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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G07D
管理番号 1328423
審判番号 無効2015-800216  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-11-26 
確定日 2017-05-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第4700052号発明「検査機械および検査方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4700052号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4700052号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2007-509002号)は、平成17年 4月15日(パリ条約による優先権主張 2004年 4月22日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その特許権の設定登録は平成23年 3月11日にされたものである。
その後、平成23年10月27日に無効審判(無効2011-800218)が請求され、平成24年 2月 9日に訂正請求がされ、平成26年 1月10日に、訂正を認める、請求項1、3ないし18に係る発明についての特許を無効とする、請求項2に係る発明についての審判請求は成り立たない、旨の審決がなされ、その後、確定した。
本件無効審判は、平成27年11月26日に、請求人(株式会社小森コーポレーション)より請求され、被請求人(カーベーアー-ノタシ ソシエテ アノニム)より平成28年 4月11日付け審判事件答弁書が提出され、請求人より平成28年 6月28日付け口頭審理陳述要領書が提出され、被請求人より平成28年 6月28日付け口頭審理陳述要領書が提出され、平成28年 7月12日に口頭審理が行われ、平成28年 8月 1日付けで審決の予告がされたものである。
なお、審決の予告に対する応答はなかった。



第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項2の記載は、次のとおりである(以下、請求項2に係る発明を、「本件特許発明」という。)。

【請求項1】
有価証券、紙幣、銀行券、パスポート、およびその他の同様書類等印刷されたシート(sheet)形態の印刷物用検査機械であって、
シート供給器(1)を有し、
検査時に印刷されたシートを運ぶための第一検査シリンダ(4)、第一検査シリンダ(4)上に運搬される間に印刷されたシートの画像を撮影するために分析装置に連結された第一照明手段(5)および第一線形カメラ(6)を備えた第一シート検査ユニット、
検査時に印刷されたシートを運ぶための第二検査シリンダ(7)、第二検査シリンダ(7)上に運搬される間に印刷されたシートの画像を撮影するために前記分析装置に連結された第二照明手段(8)および第二線形カメラ(9)を備えた第二シート検査ユニット、
検査時に印刷されたシートを運ぶための第三検査シリンダ(12)、第三検査シリンダ(12)上に運搬される間に印刷されたシートの画像を撮影するために前記分析装置に連結された第三照明手段(13)および第三線形カメラ(14)を備えた第三シート検査ユニット、
印刷されたシートを第一検査ユニットへ連続的に運ぶための入力移送シリンダ(3)、ならびに
印刷されたシートを第三検査ユニットから取り出す出力移送シリンダ(17)を含み、
前記入力移送シリンダ(3)、第一検査シリンダ(4)、第二検査シリンダ(7)、第三検査シリンダ(12)、および前記出力移送シリンダ(17)は、印刷されたシートを前記入力移送シリンダ(3)から第一検査シリンダ(4)、第二検査シリンダ(7)、第三検査シリンダ(12)、および前記出力移送シリンダ(17)へ直接的かつ継続的に運搬するように、相互に対して直接接触する状態で配置され、かつ
第一シート検査ユニット、第二シート検査ユニット、第三シート検査ユニット、前記入力移送シリンダ(3)、および前記出力移送シリンダ(17)は、印刷されたシートの検査が第一シート検査ユニット、第二シート検査ユニット、または第三シート検査ユニットにより完了したときにのみ検査済の印刷されたシートを第一、第二または第三検査シリンダ(4、7、12)から取り出すように構成されている、検査機械。

【請求項2】
前記第一検査シリンダ(4)は透明シリンダであり、前記第一照明手段(5)は前記透明シリンダ内に設置され、かつ前記第一線形カメラ(6)は印刷されたシートを透過して透明陽画で検査するために前記透明シリンダの外側に設置されている、請求項1に記載の検査機械。



第3 当事者の主張
1 請求人の主張概要
請求人は、本件特許発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、無効とすべき理由を次のように主張すると共に、証拠方法として甲第1号証?甲第7号証を提出している。

[理由]
本件特許発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とされるべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2000-85095号公報
甲第2号証:特表2001-509746号公報
甲第3号証:特開平10-337935号公報
甲第4号証:特開2001-101473号公報
甲第5号証:国際公開第03/052394号
甲第6号証:特表2005-513436号公報
甲第7号証:無効2011-800218の審決の写し

2 被請求人の主張概要
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由には理由がない旨主張すると共に、証拠方法として乙第1号証?乙第2号証を提出している。

[証拠方法]
乙第1号証:知財高判平成22年10月28日(平成22年(行ケ)第10064号)
乙第2号証:知財高判平成21年1月28日(平成20年(行ケ)第10096号)



第4 甲各号証に記載された事項
1 甲第1号証
本件特許に係る出願の優先権主張日(以下、「本件優先日」という。)前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2000-85095号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。)

甲1ア:
「【請求項1】 シートを保持し周面へ巻き付けながら搬送する第1検査胴と、該第1検査胴の周面に対向して設けられ同第1検査胴により搬送されるシートを検査する第1検査装置と、前記第1検査胴に対接して設けられ同第1検査胴から受け取った前記シートを周面に巻き付けながら搬送する第2検査胴と、該第2検査胴の周面に対向して設けられ同第2検査胴により搬送されるシートを検査する第2検査装置とを備えた検査部と、
前記検査部により検査されたシートに対して印刷を行う印刷部と、を備えた検査輪転印刷機・・・」(【請求項1】)

甲1イ:
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シートの検査を行いそのシートに番号や印章の印刷を行う検査輪転印刷機に関する。
【0002】
【従来の技術】有価証券等の印刷においては、絵柄を印刷した上へさらに印章や番号を追加して印刷することが行われ、この種の印刷物は、絵柄用の印刷機でシートに絵柄を印刷し、その後検査輪転印刷機にて絵柄印刷の良否を検査して合格したシートに対して印章や番号を印刷するようにして、管理上の混乱や不良品の発生を避けるようにしている。」(段落【0001】?【0002】)

