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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1328654
審判番号 不服2016-6346  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-28 
確定日 2017-05-23 
事件の表示 特願2011-257205「圧縮気体のCO2除去方法及びCO2除去装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月10日出願公開、特開2013-111491〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月25日の出願であって、平成27年6月22日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年2月1日付けで拒絶査定がされ、同年4月28日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年4月28日付けの補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年4月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成28年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1、3を、以下に示すように補正することを含むものである。(下線部は補正箇所を示し請求人が付記したものである。)

(本件補正前)
【請求項1】
水分がCO_(2)よりも優先的に吸着される特性の吸着剤が充填された二つの吸着筒のうち一方へ圧縮気体を導いて該圧縮気体のCO_(2)を含む気体成分の一部が吸着除去された気体を吐出させる吸着工程と、該吸着工程によって気体成分が調整された圧縮気体の一部を、前工程で前記気体成分の一部を吸着した他方の吸着筒へ導いて、吸着能力が低下した吸着剤から吸着された前記気体成分を脱着させると共に排気させて該吸着剤を再生させるようにパージをするパージ工程とを並行して行い、これらの吸着工程とパージ工程とを二つの吸着筒の間で実質的に交互に行うことでCO_(2)濃度が低減された製品気体を連続的に吐出させる圧縮気体のCO_(2)除去方法であって、
前記二つの吸着筒内の長手方向の真中部における露点を計測・監視することで、該露点に対して前記吸着剤の吸着特性について相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出し、該算出結果に基づいてCO_(2)の濃度が高い場合にはパージ量を大きくするように前記吸着工程と前記パージ工程の時間的な調整及び/又は前記圧縮気体の処理量に対するパージ工程のパージ率の調整を行うことを特徴とする圧縮気体のCO_(2)除去方法。

【請求項3】
水分がCO_(2)よりも優先的に吸着される特性の吸着剤が充填された二つの吸着筒のうち一方へ圧縮気体を導いて該圧縮気体のCO_(2)を含む気体成分の一部が吸着除去された気体を吐出させる吸着工程と、該吸着工程によって気体成分が調整された圧縮気体の一部を、前工程で前記気体成分の一部を吸着した他方の吸着筒へ導いて、吸着能力が低下した吸着剤から吸着された前記気体成分を脱着させると共に排気させて該吸着剤を再生させるようにパージをするパージ工程とを並行して行い、これらの吸着工程とパージ工程とを二つの吸着筒の間で実質的に交互に行うことでCO_(2)濃度が低減された製品気体を連続的に吐出させる圧縮気体のCO_(2)除去装置であって、
前記二つの吸着筒内の長手方向の真中部における露点を計測・監視するように各吸着筒にサンプリング部が設置された露点計測センサー装置と、該露点計測センサー装置によって計測された露点に対して前記吸着剤の吸着特性について相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出する演算装置と、該演算装置の算出結果に基づいてCO_(2)の濃度が高い場合にはパージ量を大きくするように前記吸着工程と前記パージ工程の時間的な調整及び/又は前記圧縮気体の処理量に対するパージ率の調整を行うように気体を導く通気路の一又は複数の開閉手段と、該開閉手段の開閉に関する制御を行う制御装置とを具備することを特徴とする圧縮気体のCO_(2)除去装置。

(本件補正後)
【請求項1】
水分がCO_(2)よりも優先的に吸着される特性の吸着剤が充填された二つの吸着筒のうち一方へ圧縮気体を導いて該圧縮気体のCO_(2)を含む気体成分の一部が吸着除去された気体を吐出させる吸着工程と、該吸着工程によって気体成分が調整された圧縮気体の一部を、前工程で前記気体成分の一部を吸着した他方の吸着筒へ導いて、吸着能力が低下した吸着剤から吸着された前記気体成分を脱着させると共に排気させて該吸着剤を再生させるようにパージをするパージ工程とを並行して行い、これらの吸着工程とパージ工程とを二つの吸着筒の間で実質的に交互に行うことでCO_(2)濃度が低減された製品気体を連続的に吐出させる圧縮気体のCO_(2)除去方法であって、
前記二つの吸着筒内の長手方向の真中部における露点を計測・監視することで、該露点に対し、前記吸着剤の吸着特性において該露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなるという相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出し、該算出結果に基づいてCO_(2)の濃度が高い場合にはパージ量を大きくするように前記吸着工程と前記パージ工程の時間的な調整及び/又は前記圧縮気体の処理量に対するパージ工程のパージ率の調整を行うことを特徴とする圧縮気体のCO_(2)除去方法。

