• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21C
管理番号 1328486
審判番号 不服2016-318  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-07 
確定日 2017-06-06 
事件の表示 特願2012-537857「進行波核分裂反応炉の操作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月 4日国際公開、WO2011/093841、平成25年 3月21日国内公表、特表2013-510309、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年1月25日、米国、2009年11月6日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年10月28日付け(同年11月4日発送)で拒絶理由が通知され、平成27年2月4日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされたが、同年8月31日付け(同年9月8日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対して、平成28年1月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審より平成28年9月27日付け(同年10月4日発送)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)を通知したところ、同年12月21日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正(以下「補正1」という。)がなされ、当審より平成29年1月24日付け(同年同月31日発送)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)を通知したところ、同年4月7日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正(以下、「補正2」という。)がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成29年4月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリについて、進行波核分裂反応炉の炉心内の第1位置から、進行波核分裂反応炉の炉心内の上記第1位置と異なる第2位置への第1方向の移動を決定することと、
少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリについて、上記第2位置から、上記第1方向と異なる第2方向への移動を決定することと、
進行波核分裂反応炉の核分裂燃料サブアセンブリの主軸に沿った軸方向に垂直な半径方向に沿って伝搬する核分裂進行波の燃焼波面であって、半径方向及び軸方向により規定された初期の形状を有する核分裂進行波の燃焼波面を、上記第1位置に存在する核分裂燃料サブアセンブリと上記第2位置に存在する核分裂燃料サブアセンブリとの入れ替えによって、上記第1位置近傍において上記軸方向に沿って縮小し上記第2位置近傍において上記軸方向に沿って拡大し、上記軸方向において上記燃焼波面の形状を均一に変化させて、核分裂進行波の燃焼波面の形状をベッセル関数に近似することと、を含む、進行波核分裂反応炉の操作方法。」

第3 原査定の拒絶理由について
1 原査定の拒絶理由の概要
(進歩性)この出願の請求項1?8に係る発明は、その最先の優先権主張の日の前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その最先の優先権主張の日の前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.国際公開第2008/097298号
引用文献2.特開平9-292481号公報
引用文献3.特開平11-231089号公報
引用文献4.特開昭56-087891号公報

請求項1?8に係る発明は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。

2 原査定の拒絶理由の判断
(1)請求項1について
ア 引用文献の記載事項及び引用発明
(ア)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものであり、引用した記載の後に、当審で作成した日本語訳を付記する。
「Exemplary embodiments provide automated nuclear fission reactors and methods for their operation. Exemplary embodiments and aspects include, without limitation, re-use of nuclear fission fuel, alternate fuels and fuel geometries, modular fuel cores, fast fluid cooling, variable burn- up, programmable nuclear thermostats, fast flux irradiation, temperature-driven neutron absorption, low coolant temperature cores, refueling, and the like.」(2頁8行?12行)
(例示的実施形態は、自動化された核分裂炉およびその運転方法を提供する。例示的実施形態および態様は、限定するわけではないが、核分裂性燃料(核燃料)の再使用、代替の燃料、および、代替の燃料幾何形状配置、モジュラー燃料核、高速流体冷却、可変的な燃焼度、プログラム可能な核のサーモスタット、高速流束放射、温度で制御される中性子吸収、低冷却材温度炉心、燃料補給などを含む。)