甲1ウ:
「【0016】本実施例は絵柄が印刷されたシートに連続番号と印章を追刷する検査輪転印刷機を例示しており、給紙部1には、絵柄が複数個印刷された多数のシート5を積載する紙積台6が設けられている。そして、紙積台6上のシート5を図示しないサッカ装置で一枚づつ吸引してフィーダボード7上へ送り出し、スイング装置8により渡し胴9を介して検査部2に給紙するようになっている。
【0017】前記検査部2は、シート5を保持し周面へ巻き付けながら搬送する第1検査胴10と、該第1検査胴10の周面に対向して設けられ同第1検査胴10により搬送されるシート5を検査する第1検査装置としての表面検査用カメラ11と、前記第1検査胴10に対接して設けられ同第1検査胴10から受け取った前記シート5を周面に巻き付けながら搬送する第2検査胴12と、該第2検査胴12の周面に対向して設けられ同第2検査胴12により搬送されるシート5を検査する第2検査装置としての裏面検査用カメラ13とを備える。
【0018】前記印刷部3は、前記第2検査胴12に対接して設けられ同第2検査胴12から受け取ったシート5を周面に巻き付けながら搬送する第1圧胴14と、該第1圧胴14により搬送される前記シート5に対して印章を印刷する印章胴15と、・・・を備えている」(段落【0016】?【0018】)

甲1エ:
「【0025】このように構成されるため、給紙部1から検査部2に送られたシート5は、先ず第1検査胴10で表面検査用カメラ11により表面を検査された後、第2検査胴12に受け渡され、ここで裏面検査用カメラ13により裏面を検査される。
【0026】次に、シート5は、第2検査胴12から直接印刷部3の第1圧胴14へ受け渡され、・・・」(段落【0025】?【0026】)

甲1オ:
「【0034】また、前記第1圧胴14と第2圧胴19及び第1検査胴10と第2検査胴12の直径は、前記第1?第4番号胴16、17、20、21の直径の2倍になっているので、シート5が裏面検査用カメラ13で検査される位置を通過し、印章胴15で印刷される位置までの間で印刷の良否が確実に判断され、装置の誤作動が防止される。」(段落【0034】)

また、以下の事項が認定できる。

甲1カ:
甲1エの「表面検査用カメラ11により表面を検査された後、・・・裏面検査用カメラ13により裏面を検査される。」、甲1オの「印章胴15で印刷される位置までの間で印刷の良否が確実に判断され」の各記載によれば、甲1アの「検査輪転印刷機」が、表面検査用カメラ11及び裏面検査用カメラ13による検査に基づき印刷の良否を判断するための判断手段を備えていることは明らかである。

甲1キ:
甲1ウの「本実施例は絵柄が印刷されたシートに連続番号と印章を追刷する検査輪転印刷機を例示しており、給紙部1には、絵柄が複数個印刷された多数のシート5を積載する紙積台6が設けられている。そして、紙積台6上のシート5を図示しないサッカ装置で一枚づつ吸引してフィーダボード7上へ送り出し、スイング装置8により渡し胴9を介して検査部2に給紙するようになっている。」の記載及び図1における渡し胴9及び第1検査胴10の配置からみて、検査輪転印刷機は、給紙部1を有し、シート5を第1検査胴10へ連続的に運ぶための渡し胴9を備えているといえる。

甲1ク:
甲1ウの「第1検査胴10に対接して設けられ同第1検査胴10から受け取った前記シート5を周面に巻き付けながら搬送する第2検査胴12」、「第2検査胴12に対接して設けられ同第2検査胴12から受け取ったシート5を周面に巻き付けながら搬送する第1圧胴14」の各記載及び図1における渡し胴9及び第1検査胴10を含む各胴の配置を参照すれば、渡し胴9、第1検査胴10、第2検査胴12及び第1圧胴14は、相互に対して対接して設けられているものといえる。

以上によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「有価証券等の絵柄が印刷されたシート5の検査輪転印刷機であって、
給紙部1を有し、
前記シート5を搬送する第1検査胴10、該第1検査胴10により搬送される前記シート5を検査する表面検査用カメラ11、前記第1検査胴10に対接して設けられ同第1検査胴10から受け取った前記シート5を搬送する第2検査胴12、該第2検査胴12により搬送される前記シート5を検査する裏面検査用カメラ13、及び表面検査用カメラ11及び裏面検査用カメラ13による検査に基づき印刷の良否を判断するための判断手段、
前記シート5を第1検査胴10へ連続的に運ぶための渡し胴9、ならびに
第2検査胴12から受け取った前記シート5を搬送する第1圧胴14を備え、
前記渡し胴9、第1検査胴10、第2検査胴12、及び第1圧胴14は、相互に対し対接して設けられ、印刷されたシート5は渡し胴9から第1検査胴10に送られ、第2検査胴12に受け渡され、第1圧胴14へ受け渡され、かつ
前記シート5は、第1検査胴10で表面検査用カメラ11により表面を検査された後、第2検査胴12に受け渡される、検査輪転印刷機。」


2 甲第2号証
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特表2001-509746号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。

甲2ア:
「1.ほぼ撮像装置(34、36)とシート(1)を搬送する少なくとも1つのドラム(17、18)とから成る、処理されたシート(1)を質的に評価するための装置であって、前記ドラムが、シート(1)の始端をつかむ第1の保持装置(27)を備えている形式のものにおいて、前記ドラム(17、18)に、シート(1)の終端をつかむ少なくとも1つの第2の保持装置(28)が設けられていて、該保持装置が、シート(1)の検査前に、シート(1)を緊張する運動を実施するように配置されていることを特徴とする、処理されたシートを質的に評価するための装置。」(第2ページ第2?9行)

甲2イ:
「シート処理機械機には、処理されたシート1を質的に評価するための装置が組み込まれている。図示の実施例では装置として、枚葉紙の表面及び裏面を印刷する枚葉紙輪転印刷機が使用される。簡略化の理由から、排紙装置8のパイル4、6、7に枚葉紙1を積置きするまでの印刷ユニット後方の枚葉紙搬送装置のみを図示している。
処理されたシートとは、例えば印刷されたシート、エンボシングされたシート又は別の形式で所定の模様を備えたシートのことである。」(第6ページ第1?7行)

甲2ウ:
「両ドラム17、18のそれぞれには固有の検査装置が配属されている。検査装置はほぼ、照明装置32、33と、撮像装置34、36とから構成されている。実施例では、照明装置32、33として多数のストロボスコープフラッシュ37が設けられていて、このストロボスコープフラッシュ37は、検査すべき枚葉紙を一様に照明するように配置されている。即ち、ストロボスコープフラッシュ37の光流出面の間隔及び角度は、ドラム17、18の周面に対して及び撮像装置34、36の対物レンズに対して適合可能である。
各撮像装置34、36は、少なくとも1つのCCD・エリアカメラ(Flaechenkamera)、有利にはドラム17、18の軸方向で並べて配置された2つのCCD・エリアカメラ34、36から構成されている。検査すべき各枚葉紙のうち、有利には各四分円区分に相応する4つの個々の像が撮影されかつCCD・エリアカメラ34、36の下流側に配置された分析装置において再度重畳されて全体像が形成される。次いでこの全体像は、例えばドイツ国特許公開第4206366号明細書から公知の方法に相応して分析される。4つの個々の像を撮影するために、両CCD・エリアカメラ34、36のそれぞれによって、検査すべき枚葉紙1毎連続する2つの像が撮影される。
単一のCCD・エリアカメラによって枚葉紙の単一の像を撮影することもできる。」(第7ページ第18行?第8ページ第7行)