【請求項3】
水分がCO_(2)よりも優先的に吸着される特性の吸着剤が充填された二つの吸着筒のうち一方へ圧縮気体を導いて該圧縮気体のCO_(2)を含む気体成分の一部が吸着除去された気体を吐出させる吸着工程と、該吸着工程によって気体成分が調整された圧縮気体の一部を、前工程で前記気体成分の一部を吸着した他方の吸着筒へ導いて、吸着能力が低下した吸着剤から吸着された前記気体成分を脱着させると共に排気させて該吸着剤を再生させるようにパージをするパージ工程とを並行して行い、これらの吸着工程とパージ工程とを二つの吸着筒の間で実質的に交互に行うことでCO_(2)濃度が低減された製品気体を連続的に吐出させる圧縮気体のCO_(2)除去装置であって、
前記二つの吸着筒内の長手方向の真中部における露点を計測・監視するように各吸着筒にサンプリング部が設置された露点計測センサー装置と、該露点計測センサー装置によって計測された露点に対し、前記吸着剤の吸着特性において該露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなるという相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出する演算装置と、該演算装置の算出結果に基づいてCO_(2)の濃度が高い場合にはパージ量を大きくするように前記吸着工程と前記パージ工程の時間的な調整及び/又は前記圧縮気体の処理量に対するパージ率の調整を行うように気体を導く通気路の一又は複数の開閉手段と、該開閉手段の開閉に関する制御を行う制御装置とを具備することを特徴とする圧縮気体のCO_(2)除去装置。

2.新規事項について
(1)新規事項の判断の基準について
補正事項が新規事項か否かの判断は、当該補正事項が「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより判断され、補正事項が「当初明細書等の記載から自明な事項」である場合には、当初明細書等に明示的な記載がなくても、その補正は新たな技術的事項を導入するものではないから新規事項を追加するものではない。
そして、補正事項が「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには、当初明細書等の記載に接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、補正事項が当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない。

(2)本件補正についての検討
(2-1)当初明細書等における記載の有無
そこで、本件補正について検討する。
i)本件補正の補正事項は、上記のように、補正前の請求項1及び3の「露点に対して相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出」することを、補正後の請求項1及び3の「露点に対し、前記吸着剤の吸着特性において該露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなるという相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出」することとするものである。
ii)まず、本件補正の補正事項と、当初明細書等に記載された発明(以下、「本件発明」という。)の解決すべき課題との関連についてみてみる。
当初明細書【0006】には「圧縮気体のCO_(2)除去方法及びCO_(2)除去装置に関して解決しようとする問題点は、従来は、CO_(2)除去装置を効率的に運転すべく制御するためのCO_(2)濃度の計測を、安価な装置構成で且つ適切に行うことができる方法及び装置構成が提案されていないことにある。そこで本発明の目的は、CO_(2)濃度の計測・監視を安価な装置構成で且つ適切に行うことで、目的に応じたCO_(2)除去の運転ができるように制御でき、小さな初期コストによってランニングコストを大幅に低減できる圧縮気体のCO_(2)除去方法及びCO_(2)除去装置を提供することにある。少ないエネルギーで効率よく原料水を蒸溜させ得る蒸留装置を得ることにあるといえる。」と記載されている。
よって、本件発明の解決すべき課題は、「CO_(2)濃度の計測を、安価な装置構成で且つ適切に行うことができる方法及び装置構成」を得て、「小さな初期コストによってランニングコストを大幅に低減できる圧縮気体のCO_(2)除去方法及びCO_(2)除去装置」を提供することにある。
iii)そのために、本件発明は、同【0022】に「露点計測センサー装置70によれば、露点を計測・検出することで、その露点に対して相関関係にあるCO_(2)の濃度を好適に検出するできる(原文ママ)ことになる。そして、これによれば、CO_(2)の濃度を計測するセンサー装置による場合に比較して大幅に安価に構成でき、製造コストを低減できる。」、【0023】に「81は演算装置であり、露点計測センサー装置70によって計測された露点のデータが入力されるように露点計測センサー装置70に接続され、その露点に対して相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出する」、同【0025】に「このように、露点のみを計測・監視することで、CO_(2)濃度を監視できることは、特定の吸着剤の吸着特性について、露点とCO_(2)濃度が、ある一定の安定的な相関関係にあることを見出したことによる。」と記載されるように、「露点を計測・検出」し、その「露点に対して相関関係にあるCO_(2)の濃度」を「演算装置」で「算出」することを課題解決手段とするものといえる。
iv)すると、本件補正の補正事項は、特定の吸着剤の吸着特性に関する当該相関関係について「露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなる」ことを特定するものであるから、本件発明における課題解決に寄与する重要な技術的意義を有する事項であるといえる。
v)しかしながら、同【0025】等に露点とCO_(2)濃度とは相関関係にある旨が示されているのみで、当該相関関係がいかなるものであるかについては当初明細書等に記載も示唆も見いだせない。
よって、「露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなる」という相関関係の内容を明示する本件補正の補正事項は、課題解決に寄与する重要な技術的意義を有する事項であるにもかかわらず、当初明細書等に記載された事項ではない。

