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審決分類 審判 査定不服 1号課題同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1328838
審判番号 不服2015-17001  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-15 
確定日 2017-06-05 
事件の表示 特願2013-543264号「心不整脈をアブレーションするためのカテーテル・システム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月14日国際公開、WO2012/078612、平成26年 2月27日国内公表、特表2014-504909号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成23(2011)年12月6日(パリ条約による優先権主張 2010年12月7日 米国、2011年5月12日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 7月30日 :翻訳文提出
平成26年 6月25日付け:拒絶理由の通知
同年12月 8日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年 5月13日付け:拒絶査定
同年 9月15日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成28年 7月13日付け:平成27年9月15日の手続補正についての補正却下の決定、拒絶理由の通知
平成28年11月11日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1ないし32に係る発明は、平成28年11月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし32に記載された次のとおりのものと認める。(以下、請求項1ないし32に係る発明を「本願発明1」ないし「本願発明32」といい、請求項1ないし32に係る発明をまとめて「本願発明」ということがある。)なお、下線は補正箇所を示す。

「 【請求項1】
心室を含めた身体の器官の空洞の中で組織をアブレーションするためのデバイスであって、前記デバイスは、
(a)偏向可能な遠位端部を有するガイド本体シースと、
(b)器官の空洞の組織に強制的に接触させるように調節可能なガイドワイヤ・ループを形成するための、前記ガイド本体の前記遠位端部から伸張可能なガイドワイヤと、
(c)前記ガイドワイヤに支持されて前記ガイドワイヤ上を進むことが可能な可撓性のガイド・シャフト上に設置された、膨張可能なアブレーション・バルーン・デバイスと、
(d)前記ガイドワイヤ・ループのサイズ、形状及び配置を調節するためのループ制御要素と
を備え、
(e)前記バルーン・デバイスが、極低温デバイスであり、
(f)前記バルーン・デバイスが、前記バルーン・デバイスを超えて遠位の縁と近位の縁をさらに備え、前記バルーン・デバイスが、前記遠位の縁と前記近位の縁に電極をさらに備えることで、損傷とバルーンの位置、電気的な活動、及びバルーンを通過するインピーダンスを示す、組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項2】
前記バルーンを前記ガイドワイヤ・ループに沿って進めたり、後退させたりすることで、組織と接触し、連続する損傷を形成することを可能にするバルーン制御要素をさらに備える、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項3】
前記ループ制御要素が引っ張りワイヤを含む、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項4】
前記ガイド本体がさらに、その前記遠位部に位置する膨張可能なガイド本体バルーンを備えることで、前記ガイド本体が、手術中に、貫通した空洞壁を通って後ろに後退するのを阻止する、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項5】
前記アブレーション・バルーン・デバイスの表面が、温度監視、並びに、損傷の有効性及び完全性のリアルタイムの電気的な活動の評価のために、複数のサーミスタと電極をさらに備える、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項6】
前記ループ制御要素がさらに、前記ガイドワイヤ・ループをロックするための機構を備える、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項7】
前記ガイド本体の近位部にあり、前記ガイドワイヤ・ループ及び前記バルーン・デバイスを制御するためのデバイスを収容する制御ハンドルをさらに備える、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項8】
前記制御ハンドルがさらに、前記バルーンの内部を流体の供給源につなぐための要素を備えており、当該流体が、ガス、液化ガス及び液体溶液を含めた充填及び再循環物質から成る群から選択される、請求項7に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項9】
前記制御ハンドルがさらに、前記バルーン・デバイスの位置を前記ガイドワイヤに沿って調節するために前記ガイド・シャフトに接続された往復直線運動デバイスと、ガイドワイヤ・ロック機構とを備える、請求項7に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項10】
前記バルーン・デバイスが、内側の極低温バルーンと、外側の絶縁バルーンとを備える、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項11】
前記バルーン・デバイスがさらに、前記バルーン・デバイスの側面に位置するリング電極を備える、請求項10に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項12】
前記バルーン・デバイスがさらに、前記バルーンの円周を囲むように分散された複数のサーミスタと、記録電極とを備える、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項13】
前記外側バルーン・デバイスがさらに、前記バルーンの円周を囲むように分散された複数のサーミスタと、記録電極とを備える、請求項10に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項14】
前記バルーン・デバイスが、液体亜酸化窒素(N_(2)O)の極低温流体を利用するように設計されている、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項15】
前記外側バルーンが、前記内側の極低温バルーンと前記外側の絶縁バルーンとを熱的に絶縁する絶縁ガスで満たされるように設計される、請求項10に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項16】
前記外側バルーンが、複数の円周方向に分散され離間された高度に導電性の塗装された化合物からできた記録要素と、サーミスタとを備えることで、アブレーションの前後の電気的な活動及び温度を記録し、組織のアブレーション効率を評価する、請求項10に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項17】
(a)偏向可能な遠位端部を有するガイド本体シースと、
(b)前記遠位端部から伸張可能なガイドワイヤであって、前記ガイドワイヤを空洞内でアブレーションすべき組織に対して固定するための成形された遠位の固定部分を有する、ガイドワイヤと、
(c)膨張した、又はしぼんだ状態で前記ガイドワイヤ上を進むことができる、極低温バルーン・デバイスである膨張可能なアブレーション・バルーン・デバイスと、
(d)前記ガイドワイヤの伸張を調節するためのガイドワイヤ制御要素と
を備える、心室内で組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項18】
前記ガイドワイヤの前記遠位固定部分が、心臓の左心房の付属器官内に配置されるように設計されている、請求項17に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項19】
前記ガイドワイヤの前記遠位固定部分が、肺静脈内に配置されて肺静脈を隔離する損傷を形成するように設計されており、膨張したとき、前記アブレーション・バルーンが、前記肺静脈を満たしこれを閉鎖する、請求項17に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項20】
前記アブレーション・バルーン・デバイスが、前記ガイドワイヤ上に重なる可撓性のカテーテル・ガイド・シャフト上に設置される、請求項17に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項21】
(a)中に開口を有する偏向可能な遠位端部を有するガイド本体シースと、
(b)前記ガイド本体の前記遠位端部から伸張可能であり、複数の記録要素を備えたJ形状のタイプのループ遠位端部を有する誘導及び記録カテーテルと、
(c)前記誘導及び記録カテーテル・デバイス上を進むように設計され、前記誘導及び記録カテーテル・デバイスによって誘導され安定される、極低温デバイスである膨張可能なアブレーション・バルーン・デバイスと、
(d)前記ガイド本体シースからの前記誘導及び記録カテーテルの伸張を調節するための制御要素と
を備える、組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項22】
前記誘導及び記録カテーテルの前記J形状のループがさらに、肺静脈の開口部又は他の導管に挿入されるように設計されたループ部分を備え、前記ループ部分がさらに、複数の離間した記録及び刺激電極と、サーミスタを装備することで、アブレーション後の損傷の形成及び有効性を評価する、請求項21に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項23】
前記膨張可能なアブレーション・バルーン・デバイスがさらに、近位リング電極を備えることで、前記Jカテーテル・ループ電極による損傷の妥当性と完全性を判定する、請求項22に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項24】
前記膨張可能なアブレーション・バルーン・デバイスがさらに、前記バルーンに対する遠位と近位の両方に配置されたリング電極を備える、請求項23に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項25】
前記アブレーション・バルーンが、肺静脈の開口部に配置される際、肺静脈の閉鎖及びアブレーションを、前記遠位と近位のリング電極間で伝達される低電力で高周波数のエネルギーを印加することによる、前記リング電極間のインピーダンス測定値によって評価することができる、請求項24に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項26】
前記アブレーション・バルーン・デバイスが、前記誘導及び記録カテーテル上を進み、前記アブレーション・バルーン・デバイスの前記誘導及び記録カテーテルに沿った位置を調節するための制御要素を含むバルーン・カテーテル・シャフトに接続される、請求項21に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項27】
アブレーション中の横隔神経機能を評価することを目的とし、高い強度のパルス電気刺激を与える要素と、横隔膜運動を監視するための要素とを含む手段をさらに備える、請求項21に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項28】
前記ガイドワイヤ・ループが、固定式の装着具及び引っ張りワイヤから選択された技術を利用して前記シースの前記端部に装着された相対的に柔軟な先端を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項29】
前記バルーン・カテーテルが、1つの膨張可能なバルーンで構成される、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項30】
前記絶縁ガスが窒素(N_(2))を含む、請求項15に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項31】
前記カテーテル・ガイド・シャフトがほぼ7Fである、請求項1に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。
【請求項32】
前記外側バルーンの圧力を調整することで拡張を維持し、さらに強制的な組織との接触の地点でのガスの排出を可能にする手段を含む、請求項15に記載の組織をアブレーションするためのデバイス。」