「In some embodiments of the nuclear fission reactor 10, all the nuclear fission fuel ever used in the reactor is installed during manufacture of the nuclear fission reactor core assembly 100, and no spent fuel is ever removed from the nuclear fission reactor core assembly 100, which is never accessed after nuclear fission ignition. However, in some other embodiments of the nuclear fission reactor 10, additional nuclear fission fuel is added to the nuclear fission reactor core assembly 100 after nuclear fission ignition. However, in some other embodiments of the nuclear fission reactor 10, spent fuel is removed from the reactor core assembly (and, in some embodiments, removal of spent fuel from the nuclear fission reactor core assembly 100 may be performed while the nuclear fission reactor 10 is operating at power). Regardless of whether or not spent fuel is removed, pre-expansion of the as-loaded fuel permits higher-density actinides to be replaced with lower-density fission products without any overall volume changes in fuel elements, as the nuclear fission deflagration wave sweeps over any given axial element of actinide 'fuel,' converting it into fission-product 'ash.'」(19頁14行?末行))
(いくつかの実施形態に係る原子炉10では、これまでに原子炉において使用された全ての核燃料は、核分裂炉炉心アセンブリ100の製造中に搭載され、使用済み燃料は核分裂炉炉心アセンブリ100から決して除去されず、核分裂点火後、核分裂炉炉心アセンブリ100は決してアクセスされない。しかし、いくつかの実施形態に係る原子炉10では、核分裂点火後に、さらなる核燃料が核分裂炉炉心アセンブリ100に追加される。しかし、いくつかの実施形態に係る原子炉10では、使用済み燃料が炉心アセンブリから除去される(また、いくつかの実施形態では、核分裂炉炉心アセンブリ100からの使用済み燃料の除去は、原子炉10が出力状態で運転している間に行ってもよい)。核分裂爆燃波が所定の軸方向のアクチニド元素の「燃焼」にわたって通過し、核分裂生成物の「灰」へ変換するように、使用済み燃料が除去されるか否かに関わらず、搭載された直後の燃料の予備拡張は、高濃度アクチニドが燃料元素の全体的な量変化なしに低濃度核分裂生成物へと変換することを可能にする。)

「Thus, the core's neutronics may be considered to be substantially self-regulated. For example, for cylindrical core embodiments, the core's nucleonics may be considered to be substantially self-regulating when the fuel density-radius product of the cylindrical core is ≧200 gm/cm2 (that is, 1-2 mean free paths for neutron-induced fission in a core of typical composition, for a reasonably fast neutron spectrum).」(23頁20行?24行)
(したがって、炉心の中性子は実質的に自己制御されると考えられる。例えば、円柱型炉心の実施形態について、円柱型の炉心の燃料密度半径生成物が≧200gm/cm^(2)であるとき、炉心の中性子は実質的に自己制御するものと考えられる(すなわち、合理的に高速な中性子スペクトルに対して、典型的な組成の炉心における中性子誘発核分裂の平均自由行路が1?2つである)。)

「Referring now to FIGURE 2A, a nuclear fission reactor 200, such as a fast neutron spectrum nuclear fission reactor, includes nuclear fission fuel assemblies 210 disposed therein. The following discussion includes details of exemplary nuclear fission fuel assemblies 210 that may be used in the nuclear fission reactor 200. Other details regarding the nuclear fission reactor 200, including origination and propagation of a nuclear fission deflagration wave burnfront (that is, "burning" the nuclear fission fuel) are similar to those of the nuclear fission reactor 10 (FIGURE 1A), and need not be repeated for sake of brevity.」(27頁6行?12行)
(ここで図2Aによると、高速中性子スペクトル核分裂炉などの核分裂炉200は、そこに配置される複数の核燃料集合体210を有する。以下では、核分裂炉200において使用し得る核燃料集合体210の詳細な例を説明する。核分裂炉200についての、核分裂爆燃波燃焼前線(すなわち、核燃料の「燃焼」)の誘起および伝搬を含む他の詳細は、原子炉10(図1A)と同様であり、簡潔にするために、繰り返す必要はない。)

「The modular nuclear fission fuel core 500 may be operated in any number of ways. For example, all of the fuel assembly receptacles 530 in the modular nuclear fission fuel core 500 may be fully populated with modular nuclear fission fuel assemblies 520 prior to initial operation (e.g., prior to initial origination and propagation of a nuclear fission deflagration propagating wave burnfront within and through the modular nuclear fission fuel assemblies 520).」(30頁25行?31頁3行)
(モジュラー核分裂炉心500は、任意の数の方法で運転してもよい。例えば、モジュラー燃料核500における燃料集合体容器530の全ては、初期運転に先立って(例えば、モジュラー核燃料集合体520の中およびモジュラー核燃料集合体520を経る核分裂爆燃波燃焼前線の初期誘起および伝搬に先立って)、モジュラー核燃料集合体520で満たされてもよい。)