(2-2)当初明細書等の記載からの自明性
本件補正の補正事項は、当初明細書等に記載された事項ではないから、次に、「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるかについてみてみる。
(a)審判請求人の主張
審判請求人は審判請求書4-5頁で、概ね以下のように主張する。
H_(2)Oが共存しない場合(低露点時)は、CO_(2)が他成分(O_(2)、N_(2))より優先して吸着され、吸着塔内で十分に除去された状態となる。
つまり、低露点=CO_(2)が低濃度となる。・・・(a)
また、H_(2)Oが共存し、H_(2)Oが吸着塔内で十分に除去できない場合(中露点時)は、CO_(2)も十分に除去されない状態となる。
つまり、中露点=CO_(2)が中濃度となる。・・・(b)
さらに、H_(2)Oが共存し、H_(2)Oが吸着塔内で全く除去できない場合(高露点時)は、CO_(2)も全く除去されない状態となる。
つまり、高露点=CO_(2)が高濃度となる。・・・(c)
このように、本願発明における相関関係とは、上記(a)(b)(c)のような傾向のことであり、露点が計測されることによって、相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出することができる。
従って、本願において、露点とCO_(2)濃度との相関関係は、実質的に記載されており、本件補正の補正事項は、「当初明細書等の記載から自明な事項」といえる。