甲2エ:
「本発明による装置の作用形式は次の通りである。
第1のチェーン搬送装置9のチェーングリッパ装置12は、圧胴(図示せず)から印刷された枚葉紙を受け取る。枚葉紙の表面2及び裏面3の検査は、印刷後初めて、つまり完全に処理した後で初めて行われる、即ち、シート処理機械における排紙前の最後の作業過程として行われる。チェーングリッパ装置12は、枚葉紙1をまず水平方向で、次いで垂直方向で、パイル4、6、7の上方に配置された第2のチェーン搬送装置14に搬送しかつ枚葉紙を第1のドラム17に引き渡す。この場合ドラム17のグリッパ27は、検査すべき枚葉紙の始端をつかむ。ドラム17のほぼ半回転後に、枚葉紙1の終端は吸着部材28の領域に達し、次いでこの吸着部材は吸込み空気で負荷されかつこのようにして枚葉紙1の終端をつかむ。次いで、吸着部材28は、ドラム17の軸方向並びに周方向で運動を実施しかつこのようにして枚葉紙を緊張する。枚葉紙1は、折り目なくドラム17に載着する。実施例では枚葉紙の裏面3はドラム17には面しておらずかつCCD・エリアカメラ34の方向を向いている。ストロボスコープフラッシュ37は、初めに枚葉紙を照明しかつ両CCD・エリアカメラ34は、枚葉紙の先行する半部から並んで位置する2つの個々の像を撮影する。つまり、枚葉紙1は、最初の個々の像を撮影する前に緊張される。枚葉紙の半分の長さに相応してドラム17が回動した後で、枚葉紙の後方の半部から後続の2つの個々の像が撮影される。枚葉紙の全ての個々の像もしくは全体像を撮影した後で始めて、枚葉紙は枚葉紙の表面2を検査するために第2のドラム18に引き渡される。第1のドラム17のグリッパ27は、枚葉紙1の始端を第2のドラム18のグリッパ27に引き渡す。従って、枚葉紙は第2のドラム18によって搬送されかつ第1のドラム17上で外向きに位置する枚葉紙の裏面3は内向きに第2のドラム18の周面31に載着し、これにより今や枚葉紙の表面2は外向きに位置する。第1のドラム17及び第2のドラム18の吸着部材28が引渡し領域(即ち、両ドラム17、18の共通のセンタの領域)に達すると、第1のドラム17の吸着部材28の吸込み空気が遮断されかつ第2のドラム18の吸着部材28が吸込み空気で負荷される。これによって、枚葉紙の終端は第2のドラム18の吸着部材28によってつかまれる。次いで、第2のドラム18の吸着部材28は、第2のドラム18の周方向及び軸方向で移動する。この場合、吸着部材28によって枚葉紙の終端で生ぜしめられる吸込み力は、枚葉紙が緊張されるが、枚葉紙の引裂き強さを越える前に枚葉紙が吸着部材28に沿って滑り始めるように、設定されている。
枚葉紙1が第2のドラム18上で完全に緊張された後で初めて、枚葉紙の表面2の先行する半部の個々の像が撮影される。次いで、枚葉紙の後方半部の2つの個々の像も検出される。この場合にも、枚葉紙の全体像が完全に検出された後で初めて、枚葉紙の始端が第3のチェーン搬送装置19のチェーングリッパ装置21に引き渡される。」(第8ページ第13行?第9ページ下から6行)

以上によれば、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「印刷された枚葉紙1を搬送するドラム17と、ドラム17に載着する枚葉紙1の像を撮影する照明装置32とCCD・エリアカメラ34とから構成される検査装置と、
印刷された枚葉紙1を搬送するドラム18と、ドラム18に載着する枚葉紙1の像を撮影する照明装置33とCCD・エリアカメラ36とから構成される検査装置と、
から成る印刷された枚葉紙1を質的に評価するための装置であって、
ドラム17に載着する枚葉紙1の裏面3の全ての個々の像もしくは全体像を撮影した後で始めて、枚葉紙1は枚葉紙1の表面2を検査するために第2のドラム18に引き渡され、ドラム18に載着する枚葉紙1の全体像が完全に検出された後で初めて、枚葉紙1の始端が第3のチェーン搬送装置19のチェーングリッパ装置21に引き渡される、印刷された枚葉紙1を質的に評価するための装置。」


3 甲第3号証
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平10-337935号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。

甲3ア:
「【請求項1】 赤外領域では白色光下と異なった分光特性を有する赤外線インキを用いて証券印刷製品を印刷することができる印刷機に、印刷され搬送される前記証券印刷製品に対して赤外光を照射する赤外線照射手段と、赤外光が照射された前記証券印刷製品の画像を取り込む画像取込手段とを設けると共に、前記赤外線インキにより正規に印刷された前記証券印刷製品に赤外光を照射して得られた画像を予め基準値として記憶した記憶装置と、前記記憶装置に記憶されている基準値の画像を読み出し、前記画像取込手段により取り込まれた画像と比較し、一定の許容値内から外れるか否かを判断する判定手段とを有することを特徴とする赤外線反射吸収インキを用いた印刷物の検査装置。」(【請求項1】)

甲3イ:
「【0014】また、図4(b)に示すように、銀行券等シート40の印刷方向に対して横方向に密着型ラインセンサユニット又はCCDラインセンサ42を配設して、銀行券等シート40の搬送に伴い、銀行券等シート40の全面を検査できるようにすることもできる。・・・」(段落【0014】)

甲3ウ:
「【0020】
【実施例】本発明の一実施例に係る赤外線印刷物検査装置を図1及び図2に示す。同図に示すように、本実施例は、小型凹版印刷機に複数の密着型ラインセンサ3を配置し、信号処理装置12、パーソナルコンピュータ11と接続して、銀行券等シート14をオンラインで検査できるように構成したものである。即ち、一定速度で回転する圧胴13には、印刷後の銀行券等シート14が密着して搬送されると共にこの銀行券等シート14には小切れ面(以下、検査対象と言う)が横に3列に配列されている。
【0021】この銀行券等シート14の各検査対象の列に対応して、それぞれ、密着型ラインセンサ3が設けられており、各ラインセンサ3はそれぞれ信号処理装置12へ接続している。密着型ラインセンサ3は、前述したように、赤外LEDアレイ、結像光学部品、フォトダイオードアレイ、画像信号制御ICで構成され、検査対象の赤外画像を検出し、時系列に画像の濃淡に比例する信号を出力する。・・・」(段落【0020】?【0021】)