第3 当審における拒絶理由の概要
当審における平成28年 7月13日付けで通知した、本件出願に対する特許法第37条の規定に基づく拒絶理由1及び請求項6に係る発明(平成26年12月 8日付け手続補正書)に対する特許法29条第2項の規定に基づく拒絶理由3の概要は以下のとおりである。
「理由1 本件出願は、下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。

理由2 本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由3 本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由4 (略)

理由1
1.特別な技術的特徴に基づく審査対象の決定(当審注:「審理」の意味で便宜的に「審査」と記した。以下同様。)
(1)特許請求の範囲の最初に記載された発明である請求項1に係る発明は、理由2で述べるとおり文献1により新規性が欠如しており、特別な技術的特徴を有しない。
(2)次に、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの請求項のうち、請求項に付した番号が最も小さい請求項に係る発明である請求項2に係る発明も、理由2で述べるとおり文献1により新規性が欠如しており、特別な技術的特徴を有しない。
そして、請求項2に係る発明の発明特定事項を全て含んだ同一カテゴリーの請求項に係る発明は存在しない。
したがって、(1)ないし(2)において特別な技術的特徴の有無を判断した請求項1-2に係る発明と、請求項1に係る発明と同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する方法の発明である請求項56に係る発明とを審査対象とする。

2.審査の効率性に基づく審査対象の決定
請求項17-24,54,55,70に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明である。しかしながら、請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、「アブレーション要素と組織とのしっかりとした一定の接触を特徴とし、効果的な連続する線形の損傷を形成する」点であるのに対し、請求項17に係る発明によって追加された技術的特徴から把握される、発明が解決しようとする課題は、「アブレーションデバイスのエネルギーを選択する」点であり、両者の関連性は低い。
請求項56を引用する請求項59についても同様である。
よって、特許請求の範囲の最初に記載された発明である請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの請求項のうち、請求項17-24,54,55,59,70を除く請求項2-16,49,50,57,58,60,69については、まとめて審査を行うことが効率的である発明であり、審査対象に加える。
また、請求項25-48,51-53,59,61-68,70-83に係る発明は、特別な技術的特徴の有無を判断した発明及び審査の効率性に基づいて審査対象とされた発明を審査した結果、実質的に追加的な先行技術調査や判断を必要とすることなく審査を行うことが可能である発明ではなく、当該発明とまとめて審査を行うことが効率的であるといえる他の事情も無い。
したがって、請求項1に係る発明と請求項17-48,51-55,59,61-68,70-83に係る発明とは、発明の単一性を満たす一群の発明に該当しないから、本件出願は特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
なお、請求項17-48,51-55,59,61-68,70-83に係る発明については、特許法第37条以外の要件についての審理を行っていない。

理由2
1.引用発明
本件出願前に頒布された刊行物である特表2000-506751号公報(以下、『引用文献1』という。)には、その第8頁第3行-第9頁第20行、第12頁第15行-第13頁第5行、第14頁第16行-第15頁第9行、第18頁第8行-第19頁第2行、第21頁第8行-第22頁第1行及び図1-11の記載からみて、次の発明(以下、『引用発明』という。)が記載されていると認める。

『心房の中で心臓組織に損傷を形成するデバイスであって、尖端が血管および心臓内の障害物に対して前進させる際に十分な柔軟性を残す主シャフトと、それ自身にループを形成させそのループが心房を充たすように調整し得る主シャフトの末端から延伸できるバッフルリボンと、バッフルリボンに基端方向または末端方向へ摺動自在な配管を被覆する切除部分であって膨張自在なバルーンを内部に配置した切除部分と、バッフルリボンの端部または配管を末端方向へ進めてループの高さ、位置、大きさを調整し得る端部、を備えた心臓組織に損傷を形成するデバイス』

