例、比較例中の各種測定は、下記の方法に拠った。 【0098】 (1-1)軋み音評価-1 株式会社日本製鋼所製の射出成形機「 J-100E」 (型式名)を用い、表1に記載の熱可塑性樹脂組成物およびテクノポリマー株式会社製のPC/ABS樹脂「 CK43」 (商品名)からなる、ISOダンベル試験片を230℃で射出成形した。次に、表1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるISOダンベル試験片5枚と、「 CK43」 からなるISOダンベル試験片5枚を交互に重ね合わせ、この両端を手でひねって軋み音の発生の状況を評価した。評価は5回行い、下記評価基準に基づき判定を行った。 ◎:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生はなかった。 〇:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生は僅かであった。 △:5回の評価において、軋み音の発生が顕著な場合が含まれていた。 ×:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生が顕著であった。 (1-2)軋み音評価-2: 上記で得た試験片を80℃のギアオーブンに400時間放置した。その試験片を用い、上記(1-1)軋み音評価-1と同じ方法で軋み音の発生状況を評価した。 【0099】 (1-3)耐衝撃性: 日精樹脂工業株式会社製の電動射出成形機「 エルジェクトNEX30」 (型式)を用い、表1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる、ISO179に準拠した規定の成形品を230℃で成形し、シャルピー衝撃強さ(KJ/m^(2) )を測定した。 【0100】 (1-4)成形品表面外観性: 日精樹脂工業株式会社製の電動射出成形機「 エルジェクトNEX30」 (型式)を用い80mm×55mm×1.6mmの平板形の試験片を230℃で射出成形した。 試験片の表面を目視観察し、下記判断基準で評価した。 〇:フローマーク等の外観不良がなく良好である。 △:フローマーク等の外観不良が少しある。 ×:フローマーク等の外観不良が顕著であり外観性が劣る。」 (8)「【0106】 実施例1?18、比較例1?4 表1記載の配合割合で各構成成分をヘンシェルミキサーにより混合した後、ベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX44、バレル設定温度230℃)を用いて溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを十分に乾燥したのち、このペレットを用いて前記方法で試験片を成形し、そして得られた試験片を用いて、前記方法で評価した。評価結果を表1に示した。 表1から明らかなように、実施例1?18で代表される本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的とする軋み音が低減され、更に、耐衝撃性と成形品表面外観性をバランスよく備えた成形品を提供する。 これに対して比較例1は、本発明の(A)成分の使用量が発明の範囲外で少ない例であり耐衝撃性が劣る。比較例2は、本発明の(A)成分の使用量が発明の範囲外で多く、また、(B)成分の使用量が発明の範囲外で少ない例であり、軋み音低減性(軋み音評価-1、軋み音評価-2とも)が劣り、成形品表面外観性もやや劣る。比較例3は、本発明の(A)成分の使用量が発明の範囲外で少なく、(B)成分の使用量が発明の範囲外で多い例であり、耐衝撃性が劣り、成形品表面外観性もやや劣る。比較例4は、本発明の(C)成分の使用量が発明の範囲外で多い例であり、軋み音低減性(軋み音評価-2)、耐衝撃性および成形品表面外観性が劣る。」 (9)「【産業上の利用可能性】 【0108】 本発明の自動車内装部品は、部品が擦れ合うときに発生する軋み音が著しく低減され、且つ高温下に長時間置かれた場合においても軋み音低減効果が低下せずに維持され、さらには、耐衝撃性および成形品表面外観性に優れた熱可塑性樹脂組成物からなる自動車内装部品を提供することができ、自動車用ベンチレータや自動車用エアコン等に好適に使用することができる。特に、他の部材との嵌合部を有する部品に好適に使用することができる。」 3.分割の適否についての判断 原出願の当初明細書等の摘示(1)ないし(4)、(6)、(9)には、特許請求の範囲、技術分野、従来技術、発明が解決しようとする課題、産業上の利用可能性において、一貫して、「自動車内装部品」が記載されている。 原出願の当初明細書等の摘示(7)及び(8)には、実施例において、得られた「試験片」を用いて評価試験が行われ、また、「本発明の目的とする軋み音が低減され、更に、耐衝撃性と成形品表面外観性をバランスよく備えた成形品を提供する」という記載はあるが、上記のとおり、原出願の当初明細書等には、一貫して、「自動車内装部品」が記載されていることから、当該試験片及び成形品は、「自動車内装部品」を前提とした課題に基づき、評価試験を行うための試験片に過ぎないものと解するのが自然であり、用途の限定のない一般的な「成形品」であるとはいえない。 また、原出願の出願時の技術常識からみても、「自動車内装部品」と、用途の限定のない一般的な「成形品」が同等であるとはいえないから、用途の限定のない一般的な「成形品」は、原出願の当初明細書等の記載から自明な事項であるということもできない。 