(b)当審の判断
上記(a)において、請求人は、上記「露点とCO_(2)濃度」との関係について、概ね、「露点とCO_(2)濃度」との間には、露点が増加すればCO_(2)濃度も増加するという相関関係があり、それは技術常識といえるから、当初明細書等に「実質的に記載されている」(審判請求書5頁)旨を主張していると解される。
i)しかしながら、そもそも上記(a)で請求人の主張する相関関係は当初明細書等に記載も示唆もない。
そして、出願人の主張するような「露点が増加すればCO_(2)濃度も増加する」という相関関係を実現する吸着剤や吸着条件が具体的に当初明細書等に示されているものでもない。
ii)また、吸着塔内で吸着剤がどのようにH_(2)O、CO_(2)を吸着していくかという作用機序については、同吸着が、複雑な要因(非平衡性又は平衡性、吸着塔内の例えば吸着の進行に応じて生じる温度分布、二酸化炭素の吸着点に対する水分の作用、吸着剤に応じた水分と二酸化炭素間の吸着性の差、吸着塔の長さ方向にそった水分と二酸化炭素のそれぞれの分圧の分布プロフィールと吸着剤の吸着された部分とまだされていない部分のプロフィール等)に依存すると考えられる系であることから、一律に明示できるものではなく、露点の変化の傾向と二酸化炭素濃度の変化の傾向とは、必ずしも同じものとなるとは解されない。
よって、技術常識を踏まえると、現象としても、「露点とCO_(2)濃度」との間に、「露点が増加すればCO_(2)濃度も増加する」という相関関係があるとは認められない。
iii)さらに、請求人は、上記相関関係は技術常識といえるから、当初明細書等に記載されているに等しい旨主張するが、上記相関関係について示す技術文献等を揚げてその根拠を示すものでもない。
他方で、拒絶理由通知の先行技術文献に記載された以下の文献1には、加湿ガス流に含まれる個々のガス成分の濃度を算出するには、加湿ガス流の露点の計測、加湿ガス圧力の計測、加湿ガスを構成する個々のガス成分を検知同定すること等の諸条件を必要とすることが示され、また、上記諸条件が満たされることを必須とした上で、文献1の【0030】に示される各式からして、各ガス成分濃度(Ca?Cd[%])は、「水蒸気分圧[kPa]」(【0026】)を示す「Px」が増加すれば減少するものであり、「露点」は、「水蒸気分圧」に対応するものであるから、ガス成分としてCO_(2)が含まれていれば、露点が増加すればCO_(2)濃度は減少するものであることも示されているといえる。
すなわち、文献1の記載からして、露点を用いてCO_(2)濃度を求める場合には、露点以外に、前記諸条件が必要であり、それらの条件が満たされても、露点が増加すればCO_(2)濃度は減少するものであることは、本願出願時の技術常識として知られていたものといえる。
iv)すると、本願出願時の技術常識からして、「露点」のみからガス圧力やガス組成等の計測をしないで「CO_(2)濃度を算出」でき、「露点が増加すればCO_(2)濃度も増加する」という相関関係があるとはいえないにもかかわらず、それらの関係を特定事項とする本件発明は、本願出願時の技術常識を超えるものといえ、本件補正の補正事項は技術常識であるとはいえない。
また、このことは、拒絶理由通知に記載された先行技術文献(以下の文献2-文献5)にも、「露点」のみから「CO_(2)濃度を算出」でき、「露点が増加すればCO_(2)濃度も増加する」旨の開示は見いだせないことからも裏付けられるものといえる。

○文献1:特開2010-85245号公報
上記のとおり。
○文献2:特開2001-4573号公報
気体の温度と湿度を計測して露点を算出することが示されている。
○文献3:特開2008-281376号公報
気体の温度と湿度を計測して露点を算出することが示されている。
○文献4:特開昭55-159828号公報
水分を吸着する吸着剤充填塔からの出口ガスの露点を検出し、設定以上の露点が検出された場合には、吸着剤充填塔を他のものに切り換えることが示されている。
○文献5:特開平4-265112号公報
PSAガス分離法において、水分を吸着させる吸着剤充填塔からの出口ガスの露点を検出し、設定値との差から、パージ量を調整する。

(c)さらに請求人は審判請求書5-7頁で概ね次のように主張していると解される。
i)[CO_(2)濃度の算出方法について]
「パージ量を二段階に調整できる」(当初明細書【0029】)程度に、露点からCO_(2)濃度が算出されればよいのだから、「CO_(2)濃度の算出」は、露点と露点から算出されるCO_(2)濃度について「吸着剤の種類ごとに実験的に見出される一定の安定的な相関関係を基準にして、周知の方法を用いて算出できる」(審判請求書5頁)ものだから、本件補正の補正事項は当初明細書等に記載されていたに等しく新規事項を含まない。
ii)[具体的な事例による本願発明が実施可能であることの説明]
通常の空気を原料ガスとしてCO_(2)を除去する場合には、「連続的に運転される状況下」でも、吸着剤に大きな負荷は掛からず、「飽和状態になるほど、大量のH_(2)OやCO_(2)を吸着して保持する」ようになるものでない。
このことは、大きな負荷が掛かる前に吸着塔を交代することで「パージによる再生の効率を維持するためにも」明らかである。
そのような条件下では、「指摘されている吸着の非平衡性や温度分布などの様々な要因があるため、その精度が高くない場合がある」(審判請求書5頁)としても、「吸着剤の吸着能力との関係で、自ずと、一定の相関関係が生じることになる。そして、この相関関係とは、基本的に、露点が高いときにはCO_(2)濃度が高くなり、露点が低いときにはCO_(2)濃度が低くなるという関係」であり、当該関係に基づき「吸着筒内の長手方向の真中部の露点を計測・監視すること」で、計測された「露点」のみから「CO_(2)濃度を適切に算出でき、それに基づいてパージ量を適切に調整できる」のだから、本件補正の補正事項は当初明細書等に記載されていたに等しく新規事項を含まない。