(略)

理由3
本件出願前に頒布された刊行物である引用文献1、米国特許出願公開第2008/0312643号明細書(以下、『引用文献2』という。)、特表2000-504242号公報(以下、『引用文献3』という。)、米国特許出願公開2007/0255162号明細書(以下、『引用文献4』という。)、特表2004-507314号公報(以下、『引用文献5』という。)には、それぞれ次の技術事項が記載されていると認める。

1. 引用文献記載事項
(1)(略)
(2)(略)
(3)引用文献3事項
引用文献3には、その第13頁第6行-14行及び第17頁第19行-第19頁第26行の記載からみて、次の事項(以下、『引用文献3事項』という。)が記載されている。
『心臓組織に接触する膨張-収縮可能本体の表面に複数の電極セグメント及びサーミスタを設け、電極セグメントにより組織内の局所的な電気事象、例えば、電気電位、抵抗率またはインピーダンスを感知し、サーミスタにより温度検知すること』
(4)引用文献4事項
引用文献4には、その段落【0054】の記載からみて、次の事項(以下、『引用文献4事項』という。)が記載されている。
『バルーンの遠位端及び近位端に設けられた電極間に生じる差動インピーダンス電圧を測定することで組織接触評価、病変品質および/または血液吸蔵評価を決定すること』
(5)(略)

2. 対比・判断
(1)請求項1,2,8,9,12,13,56,60
(略)
(2)請求項3,50
(略)
(3)請求項4
(略)
(3)請求項5,10,11,15,16
(略)
(4)請求項6,49,58
引用発明には、バルーンの近位端及び遠位端に電極を備えることは記載されていないが、引用文献4事項には『バルーンの遠位端及び近位端に設けられた電極間に生じる差動インピーダンス電圧を測定することで組織接触評価、病変品質および/または血液吸蔵評価を決定すること』が記載されており、また、引用文献3事項及び引用文献4事項に示されるように、電極セグメントにより電気電位やインピーダンスを感知することは周知技術である。
引用発明及び引用文献3事項、引用文献4事項は、いずれもアブレーションシステムに関する同一の技術分野であり、また、アブレーションシステムにおいて処置部の情報を入手することも自明の課題である。
したがって、引用発明において、当該課題を考慮して引用文献4事項及び周知技術を適用し、バルーンの遠位端及び近位端に設けられた電極により接触評価を行なうとともに、電極間の電圧・インピーダンスを検知するよう構成することに格別の困難は認められない。
(5)請求項7,12,14
(略)
(6)請求項57
(略)
(7)請求項69
(略)

3.小括
したがって、請求項1-16,49,50,56-58,60,69に係る発明は、引用文献1及び引用文献2事項並びに引用文献3事項に基づいて容易に発明をすることができなものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」


第4 拒絶理由通知に対する請求人の意見の概要
平成28年7月13日付け拒絶理由に対し、請求人は以下のとおり意見を述べている。なお、下線は当審にて付与した。
1.「(2)補正の説明
(イ)請求項1について、『(e)前記バルーン・デバイスが、極低温デバイスであ』ることを規定した。根拠は、出願当初明細書の段落[0012]及び[0027]等にある。同様の補正を、新請求項17及び21(旧請求項25及び41)についても行った。
(ロ)請求項1について、『(f)前記バルーン・デバイスが、前記バルーン・デバイスを超えて遠位の縁と近位の縁をさらに備え、前記バルーン・デバイスが、前記遠位の縁と前記近位の縁に電極をさらに備えることで、損傷とバルーンの位置、電気的な活動、及びバルーンを通過するインピーダンスを示す』ことを規定した。根拠は、旧請求項6等にある。これに伴い、旧請求項6を削除した。
(ハ)旧請求項8-11、15-17、29-40、47、49、51-53、56-68、及び71-83を削除した。」

2.「(5)引用例の説明及び比較
(イ)引用文献はいずれも高周波エネルギー・デバイスに関するものであり、本発明のような極低温デバイスを一切開示も示唆もしていない。
(ロ)引用文献1?5には本発明の構成についての開示も示唆もないので、仮に、当業者が、いかに引用文献1?5を組み合わせたとしても、本発明は決して得られない。
(ハ)上記のように、請求項1に係る発明は、引用文献1に対して進歩性を有する特別な技術的特徴を有しており、請求項17?27に係る発明と請求項1に係る発明との共通の技術的特徴も、引用文献1の開示内容に照らして、先行技術に対する貢献をもたらすものである。したがって、特許法第37条に関する拒絶理由は解消されている。」


第5 当審の判断
1.特許法第37条について(拒絶理由1)
(1)本願発明の技術的特徴について
特許法第37条が委任する経済産業省令で定める技術的関係とは、特許法施行規則第25条の8第1項及び第2項において、「二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係」であって、当該特別な技術的特徴とは、「発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」であると規定されている。
これを本願発明1ないし16、28ないし32(以下「グループ1」という。)と、本願発明21ないし27(以下「グループ2」という。)についてみると、グループ1は、「アブレーション要素と組織とのしっかりとした一定の接触を特徴とし、効果的な連続する線形の損傷を形成する」するという課題達成のため、当審の拒絶理由通知にて引用文献1として示した先行技術である米国特許出願公開第2008/0312643号明細書に開示された技術に対して、「(e)前記バルーン・デバイスが、極低温デバイスであり、(f)前記バルーン・デバイスが、前記バルーン・デバイスを超えて遠位の縁と近位の縁をさらに備え、前記バルーン・デバイスが、前記遠位の縁と前記近位の縁に電極をさらに備えることで、損傷とバルーンの位置、電気的な活動、及びバルーンを通過するインピーダンスを示す」という技術的特徴を有する。
ここで、「(e)前記バルーン・デバイスが、極低温デバイスであり」についてみると、膨張可能なアブレーション・バルーン・デバイスとして「極低温デバイス」を使用することは、特表2004-525711号公報(特に、段落【0016】、【0024】-【0025】、【0035】)、特開2009-142640号公報(特に、段落【0013】、【0016】-【0018】、【0047】-【0048】)からみて、先行技術のRF切除要素に対して周知技術の転換を行ったものであり、グループ1の課題である「アブレーション要素と組織とのしっかりとした一定の接触を特徴とし、効果的な連続する線形の損傷を形成する」ことに対して新たな効果を奏するものではないから、「発明の先行技術に対する貢献」をもたらすものではない。
したがって、グループ1の発明の特別な技術的特徴は「(f)前記バルーン・デバイスが、前記バルーン・デバイスを超えて遠位の縁と近位の縁をさらに備え、前記バルーン・デバイスが、前記遠位の縁と前記近位の縁に電極をさらに備えることで、損傷とバルーンの位置、電気的な活動、及びバルーンを通過するインピーダンスを示す」点であると認める。
一方、グループ2は、「アブレーション・バルーン・デバイスをアブレーション対象組織に誘導し安定させる」という点で、解決すべき課題の面からは、「アブレーション要素と組織とのしっかりとした一定の接触を特徴とし、効果的な連続する線形の損傷を形成する」するというグループ1の発明概念と軌を一にするといえるものの、グループ1が有する「(f)前記バルーン・デバイスが、前記バルーン・デバイスを超えて遠位の縁と近位の縁をさらに備え、前記バルーン・デバイスが、前記遠位の縁と前記近位の縁に電極をさらに備えることで、損傷とバルーンの位置、電気的な活動、及びバルーンを通過するインピーダンスを示す」という「先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」を有していない。
してみると、グループ1とグループ2は、「二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係」を有していないから、特許法第37条に規定する発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するとはいえず、本件出願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。