「Referring now to FIGURE 8, in some embodiments a nuclear fission deflagration wave burnfront can be driven into areas of nuclear fission fuel as desired, thereby enabling a variable nuclear fission fuel burn-up. In a propagating burnfront nuclear fission reactor 800, a nuclear fission deflagration wave burnfront 810 is initiated and propagated as described above. Actively controllable neutron modifying structures 830 can direct or move the burnfront 810 in directions indicated by areas 820. In one embodiment, the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers, such as without limitation Li6, BlO, or Gd, into nuclear fission fuel behind the burnfront 810, thereby driving down or lowering neutronic reactivity of fuel that is presently being burned by the burnfront 810 relative to neutronic reactivity of fuel ahead of the burnfront 810, thereby speeding up the propagation rate of the nuclear fission deflagration wave. In another embodiment, the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers into nuclear fission fuel ahead of the burnfront 810, thereby slowing down the propagation of the nuclear fission deflagration wave. In other embodiments the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers into nuclear fission fuel within or to the side of the burnfront 810, thereby changing the effective size of the burnfront 810.」(34頁4行?18行)
(ここで図8によると、いくつかの実施形態では、核分裂爆燃波燃焼前線は、所望のとおり、核燃料の領域へと進行させられ、この進行につれて、可変核燃料燃焼度を可能にする。伝搬燃焼前線核分裂炉800では、核分裂爆燃波燃焼前線810は、上述したように誘起され伝搬される。能動制御可能な中性子修正構造830は、領域820で示される方向に燃焼前線810を導き動かす。一実施形態では、能動制御可能な中性子修正構造830は、限定するわけではないが、Li6、B10,またはGdなどの中性子吸収体を、燃焼前線810の後にある核燃料に挿入する。これによって、燃焼前線810の前における中性子反応度に比較して、燃焼前線810によって燃焼されつつある燃料の中性子反応度を押し下げ低減することができ、核分裂爆燃波の伝搬速度を上昇させることができる。他の実施形態では、能動制御可能な中性子修正構造830は、燃焼前線810の前にある核燃料に中性子吸収体を挿入し、これによって、核分裂爆燃波の伝搬の速度を落とす。他の実施形態では、能動制御可能な中性子修正構造830は、燃焼前線810の範囲内または横側における、核燃料に中性子吸収体を挿入し、これによって、燃焼前線810の有効な大きさを変化させる。)

「Or, in another aspect, controlled positioning of the propagating nuclear fission deflagration wavefront by physically displacing the nuclear fission fuel can simplify or reduce constraints upon other aspects of the nuclear fission reactor, such as the cooling system, neutron shielding, or other aspects of neutron density control.」(45頁10行?13行)
(または、他の態様では、核燃料を物理的に移動することによって伝搬核分裂爆燃波面の位置を制御すると、例えば冷却システム、中性子遮蔽、または中性子密度制御の他の態様など、核分裂炉の他の態様に対する制約を単純化または低減し得る。)

上記記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「核燃料が核分裂炉炉心アセンブリに追加され、または除去される、円柱形炉心の伝搬核分裂爆燃波原子炉の運転方法おいて、
核分裂炉に、複数の核燃料集合体またはモジュラー核燃料集合体が配置され、
核分裂爆燃波燃焼前線は、所望のとおり、核燃料の領域へと進行させられ、この進行につれて、可変核燃料燃焼度を可能とし、
能動制御可能な中性子修正構造は、核分裂爆燃波燃焼前線を導き動かし、その有効な大きさを変化させ、
核燃料を物理的に移動することによって伝搬核分裂爆燃波面の位置を制御する
方法。」