そうすると、本願発明の「成形品」は、原出願の当初明細書等に記載された「自動車内装部品」には含まれない、用途の限定のない一般的な「成形品」を含むものと解され、原出願の当初明細書等に開示された「自動車内装部品」という技術的事項を、用途の限定のない一般的な「成形品」へ上位概念化するものであって、新たな技術的事項を導入するものであるから、上位概念化された上記技術的事項が、原出願の当初明細書等に実質的に記載されているとすることができない。 4.請求人の主張 請求人は、平成28年2月16日提出の審判請求書において、以下のとおり主張している。 「物性を評価するための試験片として、本願の熱可塑性樹脂組成物の成形品を作成し、この成形品を用いて物性評価をしており、その結果、[0106]において、『本発明の目的とする軋み音が低減され、更に、耐衝撃性と成形品表面外観性をバランスよく備えた成形品を提供する。』と記載されています。 このことから、本願発明の当初明細書には、『軋み音を低減した成形品』が記載されていたことは明らかであります。 尚、原出願における『軋み音を低減した自動車内装部品』について付言しますと、本願の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、上記の評価結果のように、特に「軋み音の評価」において優れているため、上記評価方法と同様の状況、即ち、他材からなる部品と接触し、擦れ合うことにより軋み音が発生しやすい用途、分野において、自動車内装部品に特に好適であるとの観点から、自動車内装部品として特許取得を図ったものです。 しかしながら、上記したように、原出願には、まず成形品を得て、次に、該成形品を試験片として用いて軋み音評価等を行い、その結果、特に、軋み音の低減に優れていることが見い出されたという通常の発明創成のプロセスが記載されていることから、軋み音を低減した成形品についても記載されていることは明らかでありますので、これについて分割出願をしたのが本願であります。 よって、本願発明は分割要件を満たすものであり、出願日の遡及は当然認められるべきものと思料します。 」 しかしながら、上記「3.」で述べたとおり、実施例における、試験片及び成形品は、「自動車内装部品」を前提とした評価試験における試験片に過ぎないものであって、用途の限定のない一般的な成形品であるといえないし、原出願の出願時の技術常識からみても、「自動車内装部品」と、それとは異なる一般的な用途が同等であるとはいえないから、原出願の当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえないから、請求人の主張を採用することができない。 5.まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、原出願の当初明細書等に記載されて事項の範囲内でないものを含むから、本願は分割要件を満たさない。 したがって、本願の出願日の遡及は認められないから、本願の出願日は、実際に出願がなされた平成26年7月3日である。 第3 本願発明1について 1.本願発明1 本願発明1は、上記「第2 1.」に記載された事項により特定されるものである。 2.引用文献の記載事項、及び、引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である特開2011-168186号公報(以下、「引用文献」という。)は、原出願の公開公報であるから、前記「第2 2.」の摘示(1)ないし(9)のとおりの記載がある。 前記「第2 2.」の摘示(1)ないし(9)からみて、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「(A)共役ジエン系ゴム質重合体(a-1)および/またはアクリル系ゴム質重合体(a-2)からなるゴム質重合体(a)存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A1)、および/または、該ビニル系単量体(b)のスチレン系(共)重合体(A2)からなるスチレン系樹脂8?93質量%、 (B)オレフィン系樹脂5?90質量%、および (C)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体2?50質量%、 からなり、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計が100質量%である熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする自動車内装部品。」 3.対比・判断 引用発明の「(A)共役ジエン系ゴム質重合体(a-1)および/またはアクリル系ゴム質重合体(a-2)からなるゴム質重合体(a)存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A1)、および/または、該ビニル系単量体(b)のスチレン系(共)重合体(A2)からなるスチレン系樹脂」は、本願発明1の「(A)下記の(A1)および(A2)からなるスチレン系樹脂、(A1)共役ジエン系ゴム質重合体(a-1)および/またはアクリル系ゴム質重合体(a-2)からなるゴム質重合体(a)存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂、(A2)芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるスチレン系共重合体」に相当する。 引用発明の「(B)オレフィン系樹脂」、及び、「(C)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体」は、本願発明1の「(B)オレフィン系樹脂」、及び、「(C)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体」に相当する。 