(2)小括
よって、本件出願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。

2.特許法第29条第2項(拒絶理由3)
(1)本願発明1と補正前の請求項6との関係
上記「第4 1.」において請求人が補正の根拠について説明するように、本願発明1は補正前の請求項1に対して請求項6に特定される事項を限定するとともに、明細書段落【0012】、【0027】の記載に基づいて「バルーン・デバイスが極低温デバイスである」ことを限定したものである。

(2)引用文献1記載事項
当審の拒絶理由にて引用した本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特表2000-506751号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「切除による直線上の損傷を形成する装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「発明の技術分野
本発明は一般的に生体組織を切除する装置と方法の技術分野に関する。特に本発明は心臓内の損傷を形成するデバイスと方法に関する。」(第8頁第3行?5行)

イ「本発明の線状損傷カテーテル10の第一実施例を図1に示す。このカテーテル10は全体的に主シャフト12と、この主シャフト12を通じて延び、且つ主シャフト12の末端から延伸可能であるループ状バッフルワイア14と、このバッフルワイア14上に形成された切除部分16とを備える。使用中に、切除部分16は、切除される対象組織上に配置され、その組織へRFエネルギを与えて切除を引き起こす。本実施例および後続の実施例に説明するRF切除要素は、他の形式の切除要素に交換し得る。例えば超音波切除要素または他の通常の切除尖端を、本発明の目的から逸脱しない範囲で個々に説明する本発明の幾つかのまたは全ての特徴に組み合わせて使用し得る。
」(第12頁第15行?23行)

ウ「デバイスの使用中には発泡体42及び被覆体44により多数の機能が達成される。使用中に、デバイスの切除部分16は、切除する心内膜の領域に接触して配置される。発泡体は被覆体のための構造的支持を与えると共に、心内膜表面の滑りにくい特性を補償することにより、被覆体と心内膜表面との間の接触を容易にする。本実施例および後述の実施例において、支持区画は、被覆体44に対して一体的な構造を与える機械的手段に置き換え得ることも明らかである。例えば、膨脹自在なバルーンを被覆体44内に配置して膨脹させ、被覆体を外側へ向かって心内膜表面に対して押すようにしてもよい。これに代えて、被覆体44をプラスチックまたは金属スプリング構造上に配置してもよい。」(第15頁第2行?10行)

エ「線状損傷カテーテル62の第二実施例を図7-11Bに示す。第一実施例と同様に、第二実施例においては切除部分は装置の末端においてバッフルループ上に位置している。しかしながら第二実施例は、その切除部分がバッフルワイア上で摺動可能な点で第一実施例とは異なっている。即ち、カテーテルが心臓房に挿入され、ループが所定の大きさに形成されると、ループ上の切除部分の位置は、切除部分を対象切除位置へ位置させるように調整できる。
カテーテル62は一般に主シャフト64と、この主シャフト64の末端に固定された一端と主シャフト64を通じて延びる他端とを有するバッフルリボン66と、このバッフルリボン66に摺動自在に収容された切除部分68とを含む。切除部分68は約2-10cmの長さと、約3-5mmの外径を有する。
図7を参照すると、主シャフト64は末端70および基端72を含む。主シャフト64は好ましくは、一定長を有する単独の配管であり、これは熱可塑性プラスチックポリマー、ポリアミドエーテル、ポリウレタンまたは同様な特性を有する他の材料から構成されている。主シャフト64の径は好ましくは約9-11フレンチ(約3-4mm)である。ステンレス鋼編組(図示せず)は、好ましくは当業者に良く知られた手段により主シャフトの壁に埋設されている。編組の埋設は主シャフト64のトルク特性を改善するので、患者の血管と心臓を通じて主シャフト64を操作することを容易にさせる。テフロン(商標名)のライニング(図示せず)も当技術分野では一般的であり、好ましくは主シャフト64の内壁にワイアの編組を覆うように裏打ちされている。使用中に主シャフト64が患者の血管と心臓を通じて供給されることによる外損傷を最小化するために、編組は主シャフト64の末端尖端71における最初の数センチメートルには存在していないことが好ましい。これは尖端71を血管および心臓内の障害物に対して前進させる際に曲げさせるのに充分な柔軟性を残す。」(第18頁第8行?第19頁第2行)

オ「バッフルリボン66は、図7に示すように主シャフト64の末端70へ固定された末端80を有する。バッフルリボン66は後述するようにデバイスの切除部分68を通じて延び、配管74の末端部分(図8A参照)へ入り、配管74の全長に亘って延びる(図8B参照)。バッフルリボン66は更に、配管74の基端へ取り付けられたコネクタ76を通じて延び、このコネクタの基端80における開口から自由状態で延出する(図7参照)。」(第19頁第12行?17行)