甲3エ:
「【0023】ロータリーエンコーダー1は、時間に関係なく圧胴13が一定角度回転する毎に図6(a)に示すパルスを出力する機器であり、このパルスを利用して、図6(c)?(e)に示すように、各ラインセンサ3のスキャン、A/Dコンバータ9等の動作開始を制御する。図6(b)は基準クロックである。光電スイッチ2は、検査対象が各ラインセンサ3へ進入したときに図6(f)に示す信号を出力する機器であり、その信号により、図6(g)に示すように、画像信号をA/D変換して画像メモリー10に保存する。」(段落【0023】)

甲3オ:
「【0028】・・・・検査の際には、各ラインセンサ3における赤外LEDの光量を設定し、印刷の為に銀行券等シート14を供給し、圧胴13にて搬送中に印刷され、そのまま圧胴に密着して搬送されるときに、印刷済の銀行券等シート14を各ラインセンサ3にて、各検査対象の画像を取り込む。尚、各ラインセンサ13による検出は、圧胴上に限らず、印刷後から排紙されるまでの間における胴上又はチェーングリッパでの搬送中に行なっても良い。」(段落【0028】)

以上によれば、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「検査の際には、各ラインセンサ3における赤外LEDの光量を設定し、印刷の為に銀行券等シート14を供給し、圧胴13にて搬送中に印刷され、そのまま圧胴に密着して搬送されるときに、印刷済の銀行券等シート14をロータリーエンコーダー1で動作開始を制御する各ラインセンサ3にて、各検査対象の画像を取り込む、赤外線印刷物検査装置。」


4 甲第4号証
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開2001-101473号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。

甲4ア:
「【0009】・・・絵柄を有する紙葉類に光を照射して、該紙葉類から得られる透過光と反射光の内、少なくとも反射光を受光して前記紙葉類の絵柄を対象として識別する紙葉類識別装置・・・」(段落【0009】)

甲4イ:
「【0013】図1は、本発明に係る紙葉類(以下、「紙幣」を例とする)識別装置の主要部の構成例をブロック図で示している。図1において、光学センサ部10は、図示しない紙幣搬送路上の所定の位置に、紙葉類1の搬送方向に直行して多数の検出器を配列したもので、LEDアレイ、フォトダイオードアレイなどから成るイメージラインセンサで構成される。光学センサ部10では、紙幣1が搬送されるのに伴い紙幣上を面状に走査し、紙幣上の各位置での反射光や透過光など物理量の分布を検出する。・・・」(段落【0013】)

甲4ウ:
「【0020】図2は、多波長光源を有する透過/反射型ラインセンサ100の構成例を示している。ラインセンサ100は長形状の対向した発光部110及び受発光部120で成っており、被識別媒体としての紙幣は、発光部110及び受発光部120の間の紙幣通路を搬送されるようになっている。・・・」(段落【0020】)

以上によれば、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
「絵柄を有する紙葉類に光を照射して、該紙葉類から得られる透過光と反射光の内、少なくとも反射光を受光して前記紙葉類の絵柄を対象として識別する紙葉類識別装置であって、紙幣は、イメージラインセンサ100の発光部110及び受発光部120の間の紙幣通路を搬送されるようになっている、紙葉類識別装置。」


(5)甲第5号証
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証(国際公開第03/052394号)には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、aウムラウト、oウムラウト、uウムラウト及びエスツェットを、それぞれ「ae」、「oe」、「ue」及び「ss」で代用した。また、()内の訳文は、甲第5号証のパテントファミリーである甲第6号証(特表2005-513436号公報)の記載を援用した。)

甲5ア:
「Die in Fig. 1 dargestellte Vorrichtung besteht im Wesentlichen aus einer transparenten Trommel 01 mit einer Halteeinrichtung 02, z. B. einem Greifer 02 und einer Sensoreinrichtung 03, beispielsweise einer CCD-Kamera 03, die ausserhalb der Trommel 01 einer innerhalb der Trommel 01 angeordneten Beleuchtungseinrichtung 04 gegenueberliegend angeordnet ist.

Zur Kontrolle eines Materials 05, insbesondere zur Kontrolle von mit Wertnoten bedruckten Bogen, wird das Material 05 derart am Greifer 02 fixiert, dass durch rotatorischen Antrieb der Trommel 01 weitergefoerdert werden kann. Dabei umschlingt das Material 05 die Trommel 01 und liegt annaehernd mit seiner gesamten Flaeche auf der transparenten Trommel 01 auf.

Durch Einschalten der Beleuchtungseinrichtung 04 wird die transparente Trommel 01 und das darauf anliegende Material 05 von den Lichtstrahlen durchstrahlt, die anschliessend ins Objektiv der Sensoreinrichtung 03 fallen. Je nach Druckbild auf dem Material 05 aendert sich dabei das von der Sensoreinrichtung 03 detektierte Eingangssignal, so dass durch eine entsprechend geeignete Auswerteeinheit das Druckbild auf dem Material 05 durch Auswertung der Ausgangssignale der Sensoreinrichtung 03 kontrolliert werden kann.

In Fig. 2 ist die Vorrichtung mit der Trommel 01, der Sensoreinrichtung 03, der Beleuchtungseinrichtung 04 und dem zu kontrollierenden Material 05 im Laengsschnitt dargestellt.
(図1に示す装置は、大体において、保持装置02、たとえば把持装置02を備えた透明なドラム01とセンサ装置03、たとえばCCDカメラ03からなり、センサ装置はドラム01の外部に、ドラム01の内部に配置されている照明装置04に対向して配置されている。
材料05を検査するため、特に有価証券が印刷されたシート紙を検査するために、材料05は把持装置02に、ドラム01の回転駆動によって移送して行くことができるように、固定される。材料05はドラム01に巻きつき、ほぼその全面が透明なドラム01上に載置される。
照明装置04をスイッチオンすることによって、透明なドラム01とその上に添接している材料05は光ビームによって透過され、その光ビームは次にセンサ装置03の対物レンズ内へ入射する。それぞれ材料05上の印刷画像に応じて、センサ装置03によって検出される入力信号が変化するので、それに応じて適切な評価ユニットによって材料05上の印刷画像は、センサ装置03の出力信号を評価することにより検査することができる。
図2には、ドラム01、センサ装置03、照明装置04および検査すべき材料05を有する装置が、縦断面で示されている。)」(第3ページ第3?22行)