(イ)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の記載がある。
「【0017】本発明によれば、第1運転サイクル終了後に平均濃縮度が最高の第1燃料集合体(高濃縮度燃料集合体)を炉心の前記内側の層から最外層に移動することにより、該最外層に移動された高濃縮度燃料集合体を他の高濃縮度燃料集合体より燃え遅らせることができるので、初装荷炉心の平均濃縮度を高めた場合でも、その取出燃焼度を増大することができる。更に、高濃縮度燃料集合体を最外層に移動するのに伴って、それまで最外層に装荷されていた低濃縮度燃料集合体は炉心の内側の層に移動されることになるので、炉心内部のウラン235の量を低減でき、余剰反応度を抑制することができる。」

(ウ)引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の記載がある。
「【請求項2】 前記監視信号計算装置は、基本モードと高次モード分布として、近似的に均質炉心の中性子束分布にあたるベッセル関数分布を用いて前記フィルタを求めた請求項1記載の原子炉出力監視装置。」

(エ)引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の記載がある。
「炉心1の径方向の中性子束分布φ(γ)は無限円柱状均一炉心の場合
φ(γ)=2.3J_(0)(2.405γ/R)・・・(1)
で示される。なお、J_(0)は第1種ベッセル関数、Rは炉心半径である。」(第2頁右下欄第6行?10行参照。)

イ 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「伝搬核分裂爆燃波原子炉」、「運転方法」は、それぞれ本願発明の「進行波核分裂反応炉」、「操作方法」に相当する。
引用発明の「核燃料集合体またはモジュラー核燃料集合体」は、本願発明の「核分裂燃料サブアセンブリ」に相当する。

引用発明の「核分裂爆燃波燃焼前線」は、面状であることは明らかであるから、本願発明の「核分裂進行波の燃焼波面」に相当する。

引用発明の「核燃料を物理的に移動することによって伝搬核分裂爆燃波面の位置を制御する」ことは、「核分裂炉炉心アセンブリ」の「複数の核燃料集合体またはモジュラー核燃料集合体」を「伝搬核分裂爆燃波面の位置を制御する」ために元の位置から他の位置への移動を決定し、移動させることであるから、本願発明の「少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリについて、進行波核分裂反応炉の炉心内の第1位置から、進行波核分裂反応炉の炉心内の上記第1位置と異なる第2位置への第1方向の移動を決定することと、少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリについて、上記第2位置から、上記第1方向と異なる第2方向への移動を決定すること」に相当する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリについて、進行波核分裂反応炉の炉心内の第1位置から、進行波核分裂反応炉の炉心内の上記第1位置と異なる第2位置への第1方向の移動を決定することと、
少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリについて、上記第2位置から、上記第1方向と異なる第2方向への移動を決定することとを含む、
進行波核分裂反応炉の操作方法。」で一致する。

そして、本願発明と引用発明とは、以下の相違点を有する。
(相違点)本願発明は、「進行波核分裂反応炉の核分裂燃料サブアセンブリの主軸に沿った軸方向に垂直な半径方向に沿って伝搬する核分裂進行波の燃焼波面であって、半径方向及び軸方向により規定された初期の形状を有する核分裂進行波の燃焼波面を、上記第1位置に存在する核分裂燃料サブアセンブリと上記第2位置に存在する核分裂燃料サブアセンブリとの入れ替えによって、上記第1位置近傍において上記軸方向に沿って縮小し上記第2位置近傍において上記軸方向に沿って拡大し、上記軸方向において上記燃焼波面の形状を均一に変化させて、核分裂進行波の燃焼波面の形状をベッセル関数に近似する」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