カ「本発明の好適カテーテル62の操作について説明する。処置の開始に先立って、バッフルリボン66を基端方向へ引っ張り、主シャフト64の末端70の内側の切除部分68のみならずバッフルリボン66の末端部分も引き込むようにする。図6Aを参照されたい。雌アダプタ100は雄コネクタヘ接続され、この雄コネクタは第一実施例に関連して上述したようにRFエネルギ源へ接続されている。
切除部分68と、バッフルリボン66の末端部分とが主シャフト64の内側になったら、主シャフト64を患者の血管(その一本が図11Aに符号Aで示されている)を介して心臓へ通常の技術により挿通される。主シャフト64の末端70が心臓の適当な房内に位置したら、バッフルリボン66の基端を図11Bに示すように末端方向へ前進させる。バッフルリボン66の末端80は主シャフト64へ固定されているので、バッフルリボン66の末端移動は、それ自身にループ112を形成させる。バッフルリボン66の付加的な末端移動は、図11Cに示すようにループ112の大きさを増加させる。バッフルリボン66の展開は、そのループ112が心房を充たす(即ち、切除部分68と、この切除部分に対向するループ112の側部とが心臓組織の対向領域T1および&2に接触するように)充分な大きさになるまで続ける。次いでバッフルワイア66に沿った切除部分68の位置を、配管を基端方向または末端方向へ摺動(末端摺動は図11Dに示されている)させて、配管74ひいては内部収縮管98の摺動を引き起こすようにして調整し得る。バッフルリボン66は配管74および98内に固定されていないので、バッフルリボン66の内部に被包された配管74,98および要素(即ち注入管82およびリードワイア94)は、バッフルリボン66を所定位置に留めたままバッフルリボン66上を摺動する。
第一実施例に関連して説明したように、RFエネルギの心臓組織への投入は、切除部分68が心臓表面の所定の領域に接触して位置したら開始される。RFジェネレータからのRFエネルギはリード線94を介してコイル電極96へ与えられ、電導性流体、例えば食塩水S(図11D)により電極96から心臓内膜へ輸送される。これまでの実施例のように食塩水は流体ポート90により注入管82(図10)へ向かう。食塩水は管腔36内の孔92を通過し、次いで支持区画106を通り、孔110を介して被覆体108から連続的に排出される。食塩水がホール110から被覆体の内室へ移動するにつれて、食塩水は、電極から流れたRFエネルギを発泡体被覆体を通じて心内膜へ輸送する。所定の点に損傷が形成されると、付加的な損傷の形成するように切除部分を再位置決めするために、使用者は切除部分68をバッフルワイア66上で基端方向または末端方向へ摺動させてバッフルワイア66を再位置決め(心房内のバッフルワイア600の最初の再位置決めを伴うかまたは伴わずに)し得る。切除部分が再位置決めされると、RFエネルギは電極へ与えられて付加的な損傷を形成するか、或いは既に形成された損傷の長さを増長させる。」(第21頁第8行?第22頁第16行)

キ 摘記事項カの「バッフルリボン66の付加的な末端移動は、図11Cに示すようにループ112の大きさを増加させる。バッフルリボン66の展開は、そのループ112が心房を充たす(即ち、切除部分68と、この切除部分に対向するループ112の側部とが心臓組織の対向領域T1および&2に接触するように)充分な大きさになるまで続ける。」から、バッフルリボン66の末端移動は、ループの大きさを変更し得るといえ、「付加的な損傷の形成するように切除部分を再位置決めするために、使用者は切除部分68をバッフルワイア66上で基端方向または末端方向へ摺動させてバッフルワイア66を再位置決め(心房内のバッフルワイア600の最初の再位置決めを伴うかまたは伴わずに)し得る。」から、バッフルワイヤ66は位置を調節しているということができる。
さらに、本審決において図示されるFIG.11Aないし11Dからみて、バッフルリボン66のループ形状は変化しているから、ループ形状は調整し得るといえる。

(3)引用発明
上記摘記事項アないしカ及び認定事項キを図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

<引用発明>
「心房の中で心臓組織に損傷を形成するデバイスであって、尖端が血管および心臓内の障害物に対して前進させる際に十分な柔軟性を残す主シャフトと、それ自身にループを形成させそのループが心房を充たすように調整し得る主シャフトの末端から延出できるバッフルリボンと、バッフルリボンに基端方向または末端方向へ摺動自在な配管を被覆する切除部分であって膨張自在なバルーンを内部に配置した切除部分と、ループの位置、大きさ、形状を調整し得るバッフルリボンの基端及び末端、を備えた心臓組織に損傷を形成するデバイス」

(4)引用文献3記載事項
当審の拒絶理由通知にて引用した本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特表2000-504242号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア「本発明の1つの観点では身体組織に関連して使用する多機能システム及び方法を提供する。このシステム及び方法は、組織に接するように適合させた外壁を含む構造を使用する。この外壁は一列の電気導電性電極セグメントを有している。電気導電性ネットワークを電極セグメントと結合させる。電気導電性ネットワークは少なくとも1つの電気導電経路を含み、それぞれ個々の電極セグメントに結合される。制御装置が電気導電性ネットワークに結合される。制御装置が第1のモードで作動する間、ネットワークの電気的状態は各電極セグメントで組織内の局所的な電気事象、例えば、電気電位、抵抗率またはインピーダンス、をそれぞれ感知するように設定される。」(第13頁第5行?17行)

イ「診断モードでは、各セグメント44が制御装置40により電流を組織を通して伝導するように調節される。電極セグメント44は単極モードあるいは双極モードのいずれかで電流を伝導することができる。単極モードで作動させると、電流帰還経路は患者に付着させた外部の無関係な電極により提供される。双極モードで作動させると、電流帰還経路は選択した伝導電極セグメント44の直ぐ隣に配置したあるいはその伝導電極セグメント44から離して配置した1つの電極セグメントにより提供される。
ここから、制御装置40は電極セグメント44が接触する心臓組織部位についてのインピーダンス情報を獲得する。インピーダンス情報は制御装置40により処理されてE?特性が導かれる。この特性は医師が切除治療が適当と考える梗塞組織の部位を特定するのを補助する。結合電極セグメント44が組織と直接接触している本体により保持され、これにより血液プールと接触することから保護されているので、この結合電極セグメント44は本質的に全ての電流の流れを組織に導き、これにより人為的なもののない組織特性情報が得られる。膨張?収縮可能本体22が有する高密度電極セグメント44はまた、切除する可能性のある部位をより正確に特定するために優れた信号分解能を提供する。」(第18頁第18行?第19頁第5行)