甲5イ:
「Fig. 3 stellt die Vorrichtung mit der Trommel 01 und der Sensoreinrichtung 03 bei Anordnung an einem Gegendruckzylinder 06 in einer Wertpapierdruckmaschine schematisch dar. Durch entsprechende Ausbildung der Greifer 02 an der Trommel 01 und dem Gegendruckzylinder 06 koennen die in der Druckmaschine bedruckten Wertnoten fortlaufend vom Gegendruckzylinder 06 auf die Trommel 01 uebertragen und dort mittels der Sensoreinrichtung 03 kontrolliert werden.
(図3は、ドラム01とセンサ装置03とを有する装置を、有価証券印刷機内の圧胴06に配置した場合を概略的に示している。ドラム01と圧胴06に把持装置02を適切に形成することによって、印刷機内で印刷された有価証券を連続的に圧胴06からドラム01上へ伝送して、そこでセンサ装置03によって検査することができる。)」(第4ページ下から6行?最下行)

甲5ウ:
「1. Vorrichtung zur Kontrolle von Material (05) mit einer Sensoreinrichtung (03) und einer Beleuchtungseinrichtung (04), wobei das zu kontrollierende Material (05) auf einer transparenten Trommel (01) gefuehrt ist, wobei die Beleuchtungseinrichtung (04) auf einer Seite der Trommel (01 ) und die Sensoreinrichtung (3) auf der anderen Seite der Trommel (01 ) angeordnet ist, wobei das Material ein zu kontrollierendes Druckbild aufweist, dadurch gekennzeichnet, dass die Beleuchtungseinrichtung (04) innerhalb der Peripherie der Trommel (01 ) und die zugehoerige Sensoreinrichtung (03) ausserhalb der Peripherie der Trommel (01 ) angeordnet ist.
(【請求項1】
センサ装置(03)と照明装置(04)を有する、材料(05)を検査する装置であって、検査すべき材料(05)は透明なドラム(01)上で案内され、照明装置(04)はドラム(01)の一方の側に、そしてセンサ装置(03)がドラム(01)の他方の側に配置されており、材料は検査すべき印刷画像を有している、前記材料を検査する装置において、
照明装置(04)が、ドラム(01)の円周の内部に配置されており、付属のセンサ装置(03)がドラム(01)の円周の外部に配置されていることを特徴とする材料を検査する装置。)」(第6ページ第2?9行)

甲5エ:
「6. Vorrichtung nach Anspruch 1 oder 2, dadurch gekennzeichnet, dass die Sensoreinrichtung (03) als CCD-Kamera (3) ausgebildet ist.
(【請求項6】
センサ装置(03)が、CCDカメラ(03)として形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。)」(第7ページ第1?2行)

また、以下の事項が認定できる。

甲5オ:
甲5アの「照明装置04をスイッチオンすることによって、透明なドラム01とその上に添接している材料05は光ビームによって透過され、その光ビームは次にセンサ装置03の対物レンズ内へ入射する。それぞれ材料05上の印刷画像に応じて、センサ装置03によって検出される入力信号が変化するので、それに応じて適切な評価ユニットによって材料05上の印刷画像は、センサ装置03の出力信号を評価することにより検査することができる」の記載によれば、センサ装置03は材料05を透過して透明陽画で検査するものと認められる。

以上によれば、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「ドラム01は透明なドラム01であり、照明装置04は前記透明なドラム01内に設置され、かつCCDカメラ03からなるセンサ装置03は有価証券が印刷されたシート紙を透過して透明陽画で検査するために前記透明なドラム01の外側に設置されている、材料を検査する装置。」



第5 当審の判断
1 対比
本件特許発明と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「有価証券等の絵柄が印刷されたシート5」は、文言の意味、機能又は構造等からみて本件特許発明の「有価証券、紙幣、銀行券、パスポート、およびその他の同様書類等印刷されたシート(sheet)形態の印刷物」に相当し、以下同様に、「給紙部1」は「シート供給器(1)」に、「シート5」は「印刷されたシート」に、「表面検査用カメラ11及び裏面検査用カメラ13による検査に基づき印刷の良否を判断するための判断手段」は「分析装置」に、「渡し胴9」は「入力移送シリンダ(3)」に、それぞれ相当する。

(イ)甲1発明において、「シート5は、第1検査胴10で表面検査用カメラ11により表面を検査され」るのであるから、甲1発明の「検査輪転印刷機」は本件特許発明の「検査機械」に相当し、また、甲1発明の「有価証券等の絵柄が印刷されたシート5の検査輪転印刷機」は、本件特許発明の「有価証券、紙幣、銀行券、パスポート、およびその他の同様書類等印刷されたシート(sheet)形態の印刷物用検査機械」に相当する。

(ウ)甲1発明の「第1検査胴10」と「表面検査用カメラ11」とは一のシート検査ユニットを構成し、同様に、「第2検査胴12」と「裏面検査用カメラ13」とは別のシート検査ユニットを構成しているものといえ、また、甲1発明は、「表面検査用カメラ11及び裏面検査用カメラ13による検査に基づき印刷の良否を判断するための判断手段」を備えていることから、「表面検査用カメラ11及び裏面検査用カメラ13」は「判断手段」に連結されていることは明らかである。
さらに、甲1発明の「第1検査胴10」及び「第2検査胴12」と、本件特許発明の「第一検査シリンダ(4)」、「第二検査シリンダ(7)」及び「第三検査シリンダ(12)」とは、いずれも“検査シリンダ”である点で共通し、甲1発明の「表面検査用カメラ11」及び「裏面検査用カメラ13」と、本件特許発明の「第一線形カメラ(6)」、「第二線形カメラ(9)」及び「第三線形カメラ(14)」とは、いずれも“カメラ”である点で共通している。
よって、甲1発明の
「前記シート5を搬送する第1検査胴10、該第1検査胴10により搬送される前記シート5を検査する表面検査用カメラ11、前記第1検査胴10に対接して設けられ同第1検査胴10から受け取った前記シート5を搬送する第2検査胴12、該第2検査胴12により搬送される前記シート5を検査する裏面検査用カメラ13、表面検査用カメラ11及び裏面検査用カメラ13による検査に基づき印刷の良否を判断するための判断手段」と、
本件特許発明の
「検査時に印刷されたシートを運ぶための第一検査シリンダ(4)、第一検査シリンダ(4)上に運搬される間に印刷されたシートの画像を撮影するために分析装置に連結された第一照明手段(5)および第一線形カメラ(6)を備えた第一シート検査ユニット、
検査時に印刷されたシートを運ぶための第二検査シリンダ(7)、第二検査シリンダ(7)上に運搬される間に印刷されたシートの画像を撮影するために前記分析装置に連結された第二照明手段(8)および第二線形カメラ(9)を備えた第二シート検査ユニット、
検査時に印刷されたシートを運ぶための第三検査シリンダ(12)、第三検査シリンダ(12)上に運搬される間に印刷されたシートの画像を撮影するために前記分析装置に連結された第三照明手段(13)および第三線形カメラ(14)を備えた第三シート検査ユニット」とは、
“検査時に印刷されたシートを運ぶための検査シリンダ、該検査シリンダ上に運搬される間に印刷されたシートの画像を撮影するために分析装置に連結されたカメラを備えたシート検査ユニットを複数組含む”点で共通している。