引用発明の「(A)スチレン系樹脂8?93質量%、(B)オレフィン系樹脂5?90質量%、および(C)ブロック共重合体2?50質量%からなり、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計が100質量%である熱可塑性樹脂組成物」は、本願発明1の「(A)スチレン系樹脂10?55質量%、(B)オレフィン系樹脂30?80質量%、および(C)ブロック共重合体10?40質量%からなり、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計が100質量%である熱可塑性樹脂組成物」に相当する。 そうすると、引用発明と本願発明1は、以下の点で一致し、 <一致点> 「(A)下記の(A1)および(A2)からなるスチレン系樹脂10?55質量%、 (A1)共役ジエン系ゴム質重合体(a-1)および/またはアクリル系ゴム質重合体(a-2)からなるゴム質重合体(a)存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂、 (A2)芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるスチレン系共重合体 (B)オレフィン系樹脂30?80質量%、および (C)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体10?40質量%、 からなり、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計が100質量%である熱可塑性樹脂組成物。」 次の点で相違する。 <相違点1> 本願発明1が、(A)スチレン系樹脂において、「(A1)ゴム強化スチレン系樹脂15?70質量%、(A2)スチレン系共重合体85?30質量%、(上記(A1)成分および(A2)成分の合計が100質量%)」と特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定が明記されていない点。 <相違点2> 本願発明1が「熱可塑性樹脂組成物からなる軋み音を低減した成形品」と特定しているのに対して、引用発明では、「熱可塑性樹脂組成物からなる自動車内装部品」と特定している点。 相違点1について検討する。 前記「第2 2.」の摘示(5)には、引用文献の(A)成分において、「(A1)成分と(A2)成分との好ましい配合割合は、(A1)成分と(A2)成分とを100質量%としたとき、(A1)成分は好ましくは10?80質量%、更に好ましくは15?70質量%、(A2)成分は好ましくは90?20質量%、更に好ましくは85?30質量%である。」と記載されていることから、引用発明の(A)成分において、「(A1)成分と(A2)成分とを100質量%としたとき、(A1)成分は10?80質量%、(A2)成分は90?20質量%」であるといえるので、この点は実質的な相違点ではない。 仮にそうでないとしても、引用発明の(A)成分において、前記「第2 2.」の摘示(5)に基づいて、(A1)成分と(A2)成分との配合割合を設定することは、当業者にとって格別困難なことではないし、また、本願発明の効果は、引用文献の記載事項から予測し得る範囲内のものである。 相違点2について検討する。 本願発明1の「成形品」についてみると、上記「第2 1.」の本願明細書の摘示(1)には、本願発明1の「成形品」は、「自動車用ベンチレータ」及び「自動車用エアコン」として好適に用いることができると記載されており、上記「第2 2.」の引用文献の摘示(1)及び(6)には、同様に、引用発明の「自動車内装部品」も、「自動車用ベンチレータ」及び「自動車用エアコン」として好適に用いることができると記載されているから、その実施の態様においてみれば、引用発明の「自動車内装部品」は、本願発明1の「成形品」と重複していて、実質的な差異があるとすることはできない。 また、引用発明の「自動車内装部品」を上位概念化して、「成形品」とすることは、当業者にとって格別困難なことではない。 次に、本願発明1の「軋み音を低減した」ことについては、上記「第2 2.」の引用文献の摘示(2)及び(9)には、引用文献の「自動車内装部品」が「軋み音を大幅に低減させた」ものであることが記載されているから、引用文献の「自動車内装部品」も「軋み音を低減した」ものであるといえる。 したがって、本願発明1は、引用発明、すなわち、引用文献に記載された発明であり、仮にそうでないとしても、引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、仮にそうでないとしても、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項の発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-03-09 |
結審通知日 | 2017-03-14 |
審決日 | 2017-03-28 |
出願番号 | 特願2014-137637(P2014-137637) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松浦 裕介、繁田 えい子 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 原田 隆興 |
発明の名称 | 軋み音を低減した成形品 |
代理人 | 伊丹 健次 |