(d)上記主張について検討する。
i)について
当該i)の主張は、「露点が増加すればCO_(2)濃度も増加する」という相関関係を前提とするものであるところ、当初明細書等には、当該相関関係について、また、「吸着剤の種類ごとに実験的に見出される一定の安定的な相関関係」について、さらに、露点からCO_(2)濃度を算出するための「周知の方法」についても、いずれの記載も示唆も無く、また、それらは技術常識とも解されないのだから、当該主張は、新規事項の判断にあたり参酌できない。
ii)について
当該ii)の主張は、本件発明が通常の空気を原料ガスとしてCO_(2)を除去する場合を想定し、吸着剤が飽和状態になるほどの状態で使用しないものであるとしても、上記i)の主張を前提とするものであり、これについては上記のとおりであるので、当該ii)の主張は、新規事項の判断にあたり参酌できない。

(2-3)結言
以上から、本件補正の補正事項である「吸着剤の吸着特性において該露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなるという相関関係」は、本件発明の課題解決に寄与する重要な技術的意義を有する事項であるにもかかわらず、当初明細書等に記載も示唆もなく、当該相関関係が技術常識であるともいえない。
そして、仮に当該相関関係が技術的に事実であることを請求人が本願出願以前に認識していたとしても、かかる技術常識とはいえない事実について当業者は本願明細書の記載から理解できるものではなく、当該事実を本願出願後に課題解決に寄与する重要な技術的意義を有する事項として付加することは、出願後に、発明を変更するか、完成させることに他ならず、新規事項と判断され許されない。
よって、本件補正の補正事項は、当初明細書等に記載された事項であるとも、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえず、新たな技術的事項を導入するものであり、新規事項であると認める。

(3)新規事項についての結言
以上から、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.補正発明の独立特許要件について
上記のように本件補正は却下すべきものであるが、以下、予備的に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものと仮定した場合に、本件補正後の請求項1又は3に記載されている事項により特定される発明(以下、単に「補正発明」という。上記「1.(本件補正後)」を参照。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかを、実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について検討する。

(1)「露点に対し、前記吸着剤の吸着特性において該露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなるという相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出」するという補正発明の特定事項について

上記特定事項の、「露点」のみから「CO_(2)の濃度を算出」するという点に着目して以下に検討する。

i)願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面及び平成28年4月28日付け手続補正書の記載(以下、「補正明細書等」という。)の【0025】には、「また、露点センサーのみで、露点とCO_(2)の濃度の両方を測定・監視することができ、装置の複雑化を防止して初期コストを低減できる。このように、露点のみを計測・監視することで、CO_(2)濃度を監視できることは、特定の吸着剤の吸着特性について、露点とCO_(2)濃度が、ある一定の安定的な相関関係にあることを見出したことによる。」と記載されるから、上記特定事項において、ガス圧力の測定、ガス組成等の計測同定等をせずに、「露点」のみが計測されるものといえる。
ii)ここで、補正発明は、「露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなるという相関関係」を有するから、露点A(計測値)のときCO_(2)の濃度A(推測値)、露点B(計測値)のときCO_(2)の濃度B(推測値)とすれば、
「露点A>露点B」であれば「CO_(2)の濃度A>CO_(2)の濃度B」となり、露点の測定だけで、それぞれの露点に於けるCO_(2)の濃度の大小関係は判別できることとなる。
しかし、露点のみから、例えば上記CO_(2)の濃度A、CO_(2)の濃度B自体を算出できることは、補正明細書等には記載も示唆も見いだせない。
iii)請求人は、「露点とCO_(2)濃度との相関関係に基づいてCO_(2)濃度を算出することで、パージ率を調整することは、一つの基準判断のみによって調整する方法であるとしても、十分に有効な方法になっている。」(請求書5頁)、「CO_(2)濃度の算出方法は、特別な演算を要する高いレベルを要求されるものではなく、吸着剤の種類ごとに実験的に見出される一定の安定的な相関関係を基準にして、周知の方法を用いて算出できるものである。従って、当業者であれば、周知の技術を用いて容易に実施できるものである。」(請求書5-6頁)と主張する。
iv)しかし、露点を用いてCO_(2)濃度を求める場合には、露点以外の諸条件が必要であり、それらの条件が満たされても、露点が増加すればCO_(2)濃度は減少するものであることは、上記「第2 2.(2-2)(b)iii)」でみた文献1の記載のように技術常識として知られている。
それにもかかわらず、補正発明は、例えば吸着中(加圧中)の「吸着塔A」又は「吸着塔B」の圧力の検出も行わず、また、ガス組成等の計測同定も行うことなく、露点の測定のみからCO_(2)濃度を算出できるものであり、そして、これは「露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなる」という上記技術常識と相反する相関関係を前提にするものである。
すると、当該「算出」の手法は、本願出願時の技術常識であるものとはいえず、補正明細書等において、露点のみからCO_(2)の濃度を求める手順が説明されていてしかるべきところ、そのような説明は記載も示唆も無く、「露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなる」という相関関係を前提として「周知の方法を用いて算出できる」という説明があるのみであると言わざるを得ない。
よって、「露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなるという相関関係」があることからは、計測された露点間のCO_(2)の濃度の大小関係が判明するだけで、しかも、かかる関係は技術常識と相反するものであるから、そのような相関関係に基いて、個々の露点に於けるそれぞれのCO_(2)の濃度自体を算出することはできないといえる。
v)それゆえ、補正明細書等の記載からは、本願出願時の技術常識を加味しても、当業者が「露点」のみから「CO_(2)の濃度を算出」することはできないといえる。