(エ)甲1発明の「前記シート5を第1検査胴10へ連続的に運ぶための渡し胴9」と本件特許発明の「印刷されたシートを第一検査ユニットへ連続的に運ぶための入力移送シリンダ(3)」とは、“印刷されたシートを最上流のシート検査ユニットへ連続的に運ぶための入力移送シリンダ”の点で共通しており、同様に、甲1発明の「第2検査胴12から受け取った前記シート5を搬送する第1圧胴14」と本件特許発明の「印刷されたシートを第三検査ユニットから取り出す出力移送シリンダ(17)」とは、“印刷されたシートを最下流のシート検査ユニットから取り出す出力移送シリンダ”の点で共通している。
また、甲1発明の「前記渡し胴9、第1検査胴10、第2検査胴12、及び第1圧胴14」の配置について、「相互に対し対接して設けられ」は、“相互に対して直接接触する状態で配置され”ることと技術的に同一の状態と解されるから、甲1発明と本件特許発明とは、各シリンダの配置に関し、“入力移送シリンダ(3)、複数のシート検査ユニットの各検査シリンダおよび出力移送シリンダは、印刷されたシートを前記入力移送シリンダ(3)から各検査シリンダおよび前記出力移送シリンダへ直接的かつ継続的に運搬するように、相互に対して直接接触する状態で配置され”る点で共通し、さらに、甲1発明と本件特許発明とは、“各シート検査ユニット、入力移送シリンダ(3)、および出力移送シリンダは、印刷されたシートの検査が各シート検査ユニットによりされた後に検査済の印刷されたシートを各検査シリンダから取り出すように構成されている”点でも共通している。

以上の(ア)?(エ)によれば、本件特許発明と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
有価証券、紙幣、銀行券、パスポート、およびその他の同様書類等印刷されたシート(sheet)形態の印刷物用検査機械であって、
シート供給器を有し、
検査時に印刷されたシートを運ぶための検査シリンダ、該検査シリンダ上に運搬される間に印刷されたシートの画像を撮影するために分析装置に連結されたカメラを備えたシート検査ユニットを複数組含み、
印刷されたシートを最上流のシート検査ユニットへ連続的に運ぶための入力移送シリンダ、ならびに
印刷されたシートを最下流のシート検査ユニットから取り出す出力移送シリンダを含み、
前記入力移送シリンダ、複数のシート検査ユニットの各検査シリンダおよび前記出力移送シリンダは、印刷されたシートを前記入力移送シリンダから各検査シリンダおよび前記出力移送シリンダへ直接的かつ継続的に運搬するように、相互に対して直接接触する状態で配置され、かつ
各シート検査ユニット、前記入力移送シリンダ、および前記出力移送シリンダは、印刷されたシートの検査が各シート検査ユニットによりされた後に検査済の印刷されたシートを各検査シリンダから取り出すように構成されている、検査機械。

(相違点1-1)
本件特許発明では、複数組のシート検査ユニットの組数が3組であり、各シート検査ユニットが備えるカメラは線形カメラであるのに対し、甲1発明では、複数組のシート検査ユニットの組数が2組であり、各シート検査ユニットが備えるカメラは線形カメラであるのか否か不明である点。

(相違点1-2)
本件特許発明のシート検査ユニットは、照明手段を備えているのに対し、甲1発明のシート検査ユニットは、照明手段を備えているのか否か不明である点。

(相違点1-3)
本件特許発明では、各シート検査ユニット、入力移送シリンダ、および出力移送シリンダは、「印刷されたシートの検査が第一シート検査ユニット、第二シート検査ユニット、または第三シート検査ユニットにより完了したときにのみ検査済の印刷されたシートを第一、第二または第三検査シリンダ(4、7、12)から取り出すように構成されている」のに対し、甲1発明では、各シート検査ユニット、入力移送シリンダ、および出力移送シリンダは、印刷されたシートの検査が各シート検査ユニットによりされた後に検査済の印刷されたシートを各検査シリンダから取り出してはいるものの、印刷されたシートの検査が各シート検査ユニットにより完了したときにのみ検査済の印刷されたシートを各検査シリンダから取り出すように構成されているのか否か不明である点。

(相違点2)
本件特許発明では、第一検査シリンダは透明シリンダであり、第一照明手段は透明シリンダ内に設置され、かつ第一線形カメラは印刷されたシートを透過して透明陽画で検査するために前記透明シリンダの外側に設置されているのに対し、甲1発明はそのような構成を備えていない点。


2 判断
(1)相違点1-1について
ア まず、甲1発明においては、2組のシート検査ユニットが設けられているのに対し、本件発明1においては、3組のシート検査ユニットが設けられている点について検討する。
検査装置において、シート検査ユニットを何組設けるかは、検査目的や検査対象を考慮して、当業者が適宜選択し得る設計事項であるということができるから、甲1発明において、シート検査ユニットの組数を3組とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

イ 次に、線形カメラについて検討する。
甲3発明は、「検査の際には、各ラインセンサ3における赤外LEDの光量を設定し、印刷の為に銀行券等シート14を供給し、圧胴13にて搬送中に印刷され、そのまま圧胴に密着して搬送されるときに、印刷済の銀行券等シート14を各ラインセンサ3にて、各検査対象の画像を取り込む、赤外線印刷物検査装置。」である。ここにおける「ラインセンサ」とは、その機能に照らして、対象物の線状画像を連続的に撮影する「線形カメラ」に相当するものと認められる。
甲4発明は、「絵柄を有する紙葉類に光を照射して、該紙葉類から得られる透過光と反射光の内、少なくとも反射光を受光して前記紙葉類の絵柄を対象として識別する紙葉類識別装置であって、紙幣は、イメージラインセンサ100の発光部110及び受発光部120の間の紙幣通路を搬送されるようになっている、紙葉類識別装置」である。ここにおける「イメージラインセンサ」とは、その機能に照らして、「線形カメラ」に相当するものと認められる。
ここで、検査装置の検査用カメラとしてどのようなカメラを用いるかは、検査目的や検査対象を考慮の上、当業者が適宜に選択し得る設計事項であるから、甲1発明において、検査対象であるシートの画像を撮影するためのカメラとして、甲3発明、甲4発明に用いられている線形カメラを選択することは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、甲1発明において、シート検査ユニットの組数を3組とすると共に、甲1発明において、検査対象であるシートの画像を撮影するためのカメラとして、甲3発明、甲4発明に用いられている線形カメラを選択することに格別困難性があるものとは認められない。