(5)引用文献3事項
上記摘記事項ア及びイの記載からみて、引用文献3には次の技術事項(以下、「引用文献3事項」という。)が記載されていると認める。
「心臓組織に接触する膨張-収縮可能本体の表面に複数の電極セグメントを設け、電極セグメントにより組織内の局所的な電気事象、例えば、電気電位、抵抗率またはインピーダンスを感知し、治療部位を特定すること」

(6)引用文献4記載事項
当審の拒絶理由通知にて引用した本件出願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開2007/0255162号明細書(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、括弧内は当審による仮訳である。
ア「FIG. 1 illustrates an exemplary system 30 for performing cryogenic ablation. The system 30 includes an elongate, highly flexible ablation catheter 34 that is suitable for passage through the vasculature. The ablation catheter 34 includes a catheter body 36 having a distal end 37 with a thermally conductive region 38 at or proximal to the distal end 37. The distal end 37 and the thermally conductive region 38 are shown magnified and are described in greater detail below. The catheter body 36 has a proximal end 40 that is mated to a handle 42 that can include an element such as a lever 44 or knob for manipulating the catheter body 36 and the thermally conductive region 38. In the exemplary embodiment, a pull wire 46 with a proximal end and a distal end has its distal end anchored to the catheter at or near the distal end 37. The proximal end of the pull wire 46 is anchored to an element such as a cam 48 in communication with and responsive to the lever 44. The handle 42 can further include circuitry 50 for identification and/or use in controlling of the ablation catheter 34 or another component of the system 30.」(図1は極低温アブレーションを行うための例示的なシステム30を示す。システム30は、血管系を通過できるように適した細長い高可撓性アブレーションカテーテル34を備えている。アブレーションカテーテル34は、遠位端37または遠位端37の近位に熱伝導性領域38を有するを有するカテーテル本体36を含む。遠位端37と熱伝導性領域38が拡大して示され、以下により詳細に説明する。カテーテル本体36は、カテーテル本体36と熱伝導性領域38を操作するためのレバー44またはノブのような要素を含むことができるハンドル42に結合される近位端40とを有する。例示的な実施形態では、近位端および遠位端を備えた牽引ワイヤ46は、その遠位端が遠位端部37又はその近傍においてカテーテルに固定されている。プルワイヤ46の基端部はカム48のような要素に固定され、レバー44に応答する。ハンドル42は、アブレーションカテーテル34の制御における識別および/または使用のための回路50又はシステム30の他のコンポーネントを含むことができる。)[0049]

イ「FIG. 2 illustrates an embodiment of a shaft or catheter body 36 of the balloon catheter system 34 of FIG. 1. The catheter body 36 includes a mounting section 59 in communication with the proximal end of thermally conductive element 38. The inner balloon 62 and outer balloon 64 are bonded to the mounting section 59. In this embodiment, the inner balloon 62 and outer balloon 64 are bonded at different locations, which are defined as the inner balloon bond joint 63 and the outer bond joint 65, however they may be bonded at the same bond joint. Additionally, several sensors are identified including a temperature sensor 61 (e.g., thermocouple wire), leak detectors 67, 69 (e.g., leak detection wires) and electrodes 86, 88, 90 and 92. In this embodiment, contact assessment, lesion quality, fluid egress and/or tip ice coverage may be provided by using a first pair of electrodes (86, 88); providing the excitation current 107 of well-selected amplitude (e.g., in the range of 0.2 mA to 5 mA) and frequency (e.g., in the range of 250 Hz to 500 kHz) to create a current field and measuring the differential impedance voltage as produced across a second pair of electrodes (90, 92). 」(図2は、図1のバルーン・カテーテル34のシャフト又はカテーテル本体36の実施形態を示す。カテーテル本体36は、熱伝導性要素38の近位端と連通した装着部59とを備えている。内側バルーン62と外側バルーン64が装着部59に接合される。本実施形態において、内側バルーン62と外側バルーン64は、他の場所、たとえば、内側バルーン接合部63と外側接合部65とに接合されているが、それらは同一の接合部で接合されてもよい。さらに、いくつかのセンサは、温度センサ61(例えば、熱電対ワイヤ)は、漏れ検出器67、69(例えば、リーク検知線)と、電極86、88、90、92を含む。識別されるこの実施形態では、接触評価、病変の質、流体の流出および/または先端氷被覆は、第1の電極対(86, 88)を使用することによって提供されてもよく、回磁電流を生成するために、選択された振幅(例えば、0.2mAから5mAの範囲)および周波数(例えば、250Hzから500kHzの範囲)の励磁電流107を設け、第2の対の電極(90, 92)両端間に生じるような差動インピーダンス電圧を測定する。)[0053]

ウ「In another embodiment of the catheter having a single pair of electrodes (e.g., 90 and 92) with one of the pair of electrodes located on the distal side of the thermally-transmissive region 38 (e.g., a single balloon), and the other of the pair located on the proximal side of the thermally-transmissive region 38, an excitation current 107 of well-selected amplitude and frequency is applied between the two electrodes to create a current field and measure the differential impedance voltage as produced across the same electrodes to determine tissue contact assessment, lesion quality and/or blood occlusion assessment. The processing algorithms and related aspects will be discussed in more detail below. 」(熱伝達領域38(例えば、単一バルーン)の遠位側に位置する1対の電極と、熱伝達領域38の近位側に位置する他の1対の電極(例えば、90及び92)を有するカテーテルの別の実施形態では、選択された振幅および周波数の励磁電流107が印加され、回磁電流を発生し、同じ電極間に組織を介して生じる差動インピーダンス電圧を測定して接触評価、損傷の質及び/又は血液の閉塞の評価を決定する。処理アルゴリズムおよび関連する態様は、以下でより詳細に説明する。)[0054]