(2)請求人が審判請求書6頁で主張する点について
請求人は審判請求書6頁で、上記「第2 2.(2)(2-2)(c)ii)」で述べたことを基に、補正発明は実施可能である旨を主張していると解されるので検討する。
補正発明が通常の空気を原料ガスとしてCO_(2)を除去する場合を想定し、吸着剤が飽和状態になるほどの状態で使用しないものであるとしても、計測された露点のみからCO_(2)濃度がどのように算出されるかは、補正明細書等に記載も示唆も無く技術常識とも解されないから、補正発明は実施可能な構成になっているものとは認められない。
なお、請求人は補正発明は「実際に実施されている」(審判請求書5頁)と主張するが、仮に露点のみを計測することによりCO_(2)濃度の算出が実施されていたとしても、請求人が実施できるということと、補正明細書等の記載から請求人以外の当業者が補正発明を実施できるということは異なるものであり、請求人が補正発明は実施されていると主張しても、それだけで客観的に補正発明が実施できることにはならない。

(3)補正発明の実施可能要件についての結言
そうだとすると、補正発明の「露点が高くなるほどCO_(2)の濃度が高くなる」という相関関係は、本願出願時の技術常識であったものとはいえず、また、当該相関関係からは、計測された露点間のCO_(2)の濃度の大小関係が判明するのみである。
そして、上記技術常識(文献1)によれば、露点からCO_(2)濃度を算出するためには、露点以外の諸条件も必要であるところ、補正発明は露点のみを計測するものだから、どのようにしてCO_(2)の濃度を算出するのかについて、補正明細書等に示されているとはいえない。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4.補正の却下の決定のむすび
本件補正は、上記「2.」に示すとおり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、本件補正が、同法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものとしても、上記「3.」に示すとおり、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、その請求項1ないし7に係る発明は、平成27年9月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1.(本件補正前)」に示したとおりの以下のものである。

「【請求項1】
水分がCO_(2)よりも優先的に吸着される特性の吸着剤が充填された二つの吸着筒のうち一方へ圧縮気体を導いて該圧縮気体のCO_(2)を含む気体成分の一部が吸着除去された気体を吐出させる吸着工程と、該吸着工程によって気体成分が調整された圧縮気体の一部を、前工程で前記気体成分の一部を吸着した他方の吸着筒へ導いて、吸着能力が低下した吸着剤から吸着された前記気体成分を脱着させると共に排気させて該吸着剤を再生させるようにパージをするパージ工程とを並行して行い、これらの吸着工程とパージ工程とを二つの吸着筒の間で実質的に交互に行うことでCO_(2)濃度が低減された製品気体を連続的に吐出させる圧縮気体のCO_(2)除去方法であって、
前記二つの吸着筒内の長手方向の真中部における露点を計測・監視することで、該露点に対して前記吸着剤の吸着特性について相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出し、該算出結果に基づいてCO_(2)の濃度が高い場合にはパージ量を大きくするように前記吸着工程と前記パージ工程の時間的な調整及び/又は前記圧縮気体の処理量に対するパージ工程のパージ率の調整を行うことを特徴とする圧縮気体のCO_(2)除去方法。」(下線部は強調のために当審で付記した。)