したがって、甲1発明において、シート検査ユニットの組数を3組とすると共に、甲1発明に、甲3発明、甲4発明を適用し、相違点1-1に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。


(2)相違点1-2について
本件特許発明のシート検査ユニットは、照明手段を備えているのに対し、甲1発明のシート検査ユニットは、照明手段を備えているのか否か不明であるが、カメラ等を用いた検査装置において照明手段を備えることは、甲2発明もあるように、光学的検査を行う以上技術常識である。

したがって、甲1発明において技術常識を考慮して、相違点1-2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。


(3)相違点1-3について
甲第1号証の甲1エに「このように構成されるため、給紙部1から検査部2に送られたシート5は、先ず第1検査胴10で表面検査用カメラ11により表面を検査された後、第2検査胴12に受け渡され、ここで裏面検査用カメラ13により裏面を検査される。次に、シート5は、第2検査胴12から直接印刷部3の第1圧胴14へ受け渡され、」との記載があり、当業者としては、第1検査胴から第2検査胴、第2検査胴から第1圧胴へのシートの受渡しは、それぞれの検査胴における検査が完了した後に行われると理解するのが通常であると考えられること、本件明細書には、「印刷されたシートの検査が第一シート検査ユニット、第二シート検査ユニット、または第三シート検査ユニットにより完了したときにのみ検査済の印刷されたシートを第一、第二または第三検査シリンダ(4、7、12)から取り出す」との構成のうち「完了したときにのみ…取り出す」ことに関する具体的な構成については何の記載もないことに照らせば、検査の完了に係る構成に係る上記相違点は、一応の相違点であるにすぎない。
ここで、甲2発明は、「印刷された枚葉紙1を搬送するドラム17と、ドラム17に載着する枚葉紙1の像を撮影する照明装置32とCCD・エリアカメラ34とから構成される検査装置と、印刷された枚葉紙1を搬送するドラム18と、ドラム18に載着する枚葉紙1の像を撮影する照明装置33とCCD・エリアカメラ36とから構成される検査装置と、から成る印刷された枚葉紙1を質的に評価するための装置であって、ドラム17に載着する枚葉紙1の裏面3の全ての個々の像もしくは全体像を撮影した後で始めて、枚葉紙1は枚葉紙1の表面2を検査するために第2のドラム18に引き渡され、ドラム18に載着する枚葉紙1の全体像が完全に検出された後で初めて、枚葉紙1の始端が第3のチェーン搬送装置19のチェーングリッパ装置21に引き渡される」という構成を備えている。ここで、甲2発明が、シートの全体像が撮影された後に初めて後続のドラムや搬送装置にシートを引き渡す構成を採用しているのは、ドラムに載着されたシートの受渡しの精度を高め、ひいてはシートの処理の精度を高めるためと考えられる。
そして、甲1発明と甲2発明とは、いずれも検査シリンダないしドラムにより搬送されるシートを検査用カメラを用いて検査する装置に関する、同一の技術分野に属する発明であり、また、検査シリンダの周面に巻き付けられたシートの処理の精度を高めることは、検査装置における一般的な課題であるだけでなく、検査装置の小型化を図るに伴っても必要となることである。また、シートの受渡しや処理の精度を高めるという課題があれば、ドラムに載着されたシートが緊張した状態にあるかどうかを問わず、当該シートを検査が終了したときにのみ次のドラムに引き渡す構成とすることは可能であり、かかる構成を排除するような記載や示唆は、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも特段見当たらないから、甲1発明において、甲2発明の構成を適用して、各シート検査ユニットにおける検査が完了したときにのみ検査済みのシートを各検査シリンダから取り出すように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、甲1発明に甲2発明を適用し、相違点1-3に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。


(4)相違点2について
甲5発明は、「ドラム01は透明なドラム01であり、照明装置04は前記透明なドラム01内に設置され、かつCCDカメラ03からなるセンサ装置03は有価証券が印刷されたシート紙を透過して透明陽画で検査するために前記透明なドラム01の外側に設置されている、材料を検査する装置」である。甲5発明の「透明なドラム01」は、その機能に照らして、本件特許発明の「透明シリンダ」に相当する。また、甲5発明の「照明装置04」と本件特許発明の「第一照明手段(5)」とは、”照明手段”の点で共通している。
ここで、甲1発明と甲5発明とは、いずれも有価証券等の印刷されたシートを検査する装置という共通の技術分野に属し、かつ、印刷されたシートをシリンダ上において検査するという共通の機能を有するものである。また、甲1発明は「有価証券等」を検査対象とするものであることからみて、透かし模様の検査、すなわち、透明陽画での検査を行うことは、甲1発明に接した当業者であれば容易に着想し得ることである。
そして、甲5発明の「CCDカメラ03からなるセンサ装置03」における「CCDカメラ03」は、線形カメラであるか否か不明であるものの、甲第3号証にも記載(甲3イの「CCDラインセンサ42」)されているように、CCDカメラを線形カメラとして用いることは一般的なことであり、また、上記「(1)相違点1-1」「c.当審の判断」「イ」に示したように、検査装置の検査用カメラとしてどのようなカメラを用いるかは、検査目的や検査対象を考慮の上、当業者が適宜に選択し得る設計事項である。また、上記「(1)相違点1-1」「c.当審の判断」「ア」に示したように、シート検査ユニットの組数を3組とすることは、検査目的や検査対象を考慮して当業者が適宜なし得ることであるところ、各シート検査ユニットをどのような順序で配置するかは、検査項目の順序に応じて適宜決定し得る事項にすぎない。
したがって、甲1発明に甲5発明を適用する際、CCDカメラを線形カメラとすること、及び、透明陽画での検査を第一シート検査ユニットで行うことは、適宜なし得ることであるから、「第一検査シリンダは透明シリンダであり、第一照明手段は透明シリンダ内に設置され、かつ第一線形カメラは印刷されたシートを透過して透明陽画で検査するために前記透明シリンダの外側に設置されている」構成は、甲1発明及び甲5発明に基づいて当業者が容易になし得ることである。