エ「After applying an excitation current to the two electrodes 90, 92, the impedance voltage can be measured by the impedance measurement system 106 (as shown in FIG. 3). The impedance measurement signal is then processed using a signal processor 108 (as shown in FIG. 3), which extracts relevant data from a specific frequency range to correlate the impedance change to, for example, occlusion of a pulmonary vein. The signal processor 108 may be a standalone unit or it may be part of the control unit 52, the impedance measurement system 106 or another portion of the catheter system. The electrical impedance of the tissue is much higher than the impedance of the blood, so measuring the impedance between the first electrode 90 and the second electrode 92 would indicate the efficacy of a thermally conductive element to tissue contact. With high measurement sensitivity, the system should be able to quantify the contact quality. The impedance measurement system 106 provides information about the baseline impedance that may change as the balloon 38 occludes a vessel, such as a pulmonary vein (PV). As the balloon will occlude or stop the blood flow between the proximal side and the distal side of the balloon, the impedance at a defined frequency will increase, which provides an indication of the quality of the contact between the balloon 38 and the treatment tissue. 」(2電極90、92に励磁電流を印加した後、電圧は、インピーダンス計測系106よって計測されうる(図3参照)。インピーダンス測定信号は、その後、信号プロセッサ108(図3に示す)を用いて処理され、インピーダンス変化を関連付ける特定の周波数範囲から、例えば、肺静脈の閉塞に関連するデータを抽出する。 信号処理部108は、スタンドアロンユニットであってもよいし、制御部52と、インピーダンス計測システム106またはカテーテルシステムの別の部分の一部であってもよい。組織の電気インピーダンスは血液のインピーダンスよりもはるかに高いので、第1電極90と第2電極92との間のインピーダンスを測定することで、組織に対する熱伝導性要素の接触の有効性がわかるであろう。測定感度の高い、接触品質を定量化することができなければならない。インピーダンス測定システム106は、バルーン38が肺静脈(PV)のような血管を塞ぐと変化し得るベースラインインピーダンス情報を提供する。バルーンは、バルーンの近位側と遠位側との間の血流量を閉塞または停止すると、定義された周波数におけるインピーダンスが大きくなるので、バルーン38と処理組織との間の接触品質の指標を提供する。)[0056]

オ「FIG. 4B illustrates an embodiment of the thermally conductive region 38 of catheter 34 having four electrodes 90, 91, 92 and 94. FIG. 4C illustrates another embodiment of the thermally conductive region 38 of catheter 34 having eight electrodes 90, 91, 92, 93, 94, 95, 96 and 97. The number of electrodes controls the accuracy of the contract (当審注:「contact」の誤記。)assessment of the catheter's thermally conductive region 38. As the number of electrodes placed on the catheter's thermally conductive region 38 increases, the more accurate the contact assessment measurement. In addition, besides providing contact assessment, this system, as well as all the other system embodiments, can also provide enhanced assessment of lesion quality and/or size. For example, by measuring the electrical impedance of tissue prior to a cryogenic treatment, and then measuring the electrical impedance of that tissue subsequent to cryogenic treatment, it is possible to quantify the amount of treated tissue for a particular treatment session or sessions. 」(図4bは、4個の電極90、91、92、94を有するカテーテル34の熱伝導部38の一実施形態を示す。図4cは8個の電極90、91、92、 93、 94 、95、 96、97を有するカテーテル34の熱伝導領域38の別の実施形態を示す。電極の数は、カテーテルの熱伝導性領域38の接触評価の精度を制御する。カテーテルの熱伝導性領域38上に配置された電極の数が増加するにつれて、接触評価測定が正確になる。接触評価を提供する以外に、このシステム、ならびに他のすべてのシステム実施形態は、病変品質および/またはサイズの評価を得ることができる。例えば、極低温処理の前に組織の電気インピーダンスを測定し、次に極低温処理に続いてその組織の電気インピーダンスを測定することにより、特定の治療セッションまたは複数のセッションに対して治療された組織の量を定量することができる。 )[0062]

(7)引用文献4事項
上記摘記事項アないしオの記載からみて、引用文献4には次の技術事項(以下、「引用文献4事項」という。)が記載されていると認める。
「極低温アブレーションを行うためのバルーンの遠位端及び近位端に設け、電極間に生じる差動インピーダンス電圧を測定することで組織接触評価、損傷の質及び/又は血液の閉塞の評価を決定すること」

(8)周知事項A
引用文献3事項の「心臓組織に接触する膨張-収縮可能本体の表面に複数の電極セグメントを設け、電極セグメントにより組織内の局所的な電気事象、例えば、電気電位、抵抗率またはインピーダンスを感知し、治療部位を特定すること」と引用文献4事項の「極低温アブレーションを行うためのバルーンの遠位端及び近位端に設け、電極間に生じる差動インピーダンス電圧を測定することで組織接触評価、損傷の質及び/又は血液の閉塞の評価を決定すること」とからみて、本願の優先日前に以下の技術事項(以下、「周知事項A」という。)が周知であったと言うことができる。
<周知事項A>
「電極により組織の電気電位やインピーダンスを感知すること」

(9)周知事項B
特表2004-525711号公報には、その段落【0016】、【0024】-【0025】、【0035】などからみて、「心房が不適正な電気的活動である場合に、冷却剤としての液体N_(2)やN_(2)Oガスを使用した低温バルーン療法装置により対象組織の温度を約-20℃乃至-81℃まで降下させて心房の異常組織を剥離する」ことが記載され、特開2009-142640号公報には、その段落【0003】、【0013】、【0016】-【0018】、【0047】-【0048】の記載などからみて、「心房細動治療のために心臓組織を切除するバルーンを備えた切除デバイスとして、極低温エネルギーを使用した切除デバイスを用いること」が記載されている。
そうすると、バルーン備えたアブレーション装置において極低温エネルギーを使用する技術事項は、引用文献4事項に加えて、新たに例示する特表2004-525711号公報、特開2009-142640号公報にも記載されているといえる。
これらを踏まえると、本願の優先日前に以下の技術事項(以下、「周知事項B」という。)が周知であったと言うことができる。
<周知事項B>
「バルーンを備えたアブレーション装置において、エネルギーとして極低温エネルギーを使用すること」