ウ 判断
相違点について検討する。

引用文献2に記載されているように、燃焼度の高い核燃料は燃焼度の低い核燃料の位置へ移動し、燃焼度の低い核燃料は燃焼度の高い核燃料の位置へ移動することで、各核燃料の燃焼度をそろえるようにすることは、一般の原子炉における周知慣用の技術事項である。
また、引用文献3及び4に記載されているように、一般に円柱形炉心の原子炉において、中性子束分布、出力分布を円柱座標系のベッセル関数で近似することは、周知慣用の技術事項である。
しかしながら、「半径方向及び軸方向により規定された初期の形状を有する核分裂進行波の燃焼波面」を、「上記第1位置近傍において上記軸方向に沿って縮小し上記第2位置近傍において上記軸方向に沿って拡大し、上記軸方向において上記燃焼波面の形状を均一に変化させて、核分裂進行波の燃焼波面の形状をベッセル関数に近似する」ために「上記第1位置に存在する核分裂燃料サブアセンブリと上記第2位置に存在する核分裂燃料サブアセンブリとの入れ替え」ることは、引用文献2?4に記載されておらず、また、周知技術であるともいえない。
したがって、本願発明は、当業者であっても引用発明及び周知慣用の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)請求項2?7について
請求項2?7に係る発明は、本願発明の相違点に係る構成を備えるものであるから、本願発明と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び周知慣用の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)原査定の拒絶理由についてのまとめ
原査定の拒絶理由ついての判断は、上記(2)及び(3)のとおりであるから、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由1の概要
(1)(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ア 請求項1、6、7について
(ア)「上記第1位置は、第1燃焼度を有し」との記載があるが、燃焼度とは、「核燃料単位質量当たりの核分裂エネルギー発生量を表す」パラメータであり、直接的に位置と関連するパラメータではないから、「第1燃焼度を有する第1位置」の意味が不明である。「上記第2位置は、第2燃焼度を有し」についても同様に不明である。

(イ)第1位置から核分裂燃料サブアセンブリを移動させた後、第1位置には、核分裂燃料サブアセンブリが存在しないことになるが、存在しなくても決定された燃焼波面形状に対応するようになるのか不明である。

イ 請求項2、4について
請求項2に記載された第1方向は、外側方向であるので、請求項2が引用する請求項1に記載された「有用な耐用年限の終点に近づいた場合」と「増殖されるべき場合」のどちらの場合も外側方向(内側の位置から外側の位置)に移動することになる。
また、請求項4に記載された第1方向は、内側方向であるので、請求項4が引用する請求項1に記載された「有用な耐用年限の終点に近づいた場合」と「増殖されるべき場合」のどちらの場合も内側方向(外側の位置から内側の位置)に移動することになる。
そして、「有用な耐用年限の終点に近づいた場合」と「増殖されるべき場合」のどちらの場合も、同じ方向に移動させることになるが、このような移動により燃焼波面の形状をどの様なベッセル関数に近似することになるのか不明である。

ウ 請求項3、5について
(ア)請求項3、5に記載された「上記第1位置及び上記第2位置は、上記反応炉の炉心の中央部に対する幾何学的近似・・・の属性に基づく」の意味が不明である。

(イ)請求項3、5に記載された「上記第1位置及び上記第2位置は、・・・第1位置における中性子束が第2位置における中性子束よりも大きくなるような中性子束・・・の属性に基づく」ことと、請求項3、5が間接的に引用する請求項1の「上記第1燃焼度は、上記第2燃焼度よりも低い」とする構成は、一般に中性子束が大きいと燃焼度が高くなることに鑑みると、両立するものなのか不明である。

(ウ)請求項3、5に記載された「上記第1位置及び上記第2位置は、・・・第1位置におけるkeffectiveが第2位置におけるkeffectiveよりも大きくなるような反応度・・・の属性に基づく」ことと、請求項3、5が間接的に引用する請求項1の「上記第1燃焼度は、上記第2燃焼度よりも低い」とする構成は、一般に反応度が大きいと燃焼度が高くなることに鑑みると、両立するものなのか不明である。

(2)(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

ア 請求項1、6、7について
請求項1、6、7には、「上記第1位置は、第1燃焼度を有し、上記第2位置は、第2燃焼度を有し、」と記載されているが、発明の詳細な説明には、「【0115】・・・ 第1燃焼度率を有している第1位置から第2燃焼度率を有している第2位置・・・」と記載されており、「燃焼度」と「燃焼度率」とが相違している。
したがって、請求項1、6、7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