この点について、被請求人は審判事件答弁書の第20ページにおいて、「・・・甲第5号証には、線形カメラは開示されていないため、甲第5号証には、少なくとも、本件特許発明の構成要件Mの「前記第一線形カメラ(6)」との発明特定事項の開示はない。開示があるのは、構成要件Mのうち、カメラが印刷されたシートを透過して透明陽画で検査するために透明シリンダの外側に設置されている点に留まる。」と主張している。
また、審判事件答弁書の第21?22ページにおいて、「・・・甲1発明に線形カメラを採用することは当業者の選択による設計事項にすぎないとの請求人の主張に理由がない・・・」、「・・・甲第5号証に記載された発明が「公知である」からといって、甲第1号証?甲第4号証に適用することが容易に想到できるということにはならず、あくまでもかかる組み合せが容易か否かは、課題の共通性、内容中の示唆があるか否か等の観点から検討する必要があることはいうまでもない。・・・・本件特許発明の各構成は相互に関連しており、全てが組み合わされることで初めて課題が解決できるものであることを考慮の上、進歩性の判断がなされるべきであるところ、本件特許発明の課題及び一連一体の課題解決手段は、甲第1号証及び甲第5号証(さらには、甲第2号証?甲第4号証)には、一切記載されておらず、示唆もないのであるから、当業者においては、甲第1号証に、甲第5号証(さらには、甲第2号証?甲第4号証)に記載された技術的事項を、あえて適用し、相違点にかかる構成とすることはおよそ考え難い。」と主張している。
また、審判事件答弁書の第22ページにおいて、「・・・線形カメラは、一般的には、蛍光ランプやLED等である照明機器と比較して大型であるため、照明機器をシリンダ内側に設置し、線形カメラをシリンダ外側に設置することにより、線形カメラをシリンダ内側に設置し、照明機器をシリンダ外側に設置する場合よりもシリンダ径をより小さくすることが可能となり、さらなるコンパクト形態の検査機械の構築を実現し、本件特許発明の課題を解決するためであり、さらには、線形カメラは、メンテナンスの必要性が照明機器よりも高いところ、線形カメラをシリンダ外側に設置することによりメンテナンスを容易に実施することが可能となり、線形カメラの導入により新たに生じるメンテナンスの問題という課題をも解決するためである。
そして、甲1発明及び甲5発明のカメラは、いずれも線形カメラではなく、上述の本件特許発明の課題について記載も示唆もないため、当業者においては、甲第1号証に、甲第5号証に記載された発明を適用して本件特許発明に至る動機はない。
・・・甲1発明と甲5発明の課題は全く異なるものであるため、当業者においては、甲第1号証に、甲第5号証に記載された発明を適用して本件特許発明に至る動機はない。」と主張している。

しかしながら、上記のとおり、検査装置の検査用カメラとしてどのようなカメラを用いるかは、検査目的や検査対象を考慮の上、当業者が適宜に選択し得る設計事項であり、また、甲1発明と甲5発明とは、共通の技術分野に属し、かつ、共通の機能を有するものあって、甲1発明に接した当業者にとって透明陽画での検査を行うことは容易に着想し得ることであるから、甲1発明に甲5発明を適用することに、格別の困難性があるということはできない。さらに、カメラをシリンダ外側に設置することにより、照明機器をシリンダ外側に設置する場合よりもシリンダ径をより小さくすることが可能となり、メンテナンスを容易に実施することも可能となるという効果は、甲5発明に接した当業者であれば当然に予測し得る程度のものである。
したがって、当該主張は理由がない。

よって、甲1発明に甲5発明を適用し、相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。


(5)まとめ
相違点1-1、相違点1-2、相違点1-3及び相違点2に係る構成を総合しても、本件特許発明の作用効果は、甲1ないし甲5発明により当業者が容易に予測できる程度のものであって、格別なものとまでいうことはできないから、本件特許発明は、甲1ないし甲5発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

この点について、被請求人は審判事件答弁書の第6ページにおいて、「・・・発明の課題及び課題解決手段を考慮せず、ことさら相違点を細かく分けて認定し、かつ、相違点の容易想到性の判断を行うものであって、相違点の認定手法及び相違点の容易想到性の判断手法として、著しく適切を欠くものである。」と主張している。
また、審判事件答弁書の第11?14ページにおいて、「・・・本件特許発明の課題を、
<1>検査用カメラを線形カメラとすること

<2>検査シリンダを3つとすること
<3>印刷されたシートの検査が各検査ユニットにより完了したときにのみ検査済の印刷されたシートをそれぞれの検査シリンダから取り出すこと
<4>第一検査シリンダを透明シリンダとし、第一照明手段を当該透明シリンダ内に設置し、線形カメラを印刷されたシートを透過して透明陽画で検査するために当該透明シリンダの外側に設置すること
との課題解決手段により解決したものである。重要なことは、上述のとおり、これら課題解決手段は相互に関連しており、全てが組み合わされることで初めて課題が解決できるものであるため、課題解決手段は一体の構成として把握されるべきという点である。・・・本件特許発明の課題及び課題解決手段の観点からすれば、上記<1>?<4>の課題解決手段を単なる別個独立の構成として把握した上で、相違点の認定及び進歩性の判断をすることは明らかに失当である。上記課題解決手段にかかる構成を、まとまりのある一つの構成として把握した上で相違点の認定がなされるべきであり、また、進歩性の判断に際しても、各構成は相互に関連しており、全てが組み合わされることで初めて課題が解決できるものであることを考慮の上、判断されるべきである。」(当審注:丸囲み数字は<1>等で代用)と主張している。

しかしながら、上記したとおり、本件特許発明の進歩性の判断は、相違点1-1、相違点1-2、・・・相違点2に係る構成について、形式的に別個独立の構成として把握し、それぞれについての容易想到性について検討した後、さらに、相違点1-1、相違点1-2、・・・相違点2に係る構成を総合しても、本件特許発明の作用効果は、甲1ないし甲5発明により当業者が容易に予測できる程度のものであるとして、本件特許発明の課題解決手段に係る構成を、まとまりのある一つの構成ないしは相互に関連した構成として判断しているのであるから、当該主張は理由がない。



第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項2に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-14 
結審通知日 2016-12-19 
審決日 2017-01-05 
出願番号 特願2007-509002(P2007-509002)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (G07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平田 慎二永安 真  
特許庁審判長 高木彰
特許庁審判官 平瀬知明
田中成彦
登録日 2011-03-11 
登録番号 特許第4700052号(P4700052)
発明の名称 検査機械および検査方法  
代理人 萩尾 保繁  
代理人 篠田 拓也  
代理人 三橋 真二  
代理人 松元 洋  
代理人 青木 篤  
代理人 光石 春平  
代理人 島田 哲郎  
代理人 関口 尚久  
代理人 山口 健司  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 山田 哲三  
代理人 田中 康幸  
代理人 光石 俊郎  

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