(10)対比
引用発明の「心房の中」は本願発明1の「心室を含めた身体の器官の空洞の中」に相当することは、技術常識を踏まえれば明らかである。
以下、同様に、引用発明の「心臓組織に損傷を形成するデバイス」は本願発明1の「組織をアブレーションするためのデバイス」に、「尖端」は「遠位端部」に、「主シャフト」は「ガイド本体シース」に、「延出」は「伸張」に、「バッフルリボン」は「ガイドワイヤ」に、「配管」は「ガイドシャフト」に、「被覆する」は「上に設置された」に、「膨張自在なバルーンを内部に配置した切除部分」は「アブレーション・バルーン・デバイス」に、「ループの位置、大きさ、形状を調整し得るバッフルリボンの基端及び末端」は「ガイドワイヤ・ループのサイズ、形状及び配置を調節するためのループ制御要素」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「血管および心臓内の障害物に対して前進させる際に十分な柔軟性を残す尖端」は、「柔軟性を残すこと」は「偏向可能」と言い改められるから、本願発明1の「偏向可能な遠位端部」に相当する。
さらに、引用発明の「配管」はバッフルリボンのループを摺動するのだから、可撓性を有しているといえ、バッフルリボンに摺動可能な配管は、バッフルリボンに支持されてバッフルリボン上を進むと言い改められるから、引用発明の「バッフルリボンに基端方向または末端方向へ摺動自在な配管」は「ガイドワイヤに支持されて前記ガイドワイヤ上を進むことが可能な可撓性のガイド・シャフト」に相当する。

したがって、引用発明と本願発明1とは以下の点で一致する。
「心室を含めた身体の器官の空洞の中で組織をアブレーションするためのデバイスであって、前記デバイスは、
(a)偏向可能な遠位端部を有するガイド本体シースと、
(b)器官の空洞の組織に強制的に接触させるように調節可能なガイドワイヤ・ループを形成するための、前記ガイド本体の前記遠位端部から伸張可能なガイドワイヤと、
(c)前記ガイドワイヤに支持されて前記ガイドワイヤ上を進むことが可能な可撓性のガイド・シャフト上に設置された、膨張可能なアブレーション・バルーン・デバイスと、
(d)前記ガイドワイヤ・ループのサイズ、形状及び配置を調節するためのループ制御要素と
を備え、
組織をアブレーションするためのデバイス。」

そして、引用発明と本願発明1とは以下の2点で相違する。
<相違点1>
本願発明1は、バルーン・デバイスが極低温デバイスであるのに対し、引用発明は、切除部分が極低温デバイスであるか不明な点。

<相違点2>
本願発明1は、バルーンデバイスがバルーン・デバイスを超えて遠位の縁と近位の縁をさらに備え、前記バルーン・デバイスが、前記遠位の縁と前記近位の縁に電極をさらに備えることで、損傷とバルーンの位置、電気的な活動、及びバルーンを通過するインピーダンスを示すのに対し、引用発明は、切除部分がそのようなものでない点。

(11)相違点の検討
<相違点1について>
引用文献1には、摘記事項イに「本実施例および後続の実施例に説明するRF切除要素は、他の形式の切除要素に交換し得る。」とあるように、切除要素としてRF切除要素以外の形式の切除要素を用いることが示唆されている。
そして、上記周知技術Bとして認定したように「バルーンを備えたアブレーション装置において、エネルギーとして極低温エネルギーを使用すること」は本願の優先日前に周知な技術事項であるところ、引用発明は「心房の中で心臓組織に損傷を形成するデバイス」であることから、アブレーションデバイスという点で共通の技術分野に属しているのだから、引用発明における切除部分に用いるエネルギーとして極低温エネルギーを用いることは当業者が容易になし得たものである。

<相違点2について>
引用文献4事項は「極低温アブレーションを行うためのバルーンの遠位端及び近位端に設けられた電極間に生じる差動インピーダンス電圧を測定することで組織接触評価、損傷の質及び/又は血液の閉塞の評価/を決定すること」であるところ、組織とバルーンとが接触してアブレーションを行っていることを踏まえれば、組織接触評価が損傷位置とバルーン位置との接触を評価していることを意味していることは明らかである。
また、電極が電気的な活動を検出すること、バルーンの遠位端及び近位端に設けられた電極間のインピーダンスには、バルーンを通過するインピーダンス(ベースライン・インピーダンス)が含まれることも明らかである。
そして、引用発明及び引用文献4事項は、いずれもアブレーションシステムに関する同一の技術分野に属する技術であり、また、アブレーションシステムにおいて処置対象の情報を入手することは自明の課題であるから、引用発明において、当該課題を考慮して引用文献4事項及び上記周知技術Aを適用し、バルーンの遠位端及び近位端に設けられた電極に電極間の電圧・インピーダンスを感知して組織接触評価、損傷の質及び/又は血液の閉塞の評価/を決定することで、電極により損傷とバルーンの位置、電気的な活動、及びバルーンを通過するインピーダンスを示す構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

(12)発明の効果について
本願発明によってもたらされる効果も、引用発明、引用文献4事項並びに周知技術A及び周知技術Bから当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。

(13)請求人の主張について
請求人は、平成28年11月11日付け意見書において、
「(e)前記バルーン・デバイスが、極低温デバイスであ』ることを規定した。根拠は、出願当初明細書の段落[0012]及び[0027]等にある。」、及び、「(イ)引用文献はいずれも高周波エネルギー・デバイスに関するものであり、本発明のような極低温デバイスを一切開示も示唆もしていない。」と述べて、本願発明の進歩性を主張している。(上記「第4 1.ないし2.」)
しかしながら、明細書に基づいて付加された「バルーン・デバイスが、極低温デバイスであ」るという構成は、周知技術Bとして認定したとおり、本願の優先日前に周知な技術事項であり、また、引用文献1には相違点1にお
いて検討したとおり、RFデバイス以外のエネルギーデバイスについて示唆されているといえる。
よって、請求人の主張には理由がない。

(14)小括
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献4事項並びに周知の技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 まとめ
以上のとおり、本件出願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明1は、引用発明、引用文献4事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、他の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件出願は当審で通知した上記拒絶理由1,3によって拒絶されるべきものである。
 
審理終結日 2017-01-11 
結審通知日 2017-01-12 
審決日 2017-01-24 
出願番号 特願2013-543264(P2013-543264)
審決分類 P 1 8・ 641- WZ (A61B)
P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 宮下 浩次
長屋 陽二郎
発明の名称 心不整脈をアブレーションするためのカテーテル・システム  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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