2.原査定の拒絶の理由
原査定は、「この出願については、平成27年 6月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
理由1は、「(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」とするものである。

3.当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願は、拒絶すべきものと判断する。
その理由は以下のとおりである。

(1)本願発明は、「露点を計測・監視することで、該露点に対して前記吸着剤の吸着特性について相関関係にあるCO_(2)の濃度を算出」するという特定事項を有するものである。
i)上記特定事項からは、計測した「露点」から、「露点」と「CO_(2)の濃度」との間にある「吸着剤の吸着特性」についての「相関関係」に基づき、「CO_(2)の濃度」を算出するものといえるが、当該「相関関係」については、本願発明の特定事項からはどのようなものかは不明であり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面及び平成27年9月3日付け手続補正書(以下、「本願明細書等」という。)をみても、記載も示唆も見いだせない。
ii)この点で、請求人は、意見書及び審判請求書において、上記「第2 2.(2-2)(a)(b)」でみたのと同様に、概ね、露点とCO_(2)濃度との間には、「露点が増加すればCO_(2)濃度も増加する」という相関関係があり、それは、本願明細書等に実質的に記載されており、当該相関関係に基づけば、本願発明は実施可能である旨を主張する。
iii)しかしながら、上記の同「(b)i)」でみたように、そもそも請求人の主張する上記相関関係は、本願明細書等に記載も示唆もなく、同じく同「(b)ii)」でみたように、技術常識を踏まえると、現象としても、露点とCO_(2)濃度との間に、上記相関関係があるとは認められない。
さらに、同「(b)iii)iv)」で検討したように、上記相関関係は、本願出願時の技術常識に相反するものといえ、それは技術常識であるとはいえない。
iv)そうすると、本願発明における「露点」と「CO_(2)の濃度」との間にある「吸着剤の吸着特性」についての「相関関係」はどのようなものであるのかは、本願明細書等の記載及び技術常識に照らしても明らかではない。 それゆえ、本願発明は、「露点」と「CO_(2)の濃度」との間にある「吸着剤の吸着特性」についての「相関関係」に基いて「CO_(2)の濃度」を算出することができないものであるから、本願明細書の記載から当業者がその実施をすることができない。

(2)また、請求人は審判請求書5-7頁で、上記「第2 2.(2)(2-2)(c)i)ii)」で述べたことを基に、本願発明は実施可能である旨を主張していると解されるので検討する。
i)について
上記同「(d)i)について」でみたように、i)の主張は、「露点が増加すればCO_(2)濃度も増加する」という相関関係を前提とするものであるところ、当該相関関係は本願明細書等に記載も示唆もなく、技術常識ともいえない。
よって、「パージ量を二段階に調整できる」程度に露点からCO_(2)濃度が算出されればよいものとしても、どのようにしたら露点のみからCO_(2)濃度が算出されるのか、当業者には理解できないから、本願発明は実施できるものではない。
ii)について
上記同「(d)ii)について」、「第2 3.(2)」でみたように、本願発明が、通常の空気を原料ガスとしてCO_(2)を除去する場合を想定し、吸着剤が飽和状態になるほどの状態で使用しないものであるとしても、上記i)のとおりであるので、どのようにしたら露点のみからCO_(2)濃度が算出されるのか、当業者には理解できないから、本願発明は実施できるものではない。
なお、請求人が本願発明は「実際に実施されている」(審判請求書5頁)と主張する点については、上記「第2 3.(2)」のなお書きで述べたとおりである。

4.むすび
以上から、本願明細書等の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-15 
結審通知日 2017-03-21 
審決日 2017-04-03 
出願番号 特願2011-257205(P2011-257205)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B01D)
P 1 8・ 536- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 和輝  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
萩原 周治
発明の名称 圧縮気体のCO2除去方法及びCO2除去装置  
代理人 小林 庸悟  

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