イ 請求項2?5について
請求項2?5は、請求項1を引用するものであるが、発明の詳細な説明には(段落【0213】、【0214】の記載参照。)、請求項2?5に記載された構成と、請求項1に記載された「有用な耐用年限の終点に近づいた場合」と「増殖されるべき場合」の構成との組み合わせについては記載されていない。
なお、組合わせた請求項2?5に係る発明は、矛盾する構成を含む。
したがって、請求項2?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(3)(進歩性)この出願の請求項1?7に係る発明は、その最先の優先権主張の日の前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その最先の優先権主張の日の前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.国際公開第2008/097298号

請求項1?7に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知慣用の技術事項に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

2 当審拒絶理由2の概要
(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び2号に規定する要件を満たしていない。

請求項8が引用する請求項1,6,7には、「初期の形状を有する核分裂進行波」について記載されているのに対し、請求項8には、「核分裂燃料サブアセンブリが、有用な耐用年限の終点に近づいた場合」について記載されており、「初期」と「有用な耐用年限の終点に近づいた場合」とが、時期的に明らかに矛盾する。
よって、請求項8に係る発明は、明確でない。

3 当審拒絶理由の判断
(1)当審拒絶理由1(1)、(2)及び当審拒絶理由2について
補正1により、請求項1、6及び7の
「少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリの移動により、核分裂進行波の燃焼波面の
形状をベッセル関数に近似することと、を含み、
上記第1位置は、第1燃焼度を有し、
上記第2位置は、第2燃焼度を有し、
上記少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリから選択される核分裂燃料サブアセンブリが、有用な耐用年限の終点に近づいた場合、
上記第1燃焼度は、上記第2燃焼度よりも高く、
上記少なくとも1つの核分裂燃料サブアセンブリから選択される核分裂燃料サブアセンブリが、増殖されるべき場合、
上記第1燃焼度は、上記第2燃焼度よりも低い、」との構成が、
「進行波核分裂反応炉の核分裂燃料サブアセンブリの主軸に沿った軸方向に垂直な半径方向に沿って伝搬する核分裂進行波の燃焼波面であって、半径方向及び軸方向により規定された初期の形状を有する核分裂進行波の燃焼波面を、上記第1位置に存在する核分裂燃料サブアセンブリと上記第2位置に存在する核分裂燃料サブアセンブリとの入れ替えによって、上記第1位置近傍において上記軸方向に沿って縮小し上記第2位置近傍において上記軸方向に沿って拡大し、上記軸方向において上記燃焼波面の形状を均一に変化させて、核分裂進行波の燃焼波面の形状をベッセル関数に近似することと、を含む、」と補正された。
また、請求項3及び5の「幾何学的近似」は、「幾何学的近接性」に補正された。
さらに、平成28年12月21日付けで意見書にて、「燃焼度」と「燃焼度率」が実質的に同じ意味であることが釈明された。

これにより、当審拒絶理由1(1)、(2)の拒絶の理由は解消した。

また、補正2により、請求項8が削除された結果、当審拒絶理由2の拒絶の理由は解消した。

(2)当審拒絶理由1(3)について
ア 請求項1について
当審拒絶理由1(3)で引用した引用文献1は、原査定の拒絶理由で引用した引用文献1と同じである。
よって、本願発明と引用文献1に記載された発明(引用発明)との対比及び判断は、上記「第3」「2」「(1)請求項1について」「イ 対比」、「ウ 判断」で説示したとおりであり、本願発明は、当業者であっても引用発明及び周知慣用の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 請求項2?7について
請求項2?7に係る発明は、上記「第3」「2」「(2)請求項2?7について」で説示したとおりであり、当業者であっても引用発明及び周知慣用の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)当審拒絶理由についてのまとめ
当審拒絶理由についての判断は、上記2(1)及び(2)のとおりである。
したがって、当審拒絶理由は解消した。

第5 結論
以上のとおりであり、原査定の拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。また、他に、本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-23 
出願番号 特願2012-537857(P2012-537857)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G21C)
P 1 8・ 537- WY (G21C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 敦司  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森 竜介
森林 克郎
発明の名称 進行波核分裂反応炉の操作方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